(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】蒸発装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/22 20060101AFI20221011BHJP
B01D 5/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B01D1/22 A
B01D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2019527652
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024359
(87)【国際公開番号】W WO2019009155
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017130282
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】山路 寛司
(72)【発明者】
【氏名】西村 午良
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-235522(JP,A)
【文献】特開2016-209779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00- 1/08
B01D 1/00- 8/00
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液が供給されかつ揮発成分出口を備える、撹拌槽と、
該撹拌槽内に設けられておりかつ該撹拌槽内の発熱部分に原料液を流下する、散液部とを備える、蒸発装置であって、
(a)該撹拌槽が、該撹拌槽の底部と該内壁とで囲まれておりかつ該流下した原料液を一時的に貯留する、少なくとも1つの貯留部を備え、
(b)該散液部が、
回転軸;
一方の端部を含む受液部が該貯留部内に一時的に貯留した該原料液に挿入されるように配置されており、かつ該回転軸の回転に伴って該貯留部に一時的に貯留された該原料液を、該受液部を通じて該撹拌槽の下方から上方に向かって流動する開放流路を備える、少なくとも1つのチャネル部材;および
該回転軸と該チャネル部材とを連結する、取付具;
から構成されており、
(c)該開放流路が、該チャネル部材内で、該回転軸の回転方向側に位置する第1のエッジ部と該回転軸の回転方向と反対側に位置する第2のエッジ部との間に設けられており、そして
(d)該第1のエッジ部が該開放流路の軸方向に沿って延びる隆起構造を備え
、かつ該隆起構造が、該第1のエッジ部内の開放流路側にのみ突出している、蒸発装置。
【請求項2】
前記隆起構造が、角柱状の形
態または前記チャネル部材を構成する材料の折り返しにより構成されている、請求項
1に記載の蒸発装置。
【請求項3】
前記撹拌槽の前記発熱部分が該撹拌槽の内壁であり、そして該内壁が該撹拌槽の外周に設けられたジャケットにより加熱される、請求項1
または2に記載の蒸発装置。
【請求項4】
原料液を含む原料タンクと、
該原料タンクから供給される該原料液を処理する請求項1から
3のいずれかに記載の蒸発装置と、
該蒸発装置の揮発成分出口から排出される揮発成分を凝縮するコンデンサーと、
を備える、蒸発システム。
【請求項5】
撹拌槽内の貯留部に一時的に貯留された原料液を、回転により撹拌槽の下方から上方に向かって流動させ、かつ該上方から散液することにより、該原料液を該撹拌槽内の発熱部分に流下して蒸発させる、蒸発装置内に設けられる散液部であって、
回転軸;
一方の端部を含む受液部が該貯留部内に一時的に貯留した該原料液に挿入されるように配置されており、かつ該回転軸の回転に伴って該貯留部に一時的に貯留された該原料液を、該受液部を通じて該撹拌槽の下方から上方に向かって流動する開放流路を備える、少なくとも1つのチャネル部材;および
該回転軸と該チャネル部材とを連結する、取付具;
から構成されており、
該開放流路が、該チャネル部材内で、該回転軸の回転方向側に位置する第1のエッジ部と該回転軸の回転方向と反対側に位置する第2のエッジ部との間に設けられており、そして
該第1のエッジ部が該開放流路の軸方向に沿って延びる隆起構造を備え
、かつ該隆起構造が、該第1のエッジ部内の開放流路側にのみ突出している、散液部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発装置に関し、より詳細には液体から効率的に溶媒回収や濃縮を行うことのできる蒸発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品工業や化学工業の分野において、夾雑物や不純物を含む液体からの溶媒の回収または濃縮のために、「流下薄膜蒸発装置」と呼ばれる蒸発装置が使用されている。
