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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】ホウ素含有葉酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/05 20060101AFI20221011BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221011BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20221011BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20221011BHJP
【FI】
C07F5/05 Z CSP
A61P35/00
A61K31/69
A61K41/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017162387
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019038778
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-08-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:公益社団法人日本化学会 刊行物名:日本化学会第97春季年会予稿集 発行年月日:平成29年3月3日 平成29年3月16日 日本化学会第97春季年会2017にて発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507288132
【氏名又は名称】ステラファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩之
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504732(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026276(WO,A1)
【文献】I.B.Sivaev et al,Derivatives of the closo-dodecaborate anion and their application in medicine,Russian Chemical Bulletin,2002年,51,1362-1374
【文献】Agarwal, Hitesh K. et al.,Synthesis of closo-1,7-carboranyl alkyl amines,Tetrahedron Letters,2011年,52(43),5664-5667
【文献】Gruzdev, D. A. et al.,Synthesis of novel carboranyl derivatives of α-amino acids,Russian Chemical Bulletin,2010年,59(1),110-115
【文献】Wu, Ye; Quintana, William,Coupling of Amino Carboranes to Carboxylic Acid Containing Substrates,Inorganic Chemistry,1999年,38(9),2025-2029
【文献】Hattori, Yoshihide et al.,A novel modification method of peptides and proteins by anionic dodecaborate cage in water,Peptide Science ,2011年,48th,47
【文献】Neirynck, P. et al.,Carborane-β-cyclodextrin complexes as a supramolecular connector for bioactive surfaces,Journal of Materials Chemistry B: Materials for Biology and Medicine ,2015年,3(4),539-545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/05
A61P 35/00
A61K 31/69
A61K 41/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】
〔式中、Rは存在せず、Lは存在しないか、又はリンカーを表し、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基を表す。〕
で表されることを特徴とするホウ素含有葉酸誘導体。
【請求項2】
一般式(I)におけるLが、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有葉酸誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のホウ素含有葉酸誘導体を含有することを特徴とするホウ素中性子捕捉療法用組成物。
【請求項4】
BPA非感受性がん患者に用いられることを特徴とする請求項3に記載のホウ素中性子捕捉療法用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有葉酸誘導体、ホウ素含有アミノ酸誘導体、及び前記誘導体を含有するホウ素中性子捕捉療法用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、10Bへの熱中性子線の照射により発生するα線を利用してがん細胞を破壊する。この際、α線の飛距離は細胞一つ分に相当するため、10Bを含むホウ素薬剤をがん細胞特異的に集積できれば、正常組織を損傷させることなく、がん細胞を選択的に破壊できる。
【0003】
ホウ素薬剤としては、ホウ素クラスターであるメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)(Soloway, A et al., J. Med. Chem., 10, 714-717(1967) )とホウ素含有アミノ酸誘導体であるp-ボロノフェニルアラニン(BPA)(非特許文献1)が知られているが、腫瘍蓄積性が優れていることからBPAが主に用いられている。現在、BPAについては、脳腫瘍及び頭頸部癌の第2相臨床試験が進められている。
【0004】
しかし、ホウ素中性子捕捉療法治療対象となる患者のおよそ40%はこのBPAに非感受性であることから、新しいホウ素薬剤の開発が急務である。BPAはアミノ酸トランスポーター(LAT-1)により細胞に取り込まれているが、BPA非感受性がんはこのLAT-1の発現が低下している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mishima, Y et al., The Lancet, 334, 388-389 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BPAは40年ほど前に開発されたホウ素薬剤であるが、未だこれに代わるホウ素薬剤は開発されていない。このため、BPA非感受性のがん患者には、ホウ素中性子捕捉療法による治療を行うことができないのが現状である。
