(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20221011BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 372
G01N24/08 510D
(21)【出願番号】P 2018148766
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】金澤 仁
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-012131(JP,A)
【文献】特開2010-119740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0052679(US,A1)
【文献】GUENTHER, Matthias et al.,Simultaneous Spin-Echo Refocusing,Magnetic Resonance in Medicine,米国,Wiley-Liss, Inc.,2005年08月05日,54,pp.513-523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の
励起パルスのうちの少なくとも1組の
励起パルス間に、縦磁化の正負を反転する反転パルス
を印加し、かつ当該反転パルスの印加中に横磁化を分散させるスポイラー傾斜磁場を印加する励起パルスシーケンスを設定する設定部と、
前記励起パルスシーケンスに従って、前記励起パルス
、前記反転パルスおよび前記スポイラー傾斜磁場の印加を制御し、当該励起パルスシーケンスを実行後、データ収集シーケンスを実行する制御部と、
前記データ収集シーケンスに基づき磁気共鳴信号を収集する収集部と、
前記磁気共鳴信号を用いて磁気共鳴画像を生成する画像生成部と、
を具備する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記複数の
励起パルスがそれぞれ印加されるタイミングで位相差が閾値以下となるように、前記反転パルスの印加タイミングを設定する請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記複数の
励起パルスがそれぞれ印加されるタイミングで負の傾斜磁場を印加し、前記反転パルスが印加されるタイミングで正のスポイラー傾斜磁場を印加するように設定する請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記励起パルス
および前記反転パルスの印加期間中、傾斜磁場を連続して印加するように設定する請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記複数の
励起パルスは、スライス面内を選択励起する2次元局所励起パルスである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記複数の
励起パルスは、Spoke法で用いられる励起パルスである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記反転パルスは、前記複数の
励起パルスの各パルス間で印加される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記反転パルスは、前記複数の
励起パルスの総数よりも少ない数を1組とした
励起パルスセットの間で印加される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮影領域において、スライス面だけでなく面内の1方向も選択して励起する2次元局所励起法がある。この2次元局所励起法は、スライス選択用の励起パルスを複数個のサブパルスに分けて印加し、サブパルスの励起期間で撮像面において位相変化を生じさせ、位相変化を生じさせた方向にも空間選択的な励起特性を得るものである。
しかし、2次元局所励起法では、静磁場の不均一が存在すると、サブパルス間の位相変化により、励起位置が傾斜磁場の傾斜方向にシフトしてしまうという問題がある。特に、サブパルス数が多い場合など励起時間が長くなると、位相変化の影響が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Paul A. Bottomley, Christopher J. Hardy, “Two-dimensional spatially selective spin inversion and spin-echo refocusing with a single nuclear magnetic resonance pulse”, J. Appl. Phys. 60(10), 15 November 1987, p.4284-4290.
【文献】Jing Yuan, et. al., “Reduced Field-of-View Single-Shot Fast Spin Echo Imaging Using Two-Dimensional Spatially Selective Radiofrequency Pulses”, JOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE IMAGING 32:242-248 (2010).
【文献】Donald S. Williams, Irving J. Lowe, “A Chemical-Shift-Insensitive Slice-Selective RF pulse (CHISS)", Journal of Magnetic Resonance, Vol.91, 57-64, 1991.
