(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】4-メルカプト-1-オクタノールまたはその脂肪酸エステル、および香味付与剤
(51)【国際特許分類】
C07C 323/12 20060101AFI20221011BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20221011BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20221011BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20221011BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20221011BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20221011BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20221011BHJP
【FI】
C07C323/12 CSP
A23L27/20 D
A23L27/00 Z
C11B9/00 H
C11B9/00 G
C11B9/00 T
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2020174274
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 詩歩
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚子
(72)【発明者】
【氏名】小林 宗隆
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545813(JP,A)
【文献】国際公開第2015/014609(WO,A1)
【文献】米国特許第6231912(US,B1)
【文献】Food Chemistry ,2009年,Vol.114, No.4,p1359-1364,doi:10.1016/j.foodchem.2008.11.016
【文献】Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening ,2006年,Vol.9, No.8,p583-590
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry ,2003年,Vol.51, No.12,p3623-3628,doi:10.1021/jf0212340
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry ,2011年,Vol.59, No.16,p8853-8865,doi:10.1021/jf201294e
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールまたはその脂肪酸エステル。
【化1】
[式中、R
1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
【請求項2】
下記式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールおよびその脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上からなる、香味付与剤。
【化2】
[式中、R
1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
【請求項3】
請求項2に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を配合してなる消費財。
【請求項5】
請求項2に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
【請求項6】
請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-メルカプト-1-オクタノールまたはその脂肪酸エステル、および香味付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品、香粧品、医薬品、保健衛生品など様々な製品に対する消費者の要求は、製品の香味の質にも及んでおり、消費者の嗜好に合わせて、さまざまな香味を有する製品に対するニーズが高まっている。
【0003】
例えば、食品中には微量香気成分として硫黄原子を含む化合物(含硫化合物)が数多く見出され、その食品の自然な香味を再現する上で重要な化合物であると考えられている。
【0004】
含硫化合物として、天然から見出された代表的なチオール類を例示すると、2-フリルメタンチオール(フルフリルメルカプタン)がコーヒーの揮発成分として、1-p-メンテン-8-チオール(チオターピネオール)がグレープフルーツの重要な揮発成分として、2-メチルフラン-3-チオールが牛肉スープ中の揮発成分として見出されており、これらは香料化合物として広く利用されている。また、分子内にメルカプト基(チオール基やスルファニル基とも呼ばれる)およびカルボン酸エステル基を有する化合物もいくつか知られており、その具体例としては、特許文献1に、3-メルカプト-4-メチルペンチルアセテートがルバーブ様の香りを呈し、開花から51日以上経過したホップにおいて増加するものとして記載されている。特許文献2には、3-メルカプト-3-メチルブチルホルメートがゴマの煎りたて感などの特定の風味増強に使用できると記載されている。特許文献3には、3-メルカプト-3-メチルブチルアセテートが、2-フルフリルメチルスルフィド、2-フルフリルメチルジスルフィドなどのその他の含硫化合物と併せてコーヒーの淹れたて感を付与できると記載されている。
【0005】
しかしながら、従来の含硫化合物は、香味の質および強度の点で単調である、使用できる香味が限られている、天然素材のような自然な香味が得られがたい、などの少なくとも1つの理由から、消費者の製品の香味に対する多様な要望に十分対応できておらず、香味付与剤として有用な新たな化合物の探索が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/139153号
【文献】特開2010-148412号公報
【文献】特開2008-259472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、香味付与剤として有用な新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、従来文献未記載の新規化合物である、式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールおよびその脂肪酸エステルの化合物群が、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種物品に配合した際に、広範な香味に対して優れた賦香効果を奏し、香料化合物として極めて有用であることを見出した。
