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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】電子デバイスの評価方法および評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20221011BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20221011BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20221011BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20221011BHJP
   G01N 23/06 20180101ALI20221011BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01N23/04 330
H01L21/66 J
G01N23/046
G01N23/2252
G01N23/06
H01J37/22 502H
H01J37/22 501J
H01J37/22 501Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018055270
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019168298
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 正昭
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】木村 耕輔
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-022296(JP,A)
【文献】特開2004-349574(JP,A)
【文献】特開2017-026612(JP,A)
【文献】特開2016-103387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0284744(US,A1)
【文献】HWANG,K. et al.,Advanced Characterization of Nanoscale Bridge in Magnetic Tunnel Junction by 3-dimensional EDS Tomography,Microscopy and Microanalysis,2013年,Volume 19,Issue S2,pp.1852-1853,doi:10.1017/S1431927613011252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01L 21/64 - H01L 21/66
H01J 37/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極、強磁性体で形成された参照層、トンネル障壁絶縁膜、強磁性体で形成された記録層、および上部電極が順に積層された電子デバイスの評価方法において、
前記トンネル障壁絶縁膜を有する試料を作製する試料作製工程と、
前記試料に対して複数の角度から電子線を照射して複数の画像を取得する画像取得工程と、
前記複数の画像を用いて画像処理を行うことにより、前記試料の立体像を再構成し、前記立体像から前記試料の断面像を生成する画像処理工程とをし、
前記画像処理工程は、前記断面像として、前記トンネル障壁絶縁膜の水平断面像を生成し、前記水平断面像の濃淡によって、前記参照層と前記トンネル障壁絶縁膜との間の界面および/または前記トンネル障壁絶縁膜と前記記録層との間の界面の凹凸を評価する
ことを特徴とする電子デバイスの評価方法。
【請求項2】
前記試料には、前記記録層と前記参照層を短絡させる導電性異物と、前記トンネル障壁絶縁膜の結晶性を劣化させる絶縁性異物との少なくともいずれかが付着していることを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項3】
前記画像取得工程は、前記複数の画像を透過型電子顕微鏡により取得することを特徴とする請求項1または2に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項4】
前記透過型電子顕微鏡として走査型透過電子顕微鏡を用いることを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項5】
前記画像処理工程は、トモグラフィー法を用いて前記断面像を生成することを特徴とする請求項1~のうちいずれか1項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項6】
前記電子線が照射された前記試料の元素分析を行う元素分析工程を有し、
前記画像処理工程は、前記元素分析の結果を用いて元素マッピング像を生成することを特徴とする請求項1~のうちいずれか1項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項7】
前記元素分析工程は、エネルギー分散型X線分光により前記元素分析を行うことを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項8】