【文献】David A. Feinberg, Koichi Oshio, “Gradient-echo Shifting in Fast MRI techniques(GRASE Imaging) for Correction of Field Inhomogeneity Errors and Chemical Shift”, J. Magn. Reson. Vol.97, 177-183, 1992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、磁気共鳴画像の画質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、設定部と、制御部と、収集部と、画像生成部とを含む。設定部は、複数のRFパルスのうちの少なくとも1組のRFパルス間に、縦磁化の正負を反転する反転パルスを含む励起パルスを印加し、かつ当該反転パルスの印加中に横磁化を分散させるスポイラー傾斜磁場を印加する励起パルスシーケンスを設定する。制御部は、前記励起パルスシーケンスに従って、前記励起パルスおよび前記スポイラー傾斜磁場の印加を制御し、当該励起パルスシーケンスを実行後、データ収集シーケンスを実行する。収集部は、前記データ収集シーケンスに基づき磁気共鳴信号を収集する。画像生成部は、前記磁気共鳴信号を用いて磁気共鳴画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係るスライス選択方向の位相変化及び位相エンコード方向の位相変化を示す位相ダイアグラムを示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る励起パルスシーケンスと静磁場不均一の影響による磁化の位相変化を示す図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係るパルス間隔を詰めた場合の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図7】
図7は、第3の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態に係るパルスの間隔を詰めた場合の励起パルスシーケンスとスライス選択方向及び位相エンコード方向の位相変化を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスと静磁場不均一の影響による磁化の位相変化を示す図である。
【
図10】
図10は、第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスによるk空間のトラジェクトリの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、データ収集シーケンスとしてスピンエコー法を用いた場合の、励起パルスシーケンスとデータ収集シーケンスとの組合せを示すシーケンス図である。
【
図12】
図12は、k空間上のSpoke法のトラジェクトリの概念について説明する図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係る励起パルスシーケンスをSpoke法に適用した励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図14】
図14は、第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスをSpoke法に適用した励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図15】
図15は、第4の実施形態に係るスライス選択方向の位相変化及び位相エンコード方向の位相変化を示す位相ダイアグラムを示す図である。
【
図16】
図16は、第5の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図17】
図17は、第5の実施形態に係る励起パルスシーケンスによるk空間上のトラジェクトリの一例を示す図である。
【
図18】
図18は、
図16の励起パルスシーケンスに従って励起した場合の、磁化の位相差とk空間のトラジェクトリとの関係を示す図である。
【
図19】
図19は、エコータイムシフトを考慮した場合の磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスを示す図である。
【
図20】
図20は、
図19の励起パルスシーケンスに従って励起した場合の、磁化の位相誤差とk空間のトラジェクトリとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1を用いて、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置100の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置100の構成を示す図である。
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置100は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路109と、送信コイル113と、送信回路115と、受信コイル117と、受信回路119と、シーケンス制御回路121と、バス123と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131とを備える。なお、磁気共鳴イメージング装置100は、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間に中空の円筒形状のシムコイルを有していてもよい。
【0010】
静磁場磁石101は、中空の略円筒形状に形成された磁石である。なお、静磁場磁石101は、略円筒形状に限らず、開放型の形状で構成されてもよい。静磁場磁石101は、内部の空間に一様な静磁場を発生する。静磁場磁石101としては、例えば、超伝導磁石等が使用される。
【0011】
傾斜磁場コイル103は、中空の円筒形状に形成されたコイルである。傾斜磁場コイル103は、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。Z軸方向は、静磁場の方向と同方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とし、X軸方向は、Z軸およびY軸に垂直な方向とする。傾斜磁場コイル103における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。
