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  • 特許-X線管アノード装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】X線管アノード装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 9/14 20060101AFI20221011BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
H01J9/14 M
H01J35/08 B
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016003075
(22)【出願日】2016-01-08
(65)【公開番号】P2016131150
(43)【公開日】2016-07-21
【審査請求日】2018-12-13
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】15150816.5
(32)【優先日】2015-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】イェー.ファン デル ボルスト
(72)【発明者】
【氏名】バルト フィルメル
(72)【発明者】
【氏名】ベン ハヘルーケン
(72)【発明者】
【氏名】ヨス シャレイ
(72)【発明者】
【氏名】ロミュラス ミハルカ
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】松川 直樹
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-323857(JP,A)
【文献】特開昭53-062490(JP,A)
【文献】特開平09-161673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J9/14
H01J35/08-35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管コンポーネントを製造する方法であって、
ロジウムよりなるアノードを設けるステップと、
モリブデンと銅の混合物またはタングステンと銅の混合物よりなるヒートスプレッダーを設けるステップと、
前記アノードを前記ヒートスプレッダーに、その間の接合材料の層でマウントするステップであって、前記接合材料は(i)金、(ii)銀、(iii)金の合金、又は(iv)銀の合金である、ステップと、
前記アノードを前記接合材料で前記ヒートスプレッダーに接合するステップとを有し、
前記アノードを前記ヒートスプレッダーに接合するステップは、前記アノードを前記ヒートスプレッダーに拡散接合するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記接合材料は厚さが5ないし200μmである薄い層である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ロジウムよりなるアノードと、
モリブデンと銅の混合物またはタングステンと銅の混合物よりなるヒートスプレッダーと、
(i)金の層、(ii)銀の層、(iii)金の合金の層、又は(iv)銀の合金の層である接合層であって、前記アノードを前記ヒートスプレッダーに拡散接合する接合層と
を有するX線管コンポーネント。
【請求項4】
前記接合層は厚さが5ないし200μmである、請求項3に記載のX線管コンポーネント。
【請求項5】
前記接合層は金である、請求項3または4に記載のX線管コンポーネント。
【請求項6】
(a)前記接合層は銀の合金の層であり、前記合金は、銀と銅との合金、若しくは銀と銅とパラジウムとの合金である、又は(b)前記接合層は金の合金の層であり、前記合金は、金と銅との合金、若しくは金と銅とニッケルとの合金である、請求項4に記載のX線管コンポーネント。
【請求項7】
請求項3ないし6いずれか一項に記載のX線管コンポーネントを有するX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管のアノード装置の製造方法と、その結果として製造されるアノード装置と、かかるアノード装置を含むX線管とに関する。
【背景技術】
【0002】
X線管はアノードを含む。高エネルギー電子が、アノードとカソードとの間の電圧降下により動かされ、アノードに当たる。高エネルギー電子のエネルギーのごく一部がX線に変換される。エネルギーの残りは冷却により取り除かなければならない。
【0003】
