(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】リールシート
(51)【国際特許分類】
A01K 87/06 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
A01K87/06 B
(21)【出願番号】P 2017232190
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 一真
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 信広
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-146216(JP,A)
【文献】国際公開第2012/070259(WO,A1)
【文献】特開2003-319738(JP,A)
【文献】特開平06-319420(JP,A)
【文献】米国特許第06067740(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/00-87/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向にブランクが挿通される筒状を呈し、周面の所定部位に形成されたシート面及び当該シート面の上記軸方向一方側に形成された固定フードを有するシート本体と、
当該シート本体の上記軸方向他方側に螺合し、上記固定フードに対向して接離する筒状の可動フード及び当該可動フードを回転自在に支持するナットを有する固定リングとを備えたスクリューシートタイプのリールシートであって、
上記シート本体の上記軸方向他方側の周面に、上記ナットが螺合する雄ネジ部が形成されており、
当該雄ネジ部のうち上記シート面に直交する方向に直交し且つ上記軸方向に直交する方向に、ネジ山が欠損したネジ欠損部が形成され、
上記可動フードの内壁面に、上記可動フードの開口端まで延び且つ上記ネジ欠損部
の底面と面接触して嵌合する
円弧状面を有する肉厚部が形成されており、
上記肉厚部の角部は、上記ネジ欠損部との固着を防止
しつつ円滑にスライドす
べく、当該角部を規定する仮想面が上記可動フードの内部で交差する
一対のC面を有するリールシート。
【請求項2】
上記肉厚部の周方向の長さは、上記可動フードの内周長に対して1/4に設定されている請求項1に記載のリールシート。
【請求項3】
上記肉厚部の上記ネジ欠損部と対向する面は、上記ネジ欠損部の表面の曲率に対応した曲面に形成されている請求項1又は2に記載のリールシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣用リールを着脱自在に保持するリールシートの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる延べ竿を除き、釣竿は、一般に釣用リールを装着するためのリールシートを備えている。リールシートの仕様は、大きく分けて2つあり、一つはジャストシートタイプであり、他はスクリューシートタイプである。いずれの仕様においても、リールシートは、リールシート本体に固定された固定フード及びこれに対して相対的に接離する可動フードを備えており、これらによって釣用リールの脚が挟持されるようになっている。
【0003】
スクリューシートタイプのリールシートでは、可動フードは、リールシート本体に螺合されたナットに装着されている。このナットが回転することにより、可動フードが固定フードに対して接離する。スクリューシートタイプのリールシートは、釣用リールの脚をより強力に挟持することができるという利点がある一方で、上記ナットがリールシート本体の外側に螺合されるので、リールシートの外形寸法、特に可動フードの外形寸法が大きくなる。
【0004】
リールシートは、釣人が把持するグリップを兼ねるので、リールシート本体及び可動フードの外形形状は、釣人にとって握りやすい最適設計が要請される。そのため、従来からさまざまな改良が施されている(たとえば、特許文献1~特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-46584号公報
【文献】特開2013-16218号公報