【0007】
本発明は、このような背景の下、BPAに代わる新しいホウ素薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、葉酸のプテロイル部分に水溶性ホウ素クラスターを結合させた化合物が、BPA非感受性のがん患者に対しても有効なホウ素中性子捕捉療法用ホウ素薬剤となり得ることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)~(10)を提供するものである。
(1)下記の一般式(I)
【化1】
〔式中、Rは存在しないか、又はアミノ酸の残基、ジアミンの残基、若しくはアミノアルコールの残基を表し、Lは存在しないか、又はリンカーを表し、Xは10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基を表す。〕
で表されることを特徴とするホウ素含有葉酸誘導体。
【0010】
(2)一般式(I)におけるRが、存在しないか、又はグルタミン酸の残基であることを特徴とする(1)に記載のホウ素含有葉酸誘導体。
【0011】
(3)一般式(I)におけるXが、クロソドデカボレートから誘導される基であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のホウ素含有葉酸誘導体。
【0012】
(4)一般式(I)におけるLが、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のホウ素含有葉酸誘導体。
【0013】
(5)下記の一般式(II)
【化2】
〔式中、Raはアミノ酸の残基を表し、Lは存在しないか、又はリンカーを表し、Xは10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基を表す。〕
で表されることを特徴とするホウ素含有アミノ酸誘導体。
【0014】
(6)一般式(II)におけるRaが、グルタミン酸の残基であることを特徴とする(5)に記載のホウ素含有アミノ酸誘導体。
【0015】
(7)一般式(II)におけるXが、クロソドデカボレートから誘導される基であることを特徴とする(5)又は(6)に記載のホウ素含有アミノ酸誘導体。
【0016】
(8)一般式(II)におけるLが、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であることを特徴とする(5)乃至(7)のいずれかに記載のホウ素含有アミノ酸誘導体。
【0017】
(9)(1)乃至(8)のいずれかに記載のホウ素含有葉酸誘導体又はホウ素含有アミノ酸誘導体を含有することを特徴とするホウ素中性子捕捉療法用組成物。
【0018】
(10)BPA非感受性がん患者に用いられることを特徴とする(9)に記載のホウ素中性子捕捉療法用組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、新規なホウ素含有葉酸誘導体、新規なホウ素含有アミノ酸誘導体、及び前記誘導体を含有するホウ素中性子捕捉療法用組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】細胞内取り込み試験の結果を示す図(MCF-7, HeLa, U87 : 100 ppm[B]投与、暴露時間 3 h)。
図2】(A)細胞内取り込み試験の結果を示す図(HeLa細胞vs A549 : 100 ppm[B]投与、暴露時間 3 h)、(B)各細胞の葉酸受容体の発現(参考文献4より転載)。
図3】HeLa細胞に対する投与濃度及び時間依存的な細胞内取り込み試験の結果を示す図。
図4】がん移植マウスの生体内ホウ素濃度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ホウ素含有葉酸誘導体
本発明のホウ素含有葉酸誘導体は、下記の一般式(I)
【化3】
で表されることを特徴とするものである。
【0022】
一般式(I)におけるRは、存在しないか、又はアミノ酸の残基、ジアミンの残基、若しくはアミノアルコールの残基を表す。ここで、「Rは存在しない」とは、Rに隣接する炭素原子(CO)と窒素原子(NH)が直接結合していることを意味する。
【0023】
アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基の両方を持つ化合物であればどのようなものでもよく、生体のタンパク質を構成するアミノ酸であることが好ましいが、それ以外のアミノ酸であってもよい。アミノ酸の具体例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンを挙げることができる。「アミノ酸の残基」とは、アミノ酸のアミノ基から1つの水素原子とカルボキシル基からヒドロキシ基が除かれた二価の基を意味する。アミノ酸の残基は、通常、アミノ基側がRに隣接する炭素原子と結合し、カルボキシル基側がRに隣接する窒素原子と結合する。
【0024】
ジアミンは、アミノ基を二つ持つ化合物であればどのようなものでもよく、エチレンジアミン、プトレシン、カダベリンなどを具体例として挙げることができる。「ジアミンの残基」とは、ジアミンの二つのアミノ基からそれぞれ1つの水素原子が除かれた二価の基を意味する。
【0025】
アミノアルコールは、アミノ基とヒドロキシ基の両方を含む化合物であればどのようなものでもよく、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミンなどを具体例として挙げることができる。「アミノアルコールの残基」とは、アミノアルコールのアミノ基から1つの水素原子とヒドロキシ基が除かれた二価の基を意味する。アミノアルコールの残基は、通常、アミノ基側がRに隣接する炭素原子と結合し、ヒドロキシ基側がRに隣接する窒素原子と結合する。
【0026】
一般式(I)におけるRは、存在しないか、又はアミノ酸の残基、ジアミンの残基、若しくはアミノアルコールの残基であればよいが、好ましくは、存在しないか、又はグルタミン酸の残基、グリシンの残基、アラニンの残基、セリンの残基、若しくはチロシンの残基であり、より好ましくは、存在しないか、又はグルタミン酸の残基である。
【0027】
一般式(I)におけるLは、存在しないか、又はリンカーを表す。ここで、「Lは存在しない」とは、Lに隣接する窒素原子(NH)とXが直接結合していることを意味する。リンカーは、葉酸のプテロイル部分とホウ素クラスターとの距離を確保できるものであればどのようなものでもよいが、アルキレン基であることが好ましい。但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。アルキレン基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3~20であり、より好ましくは、5~15である。なお、アルキレン基中の-CH2-を、-O-、-S-、又は-NH-で置換した場合も、これらの基は1つの炭素を持つものとして、前記した「アルキレン基の炭素数」に含める。
【0028】