前記元素分析工程は、電子エネルギー損失分光により前記元素分析を行うことを特徴とする請求項またはに記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項9】
前記試料には、エッチング処理により生じたダメージ層が形成されていることを特徴とする請求項1~のうちいずれか1項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項10】
前記水平断面像により、さらに、前記ダメージを評価することを特徴とする請求項に記載の電子デバイスの評価方法。
【請求項11】
下部電極、強磁性体で形成された参照層、トンネル障壁絶縁膜、強磁性体で形成された記録層、および上部電極が順に積層された電子デバイスの評価装置において、
前記トンネル障壁絶縁膜を有する試料に対して複数の角度から電子線を出力する電子源と、
前記試料を透過した前記電子線を検出することにより複数の画像を取得する画像取得部と、
前記複数の画像から前記試料の立体像を再構成し、前記立体像から前記試料の断面像を生成する画像処理部と、
を備え
前記画像処理部は、前記断面像として、前記トンネル障壁絶縁膜の水平断面像を生成し、前記水平断面像の濃淡によって、前記参照層と前記トンネル障壁絶縁膜との間の界面および/または前記トンネル障壁絶縁膜と前記記録層との間の界面の凹凸を評価する
ことを特徴とする電子デバイスの評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン注入磁化反転(Spin Transfer Torque)を利用した抵抗変化型メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory)、すなわちSTT-MRAMを搭載したメモリが次世代の不揮発性記憶素子として量産されつつある。STT-MRAMに用いられる記憶用の電子デバイスとして、例えば、磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction)素子(以下、MTJ素子と称する)が知られている。MTJ素子は、参照層と記録層の間にトンネル障壁絶縁膜が設けられた構成を有する。MTJ素子の製造プロセスでは、ウェハ上に、下部電極、参照層、トンネル障壁絶縁膜、記録層、および、上部電極を順に積層し、エッチング処理によって所定の形状に加工し、その後、層間絶縁膜、コンタクト、配線の形成等が行われる。
【0003】
MTJ素子は、製造工程における、参照層と記録層を短絡させる導電性の異物(以下、導電性異物と称する)やトンネル障壁絶縁膜の結晶性を劣化させる絶縁性の異物(以下、絶縁性異物と称する)の発生、エッチングダメージ、および、下部電極の凹凸に起因するトンネル障壁絶縁膜の表面の凹凸によるトンネル障壁絶縁膜の絶縁特性低下により、不良が発生する場合がある。このような不良の解析手法として、非特許文献1に記載されるように、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置を用いてMTJ素子をトンネル障壁絶縁膜の膜面と垂直な方向に薄片加工して試料を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて試料の垂直断面像を観察する方法がある。
【0004】
また、特許文献1に記載されるように、MTJ素子のインピーダンスを測定することにより、下部電極の表面の平坦性を推定し、不良の原因を解析する手法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-073907号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yuichi Ohsawa, Naoharu Shimomura, Tadaomi Daibou, Yuzo Kamiguchi, Satoshi Shirotori, Tomoaki Inokuchi, Daisuke Saida, Buyandalai Altansargai, Yushi Kato, Hiroaki Yoda, Tadakatsu Ohkubo, Kazuhiro Hono, “Precise damage observation in ion-beam etched MTJ”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL, 52, NO. 7, JULY 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載される不良の解析手法は、トンネル障壁絶縁膜の部分を水平に薄片加工して水平断面を切り出すことが難しいので、トンネル障壁絶縁膜の凹凸を全面に渡って確認することが困難である。また、非特許文献1の不良の解析手法では、断面の位置が異なる複数の試料を作製する必要があるので、異物箇所を唯一的に特定することができない。特許文献1に記載される不良の解析手法は、異物の位置、エッチングダメージ、および、トンネル障壁絶縁膜の凹凸を確認することができない。このため、非特許文献1および特許文献1に記載される不良の解析手法では、トンネル障壁絶縁膜の絶縁特性を低下させる原因を特定することが難しいので、電子デバイスの品質を正確に評価するには不十分である。特に、MTJ素子では、粒界を有する多結晶上にトンネル障壁絶縁膜を形成するため、トンネル障壁絶縁膜の凹凸が絶縁特性に及ぼす影響が大きいものとなっている。