【0003】
図7は、従来の流下薄膜蒸発装置を備える蒸発システムを模式的に表す図である。
【0004】
蒸発システム900は、原料となる原料液を含む原料タンク910と、流下薄膜蒸発装置800と真空ポンプ920とコンデンサー930とを備える。原料液は原料タンク910からポンプ902の駆動により管904を通って予熱器906で一旦予熱され、蒸発装置800に送給される。
【0005】
図8は、
図7に示す蒸発システムを構成する蒸発装置800の断面の一部を模式的に表した図である。
【0006】
図8に示すように蒸発装置800は、撹拌槽810と、該撹拌槽810内で鉛直方向に延びかつ水平方向に回転可能な第1の回転軸820と、撹拌槽810内の上方および下方においてそれぞれ第1の回転軸820から水平方向に延びる複数の支柱822と、当該支柱822から下方に延び、かつ撹拌槽810の内壁と接触するように設けられたローラー826とを備える。第1の回転軸820の外周は第2の回転軸821で覆われており、第1の回転軸820および第2の回転軸821は駆動モーター部840とそれぞれ独立して回転自在に接続されている。また、従来の他の蒸発装置では、上記第1の回転軸820および第2の回転軸821が一体的に構成され同じ回転数で回転するものも多い。
【0007】
原料タンクから送給された原料液834は、第2の回転軸821から水平方向に延びる供給口832を通じ、駆動モーター部840の駆動により回転しながら撹拌槽810の内壁上方に供給される。その後、原料液834は当該撹拌槽810の内壁に沿って下方に濡れ面を形成しながら流下する。一方、撹拌槽810の外周は、例えばスチームにより加熱可能なジャケット812で覆われており、ジャケット812を通じた加熱により、流下の間に当該原料液に含まれる揮発成分が蒸発する。蒸発した揮発成分は蒸発出口860を通じて蒸発装置800の外に設けられたコンデンサー930(
図7)に送給され、当該コンデンサー930において冷却後、蒸留液として回収される。一方、
図8において、原料液に含まれる上記揮発成分以外の成分は、撹拌槽810の内壁をそのまま流下し、撹拌槽810の底部に設けられた排出口880を通じて蒸発装置800の外部に排出される。
【0008】
このような撹拌槽810内での原料液の流下において、支柱822に設けられたローラー826は、駆動モーター部840の駆動により撹拌槽810の内壁を接触しながら周回する。
【0009】
図9は、
図8に示す従来の蒸発装置800におけるA-A方向の断面を模式的に
表した図である。蒸発装置800では、ジャケット812により加熱された撹拌槽810の内壁にローラー826が接触かつ周回することによって当該内壁の伝熱面に存在する原料液を強制的に表面更新し、蒸発効率を高めることができる。
図9では、ローラー826が設けられているが、従来の蒸発装置では、ローラー826の代わりにワイパーが設けられていてもよい。
【0010】
しかし、このような蒸発装置には、いくつかの懸念すべき事項が指摘されている。
【0011】
1つは、供給された原料液は、撹拌槽内の内壁(伝熱面)をいわゆる「ワンパス」による1回の流下で通過する点である。原料液に大量の揮発成分が含まれている場合や、内壁を流下するまでの間に充分に揮発成分が蒸発し得ない場合も、残存する成分はそのまま排出口980から排出されることが考えられる。このため、充分な濃縮が求められる原料液には使用することが困難とされていた。
【0012】
また、
図8に示すようなローラーまたはワイパーは、常に伝熱面に接触しているために摩耗が生じ易い点である。このため、定期的な交換が必要となり、メンテナンスのための作業時間、労力およびコストが増大することが指摘されていた。
【0013】
さらに、当該蒸発装置を停止する場合、内壁の温度が液温よりも高いため、原料液の供給をそのまま停止すると、内壁と接触するローラーまたはワイパーが高熱により変形または劣化する点である。このため、当該蒸発装置の停止において、内壁の温度が低下するまで、原料液の供給を継続することが必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、原料液から揮発成分をより効率的に蒸発させることができ、メンテナンスおよび修理の煩雑さから解放され得る蒸発装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、原料液が供給されかつ揮発成分出口を備える、撹拌槽と、