一般式(I)におけるLは、存在しないか、又はリンカーであればよいが、好ましくは、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であり、より好ましくは、-CH2-CH2-O-、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、又は-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-であり、更に好ましくは、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-である。
【0029】
一般式(I)におけるXは、10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基を表す。ホウ素クラスターは、ホウ素中性子捕捉療法に用いることができる多面体構造のものであればどのようなものでもよい。ホウ素クラスターは、水溶性のものである必要がある。水溶性ホウ素クラスターの具体例としては、クロソドデカボレート([B12H12]2-)、イオン性クロソカルボラン([CB11H12]-)、ニドカルボラン([C2B9H11]-)、GB10([B10H12]2-)などを挙げることができる。ホウ素クラスター中に含まれるホウ素原子は、すべて10Bであってもよいが、一部のみが10Bであってもよい。「水溶性ホウ素クラスターから誘導される基」とは、例えば、水溶性ホウ素クラスター中の一つの水素原子を除去することによって誘導される基を意味する。
【0030】
一般式(I)におけるXは、10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基であればよいが、好ましくは、10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基、10Bを含有するイオン性クロソカルボランから誘導される基、10Bを含有するニドカルボランから誘導される基、又は10Bを含有するGB10から誘導される基であり、より好ましくは、10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基である。
【0031】
本発明のホウ素含有葉酸誘導体の具体例としては、実施例に記載したPBC1(Rは存在しない、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、PBC2(Rはグルタミン酸の残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、PBC3(Rはグリシンの残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、PBC4(Rはアラニンの残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、PBC5(Rは存在しない、Lは存在しない、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)を挙げることができる。これらのホウ素含有葉酸誘導体の中でも、葉酸受容体を介した取り込み量が多い点や水に溶けやすい点などから、PBC1及びPBC2を好ましいホウ素含有葉酸誘導体として挙げることができる。
【0032】
本発明のホウ素含有葉酸誘導体は、実施例に記載された方法に従って、あるいはその記述を参照しつつそれらの方法に適宜に改変や修飾を加えた方法に従って合成することができる。例えば、リンカーを結合させた又は結合させない水溶性ホウ素クラスターを、プテロイルアジドと結合させることにより合成できる。また、リンカーを結合させた又は結合させない水溶性ホウ素クラスターを、一般式(I)におけるRに相当するアミノ酸などと結合させ、これをプテロイルアジドと結合させることによっても合成できる。
【0033】
(2)ホウ素含有アミノ酸誘導体
本発明のホウ素含有アミノ酸誘導体は、下記の一般式(II)
【化4】
で表されることを特徴とするものである。本発明のホウ素含有アミノ酸誘導体は、本発明のホウ素含有葉酸誘導体の合成中間体である。
【0034】
一般式(II)におけるRaは、アミノ酸の残基を表す。アミノ酸の意味は、一般式(I)で表されるホウ素含有葉酸誘導体における意味と同じである。「アミノ酸の残基」の意味は、一般式(I)で表されるホウ素含有葉酸誘導体における意味とは異なり、アミノ酸のアミノ基から1つの水素原子又はカルボキシル基からヒドロキシ基が除かれた一価の基を意味する。アミノ酸の残基は、通常、カルボキシル基側がRaに隣接する窒素原子と結合する。
【0035】
一般式(II)におけるRaは、アミノ酸の残基であればよいが、好ましくは、グルタミン酸の残基、グリシンの残基、アラニンの残基、セリンの残基、若しくはチロシンの残基であり、より好ましくは、グルタミン酸の残基である。
【0036】
一般式(II)におけるLは、存在しないか、又はリンカーを表す。「Lは存在しない」及びリンカーの意味は、一般式(I)で表されるホウ素含有葉酸誘導体における意味と同じである。
【0037】
一般式(II)におけるLは、存在しないか、又はリンカーであればよいが、好ましくは、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であり、より好ましくは、-CH2-CH2-O-、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、又は-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-であり、更に好ましくは、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-である。
【0038】
一般式(II)におけるXは、10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基を表す。水溶性ホウ素クラスターから誘導される基の意味は、一般式(I)で表されるホウ素含有葉酸誘導体における意味と同じである。
【0039】
一般式(II)におけるXは、10Bを含有する水溶性ホウ素クラスターから誘導される基であればよいが、好ましくは、10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基、10Bを含有するイオン性クロソカルボランから誘導される基、10Bを含有するニドカルボランから誘導される基、又は10Bを含有するGB10から誘導される基であり、より好ましくは、10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基である。
【0040】
本発明のホウ素含有アミノ酸誘導体の具体例としては、実施例に記載した化合物5(Raはグルタミン酸の残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、化合物8(Raはグリシンの残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)、化合物11(Raはアラニンの残基、Lは-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-、Xは10Bを含有するクロソドデカボレートから誘導される基)を挙げることができる。
【0041】