【0009】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1] 下記式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールまたはその脂肪酸エステル。
【0010】
【化1】
[式中、R
1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
[2] 下記式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールまたはその脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上からなる、香味付与剤。
【0011】
【化2】
[式中、R
1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
[3] [2]に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
[4] [2]に記載の香味付与剤または[3]に記載の香料組成物を配合してなる消費財。
[5] [2]に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
[6] [2]に記載の香味付与剤または[3]に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、新たに香味付与剤として使用可能な化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表すものとする。
【0014】
(4-メルカプト-1-オクタノールおよびそのエステル)
下記式(1)で表される4-メルカプト-1-オクタノールおよびその脂肪酸エステルは、それぞれ従来文献未記載の新規化合物である。以下、式(1)の化合物と称することもある。
【0015】
【0016】
[式中、R1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
式(1)の化合物の好ましい例としては、下記式(1-1)で表される4-メルカプト-1-オクタノール(4-mercapto-1-octanol、式(1)中、Rが水素である態様)、下記式(1-2)で表される4-メルカプトオクチルホルメート(4-mercaptooctyl formate、式(1)中、RがCOR1であり、R1が水素である態様)、下記式(1-3)で表される4-メルカプトオクチルアセテート(4-mercaptooctyl acetate、式(1)中、RがCOR1であり、R1が炭素数1のアルキル基である態様)、下記式(1-4)で表される4-メルカプトオクチルブチレート(4-mercaptooctyl butyrate、式(1)中、RがCOR1であり、R1が炭素数3の直鎖アルキル基である態様)が挙げられる。式(1-1)の化合物はグレープフルーツ様やトロピカルフルーツ様の香気を呈し、式(1-2)の化合物、式(1-3)の化合物、および式(1-4)の化合物も同様の香気を呈する。従って、式(1)の化合物はいずれも同様の香気を呈するものと考えられる。
【0017】
【0018】
(式(1)の化合物の入手方法)
式(1)の化合物は、当業者によってなし得る任意の方法で入手してよく、例えば、Tetrahedron,35,pp.1339-1343(1979)やTetrahedron Lett.,47,pp.6067-6070(2006)などを参考にして、適宜反応条件を最適化しつつ以下の反応経路に従って合成することができる。ただし、この例に限定されず、ほかの合成法を採用してもよい。
【0019】
【0020】
すなわち、例えば、γ-オクタラクトン(化合物(a))を出発原料とし、チオカルボニル化試薬(ローソン試薬やデービー試薬)によって化合物(a)を化合物(b)へ変換し、ルイス酸(例えば、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2))によって化合物(c)のチオラクトンに異性化し、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)や水素化ジイソブチルアルミニウム((i-Bu)2AlH)などの還元剤を用いて還元して、式(1-1)のアルコール化合物を得た後、その水酸基(OH基、ヒドロキシル基、ヒドロキシ基ともいう)を公知の方法でエステル化して、式(1-2)、式(1-3)または式(1-4)の化合物を得ればよい。
【0021】
得られた式(1)の化合物は、さらに必要に応じて公知の方法でカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0022】
(本発明の香味付与剤)
本発明の香味付与剤は、式(1)の化合物の1種以上からなることを特徴とする。
【0023】
【化6】
[式中、R
1は、水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表す。]
式(1)の化合物は、それぞれ単独または組み合わせて、それ自体香味付与剤として各種物品に配合することで配合対象に香味を付与できる。本発明者らは、この化合物自体はグレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香気を呈するが、後述のように、グレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香気のみならず非常に多様な香味付与に有効であるという高い有用性を発見し、本発明に至った。
【0024】
配合対象の物品としては特に限定されないが、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財を例示できる。さらに、本発明の化合物は、各種香料組成物に配合して、当該組成物に香気を付与することもできる。
【0025】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚を含む感覚の1以上を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、飲食品の文脈においては、香味を風味と言い換えることができる。
【0026】
(本発明の香料組成物)
本発明の香料組成物は、香味の付与を目的として使用でき、式(1)の化合物の1種以上からなる香味付与剤を有効量含み、各種物品に配合することができるものである。具体例としては、飲食品用香料組成物(フレーバー組成物ともいう)、香粧品用香料組成物(フレグランス組成物ともいう)が挙げられる。配合対象となる物品の例としては、上述のように、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財が挙げられる。本発明の香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物、粉末香料組成物が例示できる。香料組成物の香味は特に限定されないが、具体例や特に好ましい香味の例については、後述の(各種物品への使用)の項で詳述する。
