(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】測距撮像装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4915 20200101AFI20221011BHJP
G01S 17/10 20200101ALI20221011BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20221011BHJP
G01S 17/88 20060101ALN20221011BHJP
【FI】
G01S7/4915
G01S17/10
G01S17/89
G01S17/88
(21)【出願番号】P 2018187826
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神定 利昌
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩三
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久貴
(72)【発明者】
【氏名】新谷 俊通
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022152(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/002415(WO,A1)
【文献】特開2006-170744(JP,A)
【文献】特開2017-032342(JP,A)
【文献】特開2014-169921(JP,A)
【文献】特開2018-021764(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085916(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107869(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0049767(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51,
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物までの距離を光の飛行時間により測定する測距撮像装置において、
光源で発光したパルス光を対象物に照射する発光部と、
対象物で反射したパルス光をイメージセンサで露光し電気信号に変換する受光部と、
前記受光部の出力信号から対象物までの距離を演算する距離演算部と、
前記発光部からパルス光を照射する発光タイミングと、前記受光部にてパルス光を露光する露光タイミングを制御する制御部とを備え、
測定動作の単位である1つのフレームは、パルス光の幅THの第1の距離測定期間と、パルス光の幅TLの第2の距離測定期間より構成され(ただしTH<TL)、
前記第1の距離測定期間は、照射したパルス光に対して露光タイミングをずらした複数の露光期間に分割され、
分割された各露光期間では、1つのパルス光から次のパルス光までの間に露光ゲートを所定の間隔でn回(nは複数)開いて繰り返し露光を行い、
最後の露光ゲートを閉じてから次のパルス光を照射するまでに露光を行わない第1の非露光期間が設けられており、
前記第2の距離測定期間は、照射したパルス光に対して露光タイミングをずらした複数の露光期間に分割され、
分割された各露光期間では、1つのパルス光から次のパルス光までの間に露光ゲートを1回のみ開いて露光を行い、
露光ゲートを閉じてから次のパルス光を照射するまでに露光を行わない第2の非露光期間が設けられ
ており、
前記第1の距離測定期間におけるパルス光の幅THと繰り返し露光の回数n、及び前記第2の距離測定期間におけるパルス光の幅TLとの間で、
TL/TH=(3n-1)/2
または、TL/TH=ROUNDDOWN[(3n-1)/2]
(ただしROUNDDOWNは、小数点以下を切り捨てる関数である)
の関係を満たすことを特徴とする測距撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測距撮像装置を複数台稼動させて対象物までの距離を測定する測距システムにおいて、
各測距撮像装置で照射するパルス光の間隔が装置間で互いに異なるように、前記第1の非露光期間と前記第2の非露光期間の長さを設定したことを特徴とする測距システム。
【請求項3】
請求項2に記載の測距システムにおいて、
各測距撮像装置で照射するパルス光の間隔の値が、互いに素の関係になるように、前記第1の非露光期間と前記第2の非露光期間の長さを設定したことを特徴とする測距システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物までの距離を光の飛行時間により測定する測距撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物までの距離を測定する方法として、照射光が対象物で反射して戻ってくるまでの飛行時間により距離を測定するTOF(Time Of Flight)法が知られている。具体的には、強度変調された照射光の発光タイミングに対して露光タイミングをずらした複数の露光ゲートで露光し、各露光ゲートで蓄積された露光量から照射光に対する反射光の時間の遅れを算出して距離を求めるものである。
【0003】