【文献】特開2014-11975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リールシートの握りやすさを追求した場合、リールシート本体及び可動フードの断面形状は、全体として縦長の楕円状に近くなる。すなわち、釣人がリールシートを握り込んだ状態で、いわゆる掌が当接する面を上面とすれば、上記断面形状は、上下方向(縦方向)の寸法が大きくなり、左右方向(上下方向及びリールシートの軸方向の双方に直交する方向:横方向)の寸法が小さくなる。特に、この左右方向の寸法を小さくすることは、可動フードの最適設計にとって重要である。
【0007】
ところで、可動フードはリールシート本体の外側に嵌められるものであるから、内径寸法の最小値に制約がある。したがって、可動フードの外形寸法が抑えられると、特に左右方向の肉厚がきわめて薄くなり、剛性や機械的強度が不足するという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、釣用リールの脚を確実に保持することができ、且つ釣人にとって握りやすいリールシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明に係るリールシートは、軸方向にブランクが挿通される筒状を呈し、周面の所定部位に形成されたシート面及び当該シート面の上記軸方向一方側に形成された固定フードを有するシート本体と、当該シート本体の上記軸方向他方側に螺合し、上記固定フードに対向して接離する筒状の可動フード及び当該可動フードを回転自在に支持するナットを有する固定リングとを備えており、いわゆるスクリューシートタイプのリールシートである。上記シート本体の上記軸方向他方側の周面に、上記ナットが螺合する雄ネジ部が形成されている。当該雄ネジ部のうち上記シート面に直交する方向に直交し且つ上記軸方向に直交する方向に、ネジ山が欠損したネジ欠損部が形成され、上記可動フードの内壁面に、上記可動フードの開口端まで延び且つ上記ネジ欠損部に嵌合する肉厚部が形成されている。上記肉厚部の角部は、上記ネジ欠損部との固着を防止するための面取加工がなされている。
【0010】
この構成によれば、釣用リールの脚が上記シート面に載置され、固定フード及び固定リングにより挟持される。可動フードの肉厚部がシート本体に設けられたネジ欠損部に嵌合しているので、固定リングが操作された場合(すなわちナットが回転された場合)に、ナットの回転と共に可動フードが回転することが防止される。
【0011】
上記ネジ欠損部は、上記ナットが螺合する雄ねじ部のネジ山の一部を取り除いたものであるから、上記可動フードの回転防止を行うためにシート本体の外径が拡大することはない。すなわち、たとえば上記可動フードの回転防止のためにシート本体にキー溝が形成されると、当該キー溝を形成するためにシート本体の肉厚を余分に確保しなければならず、当該シート本体の外径が大きくなってしまうが、上記構成ではそのようなおそれがない。シート本体の拡径が抑えられるから可動フードの左右方向の外形寸法も抑えられる。さらに、上記肉厚部は、シート本体の雄ネジ部のうち上記シート面に直交する方向に直交し且つ上記軸方向に直交する方向、つまり上記シート面に直交する方向を上下方向(縦方向)とした場合の左右方向(横方向)に配置されているから、上記シート本体の外径並びに可動フードの左右方向の外形寸法が抑えられつつ、当該可動フードの横方向の肉厚寸法が大きく設定され得る。上記肉厚部の角部は面取加工がなされているので、たとえばリールシートに曲げモーメントが作用した場合(典型的には実釣において魚がヒットした場合)でも可動フードがシート本体に固着することがなく、円滑なスライドが可能となる。
【0012】
(2) 上記肉厚部の周方向の長さは、上記可動フードの内周長に対して1/12~1/6に設定されているのが好ましい。
【0013】
この構成では、可動フードの必要且つ十分な剛性が確保される。
【0014】
(3) 上記肉厚部の上記ネジ欠損部と対向する面は、上記ネジ欠損部の表面の曲率に対応した曲面に形成されているのが好ましい。
【0015】
