(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】空気砲装置
(51)【国際特許分類】
B01J 4/00 20060101AFI20221011BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20221011BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20221011BHJP
A61L 9/03 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B01J4/00 102
A61L9/12
A61L9/01 Q
A61L9/03
(21)【出願番号】P 2018164794
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】野間 春生
(72)【発明者】
【氏名】柳田 康幸
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/072744(WO,A1)
【文献】特開2006-255402(JP,A)
【文献】特開2007-323547(JP,A)
【文献】国際公開第2008/093721(WO,A1)
【文献】特開昭58-140491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 4/00
A61L 9/00-9/22
G09F 19/00
H04N 5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通気孔が形成された吐出部材と、
前記複数の通気孔から空気を吐出させる空気圧回路と、
複数の前記通気孔から吐出された空気の速度分布を可変にすべく、開閉を個別に切替可能である複数の弁と、
前記複数の弁の開閉を個別に制御する制御部と、を備え
、
前記複数の弁の開閉を個別に制御することは、空気が吐出される前記複数の通気孔が存在する範囲である吐出範囲の中心側と外縁側との速度を異ならせる制御を含み、
前記吐出範囲の中心側と外縁側との速度を異ならせる制御は、解放された前記弁に接続された通気孔の密度が、前記吐出範囲の中心側と外縁側とで異なるように、前記複数の弁の開閉を個別に制御することを含む
空気砲装置。
【請求項2】
前記複数の通気孔は、負圧による吸引専門の通気孔を含む
請求項
1に記載の空気砲装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記吸引専門の通気孔が、前記速度分布が形成された後に吸引されるように制御する
請求項
2に記載の空気砲装置。
【請求項4】
複数の通気孔が形成された吐出部材と、
前記複数の通気孔から空気を吐出させる空気圧回路と、
複数の前記通気孔から吐出された空気の速度分布を可変にすべく、開閉を個別に切替可能である複数の弁と、
前記複数の弁の開閉を個別に制御する制御部と、を備え
、
前記複数の通気孔は、負圧による吸引専門の通気孔を含み、
前記複数の弁の開閉を個別に制御することは、前記吸引専門の通気孔が、前記速度分布が形成された後に吸引されるように制御することを含む
空気砲装置。
【請求項5】
前記制御部は、空気が吐出される前記複数
の通気孔が存在する範囲である吐出範囲の中心側と外縁側との速度を異ならせる
請求項
4に記載の空気砲装置。
【請求項6】
前記制御部は、解放された前記弁に接続された通気孔の密度が、前記吐出範囲の中心側と外縁側とで異なるように、前記複数の弁の開閉を個別に制御する
請求項
5に記載の空気砲装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記吐出範囲の中心側と外縁側とで前記通気孔からの空気の吐出時間が異なるように、前記弁を開閉する時間を個別に制御する
請求項
5に記載の空気砲装置。
【請求項8】
前記複数の弁の開閉を個別に制御することは、前記複数の通気孔のうち、少なくとも1つの通気孔から空気を吐出させ、少なくとも他の1つの通気孔から空気を吐出させないように制御することを含む
請求項1
~7のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項9】
前記空気圧回路は、前記弁に供給される空気の圧力を調整する調整部をさらに含む
請求項1~
8のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項10】
前記空気圧回路は、前記複数の弁のうち、少なくとも1つの弁には第1圧力の空気が供給され、少なくとも他の1つの弁には、前記第1圧力とは異なる第2圧力の空気が供給されるように構成されている
請求項1~
9のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項11】
前記速度分布は、渦輪の進行方向の速度、及び、前記渦輪の進行方向と逆向きの速度を含む
請求項1~
10のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記速度分布が前記
複数の通気孔が存在する範囲である吐出範囲の中心に対して点対称の速度分布となるように、前記複数の弁の開閉を個別に制御する
請求項
1~11のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記速度分布が前記
複数の通気孔が存在する範囲である吐出範囲内の第1の直線に線対称であり、前記第1の直線に直交する第2の直線に線対称とならないように、前記複数の弁の開閉を個別に制御する
請求項
1~12のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【請求項14】
前記複数の通気孔のうちの少なくとも1つの通気孔から放出される空気に香り成分を供給する供給機構をさらに備える
請求項1~
13のいずれか1項に記載の空気砲装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気砲装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気砲の原理を利用した空気砲装置が様々提案されている。空気砲装置は、発射される渦輪に香り成分を混入させることによって、遠隔で香りをピンポイントで利用者に提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
空気砲装置を香りの提供に利用する場合などにおいては、様々な環境下において、空気砲装置から発射される渦輪を目標位置に正確に、意図した風量、風速で到達させることが求められる。そのため、空気砲装置で渦輪の発射の条件を容易に変更できることが望まれる。
【0005】
ここで、国際公開第WO2008/072744号(特許文献1)には、複数の通気孔が形成された空気砲装置が提案されている。しかしながら、特許文献1は、渦輪の発射の条件を変更するための構成を開示していない。
【0006】
