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  • 特許-温度環境試験装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】温度環境試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20221011BHJP
   G01M 15/02 20060101ALI20221011BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01N17/00
G01M15/02
F24F7/007 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019043530
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020148474
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】小栗 光貴
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-121340(JP,A)
【文献】特開2006-078312(JP,A)
【文献】特開2015-210898(JP,A)
【文献】特開2017-053643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0186699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 - 17/04
G01M 15/00 - 15/14
G01M 17/00 - 17/10
F24F 7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作時に排気ガスを排出する被試験体が設置される環境試験室と、
前記環境試験室内における空気の温度を調節するための空調機と、
前記被試験体から延び、該被試験体から排出された排気ガスが通る排気管とを備え、
前記被試験体を前記環境試験室に設置した上で所定の温度環境に前記環境試験室を形成し、前記被試験体に対する試験を行うための温度環境試験装置であって、
前記排気管は、その端部に排気ガスが放出される放出口を有し、
外部から別途処理された空気が導入されるとともに、前記被試験体の試験時に前記環境試験室内の温度環境とは異なる温度環境とされ、かつ、前記放出口が配置されるチャンバ室と、
前記放出口から放出された排気ガスを吸込むとともに、吸込んだ排気ガスを外部へと排出可能に構成された、排気ガスを間接排気するための間接排気手段とを具備し、
前記間接排気手段は、排気ガスとともに排気ガスを希釈するための希釈用空気を吸込んで、排気ガスを前記希釈用空気の混合により希釈した上で外部へと排出するように構成され、
前記希釈用空気として、前記チャンバ室内の空気が用いられることを特徴とする温度環境試験装置。
【請求項2】
外部から前記チャンバ室に導入される別途処理される空気を除湿するための除湿機と、
前記チャンバ室及び前記環境試験室を連通し、前記チャンバ室内の空気を前記環境試験室内へと通すための通路部とを備え、
前記空調機は、前記通路部を通って前記チャンバ室から流入した空気の温度を調節するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の温度環境試験装置。
【請求項3】
前記環境試験室及び前記チャンバ室を間仕切るための間仕切り部の一部は、カーテンからなることを特徴とする請求項2に記載の温度環境試験装置。
【請求項4】
前記チャンバ室には、前記被試験体の駆動性能を計測するためのダイナモメータが設置されることを特徴とする請求項2又は3に記載の温度環境試験装置。
【請求項5】
前記間接排気手段は、前記希釈用空気の取込口を端部に有する筒状をなすとともに、該取込口を通して前記排気管が内部に配置されることで該排気管の周囲を覆う状態とされ、かつ、前記放出口が内部に配置されるように構成されたカバーを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の温度環境試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度環境を形成可能な環境試験室を有し、環境試験室内に配置された被試験体の試験を行う際に、被試験体からの排気ガスを希釈して排出可能な温度環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高地や極地に近い土地のような低温環境や砂漠又は赤道近くのような高温環境などの様々な使用温度環境を想定して、内燃機関や原動機などの被試験体に対し負荷試験を行うことがある。