IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】重金属吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20221011BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221011BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20221011BHJP
   B01D 53/80 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
B01J20/02 B ZAB
B01J20/30
B01D53/64
B01D53/80
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018061114
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019171257
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】関川 努
(72)【発明者】
【氏名】柴山 治雄
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-023888(JP,A)
【文献】特開昭62-197131(JP,A)
【文献】特開2000-342962(JP,A)
【文献】特開平07-308542(JP,A)
【文献】特開昭56-037033(JP,A)
【文献】特開2017-176997(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103285711(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含銅硫化物である銅精鉱を担持体に担持させてなり、排ガス中の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法であって、
前記銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む水溶液に浸漬させることによって、該銅精鉱に該硫黄含有化合物を保持させ、
前記硫黄含有化合物を保持した銅精鉱を、前記担持体と混練させて混練物を得るものであり、
前記硫黄含有化合物は、チオ尿素又はその誘導体を含む、
重金属吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記担持体と混練させるに際して、前記水溶液を混練水分として添加する
請求項1に記載の重金属吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記担持体と混練させるに際して、前記硫黄含有化合物の粒状固体を添加する
請求項1に記載の重金属吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記担持体は、活性炭又はコークスである
請求項1乃至のいずれかに記載の重金属吸着剤の製造方法。
【請求項5】
含銅硫化物である銅精鉱を担持体に担持させてなり、排ガス中の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法であって、
前記銅精鉱と前記担持体とを混練して混練物を得るに際して、硫黄含有化合物を含む水溶液を添加することによって、該銅精鉱に該硫黄含有化合物を保持させるものであり、
前記硫黄含有化合物は、チオ尿素又はその誘導体を含む、
重金属吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に含まれる水銀等の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非鉄製錬、石炭火力、産業廃棄物焼却、製鉄関連施設等の設備から発生する排ガスには重金属が含まれており、その重金属の除去処理においては、例えば吸着塔や精製塔等が使用されている。
【0003】
重金属を除去する最も効率的な方法として、吸着法がある(例えば、特許文献1、2等参照)。この吸着法は、吸着剤として、例えばゼオライトや活性炭等の多孔質担体に硫化物やハロゲン化物を担持させたものを使用し、その吸着剤を充填塔(吸着塔)内に充填して吸着剤層を形成し、排ガスをその吸着剤層に通過させるというものである。この吸着法では、排ガス中に含まれる重金属が、吸着剤層を構成する吸着剤である硫化物やハロゲン化物に固定されて、分離除去される。
【0004】
