IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士機械製造株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】腹腔内洗浄溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20221011BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20221011BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221011BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221011BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20221011BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20221011BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K41/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K33/06
A61K33/14
A61K9/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018203292
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020070244
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】吉川 史隆
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】水野 正明
(72)【発明者】
【氏名】豊國 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】梶山 広明
(72)【発明者】
【氏名】芳川 修久
(72)【発明者】
【氏名】中村 香江
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】神藤 高広
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 陽大
(72)【発明者】
【氏名】東田 明洋
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/029862(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/103695(WO,A1)
【文献】特表2017-519010(JP,A)
【文献】国際公開第2005/089818(WO,A1)
【文献】第64回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 16p-313-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/192
A61K 41/00
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00
A61K 33/06
A61K 33/14
A61K 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射するプラズマ照射工程を有し、
前記プラズマ照射工程では、
プラズマガスとして窒素ガスと酸素ガスとを含む混合ガスを用い、
前記窒素ガスに対する前記酸素ガスの体積比50%以上150%以下とすること
を特徴とする腹腔内洗浄溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の腹腔内洗浄溶液の製造方法において、
前記窒素ガスに対する前記酸素ガスの体積比を70%以上130%以下とすること
を特徴とする腹腔内洗浄溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の腹腔内洗浄溶液の製造方法において、
前記プラズマ照射工程では、
プラズマ照射装置の照射室の内部を希ガスでパージしながら、前記水溶液にプラズマを照射すること
を特徴とする腹腔内洗浄溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の腹腔内洗浄溶液の製造方法において、
前記水溶液は、
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有すること
を特徴とする腹腔内洗浄溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、腹腔内洗浄溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。そして、近年においては、医療への応用が活発に研究されるようになってきた。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラズマの照射により、血液凝固(特許文献1の実施例4、段落[0063]-[0068]参照)と、組織滅菌(特許文献1の実施例5、段落[0069]-[0074]参照)と、リーシュマニア症(特許文献1の実施例6、段落[0075]-[0077]参照)といった、効果があることが記載されている。そして、メラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)を死滅させる効果があると記載されている(特許文献1の実施例7、段落[0078]参照)。
【0004】
また、本発明者らは、癌細胞を選択的に死滅させる抗腫瘍水溶液に関する技術を研究開発した。例えば、特許文献2には、培養液に大気圧プラズマを照射する抗腫瘍水溶液が開示されている。特許文献3には、ラクテック(登録商標)に大気圧プラズマを照射する抗腫瘍水溶液が開示されている。ただし、これらの抗腫瘍水溶液に含まれる成分のうちどの成分が効果を有するのか未だ分かっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-539007号公報
【文献】国際公開第2013/128905号