【0008】
本発明は、電子デバイスの品質を正確に評価することができる電子デバイスの評価方法および評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子デバイスの評価方法は、一対の電極層の間に絶縁膜が設けられた電子デバイスの評価方法において、前記絶縁膜を有する試料を作製する試料作製工程と、前記試料に対して複数の角度から電子線を照射して複数の画像を取得する画像取得工程と、前記複数の画像を用いて画像処理を行うことにより、前記試料の立体像を再構成し、前記立体像から前記試料の断面像を生成する画像処理工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の電子デバイスの評価装置は、一対の電極層の間に絶縁膜が設けられた電子デバイスの評価装置において、前記絶縁膜を有する試料に対して複数の角度から電子線を出力する電子源と、前記試料を透過した前記電子線を検出することにより複数の画像を取得する画像取得部と、前記複数の画像から前記試料の立体像を再構成し、前記立体像から前記試料の断面像を生成する画像処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料の立体像から試料の断面像が生成されるため、電子デバイスの品質を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を実施したMTJ素子の概略図である。
図2図1のII-II線に沿って切断した断面概略図である。
図3A】本発明の電子デバイスの評価方法を示すフローチャートである。
図3B】元素分析工程を有する電子デバイスの評価方法を示すフローチャートである。
図4】評価用保護膜が形成されたMTJ素子の断面を示す模式図である。
図5】試料の断面を示す模式図である。
図6】評価装置の概略図である。
図7】水平断面像の生成について説明する説明図である。
図8】水平断面像の模式図である。
図9】垂直断面像の生成について説明する説明図である。
図10】垂直断面像の模式図である。
図11】試料の構造を示す概略図である。
図12A】参照層部分の水平断面像である。
図12B】参照層の最上層とトンネル障壁絶縁膜との間の界面の水平断面像である。
図12C】記録層のキャップとキャップ層との間の界面の水平断面像である。
図12D】上部電極部分の水平断面像である。
図13A】参照層と記録層の間に2層のトンネル障壁絶縁膜が設けられた試料のSTEM像である。
図13B】酸素の元素マッピング像である。
図13C】タンタルの元素マッピング像である。
図13D】マグネシウムの元素マッピング像である。
図13E】ルテニウムの元素マッピング像である。
図13F】プラチナの元素マッピング像である。
図13G】コバルトの元素マッピング像である。
図13H】鉄の元素マッピング像である。
図14A】異物が付着したMTJ素子のHAADF-STEMトモグラフィー像の垂直断面像である。
図14B】コントラストを高めて測定したMTJ素子のHAADF-STEMトモグラフィー像の垂直断面像である。
図14C図14Aを290°水平方向に回転させたHAADF-STEMトモグラフィー像である。
図14D図14Aを180°水平方向に回転させたHAADF-STEMトモグラフィー像である。
図14E】MTJ素子を真上から見たHAADF-STEMトモグラフィー像である。
図14F図14EのF-F線に沿った垂直断面像である。
図14G図14EのG-G線に沿った垂直断面像である。
図15】MTJ素子のSTEM-EDXトモグラフィー像を示したもので、垂直断面像に対してEDX信号を重ね合わせて表示した構成元素分布像と、上部電極の任意の点におけるEDXスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明を実施したMTJ素子10の概略図である。MTJ素子10は、一対の電極層の間に絶縁膜が設けられた電子デバイスの一例である。MTJ素子10は、ウェハ11上に形成される。ウェハ11には、複数の素子形成領域(図示なし)が設けられており、1つの素子形成領域に複数のMTJ素子10が形成される。
【0014】
MTJ素子10のウェハ11への形成は、周知の製造プロセスにより行われる。例えば、MTJ素子10は、ウェハ11上に、下部電極12、参照層13、絶縁膜としてのトンネル障壁絶縁膜14、記録層15、エッチストッパーを含むキャップ層60、および上部電極61を順に積層し、その上にレジストを塗布し、レジストを所定の形状にパターニングした後にエッチング処理を行うことにより形成される。下部電極12と上部電極61とにより一対の電極層を形成する。図1において、各層は、XY平面と直交するZ方向に積層される。各層は、例えば、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの薄膜形成方法によって形成される。
【0015】
MTJ素子10は、本来は上記の製造プロセスを経て作製されるが、所定の製造工程でウェハ11を抜き取り、抜き取られたウェハ11を用いて品質の評価が行われる。「品質の評価」とは、後述する試料30の各界面の凹凸、試料30の各界面の端部に付着する異物、およびパターニング工程で発生するエッチングダメージを確認することをいう。
