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特許7154812油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20221011BHJP
   B43K 1/08 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K1/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018083852
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019189751
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】益田 博考
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-213413(JP,A)
【文献】特開2002-322401(JP,A)
【文献】特開2015-193681(JP,A)
【文献】特開2011-012140(JP,A)
【文献】特開昭55-152769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
B43K 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、セルロースエステル樹脂を含んでなり、前記セルロースエステル樹脂の数平均分子量が70000以下であり、該セルロースエステル樹脂の水酸基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、3~15%であり、該セルロースエステル樹脂のアセチル基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、0.1~3%であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、アルコキシエチル基またはアルコキシ基を有するリン酸エステルを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記セルロースエステル樹脂中で形成している無水グルコースが、無水グルコース4単位中の水酸基の個数については、3~10であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記セルロースエステル樹脂の含有量が、油性ボールペン用インキ組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が、10000~50000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないしのいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、着色材、有機溶剤を含有し、インキ粘度を10,000mPa・s以上(20℃)である油性ボールペン用インキをインキ収容筒内に充填した油性ボールペン用インキは良く知られている。 こうした油性ボールペンは、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制することは可能であるが、インキ粘度が高いため、ボールペンとして使用する場合には、自ずと筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重く良好とは言えなく、潤滑性の良好な油性ボールペン用インキの開発が望まれていた。
【0003】
そのため、インキ粘度を低粘度化して、書き味を向上させるための油性ボールペン用インキ組成物としては、特開2006-249293号公報「油性ボールペン用油性インキ組成物」に開示されている。しかし、特許文献1では、3000mPa・s以下である油性インキ組成物を用いて書き味を向上させることを試みているが、インキ粘度が低いため、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れが発生してしまい、特定の溶剤を含有するだけでは、インキ漏れ抑制する効果は十分ではない。
【0004】
また、インキ漏れ抑制剤として、シリカやテルペンフェノール樹脂を用いたり、ゲル化剤を用いてインキ粘度を高く設定した、油性ボールペン用インキ組成物の技術が提案されており、このような油性ボールペン用インキ組成物として、インキ漏れ抑制剤を用いた技術として、一次平均粒子径7~40nmのシリカを用いた特開平10-195365号公報「ボールペン用油性インキ」や、OH価が150以上であるテルペンフェノール樹脂を用いた技術としては、特開2007-126528号公報「ボールペン用油性インキ」、剪断減粘性付与剤として、水添ヒマシ油や脂肪酸アミドワックスを用いた技術としては、特開平7-196972号公報「ボ-ルペン用油性インキ組成物」に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】「特開2006-249293号公報」
【文献】「特開特開平10-195365号公報」
【文献】「特開2007-126528号公報」
【文献】「特開7-196972号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2では、一次平均粒子径7~40nmのシリカでは、粒径が小さく、シリカの比重が大きいため、油性インキ中での分散安定性が劣ってしまい、特許文献3では、OH価が150以上であるテルペンフェノール樹脂では、OH価が多いため、油性インキ中での溶解性が悪く、それぞれ十分な効果を発揮できなかった。また、特許文献4では、水添ヒマシ油や脂肪酸アミドワックスでは、ある程度インキ漏れを抑制することは可能であるが、静止時のインキ粘度が高くなり、インキ追従性が劣りやすく、筆跡にカスレが発生することもあり、書き味に影響するため、改善の余地があった。
そのため、インキ漏れを抑制しつつ、書き味が良好である油性ボールペン用インキ組成物が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、インキ漏れを抑制が良好であるとともに、書き味に優れた油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、セルロースエステル樹脂を含んでなり、前記セルロースエステル樹脂の数平均分子量が70000以下であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
2.前記セルロースエステル樹脂の含有量が、油性ボールペン用インキ組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上であることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
