(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法及びビード部材の収納ホルダー
(51)【国際特許分類】
B29D 30/48 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
B29D30/48
(21)【出願番号】P 2018202068
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】児玉 紀彦
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-191346(JP,A)
【文献】特開2002-187218(JP,A)
【文献】特開2007-283652(JP,A)
【文献】特表2012-500139(JP,A)
【文献】特開2014-117955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアの外周側に配置されて先端ほど幅狭の断面形状を持つビードフィラーと、を備える空気入りタイヤの製造方法であって、
押出成形されたビードフィラーを、
その長さ方向の端部同士を接合して円筒状とし、当該ビードフィラーの先端部と根元部の温度差が25℃以下かつ前記先端部の温度が39℃以上の状態で、
前記円筒状のビードフィラーを寝かせた姿勢から起立させてビードコアの外周面に前記ビードフィラーの底面を圧着させることで、前記ビードフィラーを前記ビードコアと一体化させてビード部材を作製する工程と、
前記ビードフィラーの側面を支持する支持面上に前記ビード部材を載せて冷却する工程と、
冷却した前記ビード部材を用いて生タイヤを成形する工程と、
を含む、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
押出成形された前記ビードフィラーの高さが80mm以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
押出成形された前記ビードフィラーの先端部の角度が16.0°以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記ビード部材を冷却する工程では、前記ビード部材を収納した状態で上下に積み重ね可能な収納ホルダーを用い、
前記収納ホルダーは、前記支持面を備える円板状の載置部と、前記載置部の内周側と外周側の少なくとも一方の周上に設けられた複数の凸部と、前記凸部の裏面側に設けられて収納ホルダーの積み重ね時に下段となる収納ホルダーの凸部が嵌入可能な凹部と、を備え、複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーの凸部と下段となる収納ホルダーの凸部を周方向においてずらして積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間に前記ビード部材を収納可能な隙間を形成するとともに、複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーと下段となる収納ホルダーの凸部同士を一致させて凹部に凸部を嵌入させた状態で積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間の隙間が狭くなるよう形成されており、
前記ビード部材を冷却する工程において、前記凸部をずらして積み重ねることにより形成される前記隙間に前記ビード部材を収納した状態で冷却する、請求項1~3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
ビードコアと前記ビードコアの外周側に一体化されたビードフィラーとからなるビード部材を収納した状態で上下に積み重ね可能である、前記ビード部材のための収納ホルダーであって、
前記ビードフィラーの側面を支持可能な
水平な支持面を備える円板状の載置部と、
前記載置部の内周側と外周側の少なくとも一方の周上に設けられた複数の凸部と、
前記凸部の裏面側に設けられて収納ホルダーの積み重ね時に下段となる収納ホルダーの凸部が嵌入可能な凹部と、を備え、
複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーの凸部と下段となる収納ホルダーの凸部を周方向においてずらして積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間に前記ビード部材を収納可能な隙間を形成するとともに、複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーと下段となる収納ホルダーの凸部同士を一致させて凹部に凸部を嵌入させた状態で積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間の隙間が狭くなるよう形成された、
