(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】後輪用ドライブシャフト
(51)【国際特許分類】
F16D 3/20 20060101AFI20221011BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20221011BHJP
F16D 3/223 20110101ALI20221011BHJP
F16D 3/227 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
F16D3/20 K
F16C3/02
F16D3/223
F16D3/227 G
(21)【出願番号】P 2018037350
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017052650
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-278075(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20 - 3/229
F16C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面状の内周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成され、軸心にスプライン穴が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された8個のボールと、前記ボールを収容する8個のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備え、前記外側継手部材のトラック溝の曲率中心と前記内側継手部材のトラック溝の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされた固定式等速自在継手と、
円筒状の内周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成され、軸心にスプライン穴が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された8個のボールと、前記ボールを収容する8個のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備え、前記保持器の外周面に設けられた球面部の曲率中心と前記保持器の内周面に設けられた球面部の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされた摺動式等速自在継手と、
前記固定式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴に嵌合するアウトボード側のスプラインと、前記摺動式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴に嵌合するインボード側のスプラインとを備えた中間シャフトとを有する後輪
専用ドライブシャフトにおいて、
前記固定式等速自在継手及び前記摺動式等速自在継手の最大作動角が20°以下であり、
前記固定式等速自在継手の前記ボールのピッチ円径PCD
BALL(f)と前記ボールの直径D
BALL(f)との比PCD
BALL(f)/D
BALL(f)が3.70~3.87であり、
前記摺動式等速自在継手の前記ボールのピッチ円径PCD
BALL(s)と前記ボールの直径D
BALL(s)との比PCD
BALL(s)/D
BALL(s)が3.3~3.6であり、
前記固定式等速自在継手の前記内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径PCD
SPL(f)と前記ボールの直径D
BALL(f)との比PCD
SPL(f)/D
BALL(f)が1.82~1.92であり、
前記摺動式等速自在継手の前記内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径PCD
SPL(s)と前記ボールの直径D
BALL(s)との比PCD
SPL(s)/D
BALL(s)が1.70~1.85であ
り、
前記固定式等速自在継手の前記保持器の軸方向幅W
C
(f)と前記ボールの直径D
BALL
(f)との比W
C
(f)/D
BALL
(f)が1.63~1.80であり、
前記摺動式等速自在継手の前記保持器の軸方向幅W
C
(s)と前記ボールの直径D
BALL
(s)との比W
C
(s)/D
BALL
(s)が1.8~2.0である後輪
専用ドライブシャフト。
【請求項2】
前記中間シャフトが中空である請求項1に記載の後輪
専用ドライブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の後輪に取り付けられる後輪用ドライブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のドライブシャフトは、車輪に取り付けられるアウトボード側の等速自在継手と、デファレンシャルギヤに取り付けられるインボード側の等速自在継手と、両等速自在継手を連結する中間シャフトとで構成される。通常、アウトボード側の等速自在継手には、大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が使用される。一方、インボード側の等速自在継手には、最大作動角は比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が使用される。
【0003】
ドライブシャフトには、前輪に取り付けられる前輪用ドライブシャフトと、後輪に取り付けられる後輪用ドライブシャフトとがある。前輪用ドライブシャフトの等速自在継手と後輪用ドライブシャフトの等速自在継手とでは要求される特性が異なるが、現状では、量産コスト等の観点から、前輪用ドライブシャフトと後輪用ドライブシャフトとで同じ仕様の等速自在継手が用いられている。
【0004】
一方で、自動車の軽量化の要求は依然として高く、ドライブシャフトを含む動力伝達機構に対しても軽量・コンパクト化が求められている。
【0005】
ドライブシャフトに設けられる代表的な固定式等速自在継手として、ゼッパ型等速自在継手がある。ゼッパ型等速自在継手では、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とが、継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。これにより、ボールが常に作動角の二等分面内に保持され、外側継手部材と内側継手部材との間での等速性が確保される。ゼッパ型等速自在継手は、通常、6個のトルク伝達ボールを有しているが、下記の特許文献1には、ゼッパ型等速自在継手のトルク伝達ボールの数を8個にしたものが示されている。このようにボールの数を8個にすることで、6個のボールを備えたゼッパ型等速自在継手と同等以上の強度、負荷容量、及び耐久性を確保しながら、軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0006】