吸着剤を構成する硫化物としては、鉛の硫化物、とりわけ鉛精鉱が、安価であることを理由の一つとして採用され、実用化されている。また、硫化物として、銅精鉱を担持体に担持させた吸着剤も実用化されている。
【0005】
ここで、銅精鉱は、銅を含有する鉱石から選鉱を行って銅の品位を高めたものであって、硫化銅(硫化銅(I)(CuS)や硫化銅(II)(CuS))以外にも、天然由来の鉄を含んだ斑銅鉱や黄銅鉱、硫化鉄(黄鉄鉱)等の硫化物、シリカ等の様々な物質を含む混合物であり、成分もさまざまである。
【0006】
銅精鉱を吸着成分として担持材に担持させ吸着剤とした場合、その銅精鉱や被処理ガスの成分によっては、銅精鉱中に含まれる硫黄分、被処理ガス中に含まれる硫酸分、また酸性ガス、酸素、水分等により、銅精鉱中の硫化銅(斑銅鉱、黄銅鉱、輝銅鉱等の含銅硫化物を含む。以下では総称して「硫化銅等」という)が徐々に硫酸銅(CuSO)に変化することがある。ところが、その硫酸銅は、硫化銅等とは異なり、重金属の吸着性能を有しない。
【0007】
このような硫酸銅の生成反応がゆっくりとでも進行すると、吸着性能を有しない硫酸銅が吸着剤表面を覆うようになり、被処理排ガスと吸着剤における吸着成分との固気接触が不良となり、吸着性能が低下していく。
【0008】
また、硫酸銅は水溶性であるため、被処理ガス中の凝縮水分にその硫酸銅が溶け出し、吸着剤の表面から離脱して、結果として吸着塔(充填塔)に充填し吸着剤層を構成している吸着剤の粒子と粒子との空隙がわずかに広がり、このことは被処理排ガスの流路が広がることを意味し、被処理排ガスと吸着剤の吸着成分との固気接触が不良となって、吸着性能が低下する傾向を示すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭54-8475号公報
【文献】特開平7-328433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、銅精鉱を担持体に担持させてなる重金属吸着剤において、吸着成分である銅精鉱中の硫化銅等が硫酸銅に変化することを抑制して、吸着性能が低下することを防ぐことができる重金属吸着剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、銅精鉱を担持体と混練して担持させるに際し、予め、その銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む溶液に浸漬させ、浸漬後の銅精鉱を担持体と混練して吸着剤を製造することによって、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、銅精鉱を担持体に担持させてなり、排ガス中の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法であって、前記銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む水溶液に浸漬させ、前記水溶液に浸漬後の銅精鉱を、前記担持体と混練させて混練物を得る、重金属吸着剤の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記担持体と混練させるに際して、前記水溶液を混練水分として添加する、重金属吸着剤の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記担持体と混練させるに際して、前記硫黄含有化合物の粒状固体を添加する、重金属吸着剤の製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記硫黄含有化合物は、チオ尿素である、重金属吸着剤の製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記担持体は、活性炭又はコークスである、重金属吸着剤の製造方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、銅精鉱を担持体に担持させてなり、排ガス中の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法であって、前記銅精鉱と前記担持体とを混練して混練物を得るに際して、硫黄含有化合物を含む水溶液を添加する、重金属吸着剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸着成分である銅精鉱中の硫化銅等が硫酸銅に変化することを抑制して、吸着性能が低下することを防ぐことができる重金属吸着剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
本実施の形態に係る重金属吸着剤の製造方法は、銅精鉱を担持体に担持させてなり、排ガス中の重金属を吸着除去するための重金属吸着剤の製造方法である。なお、以下では、重金属吸着剤のことを、単に「吸着剤」ともいう。
