(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20221011BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221011BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221011BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20221011BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20221011BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2018129260
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006591(WO,A1)
【文献】特開2010-045019(JP,A)
【文献】特開2012-142268(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と固体電解質とを含む正極層と、固体電解質からなる固体電解質層と、Li金属またはLi合金からなる負極層とが積層されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって、
一般式Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3で表される化合物を前記固体電解質として、
前記正極活物質と前記固体電解質とを含む粉体材料を平板状の正極層シートに成形する正極層成形ステップと、
前記正極層シートを焼成して焼結体からなる前記正極層を作製する第1焼成ステップと、
前記第1焼成ステップにより得た前記正極層の一主面に前記固体電解質を含むスラリー状の電解質層材料を所定の厚さとなるように印刷する印刷ステップと、
一主面に前記電解質
層材料が印刷されてなる前記正極層を焼成して前記正極層の一主面に薄膜状の焼結体からなる前記固体電解質層を形成する第2焼成ステップと、
前記第2焼成ステップにより得た前記固体電解質層の表面に金属からなる緩衝層を形成する緩衝層形成ステップと、
前記緩衝層の表面に平板状のLi金属またはLi合金からなる前記負極層を貼着して前記積層電極体を作製する負極積層ステップと、
を含むことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池、および全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、各種二次電池の中でもエネルギー密度が高いことで知られている。しかし一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。そのため、リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められている。そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。そして、一般的な全固体電池は層状の正極(正極層)と層状の負極(負極層)との間に層状の固体電解質(電解質層)が狭持されてなる一体的な焼結体(以下、積層電極体とも言う)に集電体を形成した構造を有している。
【0003】
全固体電池の本体となる上記積層電極体の製造方法としては、周知のグリーンシートを用いた方法が一般的である。グリーンシート法を用いて積層電極体を作製するためには、正極活物質と固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、負極活物質と固体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の固体電解質層材料をそれぞれシート状のグリーンシートに成形し、固体電解質層材料からなるグリーンシートを正極層材料からなるグリーンシートと負極層材料からなるグリーンシートとで挟持して得た積層体を圧着し、その圧着後の積層体を焼成する。それによって焼結体である積層電極体が完成する。
【0004】
電極活物質としては従来のリチウム二次電池に使用されていた材料を使用することができる。また全固体電池では可燃性の電解液を用いないことから、より高い電位差が得られる電極活物質についても研究されている。固体電解質としては、一般式LiaXbYcPdOeで表されるNASICON型酸化物系の固体電解質があり、当該NASICON型酸化物系の固体電解質としては、以下の特許文献1に記載されている、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3(以下、LAGPとも言う)がよく知られている。LAGPは、酸化物であり、耐酸化性に優れている。すなわち、燃焼し難く、高い安全性を有している。
