(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】敗血症を治療するまたは予防する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20221011BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221011BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221011BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221011BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20221011BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P31/04
A61K45/00 ZNA
A61P43/00 121
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2018543699
(86)(22)【出願日】2017-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2017053647
(87)【国際公開番号】W WO2017140862
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-02-17
(32)【優先日】2016-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507038157
【氏名又は名称】ロイヤル カレッジ オブ サージャンズ イン アイルランド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ケリガン
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Thrombosis and Haemostasis,2011年,Vol.9,pp.593-602
【文献】がん分子標的治療,2014年,Vol.12, No.2,pp.193-199
【文献】東医大誌,1997年,Vol.55, No.5,pp.649-657
【文献】Genes & Cancer,2011年,Vol.2, No.12,pp.1159-1165
【文献】ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY,2010年,Vol.54, No.11,pp.4851-4863
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における敗血症の治療または予防における使用のための医薬組成物であって、
シレンジタイドを含み、前記医薬組成物が前記患者に静脈内送達される、医薬組成物。
【請求項2】
前記患者は、血液の細菌感染を有するか、有する疑いがあるか、または有するリスクにある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記患者は、血液のグラム陽性細菌感染を有するか、有する疑いがあるか、または有するリスクにある請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記血液の感染の、敗血症への進行を阻害する請求項
2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物は、前記血液の感染の、重度の敗血症または敗血症性ショックへの進行を阻害する請求項
2または3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記患者は、敗血症を有するか、もしくは有する疑いがあるか、または感染を有する請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者における重度の敗血症または敗血症性ショックの治療のための請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記患者はまた、静脈内抗生物質、静脈内流体および臓器特異的介入から選択される介入で治療される請求項1から
7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者への静脈内送達のために製剤化され、治療有効量のシレンジタイドおよび治療有効量の抗生物質を含む
、敗血症の治療または予防における使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記抗生物質は、広域スペクトルの抗生物質、グラム陰性に特異的な抗生物質、およびグラム陽性に特異的な抗生物質から選択される請求項
9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症の治療または予防のための方法に関する。特に、本発明は、血液の細菌感染を有する患者において、敗血症、重度の敗血症または敗血症性ショックの発症を予防するまたは阻害するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、敗血症の根底にある病態生理のために承認されている特定の治療はなく、それゆえ、管理計画は、多くの場合、高濃度で長期間送達される侵襲的な静脈内抗生物質療法の使用を通して感染を低減させることに集中している。敗血症の治療における抗生物質の使用は、細菌の抗生物質耐性株の急速な世界的出現のために信頼できる長期解決策ではない。世界保健機関による抗菌剤耐性についての直近の報告によると、「ポスト抗生物質(post-antibiotic)」時代が差し迫っており、これは、敗血症における抗生物質の使用が、間もなく突然の終わりを迎えることを示唆している。敗血症の発症の疑いに際して、抗生物質での治療は、即座に、好ましくは最初の6時間以内に、またはそれより早く開始するべきである。最初に、患者は、様々な細菌に対して有効な広域スペクトルの抗生物質を受けるであろう。これらの抗生物質は、ゲンタマイシン、セフェピム、ピペラシリンまたはメロペネムを含む。血液培養物から特定の種類の細菌(グラム陰性またはグラム陽性)の特定について陽性であることが分かった場合、以下の抗生物質が投与され得る。グラム陰性:アミカシンまたはトブラマイシン、グラム陽性:バンコマイシン。全ての抗生物質は静脈内投与される。
【0003】
疾患進行、病因および可能性のある療法剤の予備試験を研究するための再生可能なシステムを創出する努力において、敗血症の動物モデルが開発されている。しかしながら、敗血症の動物モデルにおいて実証された療法剤の利益は、ヒト臨床試験において滅多に成功していない。例えば、ザイグリスは最近、限定された効力のために市場から取り下げられた。いくつかの理由がこれらの失敗を説明し得るが、最も顕著なものは、動物モデルにおける不正確な、または不完全な観察に基づく理論の適用である。典型的に、動物(特にマウス)は、高レベルの非共生細菌を送達することによって強いられない限り、敗血症を発症しない。動物モデルの適用性がないために、研究者らは、細菌とヒト血液細胞および内皮細胞との間の相互作用に焦点を当てたが、しかしながら、これらの相互作用を調査することへのアプローチについてかなりの疑問が提起されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5652110号明細書
【文献】EP2298308
【文献】EP0770622
【文献】European Patent Application No:0770622
【文献】EP2578225
【文献】EP2338518
【文献】EP2441464
【文献】米国特許第6001961号明細書
【文献】米国特許第4,816,567号明細書
【文献】European Patent No.0,125,023
【文献】米国特許第4,816,397号明細書
【文献】European Patent No.0,120,694
【文献】国際公開第86/01533号パンフレット
【文献】欧州特許第0,194,276号明細書
【文献】米国特許第5,225,539号明細書
【文献】欧州特許第0,239,400号明細書
【文献】米国特許第4,946,778号明細書
【文献】米国特許第4,172,124号明細書
【文献】米国特許第5,545,806号明細書
【文献】米国特許第5,545,807号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pranita P.Sarangi,et al.,(SHOCK,vol.38,no.2,1 August 2012)
【文献】C.C. Hsu,et al.,(Journal of Thrombosis and Haemostasis,vol.9,no.3,1 March 2011)
【文献】Felding et al,Curr Opin Cell Biol.1993;5;864-868
【文献】Millard et al{Theranostics 2011;1:154=188}
【文献】Kim et al(Mol Pharm 2013 Oct 7,3603-3611)
【文献】Pfaff et al(J Biol Chem 1994;269,20233-20238)
【文献】Healy et al(Biochemistry 1995;34,3948-3955)
【文献】Koivunen et al(J Biol Chem 1993;268;20205-20210 and 1994;124:373-380)
【文献】Ruoslahti et al(Annu Rev Cell Dev Biol.1996;12:697-715)
【文献】Ponce et al(Faseb J.2001;15;1389-1397)
【文献】Dechantsreiter et al J Med Chem 1999 Aug 12;42(16)
【文献】Liu et al Drug Dev Res 2008;69(6)329-339
【文献】Coleman et al,Circulation Research 1999;84;1268-1276
【文献】Trika et al.Int J Cancer 2004;110;326-335
【文献】Trikha et al.Cancer Res 2002;62;2824-2833
【文献】Varner et al.Angiogenesis 1999;3;53-60
【文献】Mitjans et al J Cell Sci 1995;108;2825-2838
【文献】Liu et al Drug Dev Res 2008;69(6)329-339
【文献】Bello et al(Neurosurgery 2003:52;177186)
【文献】Ramachandran et al.(Virulence 2014 Jan 1;5(1);213-218)
【文献】インターネット www.halls.md/body-surface-area/bsa.htm
【文献】Hay et al(Immunochemistry 12(5):373-378)
【文献】Parkham et al(J.Immunol 1983:131(6):2895-2902)
【文献】Baldwin et al(J.Immunol Methods 1989 121(2):209-217)
【文献】Newman,R.et al.,BioTechnology,10:1455-1460(1992)
【文献】Bird,R.E.et al.,Science,242:423-426(1988)
【文献】Lonberg,N.“Transgenic Approaches to Human Monoclonal Antibodies”Handbook of Experimental Pharmacology 113(1994):49-101
【文献】Kohler et al.,Nature,256:495-497(1975)
【文献】Kohler et al.,Eur.J.Immunol.6:511-519(1976)
【文献】Milstein et al.,Nature 266:550-552(1977)
【文献】Harlow,E.and D.Lane,1988,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,N.Y.)
【文献】Current Protocols In Molecular Biology,Vol.2(Supplement 27,Summer ’94),Ausubel,F.M.et al.,Eds.,(John Wiley & Sons:New York,N.Y.),Chapter 11,(1991)
【文献】Rasmussen SK,Rasmussen LK,Weilguny D,Tolstrup AB.Biotechnol Lett.2007 Feb 20.
【文献】インターネット http://www.fda.gov/cber/gdlns/igivimmuno.htm.