該撹拌槽内に設けられておりかつ該撹拌槽内の発熱部分に原料液を流下する、散液部とを備える、蒸発装置であって、
(a)該撹拌槽が、該撹拌槽の底部と該内壁とで囲まれておりかつ該流下した原料液を一時的に貯留する、少なくとも1つの貯留部を備え、
(b)該散液部が、
回転軸;
一方の端部を含む受液部が該貯留部内に一時的に貯留した該原料液に挿入されるように配置されており、かつ該回転軸の回転に伴って該貯留部に一時的に貯留された該原料液を、該受液部を通じて該撹拌槽の下方から上方に向かって流動する開放流路を備える、少なくとも1つのチャネル部材;および
該回転軸と該チャネル部材とを連結する、取付具;
から構成されており、
(c)該開放流路が、該チャネル部材内で、該回転軸の回転方向側に位置する第1のエッジ部と該回転軸の回転方向と反対側に位置する第2のエッジ部との間に設けられており、そして
(d)該第1のエッジ部が該開放流路の軸方向に沿って延びる隆起構造を備える、蒸発装置である。
【0016】
1つの実施形態では、上記隆起構造は、上記第1のエッジ部内の少なくとも上記開放流路側に突出している。
【0017】
さらなる実施形態では、上記隆起構造は、角柱状の形態、円柱状の形態、楕円柱の形態、または前記チャネル部材を構成する材料の折り返しにより構成されている。
【0018】
1つの実施形態では、上記撹拌槽の上記発熱部分は該撹拌槽の内壁であり、そして該内壁が該撹拌槽の外周に設けられたジャケットにより加熱される。
【0019】
本発明はまた、原料液を含む原料タンクと、
該原料タンクから供給される該原料液を処理する上記蒸発装置と、
該蒸発装置の揮発成分出口から排出される揮発成分を凝縮するコンデンサーと、
を備える、蒸発システムである。
【0020】
本発明はまた、撹拌槽内の貯留部に一時的に貯留された原料液を、回転により撹拌槽の下方から上方に向かって流動させ、かつ該上方から散液することにより、該原料液を該撹拌槽内の発熱部分に流下して蒸発させる、蒸発装置内に設けられる散液部であって、
回転軸;
一方の端部を含む受液部が該貯留部内に一時的に貯留した該原料液に挿入されるように配置されており、かつ該回転軸の回転に伴って該貯留部に一時的に貯留された該原料液を、該受液部を通じて該撹拌槽の下方から上方に向かって流動する開放流路を備える、少なくとも1つのチャネル部材;および
該回転軸と該チャネル部材とを連結する、取付具;
から構成されており、
該開放流路が、該チャネル部材内で、該回転軸の回転方向側に位置する第1のエッジ部と該回転軸の回転方向と反対側に位置する第2のエッジ部との間に設けられており、そして
該第1のエッジ部が該開放流路の軸方向に沿って延びる隆起構造を備える、散液部である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ローラーやワイパーなどの部材を用いることなく、原料液から揮発成分を効率良く蒸発することができる。特に、本発明では、チャネル部材の途中から原料液がこぼれ出る可能性を低減させることができる。これにより、散液部の回転数を必ずしも大きく設定することなく、撹拌槽内の発熱部分により多くの原料液を流下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の蒸発装置の一例を示す概略端面図である。
【
図2】本発明の蒸発装置を構成する散液部に使用され得るチャネル部材の一例を模式的に表す図であって、取付具に取り付けられた当該チャネル部材の斜視図である。
【
図3】
図2に示す取付具に取り付けられたチャネル部材の底面図である。
【
図4】本発明の蒸発装置を構成する散液部に使用され得るチャネル部材の第1のエッジ部に設けられた隆起構造の例を説明する図であって、チャネル部材における開放流路の軸方向と直交するチャネル部材の断面を表した図である。
【
図5】本発明の蒸発装置における撹拌槽と散液部との配置の一例を模式的に表す当該蒸発装置の一部を切り欠いた模式図である。
【
図6】
図1に示す本発明の蒸発装置を用いた蒸発システムの構成を模式的に表す図である。
【
図7】従来の流下薄膜蒸発装置を備える蒸発システムを模式的に表す図である。
【
図8】
図7に示す蒸発システムを構成する蒸発装置800の断面の一部を模式的に表した図である。
【
図9】
図8に示す従来の蒸発装置におけるA-A方向の断面を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の蒸発装置を、添付の図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の蒸発装置の一例を示す概略端面図である。