【0005】
なお、以下の特許文献2には、本発明の実施例に関連して、負極にリチウム金属を用いた全固体電池について記載されている。非特許文献1には、LAGPの耐酸化特性について記載されており、以下の非特許文献2には、酸化物系の他の固体電解質であるLi7La3Zr2O12(以下、LLZ)について記載されている。非特許文献3には、リチウム二次電池用の正極活物質としてよく知られているリン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3、以下、LVPとも言う)の製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/157751号
【文献】特開2010-45019号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.K.Feng,L.Lu、“Lithium storage capability of lithium ion conductor Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3”、Journal of Alloys and Compounds Volume 501, Issue 2, 9 July 2010,Pages 255-258
【文献】Fudong Han, Yizhou Zhu,Xingfeng He,Yifei Mo, and Chunsheng Wang、” Electrochemical Stability of Li10GeP2S12and Li7La3Zr2O12 Solid Electrolytes”、Adv. Energy Mater. 2016, 1501590、[online]、[平成30年6月27日検索]、インターネット<URL:http://www.terpconnect.umd.edu/~yfmo/LGPS%20LLZO%20stability-AEM16.pdf>
【文献】株式会社GSユアサ、”液相法により合成したリン酸バナジウムリチウムを用いたリチウムイオン電池の開発”、[online]、[平成30年6月27日検索]、インターネット<URL:http://www.gs-yuasa.com/jp/technic/vol8/pdf/008_01_016.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウム二次電池の特性の向上には、正負極間の電位差を大きくすることが重要となる。すなわち、正極と負極に用いる材料を適切に選択することが必要である。なお、負極材料については、リチウム金属(Li金属)、あるいはリチウムとアルミニウムの合金などのリチウム合金(Li合金)を負極として用いることで、特性の向上が見込まれることが知られている。しかし、Li金属やLi合金(以下、負極リチウムとも言う)を用いた二次電池では、Liイオンが正負極間を移動する途上で電子を受け取って樹枝状に析出してなるデンドライトの発生が問題となる。電解液を用いたリチウム二次電池では、デンドライトは、セパレーターを貫通して、正極と負極とを内部短絡させる原因となる。セパレーターが存在しない全固体電池においても、固体電解質の種類によってはデンドライトによる内部短絡が発生する可能性がある。例えば、硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池では、固体電解質が柔らかく、充放電の際に負極リチウムから発生したデンドライトが固体電解質層を貫通して内部短絡を起こす可能性がある。そのため硫化物系固体電解質を用いた全固体電池では、負極活物質として、グラファイトや酸化物が用いられる。
【0009】
一方、酸化物系の固体電解質を用いた全固体電池では、強固な構造を有する焼結体の固体電解質を用いるため、デンドライトが固体電解質層を貫通することはない。そして、上記特許文献2に記載の全固体電池では、Li金属からなる負極を備え、固体電解質として酸化物であるLLZを用いている。しかし、LLZは、還元電位には強いものの、酸化電位に弱く、5V以上の領域ではLLZが酸化分解してしまう。
【0010】
そこで、LLZ以外の酸化物系固体電解質としてLAGPを用いることが考えられる。上記非特許文献1にも記載されているように、LAGPは、6Vの高電位でも酸化分解しないことが知られている。しかし、LAGPは、還元電位に弱く、0.5V以下の領域で還元分解してしまうという問題がある。そして、上記特許文献2に記載されているように、Li金属とLAGPの焼結体とを接触させると、白色のLAGPの焼結体が黒色に変色し、脆化して形状が崩れてしまうことが確認されている。すなわち、負極リチウムを用いつつ、LAGPを固体電解質とした全固体電池は未だ実現されていない。
【0011】