この構成では、シート本体と可動フードとが面接触する。したがって、両者間にがたつきが生じることがなく、リールシート全体の剛性が向上し、可動フードの円滑なスライドが実現される。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、固定ナットの可動フードの左右方向(横方向)の寸法が抑えられるから、釣人にとって握りやすいリールシートが設計され得る。しかも、上記可動フードの左右方向(横方向)の肉厚が大きく設定されることにより可動フードの剛性が確保され、釣用リールの脚が確実に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るリールシート10の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るシート本体12の拡大斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るシート本体12の拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、シート本体12の側面(a)、背面(b)、側面(c)、正面(d)を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る固定ナット16の斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る可動フード15の拡大斜視図である。
【
図8】
図8は、
図6におけるVIII-VIII断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されながら説明される。なお、本実施の形態は、本発明に係るリールシートの一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0019】
1.概略とポイント
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るリールシート10の外観斜視図である。同図は、リールシート10が釣竿を構成するブランク11に装着されている状態を示している。
【0021】
このリールシート10は、上記ブランク11に装着され、釣用リールの脚を固定する。リールシート10は、シート本体12と固定リング13とを有し、いわゆるスクリューシートタイプである。固定リング13は、締付ナット16(特許請求の範囲に記載された「ナット」に相当)及び可動フード15を有する。締付ナット16は、シート本体12に螺合されており、回転されることによって軸方向20(ブランク11の中心軸21に沿う方向)にスライドする。可動フード15及び締付ナット16は、軸方向20に沿って並設されている。可動フード15は、締付ナット16に対して軸方向20を中心として回動自在に設けられており、且つ図示されていない回り止め構造を介してシート本体12と係合している。したがって、締付ナット16が回転操作された場合に、可動フード15は、締付ナット16と共に回転することが規制されつつ軸方向20にスライドする。
【0022】
シート本体12に固定フード14が設けられており、可動フード15と対向配置されている。締付ナット16が操作されると、可動フード15は軸方向20にスライドし、固定フード14に対して相対的に接離する。釣用リールの脚は、シート面17に当接された状態で固定フード14及び可動フード15によって挟持される。
【0023】
釣人は、実釣において釣用リールが装着されたリールシート10を把持し、釣竿を操作する。このとき、釣人の指は、シート本体12の周面に巻き付くように当接される。本実施形態に係るリールシート10の特徴とするところは、可動フード15の構造及び当該可動フード15とシート本体12との連結構造である。可動フード15が後述の構造を備えていることにより、釣人の手がリールシート10に対して違和感なく馴染み且つ釣用リールの脚が可動フード15によって確実に保持されるようになっている。以下、シート本体12及び固定リング13について詳述される。
【0024】
2.シート本体
【0025】
図2及び
図3は、シート本体12の拡大斜視図である。
図3は、
図2において中心軸21を中心にシート本体12が180°(degree)だけ回転された状態を示す。
図4は、シート本体12の側面(a)、背面(b)、側面(c)、正面(d)を示す図である。
【0026】
シート本体12は、全体として筒状を呈し、中心に円形の孔22が貫通形成されている。すなわち、シート本体12の外周面形状は後述のように複雑であるが、内周面23の形状は、ブランク11の外径に対応した円形である。シート本体12は、把持筒24及び螺合筒25を有し、これらは樹脂(ポリアミド(PA:ナイロン)のほか、炭素繊維にて強化された樹脂)により一体的に形成されている。本実施形態では、シート本体12の表面にウレタン塗装が施されている。塗装に用いられる塗料は、いわゆるウレタン系塗料であればよい。把持筒24は、ブランク11の前側43(特許請求の範囲に記載された「軸方向一方側」に相当)に配置され、螺合筒25は後側に配置されている。