ある実施の形態に従うと、空気砲装置は、複数の通気孔が形成された吐出部材と、複数の通気孔から空気を吐出させる空気圧回路と、複数の通気孔から吐出された空気の速度分布を可変にすべく、開閉を個別に切替可能である複数の弁と、複数の弁の開閉を個別に制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、空気砲装置の端板の正面概略図である。
【
図2】
図2は、空気砲装置の構成を示す側方概略図である。
【
図3】
図3は、一般的な空気砲装置によって発生する渦輪を説明するための図である。
【
図4】
図4Aは、第1の吐出制御を説明するための概略図である。
図4Bは、吐出時間を変化させたときの吐出範囲から吐出された空気の速度分布を示す概略図である。
【
図5】
図5は、第1の吐出制御の他の例を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、第2の吐出制御を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、第2の実施の形態に係る空気砲装置の構成を説明するための概略図である。
【
図8】
図8は、第2の実施の形態に係る空気砲装置から吐出される空気の速度分布を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第2の実施の形態に係る空気砲装置から吐出される空気の速度分布の他の例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、香り成分を供給する供給機構としての噴霧装置を備えた空気砲装置の側方概略図である。
【
図11】
図11の(A)~(E)は、それぞれ、第1の実験での吐出のON/OFFの条件のパターン1~5を示す図であって、空気砲装置100の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1.空気砲装置の概要]
【0009】
(1)本実施の形態に含まれる空気砲装置は、複数の通気孔が形成された吐出部材と、複数の通気孔から空気を吐出させる空気圧回路と、複数の通気孔から吐出された空気の速度分布を可変にすべく、開閉を個別に切替可能である複数の弁と、複数の弁の開閉を個別に制御する制御部と、を備える。
【0010】
複数の通気孔から吐出された空気の速度分布を可変にすべく、開閉を個別に切替可能である複数の弁が設けられ、制御部が複数の弁の開閉を個別に制御することによって、複数の通気孔から吐出された空気の速度分布を離散的に変化させることができる。
【0011】
(2)好ましくは、複数の弁の開閉を個別に制御することは、複数の通気孔のうち、少なくとも1つの通気孔から空気を吐出させ、少なくとも他の1つの通気孔から空気を吐出させないように制御することを含む。これにより、吐出範囲を変化させることができる。その結果、空気砲装置で吐出される空気の範囲、つまり、渦輪のサイズを可変にできる。また、吐出される空気の速度を維持して吐出範囲を変更可能なことから、渦輪の進行速度を、渦輪のサイズに関わらず同じとすることができる。
【0012】
(3)好ましくは、制御部は、空気が吐出される前記複数が存在する範囲である吐出範囲の中心側と外縁側との速度を異ならせる。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を、渦輪ができる速度分布である、中心付近を頂点とする凸形状などにすることができる。その結果、空気砲装置から吐出された空気によって渦輪を形成される確率を高めることができる。
【0013】
(4)好ましくは、制御部は、解放された弁に接続された通気孔の密度が、吐出範囲の中心側と外縁側とで異なるように、複数の弁の開閉を個別に制御する。弁を開放する通気孔の密度が高い範囲から吐出された空気の速度は速く、密度が低い範囲から吐出された空気の速度は遅い。そのため、弁を開放する通気孔の密度を吐出範囲の中心側と外縁側とで異ならせるように弁を開閉することで、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を凸形状、又は、凹形状、つまり、渦輪が生成される速度分布とすることができる。これにより、吐出範囲に含まれる複数の通気孔から吐出された複数の空気流で渦輪が生成される可能性を向上できる。
【0014】
(5)好ましくは、制御部は、記吐出範囲の中心側と外縁側とで通気孔からの空気の吐出時間が異なるように、弁を開閉する時間を個別に制御する。吐出時間を長くすることは弁の開放時間を長くすることであり、吐出時間を短くすることは弁の開放時間を短くすることである。吐出時間が長い範囲から吐出された空気の速度は速く、吐出時間が短い範囲から吐出された空気の速度は遅い。そのため、吐出時間を異ならせるように弁を開閉することで、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を凸形状、又は、凹形状、つまり、渦輪が生成される速度分布とすることができる。これにより、吐出範囲に含まれる複数の通気孔から吐出された複数の空気流で渦輪が生成される可能性を向上できる。
【0015】
(6)好ましくは、空気圧回路は、弁に供給される空気の圧力を調整する調整部をさらに含む。調整部は、例えば、レギュレータ、又は、ポンプである。これにより、弁に供給される空気の圧力を調整でき、その結果、吐出される空気の速度を調整できる。
【0016】
(7)好ましくは、空気圧回路は、複数の弁のうち、少なくとも1つの弁には第1圧力の空気が供給され、少なくとも他の1つの弁には、第1圧力とは異なる第2圧力の空気が供給されるように構成されている。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を可変にできる。その結果、空気砲装置で渦輪が生成される可能性をより向上できると考えられる。
【0017】
(8)好ましくは、速度分布は、渦輪の進行方向の速度、及び、渦輪の進行方向と逆向きの速度を含む。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度分布のコントラストを大きくできる。その結果、空気砲装置で渦輪が生成される可能性をより向上できると考えられる。
【0018】
(9)好ましくは、複数の通気孔は、負圧による吸引専門の通気孔を含む。これにより、例えば本空気砲装置を香り成分の運搬装置として用いる場合、放出する香り成分に吸引された香り成分が混入すること(コンタミ)を防止できる。
【0019】
(10)好ましくは、制御部は、吸引専門の通気孔が、速度分布が形成された後に吸引されるように制御する。これにより、例えば本空気砲装置を香り成分の運搬装置として用いる場合、香り成分を放出した後に、放出した香り成分が吸引される。そのため、連続して異なる香り成分を放出する場合に、先の香り成分が後の香り成分に混入すること(コンタミ)を防止できる。
【0020】
(11)好ましくは、制御部は、速度分布が吐出範囲の中心に対して点対称の分布となるように、複数の弁の開閉を個別に制御する。これにより、吐出範囲から吐出される空気の速度分布を、吐出範囲の中心に対して概ね点対称にできる。この結果、吐空気砲装置で渦輪が生成される可能性をより向上できることが、発明者の実験によって検証されている。また、生成された渦輪が直進しやすいことも発明者の実験によって検証されている。
