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特許7154872デジタルオシロスコープ及びその制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】デジタルオシロスコープ及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 13/20 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01R13/20 N
G01R13/20 P
G01R13/20 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018151850
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020027025
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 学
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-026372(JP,U)
【文献】特開2001-147242(JP,A)
【文献】特開平07-181204(JP,A)
【文献】特開平06-082483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 13/00-13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号をデジタルデータに変換するADコンバータと、
ユーザに設定されたトリガ閾値を変動させて変動閾値を生成する閾値生成回路と、
前記デジタルデータと前記変動閾値とを比較して2値信号を出力するデジタルコンパレータと、
前記2値信号に基づいてトリガ信号を出力するトリガ出力回路と、
前記トリガ信号が出力されたタイミング及び前後のタイミングを含む数点の前記デジタルデータと、前記変動閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する時間測定回路と、を備え
前記閾値生成回路は、
前記デジタルデータのLSB(Least Significant Bit)よりも小さい乱数を生成する乱数生成回路と、
前記トリガ閾値に前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させて前記変動閾値を生成する第1加算器と、を含み、
前記時間測定回路は、前記数点の前記デジタルデータを通る関数を算出し、当該関数と前記変動閾値との交点の時間を前記真のトリガ点として算出する、デジタルオシロスコープ。
【請求項2】
請求項に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記第1加算器は、前記トリガ閾値から前記デジタルデータのLSBよりも小さい値を切り捨てた値に、前記デジタルデータのLSBよりも小さい前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させる、デジタルオシロスコープ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記乱数生成回路とは異なる他の乱数生成回路と、
第2加算器と、をさらに備え、
前記第2加算器は、前記時間測定回路が算出した前記真のトリガ点に、前記他の乱数生成回路が生成した乱数を加算して、前記真のトリガ点をランダムに変動させる、デジタルオシロスコープ。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記トリガ出力回路から前記トリガ信号を受け取ると、その時点の前記変動閾値をラッチして保持するラッチ回路を更に備える、デジタルオシロスコープ。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記デジタルデータに基づく波形を表示する表示器をさらに備える、デジタルオシロスコープ。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記デジタルオシロスコープは、ランダムサンプリング方式で等価サンプルを行う、デジタルオシロスコープ。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のデジタルオシロスコープにおいて、
前記デジタルオシロスコープは、時間軸の表示分解能がサンプリング分解能よりも細かくなるように拡大表示する、デジタルオシロスコープ。
【請求項8】
アナログ入力信号をデジタルデータに変換するステップと、
ユーザに設定されたトリガ閾値を変動させて変動閾値を生成するステップと、
前記デジタルデータと前記変動閾値とを比較して2値信号を出力するステップと、
前記2値信号に基づいてトリガ信号を出力するステップと、
前記トリガ信号が出力されたタイミング及び前後のタイミングを含む数点の前記デジタルデータと、前記変動閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出するステップと、を含み、
前記変動閾値を生成するステップは、
前記デジタルデータのLSB(Least Significant Bit)よりも小さい乱数を生成するステップと、
前記トリガ閾値に前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させて前記変動閾値を生成するステップと、を含み、
前記真のトリガ点を算出するステップは、前記数点の前記デジタルデータを通る関数を算出し、当該関数と前記変動閾値との交点の時間を前記真のトリガ点として算出するステップを含む、デジタルオシロスコープの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デジタルオシロスコープ及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルトリガ方式のデジタルオシロスコープが知られている。
【0003】
デジタルトリガ方式は、入力信号を所定のサンプリングクロックでA/D変換したデジタルデータを2値化し、2値化したデータの変化に基づいてトリガを発生させる。そのため、トリガ判定の時間分解能はサンプリングクロックの周期となる。
【0004】
しかしながら、入力信号はサンプリングクロックとは非同期であるため、真のトリガ点は、サンプル点の間の時間となり得る。ここで、「真のトリガ点」とは、入力信号がトリガ閾値を超える時間である。
【0005】
入力信号の波形をデジタルオシロスコープの表示器に描画する際、トリガが発生した時間であるトリガ発生点と真のトリガ点との時間差を算出し、時間差の分だけずらして表示することにより、正確な位置に波形を描画することができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、サンプル点の間に補間によってさらなるサンプル点を生成して、真のトリガ点を算出する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、トリガ発生点付近のデータを等式に当てはめ、その等式を解くことで真のトリガ点を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5607301号公報
