(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】インクジェット用オーバーコート組成物及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20221011BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20221011BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221011BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/38
B41J2/01 109
B41J2/01 501
B41M5/00 134
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2018207805
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵介
(72)【発明者】
【氏名】相良 園子
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080117(JP,A)
【文献】特表2002-532310(JP,A)
【文献】特開2003-55571(JP,A)
【文献】特開2014-114280(JP,A)
【文献】特開2018-150526(JP,A)
【文献】特開2016-124278(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098603(WO,A1)
【文献】特表2018-62577(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029866(WO,A1)
【文献】特表平10-504052(JP,A)
【文献】特開2001-2964(JP,A)
【文献】特開2018-159036(JP,A)
【文献】特開2016-145184(JP,A)
【文献】特表2008-517730(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1583898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D 11/00- 13/00
C09D101/00-201/10
B41J 2/01
B41J 2/165- 2/20
B41J 2/21- 2/215
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用オーバーコート組成物であって、
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体と、
前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体に対する中和が可能な中和剤と、
プロピレングリコールと、
溶媒とを含み、
前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体が分散状態で存在
しており、
前記インクジェット用オーバーコート組成物の25℃における粘度が3mPa・s~12mPa・sの範囲内であるインクジェット用オーバーコート組成物。
【請求項2】
前記中和剤が、前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体を部分中和することで、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体をインクジェット用オーバーコート組成物中で分散させる請求項1に記載のインクジェット用オーバーコート組成物。
【請求項3】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体の中和度が2.5mol%~35mol%の範囲内である請求項1又は2に記載のインクジェット用オーバーコート組成物。
【請求項4】
前記中和剤が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、アンモニア及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェット用オーバーコート組成物。
【請求項5】
前記インクジェット用オーバーコート組成物が、固体製剤の表面に設けるオーバーコート層の形成に用いられるものであり、可食性を有する請求項1~4の何れか1項に記載のインクジェット用オーバーコート組成物。
【請求項6】
記録媒体上に印刷画像を形成するインク層が設けられた印刷物であって、
前記インク層上に当該インク層を保護するためのオーバーコート層が設けられており、
前記オーバーコート層がインクジェット用オーバーコート液の乾燥皮膜からなり、
前記インクジェット用オーバーコート液は、請求項1~5の何れか1項に記載のインクジェット用オーバーコート組成物を含むものである印刷物。
【請求項7】
前記記録媒体が固体製剤である請求項6に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用オーバーコート組成物及び印刷物に関し、より詳細には、記録媒体の印刷画像に対し耐擦過性等を向上させ、かつ、印刷画像の転写を防止又は低減することが可能なインクジェット用オーバーコート組成物及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の固体製剤(例えば、錠剤やカプセル剤等)への印刷に用いるインクジェット用インクは、薬事法等で定められた原材料で構成される必要がある。固体製剤印刷用のインクジェット用インクは、水溶性の食用タール色素等を色材とする染料インク(例えば、特許文献1)と、可食性の酸化鉄顔料等を色材とする顔料インク(例えば、特許文献2)とに分類され、それぞれ販売等されている。
【0003】
これらのインクジェット用インクを用いて、例えば、口腔内崩壊錠に対しインクジェット方式で画像印刷を行うと、インクジェット用インクは口腔内崩壊錠の内部に浸透して定着する。そのため、インクジェット用インクの定着不良が問題となることは少ない。他方、フィルムコート(FC)錠、糖衣錠及びカプセル錠は、口腔内崩壊錠と比べ、表面が平滑な錠剤である。そのため、インクジェット用インクはこれらの錠剤の内部に浸透して定着するのが困難である。従って、印刷画像が被接触物に接触した場合には、印刷画像の転写により画質が低下するという問題がある。
【0004】
このような印刷画像の転写の問題に対しては、インクジェット用インク中に水溶性高分子化合物や高分子エマルションをバインダーとして添加することで、固体製剤に対するインクジェット用インクの定着性を向上させる方法が考えられる。しかし、定着性の向上のために、インクジェット用インクに水溶性高分子化合物等のバインダーを多量に添加すると、粘度が過度に大きくなり、吐出安定性やインク滴の飛翔性が低下するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-236279号
【文献】特開2015-140414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、インクジェット方式での印刷に用いることができ、吐出安定性に優れ、記録媒体に印刷された画像に対する耐擦過性及び耐摩耗性の向上と、画像の転写の防止又は低減とが可能なインクジェット用オーバーコート組成物及び印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用オーバーコート組成物は、前記の課題を解決するために、インクジェット用オーバーコート組成物であって、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体と、前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体に対する中和が可能な中和剤と、プロピレングリコールと、溶媒とを含み、前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体が分散状態で存在することを特徴とする。
【0008】
前記構成におけるメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体(以下、「メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等」という場合がある。)は、記録媒体、及び印刷画像を形成するインク層に対し、優れた定着性を示すコーティング剤として機能する。中和剤は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和(完全中和及び部分(不完全)中和の両方を含む。)を可能にする。これにより、分散して存在するメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等のD50及びD99が大きくなり過ぎるのを防止する。そして、インクジェット方式で印刷を行う際には、インクジェット用オーバーコート組成物(以下、「オーバーコート組成物」という場合がある。)がインクジェットヘッドのノズル近傍で目詰まりするのを防止し、良好な吐出安定性を可能にする。また、プロピレングリコールも、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出安定性を良好に維持して、飛翔性が低下するのを抑制する。