【文献】国際公開第2016/103695号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2および特許文献3では、大気中で大気圧プラズマを水溶液に照射している。その場合には、大気圧プラズマは周囲の大気を巻き込む。そして大気に由来するラジカル等を発生させる。
【0007】
大気中でプラズマを照射する場合には、発生するラジカルは大気の成分に依存してしまう。大気中では、窒素ガスは78体積%であり、酸素ガスは21体積%である。このとき、窒素ガスに対する酸素ガスの体積比は27%程度に固定されてしまう。そして、窒素由来の活性化学種が多く発生してしまう。有効成分が分かっていない現状では、より効果の高い水溶液を得るために、活性化学種の割合を制御することが好ましい。
【0008】
また、大気中には二酸化炭素等、その他の窒素および酸素以外の元素がわずかに存在する。そのため、大気中でプラズマを照射する場合には、狙った化学物質以外の物質がある程度発生してしまうおそれがある。患者の体内に投与するためには、薬剤は限定された成分を含有することが望ましい。
【0009】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、水溶液に照射する活性化学種を制御する腹腔内洗浄溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様における腹腔内洗浄溶液の製造方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射するプラズマ照射工程を有する。プラズマ照射工程では、プラズマガスとして窒素ガスと酸素ガスとを含む混合ガスを用いる。窒素ガスに対する酸素ガスの体積比50%以上150%以下とする
【0011】
この製造方法では、原材料の水溶液に照射される活性窒素種と活性酸素種との割合を制御することができる。ここで、腹腔内洗浄溶液とは、癌等を治療する際に開腹手術をする際に、腹腔内に投与する溶液である。
【発明の効果】
【0012】
本明細書では、水溶液に照射する活性化学種を制御する腹腔内洗浄溶液の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】プラズマ処理装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】プラズマ処理装置のプラズマ照射部の斜視展開図である。
図3】プラズマ処理装置の中間ブロックの斜視図である。
図4】プラズマ処理装置のプラズマガスの供給系を説明するための斜視断面図である。
図5】プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図6】プラズマガスとしてArガスと窒素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図7】プラズマガスとしてArガスと酸素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図8】プラズマガスとしてArガスと水素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図9】プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図10】プラズマガスとしてArガスと窒素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図11】プラズマガスとしてArガスと酸素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図12】プラズマガスとしてArガスと水素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図13】プラズマガスとしてArガスのみを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図14】プラズマガスとしてArガスに0.5体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図15】プラズマガスとしてArガスに1体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図16】プラズマガスとしてArガスに5体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図17】プラズマガスとしてArガスに10体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図18】プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図19】プラズマガスとしてArガスに10体積%の窒素ガスを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図20】プラズマガスとしてArガスに10体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図21】プラズマガスとしてArガスに10体積%の窒素ガスと10体積%の酸素ガスとを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
図22】プラズマ処理装置のチャンバーの内部に水を配置していない場合の化学活性種のスペクトルである。
図23】プラズマ処理装置のチャンバーの内部に水を配置している場合の化学活性種のスペクトルである。
図24】pHの測定結果を示すグラフである。
図25】プラズマ活性化水溶液(PAL)の希釈率とpHとの関係を示すグラフである。
図26】プラズマ活性化水溶液(PAL)のプラズマガスの種類とH濃度との間の関係を示すグラフである。
図27】プラズマ活性化水溶液(PAL)のプラズマガスの種類と亜硝酸イオンまたは硝酸イオンの濃度との間の関係を示すグラフである。
図28】水溶液の種類と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。
図29】プラズマ活性化水溶液(PAL)中のH濃度の時間経過を示すグラフである。
図30】Arガスに窒素ガス(10体積%)を加えた場合のプラズマ活性化水溶液(PAL)中の亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度の時間経過を示すグラフである。