本発明のホウ素含有アミノ酸誘導体は、実施例に記載された方法に従って、あるいはその記述を参照しつつそれらの方法に適宜に改変や修飾を加えた方法に従って合成することができる。例えば、リンカーを結合させた又は結合させない水溶性ホウ素クラスターを、一般式(II)におけるRaに相当するアミノ酸と結合させることによって合成できる。
【0042】
(3)ホウ素中性子捕捉療法用組成物
本発明のホウ素中性子捕捉療法用組成物は、上記のホウ素含有葉酸誘導体又はホウ素含有アミノ酸誘導体を含有することを特徴とするものである。
【0043】
本発明のホウ素中性子捕捉療法用組成物は、ホウ素中性子捕捉療法に用いるためのものである。即ち、この組成物をヒト又はヒト以外の動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)に投与し、その後、低エネルギー熱中性子を照射し、それにより腫瘍細胞を選択的に破壊する。
【0044】
治療対象とする疾患としては、悪性腫瘍、例えば、脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部癌、肺癌、肝癌、甲状腺癌、皮膚癌、膀胱癌、中皮腫、膵癌、乳癌、髄膜腫、肉腫などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0045】
治療対象とする患者は特に限定されないが、BPA非感受性の患者を対象とすることが好ましい。ここで、「BPA非感受性の患者」とは、腫瘍細胞へのBPAの集積量が少ない者をいう。通常、BPAによるホウ素中性子捕捉療法を行う前に18F-BPAを用いたPET診断を行い、腫瘍細胞へのBPAの集積量を推定するが、このPET診断で、腫瘍/正常組織比、腫瘍/血中濃度比が2.5(あるいは3)以上ある患者に対して、ホウ素中性子捕捉療法を行うことが望ましいとされている。従って、本発明においては、上記PET診断で、腫瘍/正常組織比、腫瘍/血中濃度比のいずれか一方、又は両方が3未満、又は2.5未満である患者を「BPA非感受性の患者」とすることができる。
【0046】
本発明のホウ素中性子捕捉療法用組成物は、公知の方法に従い薬学的に許容される担体又は希釈剤と混合することにより、製剤化することができる。剤型は特に限定されず、注射剤、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、坐剤、徐放剤などとすることができる。投与方法も特に限定されず、経口的又は非経口的(皮内、腹腔内、静脈、動脈、又は脊髄液への注射又は点滴等による投与)に投与することができる。投与量は、投与対象、投与方法などにより異なるが、例えば、成人に対して、注射剤としてホウ素含有葉酸誘導体を投与する場合、1回当たり、ホウ素含有葉酸誘導体が5~1000mg/kgとなるように1度の治療に1~数回に分けて投与することができる。
【0047】
本発明のホウ素含有葉酸誘導体は、下記のような性質を有することから、ホウ素中性子捕捉療法用組成物(ホウ素中性子捕捉療法用ホウ素薬剤)として有用である。
【0048】
1)LAT-1の発現が低下している細胞にも取り込まれる。
BSHは腫瘍集積性が不十分であることから、現在ホウ素中性子捕捉療法において実質的に使用可能なホウ素薬剤はBPAだけである。このため、現時点では、BPA非感受性がんに対してホウ素中性子捕捉療法を行うことができない。BPAはLAT-1により細胞に取り込まれているが、BPA非感受性がんはこのLAT-1の発現が低下している。本発明のホウ素含有葉酸誘導体は、LAT-1ではなく、葉酸受容体を介して細胞内に取り込まれるので、BPA非感受性のがん細胞に大量に送達することが可能である。
【0049】
2)水溶性である。
ホウ素中性子捕捉療法では、大量のホウ素薬剤を投与するので、ホウ素薬剤は水に溶け易いことが必要である。本発明のホウ素含有葉酸誘導体は水溶性であり、このような条件を満たしている。
【0050】
3)細胞毒性が低い。
細胞毒性が低いため、副作用などの問題も起き難いと考えられる。
【0051】
4)1分子当たりのホウ素含有量が多い。
BPAとは異なり、複数のホウ素原子を有しているので、大量のホウ素原子を細胞に送達することが可能である。
【0052】
また、本発明のホウ素含有アミノ酸誘導体も、上記の性質を有すると考えられることから、ホウ素中性子捕捉療法用組成物として有用である。
【実施例
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕 ホウ素含有葉酸誘導体の合成
<PBC1の合成>
【化5】
プテロイルアジドは、参考文献1の方法に従って合成した。また、ビス(テトラブチルアンモニウム)(4-アミノエトキシ-エトキシ)-クロソドデカボレート(化合物1)は、参考文献2、3の方法に従って合成した。
【0055】
プテロイルアジド(96mg、0.29mmol)及びビス(テトラブチルアンモニウム)(4-アミノエトキシ-エトキシ)-クロソドデカボレート(化合物1、129mg、0.18mmol)を、DMSO (3mL)に溶解し、次いで、DBU (80μL)を添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。得られた混合物にEt2Oを加えて黄色懸濁液を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した。減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに、黄色がかったオレンジ色の固体(PBC1・salts)として粗混合物が得られた(なお、ここでいうsaltsとは、DBUの塩あるいはTBA塩、あるいはその両方の混合塩を指す)。
【0056】
【化6】
【0057】
DMSO(0.7mL)に溶解した粗生成物(PBC1・salts、100mg、0.12mmol)に、MeOH (2mL)中の塩化テトラメチルアンモニウム(1.0mmol、10当量)を滴下した。15時間攪拌し、粗生成物をEtOH/MeOH (1:1)に注ぎ、黄色固体を沈殿させた。固体をろ過し、減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに粗生成物(PBC1・2TMA+)を得た。
【0058】
【化7】
【0059】
H2O(150mL)に溶解した粗生成物(PBC1・2TMA+、125.3mg)を、イオン交換樹脂(Amberlite)を用いて、カウンターカチオンTMA+をNa+に交換した。24時間撹拌し、得られた溶液をセライトで濾過し、続いてCH2Cl2(×2)及びAcOEtで抽出した。 水層を蒸発させ、凍結乾燥させ、PBC1・2Na+を褐色固体として得た。 1H-NMR (400 MHz, D2O): δ3.55 (t, 2H), 3.66 (m, 4H), 3.70 (m, 2H), 4.62 (s, 2H), 6.82 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 7.66 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 8.64(s, 1H); 11B-NMR (125 MHz, D2O): δ-23.32, -18.29, -16.38, 6.53.
