IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テクノファージ インヴェスティガサォン エ デセンヴォルヴィメント エム ビオテクノロジア エスィアーの特許一覧 ▶ テクニファー−インダストリア テクニカ ファーマシューティカ,エス.エー.の特許一覧

特許7154543呼吸器抗菌性ファージを含むバクテリオファージ組成物、およびその使用法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】呼吸器抗菌性ファージを含むバクテリオファージ組成物、およびその使用法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20221011BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221011BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20221011BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20221011BHJP
   A61L 2/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61P31/04
C12N7/00
C12Q1/04
A61L2/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019550541
(86)(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 PT2017050028
(87)【国際公開番号】W WO2018106135
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】62/430,113
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42915
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42916
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42917
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42913
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42914
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42918
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42919
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 42920
(73)【特許権者】
【識別番号】519200931
【氏名又は名称】テクノファージ インヴェスティガサォン エ デセンヴォルヴィメント エム ビオテクノロジア エスィアー
【氏名又は名称原語表記】TECHNOPHAGE, INVESTIGACAO E DESENVOLVIMENTO EM BIOTECNOLOGIA, SA
(73)【特許権者】
【識別番号】511189218
【氏名又は名称】テクニファー-インダストリア テクニカ ファーマシューティカ,エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】コルテ-レアル,ソフィア ヴァルケル
(72)【発明者】
【氏名】コスタ ガルシア,ミゲル アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス レアンドロ,クララ イザベル
(72)【発明者】
【氏名】マルティンス バルボサ,アナ ラケル
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-541333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0217268(US,A1)
【文献】特表2015-512384(JP,A)
【文献】Future Microbiol. (2013) vol.8, no.6,p.769-783
【文献】Microb. Biotechnol. (Sep 2015) vol.9,issue 1, p.61-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/76
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3種のバクテリオファージを含む医薬組成物であって、前記バクテリオファージのそれぞれが、NCIMB(NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,UK)に、NCIMB 42915の受託番号で寄託されたバクテリオファージ、NCIMB 42916の受託番号で寄託されたバクテリオファージ、およびNCIMB 42917の受託番号で寄託されたバクテリオファージであり、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する、前記医薬組成物。
【請求項2】
緑膿菌に対する抗菌活性を有する1種または2種以上の追加のバクテリオファージをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
エアロゾルとして投与するために製剤化されている、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
NCIMB(NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,UK)に、NCIMB 42915の受託番号で寄託され、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する、精製バクテリオファージ。
【請求項5】
請求項4に記載の精製バクテリオファージ、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項6】
必要とする対象において、細菌感染症を治療するまたはその発症を低減するために使用するための、請求項1~3および5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記細菌感染症が緑膿菌細菌株により引き起こされる、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記細菌感染症が、呼吸器感染症である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記呼吸器感染症が、院内細菌性肺炎、または嚢胞性線維症に関連する感染症、または人工呼吸器関連肺炎である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が該組成物の最初の投与の約4~6時間後に再投与される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
細菌感染症の原因物質を診断するためのデータを作成する方法であって、
(i)患者からの組織試料を培養するステップ;
(ii)ステップ(i)の培養物を、請求項4に記載のバクテリオファージと接触させるステップ;および
(iii)前記培養物の増殖または溶解の形跡をモニタリングするステップ;
を含み、前記培養物の溶解の形跡は、ステップ(ii)で用いられた前記バクテリオファージに感受性を有することが分かっている細菌株を前記培養物が含むことを示す、前記方法。
【請求項12】
前記組織試料が、前記患者の気道から採取した組織生検またはスワブである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
表面における細菌のコロニー形成もしくは増殖を低減または阻害する方法であって、前記表面を請求項4に記載のバクテリオファージと接触させることを含前記表面が非生体表面である、前記方法。
【請求項14】
前記表面が、病院の装置または病院設備の表面である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記病院の装置または前記病院設備の表面が、手術用装置または手術用設備の表面である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
配列表
本出願は、優先権書類においてEFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出した配列表を含み、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。2016年10月28日に作成された前記ASCIIのコピーは、14116_105017P_SL.txtという名称であり、2,217,676バイトのサイズである。110
【0002】
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2016年12月5日出願の米国仮特許出願第62/430,113号に基づく優先権を主張する。
【技術分野】
【0003】
本出願は、細菌感染症、特に細菌性肺炎などの呼吸器細菌感染症を治療および制御するためのファージ療法分野に関する。より具体的には、本発明は、F99/10、F27/12、Psa_F95/13、F391/08、Kle_F92/15、Kle_F105/15、Kle_F134/15、Kle_F141/15、ならびにそれらのバリアントを含めた新規なバクテリオファージ株、その産物およびカクテル;ならびに、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および/またはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)によって引き起こされる呼吸器感染症を含めた細菌感染症の治療および予防においてそれらを使用する方法に関する。カクテルは、単独でまたは他の療法(例えば、抗生物質もしくは呼吸器感染症のための他の標準的および非標準的な療法)とさらに組み合わせて、医薬組成物として使用される。
【背景技術】
【0004】
バクテリオファージ(ファージ)は、具体的には、細菌に感染しそれを溶解するウイルスである。ファージ療法、すなわち細菌感染性疾患の治療にファージウイルス全体を使用する方法は、Felix d’Herelleによって1920年代に導入された。しかしながら、西洋では、1940年代に抗生物質が開発されたことにより、ファージに基づく治療法への関心は減退した。この減退に寄与する最も重要な要因のうちの1つは、標準化された試験および生成方法がないことであった。ファージ療法の試験に関する業界全体の標準を開発できなかったことが研究結果の文書化を妨げ、これが、ファージ療法の価値に関して、有効性に欠けているという認識および信用性の問題につながった。ファージ生成における別の問題は、市販のファージ調製物の純度グレードに関連しており、調製物は望ましくない細菌性成分(例えば内毒素)を含んでいた。従って、有害事象は、特に静脈内にそれらを投与される患者において、調製物と関連することが多かった。
【0005】
それにもかかわらず、東欧およびかつてのソビエト連邦では、抗生物質の利用が限られており、ファージ療法の開発および使用が、抗生物質と共にまたは抗生物質の代わりに続いた。さらに、西洋では、多くの細菌の抗生物質耐性株の台頭と共に、ファージに基づく治療法への関心が戻ってきた。すなわち、たとえ新規なクラスの抗生物質が開発されたとしても、細菌が最終的にその新しい薬物に対する耐性を生じるという見通しによって、細菌感染症を制御、予防および治療するための非化学療法的手段の探索が強化された。
【0006】
ファージ療法、および特にファージカクテルは、細菌感染症、特に院内肺感染症を含めて呼吸器感染症の治療のための抗生物質の代替を提示する。呼吸器感染症は、毎年400万人を超える死亡の原因となる。院内細菌性肺炎(HABP)は急性肺感染症であり、集中治療室で獲得する最も頻度の高いタイプの感染症の1つであり、死亡率の上昇(33~41%の範囲)に関連する(非特許文献1)。院内肺感染症は、典型的には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、グラム陰性腸内細菌科細菌(クレブシエラ・ニューモニエなど)、またはグラム陰性非腸内細菌科細菌(緑膿菌およびアシネトバクター属菌など)により生じる(非特許文献2および3)。
【0007】
抗生物質療法がHABPにおいて日常的に用いられるが、多剤耐性(MDR)細菌、特にグラム陰性細菌のための治療選択肢は乏しい。最近は新たなクラスの薬物は導入されておらず、現在利用可能な少ない選択肢として、コリスチン、チゲサイクリン、およびホスホマイシンが挙げられる。重篤な院内感染に対して、抗生物質の選択肢は非常に少ない(非特許文献4)。
【0008】
抗生物質のエアロゾル投与は、抗生物質の静脈内投与と比較して、より多くの抗生物質を肺実質に送達させることができる(非特許文献5)。しかしながら、気道および肺実質への直接的な抗生物質毒性による副作用のせいで、今日まで、肺感染症の治療において、エアロゾル化されたコリスチンなどの抗生物質を用いることの明確な臨床的利益はない。それらには、例えば、粘膜刺激、ならびにアミノグリコシドおよびポリミキシンの腎毒性などの、抗生物質の全身吸収により生じる副作用が含まれる(非特許文献6および7)。
【0009】
様々な試験において、異なる経路を介して投与されるバクテリオファージを用いて細菌性肺感染症を治療することが試みられた(非特許文献8~10)。しかしながら、確立された感染をエアロゾル化バクテリオファージが治癒させる実験的研究の証拠はほとんど発表されていない(非特許文献11)。以前公開された試験は、確立された感染におけるバクテリオファージのエアロゾル投与の効果を評価しておらず、ほとんどが感染のほんの数時間後の結果を検査している(非特許文献12および13)。さらに、おそらく、貯蔵安定性を維持しながらファージの異なる特異性を組み合わせるのが困難であるために、異なる細菌に対して抗微生物活性を有するファージカクテルはほとんど存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Guzman-Herrador B, et al, 2014, Hosp Infect 86(l):53-56
【文献】Quartin AA, et al., 2013, BMC Infect Dis 13:561-566
【文献】Di Pasuale M, et al, 2014, Crit Care Med 42(2): 303-312
【文献】Orsi GB, et al, 2011, Expert Rev Anti Infect Ther 9(8):653-679
【文献】Luyt CE, et al, 2009, Crit Care 13(6):R200
【文献】Luyt CE, et al., 2013, Expert Rev Anti Infect Ther 11 (5): 511-521
【文献】Quon BS, et al, 2014, Ann Am Thorac Soc ll(3):425-434
【文献】Hoe S, et al., 2013, J Aerosol Med Pulm Drug Deliv 26:317- 335
【文献】Morello E. et al, 2011, PLoS One 6(2): el6963
【文献】Debarbieux L, et al, 2010, J Infect Dis 201(7): 1096-1104
【文献】Ryan EM, et al, 2011, Pharm Pharmacol 63: 1253-1264
【文献】Wilson KR, et al, 200, Microbiology 153(Pt 4):968-979
【文献】Alemayehu D. et al, 2012, MBio 3(2):e00029-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、病原性細菌、特に肺の細菌に対して、in vivoで使用するための治療剤および/または予防剤として新規なファージ産物を開発する必要性が依然としてある。また、呼吸器感染症、好ましくは院内細菌性肺炎、あるいは嚢胞性線維症に関連する感染症または人工呼吸器関連肺炎のための、より良好な治療、特にエアロゾル治療の必要性もある。特に、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエ細菌を含めて、院内呼吸器感染症の原因となる細菌を溶解することができるバクテリオファージカクテルの必要性がある。この出願はこれらおよび他の必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
新規な緑膿菌バクテリオファージおよびクレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージ、ならびに細菌感染症の治療におけるそれらの使用を提供する。本明細書に記載のバクテリオファージまたは本明細書に記載のバクテリオファージの2つ以上の組合せを含む医薬組成物は、細菌感染症、特に緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエ感染症の治療、管理または予防に使用され得る。そのような医薬組成物は、呼吸器感染症の治療、管理または予防において特に有用となり、その組成物は肺送達用に製剤化され得る。
【0013】
本発明の1つの態様は、新規な緑膿菌バクテリオファージおよびクレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージに関する。一部の実施形態では、配列番号1、2、または3(それぞれ、緑膿菌ファージF99/10、F10/10、またはF27/12に対応する)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する精製バクテリオファージを提供する。一部の実施形態では、本発明は、配列番号4(緑膿菌ファージF83/13に対応する)に対して少なくとも95%の配列同一性または配列番号5(緑膿菌ファージF95/13に対応する)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する精製バクテリオファージを提供する。好ましい実施形態では、バクテリオファージは、配列番号1(F99/10)、配列番号2(F10/10)、配列番号3(F27/12)、配列番号4(F83/13)、配列番号5(F95/13)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含む。これら前述したヌクレオチド配列は、記載されるバクテリオファージのゲノムを含むかまたはからなることが理解されるであろう。
【0014】
一部の態様では、上記のバクテリオファージゲノムは、第1のまたは主要なコンティグ配列に対応し、そこにはファージゲノムを完成させるのに使用するための、ファージの完全ゲノム(comple genome)に関連する追加のコンティング配列(通常かなり短い配列)が残っている。
【0015】
特に、配列番号5は、43,020塩基対の第1のコンティグ配列に対応する。配列番号634~636はそれぞれ、関連する第2、第3および第4のコンティングに対応する。
【0016】
配列番号7は、29,868塩基対の第1のコンティグ配列に対応する。配列番号637~653はそれぞれ、関連する第2~第18のコンティングに対応する。
【0017】
配列番号8は、17,247塩基対の第1のコンティグ配列に対応する。配列番号654~698はそれぞれ、関連する第2~第46のコンティングに対応する。
【0018】
配列番号9は、10,090塩基対の第1のコンティグ配列に対応する。配列番号699~747はそれぞれ、関連する第2~第50のコンティングに対応する。
【0019】
配列番号10は、32,105塩基対の第1のコンティグ配列に対応する。配列番号748~749はそれぞれ、関連する第2および第3のコンティングに対応する。
【0020】
一部の実施形態では、本発明は、配列番号7(クレブシエラ・ニューモニエファージF92/15に対応する)に対して少なくとも90%の配列同一性、または配列番号8(クレブシエラ・ニューモニエファージF105/15に対応する)に対して少なくとも99%の配列同一性、または配列番号9(クレブシエラ・ニューモニエファージF134/15に対応する)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(クレブシエラ・ニューモニエファージF141/15に対応する)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する精製バクテリオファージを提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、本発明のバクテリオファージまたはファージ産物、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。一部の実施形態では、医薬組成物は、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する1種または2種以上の追加のバクテリオファージまたはファージ産物をさらに含む。一部の実施形態では、組成物は、それを必要とする対象に組成物を投与する際に約1~約10の感染多重度(MOI)を提供する量でバクテリオファージが存在する剤形に製剤化される。好ましい実施形態では、組成物はエアロゾルとしての投与用に製剤化される。
【0022】
本発明の別の態様は、カクテル組合せ中に2つ以上の異なる精製バクテリオファージを含む組成物に関する。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも2つの異なるファージを含む医薬組成物に関し、各ファージは、配列番号1、または3(それぞれ、緑膿菌ファージF99/10またはF27/12に対応する)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号5(緑膿菌ファージF95/13に対応する)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号6(クレブシエラ・ニューモニエファージF391/08に対応する)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(クレブシエラ・ニューモニエファージF92/15に対応する)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(クレブシエラ・ニューモニエファージF105/15に対応する)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(クレブシエラ・ニューモニエファージF134/15に対応する)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(クレブシエラ・ニューモニエファージF141/15に対応する)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する。特に好ましい実施形態では、バクテリオファージは、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、配列番号5(F95/13)、配列番号6(F391/08)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含む。
【0023】
一部の実施形態では、組成物は3つの異なるバクテリオファージを含み、各ファージは、配列番号1、3、または5(それぞれ、ファージF99/10、F27/12、またはF95/13に対応する)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸分子を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する。一部の好ましい実施形態では、組成物は5つの異なるバクテリオファージを含み、各ファージは、配列番号1または3に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号4(F83/13)に対して少なくとも95%の配列同一性、または配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸分子を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する。さらに好ましい実施形態では、組成物は、エアロゾルとしての投与のためおよび肺送達のために製剤化される。
【0024】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象において細菌感染症を治療する、または細菌感染症の発症を低減する、または細菌感染症を管理する方法であって、前記対象に治療または予防有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む方法、ならびにこれに関連する医薬組成物の使用に関する、一部の実施形態では、細菌感染症は、1または2以上の公知の抗生物質に対して耐性を示すおよび/またはバイオフィルムを形成することができる細菌株を含めて、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエ菌株により引き起こされる。好ましい実施形態では、治療すべきまたは発症を低減すべき細菌感染症は、呼吸器感染症、より好ましくは、院内細菌性肺炎、または嚢胞性線維症に関連する呼吸器感染症である。特に好ましい実施形態では、組成物をエアロゾルとして肺に投与する。一部の実施形態では、組成物を、最初の投与の約4~6時間後に再投与する。
【0025】
本発明の別の態様は、細菌感染症の原因物質(causative agent)を診断する方法であって、(i)スワブまたは喀痰、あるいは感染を生じさせる細菌を培養するのに適した他の試料などの、患者からの試料を培養するステップ;(ii)ステップ(i)の培養物を、本発明のバクテリオファージまたはファージ産物と接触させるステップ;および(iii)前記培養物の増殖または溶解の形跡(evidence)をモニタリングするステップ;を含み、前記培養物の溶解の形跡は、ステップ(ii)で用いられたバクテリオファージまたはファージ産物に感受性を有することが分かっている細菌株を含むことを示す方法に関する。一部の実施形態では、試料は、患者の気道から採取した組織生検またはスワブである。例えば、試料は、気管支肺胞洗浄液または気管支分泌物を含んでいてよい。
【0026】
本発明のさらに別の態様は、表面における細菌のコロニー形成または増殖を低減または阻害する方法であって、前記表面を本発明のバクテリオファージまたはファージ産物と接触させることを含む方法を提供する。一部の実施形態では、前記表面は、哺乳動物の粘膜、好ましくはヒトの気道の粘膜である。一部の実施形態では、表面は、非生体表面、好ましくは病院の装置または病院設備の表面、より好ましくは手術用装置または手術用設備の表面である。
【0027】
定義
