(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】タイヤサイドウォール用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20221011BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221011BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20221011BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08L21/00
B60C1/00 B
C08K3/26
C08K5/13
(21)【出願番号】P 2018209523
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 昌樹
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162626(JP,A)
【文献】特開2018-035250(JP,A)
【文献】特開2005-118230(JP,A)
【文献】特開2004-167218(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107513190(CN,A)
【文献】特開2012-025877(JP,A)
【文献】特開2013-165849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分全量を100質量部としたとき、柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末を1.0~10質量部含有することを特徴とするタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項2】
前記複合粉末中、前記柿抽出物と前記炭酸ナトリウムとの質量比率が1:1~5:1である請求項1に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤサイドウォール用ゴム組成物に関し、特にゴム特有の臭気が少なく、耐疲労性能に優れた空気入りタイヤの原料となるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは様々な走行環境で使用され、特にサイドウォール部材は走行時に荷重が掛かった状態で繰り返し振動を受けるため、耐疲労性能に優れることが要求される。かかるサイドウォール部材の大部分を占めるゴム部材は一般に特有の臭気を有しており、市場においてはゴム特有の臭気の低減が要求されている。
【0003】
下記特許文献1では、天然ゴムラテックスおよび白色充填剤を混合し、得られた混合物を高純度化処理し、その後、凝固、乾燥させる工程を含む天然ゴム-白色充填剤複合体の製造方法が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、ジエン系ゴム100重量部に対し、無機充填剤を5~130重量部、カテキンを含む茶抽出物を0.01~10重量部配合したタイヤ用ゴム組成物が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3では、充填材含有ゴムラテックス溶液にタンニンを添加し、凝固させた後、乾燥する工程を含むゴムウエットマスターバッチの製造方法が記載されている。
【0006】
さらに、下記特許文献4では、柿の搾汁液に水を投入して撹拌した混合溶液を得た後に、炭酸ナトリウム水溶液を添加してpH値を8.5~9.0に調整することを特徴とする硫黄系悪臭に対する消臭剤の製造方法記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-35250号公報
【文献】特開2010-31260号公報
【文献】特開2012-207088号公報
【文献】特許3919729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記特許文献1~3に記載の技術では、ゴム特有の臭気を低減しつつ、かつ耐疲労性能を向上させた空気入りタイヤを提供することは困難なことが判明した。なお、上記特許文献4は消臭剤に係る技術を記載するものであり、空気入りタイヤ(ゴム)特有の臭気については何ら問題としておらず、ましてや空気入りタイヤの諸性能の向上については全く記載も示唆もない。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゴム特有の臭気を低減しつつ、かつ耐疲労性能を向上させた空気入りタイヤの原料となるタイヤサイドウォール用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は下記構成により解決可能である。すなわち本発明は、ゴム成分全量を100質量部としたとき、柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末を1.0~10質量部含有することを特徴とするタイヤサイドウォール用ゴム組成物に関する。
【0011】
本発明に係るゴム組成物は、柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末を含有するため、最終的に空気入りタイヤとしたとき、(1)ゴム特有の臭気の低減と、(2)耐疲労性能の向上と、を両立することができる。これらの効果が得られる理由は明らかではないが、例えば下記の如く推定可能である。
(1)少なくとも柿の抽出物と炭酸ナトリウムとを複合化し、粉末化することにより、柿の抽出物中に含まれる縮合型タンニンが部分的に酸化され、分子中に縮合型タンニンが本来有する還元能に加えて、酸化能を付加することができる。これにより、酸化反応により消臭される成分と還元反応により消臭される成分の両方に対して消臭効果を発揮することが可能となる。よって、この部分的に酸化された縮合型タンニンとゴム中に含まれる窒素化合物、硫黄化合物や低級脂肪酸などの臭気成分とが化学的に反応することにより、ゴム特有の臭気が低減できる。
(2)柿の抽出物中に含まれる縮合型タンニンは、分子中に多数のフェノール水酸基を有しており、これが、荷重が掛かった状態で繰り返し振動を受けたゴム中で生成するラジカルを補足する。その結果、サイドウォールのゴム部材の劣化を抑制し、耐疲労性能を向上することができる。
【0012】
なお、本発明においては、ゴム成分全量を100質量部としたとき、かかる複合粉末の配合量を1.0~10質量部に設定することにより、ゴム特有の臭気の低減と耐疲労性能の向上とを両立することができる。特に、かかる配合量を10質量部以下に設定することにより、さらにゴム組成物の加硫速度を安定化することができる。
