(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20221011BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20221011BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20221011BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L51/06
C08K5/56
C08K5/07
(21)【出願番号】P 2018033793
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇貴
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218517(JP,A)
【文献】特開2014-193944(JP,A)
【文献】特開2002-146150(JP,A)
【文献】特開2004-098635(JP,A)
【文献】特開平11-248046(JP,A)
【文献】特開2014-133848(JP,A)
【文献】特開2008-075091(JP,A)
【文献】特開平08-134319(JP,A)
【文献】特開平05-031863(JP,A)
【文献】特開2004-160755(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093266(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
C08L 51/06
C08K 5/56
C08K 5/07
B29C 48/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分
および下記の(B)成分を含有するポリエチレン樹脂組成物の架橋体からな
り、上記ポリエチレン樹脂組成物全体の50重量%以上が(A)成分であることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブ。
(A)フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂。
(B)アルミニウム系架橋触媒。
【請求項2】
上記(A)成分における、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂の溶融粘度が、1000~3000Pa・sである、請求項1記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項3】
上記(B)成分が、アルミニウムトリスアセチルアセトナートである、請求項1または2記載の自動車用冷却システム用チューブ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法であって、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で備えていることを特徴とする自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
[I]下記(A)成分
および下記の(B)成分を含有するポリエチレン樹脂組成物
であって、上記ポリエチレン樹脂組成物全体の50重量%以上が(A)成分であるポリエチレン樹脂組成物を、チューブ状に溶融押出成形し、未架橋チューブを得る工程。
(A)フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂。
(B)アルミニウム系架橋触媒。
[II]上記未架橋チューブを、40~95℃、湿度50~100RH%の条件下で、0.5~24時間、湿熱処理する工程。
[III]上記湿熱処理後のチューブを、100~120℃で5~60分間、乾熱処理する工程。
【請求項5】
上記工程[I]により得られた未架橋チューブを曲げて、曲げ型に嵌めた後、上記工程[II]を行う、請求項4記載の自動車用冷却システム用チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内の冷却システムの配管に用いられる、自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン車内の冷却システムの配管材料には、強度や耐熱性に優れることから、ポリアミド樹脂が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
また、電気自動車内の冷却システムの配管材料にも、従来、ガソリン車と同様のポリアミド樹脂が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリアミド樹脂からなるチューブは、耐加水分解性に劣るという問題がある。
【0005】
一方で、耐加水分解性に優れる樹脂として、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の樹脂を、上記チューブの材料に採用することも検討されている。しかしながら、PPSは高価であるため、その使用に制限が課される傾向にある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストで、耐加水分解性と強度等との両立が実現できる、自動車用冷却システム用チューブおよびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)成分を主成分とし、下記の(B)成分を含有するポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなる自動車用冷却システム用チューブを第一の要旨とする。
(A)フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂。
(B)アルミニウム系架橋触媒。
【0008】