図31】Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた場合のプラズマ活性化水溶液(PAL)中の亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度の時間経過を示すグラフである。
図32】プラズマ活性化水溶液(PAL)の選択性を示すグラフである。
図33】動物実験の実験方法を説明するための図(その1)である。
図34】動物実験の実験結果を示すグラフ(その1)である。
図35】動物実験の実験方法を説明するための図(その2)である。
図36】動物実験の実験結果を示すグラフ(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な実施形態について、腹腔内洗浄溶液の製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
1.腹腔内洗浄溶液の製造装置
本実施形態の腹腔内洗浄溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。したがって、まず、腹腔内洗浄溶液の製造装置であるプラズマ処理装置について説明する。
【0016】
1-1.プラズマ処理装置の構成
図1は、プラズマ処理装置100の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、プラズマ処理装置100は、プラズマ発生部110と、チャンバー120と、を有する。プラズマ発生部110は、プラズマを発生させる。チャンバー120は、水溶液を入れた容器を収容するとともに水溶液にプラズマを照射する雰囲気を制御するための反応室である。
【0017】
チャンバー120は、水溶液にプラズマを照射するための照射室である。チャンバー120は、観察窓121と、ガス供給口122と、ガス排出口123と、を有する。観察窓121は、チャンバー120の内部の様子を観察するための窓である。観察窓121を用いることにより、プラズマの発生を目視により確認することが可能である。
【0018】
ガス供給口122は、チャンバー120の内部の雰囲気ガスを供給するためのものである。例えば、ガス供給口122からArガスを供給する。これにより、チャンバー120の内部はArガスが充満している状態となる。このように、チャンバー120の内部の雰囲気ガスを制御することができる。
【0019】
ガス排出口123は、チャンバー120の内部のガスを排出するためのものである。
【0020】
図2は、プラズマ処理装置100のプラズマ照射部110の斜視展開図である。図2に示すように、プラズマ照射部110は、第1の電極111aと、第2の電極111bと、カバーケース112と、中間ブロック113と、ノズル部116と、を有する。
【0021】
第1の電極111aおよび第2の電極111bは、電極対である。第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じることにより、プラズマが発生する。カバーケース112は、絶縁性のケースである。カバーケース112は、プラズマ照射部110を全体的に覆っている。中間ブロック113は、第1の電極111aおよび第2の電極111bの周囲を囲うとともにプラズマ発生領域となる空間を画定するためのものである。中間ブロック113は、貫通孔114を有している。ノズル部116は、プラズマを照射するスリット117を有する。
【0022】
図3は、プラズマ処理装置100の中間ブロック113の斜視図である。図3に示すように、中間ブロック113は、凹部115aと凹部115bと凹部115cとを有する。凹部115aは、第1の電極111aを非接触で覆うためのものである。凹部115bは、第2の電極111bを非接触で覆うためのものである。凹部115cは、凹部115aと凹部115bとを連通するための連通部である。
【0023】
図4は、プラズマ処理装置100のプラズマガスの供給系を説明するための斜視断面図である。図4に示すように、プラズマ発生部110は、第1の供給管118aと、第2の供給管118bと、第3の供給管119と、を有する。
【0024】
第1の供給管118aは、第1の電極111aを冷却するためのものである。第2の供給管118bは、第2の電極111bを冷却するためのものである。そのため、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bは、例えば、Arガス等の希ガスを供給すればよい。
【0025】
第3の供給管119は、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bの間に配置されている。第3の供給管119は、プラズマガスを供給するためのものである。第3の供給管119は、第1の電極111aと第2の電極111bとの間の空間にプラズマガスを供給する。第3の供給管119がガスを供給する位置は、例えば、中間ブロック113の凹部115cである。
【0026】
1-2.プラズマ処理装置の動作
まず、ガス供給口122にチャンバー120をパージするためのガスを供給しつつ、ガス排出口123からチャンバー120の内部のガスを排出する。これにより、チャンバー120の内部では、ガス供給口122から供給したガスが充満する。
【0027】
次に、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bに例えばArガスを流しながら第1の電極111aおよび第2の電極111bを冷却する。この状態で、第3の供給管119から中間ブロック113の凹部115cにプラズマガスを供給する。プラズマガスは例えばArガスである。そして、第1の電極111aと第2の電極11bとの間に高周波の電圧を印加する。これにより、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じる。このようにして、第1の電極111aと第2の電極111bとの間のプラズマ発生領域PG1にプラズマが発生する。
【0028】
2.腹腔内洗浄溶液の製造方法
本実施形態の腹腔内洗浄溶液は、開腹手術の際に腹腔内に投与して腹腔内を清浄に保つための溶液である。この腹腔内洗浄溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。腹腔内洗浄溶液の製造方法について、以下に説明する。
【0029】
2-1.水溶液準備工程