ことを特徴とするビード部材の収納ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空気入りタイヤの製造方法に関する。また、空気入りタイヤの製造に用いられるビード部材の収納ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤには、ビード部に環状のビードコアとビードフィラーが埋設されている。かかる空気入りタイヤの製造において、ビードコアとビードフィラーとからなるビード部材を作製する際、押出成形された断面略三角形状のビードフィラーを用いて、その両端を接合して環状に成形した後、ビードフィラーの厚肉側の根元部をビードコアの外周面に圧着しつつ、ビードフィラーの先端側を起立させる。これにより、ビードコアの外周側に先端ほど幅狭の断面形状を持つビードフィラーが一体化されてなるビード部材が作製される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記ビード部材を用いた生タイヤの成形工程においては、カーカスプライを含むバンド体の外周にビード部材を設置し、ビード部材を包み込むようにバンド体の端部をターンアップする。このターンアップの際にバンド体側に貼り付けたゴム部材とビードフィラーとの間にエア入り不良が生じることがある。このようなエア入り不良を抑制するために、バンド体側に貼り付けるゴム部材のゴム量をビードフィラー側に分担させるべく、ビードフィラーの高さを大きくすることが考えられる。
【0004】
しかしながら、ビードフィラーの高さが大きくなると、ビード部材の作製工程において、ビードフィラーとビードコアとを一体化するためにビードフィラーの先端側を起立させる際のビードフィラーの先端部の拡張量が大きくなる。そのため、ビード部材においてビードフィラーの先端部にカールが発生しやすくなり、その後の生タイヤの成形工程における不具合の原因となる。
【0005】
なお、特許文献2には、ビード部材を水平な支持面上に載せて収納可能な収納ホルダーが開示されている。しかしながら、ビード部材の作製工程については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-058564号公報
【文献】特開2014-043093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、空気入りタイヤの製造方法において、ビード部材におけるビードフィラーのカールを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアの外周側に配置されて先端ほど幅狭の断面形状を持つビードフィラーと、を備える空気入りタイヤの製造方法であって、押出成形されたビードフィラーを、当該ビードフィラーの先端部と根元部の温度差が25℃以下かつ前記先端部の温度が39℃以上の状態で、ビードコアと一体化させてビード部材を作製する工程と、前記ビードフィラーの側面を支持する支持面上に前記ビード部材を載せて冷却する工程と、冷却した前記ビード部材を用いて生タイヤを成形する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の実施形態に係るビード部材の収納ホルダーは、ビードコアと前記ビードコアの外周側に一体化されたビードフィラーとからなるビード部材を収納した状態で上下に積み重ね可能である、前記ビード部材のための収納ホルダーであって、前記ビードフィラーの側面を支持可能な支持面を備える円板状の載置部と、前記載置部の内周側と外周側の少なくとも一方の周上に設けられた複数の凸部と、前記凸部の裏面側に設けられて収納ホルダーの積み重ね時に下段となる収納ホルダーの凸部が嵌入可能な凹部と、を備え、複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーの凸部と下段となる収納ホルダーの凸部を周方向においてずらして積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間に前記ビード部材を収納可能な隙間を形成するとともに、複数の収納ホルダーを上段となる収納ホルダーと下段となる収納ホルダーの凸部同士を一致させて凹部に凸部を嵌入させた状態で積み重ねることにより上段と下段の収納ホルダーの載置部間の隙間が狭くなるよう形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法であると、押出成形されたビードフィラーを、その冷却前の先端部と根元部との温度差が小さい状態でビードコアと一体化させるので、ビード部材の作製直後のビードフィラーのカールを抑制することができる。