【0027】
把持筒24の周面にシート正面部26(特許請求の範囲に記載された「シート本体の周面の所定部位」に相当)が配置されている。シート正面部26は、
図2において上側に位置する。このシート正面部26に上記シート面17が形成されている。このシート面17は平坦面であり、釣用リールの脚が安定して載置される。
図3が示すように、上記シート正面部26の反対側にシート背面部27が設けられている。このシート背面部27は、シート本体12の径方向外方(同図において上方)に膨らんだ曲面を有する。したがって、把持筒24の断面形状は、いわゆる小判形を呈する。
【0028】
図2が示すように、シート正面部26の前側43(特許請求の範囲に記載された「軸方向一方側」に相当)に上記固定フード14が設けられている。固定フード14は、シート正面部26と一体的に形成され、同図において上方に隆起している。固定フード14は、シート正面部26の端部(前端部)を覆う袋状に形成され、上記釣用リールの脚の一方側を収容し保持する。
【0029】
上記第1曲面18は、上記シート面17に連続している。具体的には、当該シート面17の側縁28、29に連続して形成されている。各第1曲面18は、それぞれ、上記側縁28、29から上記シート背面部27側に展開しており、上記中心軸21に対して径方向に対称に配置されている。
図4(a)(d)が示すように、第1曲面18は、シート背面部27からシート正面部26に向かって絞り込まれるように(シート本体12の径方向寸法を漸次縮小するように)形成されている。
【0030】
上記第2曲面19は、シート本体12の前側部位30に連続している。
図2が示すように、この前側部位30は、固定フード14に連続してシート本体12の前端31に至るまでの領域であり、隆起した固定フード14の頂部から上記前端31に向かって滑らかに傾斜し、且つ周方向に緩やかな弧を描くように湾曲している。
【0031】
この前側部位30の一対の側縁37(本実施形態では仮想的な側縁)に、一対の第2曲面19が連続している。各第2曲面19は、シート背面部27側へ展開している。一対の第2曲面19は、上記第1曲面18と同様に、上記中心軸21に対して径方向に対称に配置されている。
図4(c)(b)が示すように、第2曲面19は、シート背面部27からシート正面部26に向かって径方向に凸となる弧を描くように湾曲している。
【0032】
上記第1曲面18は、前述のようにシート背面部27からシート正面部26に向かって絞り込まれるように形成されているのに対して、上記第2曲面19は、シート背面部27からシート正面部26に向かって径方向に凸となる弧を描くように湾曲していることから、両曲面18、19が接する部位に稜線31が形成され、当該稜線31を境にして第1曲面18は、第2曲面19に対して屈曲された状態(不連続)となっている。この稜線31は、固定フード14から軸方向20の後向き60(矢印43が示す向きと反対向き:特許請求の範囲に記載された「軸方向他方向き」に相当)に延び且つシート背面部27に回り込むように延びている。
【0033】
第1曲面18及び第2曲面19に凸条32が形成されている。第1曲面18に15本の凸条32が設けられ、第2曲面19に16本の凸条32が設けられている。各凸条32は、規則的に整列され、上記稜線31に沿って互いに平行に且つ中心軸21に対して傾斜して延びている。具体的には、第1曲面18に設けられた凸条32の幅寸法は、0.3mm、間隔(ピッチ)は、1.0mm程度に設定されている。各凸条32の長さ寸法は、10mm~50mmに設定され、各凸条32の長手方向と中心軸21とが成す角度は5°(degree)~25°に設定されている。第1曲面18に設けられた凸条32は、側縁28、29から軸方向20の後ろ向きに延び、中心軸21と鋭角的に交差している。同様に、第2曲面19に設けられた凸条32も軸方向20の後ろ向きに延び、中心軸21と鋭角的に交差している。各凸条32の幅寸法は上記寸法に限定されるものではなく、0.1mm~0.5mmの範囲に設定され、上記ピッチは0.5mm~5.0mmの範囲に設定される。
【0034】