まず、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する。この水溶液として、例えば、ラクテック(登録商標)が挙げられる。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0030】
2-2.プラズマ照射工程
次に、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射する。その際に、チャンバー120の内部をArガスでパージした状態で、水溶液にプラズマを照射する。プラズマガスとして窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いる。窒素ガスに対する酸素ガスの体積比は50%以上150%以下である。また、窒素ガスに対する酸素ガスの体積比は70%以上130%以下であるとよい。なお、プラズマガスは、窒素ガスと酸素ガスとの他にArガスを含有する。
【0031】
そして、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bに例えばArガスを流しながら、第3の供給管119から中間ブロック113の凹部115cにプラズマガスを供給する。この状態で、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に交流電圧を印加する。これにより、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じ、第1の電極111aと第2の電極111bとの間にプラズマが発生する。このように、希ガスによりパージした雰囲気内で水溶液にプラズマを照射する。
【0032】
印加電圧は、例えば、1kV以上10kV以下である。交流電圧の周波数は、例えば、10kHz以上10MHz以下である。水溶液の液面とノズル部116のスリット117との間の照射距離は、例えば、1mm以上10mm以下である。
【0033】
3.腹腔内洗浄溶液の効果
プラズマを照射して得られた溶液は、プラズマ活性化水溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。プラズマ活性化水溶液(PAL)は、後述するように抗腫瘍効果を備えている。プラズマ活性化水溶液(PAL)は、窒素原子と酸素原子とを由来する活性化学種がL-乳酸ナトリウムと反応して生成された化合物であると考えられる。通常、腹腔内洗浄溶液として生理食塩水が用いられているが、その代わりにラクテック(登録商標)を用いることもできる。また、ラクテック(登録商標)の成分に近いプラズマ活性化水溶液(PAL)も、同様に腹腔内洗浄溶液として用いることができる。このようにプラズマ活性化水溶液(PAL)は、腹腔内洗浄溶液として好適であるのに加えて、抗腫瘍効果を備えている。
【0034】
なお、有効成分については必ずしも明らかではない。水溶液が含有する溶質と、水と、窒素と、酸素と、に由来する成分が、L-乳酸ナトリウムと反応することにより、何らかの有効成分が発生したと考えられる。しかし、水溶液から有効成分のみを単離することは容易ではない。そして、有効成分そのものを特定することも決して容易ではない。なお、チャンバー120の内部をArガスでパージしているため、炭素等その他の粒子が水溶液に混入することはほとんどない。つまり、チャンバー120の内部では、二酸化炭素や水素ガス等が排除されている。
【0035】
4.腹腔内洗浄溶液の使用方法
手術の最中に患者を開腹した後、開口部からプラズマ活性化水溶液(PAL)を患者の腹腔内に供給する。これにより、プラズマ活性化水溶液(PAL)は、臓器の隙間に供給される。プラズマ活性化水溶液(PAL)は、各々の臓器の外部の腫瘍を殺す働きを担う。プラズマ活性化水溶液(PAL)は、腹腔内の種々の臓器にいきわたるため、腹膜播種等、複数の箇所に腫瘍がある患者に投与するのに好適である。
【0036】
5.変形例
5-1.プラズマガス
本実施形態では、プラズマガスおよびパージ用ガスはArガスである。しかし、He等、その他の希ガスを用いてもよい。
【0037】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
【0038】
1.プラズマ活性化培養液
本実施形態のプラズマ活性化培養液(PAM:Plasma Activated Medium)は、培養液にプラズマを照射したものである。培養液として、一般的な種々の培養液を用いることができる。例えば、DMEM、RPMI1640が挙げられる。
【0039】
2.プラズマ活性化水溶液の製造方法
第1の実施形態と同様に、プラズマ処理装置100を用いて培養液にプラズマを照射する(プラズマ照射工程)。プラズマ照射条件は、第1の実施形態と同様である。または、照射条件を適宜変更してもよい。また、第1の実施形態のプラズマ照射装置100以外のプラズマ装置を用いてもよい。
【0040】
(実験)
1.水溶液の作製
1-1.PAL
L-乳酸ナトリウム水溶液を含有する水溶液としてラクテック(登録商標)を準備した。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0041】
プラズマ処理装置100を用いてラクテック(登録商標)にプラズマを照射した。これにより、プラズマ活性化水溶液(PAL)を製造した。プラズマを照射するにあたって、10mLのラクテック(登録商標)にプラズマを照射した。照射距離は4mmであった。照射時間は10分であった。なお、プラズマガスの種類については、適宜変更した。
【0042】
1-2.PAM
また、プラズマ処理装置100を用いて培養液にプラズマを照射した。培養液の種類は、DMEMとRPMI1640であった。これにより、プラズマ活性化培養液(PAM)を製造した。
【0043】
2.癌細胞の種類
癌細胞として、SK-OV-3(卵巣癌細胞)、U251SP(脳腫瘍細胞)、ES2(卵巣癌細胞)を用いた。卵巣癌細胞を培養する際には、RPMI1640を用いた。脳腫瘍細胞を培養する際には、DMEMを用いた。なお、卵巣癌細胞にPAMを供給する場合には、原材料の培養液としてRPMI1640を用いた。脳腫瘍細胞にPAMを供給する場合には、原材料の培養液としてDMEMを用いた。
【0044】
3.実験1
3-1.実験方法
