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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】積層帯電濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/14 20060101AFI20221011BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20221011BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20221011BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B01D39/14 E
B01D39/16 E
B01D39/16 A
B03C3/28
B32B5/26
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018043643
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019155244
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕登
(72)【発明者】
【氏名】田中 広志
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148738(JP,A)
【文献】特表2008-538532(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073958(WO,A1)
【文献】特開2000-225308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B03C 3/00-11/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が50μm以下のメルトブロー不織布からなる極細繊維層と構成繊維の繊度が1dtex~100dtexである布帛で構成された支持層が積層して構成される積層部分Aと、平均繊維径が50μm以下のメルトブロー不織布からなる極細繊維層と構成繊維の繊度が1dtex~100dtexである布帛で構成された支持層が積層して構成される積層部分Bを備えており、
前記積層部分A及びBは帯電しており、
前記積層部分A及びBが積層して構成される積層帯電濾材であって、
前記積層部分A及びBはただ積層して構成されている、積層帯電濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層帯電濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から濾材には、粒子(例えば、大気塵に含まれる粒子やプリンタなどのOA機器が排出するトナーなどを由来とする粒子など)の捕集効率が高いなど、濾過性能に優れるものが求められている。そして、濾過性能に優れた濾材を実現するため、極細繊維層を備えた積層帯電濾材が採用されている。
【0003】
このような積層帯電濾材として、特開2017‐148738号公報(特許文献1)に、「エレクトレット不織布層を備えた濾材であって、前記エレクトレット不織布層は、単独で荷電された複数のメルトブロー不織布が熱可塑性樹脂を介して積層されている積層体であることを特徴とする濾材」が開示されている。なお、特許文献1には、極細不織布層に相当するエレクトレット不織布層(メルトブロー不織布)の平均繊維径は50μm以下であることが好ましいこと、エレクトレット不織布層の補強のため、エレクトレット不織布層に補強層を貼り合わせ積層して構成されていることが好ましいことが開示されている。
【0004】
しかしながら、本願出願人が特許文献1の積層帯電濾材について検討したところ、なおも粒子の捕集効率が充分でないなど、濾過性能に優れた積層帯電濾材を提供できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017‐148738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粒子の捕集効率が高いなど、濾過性能に優れた積層帯電濾材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、「平均繊維径が50μm以下のメルトブロー不織布からなる極細繊維層と構成繊維の繊度が1dtex~100dtexである布帛で構成された支持層が積層して構成される積層部分Aと、平均繊維径が50μm以下のメルトブロー不織布からなる極細繊維層と構成繊維の繊度が1dtex~100dtexである布帛で構成された支持層が積層して構成される積層部分Bを備えており、
前記積層部分A及びBは帯電しており、
前記積層部分A及びBが積層して構成される積層帯電濾材であって、
前記積層部分A及びBはただ積層して構成されている、積層帯電濾材。」である。



【発明の効果】
【0008】
