(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】子宮肉腫診断のための迅速測定法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
(21)【出願番号】P 2018142318
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2017148278
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017148285
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】水谷 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好雄
(72)【発明者】
【氏名】前野 光生
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032415(JP,A)
【文献】特開2012-154881(JP,A)
【文献】国際公開第2010/148145(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/102461(WO,A1)
【文献】TROVIK, J. et al.,Growth Differentiation Factor-15 as Biomarker in Uterine Sarcomas,International Journal of Gynecological Cancer,2014年,Vol.24, No.2,p.252-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)
及び(
2)を含む、子宮肉腫の保有者の予測を補助する方法:
(1)被検者から採取された血液検体中
又は尿検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する工程、
(2)前記被検者における
卵巣癌に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する工程
であって、腫瘍関連検査がCA125の濃度を測定する検査であり、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が
卵巣癌が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性がある
ことを示唆する工程。
【請求項2】
前記工程(1)の前に、血液検体を希釈する工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)の前に、尿検体を希釈する工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記被検者が、子宮に腫瘍を有する疑いのある者である
、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、
(3)前記被検者における子宮癌に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する工程であって、腫瘍関連検査が細胞診検査であり、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が卵巣癌及び子宮癌が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があることを示唆する工程、
を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法に用いられる、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子を含む、子宮肉腫の保有者を予測するための検査試薬。
【請求項7】
前記分子が抗体である、請求項
6に記載の検査試薬。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の検査試薬を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法に用いられる、子宮肉腫の保有者を予測するための検査キット。
【請求項9】
子宮肉腫の保有者の予測を補助する装置であって:
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検者から採取された血液検体中又は尿検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得し、
前記被検者における卵巣癌に関連する腫瘍関連検査の結果を取得し、
前記腫瘍関連検査はCA125の濃度を測定する検査であり、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が卵巣癌が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があることを示唆する、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮肉腫の保有者を予測するための方法、検査試薬、検査キット、予測装置、及び予測用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
良性腫瘍である子宮筋腫と、悪性腫瘍である子宮肉腫とでは、治療方法及び予後が異なる。例えば、子宮筋腫は、成人女性10万人あたり約3万人に見出される良性腫瘍であって、投薬によって治療が可能であり、症状によっては経過観察されることもある。一方、子宮肉腫は、成人女性10万人あたり約2人に見出される悪性腫瘍であって、転移等を生じて予後が悪く、早期に発見し摘出する必要がある。それ故に、患者が子宮筋腫又は子宮肉腫のいずれを患っているのかを早期に鑑別して、治療の初期段階にて患者に適した治療方法を選択することが重要である。
【0003】
従来から、子宮筋腫と子宮肉腫との鑑別にMRI(magnetic resonance imaging)による画像診断が用いられているが、画像診断のみでは両者の鑑別が困難な場合がある。このような場合には、患者から組織を採取して病理組織検査が行われるが、病理組織検査には、煩雑な手間と時間とを要する。また、病理組織検査は、患者から組織を採取する必要があるため、患者の体にかかる負担が大きい。また一部では子宮肉腫の血清検査として、卵巣癌や婦人科系癌の腫瘍マーカーであるCA125や、腫瘍マーカーであるLDH(乳酸脱水素酵素)が測定されているが、どちらも特異性が低く子宮肉腫の鑑別に有効ではない。
【0004】
そこで、血清中に存在する子宮肉腫を検出するためのマーカーの探索が行われている。例えば、非特許文献1には、子宮肉腫のマーカーとして、GDF-15(Growth differentiation factor-15)が記載されている。非特許文献2には、子宮筋腫及び子宮癌のマーカーとして、ミッドカイン(Midkine)が記載されているものの、子宮肉腫のマーカーは、記載されていない。
【0005】
また、特許文献1には、患者の血清又は血漿中のオステオポンチン蛋白質、プログラニュリン蛋白質、及びミッドカイン蛋白質よりなる群から選択される少なくとも1つの蛋白質を子宮肉腫検出用血液マーカーにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Trovik J. et al., “Growth differentiation factor-15 as biomarker in uterine sarcomas” Int. J. Gynecol. Cancer, 24(2):252-259, 2014
【文献】Salma R.M.H. et al., “Serum levels of midkine, a heparin-binding growth factor, increase in both malignant and benign gynecological tumors” Reprod. Immunol. Biol., 21(2):64-70, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
子宮肉腫は肺転移することで予後が不良となるとされており、自覚症状がでて来院してから検査するのではすでに癌が肺に転移して手遅れとなる可能性もある。しかるに、子宮肉腫の鑑別診断は、できるだけ早期に行うことが重要である。
【0009】
子宮肉腫を早期に発見するためには、例えば定期健康診断等でより多くの被検者について検査をすることが重要である。これに対して病理組織検査は、侵襲性が非常に高く頻繁に検査できず、発生頻度が低い子宮肉腫の検査としては現実的な検査ではない。また、通常の健康診断では、女性生殖器の検査のためにMRIが使用されることはまれであり、一般的には内診、経膣超音波検査等が行われている。内診や経膣超音波検査は、腫瘍の発見に有用であるが、未経産の女性には特に敬遠される傾向もある。