【0016】
ウェハ11は、シリコン等で構成されるが、これに限られず、ガラス等でもよい。下部電極12と上部電極61は、非磁性金属で形成される。下部電極12と上部電極61は、例えば、タンタル(Ta),ルテニウム(Ru),プラチナ(Pt)などで形成される。参照層13と記録層15は、強磁性体で形成される。参照層13と記録層15は、例えば、コバルト(Co),ニッケル(Ni),鉄(Fe),マンガン(Mn),クロム(Cr),ネオジム(Nd),ガドリニウム(Gd),サマリウム(Sm),テルビウム(Tb),ユウロピウム(Eu),ジスプロシウム(Dy)のいずれかを少なくとも含む合金などで形成される。参照層13と記録層15は、本実施形態ではFeCoBで形成される。参照層13は、磁化方向が固定された強磁性体で形成される。記録層15は、磁化方向が変化可能な強磁性体で形成される。トンネル障壁絶縁膜14は、絶縁材料で形成される。トンネル障壁絶縁膜14は、例えば、酸化マグネシウム(MgO),酸化アルミニウム(AlO),二酸化ジルコニウム(ZrO),酸化ハフニウム(HfO),二酸化ケイ素(SiO)などで形成され、MgAlOなどの3元系以上の酸化物でもよい。トンネル障壁絶縁膜14は、本実施形態ではMgOで形成される。キャップ層60は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB),タンタル(Ta),ルテニウム(Ru)などで形成される。
【0017】
MTJ素子10の厚みは、10nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、30nm以上50nm以下の範囲内であることがより好ましい。MTJ素子10の厚み方向は、各層の積層方向(Z方向)に直交する方向である。本実施形態では、MTJ素子10の厚みを50nmとした。MTJ素子10は、例えば、円錐状、円柱状、角錐状、角柱状に形成される。本実施形態では、MTJ素子10の形状を円錐状とし、MTJ素子10の底面の直径を厚みとした。
【0018】
MTJ素子10には、MTJ素子10の特性劣化を誘引する異物として、導電性異物と絶縁性異物との少なくともいずれかが付着している。導電性異物と絶縁性異物とを区別しない場合は、異物と記載する。図1では、導電性異物のみを図示し、絶縁性異物は図示していない。説明の便宜上、参照層13とトンネル障壁絶縁膜14と記録層15にまたがって形成される導電性異物に符号16を付し、参照層13または記録層15に形成される導電性異物に符号17を付している。導電性異物16,17は、図1ではMTJ素子10の表面に形成されているが、これに限られず、MTJ素子10の内部に形成される場合もある。導電性異物16,17は、例えば、パターニング工程で行われるエッチング処理により下部電極12の一部がエッチングされ、MTJ素子10の表面に再付着することにより形成される。また、導電性異物16,17は、エッチング処理時の反応副生物がMTJ素子10の表面に残存したり、再付着することによっても形成される。導電性異物16は、トンネル障壁絶縁膜14の端部に付着しており、参照層13と記録層15の間でリーク電流のパスを形成し、参照層13と記録層15を短絡させる。参照層13と記録層15の短絡は、MTJ素子10の磁気抵抗変化率を劣化させる。MTJ素子10の特性劣化を誘引する導電性異物の構成元素として、Ru,Taの他に、Fe,Co,Ti,Pt,Mg,Si,W,Hf,Zr,Ba,B,Mo,Pd,Ir,Al,Mn,Te,Ni,Nd,Gd,Cr,Sm,Eu,Dyなどが挙げられる。絶縁性異物は、例えば、パターニング工程で行われるエッチング処理によりトンネル障壁絶縁膜14の一部がエッチングされ、MTJ素子10の表面に再付着することにより形成される。絶縁性異物は、トンネル障壁絶縁膜14の端部に付着した場合、その後の熱処理によりトンネル障壁絶縁膜14内部まで拡散し、トンネル障壁絶縁膜14の結晶性を劣化させることがある。トンネル障壁絶縁膜14の結晶性の劣化は、後述するダメージ層18が形成される場合と同様に、MTJ素子10の磁気抵抗変化率を劣化させる。MTJ素子10の特性劣化を誘引する絶縁性異物の構成元素として、N,C,F,O,Ar,Kr,Xe,Ne,He,H,Clなどが挙げられる。これら異物は、エッチング条件に大きく依存し、その大きさもnm以下のものから数ミクロンに及ぶものまでさまざまで、ランダムにMTJ素子10の側壁に付着する。
【0019】