図1の蒸発装置100は、原料液の供給が行われる撹拌槽110と、撹拌槽110の内壁111を加熱するジャケット112と、撹拌槽110内に設けられており、かつ撹拌槽110の内壁111に原料液を流下する散液部120とを備える。
【0025】
撹拌槽110は、揮発成分出口113を備える密閉可能な槽であり、水溶液、スラリーなどの液体を収容して撹拌することができる槽である。
図1において、揮発成分出口113は撹拌槽110の上方に設けられており、後述する原料液の構成成分が蒸発して生じた揮発成分を、当該出口113を通じて外部に排出し得る。
【0026】
撹拌槽110の大きさ(容量)は、蒸発装置100の用途(供される原料液の種類)や、原料液の処理量などによって適宜設定され得るため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~100,000リットルである。撹拌槽110を構成する材質は特に限定されないが、例えば、種々の原料液に対して安定であり、熱伝導性に優れ、かつ入手および加工が容易であるとの理由から、鉄、ステンレススチール、チタン、ハステロイまたは銅のような金属で構成されていることが好ましい。撹拌槽110の内壁は、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0027】
撹拌槽110には、内壁111を加熱するためのジャケット112が設けられている。ジャケット112は、例えば、撹拌槽の110の底部から内壁111の側面外周までを覆うように配置されている。あるいは、ジャケット112は、内壁111に沿って撹拌槽110の側面の外周全体を覆うものであってもよい。ジャケット112の形状およびその種類は、内壁111に付与した原料液を蒸発させる温度にまで内壁111を加熱し得るものである限り、特に限定されない。ジャケット112には、例えば、蒸気や熱媒を導入することができるように設計されたものが挙げられる。このようなジャケットは、さらにケーブル状ヒーターのような熱源が組み合わせて使用されてもよい。
【0028】
図1に示す蒸発装置100において、撹拌槽110はまた、内壁111から流下した原料液を一時的に貯留するための貯留部117を備える。本発明において、貯留部は、撹拌槽の底部と内壁とが囲まれて形成され得る領域から構成される。貯留部117の下方(すなわち、撹拌槽110の底部)には図示しない濃縮液出口が設けられていてもよい。貯留部117内に貯留した液(原料液の蒸発後に残存する濃縮液)は、この濃縮液出口を通じて外部に濃縮液を排出することができる。
【0029】
図1に示す蒸発装置100において、撹拌槽110の上部はまた、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。
【0030】
撹拌槽110の内部には、貯留部117に収容された原料液を撹拌槽110の内壁111に散液するための散液部120が設けられている。散液部120は、回転軸121と、取付具122と、当該取付具122を介して当該回転軸121に取付られたチャネル部材123とから構成されている。散液部120は、回転軸121の回転により、貯留部117に収容された原料液を、チャネル部材123の長さ方向に沿って設けられた開放流路126を通じて撹拌槽110の下方から上方に向かって流動させ、このようにして貯留部117から汲み上げられた原料液を、撹拌槽110の内壁111に向かって散液することができる。その結果、散液された原料液が加熱された内壁110を再び流下して、内壁110上に濡れ面を形成し、その際に揮発成分の蒸発を促すことができる。
【0031】
回転軸121は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの剛性を有する金属で構成されたシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、撹拌槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する撹拌槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0032】
回転軸121の一端は、撹拌槽110の上部でモーター140などの回転手段に接続されている。
図1において、回転軸121の他端は、撹拌槽110の底部に接続されておらず、撹拌槽110の底部から一定の間隔を開けた位置に配置されている。
【0033】
図1に示す蒸発装置100では、散液部120を構成する回転軸121の軸周りには、2つのチャネル部材123が回転軸121を介して対称的に配置されている。2つのチャネル部材123は、回転軸121に対して垂直な方向に指向した取付具122によって、回転軸121と固定されている。また、