【0010】
したがって、尿、血清、血漿、及び全血等、健康診断等で一般的に採取される検体を使用して子宮肉腫の保有者をスクリーニングすることは、検査を受ける被検対象を増やすことができる点で有用である。
【0011】
さらに、血清、血漿を測定サンプルとすることで侵襲性は低くなるが、少なくとも数mlの血液を採取する必要がある。また血清を分離するためには、採血管を15分以上室温で静置する必要がある。さらに血清又は血漿を採取するためには、血液の入った採血管を遠心分離機で3,000 r.p.m.で10分間遠心し上清を回収する必要があり血液検体の処理工程が煩雑である。
【0012】
上記血清又は血漿中の子宮肉腫鑑別マーカーとされるタンパク質は、血清又は血漿中に数pg/mlから数十ng/ml程度しか存在しておらず、非常に低濃度である。このため、血清又は血漿分離の操作中に子宮肉腫マーカーの一部が容器などに付着し失われる畏れがある。また、血液検体の保存に伴う時間経過や温度変化によって劣化が生じる可能性があり、このことは測定値の低下を招き偽陰性の結果をもたらす可能性がある。
【0013】
上記問題に鑑み、健康診断等で一般的に採取される検体を使用して子宮肉腫の保有者をスクリーニングすることを1つの課題とする。さらに、より少ない検体の処理工程と迅速な検出により前記スクリーニングを行うことを1つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、健康診断等で一般的に採取される検体を使用して子宮肉腫の保有者をスクリーニングするために鋭意研究を重ねたところ、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーを指標として子宮肉腫の保有者がスクリーニングできることを見出した。また、子宮肉腫マーカーを指標として子宮肉腫の保有者のスクリーニングを行う際に、卵巣癌患者等の子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍の保有者においても前記子宮肉腫マーカーが陽性となることがあるため、擬陽性を排除する必要があることを見出した。
【0015】
さらに、本発明者らは、多孔性フィルタ上でELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)を行うことにより検体から前記子宮肉腫マーカーを迅速に測定できることを見出した。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.下記工程(1)から(3)を含む、子宮肉腫の保有者の予測を補助する方法:
(1)被検者から採取された血液検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する工程、
(2)前記被検者における子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する工程、
(3)前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると決定する工程。
項2.下記工程(1)及び(2)を含む、子宮肉腫の保有者の予測を補助する方法:
(1)被検者から採取された尿検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する工程、
(2)前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高い場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると決定する工程。
項3.前記腫瘍関連検査が、少なくとも卵巣癌の検査を含む、項1に記載の方法。
項4.前記被検者における子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する工程、をさらに含み、
前記工程(2)が、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると決定する工程である、項2に記載の方法。
項5.前記腫瘍関連検査が、少なくとも卵巣癌の検査を含む、項4に記載の方法。
項6.前記卵巣癌の検査が、CA125の濃度を測定する検査である、項3又は5に記載の方法。
項7.前記工程(1)の前に、血液検体を希釈する工程を含む、項1、3又は6に記載の方法。
項8.前記工程(1)の前に、尿検体を希釈する工程を含む、項2、及び4~6のいずれか一項に記載の方法。
項9.前記被検者が、子宮に腫瘍を有する疑いのある者である。項1~8のいずれか一項に記載の方法。
項10.項1~9のいずれか一項に記載の方法に用いられる、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子を含む、子宮肉腫の保有者を予測するための検査試薬。
項11.前記分子が抗体である、項10に記載の検査試薬。
項12.項10又は11に記載の検査試薬を含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法に用いられる、子宮肉腫の保有者を予測するための検査キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、健康診断等で一般的に採取される検体を使用して子宮肉腫の保有者をスクリーニングすることができる。
【0018】
また、多孔性担体(フィルタ)上でELISAを行うことにより、全血検体から、迅速に前記子宮肉腫マーカーを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】
図4には、予測装置の動作を説明するフローチャートを示す。
【
図8】
図8には、プログラニュリン蛋白質のROC曲線を示す。
【
図9】
図9には、オステオポンチン蛋白質のROC曲線を示す。
【
図10】
図10には、GDF-15蛋白質のROC曲線を示す。
【
図11】
図12には、ミッドカイン蛋白質のROC曲線を示す。
【
図12】
図12Aは、子宮筋腫患者、卵巣癌患者、子宮頸癌患者、子宮体癌患者及び子宮肉腫患者の血清中CA125濃度の散布図を示す。
図12Bには、子宮筋腫患者及び子宮肉腫患者の血清中CA125濃度を抜粋した散布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.用語の説明と子宮肉腫マーカーの測定値の取得方法
初めに、本明細書、特許請求の範囲等で使用される用語について説明する。特に記載がない限り、第1の実施態様から第5の実施態様で使用される用語の説明は、本項の説明が援用される。
【0021】
本実施態様において、子宮肉腫は、子宮筋層を発生母地とする子宮の非上皮性の悪性腫瘍である。一方子宮筋腫は、子宮筋層を発生母地とする良性の腫瘍である。
【0022】
本実施態様において、被検者は、ヒトである限り制限されない。また好ましくは女性である。また、被検者の年齢も制限されないが、例えば20歳以上、30歳以上、40歳以上、50歳以上、又は60歳以上の者である。本実施態様において、被検者は、子宮に腫瘍を有する疑いのある者であってもよい。子宮に腫瘍を有する疑いがあるか否かは、不正出血、腹痛、下腹部の違和感等の情報;内診;細胞診;超音波、MRI、CT等の画像診断から医師等が予測することができる。
【0023】
本実施態様において、検体は、被検者から採取されたものである限り制限されない。検体は、健康診断等で採取される検体が好ましい。前記検体には尿及び血液検体が含まれる。前記血液検体には、全血、血清、又は血漿が含まれる。全血、血清及び血漿は、公知の方法により採取することができる。例えば全血は、抗凝固剤の存在下で採取されてもよく、採取後直ちに測定に供する場合には、抗凝固剤を用いなくてもよい。血漿は、抗凝固剤を用いて採取された全血から分離することができる。血清は、抗凝固剤を用いずに採取した全血から分離することができる。
【0024】
本実施態様において、抗凝固剤は公知のものを使用することができる。例えば、ヘパリン塩(好ましくは、ナトリウム塩)、クエン酸塩(好ましくは、ナトリウム塩)、エチレンジアミン四酢酸塩(好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩)を使用することができる。
【0025】
測定に使用される血液検体の種類は、測定の正確性に影響を与え得る。血液検体を用いる場合、通常は全血から血清又は血漿を分離してサンプルとして使用する。しかしながら、採血から血清又は血漿の分離操作、実際に測定するまでの放置環境は、測定対象物の容器等への吸着による一部の消失、また温度等による測定対象物の劣化、変性を伴う畏れがある。これらの消失、劣化、変性が起これば、子宮肉腫マーカーの測定値の低下を招く。測定対象物が血液中に高濃度で存在している場合は、大きな問題とはならないが、本発明の子宮肉腫マーカーは上述のように、血液中には非常に微量な濃度でしか存在せず、偽陰性を招く危険がある。これらのことからより正確性のある測定結果を得るためには、全血検体を直接測定に用いることが望ましい。