【0021】
(12)好ましくは、制御部は、速度分布が吐出範囲内の第1の直線に線対称であり、第1の直線に直交する第2の直線に線対称とならないように、複数の弁の開閉を個別に制御する。これにより、吐出範囲から吐出される空気の速度分布が、第2の直線に対して非対称の分布となる。その結果、吐空気砲装置から発射された渦輪が、第2の直線を軸としてカーブして進行すると考えられる。
【0022】
(13)好ましくは、空気砲装置は、複数の通気孔のうちの少なくとも1つの通気孔から放出される空気に香り成分を供給する供給機構をさらに備える。これにより、渦輪を利用して香り成分を運搬することができる。
【0023】
[2.空気砲装置の例]
[2.1 第1の実施の形態]
<2.1.1 空気砲装置の構成>
図1及び
図2は、第1の実施の形態に係る空気砲装置100を示している。
図1を参照して、空気砲装置100は、空気が吐出される吐出部材である端板10を備える。
【0024】
端板10は、端板10の厚さ方向に貫通する複数の通気孔11A,11B,11C,11D,11E,11Fを有する。なお、通気孔11A,11B,11C,11D,11E,11Fを代表させて通気孔11とも称する。ここでは、複数の通気孔11は、概ね、同じ大きさとする。後述のように一般的な空気砲装置100α(
図3参照)では、一つの孔から吐出される空気によって単一の渦輪が形成されるのに対して、実施の形態に係る空気砲装置100では、複数の通気孔11からほぼ同時に吐出される空気によって単一の渦輪が形成される。すなわち、空気砲装置100では、複数の通気孔11から離散的に吐出される空気の集まりによって、単一の渦輪が形成される。
【0025】
端板10は、空気が吐出される吐出面である正面10aと、正面10aの反対面である背面10bと、を有している。複数の通気孔11は、それぞれ、正面10aから背面10bに貫通した貫通孔である。通気孔11の正面10a側は、開口しており、空気の吐出口になっている。通気孔11の背面10b側は、後述する空気圧回路13から空気が供給される供給口になっている。
図1に示すように、複数の通気孔11は、端板10の正面10a内に分散して配置されている。
図1の例では、正面10aは、矩形であり、複数の通気孔11は、正面10a内の位置Oを中心とする複数の同心円C1,C2,C3,C4,C5,C6の円周上に配置されている。
【0026】
なお、同心円C1の半径はR1であり、同心円C2の半径はR2であり、同心円C3の半径はR3であり、同心円C4の半径はR4であり、同心円C5の半径はR5であり、同心円C5の半径はR6である(R1>R2>R3>R4>R5>R6)。
【0027】
なお、
図2においては、説明の簡便のために通気孔11を簡略化して、2つの同心円周11A,11B上に配置された通気孔11A,11Bのみが示され、通気孔11C,11D,11E,11Fは省略されている。
【0028】
図2を参照して、通気孔11の端板10の裏面10b側の供給口には、図示しない接続部が取り付けられている。複数の通気孔11の接続部それぞれには、後述の空気圧回路13が備える気流管12が接続されている。空気圧回路13は、気流管12内の空気に圧力を印加し、当該気流管12が接続した通気孔11から放出させるための機構である。
【0029】
空気圧回路13は、各気流管12に設けられた弁33と、弁33に供給される空気の圧力を調整する調整部13Aと、を含む。調整部13Aは、一例として、1つのポンプ31と、ポンプ31と弁33との間に設けられたレギュレータ32と、ポンプ31とレギュレータ32との間に設けられた圧力タンク34と、を含む。ポンプ31は、加圧された空気を出力する。
【0030】
レギュレータ32は、ポンプ31から出力された空気の圧力を調整する。レギュレータ32は、圧力が調整された空気を、複数の通気孔11に供給する。レギュレータ32と複数の通気孔11との間は、気流管12,12Aによって接続されている。気流管12,12Aは、レギュレータ32に接続された単一気流管12Aと、単一気流管12Aから分岐した複数の分岐気流管12と、を備えている。分岐気流管12それぞれの中途には、弁33が設けられている。ここでは、分岐気流管12を、単に、気流管12という。
【0031】
気流管12内の空気にポンプ31によって加えられる圧力を調整することで、弁33を介して通気孔11に供給される空気の圧力を調整する。本実施の形態では、1つのレギュレータによって、すべての通気孔11に供給される空気の圧力が調整される。
【0032】
なお、
図2では、気流管12ごとに弁33が接続されている。つまり、通気孔11と弁33とが1対1で設けられているものとしている。以降の説明でもこの構成であるものとする。しかしながら、通気孔11と弁33とが1対1であることは必須ではなく、複数の通気孔11に接続された複数の気流管12が1つに合流し、その1つの気流管に対して1つの弁33が設けられてもよい。つまり、複数の通気孔11群に対して1つの弁33が設けられていてもよい。
【0033】
この場合、「通気孔11ごと」は、1つの弁33が設けられた複数の通気孔11群ごとを意味する。つまり、この説明における「通気孔11ごと」は、同一の機構(例えば弁33)によって吐出される空気の圧力が決定される1つ又は複数の通気孔11ごとであることを意味している。これは、気流管12ごとにレギュレータ32が設けられるとする第2の実施の形態でも同様である。
【0034】
空気砲装置100は制御装置20を含む。制御装置20は、例えばコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)などを含む制御部21と、制御部21で実行するプログラムを記録したメモリ22と、ボタンやキーボードなどのユーザの指示入力を受け付ける入力部23と、を含む。
【0035】
制御装置20は、ポンプ31と、レギュレータ32と、各弁33と、圧力タンク34と、に通信可能に接続されている。この接続は、有線であっても無線であってもよい。制御部21は、メモリ22に記憶されているプログラムを読み出して実行し、ユーザからの指示に従ってポンプ31と、レギュレータ32と、各弁33と、を制御する。すなわち、制御部21は、空気圧回路13を制御する。制御部21は、レギュレータ32に制御信号を入力して、ポンプ31で印加する圧力を制御する。また、制御部21は、各弁33に制御信号を入力して、各弁33の開放/閉止を個別に制御する。また、制御部21は、圧力タンク34の圧力が規定圧力に達するとポンプ31での加圧を終了し、逆に、圧力タンク34の圧力が規定圧力から低下するとポンプ31で空気を充填する制御を行う。
【0036】
<2.1.2 渦輪の発生>
図3は、一般的な、箱型の空気砲装置100αによって発生する渦輪Cを説明するための図である。