本明細書で使用する場合、核酸分子の文脈における用語「単離(された)」は、第1の核酸分子の天然源に存在する他の核酸分子から分離された第1の核酸分子を意味する。「orf」またはファージゲノムなどの「単離」核酸分子は、組換え技術によって産生された場合は、他の細胞物質または培地を実質的に含んでおらず、あるいは化学的に合成された場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含んでおらず;さらに例えば、核酸ライブラリー中の他のクローンからまたは単離ファージから精製および単離された場合は、他のDNAまたは他のゲノムDNA分子を含んでいない可能性がある。さらに、「単離」ゲノムDNAは、組換え技術によって産生された場合またはファージから単離された場合は、他のウイルス物質もしくは細胞物質または培地を実質的に含んでおらず、あるいは化学的に合成された場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含んでおらず、さらに例えば、他のバクテリオファージまたは細胞材料を含有する調製物から精製および単離された場合は、他のDNAまたは他のゲノムDNA分子を含んでいない可能性がある。
【0028】
バクテリオファージに関する用語「精製(された)」は、任意の精製方法(これらに限定されないが、環境または培養物からの単離、例えば、増殖および/または増幅、遠心分離などの後の培養物からの単離を含む)によって、ファージの濃度がある程度まで高められ、それによって、部分的に、実質的に、ほぼ完全にまたは完全に、例えば宿主細胞および宿主細胞成分などの不純物が除去されたことを意味する。当業者であれば、所定の使用に必要な精製量を理解するであろう。例えば、ヒトへの投与が意図された治療組成物で使用するための精製ファージは、規制基準および適正製造基準に準拠して高純度でなければならない。
【0029】
ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質または核酸分子に関する用語「精製(された)」は、任意の精製方法(これらに限定されないが、カラムクロマトグラフィ、HPLC、沈殿、電気泳動などを含む)によって、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質または核酸分子の濃度がある程度まで高められ、それによって、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質または核酸分子の調製に関連する前駆体または他の化学物質などの不純物が、部分的に、実質的に、ほぼ完全にまたは完全に除去されたことを意味する。当業者であれば、所定の使用に必要な精製量を理解するであろう。例えば、ヒトへの投与が意図された治療組成物で使用するための単離および精製されたゲノムDNAまたはタンパク質またはポリペプチドは、通常、規制基準および適正製造基準に準拠して高純度でなければならない。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「バクテリオファージ産物」または「生物活性バクテリオファージ産物」は、本発明のバクテリオファージから単離または誘導され、かつそれが単離または誘導された元のバクテリオファージに関連する生物学的機能または活性(例えば、溶解による殺細胞などの抗菌活性)を保持しているタンパク質、またはその断片もしくはバリアント、ならびにそれらをコードする核酸を意味する。
【0031】
本明細書で使用する場合、ヌクレオチド配列の文脈における用語「バリアント(variant)」は、基準核酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むかまたはからなるヌクレオチド配列を意味する。基準核酸配列の1つ以上の機能を保持するバリアントを選択してもよい。例えば、バリアントバクテリオファージは、例えばそれが由来するバクテリオファージの抗菌活性(例えば溶菌性殺活性)などの、少なくとも1つの生物活性を示し得る。当業者であれば、所定のファージは、抗生物質としてのその産生中を含めて、それが複製するときに少なくとも1%の変異(variation)を示すように、ファージにおける核酸複製が100%未満の正確さであることを理解するであろう。ファージの製造および使用中の予測されるゲノム変異は、親ゲノムのヌクレオチド配列に対して、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有するバリアントである子孫をもたらし得る。ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、親ファージのヌクレオチド配列に対して、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、かつ親ファージの標的(宿主)細菌に対する抗菌活性を保持する。
【0032】
例えば、ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)または配列番号5(F95/13)に対して、少なくとも約95%、少なくとも約96%、または少なくとも約97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなり、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を保持する。ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号8(F105/15)または配列番号9(F134/15)に対して少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなり、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を保持する。
【0033】
本明細書中の新規なファージのいずれかに関して用語「子孫」は、本明細書で特定されている特定核酸のバクテリオファージの継代培養に従い、または当業者に公知の方法により、産生される子孫を含むバクテリオファージ複製物、あるいは本明細書で特定されている特定核酸のバクテリオファージに実質的に相当するRFLP(制限断片長多型)DNAプロファイルを有するバクテリオファージを意味する。用語「実質的に相当するまたは等しいRFLPを有する」は、Tenoverらにより示唆される方法に従い生物間での変動性を表すために表現される(Tenover, F. C. et al. Interpreting Chromosomal DNA Restriction Patterns Produced by Pulsed-Field Gel Electrophoresis: Criteria for Bacterial Strain Typing. J. Clin. Microbiol 33:2233-2239 (1995))。Tenoveらは、同一の増殖生物のゲノムを制限酵素で制限し、その後電気泳動するという条件で、許容レベルの変動性を示唆する。Tenoverらにより示唆される基準に従えば、相当するRFLP DNAプロファイルを有する子孫は、本明細書で特定されている特定核酸のバクテリオファージに実質的に相当するバクテリオファージ、すなわち、実質的に、配列番号1~10の何れかのヌクレオチド配列を有する核酸配列を含むバクテリオファージの同等物であると考えることができる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「コンティグ」は、コンティングを作成するためにより大きな配列(例えば、バクテリオファージのゲノムに対応する)の断片の重なり合うリードを一組の重なり合わない領域内につなげる(merging)ことに基づきアセンブルされたヌクレオチド配列を意味する。最初に、シークエンシングエラー(配列決定誤差)または上記のような生物学的変動のせいである例えば許容されるミスマッチ(ヌクレオチド位置での変動)の数に基づき2つ以上のコンティグを得ることができる。従って、コンティグは重なり合う配列の異なる配置(arrangement)を表す。コンティグをさらに解析および再配置して、例えば完全ゲノム配列などの完全配列の全てまたはほとんどを作成することができる。例えば、ファージF95/13のゲノムは、配列番号5(43,020塩基対の第1のコンティグ配列に対応する)に対応する核酸、ならびに配列番号634~636(それぞれ、このファージの完全長遺伝子配列決定のための関連する第2、第3および第4のコンティングに対応する)に対応する核酸配列により表される。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「宿主細胞」は、核酸分子をトランスフェクトさせた特定の対象細胞、ならびにその核酸分子またはその染色体に組み込まれた形態を含むそのような細胞の子孫または潜在的子孫を意味する。そのような細胞の子孫は、次世代で起こり得る突然変異もしくは環境の影響、または宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組込みのせいで、核酸分子をトランスフェクトさせた親細胞と同一でない場合もある。「宿主細胞」は、そこでバクテリオファージが生きおよび複製する、バクテリオファージ(例えばファージ全体)が感染した細菌細胞などの細胞も意味する。バクテリオファージの生成に関して、宿主細胞は、それからバクテリオファージが単離または培養されたものと同じ種または株であってもまたはそうでなくてもよい。
【0036】
本明細書において使用される場合、用語「断片」は、完全長タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも5個の連続するアミノ酸残基、少なくとも10個の連続するアミノ酸残基、少なくとも15個の連続するアミノ酸残基、少なくとも20個の連続するアミノ酸残基、少なくとも25個の連続するアミノ酸残基、少なくとも40個の連続するアミノ酸残基、少なくとも50個の連続するアミノ酸残基、少なくとも60個の連続するアミノ酸残基、少なくとも70個の連続するアミノ酸残基、少なくとも連続する80個のアミノ酸残基、少なくとも連続する90個のアミノ酸残基、少なくとも連続する100個のアミノ酸残基、少なくとも連続する125個のアミノ酸残基、少なくとも150個の連続するアミノ酸残基、少なくとも連続する175個のアミノ酸残基、少なくとも連続する200個のアミノ酸残基、または少なくとも連続する250個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むペプチドまたはポリペプチドを意味する。特定の実施形態では、断片は、それが単離されるタンパク質の少なくとも1つの機能(例えば、溶菌による殺細胞などの抗菌活性)を保持しているという点で機能的断片である。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「組み合わせて」または「さらなる組合せで」または「さらに組み合わせて」は、本発明のバクテリオファージまたはファージ産物(本発明の異なるバクテリオファージのファージカクテルを含む)と共に、追加の予防剤および/または治療剤を使用することを意味する。用語「組み合わせて」の使用は、予防剤および/または治療剤を対象に投与する順序を制限するものではない。第1の予防剤または治療剤を、第2の予防剤または治療剤(第1の予防剤または治療剤とは異なる)の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8間週または12週間前)に、第2の予防剤または治療剤の投与と同時に、あるいは第2の予防剤または治療剤の投与の後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間後)に対象に投与してよい。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「ブースト」または「ブースター」は、本発明のバクテリオファージ、ファージ産物、またはファージカクテルの反復投与など、同じまたは実質的に同じ予防剤および/または治療剤の後続の繰返し使用を意味する。予防剤または治療剤を、同じまたは実質的に同じ予防剤または治療剤の第2の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間前)に対象に最初に投与してよい。
【0039】
本明細書で使用する場合、「予防剤(単数)」および「予防剤(複数)」という用語は、疾病または疾患、特に細菌感染症に関連する疾病または疾患、さらに特に、院内感染細菌性肺炎、または嚢胞性線維症に関連する呼吸器細菌感染症などの、呼吸器細菌感染症に関連する疾病または疾患の、1または2以上の症状の予防、管理または制御、あるいはその発症の低減において使用することができる、本発明のバクテリオファージ、ファージ産物、またはファージカクテルなどの薬剤を意味する。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「治療剤(単数)」および「治療剤(複数)」は、疾病または疾患、特に細菌感染症に関連する疾病または疾患、さらに特に、院内感染細菌性肺炎、または嚢胞性線維症に関連する呼吸器細菌感染症などの、呼吸器細菌感染症に関連する疾病または疾患の、1または2以上の症状の治療、管理または制御において使用することができる、本発明のバクテリオファージ、ファージ産物、またはファージカクテルなどの薬剤を意味する。
【0041】
本明細書において使用される場合、「治療する(treat)」、「治療(treatment)」、および「治療すること(treating)」という用語は、医薬組成物を受けた対象において治療的利益を得ることを意味する。治療的利益の達成に関して、その目的は、病的状態または疾患に関連する症状または根本原因(例えば細菌感染)を消失させる、軽減する、その重篤性を低減する、緩和する、またはその進行を遅らせることである。「治療有効量」は、医薬組成物を受けている対象において少なくとも1つの治療的利益を達成するのに十分である、本発明の医薬組成物中のバクテリオファージまたはファージ産物などの治療剤の量を意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「予防する」、「予防」および「予防すること」は、医薬組成物を受けている対象において、予防的利益を得ることを意味する。予防的利益の達成に関して、その目的は、病的状態または疾患に関連する症状または根本原因(例えば、細菌感染)を遅延させる、発症を減らす、または防止することである。「予防有効量」は、医薬組成物を受けている対象において少なくとも1つの予防的利益を達成するのに十分である、本発明の医薬組成物中のバクテリオファージまたはファージ産物などの予防剤の量を意味する。
【0043】
本明細書で使用する場合、バクテリオファージまたはバクテリオファージ産物(例えばファージタンパク質)、あるいはそれらのバリアントまたは断片に関連する用語「抗菌活性」および「抗微生物活性」は、微生物、特に、バクテリオファージが感染する細菌の種もしくは株を殺傷するおよび/またはその増殖もしくは生殖を阻害する能力を意味する。ある実施形態では、抗菌活性は、細菌、例えば、グラム陰性細菌(緑膿菌またはクレブシエラ・ニューモニエ)を、標準的な手法(例えば、液体培養または寒天プレートで)に従って培養し、その培養物を、本発明のバクテリオファージ、ファージタンパク質、またはそれらのバリアント、あるいはバクテリオファージ、ファージタンパク質、またはそれらのバリアントのカクテルと接触させ、さらに前記接触後に細胞増殖をモニタリングすることによって評価される。例えば、液体培養では、培養物の指数増殖の中間点を表す光学密度(「OD」)まで細菌を増殖させてよく;この培養物を、1つまたは2つ以上の濃度の本発明の1種または2種以上のバクテリオファージ、バクテリオファージ産物またはそれらのバリアントに曝露させ、対照培養物と比較してODをモニタリングする。対照培養物と比較して低下したODは、抗菌活性(例えば溶菌性殺活性)を示すファージまたはファージ産物を表す。同様に、細菌コロニーを寒天プレート上に形成させることができ、このプレートを本発明の1種または2種以上のバクテリオファージまたはファージ産物、あるいはそれらのバリアントに曝露し、その後のコロニー増殖を、対照プレートと関連付けて評価する。コロニーサイズの低減またはコロニー総数の減少は、抗菌活性を有するファージまたはファージ産物を示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明のバクテリオファージで急性肺感染症を治療するマウスモデルを使用するための試験設計を示す。
図2】本発明のバクテリオファージ組成物のエアロゾル投与のためのクラスII生物学的安全キャビネット内で使用するための噴霧システムを示す。
図3】F99/10ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその下にさらにリストして示す。
図4】F27/12ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右にさらにリストして示す。
図5】F95/13ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右にさらにリストして示す。
図6】F391/08ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右および下にさらにリストして示す。
図7】Kle_F92/15ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右および下にさらにリストして示す。
図8-1】Kle_F05/15ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右および下にさらにリストして示す。
図8-2】図8-1の続き
図9】透過電子顕微鏡を用いて、バクテリオファージF99/10(A)、F27/12(B)、およびPsa_F95/13(C)の形態学的特徴を示す。
図10】透過電子顕微鏡用いて、バクテリオファージF391/08(A)、Kle_F92/15(B)、およびKle_F105/15(C)の形態学的特徴を示す。
図11】MOI=1を用いた緑膿菌F99/10、F27/12およびPsa_F95/13ファージの個々の溶菌曲線を示す。
図12】MOI=10を用いた緑膿菌F99/10、F27/12およびPsa_F95/13ファージの個々の溶菌曲線を示す。
図13】MOI=10を用いた緑膿菌F99/10、F27/12およびPsa_F95/13ファージの組み合わせた溶菌曲線を示す。
図14】MOI=10を用いたクレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージの個々の溶菌曲線を示す。
図15】MOI=10を用いたクレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージの組み合わせた溶菌曲線を示す。
図16】緑膿菌1992/05株に関して、感染後34時間で、処置後22時間の肺の細菌数に基づき、in vivoでのF99/10、F27/12およびPsa_F95/13のバクテリオファージカクテルの効果を示す。
図17】陰性対照群、緑膿菌1992/05感染群、緑膿菌1992/05抗生物質処置群、および緑膿菌1992/05ファージ処置群由来のマウスの肺の切片からの、(A)マウスの肺組織切片のヘマトキシリン・エオジン染色した光顕微鏡写真、および(B)肺胞腔および隔壁の詳細を示す。
図18】t0、t1、およびt3に創傷をスワブし、細菌コロニー形成単位の数を感染群とF99/10、F27/12およびPsa_F95/13のファージカクテルでの処置群との間で比較した、創傷の細菌負荷量を示す。
図19】緑膿菌1992/05感染、F99/10、F27/12およびPsa_F95/13のファージカクテルでのファージ処置、およびビヒクルに暴露したラットにおける皮膚創傷の顕微鏡写真を示す。
図20】ファージF99/10およびF27/12の溶解物から抽出したDNAからの16s rRNA遺伝子のPCR増幅領域(8~1525bp)のアガロースゲル電気泳動を示す。
図21】ファージPsa_F95/13の溶解物から抽出したDNAからの16s rRNA遺伝子のPCR増幅領域(8~1525bp)のアガロースゲル電気泳動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、細菌感染症、特に、嚢胞性線維症に関連する細菌性肺炎および呼吸器感染症、または人工呼吸器関連肺炎などの、呼吸器細菌感染症を治療および制御するためのファージ療法に関する。本発明の1つの態様は、新規なバクテリオファージ株(緑膿菌ファージF99/10、F27/12、Psa_F95/13;およびクレブシエラ・ニューモニエファージKle_F92/15、Kle_F105/15、Kle_F134/15、およびKle_F141/15を含む)、ならびにそれらのバリアントおよび産物(有用なファージタンパク質およびそれをコードする核酸を含む)に関する。本発明の別の態様は、本発明の1種または2種以上のバクテリオファージおよび/またはファージ産物のカクテル組成物、ならびにF391/08(国際出願第PCT/PT2011/000031号で以前開示された)などの、他のファージとの組合せに関する。さらに別の態様は、ファージ(単数および複数)および/またはファージ産物(単数および複数)の医薬組成物、ならびに、細菌感染症、特に緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエにより引き起こされる呼吸器感染症の治療および予防においてそれを使用する方法に関する。さらに他の本発明の態様は、ファージ、ファージ産物、およびそれらの組合せの、診断ツールおよび殺菌剤としての使用に関する。
【0046】
バクテリオファージおよびそのバリアント
本発明の1つの態様は、緑膿菌の多くの株を標的とする新規な緑膿菌バクテリオファージに関する。緑膿菌は、土壌、水、皮膚の菌叢、およびほとんどの人工環境に見られる、一般的なグラム陰性桿菌である。これは、正常な大気中のみならず、通性嫌気性菌のように酸素がほとんどなくても盛んに増殖し、損傷組織、あるいは免疫不全の個体に感染することができる。肺、尿路、および腎臓などの重要な体の器官でそのようなコロニー形成が生じると、致命的な結果となることがある。緑膿菌は表面で盛んに増殖するため、この細菌は、カテーテルを含めて、医療機器上および医療機器内にも見られ、病院および診療所での交差感染の原因となる。緑膿菌は、最も関連する日和見性の院内感染病原体の1つであり、10の院内感染のうち1つは、シュードモナス属(Pseudomonas)によるものであると推定されている。緑膿菌はまた、カテーテルなどの医療装置に最も頻繁にコロニー形成するものである。
【0047】
一実施形態では、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF99/10であり、それは緑膿菌の多くの株を標的とする。F99/10のゲノム内のオープンリーディングフレーム(orf)、そのorfによりコードされるアミノ酸配列、およびそのコードされるアミノ酸配列(すなわち、コードされるタンパク質)の推定機能を、図3に提供する。
【0048】
図3は、F99/10ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその下にさらにリストして示す。ゲノムおよび遺伝子産物のさらなる解析は下記の実施例で論じる。
【0049】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号1の核酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F99/10の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号1に対して少なくとも97%、またはそれより高い配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号1の核酸の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0050】
別の実施形態では、本発明は、配列番号3のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF27/12であり、それも多くの緑膿菌株を標的とする。F27/12のゲノム内のオープンリーディングフレーム(orf)、そのorfによりコードされるアミノ酸配列、およびそのコードされるアミノ酸配列(すなわち、コードされるタンパク質)の推定機能を、図4に提供する。
【0051】
図4は、F27/12ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右にさらにリストして示す。ゲノムおよび遺伝子産物のさらなる解析は下記の実施例で論じる。
【0052】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号3の核酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F27/12の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号3に対して少なくとも97%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号3のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0053】
別の実施形態では、本発明は、配列番号5の核酸配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF95/13(「Psa_F95/13」と互換的に用いられる表示)であり、それも緑膿菌の多くの株を標的とする。F95/13のゲノム内のオープンリーディングフレーム(orf)、そのorfによりコードされるアミノ酸配列、およびそのコードされるアミノ酸配列(すなわち、コードされるタンパク質)の推定機能を、図5に提供する。
【0054】
図5は、F95/13ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右にさらにリストして示す。ゲノムおよび遺伝子産物のさらなる解析は下記の実施例で論じる。
【0055】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号5の核酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F95/13の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号5に対して少なくとも97%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号5のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0056】
本発明の別の態様は、クレブシエラ・ニューモニエの多くの株を標的とする新規なクレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージに関する。クレブシエラ・ニューモニエは、口腔、皮膚、および腸の正常な細菌叢において見られる、グラム陰性の非運動性の桿菌である。莢膜を持つ通気嫌気性菌として、この細菌は土壌中に自然にも生じる。臨床的に、これは、腸内細菌科細菌のクレブシエラ属の最も重要なメンバーである。クレブシエラ属の感染は、例えばアルコール依存症患者や糖尿病患者などの不適切な食事で免疫系が弱まった人々において生じる傾向がある。クレブシエラ属はまた、慢性肺疾患、鼻粘膜萎縮、嚢胞性線維症、および鼻硬化症を有する患者にとって日和見性の病原体である。クレブシエラ・ニューモニエの新たな抗生物質耐性株が出現しており、それは、例えば汚染した機器との接触に起因する、院内感染としてますます見いだされている。