このような試験には、温度環境試験装置が利用される。温度環境試験装置としては、被試験体を設置可能な環境試験室と、環境試験室内における空気温度を調節して環境試験室に各種温度環境を形成するための空調機とを備えたものが一般に知られている。また、内燃機関等の被試験体はその動作時に排気ガスを排出するところ、このような動作時に、負荷試験によるが、例えば車載搭載状態に近い、エキゾーストマニホールドからエキゾーストパイプ、マフラーを介してテールパイプの管端に至るパイプ(略してテールパイプという)から排出される排気ガスを、環境試験室外に排出するための排気ガス排出管を温度環境試験装置に設けることがある(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、被試験体から排出される排気ガスはテールパイプからのものも含め、極めて高温(例えば900℃以上)となり得る。このような高温の排気ガスをエキゾーストマニホールドやテールパイプと設備側の延長排気管とを直結して該延長排気管から外部へと排出しようとすると、排気ガスを外部へと排出するための装置(例えば排気用のファン等)に極めて高温のガスが流れ該装置が過熱されることとなり、汎用の機器では排出するための該装置における故障や破損などの不具合が生じてしまうおそれがある。また、耐熱性能の高い、排出するための装置を用意できたとしても、被試験体の動作だけの排気ガス排出力や排気量による動作性能を試験するのに、前記排出するための装置(の排気用ファン)によるブースト圧を加えた排出力では排気量が異なってくるため、通常はこのようにテールパイプなどと設備側の延長排気管とを直結して排気ガスを排出しない。
【0004】
そこで、テールパイプなどから排出される排気ガスと環境試験室内の空気とを、テールパイプ等の管端周囲から、排出するための装置の排気用のファンの吸引力で吸引し、排気ガスを希釈しながら排出することにより、排気ガスをその温度を低下させた上で外部へと排出する間接接続の手法が考えられる(例えば、特許文献2,3等参照)。これならば、テールパイプなどの管端が開放されているので、排出するための装置(の排気用のファン)の吸引力がブーストとなって被試験体の排気量を変化させることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平5-30129号公報
【文献】特許第5822657号公報
【文献】実開平5-14884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の手法では、空調機によって温度調節された環境試験室内の空気を用いて排気ガスの希釈が行われる。そのため、空調機では、試験に必要な空気(例えば被試験体の吸気分の空気や被試験体などの室内の物の冷温熱搬送空気)のみならず、排気ガスの希釈に用いられる空気の温度調節も行われることとなる。従って、空調機における空調負荷が高くなってしてしまい、高い空調負荷に対応可能な比較的大型(高性能)の空調機を用意する必要が生じ、ランニングコストなどのコスト面で不利となるおそれがある。特に環境試験室に低温の環境を形成するための空調機では、低温空気中での水蒸気飽和点での絶対湿度の低さから、常温の空気から非常に多量の除湿を行わなければならず莫大な冷凍エネルギーが必要となる。
【0007】
また、空調負荷が高ければその分エネルギーを消費することは必定で、省エネルギー性能や環境性能(CO2排出量など)の点で良好な結果を得ることができないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた省エネルギー性能や環境性能を発揮でき、かつ、コストの抑制を図ることができる温度環境試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0010】
手段1.動作時に排気ガスを排出する被試験体が設置される環境試験室と、
前記環境試験室内における空気の温度を調節するための空調機と、
前記被試験体から延び、該被試験体から排出された排気ガスが通る排気管とを備え、
前記被試験体を前記環境試験室に設置した上で所定の温度環境に前記環境試験室を形成し、前記被試験体に対する試験を行うための温度環境試験装置であって、
前記排気管は、その端部に排気ガスが放出される放出口を有し、
