(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】オープン巻線モータ駆動装置及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2018154035
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】前川 佐理
(72)【発明者】
【氏名】牛山 隆文
(72)【発明者】
【氏名】久保井 麻梨子
(72)【発明者】
【氏名】金森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭一
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125557(WO,A1)
【文献】特開2009-273348(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129338(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090350(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0028341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの出力端子を備えるオープン巻線構造のモータが備える6つの出力端子のうち3つの出力端子に接続される1次側インバータと、
前記モータの出力端子の残り3つの出力端子に接続される2次側インバータと、
PWM制御における前記1次側及び2次側インバータそれぞれの線間デューティ比に基づいて、前記モータに通電する電流及び回転速度を制御する制御部と、
前記モータに通電される電流を検出する電流検出器とを備え、
前記制御部は、前記1次側,2次側インバータそれぞれの線間のデューティに基づきモータの電流,回転速度を制御すると共に、前記1次側,2次側インバータの間において3相を同方向に流れる零軸電流を抑制する零軸電流抑制部を有し、
前記零軸電流抑制部は、モータの3相に等しく作用する零軸電圧を発生させず且つ前記モータに印加する電圧を発生させる第1スイッチングパターンを続けて出力する
期間と、前記第1スイッチングパターンと、零軸電圧を発生させず且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させない第2スイッチングパターンとを交互に出力する
期間との間に、
零軸電圧を発生させ、且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させる第3スイッチングパターンを挿入するオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項2】
前記零軸電流抑制部は、
負極性の零軸電圧を発生させる際には、前記第3スイッチングパターンとして、前記2次側インバータを構成する
上アームのスイッチング素子のオン数が、前記1次側インバータを構成する
上アームのスイッチング素子のオン数よりも多くなるスイッチングパターンのみを選択し、
正極性の零軸電圧を発生させる際には、前記第3スイッチングパターンとして、前記1次側インバータを構成する
上アームのスイッチング素子のオン数が、前記2次側インバータを構成する
上アームのスイッチング素子のオン数よりも多くなるスイッチングパターンのみを選択する請求項1記載のオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項3】
前記零軸電流抑制部は、前記1次側及び2次側インバータのオンオフパターンの組合せである64の電圧ベクトルからなる空間電圧ベクトルについて、
前記第2スイッチングパターンが2つずつ位置するポイントを中心とし、前記第1スイッチングパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを頂点として6つのセクタに分割し、各セクタに応じて用いる第1及び第3スイッチングパターンを選択する請求項2記載のオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項4】
3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの巻線端子を備えるオープン巻線構造のモータと、