【0060】
<PBC2の合成>
(2)化合物5の合成
【化8】
【0061】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI、201mg、1.1mmol)を、20mL丸底フラスコ中のビス(テトラブチルアンモニウム)(4-アミノエトキシ-エトキシ)-クロソドデカボレート(化合物1、500mg、0.70mmol)、1-ベンジルN-(tert-ブトキシカルボニル)-L-グルタミン酸塩(化合物2、283mg、0.84mmol)、DMAP(128mg、1.1mmol)及びTEA(175μL、1.1mmol)の無水CH2Cl2溶液に、0℃で加えた。3時間攪拌し、混合物を20mLのH2Oで希釈し、飽和NaCl水溶液で3回洗浄した。有機濾液を、無水MgSO4を用いて乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。生成物をシリカゲル(CH2Cl2:MeOH=15:1)で精製し、減圧下で蒸発乾燥させることにより無色の油状物(化合物3、298mg、68%)を得た。1H-NMR(400 MHz, CDCl3): δ0.98 (t, 24H), 1.41-1.47 (m, 16H), 1.58-1.66 (m, 16H), 1.87 (s, 2H), 2.06-2.09 (m, 2H), 2.41-2.43 (m, 2H), 3.23 (t,16H), 3.39 (d, 2H), 3.65 (d, 2H), 3.66 (s, 9H), 3.77 (s, 2H), 4.19 (s, 1H), 5.30 (s, 2H), 7.30-7.35 (m, 5H)
【0062】
【化9】
【0063】
0.5mLのMeOH中のベンジル基を有する化合物3を、Pd/C触媒水素添加により脱保護した。反応容器にゴム製セプタムを取り付け、排気し、アルゴンで逆充填し、H2ガスで満たした。6時間撹拌し、触媒を濾過し、濾液を蒸発乾固させた。得られた無色油状物(化合物4)をさらに精製することなく次の脱保護工程に付した。
【0064】
【化10】
【0065】
CH2Cl2に溶解した化合物4の溶液に、0℃で5時間撹拌しながら、TFA(0.1mL、10当量)を加えた。溶媒を蒸発させ、減圧下で乾燥させて白色固体(化合物5)を得た。
【0066】
(2)PBC2の合成
【化11】
【0067】
プテロイルアジド(98mg、0.29mmol)及び化合物5(250mg、0.29mmol)をDMSO(2mL)に溶解し、DBU(130μL)を加えた。反応混合物を室温で一晩撹拌した。得られた混合物にEt2Oを加えて黄色の懸濁液を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した。減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに、黄色がかったオレンジ色の固体(PBC2・salts)として粗混合物が得られた。
【0068】
【化12】
【0069】
DMSO(4mL)に溶解した粗生成物(PBC2・salts、0.29mmol)に、MeOH(3mL)中の塩化テトラメチルアンモニウム(1.16mmol、4当量)を滴下した。15時間攪拌し、粗生成物をEtOH/MeOH(1:1)に注ぎ、黄色固体を沈殿させた。固体をろ過し、減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに粗生成物(PBC2・2TMA+)を得た。
【0070】
【化13】
【0071】
H2O(150mL)に溶解した粗生成物(PBC2・2TMA+、0.29mmol)を、イオン交換樹脂(Amberlite)を用いて、カウンターカチオンTMA+をNa+に交換した。24時間撹拌し、得られた溶液をセライトで濾過し、続いてCH2Cl2(×2)及びAcOEtで抽出した。水層を蒸発させ、凍結乾燥させ、PBC2・2Na+(111mg、3工程53%)を褐色固体として得た。1H-NMR (500 MHz, D2O) : δ2.09-2.40 (m, 6H), 3.14-3.61 (m, 12H), 4.51 (d, 1H), 6.80-6.86 (m, 3H), 7.68 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 8.62 (s, 1H); 11B-NMR (125 MHz, D2O): δ-22.64, -18.68, -17.66, 4.23.