TOF法では、測距精度(繰り返し測定誤差)と測距範囲(測定可能な距離範囲)は照射光のパルス幅(変調周波数)に依存し、パルス幅が短い(変調周波数が高い)ほど測距精度が高くなるが測距範囲が狭くなる。このため、短いパルス幅と長いパルス幅の2種類の照射光を用いてそれぞれ距離を測定し、測定結果を比較することで高い測距精度と広い測距範囲を両立する方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、短いパルス幅(高い変調周波数)での測定時には、タイミングずれの異なる複数の露光ゲートを重ね合わせたときに、露光ゲートの繰り返しが隙間なく連続する連続方式(Continuous Wave)を用いている。また長いパルス幅(低い変調周波数)での測定時には、タイミングずれの異なる複数の露光ゲートを重ね合わせたときに、タイミングずれの一番大きい露光ゲートの終了から次のタイミングずれの一番小さい露光ゲートの開始までの間に、一定の非露光期間が存在するパルス方式を用いている。
【0005】
短いパルス幅での測定では、狭い測距範囲を単位として折り返して表示される距離データが得られる。一方、長いパルス幅での測定では、広い測距範囲での距離データが得られる。そして、後者の距離データを用いて前者の距離データの折り返しを解き、距離を確定する方法(ディエイリアシング)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同一エリアで複数台の測距撮像装置を稼動させたときには、自装置以外の照射光(または反射光)が干渉光となり自装置で露光されることで、測距値に誤差が生じる問題がある。その対策として、装置ごとに発光パルスの変調周波数を変えて干渉による測距誤差を低減する方法が知られている。しかしながら、この方法を特許文献1の構成に適用することは、以下の理由により困難である。
【0008】
特許文献1の構成において、複数台稼動時の干渉を低減するには変調周波数を装置ごとに変える必要がある。パルス方式では、パルス幅を変えずに非露光期間の長さを変えて照射光のパルス間隔を変える方法と、パルス幅を変えて発光パルスと露光ゲートの幅および非露光期間を相似形で変える方法の、2つの方法が選択できる、しかし、連続方式では非露光期間がないので、基本的にパルス幅を変える方法のみの選択となる。パルス幅を変えると測距範囲が変わるため、連続方式とパルス方式の両方のデータを用いてディエイリアシングを行う場合には、連続方式とパルス方式で共通してパルス幅を変えなければならない。
【0009】
なお、連続方式においても非露光期間を設けて、パルス方式と同様に非露光期間の長さを変えることも考えられるが、後述するように、露光ゲートの連続回数を増やす必要があり干渉光による測距誤差が増加してしまう課題がある。
【0010】
また、高い変調周波数と低い変調周波数の2種類の照射光を用いてそれぞれ距離を測定するので、同一エリアで複数台稼動させた場合には、他装置の2種類の周波数を持った干渉光が自装置の照射光とは同期しないで露光される。そのため、例えば高い変調周波数の露光時に低い変調周波数の干渉光が露光されたり、または低い変調周波数と高い変調周波数の両方の干渉光が同時に露光されたりする。さらにパルス幅を変える方法の場合、パルス幅の変更によって測距範囲が変わるため、パルス幅を大きく変えることができず、このため干渉光による測距誤差を低減することが難しい。
【0011】
このように、特許文献1に記載されるような高い変調周波数と低い変調周波数の2種類の照射光を用いて距離を測定する方式では、高い測距精度と広い測距範囲を得ることができるが、複数台の測距撮像装置間の干渉による測距誤差を低減することは困難であった。
【0012】
以上の課題を鑑み、本発明の目的は、高い測距精度と広い測距範囲を両立し、かつ複数台の装置間の干渉による測距誤差を低減する測距撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の測距撮像装置において、測定動作の単位である1つのフレームは、パルス光の幅THの第1の距離測定期間と、パルス光の幅TLの第2の距離測定期間より構成される(ただしTH<TL)。第1の距離測定期間は、照射したパルス光に対して露光タイミングをずらした複数の露光期間に分割され、分割された各露光期間では、1つのパルス光から次のパルス光までの間に露光ゲートを所定の間隔でn回(nは複数)開いて繰り返し露光を行い、最後の露光ゲートを閉じてから次のパルス光を照射するまでに露光を行わない第1の非露光期間が設けられている。第2の距離測定期間は、照射したパルス光に対して露光タイミングをずらした複数の露光期間に分割され、分割された各露光期間では、1つのパルス光から次のパルス光までの間に露光ゲートを1回のみ開いて露光を行い、露光ゲートを閉じてから次のパルス光を照射するまでに露光を行わない第2の非露光期間が設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い測距精度と広い測距範囲を両立し、かつ複数台の装置間の干渉による測距誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る測距撮像装置を示す構成図。
【
図2】TOF法による距離測定の原理を説明する図。
【
図3】距離測定における1フレームの構成を示す図。
【
図4】1フレーム内の距離測定処理のフローチャートを示す図。
【
図5】実施例1における発光露光タイムチャートを示す図。
【
図7】第1/第2距離測定期間の測定結果の例を示す図。
【
図8】第1/第2の距離測定結果から距離を確定する方法を説明する図。
【
図9】第1/第2の距離測定結果から距離を確定する方法を説明する図。
【
図10A】パルス光間隔を変えることによる干渉光対策を説明する図。
【
図10B】パルス光間隔を変えることによる干渉光対策を説明する図。
【
図10C】パルス光間隔を変えることによる干渉光対策を説明する図。
【
図10D】パルス光間隔を変えることによる干渉光対策を説明する図。
【
図11】干渉光のキャンセル効果について説明する図。
【
図12】連続方式に非露光期間を設けた場合のタイムチャートを示す図。
【
図13】露光のアンバランスにより発生する距離誤差を示す図。
【
図14】実施例2における発光露光タイムチャートを示す図。
【
図15】第1/第2の距離測定結果から距離を確定する方法を説明する図。