3.前記油性ボールペン用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
4.20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が、10000~50000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
5.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、チップ先端で樹脂被膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ漏れを抑制が良好であり、潤滑層を形成することで書き味に優れた油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」等は特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明の特徴は、油性ボールペン用インキ組成物に、数平均分子量が70000以下であるセルロースエステル樹脂を含んでなることを特徴とする。
【0012】
(セルロースエステル樹脂)
油性ボールペン用インキ組成物に数平均分子量が70000以下であるセルロースエステル樹脂を含んでなることで、インキ漏れを抑制し、書き味に優れることが可能であることが解った。これは、チップ先端を大気中に放置した状態にした場合、前記数平均分子量が70000以下であるセルロースエステル樹脂が、チップ先端で樹脂被膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ漏れを抑制することが可能となるためで、さらに、前記セルロースエステル樹脂によって、潤滑層を形成することで潤滑性を向上することで、筆記抵抗を抑制し、書き味を向上することが可能となる。特に、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度を10000mPa・s以上とした場合でも、書き味を向上しやすいため好ましい。これは、インキ粘度10000mPa・s以上とした場合に、流体潤滑が起こりやすく、セルロースエステル樹脂によって形成される潤滑層との相互作用によって、より潤滑性を向上することで、書き味を向上しやすく、インキ粘度20000mPa・s以上とした場合でも、より効果的である。
また、前記セルロースエステル樹脂は、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果を向上しやすいため、好適に用いることができる。
【0013】
本発明で用いるセルロースエステル樹脂については、セルロース樹脂中の水酸基の少なくとも一部をエステル化したものである。セルロースエステル樹脂の中でも、有機溶剤への溶解性を考慮すれば、数平均分子量が70000以下であるセルロースエステル樹脂を用いることが好ましい。これは、数平均分子量が70000を超えると、分子量が大きすぎて、有機溶剤への溶解性が劣るため、インキ漏れを抑制や、書き味の効果が得られないためで、さらにインキ粘度が高くなることで、書き味やインキ追従性などの筆記性に影響が出てしまうためである。より上記のことを考慮すれば、前記数平均分子量が50000以下であることが好ましく、より書き味向上を考慮すれば、前記数平均分子量が30000以下であることが好ましい。また、前記セルロースエステル樹脂が、チップ先端で樹脂被膜を形成しやすくし、インキ漏れを抑制することや、潤滑層を形成することで潤滑性を向上しやすくすることを考慮すれば、前記数平均分子量が5000以上であることが好ましく、より考慮すれば、10000以上であることが好ましい。
なお、本願明細書において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算にて得られた値で、測定装置としては、東ソー株式会社製 高速GPC装置「HLC-8320GPC」を用いた。
【0014】
セルロースエステル樹脂については、具体的には、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースプロピオネート(CP)、セルローストリアセテート(CAT)等が挙げられる。その中でも、前記セルロース中に、プロピル基、ブチル基が導入され、かつ、アセチル基が導入されたセルロースアセテート樹脂であるセルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)を用いることが好ましい。これは、プロピル基、ブチル基が導入されることで、より筆記抵抗を抑制し、さらにプロピル基、ブチル基、アセチル基が導入されたセルロースはインキ中で溶解安定しやすく、インキ漏れを抑制と、書き味を向上する効果が得られやすいためであり、より筆記抵抗を抑制し、書き味、経時安定性を考慮すれば、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を用いることが好ましく、さらにセルロースアセテートプロピオネート(CAP)は書き出し性能も向上しやすいため、好ましい。
【0015】
セルロースエステル樹脂の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、セルロースエステル樹脂の含有量が全樹脂の含有量の50%未満となると、その他の樹脂によって、弾力性がある潤滑層を形成するのを阻害してしまいやすく、書き味向上の効果が得られづらくなり、さらに、チップ先端の樹脂被膜の形成を阻害しやすく、インキ漏れを抑制できず、さらに弾力性がある潤滑層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られづらくなるためである。より書き味やインキ漏れを向上する傾向を考慮すれば、セルロースエステル樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して70%以上が好ましく、より考慮すれば、90%以上が好ましい。さらに、他の樹脂との相性によって経時的に影響しないようにして、本発明の効果を発揮すること考慮すれば、セルロースエステル樹脂の含有量が全樹脂の含有量は99%以下であることが好ましく、より考慮すれば、95%以下であることが好ましい。
【0016】
前記セルロースエステル樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0質量%より少ないと、所望の潤滑性やインキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1.0~40.0質量%が好ましい。さらに、考慮すれば5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5.0~30.0質量%が好ましく、より考慮すれば、10.0~25.0質量%が好ましい。