そこで本発明は、固体電解質にLAGPを用いつつ、負極活物質にLi金属やLi合金を用いることができる全固体電池とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、正極活物質と固体電解質とを含む正極層と、固体電解質からなる固体電解質層と、Li金属またはLi合金からなる負極層とが積層されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって、
一般式Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3で表される化合物を前記固体電解質として、
前記正極活物質と前記固体電解質とを含む粉体材料を平板状の正極層シートに成形する正極層成形ステップと、
前記正極層シートを焼成して焼結体からなる前記正極層を作製する第1焼成ステップと、
前記第1焼成ステップにより得た前記正極層の一主面に前記固体電解質を含むスラリー状の電解質層材料を所定の厚さとなるように印刷する印刷ステップと、
一主面に前記電解質層材料が印刷されてなる前記正極層を焼成して前記正極層の一主面に薄膜状の焼結体からなる前記固体電解質層を形成する第2焼成ステップと、
前記第2焼成ステップにより得た前記固体電解質層の表面に金属からなる緩衝層を形成する緩衝層形成ステップと、
前記緩衝層の表面に平板状のLi金属またはLi合金からなる前記負極層を貼着して前記積層電極体を作製する負極積層ステップと、
を含むことを特徴とする全固体電池の製造方法としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体電解質にLAGPを用いつつ、負極活物質にLi金属やLi合金を用いることができる全固体電池とその製造方法が提供される。そのため、本発明の全固体電池は、正負極間の電位差を高めることができ、優れた電池特性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る全固体電池を示す図である。
【
図2】上記実施例に係る全固体電池を作製する際に使用されるLAGPガラスの作製手順を示す図である。
【
図3】上記実施例に係る全固体電池の製造手順を示す図である。
【
図4】上記実施例に係る全固体電池の充放電特性を示す図である。
【
図5】本発明のその他の実施例に係る全固体電池が備える電池本体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
===実施例===
本発明の実施例に係る全固体電池は、LAGPを固体電解質とし、Li金属を負極活物質としている。
図1に本発明の実施例に係る全固体電池を示した。
図1(A)は全固体電池1の外観図であり、
図1(B)は全固体電池1の分解斜視図である。また、
図1(C)は、
図1(B)におけるa-a矢視断面を拡大した図である。全固体電池1は、
図1(A)に示したように平板状の外観形状を有し、ラミネートフィルムからなる扁平袋状の外装体11内に発電要素が密封されている。また、ここに示した全固体電池1では、矩形の外装体11の一辺13から正極端子22および負極端子32が外方に導出されている。
【0017】
次に、
図1(B)と
図1(C)を参照しつつ全固体電池1の構造について説明する。なお
図1(B)、
図1(C)では一部の部材や部位にハッチングを施し、他の部材や部位と区別しやすいようにしている。外装体11内には、それ自体が全固体電池として機能する全固体電池の本体(以下、電池本体10とも言う)が収納され、正極と負極の集電体(21、31)には帯状の金属平板からなるリードタブ(23、33)が溶接によって取り付けられている。リードタブ(23、33)の先端側は、正極端子22および負極端子32として外装体11から外方に突出している。
【0018】
電池本体10は、平板状の積層電極体100の表裏両面に金属箔からなる集電体(21、31)が形成されたものである。ここで、積層電極体100の表裏方向を上下方向とすると、積層電極体100は、
図1(C)に示したように、平板状の固体電解質層40の上下一方の面に正極層20が積層され、上下他方の面に負極層30が配置されてなる。固体電解質層40は、体積エネルギー密度を向上させるために、薄膜状に形成されている。本実施例では、固体電解質層40の厚さを10μmにしている。そして、負極層30と固体電解質層40との間に、金属からなる緩衝層50が形成されている。なお、以下では、積層電極体100において、負極層30に対して正極層20が上方に配置されていることとして上下の各方向を規定することとする。
【0019】
===全固体電池の製造方法===
本発明の実施例に係る全固体電池1は、Li金属からなる負極層30と、厚さが10μm以下の固体電解質層40とを備えていることから、グリーンシート法を基本とした従来の製造方法とは異なる方法により作製されている。概略的には、正極層20については、粉体状の非晶質のLAGP(以下、LAGPガラスとも言う)を作製し、このLAGPガラスと正極活物質とを含む正極層20を油圧プレスによって1軸方向に圧縮成形したものを焼結させることで作製している。なお、正極活物質にはLVPを用いた。