本発明は、極細繊維層を複数有する積層帯電濾材であるため、高い効率で粒子を捕集することができる。また、極細繊維層と支持層を積層して構成されるため、支持層により極細繊維層が補強され、極細繊維層が構造変化しにくいことから、濾過性能の低下が防止された積層帯電濾材である。さらに、本発明の積層帯電濾材は、積層部分A及びBがただ積層して構成されており、積層部分Aと積層部分Bが接着一体化または融着一体化していないことを特徴としている。そのため、バインダや繊維などにより積層部分間の接着を行った場合に生じる層内の通気度低下や帯電量低下などの意図しない変化が生じるのを防ぐことが出来、濾過性能に優れる積層帯電濾材である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層帯電濾材は、平均繊維径が50μm以下の極細繊維層と支持層が積層して構成される積層部分Aと、平均繊維径が50μm以下の極細繊維層と支持層が積層して構成される積層部分Bを備えていることを特徴とする。
【0010】
極細繊維層とは、主に粒子を捕集する役割を担う層である。
【0011】
極細繊維層の構成繊維の平均繊維径は、50μm以下である。平均繊維径が小さいほど粒子の捕集効率が向上することから、10μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましい。平均繊維径の下限値は適宜選択できるが、現実的には0.1μm以上であり、0.5μm以上であり、1μm以上である。
【0012】
なお、本発明における「平均繊維径」とは、繊維200点における繊維径の平均値をいう。この繊維径は、例えば、積層帯電濾材の電子顕微鏡写真から計測することができる。なお、繊維の横断面の形状が非円形である場合、前記横断面の面積と同一の面積を有する円の直径を、繊維径の大きさとみなす。
【0013】
極細繊維層の構成繊維の繊維長は特に限定するものではないが、短繊維や長繊維、あるいは、実質的に繊維長を測定することが困難な程度の長さの繊維長を有する連続繊維のいずれか、あるいは、繊維長が異なる複数種類の繊維が存在していてもよい。
【0014】
極細繊維層を構成する繊維が連続繊維である場合、極細繊維層の剛性が向上し易いため、強度に優れた積層帯電濾材を提供でき好ましい。そのため、特に極細繊維層を構成する繊維が、連続繊維のみで構成されているのが好ましい。なお、連続繊維は、メルトブロー法やスパンボンド法などの直接紡糸法を用いて調製することができる。
【0015】
極細繊維層の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を備えた繊維であることができる。
【0016】
特に、極細繊維層の構成繊維が体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂を含んでいると(より好ましくは、体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂のみから構成されていると)、後述する極性液体帯電方法において、極細繊維層の帯電量を多くできるため、濾過性能に優れる積層帯電濾材を提供でき好ましい。体積固有抵抗値が1014Ω・cm以上の樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂など)、ポリ四フッ化エチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどを挙げることができる。
【0017】
これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。更には、複数の樹脂が混合してなるものでも良い。
【0018】
なお、極細繊維層の帯電量を多くして濾過性能に優れる積層帯電濾材を提供できるように、極細繊維層の構成繊維に含まれる樹脂(特に、体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂)に、帯電助剤を混合するのが好ましい。
【0019】
帯電助剤として、例えば、ヒンダードアミン系化合物、脂肪族金属塩(例えば、ステアリン酸のマグネシウム塩、ステアリン酸のアルミニウム塩など)、不飽和カルボン酸変性高分子のうちから選ばれた1種または2種以上の化合物を、添加剤として添加することができる。これら一連の添加剤の中でもヒンダードアミン系化合物を添加するのが好ましく、その具体例として、例えば、ポリ[{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}}、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)などを挙げることができる。
【0020】
樹脂の質量に対する帯電助剤の添加質量は、特に限定されるものではないが、帯電助剤の添加質量が少な過ぎると、極細繊維層における帯電効果が期待するよりも小さい恐れがある。また、帯電助剤の添加質量が多過ぎると、極細繊維層の強度が劣る恐れがある。そのため、樹脂の質量100質量%に対し帯電助剤の添加質量は、0.01質量%~5質量%が好ましい。
【0021】
極細繊維層の構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の中和紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法など公知の方法により得ることができる。
【0022】
特に、繊維径が細く目付が軽いにも関わらず、繊維が均一に分散して存在することで積層帯電濾材の濾過性能を向上可能な極細繊維層となるように、極細繊維層は直接紡糸法を用いて調製された布帛由来の繊維層であるのが好ましい。このような極細繊維層を提供可能な布帛として、メルトブロー不織布を好適に採用できる。