【0009】
ここで、プロピレングリコールの含有は、オーバーコート組成物を用いたオーバーコート層形成の際の製膜温度の低下も図ることができる。すなわち、オーバーコート層の形成の際には、記録媒体上に塗布したオーバーコート組成物の塗布層に熱を加えてオーバーコート層を製膜する。プロピレングリコールの含有は、このときの製膜温度の低減を可能にするものであり、これによりオーバーコート層形成の際の作業効率の向上を図ることができる。さらに、プロピレングリコールの含有は、オーバーコート組成物を用いて形成されたオーバーコート層の光透明性についても良好にする。これにより、印刷画像の視認性の低下を抑制することが可能なオーバーコート組成物を提供することができる。
【0010】
すなわち、前記の構成であると、吐出安定性に優れ、インクジェット方式での印刷を好適に行うことが可能なオーバーコート組成物を提供することができる。そして、前記構成のオーバーコート組成物であると、記録媒体に印刷された画像に対して、視認性を低下させることなく耐擦過性及び耐摩耗性を向上させると共に、その転写を防止又は低減させることができる。
【0011】
前記の構成においては、前記中和剤が、前記メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体を部分中和することで、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体をインクジェット用オーバーコート組成物中で分散させるものであってもよい。中和剤がメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を部分中和するものである場合、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等をオーバーコート組成物中で良好に分散させることが可能になる。その結果、オーバーコート組成物中に別途、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を分散させるための分散剤の添加を省略することができる。
【0012】
前記の構成においては、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体の中和度が2.5mol%~35mol%の範囲内であることが好ましい。メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度を2.5mol%以上にすることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の粗大粒子化を防止すると共に インクジェットヘッドにおけるオーバーコート組成物のノズル詰まりを抑制し、良好な吐出安定性を維持することができる。その一方、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度を35mol%以下にすることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の分散粒子径D50が大きくなり過ぎるのを防止し、オーバーコート組成物の粘度が過度に大きくなるのを抑制することができる。その結果、オーバーコート組成物の吐出安定性の低下を抑制することができる。
【0013】
前記の構成においては、前記中和剤が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、アンモニア及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物を中和剤として用いることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度の制御を容易にする。その結果、オーバーコート組成物中で分散状態にあるメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等のD50及びD99が過度に大きくなるのを防止すると共に、オーバーコート組成物の粘度の上昇も抑制し、吐出安定性を一層向上させることができる。
【0014】
前記の構成においては、前記インクジェット用オーバーコート組成物が、固体製剤の表面に設けるオーバーコート層の形成に用いられるものであり、可食性を有することが好ましい。
【0015】
本発明に係る印刷物は、前記の課題を解決するために、記録媒体上に印刷画像を形成するインク層が設けられた印刷物であって、前記インク層上に当該インク層を保護するためのオーバーコート層が設けられており、前記オーバーコート層がインクジェット用オーバーコート液の乾燥皮膜からなり、前記インクジェット用オーバーコート液は、前記インクジェット用オーバーコート組成物を含むものであることを特徴とする。
【0016】
前記の構成によれば、オーバーコート層はインクジェット用オーバーコート液(以下、「オーバーコート液」という場合がある。)の乾燥皮膜からなり、当該オーバーコート液は前述のオーバーコート組成物を含むものである。そして、オーバーコート組成物には、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体を含むものであるので、記録媒体及びインク層に対し優れた定着性を示す。これにより、インク層を良好な定着性のオーバーコート層で被覆して保護することが可能になり、インク層の耐擦過性及び耐摩耗性を向上させると共に、当該インク層の転写を防止又は低減させた印刷物の提供が可能になる。
【0017】
また、オーバーコート組成物には、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を中和する中和剤が含まれており、当該中和剤を含むことで、分散して存在するメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等のD50及びD99が大きくなり過ぎるのを防止し、インクジェット方式でのオーバーコート層の形成(印刷)を可能にしている。さらに、オーバーコート組成物にはプロピレングリコールが含まれており、これによりインクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を良好に維持して、飛翔性が低下するのを抑制している。その結果、例えば、記録媒体が表面の平滑性に劣る素錠や口腔内崩壊錠等の場合でも、インクジェット方式で直接印刷してオーバーコート層を形成することができる。
【0018】
前記の構成においては、前記記録媒体を固体製剤とすることができる。これにより、印刷画像に対し耐擦過性や耐摩耗性等を付与することができ、印刷画像の転写等により画質が低下するのを抑制した固体製剤が得られる。すなわち、前記構成によれば、固体製剤に対する印刷の歩留まりの向上が図れ、製品情報を印刷する場合には、調剤ミスや誤飲等の発生を低減することが可能な固体製剤の提供が図られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インクジェット用オーバーコート組成物に、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体を含有させることで、記録媒体、及び印刷画像を形成するインク層に対し優れた定着性を付与することができる。また、インクジェット用オーバーコート組成物に、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を中和することが可能な中和剤を含有させることで、インクジェット方式での印刷を可能にする。さらに、インクジェット用オーバーコート組成物にプロピレングリコールを含有させることで、インクジェット方式での印刷の際の吐出安定性を良好に維持し、飛翔性の低下を抑制することができる。
【0020】
すなわち、本発明であると、インクジェット方式でのオーバーコート層の印刷に用いることができ、記録媒体に印刷された画像に対して、耐擦過性及び耐摩耗性を向上させると共に、その転写を防止又は低減させることが可能なインクジェット用オーバーコート組成物及び印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施例7~22に係るオーバーコート組成物において、中和度とD50との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例7~22に係るオーバーコート組成物において、中和度とD99との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例7~22に係るオーバーコート組成物において、中和度と粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(インクジェット用オーバーコート組成物)
本実施の形態に係るインクジェット用オーバーコート組成物(以下、「オーバーコート組成物」という。)について、以下に説明する。
【0023】
本実施の形態のオーバーコート組成物は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、及びメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体の少なくとも何れか一方(以下、「メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等」という場合がある。)と、中和剤と、プロピレングリコールとを少なくとも含み、主溶媒を水とする組成物である。本実施の形態のオーバーコート組成物は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有するものにすることができ、かつ、インクジェット方式での印刷に好適に用いることができる。