【文献】Haeney Clin Exp Immunol.1994 July;97(Suppl 1):11-15
【文献】Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551-2555(1993)
【文献】Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日までに、αVβ3アンタゴニストを考慮したグループはない。非特許文献1の出版物では、内毒血症および敗血症のマウスモデルにおいてベータ-1-インテグリンに対するRGDペプチドの効果が調査されている。この開示は、少なくとも、著者により利用されたRGDペプチドがαVβ3アンタゴニストではなかったという点で、本発明とは異なる。
【0007】
C.C. Hsuらによれば、マウスモデルでLPS誘導内毒血症に対するロドストミンの効果が調査されている(非特許文献2参照。)。この出版物は、個体における敗血症の初期の発症を予防または阻害する方法に関係しておらず、αVβ3アンタゴニストの使用についての議論はない。本発明のαVβ3アンタゴニストは、内皮細胞への細菌の接着を防ぐことにより働く。著者Hsuらにより利用されたモデルは、単離されたLPSに関与しており、細菌ではなく、そのため、Hsuらは、細菌それ自体が存在していないので、敗血症における、特に初期の敗血症におけるαVβ3アンタゴニストの効果を実証していない。さらに、Hsuらにより利用されたモデルは、LPSの過剰ロードに関与しない初期の敗血症または発症中の敗血症のモデルではない。
【0008】
少なくとも上記に参照される問題を克服することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
出願人は、剪断条件下のヒト血管内皮細胞が、αVβ3インテグリン受容体を含むある特定の細胞外受容体の発現をアップレギュレートすることを発見した。加えて、出願人は、ヒト病原体、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および大腸菌(Escherichia.coli)が、血管内皮αVβ3インテグリン受容体との相互作用を通して剪断条件下でヒト血管内皮細胞に結合することを発見した。特に、黄色ブドウ球菌(S.Aureus)クランピング因子Aは、αVβ3に架橋結合するフィブリノーゲンに結合し、大腸菌(E.coli)リポ多糖(LPS)は、αVβ3に直接結合する。本発明者らは、実際、大腸菌の外膜タンパク質Aが、内皮細胞の主要なインテグリン、αVβ3に結合することを発見した。また、出願人は、シレンジタイド(cilengitide)などのαVβ3アンタゴニストでこの受容体をブロックすることにより、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の両方の血管内皮細胞への接着の用量依存的な低減が引き起こされることを発見した。血管内皮細胞への細菌接着は、細菌性敗血症の発症、特に血液感染の敗血症、重度の敗血症および敗血症性ショックへの進行における重大な事象であるので、本発明は、患者へのαVβ3アンタゴニストの投与、理想的には静脈内投与による敗血症の治療または予防に関する。さらに、αVβ3アンタゴニストで血管内皮αVβ3インテグリンをブロックすることにより、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌両方の接着の低減がもたらされるので、療法介入は血液培養物を予め測定することを必要とせず、血液感染の疑いがあるか、または血液感染が検出された時点で開始することができる。
【0010】
したがって、本発明は、患者における敗血症の治療または予防のための機能的αVβ3アンタゴニストの使用に関し、機能的αVβ3アンタゴニストは好ましくは、患者に静脈内送達される。
【0011】
一実施形態では、機能的αVβ3アンタゴニストは、αVβ3受容体の強い阻害剤である。一実施形態では、機能的αVβ3アンタゴニストは、αVドメインに特異的である。一実施形態では、機能的αVβ3アンタゴニストは、ペプチドである。一実施形態では、ペプチドは、環状ペプチドである。一実施形態では、環状ペプチドは、シレンジタイドおよびシレンジタイドバリアントから選択される。
【0012】
一実施形態では、機能的αVβ3アンタゴニストは、その抗体または抗体の断片である。一実施形態では、抗体または断片は、αVドメインに特異的である。一実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。一実施形態では、抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体である。一実施形態では、抗体は、ナノボディである。
【0013】
一実施形態では、αVβ3アンタゴニストは、低分子量アンタゴニストである。低分子量αVβ3アンタゴニストの例は、ペプチド、例えばシレンジタイドおよびペプチド模倣薬、例えばIS201である。
【0014】
一実施形態では、患者は、血液の細菌感染を有するか、または有する疑いがある。
【0015】
一実施形態では、本発明の使用は特に、血液の細菌感染を有するか、または有する疑いがある患者における、敗血症の発症の初期の予防または阻害のためのものである。
【0016】
一実施形態では、本発明の使用は特に、敗血症または血液の感染を有するか、または有する疑いがある患者における、重度の敗血症または敗血症性ショックの発症の初期の予防または阻害のためのものである。
【0017】
一実施形態では、本発明の使用は特に、患者における重度の敗血症または敗血症性ショックの治療のためのものである。
【0018】
一実施形態では、本発明の使用は、静脈内抗生物質、静脈内流体および臓器特異的介入(organ-specific intervention)から選択される介入での治療をさらに含む。
【0019】
一実施形態では、10mg/m2未満の投与量が、患者に投与される。一実施形態では、1mg/m2未満の投与量が、患者に投与される。
【0020】
また、本発明は、典型的に静脈内送達のために製剤化された治療有効量の機能的αVβ3アンタゴニストおよび抗生物質を含む医薬組成物に関する。一実施形態では、抗生物質は、広域スペクトルの抗生物質である。例として、ゲンタマイシン、セフェピム、ピペラシリンまたはメロペネムが挙げられる。一実施形態では、抗生物質は、グラム陰性に特異的な抗生物質である。例として、アミカシンまたはトブラマイシンが挙げられる。一実施形態では、抗生物質は、グラム陽性に特異的な抗生物質である。例として、バンコマイシンが挙げられる。一実施形態では、医薬組成物は、10mg/m2未満を含む。一実施形態では、1mg/m2未満の投与量が、患者に投与される。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の機能的αVβ3アンタゴニストを静脈内投与するステップを含む、患者において敗血症を治療するまたは予防する方法に関する。一実施形態では、本方法は、血液の細菌感染を有するか、もしくは有する疑いがある患者における敗血症の発症の初期の予防または阻害のためのものである。一実施形態では、本方法は、敗血症を有するか、または有する疑いがある患者における重度の敗血症または敗血症性ショックの発症の初期の予防または阻害のためのものである。一実施形態では、本方法は、患者における重度の敗血症または敗血症性ショックの治療のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】剪断の効果およびヒト内皮細胞への細菌結合に必要な条件を示す図である。ヒト内皮細胞を、静的に(A)または10ダイン/cm
2の生理学的剪断条件下(B)で増殖させた。黄色ブドウ球菌を、ヒト血漿の非存在下もしくは存在下(C)で、および/または腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)の非存在下(D)もしくは存在下(E)で剪断されたヒト内皮細胞に接着させた。これらの条件を確立すると、本発明者らは、血漿およびTNFaの存在下で静止条件下または剪断条件下にてヒト内皮細胞に結合する黄色ブドウ球菌の能力を調査した(F)。本発明者らの結果は、黄色ブドウ球菌が、血漿およびTNFaの存在下で剪断されたヒト内皮細胞に顕著により多く結合することを示す。
【
図2】剪断されたヒト内皮細胞に結合する黄色ブドウ球菌上の主要な細胞壁タンパク質の特定を示す図である。黄色ブドウ球菌は、ヒト血漿およびTNFaの存在下でヒト内皮細胞に結合した。細菌表面上で発現されるタンパク質Aの発現を欠く株を使用しても、黄色ブドウ球菌結合に影響しなかったが、しかしながら、主要な細胞壁タンパク質クランピング因子Aの発現を欠く株を使用すると、結合が顕著に低減した(A)。タンパク質Aおよびクランピング因子Aの発現がないことを確認するために、ドットブロットを使用した(B)。ラクチス乳酸菌(L.lactis)は、目的の黄色ブドウ球菌タンパク質の機能を決定するために以前に使用されている優れた代理ホストである。代理ホスト、ラクチス乳酸菌におけるタンパク質Aの過剰発現は、ヒト内皮細胞への結合を復元することができなかった。代理ホスト、ラクチス乳酸菌におけるクランピング因子Aの過剰発現は、ヒト内皮細胞への結合を顕著に増大させた(C)。ドットブロットを、それぞれ、ClfAおよびタンパク質Aの過剰発現を確認するために使用した(D)。これらの結果は、主要な細胞壁タンパク質ClfAは、ヒト内皮細胞への黄色ブドウ球菌の結合に重要であることを示唆する。