図3を参照して、空気砲装置100αの端板10αには1つの通気孔11αが生成されている。箱型の空気砲装置100αの内部空気が加圧されると、通気孔11αから内部空気が高速で吐出される。通気孔11αから吐出された空気の周辺部には、周囲の静止した空気との間の速度差によって粘性摩擦が生じる。その結果、通気孔11αの外周側は、内周側と吐出される空気の圧力が同じであっても速度が遅くなる。このとき、通気孔11αから吐出される空気の速度分布は、すべての直径方向について、
図3の右に示されたように、中心Oを頂点とし、周縁部ほど低くなる、凸型分布となることが知られている。この速度差によって吐出された空気が渦輪Cを生成することが知られている。以降の説明では、中心Oを頂点とし、周縁部ほど低くなる凸型の空気の速度分布を、渦輪用速度分布とも称する。
【0037】
<2.1.3 吐出制御>
本実施の形態に係る空気砲装置100の制御装置20は、空気砲装置100から吐出された空気の速度分布を可変とするために、各通気孔11から吐出される空気の圧力を制御する吐出制御を実行する。吐出制御は、空気砲装置100から発射させる吐出された空気の範囲を変化させる第1の制御と、空気砲装置100から吐出された空気の範囲内での速度分布を変化させる第2の制御と、を含む。吐出制御は、制御装置20が複数の弁33を個別に開放/閉止(開閉)させることを含む。
【0038】
(2.1.3.1 第1の制御)
制御装置20が各弁33の開放/閉止を個別に制御することで、離散的に配置された通気孔11ごとに吐出するか否か(吐出のON/OFF)が制御される。以下、この制御を第1の制御という。第1の制御により、端板10において、空気を吐出する通気孔11の範囲が変化する。端板10の正面10aにおいて、空気が吐出される通気孔11が存在する範囲を、以降の説明においては吐出範囲とも称する。吐出範囲は、通気孔11のうちの弁33が開放された通気孔11の存在する範囲である。
【0039】
すべての通気孔11の弁33が開放されているとき、吐出範囲は、概ね、円C1内の範囲である円形範囲となる。また例えば、中心Oから円C2までの範囲の通気孔11の弁33が開放され、通気孔11Aの吐出の弁33が閉止されているとき、吐出範囲は、概ね、円C2内の範囲である円形範囲となる。
【0040】
制御装置20が第1の制御を行って吐出範囲を円C1に対応した円形範囲とすることで、空気砲装置100から吐出された空気の範囲は円C1に応じた範囲となる。それにより、空気砲装置100から発射される渦輪のサイズを、概ね、円C1に応じたサイズにできる。
【0041】
また、制御装置20が第1の制御を行って吐出範囲を円C2に対応した円形範囲とすることで、空気砲装置100から吐出された空気の範囲は円C2に応じた範囲となる。それにより、空気砲装置100から発射される渦輪のサイズを、概ね、円C2に応じたサイズにできる。円C3~円C6についても同様に、制御装置20が第1の制御を行って吐出範囲を円C3~円C6それぞれに対応した円形範囲とすることで、空気砲装置100から発射される渦輪のサイズを、概ね、円C3~円C6それぞれに応じたサイズにできる。つまり、第1の制御によって、空気砲装置100から発射された渦輪のサイズを変化させることができる。
【0042】
第1の制御において制御装置20がさらにレギュレータ32を制御して、ポンプ31で印加する圧力を所定圧力とすることで、吐出される空気の圧力を変化させることなく渦輪のサイズを変更させることができる。これにより、空気砲装置100から発射された渦輪の進行速度を変化させることなくサイズを変化させることができると考えられる。
【0043】
(2.1.3.2 第2の制御)
第2の制御では、吐出範囲内での空気の速度分布を変更するように、複数の弁33を個別に制御する吐出制御が行われる。以下、この制御を第2の制御という。
【0044】
(第1の吐出制御)
第1の実施の形態に係る空気砲装置100は、すべての気流管12内の圧力が1つのレギュレータ32によって等しくされる。そこで、第1の吐出制御では、弁33ごとの開放期間(時間)、つまり、吐出時間tを制御する。
【0045】
第1の吐出制御では、一例として、概ね同時に吐出される複数の通気孔について、中心Oからの距離(半径)が小さい位置(中心側)に配置されている通気孔11ほど吐出時間tを長くし、中心Oからの距離が大きい位置(外縁側)に配置されている通気孔11ほど吐出時間tを短くする。好ましくは、概ね同時に吐出される複数の通気孔について、第1の吐出制御では、同心円周上に配置された通気孔11に対しては吐出時間tを等しく、又は、概ね等しくする。
【0046】
そこで、第1の吐出制御において、制御装置20は、概ね同時に空気を吐出させる複数の通気孔11について、通気孔11の配置されている円周の半径Rに応じて吐出時間tを決定し、その時間で弁33を開放させる。半径Rに応じた吐出時間tはメモリ22に予め記憶されていてもよいし、入力部23からユーザによって入力されてもよい。
【0047】
図4Aは、第1の吐出制御を説明するための概略図である。
図4Aの左側は空気砲装置100の端板10の概略断面図である。説明の簡便のために、端板10には、中心Oから遠い半径R1の円周上に配置された複数の通気孔11A、及び、中心Oから近い半径R2の円周上に配置された複数の通気孔11Bが設けられている。
図4Aに示された例では、すべての通気孔11の吐出をONとしている。この場合、吐出範囲は半径R1の円の範囲である。
【0048】
図4Aの中央は、通気孔11A,11Bの吐出時間tを示した図である。制御装置20の制御部21は、半径R1に対しては吐出時間t1を決定し、半径R2に対しては吐出時間t2(t1<t2)を決定する。そして、半径R1の円C1の円周上の通気孔11Aに対応した弁33を吐出時間t1の間、開放させ、半径R2の円C2の円周上の通気孔11Bに対応した弁33を吐出時間t2の間、開放させて、空気圧回路13を動作させる。
【0049】
図4Aの右側は、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を示す概略図である。左側の端板10の概略断面図に示された各通気孔の位置関係と対応させるために、
図4Aの右側においては、端板10の半径方向長さを縦軸として示し、速度を横軸として示している。これは以降の説明でも同様である。第1の吐出制御によって、吐出時間t2とした通気孔11Bから吐出された空気の圧力は、吐出時間t1とした通気孔11Aから吐出された空気の圧力よりも高くなる。これにより、
図4Aの右側に示されたように、通気孔11Bから吐出された空気の速度V2を通気孔11Aから吐出された空気の速度V1よりも早くすることができる(V1<V2)。その結果、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VAを内側が高い凸形状の渦輪用速度分布とすることができる。また、吐出時間tを変化させることで、吐出された空気の速度V1,V2を変化させることができる。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VAを内側が高い凸形状の渦輪用速度分布を維持して、速度分布を様々に変化させることができる。
【0050】