【0021】
ここで、重金属としては、水銀、砒素、鉛、カドミウム、バナジウム等が挙げられる。この重金属吸着剤の製造方法により製造される吸着剤は、例えば、非鉄製錬の排ガス等の酸性排ガス中に、ミスト状やガス状等で含まれる水銀を吸着除去するための水銀吸着剤として用いることができる。なお、排ガスとしては、酸性排ガスに限られず、また、上述した重金属が複数種含まれているものであってもよい。
【0022】
具体的に、本実施の形態に係る重金属吸着剤の製造方法は、銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む水溶液に浸漬させ、その溶液に浸漬後の銅精鉱を、担持体と混練させて混練物を得ることを特徴としている。
【0023】
銅精鉱は、製造される重金属吸着剤において、重金属を吸着する吸着成分として作用する。銅精鉱は、上述したように硫化銅等を含有するものである。ここで、「硫化銅等」とは、硫化銅(CuS、CuS)のほか、天然由来の鉄を含んだ斑銅鉱や黄銅鉱等の含銅硫化物等を含む意味である。この硫化銅等が吸着性能を有する。
【0024】
銅精鉱に含まれる硫化銅等は、例えば非鉄製錬の酸性排ガス中に含まれるSO、SO等の酸により分解されにくく、また、水に溶解されにくいという性質を有しており、種々の被処理排ガスに含まれる重金属に対する吸着剤の構成成分として好適に用いることができる。
【0025】
このような銅精鉱を吸着成分として含む吸着剤では、重金属を含む排ガスを接触させると、下記の反応式[1]に示すように、その水銀と硫化銅等との酸化還元電位の差によって、水銀がCuと置換して硫化水銀となる反応が生じ、これにより水銀を吸着除去する。
Hg+CuS→HgS+Cu ・・・[1]
【0026】
さらに、二酸化硫黄ガスの存在下では、反応式[2]ように反応して水銀を除去する。
Hg+CuS+O+SO→HgS+CuSO ・・・[2]
【0027】
吸着剤における銅精鉱の含有割合は、特に限定されないが、硫化銅の割合に換算したとき、10質量%~50質量%の割合とすることが好ましく、30質量%~45質量%の割合とすることがより好ましい。
【0028】
銅精鉱を担持する担持体としては、例えば、炭素化合物を用いることができる。担持体は、前記のように吸着成分である銅精鉱を担持させるものであるが、その担持体として炭素化合物を用いることで、それ自体でも水銀等の重金属を吸着する吸着剤として作用するため、吸着剤全体として吸着能力を向上させることができる。
【0029】
具体的に、炭素化合物としては、活性炭やコークス等の多孔質のものを用いることが好ましい。このような多孔質の炭素化合物は、その孔部に吸着剤として作用する銅精鉱を効率的に保持することができ、炭素化合物の担体に銅精鉱が担持された重金属吸着剤を構成することができる。また、多孔質の炭素化合物は、多くの微細孔を有するため、その微細孔による毛管現象によって重金属を吸着させることもできる。
【0030】
例えば、炭素化合物としては、50nmを超える孔径のマクロポアと、2nm~50nmの孔径のメソポアと、2nm未満の孔径のマイクロポアとを有する多孔質のものを用いることがより好ましい。これにより、重金属の吸着性能をより向上させることができる。
【0031】
炭素化合物の粒径(平均粒径)は、特に限定されないが、15mm以下とすることができ、例えば1mm~15mmの範囲とすることができる。また、好ましくは3mm~10mm程度とすることができ、より好ましくは5mm~8mm程度とすることができる。炭素化合物の粒径が1mm未満であると、吸着成分である銅精鉱を十分に担持することができない可能性があり、重金属の吸着性能を低下させることがある。一方で、炭素化合物の粒径が15mmを超えると、銅精鉱と効率的に混練させることができず、また比表面積が小さくなり、多孔質性を向上させることができないことある。
【0032】
吸着剤における担持体の含有割合は、特に限定されないが、40質量%~80質量%の割合とすることが好ましく、60質量%~70質量%の割合とすることがより好ましい。
【0033】
ここで、吸着成分である銅精鉱を、炭素化合物等からなる担持体に担持させてなる吸着剤は、その銅精鉱と担持体とを混合し、混練することによって製造することができる。なお、混練処理によって得られる混練物が、吸着剤となる。
【0034】
このとき、本実施の形態に係る重金属吸着剤の製造方法においては、担持体と混練するに先立ち、吸着成分である銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む水溶液中に浸漬させる。
【0035】