【
図3】ヒト内皮細胞への黄色ブドウ球菌クランピング因子Aの結合における、ヒト血漿タンパク質の役割の特定を示す図である。ヒト内皮細胞に結合するClfAを発現するラクチス乳酸菌は、ClfA血漿タンパク質を除去すると、顕著に低減した(A)。IgGのみを添加しても、ヒト内皮細胞へのラクチス乳酸菌ClfAの結合を復帰させることはできなかった。フィブリノーゲンのみを添加すると、ヒト内皮細胞へのラクチス乳酸菌の結合を完全に復元させた(B)。フィブリノーゲン結合に重要なClfAにおけるアミノ酸欠損(C)は、ヒト内皮細胞との相互作用を顕著に低減した(D)。これらの結果は、フィブリノーゲンが、ClfAがヒト内皮細胞と架橋結合および結合するために重要であることを示唆する。
【
図4】ClfA/フィブリノーゲン結合の結果としてのヒト内皮細胞における細胞内カルシウム放出を示す図である。非感染休止ヒト内皮細胞は、細胞内カルシウムを放出しない(AおよびD)。しかしながら、ヒト内皮細胞へのClfA/フィブリノーゲン結合に際して、感染後約4分でカルシウム放出のスパイクがある(BおよびD)。ClfAの発現を欠く株を使用すると、カルシウム放出をもたらす細胞内シグナルを誘発することができなかった(CおよびD)。これらの結果は、ヒト内皮細胞へのClfA/フィブリノーゲン結合に続いて、細胞内シグナルが発生することを示唆する。
【
図5】ClfA/フィブリノーゲン結合後のバイベル・パラーデ小体の動員およびフォン・ヴィルブランド因子の分泌を示す図である。非感染休止ヒト内皮細胞(AおよびD)またはラクチス乳酸菌偽トランスフェクト細胞(BおよびD)は、内皮細胞の表面上にバイベル・パラーデ小体を動員しないか、またはフォン・ヴィルブランド因子を分泌しない。ラクチス乳酸菌におけるClfAの過剰発現は、ヒト内皮細胞の表面上へのバイベル・パラーデ小体の動員およびvWfの分泌を引き起こした(CおよびD)。
【
図6】相互作用を媒介した黄色ブドウ球菌ClfAおよびフィブリノーゲンを認識する内皮細胞受容体の特定を示す図である。低濃度のTNFaでの活性化に際して、ヒト内皮細胞αVβ3は、顕著にアップレギュレートされる(A)。ClfAを発現するラクチス乳酸菌の結合は、αVβ3の阻害剤、シレンジタイドでのヒト内皮細胞の事前処理後に顕著に低減された(B)。また、精製した受容体aVb3をシレンジタイドで事前処理すると、ラクチス乳酸菌ClfAの結合が顕著に阻害された(C)。これらの結果は、αVβ3が、フィブリノーゲンへの結合および黄色ブドウ球菌ClfAへの架橋結合を担う受容体であることを示唆する。
【
図7】内皮細胞への細菌接着がシレンジタイドにより阻害されることを実証するためのin vivo静脈腸間膜灌流モデルを示す図である。野生型黄色ブドウ球菌は、活性化マウス内皮細胞に接着した(A)。ClfAの発現を欠く株を使用すると、内皮細胞への接着が顕著により少なくなった(BおよびD)。黄色ブドウ球菌は、静脈内投与したシレンジタイドの存在下では、マウス内皮細胞に顕著に結合することができなかった(CおよびE)。
【
図8】ヒト内皮細胞増殖に対する黄色ブドウ球菌の効果を示す図である。ヒト内皮細胞は、増殖培地中で24時間にわたり増殖する(CおよびF)。内皮細胞への黄色ブドウ球菌の添加は、24時間の期間にわたりヒト内皮細胞増殖を顕著に低減した(DおよびG)。ClfAの発現を欠く株を使用すると、ヒト内皮細胞増殖を阻害する黄色ブドウ球菌の能力が顕著に回復した(E)。同様に、また、ヒト内皮細胞へのシレンジタイドの添加も、黄色ブドウ球菌の増殖を阻害する能力を顕著に回復させた(H)。
【
図9】ヒト内皮細胞アポトーシスに対する黄色ブドウ球菌の効果を示す図である。黄色ブドウ球菌がヒト内皮細胞増殖を阻害するという観察に基づいて、本発明者らは、これがアポトーシスのためであるかどうかを調査した。健常なヒト内皮細胞は低レベルのアポトーシスを有するが、しかしながら、黄色ブドウ球菌の添加で顕著なアポトーシスが観察される。ClfAの発現を欠く株を使用すると、黄色ブドウ球菌により誘導されるアポトーシスが顕著に低減した(A)。また、ヒト内皮細胞へのシレンジタイドの添加は、アポトーシスを誘導する黄色ブドウ球菌の能力を顕著に低減した(B)。
【
図10】ヒト内皮細胞浸透性に対する黄色ブドウ球菌の効果を示す図である。ヒト内皮細胞がアポトーシス性になる場合、それはバリア機能の破壊をもたらし得る。非感染ヒト内皮細胞は、内皮層を通る流体の通過を防ぐタイトジャンクションを形成する。黄色ブドウ球菌の添加は、このバリアを破壊し、細胞の単層を介する流体の顕著な通過をもたらす。ClfAの発現を欠く株を使用すると、このバリア浸透性の破壊は顕著に低減された。同様に、また、ヒト内皮細胞へのシレンジタイドの添加は、黄色ブドウ球菌感染後のバリア浸透性の量を顕著に低減した。
【
図11】ヒト内皮細胞との黄色ブドウ球菌の相互作用のモデルを示す図である。黄色ブドウ球菌クランピング因子Aは、可溶性血漿フィブリノーゲンを結合する。これは、次に、細菌を内皮細胞上で発現するVb3に架橋結合する。結合すると、細胞内シグナルが発生し、カルシウムの顕著な上昇およびフォン・ヴィルブランド因子の分泌をもたらす。追加のシグナルは、増殖の損失をもたらし、アポトーシスを誘導し、血管浸透性を増大させる。これらの変化は共に、正常な内皮細胞機能の調節不全を引き起こす。シレンジタイドの添加は、これらの機能不全メッセージの全てを顕著に低減させる。
【
図12】シレンジタイドの添加が、ヒト内皮細胞において毒性を引き起こさないことを示す図である。
【
図13】静止条件下での剪断された内皮細胞への大腸菌の結合を示す図である。ヒト脈管構造内で内皮細胞が有する生理学的状態を複製するために、内皮細胞を剪断した。内皮細胞を固定し、透過処理し、a-アクチンに対する抗体(一次)およびAlexa Fluor(登録商標)488-コンジュゲート済み(二次)と共にインキュベートした。核をDAPIで染色した。蛍光顕微鏡で画像を得た。画像は3つの独立した実験の代表例である。静止条件下で増殖した内皮細胞は、ランダム配向を示し(A)、一方で、剪断条件下で増殖した内皮細胞は、流れの方向の整列を示す(B)。これと一致して、静止内皮細胞および剪断した内皮細胞からのタンパク質ホモジェネートのウェスタンブロットにより決定されるVE-カドヘリン発現は、剪断された内皮細胞においてアップレギュレートされていることが実証された(C)。9つの大腸菌の臨床株を、剪断された内皮細胞と結合するそれらの能力について試験し、全ての株は様々な程度で結合した(D)。全ての実験において大腸菌株CFT073を代表株として使用した。以前の観察と一致して、黄色ブドウ球菌(対照)は、剪断された内皮細胞とうまく結合するために血漿を必要とするが、しかしながら、大腸菌は、血漿タンパク質の非存在下または存在下で結合するように見える。これらのデータは、大腸菌は、血漿タンパク質の非存在下で剪断された内皮細胞に結合することができることを示唆し、これは、血漿タンパク質に依存する黄色ブドウ球菌の内皮細胞への結合と対照的である。
【
図14】大腸菌が、内皮細胞上で発現する主要なインテグリンαVβ3に結合することを示す図である。内皮細胞への大腸菌結合に際してのαVβ3インテグリン阻害の効果を調査した。結果は、静止アッセイを使用して(A)、または大腸菌を10ダインで5分間剪断した内皮細胞上で灌流した場合(B)、選択的αVβ3インテグリン阻害剤、シレンジタイド(0.05μM)は、内皮細胞への大腸菌の結合を顕著に阻害したことを実証する。これらの結果は、内皮細胞への大腸菌の結合がシレンジタイドにより阻害されたことを実証する。
【
図15】大腸菌外膜タンパク質Aが、内皮細胞の主要なインテグリン、αVβ3に結合することを示す図である。LPSの欠損株を使用しても、内皮細胞への結合は影響を受けないことが分かり、このことは、LPSが、細菌を内皮細胞に繋留することを担う構成要素ではないことを示唆する(A)。トリプシン感受性タンパク質が内皮細胞への結合を担うかどうかを調査するために、細胞をトリプシンで事前処理すると、結合は顕著に低減した(B)。RGD配列を含有する表面タンパク質について大腸菌ゲノムを検索するためにバイオインフォマティクスによるアプローチを使用した。RGDまたはKGD配列を有する20個近くのタンパク質を特定したが、しかしながら、10個のみが細胞表面上で発現していた(E)。外膜タンパク質A、ompAを親株CFT073から欠失させ、ノックアウトに再導入して、多面的効果についての懸念を生じさせた。ompAの発現を欠く株は、静止アッセイを使用して(C)、または細菌を、剪断した内皮細胞上で灌流した場合(D)の両方で、内皮細胞に結合するその能力が顕著に低減した。補完された株を使用した場合、結合が復元され、このことは、ompAは内皮細胞への結合において重要な役割を果たすことを示唆する(C+D)。これらの結果は、外膜タンパク質Aが大腸菌株の表面上で遍在性に発現し、インテグリンを認識するモチーフRGDを発現することを実証する。ompAの欠失は、内皮細胞に結合する大腸菌の能力を顕著に低減させる。
【