【0027】
本発明の香料組成物中の式(1)の化合物の濃度(2種以上を用いる場合はその合計濃度)は、香料組成物の所望の香気や、配合対象の香気や用途などの特徴に応じて任意に決定できる。当該濃度の例として、香料組成物の全体質量に対して、0.1ppt~10%、好ましくは10ppt~5%、より好ましくは0.1ppb~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、5%のいずれかとし、上限値を10%、5%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、香料組成物中の式(1)の化合物の濃度が0.1ppt未満の場合は式(1)の化合物の配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は式(1)の化合物の由来の香りが強く配合対象の香料組成物の香味特性に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、配合対象の香料組成物の香調などによっては、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0028】
また、本発明の香料化合物は、式(1)の化合物に加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。
【0029】
そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0030】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0031】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0032】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0033】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0034】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0035】
エステル化合物としては、エチルアセテート、イソアミルアセテート、オクチルアセテート、エチルブチレート、エチルイソブチレート、イソアミルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルイソバレレート、2-メチルブチルイソバレレート、エチルヘキサノエート、アリルヘキサノエート、エチルヘプタノエート、エチルカプリレート、イソアミルイソバレレート、エチルノナノエートなどの脂肪族エステル、リナリルアセテート、ゲラニルアセテート、ラバンジュリルアセテート、テルピニルアセテート、ネリルアセテートなどのテルペンアルコールエステル、ベンジルアセテート、メチルサリシレート、メチルシンナメート、シンナミルプロピオネート、エチルベンゾエート、シンナミルイソバレレート、エチル3-メチル-3-フェニルグリシデートなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0036】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0037】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0038】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0039】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、3-メルカプトヘキシルアセテート、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0040】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、グレープフルーツ、ライム、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0041】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳もしくは乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0042】
本発明の香料組成物は、式(1)の化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0043】
本発明の香料組成物の形態としては、式(1)の化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0044】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0045】
また、乳化製剤とするためには、式(1)の化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。式(1)の化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、式(1)の化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0046】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0047】
本発明の香料組成物はさらに、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0048】
(各種物品への使用)
本発明の香味付与剤、およびそれを含有する本発明の香料組成物は、各種物品またはそれに用いる香料組成物に配合して使用することができる。
【0049】
例えば、本発明の香味付与剤、およびそれを含有する香料組成物は、それ自体を飲食品に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて各種物品に配合してもよい。
【0050】
本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味(前述の柑橘を除く);ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類風味;タマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類、などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられる。
【0051】