具体的には、例えば硫黄含有化合物であるチオ尿素を含む水溶液に、銅精鉱を浸漬させて、所定の時間保持する。このように、硫黄含有化合物を含む水溶液に銅精鉱を所定時間浸漬させることによって、銅精鉱に硫黄含有化合物を保持させておくことができる。そして、その銅精鉱と担持体との混練することによって、硫黄含有化合物を保持した銅精鉱を含む重金属吸着剤を得ることができる。
【0036】
上述したように、硫化銅等を主成分とする銅精鉱を担持体に担持させてなる吸着剤に対して、重金属を含む被処理排ガスを接触させると、排ガス中の重金属が硫化銅等と反応して除去されるようになるが、処理の進行に伴い、銅精鉱に含まれる硫化銅等が次第に硫酸銅(CuSO)へと変化し、吸着剤の表面を覆うようになる。硫酸銅は、重金属への吸着性能を有しないため、硫酸銅により表面が覆われた吸着剤では、次第にその吸着性能が低下していくことになる。また、硫酸銅は水溶性であるため、吸着剤の表面から溶け出して離脱した硫酸銅が、充填塔に形成される吸着材層における吸着剤粒子間の隙間を広げ、ガス流路を拡大させるようになり、吸着剤と被処理排ガスとの固気接触不良をもたらす。
【0037】
この点において、その製造過程において、硫黄含有化合物を含む水溶液に浸漬させることによって硫黄含有化合物を保持させた銅精鉱を担持体と混練して得られる吸着剤によれば、銅精鉱が保持している硫黄含有化合物中の硫黄(S)が、生成した硫酸銅のCuと反応して、硫化銅(II)(CuS)を生成させるようになる。これにより、吸着剤を構成する銅精鉱において、吸着成分である硫化銅等が硫酸銅に変化することを抑制することができ、また、一旦生成した硫酸銅を、吸着性能を有する硫化銅に再び戻すことができる。このような吸着剤によれば、重金属を吸着する吸着性能が低下することを防いで安定化させることができ、また、吸着剤と被処理排ガスとの固気接触を安定的に良好なものとすることができる。
【0038】
硫黄含有化合物としては、有機硫黄含有化合物であってもよく、無機硫黄含有化合物であってもよい。また、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよい。
【0039】
具体的には、例えば、チオ尿素又はその誘導体、チオアセトアミド又はその誘導体、ジチオオキサミド、チオセミカルバジド、ジチオカルバミン酸塩、キサントゲン酸塩、ジチオリン酸塩、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩等が挙げられる。チオ尿素の誘導体としては、1-アセチル-2-チオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3-ジエチルー2-チオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-メチルチオ尿素、1-フェニル-2-チオ尿素等が挙げられる。
【0040】
その中でも、チオ尿素又はその誘導体を用いることが好ましい。チオ尿素は、その硫黄(S)を使って硫酸銅に含まれるCuと反応する反応性が高く、効率的に硫酸銅から硫化銅を生成させることができ、より効果的に吸着剤の吸着性能を維持するように作用する。また、被処理排ガスの種類を問わずに適用することができ、さらに、常温で固体であるチオ尿素は水に溶けやすく、取り扱いが容易である。またさらに、チオ尿素は、それ自体が重金属の吸着性能を有するものであり、吸着剤の製造にあたり添加する添加剤として好適に用いることができる。
【0041】
また、硫黄含有化合物として、硫化ナトリウム(NaS)や硫化水素ナトリウム(水硫化ソーダ,NaHS)等を用いることもできる。ただし、例えば硫化水素ナトリウムの場合、二酸化硫黄(SO)ガス等の酸性ガスの存在下で反応し、硫化水素ガス(HS)を生成して分解することがある。そのため、被処理排ガスとして酸性ガスを処理する場合には、有効に使用することができない。
【0042】
吸着成分である銅精鉱を、硫黄含有化合物を含む水溶液中に浸漬させた後、その浸漬後の銅精鉱、すなわち硫黄含有化合物を保持した銅精鉱を、炭素化合物等の担持体と混合し、混練することによって混練物を得る。
【0043】
銅精鉱と担持体との混合、混練に際しては、例えば、ライカイ機、ニーダー、プラネタリーミキサー、回転胴式ミキサー等の装置を使用することができる。また、必要に応じて、加熱処理や冷却処理等を行うこともできる。
【0044】
銅精鉱と担持体との混練に際しては、上述した硫黄含有化合物を含む水溶液を、さらに混練水分として添加することができる。このように、混練に際しての添加水分として、硫黄含有化合物を含む水溶液を添加することで、効率的に混練操作を行うことができるとともに、より効率的に硫黄含有化合物を銅精鉱に付着させることができ、硫黄含有化合物を保持した吸着剤を有効に製造することができる。これにより、上述したように、吸着剤において硫酸銅の生成を抑制することができ、また生成した硫酸銅を、吸着性能を有する硫化銅に戻すことができる。