また、本発明は、上記第一の要旨の自動車用冷却システム用チューブの製造方法であって、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で備えている自動車用冷却システム用チューブの製造方法を第二の要旨とする。
[I]下記(A)成分を主成分とし、下記の(B)成分を含有するポリエチレン樹脂組成物を、チューブ状に溶融押出成形し、未架橋チューブを得る工程。
(A)フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂。
(B)アルミニウム系架橋触媒。
[II]上記未架橋チューブを、40~95℃、湿度50~100RH%の条件下で、0.5~24時間、湿熱処理する工程。
[III]上記湿熱処理後のチューブを、100~120℃で5~60分間、乾熱処理する工程。
【0009】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、自動車用冷却システム用チューブの材料として当然に要求される防水性を備えつつ、材料費が安く、耐加水分解性の高い材料として、ポリエチレン樹脂を使用することを検討した。しかしながら、ポリエチレン樹脂からなるチューブは、強度に乏しく、例えば、自動車用冷却システム用チューブとして実際に使用した際にかかる内圧(水圧)により、亀裂進展に至る懸念がある。また、ポリエチレン樹脂は、耐熱性能や低温脆性が悪く、このことが、自動車用冷却システム用チューブの材料として従来使用されてこなかった一因でもある。そこで、本発明者らは、これらの問題を解決するため、上記ポリエチレン樹脂として、高結晶性を示す、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂(A)を使用し、チューブ強度を高めることを検討した。しかしながら、上記のような特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)を使用した場合であっても、その架橋密度が適正でないと、自動車用冷却システム用チューブとして実使用に耐えうるほどの強度等を得ることができないことが、各種実験により明らかとなった。すなわち、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)の架橋密度が高過ぎると、結晶性を低下させることから、低温脆性を悪化させる等の問題が生じ、逆に、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)の架橋密度が低過ぎても、チューブ強度を低下させる問題が生じた。そこで、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)に対して適正な架橋密度を示し得る架橋触媒を見いだすべく、各種実験を行った。その結果、アルミニウム系架橋触媒(B)を、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)に対して使用したときに、自動車用冷却システム用チューブとして実使用に耐えうるほどの強度等を得ることができたことから、これにより、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
なお、シラングラフトポリエチレン樹脂の架橋触媒として従来から多用されている有機錫を、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)に使用した場合、架橋密度が高過ぎ、良好な低温脆性評価を得ることができなかった。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂(A)を主成分とし、アルミニウム系架橋触媒(B)を含有するポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなるものである。そのため、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、防水性、耐熱性等といった、自動車用冷却システム用チューブの基本性能を備えつつ、低コストで、耐加水分解性と強度等との両立を実現することができる。また、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、軽量であることから、自動車の軽量化に寄与することもできる。さらに、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、環境懸念物質として知られる有機錫を含まないため、環境面の上でも有用である。
【0011】
特に、上記(A)成分における、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂の溶融粘度が、1000~3000Pa・sであると、架橋密度がより適正となり、亀裂進展の抑制効果等に、より優れるようになる。
【0012】
また、上記(B)成分が、アルミニウムトリスアセチルアセトナートであると、架橋密度がより適正となり、亀裂進展の抑制効果等に、より優れるようになる。
【0013】
そして、本発明の自動車用冷却システム用チューブの製造方法として、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で行うと、上記のような優れた性能を有する自動車用冷却システム用チューブを、良好に製造することができる。
[I]下記(A)成分を主成分とし、下記の(B)成分を含有するポリエチレン樹脂組成物を、チューブ状に溶融押出成形し、未架橋チューブを得る工程。
(A)フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂。
(B)アルミニウム系架橋触媒。
[II]上記未架橋チューブを、40~95℃、湿度50~100RH%の条件下で、0.5~24時間、湿熱処理する工程。
[III]上記湿熱処理後のチューブを、100~120℃で5~60分間、乾熱処理する工程。
【0014】
