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特許7154570プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/14 20060101AFI20221011BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20221011BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
C22C14/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018124681
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2019196542
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018088688
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520027291
【氏名又は名称】株式会社東北PREP技術
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】王 新敏
(72)【発明者】
【氏名】李 世敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 司
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-227007(JP,A)
【文献】特開昭61-092370(JP,A)
【文献】登録実用新案第3133621(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
F16J 15/16-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給口と電極挿入口とを有するチャンバーと、
前記ガス供給口から前記チャンバーの内部に雰囲気ガスを供給可能に設けられたガス供給手段と、
細長く、少なくとも一方の端部が金属製または合金製であり、前記一方の端部が前記電極挿入口を通して前記チャンバーの内部に配置され、長さ方向に沿った中心軸周りに回転するよう設けられた電極部材と、
前記チャンバーの内部で、前記電極部材の前記一方の端部に向かってプラズマを照射可能に設けられたプラズマ照射手段と
ガス噴射手段とを有し、
前記電極部材を回転しつつ、前記ガス供給手段により前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを供給したとき、前記雰囲気ガスが前記チャンバーの内部から排出されるよう、前記電極部材が前記電極挿入口に隙間をあけて配置されており、
前記ガス噴射手段は、前記チャンバーの内部で前記隙間を覆うよう、前記雰囲気ガスと同じガスを噴射可能に設けられていることを
特徴とするプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項2】
前記電極部材が停止しているとき、前記隙間を密閉し、前記電極部材が回転したとき、前記隙間を開放するよう構成された密閉部材を有することを特徴とする請求項1記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項3】
前記密閉部材を有し、前記電極部材との間に前記隙間をあけて、前記電極挿入口の周辺部に沿って設けられた密閉機構を有し、
前記密閉機構は、前記隙間に向かって開口し、前記電極部材の回転方向に沿って円環状に設けられた環状室と、前記環状室にガスを供給する加圧手段と、前記環状室から前記ガスを排出する減圧手段とを有し、前記密閉部材は、リング状で、前記電極部材の回転方向に沿って前記環状室の内部に配置されており、前記電極部材が停止しているとき、前記加圧手段で前記環状室に前記ガスを供給することにより、前記密閉部材が前記環状室の開口に向かって移動して、前記電極部材と前記環状室との間で前記隙間を密閉し、前記電極部材が回転するとき、前記減圧手段で前記環状室から前記ガスを排出することにより、前記密閉部材が前記環状室の内部に向かって移動して、前記隙間を開放するよう構成されていることを
特徴とする請求項2記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項4】
前記隙間は、前記電極部材の回転を支持する軸受部に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項5】
前記電極部材は、前記電極挿入口の周縁部と接触しないよう設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項6】
前記ガス噴射手段は、前記電極部材を冷却可能に、前記電極部材に向かって前記ガスを噴射可能であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項7】
開閉手段を有し、
前記電極部材は、前記電極挿入口の配置位置に対して、前記チャンバーの外側から着脱可能に設けられ、