【0072】
<PBC3の合成>
(1)化合物8の合成
【化14】
【0073】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI、40.2mg、1.5当量)を、1.5mL丸底フラスコ中のビス(テトラブチルアンモニウム)(4-アミノエトキシ-エトキシ)-クロソドデカボレート(化合物1、100mg、0.14mmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-グリシン(化合物6、29.4mg、0.168mmol)、DMAP(25.6mg、1.5当量)及びTEA(29.4μL、1.5当量)の無水CH2Cl2溶液に、0℃で加えた。混合物を20mLのH2Oで希釈し、飽和NaCl水溶液で3回洗浄した。有機濾液を、無水MgSO4を用いて乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。生成物をシリカゲル(CH2Cl2:MeOH=10:1)で精製し、減圧下で蒸発乾燥させることにより、無色の油状物(化合物7、95.7mg、78%)を得た。1H-NMR(400 MHz, CD3CN): δ0.98 (t, 24H), 1.31-1.39 (m, 16H), 1.42 (s, 9H), 1.57-1.63 (m, 16H), 3.07 (t,16H), 3.27-3.57 (m, 10H), 5.71 (s, 1H), 7.38 (s, 1H)
【0074】
【化15】
【0075】
TFA(127μL、15当量)を、CH2Cl2に溶解した化合物7の溶液に、0℃で一晩撹拌しながら添加した。溶媒を蒸発させ、減圧下で乾燥させて固体(化合物8)を得た。得られた無色固体(化合物8)をさらに精製することなく次のイオン交換工程に付した。
【0076】
(2)PBC3の合成
【化16】
【0077】
プテロイルアジド(48.8mg、0.14mmol)及び化合物8(103.5mg、0.13mmol)をDMSO(0.7mL)に溶解し、DBU(58.9μL、3当量)を加えた。反応混合物を室温で5時間撹拌した。得られた混合物にMeCNを加えて黄色懸濁液を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した。得られた沈殿物を、遠心分離を用いてEt2Oで洗浄した。減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに、黄色がかったオレンジ色の油状の溶液(PBC3・salts)として粗混合物が得られた。
【0078】
【化17】
【0079】
DMSO(500μL)に溶解した粗生成物に、MeOH(500μL)中の塩化テトラメチルアンモニウム(0.53mmol、4当量)を滴下した。2時間撹拌し、粗生成物をEtOH/MeOH(1:1)に注ぎ、赤褐色の固体を沈殿させた。遠心分離により固体を回収し、減圧下で乾燥させた。粗生成物(PBC3・2TMA+)を他の精製なしに得た。
【0080】
【化18】
【0081】
H2O(150mL)に溶解した粗生成物(PBC3・2TMA+)を、イオン交換樹脂(Amberlite)を用いてカウンターカチオンTMA+をNa+に交換した。24時間攪拌し、得られた溶液をガラスフィルター及びセライトで濾過し、続いてCH2Cl2(×2)及びAcOEtで抽出した。水層を蒸発させ、凍結乾燥し、PBC3・2Na+を褐色固体として得た(50.0mg、3段階38%)。1H-NMR (400 MHz, D2O): δ3.43-3.616 (m, 8H), 4.08 (s, 2H), 4.66 (s, 2H), 6.88 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 7.73 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 8.66(s, 1H).