【文献】特許第4723030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に記載されている真のトリガ点を算出する方法は、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏るという課題があった。
【0010】
そこで、本開示は、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能なデジタルオシロスコープ及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
幾つかの実施形態に係るデジタルオシロスコープは、アナログ入力信号をデジタルデータに変換するADコンバータと、ユーザに設定されたトリガ閾値を変動させて変動閾値を生成する閾値生成回路と、前記デジタルデータと前記変動閾値とを比較して2値信号を出力するデジタルコンパレータと、前記2値信号に基づいてトリガ信号を出力するトリガ出力回路と、前記トリガ信号が出力された前後のタイミングの前記デジタルデータと、前記変動閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する時間測定回路と、を備える。このようなデジタルオシロスコープによれば、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能である。より具体的には、閾値生成回路は、ユーザに設定されたトリガ閾値を変動させて変動閾値を生成し、時間測定回路は、トリガ信号が出力された前後のタイミングのデジタルデータと、変動閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する。従って、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅く、トリガ信号が出力された前後のタイミングのデジタルデータが同じ値の場合であっても、算出された真のトリガ点が特定の値に偏ることがない。
【0012】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記閾値生成回路は、乱数を生成する乱数生成回路を含み、前記乱数を用いて、前記トリガ閾値をランダムに変動させて前記変動閾値としてのランダム閾値を生成してもよい。このように、乱数を用いることにより、閾値生成回路は、トリガ閾値をランダムに変動させることができる。
【0013】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記閾値生成回路は、第1加算器をさらに含み、前記第1加算器は、前記トリガ閾値に基づく値に前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させてもよい。このように、第1加算器がトリガ閾値に基づく値に乱数を加算することにより、閾値生成回路は、トリガ閾値を容易にランダムに変動させることができる。
【0014】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記第1加算器は、前記トリガ閾値に、前記デジタルデータのLSB(Least Significant Bit)よりも小さい前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させてもよい。このように、デジタルデータのLSBよりも小さい乱数を加算することにより、デジタルコンパレータが出力する2値信号が乱数の影響を受けないようにすることができる。
【0015】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記第1加算器は、前記トリガ閾値から前記デジタルデータのLSBよりも小さい値を切り捨てた値に、前記デジタルデータのLSBよりも小さい前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させてもよい。このように、デジタルデータのLSBよりも小さい値を切り捨てた値に、デジタルデータのLSBよりも小さい乱数を加算することにより、デジタルコンパレータが出力する2値信号が乱数の影響を受けないようにすることができる。
【0016】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記第1加算器は、前記トリガ閾値から下位数ビットを切り捨て、切り捨てた前記下位数ビットに対応する前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させてもよい。これにより、閾値生成回路は、トリガ閾値を容易にランダムに変動させることができる。
【0017】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記第1加算器は、前記トリガ閾値の下位数ビットに対応する前記乱数を加算して、前記トリガ閾値をランダムに変動させてもよい。これにより、閾値生成回路は、トリガ閾値を容易にランダムに変動させることができる。
【0018】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、第2加算器をさらに備え、前記第2加算器は、前記時間測定回路が算出した前記真のトリガ点をランダムに変動させてもよい。このように、真のトリガ点をランダムに変動させることにより、細かい時間分解能でトリガ点を変動させることができる。
【0019】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記第2加算器は、乱数を用いて前記真のトリガ点をランダムに変動させてもよい。これにより、真のトリガ点を容易にランダムに変動させることができる。
【0020】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記トリガ出力回路から前記トリガ信号を受け取ると、その時点の前記変動閾値をラッチして保持するラッチ回路を更に備えてもよい。これにより、トリガ発生直後に、次のデータ取り込みの際の変動閾値を生成するための準備をすることができる。
【0021】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記デジタルデータに基づく波形を表示する表示器をさらに備えてもよい。これにより、ユーザが見やすい表示波形を表示器に表示することができる。
【0022】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記デジタルオシロスコープは、ランダムサンプリング方式で等価サンプルを行うデジタルオシロスコープであってよい。
【0023】
一実施形態に係るデジタルオシロスコープおいて、前記デジタルオシロスコープは、時間軸の表示分解能がサンプリング分解能よりも細かくなるように拡大表示するデジタルオシロスコープであってよい。
【0024】