【0017】
また、前記セルロースエステル樹脂中で形成している無水グルコースがあるが、無水グルコース4単位中の水酸基の個数については、3~10であることが好ましい。これは、上記範囲であると、有機溶剤へ溶解安定しやすく、インキ漏れを抑制や、書き味を良好としやすいためである。より上記を考慮すれば、前記無水グルコース4単位中の水酸基の個数は、3~8であることが好ましく、より考慮すれば、3~5であることが好ましい。
【0018】
また、前記セルロースエステル樹脂の水酸基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、3~15%であることが好ましい。これは、上記範囲であると、有機溶剤へ溶解安定しやすく、インキ漏れを抑制や、書き味を良好としやすいためである。より上記を考慮すれば、前記セルロースエステル樹脂の水酸基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、3~10%であることが好ましく、より考慮すれば、4~7%であることが好ましい。
【0019】
さらに、油性インキ中で安定して溶解し、本発明の効果を奏しやすくするために、導入される基としては、前記セルロース中に、アセチル基が導入されたセルロースアセテート樹脂を用いることが好ましい。前記セルロースエステル樹脂のアセチル基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、10%以下であることが好ましい。これは、上記範囲であると、有機溶剤へ溶解が安定しやすく、インキ漏れの抑制や、書き味を良好としやすいためである。より上記を考慮すれば、前記セルロースエステル樹脂のアセチル基の含有率が、セルロースエステル樹脂全量に対して、5%以下であることが好ましく、より考慮すれば、0.1~3%であることが好ましい。
【0020】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0021】
染料としては、潤滑性の向上と、インキ中での前記セルロースエステル樹脂との安定性などのインキ経時安定性を考慮すれば、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料、樹脂酸と塩基性染料と造塩染料の中から選択することが好ましい。
前記造塩染料の中でも、前記セルロースエステル樹脂との相乗的な潤滑性の向上を考慮すれば、有機酸と塩基性染料との造塩染料を用いる方が好ましく、その中でも、アルキルアリルスルホン酸と塩基性染料との造塩染料を用いる方が好ましい。これは、アルキルアリルスルホン酸の構造において、芳香環を有し、スルホ基(-SOH)を有することで、フェニルスルホン基が、金属に吸着し易い潤滑層を形成することで、より潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とするため好ましく、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸が挙げられる。
また、アルキルベンゼンスルホン酸としては、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられ、好ましく用いることが可能であるが、潤滑性を向上することを考慮すれば、スルホ基(-SOH)が多いドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸が好ましい。
【0022】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
顔料の種類としては、セルロースエステル樹脂との相性による潤滑性を考慮すれば、カーボンブラック、キナクリドン系、スレン系、ジケトピロロピロール系の顔料の中から用いることが好ましい。
【0023】
着色剤としては、潤滑性を考慮すれば、顔料を用いることが好ましい。これは、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制する効果が得られやすいため、顔料を用いることが好ましい。また、ボールペンチップ内部の隙間関係を考慮し、顔料の平均粒子径は、1~500nmとすることが好ましい。より好ましくは、10~350nmであり、さらに好ましくは、50~300nmである。本発明のように、セルロースエステル樹脂を用いることで、形成される潤滑層によって、書き味を向上できるため、顔料を用いることは好ましい。
ここで、平均粒子径は、レーザー回折法、具体的には、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により求めることができる。
尚、前記顔料は、油性ボールペン用インキ組成物中での顔料の分散状態で前記した作用効果を奏するため、分散状態の粒子径を求めることが好ましい。
【0024】
着色剤の総含有量は、インキ組成物全量に対し、5~30質量%が好ましい。これは5質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30質量%を越えると、インキ中での溶解性や、セルロースエステル樹脂と相性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7~25質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10~20質量%である。
【0025】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0026】
これら有機溶剤の中でも、インキ漏れ抑制を考慮すれば、グリコールエーテル溶剤を用いると、前記セルロースエステル樹脂との溶解性を安定させることで、前記セルロースエステル樹脂のチップ先端での樹脂被膜形成の効果が得られやすいため、好ましく、また、アルコ-ル溶剤は、揮発しやすく、チップ先端での乾燥をしやすく、樹脂被膜形成が速くなりやすく、インキ垂れ下がり性能を向上しやすいため、好ましい。そのため、本発明では、グリコールエーテル溶剤とアルコ-ル溶剤を少なくとも併用して用いる方が好ましい。特に、潤滑性を向上することを考慮すれば、芳香環を有する方が好ましいので、芳香族のグリコールエーテル溶剤と芳香族のアルコ-ル溶剤を少なくとも併用して用いる方が好ましい。これらの有機溶剤は、1種又は2種以上用いることができる。
【0027】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10~70質量%が好ましい。また、アルコ-ル溶剤の含有量は、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、全有機溶剤に対し、30~90質量%が好ましく、より好ましくは50~90質量%である。
【0028】
(界面活性剤)