また、作製後のビード部材を、ビードフィラーの側面を支持する支持面上に載せた状態で冷却するので、冷却時におけるカールも抑制することができる。そのため、ビードフィラーのカールが抑制されたビード部材を用いて生タイヤを成形することができ、空気入りタイヤの成形不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】ビードフィラーの貼り付け前の段階を示す貼付装置の模式図
【
図6】ビードフィラーの貼り付け後の段階を示す貼付装置の模式図
【
図8】ビード部材を収納した状態で積み重ねられた収納ホルダーの半断面図
【
図9】ビード部材を収納せずに積み重ねられた収納ホルダーの半断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
一実施形態に係る空気入りタイヤは、一対のビード部10と、ビード部10からタイヤ径方向外方に延びる一対のサイドウォール部12と、一対のサイドウォール部12間に設けられたトレッド部14とを備える。
【0014】
一対のビード部10にはそれぞれ、環状のビードコア16と、その外周側に配置された環状のビードフィラー18が埋設されている。ビードコア16は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなり、この例では断面形状が略六角形状である。ビードフィラー18は、硬質ゴムからなり、先端ほど幅狭の断面形状を持つゴム部材である。
【0015】
一対のビード部10の間にはトロイド状のカーカスプライ20が配設されている。カーカスプライ20は、トレッド部14からサイドウォール部12を通りビード部10において両端部が係止されており、少なくとも1プライで構成されている。カーカスプライ20は、平行配列された複数本のカーカスコードをゴム被覆してなるものであり、カーカスプライ20の両端部は、ビード部10においてビードコア16及びビードフィラー18の内側から外側に折り返されて係止されている。
【0016】
トレッド部14におけるカーカスプライ20の外周側には、ベルトプライからなるベルト22が設けられておりトレッド部14を補強する。ベルト22の外周には、接地面をなすトレッドゴム24が設けられている。サイドウォール部12におけるカーカスプライ20の外側にはサイドウォールゴム26が設けられている。また、ビード部10におけるリムとの接触部位には、ゴム製のリムストリップ28が設けられている。カーカスプライ20の内側には、空気圧保持のためのインナーライナー30がタイヤ内面の全体にわたって設けられる。
【0017】
次に、一実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法について説明する。本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)押出成形されたビードフィラー18を、当該ビードフィラー18の先端部18Aと根元部18Bの温度差が25℃以下かつ先端部18Aの温度が39℃以上の状態で、ビードコア16と一体化させてビード部材32を作製するビード作製工程(
図2~6参照)、
(2)ビードフィラー18の側面18Dを支持する支持面50上にビード部材32を載せて冷却するビード冷却工程(
図7~9参照)、及び、
(3)冷却したビード部材32を用いて生タイヤ34を成形する生タイヤ成形工程(
図10参照)。
【0018】
まず、ビード作製工程について説明する。
【0019】
図2は、ビード作製工程で用いるビードフィラー18の一例を示す断面図である。ビードフィラー18は、断面略三角形状をなすゴム部材であり、公知の押出成形により作製することができ、押出機から一定の断面形状にて帯状に押し出される。なお、ビードフィラー18としては、図示しないが、複数のゴム部分からなり全体として断面略三角形状をなすものを用いてもよい。
【0020】
この例では、ビードフィラー18は、ビードコア16に対する圧着面である底面18Cが、断面略六角形状をなすビードコア16の外周面16A(
図4参照)の形状に沿うように凹状に形成されている。
【0021】