特に、本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物は、各種柑橘または各種フルーツ風味、乳風味、各種ナッツ風味、各種畜肉風味、各種魚介風味、各種茶風味、コーヒー風味、ビール風味、および各種油脂風味の飲食品に対し、優れた賦香効果を発揮することができる。例えば、各種柑橘またはフルーツ風味に果汁感、果肉感(果肉の繊維質や食感を想起させる感覚)、果皮感(果皮を食した時に感じられる感覚、例えば苦さ、オイリー、繊維質などの1以上の感覚)、熟成感(例えば、完熟した果実や熟成したワインやウイスキーなど、熟成が進んだと感じさせる感覚)、ビター感、ボディ感、フレッシュ感の1以上の香味を付与でき、各種畜肉風味または魚介風味にジューシー感(例えば、しっとりした肉質または肉汁を想起させる感覚)、畜肉または魚介由来の脂肪感、調理感(加熱調理された食品の喫食時に感じられる香ばしさやコクなどを思わせる感覚)、ボディ感、フレッシュ感、肉厚感(例えば、肉を想起させる弾力や繊維感を想起させる感覚)の1以上の香味を付与でき、各種ナッツ風味に対して、ナッツ由来のボディ感、油脂感、本物のナッツを感じさせる素材感または天然感の1以上の香味を付与することができる。特に、果汁感や肉汁感などのジューシー感、ボディ感、脂肪感の1つ以上を効果的に飲食品に付与でき、飲食品の食べごたえ、満足感、天然感、厚みなどを総合的に向上して飲食品の嗜好性を上げることができる。ここで、本明細書において、ボディ感とは、香味がしっかりしていて、かつ、まろやかでふくらみがあり、呈味全体にボリュームと強さをもたらすような感覚を含む。フレッシュ感とは、各種香味に寄与可能な香味を有する天然原料の果実、野菜、葉などそのものを想起させる、またはそれらの加工直後(摘みたて、切りたて、挽きたて、削りたて、摺りたてなど)に感じられる香味を想起させる感覚を含む。厚みとは、香味が単調でなく、多様な香味がバランスよく感じられる感覚を含む。
【0052】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0053】
本発明の香味付与剤、およびそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な香粧品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。
【0054】
本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物を使用可能な香調も特に限定されず、本発明の香味付与剤またはそれを含有する香料組成物によって香味を改善可能な任意の香調であってよいが、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、グリーン調、ウッディ調、モス調、トロピカルフラワー調などに好適に使用することができる。より具体的には、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ユズ、カボス、ストロベリー、ラズベリー、アップル、パイナップル、マンゴー、ピーチ、バナナ、メロン、グレープ、パパイヤ、キウイ、ブドウ類、ローズ、ジャスミン、スズラン、ヒヤシンス、ライラック、プルメリア、などが例示できるが、これらに限定されない。例えば、各種フローラル調の香調の物品に配合した際、花の生き生きとしたフレッシュ感や華やかさを増大させることができる。
【0055】
本発明において、飲食品や香粧品などの各種物品中の式(1)の化合物の濃度は、物品の香味や所望の賦香効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0056】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、式(1)の化合物の濃度(2種以上を用いる場合はそれらの合計濃度)として0.001ppt~100ppm、好ましくは0.01ppt~10ppm、より好ましくは0.1ppt~1ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppmのいずれか、上限値を100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01ppt、0.001pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、式(1)の化合物の濃度(2種以上を用いる場合はそれらの合計濃度)として0.1ppt~10ppm、1ppt~1ppm、10ppt~100ppb、100ppt~10ppbから、飲食品の香味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や香味にも依存するが、飲食品中の式(1)の化合物の濃度が0.001ppt未満の場合は、配合効果が低いと感じられる場合があり、100ppmを超える場合は、式(1)の化合物そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の香味に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、飲食品の香味などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0057】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、式(1)の化合物の濃度(2種以上を用いる場合はそれらの合計濃度)として0.001ppt~1000ppm、好ましくは0.01ppt~100ppm、より好ましくは0.1ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppmのいずれか、上限値を1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、式(1)の化合物の濃度(2種以上を用いる場合はそれらの合計濃度)として、100ppt~100ppm、10ppb~10ppm、100ppb~1ppmの各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の式(1)の化合物の濃度が0.001ppt未満の場合は、式(1)の化合物の配合効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、1000ppmを超える場合は、式(1)の化合物そのものの香気が突出して配合対象の香粧品の香気に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、香粧品の香気などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0058】