【0020】
固体電解質層40については、LAGPガラスを含むスラリー状の電解質層材料を作製し、その電解質層材料をスクリーン印刷することで、厚さ10μmの薄膜状の固体電解質層40を形成した。すなわち、固体電解質層40を正極層20と同様にして圧縮形成すると、固体電解質層40を10μm以下の薄膜状に形成することが難しいことから、固体電解質層40を印刷により形成している。以下では、LAGPガラスの作製手順の一例を説明した上で、
図1に示した全固体電池1の作製手順について詳しく説明する。
【0021】
<LAGPガラスの作製手順>
図2にLAGPガラスの作製手順を示した。まず、LAGPの原料となるNH
4H
2PO
4、Li
2CO
3、γ-Al
2O
3、GeO
2を秤量し(s1)、秤量後の原料を乳鉢で15分ほど混合する(s2)。そして、この原料の混合物をアルミナコウバチに入れ、大気雰囲気中、400℃の温度で3時間加熱して仮焼成する(s3)。次に、仮焼成後の粉体を乳鉢で15分粉砕したものを白金るつぼに移し、1300℃の温度で1時間焼成した粉体を純水中に入れ、焼成後の粉体を急冷し、LAGPをガラス化した(s4、s5)。さらに、急冷後のLAGPガラスを乳鉢で粉砕した上で(s6)、遊星ボールミルを用いてアルコール溶媒中でさらに粉砕することで所定の粒子径(例えば、0.2μm~1.0μm)に調整されたLAGPガラスを得た(s7)。そして、このLAGPガラスを用いて正極層20と固体電解質層40とを作製した。
【0022】
<全固体電池の製造手順>
図3に、全固体電池1の製造手順の一例を示した。以下、
図1と
図3とを参照しつつ全固体電池1の具体的な製造手順について説明する。まず、正極活物質であるLVPの粉体と、LAGPガラスの粉体とを、例えば、質量比で50:50となるように混合したものを一軸油圧プレス加工により、所定の厚さ(例えば、300μm)の成形体とし(s11a)、その成形体を900℃の温度で3時間焼成することで得た焼結体を正極層20とした(s12a)。なお、正極層20は、グリーンシート法を用いて作製することもできる。すなわち、正極活物質と固体電解質とにバインダーを加えてペースト状にした正極層材料を、周知のドクターブレード法などを用いてシート状に成形し、そのシート状の正極層材料を焼成することでも正極層20を作製することができる。しかし、ここでは、バインダーなどの充放電反応に寄与しない物質を含まず、粉体材料のみを一軸圧縮したものを焼成することで、焼結性が高く、緻密な正極層20を得ている。
【0023】
正極層20の作製と平行して、あるいは前後して、LAGPガラスの粉体を含んだペースト状の電解質層材料を作製しておく(s11b)。電解質層材料の作製手順としては、粉体材料であるLAGPガラスにバインダー(例えば、アクリル系バインダー)を、例えば、20wt%~30wt%添加する。次いで、溶媒としてエタノールなどの無水アルコールを、粉体材料に対し、例えば、30wt%~50wt%添加する。このようにして得た粉体材料とバインダーと溶媒との混合物を、ボールミルなどで、例えば、20時間混合する。それによって、ペースト状の電解質層材料が得られる。
【0024】
ペースト状の電解質層材料を作製したならば、その電解質層材料からなる薄膜を、正極層20の下面側に形成する。ここでは、電解質層材料をスクリーン印刷により所定の厚さ(例えば、10μm)となるように塗工する(s12)。次いで、電解質層材料が塗工された正極層20を、乾燥機を用い、100℃の温度で30分間乾燥させて、電解質層材料中の溶媒を揮発させる(s13)。そして、乾燥後の電解質層材料が塗工された正極層20を、焼成炉に入れ、大気雰囲気中、400℃の温度で7時間加熱して電解質層材料中のバインダーを除去する脱脂を行う(s14)。さらに、窒素雰囲気中、625℃の温度で2時間加熱して焼成を行う(s14、s15)。それによって、正極層20の下面に固体電解質層40が積層された焼結体が得られる。
【0025】
次に、固体電解質層40の下面に、緩衝層50として、アルミニウム(Al)からなる所定の厚さ(例えば、100nm)の薄膜を、スパッタリング装置を用いて形成した(s16)。このようにして、上方から下方に向かって正極層20、固体電解質層40、緩衝層50がこの順に積層されてなる積層体が得られる。
【0026】
上述した積層体を得たならば、その積層体を、露点管理されたグローブボックス内に設置された真空乾燥機を用い、150℃、5時間の条件で乾燥させる(s17)。その一方で、あらかじめ、負極層30の下面側に負極集電体31を形成しておく(s11c)。ここでは、所定の厚さ(例えば20μm)の平板状のリチウム金属からなる負極リチウムを負極層30とし、その負極層30の下面に銅箔からなる負極集電体31を貼着した(s18)。また、負極集電体31には、ニッケル(Ni)からなるリードタブ33をあらかじめ溶接しておいた。そして、グローブボックス内で負極集電体31が形成された負極層30を積層体に貼り付ける。このとき、Li金属側が積層体の下面に対向するようにする。また、正極層20の上面に、正極集電体21として、Niからなるリードタブ23が溶接されたアルミニウム箔を貼り付ける。このようにして、全固体電池1の電池本体10を完成させる(s19)。