また、ドライブシャフトに設けられる代表的な摺動式等速自在継手として、ダブルオフセット型等速自在継手がある。ダブルオフセット型等速自在継手では、保持器の外周面に設けられた球面部の曲率中心と保持器の内周面に設けられた球面部の曲率中心とが、継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。これにより、ボールが常に作動角の二等分面内に保持され、外側継手部材と内側継手部材との間での等速性が確保される。ダブルオフセット型等速自在継手は、通常、6個のトルク伝達ボールを有しているが、下記の特許文献2には、ダブルオフセット型等速自在継手のトルク伝達ボールの数を8個にしたものが示されている。このようにボールの数を8個にすることで、6個のボールを備えたダブルオフセット型等速自在継手と同等以上の強度、負荷容量、及び耐久性を確保しながら、軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0007】
また、下記の特許文献3には、後輪用ドライブシャフトが示されている。この後輪用ドライブシャフトでは、中空の中間シャフトの両端部に設けられたスプライン径を大径化することで、中間シャフトの強度に余裕が生じるため薄肉化が可能となり、もって中間シャフトの軽量化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-103365号公報
【文献】特開平10-73129号公報
【文献】特開2012-97797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に示されているような8個のボールを備えたゼッパ型等速自在継手や、上記特許文献2に示されているような8個のボールを備えたダブルオフセット型等速自在継手は、量産品として実用化されている。本発明は、この種の等速自在継手のさらなる軽量・コンパクト化を図ることで、これらを備えた後輪用ドライブシャフトのさらなる軽量・コンパクト化を検討したものである。
【0010】
上記特許文献3で提案された発明は、後輪用ドライブシャフトに用いられる中間シャフトの軽量化及び高強度化を目的としたものである。しかし、同文献には、後輪用ドライブシャフトに設けられる等速自在継手を軽量・コンパクト化するという課題については触れられていない。
【0011】
そこで、本発明が解決すべき課題は、後輪用ドライブシャフトに設けられる等速自在継手の内部仕様を検討することで、後輪用ドライブシャフトのより一層の軽量・コンパクト化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前輪用ドライブシャフトのアウトボード側に設けられる固定式等速自在継手は、操舵輪である前輪に取り付けられるため、最大作動角が大きい(例えば45°以上)。一方、後輪用ドライブシャフトのアウトボード側に設けられる固定式等速自在継手は、操舵されない後輪に取り付けられるため、前輪用ドライブシャフトの固定式等速自在継手よりも最大作動角が小さいもので足りる。従って、固定式等速自在継手を後輪用ドライブシャフト専用とすることで、最大作動角を小さくすることができる。
【0013】
一方、ドライブシャフトのインボード側に設けられる摺動式等速自在継手は、車輪に直接取り付けられるものではないため、車輪の操舵角の影響はほとんど受けない。しかし、摺動式等速自在継手においても、後輪用ドライブシャフト専用とすることで、最大作動角を小さくすることができる。その理由は以下のとおりである。
【0014】
すなわち、車両の前輪付近は、多くの部品が配置されておりスペースに制約があるため、例えば
図14(A)に示すように、前輪FWの軸心とデファレンシャルギヤGの軸心とを車両前後方向にオフセットさせて配置せざるを得ない場合がある。この場合、前輪用ドライブシャフトDS1に設けられる等速自在継手J11,J12は、車両前後方向の常用角(自動車が定速で直進する際の作動角)αが0°ではなく、常に車両前後方向で作動角を取った状態で回転することになる。従って、摺動式等速自在継手J12には、上記の車両前後方向の常用角αと、車体に対する車輪の上下動による上下方向の作動角とが複合的に作用するため、比較的大きな作動角が必要となる。
【0015】
これに対し、車両の後輪付近は、部品の配置スペースに比較的余裕があるため、通常、
図14(B)に示すように、後輪RWの軸心とデファレンシャルギヤGの軸心とが車体前後方向でオフセット無しに近い状態で設けられる。この場合、後輪用ドライブシャフトDS2の等速自在継手J21,J22の車両前後方向の常用角がほぼ0°となるため、後輪用ドライブシャフトDS2に用いられる摺動式等速自在継手J22は、前輪用ドライブシャフトDS1に用いられる摺動式等速自在継手J12よりも小さい作動角で足りる。従って、摺動式等速自在継手を後輪用ドライブシャフト専用とすることで、最大作動角を小さくすることができる。
【0016】
以上のように、後輪用ドライブシャフトでは、アウトボード側の固定式等速自在継手、及び、インボード側の摺動式等速自在継手の双方の最大作動角を小さくすることができる。
【0017】
以上の知見に基づいて、本発明は、球面状の内周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成され、軸心にスプライン穴が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された8個のボールと、前記ボールを収容する8個のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備え、前記外側継手部材のトラック溝の曲率中心と前記内側継手部材のトラック溝の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされた固定式等速自在継手と、円筒状の内周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びる8本のトラック溝が形成され、軸心にスプライン穴が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された8個のボールと、前記ボールを収容する8個のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備え、前記保持器の外周面に設けられた球面部の曲率中心と前記保持器の内周面に設けられた球面部の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされた摺動式等速自在継手と、前記固定式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴に挿入されたアウトボード側のスプラインと、前記摺動式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴に挿入されたインボード側のスプラインとを備えた中間シャフトとを有する後輪用ドライブシャフトにおいて、前記固定式等速自在継手の前記ボールのピッチ円径PCDBALL(f)と前記ボールの直径DBALL(f)との比PCDBALL(f)/DBALL(f)が3.70~3.87であり、前記摺動式等速自在継手の前記ボールのピッチ円径PCDBALL(s)と前記ボールの直径DBALL(s)との比PCDBALL(s)/DBALL(s)が3.3~3.6である後輪用ドライブシャフトを提供する。