さらに、通気孔11の配置された半径ごとに同じ、又は、概ね同じ吐出時間とすることで、同じ円周上に配置された通気孔11から吐出された空気の速度が同じになる。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を吐出範囲の中心に対して点対称とすることができる。吐出された空気の速度分布が点対称となることで全体としての速度のバランスがよくなるため、通気孔11群から吐出された空気によって渦輪が生成される可能性が高くなると考えられる。また、
図4Aの右側に示されたように、空気砲装置100から発射された渦輪が端板10の法線方向に進む(直進する)可能性が高くなると考えられる。これにより、意図した位置に渦輪を命中させることができると考えられる。
【0051】
第1の吐出制御において、半径R1に対する吐出時間t1、及び、半径R2に対する吐出時間t2を変化させることで、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を変化させる。
図4Bは、吐出時間t1,t2を変化させたときの吐出範囲から吐出された空気の速度分布を示す概略図である。例えば、
図4Aの例から吐出時間t1を吐出時間t1’(t1’<t1)に、吐出時間t2を吐出時間t2’(t2’>t2)に変更することによって、
図4Bに示されるように、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VA’を、包絡線VAよりも鋭い凸形状とすることができる。このように、個別に吐出時間tを変化させることで、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を変化させることができる。
【0052】
第1の吐出制御では、一例として、中心Oに対して放射状に配置された複数の通気孔11に対して、点対称にある通気孔11から吐出された空気の速度を等しく、又は、概ね等しくする。これにより、空気砲装置10から発射された渦輪Cを端板10の法線方向に進行(直進)させることができる。
【0053】
一方、第1の吐出制御によって通気孔11ごとに吐出された空気の速度を異ならせることができることから、制御装置20は、吐出範囲内の第1の直線L1に線対象の通気孔11から吐出された空気の速度を等しく、又は、概ね等しくし、第1の直線L1に直交する第2の直線L2に線対象の通気孔11から吐出された空気の速度を異ならせるようにしてもよい。
【0054】
図5は、第1の吐出制御の他の例を説明するための概略図である。
図5を参照して、端板10に対して、水平方向に第1の直線L1、鉛直方向に第2の直線L2を設定したとき、制御部21は、中心Oからの距離(半径)が小さい位置(中心側)に配置されている通気孔11ほど吐出時間tを長くし、中心Oからの距離が大きい位置(外縁側)に配置されている通気孔11ほど吐出時間tを短くする。さらに、制御部21は、第1の直線L1に線対象の通気孔11については吐出時間tを同じく、又は、概ね等しくし、第1の直線L1に直交する第2の直線L2に線対象の通気孔11については一方側の吐出時間tを他方側より長くする。
【0055】
これにより、空気砲装置100から発射された渦輪Cを直進させず、第2の直線を軸にして、吐出される空気の圧力を低く、つまり、速度を遅くした通気孔11が配置された側にカーブさせることができると考えられる。つまり、第1の吐出制御は、さらに、空気砲装置100から発射される渦輪Cをカーブさせるための制御を含んでもよい。
【0056】
例えば、通気孔11ごとの吐出時間tと渦輪Cの進行方向との関係が制御装置20のメモリ22に予め記憶されており、制御部21は、入力部23で入力された渦輪Cの進行方向に応じた通気孔11ごとの吐出時間tをメモリ22から読み出して設定すればよい。第2の吐出制御、第3の吐出制御も同様である。上記の関係は、実験によって得られるものであってもよい。
【0057】
(第2の吐出制御)
第2の吐出制御では、第1の制御によって決定された吐出範囲内で、さらに弁33ごとの開放/閉止を制御する。
【0058】
第2の吐出制御では、中心Oからの距離(半径)が小さい位置(中心側)に配置されている通気孔11ほど吐出をONする通気孔11の間隔を小さくし、中心Oからの距離が大きい位置(外縁側)に配置されている通気孔11ほど吐出をONする通気孔11の間隔を大きくする。好ましくは、第2の吐出制御では、同心円周上に配置された通気孔11に対しては吐出をONする通気孔11の間隔を等しく、又は、概ね等しくする。
【0059】
吐出をONする通気孔11の間隔を変化させることは、吐出をONする空気孔11の密度を変化させることと同義である。そこで、第2の吐出制御において、制御装置20は、通気孔11の配置されている円周の半径Rに応じて吐出をONする通気孔11の密度dを決定し、その密度dに応じた間隔で弁33を開放させる。半径Rに応じた密度d(つまり弁33を開放する通気孔11の間隔)はメモリ22に予め記憶されていてもよいし、入力部23からユーザによって入力されてもよい。
【0060】
図6は、第2の吐出制御を説明するための概略図である。
図6の左側は空気砲装置100の端板10の概略正面図である。
図6の例では、端板10には、半径R1の円C1の円周上に配置された複数の通気孔11A、半径R2の円C2の円周上に配置された複数の通気孔11B、半径R3の円C3の円周上に配置された複数の通気孔11C、半径R4の円C4の円周上に配置された複数の通気孔11D、及び、半径R5の円C5の円周上に配置された複数の通気孔11Eが設けられている(R1>R2>R3>R4>R5)。
図6に示された例では、中心Oから半径R2の円周上の通気孔11までの吐出をONとしている。この場合、吐出範囲は半径R2の円の範囲である。
【0061】
制御部21は、半径R1に対しては密度d1を0と決定する。これは、円C1の円周上の通気孔11からは空気を吐出させない制御である。制御部21は、半径R2に対して密度d、半径R3に対して密度d3、及び、半径R4,R5に対して密度d5(d2<d3<d5)を決定する。
【0062】
各密度dに対応した、吐出をONする間隔は予め記憶されている。例えば、密度d5に対してはすべての通気孔の吐出をON、密度d5についてはONとOFFとを交互、密度d3についてはONとOFFとを交互とするよりも広い間隔、が予め記憶されている。制御部21は、対応した通気孔の弁33を所定時間、開放させて、空気圧回路13を動作させる。
【0063】
第2の吐出制御によって、制御装置20は、吐出範囲の中心側ほど吐出をONする通気孔の密度を高くし、外縁側ほど吐出をONする通気孔の密度を低くする。これにより、吐出範囲の中心側ほど吐出された空気の圧力が高く、外縁側ほど低くなる。その結果、
図6の右側に示されたように、吐出範囲の中心側ほど吐出された空気の速度が速く、外縁側ほど遅くできる(V5>V4>V3>V2)。すなわち、
図6の右側に示されたように、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VBを内側が高い凸形状の渦輪用速度分布とすることができる。また、密度dを変化させることで、吐出された空気の速度V2~V5を変化させることができる。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VBを内側が高い凸形状の渦輪用速度分布を維持して様々に変化させることができる。