【0027】
さらに、袋状のアルミラミネートフィルム(11a、11b)からなる外装体11内に電池本体10を収納するとともに(s20)、外装体11を封止し、タブリード(24、34)の先端側が、正極端子22および負極端子32として、外装体11の外に導出されてなる全固体電池1を完成させる(s21)。具体的には、真空中で、矩形平面形状を有して互いに対面する2枚のラミネートフィルム(11a、11b)間に電池本体10を配置する。このとき、矩形の2枚のラミネートフィルム(11a、11b)の一辺13から、正極層20と負極層30のリードタブ(24、34)の先端側を外方に突出させる。そして、矩形のラミネートフィルム(11a、11b)の四辺同士を溶着し、外装体11を封止する。
【0028】
このように、本実施例の全固体電池1では、その製造に際し、焼結体からなる正極層20をあらかじめ作製しておき、その正極層20の一主面に焼結体からなる薄膜状の固体電解質層40を形成している。そのため、グリーンシート法において問題となる層間の欠陥が発生し難い。すなわち、グリーンシート法では、正極層20と固体電解質層40のそれぞれのグリーンシートを積層させた状態で焼成するため、各層の熱収縮率に大きな差があると、正極層20と固体電解質層40との層間にひずみが発生し、そのひずみにより結晶構造に欠陥などが生じることがある。なお、上述したように、正極層20の作製にグリーンシート法を用いることもできる。いずれにしても、固体電解質層40を形成する前に焼結体である正極層20を作製しておけばよい。
【0029】
===特性評価===
実施例に係る全固体電池1が二次電池として動作するか否かを評価するために、上述した手順で作製した全固体電池1に対して充電と放電とを行った。そして、充電容量と放電容量とを測定した。なお、充電に際しては、終止電圧4.3V、130mAh/gとなるまで定電流充電を行うこととした。あるいは、充電電流が0.2μAになった時点で充電を終了させることとした。放電については、終止電圧2.0Vとなるまで、定電流放電を行った。また、全固体電池1を60℃の温度下でC/20の充放電レートで充放電した。その結果、130mAh/gの充電容量と100mAh/gの放電容量とが得られた。
【0030】
図4に全固体電池1の充放電特性を示した。
図4に示したように、本発明の実施例に係る全固体電池1は、LAGPからなる固体電解質層40と、Li金属からなる負極層30とを備えながら、実際に二次電池として動作する。本実施例の全固体電池1では、固体電解質層40と負極層30であるLi金属との間にAlからなる緩衝層50が形成されており、この緩衝層50がLAGPの還元を抑制している。すなわち、本実施例の全固体電池1では、金属からなる緩衝層50により、LAGPとLi金属とが物理的に接触することがない。もちろん、金属からなる緩衝層50は、固体電解質層40との間のイオン伝導を阻害することもない。さらに、実施例に係る全固体電池1では、緩衝層50にLiと合金化するAlを用いており、緩衝層50にLi金属が貼り付けられることで、LiとAlとの界面に合金が形成される。合金化された緩衝層50は、Liの電位よりも貴になり、LAGPが還元され難くなる。
【0031】
そして、本発明の実施例に係る全固体電池1は、イオン伝導度に優れ、酸化されにくいLAGPからなる固体電解質層40と、金属のうち、最も電位が卑であるLi金属からなる負極層30とを備えている。また、薄膜状の固体電解質層40を備えている。それによって、高い動作電圧と高い体積エネルギー密度とを有するものとなっている。
【0032】
===その他の実施例===
実施例に係る全固体電池1では、緩衝層50に用いたAlがLiと合金化することで、LAGPの還元を抑制しているものと考えられることから、Al以外の金属、例えば、金(Au)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)などの金属、さらにはケイ素(Si)などを緩衝層50に用いることも考えられる。
【0033】
実施例に係る全固体電池1では、負極層30と正極層20との間に介在する固体電解質層40がLAGPからなる焼結体で形成されている。そのため、負極層30のLi金属を起源としたデンドライトが発生しても、そのデンドライトが固体電解質層40を貫通することがない。もちろん、負極層30にLi合金を用いれば、デンドライトの発生を抑制することができる。
【0034】
実施例に係る全固体電池1では、緩衝層50をスパッタリングによって形成していたが、塗工した導電性ペーストを乾燥させたり焼き付けたりすることでも形成することができる。いずれにしても、固体電解質層40と負極層30との間に金属からなる緩衝層50が形成されていればよい。