【0024】
本明細書において「可食性」とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められているものを意味する。また、本明細書において「インクジェット方式」とは、オーバーコート組成物を微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体やインク層上に定着させ、オーバーコート層を形成させる方式を意味する。尚、記録媒体の詳細については、後述する。
【0025】
オーバーコート組成物は、可視光領域(400nm~760nm)での光透過性を有していることが好ましい。これにより、当該オーバーコート組成物を含むインクジェット用オーバーコート液を用いてオーバーコート層を形成した場合に、当該オーバーコート層の可視光に対する光透過性を付与することができる。尚、オーバーコート組成物が有する光透過性は無色である場合の他、有色であってもよい。また、本明細書において「光透過性」とは、入射した可視光の少なくとも一部を透過する性質を意味する。
【0026】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等は、後述する記録媒体、及び印刷画像を形成するインク層に対し、優れた定着性を示すコーティング剤として機能する。また、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等はオーバーコート組成物中に分散した状態で存在する。
【0027】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸との共重合体である。メタクリル酸メチルの含有量は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体100質量%に対し、30質量%~70質量%の範囲内であることが好ましい。また、メタクリル酸の含有量は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体100質量%に対し、70質量%~30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0028】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体としては、例えば、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、以下の商品名の市販品により入手可能である。
【0029】
・メタクリル酸コポリマーL:
EUDRAGIT(登録商標) L100(商品名、メタクリル酸メチル50質量%とメタクリル酸50質量%、エボニックデグサジャパン(株)製)
【0030】
・メタクリル酸コポリマーS:
EUDRAGIT(登録商標) S100(商品名、メタクリル酸メチル70質量%とメタクリル酸30質量%、エボニックデグサジャパン(株)製)
【0031】
メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体は、アクリル酸エチルとメタクリル酸との共重合体である。アクリル酸エチルの含有量は、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体100質量%に対し、40質量%~60質量%の範囲内であることが好ましい。また、メタクリル酸の含有量は、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体100質量%に対し、60質量%~40質量%の範囲内であることが好ましい。
【0032】
メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体としては、例えば、メタクリル酸コポリマーLD(メタクリル酸とアクリル酸エチルの、ポリソルベート 80(日本薬局方)及びラウリル硫酸ナトリウム(日本薬局方)水溶液中で得られた共重合体の乳濁液)、乾燥メタクリル酸コポリマーLD等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、以下の商品名の市販品により入手可能である。
【0033】
・メタクリル酸コポリマーLD:
EUDRAGIT(登録商標) L30D-55(商品名、アクリル酸エチル50質量%とメタクリル酸50質量%、エボニックデグサジャパン(株)製)、Kollicoat(登録商標) MAE 30D(商品名、BASFジャパン(株)製)、Kollicoat(登録商標) MAE 30DP(商品名、BASFジャパン(株)製)、DSP五協フード&ケミカル(株)製のメタクリル酸コポリマーLD、ポリキッド(登録商標)PA-30(商品名、三洋化成工業(株)製)、ポリキッド(登録商標)PA-30S(商品名、三洋化成工業(株)製)
【0034】
・乾燥メタクリル酸コポリマーLD:
EUDRAGIT(登録商標) L100-55(商品名、アクリル酸エチル50質量%とメタクリル酸50質量%、エボニックデグサジャパン(株)製)、Kollicoat(登録商標) MAE 100-55(商品名、BASFジャパン(株)製)、Acryl-EZE(登録商標)(商品名、カラコン社製)、Acryl-EZE(登録商標) MP(商品名、カラコン社製)
【0035】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量は、オーバーコート組成物の全質量に対し、2質量%~15質量%の範囲内が好ましく、3質量%~10質量%の範囲内がより好ましく、4質量%~7質量%の範囲内が特に好ましい。含有量を2質量%以上にすることにより、印刷画像の耐擦過性及び耐摩耗性を向上させると共に、その転写の防止又は低減も図ることができる。その一方、含有量を15質量%以下にすることにより、インクジェットヘッドのノズル詰まりを防止し、吐出安定性を良好に維持して飛翔性が低下するのを防止することができる。また、オーバーコート組成物の粘度の上昇も抑制することができる。
【0036】
分散状態にあるメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で50%の粒子径(D50)は、100nm~1000nm以下の範囲内が好ましく、200nm~700nmの範囲内がより好ましい。また、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で99%の粒子径(D99)は、250nm~6500nmの範囲内が好ましく、300nm~1300nmの範囲内がより好ましい。D50を100nm以上にすることにより、分散安定性及び吐出安定性の悪化を防止することができる。その一方、D50を1000nm以下にすることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の分離や沈降を防止し、分散安定性の維持が図れる。尚、オーバーコート組成物中に複数種のメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体及び/又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体が含まれる場合は、各々の共重合体のD50及びD99が前記数値範囲に含まれていればよい。また、D50及びD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0037】
中和剤は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和を行う。ここで、本明細書において「中和」とは、完全中和と部分(不完全)中和の両方を含む意味である。完全中和とは、中和剤がメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を中和した結果、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度が100mol%であることを意味する。また、部分(不完全)中和とは、中和剤がメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を中和した結果、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度が0mol%を超えて、100mol%未満であることを意味する。尚、中和度が0mol%の場合は、未中和となる。
【0038】
中和剤によるメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和は、部分中和であることが好ましい。これにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等をオーバーコート組成物中で良好に分散させることが可能になる。メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の完全中和であると、オーバーコート組成物が増粘する結果、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量を増やすことが困難になる場合がある。また、オーバーコート組成物の吐出安定性が低下する場合もある。尚、別途、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等をオーバーコート組成物中で分散させる分散剤を添加してもよい。