外部から別途処理された空気が導入されるとともに、前記被試験体の試験時に前記環境試験室内の温度環境とは異なる温度環境とされ、かつ、前記放出口が配置されるチャンバ室と、
前記放出口から放出された排気ガスを吸込むとともに、吸込んだ排気ガスを外部へと排出可能に構成された、排気ガスを間接排気するための間接排気手段とを具備し、
前記間接排気手段は、排気ガスとともに排気ガスを希釈するための希釈用空気を吸込んで、排気ガスを前記希釈用空気の混合により希釈した上で外部へと排出するように構成され、
前記希釈用空気として、前記チャンバ室内の空気が用いられることを特徴とする温度環境試験装置。
【0011】
上記手段1によれば、排気管における排気ガスの放出口はチャンバ室に配置され、放出口から放出された排気ガス及び排気ガスを希釈するための希釈用空気は、間接排気手段により吸込まれて混合された上で外部に排出される。すなわち、上記手段1によれば、排気管を通して外部へ直接的に排気ガスを排出する(つまり直接排気を行う)のではなく、排気ガスはチャンバ室側で放出口から一旦放出された上で希釈用空気により希釈されて外部へと排出される(つまり間接排気が行われる)ように構成されている。ここで、直接排気を行う場合には、被試験体の動作状況の変化に応じて試験環境〔例えば、被試験体の排気側の圧力(背圧)、被試験体の物体温度や中での燃焼など〕の変動が生じやすくなり、ひいては被試験体に対する適切な試験の実施に支障が生じるおそれがある。この点、上記手段1のように間接排気が行われることで、被試験体の動作状況の変化に伴う試験環境の変動をより確実に抑えることが可能となり、被試験体の試験を適切な条件下で行うことができる。また、排気ガスの希釈により、間接排気手段(例えば排気ファン等)が高温に晒されることによる悪影響を防止することができる。
【0012】
さらに、上記手段1によれば、希釈用空気として、チャンバ室内の空気が用いられる。従って、環境試験室の温度調節を行う空調機において排気ガスの希釈に用いられる空気の温度調節を行わずに済み、空調機における空調負荷を大幅に低減させることができる。その結果、優れた省エネルギー性能や環境性能を発揮することができる。また、空調負荷の低減によって、空調機としては比較的小型な(さほど高性能でない)もので足りることとなり、ランニングコストなどのコストを効果的に抑制することができる。
【0013】
尚、前記チャンバ室内は常温でありながら環境試験室の空気や室内内装に影響しない環境とされることが好ましい。
【0014】
手段2.外部から前記チャンバ室に導入される別途処理される空気を除湿するための除湿機と、
前記チャンバ室及び前記環境試験室を連通し、前記チャンバ室内の空気を前記環境試験室内へと通すための通路部とを備え、
前記空調機は、前記通路部を通って前記チャンバ室から流入した空気の温度を調節するように構成されていることを特徴とする手段1に記載の温度環境試験装置。
【0015】
上記手段2によれば、空調機は、チャンバ室から流入した空気、つまり除湿機によって除湿された空気の温度を調節する。除湿されていない外部の空気は通常多量の水分を含むため、室内に空調機が設置され冷却除湿された空気で室内の内装を冷やしていくと、チャンバ室から流入した空気が運び入れる多量の水が中で凝縮しこれが凍結することが繰り返され、霜や氷結が発生・成長し、低温での所定の湿度環境を形成できない。通路部と空調機とをダクト等で接続しても、このような空気の温度調節の際には空調機における空調負荷の増大を招き、コストの抑制ができないおそれがある。この点、上記手段2によれば、除湿された空気の温度が調節されることとなるため、空調負荷の低減をより効果的に図ることができ、コストの抑制効果を一層高めることができる。
【0016】
さらに、上記手段2によれば、環境試験室を低温環境とした場合において、環境試験室やチャンバ室における結露の発生をより確実に防止することができる。加えて、空調機に内蔵される冷却部分から伝熱された低温表面における結露防止のために、空調機を断熱材で覆わなくてもよく、また、空調機の構成材料として防錆性能に優れる特別な材料を用いる必要がなくなる。そのため、コスト抑制をより効果的に図ることができる。
【0017】
尚、チャンバ室の気圧を環境試験室の気圧よりも高くなるように構成することが好ましい。この場合、環境試験室からチャンバ室への空気の流入を抑制することができ、環境試験室を所望の温度環境で維持することがより容易となる。
【0018】
手段3.前記環境試験室及び前記チャンバ室を間仕切るための間仕切り部の一部は、カーテンからなることを特徴とする手段2に記載の温度環境試験装置。
【0019】