前記開閉手段は、前記電極部材を前記電極挿入口の配置位置から外したとき、前記電極挿入口を密閉可能に設けられていることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いた、プラズマ回転電極法による粉末製造方法であって、
前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを充填した後、前記電極部材を回転しつつ、前記ガス供給手段により前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを連続的に供給すると共に、前記ガス噴射手段により前記雰囲気ガスと同じガスを噴射することにより、前記隙間を通して前記チャンバーの内部から前記雰囲気ガスを連続的に排出させ、
この状態で、前記電極部材の前記一方の端部に向かって前記プラズマ照射手段によりプラズマを照射して、前記一方の端部を溶解し、その融液を前記電極部材の回転の遠心力により前記チャンバーの内部で吹き飛ばすことにより、金属製または合金製の粉末を製造することを
特徴とするプラズマ回転電極法による粉末製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置50は、図7に示すように、ガス供給口51aとガス排出口51bとを有するチャンバー51と、長さ方向に沿った中心軸周りに回転可能に、チャンバー51の内部に配置された金属製または合金製の細長い電極部材52と、その電極部材52の一方の端部52aに向かってプラズマを照射可能なプラズマ照射手段53と、チャンバー51の内部に雰囲気ガスを供給するガス供給手段54とを有している(例えば、非特許文献1乃至3参照)。
【0003】
この従来の粉末製造装置50は、ガス排出口51bからチャンバー51の内部のガスを排出して真空にしてから、ガス供給手段54からガス供給口51aを通してArやHeなどの雰囲気ガスをチャンバー51の内部に供給する。その後、チャンバー51を密封した状態で、電極部材52を回転させながら、プラズマ照射手段53でプラズマを照射する。これにより、電極部材52の一方の端部52aを溶解し、その融液を電極部材52の回転の遠心力によりチャンバー51の内部で吹き飛ばして凝固させ、球状の金属製または合金製の粉末を製造するようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】筧幸次、横森玲、西牧智大、「プラズマ回転電極法を用いて作製した粉末焼結ニッケル超合金の組織と強度」、日本金属学会誌、2016年、第80巻、第8号、p.508-514
【文献】時実正治、磯西和夫、「プラズマ回転電極法によるTi合金粉末の製造」、資源処理技術、1990年、Vol.37、No.4、p.215-221
【文献】熊谷良平、「プラズマ回転電極法による金属球形粉末の作製」、まてりあ、1998年、第37巻、第6号、p.488-494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1乃至3に記載のような、図7に示す従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置50は、チャンバー51を密封した状態で粉末を製造するために、電極部材52を密封した状態で回転させる必要がある。このため、電極部材52を、ベアリングなどの電極部材52を支持する支持部に対して、芯出しが難しく、真空漏れを許さないという過酷な条件で設ける必要があり、そこでの摩擦が大きくなり、ベアリングなどの支持部が摩耗したり、破損したりするという課題があった。また、摩擦により温度が上昇し、電極部材52や支持部が膨張して電極部材52が回転しにくくなるという課題もあった。また、電極部材52の回転による共振の振動が大きくなりやすく、装置が破損する原因になるという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、電極部材の回転による摩擦や共振を抑制して、摩耗や破損、温度上昇を防ぐことができる、プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、ガス供給口と電極挿入口とを有するチャンバーと、前記ガス供給口から前記チャンバーの内部に雰囲気ガスを供給可能に設けられたガス供給手段と、細長く、少なくとも一方の端部が金属製または合金製であり、前記一方の端部が前記電極挿入口を通して前記チャンバーの内部に配置され、長さ方向に沿った中心軸周りに回転するよう設けられた電極部材と、前記チャンバーの内部で、前記電極部材の前記一方の端部に向かってプラズマを照射可能に設けられたプラズマ照射手段と、ガス噴射手段とを有し、前記電極部材を回転しつつ、前記ガス供給手段により前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを供給したとき、前記雰囲気ガスが前記チャンバーの内部から排出されるよう、前記電極部材が前記電極挿入口に隙間をあけて配置されており、前記ガス噴射手段は、前記チャンバーの内部で前記隙間を覆うよう、前記雰囲気ガスと同じガスを噴射可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いた、プラズマ回転電極法による粉末製造方法であって、前