【
図16】第1/第2の距離測定結果から距離を確定する方法を説明する図。
【
図17】
図5の変形例として測定誤差が発生しやすい場合を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る測距撮像装置を示す構成図である。測距撮像装置1では、人物や物体などの測定の対象物2までの距離をTOF法で測定し、測定した対象物の各部までの距離を2次元の距離データとして出力する。装置の構成は、発光部11、受光部12、距離演算部13、及び制御部14を有する。発光部11は、レーザダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)などの光源で発光したパルス状の照射光21を出射する。受光部12は、対象物2に照射され反射して戻ってきたパルス状の反射光22を、CCDやCMOSなどの2次元状に画素を配列したイメージセンサ23で露光し、電気信号に変換する。距離演算部13は、受光部12の出力信号から対象物2までの距離Dを演算する。制御部14は、発光部11と受光部12と距離演算部13を制御し、発光部11での照射光21の発光タイミングと受光部12での反射光22の露光タイミングを制御する。このように測距撮像装置1は、イメージセンサ23で対象物2を撮像するデジタルカメラと類似の構成で、対象物2までの距離Dを2次元状のデータとして取得する。
【0017】
図2は、TOF法による距離測定の原理を説明する図である。TOF法では、照射光21の信号と反射光22の信号の時間差、すなわち遅延時間dTに基づいて距離Dを測定する。対象物2までの距離Dと遅延時間dTとの関係は、光速をcとすると、D=dT・c/2で表される。
【0018】
ただし本実施例では、遅延時間dTを直接測定せずに、受光期間を複数の露光ゲートに分割して、それぞれのゲート期間の露光量から遅延時間dTを間接的に求め、距離Dを測定する(間接法とも呼ばれる)。
【0019】
図2では、1回の照射光21(パルス幅T
0)に対し、露光動作を例えば2つのゲートに分けて行う場合を示す。すなわち、反射光22の露光期間を、第1の露光ゲートS
1と第2の露光ゲートS
2に分け、それぞれのゲート幅は照射光21のパルス幅T
0に等しくする。受光部12は、第1の露光ゲートS
1と第2の露光ゲートS
2での露光量を電荷量に変換し、第1の電荷量Q
1と第2の電荷量Q
2として出力する。
【0020】
このときの第1,第2の電荷量Q1,Q2と遅延時間dT、および対象物2までの距離Dは、
dT=T0・Q2/(Q1+Q2)
D=T0・Q2/(Q1+Q2)・c/2
すなわち、第1の電荷量Q1と第2の電荷量Q2とを測定することで、距離Dを算出できる。以上がTOF法による距離測定の原理であり、本実施例では、パルス幅T0や露光ゲートS1,S2が異なる2つの距離測定方式を組み合わせて距離測定を行う。
【0021】
図3は、距離測定における1フレームの構成を示す図である。対象物までの距離測定は、撮像動作と対応させてフレーム単位に行われる。1フレームは、発光・露光タイミングの異なる第1距離測定期間と第2距離測定期間で構成され、それぞれの期間から第1距離データと第2距離データを取得する。
【0022】
まず、第1距離測定期間から説明する。発光・露光期間では、短いパルス幅(高い変調周波数)の発光・露光動作を行う。発光・露光期間はnセットからなり、1セットの中では、発光パルスに対して露光タイミングをずらしたA,B,C期間を有し、露光を分割して行う。分割した各期間では、符号A1,B1,C1で示すように、1つの発光パルスから次の発光パルスまでの間に、露光ゲートを所定の間隔で複数回(ここでは3回)開いて露光し、電荷を蓄積する。1セット内では発光・露光動作をm回繰り返し、これをnセット繰り返して行う。
【0023】
データ出力期間では、A,B,C期間でそれぞれ蓄積されたm×n回分の電荷量を読み出して距離を計算し、第1距離測定期間での第1距離データを出力する。このように第1距離測定期間においては、1つの発光パルスに対する反射光を所定の間隔で複数回露光する構成としており、このような発光・露光方式を「拡張パルス方式」と呼ぶことにする。
【0024】
次に、第2距離測定期間について説明する。発光・露光期間では、長いパルス幅(低い変調周波数)の発光・露光を行う。第1距離測定期間と同様に、1セットとして、露光タイミングをずらしたA,B,C期間を有し、露光を分割して行う。ただし分割した各期間では、符号A2,B2,C2で示すように、1つの発光パルスから次の発光パルスまでの間に、露光ゲートを1回のみ開いて露光し、電荷を蓄積する。1セット内で発光・露光動作をm回繰り返し、これをnセット繰り返して行う。
【0025】
データ出力期間では、A,B,C期間でそれぞれ蓄積されたm×n回分の電荷量を読み出して距離を計算し、第2距離測定期間での第2距離データを出力する。以下、第2距離測定期間における発光・露光方式を「パルス方式」と呼ぶことにする。
【0026】
このように、第1距離測定期間と第2距離測定期間では、パルス光と露光ゲートの幅、および露光繰り返し回数が異なる。第1距離測定期間では短いパルス幅(高周波数)で測定することで、測距精度の高い測定結果が得られる。一方、第2距離測定期間では長いパルス幅(低周波数)で測定することで、測距範囲の広い測定結果が得られる。両者の測定結果を組み合わせて距離を確定(ディエイリアシング)することで、測距精度が高く測距範囲の広い測定が可能となる。なお、第1距離測定期間と第2距離測定期間の測定順序はいずれを先行させても良い。
【0027】
さらに本実施形態では、第1距離測定期間と第2距離測定期間において、1回の発光・露光動作とそれに続く次の発光・露光動作とを連続して行うのではなく、最後の露光ゲートを閉じてから次のパルス光を発光するまでに、それぞれ第1/第2の非露光期間を挿入したことに特徴がある。つまり、第1距離測定期間における「拡張パルス方式」は、発光・露光動作を連続して行う「連続方式」とは異なるものである。このように、第1距離測定期間と第2距離測定期間のいずれにおいても非露光期間を設けることで、後述するように、複数台の測距撮像装置を稼働させたときの装置間の干渉による測距誤差を低減させることができる。