請求項1から3の何れか一項に記載のオープン巻線モータ駆動装置とを備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、オープン巻線構造のモータを駆動する装置,及びその装置を備えてなる冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば永久磁石同期モータ等の交流モータを駆動する際には、インバータを用いて直流電源を3相交流電力に変換する必要がある。しかし、モータが大容量化するのに伴いインバータに流れる電流も増加するので、インバータを構成するパワーデバイスに発熱等の問題が発生する。
【0003】
この問題に対して、非特許文献1や特許文献1等では、3相モータの巻線をスター状に結線することなくオープン状態として、3相巻線の両端にそれぞれインバータを接続して駆動するシステムが提案されている。このシステムによれば、2台のインバータを用いることで、3相巻線の両端に印加できる電圧が2倍程度に拡張できるため、モータをより高速に駆動できる。または、巻線の巻数を増やすことで、少ない電流で高いトルクを出力するモータを駆動できる。
【0004】
オープン巻線モータの駆動システムは、その回路構成により
図13から
図15に示す3つの形態をとることが多い。
図13に示す構成は、互いに絶縁された直流電源を2つ設ける必要があるが、インバータの直流電圧を2倍にでき、3相の巻線に共通に流れる零軸電流が原理上は流れないという利点がある。
図14に示す構成は、2台のインバータが直流リンク電圧を共有している。この構成は、電源は1つで良いが、零軸電流が互いのインバータの直流部を介して流れる問題がある。
図15に示す構成は、一方のインバータの電源をコンデンサで構成しているので、やはり電源は1つで良い。しかし、前記コンデンサを充電するために無効電力の制御が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】2002年5月,電気学会D部門論文誌Vol.122,No.5,p430-438,「オープン巻線交流電動機と2台の空間電圧ベクトル変調インバータを用いた高効率低騒音電動機駆動方式」,川畑良尚,那須基志,川畑隆夫
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第WO2016/125557号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記3つの従来構成のうち最も低コストに実現できるのは、部品や電源の増加が無い
図14の構成であるが、上述したように、モータの3相に共通に流れる零軸電流が発生する問題がある。零軸電流は、一般的なスター結線のモータでは流れる経路が無いが、直流リンク電圧を共有する構成ではモータの3相を同方向に流れ、上下何れかの直流リンク部を介して還流する経路が形成されるため発生する。
【0008】
零軸電流は、モータの相電流の基本波周波数に対して3倍の周波数で発生するため、流れてもモータの有効なトルクには寄与せず、インバータやモータの銅損を増加させることになる。加えて、モータの誘起電圧に3倍周波数成分が含まれている場合には、零軸電流が流れるとトルクリップルを引き起こすため、騒音が増加することも問題となる。
そこで、零軸電流の発生を抑制できるオープン巻線モータ駆動装置,及びその装置を備えてなる冷凍サイクル装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のオープン巻線モータ駆動装置は、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの出力端子を備えるオープン巻線構造のモータが備える6つの出力端子のうち3つの出力端子に接続される1次側インバータと、
前記モータの出力端子の残り3つの出力端子に接続される2次側インバータと、
PWM制御における前記1次側及び2次側インバータそれぞれの線間デューティ比に基づいて、前記モータに通電する電流及び回転速度を制御する制御部と、
前記モータに通電される電流を検出する電流検出器とを備え、
前記制御部は、前記1次側,2次側インバータそれぞれの線間のデューティに基づき各モータの電流,回転速度を制御すると共に、前記1次側,2次側インバータの間において3相を同方向に流れる零軸電流を抑制する零軸電流抑制部を有し、
前記零軸電流抑制部は、モータの3相に等しく作用する零軸電圧を発生させず且つ前記モータに印加する電圧を発生させる第1スイッチングパターンを続けて出力する期間と、前記第1スイッチングパターンと、零軸電圧を発生させず且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させない第2スイッチングパターンとを交互に出力する期間との間に、