【0012】
傾斜磁場コイル103によって発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)位相エンコード用傾斜磁場およびスライス選択用傾斜磁場を形成する。スライス選択用傾斜磁場は、撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴(Magnetic Resonance:以下、MRと呼ぶ)信号の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。
【0013】
傾斜磁場電源105は、シーケンス制御回路121の制御により、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。
【0014】
寝台107は、被検体Pが載置される天板1071を備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Pが載置された天板1071を、ボア111内へ挿入する。寝台107は、例えば、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように、磁気共鳴イメージング装置100が設置された検査室内に設置される。
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路であり、インタフェース125を介した操作者の指示により寝台107を駆動することで、天板1071を長手方向および上下方向へ移動させる。
【0015】
送信コイル113は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。送信コイル113は、送信回路115からRF(Radio Frequency)パルスの供給を受けて、高周波磁場に相当する送信RF波を発生する。送信コイル113は、例えば、全身コイル(以下、WBC(whole body coil)という)である。WBCは、送受信コイルとして使用されてもよい。WBコイルと傾斜磁場コイル103との間には、これらのコイルを磁気的に分離するための円筒状のRFシールドが設置される。
【0016】
送信回路115は、シーケンス制御回路121の制御により、ラーモア周波数等に対応するRFパルス)を送信コイル113に供給する。
【0017】
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。受信コイル117は、高周波磁場によって被検体Pから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信されたMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。受信コイル117は、例えば、フェーズドアレイコイル(以下、PAC(Phased Array Coil)ともいう)である。
【0018】
受信回路119は、シーケンス制御回路121の制御により、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタル化された複素数データであるデジタルのMR信号を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、A/D変換されたデータを標本化(サンプリング)する。これにより、受信回路119は、デジタルのMR信号(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。受信回路119は、生成されたMRデータを、シーケンス制御回路121に出力する。
【0019】
シーケンス制御回路121は、処理回路131から出力された検査プロトコルに従って、傾斜磁場電源105、送信回路115および受信回路119等を制御し、被検体Pに対する撮像を行う。検査プロトコルは、検査に応じた各種パルスシーケンスを有する。検査プロトコルには、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路115により送信コイル113に供給されるRFパルスの大きさ、送信回路115により送信コイル113にRFパルスが供給されるタイミング、受信コイル117によりMR信号が受信されるタイミング等が定義されている。
【0020】
バス123は、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131との間でデータを伝送させる伝送路である。バス123には、ネットワーク等を介して、各種生体信号計測器、外部記憶装置、各種モダリティなどが適宜接続されてもよい。例えば、生体信号計測器として、不図示の心電計がバスに接続される。
【0021】
インタフェース125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける回路を有する。インタフェース125は、例えば、マウス等のポインティングデバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスに関する回路を有する。なお、インタフェース125が有する回路は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品に関する回路に限定されない。例えば、インタフェース125は、磁気共鳴イメージング装置100とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路を有していてもよい。
【0022】
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能1311による制御のもとで、画像生成機能により生成された各種磁気共鳴画像(MR画像)、撮像および画像処理に関する各種情報などを表示する。ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタ等の表示デバイスである。