【0064】
(第3の吐出制御)
渦輪の生成メカニズムを鑑みると、吐出される空気の速度分布を、内側を遅く、外縁側を速くした凹形状とすると、内巻きの渦輪が生成される可能性が考えられる。つまり、凹形状の速度分布も渦輪用速度分布と言える。そこで、制御装置20は、吐出範囲から吐出される空気の速度分布を凹形状の分布とするための吐出制御を行ってもよい。この吐出制御は、第1、第2の吐出制御と同様に行うことができる。
【0065】
[2.2 第2の実施の形態]
図7は、第2の実施の形態に係る空気砲装置100の構成を説明するための概略図である。
図7を参照して、第2の実施の形態に係る空気砲装置100では、調整部13Aが複数のポンプ31A,31Bを含む。ポンプ31Aは通気孔11Aに対応した弁33に印加圧力pとして第1の圧力p1の空気を供給し、ポンプ31Bは通気孔11Bに対応した弁33に、第1の圧力p1と異なる第2の圧力p2の空気を供給する。なお、
図7では、図の簡略化のため、ポンプ31A,31Bとレギュレータ32との間に設けられた圧力タンク34が省略されている。
【0066】
なお、通気孔11Aに対応した弁33に第1の圧力p1、及び、通気孔11Bに対応した弁33に第2の圧力p2の空気を供給する場合、
図7に示された2つのポンプ31A,31Bは必須ではない。調整部13Aは1つのポンプ31のみ含んでもよい。この場合、圧力タンク34の圧力を各弁33の印加圧力のうちの最も高い圧力以上とし、各気流管12に設けられたレギュレータ32が、それぞれ、圧力タンク34の空気を所定の圧力に変換(減圧)することで、通気孔11Aに対応した弁33に第1の圧力p1、及び、通気孔11Bに対応した弁33に第2の圧力p2の空気を供給することができる。
【0067】
このとき、中心Oからの距離(半径)が小さい位置(中心側)に配置されている通気孔11ほど印加圧力pが大きく、中心Oからの距離が大きい位置(外縁側)に配置されている通気孔11ほど印加圧力pが小さいポンプ31を配置するものとする。好ましくは、同心円周上に配置された通気孔11に対しては印加圧力pが等しく、又は、概ね等しくなるポンプ31を配置するものとする。
図6の例では、第2の圧力p2が第1の圧力p1よりも大きくなる(p2>p1)ポンプ31A,31Bを配置する。
【0068】
図8は、第2の実施の形態に係る空気砲装置100から吐出される空気の速度分布を説明するための図である。
図8の左側は空気砲装置100の端板10の概略断面図である。
図8の中央は、通気孔11A,11Bに対応した弁33への印加圧力pを示した図である。
図8を参照して、第2の実施の形態に係る空気砲装置100では、通気孔11Aに対応した弁33に対しては印加圧力p1の空気が、通気孔11Bに対応した弁33に対しては印加圧力p2(p1<p2)の空気が供給される。この状態で、制御部21は、空気圧回路13を動作させる。
【0069】
図8の右側は、吐出範囲から吐出された空気の速度分布を示す概略図である。
図8を参照して、第2の実施の形態に係る空気砲装置100では、通気孔11Bから吐出された空気の圧力が通気孔11Aから吐出された空気の圧力よりも高くなる。その結果、通気孔11Bから吐出された空気の速度V2が通気孔11Aから吐出された空気の速度V1よりも速くなる(V1<V2)。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VCを内側が高い凸形状の渦輪用速度分布とすることができる。
【0070】
なお、複数のポンプ31A,31Bのうち、少なくとも1つのポンプの印加圧力pは負圧(p<0)であってもよい。この場合、弁33に対しては減圧された空気が供給されるので、その弁33に対応した空気孔11からは外部空気が吸引される。
【0071】
図9は、第2の実施の形態に係る空気砲装置100から吐出される空気の速度分布の他の例を説明するための図である。第3の吐出制御の変形例を説明するための概略図である。
図9の左側は、
図4の左側と同じ空気砲装置100の端板10の概略断面図である。
図9の中央は、通気孔11A,11Bに対応した弁33への印加圧力pを示した図である。右側は、吐出範囲から吐出される空気の速度分布を示す概略図である。
図9の例では、通気孔11Aに対応した弁33に対しては負の印加圧力p1(p1<0)の空気が、通気孔11Bに対応した弁33に対しては正の印加圧力p2(p2>0)の空気が供給される。この状態で、制御部21は、空気圧回路13を動作させる。
【0072】
これにより、
図9の例では、正圧である印加圧力p2とした通気孔11Bからは空気が吐出され、負圧である印加圧力p1とした通気孔11Aから外部空気が吸引される。つまり、通気孔11Bから吐出された空気の速度は渦輪の進行方向の速度を持ち、通気孔11Aから吐出された空気の速度は渦輪の進行方向と逆向きの速度を持つとも言える。このため、この場合、吐出範囲は半径R2の円の範囲となる。
【0073】
また、正圧である印加圧力p2とした通気孔11Bから吐出された空気の圧力は、負圧である印加圧力p1とした通気孔11Aから吐出された空気の圧力よりも高い。そのため、通気孔11Bから吐出された空気の速度V2は、通気孔11Aから吐出された空気の速度V1よりも速くなる(V1<V2)。従って、このようにポンプ31A,31Bを設定することで、
図9の右側に示されたように、吐出範囲から吐出された空気の速度の包絡線VDを内側が高い凸形状、つまり、渦輪用速度分布に近づけることができ、さらに、そのコントラストが大きくなると考えられる。この結果、空気砲装置100で渦輪を生成できる可能性が高くなると考えられる。
【0074】
さらに、外縁側の通気孔11Aが外部空気を吸引することから、吐出範囲の最も外縁側の通気孔11Bから吐出された空気に対しては外部空気に加えて通気孔11Aで吸引される空気との間で摩擦が生じる。そのため、より高速な渦輪が生成されると考えられ、渦輪の飛距離を長くできると考えられる。このため、空気砲装置100から発射された渦輪がより直進すると考えられる。これにより、意図した位置に渦輪を命中させる可能性を高められるとともに、より遠くまで空気を運搬できると考えられる。
【0075】
<第2の実施の形態の変形例>
第2の実施の形態の変形例として、すべての通気孔11のうちの少なくとも一部の通気孔11を気流管12内の空気の放出には用いず、外部空気を気流管12内に吸引するためのみに用いてもよい。つまり、すべての通気孔11の中に、吸引専用の通気孔が含まれてもよい。吸引専用の通気孔に対応した気流管12には、負圧である印加圧力を印加するポンプが接続される。
【0076】
この場合、制御部21は、吸引専用の通気孔以外の複数の通気孔11に対して、上記の第1の制御及び第2の制御を行って個別に弁33の開閉を制御する。このとき、制御部21は、吸引専用の通気孔に接続された気流管12に設けられた弁33を閉止させる。これにより、吸引専用の通気孔から吸引された空気が当該通気孔から吐出されることを回避できる。
【0077】