【0023】
極細繊維層の構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0024】
極細繊維層は構成繊維として複数種類の繊維を含んでいても良い。例えば、極細繊維層が骨格をなす繊維以外に接着繊維を含んでいる場合、接着繊維によって骨格をなす繊維同士が接着一体化していることで、極細繊維層の構造が意図せず変化したり、積層帯電濾材から繊維が脱離したりするのを抑制して、意図せず積層帯電濾材の濾過性能が低下するのを防止できる。接着繊維の種類は適宜選択するが、例えば、芯鞘型接着繊維、サイドバイサイド型接着繊維、あるいは、全溶融型接着繊維を採用することができる。また極細繊維層は接着繊維以外にも、加熱によりクリンプを形成する潜在捲縮繊維などを含んでいてもよい。
【0025】
また、極細繊維層は構成繊維として横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0026】
極細繊維層は、構成繊維同士が絡合することで構成されていてもよいが、構成繊維の一部が溶融したことで構成繊維同士が溶融一体化していると、バインダの存在によって圧力損失が上昇するのを防止でき、極細繊維層の構造が意図せず変化したり、積層帯電濾材から繊維が脱離したりするのを抑制して、積層帯電濾材の濾過性能が低下するのを防止でき好ましい。
【0027】
このような、構成繊維の一部が溶融していることで構成繊維同士が溶融一体化している極細繊維層は、メルトブロー法やスパンボンド法などの直接紡糸法を用いて調製することができる。
【0028】
極細繊維層の目付は、目付が軽いほど積層帯電濾材の圧力損失を低下できるものの、目付が軽すぎると積層帯電濾材の捕集効率が過度に低下する恐れがある。そのため、極細繊維層の目付は、3~50g/mが好ましく、4~40g/mがより好ましく、5~30g/mが更に好ましい。
【0029】
なお、極細繊維層の目付は、以下の方法で算出することができる。
【0030】
(極細繊維層の目付の算出方法)
濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した極細繊維層の重量を計測し、取得した極細繊維層における最も面積の広い面(主面)1m当たりの重量に換算することで、極細繊維層の目付(g/m)を算出する。
【0031】
また、濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を容易に単離できない場合には、まず濾材や積層部分A又はBの重量(a)を計測する。次いで、濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を除去し、残った構造物の重量(b)を計測する。そして、重量aから重量bを引いた値から、極細繊維層の重量を算出する。
【0032】
このようにして算出した極細繊維層の重量を、極細繊維層を採取した濾材や積層部分A又はBにおける最も面積の広い面(主面)1m当たりの重量に換算することで、極細繊維層の目付(g/m)を算出する。
【0033】
なお、本発明にかかる積層帯電濾材は積層部分A及びBがただ積層して構成されており、積層部分Aと積層部分Bが接着一体化又は融着一体化していないことから、積層帯電濾材から積層部分A又はBを容易に単離できる。
【0034】
極細繊維層の厚さは適宜選択できるが、0.01mm~1.5mmであることができ、0.02~1.0mmであることができ、0.03~0.5mmであることができる。
【0035】
なお、極細繊維層の厚さは、以下の方法で算出することができる。
【0036】
(極細繊維層の厚さの算出方法)
濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した極細繊維層の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加した時の両主面間の長さを、高精度デジタル測長機を用いて測定し、その長さを極細繊維層の厚さ(mm)とする。
【0037】
また、濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を容易に単離できない場合には、まず濾材や積層部分A又はBの主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加した時の、両主面間の長さを高精度デジタル測長機で測定し、その長さを濾材や積層部分A又はBの厚さ(a)とする。次いで、濾材や積層部分A又はBから極細繊維層を除去した後、残った構造物の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加した時の、両主面間の長さを高精度デジタル測長機で測定し、その長さを構造物の厚さ(b)とする。
【0038】
そして、厚さaから厚さbを引いた残りの値を、極細繊維層の厚さ(mm)とする。
【0039】
支持層は、主として極細繊維層を支持する役割を担う層である。極細繊維層を支持できるよう、例えば、極細繊維層よりも剛性や破断強度が強い層であるのが好ましい。極細繊維層よりも構成繊維の繊維径が太い層であるなど、後述する積層部分を極性液体帯電方式へ供した際に、極細繊維層に亀裂や大きな変形が生じるのを防止できる構成を備えている。
【0040】