【0057】
クレブシエラ・ニューモニエは、実際に、ヒトにおける気道感染症の最も重要な原因病原体の1つであり、単独でグラム陰性細菌に起因する院内肺炎の25~43%を占める(Chibber S et al, 2008, J Med Microbiol 57(12): 1508-1513)。多剤耐性細菌の高い発生は、現在の抗生物質での効果を制限し、さらに高い確率で耐性株による患者のコロニー形成をもたらす。莢膜多糖は、クレブシエラ属菌株の重要な病原性因子であり、かつファージ感染の制限要因である。文献は78種類の莢膜型を記載しており(Hus CR, et al., 2013, PLoS One 8(8):e70092)、これらの菌種に感染するファージはこの「バリア」を克服した。クレブシエラ・ニューモニエの毒性株は、例えば化膿性肝膿瘍におけるように、主にKおよびK2莢膜血清型に関連している(Cleg S et al., 2016, Microbiol Spectr 4(1);およびLin TZ et al., 2014, J Infect Dis 210: 1734-1744)が、K莢膜多糖は院内感染型分離株よりも市中感染型分離株に関連していた(Tsay RW et al., 2002, Arch Intern Med 162(9): 1021-1027)。それでもなお、感染のタイプによって、菌株は様々な莢膜血清型を示し、クレブシエラ・ニューモニエ莢膜血清型の分布は世界中で異なる(Hus CR et al, 2013, PLoS One 8(8):e70092)。
【0058】
一実施形態では、本発明は、配列番号7のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF92/15(「Kle_F92/15」と互換的に用いられる表示)であり、それはクレブシエラ・ニューモニエの多くの株を標的とする。F92/15のゲノム内のオープンリーディングフレーム(orf)、そのorfによりコードされるアミノ酸配列、およびそのコードされるアミノ酸配列(すなわち、コードされるタンパク質)の推定機能を、図7に提供する。
【0059】
図7は、F92/15ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右および下にさらにリストして示す。ゲノムおよび遺伝子産物のさらなる解析は下記の実施例で論じる。
【0060】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号7のヌクレオチド配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F92/15の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号7に対して少なくとも79%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号7のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0061】
ある実施形態では、本発明は、配列番号8のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF105/15(「Kle_F105/15」と互換的に用いられる表示)であり、それもクレブシエラ・ニューモニエの多くの株を標的とする。F105/15のゲノム内のオープンリーディングフレーム(orf)、そのorfによりコードされるアミノ酸配列、およびそのコードされるアミノ酸配列(すなわち、コードされるタンパク質)の推定機能を、図8に提供する。
【0062】
図8は、F105/15ゲノムの概略構成を、機能を割り当てられたORFをその右および下にさらにリストして示す。ゲノムおよび遺伝子産物のさらなる解析は下記の実施例で論じる。
【0063】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号8の核酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F105/15の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号8に対して少なくとも99%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号8のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0064】
ある実施形態では、本発明は、配列番号9のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF134/15(「Kle_F134/15」と互換的に用いられる表示)であり、それもクレブシエラ・ニューモニエの多くの株を標的とする。
【0065】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号9のヌクレオチド配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F134/15の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号9に対して少なくとも98%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号9のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0066】
ある実施形態では、本発明は、配列番号10のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージを提供する。この実施形態に従う具体例は、精製バクテリオファージF141/15(「Kle_F141/15」と互換的に用いられる表示)であり、それもクレブシエラ・ニューモニエの多くの株を標的とする。
【0067】
ある実施形態では、本発明のバクテリオファージは、配列番号10のヌクレオチド配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、そのバクテリオファージは、F141/15の少なくとも1つの生物活性、例えば溶菌性殺活性などの抗菌活性を示す。特定の実施形態において、バクテリオファージは、配列番号10に対して少なくとも95%超の配列同一性を有する。代わりにまたは加えて、本発明のバクテリオファージは、配列番号10のヌクレオチド配列の機能的断片を含むゲノムを有していてよい。
【0068】
本発明は、本発明の1種または2種以上のバクテリオファージが感染した単離細菌も提供する。ある実施形態では、本発明は、配列番号1、2、3、4、5のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなる1種または2種以上のバクテリオファージが感染した精製緑膿菌を提供する。他の実施形態では、本発明は、配列番号7~10のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなる1種または2種以上のバクテリオファージが感染した精製クレブシエラ・ニューモニエを提供する。
【0069】
ファージタンパク質およびそのバリアント
本発明は、本発明のバクテリオファージから単離したポリペプチドも提供する。単離ポリペプチドは完全長バクテリオファージタンパク質であってよく、あるいはバクテリオファージタンパク質の断片またはバリアントであってもよいが、その断片またはバリアントはそれが由来するバクテリオファージまたはポリペプチドに関連する少なくとも1つの生物活性を示すことを条件とする。ある実施形態では、本発明のポリペプチドは、バクテリオファージF99/10、F27/12、またはF95/13から単離され、それらの各バクテリオファージは典型的には緑膿菌に感染する。
【0070】
ある実施形態では、本発明のポリペプチドは、バクテリオファージF92/15、F105/15、F134/15、またはF141/15から単離され、それらの各バクテリオファージは典型的にはクレブシエラ・ニューモニエに感染する。
【0071】
ある実施形態では、本発明のポリペプチドを、治療剤(例えば、異種ポリペプチドまたは小分子)に、組換えによって融合させるかまたは化学的に結合させて(共有結合および非共有結合の両方を含む)、融合タンパク質またはキメラポリペプチドを生成する。融合は必ずしも直接的である必要はなく、リンカー配列を介して、または化学結合を介して生じさせてもよい。本発明のポリペプチドを結合させ得る治療剤の非限定的な例は、ペプチド性または非ペプチド性の細胞毒素(抗微生物剤および/または抗生物質を含む)、トレーサー/マーカー分子(例えば、放射性核種およびフルオロフォア)、ならびに当技術分野で既知の他の抗生物質化合物または抗菌化合物である。
【0072】
カクテル組成物
本発明の特定の態様は、異なるバクテリオファージのカクテル組成物に関する。「カクテル」は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10種またはそれ以上の異なる精製バクテリオファージまたはそのバリアントを含んでいてよい。カクテルは、単独で使用しても、あるいは例えば抗生物質および/または抗真菌剤などの他の治療薬とさらに組み合わせて使用してもよい。
【0073】
ファージカクテルは、例えば、特定の種または株の細菌に対する溶菌活性を増大させる、および/または個々のバクテリオファージに耐性の細菌が出現する可能性を減らすなど、ファージを個別に使用することを超える利点をもたらす。異なるバクテリオファージをカクテルとして混合して、それらの特性を広げることができ、好ましくは、集合的により大きな抗菌活性スペクトルをもたらす。しかしながら、おそらく、別個の株の存在下で個々のバクテリオファージの感染能力および/または溶菌活性を維持しながら、バクテリオファージ株の異なる特異性を組み合わせるのは困難であるため、異なる細菌に対して抗微生物活性を有するファージカクテルはほとんど存在しない。
【0074】
一部の実施形態では、本発明は、同じまたは異なる細菌種または株に対して抗菌活性を有する少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物を提供する。一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、各バクテリオファージが、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、配列番号5(F95/13)、配列番号6(F391/08)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15)から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含むか、あるいは緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するそのバリアントである、カクテル組成物を提供する。例えば、カクテルは、それぞれバクテリオファージF99/10、F27/12、F95/13、F391/08、F92/15、F105/15、F134/15、およびF141/15の例えば抗菌活性(例えば溶菌性殺活性)などの少なくとも1つの生物活性を示すバリアントバクテリオファージを与えるように、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10の配列の機能的断片を含むゲノムを有するファージバリアントを含んでいてよい。
【0075】
一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、各バクテリオファージが、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号6(F391/08)少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するカクテル組成物を提供する。例えば、医薬組成物は、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、配列番号5(F95/13)、配列番号6(F391/08)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する核酸をそれぞれが含む少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含んでいてよい。
【0076】
一部の好ましい実施形態では、その組合せは、別個のバクテリオファージ株の存在下で個々のバクテリオファージの感染能力または宿主域および/または溶菌活性を損なわずまたは低減しない(あるいは実質的にまたは有意に損なわずまたは低減しない)。一部の特に好ましい実施形態では、カクテル組合せ中の少なくとも1種のファージの効果は、カクテル組合せ中の少なくとも1種の他のファージの存在により増強または改善され、相乗効果をもたらす。
【0077】
一部の実施形態では、カクテル組成物は、緑膿菌に対する抗菌活性を示す少なくとも1種のファージを含む。一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、各バクテリオファージが、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、または配列番号5(F95/13)から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含むか、あるいは緑膿菌に対する抗菌活性を有するそのバリアントである、カクテル組成物を提供する。一部の実施形態では、本発明は、各々が、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、または配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物を提供する。
【0078】
特に好ましい実施形態では、組成物は、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、および配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する3種のバクテリオファージを含む。例えば、組成物は、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、および配列番号5(F95/13)の核酸を含む3種のバクテリオファージを含んでいてよい。
【0079】
一部の実施形態では、カクテル組成物は、クレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を示す少なくとも1種のファージを含む。一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、各バクテリオファージが、配列番号6(F391/08)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15)から選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含むか、あるいはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するそのバリアントである、カクテル組成物を提供する。例えば、一部の好ましい実施形態では、バクテリオファージF391/08のバリアントは、配列番号6の核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するゲノムを含むかまたはからなり、かつクレブシエラ属菌の1または2以上の株、より好ましくはクレブシエラ・ニューモニエを含む株に対する抗菌活性(例えば溶菌性殺活性)を保持する。
【0080】
一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、各バクテリオファージが、配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するカクテル組成物を提供する。
【0081】
特に好ましい実施形態は、両方の細菌種に対する抗菌活性を組み合わせる。例えば、一部の実施形態では、本発明は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含むカクテル組成物であって、第1のファージは、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、または配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有し;および第2のファージは、配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含み、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する、カクテル組成物を提供する。例えば、医薬組成物は、少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含んでいてよく、第1のファージは、配列番号1(F99/10)、配列番号3(F27/12)、および配列番号5(F95/13)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含み;および第2のファージは、配列番号6(F391/08)、配列番号7(F92/15)、配列番号8(F105/15)、配列番号9(F134/15)、および配列番号10(F141/15))からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する核酸を含む。
【0082】
一部の実施形態では、本発明は、F99/10、F27/12、F95/13、F391/08、F92/15、F105/15、F134/15、またはF141/15以外の少なくとも1種の追加のファージとさらに組み合わせてカクテル組成物を提供する。一部の好ましい実施形態では、追加のファージは、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)エンテロコッカス・フェカリス(E.faecalis)および/またはエンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)の1または2以上の株に対して抗生物質活性を有するバクテリオファージF168/08、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)エンテロコッカス・フェカリスおよび/またはエンテロコッカス・フェシウムの1または2以上の株に対して抗生物質活性を有するバクテリオファージF170/08、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)緑膿菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF770/05、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF197/08、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF86/06、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF87s/06、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF91a/06、(国際公開第2010/090542号に開示されているような)アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanni)の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF1245/05、(国際公開第2012/036580号に開示されているような)アシネトバクター・バウマニの1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージ株F394/08、(国際公開第2012/036580号に開示されているような)大腸菌(Escherichia coli)の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF488/08、国際公開第2012/036580号に開示されているような)緑膿菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF510/08、(国際公開第2012/036580号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF44/10、(国際公開第2012/036580号に開示されているような)クレブシエラ・ニューモニエの1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF387/08、および(国際公開第2012/036580号に開示されているような)黄色ブドウ球菌の1または2以上の株に対して抗菌活性を有するバクテリオファージF125/10からなる群より選択される(それぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0083】
本発明は、1種または2種以上の本発明のバクテリオファージ、特に本発明に従うカクテル組合せが感染した単離細菌(2種またはそれ以上の異なる細菌株または種を含める)も提供する。ある実施形態では、本発明は、2種またはそれ以上の異なるファージが感染した単離緑膿菌株であって、その各ファージが、配列番号1、配列番号3、または配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなる、あるいは、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、または配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなりかつ緑膿菌に対する抗菌活性を有するファージのようなそのバリアントである、単離緑膿菌株を提供する。用いられる細菌株は、ファージの天然の宿主であってもまたはそうでなくてもよい。特定の実施形態では、緑膿菌は、緑膿菌114/12株、緑膿菌460/06株、緑膿菌433/07株、緑膿菌66/09株および/または緑膿菌1992/05株を含む。
【0084】
ある実施形態では、本発明は、2種またはそれ以上のバクテリオファージが感染した単離クレブシエラ・ニューモニエ株であって、その各バクテリオファージが、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなる、あるいは、配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなりかつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するバクテリオファージのようなそのバリアントである、単離クレブシエラ・ニューモニエ株を提供する。用いられる細菌株は、ファージの天然の宿主であってもまたはそうでなくてもよい。
【0085】
細菌株およびファージは、下記のNCIMB受託番号で2017年12月1日にNCIMB(NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,UK)に寄託された:
NCIMB 42914 緑膿菌 1992/05-B4
NCIMB 42915 緑膿菌ファージF6-F99/10
NCIMB 42916 緑膿菌ファージF7-F27/12
NCIMB 42917 緑膿菌ファージF8-F95/13
NCIMB 42918 クレブシエラ・ニューモニエ F9-F391/08
NCIMB 42919 クレブシエラ・ニューモニエ F10-F92/15
NCIMB 42920 クレブシエラ・ニューモニエ F11-F105/15
NCIMB 42913 クレブシエラ・ニューモニエ 121/15-B5
【0086】
本発明のバクテリオファージおよび/または本発明のカクテル組成物で使用するためのバクテリオファージは、当技術分野で既知のおよび/または本明細書に開示されている任意の方法によって得ることができる。一部の実施形態では、本発明は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10の核酸配列を含むかまたはからなるバクテリオファージを生成および精製する方法を提供する。例えば、ゲノム配列は、全ゲノムのデノボ合成により生成し得る(例えば、Mueller et al, 2009, Chemistry & Biology 16(3): 337-347(この分野における画期的な開発をレビューし、90年代半ばから2000年代後半の関連技術の商業的入手性を調査し、さらにオリゴヌクレオチドを合成しおよび長い合成DNAをアセンブルする方法における開発の概要を説明する)を参照のこと)。
【0087】
さらに、バクテリオファージは、本明細書に開示されているおよび/または当技術分野で既知の任意の方法を用いて細菌試料から単離してもよい(例えば、Carlson, “Working with bacteriophages: common techniques and methodological approaches,” In, Kutter and Sulakvelidze (Eds) Bacteriophages: Biology and Applications, 5th ed. CRC Press (2005)(参照によりそのすべてが本明細書に組み込まれる)を参照のこと)。用い得る具体的な細菌株として、例えば、緑膿菌114/12、460/06、433/07、66/09、および1992/05株(例えばファージF99/10、F10/10、F27/12、F83/13、および/またはF95/13を単離するため);またはクレブシエラ・ニューモニエ223/14、397/07、1633/05、241/14株(例えば、ファージF391/08、F92/15、F105/15、F134/15、および/またはF141/15を単離するため)が挙げられる。バクテリオファージは、1種または2種以上のバクテリオファージが感染しやすくかつその中でバクテリオファージが複製する任意の他の細菌株から単離してもよい。
【0088】