幾つかの実施形態に係るデジタルオシロスコープの制御方法は、アナログ入力信号をデジタルデータに変換するステップと、ユーザに設定されたトリガ閾値を変動させて変動閾値を生成するステップと、前記デジタルデータと前記変動閾値とを比較して2値信号を出力するステップと、前記2値信号に基づいてトリガ信号を出力するステップと、前記トリガ信号が出力された前後のタイミングの前記デジタルデータと、前記変動閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出するステップと、を含む。このようなデジタルオシロスコープの制御方法によれば、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能である。より具体的には、ユーザに設定されたトリガ閾値をランダムに変動させてランダム閾値を生成するステップと、トリガ信号が出力された前後のタイミングのデジタルデータと、ランダム閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出するステップとを含むことにより、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅く、トリガ信号が出力された前後のタイミングのデジタルデータが同じ値の場合であっても、算出された真のトリガ点が特定の値に偏ることがないようにすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能なデジタルオシロスコープ及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】比較例に係るデジタルトリガ回路の概略構成を示すブロック図である。
図2】比較例に係る時間測定回路が真のトリガ点を算出する様子の一例を示す図である。
図3】比較例において、サンプルデータがメモリに格納されている様子を示す図である。
図4】比較例において、真のトリガ点を基準としてサンプルデータが表示されている様子を示す図である。
図5】比較例において、サンプルデータが等価サンプル用のメモリに格納されている様子を示す図である。
図6】比較例において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合の波形の一例を示す図である。
図7】比較例において、サンプルデータがメモリに格納されている様子を示す図である。
図8】比較例において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合に真のトリガ点を基準としてサンプルデータが表示されている様子を示す図である。
図9】比較例において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合にサンプルデータが等価サンプル用のメモリに格納されている様子を示す図である。
図10】比較例において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合に真のトリガ点を基準としてサンプルデータが表示されている様子を示す図である。
図11】一実施形態に係るデジタルオシロスコープの概略構成を示す図である。
図12】一実施形態に係るデジタルトリガ回路の概略構成を示す図である。
図13】トリガ閾値に乱数を加算してランダム閾値を生成する様子を示す図である。
図14】入力信号のスルーレートが極めて遅い場合の波形の一例を示す図である。
図15】サンプルデータが1次メモリに格納されている様子を示す図である。
図16】真のトリガ点を基準としてサンプルデータが表示されている様子を示す図である。
図17】サンプルデータが等価サンプル用のメモリに格納されている様子を示す図である。
図18】真のトリガ点を基準としてサンプルデータが表示されている様子を示す図である。
図19】入力信号のスルーレートが比較的高い場合の波形の一例を示す図である。
図20】一実施形態に係るデジタルオシロスコープの動作の一例を示すフローチャートである。
図21】トリガ閾値に乱数を加算してランダム閾値を生成する他の方法を示す図である。
図22】トリガ閾値に乱数を加算してランダム閾値を生成する他の方法を示す図である。
図23】トリガ閾値に乱数を加算してランダム閾値を生成する他の方法を示す図である。
図24】トリガ閾値に乱数を加算してランダム閾値を生成する他の方法を示す図である。
図25】第1変形例に係るデジタルトリガ回路の概略構成を示す図である。
図26】第1変形例に係るデジタルトリガ回路の動作の一例を示すフローチャートである。
図27】第2変形例に係るデジタルトリガ回路の概略構成を示す図である。
図28】第3変形例に係るデジタルトリガ回路の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(比較例)
最初に、比較例に係るデジタルトリガ回路について説明し、その問題点について述べる。
【0028】
図1は、比較例に係るデジタルトリガ回路600の概略構成を示す図である。デジタルトリガ回路600は、デジタルコンパレータ610と、トリガ出力回路620と、トリガメモリ630と、時間測定回路640とを備える。
【0029】
デジタルトリガ回路600は、ADコンバータ(ADC)20から、サンプルデータを取得する。ここで、サンプルデータとは、ADコンバータ20が、アナログ入力信号を所定のサンプリングクロックでデジタルデータに変換したものを意味する。
【0030】
ADコンバータ20は、サンプルデータをデータ取込処理回路にも出力している。データ取込処理回路は、サンプルデータをメモリに取り込む回路である。データ取込処理回路の後段の回路は、メモリに取り込まれたデータを元に、描画などの二次処理を行う。
【0031】
デジタルトリガ回路600は、トリガ発生点をデータ取込処理回路などへ出力する。データ取込処理回路は、トリガ発生点に基づいて、所定の時間範囲のサンプルデータがメモリに格納されるように取り込む。また、データ取込処理回路は、トリガ発生点に基づいて、メモリに格納したサンプルデータの制御を行う。
【0032】
デジタルトリガ回路600は、真のトリガ点を算出すると、データ処理回路に真のトリガ点を出力する。データ処理回路は、トリガ発生点と真のトリガ点との時間差の分だけ表示用データをずらす。
【0033】
デジタルコンパレータ610は、ADコンバータ20から受け取るサンプルデータと、トリガ閾値とを比較し、比較結果に応じて2値化して2値信号を出力する。トリガ閾値はユーザの操作によって設定される値である。
【0034】
デジタルコンパレータ610は、例えば、サンプルデータがトリガ閾値より大きい場合に「1」を出力し、サンプルデータがトリガ閾値以下である場合に「0」を出力する。
【0035】
トリガ出力回路620は、デジタルコンパレータ610から受け取る2値信号に基づいて、トリガ信号を出力する。トリガ出力回路620は、例えば、デジタルコンパレータ610から受け取る信号が「0」から「1」に変わる立ち上がりエッジで、トリガ信号を出力する。トリガ出力回路620は、トリガメモリ630と、時間測定回路640と、データ取込処理回路などとに、トリガ信号を出力する。トリガ信号が出力される時間が、トリガ発生点に対応する。
【0036】
トリガメモリ630は、ADコンバータ20から受け取るサンプルデータを、所定のデータ数だけ記憶している。トリガメモリ630は、例えば、リングバッファ状のメモリである。トリガメモリ630は、トリガ出力回路620からトリガ信号を受信すると、トリガ発生点の前後数点のサンプルデータを時間測定回路640に出力する。
【0037】
時間測定回路640は、トリガメモリ630から受けとったトリガ発生点の前後数点のサンプルデータと、トリガ閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する。時間測定回路640は、算出した真のトリガ点を、データ処理回路へ出力する。
【0038】