図2に示すように、MTJ素子10には、パターニング工程で行われるエッチング処理で発生したエッチングダメージによりダメージ層18が形成されている。この例では、ダメージ層18は、MTJ素子10の表面全体もしくは特異的な箇所に形成されている。ここで議論するダメージ層18は、参照層13と記録層15のうち、エッチング処理により結晶構造が物理的に破壊された領域のことである。しかし、より広義のダメージ層18は、電子がトンネルするのに支障をきたす程度に不純物がトンネル障壁絶縁膜14内に侵入して形成される物理化学的な変質領域を指す。これは、トンネル障壁絶縁膜14内の変質領域およびこれと接する参照層13と記録層15の界面領域が結晶学的に揃っていないためにコヒーレントトンネリングが起こらない領域が発生したことを意味する。このため、コヒーレントトンネリングが起こらない領域では結果的にトンネル磁気抵抗効果が低下する。さらに、界面領域での結晶学的な酸素と磁性元素の堆積状態が崩れると、酸素と磁性元素の混成軌道に由来する垂直磁化が消失してしまう。したがって、ダメージ層18は、結晶構造が破壊されていない領域に比べて、その破壊程度に応じて磁気抵抗変化率や垂直磁気異方性が大幅に減少する。このため、ダメージ層18が発生した場合は、MTJ素子10の磁気抵抗変化率が設計値よりも低下し、所望の熱安定性が得られない。従来は、このダメージ層18を正確に定量的に測定する方法が確立されておらず、非特許文献1に記載されているようにTEMを用いてトンネル障壁絶縁膜14の端部に電子を照射し、その回折パターンから結晶性を評価する一次元的な定性評価方法しか確立されていなかった。
【0020】
図2では図示していないが、下部電極12は、粒界(グレインともいう)を有しており、表面に微小な凹凸が形成されている。下部電極12の粒界は、その凹凸を反映してトンネル障壁絶縁膜14の膜厚にばらつきを生じさせる。すなわち、トンネル障壁絶縁膜14は、下部電極12の凹凸に影響されて表面に凹凸を有する。この際、下部電極12の凹凸上に形成されたトンネル障壁絶縁膜14の膜厚が不均一になる。算術平均粗さ(Ra)が0.2nm以下程度であれば、MTJ素子10としての高機能性が維持可能、即ち電子のトンネル特性が損なわれない。また、トンネル障壁絶縁膜14の膜厚が極端に薄い場合は、電界集中が起こり、耐圧が低下してリーク電流が流れて正常動作が望めない。
【0021】
図3Aに示すように、電子デバイスとしてのMTJ素子10の評価方法は、試料作製工程20と、画像取得工程21と、画像処理工程22とを少なくとも有する。本実施形態の場合は、図3Bに示すように、試料作製工程20と画像取得工程21と画像処理工程22に加え、元素分析工程23をさらに有する。元素分析工程23は、画像取得工程21と画像処理工程22の間に実施される。以下、試料作製工程20、画像取得工程21、元素分析工程23、画像処理工程22を順に説明する。
【0022】
試料作製工程20では、まず、ウェハ11から素子形成領域(図示なし)を切り出して複数のMTJ素子10を有するチップをつくり、図4に示すように、チップ上のMTJ素子10の表面に評価用保護膜26を形成する。評価用保護膜26は、例えば、樹脂などで形成される。次に、FIB装置(図示なし)を用いてチップを加工することにより、チップ上の複数のMTJ素子10のうちから1つのMTJ素子10の切り出しを行う。
【0023】
図5に示すように、切り出されたMTJ素子10をイオンミリング装置(図示なし)に導入する。図5に示すように、イオンミリング装置では、MTJ素子10の表面が露出しないように、イオンビーム28により評価用保護膜26がエッチング加工される。評価用保護膜26のエッチング加工は、MTJ素子10を回転させながら行われる。これにより、トンネル障壁絶縁膜14を有する試料30が作製される。このようにMTJ素子10を加工して得られた試料30には、導電性異物16が付着しており、また、ダメージ層18が形成されている。試料30は、例えば、円錐状、円柱状、角錐状、角柱状に形成される。この例では、試料30の形状は円錐状とされる。なお、試料作製工程20では、この例ではMTJ素子10を保護する評価用保護膜26が形成された試料30を作製しているが、これに限られず、評価用保護膜26が形成されていない試料を作製してもよい。すなわち、試料作製工程20では、一対の電極層の間に設けられた絶縁膜を有する試料およびそれを保護する評価用保護膜を含めた試料が作製される。
【0024】
画像取得工程21と元素分析工程23と画像処理工程22は、例えば図6に示す評価装置40を用いて行う。評価装置40は、試料30の断面観察を行うための透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を有する。この例では、透過型電子顕微鏡として走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)が用いられる。評価装置40は、試料ホルダ41と、電子源42と、画像取得部43と、元素分析部44と、画像処理部45とを備える。試料ホルダ41は、試料30を保持した状態で回転する。電子源42は、試料30に対して複数の角度から電子線46を出力する。画像取得部43は、試料30を透過した電子線47を検出することにより複数のSTEM画像を取得する。元素分析部44は、試料30の元素分析を行う。画像処理部45は、STEM画像と元素分析の分析結果とを用いて、MTJ素子10を評価するための画像を生成する。なお、評価装置40は、電子源42と画像取得部43と画像処理部45を少なくとも備え、元素分析部44を備えない場合もある。
【0025】
画像取得工程21は、試料ホルダ41で試料30を回転させながら、電子線46を試料30に照射する。試料ホルダ41は360度回転する。試料30には、異なる水平面内角度から電子線46が二次元的に照射され、電子線46の走査により垂直方向にも電子が照射されることにより三次元照射が可能となる。これにより、電子線46の照射角度が異なる複数のSTEM画像が取得される。すなわち、画像取得工程21は、試料30に対して複数の角度から電子線46を照射して複数の画像を取得する。このように試料ホルダ41上に設置した試料30を回転させて各角度での透過電子情報を取得し、それらを三次元的に再構築することによって多様な方向から立体構造の観察が可能になる。
