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特許7154845粒子線検査装置、粒子線検査容器、粒子線検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】粒子線検査装置、粒子線検査容器、粒子線検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 7/00 20060101AFI20221011BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20221011BHJP
   G01T 1/29 20060101ALI20221011BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20221011BHJP
   G01T 1/04 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01T7/00 C
A61N5/10 H
A61N5/10 Q
G01T1/29 A
G01T1/16 B
G01T1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018126148
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2020003462
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510126379
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊原 尚実
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
(72)【発明者】
【氏名】下野 義章
(72)【発明者】
【氏名】平田 寛
(72)【発明者】
【氏名】榊原 和久
(72)【発明者】
【氏名】五東 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】蓑原 伸一
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06218673(US,B1)
【文献】特開2014-209093(JP,A)
【文献】特開2017-187286(JP,A)
【文献】特開2001-318150(JP,A)
【文献】特表2017-532532(JP,A)
【文献】特開2012-002669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 -1/16
1/167-7/12
A61M 36/10-36/14
5/00- 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線照射装置から入射した粒子線の電離作用により吸光度特性が三次元的に変化する物質と、
前記物質を充填させ前記粒子線照射装置のアイソセンターに配置され前記粒子線を一方向から入射させる第1容器と、
前記粒子線の入射方向に対し交差方向へ光源から光線を出力させる光線出力部と、
前記物質を通過した前記光線を入力した受光素子から前記光線の光強度信号を入力する光強度入力部と、
前記粒子線の入射領域に交わるようにかつこの入射領域における前記粒子線の入射方向に沿って前記光線が移動するように、前記第1容器に対して前記光源及び前記受光素子を相対的に移動させる移動駆動部と、
前記物質に出現したブラッグピークの位置及び形状を前記入射領域とともに表示する表示部と、を備える粒子線検査装置。
【請求項2】
請求項1の粒子線検査装置において、
前記光線と方向が交差する軸を中心として、前記光源及び前記受光素子に対して前記第1容器を相対的に回転させる回転駆動部を、さらに備える粒子線検査装置。
【請求項3】
請求項2の粒子線検査装置において、
前記第1容器に対して前記光源及び前記受光素子を相対的に動かしながら入力された前記光強度信号に基づいて前記入射領域の二次元画像データ又は三次元画像データを生成する画像データ生成部を、さらに備える粒子線検査装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の粒子線検査装置において、
前記第1容器を浸漬する液体が内側に収容されるとともに、前記光源及び前記受光素子が外側に配置される第2容器を、さらに備える粒子線検査装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粒子線検査装置において、
前記第1容器に充填される前記物質は、
水溶液をゲル化するゲル化剤と、
前記粒子線により水が電離して発生するラジカルにより切断され酸化した分子結合基が特定の波長領域の光を選択的に吸光して発色する発色剤と、を含む粒子線検査装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線検査装置において、