【0082】
<PBC4の合成>
【化19】
【0083】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI、80.4mg、1.5当量)を、1.5mL丸底フラスコ中のビス(テトラブチルアンモニウム)(4-アミノエトキシ-エトキシ)-クロソドデカボレート(化合物1、200mg、0.28mmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-アラニン(化合物9、106.2mg、2当量)、DMAP(51.2mg、1.5当量)及びTEA(58.8μL、3当量)の無水CH2Cl2溶液に、0℃で加えた。混合物を20mLのH2Oで希釈し、飽和NaCl水溶液で3回洗浄した。有機濾液を、無水MgSO4を用いて乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。生成物をシリカゲル(CH2Cl2:MeOH=15:1~10:1)で精製し、減圧下で蒸発乾燥させることにより、無色油状物(化合物10、197mg、80%)を得た。1H-NMR(400 MHz, CD3CN): 0.98 (t, 24H), 1.31-1.39 (m, 16H), 1.42 (s, 9H), 1.57-1.63 (m, 16H), 3.07 (t,16H), 3.27-3.57 (m, 10H), 5.71 (s, 1H), 7.38 (s, 1H)
【0084】
【化20】
【0085】
0℃で3時間撹拌しながら、CH2Cl2に溶解した化合物10の溶液にTFA(151μL、15当量)を加えた。溶媒を蒸発させ、減圧下で乾燥させて固体(化合物11)を得た。得られた無色固体(化合物11)をさらに精製することなく次のイオン交換工程に付した。
【0086】
【化21】
【0087】
プテロイルアジド(75.0mg、0.24mmol)及び化合物11(250mg、0.22mmol)をDMSO(0.7mL)に溶解し、DBU(99.6μL、3当量)を添加した。反応混合物を室温で5時間撹拌した。得られた混合物にMeCNを加えて黄色懸濁液を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した。得られた沈殿物を、遠心分離を用いてEt2Oで洗浄した。減圧下で乾燥させることにより、黄色がかったオレンジ色の油状の溶液(PBC4・salts)として粗混合物が得られた。
【0088】
【化22】
【0089】
DMSO(500μL)に溶解した粗生成物に、MeOH(500μL)中の塩化テトラメチルアンモニウム(0.89mmol、4当量)を滴下した。 2時間撹拌し、粗生成物をEtOH/MeOH(1:1)に注ぎ、赤褐色の固体を沈殿させた。遠心分離により固体を回収し、減圧下で乾燥させた。粗生成物(PBC4・2TMA+)は他の精製なしに得られた。
【0090】
【化23】
【0091】
H2O(150mL)に溶解した粗生成物(PBC4・2TMA+)を、イオン交換樹脂(Amberlite)を用いて、カウンターカチオンTMA+をNa+に交換した。24時間攪拌し、得られた溶液をガラスフィルター及びセライトで濾過し、続いてCH2Cl2(×2)及びAcOEtで抽出した。水層を蒸発させ、凍結乾燥させ、PBC4・2Na+を褐色固体として得た(108.0mg、3段階57%)。1H-NMR (400 MHz, D2O): δ3.43-3.616 (m, 8H), 4.08 (s, 2H), 4.66 (s, 2H), 6.88 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 7.73 (d, J = 8.5 MHz, 2H), 8.66(s, 1H).
【0092】
<PBC5の合成>
【化24】
【0093】
プテロイルアジド(174.2mg、0.52mmol)及びクロソドデカボレート(化合物12、100mg、0.43mmol)をDMSO(2.5mL)に溶解し、DBU(193μL)を加えた。反応混合物を室温で8時間撹拌した。得られた混合物にEt2Oを加えて黄色の懸濁液を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した。減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに、茶色の固体(PBC5・salts)として粗混合物が得られた。
【0094】
【化25】
【0095】
DMSO(2mL)に溶解した粗生成物(PBC5・salts)に、MeOH(4mL)中の塩化テトラメチルアンモニウム(188mg、1.7mmol、4当量)を滴下した。15時間攪拌し、粗生成物をEtOH/MeOH(1:1)に注ぎ、黄色固体を沈殿させた。固体をろ過し、減圧下で乾燥させることにより、他の精製を行わずに粗生成物(PBC5・2TMA+)を得た。1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6):δ3.16 (s, 24H), 4.35-4.56 (m, 2H), 5.57 (s, 1H), 6.62 (d, J = 7.2 Hz 2H), 7.63 (d, J = 7.2 Hz 2H), 8.57 (s, 1H); 11B-NMR (125 MHz, DMSO): δ-18.73, -15.82, -6.29
【0096】
〔実施例2〕 細胞毒性評価(MTT assay)
100Φディッシュ内のHeLa細胞に、EDTA及び1640 RPMI培地(10%FBS及び1%PSを含む)を添加した。HeLa細胞を50mlチューブ中で、1500rpmで3分間遠心分離し、培地を除去し、細胞を1mlあたり50,000細胞になるように希釈した。細胞の希釈には、完全培地を使用した。次に、100μlの細胞(5,000個の細胞)を各ウェルに添加し、一晩インキュベートした。HeLa細胞を、化合物(PBC1、 PBC2、 PBC3、及び PBC4)を溶かした培地で3日間処理した。次に、HeLa細胞に、10μlの5mg/ml MTTを添加し、37℃で2時間インキュベートした。MTTを含むが細胞を含まない1組のウェルについても同様にインキュベートし、コントロールとした。培地を除去した後、100μLのDMSOを各ウェルに加え、620nmのレファレンスフィルターを用いて590nmの吸光度を読み取った。この吸光度から細胞の生存率を求め、IC50を算出した。HeLa細胞の代わりに、U-87細胞及びHCT116細胞を用い、同様にIC50を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0097】