【0039】
中和剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、アンモニア及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの化合物を中和剤として用いることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度の制御を容易にする。さらに、中和度の制御により、オーバーコート組成物中で分散状態にあるメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等のD50及びD99が過度に大きくなるのを防止し、またオーバーコート組成物の粘度についても過度な上昇を抑制する。その結果、インクジェット用オーバーコート組成物の吐出安定性を一層向上させることができる。また、例示した中和剤は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の部分中和により、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等をオーバーコート組成物中で良好な状態で分散させることができる。
【0040】
さらに、例示した中和剤は、水酸化カルシウム等と比較して析出し難い物性を有するため、インクジェットヘッドでのオーバーコート組成物のノズル詰まりを防止し、良好な吐出安定性を維持することができる。また、例示した中和剤のうち、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムは、例えば、アンモニアと比較して揮発し難い物性を有している。そのため、オーバーコート組成物の粘度上昇をさらに防止することができる。さらに、中和剤として水酸化ナトリウムを用いる場合には、炭酸ナトリウム等のナトリウム塩と異なり、炭酸ガスを発生させないため、一層好適である。
【0041】
プロピレングリコールは、オーバーコート組成物を用いてインクジェット方式により印刷する際に、インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を良好に維持する。また、オーバーコート組成物の液滴の飛翔性が低下するのを抑制することができる。本実施の形態のオーバーコート組成物にプロピレングリコールが含まれない場合、インクジェット方式での印刷が困難になる。また、プロピレングリコールは薬事法等の基準に適合するものであるので、固体製剤への印刷にも適用可能である。
【0042】
プロピレングリコールの含有量は、オーバーコート組成物の全質量に対し、20質量%~40質量%の範囲内が好ましく、25質量%~38質量%の範囲内がより好ましく、30質量%~35質量%の範囲内が特に好ましい。含有量を20質量%以上にすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを一層防止して、良好な吐出安定性を維持することができる。さらに、オーバーコート層を製膜する際の製膜温度を十分に低減することができ、作業効率の向上が図れる。その一方、含有量を40質量%以下にすることにより、乾燥時間の長期化を防止し、オーバーコート組成物の粘度上昇による飛翔性の低下を防止することができる。
【0043】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等に対するプロピレングリコールの含有比は、質量基準で1:4.5~1:8の範囲内が好ましく、1:5~1:7の範囲内がより好ましい。含有比を1:4.5以上にすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを一層防止して、良好な吐出安定性を維持することができる。さらに、オーバーコート層を製膜する際の製膜温度を十分に低減することができ、作業効率の向上が図れる。また、記録媒体への浸透性及びオーバーコート層の平滑性を向上させることができる。その一方、含有比を1:8以下にすることにより、乾燥時間の長期化を防止し、オーバーコート組成物の粘度上昇による飛翔性の低下を防止することができる。
【0044】
また、本実施の形態のオーバーコート組成物においては、その他の添加剤が配合されていてもよい。その他の添加剤としては、表面張力調整剤、分散剤、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。本実施の形態のオーバーコート組成物を食品製剤や医薬製剤等の固体製剤表面への印刷に用いる場合、これらの他の添加剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであることが好ましい。
【0045】
表面張力調整剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。前記グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。尚、例示した表面張力調整剤は何れも薬事法等の基準に適合するものであるので、固体製剤への印刷にも適用可能である。
【0046】
カプリル酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、リョートー(登録商標)ポリグリエステル CE19D(商品名、三菱化学フーズ(株)製、HLB値15)、SYグリスターMCA750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)等が挙げられる。
【0047】
尚、前記HLBの値は、グリフィン法によるHLB値であり、下記式によって得られる値を意味する。
HLB値=20×(親水基の式量の和/分子量)
HLB値は0~20の範囲内の値となり、HLB値が大きいほど親水性が強くなり、HLB値が小さいほど疎水性が強くなる。
【0048】
ラウリン酸デカグリセリルとしては、HLBが15以下のものを用いることができる。HLBが15を超えるラウリン酸デカグリセリルであると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値14.8)等が挙げられる。
【0049】
オレイン酸デカグリセリルとしては、HLBが13未満のものを用いることができる。HLBが13以上であると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。尚、HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値12)、SYグリスターMO-7S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値12.9)等が挙げられる。
【0050】
ラウリン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) HEXAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-500(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値13.5)等が挙げられる。
【0051】
オレイン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターMO-5S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値11.6)等が挙げられる。
【0052】
縮合リノレン酸テトラグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターCR-310(商品名、阪本薬品工業(株)製)等が挙げられる。
【0053】
脂肪酸エステルヤシパームとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、チラバゾールW-01(商品名、太陽化学(株)製)等が挙げられる。
【0054】
表面張力調整剤の含有量は、オーバーコート組成物の全質量に対し、0.1質量%~10質量%の範囲内が好ましく、0.5質量%~5質量%の範囲内がより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行った場合に、インクジェットヘッドにおけるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が10質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0055】
分散剤は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等をオーバーコート組成物中で好適に分散させるために添加することができる。中和剤がメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を分散させる分散剤としての機能を併せ持つ場合は、分散剤の含有を省略することができる。
【0056】
分散剤としては特に限定されず、例えば、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0057】