特に、上記の自動車用冷却システム用チューブの製造方法において、上記工程[I]により得られた未架橋チューブを曲げて、曲げ型に嵌めた後、上記工程[II]を行うと、曲管状の自動車用冷却システム用チューブを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る自動車用冷却システム用チューブの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0017】
本発明の自動車用冷却システム用チューブは、先に述べたように、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂にエチレン性不飽和シラン化合物がグラフト重合されてなる、シラングラフトポリエチレン樹脂(A)を主成分とし、アルミニウム系架橋触
媒(B)を含有するポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなるものである。ここで「主成分」とは、上記ポリエチレン樹脂組成物としての特性に大きな影響を与える成分のことであり、通常は、上記ポリエチレン樹脂組成物全体の50重量%以上が、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)であるものを示す。そして、上記ポリエチレン樹脂組成物における樹脂成分が、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)のみからなるものであることが、本発明の作用効果を効果的に得る観点から、望ましい。なお、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)以外の樹脂成分を含む場合、その樹脂成分としては、例えば、上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)以外のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体等を、単独でもしくは二種以上併用されたものがあげられる。
また、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、上記ポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなるものであり、通常、
図1に示すような単層構造であるが、必要に応じ、樹脂層や補強糸層を更に積層し、上記ポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなる層を備えた、多層構造のチューブとしてもよい。
【0018】
《シラングラフトポリエチレン樹脂(A)》
上記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)は、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂に、エチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合することにより、得ることができる。
【0019】
上記の、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂とは、酸化クロム化合物を主成分としたいわゆるフィリップス触媒によって、重合されたポリエチレン樹脂のことである。すなわち、本発明では、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂を採用することにより、例えば、チーグラー・ナッタ触媒により重合されたポリエチレン樹脂に比べ、高い分子量を示すとともに、その分子量分布が緩やかなものとなるため、亀裂進展の抑制効果や、耐熱性能や低温脆性評価に優れるようになるといった効果を得ることができる。
また、このような、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂は、その溶融粘度が1000~3000Pa・sであることが、架橋密度がより適正となり、亀裂進展の抑制効果等により優れるようになるため、好ましい。同様の観点から、より好ましくは、上記溶融粘度が2000~3000Pa・sの範囲のポリエチレン樹脂であり、さらに好ましくは、上記溶融粘度が2500~3000Pa・sの範囲のポリエチレン樹脂である。なお、上記溶融粘度は、JIS K 7199に準拠し、キャピラリーレオメーターにより、200℃、せん断速度121sec-1の条件で測定される溶融粘度である。
【0020】
また、上記の、エチレン性不飽和シラン化合物としては、具体的には、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0021】
前記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)は、フィリップス触媒により重合されたポリエチレン樹脂と、エチレン性不飽和シラン化合物を、温度150℃~300℃の条件の下、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物の存在下で溶融混練により得ることができる。すなわち、上記過酸化物の熱分解によりポリエチレン分子鎖の水素が引き抜かれ、ラジカルがポリエチレン分子に転移し、エチレン性不飽和シラン化合物へラジカルが付加することで、シラングラフトポリエチレン樹脂が生成する。
【0022】
なお、上記過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド以外にも、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類や、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド類や、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類や、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウリレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類や、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3,-テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0023】
