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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】混練調整方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/28 20060101AFI20221011BHJP
   B29B 7/18 20060101ALI20221011BHJP
   B01F 27/703 20220101ALI20221011BHJP
   B01F 35/33 20220101ALI20221011BHJP
   B01F 35/222 20220101ALI20221011BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/18
B01F27/703
B01F35/33
B01F35/222
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022057747
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390040039
【氏名又は名称】鈴鹿エンヂニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】矢田 龍生
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-016834(JP,A)
【文献】国際公開第2021/033390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00- 7/84
B01F 27/00-27/96
B01F 35/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のギアで連結されて異なる速度で回転する一対の接線式ロータを備える混練機における混練調整方法であって、
前記混練調整方法は、前記ギアの歯数を、複数の歯数の組合せの中から、互いに素ではない異なる整数の歯数の組合せに設定し、その上で、前記ギアの複数の噛み合いパターンの中から特定の噛み合いパターンを選択して、前記特定の噛み合いパターンで前記ギアを噛み合わせることにより、前記接線式ロータの初期位相を設定する方法であり、
前記特定の噛み合いパターンは、前記複数の噛み合いパターンで前記ギアを噛み合わせた状態からそれぞれ導かれる前記接線式ロータの回転位相パターンに基づいて選択することを特徴とする混練調整方法。
【請求項2】
前記接線式ロータは、それぞれ複数のブレードを備えていることを特徴とする請求項1記載の混練調整方法。
【請求項3】
前記回転位相パターンから求められる前記接線式ロータのブレード間の最接近距離に基づいて、前記特定の噛み合いパターンを選択することを特徴とする請求項2記載の混練調整方法。
【請求項4】
前記ギアにおいて、歯数が多い方のギアの歯数は、他方のギアの歯数に対して10%~50%多いことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の混練調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム、プラスチック、セラミックスなどの混練材料を、密閉型混練機によって混練する際の混練調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種混練材料を混練するための装置として密閉型混練機が知られている(例えば、特許文献1参照)。この密閉型混練機では、混練槽内に混練材料が投入された後、2本の混練ロータが回転することによって混練材料が混練される。一般に、密閉型混練機の混練ロータとしては、2本の混練ロータが噛み合うように回転する噛み合い式ロータと、接線式(非噛み合い式)ロータとが知られている。
【0003】
ここで、接線式ロータを備える密閉型混練機の一例を図11に示す。図11は、当該混練機の平面概略図である。図11において、密閉型混練機21は、混練槽22と、該混練槽22内に並設された2本の混練ロータ23A、23Bと、混練ロータ23A、23Bのロータ軸25A、25Bを回転可能に支持する軸受26A、26Bと、一対のギア27A、27Bとを有している。混練ロータ23Aおよび23Bの外周には、螺旋状に形成されたブレード24a、24bがそれぞれ形成されている。
【0004】
