(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】マルチカラーエレクトロクロミック素子及びこれを用いた表示方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/155 20060101AFI20221011BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20221011BHJP
【FI】
G02F1/155
G02F1/15 508
(21)【出願番号】P 2017221572
(22)【出願日】2017-11-17
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2016236300
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】小林 範久
(72)【発明者】
【氏名】中村 一希
(72)【発明者】
【氏名】行川 真広
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0251046(US,A1)
【文献】国際公開第2009/113354(WO,A1)
【文献】特開2016-038583(JP,A)
【文献】特開2013-140191(JP,A)
【文献】特開平05-224242(JP,A)
【文献】特開2014-052510(JP,A)
【文献】特開2014-238565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極基板と、透明粒子修飾層を備える第二の電極基板を備える一対の電極基板と、
前記一対の電極基板の間に配置される液体の電解質層を備え、
前記電解質層は、溶媒に溶解し互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含み、該エレクトロクロミック材料はAgNO
3、AgClO
4、AgBr、ビスピリジンピロール誘導体、アントラキノン、フェノチアジ
ンから選択されたものであり、
前記透明粒子修飾層がキャパシタとして作用するものであり、
前記透明粒子修飾層の電気二重層容量が1mF以上であり、
前記第一の電極基板は、前記第二の電極基板側の表面が平滑であることを特徴とするマルチカラーエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
第一の電極基板と、透明粒子修飾層を備える第二の電極基板を備える一対の電極基板と、
前記一対の電極基板の間に配置される液体の電解質層を備え、
前記電解質層は、溶媒に溶解し互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含み、該エレクトロクロミック材料はAgNO
3、AgClO
4、AgBr、ビスピリジンピロール誘導体、アントラキノン、フェノチアジ
ンから選択されたものであり、
前記第一の電極基板は、前記第二の電極基板側の表面が平滑であり、
前記第二の電極基板のシート抵抗が100Ω/□以下であり、
前記透明粒子修飾層の電気二重層容量が1mF以上であることを特徴とするマルチカラーエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記一対の電極基板の間に電圧を印加する電圧印加手段を有し、前記電圧印加手段が前記一対の電極基板に印加する電圧を変化させることにより、前記マルチカラーエレクトロクロミック素子の発色を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチカラーエレクトロクロミック素子及びこれを用いた表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的な酸化還元反応により発消色を呈することのできる調光素子は、パソコンモニタやテレビ等の画像表示装置や、窓に用いて入射される光量の調整が可能なスマートウィンドウ等様々な用途に用いることができる。
【0003】
調光素子に関する公知の技術としては、例えば下記特許文献1に、透明電極が形成された一対の電極基板とこの一対の電極基板の間に銀を含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層を備えた調光素子が開示されている。また、下記特許文献2には、表示電極と、表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に電解質を備え、表示電極の対向電極側の表面に、導電性または半導体性微粒子の表面に有機エレクトロクロミック化合物が担持された表示層を有する表示素子であって、1次粒子径が1nm以上10nm以下の導電性または半導体性微粒子の含有量が異なる複数の表示層が積層されたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-148825号公報