支持層の構成樹脂は、極細繊維層と同様の、公知の樹脂であることができる。また、支持層の構成態様は、濾過性能に優れる積層帯電濾材を提供できるように適宜選択でき、例えば不織布や織物、編物といった布帛や、多孔フィルムを用いることができるが、極細繊維層と積層した際に追従しやすいことから支持層は繊維から構成された布帛であることが好ましい。また、支持層の構成繊維にポリエステル繊維を含んでいる場合(より好ましくは、ポリエステル繊維のみから構成される場合)や、スパンボンド不織布のような連続長を有する繊維同士が接着してなる繊維層である場合(より好ましくは、スパンボンド不織布である場合)、そして異形断面繊維を含んでいる場合(より好ましくは、構成繊維が異形断面繊維のみである場合)には、剛性に優れた支持層であることにより、極細繊維層をより強固に支持できることで、後述する積層部分を極性液体帯電方法へ供した際に、極細繊維層に亀裂や大きな変形が生じるのを防止できる。その結果、濾過性能に優れた積層帯電濾材を提供できるため好ましい。そのため、支持繊維層は、異形断面を有するポリエステルスパンボンド不織布であるのが好ましい。
【0041】
さらに、支持層の構成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維を含んでいると(より好ましくは、構成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維のみであると)、後述するように極細繊維層と支持層の積層一体化が効果的に行われ、後述する積層体を極性液体帯電方法へ供した際に、極細繊維層に亀裂や大きな変形が生じるのを防止できる。その結果、濾過性能に優れた積層帯電濾材を提供できるため好ましい。
【0042】
支持層が繊維で構成されている場合の構成繊維の繊度は適宜選択するが、繊度の値が小さければ小さいほど、積層帯電濾材の捕集効率が向上する傾向があるものの、繊度の値が小さすぎると積層帯電濾材の圧力損失が過剰に高くなる恐れがある。そのため、支持層における構成繊維の繊度は1dtex~100dtexであることができ、2dtex~50dtexであることができ、3dtex~30dtexであることができる。なお、繊度の下限値は適宜選択できるが、現実的には0.1dtexよりも大きな値である。
【0043】
支持層の目付は適宜選択できるが、目付が軽いほど積層帯電濾材の圧力損失を低下できるものの、目付が軽過ぎると積層帯電濾材の捕集効率が過剰に低下する恐れがある。そのため、支持層の目付は20g/m~200g/mが好ましく、30g/m~150g/mがより好ましく、40g/m~100g/mが更に好ましい。
【0044】
なお、支持層の目付は、以下の方法で算出することができる。
【0045】
(支持層の目付の算出方法)
濾材や積層部分A又はBから支持層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した支持層の重量を計測し、取得した支持層における最も面積の広い面(主面)1m当たりの重量に換算することで、支持層の目付(g/m)を算出する。
【0046】
また、濾材や積層部分A又はBから支持層を容易に単離できない場合には、濾材や積層部分A又はBから支持層以外の構造物を除去する。このようにして取得した支持層から、上述と同様にして重量を計測し、1mあたりの重量に換算することで目付を算出する。
【0047】
支持層の厚さは適宜選択でき、0.1mm~2mmであることができ、0.15mm~1.5mmであることができ、0.2mm~1mmであることができる。
【0048】
なお、積層部分A又はBにおける支持層の厚さは、以下の方法で算出することができる。
【0049】
(支持層の厚さの算出方法)
濾材や積層部分A又はBから支持層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した支持層の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加した時の両主面間の長さを、高精度デジタル測長機を用いて測定し、その長さを支持層の厚さ(mm)とする。
【0050】
また、濾材や積層部分A又はBから支持層を容易に単離できない場合には、濾材や積層部分A又はBから支持層以外の構造物を除去する。このようにして取得した支持層から、上述と同様にして厚さを算出する。
【0051】
上述した極細繊維層および/または支持層が構成繊維のみから構成されていると、圧力損失の低い積層帯電濾材を提供できる傾向があり好ましいが、極細繊維層および/または支持層は構成繊維以外にも、機能性粒子やバインダや顔料などを含んでいてもよい。
【0052】
機能性粒子として、例えば、放射性物質吸着剤(例えば、ゼオライト、活性炭、紺青(プルシアンブルー)など)、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗カビ剤、触媒(例えば、酸化チタンや二酸化マンガンあるいは白金担持アルミナなど)、調湿剤(例えば、シリカゲルやシリカマイクロカプセルなど)、活性炭やカーボンブラックなどの脱臭剤、色素、リン酸系難燃剤や水酸化アルミニウムなどの難燃剤、消臭剤、防虫剤、殺菌剤、芳香剤、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂などの粒子を挙げることができる。
なお、機能性粒子や顔料は上述のように、極細繊維層および/または支持層に担持あるいは接着した態様で存在しても良いが、極細繊維層および/または支持層を構成する繊維中に練り込まれている態様であっても良い。