【0018】
等速自在継手では、作動角が0°の状態では各ボールに均等に荷重が加わるが、作動角が付くと各ボールには不均等な荷重が加わり、作動角が大きくなるほど各ボールに加わる荷重の差が大きくなる。従って、高作動角の場合には、各ボールに加わる最大荷重が大きくなるため、ボールと接触する部材(外側継手部材、内側継手部材、及び保持器)は、ボールから受ける最大荷重に耐え得るだけの厚い肉厚が要求される。後輪用ドライブシャフトでは、上記のように等速自在継手の最大作動角を小さくすることができるため、ボールに加わる最大荷重が小さくなり、ボールと接触する各部材の強度に余裕が生じる。これにより、負荷容量や耐久性の低下を招くことなく、等速自在継手の各部材の肉厚、例えば内側継手部材の半径方向の肉厚(詳しくは、内側継手部材のトラック溝の溝底とスプライン穴のピッチ円との半径方向距離)を低減することができる。これにより、内側継手部材の外周面に形成されるトラック溝を内径側に寄せることができるため、トラック溝のピッチ円径、すなわち、トラック溝に配されるボールのピッチ円径を、従来品(前輪用ドライブシャフト及び後輪用ドライブシャフトの何れにも適用可能な高作動角の等速自在継手)よりも小さくすることができる。
【0019】
ところで、等速自在継手は多量生産される製品であるため、通常、トルク負荷容量に応じて段階的にサイズが設定され、サイズごとに内部仕様(各部材の寸法や形状等)が設定される(シリーズ化される)。各サイズの等速自在継手の軽量・コンパクト化を図るにあたり、ボール径を小さくすると、ボールとトラック溝との接触部における面圧が上昇するため、トルク負荷容量の低減に直結する。このため、等速自在継手の設計変更を検討する際には、トルク負荷容量を維持するために、ボール数を増やさない限り、ボール径は変更しないことが一般的である。従って、各部材の寸法をボール径に対する比率で表すことで、トルク負荷容量(すなわち、等速自在継手のサイズ)に応じた等速自在継手の内部仕様を表すことができる。上記のように、後輪用ドライブシャフトに設けられる等速自在継手は最大作動角が小さいもので足りるため、ボール径に対する各部位の寸法{具体的には、ボール径に対するボールのピッチ円径(PCDBALL/DBALL)}を従来品よりも小さくすることができ、これにより後輪ドライブシャフト専用の等速自在継手の軽量・コンパクトな新たなシリーズを構築することができる。
【0020】
また、後輪用ドライブシャフトでは、上記のように、等速自在継手の最大作動角を小さくして内側継手部材の半径方向の肉厚を薄くすることができるため、内側継手部材の軸心に設けられたスプライン穴を大径化することが可能となる。これにより、スプライン穴に挿入される中間シャフトが大径化されるため、中間シャフトの捩じり強度が向上する。具体的には、固定式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径PCDSPL(f)とボールの直径DBALL(f)との比PCDSPL(f)/DBALL(f)を1.82~1.92とし、摺動式等速自在継手の内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径PCDSPL(s)とボールの直径DBALL(s)との比PCDSPL(s)/DBALL(s)を1.70~1.85(好ましくは1.75~1.85)とすることができる。
【0021】
後輪用ドライブシャフトでは、固定式等速自在継手及び摺動式等速自在継手の最大作動角を20°以下にすることができる。
【0022】
中間シャフトを中空にすれば、ドライブシャフトのさらなる軽量化が図られる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明では、後輪用ドライブシャフトに設けられる等速自在継手の内部仕様を、従来とは異なる設計思想で設定することにより、トルク負荷容量を維持しながら、等速自在継手の軽量・コンパクト化、ひいては後輪用ドライブシャフトの軽量・コンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】後輪駆動車の動力伝達機構を概略的に示す平面図である。
【
図3】(A)は、上記後輪用ドライブシャフトに組み込まれた摺動式等速自在継手の縦断面図{(B)図のX-X線における断面図}であり、(B)は同横断面図{(A)図の継手中心平面における断面図}である。
【
図4】
図3の摺動式等速自在継手が最大作動角を取った状態を示す縦断面図である。
【
図5】(A)は、上記後輪用ドライブシャフトに組み込まれた固定式等速自在継手の縦断面図{(B)図のY-Y線における断面図}であり、(B)は同横断面図{(A)図の継手中心平面における断面図}である。
【
図6】摺動式等速自在継手の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
【
図7】摺動式等速自在継手の継手中央平面における横断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
【
図8】摺動式等速自在継手の内側継手部材の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
【
図9】(A)は、固定式等速自在継手の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。(B)は、固定式等速自在継手の継手中央平面における横断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
【
図10】固定式等速自在継手の内側継手部材及び保持器の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
【
図11】本発明品に係る固定式等速自在継手が最大作動角(20°)を取った状態を示す断面図である。
【
図12】従来品に係る固定式等速自在継手が最大作動角(47°)を取った状態を示す断面図である。
【