癌細胞としてSK-OV-3細胞を用いた。1ウェルあたりの細胞数は5000個であった。細胞に投与した溶液は、RPMI1640にプラズマガスを照射したプラズマ活性化培養液(PAM)であった。プラズマガスとして、Arガスのみ、Arガスに窒素ガスを加えた混合ガス、Arガスに酸素ガスを加えた混合ガス、Arガスに水素ガスを加えた混合ガス、の4種類を用いた。
【0045】
3-2.実験結果
図5は、プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図5の横軸は、プラズマ活性化培養液(PAM)の希釈率である。例えば、「1:4」とあるのは、4倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM))である。図5の縦軸は、癌細胞の生存率である。特に断りが無い限り、これ以降のグラフにおいても、グラフの横軸および縦軸は、同様である。なお、SK-OV-3の細胞数は1ウェルあたり5000個であった。また、図中の「Ctrl」の表記は、プラズマを照射していない培養液を表している。
【0046】
図5において、「0時間」、「2時間」とあるのは、プラズマ活性化培養液(PAM)の作製後、癌細胞に供給するまでの時間を示している。図5に示すように、プラズマ活性化培養液(PAM)の作製直後においては、16倍希釈のPAMは、50%程度のSK-OV-3を殺した。また、2時間経過後の16倍希釈のPAMは、10%程度のSK-OV-3を殺した。
【0047】
図6は、プラズマガスとしてArガスと窒素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。窒素ガスは、10体積%である。
【0048】
図6に示すように、プラズマ活性化培養液(PAM)の作製直後においては、16倍希釈のPAMは、60%程度のSK-OV-3を殺した。また、2時間経過後の16倍希釈のPAMは、20%程度のSK-OV-3を殺した。このように、Arガスに窒素ガスを混合したプラズマガスを用いた場合には、Arガスのみをプラズマガスとして用いた場合と同様の抗腫瘍効果を示した。
【0049】
図7は、プラズマガスとしてArガスと酸素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。酸素ガスは、10体積%である。
【0050】
図7に示すように、プラズマ活性化培養液(PAM)の作製直後における64倍希釈のPAMは、50%程度のSK-OV-3を殺した。また、2時間経過後の64倍希釈のPAMは、60%程度のSK-OV-3細胞を殺した。このように、プラズマガスとしてArガスに酸素ガスを加えて混合ガスを用いた場合には、Arガスのみを用いた場合に比べて、強い抗腫瘍効果を示した。
【0051】
図8は、プラズマガスとしてArガスと水素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。水素ガスは、10体積%である。
【0052】
図8に示すように、プラズマガスとしてArガスに水素ガスを加えた混合ガスを用いた場合には、プラズマ活性化培養液(PAM)は抗腫瘍効果を示さなかった。
【0053】
4.実験2
4-1.実験方法
癌細胞としてU251SPを用いた。1ウェルあたりの細胞数は5000個であった。細胞に投与した溶液は、DMEMにプラズマガスを照射したプラズマ活性化培養液(PAM)であった。プラズマガスとして、Arガスのみ、Arガスに窒素ガスを加えた混合ガス、Arガスに酸素ガスを加えた混合ガス、Arガスに水素ガスを加えた混合ガス、の4種類を用いた。
【0054】
4-2.実験結果
図9は、プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
【0055】
図9に示すように、8倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、100%に近い抗腫瘍効果を示した。16倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、40%の抗腫瘍効果を示した。32倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、抗腫瘍効果を示さなかった。
【0056】
図10は、プラズマガスとしてArガスと窒素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。窒素ガスは、10体積%である。
【0057】
図10に示すように、8倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、90%に近い抗腫瘍効果を示した。16倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、30%の抗腫瘍効果を示した。32倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、抗腫瘍効果を示さなかった。Arガスに窒素ガスを加えた混合ガスをプラズマガスとして用いた場合には、Arガスのみをプラズマガスとして用いた場合に比べて、同等の抗腫瘍効果を示した。
【0058】
図11は、プラズマガスとしてArガスと酸素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。酸素ガスは10体積%である。
【0059】
図11に示すように、16倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、90%程度の抗腫瘍効果を示した。32倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、70%程度の抗腫瘍効果を示した。64倍希釈のプラズマ活性化培養液(PAM)は、30%程度の抗腫瘍効果を示した。このように、プラズマガスとしてArガスと酸素ガスとを用いた場合には、プラズマガスとしてArガスのみを用いた場合に比べて、抗腫瘍効果は高い。
【0060】
図12は、プラズマガスとしてArガスと水素ガス(10体積%)とを用いたプラズマ活性化培養液(PAM)がU251SPに対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。水素ガスは10体積%である。
【0061】
図12に示すように、プラズマガスとしてArガスに水素ガスを加えた混合ガスを用いた場合には、プラズマ活性化培養液(PAM)は抗腫瘍効果を示さなかった。
【0062】
5.実験3(酸素ガスの割合)
5-1.実験方法