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを充填した後、前記電極部材を回転しつつ、前記ガス供給手段により前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを連続的に供給すると共に、前記ガス噴射手段により前記雰囲気ガスと同じガスを噴射することにより、前記隙間を通して前記チャンバーの内部から前記雰囲気ガスを連続的に排出させ、この状態で、前記電極部材の前記一方の端部に向かって前記プラズマ照射手段によりプラズマを照射して、前記一方の端部を溶解し、その融液を前記電極部材の回転の遠心力により前記チャンバーの内部で吹き飛ばすことにより、金属製または合金製の粉末を製造することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法は、電極部材が電極挿入口に隙間をあけて配置されているため、ガス供給手段によりチャンバーの内部に雰囲気ガスを連続的に供給したとき、電極挿入口の隙間を通してチャンバーの内部から雰囲気ガスを連続的に排出させることができる。このように、雰囲気ガスが、チャンバーの内部で、ガス供給口から電極挿入口の隙間に向かって一方向に流れるため、プラズマ回転電極法により粉末を製造する際、チャンバーの内部に外気が入り込むのを防ぐことができ、外気により粉末が酸化するのを防止することができる。
【0010】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法で、前記隙間は、前記電極部材の回転を支持する軸受部に設けられていてもよい。この場合、電極部材から軸受部までが密閉されている従来のものと比べて、回転する電極部材と軸受部との間の摩擦を抑制することができ、摩耗や破損、温度上昇を防ぐことができる。温度上昇により電極部材やその支持部が膨張して電極部材が回転しにくくなるのを防ぐことができるため、電極部材をスムーズに回転し続けることができる。また、電極部材の回転による共振も抑制することができ、装置が破損するのを防ぐことができる。
【0011】
また、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記電極部材は、前記電極挿入口の周縁部と接触しないよう設けられていてもよい。この場合、電極部材と電極挿入口の周縁部との間に隙間を形成することができる。電極部材と電極挿入口の周縁部とが接触しないため、それらの間に摩擦や共振が発生するのを防ぐことができ、摩耗や破損、温度上昇を効果的に防ぐことができる。
【0012】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、製造される粉末が酸化しないよう、前記粉末を製造する前に、前記電極部材を停止した状態で前記隙間を密閉し、前記チャンバーの内部のガスを排出して真空にした後、前記ガス供給手段により前記チャンバーの内部に前記雰囲気ガスを供給して充填することが好ましい。このとき、電極挿入口の隙間を塞ぐために、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、前記電極部材が停止しているとき、前記隙間を密閉する密閉部材を有していてもよい。また、電極部材を回転させて粉末を製造している間は、隙間をあけておく必要があるため、前記密閉部材は、前記電極部材が回転したとき、前記隙間を開放するよう構成されていることが好ましい。
【0013】
この密閉部材を有する場合、例えば、前記電極部材との間に前記隙間をあけて、前記電極挿入口の周辺部に沿って設けられた密閉機構を有し、前記密閉機構は、前記隙間に向かって開口し、前記電極部材の回転方向に沿って円環状に設けられた環状室と、前記環状室にガスを供給する加圧手段と、前記環状室から前記ガスを排出する減圧手段とを有し、前記密閉部材は、リング状で、前記電極部材の回転方向に沿って前記環状室の内部に配置されており、前記電極部材が停止しているとき、前記加圧手段で前記環状室に前記ガスを供給することにより、前記密閉部材が前記環状室の開口に向かって移動して、前記電極部材と前記環状室との間で前記隙間を密閉し、前記電極部材が回転するとき、前記減圧手段で前記環状室から前記ガスを排出することにより、前記密閉部材が前記環状室の内部に向かって移動して、前記隙間を開放するよう構成されていてもよい。これにより、隙間の密閉および開放を比較的容易に行うことができる。
【0014】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、ガス噴射手段から噴射されるガスにより、電極挿入口の隙間から外気が入り込むのをより効果的に防ぐことができ、製造される粉末の酸化防止効果を高めることができる。
【0015】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記ガス噴射手段は、前記電極部材を冷却可能に、前記電極部材に向かって前記ガスを噴射可能であってもよい。この場合、電極部材を冷却することができるため、電極部材が膨張して回転しにくくなるのをより効果的に防ぐことができる。