図2を参照して、時間測定回路640が真のトリガ点を算出する様子の一例を説明する。図2に示す例においては、トリガメモリ630は、トリガ発生点前後の4つのサンプルデータを時間測定回路640に出力している。図2に示す例においては、4つのサンプルデータは、サンプルN-2、サンプルN-1、サンプルN及びサンプルN+1である。サンプルNは、トリガ発生点におけるサンプルデータである。サンプルN-2及びサンプルN-1は、トリガ発生点の前におけるサンプルデータである。サンプルN+1は、トリガ発生点の後におけるサンプルデータである。
【0039】
図2に示す例においては、時間測定回路640は、4つのサンプルデータを通る3次式Fと、トリガ閾値との交点を算出することにより、真のトリガ点を算出している。図2において、Tsはサンプリングクロックの間隔を示し、Ttはトリガ発生点から真のトリガ点までの時間を示す。
【0040】
真のトリガ点は、サンプルN-1とサンプルNとの間にあるため、Ttは、0<TtTsの範囲の値となる。サンプリングクロックと入力信号とが非同期の場合、Ttは、0<TtTsの範囲で、任意の値をとる。
【0041】
図3に、ADコンバータ20からデータ取込処理回路に出力されたサンプルデータが、データ取り込み用のメモリに格納されている様子の一例を示す。図3は、M回目~M+3回目のデータ取り込み時に格納されたサンプルデータの様子を示す。
【0042】
図3に示す例において、トリガ発生直後のサンプルデータをサンプルNとする。また、M回目~M+3回目のTtを、それぞれ、Ts、0.5×Ts、0.75×Ts、0.25×Tsとする。
【0043】
図4に、図3のデータを真のトリガ点を基準として、表示器に表示させた例を示す。すなわち、図4に示す例では、図3のデータを、トリガ発生点から真のトリガ点までの時間を示すTtに基づいてずらしている。図4において、丸、四角、三角及び星の記号は、それぞれ、図3に示すM回目、M+1回目、M+2回目及びM+3回目の取り込みデータに対応する。
【0044】
表示器が、一波形ずつ表示するモードの場合は、それぞれの回の取り込みデータのみが表示される。すなわち、丸、四角、三角及び星のいずれか一つのデータのみが表示される。表示器が、重ね書きモードの場合は、全ての取り込みデータが表示される。図4は、重ね書きモードで表示されている例を示したものである。
【0045】
ランダムサンプリング方式で等価サンプルした場合は、図5に示すように、取り込まれたサンプルデータは、等価サンプル用のメモリのTtの時間に対応したスロットに格納される。
【0046】
ここで、ランダムサンプリング方式とは、サンプリングクロックと入力信号が非同期であるため、トリガ発生点から真のトリガ点までの時間が変動し、サンプルデータが波形ごとに異なるスロットに格納される方式である。等価サンプルとは、サンプリング周期よりも短い周期で設けられたスロットにサンプルデータが格納されることにより、等価的に高いサンプリング周波数でデータを取得しているように見せることを意味する。例えば、サンプルデータを格納するスロットの時間間隔をサンプリング周期の4分の1とすると、等価的にサンプリング周波数が4倍になったように見える。
【0047】
図5は、スロットの時間間隔がサンプリング周期の4分の1の場合を示したものである。図5において、丸、四角、三角及び星の記号は、それぞれ、図3に示すM回目、M+1回目、M+2回目及びM+3回目の取り込みデータに対応する。
【0048】
図5に示すメモリに格納されている値を表示器に表示させると、図4に示すように表示される。
【0049】
続いて、図6図10を参照して、比較例に係るデジタルトリガ回路600の問題点について説明する。
【0050】
図6に、トリガ閾値付近において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合の波形の一例を示す。図6に示す例では、トリガ閾値付近において、入力信号は、1サンプル毎に1LSB(Least Significant Bit)ずつしか変化していない。この場合、トリガ発生点付近のサンプルデータ、すなわち、サンプルN-2~サンプルN+1の値は、トリガがかかる度に同じデータとなる。その結果、Ttも毎回Tt=Tsとなり、Ttが固定値となってしまう。
【0051】
この場合、データ取り込み用のメモリに格納されているデータは、図7に示すようになる。すなわち、M回目~M+3回目のデータ取り込み時のTtが、全てTsとなる。
【0052】
図8に、図7のデータを真のトリガ点を基準として、表示器に表示させた例を示す。図8は、M回目~M+3回目のデータを重ね書きモードで表示したものであるが、どの回の取り込みデータもTt=Tsであるため、全ての回のデータが同じ点に重なって表示されている。
【0053】
図9に、図7に示したようなデータを等価サンプルして、サンプリング周期の4分の1の周期で格納した場合の様子を示す。この場合、Tt=Tsのスロットにのみ順次上書きされていくため、最後の取り込みデータのみが残ることになる。具体的には、図9に示す例では、M+3回目の取り込みデータのみが、Tt=Tsのスロットに残る。
【0054】
図10に、図9のデータを真のトリガ点を基準として、表示器に表示させた例を示す。この場合、最後の取り込みデータのみが表示される。図9に示す例においては、M+3回目の取り込みデータが最後の取り込みデータであるため、図10には、星の記号で示すデータのみが表示されている。
【0055】
図6図10を参照して説明した例は極端な例であるが、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅い場合、トリガ発生点付近の4つのサンプルデータの組み合わせが数種類しかないようになることは起こり得る。この場合、Ttの値は数種類に限られてしまう。これは、4つのサンプルデータを通る3次式を用いる方法ではなく、サンプル間を補間して真のトリガ点を算出する方法を採用しても同様である。
【0056】
トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅い状況においては、サンプル点のみをドットで表示させる方法で表示させると、重ね書きモード(残光モード)を使用しても、限られた位置でしかサンプル点が表示されない。また、ランダムサンプリング方式で等価サンプルした場合、限られたスロットにしかデータを格納できないため、スロットが埋まらなくなってしまう。
【0057】
従って、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅い状況になると、真のトリガ点が特定の値に偏るため、デジタルオシロスコープに表示される波形は見づらくなる。また、真のトリガ点が特定の値に偏り、等価サンプルにおいてスロットが埋まらない場合、時間軸系の自動測定(例えば、周波数又は周期の自動測定など)ができなくなる場合がある。時間軸系の自動測定の計算は、取り込んだデータを読み出してCPUが行う。時間軸系の自動測定の計算は、図示しない二次データ処理回路が行ってもよい。
【0058】
基本的には、サンプリングクロックと非同期の入力信号でトリガを発生させる場合、上述したTtの値は、0~Tsの間の任意の値を取るべきである。しかしながら、比較例に示したような構成では、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅い場合、Ttは、0~Tsの間で数種類の決まった値しか取ることができなくなるという問題があった。
【0059】
(本開示のデジタルオシロスコープ)