【0026】
尿検体は、単回の尿であっても、蓄尿であってもよい。また、冷蔵保存又は凍結保存されたものであってもよい。尿検体として好ましくは、早朝第一尿である。
【0027】
本実施態様において、子宮肉腫マーカーには、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質及びGDF-15よりなる群から選択される少なくとも一種の蛋白質が含まれる。以下、本明細書において、単に「子宮肉腫マーカー」と記載した場合には、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質及びGDF-15よりなる群から選択される少なくとも一種を示すものとする。
【0028】
プログラニュリン蛋白質は、ヒトのプログラニュリン蛋白質である限り制限されないが、例えば、配列番号1で示される蛋白質;配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、プログラニュリン蛋白質としての活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0029】
オステオポンチン蛋白質は、ヒトのオステオポンチン蛋白質である限り制限されないが、例えば、配列番号2で示される蛋白質;配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、オステオポンチン蛋白質としての活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0030】
ミッドカイン蛋白質は、ヒトのミッドカイン蛋白質である限り制限されないが、例えば、配列番号3で示される蛋白質;配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ミッドカイン蛋白質としての活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0031】
GDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質は、ヒトのGDF-15蛋白質である限り制限されないが、例えば、配列番号4で示される蛋白質;配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、GDF-15蛋白質としての活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0032】
本明細書において「1個若しくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、特に限定されるものではないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異蛋白質作製法により、置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは9個以下、より好ましくは8個以下、より好ましくは7個以下、より好ましくは6個以下、より好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは1個以下)のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意図する。
【0033】
本実施態様において、「子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子」は、以下の分子が例示される。子宮肉腫マーカーがオステオポンチン蛋白質である場合には、オステオポンチン蛋白質と特異的に結合する分子として、例えば、抗オステオポンチン抗体;インテグリン(例えば、αvβ3、α5β1、α8β1、αvβ1、αvβ5)等のオステオポンチン結合蛋白質を挙げることができる。子宮肉腫マーカーがプログラニュリン蛋白質である場合には、プログラニュリン蛋白質と特異的に結合する分子として、例えば、抗プログラニュリン抗体;例えば、ソルチリン、腫瘍壊死因子受容体Toll様受容体-9等のプログラニュリン結合蛋白質を挙げることができる。子宮肉腫マーカーがGDF-15蛋白質である場合には、GDF-15蛋白質と特異的に結合する分子として、例えば、抗GDF-15抗体;例えば、トランスフォーミング増殖因子受容体等のGDF-15結合蛋白質を挙げることができる。子宮肉腫マーカーが、ミッドカイン蛋白質である場合には、ミッドカイン蛋白質と特異的に結合する分子として、例えば、抗ミッドカイン抗体;例えば、プロテオグリカン、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼ、low density lipoprotein receptor-related protein、anaplastic leukemia kinase、インテグリンα4β1、インテグリンα6β1、Notch-2等のミッドカイン結合蛋白質を挙げることができる。
【0034】
前記分子が抗体である場合には、「抗体」は、上述した子宮肉腫マーカーと特異的に結合する限り制限はなく、子宮肉腫マーカー又はその一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。また、免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。
【0035】
抗体を作製するために用いられる、抗原となる子宮肉腫マーカーとしては、上述した子宮肉腫マーカーの全体、又は一部を挙げることができる。また、抗体は、市販されているものを使用してもよい。
【0036】
子宮肉腫マーカーの測定値の取得方法は、子宮肉腫マーカーの測定値を取得できる限り制限されない。例えば、以下に述べる方法にしたがって取得することができる。
【0037】
例えば、子宮肉腫マーカーの測定値を取得するために、前記子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子を用いた測定方法を使用することができる。より具体的には、前記子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子と、子宮肉腫マーカーの親和性を利用して、前記測定値を取得することができる。例えば、前記子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子が抗体である場合、公知のELISA法等を使用して測定値を取得することができる。以下に、ELISA法を使用する例を示すが、抗体に代えて、他の子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子(例えば、レクチン)を使用してもよく、また抗体以外の子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子と抗体を組み合わせてもよい。
【0038】
ELISA法により測定値を取得する場合、子宮肉腫マーカー捕捉用の抗体(捕捉抗体)と抗原検出用の抗体(検出抗体)を準備する。捕捉抗体と検出抗体は、エピトープが異なることが好ましい。
【0039】
捕捉抗体は、子宮肉腫マーカーと結合できる他、抗原抗体複合体を固相に捕捉するための標識物質(捕捉用標識物質)で標識されていることが好ましい。前記捕捉用標識物質としては、例えばビオチン等を挙げることができる。
【0040】
検出抗体は、子宮肉腫マーカーと結合できる他、抗原抗体複合体を検出するための標識物質(検出用標識物質)で標識されていることが好ましい。前記検出用標識物質としては、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、蛍光物質、放射性同位元素、酵素等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。標識物質としては、アルカリホスファターゼ、又はペルオキシダーゼが好ましい。
【0041】
捕捉抗体と、検体と、検出抗体は、抗原抗体複合体の形成が可能な緩衝液中で混合され、所定の時間インキュベーションされる。
【0042】
前記インキュベーション中に形成された捕捉抗体と、検体中の子宮肉腫マーカーと、検出抗体との抗原抗体複合体は、次に固相に固定化される。
【0043】