その後、つまり、吐出範囲から吐出された空気の速度分布が所定の速度分布となり、渦輪が発射された後、制御部21は、吸引専用の通気孔に接続された気流管12に設けられた弁33を開放する。これにより、吐出された空気が吸引専用の通気孔から吸引される。そのため、空気砲装置100が後述の香り成分の運搬装置として用いられる場合には、放出する香り成分に吸引された香り成分が混入すること(コンタミ)を防止できる。
【0078】
[2.3 第3の実施の形態]
図7に示されたように、調整部13Aは、気流管12ごとに設置された複数のレギュレータ32を含んでもよい。複数のレギュレータ32は、気流管12ごとにポンプ31で印加する圧力を調整する。
【0079】
複数のレギュレータ32は制御装置20に接続される。制御装置20の制御部21は、レギュレータ32ごとに制御信号を入力して、レギュレータ32ごとに弁33に供給する空気の圧力を制御する。制御部21は、上記の第1の吐出制御及び第2の吐出制御において、さらに、ポンプ31の印加圧力pをレギュレータ32を用いて、弁33ごとに調整してもよい。
【0080】
[2.4 第4の実施の形態]
空気砲装置100を香り成分の運搬装置として用いる場合、
図2に示されるように、空気砲装置100は、香り成分を供給する供給機構16をさらに含む。供給機構16は、制御装置20からの制御信号によって香り成分の供給の開始、停止が指示される。
【0081】
供給機構16は、一例として、
図2,
図7に示されたように気流管12の途中に設けられて、気流管12内の空気に香り成分を供給する構成である。他の例として、通気孔11近傍に設けられて、通気孔11から放出される空気に香り成分を供給する構成であってもよい。以降の説明において、通気孔11に対して供給機構16が設けられていることは、当該通気孔11に接続された気流管12の途中に供給機構16が設けられていることと、通気孔11付近に設けられていることとを含む。
【0082】
供給機構16は、特定の機構に限定されない。例えば、EOポンプ(electroosmotic pump)とSAWデバイスとを利用したものであってもよい。EOポンプは、電気浸透流現象によってポンプに電圧を印加することで、電界に従う方向に液体と混合した香り成分を移動させるマイクロポンプである。SAWデバイスは、弾性表面波を利用して液体を霧化させる装置である。
【0083】
また、他の例として、供給機構16は、
図10に示されたような噴霧装置16Aであってもよい。
図10は、供給機構16としての噴霧装置16Aを備えた空気砲装置100の断面概略図である。噴霧装置16Aは、アルコール等の揮発性を有する液体と混合された香り成分を貯蔵する貯蔵タンク16bと、貯蔵タンク16bに接続した、先端が金属製のパイプ16aとを有し、パイプ16aの先端が、端板10の通気孔11が形成されていない位置に設けられた噴霧孔16cに接続されている。パイプ16aの先端にはコイル型のヒータが巻き付けられ、制御装置20からの制御に従って通電することによって内部を通過する混合液体を加熱することで気化させ、外部に香り成分を噴霧させる。通電が終了すると、表面張力によって混合液体がパイプ16aに貯まる。なお、パイプ16aに設けられるヒータはコイル型のヒータに限定されず、その他、例えば、面型のヒータやIH(Induction Heating)ヒータであってもよい。
【0084】
好ましくは、同一の香り成分を供給する供給機構16は、同一円周上に配置された通気孔11に対して設けられている。これにより、吐出制御を実行して通気孔11から空気を吐出させるとともに当該円周上に設置された通気孔11に対して設けられた供給機構16に香り成分を供給させることで、生成される渦輪Cによって香り成分を運搬させることができる。
【0085】
好ましくは、第3の実施の形態に係る空気砲装置100は異なる香り成分を供給する複数種類の供給機構16を含む。
図2,
図6に示されたように供給機構16が気流管12に設けられている場合には、複数の種類の供給機構16は、それぞれ、中心Oからの距離(半径)が異なる円周上に配置された通気孔11に対して設けられる。これにより、制御装置20の制御部21は、第1の実施の形態に係る吐出制御と同様に、中心Oからの距離(半径)が等しい円周上に配置された通気孔11ごとに、供給機構16での香り成分の供給を制御することができる。すなわち、複数の供給機構16がこのように配置されることで、第3の実施の形態に係る空気砲装置100では、複数の香り成分を個別に供給し分けることができる。
【0086】
[2.5 第5の実施の形態]
なお、以上の例では、
図1に示されたように、端板10に形成された複数の通気孔11は、概ね、同じ大きさとしている。しかしながら、これら通気孔11のサイズは同じでなくてもよい。好ましくは、同一の円周に沿って配置された通気孔11は同じ、又は、概ね同じ大きさである。これにより、吐出範囲から吐出された空気の速度分布のバランスをよくすることができる。好ましくは、半径Rが小さい円の円周上に配置された通気孔11ほどサイズが大きい。又は、好ましくは、半径Rが大きい円の円周上に配置された通気孔11ほどサイズが大きい。これにより、吐出範囲の中心側と外縁側とで吐出された空気の速度を異ならせることができる。
【0087】
[2.6 第6の実施の形態]
制御装置20での制御の他の例として、制御装置20は、各弁33の開放後の閉止時間を制御する。これにより、例えば、空気砲装置100から先の渦輪を発射した後の所定時間後に次の渦輪を発射させることができる。このとき、後の渦輪の発射時に先の渦輪の発射時よりも、吐出された空気の速度を全体に速くする吐出制御が行われることで、後の渦輪の進行速度を先の渦輪の進行速度よりも速くできる。そのため、各渦輪の進行速度を制御することで、目標位置にて先の渦輪に後の渦輪を衝突させることができる。渦輪が衝突すると、渦輪が解消される可能性が高い。そのため、目標物(例えば人)に先の渦輪を衝突させることなく、目標物より所定距離前の目標位置で後の渦輪を衝突させて、前の渦輪を解消させることができる。これにより、空気砲装置100を運搬装置としたときに、目標物への衝撃を抑えて、目標物に例えば香り成分などの対象物を運搬させることができる。
【0088】
[実験]
空気砲装置100は、通気孔11ごとに吐出される空気の圧力を変化させ、それにより吐出された空気の速度を変化させることができるため、空気砲100を用いて吐出範囲から吐出される空気の速度分布を様々に変化させて実験を行うことができる。実験の一例として、発明者らは空気砲装置100を用いて、実験1,2を行った。実験1は、通気孔11群から吐出される空気での渦輪の生成確率について検証する実験である。実験2は、空気砲装置100から発射される渦輪の飛距離と目標への命中確立とについて検証する実験である。なお、実験1,2に用いた空気砲装置100の端板10に形成された通気孔11群の配置は、
図5の正面概略図に示された配置と同じである。
【0089】
(実験1)
第1の実験では、通気孔11ごとの吐出のON/OFFを5パターン(パターン1~5)とし、パターンごとに吐出時間tを(30[msec])、40[msec]、50[msec]、60[msec]、70[msec]として、各50回、空気を吐出させ、目視により渦輪の生成の成否をカウントした。なお、目視で渦輪の成否を判断するために、通気孔11から吐出する空気に煙を混入した。