本開示は、上述の問題に鑑み、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能なデジタルオシロスコープ及びその制御方法を提供することを目的とする。以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0060】
図11は、一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1の概略構成を示す図である。デジタルオシロスコープ1は、入力回路10と、ADコンバータ(ADC)20と、データ取込処理回路30と、1次メモリ40と、2次データ処理回路50と、2次メモリ60と、表示用データ処理回路70と、表示用メモリ80と、表示器90と、デジタルトリガ回路100とを備える。
【0061】
デジタルオシロスコープ1は、少なくとも、ランダムサンプリング方式で等価サンプルを行うか、又は、時間軸の表示分解能がサンプリング分解能よりも細かくなるように拡大表示するデジタルオシロスコープである。
【0062】
入力回路10は、減衰回路及びプリアンプなどを含む。入力回路10は、アナログ入力信号の振幅がADコンバータ20の入力仕様に対し適切な範囲になるように調整して、振幅調整後のアナログ入力信号をADコンバータ20に出力する。
【0063】
ADコンバータ20は、入力回路10から受け取ったアナログ入力信号をデジタルデータに変換して、データ取込処理回路30及びデジタルトリガ回路100に出力する。以後、ADコンバータ20によって変換されたデジタルデータを、適宜「サンプルデータ」とも称する。
【0064】
データ取込処理回路30は、ADコンバータ20から受け取ったサンプルデータを、所定のサンプルレートで1次メモリ40に書き込む。所定のサンプルレートは、ユーザが設定した時間軸設定に適合するサンプルレートである。
【0065】
データ取込処理回路30は、サンプルデータの取り込みを開始した後、プリトリガ分のサンプルデータの1次メモリ40への書き込みを終了すると、デジタルトリガ回路100のトリガ出力回路130にトリガイネーブル信号を出力する。トリガイネーブル信号を受け取ると、トリガ出力回路130は、トリガ信号を出力することができるようになる。
【0066】
データ取込処理回路30は、デジタルトリガ回路100からトリガ信号を受け取ると、ポストトリガ分のサンプルデータを1次メモリ40に書き込み、その回のデータ取り込み処理を終了する。
【0067】
1次メモリ40は、バッファメモリとして機能するメモリである。
【0068】
2次データ処理回路50は、データ取込処理回路30を介して、1次メモリ40に書き込まれたサンプルデータを読み出す。2次データ処理回路50は、1次メモリ40から読み出したサンプルデータを2次メモリ60に書き込む。また、2次データ処理回路50は、2次メモリ60から読み出したサンプルデータに対して、平均処理、及び複数波形間での加算・減算・乗算などの演算処理を行う。
【0069】
2次データ処理回路50は、時間測定回路150から受け取った真のトリガ点に基づいて、サンプルデータを、例えば等価サンプルとして格納するように並べ替える。
【0070】
2次メモリ60は、バッファメモリとして機能するメモリである。2次メモリ60は、等価サンプルでサンプルデータを格納してよい。
【0071】
なお、デジタルオシロスコープ1は、2次データ処理回路50及び2次メモリ60を備えていなくてもよい。その場合、データ取込処理回路30又は表示用データ処理回路70が、2次データ処理回路50の機能を有してよい。また、1次メモリ40又は表示用メモリ80が2次メモリ60の機能を有してよい。また、2次データ処理回路50が行う処理は、CPUで行ってもよい。
【0072】
表示用データ処理回路70は、2次データ処理回路50を介して、2次メモリ60に書き込まれたサンプルデータを読み出す。表示用データ処理回路70は、表示補間などの処理を行って表示データを作成し、表示用メモリ80に書き込む。表示用データ処理回路70は、表示用メモリ80に書き込まれている表示データを表示器90に出力する。
【0073】
表示用メモリ80は、バッファメモリとして機能するメモリである。
【0074】
表示器90は、表示用データ処理回路70から受け取った表示データに基づいて、波形を表示する。表示器90は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイなどの表示デバイスを含んでよい。
【0075】
デジタルトリガ回路100は、閾値生成回路110と、デジタルコンパレータ120と、トリガ出力回路130と、トリガメモリ140と、時間測定回路150とを備える。デジタルトリガ回路100については、デジタルトリガ回路100を主に示した図12も参照して説明する。
【0076】
閾値生成回路110は、トリガ閾値をランダムに変動させて、ランダム閾値を生成する。ここで、トリガ閾値は、ユーザの操作によって設定される値である。トリガ閾値は、例えば、図示していないファームウェアを介して、ユーザに設定されてよい。閾値生成回路110は、生成したランダム閾値を、デジタルコンパレータ120及び時間測定回路150に出力する。なお、本実施形態においては、閾値生成回路110が、トリガ閾値をランダムに変動させて、ランダム閾値を生成するものとして説明するが、これに限定されない。閾値生成回路110は、トリガ閾値を変動させて、変動閾値を生成すればよい。ここで、変動閾値とは、トリガ閾値を変動させて生成した閾値を意味する。例えば、閾値生成回路110は、トリガ閾値に固定値を順に加算して変動閾値を生成してもよい。
【0077】
閾値生成回路110は、図12に示すように、加算器(特許請求の範囲における第1加算器)111と、乱数生成回路112とを含む。
【0078】
加算器111は、トリガ閾値に基づく値に、乱数生成回路112によって生成された乱数を加算して、トリガ閾値をランダムに変動させ、ランダム閾値を生成する。
【0079】
乱数生成回路112は、乱数を生成する。乱数生成回路112は、波形の取り込み開始又は取り込み終了ごとに乱数を更新する。すなわち、1回の波形の取り込み中は、乱数生成回路112が生成する乱数の値は変わらない。
【0080】
デジタルコンパレータ120は、ADコンバータ20から受け取るサンプルデータと、閾値生成回路110によって生成されたランダム閾値とを比較し、比較結果に応じた2値信号をトリガ出力回路130に出力する。
【0081】
なお、デジタルコンパレータ120は、図11に示す例では、ADコンバータ20がデータ取込処理回路30に出力するサンプルデータそのものをADコンバータ20から受け取っているがこれに限定されない。例えば、デジタルコンパレータ120は、ADコンバータ20が出力するサンプルデータをデジタルフィルタによって処理した後に受け取ってもよい。
【0082】
トリガ出力回路130は、デジタルコンパレータ120から受け取る2値信号に基づいて、トリガ信号を出力する。トリガ出力回路130は、例えば、デジタルコンパレータ120から受け取る信号が「0」から「1」に変わる立ち上がりエッジで、トリガ信号を出力する。トリガ出力回路130は、トリガメモリ140と、時間測定回路150と、データ取込処理回路30とに、トリガ信号を出力する。トリガ信号が出力される時間が、トリガ発生点に対応する。
【0083】
トリガメモリ140は、ADコンバータ20から受け取るサンプルデータを格納する。トリガメモリ140は、例えば、リングバッファ状のメモリであってよい。トリガメモリ140は、少なくともトリガ出力回路130がトリガ信号を出力するまでのレイテンシに相当する分だけは、サンプルデータを保持する。