【0016】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、開閉手段を有し、前記電極部材は、前記電極挿入口の配置位置に対して、前記チャンバーの外側から着脱可能に設けられ、前記開閉手段は、前記電極部材を前記電極挿入口の配置位置から外したとき、前記電極挿入口を密閉可能に設けられていてもよい。この場合、例えば電極部材を交換する際など、電極部材を電極挿入口の配置位置から外したときに、開閉手段で電極挿入口を密封することにより、真空のチャンバーの内部に外気や塵埃等の不純物が入ったり、チャンバーの内部から雰囲気ガスが漏れたりするのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極部材の回転による摩擦や共振を抑制して、摩耗や破損、温度上昇を防ぐことができる、プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を示す、チャンバーの内部を透過した正面図である。
図2】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、密閉部材を有する変形例を示す、チャンバーの内部を透過した正面図である。
図3】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、ガス噴射手段を有する変形例を示す、チャンバーの内部を透過した正面図である。
図4】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、密閉機構を有する変形例を示す、(a)隙間を密閉した状態、(b)隙間を開放した状態の、密閉機構付近を拡大した断面図である。
図5】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、開閉手段を有する変形例を示す、電極挿入口を密閉した状態の、電極挿入口付近を拡大した(a)正面図、(b)右側面図である。
図6図1に示すプラズマ回転電極法による粉末製造装置により製造された(a)粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b) (a)より小さい倍率でのSEM写真、(c)粉末を半分研磨したときのSEM写真である。
図7】従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を示す、チャンバーの内部を透過した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を示している。
図1に示すように、粉末製造装置10は、チャンバー11とガス供給手段12と軸受部13と電極部材14とプラズマ照射手段15とを有している。
【0020】
チャンバー11は、所定の厚みを有する円板状を成し、両面が鉛直になるよう設置されている。チャンバー11は、一方の表面の上部に設けられたガス供給口21と、他方の表面の中心部に設けられた電極挿入口22と、下部側面に設けられた漏斗状の回収部23とを有している。回収部23は、下端に開閉可能な回収口23aを有している。
【0021】
ガス供給手段12は、ガス供給口21に連通しており、ガス供給口21からチャンバー11の内部に雰囲気ガスを供給可能に設けられている。雰囲気ガスは、Ar、He、Nなどである。軸受部13は、電極挿入口22の周縁部に沿って取り付けられている。具体的な一例では、軸受部13は、ベアリングから成っている。
【0022】
電極部材14は、細長い円柱状を成し、少なくとも一方の端部14aがCoやTi等の金属製、または合金製である。電極部材14は、一方の端部14aが電極挿入口22を通してチャンバー11の内部に配置され、他方の端部14bがチャンバー11の外部に配置されている。電極部材14は、軸受部13を介して電極挿入口22に回転可能に取り付けられており、モーターなどにより他方の端部14bを回転させることにより、長さ方向に沿った中心軸周りに回転するよう構成されている。
【0023】
プラズマ照射手段15は、電極部材14の一方の端部14aに対向するよう、チャンバー11の一方の表面を貫通して設けられたプラズマトーチ25と、プラズマトーチ25と電極部材14との間に電圧を印加可能に設けられた電圧印加部26とを有している。プラズマ照射手段15は、電圧印加部26でプラズマトーチ25と電極部材14との間に電圧を印加することにより、チャンバー11の内部で、プラズマトーチ25から電極部材14の一方の端部14aに向かってプラズマを照射するよう構成されている。
【0024】
粉末製造装置10は、電極部材14の回転を支持する軸受部13に、チャンバー11の内部と外部とに連通した隙間16が設けられている。粉末製造装置10は、電極部材14を回転しつつ、ガス供給手段12によりチャンバー11の内部に雰囲気ガスを供給したとき、雰囲気ガスがチャンバー11の内部からその隙間16を通って排出されるようになっている。
【0025】
本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置10により実施することができる。すなわち、まず、チャンバー11の内部のガスを排出して真空にしてから、ガス供給手段12によりチャンバー11の内部に雰囲気ガスを供給し、チャンバー11の内部に雰囲気ガスを充填する。その後、電極部材14を回転しつつ、ガス供給手段12によりチャンバー11の内部に雰囲気ガスを連続的に供給する。これにより、電極挿入口22の軸受部13の隙間16を通して、チャンバー11の内部から雰囲気ガスを連続的に排出させることができる。