図11において、ロータ軸25Aおよび25Bのうち、一方のロータ軸(例えば25A)は、モータなどの駆動手段に連結されており、他方のロータ軸(例えば25B)は、一方のロータ軸に対して一対のギア27A、27Bを介して連結されている。そして、駆動手段でロータ軸25Aを回転駆動することにより、混練ロータ23Aおよび23Bが回転し、混練材料の混練が行われる。この場合、駆動手段に連結された混練ロータ23Aが駆動ロータに相当し、混練ロータ23Bが従動ロータに相当する。
【0005】
図11に示すような接線式ロータの密閉型混練機では、一般に、一対のギアのギア比を異ならせることで、駆動ロータと従動ロータとの間に15%~25%程度の速度差を設ける場合が多い。これらの混練ロータを異なる速度で回転させることで、駆動ロータと従動ロータの位相が変化して、まんべんなく混練が行われるとされている。
【0006】
一方、噛み合い式ロータの密閉型混練機では、その混練ロータの特性から、一対のギアのギア比は1:1に設定される。この場合、一対の混練ロータ間の接触を回避して、混練材料に作用する加工速度(せん断速度)を一定にするため、混練ロータ間の位相は、厳密に管理されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-313916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、接線式ロータの密閉型混練機では、一般に、位相を変化させて、まんべんなく混練を行うため、一対の混練ロータを異なる速度で回転させている。この場合、まんべんなく混練を行うために一対の混練ロータ間において位相が随時変化することは重要である。しかし、これまでに、回転時の位相(特に、特定の位相)に着目して一対の混練ロータを回転させるようにした先行技術は知られておらず、当該特定の位相などに起因して、混練特性(混練材料の粘度、混練時のトルクなど)を調整することは知られていない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、接線式ロータの密閉型混練機において、所望の混練特性を得ることができる混練調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の混練調整方法は、一対のギアで連結されて異なる速度で回転する一対の接線式ロータを備える混練機における混練調整方法であって、上記ギアは、互いに素ではない異なる整数の歯数を有しており、上記混練調整方法は、上記ギアの複数の噛み合いパターンの中から特定の噛み合いパターンを選択して、上記特定の噛み合いパターンで上記ギアを噛み合わせることにより、上記接線式ロータの初期位相を設定することを特徴とする。
【0011】
上記特定の噛み合いパターンは、上記複数の噛み合いパターンで上記ギアを噛み合わせた状態からそれぞれ導かれる上記接線式ロータの回転位相パターンに基づいて選択することを特徴とする。
【0012】
上記回転位相パターンから求められる上記接線式ロータのブレード間の最接近距離に基づいて、上記特定の噛み合いパターンを選択することを特徴とする。
【0013】
上記ギアにおいて、歯数が多い方のギアの歯数は、他方のギアの歯数に対して10%~50%多いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の混練調整方法は、一対のギアの歯数を、互いに素ではない異なる整数とし、一対のギアの複数の噛み合いパターンの中から、例えば、複数の噛み合いパターンでギアを噛み合わせた状態からそれぞれ導かれる接線式ロータの回転位相パターンに基づいて、特定の噛み合いパターンを選択して、その特定の噛み合いパターンでギアを噛み合わせることにより、接線式ロータの初期位相を設定するので、接線式ロータの形状を変更することなく、混練機における混練空間の形状を変化させることができる。その結果、回転時の特定の位相(例えば、接線式ロータのブレード同士が最接近する位相)などを考慮して混練を行うことができ、所望の混練特性を得ることができる。
【0015】
また、回転位相パターンから求められる接線式ロータのブレード間の最接近距離に基づいて、特定の噛み合いパターンを選択するので、例えば、接線式ロータの回転トルクが過剰に発生するような回転位相パターンを回避でき、所望の混練特性を得られやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に用いる混練機の一例の混練槽の断面概略図である。