図1において、取付具122には、回転軸121を中心にして2つのチャネル部材123が所定の角度(取付傾斜角ともいう)θ
1で傾斜するように取付けられている。ここで、本明細書における「取付傾斜角θ
1」とは、回転軸121の軸方向に平行な直線とチャネル部材123の軸方向に平行な直線とが交差して形成される角度のうち、鋭角なものを言う。本発明においては、チャネル部材123は、取付具122に対し、チャネル部材123の両方の端部のうち、上方の端部が下方の端部よりも内壁111に近くなる方向に傾斜して取り付けられる。取付傾斜角θ
1は、例えば、1.5°~60°である。さらに、チャネル部材123は、撹拌槽110内において、その一方の端部(すなわち、下方の端部)が該貯留部117内に挿入された位置に配置されている。
【0034】
図1において、2つのチャネル部材123は、その下端から上端にかけて略直線状に延びる形状(V文状)に記載されているが、本発明はこのような形状のみに限定されない。例えば、2つのチャネル部材は、それぞれ下端から上端にかけて緩やかな曲線を描くような撓んだ形状(例えば、対向する2つのチャネル部材が一緒になって逆放物線の一部を構成するような形状)を有していてもよい。
【0035】
本発明の蒸発装置において、回転軸には例えば、複数の(すなわち、1つまたはそれ以上)、好ましくは2つ~8つ、より好ましくは2つ~6つのチャネル部材が装着されて得る。本発明において、これらのチャネル部材は、それぞれ回転軸の周りに略均等な角度で装着されていることが好ましい。
【0036】
図2は、本発明の蒸発装置を構成する散液部に使用され得るチャネル部材の一例を模式的に表す図である。
【0037】
図2に示すように、チャネル部材123は樋状の形態を有するように構成されている。チャネル部材123は、一方の端部(下端)を含むように受液部124が構成されており、受液部124の当該端部(下端)が貯留部内に一時的に貯留した該原料液内に挿入される位置ように配置される。チャネル部材123はまた、回転軸の回転方向側に位置する第1のエッジ部125と回転軸の回転方向と反対側に位置する第2のエッジ部127との間に開放流路126を備える。開放流路126は、回転軸の回転に伴って貯留部に一時的に貯留された原料液を、チャネル部材123の受液部124を通じて撹拌槽の下方から上方に向かって流動することができる。
【0038】
図3は、
図2に示す取付具に取り付けられた当該チャネル部材の底面図である。
【0039】
本発明の蒸発装置では、矢印で示した方向に回転軸が回転することによって、チャネル部材123の底部(すなわち、受液部124)の第1のエッジ部125側から原料液が掬い上げられる。さらに、本発明においては、第1のエッジ部125には隆起構造129が設けられている。
【0040】
ここで
図2および
図3を参照すると、隆起構造129は、開放流路126の軸方向に沿って延びている。さらに本発明の1つの実施形態では、隆起構造129は第1のエッジ部125内の少なくとも開放流路126側に突出している。
【0041】
図4は、本発明の蒸発装置を構成する散液部に使用され得るチャネル部材の第1のエッジ部に設けられた隆起構造の例を説明する図であって、チャネル部材における開放流路の軸方向と直交するチャネル部材の断面を表した図である。
【0042】
本発明において、隆起構造は、角柱状の形態、円柱状の形態、楕円柱の形態、前記チャネル部材を構成する材料の折り返し、またはその他の流線形の形態により構成されている。例えば、隆起構造は、
図4の(a)に示すように、第1のエッジ部125から開放流路126に向かって上昇および下降の各傾斜を有する形態129aを有していてもよい。あるいは、隆起構造は、
図4の(b)に示すように、第1のエッジ部125において円柱が取り付けられた形態129bを有していてもよい。あるいは、隆起構造は、
図4の(c)に示すように、第1のエッジ部125から開放流路126に向かって上昇する傾斜を有しかつ最頂部を超えた後は傾斜がなく切り落とされた形態129cを有していてもよい。あるいは、隆起構造は、
図4の(d)に示すように、第1のエッジ部125においてチャネル部材を格子柄する材料を折り返した(開放流路126側に折り返した)形態129dを有していてもよい。あるいは、隆起構造は、
図4の(e)に示すように、第1のエッジ部125において楕円柱が取り付けられた形態129eを有していてもよい。あるいは、隆起構造は、上記
図4(a)~(e)に示す形態に代えて、その他の流線形の形態として、船舶の舟首に採用され得る球状舟首(バルバス・バウ)状の形態、または高速旅客鉄道の先頭車ノーズに最小され得るエアロ・ダブルウイング状の形態を有していてもよい。
【0043】