【0023】
記憶装置129は、画像生成機能1313を介してk空間に配列されたMRデータ、画像生成機能1313により生成された画像データ等を記憶する。記憶装置129は、各種検査プロトコル、検査プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件等を記憶する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(hard disk drive)、ソリッドステートドライブ(solid state drive)、光ディスク等である。また、記憶装置129は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0024】
処理回路131は、ハードウェア資源として図示していないプロセッサ、ROM(Read-Only Memory)やRAM等のメモリ等を有し、磁気共鳴イメージング装置100を統括的に制御する。処理回路131は、システム制御機能1311と、画像生成機能1313と、設定機能1315とを有する。システム制御機能1311と、画像生成機能1313と、設定機能1315とで行われる各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129へ記憶されている。処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読みだした状態の処理回路131は、
図1の処理回路131内に示された複数の機能等を有することになる。
【0025】
なお、
図1においては単一の処理回路131にてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。
【0026】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
【0027】
プロセッサは、記憶装置129に保存されたプログラムを読み出し実行することで各種機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路115、受信回路119、シーケンス制御回路121等も同様に、上記プロセッサなどの電子回路により構成される。
【0028】
処理回路131は、システム制御機能1311により、磁気共鳴イメージング装置100を制御する。具体的には、処理回路131は、記憶装置129に記憶されているシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って磁気共鳴イメージング装置100の各回路を制御する。例えば、処理回路131は、システム制御機能1311により、インタフェース125を介して操作者から入力される撮像条件に基づいて、検査プロトコルを記憶装置129から読み出す。なお、処理回路131は、撮像条件に基づいて、検査プロトコルを生成してもよい。処理回路131は、検査プロトコルをシーケンス制御回路121に送信し、被検体Pに対する撮像を制御する。
【0029】
なお、複数のRFパルスを含む励起パルスを印加する場合、処理回路131は、設定機能1315により、複数のRFパルスのうちの少なくとも1組のRFパルス間に反転パルスを印加する。反転パルスは、縦磁化の正負を反転し、横磁化の位相進み・遅れの関係を逆転させるRFパルスであり、180°パルスまたはリフォーカスパルスともいう。また、反転パルス自体から発生するFID(Free Induction Decay)信号によってアーチファクトが発生するのを抑制するため、反転パルスの前後あるいは印加中にスライス方向の傾斜磁場を印加する。この傾斜磁場は、スライス方向の横磁化の位相分散を抑制し画像のS/Nを維持するためには、反転パルスの前後の傾斜磁場の面積が同一になるようにする必要がある。この傾斜磁場パルスのことをここではフロップスポイラーと呼ぶ。また、複数の反転パルスを使用する場合、反転パルス自体から発生するFID信号の影響を最小限にするため、複数の反転パルス前後のスポイラーは、それぞれの反転パルス毎に時間積分値(面積)が同じ値になるようにする。
【0030】
処理回路131は、システム制御機能1311により、励起パルスシーケンスに従って励起パルスを印加し、スポイラー傾斜磁場を含む傾斜磁場を印加するように制御する。処理回路131は、システム制御機能1311により、励起パルスシーケンスを実行後、各種データ収集用のパルスシーケンスであるデータ収集シーケンスに従って、被検体PからのMR信号を収集し、MRデータを生成する。
【0031】
処理回路131は、画像生成機能1313により、リードアウト傾斜磁場の強度に従って、k空間のリードアウト方向に沿ってMRデータを充填する。処理回路131は、k空間に充填されたMRデータに対してフーリエ変換を行うことにより、MR画像を生成する。例えば、処理回路131は、複素のMRデータから絶対値(Magnitude)画像を生成することが可能である。また、処理回路131は、複素のMRデータにおける実部データと虚部データとを用いて位相画像を生成することが可能である。処理回路131は、絶対値画像および位相画像などのMR画像を、ディスプレイ127や記憶装置129に出力する。
【0032】
次に、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100の励起パルスシーケンスについて
図2を参照して説明する。
図2に示すシーケンス図は、上から順に、RFパルス、スライス選択用傾斜磁場(傾斜磁場Gss)、位相エンコード用傾斜磁場(傾斜磁場Gp)の各時系列を示す。
【0033】
第1の実施形態で用いる励起パルスは、スライス面内を選択励起する2次元局所励起パルスを想定する。励起パルスは、複数のRFパルスをサブパルスとして含む。ここでは、5つのサブパルス201,203,205,207および209により局所励起用の励起パルスを形成する。また、