【0035】
上記実施例に係る全固体電池1では、製造コストを考慮し、ペースト状の電解質層材料を印刷したものを焼成することで固体電解質層40を形成していたが、固体電解質層40をスパッタリングや蒸着などの方法を用いて形成してもよい。それによって、固体電解質層40をさらに薄くし、全固体電池1の体積エネルギー密度をさらに大きくすることができる。いずれにしても、全固体電池に求められる性能とコストとを考慮して適宜な方法で薄膜状の固体電解質層40を形成すればよい。
【0036】
上記実施例に係る全固体電池1は、ラミネートフィルム(11a、11b)の外装体11内に電池本体10が収納された構造を有していたが、外装体11の素材は、樹脂など、ラミネートフィルムに限らない。もちろん、電池本体10のみを全固体電池として動作させることができることから、外装体11を省略してもよい。また、実施例に係る全固体電池1における積層電極体100は、矩形平板状であったが、円板状など、平板状であればよい。
【0037】
上記実施例に係る全固体電池1では、正極活物質にLVPを用いていたが、正極活物質はLVPに限らない。例えば、LiCoO2やLiMn2O4などの従来のリチウム二次電池用の正極活物質、MをCoとNiのいずれか一方、あるいは両方として、化学式Li2MP2O7で表される正極活物質などがある。
【0038】
上記実施例に係る全固体電池1の電池本体10は、積層電極体100の最上層と最下層とに、正極集電体21と負極集電体31とが形成されて、一つの正極層20と一つの負極層30とを備えていたが、正極層20と負極層30とを二つ以上備えていてもよい。
図5に二つの正極層20と二つの負極層30とを備えた全固体電池の電池本体10bを示した。
図5に示した電池本体10bは、
図1に示した全固体電池1における積層電極体100を二つ備え、二つの積層電極体100が正極集電体21を境界にして上下対称となる構造を有している。すなわち、電池本体10bは、最上層あるいは最下層から、最下層あるいは最上層に向けて、順に、負極集電体31、負極層30、緩衝層50、固体電解質層40、正極層20、正極集電体21、正極層20、固体電解質層40、緩衝層50、負極層30、および負極集電体31が積層されてなる。なお、正極集電体21には固体電解質に炭素材料などの導電材を加えたペースト状の電解質材料を焼結させたものを用いることができる。例えば、
図5に示したように、電解質材料を正極層20よりも大きな平面領域となるようにシート状に成形し、そのシート状の電解質材料を焼結させて正極集電体21を作製すればよい。そして、正極集電体21において、上下方向から見て正極層20の外側にある領域124にリートタブ23を取り付ければよい。もちろん、正極集電体21は、正極層20と同じ平面形状であっても、積層チップ部品の外部電極のように、電池本体10bの端面に銀ペーストを焼き付けるなどして端面電極を形成し、その端面電極にリードタブ23を取り付けることもできる。銀ペーストなどの金属ペーストを正極集電体21として用いることもできる。
【0039】
図5に示した電池本体10bの作製手順としては、まず、上層側と下層側とにおける負極集電体31から緩衝層50までの構造を除く上下中央部分の構造200を一体的な焼結体として作製する。例えば、粉体材料を一軸圧縮することで二つの正極層20を作製し、一方の正極層20の一主面に正極集電体21を形成する。正極集電体21が、固体電解質に導電材を加えたもので、かつ正極層20の平面領域よりも大きな平面領域を有するものであれば、固体電解質と導電材とを含むペースト状の材料からなるグリーンシートを一方の正極層20の一主面側に積層し、他方の正極層20をそのグリーンシートに積層する。正極集電体21が正極層20と同じ平面領域を有するものであれば、
図3に示した手順と同様にして二つの正極層20の一方の一主面に固体電解質を含んだペースト状の材料を印刷すればよい。
【0040】
そして、正極集電体21となるグリーンシートや印刷されたペースト状の材料が二つの正極層20によって狭持されてなる積層体の上面と下面とに固体電解質層40となるペースト状の材料を印刷する。それによって、上述した上下中央部分の構造200に対応する積層構造が形成され、この積層構造を焼成すると、当該積層構造が一体化された焼結体となる。次に、この焼結体からなる上下中央部分の構造200の上面と下面とに緩衝層50を形成する。さらに、リードタブ33付きの負極集電体31が形成された負極層30を緩衝層50の表面に積層する。それによって、電池本体10bが完成する。
【符号の説明】
【0041】
1 全固体電池、10,10b 電池本体、11 外装体、
11a,11b ラミネートフィルム、20 正極層、21 正極集電体、
22 正極端子、23,33 リードタブ、30 負極層、31 負極集電体、
32 負極端子、40 固体電解質層、50 緩衝層、100 積層電極体