図2図1の混練機の混練ロータの駆動を説明するための図である。
図3】混練機におけるギアの一例を示す図である。
図4】一対のギアの寸法関係を示す概略図である。
図5】一対のギアの噛み合い状態をマトリックス状に示す概略図である。
図6】一対のギアの噛み合いパターンを説明するための図である。
図7】本発明の混練調整方法の一例を示す工程概略図である。
図8】任意の噛み合いパターンにおける回転位相パターンを示す図である。
図9】任意の噛み合いパターンにおける回転位相パターンを示す図である。
図10】噛み合いパターンに対応する混練ロータの初期位相を示す図である。
図11】従来の混練機の混練ロータの駆動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の混練調整方法に用いられる混練機は、ゴム、プラスチック、セラミックスなどの混練材料を混練するための密閉型混練機である。この密閉型混練機は、主に、混練槽と、混練槽内に投入された混練材料を加圧するための加圧機構とを備える。加圧機構は、シリンダ装置などによって上下動可能な加圧蓋を有する。
【0018】
図1は、混練機の下端部に位置する混練槽の断面概略図を示す。この混練槽2は、略C字形の部分円周面を2つ向かい合わせに連ねたような内周面形状を有しており、その内部に互いに隣接しかつ連通する2つのロータ室2A、2Bがある。混練槽2の内底部における両ロータ室2A、2Bの内周面の境界部分には、山形に立ち上がった陵壁部2Cが形成されている。各ロータ室2A、2Bの軸線方向の両端はそれぞれ槽端壁(図示省略)によって閉じられている。なお、ロータ室2A、2Bの断面形状はその軸線方向において一定である。
【0019】
図1に示すように、ロータ室2A、2B内には、混練材料を混練する混練ロータ3A、3Bが、それぞれロータ室2A、2Bの内周面との間に間隔をおいて回転可能に配設されている。混練ロータ3A、3Bは、それぞれ2枚のブレード4a、4bを備えている。ブレード4a、4bは、その起端部側から終端部側に向けて山形となる断面形状を有し、その頂部にランド部を有している。このランド部が、内周面との間で所定の間隔を保った状態で回転するようになっている。混練ロータ3A、3Bが回転することで、ロータ室2A、2Bにおける混練空間の形状が変化する。混練ロータ3A、3Bは、回転方向が互いに異なっており、両ロータ室2A、2Bが連通する側においてブレードが下向きに回転するように構成されている。
【0020】
また、混練槽2の上方には、混練材料を投入するための開口部が設けられている。加圧蓋9aを上昇させた状態で開口部から混練材料が投入される。その後、ロッド9bにより加圧蓋9aを下降させ、混練材料を加圧しながら2本の混練ロータ3A、3Bを回転させる。この場合、螺旋状のブレード4a、4bによって混練材料がロータの回転方向だけでなく、軸方向も含む複雑な方向の流動により混練される。
【0021】
本発明に用いる混練機は、図1の構成に限らない。図1の混練機1は、混練後、混練槽2を反転させて開口部から混練材料を取り出す形式であるが、例えば、混練機は、混練後、混練槽の下部から混練材料を取り出す形式であってもよい。
【0022】
図2には、密閉型混練機の平面概略図を示す。図2に示すように、密閉型混練機1は、上述の混練槽2と、混練ロータ3A、3Bと、ロータ軸5A、5Bを回転可能に支持する軸受6A、6Bと、一対のギア7A、7Bとを有している。混練ロータ3A、3Bの外周には、螺旋状に形成されたブレード4a、4bが形成されている。例えば、混練ロータ3Aにおいて、ブレード4a、4bは、混練ロータ3Aの軸方向両端側における円周方向の位相が互いに180°異なる位置をそれぞれの起端部とし、この起端部から混練ロータ3Aの外周面を螺旋方向に延伸している。混練ロータにおけるブレードの構成はこれに限定されるものではない。図2において、ブレード4a、4bの螺旋方向の長さは互いに異なっており、ブレード4aは長尺ブレード、ブレード4bは短尺ブレードとなっている。なお、ブレードの枚数は2枚に限定されず、3枚、4枚、6枚なども採用できる。その場合、例えばブレード間の起端部の位置(円周方向の位相)は、ブレードの枚数に応じて適宜設定される。
【0023】