前記光源が出力する前記光線は、400nm~700nmの波長領域に連続スペクトルを持つ連続光、又は400nm~700nmの波長領域に輝線スペクトルを持つ単色光もしくはレーザ光である粒子線検査装置。
【請求項7】
請求項6に記載の粒子線検査装置において、
前記受光素子は、入力した光線の強度に応じて前記光強度信号を個別に出力する複数の半導体検出器の集合体からなる粒子線検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の粒子線検査装置において、
前記複数の受光素子の配列幅は、前記粒子線の入射軸に対し直交する前記物質の断面において前記粒子線の電離作用により吸光度特性が変化した領域の最大長よりも大きく設定されている粒子線検査装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の粒子線検査装置を構成する前記第1容器である粒子線検査容器。
【請求項10】
粒子線照射装置から前記粒子線を出射し、請求項1の粒子線検査装置を構成する前記第
1容器に充填された前記物質に、入射させるステップと、
前記粒子線の電離作用により前記吸光度特性が変化した前記物質の部分から、ブラッグピークの位置を観測するステップと、を含むことを特徴とする粒子線検査方法。
【請求項11】
粒子線照射装置からエネルギーを変化させて前記粒子線を出射し、請求項1の粒子線検査装置を構成する前記第1容器に充填された前記物質に、入射させるステップと、
前記粒子線の電離作用により前記吸光度特性が変化した前記物質の部分から、拡大ブラッグピーク(SOBP)の形状を観測するステップと、を含むことを特徴とする粒子線検査方法。
【請求項12】
粒子線照射装置から方向を変化させて前記粒子線を出射し、請求項1の粒子線検査装置を構成する前記第1容器に充填された前記物質に、入射させるステップと、
前記粒子線の電離作用により前記吸光度特性が変化した前記物質の部分から、照射野の形状を観測するステップと、を含むことを特徴とする粒子線検査方法。
【請求項13】
粒子線照射装置から前記粒子線を出射し、請求項1の粒子線検査装置を構成する前記第1容器に充填された前記物質に、入射させるステップと、
前記第1容器の位置を移動させて前記粒子線照射装置から前記粒子線を出射し、位置をずらせて前記物質に入射させるステップと、
前記粒子線の電離作用により前記吸光度特性が変化した前記物質の部分から、複数のブラッグピークの位置を観測するステップと、を含むことを特徴とする粒子線検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子線照射装置から照射される粒子線の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線によるがん治療は、線量を集中して照射できるため、効率的な治療の実現が期待できる。この治療は、荷電粒子を、加速器により所定のエネルギーまで加速して、人体に照射するものである。この荷電粒子が人体に照射されると、クーロン相互作用によって荷電粒子の持つエネルギーが、物質に急激に付与される。
【0003】
このエネルギーは、荷電粒子の入射エネルギーに対応する体内の特定深さにおいて、ブラッグピークと呼ばれる急峻な最大値を取る。そして、このブラッグピークが発現した位置において、ピンポイントで大きなエネルギーが付与される。そして、この物質の電離作用により発生するラジカルが、DNAに作用し腫瘍の増殖機能を破壊する。
【0004】
粒子線におけるがん治療では、ブラッグピークの発現原理を応用して、線量の照射を腫瘍に集中させるとともに健常細胞への照射を抑制している。そして、粒子線をペンシルビームと呼ばれる細い照射ビームに絞り、腫瘍の形に合わせて照射を行うスキャニング法が実用化されている。
【0005】
このスキャニング法は、最初に粒子線の出射方向を変化させながら出射軸に垂直に二次元照射し、続いて粒子線のエネルギーを変化させ照射位置の深さ方向を変化させて、同様に二次元照射する。これを繰り返して腫瘍の形に合わせて粒子線を三次元照射し、健常組織への照射ダメージを最小限に抑える。
【0006】
ここで、人体組織の狙った位置に粒子線を正確に照射するために、粒子線照射装置は、その照射精度に関し定期的な確認検査をする必要がある。具体的には、粒子線のエネルギーとその照射深さの関係、すなわちブラッグピークの出現する位置を確認する必要がある。さらに粒子線を二次元的、三次元的、四次元的にスキャニングする場合は、照射野と呼ばれるスキャニング面が、設定範囲に収まっていることを確認する必要がある。
【0007】