固相には、前記捕捉用標識物質と結合することができる物質が固定化されている。例えば、捕捉用標識物質がビオチンである場合には、抗ビオチン抗体、アビジン又はストレプトアビジンが固相に固定化されうる。固相としては、多孔性フィルタ、マイクロプレート、蛍光ビーズ、又は磁気ビーズ等を使用することができる。前記多孔性フィルタの素材は制限されない。例えば、前記素材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等を使用することができる。好ましくは、ガラスフィルタ又はセルロース誘導体フィルタであり、より好ましくはガラスフィルタである。
【0044】
固相への抗ビオチン抗体、アビジン又はストレプトアビジン等の固定化は、公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、ガラスフィルタへの抗ビオチン抗体の固相は、特開2001-235471号公報に記載の方法にしたがって行うことができる。
【0045】
ここで、先に捕捉抗体と、子宮肉腫マーカーと、検出抗体との抗原抗体複合体を形成させてから前記抗原抗体複合体を固相上に固定化するのではなく、捕捉抗体を固相上に固定化し、固定化された捕捉抗体と検体中子宮肉腫マーカーとの複合体を形成させ、その後検出抗体を結合させて、抗原抗体複合体を形成させることもできる。しかし、この方法は、捕捉抗体が固相されている点において抗原抗体反応の効率が悪い。このため、検体を50~100μl程度必要とし、反応時間も長くなるため、測定に4~6時間程度要する。これに対して、先に捕捉抗体と、子宮肉腫マーカーと、検出抗体との抗原抗体複合体を形成させてから前記抗原抗体複合体を固相上に固定化する方法であれば、抗原抗体複合体形成時に、抗原と抗体が自由に緩衝液中を移動でき、効率よく抗原抗体複合体を形成できる。当該方法は、例えば、特開2001-235471号公報に記載されている。この方法は、結果として、測定に使用される検体の量を、5~20μl程度、好ましくは、8~12μl程度とすることができる。また、測定時間も15分~50分以内に短縮することができる。したがって、捕捉抗体と、子宮肉腫マーカーと、検出抗体との抗原抗体複合体を形成させてから前記抗原抗体複合体を固相上に固定化する方が好ましい。
【0046】
本方法においては、前記抗原抗体複合体の形成に続いて、固相を洗浄する操作を含んでもよい。この工程は、B/F分離とも呼ばれ、未反応成分を除去することを意図する。洗浄する場合には、界面活性剤等を含むPBS等を使用することができる。
【0047】
本方法において、前記抗原抗体複合体の検出は、検出抗体に標識されている検出用標識物質のシグナルを検出することによって行われる。
【0048】
シグナルを検出する方法は、公知の方法を使用することができる。本発明では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択することができる。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、ルミノメーター、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0049】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、APS-5(登録商標)、CDP-Star(登録商標)等の化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。検出用標識物質がペルオキシダーゼである場合には、テトラメチルベンジジン(TMB)等を挙げることができる。
【0050】
検出用標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、検出用標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダー等の公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。検出用標識物質がアルカリホスファターゼであって、基質がCDP-Star(登録商標)である場合には、ルミノメーターを使用してシグナルを検出することができる。
【0051】
シグナルの検出結果は、子宮肉腫マーカーの測定値として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該シグナル強度の測定値から算出される値を、子宮肉腫マーカーの測定値として用いることができる。シグナルの強度を定量する場合には、濃度が公知の標準物質から検量線を作成し、検体中の子宮肉腫マーカーの濃度を取得することができる。
【0052】
本実施態様において「測定値」は、子宮肉腫マーカーのタンパク質の量又は濃度を反映した値をいう。当該値を「量」で標記する場合には、モルであっても質量であってもよいが、質量で標記することが好ましい。また、値を「濃度」で表記する場合には、モル濃度であっても検体の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。量又は濃度を反映する値としては、蛍光や発光などのシグナルの強度であってもよい。また、「測定値」は、「低い」、「中程度」、「高い」等半定量的な量又は濃度であってもよい。
【0053】
上記子宮肉腫マーカーの測定値の取得には、例えば、東洋紡株式会社製の小型化学発光免疫自動分析装置POCube(登録商標)及びその専用試薬(反応容器、試薬カートリッジ)等を使用することができる。また、POCube(登録商標)専用の試薬カードを使用することにより、試薬カードに記憶された検量線から子宮肉腫マーカーの定量を行うことができる。
【0054】
本実施態様において測定される子宮肉腫マーカーは、いずれも検体中の濃度としては数pg/mlから数ng/mlであり、高感度に測定することが必要である。POCube(登録商標)であれば、このような測定を実現することができる。
【0055】
一般的に高感度に特異的にタンパクを測定する方法として、化学発光酵素免疫測定法が使われている。多くの場合は磁性粒子を免疫反応の担体として使用する。磁性粒子上に対象のタンパクに特異的な抗体を結合させ、サンプル中の対象物と、酵素標識した対象のタンパクに特異的な抗体と反応させ、磁性粒子上に対象物と抗体のサンドイッチ状に複合物を形成させる。その後反応に使われなかった余分な成分を取り除くために洗浄操作を数回実施する。最終的に磁性粒子上に形成された複合物中の酵素と化学発光基質を反応させることで対象物の濃度を測定する。
【0056】
この方法は非常に高感度に対象物を測定できることから汎用されているが、未反応物質を除去するために数回の洗浄操作が必要であり、このことにより多量の廃液が生じる。これらのことから多検体処理を実現させるために自動分析装置を設計した場合、測定手順、操作が煩雑なために機器が複雑な構造となり、また廃液が多量に発生するため大型化せざるを得ない。
【0057】
一方、インフルエンザA/B型やA群溶連菌、RSウィルスなどの感染症の検査に、イムノクロマト測定法という方法が広く利用されている。この検査は、多孔性フィルタに対象物に特異的な抗体が結合されており、多孔性フィルタの端から、対象物の含まれているサンプルと対象物に特異的な抗体を結合させた着色ラテックス粒子を滴下することで、多孔性フィルタに抗体抗原複合物を形成させる。サンプルに対象物が含まれていた場合、その濃度に応じて膜上に着色されそれを目視で判定する。この方法は上記と同じく、対象物に特異的な抗体を用いることで特異性の高い結果が得られ、サンプルを滴下するだけの簡便な操作で、特別な機器を必要とせず数分から数十分の時間で結果が得られる。しかし、一般的にこの方法は高い感度を得ることは難しく、また目視により反応の程度を判定することから客観的な定量性のある結果を得ることができない。
【0058】
多孔性フィルタ上に、捕捉抗体と、子宮肉腫マーカーと、検出抗体との抗原抗体複合体を捕捉し、最終的に検出抗体の検出用標識物質を利用して発光強度を検出する測定方法は、イムノクロマト測定法の操作の簡便性、測定の迅速性と、化学発光酵素免疫測定法の高感度を両立して実現できるので好ましい。
【0059】
本実施態様において、子宮肉腫マーカーの基準値は、子宮肉腫マーカーごとに設定しうる。前記基準値は、子宮肉腫の保有者から採取された検体中の子宮肉腫マーカーの測定値と、子宮肉腫を保有しない者から採取された検体中の子宮肉腫マーカーの測定値に基づいて、これらの値を統計的に識別できる値を基準値とすることができる。統計的に識別できる値の求め方は制限されないが、例えば、市販の統計解析ソフトを使用して、ROC(receiver operating characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により決定することもできる。基準値は、検体の種類に応じて設定することが好ましい。統計的に識別できる値は、例えば、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を例示できる。
【0060】