零軸電圧を発生させ、且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させる第3スイッチングパターンを挿入する。
また、実施形態の冷凍サイクル装置は、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの巻線端子を備えるオープン巻線構造のモータと、
実施形態のオープン巻線モータ駆動装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態であり、モータ駆動システムの回路構成を示す図
【
図5】1次側及び2次側インバータのスイッチングに伴い発生する零軸電圧の変化を示す図
【
図6】一般的な3相モータを駆動する構成に対応した空間電圧ベクトルを示す図
【
図7】オープン巻線モータを駆動する構成に対応した空間電圧ベクトルを示す図
【
図8】空間電圧ベクトルを6つのセクタに分けて、各セクタで使用する第1及び第2ベクトルパターンを示す図
【
図9】零軸電流を減少させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図10】零軸電流を増加させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図11】dq0/αβ0変換部の構成を示す機能ブロック図
【
図13】従来のモータ駆動システムの回路構成を示す図(その1)
【
図14】従来のモータ駆動システムの回路構成を示す図(その2)
【
図15】従来のモータ駆動システムの回路構成を示す図(その3)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態について
図1から
図12を参照して説明する。
図1は、本実施形態のモータ駆動システムの回路構成を示す図である。モータMは、3相の永久磁石同期モータや誘導機などが想定されるが、本実施形態では永久磁石同期モータとする。モータMの3相巻線は、それぞれが互いに結線されず両端子がオープン状態となっている。つまり、モータMは6つの巻線端子Ua,Va,Wa,Ub,Vb,Wbを備えている。
【0012】
1次側インバータ1及び2次側インバータ2はそれぞれ、スイッチング素子であるNチャネルMOSFET3を3相ブリッジ接続して構成されており、これらは直流電源4に並列に接続されている。直流電源4は、交流電源を直流に変換したものでも良い。インバータ1の各相出力端子はモータMの巻線端子Ua,Va,Waにそれぞれ接続され、インバータ2の各相出力端子はモータMの巻線端子Ub,Vb,Wbにそれぞれ接続されている。
【0013】
位置センサ6は、モータMのロータ回転位置や回転速度を検出するセンサであり、電流センサ7(U,V,W)は、モータMの各相電流Iu,Iv,Iwを検出するセンサであり、電流検出器に相当する。電圧センサ8は、直流電源4の電圧VDCを検出する。
【0014】
制御装置11には、モータを駆動するシステムにおける上位の制御装置から速度指令値ωRefが与えられ、速度指令値ωRefに検出したモータ速度ωが一致するように制御を行う。制御装置11は、電流センサ7が検出した各相電流Iu,Iv,Iwと、電圧センサ8が検出した直流電圧VDCとに基づいて、インバータ1及び2を構成する各FET3のゲートに与えるスイッチング信号を生成する。制御装置11は制御部に相当する。
【0015】
電流検出・座標変換部12は、検出した各相電流Iu,Iv,Iwを、ベクトル制御に用いるd,q及び0の各軸座標の電流Id,Iq,I0に(1)式により変換する。
【0016】
【0017】
速度・位置検出部13は、位置センサ6が検出した信号からモータ速度ωとロータ回転位置θを検出する。回転位置θは、電流検出・座標変換部12及びdq0/3相変換部17に入力される。また、速度・位置検出部13は、モータMの電圧・電流から速度及び位置を推定する構成でも良い。速度制御部14は、入力された速度指令ωRefと速度ωとから、例えば両者の差をPI演算することでq軸電流指令IqRefを生成して出力する。d軸電流指令生成部15は、弱め界磁制御のためのd軸電流指令値を、直流電圧VDCとdq軸の電圧振幅Vdqとから、例えば同様に両者の差をPI演算することで生成して出力する。
【0018】
電流制御部16は、入力されるd,q,0軸の電流指令IdRef,IqRef,I0Refと検出した電流Id,Iq,I0とから、d,q,0軸電圧指令Vq,Vd,V0を生成して出力する。dq0/αβ0変換部17は、dq軸電圧指令Vq,Vd,V0を、αβ軸電圧Vα,Vβに(2)式により変換し、0軸電圧指令V0はそのまま出力する。
【0019】