【0028】
なお、本実施形態では、1つのセットに対する露光動作を露光タイミングをずらした3つの期間(A,B,C期間)に分割して行うことで説明するが、分割数はこれに限らず任意の複数であってよい。
【0029】
図4は、1フレーム内の距離測定処理のフローチャートを示す図である。1フレーム期間では、第1距離測定(S100~)と第2距離測定(S200~)を行い、両者の距離データを用いて距離を確定する(S220)。
【0030】
まず、第1距離測定を開始すると(S100)、カウンタiを1とし(S101)、nセット分の発光露光を開始する(S102)。発光露光動作は、まずA期間発光露光(S103)では、
図3のA1タイミングで示す発光露光をm
1回行い、露光により発生した電荷(A電荷)を蓄積する(S104)。次に、B期間発光露光(
図3のB1タイミングで示す発光露光)をm
1回行い(S105)、露光により発生した電荷(B電荷)を蓄積する(S106)。さらに、C期間発光露光(
図3のC1タイミングで示す発光露光)をm
1回行い(S107)、露光により発生した電荷(C電荷)を蓄積する(S108)。そして、カウンタiに1を加算し(S109)、カウンタiが規定回数nに達したかどうか判定する(S110)。
【0031】
規定回数nに達していない場合は(S110でNo)、S103に戻りA期間発光露光から繰り返す。このようにして受光部12には、m1×n回分のA電荷、B電荷、C電荷が蓄積される。カウンタiが規定回数nに達した場合は(S110でYes)、受光部12から電荷量の蓄積データを読み出す(S111)。距離演算部13は、読み出したA~C電荷量を用いて対象物2までの距離(第1距離データ)を演算する(S112)。
【0032】
次に、第2距離測定を開始するが(S200)、第1距離測定(S100)と同様の手順なので繰り返しの説明は省略する。ただし、A期間発光露光(S203)では、
図3のA2タイミングで示す発光露光をm
2回行い、露光により発生した電荷(A電荷)を蓄積する(S204)。B期間発光露光(S205)では、
図3のB2タイミングで行い、C期間発光露光(S207)では、
図3のC2タイミングで行う。カウンタiが規定回数nに達したら(S210でYes)、受光部12から電荷量の蓄積データを読み出す(S211)。距離演算部13は、読み出したA~C電荷量を用いて対象物2までの距離(第2距離データ)を演算する(S212)。
【0033】
距離演算部13は、S112で求めた第1距離データと、S212で求めた第2距離データを用いて、距離を確定する(S220)。この演算の詳細は後述するが、第1距離測定では、狭い測距範囲を単位として折り返して表示される距離データが得られる。一方、第2距離測定では、広い測距範囲の距離データが得られ、これを用いて第1距離データの折り返しを解いて距離を確定(ディエイリアシング)するものである。
【0034】
なお、第1距離測定と第2距離測定における1セット内の発光露光の繰り返し回数m1,m2、及びセット数nは、1フレーム期間の長さに応じて適宜設定する。
次に、具体的な距離測定の例を実施例1と実施例2で説明する。
【実施例1】
【0035】
図5は、実施例1における発光露光タイムチャートを示す図である。
(a)は第1の距離測定期間の発光・露光タイミングを示す。発光パルスは短いパルス幅1Tを用いて、これを同じ幅1Tの露光ゲートで露光する(高い変調周波数)。露光期間は、タイミングを1TずつずらしたA,B,C期間で露光するが、各期間では、1つの発光パルスから次の発光パルス(符号35)までの間に、露光ゲートを周期3Tで3回開いて繰り返し露光する(符号31,32,33)。これが本実施例で導入した「拡張パルス方式」である。そして、最後の露光ゲート(符号34)を閉じてから次のパルス光(符号35)を発光するまでに、露光しない第1の非露光期間36(ここでは10Tの幅)を設けている。これにより、パルス光間隔40は19Tの幅となる。
【0036】
(b)は第2の距離測定期間の発光・露光タイミングを示す。発光パルスは長いパルス幅4Tを用いて、これを同じ幅4Tの露光ゲートで露光する(低い変調周波数)。露光期間は、タイミングを4TずつずらしたA,B,C期間で露光するが、各期間では、1つの発光パルスに対して露光ゲートを1回のみ開いて露光する。これは従来の「パルス方式」である。そして、最後の露光ゲート(符号37)を閉じてから次のパルス光(符号38)を発光するまでに、露光しない第2の非露光期間39(ここでは7Tの幅)を設けている。これにより、パルス光間隔40’は19Tの幅となる。
【0037】
ここでは、第1の距離測定期間でのパルス光間隔40と第2の距離測定期間でのパルス光間隔40’を等しくしたが、それらの比が整数倍の関係になるように第1の非露光期間36と第2の非露光期間39の長さを設定してもよい。
【0038】
図6は、実施例1における距離計算法を示す図である。
(a)は第1距離測定期間での距離計算を示す。1つの発光パルスに対する反射光は、A,B,C期間の連続するいずれかの2ゲートで露光される。この例ではA期間とB期間で露光され、符号41,42で示す。A,B,C期間で露光により発生した電荷量をそれぞれA,B,Cとすると、前記
図2の計算式を拡張し、照射光に対する反射光の遅延時間dTは次式で表される。電荷量A,B,Cの大小関係により、計算式が分かれる。
【0039】
MIN(A,B,C)=Cのとき、
dT={(B-C)/(A+B-2C)}・T+3nT
MIN(A,B,C)=Aのとき、
dT={(C-A)/(B+C-2A)}・T+T+3nT
MIN(A,B,C)=Bのとき、
dT={(A-B)/(C+A-2B)}・T+2T+3nT