また別の態様として、基準値は、健常人の検体中の子宮肉腫マーカーに関連する測定値そのもの、又は健常人の複数の子宮肉腫マーカーに関連する測定値の平均値、中央値又は最頻値とすることもできる。さらに別の態様として、基準値は、子宮肉腫を有する患者からの各子宮肉腫マーカーの測定値の最も低い値等を用いてもよい。
【0061】
またさらに、基準値として、同一患者であって当該患者が健常な状態である時に取得された過去の子宮肉腫マーカーに関連する測定値(一つの値でもよいし、複数の値の平均値、中央値、最頻値などであってもよい)を使用することもできる。
【0062】
例えば検体が血清等の血液試料である場合、プログラニュリン蛋白質の基準値は、59、56、54、50、48、又は45ng/mLから選択することができ、オステオポンチン蛋白質の基準値は32、30、28、25、23、20、18、又は15ng/mLから選択することができ、ミッドカイン蛋白質の基準値は0.4、0.35、0.3、0.27、0.25、0.23、又は0.2ng/mLから選択することができ、GDF-15の基準値は1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、又は0.5ng/mLから選択することができる。例えばこれまでの報告としては、プログラニュリン蛋白質の健常人の平均値として45ng/mL(Hindawi Publishing Corporation Disease Markers, Volume 2015, Article ID 357279, 9 pages, http://dx.doi.org/10.1155/2015/357279)又は健常人の中央値として48ng/mL(Arthritis Research & Therapy (2015) 17:27, DOI 10.1186/s13075-015-0547-z)、オステオポンチン蛋白質の健常人の平均値として39.5ng/mL(Pancreas. 2013 March ; 42(2): 193-197. doi:10.1097/MPA.0b013e31825e354d.)若しくは28.7ng/mL(Ann Surg Oncol (2013) 20:929-937, DOI 10.1245/s10434-012-2749-9)、又は健常人の四分位範囲の中央値として5.62ng/mL(Clin Rheumatol (2014) 33:1263-1271, DOI 10.1007/s10067-014-2665-4)、ミッドカイン蛋白質の健常人の平均値として0.351ng/mL(Cancer Medicine 2016; 5(3):415-425,doi: 10.1002/cam4.600)、GDF-15の健常人の平均値として1.09ng/mL(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol (2012) 250:887-895, DOI 10.1007/s00417-011-1786-6)又は健常人の四分位範囲の中央値として0.123ng/mL(Indian J Hematol Blood Transfus (Apr-June 2016) 32(2):221-227, DOI 10.1007/s12288-015-0551-0)等を挙げることができる。
【0063】
例えば検体が尿検体である場合、プログラニュリン蛋白質の基準値は、5、4、又は3ng/mLから選択することができ、オステオポンチン蛋白質の基準値は1、0.8、又は0.5ng/mLから選択することができ、ミッドカイン蛋白質の基準値は0.1、0.05、又は0.01ng/mLから選択することができ、GDF-15の基準値は0.25、0.2、又は0.15ng/mLから選択することができる。例えばこれまでの報告としては、プログラニュリン蛋白質の健常人の平均値として約4.23ng/mL(Diabetes Care, Volume 35, p549-555, 2012)、オステオポンチン蛋白質の健常人の平均値として101.8ng/mg Cr(クレアチニン)、又は前記値をクレアチニン濃度1mg/dLで尿1mLあたりに換算すると約1.01ng/mL(Urology 62(6)2003, p1125-1128)、GDF-15の健常人の四分位範囲の中央値として約25ng/mg Cr、又は前記値をクレアチニン濃度1mg/dLで尿1mLあたりに換算すると約0.25ng/mL(Am. J. Physiol. Renal Physiol. 302, F820-F829, 2012)等を挙げることができる。
【0064】
本実施態様において、子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査は、子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍を検出するための検査である限り制限されない。例えば、前記腫瘍関連検査は、腫瘍マーカー検査;細胞診;病理組織検査;超音波、MRI、CT等の画像診断等である。子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍は、好ましくは悪性腫瘍である。前記子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍は制限されないが、例えば卵巣癌、子宮癌(体癌、頸癌、子宮頸部腺癌を含む)等であることが好ましい。より好ましくは、卵巣癌である。前記腫瘍が卵巣癌である時、腫瘍関連検査として好ましくは、腫瘍マーカーの測定であり、好ましくはCA125の測定である。CA125の測定値は、公知の方法によって取得することができる。例えば、アボットジャパン社から発売されている、癌抗原125キット CA125II・アボットにより測定することができる。また、腫瘍関連検査の結果が子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陰性である可能性を示すか、子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陽性である可能性を示すかは、当該検査の項目ごとに設定されている公知の基準値又は基準範囲にしたがって決定される。前記腫瘍関連検査が、腫瘍マーカーである場合には、当該検査において定められている基準にしたがって、例えば、腫瘍マーカーの測定値が、基準値以下である場合には、腫瘍関連検査の結果が子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陰性である可能性を示すと決定することができる。
【0065】
2.子宮肉腫の保有者の予測を補助する方法
本発明の第1の実施態様は、子宮肉腫の保有者の予測を補助する方法に関する。本実施態様において各工程は、検査者又はCPUが実行しうる。
【0066】
具体的には、被検者から採取された検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15(Growth differentiation factor-15)蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する工程を含む。
【0067】
さらに本発明は、前記子宮肉腫マーカーの測定値に基づいて、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があるか否かを決定する工程を含む。具体的には、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高い場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると決定することができる。また、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも低い場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性が低いと決定してもよい。
【0068】
第1の実施態様において、検体は希釈して測定に用いられてもよい。この場合、前記子宮肉腫マーカーの測定値を取得する工程の前に、検体を希釈する工程を含んでいてもよい。検体を希釈する希釈液は、抗原抗体反応を阻害しない緩衝液等である限り、制限されない。また、前記希釈液には、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、及びニワトリよりなる群から選択される少なくとも一種の血清を含んでいてもよい。前記血清は、緩衝液に対して1~30%(v/v)程度で添加されることが好ましい。血液検体が、全血である場合には、特に希釈されることが好ましい。検体は、例えば、前記測定方法における検出限界を超えない範囲において、2倍以上、4倍以上希釈されることが好ましい。希釈の上限は、例えば16倍程度である。
【0069】