【0026】
元素分析工程23は、電子線46が照射された試料30の元素分析を行う。元素分析工程23は、この例では、元素分析部44において、電子線46の照射により試料30が発する特性X線48を検出し、エネルギー分散型X線分光(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を行う。元素分析工程23は、エネルギー分散型X線分光を行うことに加えて又は代えて、試料30を透過した電子線の電子エネルギー損失スペクトルを検出する電子エネルギー損失分光(EELS:Electron Energy Loss Spectroscopy)を行ってもよい。
【0027】
画像処理工程22について、図7図10を参照して説明する。画像処理工程22は、画像処理部45で行われ、複数の画像を用いて画像処理を行うことにより、試料30の立体像50を再構成し、立体像50から試料30の断面像を生成する。断面像の生成は、例えば、トモグラフィー法を用いて行われる。画像処理工程22では、試料30を任意の位置でスライスした場合の断面の観察を可能とする。試料30のスライス位置は、図示しない設定手段を介してユーザにより設定される。
【0028】
図7に示すように、画像処理工程22では、画像取得工程21で取得した複数のSTEM画像から試料30の立体像50が再構成される。図7は、XY平面と平行な断面の観察例を示している。スライス位置51は、ユーザの設定に応じてZ方向へ移動する。本図の場合は、スライス位置51は、トンネル障壁絶縁膜14の位置に設定されている。
【0029】
図8に示すように、スライス位置51において、立体像50から試料30の断面像52が生成される。断面像52は、試料30の水平断面像である。この例では、断面像52は、トンネル障壁絶縁膜14部分の水平断面像である。断面像52には、トンネル障壁絶縁膜14、導電性異物16、および、ダメージ層18の各境界が明確に写される。断面像52は、図示しないモニタに表示される。
【0030】
断面像52には、トンネル障壁絶縁膜14の他、参照層13の一部または記録層15の一部が含まれ、これらが濃淡の違いで現される。断面像52の濃淡によって、トンネル障壁絶縁膜14の全面に渡って、トンネル障壁絶縁膜14の凹凸の有無を容易に確認することができる。また、スライス位置51をZ方向へ移動させ、各スライス位置51での断面像52をモニタに順次表示させることにより、試料30の各界面の凹凸の評価を行うことができる。
【0031】
断面像52には、トンネル障壁絶縁膜14の外周全域が写されている。このため、導電性異物16がトンネル障壁絶縁膜14の外周にランダムに形成されていたとしても、導電性異物16の有無を容易に確認することができる。
【0032】
図9は、XZ平面と平行な断面の観察例を示している。スライス位置53は、ユーザの設定に応じてY方向へ移動する。本図の場合は、スライス位置53は、試料30のほぼ中心に対応する位置に設定されている。
【0033】
図10に示すように、スライス位置53において、立体像50から試料30の断面像54が生成される。断面像54は、スライス位置53における試料30の垂直断面像である。この例では、断面像54は、導電性異物16の部分を含む垂直断面像である。断面像54には、参照層13、トンネル障壁絶縁膜14、記録層15、キャップ層60、上部電極61、導電性異物16、および、ダメージ層18の各境界が明確に写される。このスライス位置53の断面像54からは導電性異物16の断面が検出され、導電性異物17は検出されない。断面像54は、図示しないモニタに表示される。
【0034】
スライス位置53をY方向へ移動させ、各スライス位置53での断面像54をモニタに順次表示させることにより、試料30の各界面の端部に付着する異物としての導電性異物および絶縁性異物の評価を行うことができる。また、ダメージ層18の分布と厚みを確認することもできるので、パターニング工程で発生するエッチングダメージの評価を行うことができる。
【0035】
図11に本実施例で用いられた試料の構造を示す。本実施例ではトンネル障壁絶縁膜が二層の場合を示すが、単層のトンネル障壁絶縁膜が積層される場合も同様の効果があることは言うまでもない。同図において、試料は、熱酸化シリコン基板70、下部電極71、参照層72、参照層72の最上層73、トンネル障壁絶縁膜74、最下層75とスペーサー76と最上層77とにより形成される記録層78、記録層78のキャップ79、キャップ79を保護するキャップ層80、上部電極エッチストッパー81、上部電極82で構成されている。熱酸化シリコン基板70は、シリコン基板上に熱酸化膜が形成されている。下部電極71は、例えばTaにより形成される。参照層72の下層は、CoPt系の材料により形成される。参照層72の最上層73は、CoFeBにより形成される。トンネル障壁絶縁膜74は、MgOにより形成される。記録層78の最下層75は、CoFeBにより形成される。記録層78のスペーサー76は、Taにより形成される。記録層78の最上層77は、CoFeBにより形成される。キャップ79は、MgOにより形成されるトンネル障壁絶縁膜からなる。キャップ層80は、Taにより形成される。上部電極エッチストッパー81は、Ruにより形成される。