図2に示す例では、3番目のサブパルス205をメインパルスとし、メインパルスを中心として時系列の前後で、サブパルス及び傾斜磁場の構成が対称となるように励起パルスシーケンスを設定する。なお、これに限らず、時系列上で最後のサブパルス、ここではサブパルス209がメインパルスとなるように設定されてもよい。
【0034】
以下、シーケンス制御回路121が各回路を制御することで、設定機能1315により設定された励起パルスシーケンスが実行されるとする。
スライス選択用傾斜磁場では、1番目のサブパルス201が印加される際に、正の傾斜磁場Gss221が印加される。傾斜磁場Gss221が印加された後、スライス面内の局所磁化の位相を揃えるため、傾斜磁場Gss221の磁場勾配の強さを示す線と時系列の基線とで囲まれる領域(以下、パルスともいう)の面積(グラディエントモーメント:GM)の半分に相当する負の傾斜磁場Gss223が印加される。すなわち、面積は、傾斜磁場Gss221各々についての磁場勾配の強さの印加期間に亘る積分値に対応する。
位相エンコード用傾斜磁場では、傾斜磁場Gss223が印加されるタイミングで、k空間における位相エンコード方向での選択のために、傾斜磁場Gp241が印加される。
【0035】
次に、1番目のサブパルス201と2番目のサブパルス203との間に、反転パルス202が印加される。反転パルス202が印加されることで、縦磁化の正負が反転する。言い換えれば、縦磁化が正の値と負の値との間で反転する。
ここで、反転パルス202を印加した場合は、横磁化が発生する。よって、発生した横磁化を消去するために、反転パルス202の印加に併せて、スライス選択用傾斜磁場では、スポイラー傾斜磁場Gss225が印加される。
なお、設定機能1315により処理回路131は、スポイラー傾斜磁場Gss225のパルス面積を、反転パルス202の印加されたタイミングを中心として時系列上の前後で等しくなるようなパルス面積に設定する。また、設定機能1315により処理回路131は、RFパルスが印加されるタイミングでRFパルス間の位相差が閾値以下となるように、反転パルス202の印加タイミングを設定する。好ましくは、複数のサブパルス201それぞれの印加タイミングにおいて位相差がゼロとなるように、反転パルス202の印加タイミングが設定されればよい。
【0036】
次に、2番目のサブパルス203が印加される。サブパルス203の印加に併せて、スライス選択用傾斜磁場では、正の傾斜磁場Gss227が印加される。なお、正の傾斜磁場227が印加される前に、正の傾斜磁場Gss227のパルス面積の半分となる負の傾斜磁場Gss229を印加する。また、負の傾斜磁場Gss229にあわせて、位相エンコード用傾斜磁場では、負の傾斜磁場243が印加される。これは、k空間上の励起開始位置を調整するためである。
以降は上述した励起パルスシーケンスが、局所励起に対応するk空間上のトラジェクトリに沿って繰り返される。すなわち、反転パルスは、複数のサブパルスの各パルス間で印加される。
【0037】
次に、第1の実施形態に係るスライス選択方向の位相変化及び位相エンコード方向の位相変化を示す位相ダイアグラムについて
図3を参照して説明する。
図3の上段は、
図2に示す励起パルスシーケンスである。
図3の中段は、時系列に沿ったスライス選択方向の磁化の位相差Δθssを示すグラフ301である。
図3の下段は、時系列に沿った位相エンコード方向の磁化の位相差Δθpを示すグラフ303である。
図3に示すように、スライス選択用傾斜磁場が印加される時間に比例して、反転パルス202が印加されるタイミングでスライス選択方向の磁化の位相が反転する。反転パルス202によって位相が反転しない磁化も存在するため、反転パルスの印加毎にグラフ301が2つに分岐する。また、スライス選択方向の位相のずれ量がゼロとなるタイミングでサブパルスが印加される。
【0038】
サブパルス201が印加されるタイミングでは、サブパルス201毎にエンコード量が異なるように位相エンコード用磁場が印加される。また、反転パルス202が印加される前に、位相エンコード方向のエンコード量がゼロとなるように、反転パルス毎にリワインダ403と呼ばれる位相エンコード用磁場が印加される。
【0039】
次に、第1の実施形態に係る励起パルスシーケンスと静磁場不均一の影響による磁化の位相変化を
図4に示す。
図4の上段は、
図2に示す励起パルスシーケンスを示す。
図4の下段は、時系列に沿った静磁場B
0の位相変化を示す。反転パルス202により横磁化の位相の進み・遅れの関係が逆転するため、静磁場不均一による位相変化が相殺されるときに各サブパルスが印加される。これにより、各サブパルスを印加する場合に位相差が生じないため、局所励起特性の劣化を低減することができる。
【0040】
以上に示した第1の実施形態によれば、複数のサブパルスの印加を伴う励起パルスシーケンスの一種である2次元局所励起において、サブパルス間で反転パルスを印加し、反転パルスの印加タイミングにおいてスポイラー傾斜磁場を印加する。これにより、反転パルスの印加に伴うFID信号の発生をスポイラー傾斜磁場の印加で抑制しつつ、サブパルスの印加タイミングにおいて磁化の位相回転に由来する位相ずれを低減することができる。
磁場不均一化においては空間位置間に周波数オフセットが生じ、周波数オフセットに基づき磁化の位相が回転するために、励起位置が局所励起方向にシフトしてしまうが、第1の実施形態によれば、局所励起位置が局所励起方向にシフトすることなく、2次元局所励起における励起パルスの特性劣化を低減することができる。ひいては、磁気共鳴画像の画質を向上させることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、サブパルスが印加されるタイミングで、スライス選択用傾斜磁場として負の傾斜磁場が印加される点が第1の実施形態とは異なる。
【0042】
第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100の励起パルスシーケンスについて
図5に示す。