【0045】
なお、混練水分とは、単に混練水ともいい、混練対象(少なくとも、銅精鉱及び担持体)を均一に混ぜて練り込むために添加される水分のことをいう。このように、銅精鉱と担持体との混練に際して混練水分を添加することによって、担持体に均一に銅精鉱を担持させることができる。
【0046】
混練に際して添加する硫黄含有化合物を含む水溶液の添加方法としては、特に限定されず、例えば、混練装置に銅精鉱と担持体とを装入したのち、混練操作中に所定量の水溶液を少量ずつ添加する方法により行うことができる。または、水溶液を噴霧させることによって添加してもよい。
【0047】
なお、添加する硫黄含有化合物を含む水溶液は、銅精鉱に対する前処理としての浸漬処理に使用した、硫黄含有化合物を含む水溶液と同じものを用いてもよく、異なる硫黄含有化合物を含む水溶液を用いてもよい。
【0048】
また、銅精鉱と担持体との混練に際して、水溶液ではなく、硫黄含有化合物の粒状の固体(粒状粒子)を添加するようにしてもよい。このように固体成分を添加した場合であっても、銅精鉱や担持体と共にその固体成分も混練され、得られる混練物中に含有される形となり、同様にして吸着性能の維持作用を奏するようになる。
【0049】
ここで、本実施の形態においては、銅精鉱と担持体とを混合して混練するに先立って、その銅精鉱に対する前処理として硫黄含有化合物を含む水溶液に銅精鉱を所定時間浸漬させる態様の例を示したが、そのような前処理を行わず、銅精鉱と担持体とを混練するに際して、硫黄含有化合物を含む水溶液を混練水分として添加する方法であってもよい。
【0050】
混練水分として用いる硫黄含有化合物を含む水溶液やその水溶液を添加する操作は、上述したものと同様であるため説明は省略するが、このような方法によれば、硫黄含有化合物を銅精鉱に付着させることができ、硫黄含有化合物を保持した吸着剤を得ることができる。そして、吸着剤において硫酸銅の生成を抑制することができ、また生成した硫酸銅を、吸着性能を有する硫化銅に戻すことができる。
【0051】
なお、銅精鉱と担持体との混練に先立って、硫黄含有化合物を含む水溶液に銅精鉱を浸漬させた場合、水溶液を含んだ銅精鉱のハンドリングが困難になることがある。この点、銅精鉱と担持材とを混練する際の混練水分として硫黄含有化合物を含む水溶液を添加する方法によれば、効率的な操作により、吸着性能を安定化させた重金属吸着剤を製造することができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
銅精鉱と、担持材として粒径が6mm~8mmのコークスとを混練して混練物である吸着剤を製造するにあたり、混練に先立って、銅精鉱を、濃度0.1mol/Lのチオ尿素水溶液に浸漬させた。そして、浸漬後の銅精鉱と、コークスとを混練して吸着剤を得た。
【0054】
得られた吸着剤をキルン排ガス処理の充填塔に充填して、排ガスを充填塔に通過させた。排ガスは、亜硫酸ガス濃度5容量%、水銀濃度0.5mg/Nm、温度50℃(水分飽和)であり、流速0.20m/sで充填塔に通過させた。
【0055】
このように充填塔に排ガスを通過させて重金属である水銀を除去する操作を行ったのち、充填塔出口でのガス中の水銀濃度を測定したところ、水銀濃度は0.025mg/Nm以下であった。充填塔入口でのガス中の水銀濃度との関係から、水銀除去率としては95%以上の高い除去率となり、効果的に水銀を除去することができた。
【0056】
また、この水銀除去操作を3か月間継続したところ、95%以上の高い水銀除去率を維持することができた。
【0057】
[実施例2]
銅精鉱と、担持材として粒径が6mm~8mmのコークスとを混練して混練物である吸着剤を製造するにあたり、その混練にあたり、濃度0.1mol/Lのチオ尿素水溶液を混練水分として、銅精鉱1トン当たり100Lの割合で添加した。
【0058】
得られた吸着剤をキルン排ガス処理の充填塔に充填して、排ガスを充填塔に通過させた。排ガスは、亜硫酸ガス濃度5容量%、水銀濃度0.5mg/Nm、温度50℃(水分飽和)であり、流速0.20m/sで充填塔に通過させた。
【0059】
このように充填塔に排ガスを通過させて重金属である水銀を除去する操作を行ったのち、充填塔出口でのガス中の水銀濃度を測定したところ、水銀濃度は0.025mg/Nm以下であった。充填塔入口でのガス中の水銀濃度との関係から、水銀除去率としては95%以上の高い除去率となり、効果的に水銀を除去することができた。
【0060】
また、この水銀除去操作を3か月間継続したところ、95%以上の高い水銀除去率を維持することができた。