【文献】特開2014-52510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公知の技術によると、電気化学的な酸化還元反応により、黒、更にはミラー反射状態が可能である。
【0006】
しかしながら、上記調光素子では、作用極の電気化学反応で費やされる電荷量と同じ電荷量を対極反応材料が補償している。これによりマゼンダと緑の混合色である黒以外の色を表示することが困難である。すなわち、マルチカラーを達成することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、マルチカラーを達成することのできるエレクトロクロミック素子及びこれを用いる表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一観点によれば、マルチカラーエレクトロクロミック素子を、第一の電極基板と、透明粒子修飾層を備える第二の電極基板を備える一対の電極基板と、前記一対の電極基板の間に配置される電解質層を備え、前記電解質層は、互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含み、前記透明粒子修飾層を高電気容量のものとした。さらに、前記透明粒子修飾層の電気容量を1mF(ファラッド)以上とすると望ましい。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、マルチカラーエレクトロクロミック素子を、第一の電極基板と、透明粒子修飾層を備える第二の電極基板を備える一対の電極基板と、前記一対の電極基板の間に配置される電解質層を備え、前記電解質層は、互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含み、前記透明粒子修飾層の比表面積を10倍以上とした。
【0010】
また、本発明の他の観点によれば、マルチカラーエレクトロクロミック素子を、第一の電極基板と、透明粒子修飾層を備える第二の電極基板を備える一対の電極基板と、前記一対の電極基板の間に配置される電解質層を備え、前記電解質層は、互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含み、前記第二の電極基板のシート抵抗を100Ω/□以下とした。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、前記マルチカラーエレクトロクロミック素子を、前記一対の電極基板の間に電圧を印加する電圧印加手段を有し、前記電圧印加手段が前記一対の電極基板に印加する電圧を変化させることにより、前記マルチカラーエレクトロクロミック素子の発色を変化させるものとした。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、マルチカラーを達成することのできるエレクトロクロミック素子及びこれを用いる表示方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施例1に係る素子のCV測定の結果を示す図である。
【
図3】実施例1に係る素子のCV測定の結果を示す図である。
【
図4】実施例1に係る素子の吸収スペクトルの結果を示す図である。
【
図5】実施例1に係る素子の吸収スペクトルの結果を示す図である。
【
図6】実施例2に係る素子のCV測定の結果を示す図である。
【
図7】実施例2に係る素子の吸収スペクトルの結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るマルチカラーエレクトロクロミック素子(以下「本素子」という。)1の断面概略図を示す。本図で示すように、本素子1は、一対の電極基板2、3と、一対の電極基板2、3の間に配置される電解質層4を備える。また本素子1は、この一対の電極基板間に電極を印加するための電源装置5を備える。
【0016】
また、本素子1において、一対の電極基板2、3の材質としては、電解質層4を挟み保持するために用いられるものであって、基板2、3の双方が透明であれば透過型の表示素子を実現することができ、他方のみ透明基板である場合は、反射型の表示素子を実現できる。なお本実施形態では説明を簡略化する観点から双方透明な場合で説明する。なお、基板の材料としては、ある程度の硬さ、化学的安定性を有し、安定的に材料層を保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、ガラス、プラスチック、金属、半導体等を採用することができ、透明な基板として用いる場合はガラスやプラスチックを用いることができる。