【0026】
このように雰囲気ガスを供給しながらオーバーフローさせた状態で、プラズマ照射手段15により、電極部材14の一方の端部14aに向かってプラズマトーチ25からプラズマを照射する。これにより、電極部材14の一方の端部14aが溶解し、その融液が電極部材14の回転の遠心力によりチャンバー11の内部で吹き飛ばされて冷却され、ほぼ球状の金属製または合金製の粉末となる。こうして製造された粉末は、チャンバー11の下部の回収部23に集まるため、回収口23aから回収することができる。回収された粉末は、例えば、従来の工業用の用途の他に、積層造形法(3Dプリンタ)の原料粉末としても利用することができる。
【0027】
本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置10および粉末製造方法は、粉末の製造中に、雰囲気ガスが、チャンバー11の内部で、ガス供給口21から電極挿入口22の隙間16に向かって一方向に流れるため、チャンバー11の内部に外気が入り込むのを防ぐことができ、外気により粉末が酸化するのを防止することができる。
【0028】
また、軸受部13に隙間16が設けられているため、電極部材14から軸受部13までが密閉されている従来のものと比べて、回転する電極部材14と軸受部13との間の摩擦を抑制することができ、摩耗や破損、温度上昇を防ぐことができる。温度上昇により電極部材14やその支持部が膨張して電極部材14が回転しにくくなるのを防ぐことができるため、電極部材14をスムーズに回転し続けることができる。また、電極部材14の回転による共振も抑制することができ、装置が破損するのを防ぐことができる。
【0029】
なお、粉末製造装置10は、軸受部13を有さず、電極部材14が電極挿入口22の周縁部と接触しないよう設けられていてもよい。この場合、電極部材14と電極挿入口22の周縁部との間に隙間16を形成することができる。電極部材14と電極挿入口22の周縁部とが接触しないため、それらの間に摩擦や共振が発生するのを防ぐことができ、摩耗や破損、温度上昇を効果的に防ぐことができる。
【0030】
また、図2に示すように、粉末製造装置10は、電極部材14が停止しているとき、電極挿入口22の隙間16を密閉し、電極部材14が回転したとき、その隙間16を開放するよう構成された密閉部材31を有していてもよい。この場合、雰囲気ガスを供給する前に、チャンバー11の内部を真空にする際に、密閉部材31により電極挿入口22の隙間16を塞ぐことができる。また、電極部材14を回転させて粉末を製造している間は、雰囲気ガスを排出するために、密閉部材31により電極挿入口22の隙間16をあけておくことができる。
【0031】
また、図3に示すように、粉末製造装置10は、チャンバー11の内部で電極挿入口22の隙間16を覆うよう、雰囲気ガスと同じガスを噴射可能に設けられたガス噴射手段32を有していてもよい。図3に示す一例では、ガス噴射手段32は、チャンバー11の電極挿入口22の内側で、電極部材14の側面を囲うよう設けられた噴射部33を有し、噴射部33から電極部材14の側面に向かって、隙間なく雰囲気ガスを噴射するようになっている。この場合、ガス噴射手段32から噴射されるガスにより、電極挿入口22の隙間16から外気が入り込むのをより効果的に防ぐことができ、製造される粉末の酸化防止効果を高めることができる。また、ガス噴射手段32から噴射されるガスにより、電極部材14を冷却することができ、電極部材14が膨張して回転しにくくなるのをより効果的に防ぐことができる。
【0032】
また、図4に示すように、粉末製造装置10は、電極部材14との間に隙間16をあけて、電極挿入口22の周辺部に沿って設けられた密閉機構41を有していてもよい。このとき、密閉機構41は、環状室42と加減圧室43と加圧手段44と減圧手段45と密閉部材46とを有している。環状室42は、隙間16に向かって開口し、電極部材14の回転方向に沿って円環状に設けられている。加減圧室43は、環状室42の開口42aとは反対側で、環状室42に接続しており、環状室42との間が仕切板47で仕切られている。仕切板47は、環状室42と加減圧室43とを連通するために、厚みを貫通して設けられた連通孔47aを有している。
【0033】
加圧手段44は、加圧弁44aを介して加減圧室43にガスを供給するよう設けられ、連通孔47aを通して環状室42にガスを供給可能になっている。減圧手段45は、減圧弁45aを介して加減圧室43からガスを排出するよう設けられ、連通孔47aを通して環状室42からガスを排出可能になっている。密閉部材46は、弾性を有するOリングから成り、電極部材14の回転方向に沿って環状室42の内部に配置されている。密閉部材46は、環状室42を幅方向で閉塞可能な厚みを有している。
【0034】