本発明においては、潤滑性を向上することで書き味を向上しやすく、さらにチップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤によって形成される潤滑層によって、潤滑性を向上しやすくし、さらに界面活性剤によって形成される被膜を柔らかくし、書き出し性能を改良しやすくすることができるためである。界面活性剤としては、脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤の中から1種以上を用いることが好ましい。
特に、ボールペンで用いる場合は、リン酸エステル系界面活性剤は、リン酸基を有することで金属類などのボールペンチップやボールに吸着しやすく、潤滑効果が得られやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。さらに、前記したセルロースエステル樹脂を用いる場合は、セルロースエステル樹脂によって形成する潤滑層と前記界面活性剤によって潤滑層によって相互作用が働き、より潤滑性を向上し、書き味を向上しやすいため、より好ましい。
【0029】
前記界面活性剤については、より潤滑性と書き出し性能の両方を向上することを考慮すれば、HLB値が6~14であることが好ましい。これは、HLB値が14を越えると親水性が強くなりやすく、油性インキ中での溶解性が劣りやすいため、前記界面活性剤の効果が得られにくく、潤滑効果が得られにくいためである。また、HLB値が6未満だと、親油性が強くなり過ぎて、有機溶剤との相溶性に影響が出やすく、インキ経時が安定しにくく、さらに書き出し性能が向上しにくいためである。さらに、潤滑性を考慮すれば、HLB値が12以下にすることが好ましく、HLB値が6~12であることが好ましく、よりインキ経時安定性、書き出し性能を考慮すれば、HLB値が8~12が好ましい。
尚、HLBは、グリフィン法、川上法から求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0030】
前記界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸などが挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられ、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物などが挙げられ、リン酸エステル系界面活性剤としては、アルコキシ基(C2a+1O、a:整数)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。また、リン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、酸価は、150以下とすることが好ましい、これは、リン酸エステル系界面活性剤による潤滑性の向上を発揮しやすくするためで、さらにインキ中での安定性や、潤滑性を考慮すれば、酸価は30~120が好ましい、より考慮すれば、酸価は70~120が好ましい
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0031】
前記界面活性剤の中でも、潤滑性を向上し書き味を良好とするには、アルコキシ基(C2a+1O、a:整数)を有するリン酸エステルが好ましく、具体的にはアルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)やアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステルを用いることが好ましく、特に、一般式(化1)、(化2)のようなアルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)やアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステルを用いることが好ましい。これは、一般式(化1)、(化2)の構造のPが、金属製のボールペンチップ本体やボールに吸着し、Pに隣接するアルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)やアルコキシ基(C2m+1O)によって、潤滑層を形成しやすくすることで、潤滑性を向上し、書き味とボール座の摩耗抑制を向上しやすい。特に、他のリン酸エステルとは異なり、アルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)やアルコキシ基(C2m+1O)を有することで、より高い潤滑性を有する潤滑層を形成しやすいため、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)においても潤滑性を保ち、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)でもボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上することが可能であり、効果的である。特に、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)でもボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上しやすくすることを考慮すれば、アルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)を有する一般式(化1)を用いることが好ましい。
【化1】

【化2】

【0032】
また、一般式(化1)、(化2)のようなリン酸エステルの中でも、アルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)、アルコキシ基(C2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(l,m)について特定の炭素鎖(l,m)とすることが好ましいが、この効果については、以下のように推測する。
アルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)、アルコキシ基(C2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(l,m)については、1~10とすることが好ましい。これは、上記範囲であると、アルコキシエチル基(C2l+1OCHCHO)やアルコキシ基(C2n+1O)の末端アルキル基の炭素鎖が適度な長さを保つことで、書き味、書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)でのボール座の摩耗抑制の全ての効果が得られやすいためである。これは、末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が10を越えた場合、特に前記炭素鎖(l,m)が5以下とした場合は、お互いの炭素鎖間で立体障害が出やすく、金属に吸着したリン酸基が密になっても、炭素鎖の配列が密になりづらく、潤滑性が十分な潤滑層が得られづらいためである。さらに、末端アルキル基の極性が油性側に寄ってしまうため、有機溶剤に対する親和性が劣ることで、溶解安定性に影響しやすく、特にグリコールエーテル溶剤では影響が生じやすく、インキ中での溶解安定性に問題が出やすくなる。このため、長期間保存により金属製チップ中の金属イオン等の影響により、金属塩析出物が発生しやすくなり、インキ経時安定性が劣りやすく、本発明のような潤滑効果が得られづらい。そのため、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)については、1~10とすることが好ましく、より考慮すれば、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)は、1~5であることが好ましい。