上記凸条32の外形形状については、本実施形態では、その断面形状が台形となるように形成されている。ただし、凸条32の断面形状は特に限定されるものではなく、たとえば三角形その他の多角形であってもよい。この凸条32が設けられることによる作用効果は後述される。また、本実施形態では、上記第1曲面18及び第2曲面19に凸条32が形成されているが、凸条32に代えて、凹条が設けられていてもよい。
【0035】
図3が示すように、シート背面部27を構成する曲面と、第2曲面19との境界に、一対の溝41が形成されている。各溝41は、中心軸21を中心にして対称に配置されている。溝41は、把持筒24の前端から後端に向かって曲線的に延びている。この溝41の幅寸法は2.0mm~4.0mmに設定され、深さ寸法は、1.0mm程度に設定される。
【0036】
螺合筒25は、筒状を呈し、把持筒24の後端側に連続して設けられている。螺合筒25は、円筒部33及び連結部34を備えており、連結部34は、円筒部33と把持筒24の後端とを連続している。
図3が示すように、連結部34は、把持筒24から略台形状に突出する部位35を有し、当該部位35によって、可動フード15が把持筒24に確実に嵌合することができるようになっている(
図1参照)。
【0037】
円筒部33の外周面に雄ネジ36(特許請求の範囲に記載された「雄ネジ部」に相当)が形成されている。締付ナット16(
図1参照)は、この雄ネジ36と螺合する。この雄ネジ36のネジ山が円筒部33の周方向の3カ所において欠損されている。具体的には、
図2が示すように、円筒部33の上側部分(上記シート面17から軸方向20の後ろ向きに隣接する部分)及び側方部(上記第1曲面18から軸方向20の後ろ向きに隣接する部分)においてネジ山が欠損している。これにより、当該部分に溝38、39、40(特許請求の範囲に記載された「ネジ欠損部」に相当)が形成されている。本実施形態では、円筒部33の3カ所に溝38~40が設けられているが、当該3カ所以上に設けられていてもよいし、溝39、40のみが設けられていてもよい。
【0038】
各溝38~40は、円筒部33の軸方向20に沿って延びている。溝38の幅寸法W1は、5.0mm、溝39、40の幅寸法W2は7.0mmに設定されている(
図4参照)。各溝38~40の幅寸法W1、W2は上記寸法に限定されるものではなく、溝38の幅寸法W1は3.0mm~6.0mm、溝39、40の幅寸法W2は、5.0mm~10.0mmに設定され得る。この溝38~40は、前述のように雄ネジ36のネジ山が取り除かれることにより形成されており、このため、溝38~40の底面は、円弧状を呈する。したがって、円筒部33の肉厚は、周方向において一定である。なお、本実施形態では、溝39、40の幅寸法は同一(W2)であるが、各溝39、40の幅寸法が異なっていてもよい。
【0039】
3.固定ナット
【0040】
【0041】
前述のように、固定リング13は、可動フード15と締付ナット16とを有する。両者は、連結部位42において中心軸21の軸方向に沿って連結されている。可動フード15は、締付ナット16に対して中心軸21を中心にして回転自在である。両者の連結構造は既知であり、たとえば、締付ナット16の内周面を周回するように形成されたスライド溝に、可動フード15に設けられた突起(径方向に突出する爪等)が係合する構造が採用され得る。締付ナット16は、アルミニウム合金その他の金属から構成され得る。図示されていないが、締付ナット16の内周面に雌ネジが形成されており、この雌ネジが上記シート本体12の雄ネジ36(
図2参照)と螺合する。
【0042】
可動フード15は、樹脂又は金属からなる。可動フード15は、シート本体12を構成する樹脂と同一の材料から構成されるのが好ましい。可動フード15もシート本体12と同様にウレタン塗装が施されている。可動フード15の前端に収容部50が形成されている。この収容部50に釣用リールの脚が収容され、保持される。
【0043】
図6は、可動フード15の拡大斜視図である。
図7は、
図6におけるA矢視図及びB矢視図であり、それぞれ(a)(b)で表される。
図8は、
図6におけるVIII-VIII断面図である。
【0044】
可動フード15は、全体として筒状を呈し、前側43に小判形の開口44が形成され(
図6、
図7(a))、後ろ向き60に円形の開口45が形成されている(同図(b))。可動フード15の後端の外径(開口45が形成された端部の外径)は、締付ナット16の外径に対応している(
図5参照)。このため、上記連結部位42に段差がなく、固定フード15と締付ナット16は軸方向20に沿って滑らかに連続するように連結されている。