【0090】
図11の(A)~(E)は、それぞれ、パターン1~5を示す図であって、空気砲装置100の概略正面図である。図を参照して、パターン1は、吐出をONする通気孔が左右、上下で対称の位置であって、通気孔11E群,11D群をすべてONとし、通気孔11C群を半数よりやや多い数の通気孔の吐出をONとし、通気孔11B群を1/3の通気孔の吐出をONとし、通気孔11A群のすべてをOFFとするものである。パターン1は、第2の吐出制御に従うものである。
【0091】
パターン2,3は、いずれも、吐出をONする通気孔が左右で非対称の位置である。パターン2は、通気孔11E群をすべてONとし、通気孔11D群~通気孔11B群を交互に半分の通気孔の吐出をONとし、通気孔11A群のすべてをOFFとするものである。パターン3は、通気孔11E群,11D群をすべてONとし、通気孔11C群,11B群を交互に半分の通気孔の吐出をONとし、通気孔11A群のすべてをOFFとするものである。
【0092】
パターン4,5は、いずれも、吐出をONする通気孔が左右、上下で対称の位置である。パターン4は、通気孔11C群~11E群をすべてONとし、通気孔11D群を交互に半分の通気孔の吐出をONとし、通気孔11A群のすべてをOFFとするものである。パターン5は、通気孔11C群~11D群をすべてONとし、通気孔11A群のすべてをOFFとするものである。パターン4,5は、吐出範囲の中心側と外縁側とで吐出をONする通気孔の密度が概ね等しい。
【0093】
図12及び
図13は、第1の実験の実験結果を表した図であって、いずれも、横軸が吐出時間、縦軸が渦輪の生成回数のカウント結果を示している。
図12の(A)~(C)がパターン1~3の実験結果、
図13の(D),(E)がパターン4,5の実験結果を示している。各パターンの各吐出時間での棒グラフの長さは、そのパターンでその吐出時間での吐出を50回行ったうちの渦輪の生成が目視できた回数を示している。
【0094】
パターン1については、渦輪の生成回数は50回のうちの70%程度であり、第1の実験中、渦輪の生成確率が最も高い。結果(A)より、吐出時間による渦輪の生成回数の差はないものと考えられる。第2の吐出制御に従うパターン1では、吐出範囲から吐出される空気の速度分布が渦輪用速度分布となるため、渦輪の生成確率が高くなったと考えられる。
【0095】
パターン2,3の結果(B),(C)は、結果(A)と比較して渦輪の生成確率が低い。パターン2,3では吐出をONする通気孔11の配置が左右非対称であるために、左右の通気孔から吐出される空気量に差があり、そのために渦輪の生成確率が低くなったと考えられる。
【0096】
パターン4,5の結果(D),(E)は、第1の実験の中で渦輪の生成確率最もが低い。パターン4,5では吐出範囲の中心側と外縁側との吐出される空気の速度差がなく、渦輪用速度分布ではなかったために渦輪の生成確率が低くなったと考えられる。
【0097】
(実験2)
第2の実験では、的を貼付し、所定間隔で鉛直方向に糸を張ったネットを用い、上記パターン1,2について吐出時間を40~70[msec]の間で変化させ、的までの距離を60[cm]~120[cm]として、各10回、的の正面から吐出させ、目視により渦輪の的への命中、ネットへの到達、及び、未到達の回数をカウントした。なお、的への命中、ネットへの到達、及び、未到達は、それぞれ、的の揺れ、ネットの揺れ、及び、そのいずれもないこと、によって目視で判断した。
【0098】
図14~
図17は第2の実験の実験結果を表した図であって、
図14が的への距離が40[cm]、
図15が50[cm]、
図16が60[cm]、及び、
図17が70[cm]のときの実験結果であって、いずれの図でも(A)がパターン1、(B)がパターン2の実験結果を示している。なお、的への距離70[cm](
図16)については、パターン1のみ行っている。
【0099】
図14~
図17を比較して、パターン2よりもパターン1の方が的への距離がいずれの場合も渦輪の到達距離が長いことがわかる。また、パターン2よりもパターン1の方が渦輪の的への命中率が高いことがわかる。
【0100】
第2の実験の実験結果より、パターン2は吐出をONする通気孔11の配置が左右非対称であるために、左右の通気孔から吐出される空気量に差があり、左右対称のパターン1と比較して、(渦輪が生成された場合であっても)、渦輪の継続時間が短いと考えられる。そのため、渦輪がたとえネットまで到達したとしても、的に命中する確率がパターン1よりも低いと考えられる。
【0101】
以上の第1、第2の実験より、第2の吐出制御によって渦輪の生成確率が向上することが検証された。また、第2の吐出制御において吐出をONする通気孔11の配置を上下左右対称とすることによって渦輪の生成確率が向上するとともに、渦輪の到達距離が長くなり、そのために的への命中確率が向上することが検証された。その結果、この吐出制御によって目標とする位置に渦輪を到達できる可能性が高いと考えられる。
【0102】
なお、以上の実験は第2の吐出制御についての検証であるが、吐出時間をパラメータとする第1の吐出制御、及び、通気孔ごとの圧力をパラメータとする第3の吐出制御であっても、第2の吐出制御と同様に吐出範囲から吐出される空気の速度分布を渦輪用速度分布とするものであるため、以上の実験結果より第1の吐出制御及び第3の吐出制御であっても渦輪の生成確率が向上すると推察される。また、的への命中確率が向上すると推察される。従って、これら吐出制御でも目標とする位置に渦輪を到達できる可能性が高いと考えられる。
【0103】
以上のことから、本実施の形態に係る空気砲装置100は、例えば、香り成分などの、空気による運搬を行う運搬装置として有用に用いることができる。
【0104】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 :端板
10a :正面
10b :背面
10α :端板
11 :通気孔
11A :通気孔
11B :通気孔
11C :通気孔
11D :通気孔
11E :通気孔
11F :通気孔
11α :通気孔
12 :気流管(分岐気流管)
12A :単一気流管
12α :気流管
13 :空気圧回路
13A :調整部
16 :供給機構
16A :噴霧装置
16a :パイプ
16b :貯蔵タンク
16c :噴霧孔
20 :制御装置
21 :制御部
22 :メモリ
23 :入力部
31 :ポンプ
32 :レギュレータ
33 :弁
33 :圧力タンク
100 :空気砲装置
100α :空気砲装置
C :渦輪
O :中心
R1 :半径
R2 :半径
R3 :半径
R4 :半径
R5 :半径
V1 :速度
V2 :速度
V3 :速度
V4 :速度
V5 :速度
VA :包絡線
VA’ :包絡線
VB :包絡線
VC :包絡線
VD :包絡線
d :密度
d2 :密度
d3 :密度
d5 :密度
p :印加圧力
p1 :印加圧力
p2 :印加圧力
t :吐出時間
t1 :吐出時間
t2 :吐出時間