図13】(A)は、本発明品の保持器のポケット面とボールとの接点の軌跡であり、(B)は、従来品の保持器のポケット面とボールとの接点の軌跡である。
【
図14】(A)は、前輪用ドライブシャフトを車幅方向に対して傾けて取り付けた状態を示す平面図である。(B)は、後輪用ドライブシャフトを車幅方向と平行に取り付けた状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に、独立懸架式の後輪駆動車(例えばFR車)の動力伝達機構を示す。この動力伝達機構では、エンジンEから出力された回転駆動力が、トランスミッションM及びプロペラシャフトPSを介してデファレンシャルギヤGに伝達され、そこから左右の後輪用ドライブシャフト1を介して左右の後輪(車輪W)に伝達される。
【0027】
後輪用ドライブシャフト1は、
図2に示すように、インボード側(図中右側)に軸方向変位および角度変位の両方を許容する摺動式等速自在継手2を、アウトボード側(図中左側)に角度変位のみを許容する固定式等速自在継手3をそれぞれ設け、両等速自在継手2,3を中間シャフト4で連結した構造を具備する。インボード側の摺動式等速自在継手2はデファレンシャルギヤGに連結され、アウトボード側の固定式等速自在継手3は車輪Wに連結される(
図1参照)。
【0028】
図3に示すように、摺動式等速自在継手2は、デファレンシャルギヤG(
図1参照)に取り付けられる外側継手部材21と、中間シャフト4(
図2参照)のインボード側端部に取り付けられる内側継手部材22と、外側継手部材21と内側継手部材22との間でトルクを伝達する8個のボール23と、8個のボール23を保持する保持器24とを備える。
【0029】
外側継手部材21は、軸方向一方{アウトボード側、
図3(A)では左側}が開口したカップ状のマウス部21aと、マウス部21aの底部から軸方向他方{インボード側、
図3(A)では右側}に延びるステム部21bとを一体に有する。マウス部21aの円筒状の内周面21cには、軸方向に延びる8本の直線状のトラック溝21dが設けられる。ステム部21bのインボード側端部の外周面には、デファレンシャルギヤG(
図1参照)のスプライン穴に挿入されるスプライン21eが設けられる。尚、マウス部21a及びステム部21bは、同一材料で一体形成する他、これらを別体に形成した後、溶接等により接合してもよい。
【0030】
内側継手部材22の軸心には、中間シャフト4(
図2参照)が挿入されるスプライン穴22cが設けられる。内側継手部材22の球面状の外周面22dには、軸方向に延びる8本の直線状のトラック溝22eが設けられる。すなわち、内側継手部材22は、スプライン穴22cを有する円筒部22aと、円筒部22aから外径に突出した複数の突出部22bとを一体に有し、複数の突出部22bの円周方向間にトラック溝22eが設けられる。複数の突出部22bの外径面が、内側継手部材22の球面状の外周面22dとなる。
【0031】
外側継手部材21のトラック溝21dと内側継手部材22のトラック溝22eとが半径方向で対向して8本のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール23が一個ずつ配される。トラック溝21d,22eの横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状とされ、これにより、トラック溝21d,22eとボール23とは、30~45°程度の接触角をもって接触する、いわゆるアンギュラコンタクトとされる。尚、トラック溝21d,22eの横断面形状を円弧形状とし、トラック溝21d,22eとボール23とをいわゆるサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0032】
保持器24は、ボール23を保持する8個のポケット24aを有する。8個のポケット24aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器24の外周面には、外側継手部材21の円筒状の内周面21cと摺接する球面部24bと、球面部24bの軸方向両端部から接線方向に延びる円すい部24cとが設けられる。円すい部24cは、
図4に示すように摺動式等速自在継手2が最大作動角θを取ったときに、外側継手部材21の内周面21cと線接触して、それ以上作動角が大きくなることを規制するストッパとして機能する。保持器24の軸心に対する円すい部24cの傾斜角度は、摺動式等速自在継手2の最大作動角θの1/2の値に設定される。保持器24の内周面には、内側継手部材22の球面状の外周面22dと摺接する球面部24dが設けられる。保持器24の外周面の球面部24bと外側継手部材21の円筒状の内周面21cとが軸方向に摺動することで、外側継手部材21と内側継手部材22との間の軸方向変位が許容される。
【0033】
図3に示すように、保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O
24bと、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O
24d(すなわち、内側継手部材22の球面状外周面22dの曲率中心)は、継手中心O(s)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O
24bが継手中心O(s)に対してインボード側(継手奥側)にオフセットし、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O
24dが継手中心O(s)に対してアウトボード側(継手開口側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器24で保持されたボール23が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材21と内側継手部材22との間での等速性が確保される。
【0034】
図5に示すように、固定式等速自在継手3は、車輪W(
図1参照)に取り付けられる外側継手部材31と、中間シャフト4(
図2参照)のアウトボード側端部に取り付けられる内側継手部材32と、外側継手部材31と内側継手部材32との間でトルクを伝達する8個のボール33と、8個のボール33を保持する保持器34とを備える。
【0035】
外側継手部材31は、軸方向一方{インボード側、
図5(A)では右側}が開口したカップ状のマウス部31aと、マウス部31aの底部から軸方向他方{アウトボード側、
図5(A)では左側}に延びるステム部31bとを一体に有する。マウス部31aの球面状の内周面31cには、軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝31dが形成されている。各トラック溝31dは、マウス部31aの開口側端面まで延びている。すなわち、外側継手部材31のトラック溝31dとマウス部31aの開口側端面との間には、加工上必要な僅かな面取り部は設けられているが、従来品のように、ボールを組み込むために必要なテーパ面K1{