当業者は、より大量の所定のファージを得るために、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10の核酸配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージ、ならびにそのバリアントを増殖または増幅させる1または2以上の方法も使用してよい。一部の実施形態では、配列番号1、配列番号3、または配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなるゲノムを有する追加のファージ、あるいはそのバリアントを生成および/または単離する方法は、(i)緑膿菌の培養物を得ること、(ii)その培養物に、配列番号1、配列番号3、または配列番号5のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージ、あるいはそのバリアントを感染させること、(iii)培養物の十分な溶解が観察されるまで培養すること、および(iv)培養物からバクテリオファージを単離することを含み得る。用いる宿主細胞はいかなる細菌株でもよく、例えば、ファージが感染しやすく、ファージを複製するのに使用できるいかなる緑膿菌株でもよい。一部の実施形態では、用いる宿主細胞は、緑膿菌114/12株、緑膿菌460/06株、緑膿菌433/07株、緑膿菌66/09株、および緑膿菌1992/05株であってよい。一部の特定の例では、緑膿菌114/12株を用いてファージF27/12(配列番号3)を増幅させ;緑膿菌460/06株を用いてF99/10(配列番号1)を増幅させ;緑膿菌433/07株を用いてPsa_F83/13、ならびにF99/10またはF27/12のいずれかを増幅させ;緑膿菌66/09を用いてファージPsa_F95/13を増幅させ、および緑膿菌1992/05を用いてF99/10(配列番号)またはF27/12(配列番号3)またはF95/13(配列番号5)を増幅させる。
【0089】
当業者は、より大量の所定のファージを得るために、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10の核酸配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージ、ならびにそのバリアントを増殖または増幅させる1または2以上の方法も使用してよい。一部の実施形態では、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10の核酸配列を含むかまたはからなるゲノムを有する追加のファージ、あるいはそのバリアントを生成および/または単離する方法は、(i)クレブシエラ・ニューモニエの培養物を得ること、(ii)その培養物に、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10のヌクレオチド配列を含むかまたはからなるゲノムを有するバクテリオファージ、あるいはそのバリアントを感染させること、(iii)培養物の十分な溶解が観察されるまで培養すること、および(iv)培養物からバクテリオファージを単離することを含み得る。用いる宿主細胞はいかなる細菌株でもよく、例えば、バクテリオファージが感染しやすく、バクテリオファージを複製するのに使用できるいかなるクレブシエラ・ニューモニエ株でもよい。一部の実施形態では、用いる宿主細胞は、例えば、クレブシエラ・ニューモニエ573/07株、クレブシエラ・ニューモニエ223/14株、クレブシエラ・ニューモニエ397/07株、クレブシエラ・ニューモニエ1633/05株、および/またはクレブシエラ・ニューモニエ241/14株であってよい。一部の特定の例では、ファージF391/08をクレブシエラ・ニューモニエ573/07株で増幅させ;ファージKle_F92/15をクレブシエラ・ニューモニエ223/14株で増幅させ;ファージKle_F105/15をクレブシエラ・ニューモニエ1633/05株で増幅させ;Kle_F134/15をクレブシエラ・ニューモニエ397/07株で増幅させ;およびKle_F141/15をクレブシエラ・ニューモニエ241/14株で増幅させる。
【0090】
医薬組成物
本発明の精製バクテリオファージおよびファージ産物(ファージポリペプチド、その断片またはバリアント、およびファージカクテル組合せを含む)は、単独で投与しても、あるいは、例えば細菌(限定はされないが、緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエを含む)により引き起こされる感染症などの、細菌感染症の治療または予防に使用するための医薬組成物中に組み込んでもよい。バクテリオファージ(複数可)またはファージ産物(複数可)を、薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤と組み合わせてよい。薬学的に許容される担体、賦形剤、および安定剤の例には、これらに限定されないが、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミンおよびゼラチンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンなどの単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;および/またはTWEEN(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(商標)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。本発明の医薬組成物(例えば、抗菌組成物)は、上記の材料に加え、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、および保存剤も含み得る。
【0091】
一部の実施形態では、医薬組成物は、エアロゾルとして投与するために製剤化される。エアロゾル送達用製剤は、乾燥粉末、微粒子、ナノ粒子、溶液、凍結乾燥調製物、リポソーム調製物などの形態でよい。リポソーム製剤は、喀痰の過酷な条件からバクテリオファージを保護し、さらにはバイオフィルム内への侵入を向上させおよび/または気道内での薬剤のより持続的な放出を可能にする。エアロゾル送達用製剤は、典型的には、気管支刺激および気管支痙攣などの副作用を低減するために、滅菌水を含み、かつ保存剤をほとんどまたは全く含まない。エアロゾル送達用製剤は、気道表面液のオスモル濃度(浸透圧)と同じ、または実質的に同じオスモル濃度を有することが好ましい。
【0092】
本発明のファージおよび/またはファージ産物は、本明細書に記載のおよび/または当技術分野で既知の細菌感染症の治療に有用な1または2以上の他の治療剤および/または予防剤(例えば1種または2種以上の他のファージ)と組み合わせてもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、2種またはそれ以上の本発明の精製バクテリオファージ(同じまたは異なる細菌種または株に対する抗菌活性を有する)、本発明のバクテリオファージおよびポリペプチドの組合せ、あるいは本発明のバクテリオファージおよび/またはポリペプチドと、当術分野で既知のバクテリオファージおよび/またはポリペプチドとの組合せを含んでいてよい。特定の実施形態では、組合せの治療成分は、細菌の2またはそれ以上の種または株を標的とするか、あるいは異なる酵素活性を示す。例えば、リシン(lysin)は、通常、アミダーゼ活性、エンドペプチダーゼ活性、ムラミダーゼ活性、またはグルコサミダーゼ活性の内の1つを示す。従って、ファージを異なる活性を示すリシンと組み合わせることによって、本発明の医薬組成物の治療活性を相乗的に増強させることができる。
【0093】
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されたおよび/または当技術分野で既知の細菌感染症の治療および/または予防に有用な1または2以上の非ファージ治療剤および/または予防剤(例えば1または2以上の伝統的な抗生剤)と組み合わせてもよい。本発明のファージ(複数可)またはファージ産物(複数可)と組み合わせて使用され得る他の治療剤および/または予防剤としては、これらに限定されないが、抗生物質剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、または局部麻酔薬が挙げられる。一部の好ましい実施形態では、医薬組成物は、肺感染症の治療および/または予防用に製剤化され、抗生物質剤、抗真菌剤、および局部麻酔薬から選択される、1または2以上の追加の治療剤および/または予防剤を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、本発明のファージカクテル組合せを含み、それは標準的または伝統的な抗生物質剤の不在下で投与される。
【0094】
標準的な抗生物質剤として、これらに限定されないが、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシン、リファマイシン、ナフトマイシン、ムピロシン、ゲルダナマイシン、アンサマイトシン、カルバセフェム、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム、ドリペネム、パニペネム/ベタミプロン、ビアペネム、PZ-601、セファロスポリン、セファセトリル、セファドロキシル、セファレキシン、セファログリシン、セファロニウム、セファロリジン、セファロチン、セファピリン、セファトリジン、セファザフル、セファゼドン、セファゾリン、セフラジン、セフロキサジン、セフテゾール、セファクロル、セフォニシド、セフプロジル、セフロキシム、セフゾナム、セフメタゾール、セフォテタン、セフォキシチン、セフカペン、セフダロキシム、セフジニル、セフジトレン、セフェタメト、セフィキシム、セフメノキシム、セフテラム、セフチブテン、セフチオフル、セフチオレン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、ラタモキセフ、セフクリジン、セフェピム、セフルプレナム、セフォセリス、セフォゾプラン、セフピロム、セフキノム、フロモキセフ、セフトビプロール、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アズトレオナム、ペニシリンおよびペニシリン誘導体、アクチノマイシン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シノキサシン、フルメキン、ナリジクス酸、オキソリン酸、ピロミド酸、ピペミド酸、ロソキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ロメフロキサシン、ナジフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、ルフロキサシン、バロフロキサシン、ガチフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、パズフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、ガレノキサシン、ゲミフロキサシン、スチフロキサシン(stifloxacin)、トロバルフロキサシン(trovalfloxacin)、プルリフロキサシン、アセタゾラミド、ベンゾラミド、ブメタニド、セレコキシブ、クロルタリドン、クロパミド、ジクロフェナミド、ドルゾラミド、エトキシゾールアミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、マフェンダイド(mafendide)、メフルシド、メトラゾン、プロベネシド、スルファセタミド、スルファジメトキシン、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルファメトキサゾール、スルファサラジン、スルチアム、スマトリプタン、キシパミド、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、ロリテトラサイクリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン(oxacilin)、クロキサシリン、バンコマイシン、テイコプラニン、クリンダマイシン、コトリモキサゾール、フルクロキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリンならびにそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0095】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する抗生物質剤を含む。一部の他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエ以外の細菌に対する抗菌活性を有する抗生物質剤を含む。好ましい実施形態では、抗生物質剤は、所定の感染に関して本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルの治療および/または予防効果を相加的または相乗的に増強するのに有効な量で用いられる。
【0096】
標準的な抗真菌剤として、アムホテリシンBリポソーム製剤またはアムホテリシンB非リポソーム製剤などの、アムホテリシンBが挙げられる。
【0097】
一部の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、エアロゾルとして投与するために製剤化され、それもエアロゾル送達用である1または2以上の抗生物質をさらに含む。エアロゾル送達用の抗生物質として、例えば、トブラマイシン(トブラマイシン液剤またはトブラマイシン乾燥粉末など)、ゲンタマイシン、アミカシンなどの吸入アミノグリコシド系;コリスチン液剤またはコリスチン乾燥粉末およびコリスチンメタナトリウムなどの吸入ポリミキシン系;およびアズトレオナム液剤または噴霧用アズトレオナムリジンなどの吸入モノバクタム系;ならびにエアロゾル化レボフロキサシン、セフタジジム、ホスホマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、アムホテリシン、カプレオマイシン、フィファンピン(fifampin)、イソニアジド、およびシプロフラキシン(ciproflaxin)などが挙げられる(Quon BS et al, 2014, Annals ATS 11(3):425- 434)。一部の実施形態では、エアロゾル化された本発明の医薬組成物は、アミホテリシンBリポソーム製剤などの、それもエアロゾル送達用である1または2以上の抗真菌剤をさらに含む。
【0098】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、緑膿菌などのシュードモナス属菌種により引き起こされる細菌感染症を処置および/または予防するのに使用するために製剤化される。一部のそのような実施形態では、医薬組成物は、配列番号1、配列番号3、または配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなるゲノムを有する1種または2種以上のバクテリオファージ、あるいは配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、または配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなりかつ緑膿菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージのようなそのバリアントを含む、カクテル組成物を含有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、例えば、緑膿菌に対する抗菌活性を有する抗生物質剤および/または緑膿菌以外の細菌に対する抗菌活性を有する抗生物質剤などの、追加薬剤をさらに含んでいてよい。
【0099】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、クレブシエラ・ニューモニエなどのクレブシエラ属菌種により引き起こされる細菌感染症を治療および/または予防するのに使用するために製剤化される。一部のそのような実施形態では、医薬組成物は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10のヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなるゲノムを有する1種または2種以上のバクテリオファージ、あるいは配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むかまたはからなりかつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するバクテリオファージのようなそのバリアントを含む、カクテル組成物を含有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、例えば、クレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する抗生物質剤および/またはクレブシエラ・ニューモニエ以外の細菌に対する抗菌活性を有する抗生物質剤などの追加薬剤をさらに含んでいてよい。
【0100】
本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルを含む医薬組成物は、単位用量製剤または多用量製剤に製剤化することができる。好ましい製剤は、上述したようにエアロゾルとして送達することができる製剤である。他の適切な製剤としては、懸濁液、エマルジョン、ローション、液剤、クリーム、軟膏、または散布剤、あるいは皮膚パッチ中などが挙げられる。
【0101】
加えてまたは代わりに、本発明の医薬組成物は、坐剤もしくはペッサリーの形態で、または経口的に(例えば、デンプンまたは乳糖などの賦形剤を含有し得る錠剤として、それぞれ、任意選択で、香料、着色剤および/または賦形剤を含有する、カプセル剤、卵形剤、エリキシル剤、液剤、もしくは懸濁液として)投与することができ、あるいは、それらは、非経口的に(例えば、静脈内、筋肉内、または皮下)注射してもよい。非経口投与に関して、組成物は、例えば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩または単糖などの、他の物質を含有し得る無菌水溶液の形態で使用してよい。口腔投与または舌下投与では、組成物は、従来の様式で製剤され得る錠剤またはトローチ剤の形態で投与することができる。局所製剤は通常、滅菌PBS、水もしくは食塩緩衝液、または滅菌SM緩衝液などの、滅菌緩衝液を含む。
【0102】
本明細書に記載のおよび/または当技術分野で既知の投与方法を用い、適切な投薬レジメンに従い、所望の投薬量の本発明のファージ、ファージ産物および/またはファージカクテルを送達することができる。投薬量および投薬レジメンは、特定の製剤、投与経路、治療している状態、および他の因子によって変動し得る。動物実験は、例えば通常の医師の技術の範囲内であるようなヒト治療での有効用量の決定のための信頼性のあるガイダンスを提供することができる。有効用量の種間スケーリングは、例えばMordenti, J. et al. “The use of interspecies scaling in toxicokinetics” in Toxicokinetics and New Drug Development, Yacobi et al., Eds., Pergamon Press, New York 1989, pp 42-96に記載されている。例えば、下記の実施例に記載するように、急性肺感染症のマウスモデルを用いて本発明の医薬組成物の有効性を評価することができる。
【0103】
本発明の医薬組成物は、投薬レジメンに従って投与することができる。一部の実施形態では、投薬レジメンは、本発明のカクテル組成物を6時間ごとに投与することを含む(本発明者は、糖尿病性皮膚創傷への局所用ファージカクテルのための複数回投与レジメンを以前開示した(Mendes JJ, et al., 2013, Wound Repair Regen 21 : 595-603))。好ましい実施形態では、最初の投与の後に、医薬組成物の再投与を伴う第2のまたは「ブースター」投与を行う。例えば、ブースターを、最初の投与の約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、10時間、12時間、1日、または2日後に行ってよい。好ましい実施形態では、例えば、呼吸器感染症または肺感染症(限定はされないが、院内細菌性肺炎(HABP)を含む)の治療において、ブースター投与を最初の投与の約4時間、約5時間、または約6時間後に使用する。
【0104】
治療的使用
本発明の別の態様は、細菌感染症の予防および/または治療のための医薬品における本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルの使用に関する。多剤耐性に関連するものを含めて病原性細菌を溶解するその特異性および効力(Larche J, et al, 2012, Antimicrob Agents Chemother 56(12):6175-6180)、バイオフィルムにおける細菌に対するその潜在的な効力(Phee A et al., 2013, J Endod 39(3):364-369)、ヒトおよび動物細胞に対するその病原性の欠如(Abedon ST et al., 2011, Bacteriophage 1(2): 66-85)、ならびに高い細菌負荷量でさえ微好気環境でのその活性(Azeredo J, et al. 2008. Curr Pharm Biotechnol 9:261-266)により、ファージは細菌感染症を治療する大きな可能性を提示する。ファージカクテルは特に、例えば、特定の細菌株に対する溶菌活性を高める、宿主域を増大させる、および/または個々のバクテリオファージに対して出現する細菌耐性の可能性を減らすなど、個々のファージの使用を超える追加の利点を提供することができる。実際に、異なるバクテリオファージをカクテルとして混合してそれらの特性を多様化し、好ましくは、例えば宿主域の拡大など集合的により大きな抗菌スペクトルをもたらし、それはその薬剤を受けた対象において耐性を生じさせにくくする。
【0105】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物を受ける対象は哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ類、霊長類(例えばヒト)、齧歯類、ウサギ目の動物、または鳥類(例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ))である。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物を受ける対象は、ヒト、特に、院内細菌性肺炎(HABP)または嚢胞性線維症関連感染症を含めて呼吸器感染症または肺感染症に罹患するまたは罹患するリスクを有する患者である。
【0106】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、複数の細菌株に対して活性を有する。一部の好ましい実施形態では、医薬組成物は、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエの複数の株に対して活性を有するファージカクテル組合せを含む。従って、本発明は、本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテル組成物を用いて、ヒトおよび動物の両方において、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに関連する感染症を治療および/または予防する方法を提供する。他の態様では、本発明は、これらの細菌の関係する種または株に関連する感染症を治療および/または予防する方法を提供する。
【0107】
緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエは、特に免疫不全の個体において、多くの重篤な日和見感染症の原因となる。本発明の医薬組成物は、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに関連する、あるいは他の種または株の細菌に関連するあらゆる感染症を治療および/または予防することが意図されており、そのような感染症として、それらに限定されないが、肺および気道の感染症、術後感染症、カテーテルおよび外科用ドレーンに関連する感染症、ならびに血液の感染症が挙げられる。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、肺および気道に関連する細菌感染症を治療および/または予防するのに用途が見いだされる。
【0108】
呼吸器および肺感染症として、それらに限定されないが、嚢胞性線維症に関連する感染症(嚢胞性線維症の気管支拡張症など);肺炎(院内細菌性肺炎、人工呼吸器関連肺炎、および気管支肺炎を含む);非嚢胞性線維症の気管支拡張症;気管支炎;慢性閉塞性肺疾患;マイコバクテリア症、肺移植後感染症;結核関連感染症;有瘻性膿胸、有瘻性の胸膜炎、肺膿瘍;鼻炎;化膿性嚢胞;および肺由来の敗血症が挙げられる。呼吸器感染症または肺感染症の症状として、例えば、咳、喘鳴、喀痰の産生、呼吸困難、発声障害(発声困難)、および全体的な生活の質(QOL)の低下が挙げられる。特に好ましい実施形態では、呼吸器感染症または肺感染症は院内細菌性肺炎(HABP)である。
【0109】
HABPに関して、入院中の発症の日時は、特定の病原体および結果に関するリスクの指標である。例えば入院の最初の4日以内のような早期の発症の場合、最もよく見られる菌は、肺炎レンサ球菌およびインフルエンザ菌のような内在性の微生物叢、ならびに抗生物質に感受性のグラム陰性市中(院外の)黄色ブドウ球菌である。例えば入院後5日以上たってからの発症のような遅い発症の場合、グラム陰性細菌が大部分の症例の原因であり、例えば緑膿菌、クレブシエラ・ニューモニエ、エンテロバクター属およびアシネトバクター属の特定の株など、ならびに特定の黄色ブドウ球菌の感染、特に神経外科患者、糖尿病患者、および慢性的な腎臓の問題を有する患者におけるそれらの感染など、その多くは抗生物質に耐性である(2005, Am JRespir Crit Care Med Vol 171(4):388:416)。緑膿菌、クレブシエラ・ニューモニエの株は、遅発性のHABPに特に関連する。
【0110】
緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエは、高液体内容物を有する他の器官系に関係する感染症にも関連し、本発明のファージカクテルは、そのような感染症に関して治療的および/または予防的使用を有することも意図されている。例えば、本発明の医薬組成物は、脳脊髄液、腹水、および尿路の感染症の予防または治療のために使用され得る。
【0111】
一部の実施形態では、本発明は、治療的または予防的有効量の本発明の医薬組成物を必要とする対象に投与することを含む、呼吸器感染症または肺感染症を治療および/または予防する方法を提供する。好ましい実施形態では、投与は、例えば努力性呼吸または呼吸促拍を正常に戻すなど、呼吸の改善をもたらす。
【0112】
特に好ましい実施形態では、本発明は、本発明のファージカクテルを用いて、驚くべき範囲の緑膿菌またはクレブシエラ・ニューモニエ細菌株を処理する方法を提供する。例えば、緑膿菌ファージF99/10、F27/12およびF95/13を含むファージカクテルは、例えば均一な緑膿菌ファージと比較した場合に、極めて広範にわたる緑膿菌臨床株に対して有効性を示す(42%感染)。他の実施形態では、クレブシエラ・ニューモニエファージF391/08、Kle_F105/15、Kle_F134/15、およびKle_F141/15を含むファージカクテルは、例えば特定の他のクレブシエラ・ニューモニエファージ(Kesik-Szeloch A et al., 2013, Virol J 10: 100)と比較した場合に、様々な莢膜血清型を提示する極めて広範にわたるクレブシエラ・ニューモニエ臨床株に対して有効性を示す(32%感染)。
【0113】