【0020】
空間ベクトル変調部18は、αβ軸電圧Vα,Vβと0軸電圧V0とから空間ベクトル演算を行い、インバータ1の各相デューティDu1,Dv1,Dw1と、インバータ2の各相デューティDu2,Dv2,Dw2を生成し、PWM信号生成部19に入力する。PWM信号生成部19は、入力された各相デューティよりインバータ1及び2を構成する各FET3のゲートに与えるスイッチング信号,PWM信号U1±,V1±,W1±,U2±,V2±,W2±を生成して出力する。
【0021】
図12は、本実施形態のモータ駆動システムを適用した空気調和機30の構成を示す。ヒートポンプシステム31を構成する圧縮機32は、圧縮部33とモータMを同一の鉄製密閉容器35内に収容して構成され、モータMのロータシャフトが圧縮部33に連結されている。そして、圧縮機32、四方弁36、室内側熱交換器37、減圧装置38、室外側熱交換器39は、熱伝達媒体流路たるパイプにより閉ループを構成するように接続されている。尚、圧縮機32は、例えばロータリ型の圧縮機である。空気調和機30は、上記のヒートポンプシステム31を有して構成されている。
【0022】
暖房時には、四方弁36は実線で示す状態にあり、圧縮機32の圧縮部33で圧縮された高温冷媒は、四方弁36から室内側熱交換器37に供給されて凝縮し、その後、減圧装置38で減圧され、低温となって室外側熱交換器39に流れ、ここで蒸発して圧縮機32へと戻る。一方、冷房時には、四方弁36は破線で示す状態に切り替えられる。このため、圧縮機32の圧縮部33で圧縮された高温冷媒は、四方弁6から室外側熱交換器39に供給されて凝縮し、その後、減圧装置38で減圧され、低温となって室内側熱交換器37に流れ、ここで蒸発して圧縮機32へと戻る。そして、室内側、室外側の各熱交換器37,39には、それぞれファン40,41により送風が行われ、その送風によって各熱交換器37,39と室内空気、室外空気の熱交換が効率良く行われるように構成されている。
【0023】
次に本実施形態の作用について
図2から
図11を参照して説明する。オープン巻線モータMを動作させるには、2つのインバータ1及び2により各端子Ua,Va,Wa,Ub,Vb,Wbに電圧を印加する。速度制御及び電流制御の結果得られた電圧は、dq0/αβ0変換部17,PWM信号生成部19によりインバータ1及び2への電圧指令に分割される。インバータ1の各相デューティD
u1,D
v1,D
w1と、インバータ2の各相デューティD
u2,D
v2,D
w2とは、互いに180°の位相差を有するPWM信号として通電される。このようにして、2つのインバータ1及び2でモータMに逆位相の電圧を印加することで1相当たりの電圧振幅を増加でき、より高速で回転させることができる。
【0024】
しかし、本実施形態のようにインバータ1及び2が直流リンク部を共有する構成では、3相を同方向に流れる零軸電流が課題となる。零軸電流は、モータMに通電される相電流の基本波周波数に対して3倍の周波数成分で流れる低周波の電流と、インバータ1,2のスイッチングに同期して流れるキャリア周波数成分の電流とに分かれる。
図2は、零軸電流について抑制制御をしていない場合に流れるオープン巻線モータの3相電流と、零軸電流とを示している。零軸電流I0は、相電流の基本波周波数の3倍成分で脈動し、この電流が3相に同じように流れるため、各相電流Iu,Iv,Iwの歪みが大きくなっている。
【0025】
図3は、
図2の時間軸を拡大して示した電流波形である。各相電流Iu,Iv,Iw及び零軸電流I0に同じタイミングで変化するリップルが確認できるが、これがキャリア周波数成分の零軸電流である。本実施形態では、基本周波数の3倍成分,キャリア周波数成分のそれぞれに対応した抑制を行うことで、零軸電流を全周波数帯に亘って抑制する。
【0026】
先ず、基本周波数の3倍成分で流れる零軸電流の抑制について説明する。(3)式は,オープン巻線モータのdq0軸電圧と電流の関係式である。
【0027】
【0028】
ここで,dq軸電流Id,Iqが流れると、(3)式に示す対角項の要素の影響により零軸電圧V0が発生することが分かる。これがdq軸から0軸への干渉であり、零軸電圧V0が発生した結果として零軸電流I0が流れてしまう。
【0029】
図4は、電流制御部1
6の詳細構成を示しており、dq軸電流制御部20及び零軸電流抑制制御部21を備えている。dq軸電流制御部20は、減算器22d,22qによりd軸電流指令I
dref,q軸電流指令I
qrefと、d軸電流Id,q軸電流Iqとの差分をとり、それらの差分に対してPI制御部23d,23qによりPI制御演算を行う。その演算結果は、d軸電圧Vd,q軸電圧Vqとして出力される。