この冷却は熱分散部を用いて行われてもよい。全体的な熱伝達係数が重要である。それゆえ、アノード温度をできるだけ低く抑えるため、熱伝導率が高い熱分散部材料が必要である。X線管の出力が高くなると、高温になることが避けられなくなる。しかし、以前として、アノード材料の蒸発や溶解を防止するのに十分にアノード温度を低く抑える必要がある。
【0004】
それゆえ、X線管のアノードの環境は非常に厳しくなり得る。温度が高く、X線強度も非常に高くなり得る。この厳しい環境の中で良いアノード機能を維持する必要がある。特に、厳しい環境は、単に800°C以上の高温というだけでなく、温度の傾斜が大きいことも含む。
【0005】
従来の熱分散部の材料は銅や銀であり、これらは熱伝導率が高いために選択されたものである。しかし、かかる材料はアノード材料と熱膨張のミスマッチを起こし、ストレスが高くなることがある。
【0006】
代替材料の選択は容易ではない。別の熱分散部材料を単に選択するだけでは十分ではないからである。厳しい環境であっても、アノードが低熱抵抗で確実に取り付けられているように、アノードを熱分散部にしっかり固定することも必要であり、従来、アノードを固定する好適な方法は特定されていない。したがって、X線管では銅または銀の熱分散部が使い続けられている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一実施形態による方法は、X線管アノード装置を製造する方法であって、ロジウム、モリブデン、またはタングステンのアノードを設けるステップと、モリブデン及び/またはタングステンの複合物の熱分散部を設けるステップと、熱分散部上にアノードを、その間の接合材料の層でマウントするステップと、前記アノードを前記接合材料で前記熱分散部に接合するステップとを有する。
【0008】
出願人は、放熱性能がよく信頼性も高いX線アノード装置をこの方法により実装することができることを見いだした。特に、アノード装置は、高温、大きい温度傾斜、速い温度変化、極端に強い放射線、極端に強い電場に耐えることができ、一方で良い真空性能を維持できる。
【0009】
アノード装置は、従来の銀または銅の熱分散部上のアノードよりもよく、速く大きい電力の切り替えに耐えることができる。
【0010】
「複合物(composite)」との用語は、混合物(mixture)または合金(alloy)を含んでも良く、その他の形式、例えば積層(laminate)などを含んでも良い。ここで「合金(alloy)」との用語は、銅とモリブデン及び/またはタングステンが互いに溶けることを示唆することは意図していない。
【0011】
熱分散部はモリブデンと銅との、またはタングステンと銅との複合物(composite)であってもよい。
【0012】
熱分散部にアノードを接合するステップは、熱分散部にアノードを拡散接合するステップを含む。接合材料は金であってもよい。
【0013】
以下に説明する実験では、かかるアプローチですばらしい結果が得られた。
【0014】
接合材料は厚さが5ないし200μmである薄い層であってもよい。
【0015】
拡散接合の替わりとして、熱分散部にアノードを接合するステップは、熱分散部にアノードをろう付けするステップ、すなわち拡散接合に用いるよりも大きい熱により接合材料を軟化するステップを含む。
【0016】
ろう付けに好適な接合材料は、銀と銅との合金、銀と銅とパラジウムとの合金、金と銅との合金、または金と銅とニッケルとの合金を含む。
【0017】
他の一態様では、本発明は、X線管アノード装置に関する。該X線管アノード装置は、ロジウム、モリブデン、またはタングステンのアノードと、前記アノードの熱膨張係数とマッチする熱膨張係数を有するモリブデン及び/またはタングステンの混合物の熱分散部と、アノードを熱分散部に接合する、金、銀、または金もしくは銀の合金の接合層とを有する。
【0018】
かかるX線管アノード装置は、信頼性がすばらしく、大電力での動作をできる。
【0019】
接合層は厚さが5ないし200μmである金の層であってもよい。
【0020】
あるいは、接合材料は、銀と銅との合金、銀と銅とパラジウムとの合金、金と銅との合金、または金と銅とニッケルとの合金であってもよい。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、上記のX線管アノード装置を有するX線管にも関してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付した図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1】本発明の一実施形態によるX線管アノード装置を示す断面図である。
図2】比較可能な例によるX線管アノード装置の有限要素解析を示す図である。
図3】一実施形態によるX線管アノード装置の有限要素解析を示す図である。