【0033】
一方、末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が3以下とした場合には、インキ中において、前記アルキル基が十分に伸びず、ボールとボール座の間のクッション性が十分でない潤滑層になりやすいため、書き味や書き出し性能に影響が出やすい。そのため、前記末端アルキル基が、ブチル基(末端アルキル基の炭素鎖:4)を有するブトキシエチルアシッドホスフェート(l=4)、ブチルアシッドホスフェート(m=4)などを用いることで、高筆圧下でのボール座の摩耗を抑制、書き味、書き出し性能の向上する効果が得られやすいため、好ましい。
【0034】
前記界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.2~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.3~2.0質量%が、最も好ましい。
【0035】
(有機アミン)
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性を考慮すれば、有機アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましく、さらに考慮すれば、ジメチルアルキルアミンが好ましい。特にリン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、中和することで、インキ中で安定することで、書き味や書き出し性能を向上する効果が得られやすいため、好ましい。
【0036】
また、前記有機アミンとインキ中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、インキ経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
さらに、前記有機アミンの全アミン価は、染料やその他のインキ成分との安定性を考慮すれば、100~300(mgKOH/g)とすることが好ましい。これは、300(mgKOH/g)を超えると、反応性が強いため、前記染料やその他のインキ成分と反応し易いため、インキ経時安定性が劣りやすい。また、全アミン価が、100(mgKOH/g)未満であると、インキ中の成分の安定性に影響が出やすく、さらに、前記リン酸エステル系界面活性剤に対する中和が不十分になり、インキ経時安定性に影響が出やすく、油性ボールペンとした場合、ボールやチップ本体などの金属類の吸着性が劣りやすく、潤滑性能が得られにくい。より染料やリン酸エステル系界面活性剤との安定性や潤滑性をより考慮すれば、150~300(mgKOH/g)の範囲が好ましく、より考慮すれば、200~300(mgKOH/g)が好ましい。
なお、全アミン価については、1級、2級、3級アミンの総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0038】
前記有機アミンの含有量は、前記造塩染料やその他の成分との安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%が好ましく、さらに前記リン酸エステル系界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.1~5.0質量%が好ましい。
【0039】
(脂肪酸エステル)
本発明においては、上記潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、脂肪酸エステルを用いることが好ましい。脂肪酸エステルによって、チップ先端部のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化しやすくすることで、書き出し性能を向上しやすく、さらに、潤滑性を向上しやすくすることで、書き味、書き出し性能を全て向上しやすいため好ましい。
【0040】
脂肪酸エステルについては、脂肪酸と、1価アルコールや多価アルコールなどのアルコールとをエステル化反応させたものであるが、前記脂肪酸エステルの中でも、より書き出し性能を向上することを考慮すれば、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルを用いることが好ましい。これは、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルは、直鎖構造よりも、嵩高い構造をしているため、分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、金属製のボール表面やチップ本体のボール座に吸着しやすく、さらに厚い潤滑膜を形成して、より潤滑性が向上しやすいためで、同時に分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、チップ先端部のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化し、書き出し性能を向上するためである。
【0041】
さらに、前記脂肪酸エステルについては、酸価を0.01~5(mgKOH/g)とすることが好ましい、これは、油性インキ中の前記前記セルロースエステル樹脂や他成分との相性が良好であり、長期間インキ中で安定しているため、長時間書き出し性能を向上し、長期間潤滑性を向上し、書き味を向上しやすくすることが可能となるためである。より考慮すれば、酸価については、0.01~2.5(mgKOH/g)であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1.0(mgKOH/g)である。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分(遊離脂肪酸)を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0042】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールは、多価アルコールが好ましい。これは、理由は定かではないが、前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの水酸基が多い方が、保湿作用が働きやすく、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、ボールの回転をスムーズにする効果が得られるので、筆跡カスレが発生せずに、書き出し性能が向上するものと推測される。より書き出し性能を向上することを考慮すれば、水酸基が4価以上の多価アルコールであることが好ましく、より好ましくは水酸基が5価以上であることが好ましい。また、水酸基が多すぎると、油性インキ中での安定性に影響が出やすいため、水酸基が8価以下であることが好ましい。