例えば、式(1)の化合物の1種以上を飲食品や香粧品などの物品に有効量配合することで、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、果汁感、果皮感、肉汁感、肉感(肉の繊維感や肉厚さを含む感覚)、みずみずしさ、熟成感(完熟または適度に熟した感覚を含む)、華やかさ、フレッシュ感、コク、ボディ感、厚みなどが増強され、それが良好なバランスのまま持続可能となるという効果を奏する。トップ、ミドル、ラストのいずれか1以上の香味を増強することができ、例えば、トップの香味立ち、ミドルおよびラストの香味の厚み、ボディ感、持続性(余韻ともいう)の1以上を増強することができる。特に、ミドルおよびラストの香味の厚み、ボディ感、持続性を増強することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]式(1)の化合物の合成
式(1)の化合物の例として以下を合成した。
【0061】
(1)4-メルカプト-1-オクタノールの合成
(第1工程)
【0062】
【0063】
塩化カルシウム管を備えた2Lの四口フラスコに、化合物(a)γ-オクタラクトン(99.4g、0.70mol)、ローソン試薬(141.6g、0.35mol)およびトルエン(700mL)を入れ、加熱還流下2.5時間撹拌した。その後、空冷下で撹拌しながらフラスコ内温を20℃まで下げてから一晩静置し、結晶を析出させた。次いで、結晶物を濾紙濾過により濾別して得られる濾液を減圧濃縮することで残渣を得た。この残渣にn-ヘキサンを加え再度沈殿物を生成させた後濾過し、濾液を減圧濃縮し残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて2回精製して(1回目…SiO2 150g、n-ヘキサン:酢酸エチル=10:1、2回目…SiO2 400g、n-ヘキサン:酢酸エチル=20:1)、化合物(b)を94.8g得た。本工程の収率は86%であった。
【0064】
(第2工程)
【0065】
【0066】
窒素雰囲気下、2Lの四口フラスコに、化合物(b)(94.8g、599mmol)およびトルエン(800mL)を入れた。ここに、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2)(17.0g、120mmol、0.2当量)を室温(約25℃)下で撹拌しながら滴下後、125℃の加熱還流下で3時間撹拌し、その後さらに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(17.0g、120mmol、0.2当量)を追加して125℃にて還流下2時間撹拌した後、室温へと冷却し終夜(約12時間)撹拌した。得られた反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾別後得られる濾液を減圧濃縮して粗製物を得た。粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2 400g、n-ヘキサン:酢酸エチル=20:1)にて精製することで化合物(c)を53.0g得た。本工程の収率は56%であった。
【0067】
(第3工程)
【0068】
【0069】
窒素雰囲気下、2Lの四口フラスコに、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4、25.4g、670mmol)及びジエチルエーテル(400mL)を入れた。ここに、氷水冷下で撹拌しながら化合物(c)(53.0g、335mmol)のジエチルエーテル(120mL)溶液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま室温(約25℃)まで昇温させながら3時間撹拌した。ここに希塩酸(3.0L)を、氷水冷下フラスコ内液温25℃以下を保ちつつ滴下し、室温下で撹拌後、有機相を分液した。水相を再度500mLのジエチルエーテルで抽出して再び有機相を得た。得られた2つの有機相を混合し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮することで粗製物(54.1g)を得た。粗製物を減圧蒸留に付し、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2 400g、n-ヘキサン:酢酸エチル=5:1)にて精製後、減圧蒸留(85~86℃、0.1kPa以下)することで、4-メルカプト-1-オクタノールを38.2g得た(純度99.7%、式(1-1))。本工程の収率は70%であった。得られた式(1-1)の4-メルカプト-1-オクタノールを本発明品1とした。
【0070】
得られた4-メルカプト-1-オクタノールはグレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ3.69-3.64(m,2H),2.84-2.75(m,1H),1.82-1.25(m,12H),0.90(t,J=7.2Hz,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ62.7,41.0,38.8,35.1,30.3,29.4,22.4,14.0.
MS(EI,70eV):m/z 162(4),144(17),103(34),101(22),87(55),74(14),69(100),68(21),67(21),55(41),43(14),41(35).
【0071】
(2)4-メルカプトオクチルホルメートの合成
【0072】
【0073】
窒素雰囲気下、50mLの三口フラスコに対し、ギ酸(1.55g、33.7mmol)、無水酢酸(Ac2O、3.44g、33.7mmol)を加え、2時間撹拌した。反応液を氷水冷下とし、実施例1(1)で得た4-メルカプト-1-オクタノール(式(1-1)、3.65g、22.5mmol)およびピリジン(1滴、0.02mL以下)を順次加え、室温(約25℃)で2時間撹拌した。得られた反応液に対し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加え、エーテル抽出した(50mL)。得られた有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。粗製物(3.87g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:50g、n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製後、クーゲルロール蒸留に付し(125℃、0.2kPa)、4-メルカプトオクチルホルメートを2.55g得た(式(1-2)、純度99%)。本工程の収率は60%であった。得られた式(1-2)の4-メルカプトオクチルホルメートを本発明品2とした。
【0074】
得られた4-メルカプトオクチルホルメートはグレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ8.06(s,1H),4.18(t,J=6.0Hz,2H)2.82-2.73(m,1H),1.96-1.25(m,11H),0.91(t,J=7.2Hz,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ161.1,63.6,40.7,38.8,35.1,29.2,26.1,22.4,14.0.