図4】本発明の一実施形態によるX線管アノード装置内の接合部の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照し、X線管アノード装置は、ロジウムが熱分散部4上にマウントされて作られたアノード2を含む。熱分散部の後には、冷却装置8が設けられている。熱分散部4はモリブデンと銅の合金からできており、合金組成は熱膨張係数がロジウムの熱膨張係数とマッチするように選択されている。
【0024】
発明者は、アノードを熱分散部に固定する多くの方法をテストした。金の拡散接合を用いて良い結果が得られた。このように、接合材料の接合層10が、この場合は金であるが、アノード2と熱分散部4との間に設けられ、アノードを熱分散部にしっかりと固定している。
【0025】
接合材料の層は厚さが5ないし200μmであり、幾つかの実施形態では10ないし100μmであり、例えば50μmである。
【0026】
耐腐食材料の層12が熱分散部の後に設けられ、熱分散部4の腐食を防いでいる。耐腐食材料12は例えば金であってもよい。
【0027】
冷却装置6、8は一組の同心管6、8により形成され、外側管6が内側管8の周りにある。管の端は、熱分散部上の耐腐食材料12で閉じられている。冷却剤、例えば脱イオン水を用いて冷却装置中の熱を輸送する。
【0028】
使用時、水は、矢印で示した向きに内側管8に沿ってポンプで流され、熱分散部4上の耐腐食材料12を流れ、熱分散部4から熱を奪い、内側管8と外側管6との間の流路にそって除去される。冷却剤の回路は、ポンプ、フィルタ、熱交換器及びストックバレル(stock barrel)により完結する。これは水を冷却し再循環させる。
【0029】
X線管アノード装置を生産するには、アノード2と熱分散部4を、その間の接合材料10のシートの形式の接合層と一緒にする。アノード2は、次いで、加圧下で(金が溶解しない温度まで)加熱されて、熱分散部4に拡散接合される。これにより拡散接合される。
【0030】
ある実施形態では、拡散接合は700°Cないし950°Cの温度で、例えば、800°Cの温度で、15分ないし200分、例えば120分(2時間)、フォーミングガス雰囲気中で行われた。用いた圧力は10バールないし500バールであってもよく、例えば80バールであってもよい。これより高い圧力を用いても良い。温度と時間との間にはトレードオフの関係があり、例えば、時間を短くするため、より高い温度を使ってもよい。
【0031】
有限要素解析を行い、生産して使用したアノード装置の塑性変形を計算し、銀製熱分散部に取り付けた同じアノードの比較例と比較した。図2図3に示した結果を見られたい。図は変形を示しており、より黒い領域は変形がより大きい領域である。
【0032】
図3を参照して、これは実施形態であるが、塑性変形はほとんど見られない。このアノード装置は、アノード材料の表面にのみ塑性変形があり、熱分散部にはない。これはであれば、X線管の寿命に大きく影響しない。
【0033】
対照的に、図2を参照して、比較例によるアノード装置はアノードだけでなく熱分散部にも塑性変形が起こっている。これは使用するX線管の寿命に大きく影響し得る。
【0034】
具体的にアノード装置の接合部は、
850°Cの高温、
100°C/mmの極端な温度傾斜、
100°C/sの速い温度変化、
10Sv/sの極端な高放射線量、及び
15kV/mmの極端に大きい電場に耐えられた。
【0035】
さらに、図4の顕微鏡写真に示した接合部の断面は、モリブデンと銅の混合物、その上に50μmの金層、その上に最上位層としてロジウムアノードを接合したものを示す。示した結果は、きれいな接合であり、ボイドやクラックは無く、異なる材料間が完全に接触している。
【0036】
プロトタイプのX線管は新しいアノード構造で製作され、比較例と比較して、管故障前電源切り替え(power switches before tube failure)数の2倍の増加に耐えることができた。したがって、本発明により、管の寿命と性能に関して驚くほど良い結果が得られる。
【0037】
このように、発明者は、X線管の極端な動作条件において、信頼できる接合をするため、ロジウム、モリブデンまたはタングステンのアノードを信頼性高く接合する方法を発見した。
【0038】
別の実施形態では、異なるアノード材料が用いられ、具体的には、アノードはモリブデンまたはタングステン製であってもよい。
【0039】
拡散接合の替わりに、ろう付けを用いてもよい。かかる場合には、銅と銀の合金またはパラジウムと銅と銀の合金の金属層を用いても良い。かかる合金はそれぞれ「Cusil」や「Pacusil」として市販されている。
【0040】
アノード、熱分散部、または両方を、ろう付け前に、ニッケルや金の薄いメッキ層でコーティングしておいても有利であり得る。
図1
図2
図3
図4