癌細胞としてSK-OV-3を用いた。1ウェルあたりの細胞数は5000個であった。細胞に投与した溶液は、RPMI1640にプラズマガスを照射したプラズマ活性化培養液(PAM)であった。Arガスに対する酸素ガスの混合比を変えて、プラズマ活性化培養液(PAM)の効果を調べた。
【0063】
5-2.実験結果
図13は、プラズマガスとしてArガスのみを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図14は、プラズマガスとしてArガスに0.5体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図15は、プラズマガスとしてArガスに1体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図16は、プラズマガスとしてArガスに5体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図17は、プラズマガスとしてArガスに10体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いた場合のプラズマ活性化培養液(PAM)がSK-OV-3に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。
【0064】
図13から図17に示すように、Arガスに対する酸素ガスの混合比が大きいほど、抗腫瘍効果は大きい。
【0065】
6.実験4(窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス)
6-1.実験方法
癌細胞としてES2を用いた。1ウェルあたりの細胞数は10000個であった。細胞に投与した溶液は、プラズマ活性化水溶液(PAL)であった。プラズマガスとしてArガスに混合するガスの種類を変えて、プラズマ活性化水溶液(PAL)の効果を調べた。
【0066】
6-2.実験結果
図18は、プラズマガスとしてArガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図19は、プラズマガスとしてArガスに10体積%の窒素ガスを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図20は、プラズマガスとしてArガスに10体積%の酸素ガスを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。図21は、プラズマガスとしてArガスに10体積%の窒素ガスと10体積%の酸素ガスとを加えた混合ガスを用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)がES2に対して奏する抗腫瘍効果を示すグラフである。また、図中の「Ctrl」の表記は、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を表している。
【0067】
図18に示すように、Arガスのみの場合には、16倍希釈のPALが60%程度の抗腫瘍効果を示した。図19に示すように、Arガスに窒素ガスを加えた場合には、16倍希釈のPALが90%程度の抗腫瘍効果を示した。図20に示すように、Arガスに酸素ガスを加えた場合には、32倍希釈のPALが90%程度の抗腫瘍効果を示した。図21に示すように、Arガスに窒素ガスと酸素ガスとを加えた場合には、64倍希釈のPALが90%程度の抗腫瘍効果を示した。
【0068】
図18から図21に示すように、Arガスに窒素ガスまたは酸素ガスを加えた場合には、Arガスのみの場合に比べて、PALの抗腫瘍効果はやや高い。Arガスに窒素ガスおよび酸素ガスの両方を加えると、PALの抗腫瘍効果は非常に高くなる。
【0069】
7.発生する化学活性種
7-1.測定方法
プラズマ処理装置100の観察窓121に分光器を設置する。分光器は、プラズマにより発生する化学活性種のスペクトルを測定することができる。
【0070】
7-2.測定結果
図22は、プラズマ処理装置100のチャンバー120の内部に水を配置していない場合の化学活性種のスペクトルである。図22の横軸は波長である。図22の縦軸は光の強度である。図22に示すように、Arガスのみをプラズマガスとして用いた場合には、Ar、Ar+ のピークが観測された。Arガスに窒素ガスを加えた場合には、Ar、Ar+ に加えてN、N + のピークが観測された。Arガスに酸素ガスを加えた場合には、Ar、Ar+ に加えてO+ のピークが観測された。Arガスに窒素ガスおよび酸素ガスを加えた場合には、Ar、Ar+ に加えてN、N + 、O+ のピークが観測された。
【0071】
図23は、プラズマ処理装置100のチャンバー120の内部に水を配置している場合の化学活性種のスペクトルである。図23の横軸は波長である。図23の縦軸は光の強度である。図23に示すように、図22の場合のスペクトルに、さらにO+ 、Hαのピークが加わる。
【0072】
8.pH
8-1.測定方法
プラズマガスの種類を変えてラクテック(登録商標)にプラズマを照射した場合のpHの変化を調べた。プラズマを照射してから一定時間経過後にpHを測定した。プラズマの照射時間は10分間であった。
【0073】
8-2.測定結果
図24は、pHの測定結果を示すグラフである。図24の横軸は、プラズマ照射からの経過時間が異なるプラズマの種類である。図24の縦軸は、pHである。図24に示すように、プラズマガスが窒素ガスを含んでいると、pHが大きく変化する傾向にある。これは、窒素原子と水中またはプラズマガス中の酸素原子とが反応し、亜硝酸イオンまたは硝酸イオンが発生するためと考えられる。
【0074】
図25は、プラズマ活性化水溶液(PAL)の希釈率とpHとの関係を示すグラフである。図25の横軸は水溶液の希釈率である。図25の縦軸はpHである。窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とをArガスに加えた混合ガスをプラズマガスに用いる場合には、64倍の希釈率のPALが抗腫瘍効果を示した(図21参照)。図25に示すように、64倍の希釈率のPALのpHは、6.2程度である。窒素ガス(10体積%)をArガスに加えた混合ガスをプラズマガスに用いる場合には、16倍の希釈率のPALが抗腫瘍効果を示した(図19参照)。図25に示すように、16倍の希釈率のPALのpHは、5.9程度である。このように、プラズマ活性化水溶液(PAL)は、中性領域で抗腫瘍効果を示す。