前記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)における、エチレン性不飽和シラン化合物のグラフト量は、耐亀裂進展性の観点から0.05~20重量%であることが好ましく、同様の観点から、より好ましくは0.1~10重量%の範囲である。
【0024】
また、前記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)の、JIS K 7112に準拠して測定される密度は、耐低温脆性、耐亀裂進展性の観点から、0.935~0.965g/cm3の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)であることが好ましく、より好ましくは、0.94~0.96g/cm3のHDPEである。
【0025】
《架橋触媒(B)》
一方、本発明に用いる架橋触媒(B)としては、先に述べたように、アルミニウム系架橋触媒が使用される。上記架橋触媒は、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。上記架橋触媒は、アルミニウムのカルボン酸塩、有機塩基、無機酸、および有機酸である。具体的には、アルミニウムトリスアセチルアセトナート等が好ましく用いられる。
【0026】
また、上記架橋触媒(B)が、アルミニウムトリスアセチルアセトナートであると、架橋密度がより適正となり、亀裂進展の抑制効果等に、より優れるようになるため、好ましい。そして、上記観点から、上記架橋触媒(B)が、アルミニウムトリスアセチルアセトナートのみからなることが、より好ましい。
【0027】
上記架橋触媒(B)の含有割合は、架橋性等の観点から、前記特定のシラングラフトポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.05~5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1~1.0重量部の範囲である。すなわち、上記架橋触媒(B)の含有量が少なすぎるポリエチレン樹脂組成物により、本発明の自動車用冷却システム用チューブを製造すると、チューブの架橋密度が低くなり、目的とする亀裂進展抑制効果が得られない傾向があり、逆に上記架橋触媒(B)の含有量が多すぎるポリエチレン樹脂組成物により、本発明の自動車用冷却システム用チューブを製造すると、上記チューブの表面肌が荒れるといった押出加工性(成形加工性)の問題等が生じる傾向があるからである。
【0028】
なお、本発明の自動車用冷却システム用チューブの形成材料である上記ポリエチレン樹脂組成物には、上記(A)および(B)の各成分に加えて、カーボンブラック,炭酸カルシウム,タルク等の充填材、衝撃剤、耐候安定剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤などの各種添加剤を、必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0029】
上記ポリエチレン樹脂組成物は、上記各成分を配合したものを混合することにより、調製することができる。
【0030】
そして、上記ポリエチレン樹脂組成物の架橋体からなる、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、例えば、下記の[I]~[III]に示す工程をこの順で行うことにより、良好に製造することができる。
[I]上記ポリエチレン樹脂組成物を、チューブ状に溶融押出成形し、未架橋チューブを得る工程。
[II]上記未架橋チューブを、40~95℃、湿度50~100RH%の条件下で、0.5~24時間、湿熱処理する工程。
[III]上記湿熱処理後のチューブを、100~120℃で5~60分間、乾熱処理する工程。
【0031】
上記工程[I]は、例えば、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機を用いて行うことができる。
【0032】
上記工程[II]の湿熱処理は、シラングラフトポリエチレンのシラノール架橋を進行させることで、分子運動を抑制し亀裂進展を抑える観点から、60~95℃、湿度70~100RH%の条件下で、1~24時間行うことが好ましく、同様の観点及び生産性の観点から、より好ましくは、80~95℃、湿度85~100RH%の条件下で、2~6時間行われる。
【0033】
上記工程[III]の乾熱処理は、チューブ強度をより高める観点から、100~120℃で5~50分間行うことが好ましく、同様の観点から、より好ましくは、100~120℃で5~30分間行われる。
【0034】
また、曲管状の自動車用冷却システム用チューブを製造する場合、上記工程[I]により得られた未架橋チューブを曲げて、曲げ型に嵌めた後、上記工程[II]を行うことにより、曲管状の自動車用冷却システム用チューブを容易に製造することができる。
【0035】
このようにして得られる本発明の自動車用冷却システム用チューブは、その用途上の観点から、内径が1~40mmの範囲であり、厚みが0.25~5mmの範囲であるものが好ましい。
【0036】
そして、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。特に、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、耐熱要求の比較的低い(最大で80℃前後までの耐熱性が要求される)電気自動車や燃料電池自動車用の冷却システム用チューブとして、低コスト化等を実現するうえで、有用である。
【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の実施例について、参考例、比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