【0030】
零軸電流抑制制御部21は、P制御部21A,共振制御部21B及び非干渉制御部21Cを備えている。P制御部21Aでは、零軸電流指令I0Refと検出電流I0との差分値に比例ゲインKp0を乗じる。共振制御部21Bは、特定の周波数,ここでは相電流の基本波周波数ωの3倍である3ωに対する追従性を向上させるように構成されている。前記差分値に共振ゲインKrを乗じ、減算器24により積分器25の積分結果との差をとり積分器26に入力する。
【0031】
積分器26の積分結果は加算器27及び乗算器28に入力される。乗算器28では、周波数3ωとの積がとられ、その結果が積分器25に入力される。加算器27では、前記差分値に比例ゲインKp0を乗じた結果が加算されて、減算器29に入力される。
【0032】
非干渉制御部21Cは、dq軸から零軸への干渉成分を抑制するため、dq軸の電流指令値Idref,Iqrefと、モータ定数Ld,Lq,周波数3ω,磁極位置θとから、(4)式により干渉抑制電圧VOFFを演算する。尚、Aは調整係数である。
【0033】
【0034】
そして、加算器29において、干渉抑制電圧VOFFと加算器27の加算結果とが加算され、零相電圧V0が出力される。
【0035】
次に、キャリア周波数成分の零軸電流を抑制する制御について説明する。先ず、キャリア成分の零軸電流が発生する原理について説明する。
図5は,インバータ1の3相上アームのスイッチング信号U1+,V1+,W1+と、インバータ2の3相上アームのスイッチング信号U2+, V2+, W2+と、3相電流Iu,Iv,Iw及び零軸電流I0とを示している。さらに,このスイッチングで発生する零軸電圧のリプルV0_ripple及びその大きさを下方に示している。
【0036】
V0_rippleは、(5)式のようにインバータ1の3相電圧の平均から、インバータ2の3相電圧の平均を差し引くことで求まる。尚、各相電圧Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2は、FET3がオン状態であればVDC,オフ状態であれば0となる。
【0037】
【0038】
V0_rippleの波形はスイッチング状態に応じて正負に変動しており、正側に発生している期間で零軸電流I0は増加し、負側に発生している期間で零軸電流I0が減少している。したがって、V0_rippleがゼロになれば零軸電流I0のリップル,すなわちキャリア周波数成分の変動も無くなる。また、V0_rippleの発生状態はインバータ1,2のFET3がオンしている相数に依存しており、インバータ1,2のオン相数が異なる場合にその差に応じて正負に発生している。つまり、インバータ1及び2のオン相数を揃えることができれば、V0_rippleが発生しなくなると考えられる。
【0039】
ここで、上述した目的を達するためのインバータ1,2のスイッチングパターンを検討するため、空間電圧ベクトルを検討する。
図6は,一般的なモータを3相インバータで通電する場合の空間ベクトルを示している。例えばV1(100)はU相上アームがオン,V,W相の上アームはオフという状態を示しており、V0~V7の8つベクトルが存在する。
【0040】
これに対して
図7は、オープン巻線モータの空間電圧ベクトルを表しており、インバータが2つあるのでスイッチングパターンは8×8=64パターンとなる。便宜上ベクトル表記のVは省いている。例えば、インバータ1がV1,インバータ2がV4となる組み合わせは「14」と表記している。オープン巻線モータの空間ベクトルでは、ある指令電圧を出力するための電圧ベクトルのパターンが無数にある。例えば、
図7中に矢印で示すベクトルを出力するためには、21,30,45,76の何れかの電圧ベクトルの通電時間と、32,47,56,01の何れかの電圧ベクトルの通電時間とを調整すれば出力できる。
【0041】
ここで、零軸電圧と空間ベクトルとの関係を考えると、前記64パターンのうち,モータMに印加する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないベクトルパターン,つまりオン相数が同じでオンする相の少なくとも2つが不一致となるものは、15,24,26,35,31,46,42,51,53,62,64,13の12パターン存在する。これらのパターンを空間ベクトルで表したものが
図8である。
【0042】
図8では、各電圧ベクトルに対応するPWM波形も合わせて示している。上記12のパターンを2つずつのペアとし頂点に配置して正六角形を描き、6つのセクタに分ける。例えば
図8中に矢印で示すセクタ4に属するベクトルを出力するには、電圧ベクトルV42,V31それぞれの通電時間を調整する。各電圧ベクトルのPWM波形は、