図16】αVβ3への大腸菌ompAの結合が、内皮細胞における浸透性の増大を引き起こすことを示す図である。敗血症の特徴的な徴候の1つは、増大した血管浸透性である。浸透性に対する内皮細胞への大腸菌結合の効果を調査した。大腸菌結合に際して、浸透性の30%増大があり、ompAの欠損株は浸透性を顕著に低減させた。補完したompA株の添加は、親大腸菌対照に匹敵する浸透性の増大をもたらした。最も重要なことに、大腸菌が誘導した浸透性の増大は、事前インキュベーション後に顕著に低減された浸透性であり、αVβ3は、流体の漏れおよび浸透性の増大を誘発するシグナルをもたらす。これらのデータは、内皮細胞への大腸菌結合は、浸透性の顕著な増大(約30%)をもたらすことを例示する。ompAの欠損株を使用するか、または内皮細胞をシレンジタイドと事前インキュベートすることは、浸透性を顕著に低減させる。
【
図17】αVβ3への大腸菌ompAの結合が、タイトジャンクションタンパク質の損失およびアポトーシスの増大をもたらすことを示す図である。浸透性の増大は、内皮細胞の分離に起因する。調査するために、タイトジャンクション形成を評価した。VE-カドヘリンについての免疫染色は、感染の非存在下でタイトジャンクション形成を実証したが(A)、しかしながら、大腸菌感染後に接続の損失があった(B)。ompAの欠損株を使用すると、VE-カドヘリンタイトジャンクション形成を回復した(C)。また、補完した株は、タイトジャンクション形成の損失を顕著に引き起こした(D)。最後に、また、シレンジタイドでの内皮細胞の事前処理は、大腸菌感染後のタイトジャンクション形成の回復をもたらした(E)。また、タイトジャンクション形成の損失がアポトーシスのためであったかどうかを調査した。これを決定するために、アポトーシス細胞の特質である、細胞表面上のアネキシンV曝露を、フローサイトメトリーにより評価した。非感染内皮細胞は、低レベルのアポトーシスを有するが、しかしながら、内皮細胞への大腸菌の添加に際して、アポトーシスは顕著に増大した。大腸菌ΔompAの添加は、内皮細胞において顕著により低い程度のアポトーシスをもたらした(F)。また、補完したompA株の添加は、大腸菌対照に匹敵するアポトーシスを誘導した。シレンジタイドとの内皮細胞の事前インキュベーションは、大腸菌が誘導したアポトーシスの顕著な低減をもたらした。内皮細胞へのシレンジタイドの添加のみでは、細胞の生存能力に影響を与えることはできなかった。これらのデータは、剪断された内皮細胞への大腸菌結合は、内皮細胞の分離をもたらし、浸透性の増大をもたらすこと、およびαVβ3へのそのompA結合は、シグナルを発生し、プログラム細胞死(アポトーシス)をもたらすことを実証する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義:
「αVβ3」は、細胞接着を促進する細胞表面糖タンパク質受容体のインテグリンスーパー遺伝子ファミリーのメンバーである。それは、保存されたRGDアミノ酸配列を含有する様々な血漿タンパク質および細胞外マトリックスタンパク質に結合し、細胞接着を調節する。それは、骨吸収において役割を果たす破骨細胞で高度に発現され、また血管平滑筋細胞および内皮細胞において、ならびに血管新生および細胞遊走に関与するいくつかの腫瘍細胞において豊富である(例えば、非特許文献3参照。)。「血管内皮αVβ3」は、血管内皮細胞により発現されるαVβ3インテグリンを指す。
【0024】
「αVドメイン」は、血管内皮αVβ3インテグリンのαVドメインを指す。ヒト血管内皮αVドメインの配列を、配列番号1に示す:
ITAV_ヒトインテグリンアルファ-V OS=ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(配列番号1)
MAFPPRRRLRLGPRGLPLLLSGLLLPLCRAFNLDVDSPAEYSGPEGSYFGFAVDFFVPSASSRMFLLVGAPKANTTQPGIVEGGQVLKCDWSSTRRCQPIEFDATGNRDYAKDDPLEFKSHQWFGASVRSKQDKILACAPLYHWRTEMKQEREPVGTCFLQDGTKTVEYAPCRSQDIDADGQGFCQGGFSIDFTKADRVLLGGPGSFYWQGQLISDQVAEIVSKYDPNVYSIKYNNQLATRTAQAIFDDSYLGYSVAVGDFNGDGIDDFVSGVPRAARTLGMVYIYDGKNMSSLYNFTGEQMAAYFGFSVAATDINGDDYADVFIGAPLFMDRGSDGKLQEVGQVSVSLQRASGDFQTTKLNGFEVFARFGSAIAPLGDLDQDGFNDIAIAAPYGGEDKKGIVYIFNGRSTGLNAVPSQILEGQWAARSMPPSFGYSMKGATDIDKNGYPDLIVGAFGVDRAILYRARPVITVNAGLEVYPSILNQDNKTCSLPGTALKVSCFNVRFCLKADGKGVLPRKLNFQVELLLDKLKQKGAIRRALFLYSRSPSHSKNMTISRGGLMQCEELIAYLRDESEFRDKLTPITIFMEYRLDYRTAADTTGLQPILNQFTPANISRQAHILLDCGEDNVCKPKLEVSVDSDQKKIYIGDDNPLTLIVKAQNQGEGAYEAELIVSIPLQADFIGVVRNNEALARLSCAFKTENQTRQVVCDLGNPMKAGTQLLAGLRFSVHQQSEMDTSVKFDLQIQSSNLFDKVSPVVSHKVDLAVLAAVEIRGVSSPDHVFLPIPNWEHKENPETEEDVGPVVQHIYELRNNGPSSFSKAMLHLQWPYKYNNNTLLYILHYDIDGPMNCTSDMEINPLRIKISSLQTTEKNDTVAGQGERDHLITKRDLALSEGDIHTLGCGVAQCLKIVCQVGRLDRGKSAILYVKSLLWTETFMNKENQNHSYSLKSSASFNVIEFPYKNLPIEDITNSTLVTTNVTWGIQPAPMPVPVWVIILAVLAGLLLLAVLVFVMYRMGFFKRVRPPQEEQEREQLQPHENGEGNSET
【0025】
「β3ドメイン」は、血管内皮αVβ3インテグリンのβ3ドメインを指す。ヒト血管内皮β3ドメインの配列を、配列番号2に示す:
ITB3_ヒトインテグリンベータ-3 OS=ホモ・サピエンス(配列番号2)
MRARPRPRPLWATVLALGALAGVGVGGPNICTTRGVSSCQQCLAVSPMCAWCSDEALPLGSPRCDLKENLLKDNCAPESIEFPVSEARVLEDRPLSDKGSGDSSQVTQVSPQRIALRLRPDDSKNFSIQVRQVEDYPVDIYYLMDLSYSMKDDLWSIQNLGTKLATQMRKLTSNLRIGFGAFVDKPVSPYMYISPPEALENPCYDMKTTCLPMFGYKHVLTLTDQVTRFNEEVKKQSVSRNRDAPEGGFDAIMQATVCDEKIGWRNDASHLLVFTTDAKTHIALDGRLAGIVQPNDGQCHVGSDNHYSASTTMDYPSLGLMTEKLSQKNINLIFAVTENVVNLYQNYSELIPGTTVGVLSMDSSNVLQLIVDAYGKIRSKVELEVRDLPEELSLSFNATCLNNEVIPGLKSCMGLKIGDTVSFSIEAKVRGCPQEKEKSFTIKPVGFKDSLIVQVTFDCDCACQAQAEPNSHRCNNGNGTFECGVCRCGPGWLGSQCECSEEDYRPSQQDECSPREGQPVCSQRGECLCGQCVCHSSDFGKITGKYCECDDFSCVRYKGEMCSGHGQCSCGDCLCDSDWTGYYCNCTTRTDTCMSSNGLLCSGRGKCECGSCVCIQPGSYGDTCEKCPTCPDACTFKKECVECKKFDRGALHDENTCNRYCRDEIESVKELKDTGKDAVNCTYKNEDDCVVRFQYYEDSSGKSILYVVEEPECPKGPDILVVLLSVMGAILLIGLAALLIWKLLITIHDRKEFAKFEEERARAKWDTANNPLYKEATSTFTNITYRGT
【0026】
「αVβ3アンタゴニスト」は、αVβ3インテグリンに結合し得る分子を指す。例として、ペプチド{環状および非環状}、非ペプチドリガンド、ディスインテグリン、ペプチド模倣薬、抗体および遺伝子阻害剤が挙げられる。環状ペプチドの例は、シレンジタイドである。抗体アンタゴニストの例は文献に記載されている(例えば、特許文献1参照。)。また、αVβ3アンタゴニストも記載されている(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、特許文献2(南カリフォルニア大学)、非特許文献8、非特許文献9および非特許文献10参照。)。一実施形態では、αVβ3アンタゴニストは、αVインテグリンについて選択的である。
【0027】
「機能的αVβ3アンタゴニスト」は、以下に記載するin-vitro結合アッセイにおいて、血管内皮αVβ3インテグリンに結合し、血管内皮αVβ3インテグリンへの黄色ブドウ球菌および/または大腸菌細菌の結合の減少を引き起こし得るαVβ3アンタゴニストを指す。例として、シレンジタイドおよびシレンジタイドのバリアントが挙げられる(例えば、特許文献3参照。)。機能的αVβ3アンタゴニストを特定するために以下に記載するin-vitro接着アッセイを使用して、文献に記載されているαVβ3アンタゴニストを試験することは、当業者にとってルーチンの事柄である。
【0028】