また、ビードフィラー18は、一方の側面18Dがフラットであるのに対し、他方の側面18Eは僅かに凹んだ形状となっており、該側面18Eにはゴム製の補強テープ36が貼付されている。補強テープ36は、
図1に示すようにカーカスプライ20の折り返し端20Aが接触する位置に設けられ、折り返し端20Aの摩擦によるビードフィラー18の損傷を防止する。
【0022】
押出成形されたビードフィラー18の高さHは、特に限定されないが、80mm以上であることが好ましい。このように高さの大きいビードフィラー18を用いることにより、生タイヤの成形工程におけるエア入りを抑制する上で有利である。高さHの上限は特に限定されず、例えば120mm以下でもよい。好ましくは、空気入りタイヤにおいてビードフィラー18の先端(外周端)がタイヤ最大幅位置(タイヤ断面形状においてタイヤ幅方向寸法が最大になる位置)よりも下方に位置するように、ビードフィラー18の高さHが設定されることである。
【0023】
ここで、ビードフィラー18の高さHとは、
図2に示すように、ビードコア16に圧着される根元側から先端までの距離であり、ビードコア16への貼り付け前の段階における帯状ゴムの部品幅である。
【0024】
押出成形されたビードフィラー18の先端部18Aの角度θは、特に限定されないが、16.0°以下であることが好ましい。先端部18Aの角度が小さいビードフィラー18を用いることにより、生タイヤ成形工程においてビードフィラー18の先端部18Aにおけるエア入りを抑制することができる。
【0025】
ここで、先端部18Aの角度θとは、
図2に示すような断面形状における三角形の頂角の角度であり、側面18Dにおける先端側と根元側を結んだ線分ABと、側面18Eにおける先端側と根元側を結んだ線分DCとのなす角度である。
【0026】
ビード作製工程では、押出機から押し出されたビードフィラー18を、ビードコア16の外周面16Aに貼り付け一体化させる。これにより、
図3及び
図4に示すビード部材32が得られる。なお、
図4における符号38は、ビードコア16を構成する鋼線収束体の周りに設けられたゴム製のカバーテープを示す。
【0027】
その際、本実施形態では、ビードフィラー18の先端部18Aと根元部18Bの温度差が25℃以下の状態で貼り付けを行う。また、該先端部18Aの温度が39℃以上の状態で貼り付けを行う。
【0028】
押出成形後のビードフィラー18は高温であるが、時間の経過とともに冷却される。その際、断面三角形状をなすビードフィラー18は、先端部18Aと根元部18Bとで厚みが異なることから、温度の低下速度が異なり、厚みの薄い先端部18Aほど早く温度が低下する。先端部18Aと根元部18Bとの温度差が大きいと、ビードコア16に貼り付ける際に両者の剛性差が大きくなって、剛性の高い先端部18A側がお辞儀するように撓み変形、即ちカールしやすくなる。これは、未加硫ゴムでは、温度が高いと軟らかく伸びやすい(従って、変形に対して戻ろうとする力が小さい)のに対し、温度が低いと硬く伸びにくい(従って、変形に対して戻ろうとする力が大きい)からである。未加硫のビードコア16において、先端部18Aと根元部18Bとの温度差が大きいと、温度の低い先端部18では伸びにくく戻ろうとする力が大きいので、温度の高い根元部18Bとの間でこの戻ろうとする力の差が大きく、カールが発生しやすくなる。そこで、押出成形後の熱を持った未加硫のビードフィラー18を、その先端部18Aと根元部18Bの温度差が小さい状態のままビードコア16に貼り付ける。これにより、ビード部材32の作製直後のビードフィラー18のカールを抑制することができる。
【0029】
ビードフィラー18を貼り付ける際の先端部18Aの温度は、上記の通り39℃以上であり、先端部18Aが室温まで冷却される前に貼り付ける。これにより、上記のように温度差を小さくしたことと相俟って、貼り付け時における先端部18Aと根元部18Bとの剛性差を抑えて、カールを抑制することができる。ビードフィラー18を貼り付ける際の先端部18Aの温度は、より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは43~70℃である。
【0030】
図5は、ビードコア16にビードフィラー18を貼り付けるための貼付装置52の一例を示す模式図である。貼付装置52は、円筒状の回転ドラム54と、回転ドラム54の軸方向一端側に設けられた回転ドラム54よりも小径の支持リング56とを備える。回転ドラム54の外周には複数の起立片58が伏した状態で配されている。
【0031】