密閉型混練機1において、2本の混練ロータ3A、3Bのロータ軸5A、5Bは、平行に配設されている。ロータ軸5Aは、カップリング10を介してモータなどの駆動手段8の出力軸5A’に連結されている。なお、カップリング10を省略して、ロータ軸5Aと5A’を一体で構成してもよい。一方、ロータ軸5Bは、ロータ軸5Aに対して一対のギア7A、7Bを介して連結されている。なお、駆動手段8は減速機を備えていてもよく、駆動源から発生する回転力を減速して出力するようにしてもよい。また、一対のギア7A、7Bは、図2に示すような、駆動手段8の外部に設けられたギアに限らず、駆動手段8や減速機に内蔵されたギアであってもよい。ギアの構成は、平歯車に限らず、ヘリカルギアなどであってもよい。また、混練機において、各混練ロータは、カップリングを介して各ギアに連結されていてもよい。
【0024】
図2の構成において、駆動手段8を駆動することにより、ロータ軸5Aおよび5Bが回転することで、混練ロータ3Aおよび3Bが回転し、混練が行われる。本発明に用いる密閉型混練機1では、一対のギア7A、7Bの歯数が異なっており、一対の混練ロータ3A、3Bは異なる速度で回転する構成となっている。なお、図2において、混練ロータ3Aが駆動ロータに相当し、混練ロータ3Bが従動ロータに相当する。
【0025】
次に、図3および図4では、ギアについて説明する。図3には、ギアの一例の概略平面図を示す。図3に示すように、ギア7には、ギア本体の周方向に沿って複数の歯tが配置されている。これらの歯tは、周方向に等間隔に設けられている。また、ギア7の中央には、ロータ軸5の取付孔7aが形成されており、周方向の一部にキー溝7bが形成されている。
【0026】
図4は、一対のギアの寸法関係を模式的に示している。図4を用いて、一対のギアの歯数の設定の一例を以下に説明する。
【0027】
一対のギアにおいて、ギアを適切に機能させるためには、互いに歯の大きさを同じにする必要がある。歯の大きさを表す場合、モジュールmという値が使用される。モジュールm(mm)は、ピッチ円直径d(mm)を歯数Zで除した値として定義され、図4に示す一対のギア7A、7Bの場合、下記式(1)で表される。なお、モジュールmは整数でなくてもよい。
モジュールm=d/Z=d/Z・・・(1)
【0028】
また、一対のギア7A、7B間の中心距離は、一対のギアの軸の最短距離であり、下記式(2)で表される。
中心距離L=(d+d)/2・・・(2)
【0029】
そして、上記式(1)および(2)から、一対のギア7A、7Bの歯数の和を表す式として、下記式(3)が導かれる。
+Z=(2×L)/m・・・(3)
上記式(3)より、一対のギア7A、7Bの歯数の和は、中心距離Lの2倍をモジュールmで除した値となる。このように、中心距離Lおよびモジュールmを設定することで、一対のギアの歯数の和が算出され、その和から歯数を配分することで、各歯数を設定することができる。
【0030】
一対のギアの各歯数の設定について、従来では、一対のギア間で15%~25%の速度差が出るように設定されていた。例えば、中心距離385mm、モジュール14の場合、上記(3)より、Z+Z=55となる。この値を用いると、各歯数の設定としては、設定1(Z=24、Z=31)、設定2(Z=25、Z=30)、設定3(Z=26、Z=29)などが考えられる。これら設定1~3のうち、設定1および設定3は、互いに素である異なる歯数の組合せといえ、設定2は、互いに素ではない異なる歯数の組合せといえる。
【0031】
ここで、図5を用いて、互いに異なる歯数を有する駆動ギアと従動ギアの噛み合い状態について説明する。まず、図5(a)は、互いに素である異なる歯数の組合せとして、駆動ギアの歯数5、従動ギアの歯数6の場合を示す。この図では、駆動ギアと従動ギアの歯にそれぞれ番号を付している。各ブロック内の数字は、駆動ギアの各番号の歯と従動ギアの各番号の歯とが噛み合う状態を示している。例えば、図5(a)において、駆動ギアの2番の歯と従動ギアの1番の歯が噛み合う状態を「2-1」のブロックで表現している。なお、丸数字は、同じ丸数字のブロックに繋がることを示している。
【0032】
図5(a)において、例えば、駆動ギアの1番の歯と従動ギアの1番の歯を噛み合わせた状態(「1-1」のブロック)を初期の状態として、そこから駆動ギアを回転させると、駆動ギアと従動ギアの噛み合い状態は、順に、「2-2」、「3-3」、「4-4」、「5-5」、「1-6」、「2-1」、「3-2」、「4-3」、「5-4」、「1-5」・・・「4-5」、「5-6」、「1-1」と変化する。この場合、5×6=30通りの歯の噛み合い状態を経て、初期の噛み合い状態((「1-1」のブロック))に戻る。このように、一対のギアが互いに素である異なる歯数の場合、一対のギアの初期の噛み合い状態にかかわらず、噛み合いの組合せパターン(噛み合いパターン)は同じとなる。この場合、斜線の軌跡(例えば、丸数字1から丸数字1までの軌跡)の数が噛み合いパターンの数に相当し、図5(a)では1となる。