この場合、以下のようにして、密閉機構41により、隙間16を密閉および開放することができる。まず、電極部材14が停止しているとき、図4(a)に示すように、減圧弁45aを閉じて加圧弁44aを開け、加圧手段44により加減圧室43から連通孔47aを通して環状室42にガスを供給する。これにより、密閉部材46が環状室42の開口42aに向かって移動するとともに、環状室42が高圧になるため、密閉部材46が電極部材14の周囲に密着して、電極部材14と環状室42との間で隙間16を密閉することができる。次に、電極部材14が回転するとき、図4(b)に示すように、加圧弁44aを閉じて減圧弁45aを開け、減圧手段45により加減圧室43および連通孔47aを通して環状室42からガスを排出する。これにより、環状室42が真空(低圧)になるため、密閉部材46が電極部材14から離れて環状室42の内部に向かって移動し、隙間16を開放することができる。なお、軸受部13は、密閉した状態で電極部材14を支持する必要はなく、密閉機構41に対して、チャンバー11の内側に設けられていても、外側に設けられていてもよく、密閉機構41に内蔵されていてもよい。
【0035】
また、粉末製造装置10は、電極部材14を電極挿入口22の配置位置から外したとき、電極挿入口22を密閉可能に設けられた開閉手段を有していてもよい。このとき、電極部材14は、例えば、電極挿入口22の配置位置に対して、チャンバー11の外側から着脱可能に設けられている。この場合、例えば電極部材14を交換する際など、電極部材14を電極挿入口22の配置位置から外したときに、開閉手段で電極挿入口22を密封することにより、真空のチャンバー11の内部に外気や塵埃等の不純物が入ったり、チャンバー11の内部から雰囲気ガスが漏れたりするのを防ぐことができる。
【0036】
この場合、開閉手段は、電極挿入口22を密閉可能であれば、いかなる構成であってもよい。例えば、図5に示すように、開閉部材は、電極挿入口22の近傍で、チャンバー11の側面に対して垂直な回転軸48aを中心として、電極挿入口22を塞ぐ位置と開放する位置との間で、チャンバー11の外側面または内側面に沿って回転可能に設けられた蓋部材48を有していてもよい。また、開閉手段は、チャンバー11の内部または外部の電極挿入口22の近傍で、チャンバー11の側面に対して平行な回転軸を中心として、チャンバー11の外側または内側に向かって回転し、電極挿入口22を開閉可能に設けられた蓋部材を有していてもよい。また、開閉部材は、電極挿入口22のチャンバー11の内部側または外部側の開口部に、チャンバー11の内側面または外側面に沿ってスライドし、電極挿入口22を開閉可能に設けられたスライド式の蓋部材を有していてもよい。
【実施例1】
【0037】
図1に示すプラズマ回転電極法による粉末製造装置10を用い、本発明の実施の形態の粉末製造方法により、金属製粉末の製造を行った。雰囲気ガスをArとし、電極部材14としてTiAlVを用い、電極部材14の回転数を20,000rpmとした。また、プラズマ照射手段15により、アルゴンガスで120kW出力の条件で、ガス流量を35リットル/min以下、冷却水流量を約25m/hとして、電極部材14の一方の端部14aに向かってプラズマを照射した。
【0038】
また、比較のため、図7に示す従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置50を用いて、金属製粉末の製造を行った。製造中のチャンバー51の外部の温度を最大450Kとし、それ以外の条件は、図1に示す粉末製造装置10を用いた場合と同じ条件とした。
【0039】
図1に示す粉末製造装置10により製造された粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図6(a)および(b)に、その粉末を半分研磨したときのSEM写真を、図6(c)に示す。図6(a)および(b)に示すように、製造された粉末は、直径D50が60μm~90μmの球状を成していることが確認された。また、製造された粉末の酸素含有量を測定したところ、100ppmであった。また、図6(c)に示すように、製造された粉末は空洞化されていないことも確認された。これに対し、図7に示す従来の粉末製造装置50を用いて製造された粉末も、直径D50が約60μm~90μmの球状であり、酸素含有量が100ppmであった。このように、図1に示す粉末製造装置10を用いても、チャンバー51を密封して製造する従来の粉末製造装置50とほぼ同じ品質の粉末を製造できることが確認された。
【0040】
また、製造後の摩耗の状態等を観察したところ、図1に示す粉末製造装置10の軸受部13は、図7に示す従来の粉末製造装置50の軸受部と比べて、寿命が100倍程度延びることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
10 (プラズマ回転電極法による)粉末製造装置
11 チャンバー
21 ガス供給口
22 電極挿入口
23 回収部
23a 回収口
12 ガス供給手段
13 軸受部
14 電極部材
15 プラズマ照射手段
25 プラズマトーチ
26 電圧印加部
16 隙間

31 密閉部材
32 ガス噴射手段
33 噴射部

41 密閉機構
42 環状室
42a 開口
43 加減圧室
44 加圧手段
44a 加圧弁
45 減圧手段
45a 減圧弁
46 密閉部材
47 仕切板
47a 連通孔

48 蓋部材
48a 回転軸

50 従来の(プラズマ回転電極法による)粉末製造装置
51 チャンバー
51a ガス供給口
51b ガス排出口
52 電極部材
53 プラズマ照射手段
54 ガス供給手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7