ここでMINは最小値を求める関数である。nは、3回の繰り返し露光のうち何回目の周期で露光したかを表すパラメータで、繰り返し数と呼ぶことにする。ここにn=0,1,2は、それぞれ1,2,3回目を表す。
【0040】
第1距離測定期間の測定では、何回目の露光で得られた信号であるか分からないので、繰り返し数nを特定することができない。そこで、第1距離測定期間ではn=0としたときのdTから、第1距離データD1Tを
D1T=c・dT(n=0)/2
と算出する。
【0041】
ここで、測定可能な距離の範囲(測距範囲)について説明する。測距範囲DRは、反射光遅延時間dTRから求められる。
dTR=(パルス幅)×(繰り返し露光回数×3-1)
DR=c・dTR/2
第1距離測定期間では、パルス幅=1T、繰り返し露光回数=3なので、
dTR=1T・(3×3-1)=8T
これに対し従来の1回の露光では
dTR=1T・(1×3-1)=2T
なので、測距範囲DRは4倍に拡張される。
【0042】
(b)は第2距離測定期間での距離計算を示す。1つの発光パルスに対する反射光は、A,B,C期間の連続するいずれかの2ゲートで露光され、符号43,44で示す。この場合も、A,B,C期間で露光により発生した電荷量A,B,Cから、照射光に対する反射光の遅延時間dTは次式で表される。ただしこの計算では、第1距離測定期間での計算におけるパルス幅を4T、繰り返し数n=0に置き換えている。
A≧Cのとき、dT={(B-C)/(A+B-2C)}・4T
A<Cのとき、dT={(C-A)/(B+C-2A)}・4T+4T
このdTから、第2距離データD4Tを
D4T=c・dT/2
と算出する。
【0043】
この場合の測距範囲DRは、反射光遅延時間をdTRとすると、
dTR=4T・(1×3-1)=8T
なので、上記の第1距離測定期間での測距範囲DRと一致している。
【0044】
しかしながら第2距離測定期間では、第1距離測定期間に比べて反射光のパルス幅が4倍になり、ショットノイズが2倍に増える。よって、測距範囲は広いが、第1距離測定期間よりも測定精度が悪化している。
【0045】
その後、第2距離測定期間の第2距離データD4Tを用いて第1距離測定期間の繰り返し数nを特定し、第1距離データD1Tから正確な距離Dを確定する。
【0046】
図7は、第1/第2距離測定期間の測定結果の例を示す図である。横軸は対象物までの実際の距離、縦軸は測定された距離の値である。なお、
図5、
図6における時間軸の単位を1T=10nsecとしている。横軸を長い距離レンジで表した場合、近い距離から得られる符号50で示す測定結果と、遠い距離から得られる符号51で示す測定結果が存在する。
【0047】
まず、近距離から得られる符号50で示す結果では、第1距離測定期間(パルス幅=1T)での第1距離データD1T(実線で示す)は折り返しのある直線となる。折り返し点までの距離(折り返し距離)R1Tは、n=0における最大測定距離であり、R1T=3cT/2=4.5mとなる。また、勾配のある直線部分が測定可能な測距範囲DRであり、8cT/2=12mとなる。
【0048】
第2距離測定期間(パルス幅=4T)での第2距離データD4T(破線で示す)は折り返しのない直線となる。測距範囲DR(勾配部分)は8cT/2=12mであり、第1距離データD1Tの測距範囲DRと等しい。
【0049】
次に、遠距離から得られる符号51に示す結果について説明する。対象物が遠距離にあると、その反射光は当該パルス光に対する露光ゲート期間内に戻らず、次のパルス光の露光ゲート期間に戻ってくる。つまり、符号51で示す結果は、1つ前に照射したパルス光により測定された結果である。この例ではパルス光間隔を19T(190nsec)に設定しており、距離28.5mを基点としてそれより遠い位置からの測定結果51が、近距離の測定結果50と同じパターンで繰り返して得られる。ただし、パルス光の飛行距離が長くなるので、露光される信号強度は減衰している。
【0050】
しかし、遠距離から得られる測定結果51は本来の目的とするものではなく、これを残しておくと近距離の測定結果50に対するノイズ成分となるので、無効にする必要がある。対策として、非露光期間を長くしてパルス光間隔を広げ、反射光が弱くて露光されない距離まで遠ざけることで、無視することができる。ただし、パルス光間隔を広げすぎると、露光期間内での繰り返し露光回数が少なくなって測距精度が低下するので、第1、第2距離測定期間ともパルス光間隔を測距範囲の2倍以上とするのが望ましい。光の飛行距離が2倍になると露光量は1/4に低下するので、露光量に閾値を設けて2倍以上の距離からの反射光を無効とすることができる。実施例1の条件では、パルス光間隔(19T=28.5m)は測距範囲(8T=12m)の約2.4倍となっている。
【0051】
図8と
図9は、第1/第2の距離測定結果を用いて距離を確定(ディエイリアシング)する方法を説明する図である。
【0052】
図8には、
図7の符号50で示した測定結果を再度示している。ディエイリアシングでは、第2距離データD
4Tを用いて、第1距離データD
1Tにおける繰り返し数n(何回目の周期で露光したかを表すパラメータ)を次の手順で求める。
【0053】
まず、第1、第2の距離データの差分量と、第1距離測定期間の折り返し距離R1T(=3cT/2)との比n’を求める。比n’は、求めようとする繰り返し数nに相当する値である。
n’=(D4T-D1T)/R1T
n’を点線で示すが、第1距離データD1Tおよび第2距離データD4Tには測定誤差が含まれるので、n’は本来の整数値ではなく小数点以下の端数伴う。そこで、ラウンド関数(4捨5入)でn’の整数化を行う。
n=ROUND(n’)
これで、繰り返し数の真値(整数値)nが求められる。
【0054】
図9には、ディエイリアシング後の距離出力を示している。上記した繰り返し数の真値nを用いて、次式より正確な距離Dを確定する。
D=D
1T+n・R