【0033】
一方で、図5(b)では、互いに素ではない異なる歯数の組合せとして、駆動ギアの歯数4、従動ギアの歯数6の場合を示す。例えば、駆動ギアの1番の歯と従動ギアの1番の歯を噛み合わせた状態(「1-1」のブロック)を初期の状態として、そこから駆動ギアを回転させると、駆動ギアと従動ギアの噛み合い状態は、順に、「2-2」、「3-3」、「4-4」、「1-5」、「2-6」、「3-1」、「4-2」、「1-3」、「2-4」、「3-5」、「4-6」、「1-1」と変化する。また、駆動ギアの1番の歯と従動ギアの2番の歯を噛み合わせた状態(「1-2」のブロック)を初期の状態として、そこから駆動ギアを回転させると、駆動ギアと従動ギアの噛み合い状態は、順に、「2-3」、「3-4」、「4-5」、「1-6」、「2-1」、「3-2」、「4-3」、「1-4」、「2-5」、「3-6」、「4-1」、「1-2」と変化する。この場合、駆動ギアと従動ギアの歯数は、最大公約数2を持っており、4×6÷2=12通りの歯の噛み合い状態を経て、初期の噛み合い状態に戻る。そして、初期の噛み合い状態を、駆動ギアの1番の歯と従動ギアの1番の歯にした場合と、駆動ギアの1番の歯と従動ギアの2番の歯にした場合は、各ギアの噛み合い状態が互いに交差しない。つまり、図5(b)に示すように、斜線の軌跡が互いに異なっている。このように、一対のギアが互いに素ではない異なる歯数の場合、一対のギアの初期の噛み合い状態によって、噛み合いパターンを選択することができる。なお、図5(b)の噛み合いパターン(斜線の軌跡の数)は2となる。
【0034】
本発明者は、このような事象に着目して、一対のギアの歯数を、互いに素ではない異なる整数の歯数とし、その上で、ギアの複数の噛み合いパターンの中から特定の噛み合いパターンを選択することで、混練ロータの回転位相を調整できることを見い出し、本発明に至った。このようにして、混練ロータの回転位相を調整することで、接線式ロータの形状を変更することなく、混練空間の形状を変化させることができ、所望の混練特性を得ることができる。
【0035】
一般化すると、互いに素ではない異なる歯数mとnを有する一対のギアの場合、最大公約数をkとすると、m=k×m0、n=k×n0と表せる。この場合、ギアの噛み合いパターンはk通り存在し、それぞれの噛み合いパターンにおいて、(k×m0×n0)通りの噛み合い状態を経て初期の噛み合い状態に戻る。例えば、m=25、n=30の場合、mとnの最小公約数である5通りの噛み合いパターンが存在し、それぞれの噛み合いパターンにおいて150通りの噛み合い状態を経て初期の噛み合い状態に戻る。
【0036】
本発明において、一対のギアの歯数は、互いに素ではない異なる整数であればよく特に限定されないが、歯数が多い方のギアの歯数が、他方のギアの歯数に対して10%~50%多いことが好ましい。
【0037】
図6には、一例として、駆動ギアの歯数が25であり、従動ギアの歯数が30である一対のギアを示す。図6は、一対のロータ軸をギア側から見た図を示し、一対のギアが噛み合った状態を示している。なお、図6では、説明の便宜上、駆動ギアの歯が噛み合う従動ギアの谷部の位置を丸数字で示している。
【0038】
図7には、本発明の混練調整方法の手順の一例を示す。以下に、各工程について、説明する。
【0039】
(S1工程)
この工程では、一対のギアの歯数を互いに素ではない異なる整数に設定する。例えば、歯数は、上述したように、一対のギア間の中心距離およびモジュールに基づいて設定される。
【0040】
(S2工程)
この工程では、歯数が設定された一対のギアの噛み合いパターンを把握する。この噛み合いパターンについては、図6を用いて説明する。図6の構成では、一対のギアの歯数は、駆動ギア:従動ギア=25:30の関係である。そのため、駆動ギアが6回転する間に、従動ギアは5回転する。例えば、図5の状態を初期の噛み合い状態とし、駆動ギアのキー溝に対応する歯「A」を基準位置とすると、その歯「A」が噛み合う従動ギアの谷部の位置は、駆動ギアの回転数に応じて、初期状態の「1」→1回転時「6」→2回転時「11」→3回転時「16」→4回転時「21」→5回転時「26」→6回転時「1」となり、6回転で初期の噛み合い状態に戻る。すなわち、駆動ギアの歯「A」について見れば、「1」、「6」、「11」、「16」、「21」、および「26」の組み合わせが1つの噛み合いパターンを構成する。