【0017】
また、本素子1において、一対の電極基板2、3の対向する面それぞれには、透明電極21、31がそれぞれ形成されている。この電極は一対の電極基板2、3によって挟持される材料層に電圧を印加するために用いられるものである。電極の材料としては、好適な導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばITO、IZO、SnO2、ZnO等の少なくともいずれかを含むことが好ましい。また、電極基板の少なくとも一方の表面は後述の透明粒子修飾層とは異なり平滑なものであることが好ましい。
【0018】
また本素子1における透明電極21、31は、基板上に、表示したい文字などのパターンにあわせた形状として形成してもよく、また、同じ複数の領域毎に区分された電極パターンを複数基板上に並べて形成したものであってもよい。複数の領域毎に区分すると、この各領域を画素とし、画素毎に表示を制御し、複雑な形状の表示にも対応できるといった利点がある。
【0019】
また本素子1における透明電極間の距離としては、後に詳述するエレクトロクロミック材料における銀が微粒子として十分析出し、消失する電界を印加することができる限りにおいて限定されるわけではないが、1μm以上10mm以下が可能であり、望ましくは1μm以上1mm以下の範囲である。
【0020】
また、本素子1における透明電極21の抵抗は小さければ小さいほど良く限定はされないが、値段や電極そのものの色調、反射率との兼ね合いから、シート抵抗で0.1Ω/□から100Ω/□が好ましく、2Ω/□から20Ω/□がより好ましい。なお、Ω/□は表面抵抗を表す単位として使用され、基本的には1cm角でのシート抵抗を表す。
【0021】
また、本素子1において、他方の透明電極21には、透明粒子修飾層22が形成されている。この場合において、透明粒子修飾層は、より具体的には酸化物導電性ナノ粒子層であることが好ましい。酸化物導電性ナノ粒子層22を設けることで、対向する作用極(透明基板31)における反応電荷量の一部を補償し、各エレクトロクロミック材料の発色を制御することにより、マルチカラーを達成することができる。なお、本実施例では、透明粒子修飾層22は上記透明電極21と同一材料で構成されていてもよい。
【0022】
本実施例の特徴は、対向電極にキャパシタとして作用する粒子修飾電極を使用した点にある。作用電極(発色側電極)での酸化・還元に関わる反応電荷を、キャパシタ対向電極側において、色調変化を伴わずにキャパシタの電荷蓄積によって補償することにより、素子にかけた電圧の大部分が作用電極にかかる。すると、作用電極でのみのEC反応が、従来構成よりも低い電圧で発現可能となる。その結果、適切な電圧印加により、複数のEC材料のうち1種類を選択的に発色することが可能となる。すなわち、対向電極では色調変化が起きないため、混色とならずに複数の発色を切り替えることが可能となり、マルチカラー化が実現できる。また、低電圧での素子駆動によって、素子にかかる負担が軽減される。これにより、繰り返し特性を向上させることもできる。このような効果を得るためには粒子修飾電極の電気二重層容量を高くする必要がある。具体的には、粒子修飾電極の電気二重層容量を1mF(ファラッド)以上とする必要があり、さらに5mF以上とするとより好ましい。電気二重層容量を高くするには、粒子修飾電極の比表面積を高くする方法が考えられる。具体的には、粒子修飾電極の比表面積を10倍以上とすることが適切であり、さらに50倍以上とするとより好ましい。また、電気二重層容量を高くするために、粒子修飾電極に使用される粒子の導電性を高くしたり、粒子修飾電極の抵抗率を小さくしたりする方法もある。具体的には、粒子修飾電極の抵抗率を、シート抵抗で、0.1Ω/□以上100Ω/□以下とすると好ましく、さらに2Ω/□以上20Ω/□とするとより好ましい。
【0023】
本素子1の酸化物導電性ナノ粒子層22は、文字通り、酸化物からなり導電性を備えたナノレベルの大きさを備えた粒子であって、材質としては、上記透明電極と同様のものを採用することができる。また、本素子1の酸化物導電性ナノ粒子層22における粒子の大きさは一般的なもので差し支えないが、1次粒径で1nmから500nmが好ましく、5nmから100nmがより好ましい。また、酸化物導電性ナノ粒子層22の厚さは20nmから10μmが好ましく、30nmから3μmが最も好ましい。この最も厚い状態での可視域における光透過率が550%以上であることが好ましい。なお、本素子1の酸化物導電性ナノ粒子層22は、透明電極21と一体化して形成されていてもよい。また本素子1の酸化物導電性ナノ粒子層22は、上記の記載から明らかなように、可視領域において透明であることが好ましい。