1T=D
1T+n・3cT/2
この演算では、第1距離データD
1Tに折り返し距離R
1Tをn回加算する。ここに、第1距離データD
1Tは測距精度が高く、また加算される折り返し距離R
1Tは
、単位時間Tと光速cから決まる定数(3cT/2)であるから、正確な距離Dを確定することができる。このようにして、高い測距精度と広い測距範囲を両立させて測定することができる。
【0055】
なお、距離が13.5m以降は測定範囲を超えているので、無効データとし距離計算を行わない。その場合は電荷量の関係が(A+B-2C)=0となるので、これを判定条件とすればよい。
【0056】
次に、複数の測距撮像装置間の干渉光対策について説明する。
図10Aは、パルス光間隔を変えることによる干渉光対策を説明する図である。ここでは、同時に稼動する2台の測距撮像装置(以下、機器No.1と機器No.2と称する)を想定し、機器No.1が機器No.2から受ける干渉を考える。それぞれ第1距離測定期間において、機器No.1のパルス光間隔40を17T、機器No.2のパルス光間隔40”を19Tに設定し、互いに異ならせる。なお、各機器でのパルス光間隔を変更するには、第1距離測定期間に設けた非露光期間36の長さ(
図5参照)を機器ごとに変更すればよい。その際、各機器でのパルス幅(1T)は固定しているので、測距精度や測距範囲が変わることはない。
【0057】
この状態で機器間の干渉光の影響を説明する。まず、機器No.2のパルス光51(照射光または反射光)が干渉光として、機器No.1の露光ゲート(A期間)52で露光される状態を示す。しかし、機器No.2の次のパルス光53(干渉光)は機器No.1の露光ゲート(A期間)から2Tだけずれるので露光されない。つまり、この後に機器No.1の露光ゲート(A期間)で機器No.2からの干渉光を露光する周期は、両機器のパルス光間隔の最小公倍数の周期(17×19T)に拡大する。ただし、機器No.1の露光ゲートはA期間に3回繰り返して開くことを含めると、露光される干渉光量は、両機器のパルス光間隔が同じ場合(いずれも17T)と比較し、3/19に低減される。なお他の期間(B,C期間)でも露光ゲートのタイミングが異なるが、露光される干渉光量はA期間と同じ3/19に低減される。
【0058】
図10Aの例では、機器No.1の第1距離測定期間に対する機器No.2の第1距離測定期間からの干渉光の露光について説明したが、干渉光の組合せはこれだけではない。機器No.1の第1距離測定期間に対する機器No.2の第2距離測定期間の干渉光の様子を
図10Bに、機器No.1の第2距離測定期間に対する機器No.2の第1距離測定期間の干渉光および第2距離測定期間の干渉光の様子を、それぞれ
図10Cおよび
図10Dに示す。機器No.1および機器No.2の第2距離測定期間のパルス光間隔は、それぞれの機器の第1距離測定期間と同じである。露光される干渉光量は、両機器のパルス光間隔が同じ場合(いずれも17T)と比較し、
図10Bでは6/19に、
図10Cと
図10Dでは4/19に低減される。このように、第1距離測定期間と第2距離測定期間のパルス光間隔を同じにすることによって、どの組合せでも同等の干渉低減効果を得ることができる。さらに、第1距離測定期間と第2距離測定期間のパルス光間隔を整数倍の関係にしても良い。例えば、機器No.2の第1距離測定期間のパルス光間隔19Tに対して第2距離測定期間のパルス光間隔を2倍の38Tにした場合、第2距離測定期間での露光回数は半分に減るが、
図10Bと
図10Dで機器No.1が受ける干渉光量が半分に低減される効果がある。
【0059】
上記したように、複数の機器間で干渉光の影響を受ける周期は、各機器のパルス光間隔の最小公倍数に拡大する。よって、最小公倍数を大きくするため、各機器のパルス光間隔の値は「互いに素」の関係になるよう設定するのが得策である。また、パルス光間隔を変える単位は1Tに限らず、0.5Tや0.25Tのように1T未満の任意の数値でもよい。1T未満の値とすることで、パルス光間隔の範囲を広げずに、多くの組合せにおいて干渉回避可能なパルス光間隔の選択が可能となる。
【0060】
図11では、干渉光のキャンセル効果について説明する図である。
図10Aで示したように他機器からの干渉光を露光したとしても、距離演算の過程で3つの期間(A,B,C期間)での露光量の差分演算が行われるので、干渉光の成分がキャンセルされる。
【0061】
一般に、複数の機器間では1フレームの開始タイミングが異なるので、機器No.1と機器No.2の発光露光期間(1セット~10セットで構成)はdFだけずれが生じる。
図11の例では、機器No.1と機器No.2の発光露光期間は約1セットずれており、機器No.1の2セットから10セットの期間で重なっている。この重なり期間では、機器No.1は機器No.2からの干渉光60を、A,B,C期間の露光ゲートでほぼ同量ずつ露光する。これらの露光した干渉光成分は、距離演算の過程でキャンセルされるので距離誤差はほとんど発生しない。
【0062】
しかし先頭の1セットにおいては、C期間の露光ゲート61のときだけ機器No.2からの干渉光が露光されるので、この部分で距離誤差が発生する。例えば、機器No.1と機器No.2のパルス光間隔が
図10Aの組合せの場合には、上記したようにC期間露光時に3/19の干渉光が露光される。ただし、1つの発光露光期間には干渉光がキャンセルされるこれに続く2~10セットが含まれるので、発光露光期間内の累積では、干渉光量の距離誤差への影響は3/19×1/10=3/190に大幅に軽減される。そのため、距離誤差は実用上問題のないレベルに抑えることができる。
【0063】
1フレームの開始タイミングのずれdFが変化し、重なり期間が変化した場合を説明する。例えば、1セット内でB,C期間の露光ゲートのときだけ干渉光が露光される場合は、B,C期間ではキャンセルされる。よってその影響は、A期間で干渉光が露光されないことによるアンバランスを考えればよく、アンバランス量は上記と同様に3/19となる。従ってこの場合も、発光露光期間内の累積では、距離誤差は3/190に軽減される。