本発明において、上記隆起構造の大きさは特に限定されず、採用するチャネル部材および/または撹拌槽の大きさ、モーターの出力等に応じて、当業者が任意の大きさを設定することができる。
【0044】
図5は、本発明の蒸発装置における撹拌槽と散液部との配置の一例を模式的に表す当該蒸発装置の一部を切り欠いた模式図である。
【0045】
図5に示す本発明の蒸発装置100では、散液部123の回転軸121が実線で示した矢印の方向に回転することにより、取付具122を介して設けられているチャネル部材123が撹拌槽110内で当該回転軸121を中心として回転する。撹拌槽110の貯留部117内に一時的に貯留された原料液137は、回転するチャネル部材123の受液部124から、第1のエッジ部125に設けられた隆起構造129を乗り越えて掬い上げられる。その後、チャネル部材123に掬い上げられた原料液は、当該チャネル部材123の回転に伴って開放流路126内を下方から上方に向かって流動する。この際、開放流路126を流動する原料液は上方に向かうに従って、遠心力によって開放流路126内で第1のエッジ部125付近まで広がるが、第1のエッジ部125に設けられた隆起構造129により、原料液は第1のエッジ部125の外に毀れ出ることなく、開放流路126内を上方に向かって移動する。最終的に、チャネル部材123の上方端部132まで流動した原料液は、当該上方端部132から撹拌槽110の内壁111に向かって散液される。
【0046】
散液された原料液は、ジャケット112によって加熱された内壁111に沿って流下する。流下の際に原料液に含まれる揮発成分の少なくとも一部が蒸発し、残りはそのまま内壁111を流下して撹拌槽110の貯留部117内に再び貯留される。
【0047】
上記のような構造を有するチャネル部材123を備える散液部120は、例えば
図1に示すような蒸発装置100だけでなく、様々なタイプの蒸発装置に取り付けて使用することができる。すなわち、当該蒸発装置は、撹拌槽内の貯留部に一時的に貯留された原料液を、回転により撹拌槽の下方から上方に向かって流動させ、かつ該上方から散液することにより、該原料液を該撹拌槽内の発熱部分に流下して蒸発させることができる装置であればいずれのものをも包含する。ここで、本明細書中に用いられる用語「発熱部分」には、例えば、
図1のジャケット112によって加熱される撹拌槽110の内壁111;ならびに国際公開公報第2017/043368号公報に記載されるような、撹拌槽の内部にて撹拌槽の上方から散液された原料液が直接接触するように設けられた熱源およびコイルヒーター;が包含される。
【0048】
再び
図1を参照すると、本発明の蒸発装置100においては、貯留部117を構成する底部および/または内壁111の一部に、バッフル板、短軸のピンなどのバリア部材(図示せず)が設けられていてもよい。貯留部117に一時的に貯留された原料液は、回転軸121の回転を通じたチャネル部材123による汲み上げの際に、当該回転軸121の回転方向と順方向に貯留部117内で渦流を生じることがある。原料液の渦流は、チャネル部材123による原料液の汲み上げの効率を低下させることが懸念され得る。バリア部材は、貯留部117内の原料液と接触し、このような渦流の発生を抑制または防止する役割を果たす。バリア部材の形状および材質は当業者によって任意に選択され、そしてバリア部材は、貯留部117を構成する内壁111の一部および/または貯留部117の内側底面のうち、チャネル部材123の移動を妨げない位置に取り付けられ得る。
【0049】
さらに、
図1に示す撹拌槽110内の上方において、回転軸121の周囲には第2回転軸121’が設けられている。さらに当該第2回転軸121’には、原料液供給口131を備えた供給パイプ130が取り付けられており、撹拌槽110の外部に取り付けられた原料タンク(図示せず)から供給された原料液を、第2回転軸121’の回転を通じて、撹拌槽110の内壁111に供給し、原料液を内壁111に沿って流下させて濡れ面を形成することができる。なお、
図1に示す蒸発装置100において、回転軸121と第2回転軸121’は例えば、互いに独立しており、回転軸121および第2回転軸121’がそれぞれ異なる回転速度で撹拌槽110内を回転していてもよく、あるいは回転軸121と第2回転軸121’とは連結されており、同様の回転速度で回転するものであってもよい。
【0050】
本発明の蒸発装置100において、撹拌槽110内の液体を汲み上げるために好適な回転軸121の回転数(すなわち、散液部120の回転数)は、液体の粘性、撹拌槽110の大きさ、撹拌槽110内の液体の残量などによって異なるため、必ずしも限定されないが、例えば、30rpm~500rpmmである。