【0084】
トリガメモリ140へのサンプルデータの格納は、トリガ出力回路130からトリガ信号を受け取った後、真のトリガ点の算出に必要な分のサンプルデータが格納されると停止される。トリガメモリ140は、サンプルデータの格納を停止する際に、真のトリガ点の算出に必要なデータとして以前に取り込んだサンプルデータを上書きする必要がない程度の容量を有する。
【0085】
トリガメモリ140は、トリガ出力回路130からトリガ信号を受け取ると、トリガ発生点の前後のサンプルデータを、時間測定回路150に出力する。
【0086】
トリガメモリ140は、例えば、時間測定回路150が、トリガ発生点の前後2点ずつの合計4点のサンプルデータを通る3次式を使って真のトリガ点を算出する場合、この4点のサンプルデータを時間測定回路150に出力する。
【0087】
時間測定回路150は、トリガメモリ140から受け取ったトリガ発生点の前後のサンプルデータと、閾値生成回路110から受け取ったランダム閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する。時間測定回路150は、真のトリガ点の情報を2次データ処理回路50に出力する。
【0088】
時間測定回路150は、トリガ出力回路130からトリガ信号を受け取ると、トリガメモリ140からトリガ発生点の前後のサンプルデータが出力されるのを待つ。以下、時間測定回路150は、トリガメモリ140からトリガ発生点の前後の4点のサンプルデータを受け取るものとして説明する。
【0089】
時間測定回路150は、トリガメモリ140からトリガ発生点の前後の4点のサンプルデータを受け取ると、4つのサンプルデータを通る3次式と、閾値生成回路110から受け取ったランダム閾値との交点の時間を算出する。この交点の時間が、時間測定回路150が算出する真のトリガ点に相当する。これにより、時間測定回路150は、サンプリング周期より細かい時間精度で、真のトリガ点の時間を算出することができる。
【0090】
あるいは、時間測定回路150は、補間によってサンプルデータの間にさらなるサンプル点を生成し、ランダム閾値と比較することで、真のトリガ点を算出してもよい。
【0091】
図13に、閾値生成回路110がトリガ閾値に乱数を加算して、ランダム閾値を生成する様子の一例を示す。図13に示す例では、サンプルデータは8ビットであり、トリガ閾値もサンプルデータと同じ重みを持つ8ビットである。
【0092】
図13に示す例では、乱数生成回路112は2ビットの乱数を生成する。加算器111は、トリガ閾値の小数部分に乱数生成回路112が生成した2ビットの乱数を加算して、ランダム閾値を生成する。図13に示す例では、乱数を2ビットとして説明したが、乱数のビット数はこれに限定されない。乱数は、任意のビット数であってよい。
【0093】
デジタルコンパレータ120が、サンプルデータ>ランダム閾値で1を出力し、サンプルデータランダム閾値で0を出力するという動作をする場合、ランダム閾値の小数部分は、デジタルコンパレータ120の比較結果には影響を与えない。ランダム閾値の小数部分は、時間測定回路150による真のトリガ点の算出にのみ影響を与える。
【0094】
図14に、ランダム閾値付近において、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合の波形の一例を示す。図14に示す例では、ランダム閾値付近において、入力信号は、1サンプル毎に1LSBずつしか変化しない。
【0095】
図14に示すように、ランダム閾値は、1LSBの間に4レベル存在する可能性がある。従って、トリガ発生点の前後の4つのサンプルデータが全く同じデータの組み合わせであっても、Ttの計算値は、Ts、0.75×Ts、0.5×Ts、0.25×Tsの値を取り得る。すなわち、時間測定回路150は、真のトリガ点として、4つの異なる値を算出し得る。
【0096】
図15に、ADコンバータ20からデータ取込処理回路30に出力されたサンプルデータが、1次メモリ40に格納されている様子の一例を示す。図15は、M回目~M+3回目のデータ取り込み時に、格納されたサンプルデータの様子を示す。
【0097】
図15に示す例においては、時間測定回路150がランダム閾値を用いて真のトリガ点を算出した結果、M回目~M+3回目のTtが、それぞれ、Ts、0.5×Ts、0.75×Ts、0.25×Tsとなった様子を示している。
【0098】
図16に、図15のデータを真のトリガ点を基準として、表示器90に表示させた例を示す。すなわち、図16に示す例では、図15のデータを、トリガ発生点から真のトリガ点までの時間を示すTtに基づいてずらしている。図16において、丸、四角、三角及び星の記号は、それぞれ、図15に示すM回目、M+1回目、M+2回目及びM+3回目の取り込みデータに対応する。
【0099】
表示器90が、一波形ずつ表示するモードの場合は、それぞれの回の取り込みデータのみが表示される。すなわち、丸、四角、三角及び星のいずれか一つのデータのみが表示される。表示器90が、重ね書きモードの場合は、全ての取り込みデータが表示される。図16は、重ね書きモードで表示された例を示したものである。
【0100】
このように、時間測定回路150がランダム閾値を用いて、真のトリガ点を算出することにより、最大でTs分のジッタは観測されるが、Ttが、0~Tsの間で決まった値しか取らなくなることはない。
【0101】
図17に、図15のように取り込んだデータを、等価サンプル用のメモリのTtの時間に対応したスロットに格納した様子を示す。ここで、等価サンプル用のメモリは、例えば、2次メモリ60であってよい。図17は、スロットの時間間隔がサンプリング周期の4分の1の場合を示したものである。図17において、丸、四角、三角及び星の記号は、それぞれ、図15に示すM回目、M+1回目、M+2回目及びM+3回目の取り込みデータに対応する。
【0102】
図17に示すように格納されている値を表示器90に表示させると、図18に示すように表示される。図18において、波形は若干滑らかに見えない状態となるが、特定のスロットのデータしか表示されないようなことにはならない。
【0103】
実際には、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合であっても、ノイズなどの要因により、トリガ発生点付近の4つのサンプルデータの組み合わせのデータが、全く同じ組み合わせとなることは少ない。従って、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合であっても、トリガ発生点付近の4つのサンプルデータの組み合わせは、たいてい数種類は存在する。従って、その数種類のサンプルデータの組み合わせに対し、ランダム閾値が4種類の値をとることで、Ttの取り得る値も増え、Ttは、0~Tsの間の広い範囲の値を取り得る。
【0104】
上述のように、時間測定回路150がランダム閾値を用いて真のトリガ点を算出すると、同じサンプルデータの組み合わせに対して、Ttが複数の値を取り得る。従って、表示器90において、真のトリガ点を基準に波形を描画すると、ずれた時間位置に波形が描画されるため、結果としてトリガジッタを発生し得る。しかしながら、入力信号のスルーレートが極めて遅い場合、トリガジッタはほとんど問題とならない。
【0105】