【0024】
本素子1の電解質層4における電解質は、エレクトロクロミック材料の酸化還元等を促進するためものであり支持塩であることは好ましい一例である。電解質は、臭素イオンを含むことが好ましく、例えばLiBr、KBr、NaBr、臭化テトラブチルアンモニウム(TBABr)等を例示することができる。なお、電解質の濃度としては、限定されるわけではないが、モル濃度でエレクトロクロミック材料の5倍程度、具体的には3倍以上6倍以下含んでいることが好ましく、例えば3mM以上6M以下であることが好ましく、より好ましくは5mM以上5M以下、より好ましくは6mM以上3M以下、更に好ましくは15mM以上600mM以下、更に好ましくは25mM以上500mM以下、30mM以上300mM以下の範囲である。
【0025】
また本素子1の電解質層4における溶媒は、上記エレクトロクロミック材料、電気化学発光材料及び電解質を安定的に保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、水等の極性溶媒であってもよいし、極性のない有機溶媒等一般的なものも用いることができる。溶媒としては、限定されるわけではないが、例えばDMSOを用いることができる。
【0026】
また本素子1における電解質層4は、支持塩としての電解質を含むとともに、互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を含む。
【0027】
また本素子1においてエレクトロクロミック材料とは、電圧、好ましくは直流を印加することによって酸化還元反応を起こす材料である。このエレクトロクロミック材料は酸化還元反応によって色の変化を生じさせ表示を行なうことができる。エレクトロクロミック材料としては限定されるわけではないが、AgNO3、AgClO4、AgBr等の金属イオンを含む無機材料、ビスピリジンピロール誘導体、アントラキノン、フェノチアジン等の有機材料等を例示できるがこれに限定されない。また、上記の通り、電解質層4には、互いに異なる発色を呈するエレクトロクロミック材料を複数含んでいる。なお、それぞれのエレクトロクロミック材料の濃度については、上記機能を有する限りにおいて特に限定されるわけではなく、材料によって適宜調整が可能であるが、5M以下であることが望ましく、より望ましくは1mM~1M、さらに望ましくは5mM~100mMである。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る素子の表示方法は、一対の電極基板間に、酸化電位又は還元電位を印加することにより、異なる発色を呈させる。より具体的には、異なる電位を与えることで、マルチカラーを達成できる。この効果については、後の実施例からも明らかとなる。
【0029】
また、本素子1の電解質層4においては、上記構成要件のほか、例えば増粘剤を加えることができる。増粘剤を加えることでエレクトロクロミック素子のメモリ性を向上させることができる。なお増粘剤の例としては、特に限定されるわけではないが、例えばポリビニルアルコールを例示することができる。なお増粘剤の濃度としては、特に限定されるわけではないが、例えば電解質層の総重量に対し5重量%以上20重量%以下の範囲で含ませておくことが好ましい。
【0030】
また、本素子1は、上記の通り、一対の電極基板それぞれにおいて形成される透明電極に接続され、電圧を印加する電源装置5を備えている。なお、電源装置5により印加される電圧印加の際の電圧の強度としては、一対の電極基板間の距離、一対の電極間の距離によって適宜調整が可能であり、限定されるものではなく、電界強度として例えば1.0×103V/m以上1.0×105V/m以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.0×104V/m以下の範囲内である。また本素子1においては、電位を変化させることとしてもよい。電位を変化させることで特定のエレクトロクロミック材料を選択的に発色させることができ、マルチカラー化を実現できる。
【0031】
もし、対極が、表面が滑らかな平板電極である場合、対極反応材料がないために、redox反応をあまり示さない(高電位印加が必要)。これに対し、透明粒子修飾層を設けた場合、大きな酸化電流が観測され、吸光度も大幅に上昇する。すなわち、透明粒子修飾された透明電極が対極反応材料として機能し、作用極上の電荷を補償可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、上記実施形態に基づき、実際に素子を作製し、その効果を確認した。以下具体的に示す。