【0053】
積層部分とは、極細繊維層と支持層が積層して構成されるものをいう。
【0054】
極細繊維層と支持層を積層する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、層間を接着一体化することなくただ重ね合わせる方法、支持層に極細繊維層を直接紡糸法で吹き付け繊維層間が接着して一体化する方法、バインダや接着繊維によって層間を接着一体化する方法、あるいは、ヒートシールや超音波融着あるいはヒートロールを押し当てるなどすることにより、極細繊維層を構成する繊維および/または支持層を構成する繊維が溶融接着して層間を溶融一体化する方法などが挙げられる。
【0055】
極細繊維層と支持層の層間の通気性がバインダなどの接着成分により閉塞して、積層帯電濾材の圧力損失が上昇するのを防止できることから、極細繊維層を構成する繊維および/または支持層を構成する繊維が溶融接着して両層間が溶融一体化することで、極細繊維層と支持層が積層するのが好ましい。
【0056】
特に、より積層帯電濾材の圧力損失が上昇するのを防止できることから、両層間において積層部分の全面ではなく部分的に溶融一体化部分が存在すると共に、該溶融一体化部分が積層部分において略均一に存在することで、極細繊維層と支持層が積層するのが好ましい。このような積層一体化態様は、例えば、超音波融着装置へ供することで提供できる。
【0057】
本発明の積層帯電濾材は、積層帯電濾材を構成する積層部分A及びBが帯電している。なお、積層部分A及びBを構成する極細繊維層又は支持層のいずれか、あるいは、極細繊維層と支持層の両方が帯電していてもよいが、濾過性能に優れる積層帯電濾材を提供できることから、極細繊維層と支持層の両方が帯電しているのが好ましい。積層部分における帯電態様は適宜選択できるが、濾過性能に優れる積層帯電濾材を提供できることから、極性液体帯電方法へ供してなる帯電態様であるのが好ましい。極性液体帯電方法へ供してなる積層部分をはじめとした繊維構造体が濾過性能に優れる理由は、完全に解明されていない。しかし、繊維構造体の内外に関わらず繊維構造体を構成する繊維の表面全体が均一に帯電されるため、また、各繊維に繊維表面に電荷が分極して存在する帯電態様となるため、帯電量が多い帯電態様であると考えられる。
【0058】
本発明において、「積層部分A及びBはただ積層して構成されている」とは、積層部分同士がバインダや接着繊維、繊維を直接紡糸法によって吹き付ける方法によって両層が接着一体化しておらず、また、ヒートシールや超音波融着あるいはヒートロールを押し当てるなどにより極細繊維層を構成する繊維および/または支持層を構成する繊維が溶融接着して両層間が溶融一体化しておらず、積層部分A及びBがただ重ねあわされている状態のことを指す。そのため、積層部分A及びBが積層した積層帯電濾材から積層部分A及びBを容易に分離することができる。また、極細繊維層の構造変化による積層帯電濾材の濾過性能の低下が起こらないように、極細繊維層同士が接しない状態、すなわち、積層部分の支持層側の主面と積層部分の極細繊維層側の主面が接する状態で積層部分A及びBがただ積層して構成されていることが好ましい。
【0059】
本発明の積層帯電濾材の目付、厚さについては適宜調整するが、目付は46~500g/mが好ましく、68~380g/mがより好ましく、90~260g/mが更に好ましい。厚さは、0.1~3.5mmが好ましく、0.5~3mmがより好ましく、1~2.5mmが更に好ましい。
【0060】
本発明の積層帯電濾材は単体で濾材として使用できるが、プレフィルター層やバックフィルター層、新たな支持基材などの更に別の通気性部材を組み合わせて使用しても良い。
【0061】
このとき、通気性部材の態様は適宜選択でき、例えば、不織布や織物や編み物などの布帛、多孔フィルムなどを使用することができる。通気性部材の帯電の有無は適宜選択できるが、最終的に得られる濾材の濾過性能を向上できるように、帯電している通気性部材を備えているのが好ましい。
【0062】
本発明の積層帯電濾材は平面状で使用することができるが、プリーツ形状や巻回形状であってもよい。プリーツ山の形状は適宜選択できるが、プリーツ山高さは3mm~100mmであることができ、5mm~80mmであることができ、10mm~60mmであることができる。また、プリーツ山の頂点同士の間隔は1mm~25mmであることができ、2mm~20mmであることができ、3mm~15mmであることができる。
【0063】
積層帯電濾材の形状は適宜選択でき、例えばカップ型など特定形状に成型した積層帯電濾材、収納するフィルタフレームの形状に合わせて切り取り加工した積層帯電濾材、周囲にエッジバンドが設けられたプリーツ形状の積層帯電濾材であってもよい。
【0064】
次に、本発明に係る積層帯電濾材の製造方法について説明する。製造方法は適宜調整するが、一例として、
(1)平均繊維径が50μm以下の極細繊維層を調製する工程、
(2)支持層を用意する工程、
(3)前記極細繊維層と前記支持層から積層部分を調製する工程、
(4)前記積層部分へ極性液体を付与し該極性液体を介して前記積層部分へ力を作用させ、次いで、前記積層部分から前記極性液体を除去することで、前記積層部分を帯電させる工程、
(5)前記のように調製した積層部分を複数重ね合わせ積層帯電濾材を調製する工程、
がある。
【0065】
まず、(1)平均繊維径が50μm以下の極細繊維層を調製する工程、について説明する。
【0066】