図19に、ランダム閾値付近において、入力信号のスルーレートが比較的高い場合の波形の一例を示す。図19に示す例においても、図14に示した例と同様に、ランダム閾値は4つの値をとっている。しかしながら、図19に示すような、入力信号のスルーレートが比較的高い場合は、ランダム閾値が4つの値をとっていても、Ttはほとんど変わらない。すなわち、時間測定回路150が算出する真のトリガ点の値は、ランダム閾値が異なる値をとってもほとんど影響を受けない。従って、図19に示すような、入力信号のスルーレートが比較的高い場合は、真のトリガ点基準で波形を描画したときに、トリガジッタとして現れる時間軸方向のずれは極めて小さい。
【0106】
図20のフローチャートを参照して、一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1の動作の一例について説明する。
【0107】
デジタルオシロスコープ1が測定を開始すると、データ取込処理回路30は、最初のデータ取り込みを開始する(ステップS101)。この際、乱数生成回路112は、乱数を更新する。
【0108】
データ取込処理回路30は、プリトリガ分のデータの取り込みが完了しているか判定する(ステップS102)。
【0109】
プリトリガ分のデータの取り込みが完了していない場合(ステップS102のNo)、データ取込処理回路30は、ステップS102の処理を続ける。
【0110】
プリトリガ分のデータの取り込みが完了している場合(ステップS102のYes)、データ取込処理回路30は、デジタルトリガ回路100にトリガイネーブル信号を出力する(ステップS103)。
【0111】
データ取込処理回路30は、トリガが発生しているか否か、すなわち、トリガ出力回路130からトリガ信号を受け取ったかを判定する(ステップS104)。
【0112】
トリガが発生していない場合(ステップS104のNo)、データ取込処理回路30は、ステップS104の処理を続ける。
【0113】
トリガが発生している場合(ステップS104のYes)、ポストトリガ分のデータの取り込みが完了しているか判定する(ステップS105)。
【0114】
ポストトリガ分のデータの取り込みが完了していない場合(ステップS105のNo)、データ取込処理回路30は、ステップS105の処理を続ける。
【0115】
一方、時間測定回路150は、ステップS105と並行して、真のトリガ点の算出処理を行っている(ステップS106)。
【0116】
ポストトリガ分のデータの取り込みが完了し(ステップS105のYes)、かつ、真のトリガ点の算出処理(ステップS106)が完了すると、データ取込処理回路30は、データの取り込みを終了する(ステップS107)。
【0117】
デジタルオシロスコープ1は、データの取り込み回数が満了したか判定する(ステップS108)。データの取り込み回数が満了していない場合(ステップS108のNo)、データ取込処理回路30は、ステップS101に戻り、次のデータ取り込みを開始する。データの取り込み回数が満了している場合(ステップS108のYes)、デジタルオシロスコープ1は、測定を終了する。
【0118】
乱数生成回路112は、ステップS101のデータ取込開始の際に乱数を更新するとして説明したが、ステップS107のデータ取込終了の際に乱数を更新してもよい。このように、乱数生成回路112が、データ取り込み開始時、又はデータ取り込み終了時に乱数を更新することにより、データの取り込み中及び真のトリガの算出中には乱数は変わらない。すなわち、データの取り込み中及び真のトリガの算出中にはランダム閾値は変わらない。
【0119】
ステップS106による真のトリガ点の算出処理は、ステップS105におけるポストトリガ分のデータの取り込みと並行して行われるとして説明したが、ステップS106の処理は、ステップS105の処理が終わってから実行してもよい。
【0120】
以上のような一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1によれば、入力信号のスルーレートが遅い場合に、算出された真のトリガ点が特定の値に偏らないようにすることが可能である。より具体的には、デジタルオシロスコープ1では、閾値生成回路110は、ユーザに設定されたトリガ閾値をランダムに変動させてランダム閾値を生成し、時間測定回路150は、トリガ信号が出力された前後のタイミングのサンプルデータと、ランダム閾値とに基づいて、真のトリガ点を算出する。従って、トリガ閾値付近において入力信号のスルーレートが遅く、トリガ信号が出力された前後のタイミングのサンプルデータが同じ値の場合であっても、算出された真のトリガ点が特定の値に偏ることがない。そのため、表示器90が、サンプル点のみドットで表示するような表示方法で、重ね書きモードで波形を表示したとしても、限られた位置にしかサンプル点が存在しなくなることがなくなる。その結果、一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1によれば、波形がつながっているように見えるため、ユーザは表示波形を見やすくなる。また、一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1によれば、時間軸系の自動測定(例えば、周波数又は周期の自動測定など)をすることができる。また、一実施形態に係るデジタルオシロスコープ1によれば、ランダムサンプリング方式の等価サンプルにおいて、限られたスロットにしかデータを格納できなくなり、スロットが埋まらなくなることを防ぐことができる。
【0121】
(ランダム閾値の生成の他の例)
閾値生成回路110は、図13に示した方法とは異なる方法で、ランダム閾値を生成してもよい。図21図24を参照して、閾値生成回路110によるランダム閾値の他の生成方法について説明する。
【0122】
図21に示す例では、サンプルデータは8ビットであり、トリガ閾値はサンプルデータよりも細かい分解能である10ビットである。加算器111は、サンプルデータの1LSBよりも下の桁、すなわちトリガ閾値の下位2ビットを切り捨てた上で、乱数生成回路112が生成した2ビットの乱数を加算して、ランダム閾値を生成する。
【0123】
図21に示す方法でランダム閾値を生成した場合、デジタルコンパレータ120が出力する2値信号は、乱数の影響を受けない。
【0124】
図22に示す例では、サンプルデータは8ビットであり、トリガ閾値はサンプルデータよりも細かい分解能である10ビットである。加算器111は、サンプルデータの1LSBよりも下の桁、すなわちトリガ閾値の下位2ビットに、乱数生成回路112が生成した2ビットの乱数を加算して、ランダム閾値を生成する。
【0125】
図22に示す方法でランダム閾値を生成した場合、デジタルコンパレータ120が出力する2値信号は、乱数の影響を受けて変動する。
【0126】
図23に示す例では、サンプルデータは10ビットであり、トリガ閾値はサンプルデータと同じ分解能である10ビットである。加算器111は、サンプルデータの下位2ビットを切り捨てた上で、乱数生成回路112が生成した2ビットの乱数を加算して、ランダム閾値を生成する。
【0127】
図23に示す方法でランダム閾値を生成した場合、デジタルコンパレータ120が出力する2値信号は、乱数の影響を受けて変動する。
【0128】
図24に示す例では、サンプルデータは10ビットであり、トリガ閾値はサンプルデータと同じ分解能である10ビットである。加算器111は、サンプルデータの下位2ビットに、乱数生成回路112が生成した2ビットの乱数を加算して、ランダム閾値を生成する。
【0129】
図24に示す方法でランダム閾値を生成した場合、デジタルコンパレータ120が出力する2値信号は、乱数の影響を受けて変動する。