【0041】
同様に、駆動ギアの歯「A」が従動ギアの谷部「2」に噛み合う状態を初期の噛み合い状態とすると、その歯「A」が噛み合う従動ギアの谷部の位置は、駆動ギアの回転数に応じて、初期状態の「2」→1回転時「7」→2回転時「12」→3回転時「17」→4回転時「22」→5回転時「27」→6回転時「2」となる。すなわち、「2」、「7」、「12」、「17」、「22」、および「27」の組み合わせで、また別の噛み合いパターンを構成する。
【0042】
このようにすると、図6に示す構成では、噛み合いパターンは以下の5パターン存在する。つまり、駆動ギアの歯数と従動ギアの歯数の最大公約数の数の通り噛み合いパターンが存在する。
噛み合いパターン1:谷部1、6、11、16、21、26
噛み合いパターン2:谷部2、7、12、17、22、27
噛み合いパターン3:谷部3、8、13、18、23、28
噛み合いパターン4:谷部4、9、14、19、24、29
噛み合いパターン5:谷部5、10、15、20、25、30
【0043】
なお、図5で示したように、駆動ギア(歯数25)と従動ギア(歯数30)の歯に番号を付して、マトリックス状に噛み合い状態を示すこともできる。その図からも、歯数25の駆動ギアと歯数30の従動ギアの構成では、歯数の最大公約数である5通りの噛み合いパターンが存在することが分かる。
S2工程では、このような噛み合いパターンを把握する。
【0044】
(S3工程)
この工程では、各噛み合いパターンで回転させた場合のシミュレーションを行う。シミュレーションは、所定のソフトウェアが搭載されたコンピュータを用いて行ってもよく、実機を用いて行ってもよい。
【0045】
図8および図9には、任意の1つの噛み合いパターンでギアを回転させた場合のロータの位相の変化を示す。図8および図9は、一対のロータ軸を側面から見た図を示し、駆動ギアの基準位置(例えば図5の歯「A」など)が初期の噛み合い状態から90°ずつ回転した場合の混練ロータの位相を示している。なお、図8および図9では、混練ロータの図手前側のブレードの外縁を白点線で示している。図8には、駆動ギアが0°~990°まで回転した場合の混練ロータの位相を示し、図9には駆動ギアが1080°~2070°まで回転した場合の混練ロータの位相を示している。
【0046】
ここで、初期位相は、一対のギアの初期の噛み合い状態に対応した一対の混練ロータの位相を示している。図8では、初期位相において、駆動ロータおよび従動ロータは、各ブレードのランド部が略上方を向いている。そして、駆動ロータおよび従動ロータは、各ブレードのランド部が対向する向きになるように回転し(90°の図)、更に下向きになるように回転する(180°の図)。1回転時(360°の図)には、駆動ロータは初期位相の状態に戻るのに対して、従動ロータは初期位相の状態から所定角度(回転方向上流側に60°)ずれた状態になる。なお、この1回転時は、例えば図6で言えば、歯「A」と谷部「6」が噛み合った状態に相当する。その後も、駆動ロータが2回転、3回転と回転を重ねるたびに、従動ロータの初期位相とのずれは大きくなり、最終的に6回転時に初期位相の状態に戻る。
【0047】
図8および図9に示すように、一対の混練ロータの位相は、任意の位相から次回その位相に戻るまでの1サイクルにおいて、同じ位相は存在せず、位相が随時変化していることが分かる。なお、本発明では、一対の混練ロータの1サイクルにおいて取り得る位相の組み合わせを回転位相パターンという。
【0048】
なお、図8および図9では、任意の1つの噛み合いパターンに対応する回転位相パターンを示したが、噛み合いパターン毎に回転位相パターンが存在する。すなわち、噛み合いパターンが5パターンの場合は、回転位相パターンも5パターン存在する。例えば、このS3工程では、噛み合いパターン毎の回転位相パターンのシミュレーションを行う。なお、回転位相パターン間においても同じ位相は存在しない。
【0049】
(S4工程)
この工程では、S3工程のシミュレーションの結果に基づいて、特定の噛み合いパターンを選択する。例えば、回転位相パターン毎に求められる位相パラメータに基づいて選択する。位相パラメータとして、例えば、一対の混練ロータのブレード間の最接近距離などが挙げられる。
【0050】
最接近距離とは、一対の混練ロータのブレード同士が最も接近する距離のことであり、具体的には、近接関係にある2つのブレードにおいて、一方のブレードのランド部の周方向中央位置と他方のブレードのランド部の周方向中央位置との間の距離である。例えば、図8および図9に示した回転位相パターンの90°毎の位相の中では、90°の位相(図8参照)がブレード同士が最接近する位相に相当し、この位相におけるブレード間の距離を最接近距離として用いることができる。