好ましい実施形態では、投与は、対象の1または2以上の気道へのエアロゾルを介した医薬組成物の投与(例えば吸入による投与)を含む。吸入による投与は、感染の標的部位(すなわち気道)への薬物送達を改善しおよび/または全身的な副作用の可能性を限定することができる。エアロゾルとしての医薬組成物の投与には、限定はされないが、吸入による投与、鼻腔内点滴、気管へのカテーテル挿入、肺の胸膜腔への送達、または気管支鏡検査(Abedon ST, 2015, Bacteriophage, 5(l):el020260-l to el020260-13)が含まれる。エアロゾルとして医薬組成物を投与する間、バクテリオファージは生存可能なままであり、下気道に到達するのに適したサイズの粒子中に含まれていてよい。例えば、特に好ましい実施形態では、エアロゾル化粒子の過半は、直径が5μm未満であり、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%の粒子は、直径が5μm未満であり、より好ましくは直径が約2μmである。
【0114】
鼻腔内投与または吸入による投与に関して、本発明のバクテリオファージおよび/またはファージ産物は、乾燥粉末、微粒子、ナノ粒子、溶液、凍結乾燥調製物、リポソーム調製物などの形態で送達され得る。典型的には、本発明のファージ、ファージ産物、および/またはファージカクテルを含む製剤は、適切な推進剤を使用して、加圧容器、ポンプ、スプレーまたはネブライザー(噴霧器)から出る乾燥粉末吸入剤またはエアロゾルスプレーの形態であり、そのような推進剤は、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA 134A.TM.)もしくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA.TM)などのヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、または他の適切なガスである。
【0115】
加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、一定量を送達するためのバルブを提供することにより決定することができる。加圧容器、ポンプ、スプレー、またはネブライザーは、例えば、溶媒としてエタノールと推進剤との混合物を使用して、活性化合物の溶液または懸濁液を含有してよく、前記溶媒は、例えばソルビタントリオレエートなどの潤滑剤をさらに含有し得る。吸入器または送気装置(insufflator)において使用するためのカプセルおよびカートリッジ(例えばゼラチンで作られた)は、本発明のファージ、ファージ産物、および/またはファージカクテルと、乳糖またはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0116】
当技術分野で既知の任意の手段を用いてまたは本明細書に記載されているように噴霧を達成することができる。典型的には、高圧下の空気または酸素を使用してエアロゾルを生成するジェットネブライザーにより噴霧を達成する。他のネブライザーとして、サイズ変動を低減しかつ噴霧時間を減らす、電圧アクチュエーターにより駆動される振動メッシュ式ネブライザーが挙げられる。別のアプローチは、ネブライザーを人工呼吸器回路の吸気性突出部分に接続する機械換気を含む。さらに別のアプローチは、エマルジョンベースの「スプレー乾燥」を用いて溶液またはエマルジョンを流動状態から均一なサイズ分布(例えば1~5μm)を有する微粒子へと変換する。2つの典型的なクラスのネブライザーとして、AeroEclips(Trudell Medical International)、患者が吸入したときのみに噴霧が生じるジェットネブライザー;および、オムロン(オムロン,MicroAir U22)、圧電結晶の振動によって目の細かいメッシュを通して薬剤を押し出してエアロゾルを作り出す電池式のメッシュ式ネブライザー(Sahota et al, 2015, J. Aerosol Medicine and Pulmonary Drug Delivery 28(0): 1-8)が挙げられる。一部の好ましい実施形態では、SYSTAM L290(SYSTAM,Villeneuve Sur Lot,France)ネブライザーを用いる。このネブライザーは、粒子の約70%が5μm未満の直径を有する超音波エアロゾルを生成する。
【0117】
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載のように、治療および/または予防有効量の1種または2種以上のファージまたはファージ産物を含む。治療および/または予防有効量は、その量を受けた対象において、それぞれ治療的および/または予防的利益をもたらす量を意味する。治療および/または予防有効量は、特定の製剤、投与経路、治療している状態、他の薬剤または療法を本発明の方法と組み合わせて使用しているか否か、および他の因子によって変動するであろう。
【0118】
一部の実施形態では、医薬組成物は、約1~約10の感染多重度(MOI)に対応する量で1種または2種以上のバクテリオファージを提供するようにそれを必要とする対象に送達される。MOIは、肺におけるおよその細菌負荷量を算定する(例えば、実施例で用いられるマウスモデルにおいて2x10cfu/g肺)、または特定患者の肺における細菌負荷量を計算する、または所定のタイプの呼吸器感染症に関する推定値を用いることにより決定し;さらにその後、所望のMOIを与えるように計算された量(例えば、マウスモデルにおいて2x10pfu/g肺はMOI=10を与える)でファージを提供する。MOIは、「多重度の10ルール(multiplicity of 10 rule)」に基づき選択してよく、それは細菌当たり10の桁数の吸着ファージがある場合には細菌密度が有意に減少する(Abedon ST, 2009, Foodborne Pathog Dis 6:807-815;および、Kasman LM, et al, 2002, Virol 76:5557-5564)が;より低い力価(titer)のファージを投与する(例えば、10より低いMOIを用いる)と成功する可能性が低い(Goode D, et al, 2003, App Environ Microbiol 69:5032-5036; Kumari S, et al, 2010, J Infect Dev Ctries 4:367-377)ことを述べる。
【0119】
一部の好ましい実施形態では、1と10の間のMOIの各ファージを提供するように送達されたF99/10およびF10/10を含むファージカクテルは、約80%、約85%、約95%、約97%、約98%、またはほぼ約100%(生細胞数はゼロに減少する)の、肺における緑膿菌の減少をもたらす。一部の好ましい実施形態では、1と10の間のMOIの各ファージを提供するように送達されたF99/10、F27/12およびF95/13を含むファージカクテルは、約80%、約85%、約95%、約97%、約98%、またはほぼ約100%の、肺における緑膿菌の減少をもたらす。一部の特に好ましい実施形態では、F99/10、F27/12およびF9お5/13を含むファージカクテルは、驚くことに相乗的な溶菌作用を示す。
【0120】
一部の実施形態では、より少ない用量が、驚くことに高用量を超える利点をもたらす。例えば、一部の実施形態では、1または約1のMOIは、10または約10のMOIよりも、長い期間のあいだ肺において細菌を低レベルに維持する。例えば、より低いMOIのF99/10、F27/12およびF95/13は、例えば処置後12時間、15時間、18時間、24時間、30時間、36時間、またはそれより長い間のような、処置後より長い期間の間、感染動物の肺においてより低い緑膿菌負荷量を達成することができる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、より低用量のファージを受けて細菌耐性の出現が遅延したせいであり得る。
【0121】
一部の他の実施形態では、約0.2~0.4程度の低いMOIが、驚くことに有効性をもたらし、例えば、F99/10、F27/12およびF95/13を含むファージカクテルを送達して約0.2~0.4のMOIの各ファージを提供して、感染動物の肺において緑膿菌負荷量の統計的に有意な低減をもたらすことができる。特定の理論に拘束されることなく、有効性は積極的療法(active therapy)によるものであろう。すなわち、10のMOIでのファージ用量は、ファージの複製または生活環の完了の必要なしに細菌負荷量を減らすために標的細菌集団より十分過剰にファージを提供する。より低いファージ用量は、標的細菌を減らすためにファージ感染/複製サイクルを含む積極的療法に依存し得る(Loc Carrillo C, et al., 2005, Appl Environ Microbiol 71 :6554-6563;Cairns BJ, et al, 2009, PLoS Pathog 5:el000253;およびHooton SP, et al., 2011, Int J Food Microbiol 151 : 157-163も参照のこと)。
【0122】
ある実施形態では、本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルは、呼吸器感染症または肺感染症などの、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエにより引き起こされる感染症を治療または予防するために単剤として使用される。他の実施形態では、本発明のファージカクテルは、同じまたは異なる種類の細菌を標的とする標準抗生物質などの、他の薬剤とさらに組み合わせて使用され、そのような細菌には、任意のグラム陽性菌、任意のグラム陰性菌、およびグラム陽性にもグラム陰性にも分類されない任意の他の群の細菌から選択される細菌が含まれる。本発明の組成物は、当業者に知られている細菌感染症を治療する任意の他の手段、特に呼吸器感染症を治療する任意の他の手段と組み合わせて使用してもよい。
【0123】
一部の特に好ましい実施形態では、本発明は、本発明のファージカクテルを、標準および/または非標準療法と組み合わせて投与することを含む、呼吸器感染症または肺感染症を治療および/または予防する方法を提供する。呼吸器感染症の標準療法として、トブラマイシン、アミカシン、コリスチン、アズトレオナム、ならびにレボフロキサシン、セフタジジム、ホスホマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、アムホテリシン、カプレオマイシン、リファンピン(fifampin)、イソニアジド、およびシプロフラキシン(ciproflaxin)などの抗生物質剤の吸入および/または全身投与;ならびにアムホテリシンBなどの抗真菌剤の吸入および/または全身投与が挙げられる。
【0124】
一部の実施形態では、本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルはエアロゾルとして投与されるが、追加の薬剤は全身投与される。例えば、一部の好ましい実施形態では、本発明のファージカクテル組成物は吸入により投与されるが、緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する活性を有する抗生物質剤などの抗生物質剤は全身投与される。一部の実施形態では、本発明のファージカクテル組成物は、それもエアロゾルとして投与される追加の薬剤と一緒に吸入により投与される。例えば、一部の好ましい実施形態では、本発明のファージカクテル組成物は、別の抗生物質剤または抗真菌剤と一緒にエアロゾルとして肺に投与される。
【0125】
一部の実施形態では、本発明は、本発明のファージ、ファージ産物、またはファージカクテルを、呼吸器感染症のための非標準療法と組み合わせて投与することを含む、呼吸器感染症または肺感染症を治療および/または予防する方法を提供する。非標準療法は通常、呼吸器感染症が1または2以上の標準療法に不応性である場合に用いられる。
【0126】
殺菌および抗感染用途
細菌性病原体は、粘膜において(例えば、上気道または下気道の粘膜、泌尿生殖器系の粘膜、眼の構造体の粘膜などを通して)最もよく感染する。粘膜それ自体はしばしば、環境において見られる多くの病原性細菌の貯留槽(reservoir)であり、単にそのような貯留槽であるだけの場合もある。病原性細菌のこの貯留槽を制御するように設計された抗感染薬は非常にわずかしか存在していないが、研究によって、特に病院および介護施設などの環境において、この貯留槽を低減または排除すると、感染症の発症を顕著に減らすことが示されている。
【0127】
本発明のファージ、ファージ産物、およびファージカクテルを、院内感染症の発生を予防または低減させるために、細菌、特にクレブシエラ・ニューモニエおよび緑膿菌の増殖を制御するための抗感染組成物において使用することができる。抗感染組成物は、それら細菌と接触する表面上の細菌のコロニー形成または増殖を低減または阻害する用途がある。本発明のファージ、ファージ産物、およびファージカクテルを、皮膚および粘膜などの生体表面への適用のため、ならびに非生体表面への適用のために製剤化される組成物中に組み込んでよい。
【0128】
生体表面で使用するための抗感染製剤として、限定はされないが、ゲル、クリーム、軟膏、スプレーなどが挙げられる。特定の実施形態では、抗感染製剤は、手術野、あるいは医療従事者および/または患者の手および/または露出した皮膚を滅菌するのに用いられる。好ましい実施形態では、生体表面は、哺乳動物の粘膜、より好ましくはヒトの粘膜である。特に好ましい実施形態では、生体表面は、鼻粘膜;咽頭、喉頭、気管、気管支および/または肺の内層;などの気道の粘膜である。
【0129】
非生体表面で使用するための抗感染製剤として、スプレー、溶液、懸濁液、溶液または懸濁液を染みこませたワイプなどである。特定の実施形態では、抗感染製剤は、例えば、電気器具、カウンタートップ、ならびに医療機器、病院設備を含めて、病院、介護施設、救急車などにおける固体表面で使用される。好ましい実施形態では、非生体表面は、病院の装置または手術用設備の表面である。特に好ましい実施形態では、非生体表面は、手術用装置または手術用設備の表面である。
【0130】
診断方法
本発明は、細菌感染症における原因物質を決定するための診断方法も包含する。ある実施形態では、細菌感染症の原因物質の診断は、(i)患者からの試料(例えば、スワブ、喀痰、または感染症を引き起こす細菌を培養するのに適切な他の試料)を培養する、(ii)培養物を1種または2種以上の本発明のファージ、ファージ産物およびファージカクテルと接触させる、および(iii)前記培養物の増殖および/または溶解の形跡をモニタリングすることによって行われる。ファージおよび/またはその単離産物(例えば、ポリペプチド、その生物活性断片またはバリアント、もしくはそれらをコードする核酸)の活性は、種または株に特異的な傾向があるため、1種または2種以上の本発明のファージ、ファージ産物およびファージカクテルに対する感受性または感受性の欠如は、感染を引き起こしている細菌の種または株を示すことができる。
【0131】
一部の実施形態では、患者から試験培養物を得て、それを、配列番号1~5のいずれかのヌクレオチド配列を含む/からなる核酸を含む1種または2種以上のファージ、またはそのバリアント、そのファージ産物(例えばリシンまたは尾部タンパク質などのファージタンパク質を含む)、そのバリアントまたは断片、あるいはそれらをコードする核酸と接触させる。培養物の増殖および/または溶解の低減は、試験試料が、緑膿菌、特に、本明細書に記載のような、用いられたファージ、ファージ産物、またはファージカクテルに感染し易い緑膿菌株を含むことを示し、それによって感染菌を同定し、さらに適切な診断および/または治療を可能にすることができる。
【0132】
一部の実施形態では、試験培養物を患者から得て、それを、配列番号6~10のいずれかのヌクレオチド配列を含む/からなる核酸を含む1種または2種以上のファージ、またはそのバリアント、そのファージ産物(例えばリシンまたは尾部タンパク質などのファージタンパク質を含む)、そのバリアントまたは断片、あるいはそれらをコードする核酸と接触させる。培養物の増殖および/または溶解の低減は、試験試料が、クレブシエラ・ニューモニエ、特に本明細書に記載のような、用いられたファージ、ファージ産物、またはファージカクテルに感染し易いクレブシエラ・ニューモニエ株を含むことを示し、それによって感染菌を同定し、さらに適切な診断および/または治療を可能にすることができる。
【0133】
試料は、患者から採取した組織生検またはスワブ、あるいは血液、涙、または尿などの流体試料であってよい。好ましい実施形態では、組織試料は、患者の気道から得られ、例えば、粘液試料、喀痰、または鼻孔からのスワブである。
【0134】
アミノ酸バリアント
本発明は、アミノ酸配列のバリアントを包含する。一部の実施形態では、それは、置換バリアント、挿入バリアントおよび/または欠失バリアントである。欠失バリアントは、典型的には、機能(例えば抗菌活性)に必須ではない天然タンパク質の1または2以上の残基を欠く。挿入突然変異体は、典型的には、ポリペプチド内の非末端点に物質の付加を含む。置換バリアントは、典型的には、ポリペプチド内の1または2以上の部位での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への交換を含み、好ましくは他の機能または特性の損失(または実質的な損失)なしに、タンパク質分解による切断に対する安定性などの、ポリペプチドの1または2以上の特性を変化させるように設計され得る。この種類の置換は、好ましくは保存的なものであり、すなわち、1つのアミノ酸が類似の形状および電荷を有するアミノ酸で置き換えられる。保存的置換は当技術分野において周知であり、例えば、アラニンからセリンへ;アルギニンからリジンへ;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ;アスパラギン酸からグルタミン酸へ;システインからセリン;グルタミンからアスパラギンへ;グルタミン酸からアスパラギン酸へ;グリシンからプロリンへ;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ;イソロイシンからロイシンまたはバリンへ;ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ;リジンからアルギニンへ;メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ;フェニルアラニンからチロシン、ロイシン、またはメチオニンへ;セリンからスレオニンへ;スレオニンからセリン;トリプトファンからチロシンへ;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ;およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへ;の変化が含まれる。
【0135】
遺伝子の全体的な領域が、例えば本明細書に記載されるようにリシンとして同定されるなど、特定の抗菌活性をコードすると同定されると、点突然変異を利用して、どのアミノ酸残基がその抗菌活性に重要であるかを詳細に同定することができる。当業者は、例えばDNA鎖に単一塩基変化を引き起こして、所望の機能を保存する改変コドンおよび/またはミスセンス突然変異をもたらすことができる。
【0136】
好ましくは、タンパク質のアミノ酸の突然変異によって、同等のまたは改良さえされた、第2世代の分子を作り出す。例えば、あるアミノ酸は、機能(例えば抗菌活性)の検出可能なまたは実質的な損失なしに、タンパク質構造における他のアミノ酸に置き換わることができる。そのような変更を加える際に、アミノ酸のハイドロパシー指標が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を与えるのにハイドロパシーアミノ酸指標が重要であることは、当技術分野において一般に理解されている。アミノ酸の相対的なハイドロパシー特徴が、得られるタンパク質の二次構造に寄与することが認められており、その二次構造は、タンパク質の他の分子との相互作用、例えばグラム陽性細菌の外殻内のペプチドグリカンとの相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷特徴に基づいてハイドロパシー指標を指定されており、例えば、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(-0.4)、スレオニン(-0.7)、セリン(-0.8)、トリプトファン(0.9)、チロシン(-1.3)、プロリン(-1.6)、ヒスチジン(-3.2)、グルタミン酸(-3.5)、グルタミン(-3.5)、アスパラギン酸(-3.5)、アスパラギン(-3.5)、リジン(-3.9)、およびアルギニン(-4.5)である。当技術分野において、類似したアミノ酸の置換が親水性に基づき有効になされ得ることも理解されている。疎水性と同様に、親水性の値が各アミノ酸に指定されており、アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、スレオニン(-0.4)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、ヒスチジン(-0.5)、システイン(-1.0)、メチオニン(-1.3)、バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、チロシン(-2.3)、フェニルアラニン(-2.5)、およびトリプトファン(-3.4)である。同等の分子を、1つのアミノ酸を別のアミノ酸に置換することによって得ることができ、それらのハイドロパシー指標および/またはそれらの親水性指数は、互いの±2以内、好ましくは±1以内、または最も好ましくは±0.5以内である。
【0137】
ある実施形態では、本発明は、本明細書に開示されているアミノ酸配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10、あるいはそれ以上のアミノ酸修飾(例えば挿入、置換、欠失など)を含む単離ペプチドを包含する。好ましい実施形態では、親ポリペプチドの生物活性が保持または実質的に保持されるように突然変異がなされる。例えば、本発明は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10、あるいはそれ以上のアミノ酸修飾を含むように突然変異され、かつ1または2以上の緑膿菌株に対して抗菌活性を保持する/示す、バクテリオファージF99/10、F27/12、またはF95/13由来のポリペプチドを包含する。一部の実施形態では、本発明は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10、あるいはそれ以上のアミノ酸修飾を含むように突然変異され、かつ1または2以上のクレブシエラ・ニューモニエ株に対して抗菌活性を保持する/示す、バクテリオファージF92/15、F105/15、F134/15、およびF141/15由来のポリペプチドを包含する。
【0138】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
本発明は、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(核酸)を提供する。本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびに抗生物質活性および/または他の生物活性を有する修飾ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、高ストリンジェント、中ストリンジェントまたは低ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。
【0139】
当技術分野で既知のあらゆる方法によって、ポリヌクレオチドを得ることができ、そのヌクレオチド配列を決定することができる。例えば、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、適切な供給源(例えば緑膿菌バクテリオファージF99/10、F27/12、およびPsa_F95/13、クレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージF391/08、Kle_F92/15、Kle_F105/15、Kle_F134/15、およびKle_F141/15)由来の核酸から生成されたものでよい。ヌクレオチド配列は、当技術分野で既知の通常の方法によって(例えば、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる、Carlson, “Working with bacteriophages: common techniques and methodological approaches,” In, Kutter and Sulakvelidze (Eds) Bacteriophages: Biology and Applications, 5th ed. CRC Press (2005)を参照されたい)、あるいは実施例において本明細書に記載されているように、ファージゲノムから単離することができる。特定のポリペプチドをコードする核酸を含む供給源が入手不可能であるが、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列が分かっている場合、ポリペプチドをコードする核酸を化学的に合成し、当技術分野で既知のあらゆる方法を使用して、複製可能なクローニングベクター内にクローニングしてもよい。
【0140】
本発明のポリペプチドのヌクレオチド配列が決定されると、そのヌクレオチド配列を、ヌクレオチド配列を操作するための当技術分野で周知の方法、例えば、組換えDNA技術、部位特異的突然変異誘発、PCRなどを使用して操作し(例えば、双方とも参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる、Sambrook et al., 1990, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY、およびAusubel et al., eds., 1998, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NYにおいて記載されている技術を参照されたい)、例えばアミノ酸の置換、欠失および/または挿入を生じさせるなど、異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを作製してもよい。
【0141】
本発明の分子の組換え発現
本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸が得られると、その分子を生成するためのベクターを、当技術分野で周知の技術を使用して、組換えDNA技術により作製することができる。当業者に周知の方法を使用して、適切な転写および翻訳制御シグナルと共にそのコード配列を含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、例えば、in vitro組換えDNA技術、合成技術、およびin vivo遺伝子組換えが含まれる(例えば、Sambrook et al., 1990, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY、およびAusubel et al. eds., 1998, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NYに記載されている技術を参照されたい)。