表1に示すように、実験に用いた化合物の細胞毒性は、いずれのがん細胞に対しても低かった。
【0098】
〔実施例3〕 細胞取り込み実験
合成したホウ素含有葉酸誘導体に対し、細胞を用いた薬剤の細胞取り込み試験を実施した。用いる細胞は、葉酸受容体が高発現しているMCF-7細胞ならびにHeLa細胞、LAT-1の発現が少なくL-BPA(L-p-ボロノフェニルアラニン)に非感受性のヒト脳腫瘍由来細胞U-87細胞、及び葉酸受容体の発現が少ないA549細胞を使用した。実験条件は、暴露時間を3時間、暴露濃度を100 ppmBで固定し、細胞に薬剤を暴露させた後、ICPにより細胞に取り込まれたホウ素濃度を測定した。また、L-BPAを比較対象に用いた。暴露後はPBSで三回洗浄した後、HClO4/H-2O2=1/2の溶液で70℃, 2 hの条件で灰化を行い、得られた溶液をMilli Q水で5 mLまでメスアップしてICPによりホウ素濃度を測定した。
【0099】
図1に結果を示す。MCF-7に関してはHeLaと同じような取り込み傾向が見られた。U-87に関しては、いずれのPBCにおいてもL-BPAよりも高い薬剤の取り込みが見られた。他の細胞と比較して、PBCがL-BPAよりも取り込み量に差が現れた原因としては、U-87でのLAT-1の発現量が少ないことが原因と考えられる(図2(B)、参考文献4 )。また、図2(A)に示すように、葉酸受容体の発現が少ないA549細胞に対しては、L-BPA及びPBC3,4の取り込み量はあまり変わらないものの、PBC1,2では顕著に取り込み量が減少したことから、PBC1,2は葉酸受容体を介して取り込まれていることが示唆された。
【0100】
〔実施例4〕 HeLa細胞に対する投与濃度及び時間依存的な細胞内取り込み試験
培地中のPBC1、PBC2、PBC3、PBC4、BSH又はL-BPA(ソルビトール溶液中10%v/w)から各PBC、BSH又はL-BPA溶液(300ppm [B])を調製した。Hela細胞を、1×106細胞/ディッシュの密度で、6ウェルプレート内の培地(1mL)で、5%CO2インキュベーター内で、37℃で24時間培養し、次いで培地を除去し、上記の薬剤溶液で1、3、又は12時間処理した。培地を除去し、細胞を3×PBSで洗浄し、ゴム製器具で集め、60%HClO4と30%H2O2の混合溶媒(1:2 v/v)に70℃で2時間溶解した。疎水性フィルターでろ過した後、得られた溶液のホウ素濃度をICP-OESで測定した。その結果を図3に示した。
【0101】
図3に示すように、実施例3の結果と同様、PBC3とL-BPAの取り込み量が多かった。但し、PBC3は、葉酸受容体の発現が少ないA549においても取り込み量があまり減少しないこと、及び親水性が低く、細胞膜透過性が高いと考えられることから、葉酸受容体を介さずに細胞内に取り込まれた可能性がある。
【0102】
〔実施例5〕 がん移植マウスにおける生体内ホウ素濃度分布
細胞試験系において良好な結果が見られたPBC1及びPBC3に対して、マウス大腸がん細胞であるCT26細胞を移植したマウスを用いて臓器別のホウ素濃度を測定した。コントロールには、臨床応用されているL-BPA・フルクトース錯体を用いた。
【0103】
今回の試験では、PBC3の溶解度が高くないことから、各薬剤を1500ppmBで調整した。各薬剤を200μLでCT26細胞を移植したマウスの尾静脈に投与し、1.5、3、6時間で各臓器を分画し、ICPにより濃度を測定した。その結果を図4に示した。また、実験方法の詳細は以下の通りである。
【0104】
CT26細胞の懸濁液(1.0×106細胞/50μlPBS /マウス)を皮下注射することにより、腫瘍を有するBALB/cマウス(雌、5~6週齢)を調製した。マウスを通常の食餌及び水で1週間維持した。腫瘍を有するマウスに、MilliQに溶解したPBC1、PBC3又はL-BPA-フルクトース複合溶液200μlを、1500ppmBで腹腔内注射した。1.5時間、3時間又は6時間後、マウスを軽く麻酔し、心臓からの血液サンプルを採取した。次いで、マウスを頸椎脱臼により犠牲にし、解剖した。 肝臓、脾臓、腎臓、脳及び腫瘍を切除し、生理食塩水で洗浄し、重量を測定した。各組織を1mLのHNO3を用いて90℃で3時間消化し、消化した試料を蒸留水で希釈した。疎水性フィルターで濾過した後、ホウ素濃度をICP-OESで測定した。
【0105】
図4に示すように、がん移植マウスにおいて、PBC1の能動的な取り込みが確認できた。一方、細胞取り込み実験では、多量の取り込みが確認されたPBC3は、がん移植マウスの腫瘍への取り込み量はあまり多くなかった。
【0106】
〔参考文献〕
参考文献1: P. L. Fuchs et al., J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 10003-10014.
参考文献2:V. I. Bregadze et al., Appl. Organometal. Chem. 2007, 21, 98-100.
参考文献3:I. B. Sivaev et al., J. Organometal. Chem., 2008, 693, 519-525.
参考文献4:S. Youland et al., J Neurooncol. 2013, 111, 11-18
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、医薬品として利用可能な化合物に関するものなので、医薬品に関連する産業分野において利用可能である。
図1
図2
図3
図4