さらに第1の実施態様は、前記被検者における子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する工程を含む。この場合、子宮肉腫マーカーの測定値と、前記腫瘍関連検査の結果とから、被検者が子宮肉腫を保有している可能性があるか否かを決定することができる。より具体的には、前記子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高く、かつ前記腫瘍関連検査の結果が子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍が陰性である可能性を示す場合に、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると決定することができる。
【0070】
子宮肉腫の保有者をスクリーニングするにあたっては、偽陰性と同じく偽陽性の可能性についてもできる限り排除すべきである。これは、スクリーニングにおいて、子宮肉腫を保有している可能性があると予測された者は、次に確定診断を行うため、侵襲性の非常に高い生検による病理組織検査を実施する必要がある。その検査の被検者への負担ははかりしれないため、擬陽性はできる限り排除すべきである。したがって、子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査の結果を参酌することは有用である。
【0071】
子宮肉腫マーカーの測定値は、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される一種のみを取得してもよいが、好ましくは、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも二種又は三種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する。より好ましくは、オステオポンチン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の測定値を取得することができる。
【0072】
3.子宮肉腫の保有者を予測するための検査試薬及び検査キット
本発明の第2の実施態様は、子宮肉腫の保有者を予測するための検査試薬に関する。また、本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様の検査試薬を含む、検査キットに関する。前記検査試薬及び検査キットは、上記1.で述べた子宮肉腫マーカーの測定値を取得するために使用することができる。したがって、前記検査試薬及び検査キットは、子宮肉腫の保有者を予測するための検査試薬及び検査キットとして使用することができる。
【0073】
本実施態様の検査試薬には、少なくとも子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子が一種以上含まれていればよい。子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子が抗体であって、前記抗体がポリクローナル抗体である場合には、一種の抗原で免役して得られたポリクローナル抗体であってもよく、また二種以上の抗原で並行して同一個体に免役して得られたポリクローナル抗体であってもよい。さらに、二種以上の抗原をそれぞれ別の動物に接種して得られたそれぞれのポリクローナル抗体を混合してもよい。抗体がモノクローナル抗体である場合には、一種のハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体であってもよいが、二種以上のハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体であって、それぞれのモノクローナル抗体が同一又は異なるエピトープを認識する複数のモノクローナル抗体が二種以上含まれていてもよい。また、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を一種以上ずつ混合して含んでいてもよい。
【0074】
当該検査試薬に含まれる抗体の形態は、特に制限されず、抗体を含む抗血清若しくは腹水等の乾燥状態又は液体状態であってもよい。また、抗体の形態は、精製抗体、抗体を含む免疫グロブリン画分若しくは抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液であってもよい。
【0075】
前記形態が、抗体を含む抗血清若しくは腹水の乾燥状態又は液体状態である場合、さらにβ-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。また、抗体の形態が、精製抗体、抗体を含む免疫グロブリン画分若しくは抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液である場合、さらに、リン酸緩衝液等のバッファー成分;β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;塩化ナトリウム等の塩;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤等、アジ化ナトリウム等の防腐剤の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0076】
本実施態様においては、前記抗体は未標識であっても、上述の捕捉用標識物質又は検出用標識物質等の標識物質で標識されていてもよいが、標識物質で標識されていることが好ましい。標識物質は、上記1.に例示されたものを使用することができる。
【0077】
第3の実施態様は、少なくとも第2の実施態様の検査試薬を含む検査キットである。前記検査キットは、少なくとも第2の実施態様の子宮肉腫マーカーに特異的に結合する分子を含む。具体的には、前記キットは、少なくとも捕捉抗体を含む第2の実施態様の検査試薬1と、検出抗体を含む第2の実施形態の検査試薬2を含むことが好ましい。さらに、ビオチン標識された捕捉抗体をさらに捕捉するための抗ビオチン抗体を含む検査試薬3を含んでいてもよい。ある態様において、第3の実施態様のキットは、
図1に示すPOCube(登録商標)専用の試薬用カートリッジ110の各区画111に、検査試薬1及び検査試薬2が独立して格納された形態で提供されてもよい。前記試薬カートリッジは、図示されていないがプレススルーパック用フィルム等のチップ等で容易に穿孔されるフィルムでシールされる。また、区画111には、前記抗体の他、緩衝液、発光用基質等が格納されていてもよい。前記試薬カートリッジ110を用いる場合、検査試薬3は、検査試薬3を多孔性フィルタ121に収容した反応容器120(東洋紡株式会社)の形態で提供されてもよい。また、第3の実施態様の検査キットは、外装箱100を含んでいてもよい。さらに、前記検査キットは検査キットに含まれる試薬や使用方法を記載した添付文書(図示せず)を含んでいてもよい。
【0078】
4.子宮肉腫の保有者の予測を補助する装置
本発明の第4の実施態様は、子宮肉腫の保有者の予測を補助する装置500(以下、単に予測装置という)に関する。予測装置500について
図2及び
図3を用いて説明する。予測装置500の動作は、第5の実施態様で述べるコンピュータプログラムによって制御される。ここで、上記1.及び2.に記載の各用語の説明は、ここに援用される。
【0079】
4-1.情報処理ユニットの構成
本実施形態における予測装置500の外観は、
図2に示すとおりである。予測装置500は、
図3に示すように、測定ユニット10と、情報処理ユニット20とを備える。さらに、予測装置500は、入力部30と、出力部31と、記憶媒体32と接続されていてもよい。情報処理ユニット20において、処理部(CPU)21と、RAM22と、ROM(read only memory)23と、記憶部24と、通信インタフェース(I/F)25と、入力インタフェース(I/F)26と、出力インタフェース(I/F)27と、メディアインターフェース(I/F)28は、バス29によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0080】
CPU21は、情報処理ユニット20の処理部である。CPU21が、RAM24又はROM23に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、情報処理ユニット20が機能する。
【0081】
ROM23は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、CPU21により実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。CPU21はMPU21としてもよい。ROM23は、情報処理ユニット20の起動時に、CPU21によって実行されるブートプログラムや情報処理ユニット20ハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0082】