V42:インバータ1(U,V,W)=(オフ,オン,オン)
インバータ2(U,V,W)=(オン,オン,オフ)
V31:インバータ1(U,V,W)=(オフ,オン,オフ)
インバータ2(U,V,W)=(オン,オフ,オフ)
である。これらに、インバータ1,2の全相がオンとなるV77,全相がオフとなるV00を加える。各ベクトルのPWM波形から分かるように、インバータ1,2のオン相数が完全に一致するので、零軸電圧V0が発生しない。つまり、このPWMスイッチングパターンで通電すれば、
図4,5に示した零軸電流のキャリア成分のリップルを抑制できる。
【0043】
しかし、零軸電圧V0を発生させない空間電圧ベクトルパターンのみを用いると、(3)式について述べた、干渉により流れる零軸電流を抑制するための制御で出力する零軸電圧V0を生成できない。そこで、本実施形態では、下記の第1~第3ベクトルパターンを用いる。第1~第3ベクトルパターンは、第1~第3スイッチングパターンに相当する。
<第1ベクトルパターン>
モータMに印加する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないパターン。
<第2ベクトルパターン>
モータMの相間に作用する電圧を発生させず、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないパターン。
<第3ベクトルパターン>
モータMの相間に作用する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生するパターン。
【0044】
そして、第1ベクトルパターンを続けて出力する間と、第1ベクトルパターン,第2ベクトルパターンを出力する間とに、それぞれ第3ベクトルパターンを挿入する。これにより、平均的に零軸電圧V0を制御する
【0045】
V77,V00は、全セクタにおける第2ベクトルパターンであり、セクタ4においては、V42,V31が第1ベクトルパターンとなる。そして、
図9に示すように、セクタ4において零軸電流I0を減少させる際には、
(1)V77,V42を出力する間にV47を挿入する。
(2)V42,V31を出力する間にV32を挿入する。
(3)V31,V00を出力する間にV01を挿入する。
(1)では、(111)→(011)→(011)
(111) (111) (110)
(2)では、(011)→(010)→(010)
(110) (110) (100)
(3)では、(110)→(000)→(000)
(100) (100) (000)
のようにスイッチングパターンが変化する。第3ベクトルパターンであるV47,V32,V01は何れも、インバータ2のFET3がオンする相数が、インバータ1よりも1つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を減少させる。また、ベクトルパターンが切り替わる毎に、トータルでのオン相数がデクリメントされている。
【0046】
また、
図10に示すように、セクタ4において零軸電流I0を増加させる際には、
(1)V77,V42を出力する間にV72を挿入する。
(2)V42,V31を出力する間にV41を挿入する。
(3)V31,V00を出力する間にV30を挿入する。
(1)では、(111)→(111)→(011)
(111) (110) (110)
(2)では、(011)→(011)→(010)
(110) (100) (100)
(3)では、(110)→(010)→(000)
(100) (000) (000)
のようにスイッチングパターンが変化する。この場合の第3ベクトルパターンであるV72,V41,V30は何れも、インバータ1のFET3がオンする相数が、インバータ2よりも1つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を増加させる。また、
図9のケースと同様に、ベクトルパターンが切り替わる毎にトータルでのオン相数がデクリメントされている。
【0047】
このように制御することで、零軸電圧V0_rippleは,連続的に正側,負側のみにしか発生しない。したがって、
図5に示したように、V0_rippleが正,負に変動することに伴う零軸電流I0のリップルが発生せず、3倍周波数成分を抑制できる。
【0048】