上記手段3によれば、環境試験室及びチャンバ室の間仕切り部の一部として、カーテン(例えば断熱カーテン)が用いられる。従って、間仕切り部を安価な構成とすることができ、コストの抑制効果を一層高めることができる。また、カーテンを利用することによって、環境試験室からチャンバ室に対する排気管の貫通設置や、被試験体の性能計測に係る計測器配線等の配置、移動及び着脱などをより容易に行うことができ、試験に係る利便性をより高めることができる。
【0020】
尚、除湿機によって環境試験室やチャンバ室には除湿された空気が導入されるため、間仕切り部の一部をカーテンとした場合であっても、環境試験室やチャンバ室の結露防止を十分に図ることができる。
【0021】
手段4.前記チャンバ室には、前記被試験体の駆動性能を計測するためのダイナモメータが設置されることを特徴とする手段2又は3に記載の温度環境試験装置。
【0022】
上記手段4によれば、ダイナモメータを常温に近い環境に配置することができ、ダイナモメータの正常動作をより確実に担保することができる。
【0023】
また、チャンバ室にダイナモメータを設ける場合、環境試験室からチャンバ室へと貫通するように、被試験体(例えば内燃機関等)及びダイナモメータを接続する連結軸を設ける必要があるが、連結軸の配置位置に対応して上記手段3のカーテンを設けることにより、環境試験室からチャンバ室に対する連結軸の貫通設置を容易に行うことが可能となる。
【0024】
手段5.前記間接排気手段は、前記希釈用空気の取込口を端部に有する筒状をなすとともに、該取込口を通して前記排気管が内部に配置されることで該排気管の周囲を覆う状態とされ、かつ、前記放出口が内部に配置されるように構成されたカバーを有することを特徴とする手段1乃至4のいずれかに記載の温度環境試験装置。
【0025】
上記手段5によれば、カバーによって、高温の排気ガスが通る排気管からチャンバ室内への放熱を抑制することができる。これにより、チャンバ室内の温度を調節するためのチャンバ室用空調機を設ける場合において、該チャンバ室用空調機の空調負荷をより抑えることができ、ひいてはコストの抑制効果を一層向上させることが可能となる。また、上記手段2等を採用する場合には、チャンバ室から環境試験室に流入する空気の昇温を抑制することができ、環境試験室に低温環境を形成するときにおける空調機の負荷増大をより効果的に抑えることができる。
【0026】
さらに、排気管の放出口はカバーの内部に配置されるため、排気管を通った排気ガスはカバーの内部にて放出されることとなる。加えて、カバーの取込口から希釈用空気を取り込むため、取込口から排気ガスが漏れ出すといった事態は生じにくい。これらの結果、間接排気を行う構成としつつ、排気ガスがチャンバ室に漏れ出すことをより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態における温度環境試験装置の概略構成を示す側断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、温度環境試験装置1は、環境試験室2及びこれに隣接配置されたチャンバ室3と、外部の空気を除湿して別途処理された空気とするための除湿機4と、除湿された空気をチャンバ室3内へと送り出すためのファン5とを備えている。尚、環境試験室2及びチャンバ室3には、作業者等の出入りや後述するエンジン11の搬入出のためのドアやシャッタなど(不図示)が設けられている。
【0029】
また、チャンバ室3内の気圧は環境試験室2内の気圧よりも高い状態とされている。尚、チャンバ室3の壁面の通路部8には図示しない差圧ダンパが設けられていてもよい。また、環境試験室2内の結露を防ぐべく、チャンバ室3>環境試験室2>外部という順位で環境試験室2を少しだけ正圧環境で維持するために、環境試験室2内の空気を外部へと連続的に少量ずつ排出可能な装置を設けてもよい。チャンバ室3内の気圧を環境試験室2内の気圧よりも高い状態とすることで、環境試験室2内からチャンバ室3内への空気の流入を抑制することができ、環境試験室2内を所望の温度環境で維持することがより容易となる。
【0030】
また、環境試験室2内には、該環境試験室2内における温度を調節するための空調機6が設けられている。空調機6は、例えば、空気を加熱するための電気ヒータ若しくは熱媒をチューブ内に流す加熱コイル、空気を冷却するためのブラインコイルや直膨コイルである冷却機、環境試験室2内の空気を吸込むための第一有圧換気扇、及び、環境試験室2内に温度調節された空気を吹出すための第二有圧換気扇などを備えている(それぞれ不図示)。空調機6中の空気を搬送する送風機は、第一有圧換気扇及び第二有圧換気扇に分けずともシロッコファンなど違う形式で静圧が確保できれば一台にまとめてもよい。尚、本実施形態における空調機6は、結露防止のための断熱材などで覆われてはおらず、また、その構成材料として防錆性能に優れる特別な材料を用いていないものである。