RAM22は、SRAM又はDRAMなどのRAM(Random access memory)によって構成される。RAM22は、ROM23及び記憶部24に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM22は、CPU21がこれらのコンピュータプログラムを実行する時の作業領域として利用される。
【0083】
記憶部24は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。記憶部24には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、CPU21に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、記憶部24は、後述する予測プログラム等を記憶する。
【0084】
通信I/F25は、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(Network interface controller:NIC)等から構成される。通信I/F25は、CPU21の制御下で、測定ユニット10又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて情報処理ユニット20が保存又は生成する情報を、測定ユニット10又は外部に送信又は表示する。通信I/F25は、ネットワークを介して測定ユニット10又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0085】
入力I/F26は、例えばUSB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成される。入力I/F26は、入力部30の文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、RAM22又は記憶部24に記憶される。
【0086】
入力部30は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、情報処理ユニット20に文字入力又は音声入力を行う。入力部30は、情報処理ユニット20の外部から接続されても、情報処理ユニット20と一体となっていてもよい。
【0087】
出力I/F26は、例えば入力I/F26と同様のインタフェースから構成される。出力I/F26は、CPU21が生成した情報を出力部31に出力する。出力I/F26は、CPU21が生成し、記憶部24に記憶した情報を、出力部31に出力する。
【0088】
出力部31は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、測定ユニット10から送信される測定結果及び情報処理ユニット20における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0089】
メディアI/F27は、記憶媒体32に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、RAM22又は記憶部24に記憶される。また、メディアI/F27は、CPU21が生成した情報を記憶媒体32に書き込む。メディアI/F27は、CPU21が生成し、記憶部24に記憶した情報を、記憶媒体32に書き込む。
【0090】
記憶媒体32は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体32は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F27と接続される。記憶媒体32には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。また記憶媒体32は、POCube(登録商標)専用の試薬カード(東洋紡株式会社)であってもよい。
【0091】
CPU21は、情報処理ユニット20の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM23又は記憶部24からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの記憶部24内に格納されており、このサーバコンピュータに情報処理ユニット20がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM23又は記憶部24に記憶することも可能である。
【0092】
また、ROM23又は記憶部24には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされていてもよい。第5の実施態様に係る予測プログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、情報処理ユニット20は、パーソナルコンピュータ等であり得る。また、情報処理ユニット20は、測定ユニット10に内蔵されていてもよい。
【0093】
4-2.測定ユニットの構成
測定ユニット10は、抗原抗体複合体を形成させるための反応部30と前記抗原抗体複合体を検出するための検出部40を備える。反応部30には、例えば
図1に示される試薬カートリッジ110がセットされる。また、検出部40には、
図1に示される反応容器120がセットされ、検出部40に備えられたルミノメータ(図示せず)が抗原抗体複合体に由来するシグナルを検出する。
【0094】
4-3.情報処理ユニットの動作
次に、
図4を用いて、情報処理ユニット20の動作を説明する。処理部21は、第5の実施態様のコンピュータプログラムにしたがって、情報処理ユニット20を制御する。
【0095】
処理部21は、測定ユニット10が検出したシグナルから、被検者から採取された検体中のプログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの測定値を取得する(ステップST1)。前記測定値の取得は、例えば検査者による入力部30からの測定値取得開始の情報の入力により、開始される。次に、処理部21は、子宮肉腫マーカーの測定値を基準値と比較(ステップST2)し、処理部21は、子宮肉腫マーカーの測定値が基準値より高いか否かを判定する(ステップST3)。子宮肉腫マーカーの測定値が基準値より高い場合には、処理部21は、続いて、前記被検者における子宮肉腫及び子宮筋腫以外の腫瘍に関連する腫瘍関連検査の結果を取得する(ステップST4)。処理部21は、前記腫瘍関連検査の結果が陰性結果であるか否かを判定する(ステップST5)。前記腫瘍関連検査の結果が陰性結果である場合には、処理部21は、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性があると予測する(ステップST6)。また、処理部21は、ステップST3において、子宮肉腫マーカーの測定値が基準値よりも高い場合、あるいはステップST5において、腫瘍関連検査の結果が陽性の結果を示す場合には、前記被検者が子宮肉腫を保有している可能性がないと予測してもよい(ステップST7)。
【0096】
5.子宮肉腫の保有者の予測を補助するためのコンピュータプログラム
本発明の第5の実施態様は、子宮肉腫の保有者の予測を補助するためのコンピュータプログラム(以下、予測プログラムという)に関する。具体的には、上記4-3で述べた、情報処理ユニット20の動作を制御する予測プログラムである。前記測定プログラムがコンピュータに実行させる各ステップは、
図3に記載のステップST1~ST7である。上記1.及び2.に記載の各用語の説明は、ここに援用される。
【0097】
前記予測プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記情報処理ユニットが前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0098】
以上、本発明の各実施態様を、添付の図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、上記に説明する具体的な実施態様に限定されるものではない。本発明の実施態様は、本明細書の記載と当業者の技術常識に基づいて変形しうる。
【実施例】
【0099】
以下において、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0100】
実施例1.各タンパク質の測定
測定には、多孔性ガラス繊維フィルタ担体上で免疫反応を自動的に行うことのできる小型化学発光免疫自動分析装置(ピーオキューブ;東洋紡社製)を用いた。プログラニュリン蛋白質の測定には、プログラニュリン蛋白質測定用のピーオキューブ専用試薬を用いた。この試薬は、第1抗体試薬としてビオチン標識抗プログラニュリン蛋白質抗体試薬、第2抗体試薬としてアルカリホスファターゼ(ALP)標識抗プログラニュリン蛋白質抗体試薬、ブロッキング液、洗浄液、発光基質溶液等で構成され、ピーオキューブに収載されるように試薬カートリッジに格納されている。
