(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】水の浄化材、及びそれを利用した水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20221011BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20221011BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B01J20/20 D
C02F1/28 E
A01K63/04 A
(21)【出願番号】P 2019114389
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390005278
【氏名又は名称】株式会社杉田製線
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 八州家
(72)【発明者】
【氏名】児玉 重實
(72)【発明者】
【氏名】木村 成夫
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/003120(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/001442(WO,A1)
【文献】特表2013-501146(JP,A)
【文献】特開2006-110470(JP,A)
【文献】特開平09-040514(JP,A)
【文献】特開2008-238131(JP,A)
【文献】特開2012-091076(JP,A)
【文献】特開2005-144420(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104556477(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
C02F1/28
A01K61/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト、水酸化第二鉄、活性炭、酸化チタン、水酸化マグネシウムの混合比が重量比で
6~7:1~2:0.5~1:0.01~0.05:0.01~0.10の組成
よりなる水の浄化材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物の飼育、鑑賞、養殖などに使用される水槽等の水の浄化に関するもので、前記生物の排泄物、またはエサの残渣等により発生するリン(P)、アンモニア(NH3)、亜硝酸(NO2)、硝酸(NO3)などの除去、及び水槽のガラス面へ「藻」や白茶色の付着物の減少を目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
水生生物の飼育水槽においては、水質を維持するため水槽の底に玉石を敷いて水草を植える方法が行われている。この方法では、見た目だけは美しいものの水は浄化されず汚染が進行してしまうという問題があった。そのため、フィルターやこれに活性炭などの吸着剤をと組み合わせた浄化材により、飼育水を循環させながら飼育水中の汚染物を除去するのが一般的である。
【0003】
しかし、従来の吸着剤ではリン、アンモニア、亜硝酸、硝酸等完全に除去することはできないため、アオモなどの発生が避けられず、飼育水槽では定期的に壁面の清掃をする必要があった。
【0004】
アオモなどの藻類の発生を防止するための手段としては、水中に微量の殺菌剤を添加することが有効であるが、食用魚の養殖用の飼育水には不適である。
【0005】
水中の汚染成分を除去する方法としては、特許文献1に多孔質無機部材に酵素を含有させ、この酵素で水に含有されている有機物を分解する方法が開示されている。この方法では、タンパク質を分解する機能を有するタンパク分解酵素と、脂肪を分解する機能を有する脂肪分解酵素と、デンプンを分解する機能を有するデンプン分解酵素と利用しているが、一般に使用される水槽では、このような有機物が含まれている水は使用されておらず、高価なこの方式は殆ど利用されてない。
【0006】
さらに、特許文献2にはゼオライトやアルミノケイ酸マグネシウム、天然ゼオライト、活性炭等を原料とした無機系浄化材を用いてアンモニアや有機物の吸着除去について開示している。これは用途が、活魚貝類の収容水浄化方法で、本発明とは目的が異なっている。すなわち、活魚の場合も本発明品も水の浄化に於いては同じであるが、活魚の場合は運送が主目的で水の浄化を必要とする期間は1~3日でよく、その間も“エサ”を与えないので硝酸、亜硝酸の発生が少ないのである。したがって、この文献には、リン、亜硝酸、硝酸等の吸着除去能について何も述べられていない。