従来において、これら粒子線照射精度の確認検査は、粒子線照射装置のアイソセンターに水ファントムを設置し、粒子線を照射したときに、粒子線が水中を通過する過程で発生する放射線を計測することにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/148269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の粒子線照射精度の確認検査は、粒子線を水ファントムに照射させながら、電離箱を照射方向に動かして放射線の強度を測定していた。そして、水深に対する放射線の強度分布が、予め予想した設定範囲に収まっているか否かを確認していた。
【0010】
照射野の確認に関しては、水ファントムの外側で照射方向に直交する平面上に複数の電離箱を設置し、粒子線をスキャン照射して得られる放射線の二次元分布から、照射野の幅や高さを確認していた。
【0011】
しかし従来の確認検査は、水ファントムを粒子線照射装置のアイソセンターに設置した状態で粒子線を照射し続けながら行うために、粒子線照射装置が長時間占有され、患者の治療時間が制限される課題があった。さらに、確認検査の結果が得られるまでに時間がかかることや、照射野の確認においては放射線を計測する電離箱が複数必要になることや、更にスキャニング法において重要視される照射野の曲面の確認が困難となる等の課題があった。
【0012】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、粒子線照射装置から照射される粒子線の照射精度を簡便にかつ高精度で検査する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
粒子線検査装置において、粒子線照射装置から入射した粒子線の電離作用により吸光度特性が変化する物質と、前記物質を充填させ前記粒子線照射装置のアイソセンターに配置され前記粒子線を一方向から入射させる第1容器と、前記粒子線の入射方向に対し交差方向へ光源から光線を出力させる光線出力部と、前記物質を通過した前記光線を入力した受光素子から前記光線の光強度信号を入力する光強度入力部と、前記粒子線の入射領域に交わるようにかつこの入射領域における前記粒子線の入射方向に沿って前記光線が移動するように、前記第1容器に対して前記光源及び前記受光素子を相対的に移動させる移動駆動部と、前記物質に出現したブラッグピークの位置及び形状を前記入射領域とともに表示する表示部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態により、粒子線照射装置から照射される粒子線の照射精度を簡便にかつ高精度で検査する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】粒子線を照射した粒子線検査容器の実施形態を示す透視図。
図2】(A)本発明の実施形態に係る粒子線検査装置の縦断面図、(B)同、水平断面図。
図3】(A)粒子線を入射させブラッグピークを発現させた物質の二次元画像、(B)粒子線の入射領域の中心線に沿う吸光度分布を示すグラフ。
図4】(A)エネルギーを変化させた粒子線を入射させ拡大ブラッグピーク(SOBP)を発現させた物質の二次元画像、(B)粒子線の入射領域の中心線に沿う吸光度分布を示すグラフ。
図5】入射方向を変化させて粒子線を照射した粒子線検査容器を示す透視図。
図6】複数の受光素子を配列させてなる粒子線検査装置の横断面図。
図7】(A)入射方向を変化させて粒子線を照射した粒子線検査容器にXYZ座標系を設定した図、(B)X-Z座標面で表される粒子線の照射野の断面図、(C)X-Z座標面で表される照射野の吸光度分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、粒子線16を照射した粒子線検査容器(以下、「第1容器11」という)の実施形態を示す透視図である。粒子線検査装置10(図2)の構成要素である第1容器11は、粒子線照射装置15から入射した粒子線16の電離作用により可視領域の吸光度特性が変化する物質17を充填している。この物質17は、水溶液をゲル化するゲル化剤と、粒子線16により水が電離して発生するラジカルにより切断され酸化した分子結合基が特定の波長領域の光を選択的に吸光して発色させる発色剤と、を含んでいる。
【0018】
これにより、物質17に粒子線16が入射すると、その入射領域18が発生ラジカルにより酸化し、吸光度特性が変化する。そしてこの入射領域18に光を照射すると、特定の波長領域の光が吸収され、残りの波長の光も散乱等して、透過光の強度が減衰するため入射領域18における吸光度は大きく観測される。なお、ブラッグピーク13が発生した位置等、粒子線16からエネルギーが大量に放出された位置は、ラジカルも大量に発生し酸化度も増すために、吸光度もさらに大きく観測される。
【0019】
第1容器11に充填される物質17の具体的な組成例として、水と、ゲル化剤物質としてゼラチン又は寒天等と、酸化発色可能な発色剤としてロイコ色素と有機ハロゲン化合物の混合物と、モンモリロナイト粘土鉱物を主成分としケイ酸塩化合物を含む無機物質と、からなるものが挙げられる。