図9(A)参照}は設けられていない。また、外側継手部材31の内周面31cの開口端には、従来品のように、中間シャフトに当接して固定式等速自在継手の最大作動角を規定するようなテーパ面K2{
図9(A)参照}は設けられていない。ステム部31bの外周面には、車輪W側のスプライン穴に挿入されるスプライン31eが設けられる。尚、マウス部31a及びステム部31bは、同一材料で一体形成する他、これらを別体に形成した後、溶接等により接合してもよい。また、マウス部31a及びステム部31bの軸心に、軸方向の貫通孔を形成してもよい。
【0036】
内側継手部材32の軸心には、中間シャフト4(
図2参照)が挿入されるスプライン穴32cが設けられる。内側継手部材32の球面状の外周面32dには、軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝32eが設けられる。すなわち、内側継手部材32は、スプライン穴32cを有する円筒部32aと、円筒部32aから外径に突出した複数の突出部32bとを一体に有し、複数の突出部32bの円周方向間にトラック溝32eが設けられる。複数の突出部32bの外径面が、内側継手部材32の球面状の外周面32dとなる。
【0037】
外側継手部材31のトラック溝31dと内側継手部材32のトラック溝32eとが半径方向で対向して8本のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール33が一個ずつ配される。トラック溝31d,32eの横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状とされ、これにより、トラック溝31d,32eとボール33とは、30~45°程度の接触角をもって接触する、いわゆるアンギュラコンタクトとされる。尚、トラック溝31d,32eの横断面形状を円弧形状とし、トラック溝31d,32eとボール33とをいわゆるサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0038】
外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dと、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eは、継手中心O(f)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dが、継手中心O(f)に対してインボード側(継手開口側)にオフセットし、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eが、継手中心O(f)に対してアウトボード側(継手奥側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器34で保持されたボール33が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材31と内側継手部材32との間での等速性が確保される。
【0039】
保持器34は、ボール33を保持する8個のポケット34aを有する。8個のポケット34aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器34の球面状の外周面34bは、外側継手部材31の球面状の内周面31cと摺接する。保持器34の球面状の内周面34cは、内側継手部材32の球面状の外周面32dと摺接する。保持器34の外周面34bの曲率中心(すなわち、外側継手部材31の球面状の内周面31cの曲率中心)及び内周面34cの曲率中心(すなわち、内側継手部材32の球面状の外周面32dの曲率中心)は、それぞれ継手中心O(f)と一致している。
【0040】
中間シャフト4は、
図2に示すように、軸方向の貫通孔41を有する中空シャフトを使用することができる。中間シャフト4は、軸方向中央に設けられた大径部42と、軸方向両端に設けられた小径部43と、大径部42と小径部43とを連続するテーパ部44とを備える。中間シャフト4の小径部43には、ブーツ装着用の環状溝45及びスプライン46が設けられる。小径部43の外径は、環状溝45及びスプライン46を除いて一定とされる。尚、中間シャフト4は、中空シャフトに限らず、中実シャフトを使用することもできる。
【0041】
中間シャフト4のインボード側端部のスプライン46は、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22のスプライン穴22cに圧入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材22とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。中間シャフト4のインボード側の端部には環状の凹溝が形成され、この凹溝に止め輪47が装着される。この止め輪47を内側継手部材22のインボード側(軸端側)から係合させることで、中間シャフト4と内側継手部材22との抜け止めが行われる。また、摺動式等速自在継手2の外側継手部材21の外周面と中間シャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ25がブーツバンド(図示省略)により取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材21とブーツ25とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0042】
中間シャフト4のアウトボード側端部のスプライン46は、固定式等速自在継手3の内側継手部材32のスプライン穴32cに圧入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材32とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。中間シャフト4のアウトボード側の端部には環状の凹溝が形成され、この凹溝に止め輪47が装着される。この止め輪47を内側継手部材32のアウトボード側(軸端側)から係合させることで、中間シャフト4と内側継手部材32との抜け止めが行われる。また、固定式等速自在継手3の外側継手部材31の外周面と中間シャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ35がブーツバンド(図示省略)により取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材31とブーツ35とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0043】