【0033】
(実施例1)
まず、ITO電極を形成した第一の透明電極基板(作用極)と、これと同様にITO電極を形成し、更に膜厚1.6μmのITO粒子膜を形成した第二の透明電極基板を(対極)を作製した。なお、ITO粒子膜は、20重量%のITO粒子分散液(SIGMA-ALDORICH)を分散させることにより形成した。
【0034】
そして、一対の基板間の距離をスペーサーにより150μmに保持し、この間にDMSOを溶媒とし、TBAP200mMを含ませ、エレクトロクロミック材料としてビスピリジンピロール誘導体10mM、フェノチアジン(PT)10mM含ませ、素子を完成させた。
【0035】
(CV測定)
上記作製した素子に対し、電位を負方向に掃引すると-0.9Vでビスピリジンピロール誘導体還元種の生成に起因する530nmにおける吸光度の上昇を観察した。これは、ITO粒子膜の酸化電位がD-1の還元電位より低いために、発色の動作電圧が低下したことと考えられる。さらに負方向に掃引すると、-1.3VでPT酸化種生成に起因する440nm及び630nmにおける吸光度の上昇を観測した。このCV測定に関する結果を
図2に示す。
【0036】
一方、電位を正方向に掃引すると、+0.75VからPT酸化種生成に起因する440nm及び630nmにおける吸光度の上昇を観測した。さらに正方向に掃引すると、+1.2Vでビスピリジンピロール誘導体還元種生成に起因する530nmにおける吸光度の上昇を観測した。このCV測定に関する結果を
図3に示す。
【0037】
(吸収スペクトル)
また、-1.1V印加時にはビスピリジンピロール誘導体還元種のマゼンタ、+1.1V印加時にはPT酸化体の緑、±1.3V印加時には、ビスピリジンピロール誘導体還元種及びPT酸化体の吸収スペクトルが得られた。-1.1V印加時の作用極電位は-1.2V、対極電位は-0.1Vであり、D-1のみが発色電位に達したためにマゼンタ発色を示した。また、+1.1V印加時の作用極電位は+0.2V、対極電位が-0.9Vであり、PTのみが発色電位に達したために緑発色を示した。正および負方向にさらに掃引するとビスピリジンピロール誘導体及びPTの発色電位に到達するため、±1.3V印加時には黒色を示すスペクトルが得られたと考えられる。以上より、表示色が印加電圧によって制御でき、酸化と還元で異なる色を発現するマルチカラーエレクトロクロミック素子の構築に成功したことを確認した。この結果について、
図4及び
図5に示しておく。
【0038】
(実施例2)
次に、上記実施例1と同様、ITO電極を形成した第一の透明電極基板(作用極)と、これと同様にITO電極を形成し、更に膜厚1.6μmのITO粒子膜を形成した第二の透明電極基板を(対極)を作製した。なお、ITO粒子膜は、15重量%のITO粒子(三菱マテリアル化成)分散させた分散液を塗布することにより形成した。
【0039】
そして、一対の基板間の距離をスペーサーにより150μmに保持し、この間にDMSOを溶媒とし、TBAP200mMを含ませ、エレクトロクロミック材料としてアントラキノン(AQ)8mM、フェノチアジン(PT)8mM含ませ、素子を完成させた。
【0040】
(CV測定)
電位を負方向に掃引すると-0.6VでAQ還元体の生成に起因する530nmにおける吸光度の上昇を観察した。これは、ITO粒子膜の酸化電位がAQの還元電位より低いために、発色の動作電圧が低下したことと考えられる。また、電位を正方向に掃引すると、+0.8VからPT酸化体生成に起因する530nm及び630nmにおける吸光度の上昇を観測した。このCV測定の結果を
図6に示しておく。
【0041】
(吸収スペクトル測定)
また、-1.2V印加時にはAQ還元体のマゼンタ、+1.3V印加時にはPT酸化体の緑、±1.8V印加時には、AQ還元体及びPT酸化体の吸収スペクトルが得られた。-1.2V印加時の作用極電位は-1.3V、対極電位は-0.1Vであり、AQのみが発色電位に達したためにマゼンタ発色を示した。また、+1.3V印加時の作用極電位は+0.2V、対極電位が-1.1Vであり、PTのみが発色電位に達したために緑発色を示した。正および負方向にさらに掃引するとAQ及びPTの発色電位に到達するため、±1.8V印加時には黒色を示すスペクトルが得られたと考えられる。以上より、酸化と還元で異なる色を発現するマルチカラーEC素子の構築に成功したことを確認した。なお、本吸収スペクトルの結果について
図7に示しておく。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上、本発明は、マルチカラーエレクトロクロミック素子及びこれを用いた発電方法として産業上の利用可能性がある。