ビードフィラー18の貼り付けに際しては、支持リング56の外周上にビードコア16を載置する。また、押出成形された帯状のビードフィラー18を回転ドラム54の外周面に寝かせた状態で巻き付け、その長さ方向の端部同士を接合して円筒状とする。このとき、ビードフィラー18は、その底面18Cがビードコア16の側面に対向するように寝かせた姿勢となっている。
【0032】
その後、
図6に示すように、起立片58を起立させ、これに伴って円筒状のビードフィラー18を起立させて、ビードコア16の外周面16Aに載せる。これにより、ビードコア16の外周面16Aにビードフィラー18の底面18Cが圧着し、ビードコア16とビードフィラー18を一体化することができる。
【0033】
なお、このようにメカニカル機構を用いてビードフィラー18を貼り付ける代わりに、ゴム袋状部材であるブラダーを備えた回転ドラムを用いて、ブラダーを膨張させることにより、円筒状のビードフィラーを起立させてビードコアの外周面に貼り付けるようにしてもよい。
【0034】
次に、ビード冷却工程について説明する。
【0035】
ビード冷却工程では、上記で得られた未加硫のビード部材32を冷却する。ビード作製工程で得られた熱を持つビード部材32は、そのまま(例えばビードフィラー18を立てた状態)で放冷すると、時間の経過とともにビードフィラー18の先端部18Aが収縮によりカールしてしまう。そのため、例えば
図8に示すように、ビードフィラー18の側面18Dを支持面50上に支持した状態で冷却することにより、冷却時におけるカールを抑制することができる。
【0036】
ビード部材32の冷却は、風の吹き付け等による積極的な冷却を行ってもよいが、室温に放置することによる放冷により行ってもよい。冷却時間は、ビード部材32が持つ熱を取ることができれば、特に限定されず、例えば1時間以上としてもよく、3時間以上としてもよい。
【0037】
上記支持面50は、ビード部材32を寝かした状態で、ビードフィラー18の側面18Dを支持する面であり、
図8に示すように、ビードフィラー18の側面18Dが水平な支持面50に面接触した状態で、ビード部材32が載置される。
【0038】
支持面50の材質は特に限定されず、金属製でも樹脂製でもよい。例えば、水平な支持面を持つ金属製のパンでもよく、あるいはまた
図7に示すような、樹脂製の収納ホルダー60を用いてもよい。
【0039】
支持面50は、ビード部材32の密着を抑制して支持面50からの剥離を容易にするために、微小な凹凸を設ける等の表面加工がなされていてもよく、また支持面50に穴を開けて接触面積を減らすようにしてもよい。
【0040】
なお、上記のようにビードフィラー18の側面18Eに補強テープ36が貼り付けられている場合、補強テープ36が無い方の側面18Dを下にして支持面50上に載置し、冷却することが好ましい。
【0041】
ここで収納ホルダー60について説明する。収納ホルダー60は、ビード部材32を収納した状態で上下に積み重ね可能な樹脂製の器具である。
【0042】
図7に示すように、収納ホルダー60は、ビードフィラー18の側面18Dを支持可能な支持面50を備える円板状の載置部62を有する。載置部62の上面が支持面50である。載置部62の中心部にはビード部材32の内径よりも小径である貫通穴63が設けられており、そのため、この例では載置部62はリング板状をなしており、支持面50も環状に形成されている。
【0043】
載置部62の内周側と外周側には複数の凸部64,66が周方向に一定の間隔をあけて設けられている。すなわち、載置部62の内周側には、複数の凸部64が周上に等間隔に設けられており、また、載置部62の外周側には、複数の凸部66が周上に等間隔に設けられている。なお、かかる凸部64,66は、載置部62の内周側と外周側のいずれか一方のみに設けてもよい。
【0044】
また、
図8に示すように、各凸部64,66の裏面側にはそれぞれ凹部68,70が設けられている。収納ホルダー60はその全体が略一定の肉厚で形成されたものであり、そのため、凸部64,66の裏面側は凹状に形成されて凹部68,70となっている。凹部68,70は、
図9に示すように、複数の収納ホルダー60を積み重ねたときに下段となる収納ホルダー60の凸部64,66がそれぞれ嵌入できるよう構成されている。
【0045】
図7に示すように、載置部62の内周側と外周側には、それぞれ載置部62に対して僅かに隆起したリング状部72,74が設けられており、該リング状部72,74に上記の複数の凸部64,66が設けられている。リング状部72,74には、複数の凸部64,66間の各領域における周方向中央に第1の位置決め突起76,78が設けられている。また、各凸部64,66の上面にはその周方向中央に第2の位置決め突起80,82が設けられている。