【0051】
例えばS4工程では、回転位相パターン毎に上記の最接近距離を求めて、これらの最接近距離に基づいて所望の回転位相パターンを選択し、特定の噛み合いパターンを選択する。これにより、高速ロータと低速ロータのブレードが最接近した時の距離を調整でき、混練性に変化を及ぼすことができる。なお、最接近距離を用いた判断には、両ブレードと陵壁部との位置関係(各ブレードと陵壁部との距離など)も含めてもよい。
【0052】
最接近距離の値が小さいほど、混練時における駆動トルクは大きくなると考えられる。そのため、最接近距離が最も大きい回転位相パターンを選択することで、混練時において混練機に過度な負荷が掛かることなどを防止できる。一方で、混練材料の種類や初期粘度、粘度特性などによっては、大きなせん断力が必要となる場合も考えられ、その際には最接近距離が小さい回転位相パターンを選択することも考えられる。そのため、混練材料の粘度特性などによって、選択基準(最接近距離の程度など)を変更してもよい。
【0053】
なお、位相パラメータには、回転位相パターンの平均トルクや最大トルクなども用いることができる。これらは、例えばコンピュータの流動解析シミュレーションに基づいて推定することができる。
【0054】
(S5工程)
この工程では、S4工程で選択した特定の噛み合いパターンでギアを噛み合わせることにより、混練ロータの初期位相を設定する。図10には、噛み合いパターン毎の初期位相を示している。
【0055】
例えば、図10(a)は、図6における噛み合いパターン1の初期位相を示している。このパターン1の初期位相を基準にすると、噛み合いパターン2の初期位相は、噛み合いパターン1に対して従動ロータを回転方向下流側に12°ずらした状態となる。また、噛み合いパターン3~5の初期位相は、さらに12°ずつずらした状態となる。例えば、S4工程で噛み合いパターン1を選択した場合は、混練ロータの初期位相は図10(a)に設定される。
【0056】
なお、図6のギア構成の場合、厳密には、各噛み合いパターンでそれぞれ150通りの噛み合い状態があり、それに伴って、混練ロータの回転位相パターン毎に150通りの初期位相が存在するが、これらの初期位相は回転位相パターンで見れば同じであり、これらの中から任意の初期位相を設定すればよい。
【0057】
以上のように、従来では、一対のギアの歯数を、単に2割程度の速度差となるように異なる数に設定していたのに対して、本発明では、一対のギアの歯数を互いに素ではない異なる数とした上で、それによって生じる異なる噛み合いパターンの中から特定の噛み合いパターンを選択し混練ロータの初期位相を設定することで、混練空間の形状を変化させることができる。その結果、混練性に影響を及ぼすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の混練調整方法は、接線式ロータの密閉型混練機において、所望の混練特性を得ることができるので、ゴム、プラスチック、セラミックスなどの混練において、広く利用することができる。また、この混練調整方法によって、2本の混練ロータを特定の位相になるように調整することにより、混練機の特性を変化させて、混練材料に応じて生産性や分散性などの性能を調整することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 密閉型混練機
2 混練槽
2A、2B ロータ室
2C 陵壁部
3A、3B 混練ロータ
4a、4b ブレード
5A、5B ロータ軸
6A、6B 軸受
7A、7B ギア
7a 取り付孔
7b キー溝
8 駆動手段
9a 加圧蓋
9b ロッド
10 カップリング
【要約】
【課題】接線式ロータの密閉型混練機において、所望の混練特性を得ることができる混練調整方法を提供する。
【解決手段】混練調整方法は、一対のギアで連結されて異なる速度で回転する一対の接線式ロータを備える混練機における混練調整方法であって、ギアは、互いに素ではない異なる整数の歯数を有しており、混練調整方法は、ギアの複数の噛み合いパターンの中から特定の噛み合いパターンを選択して、特定の噛み合いパターンでギアを噛み合わせることにより、接線式ロータの初期位相を設定する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11