【0064】
また、開始ずれdFが1セットの期間を超えるときは、機器No.2からの干渉光を受けないセットが増加する訳であるから、全体として距離誤差はより小さくなる。
【0065】
ここに説明した干渉光のキャンセル効果は、機器No.1と機器No.2のパルス光間隔の組合せに依存し、キャンセル効果が大きくなるようにパルス光間隔を設定する。また、第1距離測定期間と第2距離測定期間のどの組合せでも干渉光量が小さくなるよう、パルス光間隔の組合せを求めて適用する。
【0066】
このように本実施例では、複数台の装置を稼働させるときの干渉を回避するため、各装置のパルス光間隔が異なるように、非露光期間を設けたことに特徴がある。その際、第1距離測定期間では、パルス幅の短い発光パルスに対して複数回の露光を繰り返す「拡張パルス方式」を採用し、これに非露光期間を設けたことで、測距精度を確保することができることを説明した。しかしながら、従来の「連続方式」において非露光期間を挿入する方法では、測距精度を確保することができない。以下その理由を説明する。
【0067】
図12は、連続方式に非露光期間を設けた場合の発光露光タイムチャートを示す図である。第1距離測定期間では、短いパルス幅(高い周波数)でパルス光を連続で照射する。ただし、照射期間において一定時間ごとに非露光期間70を挿入する。この例では、パルス光および露光ゲートの連続期間を3回として、その後に4回分の非露光期間70を設けた場合を示している。そして、非露光期間70の長さを変えることで照射するパルス光間隔を変えて干渉対策を行う方法が考えられる。
【0068】
対象物からの反射光が
図12に示すタイミングで露光される場合、符号71で示すように、A期間とC期間で露光される。しかし符号72で示すタイミングでは、C期間では露光されるが、A期間の露光ゲートは閉じているため露光されず、A期間とC期間で本来露光すべき量にアンバランスが生じてしまう。
【0069】
図13は、露光のアンバランスにより発生する距離誤差を示す図である。
図12から得られる第1距離データD
1Tを示している。符号73で示す部分が直線ではなく、誤差による歪みを含んでいる。このような距離誤差を低減するためには露光ゲートの連続回数を増やせばよいが、連続回数を増やすと非露光期間70の設定に制約を受け、干渉光への対策が不十分となる。つまり、高い測距精度を確保しつつ複数台間の干渉による測距誤差を低減することは困難である。このように、「連続方式」において単に非露光期間を挿入しただけでは、本実施例のような効果は得られない。
【実施例2】
【0070】
実施例2では、実施例1に対しパルス幅と繰り返し露光回数が異なる例について説明する。
【0071】
図14は、実施例2における発光露光タイムチャートを示す図である。
(a)は第1の距離測定期間の発光・露光タイミングを示す。発光パルスは短いパルス幅1Tを用いる。露光期間は、タイミングを1TずつずらしたA,B,C期間で露光するが、各期間では、1つの発光パルスに対して露光ゲートを周期3Tで2回開いて繰り返し露光する(符号81,82,83)。すなわち、この場合も「拡張パルス方式」である。そして、最後の露光ゲート(符号84)を閉じてから次のパルス光(符号85)を発光するまでに、露光しない第1の非露光期間86(ここでは13Tの幅)を設けている。これにより、パルス光間隔80は19Tの幅となる。
【0072】
(b)は第2の距離測定期間の発光・露光タイミングを示す。発光パルスは長いパルス幅2Tを用いる。露光期間は、タイミングを2TずつずらしたA,B,C期間で露光するが、各期間では、1つの発光パルスに対して露光ゲートを1回開いて露光する。これは従来の「パルス方式」である。そして、最後の露光ゲート(符号87)を閉じてから次のパルス光(符号88)を発光するまでに、露光しない第2の非露光期間89(ここでは13Tの幅)を設けている。これにより、パルス光間隔80’は19Tの幅となり、第1の距離測定期間でのパルス光間隔80と等しい。
【0073】
次に、実施例2の距離計算法を説明する(
図6に対応する図面は省略する)。実施例1と同様に、A,B,C期間で露光した反射光の電荷量をそれぞれA,B,Cとする。
まず、(a)の第1距離測定期間での距離計算を示す。照射光に対する反射光の遅延時間dTは次式で表される。
【0074】
MIN(A,B,C)=Cのとき、
dT={(B-C)/(A+B-2C)}・T+3nT
MIN(A,B,C)=Aのとき、
dT={(C-A)/(B+C-2A)}・T+T+3nT
MIN(A,B,C)=Bのとき、
dT={(A-B)/(C+A-2B)}・T+2T+3nT
ここでnは、2回の繰り返し露光のうち何回目の周期で露光したかを表す繰り返し数であり、n=0,1はそれぞれ1,2回目を表す。
【0075】
第1距離測定期間の測定では、繰り返し数nを特定することができない。そこで、第1距離測定期間ではn=0としたときのdTから、第1距離データD1Tを
D1T=c・dT(n=0)/2
と算出する。
【0076】
次に、(b)の第2距離測定期間での距離計算を示す。照射光に対する反射光の遅延時間dTは次式で表される。
A≧Cのとき、dT={(B-C)/(A+B-2C)}・2T
A<Cのとき、dT={(C-A)/(B+C-2A)}・2T+2T
このdTから、第2距離データD2Tを算出する。
D2T=c・dT/2
その後、第2距離測定期間の測定結果D2Tを用いて第1距離測定期間の繰り返し数nを特定し、第1距離データD1Tから正確な距離Dを確定する。
【0077】
図15と
図16は、第1/第2の距離測定結果を用いて距離を確定(ディエイリアシング)する方法を説明する図である。ここでも1T=10nsecである。
【0078】
図15には、第1、第2の距離測定結果を示している。第1距離測定期間(パルス幅=1T)での第1距離データD