尚、分散剤、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤、酸化防止剤、還元防止剤等の添加剤に関し、それぞれのオーバーコート組成物における含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0058】
本実施の形態のオーバーコート組成物においては、水(主溶媒としての水)を含有する。前記水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、水の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0059】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度は、2.5mol%~35mol%の範囲内が好ましく、10mol%~15mol%の範囲内がより好ましい。中和度を2.5mol%以上にすることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の粗大粒子化を防止すると共に、インクジェットヘッドにおけるオーバーコート組成物のノズル詰まりを抑制し、良好な吐出安定性を維持することができる。その一方、中和度を35mol%以下にすることにより、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等のD50を700nm以下に抑制することができる。また、D99を1300nm以下に抑制することができる。さらに、オーバーコート組成物の粘度も10mPa・s以下に抑制して、粘度の過度な上昇を防止することができる。その結果、オーバーコート組成物の吐出安定性の向上が図れる。
【0060】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度の値は、中和剤の添加量を調整することで、目的の値に制御可能である。そして、中和剤の添加量はメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の酸価の値に基づき、以下の方法により算出することができる。
すなわち、例えば、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等としてメタクリル酸コポリマーS(EUDRAGIT(登録商標) S100)を用いる場合、当該メタクリル酸コポリマーSの含有量をXgとし、その中和度がYmol%となる様に調整したいときは、中和剤の添加量は以下の式により算出可能である。
(中和剤の添加量(g))=((メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量X(g))/1000)×(メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の酸価)/56.11×(中和剤の分子量)/(中和剤の価数)×(Y(mol%)/100)
【0061】
オーバーコート組成物の粘度は、インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を考慮すると、ノズル吐出時において、3mPa・s~12mPa・sが好ましく、3mPa・s~10mPa・sがより好ましく、3mPa・s~8mPa・sがより好ましい。オーバーコート組成物の粘度を前記数値範囲内にすることにより、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まりの発生を抑制して良好な吐出安定性の維持を図ることができ、飛翔性の低下を抑制することができる。尚、オーバーコート組成物の粘度は、例えば、振動式粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で測定することにより得られる。
【0062】
オーバーコート組成物の粘度は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度を変更することによっても制御可能である。すなわち、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度を小さくすることにより、粘度を低下させることができる。例えば、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和度を35mol%以下にすることにより、オーバーコート組成物の粘度を10mPa・s以下に抑制することができる。また、オーバーコート組成物の粘度は、プロピレングリコールの含有量を変更することによっても制御可能である。すなわち、プロピレングリコールの含有量を少なくすることにより、オーバーコート組成物の粘度を低下させることができる。
【0063】
(インクジェット用オーバーコート組成物の製造方法)
本実施の形態に係るオーバーコート組成物の製造方法は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を溶媒に添加する工程と、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を添加後の溶媒に中和剤を添加する工程と、中和剤添加後の溶媒にプロピレングリコールを添加する工程とを少なくとも含む。
【0064】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の溶媒への添加は、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の凝集を防止しながら行うのが好ましい。具体的には、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を少量ずつ時間をかけて溶媒に加えるのが好ましい。この場合、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の添加時間(すなわち、添加に要する時間)は特に限定されず、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の添加量等に応じて適宜設定され得る。
【0065】
また、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の溶媒への添加は、撹拌しながら、又は添加後に撹拌して行われる。撹拌を行うことで、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の凝集を抑制することができる。添加後の撹拌時間は特に限定されず、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の添加量等に応じて適宜設定され得る。
【0066】
メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の溶媒への添加量は、作製されるオーバーコート組成物中において、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量が、前述の2質量%~15質量%の範囲内となる様に設定されるのが好ましい。
【0067】
中和剤の溶媒への添加は、溶媒中に存在するメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の中和を目的とするものである。メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を部分中和させる場合は、分散剤なしに、当該メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を良好な分散状態で存在させることができる。
【0068】
また、中和剤の溶媒への添加は、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の凝集を防止しながら行うのが好ましい。具体的には、中和剤を少量ずつ時間をかけて溶媒に加えるのが好ましい。この場合、中和剤の添加時間(すなわち、添加に要する時間)は特に限定されず、中和剤の添加量や、溶媒中に添加されているメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量等に応じて適宜設定され得る。
【0069】
さらに、中和剤の溶媒への添加は、撹拌しながら、又は添加後に撹拌して行われる。撹拌を行うことで、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の凝集を抑制することができる。添加後の撹拌時間は特に限定されず、中和剤の添加量や、溶媒中に添加されているメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量等に応じて適宜設定され得る。
【0070】
プロピレングリコールの溶媒への添加後にも、撹拌が行われる。撹拌を行うことで、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の凝集を抑制することができる。添加後の撹拌時間は特に限定されず、プロピレングリコールの添加量や、溶媒中に添加されているメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の含有量等に応じて適宜設定され得る。
【0071】
プロピレングリコールの溶媒への添加量は、作製されるオーバーコート組成物中において、プロピレングリコールの含有量が、前述の20質量%~40質量%の範囲内となる様に設定されるのが好ましい。
【0072】