図11は、上述した制御原理に基づく空間電圧ベクトル変調部18の内部構成を示しており、空間ベクトル演算部18A及び零軸電圧合成部18Bを備えている。入力された電圧指令Vα,Vβは、空間ベクトル演算部18Aで零軸電圧を発生させない空間電圧ベクトルパターンで2つの電圧ベクトルの大きさを決定する。Vα,Vβの大きさに従い6つのうちどのセクタに属すかを決定し、セクタに応じて第1ベクトルパターンとなる2つの電圧ベクトルを選択する。セクタ4であればV42,V31であり、V77,V00の大きさも含めて、電圧指令Vα,Vβより演算する。
【0049】
演算された各ベクトルの電圧値及び零軸電圧V0は、直流電圧V
DCと共に零軸電圧合成部18Bに入力される。零軸電圧合成部18Bでは、
図9,
図10で示したように、セクタ及び零軸電流I0の増減に応じて、第3ベクトルパターンとなる電圧ベクトルを選択して挿入する。
図11に示すように、セクタ1の場合には、第1ベクトルパターンはV24,V13であり、零軸電流を減少させる場合に挿入する第3ベクトルパターンはV27,V14,V03、零軸電流を増加させる場合に挿入する第3ベクトルパターンはV74,V23,V10となる。
【0050】
尚、
図9,
図10では、第3ベクトルパターンを3箇所に挿入しているが、この3区間の電圧ベクトルの合計値は、零軸電圧抑制制御部21より出力される零軸電圧V0に一致させる必要がある。したがって、各区間の電圧ベクトルの大きさはV0/3にする。
以上の演算によりインバータ1,2それぞれの3相電圧の大きさが得られるため、直流電圧V
DCで除して各相のデューティDu1,Dv1,Dw1,Du2,Dv2,Dw2が決定されて出力される。
【0051】
以上のように本実施形態によれば、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの出力端子Ua~Wbを備えるオープン巻線構造のモータMを、1次側インバータ1及び2次側インバータ2により駆動する構成において、制御装置11は、インバータ1,2それぞれの線間のデューティに基づきモータMの電流,回転速度を制御すると共に、インバータ1,2の間において3相を同方向に流れる零軸電流を抑制する零軸電流抑制制御部21を備える。
零軸電流抑制制御部21は、モータMの3相に等しく作用する零軸電圧を発生させず且つモータMに印加する電圧を発生させる第1ベクトルパターンを続けて出力する間と、第1ベクトルパターンと、零軸電圧を発生させず且つモータMの相間に作用する電圧を発生させない第2ベクトルパターンとを交互に出力する間に、零軸電圧を発生させ、且つモータMの相間に作用する電圧を発生させる第3ベクトルパターンを挿入する。
【0052】
これにより、相電流の基本波周波数の3倍成分で流れる低周波の零軸電流と、インバータ1,2のスイッチングに同期して流れるキャリア成分の零軸電流との双方を抑制でき、インバータ1及び2並びにモータMの低電流化・低損失化を実現できる。
【0053】
また、零軸電流抑制制御部21は、負極性の零軸電圧を発生させる際には、第3ベクトルパターンとして、インバータ2を構成するFET3のオン数が、インバータ1を構成するFET3のオン数よりも多くなるベクトルパターンのみを選択し、正極性の零軸電圧を発生させる際には、第3ベクトルパターンとして、インバータ1を構成するFET3のオン数が、インバータ2を構成するFET3のオン数よりも多くなるベクトルパターンのみを選択する。これにより、零軸電流の増減を制御して確実に抑制を図ることができる。
【0054】
さらに、零軸電流抑制制御部21は、インバータ1及び2のオンオフパターンの組合せである64の電圧ベクトルからなる空間電圧ベクトルについて、第2ベクトルパターンが2つずつ位置するポイントを中心とし、第1ベクトルパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを頂点として6つのセクタに分割し、各セクタに応じて用いる第1及び第3ベクトルパターンを選択する。これにより、インバータ1及び2の様々なスイッチングパターンに応じて、第1及び第3ベクトルパターンを適切に選択できる。
加えて、本実施形態のオープン巻線モータ駆動装置を空気調和機30に適用することで、空調運転を高効率で行うことができる。
【0055】
(その他の実施形態)
電流センサ7は、シャント抵抗でもCTでも良い。
交流電源は単相であっても良い。
スイッチング素子はMOSFETに限ることなく、その他IGBT,パワートランジスタ、SiC,GaN等のワイドバンドギャップ半導体等を使用しても良い。
空気調和機に限ることなく、その他の製品等に適用しても良い。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
図面中、Mはオープン構造巻線モータ、1は1次側インバータ1,2は2次側インバータ、5は開閉器、11は制御装置、30は空気調和機を示す。