MS(EI,70eV):m/z 144(28),103(18)101(20),87(100),81(12),74(15),69(80),68(16),67(18),55(29),41(23).
【0075】
(3)4-メルカプトオクチルアセテートの合成
【0076】
【0077】
50mLの三口フラスコに対し、実施例1(1)で得た4-メルカプト-1-オクタノール(式(1-1)、3.25g、20mmol)の塩化メチレン(CH2Cl2、10mL)溶液を加え、窒素雰囲気下塩化アセチル(AcCl、1.57g、20mmol)の塩化メチレン(5mL)溶液を投入後、室温(約25℃)で3時間撹拌した。反応液に対し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液水(50mL)を加え、エーテル抽出した(50mL)。得られた有機相を水道水および飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。粗製物(3.46g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:50g、n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製後、クーゲルロール蒸留に付し(125℃、0.2kPa)、4-メルカプトオクチルアセテートを1.62g得た(式(1-3)、純度98%)。本工程の収率は40%であった。得られた式(1-3)の4-メルカプトオクチルアセテートを本発明品3とした。
【0078】
得られた4-メルカプトオクチルアセテートはグレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.07(t,J=6.4Hz,2H),2.82-2.73(m,1H),2.05(s,3H)1.91-1.25(m,11H),0.90(t,J=7.2Hz,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ171.1,64.2,40.7,38.7,35.3,29.2,26.2,22.4,21.0,14.0.
MS(EI,70eV):m/z 144(29),101(20),87(100),74(22),69(44),67(11),55(18),43(34),41(14).
【0079】
(4)4-メルカプトオクチルブチレートの合成
【0080】
【0081】
50mLの三口フラスコに対し、実施例1(1)で得た4-メルカプト-1-オクタノール(式(1-1)、3.25g、20mmol)、トリエチルアミン(Et3N)(2.43g、24mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.24g、2.0mmol)および塩化メチレン(20mL)を加え、窒素雰囲気下、無水酪酸(3.48g、22mmol)の塩化メチレン(5mL)溶液を投入後、室温(約25℃)で1時間撹拌した。反応液に対し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液水(50mL)を加え、エーテル抽出した(50mL)。有機相を水道水および飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2 50g、n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~20:1)で精製後、クーゲルロール蒸留に付し(160℃/0.4kPa)、4-メルカプトオクチルブチレートを1.11g得た(式(1-4)、純度99.2%)。本工程の収率は23%であった。得られた式(1-4)の4-メルカプトオクチルブチレートを本発明品4とした。
【0082】
得られた4-メルカプトオクチルブチレートはグレープフルーツやトロピカルフルーツ様の香りを呈し、その物性値は以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.08(t,J=6.4Hz,2H)2.82-2.74(m,1H),2.28(t,J=7.6Hz,2H)1.91-1.29(m,13H),0.95(t,J=7.6Hz,3H),0.91(t,J=7.2Hz,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ173.7,63.9,40.7,38.7,36.2,35.3,29.2,26.3,22.4,18.4,14.0,13.7.
MS(EI,70eV):m/z 144(32),103(8),102(10),101(24),89(10),88(10),87(100),74(23),71(36),69(35),67(8),55(13),43(20),41(13).