さらに、必要に応じて、表面張力調整剤等の他の添加剤を含有させる場合には、プロピレングリコールの添加又は撹拌後に、他の添加剤を溶媒に添加すればよい。そして、他の添加剤を添加する場合にも、撹拌しながら、又は添加後に撹拌するのが好ましい。これにより、本実施の形態に係るオーバーコート組成物を得ることができる。
【0073】
尚、中和剤とは別に他の添加剤として分散剤を添加する場合には、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等の溶媒への添加後、中和剤の添加前に分散剤を添加することができる。そして、分散剤の添加は、撹拌しながら、又は添加後に撹拌して行うのが好ましい。
【0074】
各工程における撹拌には、例えば、ディスパー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー、ペイントシェーカ、ホモミクサー、ダイノミル等の分散機や撹拌装置を用いることができる。また、得られたオーバーコート組成物に対し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するために濾過を行ってもよい。濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0075】
(インクジェット用オーバーコート液)
本実施の形態のインクジェット用オーバーコート液(以下、「オーバーコート液」という場合がある。)は、前述のオーバーコート組成物を少なくとも含む。特に、薬事法等で定められている医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合したメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等及び中和剤等を用いたオーバーコート組成物を用いた場合には、オーバーコート液は可食性を有しているので、医薬品又はサプリメント等の錠剤やカプセル剤からなる固体製剤の表面に直接印刷することが可能である。また、素錠及びOD錠など表面の平滑性が悪い錠剤に対しても、インクジェット方式による非接触印刷を可能にする。
【0076】
(印刷物)
本実施の形態の印刷物は、印刷画像を構成するインク層が設けられた記録媒体上に、可視光領域で光透過性を有するオーバーコート層(保護層)が少なくとも設けられたものである。オーバーコート層は、オーバーコート液の乾燥皮膜からなる。そして乾燥皮膜は、オーバーコート組成物中に含まれていたメタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等により少なくとも構成される。
【0077】
ここで、本明細書において「光透過性」とは、入射した可視光の少なくとも一部を透過する性質を意味する。より具体的には、厚さ1μmのオーバーコート層に対し、波長域が400nm~800nmの可視光の透過率が、オーバーコート層が存在しない場合に対し、50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の場合である。
【0078】
インク層は印刷画像を形成するものであり、例えば、インクジェット用水性インクの乾燥皮膜からなる。インクジェット用水性インクとしては、染料インク及び顔料インクが含まれる。また、印刷画像の種類は特に限定されず、絵柄、文字、模様及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、記録媒体が固体製剤である場合には、印刷画像は当該文字等により表された製品情報として表される。
【0079】
オーバーコート層は記録媒体の印刷画像(インク層)を覆う様に設けられている。オーバーコート層を設けることで、記録媒体に印刷された印刷画像の保護を図ることが可能になる。その結果、印刷面が接触物に接触することにより印刷画像が当該接触物に転写し、画質が低下するのを防止することができる。また、オーバーコート層が印刷画像を保護することで、耐擦過性、耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することもできる。
【0080】
オーバーコート層は可視光領域において無色の光透過性を有している。特に、本実施の形態のオーバーコート層は、プロピレングリコールを含有させたオーバーコート組成物を材料にして形成されたものである。プロピレングリコールを含まないオーバーコート組成物を材料に形成されたオーバーコート層と比較して、本実施の形態のオーバーコート層は光沢性を失わず、光透明性に優れている。そのため、オーバーコート層を介して印刷画像を観察したときの視認性を良好なものにしている。尚、本発明は、印刷画像の視認性に悪影響を及ぼさない限り、オーバーコート層が、色補正やその他の特別な目的等のために有色の光透過性を有することを妨げるものではない。
【0081】
オーバーコート層の(乾燥塗布後の)厚さは、オーバーコート液の組成や要求される印刷画像の保護性能等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、オーバーコート層の厚さは0.1μm~3μmの範囲内であり、好ましくは0.3μm~2μm、より好ましくは0.4μm~1μmである。オーバーコート層の厚さを0.1μm以上にすることにより、印刷画像の熱安定性や光安定性の確保が図れる。また、印刷画像に対する耐擦過性及び耐摩耗性(又は耐摩擦性)の向上を図ることができ、これにより印刷画像の転写等を防止することができる。その一方、オーバーコート層の厚さを3μm以下にすることにより、印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。
【0082】
オーバーコート層は、インクジェット方式での印刷により形成可能である。印刷条件については特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。ここで、オーバーコート層を形成する際には、記録媒体上に塗布されたオーバーコート組成物の塗布層に対し、例えば、温風を吹き付けることで加熱乾燥が行われる。このとき、オーバーコート組成物には、プロピレングリコールが含まれているので、オーバーコート層を製膜させる際の製膜温度を低減することができる。これにより、塗布層に対する加熱温度を低減することができ、作業効率の向上が図れる。製膜温度としては、30℃~70℃の範囲内が好ましく、40℃~65℃の範囲内がより好ましい。
【0083】
記録媒体としては特に限定されず、従来公知のものを採用することができる。具体的には、例えば、固体製剤や印刷用紙等が挙げられる。ここで、本明細書において、「固体製剤」とは食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD錠(口腔内崩壊錠)、素錠、FC(フィルムコート)錠、糖衣錠等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。また、固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。記録媒体として固体製剤に適用した場合には、製品情報など使用者に対し識別性を向上させるために印刷した各種情報の印刷画像の劣化を防止することが可能になることから、長期にわたって良好な視認性を維持し、調剤ミスや誤飲の防止を可能にした固体製剤を提供することができる。尚、印刷用紙としては、例えば、アート紙、コート紙、及びマット紙等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、インクジェット用オーバーコート組成物の各材料は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0085】
(染料インクの作製)
表1に示す通り、3質量%の赤色102号(ダイワ化成(株)製)、1質量%の緑色3号(ダイワ化成(株)製)、1質量%の黄色4号(ダイワ化成(株)製)、6質量%の還元イソマルツロース(褪色抑制剤、三井製糖(株)製)、2質量%のカプリル酸デカグリセリル(表面張力調整剤、商品名:SYグリスター MCA-750、阪本薬品工業(株)製)、30質量%のプロピレングリコール(湿潤剤)、及び57質量%の精製水を混合して、黒色のインクジェット用水性インク組成物からなる染料インクを作製した。
【0086】
【0087】
(実施例1)
先ず、コーティング剤としてのメタクリル酸コポリマーS(商品名:EUDRAGIT S100、エボニック社製)を、スターラーで撹拌しながら純水にゆっくりと加えた。約5分間の撹拌後、メタクリル酸コポリマーSの凝集物が発生していないことを確認した。
【0088】
次に、中和剤として5%の炭酸ナトリウム水溶液を、メタクリル酸コポリマーSが添加された純水中に少量ずつ加えた。5%炭酸ナトリウム水溶液の添加後、約60分間の撹拌を行った。
【0089】
続いて、5%炭酸ナトリウム水溶液添加後の純水中に、プロピレングリコール(PG)を加えた。プロピレングリコールの添加後、16時間の撹拌を行った。
【0090】
さらに、プロピレングリコール添加後の純水中に、表面張力調整剤としての10%カプリル酸デカグリセリル水溶液(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)を加えた。10%カプリル酸デカグリセリル水溶液の添加後、60分間の撹拌を行った。これにより、メタクリル酸コポリマーSが分散したインクジェット用オーバーコート組成物(以下、「オーバーコート組成物」という。)からなるインクジェット用オーバーコート液(以下、「オーバーコート液」という。)を作製した。
【0091】