平均繊維径が50μm以下の極細繊維層が織物や編物で構成される場合、繊維を織るあるいは編むことで極細繊維層を調製できる。
【0067】
極細繊維層が不織布である場合、不織布の調製方法として、極細繊維層の構成繊維を調製可能であると例示した各種繊維の製造方法を用いることができる。また、調製した繊維を、例えば、乾式法、湿式法へ供することで繊維ウエブを調製し、調製した繊維ウエブの構成繊維を絡合および/または一体化させて極細繊維層を調製できる。
【0068】
あるいは、直接紡糸法を用いて、紡糸を行うと共に繊維を捕集して繊維ウエブや不織布を調製してもよい。なお、繊維径が細く目付が軽いにも関わらず、繊維が均一に分散して存在することで積層帯電濾材の濾過性能を向上可能な極細繊維層を調製できることから、直接紡糸法を用いて極細繊維層を調製するのが好ましい。また、メルトブロー法やスパンボンド法を用いると、工程数を少なくして不織布を調製できるため好ましい。
【0069】
繊維ウエブを構成する繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウエブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。
【0070】
繊維ウエブ以外にも不織布など布帛を加熱処理へ供しても良く、加熱処理する方法は適宜選択できるが、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して繊維に含まれている熱可塑性樹脂を溶融させる方法などを用いることができる。
【0071】
次いで、(2)支持層を用意する工程、について説明する。
【0072】
支持層を用意する方法は適宜選択できるが、その方法として、支持層が繊維で構成される場合は極細繊維層の構成繊維を調製可能であると例示した各種繊維の製造方法や、上述した「(1)平均繊維径が50μm以下の極細繊維層を調製する工程」の工程で例示した方法により用意することができる。支持層が多孔フィルム等他の材料で構成される場合は公知の材料を用意する。
【0073】
なお、剛性に優れた支持層であることにより、極細繊維層をより強固に支持できることで、積層部分を極性液体帯電方法へ供した際に、極細繊維層に亀裂や大きな変形が生じるのを防止でき、その結果、濾過性能に優れた積層帯電濾材を提供できることから、直接紡糸法(特には、スパンボンド法)を用いて支持層を調製するのが好ましい。
【0074】
そして、(3)前記極細繊維層と前記支持層から積層部分を調製する工程、について説明する。
【0075】
前記極細繊維層と前記支持層から積層部分を調製する方法は、極細繊維層と支持層を積層する方法の項目で説明したような方法を採用できる。
【0076】
具体例としては、ただ重ね合わせるだけであり接着一体化していない方法、ただ積層した極細繊維層と支持層を、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機などの加熱機へ供することで、あるいは、極細繊維層と支持層の間に、接着成分(バインダ粒子や蜘蛛の巣状接着繊維ウエブなど)を介在させた状態で加熱機へ供することで、接着成分をガラス転移温度あるいは融点以上に加熱して、両層間を溶融一体化させる方法、ヒートシール装置や超音波融着装置へ供する、ヒートロールを押し当てるなどすることにより、極細繊維層の構成繊維および/または支持層の構成繊維を溶融接着させる方法を採用できる。これらの中でも、極細繊維層と支持層の層間部分の通気抵抗が低下するのを防止できる傾向があることから、例えば、ヒートシール装置や超音波融着装置へ供する、ヒートロールを押し当てるなどすることにより、極細繊維層の構成繊維および/または支持層の構成繊維を溶融接着させることで、両層間を溶融一体化できる方法を採用するのが好ましい。
【0077】
特に、例えば、超音波融着装置へ供することで、両層間において積層部分の全面ではなく部分的に溶融一体化部分が存在すると共に、該溶融一体化部分が積層部分において略均一に存在することで、より圧力損失が低い積層帯電濾材を提供できることから超音波融着装置へ供することで両層間を部分的に溶融一体化できる方法を採用するのがより好ましい。
【0078】
さらに、(4)前記積層部分へ極性液体を付与し該極性液体を介して前記積層部分へ力を作用させ、次いで、前記積層部分から前記極性液体を除去することで、前記積層部分を帯電させる工程、について説明する。
【0079】
積層部分へ極性液体を付与する方法は適宜選択できるが、例えば、積層部分へ極性液体を噴霧する方法、極性液体の液滴を付与する方法、極性液体に積層部分を浸漬する方法、極性液体が積層部分を通過するように処理する方法などを挙げることができる。
【0080】
極性液体を介して積層部分へ力を作用させる方法は、上述した積層部分へ極性液体を付与することで力を作用させても良いが、例えば、極性液体が付与されている積層部分へ超音波を作用させる方法、極性液体が付与されている積層部分へ振動を付与する方法、極性液体が付与されている積層部分から極性液体を吸引あるいは吹き飛ばし除去することで力を作用させる方法などを挙げることができる。
【0081】
積層部分から前記極性液体を除去する方法は、上述した極性液体が付与されている積層部分から極性液体を吸引あるいは吹き飛ばすことで除去しても良いが、例えば、加熱機へ供することで積層部分から極性液体を加熱除去する方法、風力や超音波を作用させて積層部分から極性液体を除去する方法、室温環境下あるいは減圧環境下に放置することで積層部分から極性液体を蒸散させ除去する方法などを挙げることができる。