【0046】
複数の収納ホルダー60を積み重ねる際に、
図8に示すように、上段となる収納ホルダー60の凸部64,66と下段となる収納ホルダー60の凸部64,66を周方向においてずらして積み重ねることにより、上段と下段の収納ホルダー60,60の載置部62,62間にビード部材32を収納可能な隙間84が形成されるようになっている。
【0047】
その際、上段となる収納ホルダー60の第1の位置決め突起76,78と下段となる収納ホルダー60の第2の位置決め突起80,82とを一致させて、第1の位置決め突起76,78の裏面側の凹所に第2の位置決め突起80,82を嵌合させる。これにより、上段と下段の収納ホルダー60,60は周方向において位置決めされた状態で積み重ねられ、凸部64,66の高さに応じた上記隙間84が形成される。
【0048】
隙間84は、
図8に示すように、上段の収納ホルダー60の載置部62が、その下方に収納されたビード部材32に当接しない高さに設定されている。これにより、上段の載置部62のビード部材32への密着やビード部材32の変形を防止することができる。
【0049】
一方、複数の収納ホルダー60を積み重ねる際に、
図9に示すように、上段となる収納ホルダー60と下段となる収納ホルダー60の凸部64,66同士を一致させて積み重ねることにより、上段となる収納ホルダー60の凹部68,70に下段となる収納ホルダー60の凸部64,66が嵌入された状態となるように構成されている。これにより、上段と下段の収納ホルダー60,60の載置部62,62間の隙間86は、ビード部材32を収納できない程度に狭くなる。
【0050】
該収納ホルダー60を用いてビード部材32を冷却する際には、収納ホルダー60の支持面50にビード部材32を寝かした状態で載置する工程と、ビード部材32が載置された収納ホルダー60の上方に、上段となる収納ホルダー60を、上記のように凸部64,66の位相をずらして積み重ねる工程とを繰り返す。これにより、
図8に示すように、各収納ホルダー60にビード部材32が収納された状態で、複数の収納ホルダー60が積み上げられ、その状態で、例えば室温に放置することによりビード部材32を冷却することができる。
【0051】
また、この収納ホルダー60であると、ビード部材32の冷却に用いないときには、
図9に示すように、上下の収納ホルダー60,60の凸部64,66同士を一致させて積み重ねることにより、載置部62,62間の隙間86を狭くすることができる。そのため、非使用時には収納ホルダー60を省スペースで保管することができる。
【0052】
次に、生タイヤ成形工程について説明する。
【0053】
生タイヤ成形工程では、上記で得られた冷却後のビード部材32を用いて生タイヤを成形する。生タイヤの成形方法としては、公知の方法により行うことができ、特に限定されない。例えば、以下の方法により成形してもよい。
【0054】
まず、
図10(A)に示すように、成形ドラム90の軸方向中央部にインナーライナー30及びカーカスプライ20を巻き付け、また軸方向両端部にサイドウォールゴム26及びリムストリップ28を巻き付ける。これにより、インナーライナー30、カーカスプライ20及びサイドウォールゴム26等を備えるバンド体40が形成される。次いで、
図10(B)に示すように、バンド体40の所定の2箇所における外周上にビード部材32をセットする。その後、
図10(C)に示すように、バンド体40の2つのビード部材32の間の部分を外径方向にシェーピングして、その外径側に配置されたベルト22及びトレッドゴム24と合体させ、更に、ブラダー42を用いてビード部材32を巻き込むようにバンド体40の両端部をターンアップすることにより、未加硫タイヤである生タイヤ34が成形される。
【0055】
このようにして生タイヤ34を成形した後、加硫成型が行われる。加硫成型では、生タイヤ34が金型に入れられ、所定時間、所定温度で保持される。その後、金型から脱型することにより、空気入りタイヤが得られる。
【0056】
本実施形態であると、押出成形されたビードフィラー18をその先端部18Aと根元部18Bの温度差が小さい状態でビードコア16と一体化させてビード部材32を作製し、かつ、作製後のビード部材32を、ビードフィラー18の側面18Dを支持する支持面50上に載せた状態で冷却する。そのため、ビード部材32の作製直後のビードフィラー18のカールを抑制することができるとともに、冷却時におけるカールも抑制することができる。このようにカールが抑制されたビード部材32を用いて生タイヤ34を成形するので、空気入りタイヤの成形不良を抑制することができる。