尚、メタクリル酸コポリマーS、5%炭酸ナトリウム水溶液、プロピレングリコール、及び10%カプリル酸デカグリセリル水溶液の水への添加は、配合量が表2に示す通りとなる様に行った。
【0092】
続いて、前述の染料インクを用いて、インクジェット記録方法により、ソフトカプセル錠(主成分はゼラチン)の一方の面に印刷を行った。印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度40%の環境下で行った。
【0093】
染料インクの印刷後、さらに本実施例に係るオーバーコート液を用いて、インクジェット方式により印刷を行い、印刷画像上にオーバーコート層を形成した。オーバーコート層の印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度40%の環境下で行った。印刷後、形成したオーバーコート層に温風を直接当てて十分に乾燥させた。温風の温度(製膜温度)は45℃とした。これにより、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0094】
続いて、画像及びオーバーコート層が印刷済みのソフトカプセル錠200錠と、画像及びオーバーコート層が印刷されていない未印刷のソフトカプセル錠100錠とを、500mlのディスポカップに入れた。さらに、ディスポカップ内のソフトカプセル錠に、約6.3g/cm2の加重が加わる様に重りを乗せ、温度25℃、相対湿度70%の環境下で1日間保管した。その後、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認した。結果を表2に示す。
【0095】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは2錠のみであった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0096】
(実施例2)
本実施例においては、オーバーコート組成物に関し、中和剤として5%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、その含有量を1.79質量%に変更した。また、純水の含有量を43.21質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸コポリマーSが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0097】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本実施例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。その後、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無について評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは2錠のみであった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0099】
(実施例3)
本実施例においては、オーバーコート組成物に関し、プロピレングリコールの含有量を20質量%、純水の含有量を52.63質量%に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸コポリマーSが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0100】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本実施例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。その後、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無について評価を行った。結果を表2に示す。
【0101】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは16錠であった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0102】
(実施例4)
本実施例においては、オーバーコート組成物に関し、メタクリル酸コポリマーSの含有量を7.5質量%、中和剤の含有量を2.00質量%、プロピレングリコールの含有量を20質量%、純水の含有量を50.50質量%に変更した。それ以外は、実施例2と同様にして、メタクリル酸コポリマーSが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0103】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本実施例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。その後、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無について評価を行った。結果を表2に示す。
【0104】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは19錠であった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0105】
(実施例5)
本実施例においては、オーバーコート組成物に関し、メタクリル酸コポリマーSの含有量を7.5質量%、中和剤の含有量を2.68質量%、プロピレングリコールの含有量を20質量%、純水の含有量を49.82質量%に変更した。それ以外は、実施例2と同様にして、メタクリル酸コポリマーSが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0106】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本実施例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。その後、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無について評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは15錠であった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0108】
(実施例6)
本実施例においては、オーバーコート組成物に関し、コーティング剤として乾燥メタクリル酸コポリマーLD(EUDRAGIT(登録商標) L100-55(アクリル酸エチル50質量%とメタクリル酸50質量%、エボニック社製))を用いた。また、中和剤の含有量を1.558質量%、純水の含有量を43.442質量%に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、乾燥メタクリル酸コポリマーLDが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0109】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本実施例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。その後、画像及びオーバーコート層が印刷済みのソフトカプセル錠200錠と、画像及びオーバーコート層が印刷されていない未印刷のソフトカプセル錠100錠とを、500mlのディスポカップに入れた。さらに、ディスポカップ内のソフトカプセル錠に、約6.3g/cm2の加重が加わる様に重りを乗せ、温度25℃、相対湿度40%の環境下で10日間保管した。その後、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認した。結果を表2に示す。
【0110】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは4錠のみであった。これにより、本実施例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を良好に低減できることが確認された。
【0111】
(比較例1)
本比較例においては、染料インクで印刷した後のソフトカプセル錠に対し、オーバーコート層を形成しなかった。また、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、染料インクのみ印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無についても評価を行った。但し、ディスポカップ内に入れたソフトカプセル錠に加重を加えながら保管した期間は24時間に変更した。結果を表2に示す。
【0112】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像が転写されたものは、保管期間24時間と短期間であるにも関わらず、41錠であった。これにより、オーバーコート層が形成されていない場合には、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を十分に抑制できないことが確認された。
【0113】
(比較例2)