【0045】
他方、可動フード15の開口44の外形形状は、シート本体12の把持筒24の後端46(
図3参照)の外形形状に対応している。したがって、
図6及び
図7が示すように、可動フード15の後端側部位の外形形状は円筒状を呈し、前側43に向かって縦方向47(上記シート正面部26及びシート背面部27に直交する方向:
図2、
図3における上下方向)の寸法が漸次拡大している。また、可動フード15の後端側部位から前側43に向かって、横方向48(上記一対の第1曲面18に直交する方向:
図2、
図3参照)の寸法が漸次縮小している。
【0046】
つまり、可動フード15の外形形状は、後端側部位から前側43に向かって縦方向47に拡大すると共に横方向48に絞り込まれるように縮小している。このように、可動フード15が縦方向47に拡大することにより、釣人がリールシート10を握った際に、シート背面部27及び可動フード15の縦方向47の下面49が母指球及び掌になじむように当接すると共に、指が第1曲面18になじむように巻き付く(
図1参照)。また、可動フード15の縦方向47の上面51は、上方に向かって膨出している。これにより、上記収容部50が形成されている。
【0047】
図7及び
図8が示すように、可動フード15の内壁面55の3カ所に肉厚部52~54が設けられている。これら肉厚部52~54は、上記内壁面55が内側に盛り上がるようにして形成されている。肉厚部52並びに肉厚部53、54は、それぞれ、同図において縦方向47の上側並びに横方向48の左右側に設けられている。つまり、肉厚部52は、上記螺合筒25の溝38の位置と合致し、肉厚部53、54は、それぞれ、上記螺合筒25の溝40、39の位置と合致している(
図2参照)。
【0048】
肉厚部52は、
図7及び
図8が示すように一対の角部を有し、当該角部のスパンは、溝38の幅寸法W1に対応している。したがって、肉厚部52の角部は、溝38の隅部56(
図2参照)に当接する。肉厚部53は、
図6が示すように軸方向20に延びる矩形を呈する。肉厚部53の周方向の長さ寸法L1は、上記螺合筒25の溝40の幅寸法W2(
図4参照)に対応している。肉厚部53の内面57(特許請求の範囲に記載された「ネジ欠損部と対向する面」に相当)は、円弧状の曲面である。この内面57の曲率半径は、上記螺合筒25の溝40の底面の曲率半径に対応している(
図2参照)。したがって、溝40の底面と肉厚部53の内面57は、面接触する。肉厚部54は肉厚部53と同様の形状である。したがって、肉厚部54の周方向の長さ寸法L1は、上記螺合筒25の溝39の幅寸法W2(
図4参照)に対応しており、溝39の底面と肉厚部54の内面58は、面接触する。
【0049】
なお、前述のように、溝39、40の幅寸法が異なる場合は、これに対応して上記長さ寸法L1も変更される。また、上記内面57、58が円弧状の曲面でなく、溝40、39の底面と面接触していなくてもよい。さらに、上記長さ寸法L1及び肉厚部52の角部のスパンは、これらの合計が可動フードの内周長に対して1/4になるように設計されている。
【0050】
図6及び
図8が示すように、本実施形態では、肉厚部53、54の角部59に面取加工が施されている。この面取加工は、典型的にはC面加工である。もっとも、この面取加工は省略されていてもよい。
【0051】
4.作用効果
【0052】
本実施形態によれば、釣用リールの脚は、シート面17に載置され、固定フード14及び固定リング13により挟持される。可動フード15の肉厚部52、53、54がシート本体12に設けられた溝38、39、40に嵌合しているので、固定リング13が操作された場合(すなわち締付ナット16が回転された場合)に、締付ナット16の回転と共に可動フード15が回転することが防止される。すなわち、肉厚部52、53、54及び溝38、39、40によって、前述の回り止め構造が構成されている。
【0053】
図2及び
図3が示すように、上記溝38、39、40は、雄ネジ36のネジ山の一部を取り除いたものであるから、可動フード15の回転防止を行うためにシート本体12の外径が拡大することはない。すなわち、たとえば可動フード15の回転防止のためにシート本体12にキー溝が形成される場合、当該キー溝を形成するために円筒部33の肉厚を余分に確保しなければならず、シート本体12の外径も大きくなってしまうが、本実施形態ではそのような問題が生じない。
【0054】