「シレンジタイド」は、αVβ3受容体の強力なインテグリン阻害剤である。それは、αVインテグリンに選択的な環状ペプタペプチド(シクロ(-RGDf(NMe)V-)である(例えば、Jonczyk et al、特許文献4参照。)。分子の合成および活性は、1999年に公開された(例えば、非特許文献11参照。)。シレンジタイドは、がんの治療のために指示されている(例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7参照。)。
【0029】
「シレンジタイドの機能的バリアント」は、αVβ3受容体のインテグリン阻害剤である、特許文献8に記載されているシレンジタイドのバリアント、特に配列番号1から40(特許文献8、カラム12~13)に記載されている環状ペプチドを意味する。
【0030】
「低分子量アンタゴニスト」は、50KDa未満の分子を有するアンタゴニストを意味する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、20KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、10KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、5KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、4KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、3KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、2KDa未満の分子量を有する。一実施形態では、低分子量アンタゴニストは、1KDa未満の分子量を有する。
【0031】
「αVβ3抗体」は、αVβ3インテグリンに結合する抗体を意味する。一実施形態では、抗体は、αVβ3またはαVβ5インテグリンに特異的に結合する。一実施形態では、抗体は、αVβ3インテグリンに特異的に結合する。αVβ3抗体の例は、文献(例えば、非特許文献12参照。)に記載され、市販されており、例えば、MerckMilliporeから市販されているマウスモノクローナル抗体(Clone LM609)であり、AVASTINとしても知られる、MAB1976;ヒト化モノクローナル抗体である、Vitaxin I(例えば、非特許文献13参照。);Medimmuneにより製造されるVitaxin Iの誘導体である、ABEGRIN;多数のαVインテグリンを認識し、高い親和性でαVβ3またはαVβ5インテグリンに結合する完全ヒト化抗体である、CNTO95(例えば、非特許文献14参照。);親インタクトマウスmAb 7E3のマウス-ヒトキメラおよびマウスmAb断片である、c7E3 Fab(ABCIXIMABまたはREOPRO)およびc7E3(Fab’)2(例えば、非特許文献15および非特許文献16参照。);17E6抗体(例えば、非特許文献17参照。)がある。「αVβ3抗体」という用語は、αVドメイン、β3ドメイン、またはαVドメインおよびβ3ドメインの両方に選択的に結合する抗体を含む。「機能的αVβ3抗体」という用語は、以下に記載するin-vitro接着アッセイにおいて、血管内皮αVβ3インテグリンに結合し、内皮細胞への黄色ブドウ球菌または大腸菌細菌の接着を少なくとも部分的にブロックすることができるαVβ3抗体を意味する。
【0032】
「ディスインテグリン」は、αVβ3に結合し、その機能をブロックし得る、クサリヘビ毒に由来するシステインが豊富なペプチドを含有する低分子量RGDのファミリーを意味する。例として、トリグラミン、キストリン、ビチスタチン、バーブリン(Barbourin)、エキスタチン、コントルトロスタチン(Contortrostatin)が挙げられ、これらは全て、記載または参照されている(例えば、非特許文献18参照。)。
【0033】
「ペプチド模倣薬」は、ペプチドαVβ3アンタゴニストの生物学的作用を模倣することができる非ペプチド構造エレメントを含有する化合物を意味する。例として、SC-68448およびSCH221153(両方とも非特許文献18で記載または参照されている)ならびにIS201(非特許文献19で記載されている)が挙げられる。
【0034】
「遺伝子阻害剤」は、αVβ3発現の低減を引き起こし得る核酸を意味する。一部の実施形態では、薬剤は核酸である。核酸剤は、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、抗マイクロRNA、アンチセンスRNAまたはオリゴヌクレオチド、アプタマー、リボザイムおよびこれらの任意の組合せから選択することができる。薬剤が核酸である場合、薬剤それ自体を対象に投与してもよく、または薬剤を発現/コードするベクターを対象に投与してもよい。一部の実施形態では、薬剤を発現する/コードするベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0035】
「血液の感染」または「血液感染」は、血液の微生物感染、例えば細菌、ウイルスまたは酵母血液感染を意味する。一実施形態では、その用語は、血液の細菌感染を意味する。細菌による血液感染を有する患者は多くの場合、「菌血症の」といわれる。一実施形態では、上記用語は、細菌が敗血症を引き起こす細菌である血液の細菌感染を意味する。一実施形態では、その用語は、ブドウ球菌属(Staphlyococcus)、連鎖状球菌属(Streptococcus)、大腸菌属(Escherichia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クレブシエラ属(Klebsiella)から選択される細菌属での血液の細菌感染を意味する。一実施形態では、その用語は、黄色ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、大腸菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ菌種(Klebsiella spp.)から選択される細菌種での血液の細菌感染を意味する。細菌性敗血症の原因となる薬剤は、非特許文献20により完全に記載されている。
【0036】
敗血症は、患者が以下の症状の少なくとも2つに加えて、ほぼ確実な感染または確認された感染を示す場合に、診断される:
・101F(38.3℃)を超える、または96.8F(36℃)未満の体温
・1分間に90拍より高い心拍数
・1分間に20呼吸より高い呼吸数
重度の敗血症は、患者がまた、臓器が不全であり得ることを示す以下の兆候および症状の少なくとも1つを示す場合に、診断される:
・顕著に減少した尿量
・精神状態の急な変化
・血小板カウントの減少(血小板減少症)
・呼吸困難
・異常な心臓ポンプ機能
・異常な痛み
【0037】
敗血症性ショックは、重度の敗血症の症状に加えて、患者がまた、単純な補液に十分に応答しない非常に低い血圧を示す場合に、診断される。
【0038】
本明細書で、「治療すること」という用語は、重度の敗血症または敗血症性ショックを含む敗血症を治す、治癒させる、予防する、緩和する、軽減する、変える、救済する、改善する、またはその発症を阻害する目的で、血液感染を有するか、または有する疑いがある個体にαVβ3アンタゴニストを投与することを指す。好ましい実施形態では、その用語は、血液感染を有する個体において敗血症の発症を予防することまたは阻害することを意味する。一実施形態では、患者に、治療有効量のαVβ3アンタゴニストを投与する。「治療有効量」という用語は、個体において意図された療法効果を与えるために必要なαVβ3アンタゴニストの量を指し、この量は、アンタゴニストの種類、投与経路、感染または敗血症の状態および他の療法薬または賦形剤の包含の可能性によって変化する。一実施形態では、治療有効量は、100mg/m2未満である。「mg/m2」は、体表面積m2当たりのmgを意味し、体表面積を計算する方法は提供されている(例えば、非特許文献21参照。)。一実施形態では、治療有効量は、50mg/m2未満である。一実施形態では、治療有効量は、10mg/m2未満である。一実施形態では、治療有効量は、5mg/m2未満である。一実施形態では、治療有効量は、1mg/m2未満である。一実施形態では、治療有効量は、0.001から50mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.001から10mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.001から1.0mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.01から10mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.1から10mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.001から1.0mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.01から1mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、0.1から1mg/m2である。一実施形態では、治療有効量は、2から14日間の期間中毎日1回投与される。一実施形態では、本発明の方法および使用は、とりわけ血液の細菌感染を有するか、または有する疑いがある患者に、敗血症の発症を阻害するまたは予防する目的のために適用する。別の実施形態では、本発明の方法および使用は、細菌血液感染のリスクにある患者(すなわち、免疫無防備状態の患者、外傷患者および心臓胸部手術などの大手術を受けた患者)に、血液の細菌感染を予防するまたは阻害する目的のために適用する。一実施形態では、本発明の方法および使用は、とりわけ敗血症を有するか、または有する疑いがある患者に、重度の敗血症または敗血症性ショックの発症を阻害するまたは予防する目的のために適用する。一実施形態では、本発明の方法および使用は、本発明の方法および使用を必要とする患者のためのものである。「本発明の方法および使用を必要とする患者」という用語は、敗血症を有するか、または有するか、もしくは発症する疑いがある人を指す。「敗血症の予防」という用語は、血液感染を有する患者において敗血症の発症を予防することもしくは阻害すること、または敗血症を有する患者において重度の敗血症の発症を予防することもしくは阻害すること、または重度の敗血症を有する患者において敗血症性ショックの発症を予防することもしくは阻害することを意味する。