上記の摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3は、後輪用ドライブシャフト専用であるため、前輪用ドライブシャフトにも使用可能であった従来品よりも最大作動角を小さく設定することができる。本実施形態では、摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3の最大作動角が、何れも20°以下に設定される。これにより、負荷容量を維持しながら、摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化を図ることが可能となる。以下、摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3の内部仕様について、詳しく説明する。
【0044】
[摺動式等速自在継手の内部仕様]
下記の表1及び
図6~8に、本発明品に係る摺動式等速自在継手2の内部仕様を、ボール径が等しい従来品(最大作動角25°の8個ボールのダブルオフセット型等速自在継手)と比較して示す。尚、
図6~8の上半分は、本発明品に係る摺動式等速自在継手2の断面図であり、下半分は、従来品に係る摺動式等速自在継手2’の断面図である。従来品の各部位には、本発明品の各部位の符号に「’(ダッシュ)」を付した符号を付している。
【0045】
【0046】
上記の各パラメータの定義は以下のとおりである。
【0047】
(1)ボールPCD(ボールのピッチ円径)PCDBALL(s):外側継手部材21の軸心又は内側継手部材22の軸心とボール23の中心との距離の2倍の値である。すなわち、作動角0°の状態で、全てのボール23の中心を通る円の直径である。
(2)内輪幅(内側継手部材の軸方向幅)WI(s):内側継手部材22の最大軸方向寸法であり、図示例では内側継手部材22の両端面間の軸方向距離である。
(3)内輪肉厚(内側継手部材の半径方向の肉厚)TI(s):継手中心平面P(s){継手中心O(s)を通り、軸線と直交する平面}におけるトラック溝22eの溝底とスプライン穴22cのピッチ円との半径方向距離である。尚、図示例では、内側継手部材の半径方向の肉厚が軸方向で一定となっている。
(4)スプラインPCD(内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径)PCDSPL(s):内側継手部材22のスプライン穴22cと中間シャフト4のスプライン46との噛み合いピッチ円の直径である。
(5)外輪外径DO(s):外側継手部材21の最大外径である。
(6)保持器幅WC(s):保持器24の最大軸方向寸法であり、図示例では保持器24の両端面間の軸方向距離である。
【0048】
以下、上記のような内部仕様に至った設計思想を詳しく説明する。
【0049】
摺動式等速自在継手2では、作動角が大きくなるほど各ボール23に加わる最大荷重が大きくなるため、上記のように最大作動角を小さくすることで、各ボール23に加わる最大荷重が小さくなる。これにより、ボール23と接触する内側継手部材22の強度に余裕が生じ、内側継手部材22の半径方向の肉厚を薄くすることができるため、内側継手部材22の外周面を小径化することができる。これにより、内側継手部材22の外周面に形成されたトラック溝22eを内径側に寄せることができるため、内側継手部材22のトラック溝22eのピッチ円径、すなわち、トラック溝22eに配されるボール23のピッチ円径を従来よりも小さくすることができる{PCDBALL(s)<PCDBALL(s)’、上記表1の(1)参照}。これにより、負荷容量や耐久性の低下を招くことなく、摺動式等速自在継手2を半径方向にコンパクト化して、軽量化を図ることができる。
【0050】
従来品は最大作動角が大きいため、保持器24’のポケット24a’の周方向長さが大きく、このポケット24a’の周方向長さを確保するために保持器24’の径を大きくする必要があった。このため、保持器24’の内周面と摺接する内側継手部材22’の外周面が大径となり、その結果、内側継手部材22’が強度上必要とされる以上の過剰な肉厚を有していた。これに対し、本発明品では、上記のように最大作動角を小さくすることで、保持器24に対するボール23の周方向移動量が小さくなるため、保持器24の各ポケット24aの周方向寸法を縮小することができる(Lp<Lp’)。これにより、ポケット24a間の柱部24eの周方向寸法を維持しながら(Lc≒Lc’)、保持器24を小径化して、保持器24の内周面の球面部24dと摺接する内側継手部材22の外周面22dを小径化することができる(
図7参照)。その結果、内側継手部材22を薄肉化して、強度上必要とされる最低限の肉厚とすることができ{T
I(s)<T
I(s)’、上記表1の(3)参照}、上記のようにボール23のピッチ円径を小さくして摺動式等速自在継手2を半径方向にコンパクト化することが可能となる。
【0051】
摺動式等速自在継手2の最大作動角を小さくすることで、上記のように各ボール23に加わる最大荷重が小さくなるため、ボール23と接触する保持器24の強度に余裕が生じる。これにより、従来品と同等の耐久性を維持しながら、保持器24の軸方向両端に設けられた環状部の軸方向の肉厚を薄くすることができるため、保持器24全体の軸方向幅を縮小して軽量化を図ることができる{WC(s)<WC(s)’、上記表1の(6)参照}。
【0052】
摺動式等速自在継手2の最大作動角を小さくすることで、保持器24の外周面の円すい部24cの軸心に対する角度を小さくすることができ、本実施形態では10°以下にすることができる。これにより、保持器24の薄肉部の肉厚(例えば、継手開口側端部における肉厚TC)を厚くすることができるため、保持器24の強度を高めることができる。
【0053】
摺動式等速自在継手2の最大作動角を小さくすることで、上記のように内側継手部材22の半径方向の肉厚TIを減じることができるため、内側継手部材22のスプライン穴22cを大径化することができる{PCDSPL(s)>PCDSPL(s)’、上記表1の(4)参照}。これにより、スプライン穴22cに挿入される中間シャフト4を大径化して、捩じり強度を高めることができる。また、摺動式等速自在継手2の最大作動角を小さくすることで、上記のようにボール23のピッチ円径を縮小することができるため、外側継手部材21を小径化することができる。以上より、本発明品では、外側継手部材21の外径DO(s)と内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径PCDSPL(s)との比DO(s)/PCDSPL(s)を、従来品よりも小さくすることができる{DO(s)/PCDSPL(s)<DO(s)’/PCDSPL(s)’、上記表1の(5)参照}。これにより、摺動式等速自在継手2の軽量・コンパクト化と、中間シャフト4の強度向上とを同時に達成することができる。
【0054】