【0142】
本発明は、本発明のファージタンパク質、その生物活性断片またはバリアントをコードする発現ベクターを提供する。本発明の分子のヌクレオチド配列を有する核酸を含む発現ベクターを、従来技術(例えば、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿など)によって宿主細胞に移送することができ、その後、トランスフェクトされた細胞を従来技術によって培養して本発明のポリペプチドを生成する。好ましい実施形態では、宿主細胞は、その配列を含むバクテリオファージが由来する親細菌種以外のものである。特定の実施形態では、ポリペプチドの発現は、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターにより制御される。特定の実施形態では、発現ベクターは、pQE-30(Qiagen社製)またはpET-29(a)(Novagen社製)である。
【0143】
様々な宿主発現ベクター系を用いることができる。そのような宿主発現系は、その系により本発明のポリペプチドのコード配列が産生およびその後精製され得るビヒクル(媒体)を表すが、適切なコード核酸で形質転換またはトランスフェクトしたときに本発明のポリペプチドをin situで発現する細胞も意味する。
【0144】
本発明のポリペプチドを発現させるのに用いる宿主細胞は、本発明のバクテリオファージ、ファージタンパク質、またはそのバリアントもしくは断片に感受性であるまたは非感受性である細菌細胞であってよい。例えば、一部の実施形態では、用いる宿主細胞は、緑膿菌114/12株、緑膿菌460/06株、緑膿菌433/07株、緑膿菌66/09および/または緑膿菌1992/05株である。一部の特定の例では、緑膿菌114/12株を用いてファージF27/12のポリペプチドを発現させ;緑膿菌460/06株を用いてファージF99/10のポリペプチドを発現させ;緑膿菌433/07株を用いてファージF99/10、およびF27/12のいずれかのポリペプチドを発現させ;緑膿菌66/09株を用いてファージPsa_F95/13のポリペプチドを発現させ;および緑膿菌1992/05株を用いてファージF99/10、F27/12およびF95/13のいずれかのポリペプチドを発現させる。一部の実施形態では、例えば、用いる宿主細胞は、クレブシエラ・ニューモニエ573/07株、クレブシエラ・ニューモニエ223/14株、クレブシエラ・ニューモニエ397/07株、クレブシエラ・ニューモニエ1633/05株、および/またはクレブシエラ・ニューモニエ241/14株である。一部の特定の例では、ファージF391/08のポリペプチドをクレブシエラ・ニューモニエ573/07株において発現させ;ファージKle_F92/5のポリペプチドをクレブシエラ・ニューモニエ223/14株において発現させ;ファージKle_F105/15のポリペプチドをクレブシエラ・ニューモニエ1633/05株において発現させ;Kle_F134/15のポリペプチドをクレブシエラ・ニューモニエ397/07株において発現させ;およびKle_F141/15のポリペプチドをクレブシエラ・ニューモニエ241/14株において発現させる。
【0145】
一部の実施形態では、本発明のバクテリオファージ、ファージタンパク質、またはそのバリアントもしくは断片に非感受性である細菌(例えば枯草菌)を用いる。いずれにしても、本発明のポリペプチドのコード配列を含む、組み換えファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで細菌を形質転換させることができる。
【0146】
一部の実施形態では、例えば、本発明のポリペプチドをコードする配列を含む組換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、サッカロミセス・ピチア(Saccharomyces Pichia));本発明のポリペプチドをコードする配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞系;本発明のポリペプチドをコードする配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフワラーモザイクウイルス(CaMV、cauliflower mosaic virus)およびタバコモザイクウイルス(TMV、tobacco mosaic virus)を感染させたもしくは本発明のポリペプチドをコードする配列を含む組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換した、植物細胞系;または、哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)もしくは哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、またはワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)と共に、組換え発現構築物中に本発明のポリペプチドをコードする配列を含む、哺乳動物細胞系(例えば、COS細胞、CHO細胞、BHK細胞、293細胞、293T細胞、3T3細胞、リンパ球(米国特許第5,807,715号を参照のこと)、またはPer C.6細胞(ヒト網膜細胞))などの、他の微生物を宿主発現系として用いる。
【0147】
細菌系において、異なる発現ベクターが、発現されるポリペプチドの意図された用途に応じて選択され得る。例えば本発明のポリペプチドを含む医薬組成物のために、大量のタンパク質が望まれる場合、高レベルのタンパク質産物の発現を導くベクターが用いられ、特に、例えば容易に精製できる融合構築物として発現される場合、発現産物が容易に精製され得るそのようなベクターが用いられる。そのようなベクターとして、限定はされないが、融合タンパク質が産生されるようにコード配列がlacZコード領域と共にインフレームでベクター内にライゲーションされている大腸菌発現ベクターpUR278(Ruther et al., 1983, EMBO J. 2:1791);pINベクター(Inouye & Inouye, 1985, Nucleic Acids Res. 13:3101-3109、Van Heeke & Schuster, 1989, J. Biol. Chem. 24:5503-5509)などが挙げられる。pGEXベクターも、外来ポリペプチドを、この場合グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と共に、融合タンパク質として発現させるために使用することができる。通常、そのような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン-アガロースビーズのマトリックスに吸着させ、その後、遊離グルタチオンを用いて溶出することによって、溶解細胞から容易に精製することができる。pGEXベクターは、トロンビン切断部位または因子Xaプロテアーゼ切断部位を含むように設計され、従って、標的遺伝子産物をGST部分から放出させることができる。
【0148】
昆虫系では、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcNPV)を、外来遺伝子を発現するためのベクターとして使用することができる。このウイルスは、好ましくはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞内で増殖する。ポリペプチドのコード配列を、そのウイルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)内にクローニングし、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置いてよい。
【0149】
本発明のポリペプチドが組換えによって発現されると、ポリペプチドの精製のための当技術分野で既知のあらゆる方法によって、例えば、クロマトグラフィ(例えば、イオン交換、アフィニティおよびサイズ排除カラムクロマトグラフィ)、遠心分離、溶解度の差、またはポリペプチドの精製のための他のあらゆる標準的な技術によって、それを精製することができる。
【実施例
【0150】
以下の実施例および本明細書に記載の実施形態は例示目的にすぎず、それに照らして様々な改変または変更が当業者に示唆され、それらは本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることを理解されたい。
【0151】
別段指示がない限り、本明細書に開示する特定のバクテリオファージは、以下の方法に従って単離し、処理し、および解析した。さらに、以下に記載する研究は、Instituto de Medicina Molecularの動物倫理委員会により所内で承認され、ポルトガルの法律に基づいて、ポルトガルのGeneral Directorate of Veterinary Services(Direccao Geral de Veterinaria)によって国家的に承認された。研究におけるすべての動物は、欧州指針86/609/EC(Council of the European Communities. Council Directive 86/609/EEC of 24 November 1986 on the approximation of laws, regulations and administrative provisions of the Member States regarding the protection of animals used for experimental and other scientific purposes. Off J Eur Communities L358:1-28)、ポルトガルの法律(条例1005/92)(Portuguese Agricultural Ministry. Portaria no.1005/92 of 23 October on the protection of animals used for experimental and other scientific purposes. Diario da Republica I - Serie B245:4930-4942)、および実験動物の管理と使用に関する指針(NRC2011)(Institute for Laboratory Animal Research. 2011. Guide for the care and use of laboratory animals. Washington (DC): National Academies Press.)に基づいて維持した。
【0152】
この研究の1つの目的は、急性肺感染症のマウス実験モデルにおいて、緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエに対する噴霧されたバクテリオファージカクテルの抗微生物活性を調べることであった。エアロゾル化バクテリオファージの噴霧は、肺患部に直接送達させることを可能にし、噴霧された抗生物質のいくらかの副作用を克服する。
【0153】
細胞株の調製
緑膿菌114/12、460/06、433/07、66/09、1992/05株、ならびにクレブシエラ・ニューモニエ223/14、397/07、1633/05、241/14株を、リスボン地区の病院で採取および同定されたヒト臨床試料から単離した。加えて、本発明のバクテリオファージの感染能力を評価するために、100の緑膿菌臨床株および103のクレブシエラ・ニューモニエ臨床株を単離した。100の緑膿菌株の内、52株をパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)により解析し、別個の分子プロフィールを示した(Kaufmann ME, 1998, Protocols and Clinical Applications, Humana Press Inc., pages 33-50、およびTenover F, et al., 1995, Clin Microbiol 33(9):2233-2239)。また、緑膿菌株の10の代表的な分離株を、配列型(ST)において細菌分離株のタイピングを可能にする多座位配列タイピング(MLST)により特徴付けした。
【0154】
クレブシエラ・ニューモニエ株、特に臨床分離株は、頻繁に粘性の多糖莢膜を生成する。これら莢膜の生化学的複雑さが株特異的抗原型の莢膜物質の産生を生じさせる(Clegg S, et al, 2016, Microbiol Spectr 4(1))。この研究において、103のクレブシエラ・ニューモニエ臨床株の内73株は、クレブシエラ・ニューモニエ抗原に対する市販の抗血清によって莢膜多糖に関してすでに特徴付けされており、Aida Duarte教授により親切に提供された。これらの株により示される莢膜血清型は、15株のK2、8株のK3、5株のK8、8株のK15、1株のK16、1株のK19、1株のK20、1株のK21、3株のK24、1株のK26、1株のK28、1株のK30、1株のK35、1株のK44、4株のK55、3株のK68、1株のK8,47、1株のK6,68、1株のK8,35,55、12株のO:1(莢膜なし、O抗原が同定される)、1株のO:5(莢膜なし、O抗原が同定される)、2株のneg(血清型が同定されていない莢膜株)であった。
【0155】
各細菌分離株をトリプトンソイ寒天培地プレート(TSA、Biokar Diagnostics社,Pantin Cedex,France)上に画線し、+37℃で18時間インキュベートした。すべての臨床株を、必要になるまで、15%グリセロール(w/v)を含むトリプトンソイブロス(TSB、Biokar Diagnostics社,Pantin Cedex,France)中において-70℃で保管した。
【0156】
-70℃で凍結保存した株を37℃でTSA上において一晩増殖させた。
【0157】
in vitro実験用に、シングルコロニーを、撹拌しながら37℃でTSB中において一晩増殖させた。新たな細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、撹拌しながら37℃でインキュベートした。指数増殖期(600nmで0.3~0.5の光学密度を有する)に達した時に採取した。およそ2.0×10cfu/mlの接種材料を、溶菌曲線を作製するために用いた。
【0158】
in vivo実験用に、シングルコロニーを37℃でTSB上において一晩増殖させた。新たな細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、指数増殖期に達した時に細菌を採取し、高速遠心分離により濃縮した。6mlの細菌懸濁液を0.9%NaCl中に調製し、およそ2.0x1010cfu/mlでの各臨床株の噴霧に使用した。
【0159】
バクテリオファージ株の調製
以下の毒性バクテリオファージをリスボン領域の汚水から単離した:緑膿菌F99/10、F27/12、Psa_F95/13、クレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/5、Kle_F105/15、Kle_F34/15、およびKle_F141/15。それらファージを以下のように臨床細菌株において増殖させた:ファージF99/10、F27/12およびPsa_F95/13は緑膿菌1992/05において増殖させた;ファージF27/12は緑膿菌114/12において増殖させた;ファージPsa_F95/13は緑膿菌66/09において増殖させた;ファージF99/10、F27/12、Psa_F95/13は緑膿菌1992/05において増殖させた;ファージF391/08はクレブシエラ・ニューモニエ573/07において増殖させた;ファージKle_F92/15はクレブシエラ・ニューモニエ223/14において増殖させた;ファージKle_F105/15はクレブシエラ・ニューモニエ1633/05において増殖させた;Kle_F134/15はクレブシエラ・ニューモニエ397/07において増殖させた;およびKle_F141/15はクレブシエラ・ニューモニエ241/14において増殖させた。
【0160】
本発明者は、(パルスフィールドゲル電気泳動および/またはポリメラーゼ連鎖反応または他の核酸増幅技術により評価して)遺伝的に多様なTechnoPhage社のコレクション菌株に対して活性を有するいくつかの溶菌ファージを単離した。in vitro感受性試験は、TechnoPhage株の少なくとも90%を溶解することができる1つの特定のファージを含む、そのコレクション中のすべてのTechnoPhage株を累積的に溶解することができるTechnoPhageコレクションをもたらした。
【0161】
緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエに対する溶菌バクテリオファージを単離するために、いくつかの臨床株を用いた。リスボンの市街地の様々な起源からの汚水を、二重寒天重層プラークアッセイ(double agar overlay plaque assay)により様々な緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエ臨床株に感染する能力に関して試験した(Kropinsk A, et al., 2009, Methods Mol Biol 501 :69-76)。
【0162】
簡単に説明すると、細菌株を攪拌しながら37℃でTSB中において一晩増殖させた。新たな細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、撹拌しながら37℃でインキュベートし、指数増殖期(600nmで0.3~0.5の光学密度)に達した時に採取した。各培養物を水試料に添加し、混合物を37℃で30分間インキュベートし、その後、予め平衡化した3mlの0.7%軟寒天を加えた。この寒天-水-細菌懸濁物を、1.5%TSAプレート上に重層し、室温で固化させ、さらに37℃でインキュベートした。18時間のインキュベーション後、このプレートを、バクテリオファージの存在を示す細菌叢内のファージプラーク(透明な領域)の存在について確認した。滅菌ピペットチップを用いてバクテリオファージのプラークを突つき、SM緩衝液に移し、4℃で保管した。
【0163】
ファージの増殖および特徴付け
宿主域を評価する前に、新たに単離したバクテリオファージは、指標株において、増殖、増幅および精製(3連続溶出を用いる)の処理を受けた。特定のバクテリオファージ感染に対する30の緑膿菌およびクレブシエラ・ニューモニエの細菌分離株の感受性を、二重寒天重層プラークアッセイを用いて評価した。簡単に説明すると、細菌株を攪拌しながら37℃でTSB中において一晩増殖させた。新たな細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、撹拌しながら37℃でインキュベートし、指数増殖期(600nmで0.3~0.5の光学密度)に達した時に採取した。各培養物を、予め希釈した単離バクテリオファージに添加し、混合物を37℃で30分間インキュベートし、その後、予め平衡化した3mlの0.7%軟寒天を加えた。この寒天-バクテリオファージ-細菌懸濁物を、1.5%TSAプレート上に重層し、室温で固化させ、さらに37℃でインキュベートした。プレートを室温で乾燥させた後、37℃で一晩インキュベートした。バクテリオファージの存在を示す細菌叢内のファージプラークの出現を観察することにより、特定のバクテリオファージに対する30の細菌分離株の感受性を決定した。
【0164】
最も大きな宿主域を有するバクテリオファージを選択し、増幅、高速遠心分離による濃縮、塩化セシウム(CsCl)勾配での精製、バクテリオファージゲノムDNAの抽出、ならびに制限断片長多型および形質導入アッセイによる解析などの後の処理にかけた。宿主DNAのファージゲノム断片が、誤って、ファージDNAの代わりにファージ頭部内にパッケージングされたときに、普遍形質導入ファージが生じる。宿主ゲノムのいずれの部分もこのやり方でパッケージおよび移送できるため、そのプロセスは普遍形質導入と呼ばれる。この能力は、PCRによる特定宿主遺伝子の増幅によって試験される。その遺伝子は宿主ゲノム内にいくつかのコピーを有し、細菌間で非常に保存されているべきである。その試験はファージの溶解物中の16s rRNA遺伝子の増幅に基づく(Beumer et al, 2005; Del Casale et al, 2011)。
【0165】
この段階に達したバクテリオファージを、100の緑膿菌の細菌分離株および103のクレブシエラ・ニューモニエの細菌分離株を用いて、宿主域に関して個別に試験した。高い割合(%)の感染を示すものをゲノムシークエンシングのために選択した。バイオインフォマティック分析の後、最も有望なバクテリオファージを治療カクテルの組成物のために選択した。
【0166】
緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13バクテリオファージのそれぞれの形態を、カナダのケベック州のラバル大学のFelix d’Herelle Reference Center for Bacterial Virusesで透過電子顕微鏡により解析した。Psa_F95/13は、ポルトガルのリスボンのHistology and Comparative Pathology Laboratory of Institute of Molecular Medicineで解析した。これらのデータを、ゲノム解析を用いて統合し、これらのバクテリオファージをアッカーマン分類(Ackermann classification)(Ackermann, 2009, Methods Mol Biol 501 :69-76)に準拠して分類した。
【0167】
クレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージの形態を、ポルトガルのリスボンのHistology and Comparative Pathology Laboratory of Institute of Molecular Medicineで解析した。これらのデータもゲノム解析で統合し、そのファージをアッカーマン分類(Ackermann, 2009, Methods Mol Biol 501 :69-76)に準拠して分類することを可能にした。
【0168】
ファージカクテルのin vitroでの有効性
バクテリオファージカクテル組成物をまずin vitroアッセイを用いて評価した。個々のファージ、ならびにそれらの組合せを用いて溶菌培養(Lysis culture)を実施して、選択された緑膿菌F99/10、F27/12、およびPsa_F95/13バクテリオファージ、ならびにクレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージの有効性を観察した。他のバクテリオファージも同様に試験した。in vitro研究は、動物モデルで使用するためのバクテリオファージ療法プロトコルを確立するための基礎的理解を提供する。
【0169】
in vitroアッセイにより、緑膿菌1992/05株に対して液体培養で、個々でのおよび組み合わせた場合における、緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13バクテリオファージの抗菌活性を評価した。これらアッセイは、抗微生物剤の殺菌または静菌活性を決定するのに用いられる時間-殺菌曲線(time-kill curves)(Rizvi M, et al, 2013, J Global Antimicrob Resist 1 : 103-108)に類似した。また、in vitroアッセイにより、クレブシエラ・ニューモニエ121/15株に対して、単一培養で、または液体培養で組み合わせて、バクテリオファージの溶菌活性を評価した。簡単に説明すると、細菌株を攪拌しながら37℃でTSB中において一晩増殖させた。新たな細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、撹拌しながら37℃でインキュベートし、指数増殖期に達した時に採取した。各細菌に関して、3つの液体培養物を調製し、同時にアッセイを行った。対照細菌培養物には、培地、および2.0×10cfu/mlの指数増殖期の細菌を接種した。対照バクテリオファージ培養物には、培地、および試験すべきバクテリオファージを所定の感染多重度で接種した。各試験培養物には、培地、試験すべきバクテリオファージを所定の感染多重度で、および2.0×10cfu/mlの指数増殖期の細菌を接種した。培養物を軽く攪拌しながら37℃でインキュベートし、t=0の時点、およびその後1時間間隔で8時間の間、さらには再度24時間のインキュベーション後、各培養物から試料を採取した。
【0170】
生菌数を10倍段階希釈法によって定量化した(Murray PR, et al. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press.)。対照細菌培養物および試験培養物に関して、緑膿菌培養物についてはセトリマイド寒天プレート(Biokar Diagnostics,Pantin Cedex,France)、またクレブシエラ・ニューモニエ培養物についてはHiCrome Klebsiella Selective Agar Baseプレート(HiMedia Laboratories社,Mumbai,India)上に、100μlの各希釈物を広げた。プレートを好気性条件下において37℃で24時間インキュベートし、その後コロニー数を計測した。対照バクテリオファージ培養物に関して、t=0の時点に100μlのアリコートを採取し、直ちに希釈して、二重寒天重層プラークアッセイによって各バクテリオファージの最初の濃度を決定した。プレートをインキュベート後、プラーク形成単位(pfu)を計測することによりバクテリオファージの力価(タイター)を決定した。
【0171】
F99/10、F27/12、F95/13、F391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージのためのIn vitroアッセイに続いて、個々におよび組み合わせて、1および10のMOIを用いて、動物実験で試験するために0.9%NaCl中にバクテリオファージカクテルを調製した。
【0172】
ラットモデルにおけるファージカクテルのin vivoでの有効性
急性肺感染症のマウス実験モデルを緑膿菌感染症用に適合させた。マウスに細菌を接種するため、ならびに確立された急性肺感染症を治療するために緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13バクテリオファージで構成される本発明のバクテリオファージカクテルを送達させるために、噴霧を用いた。このアッセイでは、比較物質として抗生物質を用いた。コリスチンは、カルバペネムに耐性である緑膿菌により引き起こされる感染症の治療での重要性により用いられる抗生物質であった。
【0173】
噴霧
図2は、クラスII生物学的安全キャビネット内で使用される噴霧システムを示す。動物実験の過程中に使用されるネブライザー設備は、AIRPROJECT PIC溶液(Artsana S.p.a.,Grandate,Italy)、すなわち以下の動作仕様:薬物最大容量:6.5mL;周波数:2.5MHz;粒子径:3.6μm±0.15の空気動力学的中央粒子径(MMAD);および71%の通気性フラクション;の超音波エアロゾルである。AIRPROJECT PICを吸入チャンバに接続し、動物(最高5匹の動物)を、感染中は細菌懸濁液に、および10分の平均噴霧時間で処置中はバクテリオファージカクテルに曝した。