【0051】
図1に示す蒸発装置100において、原料液供給口131から供給された原料液は、撹拌槽110の内壁111を流下し、その際に、ジャケット112によって内壁111に加えられた熱によって揮発成分が蒸発し、揮発成分出口113から排出される。一方、原料液のうち揮発しなかった成分はそのまま内壁111を流下し、貯留部117内に収容される。
【0052】
さらに、本発明においては、散液部120がモーター140などの回転手段によって回転し、回転による遠心力を利用して撹拌槽110の貯留部117内に収容された原料液をチャネル部材123の下端から汲み上げ、当該チャネル部材123の開放流路126を介して、当該チャネル部材123の上端側から撹拌槽110の内壁111に向かって原料液が散液される。散液された原料液は、撹拌槽110の内壁111に衝突し、内壁111を再び流下する。その際、ジャケット112によって内壁111に加えられた熱によって、散液された原料液の揮発成分は蒸発し、上記揮発成分出口113に移動する。一方、内壁111を流下する多くの原料液は再び貯留部117内に収容される。
【0053】
このように、本発明においては、内壁111を流下する際の揮発成分の蒸発と、残りの成分の貯留部117への収容、散液部120による貯留部117から内壁111への原料液の移動、および散液部120から内壁111への原料液の流下を順次行うことにより、これらの部材の間で原料液が循環し、循環中の揮発成分の蒸発によって原料液が徐々に濃縮される。
【0054】
ここで、本発明の蒸発装置100では、チャネル部材123の少ない回転に伴って原料液に含まれる揮発成分の蒸発を行うことができる。また、この一連の操作において、チャネル部材123に掬い上げられた原料液は、チャネル部材123の開放流路126を下方から上方に流動する際、例えば、
図2に示される隆起構造129によって開放流路126の外に毀れ出ることが防止される。このことから、原料液を撹拌槽110の貯留部117から内壁111に向かって流動させる際のロスが低減し、結果としてモーターの出力を高めることなく、原料液の蒸発効率を向上させることができる。
【0055】
本発明の蒸発装置によれば、運転を停止する場合、撹拌槽内に原料液が収容されている限り、原料液の循環を行うことができ、内壁の温度がある程度低下するまで当該循環を行うことにより、撹拌槽の内壁における焼き付きを回避することができる。この点で、撹拌槽内の内壁を「ワンパス」による1回の流下で通過させる従来の蒸発装置と比較して、撹拌槽の冷却の際の所望でない原料液の使用量を低減することができる。
【0056】
上記
図1に示したような蒸発装置100は薄膜蒸発装置とも呼ばれ、従来の蒸発システムにおける蒸発装置の代わりに組み入れて使用することができる。
【0057】
図6は、
図1に示す本発明の蒸発装置を用いた蒸発システムの構成を模式的に表す図である。
【0058】
本発明の蒸発システム300は、原料となる原料液を含む原料タンク910と、本発明の蒸発装置(例えば、
図1に示すような蒸発装置100)と真空ポンプ920とコンデンサー930とを備える。
【0059】
原料液は、ポンプ920の駆動により、原料タンク910から管904を通って予熱器906で一旦予熱され、蒸発装置100に送給される。蒸留装置100は、管905に別途スチーム(STM)を通過させたジャケットにより加熱される。蒸発装置100にて蒸発した揮発成分は、蒸発装置100の揮発成分出口から管907を通ってコンデンサー930に供給される。次いで、揮発成分はコンデンサー930にて冷却後、液化される。一方、蒸発装置100内の濃縮液は、管908を通じて外部に排出される。
【0060】
本発明の蒸発装置は、例えば、不純物を含有する液体たとえばメチルエステル、乳酸、魚油、油脂、グリセリン、などの精製および濃縮;インク、塗料、化学品などの化学製品に含まれる水、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、アセトン、エチレングリコールなどの除去;塗料および樹脂製造分野に使用するモノマーおよびポリマーなどから揮発性の不純物の除去;において有用である。
【符号の説明】
【0061】
100 蒸発装置
110 撹拌槽
111 内壁
112 ジャケット
113 揮発成分出口
117 貯留部
120 散液部
121 回転軸
122 取付具
123 チャネル部材
124 受液部
125 第1のエッジ部
126 開放流路
127 第2のエッジ部
129 隆起構造
130 供給パイプ
131 原料液供給口
137 原料液
140 モーター
300 蒸発システム
910 原料タンク
920 真空ポンプ
930 コンデンサー