【0057】
なお、ビードフィラー18を十分に冷却してからビードコア16に貼り付けてビード部材32を形成することによってもカールの抑制は可能である。しかしながら、その場合、帯状に押し出されたビードフィラーを一定の寸法に切断した後、室温まで冷却する際に両端部が収縮することにより部材精度が悪化することが懸念される。また、ビード部材を作製する前にビードフィラーを冷却するための時間が別途必要になる。本実施形態によれば、押出成形後のビードフィラー18を、冷却する前の高温の状態でビードコア16に貼り付けるため、これらの問題点を解消することができる。
【0058】
本実施形態に係る収納ホルダー60であると、ビード部材32を収納した状態で上下に積み重ね可能であり、上段の載置部62のビード部材32への密着及びビード部材32の変形を抑制しながら、複数のビード部材32を冷却することができる。また、非使用時に収納ホルダー60を省スペースで保管することができる。
【0059】
本実施形態において、製造対象とする空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック、バス、ライトトラック(例えば、SUV車やピックアップトラック)などの重荷重用タイヤなど、各種車両用のタイヤが挙げられる。一実施形態として、ビードフィラーの高さが大きい重荷重用空気入りタイヤの製造に好適である。
【実施例】
【0060】
本実施形態の効果を具体的に示す実施例および比較例について説明する。
図4に示す断面形状を持つビード部材32について、ビード部材32の作製及び冷却を行ってカールの有無を評価した。
【0061】
押出成形後のビードフィラー18の断面形状は
図2に示す通りであり、ビードフィラー18の高さHは90mm、先端部18Aの角度θは16°とした。
【0062】
ビード作製工程において、ビードフィラー18の貼り付ける際のビードフィラー18の温度は、回転ドラム54にビードフィラー18を貼り付け、ビードフィラー18を起こす直前(
図5参照)に測定した。測定方法は、接触式温度計により内部温度を測定した。測定位置は、先端部18Aの温度については先端から10mmの位置(
図2における符号X1)とし、根元部18Bの温度については根元側の端から10mmの位置(
図2における符号X2)とした。
【0063】
実施例1では、押出成形後の熱を持つビードフィラー18を用いて、先端部18Aの温度=43℃、先端部18Aと根元部18Bとの温度差=24℃の状態で、
図6に示すようにビードフィラー18を起立させてビードコア16に貼り付けた。その後、
図7に示す収納ホルダー60を用いて
図7及び
図8に示すようにビード部材32を寝かした状態(平積み)で、3時間、室温に放置することにより冷却した。貼り付け直後及び冷却後において、ビードフィラー18におけるカールの有無を調べた。
【0064】
実施例2及び比較例1,2として、先端部18Aの温度及び先端部18Aと根元部18Bとの温度差を下記表1に記載の通りとし、その他は実施例1と同様にして、ビード部材32の作製及び冷却を行った。
【0065】
比較例3では、ビード部材32の作製後の冷却工程において、収納ホルダー60を用いることなく、ビードコア16の内周面を支持することでビード部材32を立てた状態(縦置き)で冷却し、その他は実施例1と同様に実施した。
【0066】
【0067】
表1に示すように、先端部と根元部の温度差が大きい比較例1では、貼り付け直後にビードフィラー18にカールが発生し、冷却後においてもカールが生じたままであった。比較例2では、先端部と根元部の温度差は小さかったものの、先端部が室温まで冷却されていたため、貼り付け直後にビードフィラー18にカールが発生した。比較例3では、先端部と根元部の温度差が小さいために貼り付け直後ではビードフィラー18にカールは生じなかったものの、貼り付け後にビードフィラー18の側面18Dを支持せずに冷却したため、冷却時にカールが生じた。
【0068】
これに対し、先端部と根元部の温度差が小さくかつ先端部の温度が高く、更に平積みにより冷却した実施例1,2では、貼り付け直後にビードフィラー18にカールが生じておらず、かつ、冷却後にもカールは生じなかった。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
10…ビード部、16…ビードコア、18…ビードフィラー、18A…先端部、18B…根元部、18D…側面、32…ビード部材、34…生タイヤ、50…支持面、60…収納ホルダー、62…載置部、64,66…凸部、68,68…凹部、84…隙間