シート本体12の拡径が抑えられることにより、可動フード15の横方向48の外形寸法も抑えられる。さらに、肉厚部53、54は、横方向48に配置されているから、シート本体12の外径並びに可動フード15の横方向の外形寸法が抑えられつつ、可動フード15の横方向48の肉厚寸法は大きくなる。このように、可動フード15の横方向48の寸法が抑えられるから、釣人にとって握りやすいリールシート10がデザインされる。しかも、可動フード15の横方向48の肉厚が大きくなるので、可動フード15の剛性が確保され、釣用リールの脚が確実に保持される。
【0055】
本実施形態では、肉厚部52、53、54の周方向の長さ、すなわち、肉厚部53、54の長さ寸法L1及び肉厚部52の角部のスパンの合計の長さは、可動フード15の後端部の内周長に対して1/4であり、適宜設計変更され得る。このため、可動フード15の必要且つ十分な剛性が確保される。
【0056】
本実施形態では、肉厚部53、54の内面57、58は、溝40、39の底面と面接触するから、シート本体12と可動フード15との間にがたつきが生じることがなく、リールシート10の剛性が向上し、可動フード15の円滑なスライドが実現される。
【0057】
本実施形態では、肉厚部53、54の角部に面取加工が施されているので、たとえば実釣において魚がヒットし、リールシート10に曲げモーメントが作用した場合でも、可動フード15がシート本体12に固着することがなく、円滑なスライドが可能である。
【0058】
さらに、本実施形態によれば、実釣において釣人がリールシート10を握った場合、釣人の手の母指球がシート背面部27に当接し、人差指あるいは中指が一対の第2曲面19に巻き付くように配置され、且つ中指あるいは薬指及び小指が一対の第1曲面18に巻き付くように配置される。第1曲面18と第2曲面19との境界に稜線31が形成されており、隣り合う両曲面18、19が稜線31を境にして不連続となっている。そのため、釣人の各指は、第1曲面18及び第2曲面19になじみ、釣人は、違和感なくシート本体12を握ることができる。したがって、魚がヒットして釣人が釣竿を操作するときは、各指の滑り止め効果が発揮される。なお、本実施形態では、第1曲面18及び第2曲面19の双方に凸条32が形成されているが、第1曲面18及び第2曲面19のうちいずれか一方にのみ凸条32が形成されていてもよい。
【0059】
たとえば、実釣において釣人が釣用リールをオープンベール状態で待機するとき、親指及び人差指でシート本体12を挟持する場合があるが、その場合に、親指及び人差指が第2曲面19に押圧され、各指が凸条32と接する。この凸条32は、軸方向20の後ろ向きに対して鋭角的に交差するように延びているので、釣人の手に対して効果的な滑り止め効果を発揮する。本実施形態では、上記第2曲面19に形成された凸条が上記稜線31に沿って並設されているので、中指、薬指及び小指のより高い滑り止め効果が発揮される。
【0060】
本実施形態では、上記凸条32の幅が0.1mm~0.5mmであり、ピッチが0.5mm~3.0mmであるから、釣人がシート本体12を把持したときは、手ないし指の表面が凸条に確実に食い込み、さらに高い滑り止め効果が発揮される。
【0061】
本実施形態では、シート背面部27が外方に膨出しているので、釣人の手の母指球がより確実にシート背面部27に当接し、安定的に支持される。つまり、釣人にとって、より握りやすいシート本体12となる。
【0062】
本実施形態では、シート背面部27と第2曲面19との境界に溝41が形成されているので、釣人がシート本体12を把持したときは、いわゆる掌が溝41に食い込む。これにより、なお一層高い滑り止め効果が発揮される。
【0063】
本実施形態では、シート本体12にウレタン塗料が塗布されているので、釣人にとって握り心地が向上する。
【符号の説明】
【0064】
10・・・リールシート
11・・・ブランク
12・・・シート本体
13・・・固定リング
14・・・固定フード
15・・・可動フード
16・・・締付ナット
17・・・シート面
20・・・軸方向
21・・・中心軸
24・・・把持筒
25・・・螺合筒
26・・・シート正面部
27・・・シート背面部
33・・・円筒部
36・・・雄ネジ
37・・・側縁
38・・・溝
39・・・溝
40・・・溝
41・・・溝
44・・・開口
45・・・開口
52・・・肉厚部
53・・・肉厚部
54・・・肉厚部
55・・・内壁面
57・・・内面
58・・・内面
60・・・後ろ向き