【0075】
9.H濃度
9-1.測定方法
プラズマガスの種類を変えて、水にプラズマを照射する。その際には、チャンバー120の内部はArガスでパージする。そして、水中のH濃度を測定した。プラズマの照射時間は10分であった。
【0076】
図26は、プラズマ活性化水溶液(PAL)のプラズマガスの種類とH濃度との間の関係を示すグラフである。図26の横軸はプラズマガスの種類である。図26の縦軸はH濃度である。図26の時間は、プラズマを照射してからの経過時間である。
【0077】
図26に示すように、Arガスを用いた場合のH濃度(0h)は、750μM程度であった。Arガスに窒素ガス(10体積%)を加えた混合ガスを用いた場合のH濃度(0h)は、800μM程度であった。Arガスに酸素ガス(10体積%)を加えた混合ガスを用いた場合のH濃度(0h)は、1800μM程度であった。Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた混合ガスを用いた場合のH濃度(0h)は、3100μM程度であった。
【0078】
このように、Arガスに窒素ガスを加えた場合には、Arガスのみの場合に比べて、同程度のH濃度であった。Arガスに酸素ガスを加えた場合には、Arガスのみの場合に比べて、2.4倍程度のH濃度であった。Arガスに窒素ガスと酸素ガスとを加えた場合には、Arガスのみの場合に比べて、4.1倍程度のH濃度であった。
【0079】
10.亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度
10-1.測定方法
プラズマガスの種類を変えて、水にプラズマを照射した。その際には、チャンバー120の内部はArガスでパージした。そして、水中の亜硝酸イオンおよび硝酸イオンの濃度を測定した。プラズマの照射時間は10分であった。
【0080】
図27は、プラズマ活性化水溶液(PAL)のプラズマガスの種類と亜硝酸イオンまたは硝酸イオンの濃度との間の関係を示すグラフである。図27の横軸はプラズマガスの種類である。図27の縦軸はイオンの濃度である。
【0081】
図27に示すように、Arガスのみを用いる場合、Arガスに酸素ガスを加えた混合ガスを用いる場合には、亜硝酸イオンおよび硝酸イオンはほとんど発生していない。わずかにこれらのイオンが観測されることは、Arガスによるパージの限界を示している。
【0082】
Arガスに窒素ガス(10体積%)を加えた混合ガスを用いる場合には、亜硝酸イオンが2900μM程度発生し、硝酸イオンが600μM程度発生した。Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた混合ガスを用いる場合には、亜硝酸イオンが3600μM程度発生し、硝酸イオンが1400μM程度発生した。
【0083】
11.プラズマ活性化水溶液中の活性化学種
11-1.実験方法
ラクテック(登録商標)に種々の試薬を加えて種々の水溶液を作製した。H、NO - 、NO - 等、活性酸素種(ROS)および活性窒素種(RNS)を水溶液に加えた。H、NO - 、NO - の濃度について、Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えたプラズマ活性化水溶液(PAL)と同程度となるように試薬の量を調整した。用いた試薬は、H、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウムであった。試薬を加えた溶液に対しては、プラズマを照射していない。
【0084】
癌細胞としてES2を用いた。1ウェルあたりの細胞数は10000個であった。上記の種々の水溶液を各ウェルに供給した。
【0085】
11-2.実験結果
図28は、水溶液の種類と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。図28の横軸は水溶液の種類である。図28の縦軸は癌細胞の生存率である。
【0086】
図28に示すように、64倍希釈の水溶液のうちプラズマを照射したプラズマ活性化水溶液(PAL)のみが45%程度の抗腫瘍効果を示した。また、32倍希釈の水溶液に対して、Hを含有する水溶液が抗腫瘍効果を示した。また、亜硝酸イオンおよび硝酸イオンの有無は、抗腫瘍効果の有無にはそれほど影響しない。
【0087】
このように、水溶液のpHは、抗腫瘍効果にそれほど依存しない。Hの濃度は、抗腫瘍効果に大きな影響を与える。なお、H、NO - 、NO - の濃度を調整しても、その抗腫瘍効果の大きさは、プラズマ活性化水溶液(PAL)の抗腫瘍効果には及ばない。つまり、H、NO - 、NO - が、プラズマ活性化水溶液(PAL)が備える抗腫瘍効果のすべてを担っているわけではない。
【0088】
12.プラズマ活性化水溶液中の活性化学種の安定性
12-1.実験方法
プラズマ活性化水溶液(PAL)を作製した後に放置した。そして、適宜、活性化学種を測定した。
【0089】
12-2.実験結果
図29は、プラズマ活性化水溶液(PAL)中のH濃度の時間経過を示すグラフである。図29の横軸は時間である。図29の縦軸はH濃度である。Arガスに酸素ガス(10体積%)を添加したプラズマガスを用いた場合には、プラズマ照射後100時間以上経過しても、H濃度は1500μM程度を保持する。一方、その他の場合には、プラズマ照射後100時間以上経過すると、H濃度はほとんど0に近づく。
【0090】
図30は、Arガスに窒素ガス(10体積%)を加えた場合のプラズマ活性化水溶液(PAL)中の亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度の時間経過を示すグラフである。図30の横軸は時間である。図30の縦軸は亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度である。図30に示すように、プラズマガスに酸素ガスを用いなかった場合には、亜硝酸イオンの濃度は3000μM程度、硝酸イオンの濃度は数百μM程度とほぼ一定値を保つ。
【0091】