【0039】
本発明の方法を実施するために、αVβ3アンタゴニストは、経口で、非経口で、吸入スプレイにより、局所的に、直腸で、経鼻的に、口腔内で、膣で、または埋め込まれたリザーバーにより投与することができる。本明細書で使用されるとき、「非経口」という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋内、関節内、動脈内、関節滑液嚢内、胸骨内、くも膜下腔内、病変内、および頭蓋内注射または点滴技術を含む。滅菌注射用組成物、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤(例えばTween80)および懸濁剤を使用して、本分野で公知の技術に従って製剤化することができる。また、滅菌注射用調製物は、非毒性の、非経口で許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液もしくは懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として、であってもよい。用いられ得る許容可能な媒体および溶媒の中で、マンニトール、水、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来法で用いられている(例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリド)。脂肪酸、例えばオレイン酸およびそのグリセリド誘導体は、注射液の調製において有用であり、天然の薬学的に許容される油、例えばオリーブ油またはヒマシ油、とりわけそれらのポリオキシエチル化バージョンもまた同様である。また、これらの油溶液または懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤またはカルボキシメチルセルロースもしくは同様の分散剤を含有することができる。また、他の通常使用される界面活性剤、例えばTweenもしくはSpanもしくは他の同様の乳化剤、または薬学的に許容される固体、液体もしくは他の剤形の製造において通常使用されるバイオアベイラビリティエンハンサーは、製剤化の目的のために使用することができる。
【0040】
経口投与のための組成物は、カプセル剤、錠剤、乳剤ならびに水性懸濁液、分散液および溶液を含むが、これらに限定されない、任意の経口で許容される剤形であってもよい。経口使用のための錠剤の場合、通常使用される担体は、ラクトースおよびトウモロコシデンプンを含む。また、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムが、典型的に添加される。カプセル剤形態の経口投与のために、有用な希釈剤は、ラクトースおよび乾燥したトウモロコシデンプンを含む。水性懸濁液または乳剤が経口投与される場合、活性成分は、乳化剤または懸濁剤と合わせた油相中に懸濁または溶解され得る。所望の場合、ある特定の甘味料、香味剤または着色剤を添加することができる。鼻エアロゾルまたは吸入組成物は、医薬製剤の分野で周知の技術に従って調製することができる。また、縮合多環式化合物を含有する組成物は、直腸投与のために坐剤の形態で投与することができる。医薬組成物中の担体は、製剤の活性成分と適合し(および好ましくは、それを安定化することができ)、かつ治療される対象に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。例えば、縮合多環式化合物とより可溶性の複合体を形成する1つもしくは複数の可溶化剤、またはより多くの可溶化剤は、活性化合物の送達のための医薬担体として利用することができる。他の担体の例として、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびD&C黄色10番が挙げられる。
【0041】
「抗体」は、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化もしくはヒト形態を含むが、これらに限定されない、任意の形態のインタクトなαVβ3結合イムノグロブリンまたはαVβ3に結合する抗体断片を指す。その用語は、本明細書で「Fc断片」または「Fcドメイン」と呼ばれる、Fc(結晶化可能な断片)領域またはFc領域のFcRn結合断片を有するモノクローナルまたはポリクローナルαVβ3結合性断片を含む。一実施形態では、抗体は、それが細菌のタンパク質Aと相互作用できないように、Fc領域を除去または改変されている。かかる抗体の作製方法は記載されている(例えば、非特許文献22、非特許文献23および非特許文献24参照。)。αVβ3結合性断片は、組換えDNA技術により、またはインタクトな抗体の酵素的切断もしくは化学的切断により生成され得る。αVβ3結合性断片は、とりわけ、ポリペプチドへの特異的抗原結合を与えるのに十分なイムノグロブリンの少なくとも一部を含有する、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、dAbおよび相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体ならびにポリペプチドを含む。Fcドメインは、2つまたは3つのクラスの抗体に寄与する2つの重鎖の部分を含む。Fcドメインは、組換えDNA技術により、またはインタクトな抗体の酵素的切断(例えば、パパイン切断)により、もしくは化学的切断により生成され得る。
【0042】
抗体は、IgG、IgM、IgE、IgAまたはIgD分子であってもよい。好ましい実施形態では、抗体分子はIgGであり、より好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプのものである。抗体のクラスおよびサブクラスは、本分野で公知の任意の方法により、例えば、抗体の特定のクラスおよびサブクラスに特異的な抗体を使用することにより決定することができる。αVβ3に特異的な抗体は、市販されており、上記に記載されている。クラスおよびサブクラスは、ELISAおよびウェスタンブロットならびに他の技術により決定することができる。あるいは、クラスおよびサブクラスは、抗体の重鎖および/または軽鎖の定常ドメインの全てまたは一部を配列決定し、それらのアミノ酸配列を様々なクラスおよびサブクラスのイムノグロブリンの公知のアミノ酸配列と比較し、抗体のクラスおよびサブクラスを決定することにより決定することができる。
【0043】
抗体は、主要なクラスの生物医薬である。療法目的のための抗体は多くの場合、ハイブリドーマを含む、細胞株(例えば、CHO細胞、ハムスター株BHK21、ヒトPER.C6細胞株、COS、NIH 3T3、BHK、HEK293、L929、MEL、JEG-3、マウスリンパ系細胞(NS0およびSp2/0-Ag 14を含む))から生成され、通常、特異的抗体の単一のクローンである。療法目的のために使用される抗体は、マウス、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体として分類され、組換え法により生成される。「マウス抗体」は、完全マウス抗体であり、その循環中での短い半減期およびその高い免疫原性のためにヒトにおいて限定された使用しか有しない。「キメラ抗体」は、マウス配列およびヒト配列の両方を含有する遺伝子改変抗体である。その比は、約33%のマウス寄与および67%のヒト寄与である。通常、可変ドメインはマウスであり、Fc断片を含む定常領域はヒトIgGに由来する。
【0044】