【0043】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの具体例としては、1価アルコールとしては、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミスチリルアルコール、ステアリルアルコール、ドコサノールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの中でも、より書き出し性能を向上し、インキ経時安定性を考慮すれば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのペンタエリスリトール類によってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましく、より考慮すれば、ジペンタエリスリトールによってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
【0044】
(樹脂)
また、前記セルロースエステル樹脂以外の樹脂をインキ粘度調整剤として、用いても良い。樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、セルロースエステル樹脂以外のセルロース樹脂などが挙げられるが、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。
【0045】
ポリビニルブチラール樹脂についても、前記セルロースエステル樹脂と併用することで、より高い潤滑効果が得られる潤滑層を形成しやすい。そのため、ボールとボール座との間に常に弾力性がある潤滑層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい。さらに、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、形成する被膜によって、インキ漏れをより向上しやすくなるため、好ましく、また、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果も得られるため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
【0046】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性がある潤滑層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0047】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。より考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましく、さらに1000以下が好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0048】
また、本発明による筆記具用インキ組成物には、その他の添加剤として、潤滑性やインキ経時安定性を向上させるために、(i)界面活性剤、例えば脂肪酸アルカノールアミド、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤や、陰イオン性界面活性剤および/または陽イオン性界面活性剤の造塩体を、(ii)粘度調整剤、例えば脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤、また、(iii)着色剤安定剤、(iv)可塑剤、(v)キレート剤、または(vi)助溶剤としての水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0049】
ボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。また、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであると、前記セルロースエステル樹脂を用いた場合、ボール表面にインキが載りやすいためより好ましく、より書き味を考慮すれば、2~8nmが好ましい。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0050】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0051】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、3~20μmとするのが好ましい。これは、3μm未満であると、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、20μmを越えると、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、よりそのことを考慮すれば、5~15μmとするのが好ましい。
【0052】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度を10000mPa・s以上とした場合では、従来の油性ボールペン用インキでは書き味が劣ってしまっていたが、前記セルロースエステル樹脂を用いた場合では、インキ粘度を10000mPa・s以上としても書き味を向上しやすいため好ましい。これは、インキ粘度10000mPa・s以上とした場合に、流体潤滑が起こりやすく、前記セルロースエステル樹脂によって形成される潤滑層との相互作用によって、より潤滑性を向上することで、書き味を向上しやすいためで、さらにインキ漏れも抑制しやすい。より潤滑性を向上することを考慮すれば、インキ粘度は20000mPa・s以上とすることが好ましい。そのため、書き味、インキ漏れ抑制、インキ追従性能、書き出し性能をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は10000~50000mPa・sがより好ましく、より考慮すれば、20000~50000mPa・sが好ましく、さらに、考慮すれば、20000~40000mPa・sが好ましい。