【0020】
このような物質17に、粒子線16を入射すると白色光の下で入射領域18が青色を呈する。このため、400nm~700nmの波長領域にスペクトルを有する光を入射領域18に通過させれば、吸光度を高感度で検出することができ、ブラッグピーク13の位置の特定精度を向上させることができる。
【0021】
更に物質17にロイコ色素が含まれていることにより、波長が590nm付近の光が高効率に吸収される。このため、この590nm付近に発光スペクトルを持つ単色光の光源又はレーザ光源を採用することで、さらに入射領域18の吸光度を高感度で検出することができ、ブラッグピーク13の位置の特定精度を向上させることができる。
【0022】
なお第1容器11に充填される物質17の組成は、上述したものに限定されることはなく、粒子線16の照射により吸光度特性に変化が生じるものであれば、適宜採用されるが、可視領域の吸光度特性があれば視覚にて判断できることもあるのでより望ましい。採用され得る物質17として、水にゼラチン又は寒天と二価の鉄イオンを含む化合物とを分散させ、放射線の電離作用で二価の鉄を三価に酸化させることで発色を呈するフリッケゲル線量計、重合反応より高分子が析出するポリマーゲル線量計、色素を水に模擬した高分子中に分散させた色素プラスティック線量計、ヨウ素の酸化とPVAとヨウ素の呈色反応を利用したPVA-KIゲルインジケータなども適用できる。
【0023】
第1容器11に充填されている物質17は、短時間の照射により、粒子線16の入射領域18の吸光度特性を不可逆的に変化させることができる。このため粒子線照射装置15から第1容器11を離して物質17のブラッグピーク13を観測することができ、粒子線照射装置15を長時間占有することがない。
【0024】
粒子線16としては陽子線や重粒子線が挙げられ、粒子線照射装置15としては人体治療用途の装置が挙げられるが、特に限定はされない。
【0025】
図2(A)は実施形態に係る粒子線検査装置10の縦断面図であり、図2(B)はその水平断面図である。粒子線検査装置10は、第1容器11、光源31及び受光素子35を少なくとも含む機械構成系30と、その制御系20と、から構成されている。
【0026】
なおこの制御系20は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0027】
粒子線検査装置10の制御系20は、光源31から可視領域の光線32を出力させる光線出力部21と、物質17を通過した光線32を入力した受光素子35から光線32の光強度信号36を入力する光強度入力部22と、粒子線16(図1)の入射領域18に交わるようにかつこの入射領域18の方向に沿って光線32が移動するように第1容器11に対して光源31及び受光素子35を相対的に移動させる移動駆動部25と、を備えている。
【0028】
そして粒子線検査装置10の機械構成系30は、第1容器11を浸漬する液体19が内側に収容されるとともに光源31及び受光素子35が外側に配置される第2容器12をさらに備えている。このような第2容器12を設けることにより、曲面で形成される第1容器11の側壁に接する媒体が、空気よりも屈折率がこの側壁に近い液体19となる。これにより、光線32が、第1容器11の側壁を通過するに際し、この側壁の表面で反射されることが抑制される。なお、第2容器12の側壁は平面であるために、光線32が第2容器12の側壁を通過する際は、光線32の反射は少ない。
【0029】
第1容器11及び第2容器12を構成する材質は、特に限定されないが、光源31が出力し受光素子35で検出される光線32の有効波長に対し、強度減衰が少ない透明なものであることが望ましい。また第2容器12に収容される液体19は、水が好適に採用されるが、特に限定はなく、光線32の有効波長に対し強度減衰が少ない透明なものであればよい。
【0030】
光源31が出力する光線32は、400nm~700nmの波長領域に連続スペクトルを持つ連続光、又は400nm~700nmの波長領域に輝線スペクトルを持つ単色光もしくはレーザ光も用いることができる。なお、図2(B)に示される光源31は、単一の点光源で構成されているが、複数の点光源31を配列して構成してもよい。この場合、それぞれの点光源31は、各々から出力される光線32の光軸が互いに平行となるように配列されている。また光源31は、光線出力部21から電力の供給を受けて光線32を出力している。
【0031】
受光素子35は、第1容器11に充填された物質17を通過した光線32の強度を検出する。そして受光素子35は、検出された光線32の強度に対応する光強度信号36を光強度入力部22に送信する。受光素子35で検出された光線32の強度は、物質17を通過する過程において減衰したものである。そして、この減衰した光強度が吸光度と定義される。
【0032】