上部電極82は、Taにより形成される。熱酸化シリコン基板70上に形成された下部電極71と上部電極82との間に設けられたMTJ素子は、トンネル障壁絶縁膜74を記録層78の最下層75と参照層72の最上層73で挟んだ構造を有する。MTJ素子は、記録層78の最下層75上にスペーサー76を形成することによって、トンネル障壁絶縁膜74と記録層78の最下層75との界面結晶性を維持する。また、MTJ素子は、スペーサー76を介してさらに記録層78の最上層77上にトンネル障壁絶縁膜74と同じ材料からなるキャップ79を形成して記録層78の最上層77との界面結晶性を維持することによって、垂直磁気異方性を2倍に向上させている。その際、記録層78の最上層77との界面結晶性を維持するために、記録層78のキャップ79を保護するキャップ層80が形成されている。そして、上部電極82のエッチングストッパーとして上部電極エッチストッパー81が形成され、最後に上部電極82が形成される。トンネル障壁絶縁膜以外は非絶縁膜であることは言うまでもない。また、本実施例では記載しないが、MTJ素子の表面には、通常、保護膜が形成される。
【0036】
図12A図12Dは、実際のMTJ材料系を用いた実施例を示した本発明によるSTEM-EDXトモグラフィー像である。図12A図12Dでは、図11で示したように参照層72と記録層78の間に2層のトンネル障壁絶縁膜が設けられた試料に対して参照層72から順番に上部電極82まで生成された立体像(左側)と、異なるスライス位置での水平断面像(右側)との一例を示している。これらは、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field - STEM)像の細く絞った電子線を試料に走査させながら照射して透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出することにより得られた結果に対して4度ずつ試料を回転させて得た結果を合成したものである。HAADF-STEM像では重い元素は明るく見えるため、同図においても原子量(Z)に比例したコントラストが得られる。
【0037】
図12Aは、参照層72の下層(CoPt系)部分にスライス位置が設定された場合の水平断面像を示している。この部分は参照層72の下層を構成する金属材料からなり、均質なCoPtが検出されていることが判る。
【0038】
図12Bは、参照層72の最上層73(CoFeB)とトンネル障壁絶縁膜74(MgO)との間の界面にスライス位置が設定された場合の水平断面像を示している。CoFeBとMgOの白黒濃淡を有する特徴的なモフォロジーが得られている。本水平断面像はHAADF像のデータで構成されているため、白黒濃淡のモフォロジーは、MgOのHAADF信号(暗い)とCoFeBのHAADF信号(明るい)によるコントラストが得られた結果であることが判る。垂直磁気異方性を呈する界面ラフネス評価に関しては通常の透過型電子顕微鏡(TEM)による一次元の凹凸情報以外に方法はなく、本発明により初めてこのような二次凹凸情報が得られた。一次元凹凸情報では当該領域以外の箇所での凹凸情報は欠落しているので、MTJ素子の実界面凹凸情報を三次元的に得るには、本発明による二次元的手法を得て三次元凹凸情報を構築してゆく方法しかない。本発明による方法をMTJ素子形成プロセスにおける解析手段として用いることにより、MTJ素子における各界面のラフネスが最小のプロセス条件を見出すことができる。界面ラフネスが存在すると電子のトンネル確率が激減し、界面垂直磁気異方性の低下を招き、MTJ素子の磁気抵抗変化率の劣化をもたらす。
【0039】
図12Cは、記録層78のキャップ79(MgO)とキャップ層80(Ta)との間の界面にスライス位置が設定された場合の水平断面像を示している。MgOとTaの白黒濃淡を有する特徴的なモフォロジーが得られており、この界面においてもラフネスがMTJ素子の内部で一様に存在することが判る。MTJ素子の外周部分と内部との信号強度の違いが認められ、この界面の端部にダメージ層が存在することが明らかになった。
【0040】
図12Dは、上部電極82(Ta)部分にスライス位置が設定された場合の水平断面像を示している。この部分は、上部電極82の材料(Ta)が均質に分布していることが判る。さらに、MTJ素子の外周部分と内部との信号強度の違いが認められることから、MTJ素子の側面部にはダメージ層が存在することも明らかになった。
【0041】
画像処理工程22は、画像処理部45において、元素分析部44の分析結果を用いて元素マッピング像を生成する。この例では、エネルギー分散型X線分光の分析結果として、酸素(O)、タンタル(Ta)、マグネシウム(Mg)、ルテニウム(Ru)、プラチナ(Pt)、コバルト(Co)、鉄(Fe)について、それぞれの元素マッピング像が得られる。各元素マッピング像は、元素の種類に応じて色分けされる。元素マッピング像は、図示しないモニタに表示される。
【0042】