摺動式等速自在継手2の最大作動角を小さくすると、内側継手部材22に対するボール23の軸方向移動量が小さくなる。具体的には、
図8に示すように、最大作動角が小さい本発明品は、最大作動角が大きい従来品よりも、内側継手部材22のトラック溝22eとボール23との接点軌跡の軸方向長さ(トラック有効長さ)が短い(Z
I<Z
I’)。これにより、本発明品では、内側継手部材22のトラック溝22eの軸方向長さ、ひいては内側継手部材22全体の軸方向幅を、従来品よりも短くすることができる{W
I(s)<W
I(s)’、上記表1の(2)参照}。
【0055】
しかし、内側継手部材22の軸方向幅を小さくしすぎると、内側継手部材22の軸心に設けられたスプライン穴22cの軸方向長さが不足して、内側継手部材22と中間シャフト4とのスプライン嵌合部の強度不足を招くおそれがある。本発明品の摺動式等速自在継手2では、最大作動角を小さくすることで、上記のように内側継手部材22の半径方向の肉厚を薄くすることができるため、内側継手部材22のスプライン穴22cを大径化することができる。これにより、スプライン歯一つ当たりの面圧を維持しながら(すなわち、スプライン嵌合部の強度を維持しながら)、内側継手部材22のスプライン穴22cの軸方向長さを短くすることができる。以上のように、内側継手部材22のトラック溝22e及びスプライン穴22cの軸方向長さを短くすることで、上記のように内側継手部材22全体の軸方向幅を縮小して軽量化を図ることが可能となる。
【0056】
以上のように、摺動式等速自在継手の最大作動角を小さくすることにより得られる様々な条件を考慮して、摺動式等速自在継手の内部仕様を検討することで、従来品と同等のトルク負荷容量を維持しながら摺動式等速自在継手を軽量・コンパクト化することができる。これにより、後輪用ドライブシャフト専用として使用できる、軽量・コンパクトな摺動式等速自在継手の新たなシリーズを構築することができる。
【0057】
[固定式等速自在継手の内部仕様]
下記の表2、
図9及び
図10に、本発明品に係る固定式等速自在継手3の内部仕様を、ボール径が等しい従来品(最大作動角47°の8個ボールのゼッパ型等速自在継手)と比較して示す。尚、
図9及び
図10の上半分は、本発明品に係る固定式等速自在継手3の断面図であり、下半分は、従来品に係る固定式等速自在継手3’の断面図である。従来品の各部位には、本発明品の各部位の符号に「’(ダッシュ)」を付した符号を付している。
【0058】
【0059】
各パラメータの定義は、以下のとおりである。
【0060】
(1)ボールPCD(ボールのピッチ円径)PCDBALL(f):外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31d又は内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eとボール33の中心とを結ぶ線分の長さ(外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dとボール33の中心とを結ぶ線分の長さと、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eとボール33の中心とを結ぶ線分の長さとは等しく、この寸法をPCRと言う。)の2倍の値である(PCDBALL(f)=2×PCR)。
(2)内輪トラック長さ(内側継手部材のトラック溝の軸方向長さ)WI・TRUCK(f):厳密には、内側継手部材32のトラック溝32eとボール33との接点軌跡の軸方向長さであるが、本明細書では、内側継手部材32の球面状の外周面32dの軸方向長さ、すなわち、内側継手部材32の軸方向両端面間の軸方向距離(外周面32dの軸方向両端から内径側に延びる端面間の軸方向距離)のことを言う。
(3)内輪幅(内側継手部材の軸方向幅)WI(f):内側継手部材32の最大軸方向寸法であり、図示例では、内側継手部材32の円筒部32aの両端面間の軸方向距離である。
(4)内輪肉厚(内側継手部材の半径方向の肉厚)TI(f):継手中心平面P(f)(継手中心O(f)を通り、軸線と直交する平面)におけるトラック溝32eの溝底とスプライン穴32cのピッチ円との半径方向距離である。
(5)スプラインPCD(内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径)PCDSPL(f):内側継手部材32のスプライン穴32cと中間シャフト4のスプライン46との噛み合いピッチ円の直径である。
(6)外輪外径DO(f):外側継手部材31の最大外径である。
(7)継手中心~外輪開口端面長さW1O(f):継手中心O(f)と外側継手部材31のマウス部31aの開口側端面(インボード側の端面)との軸方向距離である。
(8)保持器肉厚TC(f):保持器34の継手中心平面P(f)における半径方向の肉厚である。
(9)保持器幅WC(f):保持器34の最大軸方向寸法であり、図示例では保持器34の両端面間の軸方向距離である。
【0061】
以下、上記のような内部仕様に至った設計思想を詳しく説明する。
【0062】
固定式等速自在継手3では、作動角が大きくなるほど各ボール33に加わる最大荷重が大きくなるため、上記のように最大作動角を小さくすることで、各ボール33に加わる最大荷重が小さくなる。これにより、ボール33と接触する内側継手部材32の強度に余裕が生じ、内側継手部材32の半径方向の肉厚を薄くすることができる{TI(f)<TI(f)’、上記表2の(4)参照}。これにより、内側継手部材32の外周面を小径化することができるため、内側継手部材32の外周面に形成されたトラック溝32eを内径側に寄せることができ、内側継手部材32のトラック溝32eのピッチ円径、すなわち、トラック溝32eに配されるボール33のピッチ円径を従来よりも小さくすることができる{PCDBALL(f)<PCDBALL(f)’、上記表2の(1)参照}。これにより、負荷容量や耐久性の低下を招くことなく、固定式等速自在継手3を半径方向にコンパクト化して、軽量化を図ることができる。
【0063】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、各ボール33に加わる最大荷重が小さくなり、ボール33と接触する保持器34の強度に余裕が生じるため、従来品と同等の耐久性を維持しながら、保持器34の半径方向の肉厚を低減することが可能となる{T
C(f)<T
C(f)’、上記表2の(8)参照}。また、
図13(A)に示す本発明品(最大作動角20°)の保持器のポケット面Sとボールとの接点の軌跡Cと、
図13(B)に示す従来品(最大作動角47°)の保持器のポケット面S’とボールとの接点の軌跡C’とから明らかなように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、保持器34のポケット34a内におけるボール33の半径方向(