なお、図2(B)に示される受光素子35は、単一の素子で構成されているが、複数の素子を配列して構成してもよい。この場合、一つ以上の半導体型の受光素子35を有することで、物質17を通過した光線32の強度だけでなく、散乱光の強度とその分布を検出し、ブラッグピーク13の位置を高精度で観測することができる。また、複数の受光素子35の配列は、稠密でかつ配列幅がブラッグピーク13の位置の入射領域18の最大径よりも大きくなるようにする。これにより、入射領域18を画像化した際に広画角でかつ細密な画像を得ることができる。
【0033】
光源31及び受光素子35は、互いの距離が一定となるようにかつ光線32の光軸が一致するように支持部材37に固定されている。そして、この支持部材37は、第2容器12の外側壁に設けられている直動機構(図示略)に接続されている。この直動機構(図示略)は、移動駆動部25から出力される移動信号33により図2(A)の下方向に移動し、光線32を、入射領域18に交わらせながらこの入射領域18の長手方向に沿って移動させる。
【0034】
なお、光線32と物質17との相対的な直線移動に関し、物質17を静止させて光線32を直線移動させる場合を例示しているが、光線32を静止させて物質17を直線移動させる場合もある。また光源31及び受光素子35の支持手段として、環状に形成された支持部材37を例示しているが、特に限定はなく、光線32の間隔及び傾きを保ったまま昇降させることができるものであれば適宜採用される。
【0035】
粒子線検査装置10の機械構成系30は、物質17が充填された第1容器11を上面に載置する載置テーブル38をさらに備えている。そして、この載置テーブル38は、第2容器12の底面に対して回転軸39を中心に回転する。この載置テーブル38は、回転駆動部26から出力される回転信号34により、光線32と方向が交差する回転軸39を中心として回転する。これにより、第1容器11は、光源31及び受光素子35に対して相対的に回転する。
【0036】
なお、光線32と物質17との相対的な回転に関し、光線32を静止させて物質17を回転させる場合を例示しているが、物質17を静止させて光線32を回転させる場合もある。
【0037】
このように光線32を回転させる場合、図示を省略するが支持部材37は、上面視で円形をとり、この支持部材37の円形軌道上を、光源31及び受光素子35が間隔を一定に保ちながら周回する。なおこの場合、第2容器12は円筒形状とし、その側壁の円形断面と、支持部材37の円形軌道と、第1容器11の円形断面とが同心円となるように相互に配置される。
【0038】
画像データ生成部27は、第1容器11に対して光源31及び受光素子35を相対的に動かしながら入力された光強度信号36に基づいて入射領域18の二次元画像データ又は三次元画像データを生成するものである。
【0039】
画像データ生成部27は、載置テーブル38を動作させずに支持部材37のみを直動させた場合、光強度信号36と移動信号33に基づいて、入射領域18の投影像をピクセルで表現する二次元画像データを生成する。そして、載置テーブル38と支持部材37の両方で直動・回転させた場合、光強度信号36、移動信号33及び回転信号34に基づいて、入射領域18の立体像をボクセルで表現する三次元画像データを生成する。
【0040】
なお入射領域18の三次元画像データは任意断面の二次元画像や、ボクセルを任意の投影面に投影させた二次元画像に変換することもできる。このように生成された二次元画像データ又は三次元画像データは、表示部28に転送されて視認可能に座標表示される。なお、表示部28において、吸光度の大きい場所は、ピクセル又はボクセルが高輝度または吸光度に応じた色表示されるために、ブラッグピークの出現位置及び形状を正確に観測することができる。
【0041】
図3(A)は粒子線16(図1)を入射させブラッグピーク13aを発現させた物質17の二次元画像であり、図3(B)は粒子線16の入射領域18aの中心線に沿う吸光度分布を示すグラフである。ここで粒子線照射装置15が出射する粒子線16の第1の検査方法について説明する。
【0042】
第1の検査方法は、図1に示す粒子線照射装置15からエネルギーを変化させずに粒子線16を出射し、第1容器11に充填された物質17に入射させる。この場合、粒子線16の電離作用により、同じ位置でブラッグピークが発現し、その部分の物質17の吸光度特性が集中的に変化するため、図3(B)に示すように対応する位置の吸光度がシャープなピークを有している。このような吸光度の曲線及び入射領域18aの画像を観測することで、ブラッグピークの出現位置及び形状の確からしさを判断することができる。
【0043】
図4(A)はエネルギーを変化させた粒子線16(図1)を入射させ拡大ブラッグピーク13b(SOBP)を発現させた物質の二次元画像であり、図4(B)は粒子線16の入射領域18bに沿う吸光度分布を示すグラフである。ここで粒子線照射装置15が出射する粒子線16の第2の検査方法について説明する。
【0044】