設定機能1315により処理回路131は、サブパルスがそれぞれ印加されるタイミングにおけるスライス選択用傾斜磁場として、負の傾斜磁場501を印加するように設計する。負の傾斜磁場501が印加されるため、スライス面内の局所磁化の位相を揃えるための傾斜磁場Gss503は、反対の極性である正の傾斜磁場である。さらに、k空間上の励起開始位置を定めるための正の傾斜磁場Gss505も正の傾斜磁場である。よって、傾斜磁場Gss503と傾斜磁場Gss505と、反転パルスが印加されるタイミングで印加される正のスポイラー傾斜磁場225との極性が同じであるため、スライス選択用傾斜磁場の切り換えが必要なく、パルス間隔を短縮することができる。
【0043】
次に、パルス間隔を詰めた場合の第2の実施形態に係る励起パルスシーケンスについて
図6に示す。
図6に示すように、正の傾斜磁場Gss503、スポイラー傾斜磁場Gss225および正の傾斜磁場Gss505が連続した傾斜磁場となる。
また、励起パルスシーケンスに加え、MR信号を収集してMR画像を生成するデータ収集シーケンスについても記載する。
図6の例では、フィールドエコー法(FE、グラディエントエコー(GRE)法とも呼ぶ)によりイメージングする場合を示す。よって、位相エンコード用傾斜磁場の下段に、リードアウト用傾斜磁場の時系列、さらに下段にエコーに関する時系列を示す。
【0044】
以上に示した第2の実施形態によれば、サブパルス印加時のスライス選択用傾斜磁場を負の傾斜磁場とすることで、スポイラー傾斜磁場225と傾斜磁場Gss503と傾斜磁場Gss505とが連続した傾斜磁場となり、サブパルス間隔を詰めることができる。よって、励起パルスシーケンスの印加時間を短縮することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、励起パルスの印加中にスライス選択用傾斜磁場を連続して印加する点が上述の実施形態とは異なる。
【0046】
第3の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスについて
図7に示す。
第1の実施形態に係る
図2のRFパルスシーケンスでは、スライス選択用傾斜磁場により、正の傾斜磁場Gss221の直後に負の傾斜磁場223が印加される。ここで、負の傾斜磁場223と同じ面積で、極性が正の傾斜磁場227をフロップスポイラーの前後に追加することを想定する。
この場合、
図7の斜線で示す負の傾斜磁場223と、追加した正の傾斜磁場227とは相殺することができる。相殺された傾斜磁場の印加時間分、サブパルスおよび反転パルスの間隔を詰めることができる。
【0047】
次に、パルスの間隔を詰めた場合の第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスとスライス選択方向及び位相エンコード方向の位相変化とについて
図8に示す。
図8の上段は、第2の実施形態に係る励起パルスの励起パルスシーケンスを示し、
図8の中段は、スライス選択方向の磁化の位相差を示し、
図8の下段は、位相エンコード方向の磁化の位相差を示す。
【0048】
図8に示すように、設定機能1315により処理回路131が、励起パルスの印加期間中、スライス選択用傾斜磁場として正の傾斜磁場を連続して印加し続けるように設定する。正のスライス選択用傾斜磁場がかかった状態であるため、スライス選択方向の磁化の位相差は、反転パルスが印加されるまでは右肩上がりとなる。反転パルスの印加後は、位相が反転し、サブパルスが印加されるタイミングで位相差がゼロとなる。
位相エンコード方向の磁化の位相差は
図4の場合と同様であり、反転パルスが印加される前は位相エンコード量がゼロとなるようにリワインダの傾斜磁場が印加される。
【0049】
次に、第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスと静磁場不均一の影響による磁化の位相変化を
図9に示す。
図9の上段は、局所励起用のRFパルスシーケンスを示し、
図9の下段は、磁化の位相変化を示す。
図9の下段の破線は、反転パルスが印加されないときの位相変化を示す。反転パルスにより、静磁場不均一による位相変化が相殺されるときに各サブパルスが印加される。これにより、位相ずれによる局所励起特性の劣化を低減することができる。
【0050】
ここで、第3の実施形態に係る励起パルスシーケンスによるk空間のトラジェクトリの一例について
図10を参照して説明する。
図10は、横軸がスライス選択方向、縦軸が位相エンコード方向のk空間を示す。「1」から「5」までの矢印は、k空間上でのトラジェクトリ801を示す。
反転パルスを用いることで、スライス選択用傾斜磁場において、正の傾斜磁場が印加し続けている状態でも、k空間上で局所励起に必要なトラジェクトリを描くことができる。
なお、第3の実施形態では、正の傾斜磁場を連続して印加し続ける場合を説明したが、負の傾斜磁場を連続して印加し続けてもよい。
【0051】
以上に示した第3の実施形態によれば、スライス選択用傾斜磁場において、負の傾斜磁場を印加せずに、励起パルスシーケンスのサブパルスの印加タイミングでは正の傾斜磁場を印加する。これにより、スライス選択用傾斜磁場において、一定の傾斜磁場を印加すればよいため、傾斜磁場を切り換える必要がなく、処理を簡易化することができる。さらに、サブパルス及び反転パルスの間隔を短縮することができるため、励起パルスシーケンスの印加時間を短縮することができる。
【0052】
なお、データ収集シーケンスとして、高速スピンエコー(Fast Spin Echo)法、GRASE(Gradient and Spin Echo)法、あるいはCPMG(Carr-Purcell Meiboom-Gill)法を利用したマルチエコー法などを用いる場合、データ収集にも複数個の反転パルスを使用する。これらの撮像シーケンスと上述した励起パルスシーケンスとを併用した場合、以下の点に留意すべきである。
上述したように、複数の反転パルスを使用する場合、反転パルス自体から発生するFID信号の影響を最小限にするため、複数の反転パルス前後のスポイラーはそれぞれの反転パルス毎に時間積分値(パルス面積)が同じ値になるようにすることが望ましい。しかし、上述の励起パルスシーケンスと上述のデータ収集シーケンスとを併用した場合は、データ収集シーケンス側での反転パルス前後のスポイラーのパルス面積も、励起パルスシーケンス側での反転パルス前後のスポイラーのパルス面積に合わせることが望ましい。