まず、実施例、参考例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、下記の材料において、ベースポリエチレン(ベースPE)(1)~(4)の溶融粘度は、JIS K 7199に準拠し、キャピラリーレオメーター(キャピログラフ1D、東洋精機社製)により、200℃、せん断速度121sec-1の条件で測定される溶融粘度を示す。
【0039】
〔ベースPE(1)〕
フィリップス触媒により重合されたHDPE(溶融粘度:2049Pa・s、ノバテックHE122R、日本ポリエチレン社製)
【0040】
〔ベースPE(2)〕
フィリップス触媒により重合されたHDPE(溶融粘度:1646Pa・s、ノバテックHB420R、日本ポリエチレン社製)
【0041】
〔ベースPE(3)〕
フィリップス触媒により重合されたHDPE(溶融粘度:2751Pa・s、ノバテックHB111R、日本ポリエチレン社製)
【0042】
〔ベースPE(4)〕
チーグラー・ナッタ触媒により重合されたHDPE(溶融粘度:455Pa・s、ノバテックHJ580、日本ポリエチレン社製)
【0043】
〔過酸化物〕
ジクミルパーオキサイド(PERKADOX BC-FF、化薬アクゾ社製)
【0044】
〔シラン化合物〕
ビニル-トリス(2-メトキシエトキシシラン)(東京化成工業社製の試薬)
【0045】
〔架橋触媒(1):アルミニウム系架橋触媒〕
アルミニウムトリスアセチルアセトナート(東京化成工業社製の試薬)
【0046】
〔架橋触媒(2):チタン系架橋触媒〕
チタン酸ブチル(東京化成工業社製の試薬)
【0047】
〔架橋触媒(3):ジルコニウム系架橋触媒〕
ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(東京化成工業社製の試薬)
【0048】
〔架橋触媒(4):錫系架橋触媒〕
ジブチル錫ラウレート(東京化成工業社製の試薬)
【0049】
[実施例1~4、参考例1,2、比較例1,2]
後記の表1に示す重量割合および組合せで、ベースPE、過酸化物、およびシラン化合物を混合し、温度180℃の条件の下、溶融混練によりシラングラフトポリエチレン樹脂を調製した。なお、後記の表1に示す「シラングラフトポリエチレン樹脂密度」は、JIS K 7112に準拠して測定された値である。
ついで、上記シラングラフトポリエチレン樹脂に対し、後記の表1に示す重量割合および組合せで、架橋触媒を混合することにより、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。
【0050】
そして、上記のようにして調整されたポリエチレン樹脂組成物を所定の形状に溶融押出成形した後、後記の表1の「湿熱処理」欄に「有」が付されているものに対しては、80℃×湿度95%RH環境下で24時間の湿熱処理を行い、後記の表1の「乾熱処理」欄に「有」が付されているものに対しては、上記湿熱処理の後、120℃で30分間の乾熱処理を行った。
【0051】
このようにして得られた実施例、参考例および比較例の押出成形品(サンプル)に対し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0052】
≪亀裂進展性≫
上記押出成形品(サンプル)より、JIS K6761に準拠した寸法形状のサンプルを採取した。そして、上記サンプルを10個準備し、それらのサンプルに対し、50℃環境下で応力亀裂試験を行った。詳しくは、上記サンプルを、各々、JIS K 6761に準拠する固定治具にサンプル長が70%曲げ圧縮されるように取付けた状態で、ノニルオキシポリフェニルエチレン・エタノール水溶液(10重量%)に浸漬し、50℃環境下で、上記サンプルが5個破壊されるまでの時間を測定する試験を行った。上記試験の結果、上記サンプルが5個破壊されるまでの時間が4000時間を超えるものを「◎」、2000~4000時間のものを「○」、2000時間未満のものを「×」と評価した。
【0053】
≪低温脆性≫
上記押出成形品(サンプル)を、JIS K 7110に準拠した寸法形状のサンプルとした。そして、上記サンプルに対し、JIS K 7110に準拠し、-40℃環境下でのアイゾット衝撃試験を行った。上記試験の結果、アイゾット衝撃値(J/m)が、45J/m未満であるものを「×」、45~65J/mのものを「〇」、65J/mを超えるものを「◎」と評価した。
【0054】
≪成形加工性≫
上記押出成形品(サンプル)を、チューブとした。そして、上記サンプルの表面を目視観察し、表面肌の荒れが全く見られなかったものを「◎」、若干表面肌の荒れが確認されたものの、製品品質に悪影響を与えるほどのものではなかったものを「〇」と評価した。
【0055】
【0056】
上記表の結果より、実施例のサンプルは、いずれも、亀裂進展性試験、低温脆性試験、成形加工性の評価が良好であった。また、実施例のサンプルと同様の材料からなるチューブは、低コスト、耐加水分解性等といった、ポリエチレン樹脂の特性を損なうものではないことが確認された。
【0057】
これに対し、比較例1のサンプルは、架橋触媒として錫系架橋触媒を使用しており、低温脆性試験の結果に劣るものとなった。比較例2のサンプルは、ベースPEとして、チーグラー・ナッタ触媒により重合されたHDPEを使用しており、亀裂進展性試験、低温脆性試験の結果に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース、等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。特に、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、耐熱要求の比較的低い(最大で80℃前後までの耐熱性が要求される)電気自動車や燃料電池自動車用の冷却システム用チューブとして、低コスト化等を図ることができるうえで、有用である。また、本発明の自動車用冷却システム用チューブは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等の冷却用チューブとしても利用可能である。