第2の検査方法は、図1に示す粒子線照射装置15からエネルギーを変化させて粒子線16を出射し、第1容器11に充填された物質17に入射させる。この場合、粒子線16の電離作用により、エネルギーに対応する深さ位置でそれぞれのブラッグピークがずれて、拡大ブラッグピーク(SOBP:Spread Out Bragg Peak)が発現する。このSOBPが発現した部分の物質17は、吸光度特性が同じように変化しているため、図4(B)に示すように、対応する位置の吸光度がブロードなピークを有している。このような吸光度の曲線及び入射領域18bの画像を観測することで、SOBPの出現位置及び形状の確からしさを判断することができる。
【0045】
図5は入射方向を変化させて粒子線16を照射した粒子線検査容器(第1容器11)を示す透視図である。図6は複数の受光素子35を配列させてなる粒子線検査装置の横断面図である。このように、入射方向を変化させて粒子線16を照射する方法として、ワブラー法や、スキャニング法が挙げられる。
【0046】
ここでスキャニング法は、エネルギーが一定の粒子線16を、偏向磁石(図示略)により飛程方向を走査する方法である。ワブラー法は、互いに磁場の方向が直交するワブラー電磁石により粒子線16を回転させて広げ、さらにその下流の散乱体で粒子線16を散乱させる方法である。
【0047】
このようにワブラー法や、スキャニング法等を用いて粒子線16の入射方向を変化させて照射すると、ブラッグピークの発現位置が面状に広がった照射野13cが形成される。このように面状に広がった照射野13cを細密に画像化するために、図6に示すように、受光素子35は、入力した光線32の強度に応じて光強度信号36(図2)を個別に出力する複数の半導体検出器を稠密に配列させた集合体からなる。
【0048】
複数の受光素子35の配列幅Wは、粒子線の入射軸に対し直交する物質17の断面において粒子線16(図1)の電離作用により吸光度特性が変化した領域の最大長Lよりも大きく設定されている。これにより、ブラッグピークの照射野13cを画像化した際に広画角でかつ細密な画像を得ることができる。
【0049】
図7(A)は入射方向を変化させて粒子線を照射した粒子線検査容器にXYZ座標系を設定した図であり、図7(B)はX-Z座標面で表される粒子線の照射野13cの断面図であり、図7(C)はX-Z座標面で表される照射野13cの吸光度分布を示すグラフである。ここで粒子線照射装置15が出射する粒子線16の第3の検査方法について説明する。
【0050】
第3の検査方法は、ワブラー法又はスキャニング法により、図1に示す粒子線照射装置15からエネルギーを一定とし方向を変化させて粒子線16を出射し、第1容器11に充填された物質17に入射させる。この場合、粒子線16の電離作用により、エネルギーと出射方向に対応する位置でそれぞれのブラッグピークが曲面状に発現する。
【0051】
図7(B)に示すように、この曲面状の照射野は、出射方向が変化した点を中心とする曲率半径を有している。そして図7(C)に示すように、この曲率半径を有する照射野の吸光度特性は、一定の値を有している。このような吸光度の曲線及び入射領域18cの画像を観測することで、照射野の出現位置及び曲面形状の確からしさを判断することができる。
【0052】
なお図示を省略するが、第4の検査方法として、粒子線照射装置15のアイソセンターに対し、第1容器11をステップ状に移動させ、エネルギーを変化させた粒子線16を出射し、位置をずらして物質17に入射させる方法がある。この場合、第1容器11を移動させたステップの数に対応する数の入射領域18が物質17に形成され、照射したエネルギーに対応する深さ位置に、複数のブラッグピークが発現している。このように複数の入射領域18の画像を観測することで、入射エネルギーを変化させて形成したブラッグピークの出現位置及び形状の確からしさを判断することができる。
【0053】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の粒子線検査装置によれば、粒子線の電離作用により吸光度特性が変化する物質を用いることにより、粒子線照射装置から照射される粒子線の照射精度を簡便にかつ高精度で検査することが可能となる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
10…粒子線検査装置、11…第1容器、12…第2容器、13…ブラッグピーク、13a…ブラッグピーク、13b…拡大ブラッグピーク(SOBP)、13c…照射野、15…粒子線照射装置、16…粒子線、17…物質、18(18a,18b,18c)…入射領域、19…液体、20…制御系、21…光線出力部、22…光強度入力部、25…移動駆動部、26…回転駆動部、27…画像データ生成部、28…表示部、30…機械構成系、31…点光源、31…光源、32…光線、33…移動信号、34…回転信号、35…受光素子、36…光強度信号、37…支持部材、38…載置テーブル、39…回転軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7