【0082】
最後に、(5)前記のように調製した積層部分を複数重ね合わせ積層帯電濾材を調製する工程、について説明する。
【0083】
積層部分から積層帯電濾材を調製する方法は、積層部分をただ重ね合わせる方法をとる。このため、積層部分同士が両層間で接着一体化や溶融一体化していない。そのため、積層帯電濾材から積層部分を容易に分離することができる。また、極細繊維層の構造変化による積層帯電濾材の濾過性能の低下が起こらないように、極細繊維層同士が接しないように重ね合わせる方法、すなわち、積層部分の支持層側の主面と積層部分の極細繊維層側の主面が接するように重ね合わせる方法で積層帯電濾材を調製することが好ましい。
【0084】
上述の製造工程を経ることで本発明の積層帯電濾材を製造することができる。このようにして調製した積層帯電濾材をそのまま使用してもよいが、積層帯電濾材の他に更に別の通気性部材を設ける工程、積層帯電濾材へ機能性粒子やバインダや顔料などを付与する工程、積層帯電濾材をプリーツ形状や巻回形状に加工する工程、積層帯電濾材をカップ型など特定形状に成型したり収納するフィルタフレームの形状に合わせて切り取り加工したりする工程、プリーツ形状の積層帯電濾材の周囲にエッジバンドを設ける工程などの、各種二次工程へ供することで積層帯電濾材を製造してもよい。
【実施例
【0085】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
(実施例1)
(極細繊維層の調製方法)
体積固有抵抗値が1016程度(Ω・cm)である市販のポリプロピレン樹脂100質量部に対して、帯電助剤としてヒンダードアミン系光安定剤を4質量部となるよう混合し、メルトブロー法を用いて紡糸を行い、以下の構成を有するメルトブロー不織布を調製した。
繊維を構成する樹脂:ポリプロピレン樹脂
繊維断面形状:円形状
平均繊維径:1.7μm
目付:18g/m
厚さ:0.6mm
【0087】
(支持層の調製方法)
以下の構成を有するスパンボンド不織布を準備した。
繊維を構成する樹脂:ポリエチレンテレフタレート樹脂
繊維断面形状:中心部分からY字形状の突起が4箇所以上突出した、異形断面形状
繊度:16dtex
目付:60g/m
厚さ:0.42mm
【0088】
(積層部分A及びBの調製方法)
スパンボンド不織布の主面とメルトブロー不織布の主面を接触させ、ただ重ね合わせた状態のまま、超音波融着装置(ホーン圧:1.8~2.1kgf/cm)へ供した。
そして、ただ重ね合わせた状態のメルトブロー不織布およびスパンボンド不織布における主面に対し、一部に超音波を作用させることでメルトブロー不織布を構成するポリプロピレン繊維を溶融させ、スパンボンド不織布と溶融接着させることで、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を積層一体化してなる積層部分A及びBを調製した。実施例1においては、積層部分A及びBは同一組成のものを使用した。なお、溶融接着している部分の面積は該主面の面積の1.5%であり、溶融接着している部分は該主面上に略均一で分散し存在していた。
【0089】
(帯電した積層部分A及びBの調製方法)
積層部分A及びBを、極性液体として電気伝導度が3.2(μS/cm)、温度が20±5℃の範囲に保たれた純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)が保持された浴槽内へ搬送し、純水を担持させると共に、積層部分A及びBへ周波数20kHzの超音波を作用させることで、純水を介して積層部分A及びBへ力を作用させた。
次いで、超音波を作用させた積層部分A及びBをコンベヤ式ドライヤーへ供して80℃で乾燥させて、積層部分A及びBに含まれている純水を除去することで、帯電した積層部分A及びBを調製した。
【0090】
(積層帯電濾材の調製方法)
帯電した積層部分A及びBを、積層部分Aのメルトブロー不織布側の主面と積層部分Bのスパンボンド不織布側の主面が接するようにただ重ね合わせ、積層帯電濾材を調製した。なお、積層部分AとBは接着一体化、または溶融一体化していなかった。
【0091】
(実施例2)
実施例1で調製したメルトブロー不織布と、目付、平均繊維径が異なるメルトブロー不織布(平均繊維径:1.5μm、目付:11g/m)を調製し、積層部分Bを構成する極細不織布層としたこと以外は、実施例1と同様にして積層帯電濾材を調製した。
【0092】
(比較例1)
実施例1で調製したメルトブロー不織布と、目付が異なるメルトブロー不織布(平均繊維径:1.7μm、目付:45g/m)を調製した。
次に、実施例1の(支持層の調製方法)と同じスパンボンド不織布を準備した。
次に、実施例1と同様の方法でメルトブロー不織布とスパンボンド不織布を一体化、帯電して積層部分を調製し、調製した積層部分を比較例1の積層帯電濾材とした。
【0093】
(比較例2)
比較例1で調製したメルトブロー不織布と、目付が異なるメルトブロー不織布(平均繊維径:1.7μm、目付:70g/m)を調製したことを除いては、比較例1と同様にして積層帯電濾材を調製した。
【0094】
(比較例3)
積層部分A及びBをただ重ね合わせるのではなく、溶融させたホットメルト樹脂(目付:7.5g/m)を用いて積層部分A及びBを貼り合わせ、接着一体化したこと以外は、実施例1と同様にして積層帯電濾材を調製した。
【0095】