[実施例2] 式(1)の化合物の使用例(1):香料組成物への配合
下記表1に記載の一般的な処方により、グレープフルーツ様の香気を呈する基本調合香料組成物を調製した。
【0083】
【0084】
得られたグレープフルーツ様基本調合香料組成物に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の化合物それぞれを、式(1)の化合物がそれぞれ下記表2に記載の濃度となるように配合し、本発明の香料組成物(本発明品5~20)を調製した。得られた本発明の香料組成物について、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、基本調合香料組成物を対照品として、対照品と比較した香気について下記の観点から点数付けを行わせた。点数の平均値を下記表2に記載する。
(評価基準)フレッシュ感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0085】
【0086】
表2に示すように、本発明品5~20はいずれも、式(1)の化合物を配合したことでフレッシュ感が増強され、香気がより優れた好ましいものになることが確認された。
【0087】
[実施例3] 式(1)の化合物の使用例(2):果実風味飲料への配合
市販の果汁50%のグレープフルーツジュースに、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各化合物が下記表3の濃度となるように配合して本発明の飲料を得た。得られた本発明の飲料について、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、市販のグレープフルーツジュースを対照品として、対照品と比較した本発明の飲料の香味について下記の観点から点数付けを行わせるとともに、各飲料の香味について自由にコメントさせた。点数の平均値と得られた代表的なコメントを下記表3に記載する。
(評価基準)果皮感および果汁感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0088】
【0089】
表3に示すように、本発明品21~40はいずれも、式(1)の化合物の配合により果実風味飲食品に優れた香味が付与されたことが確認された。特に0.1ppbから10ppbの範囲内においてその効果が顕著であった。
【0090】
[実施例4] 式(1)の化合物の使用例(3):畜肉を用いた飲食品への配合1
市販のチキンスープ粉末を湯に溶かし、チキンスープを得た。得られたチキンスープに、下記表4に記載の濃度となるように実施例1(1)~(3)で得られた各化合物を配合し、本発明のチキンスープ(本発明品41~60)を調製した。比較例として、含硫化合物である3-メルカプト-1-ヘキサノールを下記表4に記載の濃度となるようにチキンスープに配合して、比較例のチキンスープを調製した(比較品1)。得られた本発明および比較品のチキンスープについて、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、何も配合していないチキンスープ(市販の粉末を単に湯に溶かしたもの)を対照品として、対照品と比較した本発明および比較例の各チキンスープの香味について下記の観点から点数付けを行わせるとともに、各チキンスープの香味について自由にコメントさせた。点数の平均値と得られた代表的なコメントを下記表4に記載する。
(評価基準)肉汁感および脂肪感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0091】
【0092】
表4に示すように、本発明品41~60のいずれにおいても、式(1)の化合物の配合により畜肉風味飲食品に優れた香味が付与されたことが確認された。特に0.1ppbから10ppbの範囲内においてその効果が顕著であった。式(1)の化合物と同じ含硫化合物である3-メルカプト-1-ヘキサノールではそのような効果は得られなかった。
【0093】
[実施例5] 式(1)の化合物の使用例(4):畜肉を用いた飲食品への配合2
市販の豚骨ラーメン用粉末スープを湯に溶かし、豚骨スープを得た。得られた豚骨スープに、下記表5に記載の濃度となるように実施例1(1)~(4)で得られた各化合物を配合し、本発明の香料組成物(本発明品61~80)を調製した。比較例として、含硫化合物である3-メルカプト-1-ヘキサノールを下記表5に記載の濃度となるように豚骨スープに配合して、比較例の豚骨スープを調製した(比較品2)。得られた本発明および比較品の豚骨スープについて、10名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、何も配合していない豚骨スープ(市販の粉末を単に湯に溶かしたもの)を対照品として、対照品と比較した香味について下記の観点から点数付けを行わせるとともに、各豚骨スープの香味について自由にコメントさせた。点数の平均値と得られた代表的なコメントを下記表4に記載する。
(評価基準)肉汁感および脂肪感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0094】
【0095】