【0007】
水中のリン成分を吸着除去する浄化剤としては、比表面積の大きいオキシ水酸化鉄を中和したもの(特許文献3)、硫酸第一鉄と硫酸第二鉄の混合液を中和して、Fe(OH)m(SO4)n・1H2O (式中、2≦m<3、0<n≦0.5、0≦1<0.5)とするもの(特許文献4)、酸化チタン、ジルコニア、ゼオライト、酸化第二鉄、酸化マンガンを混合し焼結してなる多孔質のセラミック粒体に微生物を含浸させたもの(特許文献5)、第一鉄水溶液に酸化材を第一鉄の当量未満の量で加えた後、アルカリを加えてpH1.5~5.5になるように調整してアニオン吸着性非晶質水酸化第二鉄を得るもの(特許文献6)、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、パーライト、又は多孔質ガラスなどから選ばれた少なくとも、1種の多孔質担体の表面に蒸着或いは、真空蒸着によって光触媒の被膜を形成、担架させるか光触媒になる有機金属化合物の溶液、又は分散液を含浸後に加熱分解して得られたもの(特許文献7)、等が提案されている。
【0008】
これ等の浄化剤は、それまでの吸着剤と比べリンの除去率は向上しているが、アオモなどの藻類は微量の栄養分が存在すれば増殖が行われるので、藻類の発生を完全に防止することはできていない。
【0009】
このように、飼育魚に安全で、且つ藻類の発生を、より長期間に亘り防止できる浄化剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-113561号公報
【文献】特公昭54-20440号公報
【文献】特開2006-124239号公報
【文献】特開2007-001835号公報
【文献】特開2005-144304号公報
【文献】特許第3961558号公報
【文献】特開2006-110470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、水生生物の飼育や観賞の水槽の浄化材の製造を目的とする。即ち、水生生物より排泄するリン、アンモニア、亜硝酸、硝酸等を吸着除去ことによって水を浄化する浄化材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鉄系の凝集材を用いその排水処理を長年研究し各種の有害物の除去を検討してきた。その結果水酸化鉄が「リン」と「アンモニア」を吸着すること、更にゼオライトが「アンモニア」を吸着すること、ゼオライトと水酸化鉄を混合したものが、「亜硝酸」、「硝酸」を吸着すること、酸化チタンが「亜硝酸」を光との反応によって「硝酸」に酸化すること、水生生物に対しては亜硝酸の方が硝酸に比べて毒性が高いこと、マグネシウムは水のpHを安定にする働きがあると共に水槽への緑色の「藻」の生成を防ぎ、かつ白茶色の付着物を減少すること等を知得し、本発明に至ったものである。
【0013】
本発明はこれらの知見に基づくもので、ゼオライト、水酸化第二鉄、活性炭、酸化チタン、水酸化マグネシウムの混合比が重量比で
6~7:1~2:0.5~1:0.01~0.05:0.01~0.10の組成
よりなる水の浄化材である。
【0014】
本発明でゼオライトを重量比6~7としたのは、6以下ではアンモニア、硝酸、亜硝酸などの吸着量が少なく、7以上ではリンの吸着量が減ってしまうために本目的には合わなくなる。
【0015】
水酸化鉄の混合比を1~2としたのは1以下ではリンの吸着量が少なく、2以上ではアンモニア、亜硝酸、硝酸の吸着量が減少するので本発明の目的に合致しない。
【0016】
活性炭は、本発明が目的とするリン、アンモニア、亜硝酸、硝酸の除去には直接関与するものではないが、使用開始時に“にごり”を発生させない効果を有する。重量比で0.5~1としたのは、0.5以下ではで使用時には問題となるにごりがなくならず、水生生物の状況が目視できないため、手間がかかるので好ましくなく、また、1あれば十分機能するのでそれ以上増やすと、費用対効果が悪くなる。
【0017】
本発明で酸化チタンを0.01~0.05としたのは0.01以下では光触媒としての働きが悪くその効果を発揮できない。0.05以上だとゼオライト、水酸化鉄の細孔が目詰まりし、リン、アンモニア、亜硝酸、硝酸の吸着能が低下する。
【0018】
水酸化マグネシウムを0.01~0.10としたのは0.01以下ではpHを安定する能力がなく、pHは生物によって酸性、またはアルカリ性に変化する一方、0.10以上にするとアルカリ性になる可能性が高くなり、場合によっては生物が死滅する。
【0019】