【0053】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤、有機溶剤、セルロースエステル樹脂、リン酸エステル系界面活性剤、有機アミン、脂肪酸エステル、曳糸性付与樹脂を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度25000mPa・sであった。
【0054】
実施例1
着色剤(アルキルアリルスルホン酸と塩基性染料との造塩染料) 5.0質量%
着色剤(酸性染料と塩基性染料との造塩染料) 5.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 34.5質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)30.0質量%
セルロースエステル樹脂
(数平均分子量:15000、水酸基の含有率:5.0%、アセチル基の含有率0.6%、セルロースエステル樹脂中で形成している無水グルコース4単位中の水酸基の個数:4) 20.0質量%
リン酸エステル系界面活性剤 (アルコキシエチル基を有するリン酸エステル、化1:l=4として、n=1とn=2の混合物) 2.0質量%
有機アミン 2.0質量%
分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステル 1.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
【0055】
実施例2~12
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~12の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
インキ粘度については、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例3、5のインキ粘度を測定したところ、実施例3のインキ粘度29000mPa・s、実施例5のインキ粘度44000mPa・sであった。
【0056】
比較例1~3
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~3の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【0057】
試験および評価
実施例1~12および比較例1~3で作製した油性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ1.0mm)を回転自在に抱時したボールペンチップ(ボールの縦軸方向の移動量:6μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):13nm)を装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の油性ボールペン用インキ(0.2g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ(登録商標))に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0058】
インキ漏れ抑制試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの ・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
【0059】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0060】
書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に24時間放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、10mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、10mm以上、20mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、20mm以上、40mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、40mm以上であるもの ・・・×
【0061】
実施例1~12では、インキ漏れ抑制試験、書き味、書き出し性能試験ともに良好な性能が得られた。
実施例1、3、5の筆記抵抗値を測定したところ、実施例1<実施例3<実施例5となり、実施例1が最も良く、順に実施例3、実施例5が良好といった結果になった。
【0062】
比較例1、2では、数平均分子量が70000を超えるセルロースエステル樹脂を用いたため、インキ配合時に分離してしまい、インキ化できなかった。
【0063】
比較例3では、セルロースエステル樹脂を用いなかったため、インキ漏れ性能、書き味が劣ってしまった。
【0064】
実施例13、14
実施例13は、セルロースエステル樹脂の含有量を5%、アルコール溶剤(ベンジルアルコール)の含有量を49.5%にインキ配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例13の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
実施例14は、セルロースエステル樹脂の含有量を10%、アルコール溶剤(ベンジルアルコール)の含有量を44.5%にインキ配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例14の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
実施例13、14では、書き味、書き出し性能試験を、実施例1~12と同様に行ったところ、書き味、書き出し性能ともに良好な性能が得られた。
【0065】
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具を用いた場合では、インキ漏れ抑制、書き出し性能が重要な性能の1つであるため、少なくとも本発明のようなセルロースエステル樹脂とリン酸エステル系界面活性剤とを併用すると効果的である。
【0066】
また、本実施例では、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の筆記具は、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペンとした筆記具であっても良く、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該油性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の筆記具として広く利用することができる。