【0031】
チャンバ室3には、除湿機4により除湿された空気が導入可能となっている。そして、後述するエンジン11の試験時には、チャンバ室3は、環境試験室2の温度環境とは異なる温度環境(本実施形態では、例えば環境試験室設定湿度が50%なら設定温度が14℃から25℃)とされるようになっている。望ましくは、環境試験室2の設定温湿度から絶対湿度を算出し、その絶対湿度線上にあるようにチャンバ室3内空気を除湿すればよく、本実施形態では、チャンバ室3をより確実に前記絶対湿度に近づけるために、チャンバ室3内には、該室内の空気湿度を調節するためのチャンバ室用空調機(図示せず)が設けられている。
【0032】
さらに、環境試験室2及びチャンバ室3は、断熱材などからなる間仕切り部7によって間仕切りされており、この間仕切り部7の一部はカーテン7a(例えば断熱カーテン等)によって構成されている。また、間仕切り部7には、チャンバ室3及び環境試験室2を連通する開口である通路部8が貫通形成されており、該通路部8を介してチャンバ室3内の空気が環境試験室2内へと流入するようになっている。
【0033】
さらに、環境試験室2内の所定位置には、種々の温度環境下での性能を試験すべく、被試験体としての、例えば自動車用のエンジン(内燃機関)11が例えば定盤上などに設置可能となっている。エンジン11が設置された場合、車載状況を再現する燃料、冷却水、潤滑油、電気などが環境試験室2の設備側から循環供給されることで該エンジン11が運転可能とされ、また、該エンジン11の出力軸とダイナモメータ12とが連結軸13によって連結される。ダイナモメータ12は、チャンバ室3内に設置され、連結軸13を介してエンジン11の回転数やトルクを制御したりエンジン11の駆動性能(回転数やトルク)を計測したりするために利用される。連結軸13は、間仕切り部7のうち前記カーテン7aの設置箇所を通るようにして環境試験室2からチャンバ室3に対し貫通設置されている。
【0034】
加えて、エンジン11には、該エンジン11から延び、動作時にエンジン11から排出された高温(例えば約900℃)の排気ガスの通る、例えばエキゾーストマニホールドからエキゾーストパイプ、マフラーを介しテールパイプの管端まで延長する排気管14が接続されている。尚、詳しい排気管14の構成は試験内容による。排気管14は、環境試験室2からチャンバ室3に対し、間仕切り部7のうち前記カーテン7aの設置箇所を通過するようにして貫通設置されている。また、排気管14は、その端部に排気ガスの放出される放出口14aを備えており、この放出口14aはチャンバ室3内に配置されている。
【0035】
尚、試験に際し、エンジン11には、性能計測のための図示しないセンサ等が取り付けられ、該センサ等の配線(図示せず)がチャンバ室3に設置された計測器(図示せず)へと接続されるようになっている。この配線は、環境試験室2からチャンバ室3に対し前記カーテン7aの所定の設置箇所を通るようにして設置される。また、前出の車載状況を再現する燃料、冷却水、潤滑油、電気などが環境試験室2の設備側から循環供給されるユーティリティも、チャンバ室3からか若しくは環境試験室2に設置される。
【0036】
さらに、チャンバ室3に対応して、前記放出口14aから放出された排気ガスを吸込むとともに、吸込んだ排気ガスを外部へと排出可能に構成された、排気ガスを間接排気するための間接排気手段としての間接排気部9が設けられている。
【0037】
間接排気部9は、取込口91aを一端部に有する筒状のカバー91と、該カバー91の他端部と直列的に接続され排気ガスの排出路を構成する排ガス排出管92と、外部に対する排気ガスの排出等に用いられる排気ファン93とを備えている。
【0038】
カバー91は、所定の断熱材料により形成されており、内部の熱を外部に伝達しにくい構成となっている。さらに、カバー91の内部に、前記取込口91aを通して排気管14が挿入されており、該排気管14の周囲がカバー91で覆われた状態となっている。これにより、カバー91の内部には、排気管14の前記放出口14aが配置された状態となっている。尚、カバー91の内周面と排気管14の外周面とは離間した状態となっており、カバー91及び排気管14間を通って排ガス排出管92側へと空気が流入可能とされている。
【0039】
次に、エンジン11の試験を行うときにおける、上記温度環境試験装置1の動作及びこの動作に伴う空気や排気ガスの温度変化や移動(流れ)について説明する。