従来、海水の生物(魚)の飼育に使用できる浄化剤は実用化されておらず、イオン交換樹脂が利用されていた。その理由は吸着材の多くが海水中のマグネシウム、ナトリウム、カリウム等のいわゆるミネラルを吸着し組成に変化を与えるためと言われていた。本発明品は前述のようにマグネシウムを含むため、これを防ぎ、長期間に亘り使用することができる。
【0020】
本発明品は前述のようにリン、アンモニア、亜硝酸、硝酸等を吸着するため、水槽のガラス等に付着する緑色の綿状のもの及び白茶色の付着物の付着の防止時間が従来の2倍以上になる。これは水槽の掃除回数が比例的に少なくて済むことになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明品はリン、アンモニア、亜硝酸、硝酸等を吸着除去し、マグネシウムの働きで水質を一定に保つので、水の交換回数が減ると同時に緑の藻と白茶色の付着物の付着が少なくガラスの透明度が保たれ、美しい状態が続く状況になっているという特徴がある。また飼育生物も長く生きている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例による本発明品と従来品とのリン吸着能の比較試験の結果を示すグラフ
【
図2】実施例による本発明品と従来品とのアンモニア吸着能の比較試験の結果を示すグラフ
【
図3】実施例による本発明品と従来品との亜硝酸(NO2)吸着能の比較試験の結果を示すグラフ
【
図4】実施例による本発明品と従来品との硝酸(NO3)吸着能の比較試験の結果を示すグラフ
【
図5】実施例による本発明品と従来品とのpHの比較試験の結果を示すグラフ
【
図6】魚の飼育水槽のガラス面におけるアオモの付着状況を撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
本発明品は、30メッシュ以下に砕いたゼオライト、水酸化第二鉄、活性炭、酸化チタン、水酸化マグネシウムを重量比で6.5:1.5:0.1:0.01:0.08の割合で混合し、2~3mmφの粒体に造粒したものを用いた。造粒のためのバインダーとしてはPVAを用いた。造粒手段に制限はなく如何なる手段で造粒しても構わない。
対照となる浄化剤としては、市販の浄化材の主成分である水酸化鉄(以下「従来品」という。)を使用した。
【0024】
縦17cm、横30cm、高さ24cm長方形の水槽に10Lの水とネオンテトラ10匹と水草を入れ本発明品と従来品のものとを使用した場合の、それぞれのリン酸、アンモニア、亜硝酸、硝酸の水中濃度及びpHを比較してグラフに示した。
測定は一回/日の頻度で、適量の水槽水をスポイトで採取して行った。使用した測定機器は以下のとおりである。
リン酸: 測定装置:デジタルパックテスト DPM2-PO4(共立理化学研究所製)
アンモニア:測定装置:デジタルパックテスト DPM2-NH4(共立理化学研究所製)
亜硝酸: 測定装置:デジタルパックテスト DPM2-NO2(共立理化学研究所製)
硝酸: 測定装置:デジタルパックテスト DPM2-NO3(共立理化学研究所製)
pH:ポータブルpH計 WM-32P(トーアDKK製)
本発明品は、リン酸、アンモニウムは50日目までは水中に検出されないのに対し、従来品は、リン酸が0.03~0.04mg/L、アンモニウムが0.3mg/Lの濃度になっている、これは本発明品が従来品に比べて大変優れており、水質の安定が大であることを示している。
本発明品は亜硝酸でも従来品に比べて水中の含有量が1/2なっているが(20日目以降)これはTiO2、マグネシウム等の働きによるもので従来品との差が機能的にも明確になっている。即ちこの種の亜硝酸の発生、消去はバクテリアが作用していると考えられていたが、この結果を見ると「光触媒」による働きやマグネシウムとの反応によると考えられる。特に20日目以降の減少は説明できなくなる(バクテリア説では)。硝酸の比較結果でも同様である。
pH(ペーハー)の結果は以上の結果をまとめたもので、本発明品は従来品より硝酸をはじめとして、すべての酸の発生が少なく、その上マグネシウム等によりアルカリが寄与できるのでpHの変化が生じない、
【0025】
また
図2の写真で明らかなように水槽のガラスの青い汚れが少なく、従来品が15日目から30日目で緑色の苔状の藻が生え始めるのに対し、本発明品は50日以上経過しても発生しない。
【0026】
以上の
図1での結果で、従来品は水質の悪化による水交換が15日~20日であり、
図2では水槽の苔状の藻の発生が30日目位である従来品に比べ本発明品の水槽は苔状の藻の発生は50日以上である。これらの結果を総合すると、本発明品の水槽の水交換は従来品の1/2以下の回数で済むことがわかる。
本実施の他に、金魚、グッピー等で行ったがほゞ同じ結果が得られた。