実施例1~2及び比較例1~3で調製した積層帯電濾材の構成を、以下の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
以下の評価方法により、実施例1~2及び比較例1~3で調製した積層帯電濾材の物性を評価した。
【0098】
(圧力損失と捕集効率の算出方法)
試験ダクトに積層部分Aのスパンボンド不織布(支持層)由来の繊維層を最も上流側、実施例1~2、比較例3においては積層部分Bのメルトブロー不織布(極細繊維層)由来の繊維層、比較例1~2においては積層部分Aのメルトブロー不織布(極細繊維層)由来の繊維層を最も下流側にして積層帯電濾材を設置して計数法により捕集効率(%)を算出した。つまり、平面状の積層帯電濾材を有効間口面積0.04mの試験ダクトのホルダーにセットした後、粒子径0.3μmのNaCl(NaCl数:U)を積層帯電濾材の上流側に供給し、面風速5.3cm/sで空気を通過させた時の、下流側における粒子径0.3μmのNaCl数(D)をパーティクルカウンタ(RION社製:形式KC-22B)で測定し、次式より算出した値を捕集効率(%)とした。
捕集効率(%)=[1-(D/U)]×100
また、圧力損失は、上記捕集効率測定時における、積層帯電濾材の初期の圧力損失(Pa)の測定値である。
【0099】
(QF値の算出方法)
上述のようにして測定した濾材の捕集効率E(%)と圧力損失ΔP(Pa)を、次式(但し「ln」は自然対数)に代入することで算出した。
QF値=[{-ln(1-E/100)}/ΔP]
なお、QF値が大きいほど圧力損失と捕集効率が共にバランスよく優れ、濾過性能に優れた積層帯電濾材である。
【0100】
実施例1~2および比較例1~3で調製した積層帯電濾材の濾過性能の評価結果を、以下の表2に示す。なお、支持層に用いたスパンボンド不織布のみでも濾過性能の評価を行ったが、捕集効率が充分なものではなかった。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例と比較例1~2を比較した結果から、2つの積層部分が積層して構成される実施例の積層帯電濾材の方が、1つの積層部分のみで構成される比較例1~2の積層帯電濾材よりも極細繊維層の目付が少ないにもかかわらず、捕集効率に優れるものであった。この理由としては、極細繊維層が2層あるため、2層に分けて粒子を捕集できることや、極細繊維層の構造変化が起こりにくいためと考えられる。また、実施例の積層帯電濾材は、QF値も優れ、濾過性能に優れることがわかった。
【0103】
また、実施例1と比較例3を比較した結果から、積層部分A及びBがただ積層して構成される実施例の積層帯電濾材の方が、積層部分A及びBがホットメルト樹脂により接着一体化して構成される比較例3の積層帯電濾材よりも、捕集効率とQF値に優れる濾過性能に優れた積層帯電濾材であった。この理由としては、ホットメルト樹脂による層間接着により生じる層内の通気度低下や帯電量低下などの意図しない変化が起こらないためと考えられる。
【0104】
(実施例3~7)
実施例1で調製したメルトブロー不織布と、目付、平均繊維径が異なるメルトブロー不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層帯電濾材を調製した。なお、積層部分Aと積層部分Bは接着一体化、または溶融一体化していなかった。
【0105】
実施例3~7で調製した積層帯電濾材の構成を、以下の表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
以下の評価方法により、実施例3~7で調製した積層帯電濾材の物性を評価した。
【0108】
(圧力損失と捕集効率の算出方法)
試験ダクトに積層部分Aのスパンボンド不織布(支持層)を最も上流側、積層部分Bのメルトブロー不織布(極細繊維層)を最も下流側にして積層帯電濾材を設置して計数法により捕集効率(%)を算出した。つまり、平面状の積層帯電濾材を有効間口面積0.04mの試験ダクトのホルダーにセットした後、粒子径0.3~0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を積層帯電濾材の上流側に供給し、面風速5.3cm/sで空気を通過させた時の、下流側における粒子径0.3~0.5μmの大気塵数(D)をパーティクルカウンタ(RION社製:形式KC-22B)で測定し、次式より算出した値を捕集効率(%)とする。
捕集効率(%)=[1-(D/U)]×100
また、圧力損失は、上記捕集効率測定時における、積層帯電濾材の初期の圧力損失(Pa)の測定値である。
【0109】
QF値の算出方法については、実施例1~2及び比較例1~3の積層帯電濾材の評価方法と同様に行った。
【0110】
実施例3~7で調製した積層帯電濾材の濾過性能の評価結果を、以下の表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表1~4の結果から、本発明の構成を有する積層帯電濾材は、濾過性能に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の積層帯電濾材は、例えば、食品や医療品の生産工場用途、精密機器の製造工場用途、農作物の室内栽培施設用途、一般家庭用途あるいはオフィスビルなどの産業施設用途、空気清浄機用途やOA機器用途などの電化製品用途、自動車や航空機などの各種車両用途において、気体フィルタとして好適に使用できる。