【0101】
ピーオキューブの測定ステップを以下に示す。
まず測定装置に、反応容器、試薬カートリッジ、試薬分注用のデスポーザブルのチップを装着した。検体又は希釈した検体は試薬カートリッジのサンプル分注セルに分注した。
【0102】
ピーオキューブ本体のスタートボタンを押し、サンプルと試薬の分注、混合、反応容器への反応液の分注、洗浄、発光基質の分注、測定、濃度換算、結果の出力まで自動的に行った。
【0103】
オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質についても、試薬カートリッジをそれぞれのタンパク質専用のものに変えて、ピーオキューブで測定した。
【0104】
実施例2.検体の希釈直線性
1.血清又は全血の希釈直線性
プログラニュリン蛋白質濃度が1,000 ng/mlの血清又はプログラニュリン蛋白質濃度が750 ng/mlの全血を原液として、動物血清を30%(v/v)含むPBSで倍々希釈した希釈系列を作成し、それぞれについて実施例1に記載の方法にしたがって、プログラニュリン蛋白質を測定して希釈直線性の検討を行った。原液は、血清又はEDTA採血した全血にリコンビナントプログラニュリンタンパク質を終濃度で1,000 ng/ml又は750 ng/mlになるように添加して調製した。
【0105】
血清又は全血の「希釈倍率」、希釈液の「実測値(ng/ml)」、実測値に希釈倍率を乗じた「原液換算値(ng/ml)」、及び原液換算値を原液濃度で除した値に100をかけた「測定値との乖離度%」の結果を表1(血清)及び表2(全血)に示す。また、
図5(血清)及び
図6(全血)には、希釈倍率と実測値のグラフを示す。
【0106】
【0107】
【0108】
その結果、血液検体が血清の場合には、希釈倍率が高くても低くくても、あるいは希釈しなくても原液換算値は原液濃度と乖離する傾向は見られなかった。これに対して、血液検体が全血の場合には、希釈しないと原液換算値は原液濃度と乖離する傾向が見られ、希釈した方が原液濃度との乖離は少なくなった。このことから、全血を用いる場合には、全血を2倍以上希釈して測定に供することが好ましいと考えられた。また、ピーオキューブの反応容器への反応液(サンプル+R1試薬+R2試薬)の吸い込み速度は、4倍以上希釈したサンプルで良好であった。このことから、全血を用いてピーオキューブで測定する場合、4倍以上希釈することが好ましいと考えられた。
【0109】
2.尿の希釈直線性
プログラニュリン蛋白質濃度が2,000 ng/mlの尿を原液として、動物血清を30%(v/v)含むPBSで倍々希釈した希釈系列を作成し、それぞれについて実施例1に記載の方法にしたがって、プログラニュリン蛋白質を測定して希釈直線性の検討を行った。原液は尿にリコンビナントプログラニュリンタンパク質を終濃度で2,000 ng/mlになるように添加して調製した。
尿の「希釈倍率」、希釈液の「実測値(ng/ml)」、実測値に希釈倍率を乗じた「原液換算値(ng/ml)」、及び原液換算値を原液濃度で除した値に100をかけた「測定値との乖離度%」の結果を表3に示す。また、
図7には、希釈倍率と実測値のグラフを示す。
【0110】
【0111】
その結果、希釈倍率が高くなるにつれて原液換算値は原液濃度から乖離する傾向が見られた。尿を2倍以上希釈して測定に供することが好ましいと考えられた。また、ピーオキューブの反応容器への反応液(サンプル+R1試薬+R2試薬)の吸い込み速度は、4倍以上希釈したサンプルで良好であった。このことから、尿を用いてピーオキューブで測定する場合、4倍以上希釈することが好ましいと考えられた。
【0112】
実施例3.女性生殖器腫瘍患者の血清中子宮肉腫マーカーの測定
実施例1に記載する方法にしたがって、子宮筋腫患者、卵巣癌患者、子宮頸癌患者、子宮体癌患者及び子宮肉腫患者の血清中の子宮肉腫マーカー(プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、GDF-15蛋白質)を測定した。検体数の内訳は、表4に示すとおりである。
【0113】
各子宮肉腫マーカーについては、子宮肉腫患者の測定値を陽性標本、子宮筋腫の測定値を陰性標本としてR統計ソフトにより暫定的に各子宮肉腫マーカーの測定値についてカットオフ値を求めた。
図8~
図11に、子宮筋腫患者及び子宮肉腫患者の血清中のプログラニュリン蛋白質(PGN)、オステオポンチン蛋白質(OST)、GDF-15蛋白質(GDF)、及びミッドカイン蛋白質(MID)濃度のROC曲線を示す。また、表5には、各子宮肉腫マーカーのROC曲線の解析結果を示す。表4では、前記カットオフ値よりも値が高い場合を「○」すなわち子宮肉腫陽性として表す。
【0114】
前記各カットオフ値を用いて、子宮肉腫の検出件数を比較した。子宮肉腫マーカーいずれか一種、又は子宮肉腫マーカー4項目うち二種以上を組み合わせた場合の陽性件数を表4に数字で示す。
【0115】
【0116】
【0117】
表4に示すように、組み合わせる子宮肉腫マーカーの項目数が多いと、他の疾病の偽陽性はなくなるが、子宮肉腫例が検出できない場合があった。逆に組み合わせる子宮肉腫マーカーの項目数を少なくすると、子宮肉腫の見落としは少なくなるが、他の疾病も陽性として検出する件数も増加した。特に卵巣癌で陽性件数が高くなることが明らかとなった。例えばオステオポンチン、GDF-15の2項目を組み合わせると、子宮肉腫患者4件すべてを検出できるが、同時に卵巣癌患者の2件も子宮肉腫陽性となった。
【0118】
実施例4.女性生殖器腫瘍患者の血中CA125濃度
次に、子宮筋腫、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌又は子宮肉腫を患っている患者の血清中CA125の測定を実施した。測定には、癌抗原125キット CA125II・アボット(アボットジャパン株式会社)を使用した。
【0119】
その結果を
図12に示す。
図12Aは、子宮筋腫患者、卵巣癌患者、子宮頸癌患者、子宮体癌患者及び子宮肉腫患者の血清中CA125濃度の散布図を示す。また、
図12Bには、子宮筋腫患者及び子宮肉腫患者の血清中CA125濃度を抜粋した散布図を示す。血清中CA125濃度は卵巣癌で最も高い値を示した。一方子宮肉腫では低値を示した。
図13に子宮筋腫患者及び子宮肉腫患者の血清中CA125濃度のROC曲線を示す。また、表6にROC曲線の解析結果を示す。
【0120】
【0121】
そこで、子宮肉腫マーカーとCA125の測定結果を組み合わせて、各子宮肉腫の検出精度が向上するかを検討した。具体的には、CA125について、卵巣患者の測定値を陽性標本、子宮肉腫患者の測定値を陰性標本として、R統計ソフトにより暫定的にカットオフ値を求め、このカットオフ値よりも高い患者を除外した。
【0122】
下記表7に示すように、CA125の血中濃度が高い患者を除外した場合、測定対象患者全体での偽陽性件数を低減できることが明らかとなった。
これにCA125を組み合わせることで子宮肉腫患者の陽性件数を変えることなく、卵巣癌患者の偽陽性2件を除外でき、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーの子宮肉腫に対する特異性を向上することが可能となった。
【0123】
【0124】
実施例5.同一患者における血清及び尿中の子宮肉腫マーカーの測定
実施例3には含まれない子宮肉腫と診断された1人の患者より血清と尿とを採取し、実施例1に記載の方法に従って、血清中と尿中の子宮肉腫マーカーを測定した。その結果を表8に示す。
【表8】
【0125】
実施例5の患者の血清における子宮肉腫マーカー測定値は、実施例3で求めたカットオフ値よりも低値を示した。実施例3でカットオフ値を求めるため子宮肉腫を保有する患者より採取された検体数が不足しているためと考えられた。
【0126】
しかし、実施例5の患者の子宮肉腫マーカー測定値を、従来報告されている各子宮肉腫マーカー測定値の最も低い基準値、プログラニュリン蛋白質:48ng/mL、オステオポンチン:28.7ng/mL、GDF-15:0.123ng/mLと比較した場合、実施例5の患者の子宮肉腫マーカー測定値も基準値を上回っていた。
【0127】
また、子宮肉腫患者の尿検体における子宮肉腫マーカー測定値を、従来報告されている尿検体における測定値の基準値、プログラニュリン蛋白質:4.23ng/mL、オステオポンチン蛋白質:1.01ng/mL、GDF-15:0.25ng/mLと比較した場合、実施例5の患者の尿検体における子宮肉腫マーカー測定値も基準値を上回っていた。
【0128】
以上の結果から、プログラニュリン蛋白質、オステオポンチン蛋白質、ミッドカイン蛋白質、及びGDF-15蛋白質よりなる群から選択される少なくとも一種の子宮肉腫マーカーは、子宮肉腫の検出に有効であると考えられた。
【符号の説明】
【0129】
500 予測装置
10 測定ユニット
21 処理部
【配列表】