図13の上下方向)の移動量が小さくなる。この観点からも、保持器34の半径方向の肉厚を低減することが可能となる。以上のように、保持器34の肉厚T
C(f)を薄くしながら、ボール33のピッチ円径PCD
BALL(f)を小さくすることにより、外側継手部材31及び内側継手部材32のトラック溝31d、32eの深さを確保してボール33のトラック溝エッジ部への乗り上げを防止しつつ、固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0064】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のように内側継手部材32の半径方向の肉厚T
I(f)を減じることができるため、内側継手部材32のスプライン穴32cを大径化することができる{PCD
SPL(f)>PCD
SPL(f)’、上記表2の(5)参照}。これにより、スプライン穴32cに挿入される中間シャフト4(
図2参照)を大径化して、捩じり強度を高めることができる。また、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のようにボール33のピッチ円径を縮小することができるため、外側継手部材31を小径化することができる。以上より、本発明品では、外側継手部材31の外径D
O(f)と内側継手部材32のスプライン穴32cのピッチ円径PCD
SPL(f)との比D
O(f)/PCD
SPL(f)を、従来品よりも小さくすることができる{D
O(f)/PCD
SPL(f)<D
O(f)’/PCD
SPL(f)’、上記表2の(6)参照}。これにより、固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化と、中間シャフト4(
図2参照)の強度向上とを同時に達成することができる。
【0065】
図11に、本発明品に係る固定式等速自在継手3が最大作動角(20°)を取った状態を示し、
図12に、従来品に係る固定式等速自在継手3’が最大作動角(47°)を取った状態を示す。これらの図から明らかなように、本発明品における内側継手部材32のトラック溝32eとボール33との接点軌跡L1の長さは、従来品における内側継手部材32’のトラック溝32e’とボール33’との接点軌跡L1’の長さよりも短い。このように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、ボール33の軸方向移動量が小さくなるため、
図10に示すように、内側継手部材32のトラック溝32eの軸方向長さを短くすることができる{W
I・TRUCK(f)<W
I・TRUCK(f)’、上記表2の(2)参照}。これにより、内側継手部材32全体の軸方向幅W
I(f)を短くして軽量化を図ることが可能となる{W
I(f)<W
I(f)’、上記表2の(3)参照}。
【0066】
また、上記のように内側継手部材32のスプライン穴32cを大径化することで、内側継手部材32のスプライン穴32cと中間シャフト4のスプライン46(
図2参照)との嵌合部のピッチ円径が大きくなるため、スプライン歯同士の接触部の面圧が低減される。これにより、スプライン歯一つ当たりの面圧を維持しながら、内側継手部材32のスプライン穴32cの軸方向長さを短くすることができるため、内側継手部材32の円筒部32aの軸方向幅を短縮することができる。このように、内側継手部材32のトラック溝32eの軸方向長さを短くするだけでなく、スプライン穴32cの軸方向長さを短くすることで、上記のように内側継手部材32全体の軸方向幅を短くすることができる。
【0067】
また、
図11及び
図12に示すように、本発明品における外側継手部材31のトラック溝31dとボール33との接点軌跡L2の長さは、従来品における外側継手部材31’のトラック溝31d’とボール33’との接点軌跡L2’の長さよりも短い。このように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、外側継手部材31に対するボール33の軸方向移動量が短くなるため、
図9に示すように、外側継手部材31のトラック溝31dの軸方向長さ、特に、トラック溝31dの継手中心O(f)よりも開口側部分の軸方向長さ、具体的には、継手中心O(f)から外側継手部材31のマウス部31aの開口側端面までの軸方向長さを短くすることができる{W1
O(f)<W1
O(f)’、上記表2の(7)参照}。これにより、外側継手部材31を軸方向にコンパクト化して軽量化を図ることが可能となる。
【0068】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のように保持器34の強度に余裕が生じるため、従来品と同等の耐久性を維持しながら、保持器34の軸方向幅を小さくすることができる{WC(f)<WC(f)’、上記表2の(9)参照}。これにより、保持器34を軸方向にコンパクト化して軽量化を図ることが可能となる。
【0069】
以上のように、固定式等速自在継手の最大作動角を小さくすることにより得られる様々な条件を考慮して、固定式等速自在継手の内部仕様を検討することで、従来品と同等のトルク負荷容量を維持しながら固定式等速自在継手を軽量・コンパクト化することができる。これにより、後輪用ドライブシャフト専用として使用できる、軽量・コンパクトな固定式等速自在継手の新たなシリーズを構築することができる。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る後輪用ドライブシャフト1は、軽量・コンパクト化された摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3を有するため、全体として軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0071】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、上記の後輪用ドライブシャフトは、後輪のみで駆動する後輪駆動車(例えばFR車)に限らず、四輪駆動車(特に、後輪が主駆動輪となる四輪駆動車)にも用いることができる。尚、SUV車は車輪の上下動が大きく、ドライブシャフトの角度変位が大きいため、上記のような低作動角の等速自在継手を有する後輪用ドライブシャフトは適用できない場合がある。従って、上記の後輪用ドライブシャフトは、後輪駆動あるいは四輪駆動の乗用車に適用することが好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1 後輪用ドライブシャフト
2 摺動式等速自在継手
21 外側継手部材
22 内側継手部材
23 ボール
24 保持器
3 固定式等速自在継手
31 外側継手部材
32 内側継手部材
33 ボール
34 保持器
4 中間シャフト
E エンジン
G デファレンシャルギヤ
M トランスミッション
PS プロペラシャフト
W 車輪