【0040】
まず、エンジン11の試験前に、環境試験室2に対し、試験条件に対応する温度環境が形成される。すなわち、外部の空気が除湿機4によって別途処理された空気である乾燥空気とされ、該乾燥空気がファン5によってチャンバ室3内へと送出される。このとき、チャンバ室3内に導入される空気は、その露点温度が空調機6によって吹出される空気の温度よりも低く又は等しくなるように、除湿機4によって十分に除湿される。そして、チャンバ室3内に流入した乾燥空気は、通路部8を通って環境試験室2内へと流入する。
【0041】
さらに、環境試験室2内の空気が空調機6により温度調節されることで、環境試験室2に所望の温度環境が形成される。本実施形態では、環境試験室2において、例えば-40℃から+35℃までの温度環境を形成することが可能とされている。環境試験室2に所望の温度環境が形成されることで、エンジン11の試験を開始する環境が整う。
【0042】
次いで、エンジン11の試験中における、特に排気ガスの外部への排出に関する点について説明する。試験中(つまりエンジン11の動作中)にはエンジン11から高温の排気ガスが排出されるところ、排気ガスは排気管14を通ってチャンバ室3側へと至り、カバー91内にて放出口14aから放出される。
【0043】
そして、排気ファン93の動作に伴い、放出された排気ガスは間接排気部9(特に排ガス排出管92)へと吸い込まれる。また、これとともに、カバー91の取込口91aを通って間接排気部9(カバー91及び排ガス排出管92)に対し、排気ガスを希釈するための希釈用空気として、チャンバ室3内の空気が取り込まれる(吸い込まれる)。間接排気部9では、排気ガス及び希釈用空気が混合されることで、排気ガスが希釈されて十分に低温(例えば350℃程度以下)の状態とされる。そして、希釈されて低温となった排気ガスは、排気ファン93の動作により排ガス排出管92を通って外部へと排出される。このように本実施形態では、排気管14を通して外部へと直接的に排気ガスが排出される(つまり直接排気が行われる)のではなく、排気ガスが一旦チャンバ室3側(のカバー91内)で放出された上で希釈用空気により希釈されて外部へと排出される(つまり間接排気が行われる)。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態によれば、排気管14における排気ガスの放出口14aはチャンバ室3内に配置され、放出口14aから放出された排気ガス及び排気ガスを希釈するための希釈用空気は、間接排気部9により吸込まれて混合された上で外部に排出される。すなわち、本実施形態では、直接排気を行うのではなく、間接排気が行われる。間接排気が行われることで、エンジン11の動作状況の変化に伴う試験環境の変動をより確実に抑えることが可能となり、エンジン11の試験を適切な条件下で行うことができる。また、排気ガスの希釈により、間接排気部9(例えば排気ファン93等)が高温に晒されることによる悪影響を防止することができる。
【0045】
加えて、希釈用空気として、チャンバ室3内のほぼ常温の空気が用いられる。従って、空調機6において排気ガスの希釈に用いられる空気の温度調節を行わずに済み、空調機6における空調負荷を大幅に低減させることができる。その結果、優れた省エネルギー性能や環境性能を発揮することができる。また、空調負荷の低減によって、空調機6としては比較的小型な(デシカント除湿器などを有さずに単純なコイルや加湿器だけの複雑でない)もので足りることとなり、ランニングコストなどのコストを効果的に抑制することができる。
【0046】
さらに、空調機6は、チャンバ室3から流入した空気、つまり除湿機4によって除湿された空気の温度湿度を調節する。従って、通常多量の水分を含む除湿されていない外部の空気の温度調節を行う場合と比較して、空調負荷の低減をより効果的に図ることができ、コストの抑制効果を一層高めることができる。
【0047】
加えて、環境試験室2及びチャンバ室3には、環境試験室2内の環境設定空気の露点と比べ乾燥した空気が供給されるため、環境試験室2を低温環境とした場合において、環境試験室2やチャンバ室3における結露の発生をより確実に防止することができる。さらに、空調機6における結露防止のために、空調機6を断熱材で覆わなくてもよく、また、空調機6の構成材料として防錆性能に優れる特別な材料を用いる必要がなくなる。そのため、コスト抑制をより効果的に図ることができる。さらに、本実施形態では、除湿機4により除湿された乾燥空気の露点温度が、空調機6により温度調節された空気の温度よりも低くなる又は等しくなるように構成されているため、チャンバ室3等における結露の発生を一層確実に抑えることができる。