1T(実線で示す)は折り返しのある直線となり、折り返し距離R
1Tは3cT/2=4.5mである。第2距離測定期間(パルス幅=2T)での第2距離データD
2T(破線で示す)は折り返しのない直線となる。
【0079】
実施例2では、第1、第2の距離データにおける測距範囲が異なっている。すなわち、第1距離測定期間の反射光遅延時間dTR1と測距範囲DR1は、
dTR1=1T・(2×3-1)=5T、DR1=7.5m
第2距離測定期間の反射光遅延時間dTR2と測距範囲DR2は、
dTR2=2T・(1×3-1)=4T、DR2=6m
となる。
【0080】
ディエイリアシングでは、第2距離データD2Tを用いて、第1距離データD1Tにおける繰り返し数nを次の手順で求める。まず、第1、第2の距離データの差分量と、第1距離測定期間の折り返し距離R1T(=3cT/2)との比n’を求める。
n’=(D2T-D1T)/R1T
n’を点線で示すが、第1距離データD1Tおよび第2距離データD2Tには測定誤差が含まれるので、n’は本来の整数値ではなく小数点以下の端数伴う。そこで、n’の整数化を行う。
n=ROUND(n’)
これで、繰り返し数の真値(整数値)nが求められる。
【0081】
この例では、D1TとD2Tの測距範囲DR1、DR2が一致していないため、距離6~7.5mの範囲ではn’が1~0.66まで変化するが、ラウンド関数によりn=1とすることで正しくディエイリアシングを行うことができる。またn’からnへの整数化はラウンド関数(四捨五入)に限るものではなくn’の値のばらつきに応じて自由に閾値を設定して良く、この例ではn’≦0.4のときn=0、0.4<n’のときn=1としても良い。
【0082】
図16には、ディエイリアシング後の距離出力を示している。上記した繰り返し数の真値nを用いて、次式より正確な距離Dを確定する。
D=D
1T+n・R
1T=D
1T+n・3cT/2
この演算でも、第1距離データD
1Tは測距精度が高く、また加算される折り返し距離R
1Tは
、単位時間Tと光速cから決まる定数(3cT/2)であるから、正確な距離Dを確定することができる。このようにして、高い測距精度と広い測距範囲を両立させて測定することができる。
【0083】
実施例2の場合、第1距離測定期間、第2距離測定期間とも露光時間が短くなるため、太陽光など外光による測距精度の低下が懸念される環境では実施例1に比べて有利となる。また、実施例2においても、第1の非露光期間86と第2の非露光期間89を設けたので、実施例1と同様に、高い測距精度を確保しつつ複数台間の干渉による測距誤差を低減することができる。
【0084】
<パルス幅と繰り返し露光回数の関係>
ここで、第1距離測定期間(高い周波数)のパルス幅と繰り返し露光回数、および第2距離測定期間(低い周波数)のパルス幅の最適な関係について説明する。
【0085】
実施例1では、第1、第2距離測定期間の測距範囲を一致させたが、例えば第2距離測定期間でのパルス幅をさらに広げ、第2距離測定期間の測距範囲を第1距離測定期間の測距範囲より広くした場合を考える。
【0086】
図17は、
図5の変形例として測定誤差が発生しやすい場合を示す図である。
図5(a)の第1距離測定期間のパルス幅は1Tのままで、(b)の第2距離測定期間のパルス幅を5Tに広げた場合の距離測定結果を示す。第1距離データD
1Tを実線で、第2距離データD
5Tを破線で示し、その差分を折り返し距離R
1Tで除した比n’を点線で示している。
【0087】
この場合、第1、第2の距離データD1T、D5Tの測距範囲DR1、DR5が一致していないため、距離12~13.5mの範囲ではn’が2~2.3まで変化するが、ラウンド関数によりn=2とすることでディエイリアシングを行うことができる。しかし、第2距離測定期間のパルス幅を5Tに広げたことでショットノイズが増加して第2距離データD5Tの誤差が大きくなり、n’の値のばらつきも大きくなるので、パルス幅が4Tの場合に比べてディエイリアシング時のエラーが発生しやすくなる。よって、第1距離測定期間の測距範囲と第2距離測定期間の測距範囲とは一致させることが望ましい。
【0088】
第1、第2距離測定期間の測距範囲が一致する条件は、第1距離測定期間のパルス幅をTH、第2距離測定期間のパルス幅をTLとし、それぞれに対応する測距範囲をDRH、DRLとすると、
DRH=(cTH/2)・(3-1)
DRL=(cTL/2)・(3n-1)
ここに、cは光速、nは繰り返し露光回数である。DRH=DRLとなる条件は、
TL/TH=(3n-1)/2
となる。
【0089】
前記実施例1(
図5)は、パルス幅の比T
L/T
H=4、パルス幅T
H側の繰り返し露光回数n=3とした場合で、D
RH=D
RLの条件を満足している。
ただしnが偶数の場合には、T
L/T
Hは整数にならない。例えばn=2のときT
L/T
H=2.5で整数にならない。この場合はパルス幅の比T
L/T
Hをそのまま2.5倍とすればよい。
【0090】
しかし、TLをTHの整数倍でしか設定できない場合もある。その場合には、小数点以下を切り捨てた整数値を用いればよい。すなわちTHに対して
TL/TH=ROUNDDOWN[(3n-1)/2]
で求めたTLを用いることができる。ここにラウンドダウン関数では小数点以下を切捨てる処理をする。
【0091】
前記実施例2はこの場合に相当し、パルス幅の比TL/TH=2、パルス幅TH側の繰り返し露光回数n=2とすることで、DRH=DRLの条件に近づけている。
【0092】
以上述べた条件によれば、第1距離測定期間の測距範囲と第2距離測定期間の測距範囲が一致、または近い値となるので、測距精度と測距範囲の性能がバランスして最も効率の良い測定が可能となる。
【符号の説明】
【0093】
1:測距撮像装置、
2:対象物、
11:発光部、
12:受光部、
13:距離演算部、
14:制御部、
21:照射光
22:反射光、
23:イメージセンサ。