「ヒト化抗体」は、マウス含有量が約5~10%に低減されている遺伝子改変抗体である。かかる場合、マウスモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の6つのCDRならびに限定された数の構造的アミノ酸は、CDR枯渇ヒトIgGスキャフォールドに組換え技術によりグラフトされる。完全ヒト抗体またはヒト抗体は、ヒト化マウスにおいて作製され、任意のマウス配列を含有しない抗体をもたらす抗体、またはファージライブラリーもしくはリボソームライブラリーを使用してin vitroで作製された抗体、または代替的にはヒトドナーから得られた抗体をいう。ある特定の実施形態では、また、様々な種由来の部分を含むキメラ、ヒト化もしくは霊長類化(CDRをグラフトした)抗体または完全ヒト抗体は、本発明に包含される。これらの抗体の様々な部分は、従来技術により化学的に共に接合することができるか、または遺伝子工学技術を使用して隣接したタンパク質として調製することができる。例えば、キメラ鎖またはヒト化鎖をコードする核酸を発現させて、隣接したタンパク質を生成することができる。(例えば、Cabillyらの特許文献9、Cabillyらの特許文献10、Bossらの特許文献11、Bossらの特許文献12、Neuberger,M.S.らの特許文献13、Neuberger,M.S.らの特許文献14、Winterの特許文献15およびWinterの特許文献16参照。)また、霊長類化抗体について、例えば、非特許文献25参照。単鎖抗体について、例えば、Ladnerら特許文献17および非特許文献26参照。
【0045】
加えて、本明細書で「抗体調製物」と呼ばれる抗体の混合物は、本発明の方法に従って使用することができる。かかる抗体調製物は、抗体のポリクローナルおよびモノクローナル混合物を含む。ヒト化抗体は、様々な起源のイムノグロブリンの部分を含み得る。例えば、少なくとも1つの部分は、ヒト起源のものであってもよい。例えば、ヒト化抗体は、従来技術(例えば、合成)により化学的に共に接合されるか、または遺伝子工学技術(例えば、キメラ抗体のタンパク質部分をコードするDNAを発現させて、隣接したポリペプチド鎖を生成することができる)を使用して隣接したポリペプチドとして調製される、必要な特異性を有する非ヒト起源、例えばマウスのイムノグロブリンに由来する部分、およびヒト起源のイムノグロブリン配列(例えば、キメライムノグロブリン)に由来する部分を含み得る。あるいは、ヒト化抗体は、ヒト抗体遺伝子を発現するトランスジェニック動物またはヒト化動物で創出され得る(例えば、非特許文献27参照。)。本発明のヒト化抗体の別の例は、非ヒト起源のCDR(例えば、非ヒト起源の抗体に由来する1つまたは複数のCDR)ならびにヒト起源の軽鎖および/または重鎖に由来するフレームワーク領域(例えば、フレームワーク変化を有するか、または有しないCDRをグラフトした抗体)を含む、1つまたは複数のイムノグロブリン鎖を含有するイムノグロブリンである。また、キメラ抗体またはCDRをグラフトした単鎖抗体は、「ヒト化抗体」という用語に包含される。
【0046】
イムノグロブリンを調製する方法、抗原で免疫化する方法ならびにポリクローナルおよびモノクローナル抗体生成方法は、本明細書に記載のように、または他の好適な技術を使用して実施することができる。様々な方法が記載されている(例えば、非特許文献28、非特許文献29、非特許文献30、Koprowskiら、特許文献18、非特許文献31、非特許文献32、非特許文献33参照。)。本発明の方法で使用され得るポリクローナル抗体は、(αVβ3特異的ペプチドまたは組換えタンパク質を免疫原として使用して)免疫化した動物の血清に由来する抗体分子の不均一な集団である。αVβ3に方向付けたモノクローナル抗体の調製のために、好適な不死細胞株(例えば、骨髄腫細胞株、例えば、SP2/0)を抗体生成細胞と融合することにより、ハイブリドーマを生成することができる。抗体生成細胞、好ましくは脾臓またはリンパ節の抗体生成細胞は、目的の抗原(αVβ3特異的ペプチドまたは組換えタンパク質)で免疫化した動物から得られる。ハイブリドーマは、選択的培養条件を使用して単離し、限界希釈によりクローニングすることができる。所望の特異性を有する抗体を生成する細胞は、好適なアッセイ(例えばELISA)により選択することができる。抗体は、ヒトドナーの血漿から精製することができる。これは、イムノグロブリンが多数のドナーからプールした正常な血漿から単離される、IVIgの最近のアプローチである(例えば、非特許文献34および非特許文献35参照。)。例えば、ライブラリーから組換え抗体を選択する方法またはヒト抗体の完全なレパートリーを生成することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)の免疫化に頼る方法を含む、必要な特異性の抗体を生成するまたは単離するための他の好適な方法を使用することができる(例えば、非特許文献36、非特許文献37、Lonbergら特許文献19、Suraniら特許文献20参照。)。
【0047】
抗体は、1つまたは複数の結合部位を有し得る。2つ以上の結合部位がある場合、結合部位は、互いに同一であってもよく、または異なってもよい。例えば、天然イムノグロブリンは2つの同一の結合部位を有し、単鎖抗体またはFab断片は1つの結合部位を有し、一方で、「二重特異性」または「二機能性」抗体は2つの異なる結合部位を有する。ペイロードを内部移行し、送達し、標的細胞を殺滅する個々の抗体の能力は、親和性および抗体により結合される特定の標的エピトープによって大きく変動し得る。所与の標的、この場合、IL1RAPL-1について、ADCコンジュゲーションのために抗体のパネルを開発するべきである(抗体のパネルは、ある範囲の結合親和性およびエピトープにわたる)。「ヒト抗体」という用語は、ヒトイムノグロブリン配列に由来する1つまたは複数の可変領域および定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態では、可変ドメインおよび定常ドメインの全ては、ヒトイムノグロブリン配列(完全ヒト抗体)に由来する。「キメラ抗体」という用語は、1つの抗体からの1つまたは複数の領域および1つまたは複数の他の異なる抗体からの1つもしくは複数の領域を含有する抗体を指す。一実施形態では、CDRの1つまたは複数は、特異的ヒト抗体に由来する。より好ましい実施形態では、CDRの全ては、ヒト抗体に由来する。別の好ましい実施形態では、2つ以上のヒト抗体からのCDRは、キメラ抗体において混合および適合される。例えば、キメラ抗体は、第2のヒト抗体の軽鎖からのCDR2およびCDR3と組み合わせた第1のヒト抗体の軽鎖からのCDR1を含んでもよく、重鎖からのCDRは、第3の抗体に由来してもよい。さらに、フレームワーク領域は、同じ抗体のうちの1つに由来してもよく、1つまたは複数の異なる抗体、例えばヒト抗体に由来してもよく、またはヒト化抗体に由来してもよい(キメラは4頁で列挙していない。標的タンパク質に特異的な抗体および断片を参照されたい)。
【0048】
実験
細胞培養条件
ヒト大動脈内皮細胞由来の初代細胞をPromocell GmbH(Heidelberg Germany)から購入した。細胞を、5%ウシ胎児血清、0.4%内皮細胞増殖栄養補助剤/ウシ視床下部抽出物、ヘパリン(90mg/mL)、ヒドロコルチゾン(1mg/mL)、上皮増殖因子(10ng/mL)および抗生物質(100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン)を補充したPromocell Endothelial Cell Growth Media MVを含有するCell+ T75組織培養フラスコ中でルーチン的に増殖させた。細胞を、5% CO2/95%空気の加湿雰囲気中で37℃にて増殖させた。全ての実験について、継代6から12の間の細胞を使用した。HAoECを、0.4×106で6ウェルプレートに播種し、コンフルエントまで増殖させた。HAoECを、10ダイン/cm2の剪断応力を24時間適用することにより剪断した。剪断後、細胞を6ウェルプレートで実験するか、または回収して、接着アッセイ、増殖および浸透性アッセイのために播種した。
【0049】
細菌培養条件
黄色ブドウ球菌および大腸菌の細菌培養物を、ブレインハートインフュージョン培地中で37℃にて定常期まで増殖させた。ラクチス乳酸菌を、0.5%の最終濃度になるようにグルコースを補充したM17 Agar中で37℃にて定常期まで増殖させた。突然変異株ラクチス乳酸菌+ClfAを、5μg/mlの最終濃度のエリスロマイシンの存在下で増殖させ、ラクチス乳酸菌+ClfA PYを、10μg/mlの最終濃度のクロラムフェニコールの存在下で増殖させた。細菌を回収し、2600×gで7分間遠心分離してPBS pH7.4中に再懸濁することにより洗浄し、600nmでOD1に調整した。蛍光染色を利用する実験については、Tris緩衝生理食塩水(TBS)pH7.4(50mM Tris、150mM NaCl)を、PBSの代わりに使用して、緩衝液中のリン酸基との任意の不適合を避けた。
【0050】
免疫組織化学