【0053】
本実施形態に係る励起パルスシーケンスと4エコーの高速スピンエコー法とを組み合わせた例を
図11に示す。
図11中、スライス方向の傾斜磁場Gssにおいて、2種類の斜線部分の面積を揃える。ここでは、面積「a」とする。また、励起パルスシーケンスとデータ収集シーケンスとが隣接する反転パルス間のGssの面積を合わせ、全て
図11のように2a(aの2倍)とする。
同様に、リードアウト方向の傾斜磁場Groの部分も2種類の斜線の部分の面積を揃えて面積「b」とする。また、励起パルスシーケンスとデータ収集シーケンスとが隣接する反転パルス間のGroの面積を合わせ、全て
図11のように2b(bの2倍)とする。
【0054】
位相エンコード方向の傾斜磁場Gpのように、位相エンコードが必要なチャンネルでは、傾斜磁場Gss及び傾斜磁場Groにおける斜線に相当するような部分の面積は合わせられない。しかし、励起パルスシーケンスとデータ収集シーケンスとが隣接する反転パルス間の面積は、正負で全て相殺されるように設計する。具体的には、励起パルスシーケンスの最後のRFパルス「P5」照射前の傾斜磁場Gpの面積は正であり、RFパルス「P5」照射後のデータ収集シーケンスに係る傾斜磁場Gpの面積は負であるため、正負で相殺され、一定であることは守られている。なお、隣接する反転パルスの時間間隔も、励起パルスシーケンスとデータ収集シーケンスとで同じ間隔で一定にそろえることが望ましい。
パルス面積を揃えにくい場合は、基準となるパルス面積の奇数倍の関係にすればよい。その場合は、隣接する反転パルスの間隔もその面積比に合わせて奇数倍の間隔にすればよい。
【0055】
図11に示すように、上述したパルス面積の関係及び反転パルスの時間間隔の関係をなるべく多く守ることにより、反転パルスから発生するFID信号が適切に抑制され、エコーサンプリングウィンドウ内に混入しにくくなり、アーチファクトや信号値ムラの少ない高画質の画像が得られる。
【0056】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、2次元局所励起用の励起パルスシーケンスを、Spoke法に適用する。
【0057】
Spoke法は、k空間上に分散配置されたスライス選択パルスによって生成可能なB1分布により、B1分布の不均一性を抑制する技術である。フリップ角が小さいとき、STA(Small Tip Angle)近似により、横磁化は、磁化ベクトルの大きさM0を用いて線形近似できる。これにより、ブロッホ方程式を簡易化できるため、k空間と実空間とをフーリエ変換対として考えることができる。
【0058】
k空間上のSpoke法のトラジェクトリの概念について
図12に示す。
Spoke法では、k空間上にk
z軸に平行なインパルス(デルタ関数)の線(k
x-k
y平面で見れば点)があり、この線をSpokeとも呼ぶ。
図12の例では、5本のSpoke1201があり、「開始」の位置から「終了」の位置まで、トラジェクトリ1202に沿って各Spoke1201が結ばれる(選択される)。トラジェクトリ1202は、k
x軸、k
y軸及びk
z軸により表現されるk空間上のSpoke1201の位置、及びSpoke1201に対応するRFパルスの印加順序を示す軌跡である。
【0059】
各Spoke1201には、各Spoke1201のk空間上の位置に対応するRFパルスのパラメータ(振幅及び位相)が対応付けられる。各Spoke1201に対応する振幅及び位相を有するRFパルスは、サブパルスとして印加される。すなわち、複数個のサブパルス全体として1つの励起パルスとなるようにRFパルスが設定される。なお、Spoke法を単にSpokeと呼ぶこともある。
【0060】
図12の例では、5本のSpokeを用いる例を示すが、これに限らず、オフセットに用いるk空間上の原点のSpokeを含む、3本以上のSpoke1201であってもよい。なお、Spoke1201の本数が多ければ、その分印加すべきサブパルスの数が増加し、励起パルスとなるまでに時間がかかるため、撮像時間を考慮して適宜Spoke1201の本数が設定されればよい。
【0061】
次に、第4の実施形態に係るSpoke法の励起パルスシーケンスについて
図13及び
図14を参照して説明する。
図13は、第2の実施形態に示した励起パルスシーケンスをSpoke法に適用した励起パルスシーケンスである。すなわち、複数のサブパルスは、Spoke法で用いられる励起パルスである。Spoke法では、周波数エンコード方向についても、傾斜磁場を印加するため、リードアウト用傾斜磁場の時系列が追加される。
位相エンコード用傾斜磁場および周波数エンコード用傾斜磁場の両方について、反転パルスを印加する前にはリワインダの傾斜磁場1301を印加する。
【0062】
次に、第3の実施形態に示した励起パルスシーケンスをSpoke法に適用した励起パルスシーケンスを
図14に示す。
図13に示す場合と同様に、Spoke法を用いた励起パルスシーケンスでもスライス選択用傾斜磁場を印加し続けることにより、B
1分布特性における静磁場不均一による位相ずれの影響を低減することができる。
【0063】
次に、第4の実施形態に係るスライス選択方向の位相変化及び位相エンコード方向の位相変化を示す位相ダイアグラムについて
図15に示す。
図15に示すように、Spoke法に適用する場合でも、2次元局所励起と同様の位相変化を考慮することができる。なお、反転パルスが印加されるタイミングでは、周波数エンコード方向及び位相エンコード方向にリワインダの傾斜磁場が印加される。
【0064】
以上に示した第4の実施形態によれば、Spoke法の場合も同様に、反転パルスにより静磁場不均一による位相変化が相殺されるときに、各サブパルスが印加されるため、静磁場不均一による位相ずれが発生しない。よって、B1分布特性における静磁場不均一による位相ずれの影響を低減することができる。結果として、高周波磁場B1の補正において、静磁場B0の影響を受けることなく補正することができる。