【0048】
また、間仕切り部7の一部として、カーテン7aが用いられる。従って、間仕切り部7を安価な構成とすることができ、コストの抑制効果を一層高めることができる。さらに、カーテン7aを利用することによって、環境試験室2からチャンバ室3に対する排気管14や連結軸13の貫通設置、エンジン11の性能計測に係る計測器配線等の配置、移動及び着脱などをより容易に行うことができる。これにより、試験に係る利便性をより高めることができる。尚、除湿機4によって環境試験室2やチャンバ室3には除湿された空気が導入されるため、間仕切り部7の一部をカーテン7aとした場合であっても、環境試験室2やチャンバ室3の結露防止を十分に図ることができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、ダイナモメータ12を環境試験室2よりも常温に近い環境に配置することができるため、ダイナモメータ12の正常動作をより確実に担保することができる。特に本実施形態では、チャンバ室3が常温環境とされるため、ダイナモメータ12の正常動作を一層確実に担保できる。
【0050】
加えて、カバー91によって、高温の排気ガスが通る排気管14からチャンバ室3内への放熱を抑制することができる。これにより、前記チャンバ室用空調機の空調負荷をより抑えることができ、ひいてはコストの抑制効果を一層向上させることが可能となる。また、チャンバ室3から環境試験室2に流入する空気の昇温を抑制することができ、環境試験室2に低温環境を形成するときにおける空調機6の負荷増大をより効果的に抑えることができる。
【0051】
さらに、排気管14の放出口はカバー91の内部に配置されるため、排気管14を通った排気ガスはカバー91の内部にて放出されることとなる。加えて、カバー91の取込口91aから希釈用空気を取り込むため、取込口91aから排気ガスが漏れ出すといった事態は生じにくい。これらの結果、間接排気を行う構成としつつ、排気ガスがチャンバ室3に漏れ出すことをより確実に防止できる。
【0052】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0053】
(a)上記実施形態では、被試験体として自動車用のエンジン11を例示しているが、被試験体は動作時に高温の排気ガスを排出するものであればよい。従って、被試験体は、例えば、エンジンを有する自動車などの車両であってもよいし、原動機などであってもよい。
【0054】
(b)上記実施形態における環境試験室2及びチャンバ室3の配置位置関係や形状などは一例であり、これらを適宜変更してもよい。例えば、環境試験室2の容積がチャンバ室3の容積よりも小さくなるように環境試験室2やチャンバ室3の形状を設定してもよい。尚、このように設定した場合には、環境試験室2において所望の温度環境をより早期に形成することが可能となって、試験に係る利便性を高めることができる。また、空調機6における空調負荷をより低減させることも可能となる。
【0055】
(c)上記実施形態では、環境試験室2に対しチャンバ室3を介して空気が送られるようになっているが、チャンバ室3及び環境試験室2の双方に対し外気を別途処理した空気(例えば除湿空気)が送られる構成であってもよい。
【0056】
(d)上記実施形態では、チャンバ室3にダイナモメータ12を設けることとしているが、チャンバ室3とは別の部屋或いは外部にダイナモメータ12を設けることとしてもよい。また、ダイナモメータ12を設けない構成としてもよい。
【0057】
(e)除湿機4を設けない構成としてもよい。また、環境試験室2内における空気の温度調節を行う空調機6を、環境試験室2外に設ける構成としてもよい。さらに、カーテン7aに代えて単なる壁を設けることとしてもよい。
【0058】
(f)上記実施形態では、チャンバ室3に導入される別途処理される空気は除湿されていたが、例えば赤道近くの熱帯気候が再現されるように環境試験室2の内部設定温湿度を設定する場合、別途処理される空気は加湿されて、環境試験室2の露点と同じ湿潤空気を通路部を通って送るような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…温度環境試験装置、2…環境試験室、3…チャンバ室、4…除湿機、6…空調機、7…間仕切り部、7a…カーテン、8…通路部、9…間接排気部(間接排気手段)、11…エンジン(被試験体)、12…ダイナモメータ、14…排気管、14a…放出口、91…カバー、91a…取込口。
図1