図13A図13Hは、参照層と記録層の間に2層のトンネル障壁絶縁膜が設けられた試料のEDX分析結果である。図13Aは、参照層と記録層の間に2層のトンネル障壁絶縁膜が設けられた試料のSTEM像である。図13Bは、酸素の元素マッピング像である。図13Cは、タンタルの元素マッピング像である。図13Dは、マグネシウムの元素マッピング像である。図13Eは、ルテニウムの元素マッピング像である。図13Fは、プラチナの元素マッピング像である。図13Gは、コバルトの元素マッピング像である。図13Hは、鉄の元素マッピング像である。図13B図13Hの各元素マッピング像から、各層の組成を確認することができる。元素マッピング像では、導電性異物16の元素を確認することができるので、導電性異物16の発生源を特定することができる。
【0043】
図14A図14Hは、MTJ素子のパターニングの際にエッチング条件を変えてMTJ素子の側壁に異物が付着した場合のHAADF-STEMトモグラフィー像を示す。MTJ素子の構造は、図11図13で示した構造とは異なり、上部電極の構成元素もTaではなく別の元素aおよび元素bである。図14Aは、MTJ素子の垂直断面像であり、図14Bは、異物をより詳細に観察するためにコントラストを高めて測定したMTJ素子の垂直断面像である。そして、図14Cは、図14Aを290°水平方向に回転させた場合のHAADF-STEMトモグラフィー像である。図14Dは、図14Aを180°水平方向に回転させた場合のHAADF-STEMトモグラフィー像である。図14C図14Dから、180°回転させた場合に確認される異物(図14D中に矢印で示す)が290°まで回転させると立体的に付着している様子が確認できる(図14C中に矢印で示す)。図14Eは、MTJ素子を真上から見たHAADF-STEMトモグラフィー像である。図14Eから、あらゆる方向に異物が存在することが判る。図14Fは、図14EのF-F線に沿った垂直断面像である。図14Fでは、図14Dで確認された異物が確認できる(図14F中に矢印で示す)。図14Gは、図14EのG-G線に沿った垂直断面像である。図14Gでは、図中矢印で示すMTJ素子の端部に異物が存在する様子が確実に捉えられている。
【0044】
図15は、図14Aで示したMTJ素子の垂直断面像に対して各元素のEDX信号を重ね合わせて表示した構成元素分布を示すSTEM-EDXトモグラフィー像と、上部電極の任意の点A,BにおけるEDXスペクトルとを示す。点Aでは上部電極の材料の元素aおよび元素bが主体的に一様に観測されている。点Bでは上部電極エッチストッパーの材料の元素であるRuおよびキャップ層の材料であるTaが検出されている。なお、このMTJ素子では下層部分にもTaが用いられている。RuとTaが検出される領域がまばらに確認されることから、上部電極表面にRu、Taが散在していることが判る。
【0045】
以上のように、立体像から試料の任意の位置の断面像を生成することができるため、トンネル障壁絶縁膜の凹凸、異物、および、エッチングダメージが確実に観察でき、電子デバイスの品質を正確に評価することができる。本発明の電子デバイスの評価方法は、粒界を有する下部電極上にトンネル障壁絶縁膜が形成されるMTJ素子の評価に特に有効である。特に、トンネル障壁絶縁膜部分の水平断面像では、トンネル障壁絶縁膜の凹凸と導電性異物とを同時に確認することができるので、トンネル障壁絶縁膜の絶縁特性を低下させる原因の究明と対策を容易に行うことができる。
【0046】
また、プロセス事前検証により、製品ロットの不良を未然に防ぐことが可能となり、例えばMTJ素子を搭載したSTT-MRAMの工程歩留まりを大幅に向上させることができる。特に、電子デバイスの微細化の進展に伴い、加工サイズが小さくなるにつれて、トンネル障壁絶縁膜の凹凸、異物、および、エッチングダメージが電子デバイスの品質に及ぼす影響がますます増大する方向にあるため、本発明は特に有効である。MTJ素子の特性劣化を誘引する異物が導電性異物の場合、トンネル障壁絶縁膜の端部を終端してMTJ素子の低抵抗化を招きトンネル特性に支障をきたすことが確認されている。MTJ素子の特性劣化を誘引する異物が絶縁性異物の場合、トンネル障壁絶縁膜の端部に付着し、その後の熱処理によりトンネル障壁絶縁膜内部まで拡散することにより、トンネル障壁絶縁膜端部の結晶性を乱し、ダメージ層と同様に磁気抵抗変化率が大幅に劣化することが確認されている。
【0047】
断面像52,54では、ダメージ層18の分布と深さが明確に把握できるため、ダメージ層18を定量的に評価することができる。
【0048】
画像処理工程22では、画像処理部45において、エネルギー分散型X線分光の分析結果を用いて元素マッピング像を生成することに加えて又は代えて、電子エネルギー損失分光の分析結果を用いて元素マッピング像を生成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 MTJ素子
11 ウェハ
12 下部電極
13 参照層
14 トンネル障壁絶縁膜
15 記録層
16,17 導電性異物
18 ダメージ層
30 試料
40 評価装置
42 電子源
43 画像取得部
44 元素分析部
45 画像処理部
60 キャップ層
61 上部電極
70 熱酸化シリコン基板
71 下部電極
72 参照層
73 最上層
74 トンネル障壁絶縁膜
75 最下層
76 スペーサー
77 最上層
78 記録層
79 キャップ
80 キャップ層
81 上部電極エッチストッパー
82 上部電極

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図13H
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図14F
図14G
図15