【0065】
(第5の実施形態)
局所励起の精度を向上させるためにはサブパルス数が多い方が望ましいが、サブパルス数が多い場合に、サブパルス間に反転パルスを印加すると、局所励起RFパルスの印加時間が長くなってしまい、患者の負担にも繋がる。
そこで、第5の実施形態では、複数のサブパルスをまとめたサブパルスセットを形成し、複数のサブパルスセット間に反転パルスを印加することを想定する。
【0066】
第5の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の励起パルスシーケンスについて
図16を参照して説明する。
複数のサブパルスの総数よりも少ない数を1組としたサブパルスセットを想定する。
図16に示す例では、3つのサブパルスを1組としてサブパルスセットを形成し、それぞれのサブパルスセットは、k空間上2つおきのトラジェクトリに対応するパルスを有する。具体的に
図16の例では、1セット目のサブパルスセットには「1」「4」「7」番目のトラジェクトリに対応するサブパルスが含まれる。2つ目のサブパルスセットには「2」「5」「8」番目のトラジェクトリに対応するサブパルスが含まれる。3つ目のサブパルスセットには「3」「6」「9」番目のトラジェクトリに対応するサブパルスが含まれる。
【0067】
また、各サブセットの中心に位置するサブパルスに対しては、負の傾斜磁場が印加され、中心に位置するサブパルスの両隣のサブパルスに対しては、正の傾斜磁場が印加される。各サブパルスセットの間で、反転パルスが印加される。
【0068】
次に、第5の実施形態に係る励起パルスシーケンスによるk空間上のトラジェクトリについて
図17に示す。
図17に示すトラジェクトリの番号は、
図16に示すサブパルスの番号に対応する。1番目のトラジェクトリから、2つ飛ばして4番目のトラジェクトリに移動し、さらに2つ飛ばして7番目のトラジェクトリに移動する。その後、リワインダの傾斜磁場が印加されて位相エンコード方向のシフト量がゼロとなり、反転パルスが印加される。
その後、同様に、2番目のトラジェクトリに移動し、他のサブパルスについても印加される傾斜磁場によって、k空間上を移動して励起される。
【0069】
次に、
図16の励起パルスシーケンスに従って励起した場合の、磁化の位相差とk空間のトラジェクトリとの関係について
図18に示す。
縦軸は、静磁場の位相誤差を示し、横軸は、k空間の位相エンコード方向のトラジェクトリの番号を示し、
図17に示すトラジェクトリの番号に対応する。
【0070】
具体的には、1番目から3番目のパルスの位相誤差が同じ値となり、4番目から6番目のパルスの位相誤差が同じ値となり、および、7番目から9番目のパルスの位相誤差が同じ値となる。
このように、3つのサブパルス毎に反転パルスが印加されるため、静磁場不均一に起因する位相ずれがk空間上の3つのサブパルス毎に階段状となる。よって、位相ずれが非連続となることにより、MR画像の画像再構成処理において位相方向にリンギングアーチファクトが発生し得る。
【0071】
ここで、階段状となる位相誤差を解消するため、エコータイムシフトを考慮した励起パルスシーケンスについて
図19に示す。
図19に示すように、中心に位置する2番目のサブパルスセット(2,5,8番目のサブパルス)を基準として、1番目のサブパルスセット(1,4,7番目のサブパルス)は、サブパルスセット内のパルス間隔(ESP:echo spacing)の3分の1の間隔に対応した時間、サブパルスセットの印加を早める。一方、3番目のサブパルスセット(3,6,9番目のサブパルス)は、ESPの3分の1の間隔に対応した時間、サブパルスセットの印加を遅らせる。
【0072】
図19の励起パルスシーケンスに従って励起した場合の、磁化の位相誤差とk空間のトラジェクトリとの関係について
図20に示す。
縦軸は、静磁場の位相誤差を示し、横軸は、k空間の位相エンコード方向のトラジェクトリの番号を示し、
図17に示すトラジェクトリの番号に対応する。
図20に示すように、各トラジェクトリの番号の昇順に従って、位相誤差が比例しており、離散的な位相誤差が解消していることが分かる。これによって、エコータイムシフトを考慮した励起パルスシーケンスが実現される。
【0073】
以上に示した第5の実施形態によれば、複数のサブパルスセットを含む局所励起パルスシーケンスの場合、サブパルス間隔のサブパルスセット数分の1の間隔に対応する期間、印加タイミングをずらす制御を実行する。これによって、RFパルスの印加時間を短縮しつつ、エコータイムシフトを考慮した励起パルスシーケンスを実現することができ、離散的な位相誤差の影響によるアーチファクトの発生を抑制できる。
【0074】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、磁気共鳴画像の画質を向上させることができる。
【0075】
加えて、実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVD、Blu-ray(登録商標)ディスクなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0077】
100・・・磁気共鳴イメージング装置
101・・・静磁場磁石
103・・・傾斜磁場コイル
105・・・傾斜磁場電源
107・・・寝台
109・・・寝台制御回路
111・・・ボア
113・・・送信コイル
115・・・送信回路
117・・・受信コイル
119・・・受信回路
121・・・シーケンス制御回路
123・・・バス
125・・・インタフェース
127・・・ディスプレイ
129・・・記憶装置
131・・・処理回路
201,203,205,207,209・・・サブパルス
202・・・反転パルス
221,223,227,229,241,243,501,503,505,1201・・・傾斜磁場
225・・・スポイラー傾斜磁場
301,303・・・グラフ
403・・・リワインダ
801,1102・・・トラジェクトリ
1071・・・天板
1311・・・システム制御機能
1313・・・画像生成機能
1315・・・設定機能