図31は、Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた場合のプラズマ活性化水溶液(PAL)中の亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度の時間経過を示すグラフである。図31の横軸は時間である。図31の縦軸は亜硝酸イオンの濃度および硝酸イオンの濃度である。図31に示すように、プラズマガスとして窒素ガスに加えて酸素ガスを用いた場合には、亜硝酸イオンの濃度が減少するとともに硝酸イオンの濃度が増加する。そして、亜硝酸イオンの濃度と硝酸イオンの濃度との合計は、ほぼ一定値を保つ。
【0092】
13.抗腫瘍効果の選択性
13-1.実験方法
次に、プラズマ活性化水溶液(PAL)の選択性について調べた。癌細胞を殺すとともに正常細胞をほとんど殺さない場合に、そのプラズマ活性化水溶液(PAL)は選択性を有する。すなわち、PALは癌細胞を選択的に殺す。癌細胞としてES2を用いた。正常細胞としてHOF(ヒト卵巣線維芽細胞)およびHPMC(ヒト腹膜中皮細胞)を用いた。1ウェルあたりの細胞数は10000個である。
【0093】
13-2.実験結果
図32は、プラズマ活性化水溶液(PAL)の選択性を示すグラフである。図32の横軸は細胞の種類である。図32の縦軸は細胞の生存率である。図32に示すように、32倍希釈のプラズマ活性化水溶液(PAL)は、癌細胞(ES2)のみを殺し、HOF(ヒト卵巣線維芽細胞)およびHPMC(ヒト腹膜中皮細胞)をほとんど殺さなかった。つまり、プラズマ活性化水溶液(PAL)は、選択的に癌細胞を殺す。
【0094】
14.動物実験1(3回投与)
14-1.実験方法
癌細胞としてES2を用いた。投与する溶液としてプラズマ活性化水溶液(PAL)を用いた。そして、Arガスに酸素ガス(10体積%)を添加したプラズマガスを用いた場合、Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを添加したプラズマガスを用いた場合、プラズマを照射しなかった場合、の3種類の水溶液を準備した。
【0095】
図33は、動物実験の実験方法を説明するための図である。0日目にES2をマウスに腹膜播種した。ES2の数は100万個であった。そして、0日目から2日目に水溶液をマウスの腹腔内に注射した。つまり、水溶液を3回マウスに投与した。水溶液の投与量は1回当たり3mLであった。
【0096】
14-2.実験結果
図34は、動物実験の実験結果を示すグラフである。図34の横軸は経過日数である。図34の縦軸は生存率である。なお、N数は8である。
【0097】
図34に示すように、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を投与したマウスは、21日経過後にすべて死んだ。Arガスに酸素ガス(10体積%)を加えた混合ガスをプラズマガスに用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)を投与したマウスは、23日経過後にすべて死んだ。Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた混合ガスをプラズマガスに用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)を投与したマウスは、34日経過後にすべて死んだ。
【0098】
このように、Arガスに酸素ガス(10体積%)を加えた混合ガスを用いた場合には、単なるラクテック(登録商標)を用いた場合と、マウスの寿命はそれほど変わらない。一方、Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた混合ガスを用いた場合には、マウスの寿命が1.5倍程度伸びた。
【0099】
15.動物実験2(1回投与)
15-1.実験方法
癌細胞としてES2を用いた。投与する溶液としてプラズマ活性化水溶液(PAL)を用いた。そして、Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを添加したプラズマガスを用いた場合、プラズマを照射しなかった場合、の3種類の水溶液を準備した。
【0100】
図35は、動物実験の実験方法を説明するための図である。0日目にES2をマウスに腹膜播種した。ES2の数は100万個であった。そして、0日目に水溶液をマウスに注射した。つまり、水溶液を1回だけマウスに投与した。水溶液の量は10mLであった。
【0101】
15-2.実験結果
図36は、動物実験の実験結果を示すグラフである。図36の横軸は経過日数である。図36の縦軸は生存率である。なお、N数は11である。
【0102】
図36に示すように、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を投与したマウスは、27日経過後にすべて死んだ。Arガスに窒素ガス(10体積%)と酸素ガス(10体積%)とを加えた混合ガスをプラズマガスに用いたプラズマ活性化水溶液(PAL)を投与したマウスは、38日経過後にすべて死んだ。
【0103】
このように、1回のみPALを投与した場合であっても、マウスの寿命が1.5倍程度伸びた。
【0104】
1回のみのプラズマ活性化水溶液(PAL)の投与は、手術の場合に相当する。つまり、手術を実施する際に、腹腔内洗浄溶液としてプラズマ活性化水溶液(PAL)を用いることができる。
【0105】
(付記)
第1の態様における腹腔内洗浄溶液の製造方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射するプラズマ照射工程を有する。プラズマ照射工程では、プラズマガスとして窒素ガスと酸素ガスとを含む混合ガスを用いる。窒素ガスに対する酸素ガスの体積比が50%以上150%以下である。
【0106】
第2の態様における腹腔内洗浄溶液の製造方法においては、プラズマ照射工程では、プラズマ照射装置の照射室の内部を希ガスでパージしながら、水溶液にプラズマを照射する。
【0107】
第3の態様における腹腔内洗浄溶液の製造方法においては、水溶液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0108】
第4の態様における腹腔内洗浄溶液の製造方法は、培養液にプラズマを照射するプラズマ照射工程を有する。
【符号の説明】
【0109】
100…プラズマ処理装置
110…プラズマ発生部
111a…第1の電極
111b…第2の電極
112…カバーケース
113…中間ブロック
116…ノズル部
120…チャンバー
121…観察窓
122…ガス供給口
123…ガス排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36