カバーガラススリップ(タイプ1、24×24mm 0.17mmの厚さのホウケイ酸ガラス)を、6ウェル組織培養物の底部に取り付け、下部端をPAPペンで密閉した。HAoECを1ウェル当たり600,000個の細胞でウェルに播種し、24時間インキュベートして、カバーガラススリップへの付着を確実にした。ウェル中の培地を置き換え、細胞を10ダイン/cm2の剪断応力に24時間曝露した。剪断後、培地を除去し、カバースリップをウェルから除去し、細胞を37℃のPBSで洗浄した。細胞を、PBS中の3.7%ホルムアルデヒドで氷上にて20分間固定し、PBS中の0.2% triton 100×で室温にて5分間洗浄および透過処理した。液体を除去し、細胞を2mlのPBSで3回洗浄した。細胞を、1ウェル当たり1.5mlのPBS中の5% BSAで室温にて30分間ブロッキングし、PBSで3回洗浄した。モノクローナル抗ZO-1抗体を、400μlの5% BSA中1:100希釈で細胞に添加し、4℃で一晩インキュベートした。細胞を洗浄した後、二次抗体Alexaflour 488、ウサギ抗ヤギを、1mlのBSA中1:1000の濃度で添加し、細胞上で暗所にて室温で1時間インキュベートした。二次抗体染色後、細胞を1mlのPBS中で3回洗浄した。1滴のProLong(登録商標)Diamond Antifade MountantをDAPIと共に顕微鏡スライドガラスに添加し、細胞を有するカバースリップをそれに載せた。プラン・アポクロマート63×/1.40油浸対物レンズ(ZO-1についてEx/Em 488nm/>505nmおよびDAPIについて350/>400nm)を装備した倒立型蛍光顕微鏡(Zeiss AxioObserverZ1)を使用して画像を得た。剪断した細胞との比較のための静止細胞を、同じ様式で一晩の剪断ステップを省いて調製した。
【0051】
結合アッセイ
剪断したHAoECを、100μlの体積中に1ウェル当たり2.5×104個の細胞の密度で96ウェル組織培養プレートのウェルに播種した。実験を、10ng/mlのTNFαの存在下または非存在下で行った。HAoECを、37℃ 5% CO2で4時間インキュベートして、プレート上での付着および細胞と細胞との接触を促進した。4時間のインキュベーション後、培地を除去し、100μlのヒト少血小板血漿(PPP)、4mg/mlフィブリノーゲンまたは1mg/ml IgGを各ウェルに添加し、37℃ 5% CO2で1時間インキュベートした。ウェルをPBSで洗浄し、ウェルを100μlの1%プレウェルで37℃にて1時間ブロッキングした。最後に、ウェルを100μlのTBSで洗浄し、100μlのSYBRグリーンIIで染色した細菌を、1ウェル当たり400のMOIで添加した。細胞を37℃ 5% CO2でさらに1時間インキュベートし、その後、蛍光プレートリーダー(1420 Victor V3、Perkin Elmer、Dublin、Ireland)上で485/535nmにて読み取った。その後、細菌をピペットにより穏やかに除去し、プレートを1ウェル当たり100μlのTBSで洗浄した。その後、プレートを485/535nmで再び読み取った。接着した細菌を、最初の読み取りからの残りのもののパーセントに、添加した細菌数をかけたものとして計算した。血漿の枯渇は、1mlのOD1 ラクチス乳酸菌+ClfAのペレットを1mlのヒトヒルジン化(hirudinised)血漿中に再懸濁することにより行った。これをローター上に37℃で1時間置き、3200×gで5分間遠心分離し、上清を除去した。これでClfAにより結合される血漿タンパク質を欠く血漿を、細菌接着アッセイで使用した。c(RGDfV)での内皮細胞のブロッキングを、TNFαでの4時間のインキュベーション後およびフィブリノーゲンの添加前に追加のステップにより行った。TNFα含有培地を除去し、0.05μM C(RGDfV)を含有する100μlの新しい培地を内皮細胞に添加し、37℃で1時間インキュベートした。この実験を、大腸菌を使用して繰り返した。
【0052】
ドットブロット
野生型黄色ブドウ球菌Newman Wild、突然変異体、ラクチス乳酸菌偽トランスフェクト株および突然変異株の一晩の増殖物を、PBS中にて600nmでOD1に調整し、RIPA緩衝液を使用して溶解した。溶解物のスポットを、ニトロセルロース膜上に置き、室温で乾燥させた。膜を5%w/vスキムミルクタンパク質でブロッキングした。膜を、抗ClfAまたは抗SpA抗体、続いてHRPコンジュゲート二次抗体でプロービングした。二次抗体を、膜への高化学発光溶液の5分間の添加、その後膜をX線撮影カセットに移すことおよび暗室で膜にX線フィルムを曝露することにより検出した。
【0053】
フローサイトメトリー
6ウェルプレート中の剪断したHAoECを、25,000個の内皮細胞当たり1ngのTNFαまたは新鮮な培地に曝露し、37℃で4時間インキュベートした。TNFα含有培地を除去し、1mlの4mg/ml Fgを37℃で1時間培地に入れた。細胞をトリプシン処理により剥離し、ペレット化した。細胞ペレットを、氷冷した(4℃)PBS中で洗浄し、その後、抗αvβ3抗体LM609で15分間プロービングし、洗浄し、535抗マウス二次抗体でプロービングした。細胞をフローサイトメーター(BD FACSCanto(商標)II Flow Cytometer)上で分析した。
【0054】
増殖アッセイ
剪断したHAoECを、10ng/mlのTNFαを含有する1.6mlの培地中で1ウェル当たり150,000個の細胞にて6ウェルプレートに播種した。細胞を37℃で5% CO2にて4時間インキュベートした。培地を1.6mlの新鮮な培地または0.05μMシレンジタイドを含有する培地のいずれかで置き換え、1時間インキュベートした。この後、培地を除去し、1ウェル当たり1mlの4mg/mlフィブリノーゲンを添加し、さらに1時間インキュベートした。培地を除去し、ウェルを、抗生物質を含有しない培地で洗浄した。各ウェルに、黄色ブドウ球菌Newmanまたは黄色ブドウ球菌ΔClfAを400のMOIで含有する、1.6mlの抗生物質を含有しない培地を添加した。細胞を37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、培地を細胞から除去し、それらを温かいPBSで4回洗浄した。細胞をトリプシン処理により6ウェルプレートから剥離し、血球計算器でカウントした。
【0055】
アポトーシスアッセイ
6ウェルプレート中の剪断したHAoECを、25,000個の内皮細胞当たり1ngのTNFαに曝露し、37℃で4時間インキュベートした。TNFα含有培地を除去し、1mlの4mg/ml Fgを37℃で1時間培地に入れた。培地を除去し、2mlの1ウェル当たりの最終体積中に400のMOIになるように、黄色ブドウ球菌Newman WTまたはNewman ΔClfAを含有する、1mlの抗生物質を含有しない培地で置き換えた。細胞を37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、培地を除去し、ウェルを温かいPBSで3回洗浄した。細胞をトリプシン処理により剥離し、ペレット化した。細胞ペレットを氷冷した(4℃)PBS中で洗浄し、その後TACS(商標)Annexin V Apoptosis Kitで染色した。細胞をフローサイトメーター(BD FACSCanto(商標)II Flow Cytometer)で分析した。実験を繰り返して、TNFα曝露と4mg/mlフィブリノーゲンの1時間の添加との間の0.05μMのシレンジタイドによる1時間のαvβ3ブロッキングを試験した。この実験を、黄色ブドウ球菌Newman WTまたはNewman ΔClfAの代わりに、大腸菌および大腸菌ΔompAを使用して繰り返した。
【0056】
浸透性
内皮バリア浸透性を、トランスウェル装置を使用して、わずかな改変を伴って評価した。剪断したHAoECを、トリプシン処理し、吊り下げインサートに播種し、6ウェルプレートに入れた。プレートの下部(反管腔側)チャンバーに、4mlの細胞培地を添加し、200,000個の細胞/mlを含有する2mlの培地を上部(管腔側)チャンバーに添加した。ウェルプレートを37℃で5% CO2および加湿雰囲気中にて一晩インキュベートして、コンフルエントな単層を形成させた。反管腔側チャンバー中の培地を、抗生物質を含有しない培地に変え、一方で同時に管腔側チャンバー中の培地を除去し、抗生物質を含有しない培地で洗浄した。細胞を、2mlの抗生物質を含有しない培地中で黄色ブドウ球菌Newman WTおよび黄色ブドウ球菌ΔClfAに感染させて、細胞を400のMOIで37℃にて3時間感染させた。FITCデキストラン(40kDa)を、2ml中250μg/mlの最終濃度になるように上部チャンバーに添加した。反管腔側チャンバーからの培地試料を感染24時間後に採取し、プレートリーダーで蛍光Ex/Em 485/535nmにて測定した。実験を繰り返して、TNFα曝露と血漿の代わりの4mg/mlフィブリノーゲンの1時間の添加との間の0.05μMのシレンジタイドによる1時間のαVβ3ブロッキングを試験した。この実験を、黄色ブドウ球菌Newman WTまたはNewman ΔClfAの代わりに、大腸菌および大腸菌ΔompAを使用して繰り返した。
【0057】
MTT細胞毒性アッセイ
細胞代謝活性を、MTT((3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイキットを使用して測定した。剪断したHAoECを、透明96ウェルマイクロタイタープレートに、10ng/ml TNFαを含有する培地中に、100μl中2.5×104個の細胞/ウェルの密度で播種した。細胞を37℃で4時間インキュベートした。培地を4時間後にウェルから除去し、100μlの新鮮な細胞培地、媒体を含有する細胞培地または0.05μMシレンジタイドを含有する細胞培地で置き換えた。プレートをさらに1時間インキュベートし、その後、培地を、10μlの12mM MTTストックを含む100μlの新鮮な細胞培地に変え、プレートを37℃で4時間インキュベートした。25μlを除く全ての液体を各ウェルから除去し、1ウェル当たり10μlのDMSOを添加した。プレートを37℃で10分間インキュベートし、その後、プレートリーダーで570nmの吸光度を読み取った。
【配列表】