表5に示すように、本発明品61~80はいずれも、式(1)の化合物の配合により畜肉風味飲食品に優れた香味が付与されたことが確認された。特に0.1ppb~10ppbの範囲内においてその効果が顕著であった。式(1)の化合物と同じ含硫化合物である3-メルカプト-1-ヘキサノールではそのような効果は得られなかった。
【0096】
[実施例6] 式(1)の化合物の使用例(5):ナッツを用いた飲食品への配合
市販のピーナツバターを用意し、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各化合物を、ピーナツバター全体質量に対して5ppbの濃度となるように配合し、4種の本発明のナッツ製品(本発明品81~84)を調製した。
【0097】
【0098】
得られた本発明のナッツ製品について、市販のピーナツバターと比較した香味の変化について8名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。その結果、8名のパネリスト全員が、本発明品81~84はいずれも、対照品に比べてナッツ独特のコクのある油脂感が増強され、ナッツを摺りたてのようなフレッシュでボディ感のある香味になって、より好ましい(嗜好性の高い)ナッツ製品になっていたと評価した。また、8名のパネリスト全員が、特に4-メルカプト-1-オクタノール(本発明品1)を配合した本発明品81が、本発明品82~84に比べて上述の増強効果が顕著であったと評価した。
【0099】
[実施例7] 式(1)の化合物の使用例(6):ミルクコーヒー飲料への配合
市販の缶入りのミルクコーヒー飲料に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各化合物を、市販のミルクコーヒー飲料の全体質量に対し1ppbの濃度となるように配合し、下記表7の通り、4種の本発明の飲料(本発明品85~88)を調製した。
【0100】
【0101】
得られた本発明の飲料の香味について、市販のミルクコーヒー飲料を対照品として10名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。すると、10名のパネリストの全員が、本発明品85~88のいずれも、乳脂様のコクおよび焙煎コーヒーの香ばしいビター感が増強され、ボディ感が増して、飲料の嗜好性と飲みごたえが増し、より好ましい(嗜好性の高い)飲料になったと評価した。また、10名のパネリスト全員が、特に4-メルカプト-1-オクタノール(本発明品1)を配合した本発明品85が、本発明品86~88に比べて上述の増強効果が顕著であったと評価した。
【0102】
[実施例8] 式(1)の化合物の使用例(7):ビール風味飲料への配合
市販のビール風味のノンアルコール飲料に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各化合物を、市販のビール飲料の全体質量に対し1ppbの濃度となるように配合し、下記表8の通り、4種の本発明のビール風味飲料(本発明品89~92)を調製した。
【0103】
【0104】
得られた本発明のビール風味飲料の香味について、市販のビール風味ノンアルコール飲料を対照品とした香味の変化について7名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。すると、7名のパネリストの全員が、本発明品89~92のいずれも、ホップ様のビター感およびボディ感が増強され、飲料の嗜好性と飲みごたえが増し、より好ましい(嗜好性の高い)飲料になったと評価した。6人のパネリストが、特に4-メルカプト-1-オクタノール(本発明品1)を配合した本発明品89が、本発明品90~92に比べて上述の増強効果が顕著であったと評価した。また、6人のパネリストが、本発明品89~92のいずれも、風味の余韻が増強されたと評価した。
【0105】
[実施例9] 式(1)の化合物の使用例(8):柑橘香気の香粧品への配合
市販のレモン香気の芳香剤を用意し、その芳香液に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各化合物を、芳香液全体質量に対し100ppbの濃度となるように配合して、下記表9の通り、4種の本発明の芳香剤(本発明品93~96)を得た。
【0106】
【0107】
得られた本発明の芳香液について、市販の芳香剤の芳香液を対照品として、経験年数10年以上のパネリスト6名に、対照品と比べた香りの変化を評価させたところ、6名のパネリストの全員が、本発明品93~96はいずれも、レモン独特のビターでややオイリーな果皮のような香りが増強され、より好ましい(嗜好性の高い)芳香剤になったと評価し、特に4-メルカプト-1-オクタノール(本発明品1)を配合した本発明品93が、本発明品94~96に比べて上述の増強効果が顕著であったと評価した。また、5人のパネリストが、本発明品93~96はいずれも、さらに残香性も向上したと評価した。
【0108】
[実施例のまとめ]
以上の実施例で示したように、式(1)の化合物はいずれも、非常に幅広い香味付与効果を奏し、香味付与剤として有用な化合物である。特に、香味のボディ感、フレッシュ感、厚み、ジューシーさなどに代表される香味付与効果によって、各種消費財の嗜好性を向上させることができる。