【0130】
図21図24に示す例では、乱数を2ビットとして説明したが、乱数のビット数はこれに限定されない。乱数は、任意のビット数であってよい。
【0131】
(第1変形例)
図25に、第1変形例に係るデジタルトリガ回路200の概略構成を示す。第1変形例に係るデジタルトリガ回路200については、図11及び図12などを参照して説明したデジタルトリガ回路100との相違点について主に説明し、類似する内容については説明を省略する。
【0132】
デジタルトリガ回路200は、閾値生成回路210と、デジタルコンパレータ220と、トリガ出力回路230と、トリガメモリ240と、時間測定回路250と、ラッチ回路260とを備える。閾値生成回路210は、加算器211と、乱数生成回路212とを含む。
【0133】
乱数生成回路212は、トリガ出力回路230からトリガ信号を受け取ると、次のデータ取り込みが開始されるまでの任意のタイミングで乱数を更新する。
【0134】
ラッチ回路260は、トリガ出力回路230からトリガ信号を受け取ると、その時点で閾値生成回路210から入力されているランダム閾値をラッチして保持する。ラッチ回路260は、ラッチして保持しているランダム閾値を時間測定回路250に出力する。
【0135】
第1変形例に係るデジタルトリガ回路200においては、時間測定回路250は、トリガ出力回路230によってトリガ信号が出力された時点のランダム閾値を用いて、真のトリガ点を算出する。そのため、トリガ出力回路230によってトリガ信号が出力された後に乱数が更新されても、真のトリガ点の算出結果は影響を受けない。
【0136】
図26のフローチャートを参照して、第1変形例に係るデジタルトリガ回路200の動作の一例について説明する。図26のフローチャートの説明においては、図20のフローチャートと共通する部分については説明を省略し、相違点について主に説明する。
【0137】
トリガが発生している場合(ステップS204のYes)、ラッチ回路260は、その時点で閾値生成回路210から入力されているランダム閾値をラッチして保持する。また、乱数生成回路212は、トリガ出力回路230からトリガ信号を受け取ると、次のデータ取り込みが開始されるまでの任意のタイミングで乱数を更新する(ステップS205)。このように、第1変形例に係るデジタルトリガ回路200によれば、乱数生成回路212は、トリガ発生直後に、次のデータ取り込みの際に用いる乱数を生成してもよい。これにより、乱数生成回路212による乱数の生成に時間がかかる場合であっても、データの取り込みと取り込みとの間のデッドタイムを低減することができる。
【0138】
時間測定回路250は、ステップS206と並行して、真のトリガ点の算出処理を行っている(ステップS207)。この際、時間測定回路250は、ステップS205においてラッチ回路260がラッチしたランダム閾値を用いて、真のトリガ点を算出する。
【0139】
図26に示すフローチャートにおいては、ステップS201のデータ取込開始の際、及び、ステップS208のデータ取込終了の際には、乱数生成回路212は、乱数を更新しない。
【0140】
(第2変形例)
図27に、第2変形例に係るデジタルトリガ回路300の概略構成を示す。第2変形例に係るデジタルトリガ回路300については、図11及び図12などを参照して説明したデジタルトリガ回路100との相違点について主に説明し、類似する内容については説明を省略する。
【0141】
デジタルトリガ回路300は、閾値生成回路310と、デジタルコンパレータ320と、トリガ出力回路330と、トリガメモリ340と、時間測定回路350と、加算器(特許請求の範囲における第2加算器)361と、乱数生成回路362とを備える。閾値生成回路310は、加算器311と、乱数生成回路312とを含む。
【0142】
第2変形例に係るデジタルトリガ回路300は、時間測定回路350が算出した真のトリガ点に対して乱数を加算する。
【0143】
加算器361は、時間測定回路350から受け取った真のトリガ点の値に、乱数生成回路362によって生成された乱数を加算して、真のトリガ点の値をランダムに変動させる。
【0144】
乱数生成回路362は、乱数を生成する。乱数生成回路362が生成する乱数は、微少な乱数であることが望ましい。乱数生成回路362が生成する乱数を微少な乱数とすることで、ジッタを低減することができる。
【0145】
例えば、表示器90で表示する波形の拡大率が高い場合、及び、等価サンプル時にスロット数が多い場合などには、Ttに求められる時間分解能が細かくなる。この場合、時間測定回路350が算出した真のトリガ点に対して乱数を加算することにより、真のトリガ点をさらにばらつかせることができる。その結果、拡大率が高い場合であっても、ユーザにとって表示波形が見やすくなる。
【0146】
(第3変形例)
図28に、第3変形例に係るデジタルトリガ回路400の概略構成を示す。第3変形例に係るデジタルトリガ回路400については、第2変形例に係るデジタルトリガ回路300との相違点について主に説明し、類似する内容については説明を省略する。
【0147】
デジタルトリガ回路400は、閾値生成回路410と、デジタルコンパレータ420と、トリガ出力回路430と、トリガメモリ440と、時間測定回路450と、加算器461とを備える。閾値生成回路410は、加算器411と、乱数生成回路412とを含む。
【0148】
第3変形例に係るデジタルトリガ回路400は、時間測定回路450から受け取った真のトリガ点の値に、乱数を加算する加算器461が、閾値生成回路410が含む乱数生成回路412から乱数を受け取る点で、第2変形例に係るデジタルトリガ回路300と相違する。
【0149】
このように、乱数生成回路412を、加算器411及び加算器461で共用することによって、デジタルトリガ回路400の回路規模を低減することができる。
【0150】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。従って、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含される。
【0151】
例えば、上述した各構成部の配置及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の配置及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0152】
1 デジタルオシロスコープ
10 入力回路
20 ADコンバータ(ADC)
30 データ取込処理回路
40 1次メモリ
50 2次データ処理回路
60 2次メモリ
70 表示用データ処理回路
80 表示用メモリ
90 表示器
100、200、300、400 デジタルトリガ回路
110、210、310、410 閾値生成回路
111、211、311、411 加算器(第1加算器)
112、212、312、412 乱数生成回路
120、220、320、420 デジタルコンパレータ
130、230、330、430 トリガ出力回路
140、240、340、440 トリガメモリ
150、250、350、450 時間測定回路
260 ラッチ回路
361、461 加算器(第2加算器)
362 乱数生成回路
600 デジタルトリガ回路
610 デジタルコンパレータ
620 トリガ出力回路
630 トリガメモリ
640 時間測定回路
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