【0174】
動物
体重が30~35gの10週齢の特定病原体未感染(Specific Pathogen Free;SPF)の雌のCD1マウスをCharles River Laboratories(L’Arbresle Cedex,France)から得た。この動物を、以下の条件:湿度(50~70%)および温度(20~22℃)に制御され、12時間明期および12時間暗期のサイクルで、ペレット化した齧歯動物用固形飼料および濾過滅菌水に自由にアクセスできる部屋の中のマイクロアイソレーターでの飼育;下で、承認された動物ケアセンターにおいて飼育した。動物は最初に5つの群で収納した。感染後、実験群によって収納した。すべての外科的処置は、オートクレーブ滅菌した器具を用いてクラスII生物学的安全キャビネット内で実施した。この試験では、全33匹のマウスに、感染の4日前に150mg/kg体重のシクロホスファミドを腹腔内(i.p.)投与し、さらに感染の1日前に100mg/kgのシクロホスファミドをi.p.投与して、一過性の好中球減少状態にした。
【0175】
感染
29匹のマウスにエアロゾルを吸入させて緑膿菌1992/05に感染させた。15分の間に6mlの緑膿菌1992/05(およそx10cfu/ml)懸濁液を噴霧した。12時間後、2匹のマウスを安楽死させ、cfu定量のために肺を採取した。27匹の感染動物を3つの実験群:緑膿菌1992/05感染群(n=9);ファージ処置群(n=9);抗生物質処置群(n=9)にランダムに分けた。陰性対照群は、6mlの0.9%NaClを噴霧した2匹の動物を含んだ。
【0176】
バクテリオファージ処置のプロトコル
バクテリオファージでの処置は、感染後(p.i.)24時間で開始した。感染多重度(MOI)を評価するために、2匹の非感染動物および1回投与(1用量)で処置した動物を安楽死させ、pfu定量のために肺を採取した(処置対照群)。
【0177】
ファージ処置群のマウスに、15分の間に6mlのバクテリオファージカクテル(およそ6.0x10pfu/ml)を噴霧した。抗生物質処置群の動物は、コリスチン硫酸塩>15000U/mg(Sigma,St.Louis,MO,USA)を16mg/kg用量で腹腔内(i.p.)注射して処置した(Hengzhuang, 2012)。処置プロトコルは、4回投与を含み、6時間間隔で投与し、その後4時間の休薬期間の後、動物を安楽死させ、微生物学的および組織病理学的解析のために肺を採取した。緑膿菌感染群および陰性対照群の動物には、同じスケジュールで0.9%のNaClを噴霧した。
【0178】
In Vivo評価
実験研究中、試験動物を評価した。スコアシートを用いて、所定の間隔(感染後24時間および48時間)で各動物の健康状態を調べた。動物の毛、活動、呼吸および動きの直接観察に従い、0から3(正常から重篤)までのスコアを指定し、スコアは各マウスの動物福祉の概要を提供する役割を果たした。
【0179】
安楽死および肺採取
クラスII生物学的安全キャビネットにおいて、自家製の小容量の密閉チャンバ内で動物をイソフルレン(Isoflo,Esteve veterinaria,Barcelona,Spain)吸入により安楽死させた。解剖を始める前に、いずれの呼吸運動も心拍もないことをチェックすることにより、動物が死んでいることを確認した。その後、手術部位を70%エタノールで洗浄した。清浄で無菌の手術器具、ピンセットおよびハサミを用いて、胸郭の真下に小切開を作り、マウスを横断して皮膚および結合組織を切り開いた。マウスの首までそれぞれの側で側方切開術を行った。鉗子により胸郭を引き離して臓器および肺を露出させ;さらにその後、結合組織をハサミで切り、肺は無傷のままにしながら、気管を徐々に強く引っ張ることにより肺を切り取った。肺全体を採取し、使用まで15mlの遠心チューブ内に入れた。あらゆる血液および破片を除去し、およそ30秒間高温のガラスビーズ滅菌器内に浸し、完全に冷却し、さらにその後70%エタノールで洗浄することにより、異なる動物での使用の間に器具を滅菌した。各マウスの採取した肺組織の重さを量り、2mlの0.9%NaCl中でホモジナイズした。
【0180】
感染後34時間で、かつ処置開始の22時間後に、感染群、ファージ処置群、抗生物質処置群から6匹のマウス、および陰性対照群からの1匹のマウスを安楽死させ、cfu定量のために肺を採取した。感染群、ファージ処置群および抗生物質処置群からの3匹のマウス、および陰性対照群からの1匹のマウスの肺も組織病理学的解析のために採取した。
【0181】
微生物学的解析
ホモジナイズした肺組織を5秒間ボルテックスし、懸濁液の100μlのアリコートを段階希釈に用いた。10倍段階希釈法を用いて生菌数を計測した(Murray PR, 2003, Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press)。各希釈物から100μlをセトリミド寒天選択培地のプレート(Biokar Diagnostics,Pantin Cedex,France)に接種した。プレートを好気性条件下において+37℃で24時間インキュベートし、その後コロニー数を計測した。セトリミド寒天培地上で増殖させたコロニーを、その形態に基づき緑膿菌として推定的に同定した(Brown VI, et al, 1965, Clin Pathol 18:752-756)。
【0182】
組織病理学的解析
組織病理学的解析のために、動物をクラスII生物学的安全キャビネット内で上記のように安楽死させた。解剖を始める前に、いずれの呼吸運動も心拍もないことをチェックすることにより、動物が死んでいることを確認した。その後、手術部位を70%エタノールで洗浄した。清浄で無菌の手術器具、ピンセットおよびハサミを用いて、胸郭の真下に小切開を作り、マウスを横断して皮膚および結合組織を切り開いた。マウスの首までそれぞれの側で側方切開術を行った。鉗子を用いて胸郭を引き離した後、できるだけ多くの骨を除くことを目指して残りの胸郭および他の組織を注意深く除いて気管を露出させた。鉗子を気管の下に置いて気管を露出したままに維持し、気管が食道から分離されていることを確実にし、ホルモアルデヒド、4%リン酸塩緩衝液(Applichem,Darmstadt,Germany)を、肺が膨張するまで気管内(軟骨リングの間)に注入した。結合組織をハサミで切りながら、気管を徐々に強く引っ張ることにより肺を切り取った。肺全体を採取し、およそ10mlのホルモアルデヒド、4%リン酸塩緩衝液を含む15mlの遠心チューブ内に入れ、24時間の固定の間、攪拌しながら室温で維持した。その後、ホルモアルデヒド、4%リン酸塩緩衝液を70%エタノールで置換した。
【0183】
IMMでのHistology Serviceにより組織学的解析を実施した。組織をパラフィン包埋し、3μm増分で縦方向に切片を作った。それによって、肺の構造を明確に可視化させ、細い気道に分枝しさらに最終的に肺胞管および肺胞腔内に通じる太い気道を見ることができるようにする。各肺に関して、2つの連続切片を2枚のスライドに置き、ヘマトキシリン・エオシン(HE)およびグラム染色した。組織スライドを光学顕微鏡下で検査し、カラーカメラ(Leica DM2500、Leica Microsystems GmbH社,Wetzlar,Germany)を備えた電動式倒立明視野顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M,Gottingen,Germany)を使用して50×倍率で切片を撮影した。
【0184】
第2の齧歯動物モデル-慢性創傷感染
慢性創傷感染のラット実験モデルを緑膿菌感染症用に最適化させた。そのモデルは、糖尿病の誘発なしに、2012年にMendesらにより記載されているやり方に基づく。緑膿菌F99/10、F27/12およびPsa_F95/13バクテリオファージから構成されるバクテリオファージカクテルを、確立された感染症の処置のために創傷に直接投与した。
【0185】
動物
体重が175~200g(8週齢)の特定病原体未感染(SPF)の雄のウィスターラットをCharles River Laboratories社(L’Arbresle,Cedex,France)から得た。この動物を、以下の条件:湿度(50~70%)および温度(20~22℃)に制御され、12時間明期および12時間暗期のサイクルで、ペレット化した齧歯動物用固形飼料および濾過滅菌水に自由にアクセスできる部屋の中のマイクロアイソレーターでの飼育;下で、承認された動物ケアセンターで飼育した。動物を最初に3つの群で収納した。潰瘍形成および感染後、実験群に従い個別に収納した。すべての外科的処置は、オートクレーブ滅菌した器具を用いてクラスII生物学的安全キャビネット内で実施した。この試験では、全15匹のラットを用いた。
【0186】
感染
12匹のラットを除毛および潰瘍形成(Mendes et al 2013)し、その後に緑膿菌1992/05を感染させた。細菌懸濁液を0.9%NaCl中に調製し、マクファーランドスケール(McFarland’s Scale)0.5で1.5x10cfu/mlの最終濃度に調整し、そこから100μlを用いて傷に接種した。陰性対照群からの3匹の動物の傷には100μlの0.9%NaClを接種した。4日後、感染動物を2つの実験群:緑膿菌1992/05感染群(n=6);ファージ処置群(n=6)にランダムに分けた。創傷後4、5および7日目に、半閉塞性包帯を切り取り、創傷を清拭した。cfuの決定のためにスワブを回収した。
【0187】
バクテリオファージ処置のプロトコル
ファージ処置プロトコルは、感染後(p.i.)4日目に開始した。すべての試験群が、導入期および維持期からなるバクテリオファージ処置プロトコルを受けた。導入期は、最初のデブリードマン(創傷後4日目)の後に生じ、5回(4時間毎)の100μLの初期(primary)バクテリオファージカクテルの投与からなっていた。維持期は5日目~8日目であり、1日2回(12時間毎)の100μLの初期バクテリオファージカクテルの投与からなっていた。デブリードマンを実施した場合は、バクテリオファージ投与が続いた。対照群には、100μLの滅菌生理食塩水を同じ頻度で与えた。バクテリオファージカクテルはおよそ2x1011pfu/mlを有する。
【0188】
動物の安楽死および創傷の採取
創傷後7日目に屠殺する前に、設置したデジタル顕微鏡を使用して、1.5cmの標準的な高さから創傷を撮影した。創傷後7日目にイソフルレンの過量投与により屠殺し、各潰瘍およびその周りの0.5cmの皮膚境界を、滅菌した外科用ハサミを使用して収集し、チューブ内に入れた。
【0189】
微生物学的解析
創傷後4、5および7日目ならびにデブリードマンの後に、液体Amies溶出スワブ(eSwab Collection and Preservation System、Copan社,Corona,CA)を用いて、スワブ培養物を採取および搬送した。細菌採取は、Sullivanらにより記載されている1点法を使用して実施した。簡単に説明すると、滅菌したスワブを使用して、十分な指圧でスワブを時計回りに3回回転させて、各創傷の中心表面をよくこすり、小量の滲出液を得た。次いで、そのスワブをチューブに挿入し、即時処理のために実験室に搬送した。このスワブ採取チューブを、(中のスワブと共に)5秒間ボルテックスし、得られた懸濁液の100μLのアリコートを段階希釈に使用した。10倍段階希釈方法を使用して定量を実施した(Murray PR, Baron EJ, Jorgensen JH, Pfaller MA, Yolken RH. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press)。100μLの各希釈物を、セトリミド寒天(Biokar Diagnostics,Pantin Cedex,France)選択培地のプレートに接種した。プレートを好気性条件下において+37℃で24時間インキュベートし、その後コロニー数を計測した。セトリミド寒天培地上で増殖させたコロニーを、その形態に基づき緑膿菌として推定的に同定した(Brown VI, Lowbury EJ. 1965. Use of improved cetrimide agar medium and other culture methods for Pseudomonas aeruginosa. J Clin Pathol 18:752-756)。
【0190】
組織病理学的解析
組織病理学的解析のために、動物を、動物設備のクラスII生物学的安全キャビネット内で上記のように安楽死させた。採取した試料を10%緩衝ホルマリン溶液中で固定し、一晩固定した後、組織をトリミングし、最大幅のマージンで切り開き、パラフィン包埋し、3mm増分で切片を作製した。前後軸に垂直でかつ創傷表面に垂直に、切片を作製した。各創傷について、2つの連続切片をスライド上に置き、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。カラーカメラ(Leica DM2500,Leica Microsystems GmbH,Wetzlar,Germany)を備えた電動式倒立明視野顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M,Gottingen,Germany)を使用して、50×倍率で切片を撮影した。(Brown VI, Lowbury EJ. 1965. Use of improved cetrimide medium and other culture methods for Pseudomonas aeruginasa. J Clin Pathol 18:752-756)に記載されているように、上皮間隙(epithelial gap)(EG)および真皮間隙(dermal gap)(DG)について各画像を解析した。
【0191】
血液学的および生化学的分析
血液学的および生化学的分析のために、5匹の動物(緑膿菌460/06感染群から1匹;緑膿菌114/12感染群から1匹;緑膿菌460/06処置群から1匹;緑膿菌114/12処置群から1匹;および陰性対照群から1匹)から心穿刺により血液試料を採取した。各動物の全血試料を2つのマイクロチューブに分けた(血液学的分析のために約50μl、および生化学的分析のために100μl)。
【0192】
全血試料を、WBC(白血球数)、(RBC)赤血球数、HGB(ヘモグロビン)、HCT(ヘマトクリット)、PLT(血小板数)に関して、Poch-100iv Diff血液分析装置(Sysmex Corporation、Kobe、Japan)で分析した。生化学的分析用の血液試料は4℃で一晩冷蔵して完全な凝血を確実にした。凝固血液を13,200rpmで5分間遠心して、破片および凝固細胞から血清を分離した。血清を新たなマイクロチューブに移して、必要となるまで-20℃で保管した。健康状態に関する化学および電解質分析を提供するVetScan(Abaxis,California,USA)の包括的診断プロファイルを用いて、ALB(アルブミン)、ALP(アルカリホスファターゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AMY(アミラーゼ)、BUN(血中尿素窒素)、CA(カルシウム)、CRE(クレアチニン)、GLOB(グロブリン)、GLU(グルコース)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)、PHOS(リン)、TBIL(総ビリルビン)、およびTP(総タンパク質)に関して血清を分析した。
【0193】
統計解析
in vivo実験からのすべての定量的な微生物学的結果を、対応する標準偏差と共に平均として提示し、肺組織試料に関して対数に変換した値log(cfu/g)として表す。両側のマン・ホイットニー検定を用いて群間の比較を行い、0.05未満のp値を有意とみなした。統計解析のためにすべてのデータを表計算プログラム(Excel,Microsoft,Redmond,WA)に入力した。解析的統計は、ウィンドウズ(登録商標)用のGraphPad Prism バージョン 5.04(GraphPad Software,San Diego California USA,www,graphpad.Com)を用いて実施した。
【0194】
in vitro実験の結果
形質導入アッセイ
バクテリオファージが普遍形質導入を実行する能力を、ファージの溶解物中の16s rRNAの増幅により分析した。対応する宿主から抽出したDNAをPCRにおける陽性対照として用いた。加えて、ファージDNAの各試料も、反応対照として働くスパイクDNA(0.5ngの宿主DNA)の存在下で増幅させた。図20および21は、宿主およびファージF99/10、F27/12およびPsa_F95/13からのDNA中の16s rRNA遺伝子の増幅を示す。
【0195】
緑膿菌分離株におけるバクテリオファージ宿主域の解析
選択された緑膿菌バクテリオファージの感染効率を、臨床分離株のパネルに対してファージを試験することにより解析した。具体的には、各バクテリオファージを用いて、100株(52株は別個の分子プロファイルを有し、そのうち10株は異なるSTプロファイルから)の感受性を試験し、以下の表1~5に結果を示す。各場合において、バクテリオファージ懸濁液(CsCl精製溶解物から調製した)の段階希釈物を調製した。3つの希釈物をプレートに播き、その希釈物は単離ファージプラークをもたらす力価を有する。各株のバクテリオファージに対する感受性を、透明なプレート(++++)から計測できるファージプラーク(+)までを示すスケールを用いて評価した。ファージ感染に対する耐性は(-)として示した。感染され得る菌株の割合(%)も示した。
【0196】
表1は、呼吸器臨床試料から単離された100の緑膿菌(PSA)株においてプラークアッセイにより決定したF99/10の宿主域を示す。
【表1】
【0197】
表2は、呼吸器臨床試料から単離された100の緑膿菌(PSA)株においてプラークアッセイにより決定したF10/1の宿主域を示す。
【表2】
【0198】
表3は、呼吸器臨床試料から単離された100の緑膿菌(PSA)株においてプラークアッセイにより決定したF27/12の宿主域を示す。
【表3】
【0199】
表4は、呼吸器臨床試料から単離された100の緑膿菌(PSA)株においてプラークアッセイにより決定したPsa_F83/13の宿主域を示す。
【表4】
【0200】
表5は、呼吸器臨床試料から単離された100の緑膿菌(PSA)株においてプラークアッセイにより決定したPsa_F95/13の宿主域を示す。
【表5】
【0201】
表6は、表1、3および5の3つのバクテリオファージの結果を合わせて、ファージを個々でおよび組み合わせて使用した場合の感染された緑膿菌の割合(%)を示す。表6は、組合せが、感染される菌株の割合(%)を増大させ、44%の緑膿菌宿主域をもたらすことを示す。
【表6】
【0202】
加えて、52の分子的に多様な緑膿菌分離株のみからのこれらバクテリオファージの結果を考慮した場合、組み合わせたパーセンテージは同じであった。さらには、19%の菌株には1つのバクテリオファージのみが感染し、15%は少なくとも3つのバクテリオファージに感受性を有していた。5つすべてのバクテリオファージが感染する菌株はなかった。
【0203】
クレブシエラ・ニューモニエ分離株におけるバクテリオファージ宿主域の解析
選択されたクレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージの感染効率を、臨床分離株のパネルに対してファージを試験することにより解析した。具体的には、各バクテリオファージを用いて、103の臨床株の感受性を試験し、以下の表7~11に結果を示す。103の臨床株の内、73株を、バクテリオファージが細菌に感染する能力に直接影響する特徴である莢膜多糖により特徴付けした。各場合において、バクテリオファージ懸濁液(MSP溶解物)の段階希釈物を調製した。3つの希釈物をプレートに接種し、その希釈物は単離ファージプラークをもたらす力価を有する。各株のバクテリオファージに対する感受性を透明なプレート(++++)から計測できるファージプラーク(+)までを示すスケールを用いて評価した。ファージ感染に対する耐性は(-)として示した。感染され得る菌株の割合(%)も示した。
【0204】
表7は、臨床試料(30の呼吸器臨床試料、および73の多様な臨床試料)から単離された103のクレブシエラ・ニューモニエ(KLE)株においてプラークアッセイにより決定したF391/08の宿主域を示す。
【表7】
【0205】
表8は、臨床試料(30の呼吸器臨床試料、および73の多様な臨床試料)から単離された103のクレブシエラ・ニューモニエ(KLE)株においてプラークアッセイにより決定したKle_F92/15の宿主域を示す。
【表8】
【0206】
表9は、臨床試料(30の呼吸器臨床試料、および73の多様な臨床試料)から単離された103のクレブシエラ・ニューモニエ(KLE)株においてプラークアッセイにより決定したKle_F105/15の宿主域を示す。
【表9】
【0207】
表10は、臨床試料(30の呼吸器臨床試料、および73の多様な臨床試料)から単離された103のクレブシエラ・ニューモニエ(KLE)株においてプラークアッセイにより決定したKle_F134/15の宿主域を示す。
【表10】
【0208】
表11は、臨床試料(30の呼吸器臨床試料、および73の多様な臨床試料)から単離された103のクレブシエラ・ニューモニエ(KLE)株においてプラークアッセイにより決定したKle_F141/15の宿主域を示す。
【表11】
【0209】
最も高い感染(%)は、F391/08およびKle_F92/15を用いて得られ、それぞれ17%の感染を示した。Kle_F105/15、Kle_F134/15、およびKle_F141/15はそれぞれ、8%、3%、および2%の感染(%)を示した。
【0210】
表12は、表7~11の5つのバクテリオファージの結果を合わせて、ファージを個々でおよび組み合わせて使用した場合の感染されたクレブシエラ・ニューモニエの割合(%)を示す。表12は、組合せが、感染される菌株の割合(%)を増大させ、32%のクレブシエラ・ニューモニエの宿主域をもたらすことを示す。
【表12】
【0211】
表13は、宿主域に関して試験した細菌の莢膜血清型に関連してバクテリオファージ感染を解析し、個々のクレブシエラ・ニューモニエファージのそれぞれにより感染され得る特定の莢膜多糖のクレブシエラ・ニューモニエ株の数を示す。
【表13】
【0212】
表13に示すように、K68株(Kle_F105/15、Kle_F92/15、およびF391/08)に感染したすべてのバクテリオファージが、K6,68株にも感染した。K8,47株に感染したバクテリオファージのうち1つのみが、K8株(Kle_F92/15)にも感染した。F391/08は、同じ血清型由来のより多くの株に感染した。Kle_F141/15は1つの株のみに感染し、それは莢膜非形成株(non-capsulateed strain)であった。Kle_F134/15は、特徴づけられた莢膜血清型を有する試験株のいずれにも感染しなかった唯一のバクテリオファージであった。8つのK15株はいずれも感染されず、またK16、K19、K20、K21、K35、K44、およびK8,35,55株も全く感染されなかった。しかしながら、重要なこととして、本発明のバクテリオファージは、いずれの単一の莢膜血清型にも限定されず、多様な血清型にわたる宿主域を示した。
【0213】
ゲノム解析の結果
緑膿菌F99/10、F27/12およびPsa_F95/13、ならびにクレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15、Kle_F105/15、Kle_F134/15およびKle_F141/15のゲノムDNAの全ゲノムシークエンシングをパイロシークエンス法を用いて実施した。カクテルに含まれるF99/10およびF27/12バクテリオファージの完全ゲノム配列を、ゲノムシークエンサーFLX Titaniumを用いてパイロシークエンス法により決定し、GS De Novo Assembler(すべて、Macrogen社,Seoul,South Korea)を用いてクオリティフィルタをかけたリードのアセンブリを実施した。Psa_F95/3のゲノムを、Illumina HiSeq2000 ゲノムアナライザー(BaseClear,Leiden,Netherlands)を用いてシークエンシングした。
【0214】
NCBIヌクレオチドコレクションデータベースにおいてBLASTNプログラム(Zhang,Z,et al,2000,Comput Biol 7:203-214)を用いてDNA相同性検索を実施した。アノテーションに基づき、各ゲノムの環状マップを作製し、タンパク質をコードする予測orf、ならびにそれらの推定機能を示す。緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13、ならびにクレブシエラ・ニューモニエF391/08、F92/15およびF105/15の各々について、結果をそれぞれ図3図4図5図6図7および図8に示す。
【0215】
図3は、F99/10ゲノム概略構成を示す。約93kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0216】
最初のNCBIヌクレオチドblast解析(blastn)に基づき、ファージF99/10のDNA(92,792bpのゲノムサイズを有する)が、シュードモナスファージvB_PaeM_C2-10_Ab02(NCBIリファレンス配列:LN610572.1)のDNAに対して96%の類似性を有し、ファージvB_PaeM_C2-10_Ab02と比較してそのゲノムの96%において97%までの配列同一性を共有することが分かった。180のorfが予測され、28%が推定機能を割り当てられた。
【0217】
図4は、F27/12ゲノムの概略構成を示す。約86kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0218】
F27/12に関して、解析は、最も関連するゲノム配列が、緑膿菌バクテリオファージDL52(NCBIリファレンス配列:KR054028.1)およびvB PaeM C-14_Ab28(NCBIリファレンス配列:LN610589.1)に該当することを明らかにした。DNA相同性検索は、ファージF27/12のDNA(65,855bpのゲノムサイズを有する)の100%がDL52に類似性が高く、DL52と比較してそのゲノムの100%において97%までの同一性を有することを示した。90のorfが予測され、それらのうち28%において推定機能を割り当てられた。
【0219】
図5は、F95/13ゲノムの概略構成を示す。約43kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0220】
F95/13に関して、解析は、ファージPsaF95/13のDNAの~97%が、シュードモナスファージvB_pae_PS9N(NCBIリファレンス配列:AB910393.1)のDNAに対して高い類似性を有することを明らかにした。配列同一性は、97%のゲノム配列において99%までであった。57のORFが予測され、42%が推定機能を割り当てられた。NCBI非冗長(non-redundant)タンパク質配列データベースからのいずれの配列とも有意な相同性を有していなかったのは予測ORFの1%未満であった。公知の毒性または毒素タンパク質、あるいは典型的には溶原性に関連する要素(インテグラーゼ、リプレッサー、およびアンチリプレッサー)との有意な類似性はこれらバクテリオファージの配列中に見いだされなかった。
【0221】
クレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージに関して、そのゲノムを同様に解析した。クレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージのゲノムDNAの全ゲノムシークエンシングを実施した。選択されたバクテリオファージの完全ゲノム配列の最初のNCBIヌクレオチドblast解析(blastn)を実施した。クレブシエラ・ニューモニエバクテリオファージF391/08は、ゲノムのほんの一部以外は、他のバクテリオファージと有意な相同性を示さなかった。最も高い類似性は、大腸菌(E.coli)バクテリオファージvB EcoS FFH1(NCBIリファレンス配列:KJ190157.1)に関して見られた。Kle_F92/15バクテリオファージ(FASTA配列の添付ファイル)は、バクテリオファージサルモネラファージStitch(NCBIリファレンス配列:KM236244.1)と最も高い類似性を示した。バクテリオファージKle_F105/15のゲノム配列は、NCBIデータベースからの他の配列と高い相同性を示した。最も高い類似性は、クレブシエラファージJD18(NCBIリファレンス配列:KT239446.1)に関して見いだされた。113073bpのゲノムサイズを有するバクテリオファージF391/08は、大腸菌バクテリオファージvB EcoS FFH1とほんの9%のゲノムカバレッジ(genome coverage)において74%までの配列同一性を共有した。172のORFが予測され、その39.5%において推定機能を割り当てられた。予測ORFの36%は、NCBI非冗長タンパク質配列データベースからのいずれの配列とも有意な相同性を有していなかった。Kle_F92/15バクテリオファージのゲノム解析は、その111775bpのゲノムサイズが、バクテリオファージサルモネラファージStitchの94%のゲノムカバレッジにおいて98%までの配列同一性を共有することを明らかにした。その176の予測ORFは、47.2%において推定機能を割り当てられた。予測ORFの5.7%のみが有意な相同性を有していなかった。165326bpのゲノムを有するバクテリオファージKle_F105/15は、クレブシエラファージJD18と高い類似性を示した。配列同一性は、ゲノム配列の98%において96%までであった。289のORFが予測され、その45.3%が推定機能を割り当てられた。その予測ORFのおよそ54%が、NCBI非冗長タンパク質配列データベースからの配列と相同性を有していたが、機能を割り当てられていない。
【0222】
図6は、国際出願第PCT/PT2011/000031号にもすでに開示されているF391/08ゲノムの概略構成を示す。約113kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0223】
図7は、Kle_F92/5ゲノムの概略構成を示す。約112kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0224】
図8は、Kle_F105/15ゲノムの概略構成を示す。約112kbのゲノム内の予測orfを矢印で表わし、黒字で数字を付し、矢印の方向は転写の方向を示す。
【0225】
形態学的検査の結果
精製バクテリオファージを、透過電子顕微鏡を用いて、そのウイルス粒子形態に基づき分類した。F99/10、F27/12およびF95/13の形態学的特徴を図9の代表的画像に示し、F391/98、F92/15およびF105/05の形態学的特徴を図10の代表的画像に示す。画像は、ファージサイズ、二十面体頭部、収縮性尾部、および尾部の先端に付着する尾部繊維を含む、形態学的特徴を示す。
【0226】
緑膿菌F99/10、F27/12およびF93/15は、カウドウイルス目に属するように見えた。ファージF99/10およびF27/12は、尾部の先端において認識できる基盤(base plate)構造および尾部繊維と共に、収縮性尾部および二十面体頭部(カプシド)を示す。F95/13は、非収縮性の長い尾部を示した。これらの特徴は、それらのゲノム特性と共に、これらバクテリオファージをそれぞれマイオウイルス科およびサイフォウイルス科の一員として分類した。具体的には、F99/10は、79.9±3.7nmのカプシドサイズおよび31.9±3.0nmの尾部の長さを示し;F27/12は、76.8±2.3nmのカプシドサイズおよび141.1±3.3nmの尾部の長さを示し;F95/13は、51.9±2.5nmのカプシドサイズおよび156±3.0nmの尾部の長さを示した(図9)。
【0227】
クレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/5およびKle_F05/15バクテリオファージは、カウドウイルス目に属するように見える。F391/08およびKle_F92/5バクテリオファージは、柔軟性であることが多い長い非収縮性の細い尾部と共に、二十面体頭部を示した。これらの特徴は、それらのゲノム特性と共に、これらバクテリオファージをサイフォウイルス科の一員として分類することを可能にした。Kle_F105/15バクテリオファージは、基盤構造および尾部繊維と共に、収縮性尾部および二十面体頭部(カプシド)を示すマイオウイルス科の一員として分類された。具体的には、F391/08は、60.8±1.9nmのカプシドサイズおよび223±10.9nmの尾部の長さを示し;Kle_F92/15は、71.6±4.8nmのカプシドサイズおよび170.0±22.1nmの尾部の長さを示し;Kle_F105/15は、102.1±2.9nmのカプシドサイズおよび95.9±4.5nmの尾部の長さを示した(図10)。
【0228】
ファージカクテルの開発
急性肺感染症に使用するためのバクテリオファージカクテルを開発するために、緑膿菌1992/05株の浮遊性培養物に対する溶菌活性に関して、バクテリオファージF99/10、F27/12およびF93/15を評価した。以前決定した接種細菌を用いて、制御条件下で通常の溶菌曲線を作成した。マウスモデルにおいて肺に到達する緑膿菌の負荷質量を決定するために予備試験を実施した。cfuの決定によって、およそ2×10cfu/g肺の細菌負荷量が示され、これを、in vitroアッセイで使用する接種材料とした。
【0229】
ファージカクテル用の組成物を決定する際に、各ファージを、個別にならびに他のファージと組み合わせて、および異なるMOIで、細菌培養物において試験した。生菌数を、1時間間隔で8時間の間、ならびに再度24時間目に計測し、10倍段階希釈法を用いて定量化した。結果を図11図15に示す。
【0230】
図11は、MOI=1を用いて、緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13バクテリオファージの個々の溶菌曲線を示す。図11が示すように、ファージF99/10が緑膿菌1992/05に感染する能力を、MOI=1で個別に試験した。最初の4時間以内に、生菌数は、対照細菌培養物と比較しておよそ5log単位減少した。その後、細菌数は増加し始め、感染後8時間で、生菌数は2×10cfu/mlに達した。24時間のインキュベーション後には、生菌数は対照細菌培養物と同様であった。これは、対照細菌培養物と比較して92%の低減を示した。ファージに感染しにくい細菌の出現が、F99/10による宿主細胞の完全な排除を妨げた可能性がある。
【0231】
また図11が示すように、ファージF27/12が緑膿菌1992/05に感染する能力もMOI=1で試験した。4時間の間、生菌数は対照細菌培養物と比較しておよそ6log単位減少した。8時間のインキュベーション後、生菌数は2.5x10cfu/mlに達した。24時間のインキュベーション後、生菌数は、対照細菌培養物と同様の4.1x10cfu/mlに達した。
【0232】
また図11が示すように、ファージF95/13が緑膿菌1992/15に感染する能力もMOI=1で試験した。このバクテリオファージは、4時間の培養まで、およそ3x10cfu/mlで生細胞を安定に維持することができた。ちょうど6時間のインキュベーションで、対照細菌培養物と比較しておよそ4log単位の生菌数の有意な減少が観察された。8時間と24時間の培養の間、生菌数は増加して、インキュベーション期間(24時間)の終わりには8.5x10cfu/mlに達した。
【0233】
個別にアッセイした場合に、インキュベーション期間の終わりにおける生細胞の増加が3つのバクテリオファージで観察され、おそらく、バクテリオファージに感染しにくい細菌の出現の結果であった。
【0234】
3つのバクテリオファージは、最初の8時間のインキュベーション中の変動で示されるように、緑膿菌1992/05において明確に異なる挙動を示した。バクテリオファージF99/10は、最初に細菌負荷量を有意に低減させ、続いてF27/12であった。Psa_F95/13は、この宿主では、培養のさらに後に作用する傾向があった。これは、おそらくは、この特定宿主におけるそれらファージの生活環における違いを反映するものと思われる。
【0235】
図12は、MOI=10を用いて、緑膿菌F99/10、F27/12およびF95/13バクテリオファージの個々の溶菌曲線を示す。図12が示すように、10に近いMOIを用いた培養物が、ファージF99/10およびPsa_F95/13に関して、1に等しいMOIを用いた培養物と同様の傾向を示した。F27/12は、高いMOIを用いると異なる挙動を示した。しかしながら、すべてが生菌数のより大きな減少を達成した。F99/10に関して、生細胞数の最大の減少は、3時間のインキュベーションで観察され、3x10cfu/mlであり、対照細菌培養物と比較して6log単位の減少であった。インキュベーション期間(24時間)の終わりには、生菌数は6.5x10cfu/mlであり、対照培養物と比較して60.6%の減少であった。バクテリオファージF27/12は、ファージ接種後1時間で細菌数の有意な減少を示したが、細胞は急速に増殖し始め、cfuの最も著しい減少は6時間の培養でみられ、2.8x10cfu/mlに達した。インキュベーションの終わりには、生菌数は5x10cfu/mlであり、F99/10と比較して同様の減少であった。Psa_F95/13は、4時間の培養までは同様の挙動を示し、その後、9x10cfu/mlに達するより顕著なcfuの減少がみられ、対照培養物と比較して7log単位の減少であった。培養(24時間)の終わりには、細菌数の減少は、対照培養物と比較して80.6%であった。
【0236】
図13が示すように、およそ10のMOIを用いたその3つのバクテリオファージの組合せの溶菌活性を、PSA 1992/05に対して、最終の単一バクテリオファージカクテルにおいて一緒に試験した。バクテリオファージカクテルを、所定のMOIで存在する各バクテリオファージを用いて生理食塩水中に調製した。生細胞数を10倍段階希釈法により定量し、1時間間隔で8時間、ならびに再度24時間目にモニタリングした。
【0237】
10に近いMOIを有するバクテリオファージF99/10、F27/12およびPsa_F95/13は、ほとんど6時間の培養の間、細菌数を有意に減少させることができた。その有意な減少は、カクテルの接種後2時間で観察されかつ8時間の培養まで見られ、その減少は8log単位に達した(6時間の培養で、生細胞数は1x10cfu/mlであった)。インキュベーション期間(24時間)の終わりには、生菌数は8x10cfu/mlであった。これは、対照細菌培養物と比較して、99.2%の減少を表す。単一のバクテリオファージ培養物と比較して、ファージカクテルを用いた培養物で観察されるこの減少は、緑膿菌株に対する抗菌活性を高めかつバクテリオファージに対する細菌の耐性の出現の可能性を低減するために2つ以上のバクテリオファージを用いることの必要性を実証する。
【0238】
これらの結果は、異なるバクテリオファージをカクテルとして混合して、それらの特性を広げることができ、より大きな抗菌スペクトルをもたらすことも実証する(Loc-Carrillo C, et al, 2011, Bacteriophage 1 (2): 111-114)。
【0239】
齧歯動物モデル
緑膿菌株の毒性特徴のため、緑膿菌バクテリオファージF99/10、F27/12およびPsa_F95/13の組み合わせた抗菌活性を緑膿菌1992/05株に対してin vivoで評価した。この目的のために2つの異なる感染モデルを確立した。
【0240】
感染およびバクテリオファージ処置-肺感染症モデル
感染後12時間でかつ処置プロトコルの開始前に、細菌負荷量を、肺における実際のMOIを計算する試みにおいて決定した。緑膿菌1992/05に感染した2匹の動物の生細胞数の平均値は8.5x10cfu/g肺組織であった。2匹の非感染1用量処置動物(処置対照群)も安楽死させ、pfu定量のために肺を採取した。噴霧プロトコルは、平均値で7.5x10pfu/gを肺に送達したことが観察された。従って、以前の結果を考慮して、バクテリオファージカクテルでの処置の最初の投与で用いられるMOIはおよそ0.1であると外挿された。このMOIは、計画されたものよりも低かった。用いたカクテルは後で滴定され、各バクテリオファージの濃度はかなり高く、平均は6.3x10pfu/mlであった。おそらく、システムのチューブに沿ったおよび噴霧チャンバ内での多量のファージ損失があった。
【0241】
微生物学的解析
感染後34時間で、バクテリオファージカクテル処置の開始の22時間後に、合計17匹の動物を安楽死させた。感染群から4匹の動物、ファージ処置群から6匹の動物、抗生物質処置群から6匹の動物、および陰性対照群から1匹を屠殺し、cfuを決定するために肺を採取した。感染群の2匹のマウスは、感染後30時間で死亡したことが分かった。死亡の原因は不明であった。
【0242】
図16が示すように、感染群からの4匹の動物の肺のコロニー数を、ファージ処置群および抗生物質処置群からの6匹の動物のものと比較した。感染群のコロニー数をファージ処置群のものと比較した。ファージ処置群において、~3logの減少(99.87%の減少)が観察された。それら2つの群間でコロニー数に統計的有意差があった(感染群:8.32±0.13 log(cfu/g);ファージ処置群:3.44±1.36 log(cfu/g);p値<0.05)。感染群と抗生物質処置群に関して同じ解析を行った。抗生物質処置群において~7logの減少(ほぼ100%の減少)が観察された(図12)。それら2つの群間でコロニー数に統計的有意差があった(感染群:8.32±0.13 log(cfu/g);抗生物質処置群:3.25±0.86 log(cfu/g);p値<0.05)。
【0243】
組織病理学的解析
感染後34時間の実験の終わりに、陰性対照群の1匹のマウス、ならびに感染群、ファージ処置群および抗生物質処置群の3匹のマウスを安楽死させ、組織病理学的解析のために肺を採取した。
【0244】
図17が示すように、陰性対照群からのマウスの肺組織切片のヘマトキシリン・エオジン染色光顕微鏡写真の組織病理学的所見は、正常な気腔、間質および細気管支を示し;感染群は間質および細気管支周囲の炎症を有し;抗生物質処置群は同様の正常な気腔、間質および細気管支を示し;ファージ処置群は肺胞浮腫、間質および細気管支周囲の炎症、ならびに壊死を示す。炎症性細胞の浸潤および細菌が、感染動物およびファージ処置動物の両方の群でみられたが、原因不明の多巣性壊死がファージ処置動物で観察され、組織病理学的解析の全体の結果は結論に達しないものであった。
【0245】
感染およびバクテリオファージ処置-慢性創傷感染症モデル
図18は、実験群の動物における平均スワブコロニー数を示す。t0、t1、およびt3に創傷をスワブし、細菌コロニー形成単位の数を感染群とファージ処置群との間で比較した。ビヒクル対照群動物は、アッセイ中に創傷における細菌増殖を示さなかった。
【0246】
処置の前(t0)に、感染群、ファージ処置群およびビヒクル対照群における平均スワブコロニー数はそれぞれ、4.87±1.27 log(cfu/スワブ)、4.53±0.80 log(cfu/スワブ)、および0.00±0.0 log(cfu/スワブ)であった。感染群とファージ処置群との間に統計的有意差はなかった(p>0.05)。導入療法後(t1)、感染群とファージ処置群との間に細菌数の統計的有意差があった(感染群:4.98±0.35 log(cfu/スワブ);ファージ処置群:3.47±0.53 log(cfu/スワブ);p<0.05)。処置開始後3日目(t3)に、生細胞数の統計的有意差は感染群とファージ処置群との間で維持された(感染群:4.23±1.47 log(cfu/スワブ);ファージ処置群:2.55±1.34 log(cfu/スワブ);p<0.05)。ビヒクル対照群動物はアッセイ中に創傷における細菌増殖を示さなかった。
【0247】
組織病理学的解析
図19は、緑膿菌1992/05感染、ファージ処置、およびビヒクルに曝したラットにおける皮膚創傷の代表的顕微鏡写真を示す。表皮間隙の長さおよび皮膚創傷の長さを描く。高倍率の肉芽組織は、異なる治癒段階における創傷を示す。
【0248】
組織学的研究の結果は、顕微鏡写真が、各実験群の1つだけの創傷を表すことを浮き彫りにする。新規な解析は、統計解析を可能にするようになされている。しかしながら、ビヒクル対照群のラットの創傷では炎症および組織形成がみられ、感染群のラットの創傷では主に組織形成がみられ、またファージ処置群のラットの創傷では、発毛と共に、組織の形成およびリモデリングがみられた。
【0249】
感染症の動物モデルに適用するためのバクテリオファージカクテルを得るために、新たに単離および特徴付されたクレブシエラ・ニューモニエF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15バクテリオファージの溶菌活性を、クレブシエラ・ニューモニエ121/15株の浮遊性培養物に対して評価した。以前決定した接種細菌を用いて、制御条件下で通常の溶菌曲線を作成した。およそ2x10cfu/mlの接種細菌を用いて培養物を調製した。各バクテリオファージを個別におよび組み合わせて、およそ10のMOIを用いて試験して(図20および21)、瀬在的治療薬に関するそれらの有効性をスクリーニングした。生菌数を1時間間隔で8時間、ならびに再度24時間目にモニタリングした。
【0250】
バクテリオファージF391/08を10に近いMOIで個別に試験し、最初の3時間以内に、生菌数は、対照細菌培養物と比較しておよそ5log単位減少した。その後、細菌は増加し始め、培養物の感染後8時間における生菌数は1x10cfu/mlであった。24時間のインキュベーション時に、生菌数は9.8x10cfu/mlであった。これは、個別にアッセイしたときに3つのバクテリオファージで観察され、おそらく、バクテリオファージが感染しにくい細菌の出現の結果であった。バクテリオファージKle_F92/15もクレブシエラ・ニューモニエ121/15に対してMOI=1で用い、3時間で生菌数は対照細菌培養物と比較しておよそ5log単位減少した。8時間のインキュベーション時に、生菌数はx10cfu/mlであったが、インキュベーション期間(24時間)の終わりには、生菌数は6.8xcfu/mlであり、F391/08の値よりもわずかに低かった。Kle_F105/15バクテリオファージは、他の2つのファージよりも、株121/15に対してより高い効果を示した。2時間での生菌数は対照細菌培養物と比較しておよそ5log単位減少し、5.2x10cfu/mlに達した。8時間のインキュベーション時に、生菌数は4.3x10cfu/mlに増加した。24時間の培養で、このファージは対照細菌培養物と比較して生細胞数の80%の減少を達成することができた。培養においてバクテリオファージにより示される挙動の明らかな違いは、おそらくは、この株でのそれらファージの吸着率、潜伏期間および放出量(burst size)における違いを反映する。クレブシエラ・ニューモニエ121/15と共に培養した3つのバクテリオファージF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15の組合せが、細菌増殖をより顕著に低減させることが期待され、それは観察された。10に近いMOIを有するバクテリオファージF391/08、Kle_F92/15およびKle_F105/15は、早期に細菌を溶解し、対照細菌培養物と比較して~6log単位の減少(2xcfu/mlの生菌数)を達成した。生菌数は急速に増加し始めたが、8時間の培養時に、対照細菌培養物と比較して~3logの減少であった。インキュベーション(24時間)の終わりには、生細胞はかなり増加し、対照細菌培養物と比較してほんのわずかな減少(29%)を示した。
【0251】
この研究の目的は、感染症の関連動物モデルに適用される、この細菌に対して広い活性を示すバクテリオファージを用いて、クレブシエラ・ニューモニエ株に対するバクテリオファージカクテルを作製することであった。
【0252】
前述の説明を読めば、当業者はいくつかの改変および改善を思い浮かべるであろう。すべてのそうした改変および改善は、簡潔さと読み易さのために本明細書において削除されているが、それらは当然に以下の特許請求の範囲の範囲内にあることを理解されたい。
【0253】
本明細書に引用されるすべての刊行物、特許および特許出願は、すべての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
最後に、本発明の好ましい実施態様を項分け記載する。
[実施態様1]
少なくとも2種の異なる精製バクテリオファージを含む医薬組成物であって、前記バクテリオファージの各々が、配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号2(F110/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号4(F83/13)に対して少なくとも95%の配列同一性、配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸、あるいはそれらのバリアントを含み、かつ緑膿菌および/またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する、医薬組成物。
[実施態様2]
配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、および配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸、あるいはそれらのバリアントを含み、かつ緑膿菌に対する抗菌活性を有する3種のバクテリオファージを含む、実施態様1に記載の医薬組成物。
[実施態様3]
緑膿菌に対する抗菌活性を有する1種または2種以上の追加のバクテリオファージをさらに含む、実施態様2に記載の医薬組成物。
[実施態様4]
配列番号6(F391/08)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸、あるいはそれらのバリアントを含み、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する3種のバクテリオファージを含む、実施態様1に記載の医薬組成物。
[実施態様5]
配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチドを有する核酸、あるいはそれらのバリアントを含み、かつクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有するバクテリオファージをさらに含む、実施態様4に記載の医薬組成物。
[実施態様6]
クレブシエラ・ニューモニエに対して有効な1種または2種以上の追加のバクテリオファージをさらに含む、実施態様5に記載の医薬組成物。
[実施態様7]
エアロゾルとして投与するために製剤化されている、実施態様1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
[実施態様8]
他の治療薬と組み合わせて用いられる、実施態様1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
[実施態様9]
配列番号1(F99/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号2(F110/10)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号3(F27/12)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号4(F83/13)に対して少なくとも95%の配列同一性、配列番号5(F95/13)に対して少なくとも97%の配列同一性、配列番号7(F92/15)に対して少なくとも90%の配列同一性、配列番号8(F105/15)に対して少なくとも99%の配列同一性、配列番号9(F134/15)に対して少なくとも98%の配列同一性、または配列番号10(F141/15)に対して少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸、あるいはそれらのバリアントを含み、かつ緑膿菌またはクレブシエラ・ニューモニエに対する抗菌活性を有する、精製バクテリオファージ。
[実施態様10]
実施態様9に記載のバクテリオファージ、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
[実施態様11]
必要とする対象において細菌感染症を治療するまたはその発症を低減する方法であって、前記対象に治療または予防有効量の実施態様1~8および10のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
[実施態様12]
必要とする対象において細菌感染症を治療するまたはその発症を低減するのに使用するための実施態様1~8および10のいずれかに記載の医薬組成物。
[実施態様13]
前記細菌感染症が緑膿菌またはクレブシエラ・ニューモニエ細菌株により引き起こされる、実施態様11に記載の方法または実施態様12に記載の使用のための医薬組成物。
[実施態様14]
前記細菌感染症が、呼吸器感染症、好ましくは、院内細菌性肺炎、または嚢胞性線維症に関連する感染症、または人工呼吸器関連肺炎である、実施態様13に記載の方法または使用のための医薬組成物。
[実施態様15]
前記組成物が該組成物の最初の投与の約4~6時間後に再投与される、実施態様11に記載の方法または実施態様12に記載の使用のための医薬組成物。
[実施態様16]
細菌感染症の原因物質を診断する方法であって、
(i)患者からの組織試料を培養するステップ;
(ii)ステップ(i)の培養物を、実施態様9に記載のバクテリオファージと接触させるステップ;および
(iii)前記培養物の増殖または溶解の形跡をモニタリングするステップ;
を含み、前記培養物の溶解の形跡は、ステップ(ii)で用いられたバクテリオファージに感受性を有することが分かっている細菌株を前記培養物が含むことを示す、方法。
[実施態様17]
前記組織試料が、前記患者の気道から採取した組織生検またはスワブである、実施態様16に記載の方法。
[実施態様18]
表面における細菌のコロニー形成または増殖を低減または阻害する方法であって、前記表面を実施態様9に記載のバクテリオファージと接触させることを含む、方法。
[実施態様19]
前記表面は、哺乳動物の粘膜、好ましくはヒトの気道の粘膜である、実施態様18に記載の方法。
[実施態様20]
前記表面は、非生体表面、好ましくは病院の装置または病院設備の表面、より好ましくは手術用装置または手術用設備の表面である、実施態様18に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
0007154543000001.app