本比較例においては、オーバーコート組成物に関し、プロピレングリコールを混合しなかった。また、中和剤の含有量を1.79質量%、純水の含有量を73.21質量%に変更した。それ以外は、実施例2と同様にして、メタクリル酸コポリマーSが分散したオーバーコート組成物からなるオーバーコート液を作製した。
【0114】
さらに、実施例1と同様にして、印刷済みのソフトカプセル錠200錠に対し、本比較例のオーバーコート液を用いてオーバーコート層を印刷した。オーバーコート層は、光沢性を失っておりマットな状態であった。そのため、本比較例においては、印刷画像の視認性が、実施例1~6の場合と比較して低下した。その後、実施例1と同様にして、未印刷のソフトカプセル錠に対し、印刷済みのソフトカプセル錠の印刷画像が転写しているか否かを確認し、印刷画像の転写の有無について評価を行った。結果を表2に示す。
【0115】
表2から分かる通り、未印刷のソフトカプセル錠100錠のうち、染料インクが印刷されたソフトカプセル錠の印刷画像の転写が確認されたのは22錠であった。これにより、本比較例に係るオーバーコート組成物により形成されたオーバーコート層は、染料インクで形成された印刷画像のマイグレーションによる転写を高湿度条件下では十分に抑制できないことが確認された。
【0116】
【0117】
(D50及びD99の測定)
実施例1~3、5及び6のオーバーコート組成物におけるメタクリル酸コポリマーSのD50及びD99、並びに実施例4のオーバーコート組成物における乾燥メタクリル酸コポリマーLDのD50及びD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した。結果を表2に示す。
【0118】
表2から分かる通り、実施例1~6のオーバーコート組成物においては、何れもD50及びD99の値が過度に大きくなるのを抑制されており、インクジェット方式での印刷に適していることが確認された。
【0119】
(オーバーコート組成物の粘度の測定)
各実施例のオーバーコート組成物の粘度は、振動式粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で測定した。結果を表2に示す。表2から分かる通り、実施例1~6のオーバーコート組成物は、何れも粘度を5mPa・s以下に低減することができた。
【0120】
(コーティング剤の中和度の測定)
実施例1~6及び比較例2のオーバーコート組成物におけるコーティング剤の中和度の値は、中和剤の添加量を調整することで、目的の値となる様に調整した。ここで、中和剤の添加量は、以下の式により算出した。結果を表2に示す。
(中和剤の添加量(g))=((コーティング剤の含有量X(g))/1000)×(コーティング剤の酸価)/56.11×(中和剤の分子量)/(中和剤の価数)×(Y(mol%)/100)
【0121】
(オーバーコート組成物の吐出安定性の評価)
オーバーコート組成物の吐出安定性の評価は、書き出し位置とオープンタイム適性に基づき行った。オープンタイム適性については、最初にノズルヘッドから、実施例1~6及び比較例2に係るオーバーコート組成物をそれぞれ吐出させた後、インクジェットプリンタを停止させ、30分経過後に再度印刷を行った。そして、再度印刷を行ったときのオーバーコート層のノズル欠け及びかすれの発生の有無を観察した。印刷にはインクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用い、シングルパス(ワンパス)方式にて行った。記録媒体としては、マット紙(商品名:スーパーファイン紙、エプソン(株)製)を用いた。また、印刷は気温25℃、相対湿度40%の環境下で行った。結果を表2に示す。尚、ノズル欠けとは目詰まりが発生したノズルからオーバーコート組成物からなるオーバーコート液の液滴が吐出されないことを意味する。かすれとは、印刷の初期における画像のかすれを意味する。
【0122】
表2中の吐出の有無における評価は、以下の基準で行った。
○:オープンタイム30分におけるノズル欠け及びかすれが何れも観察されず、吐出安定性が良好
×:オープンタイム30分におけるノズル欠け又はかすれの少なくとも何れかが発生
【0123】
表2から分かる通り、オープンタイムが30分の場合でも、実施例1~6に係るオーバーコート組成物ではノズル欠けが全く発生せず、安定してノズルヘッドから吐出できることが確認された。
【0124】
(実施例7~13)
実施例7~13においては、オーバーコート組成物の構成成分に関し、表3に示す通り、コーティング剤としてメタクリル酸コポリマーS(商品名:EUDRAGIT S100、エボニック社製)、中和剤として5%の炭酸ナトリウム水溶液、プロピレングリコール、表面張力調整剤として10%カプリル酸デカグリセリル水溶液(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)、溶媒として純水を用いた。また、各成分の配合割合は、表3及び表4に示す通りとした。但し、中和剤の配合量については、実施例7~13の中和度がそれぞれ1.3mol%、2.6mol%、4.0mol%、4.5mol%、5.0mol%、13.4mol%及び26.5mol%となる様に調整した。尚、中和剤の具体的な配合量については、メタクリル酸コポリマーSの酸価と、各オーバーコート組成物の中和度の値から算出可能である。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例7~13のオーバーコート組成物をそれぞれ作製した。
【0125】
続いて、実施例7~13の各オーバーコート組成物におけるメタクリル酸コポリマーSの平均分散粒子径D50又はD99を、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定した。結果を表4、
図1及び
図2に示す。
【0126】
さらに、実施例7~13の各オーバーコート組成物について、それぞれ粘度を測定した。粘度の測定には、振動式粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で行った。結果を表4及び
図3に示す。
【0127】
(実施例14~22)
実施例14~22においては、オーバーコート組成物の構成成分に関し、表3に示す通り、コーティング剤としてメタクリル酸コポリマーS(商品名:EUDRAGIT S100、エボニック社製)、中和剤として5%の水酸化ナトリウム水溶液、プロピレングリコール、表面張力調整剤として10%カプリル酸デカグリセリル水溶液(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)、溶媒として純水を用いた。また、各成分の配合割合は、表3及び表5に示す通りとした。但し、中和剤の配合量については、実施例14~22の中和度がそれぞれ2.6mol%、4.0mol%、5.0mol%、13.4mol%、26.5mol%、30.0mol%、35.0mol%、40.0mol%及び45.0mol%となる様に調整した。尚、中和剤の具体的な配合量については、メタクリル酸コポリマーSの酸価と、各コーティング剤の中和度の値から算出可能である。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例14~22のオーバーコート組成物を作製した。
【0128】
続いて、実施例14~22の各オーバーコート組成物におけるメタクリル酸コポリマーSの平均分散粒子径D50又はD99を、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定した。結果を表5、
図1及び
図2に示す。
【0129】
さらに、実施例14~22の各オーバーコート組成物について、それぞれ粘度を測定した。粘度の測定には、振動式粘度計(商品名:VISCOMATE MODEL VM-10A、(株)セコニック製)を用いて、測定温度25℃の条件下で行った。結果を表5及び
図3に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
(インクジェット用オーバーコート組成物としての適性評価)
表4、及び
図1~
図3から分かる通り、中和剤として炭酸ナトリウムを用いたオーバーコート組成物の場合、中和度1.3mol%~26.5mol%の範囲で、メタクリル酸コポリマーSのD50を約500nm以下に抑制することができた。また、メタクリル酸コポリマーSのD99については、中和度2.5mol%~26.5mol%の範囲で約350nm~約800nmの範囲に制御することができた。さらに、オーバーコート組成物の粘度についても約9mPa・s未満に低減することができた。
【0134】
一方、中和剤として水酸化ナトリウムを用いたオーバーコート組成物の場合、表5及び
図1~
図3から分かる通り、中和度約2.5mol%~35.0mol%の範囲で、メタクリル酸コポリマーSのD50を約700nm以下に抑制することができた。また、メタクリル酸コポリマーSのD99については、中和度2.5mol%~35.0mol%の範囲で約1300nm以下に制御することができた。さらに、オーバーコート組成物の粘度についても約10mPa・s未満に低減することができた。尚、
図1及び
図2に示す通り、中和度が40mol%以上では、メタクリル酸コポリマーSの粗大粒子が存在しているため、D50及びD99の測定値が測定毎に大きく変化した。
【0135】
以上から、実施例7~22の全てのオーバーコート組成物について、インクジェット方式での印刷が可能であり、さらに中和度を2.5mol%~35mol%の範囲に制御した場合には、インクジェット用オーバーコート組成物として特に好ましいことが確認された。