【0013】
上記タイヤサイドウォール用ゴム組成物において、前記複合粉末中、前記柿抽出物と前記炭酸ナトリウムとの質量比率が1:1~5:1であることが好ましい。また、上記タイヤサイドウォール用ゴム組成物において、ゴム成分全量を100質量部としたとき、前記複合粉末中の前記柿抽出物の有効成分量が0.01~8.0質量部であることが好ましい。かかる構成によれば、特にゴム特有の臭気をより低減できるため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るタイヤサイドウォール用ゴム組成物は、ゴム成分、および柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末を少なくとも必須成分として含有する。
【0015】
本発明に係るタイヤサイドウォール用ゴム組成物は、好適にはゴム成分としてジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。
【0016】
複合粉末は、少なくとも柿抽出物と炭酸ナトリウムとを必須成分として含有する。柿抽出物はポリフェノールの一種である縮合型タンニンを含み、この縮合型タンニンは多くのフェノール性水酸基(-OH基)を有し、これがゴム中に含まれる各種悪臭成分と化学的に結合して、消臭効果を発揮する。特に、縮合型タンニンが炭酸ナトリウムと複合化され、部分的に酸化されることにより、ゴム特有の臭気を高いレベルで低減できる。複合粉末は、柿抽出物と炭酸ナトリウムとを必須成分とし、例えばトレハロースや、セルロースなどの水溶性高分子を含有してもよい。
【0017】
ゴム特有の臭気の低減と耐疲労性能の向上とをバランスよく両立するためには、ゴム成分全量を100質量部としたとき、かかる複合粉末の配合量は1.0~10質量部とすることが好ましく、3.0~8.0質量部とすることがより好ましい。
【0018】
また、ゴム特有の臭気の低減と耐疲労性能の向上とをバランスよく両立するためには、複合粉末中、柿抽出物と炭酸ナトリウムとの質量比率が1:1~5:1であることが好ましく、2:1~4:1であることがより好ましい。また、上記空気入りタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分全量を100質量部としたとき、複合粉末中の柿抽出物の有効成分量が0.01~8.0質量部であることが好ましく、0.3~5.0質量部であることがより好ましい。なお、複合粉末中の炭酸ナトリウムの含有量は、前記した複合粉末中の柿抽出物の有効成分量、および柿抽出物と炭酸ナトリウムとの質量比率の両方を満たすものであれば特に限定されない。
【0019】
本発明に係るタイヤサイドウォール用ゴム組成物は、ゴム成分、および柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末以外の成分として、当業者に公知の配合剤を配合可能であり、例えばカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0020】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。本発明に係る空気入りタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを10~120質量部配合することが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0021】
シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。
【0022】
シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0023】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0024】
加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0025】
加硫系配合剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0026】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0027】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、および柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末、さらにはカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0028】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を160℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0030】
(1)ゴムの臭気評価
JIS Z9080に準拠し、臭気を官能評価した。6段階評価を行い、数値が高いほど、強く臭いを感じるため、臭気が低減できていないことを意味する。
【0031】
(2)耐疲労性能
JIS K6260に準拠し、測定は23℃の条件下で行い、亀裂成長が2mmになるまでの回数を求め、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、耐疲労性に優れることを意味する。
【0032】
(ゴム組成物の調製)
表1の配合処方に従い、実施例1~3および比較例1~5のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す(表1において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)天然ゴム(NR):「RSS#3」
b)ブタジエンゴム(BR):「BR150B」宇部興産社製
c)カーボンブラック:「シーストSO」東海カーボン社製
d)ステアリン酸:「ビーズステアリン酸」日油社製
e)酸化亜鉛:「酸化亜鉛2種」三井金属鉱山社製
f)無機充填剤(A)(白色充填剤):「ノーベライトTT」日東粉化工業社製
g)無機充填剤(B)(炭酸ナトリウム):「炭酸ナトリウム」富士フィルム和光純薬社製
h)縮合型タンニン:「縮合型タンニン」川村通商社製
i)柿抽出物と炭酸ナトリウムとを含む複合粉末:「パンシルPS-M」リリース科学工業社製
j)老化防止剤:「ノクラック6C」大内振興化学工業社製
k)硫黄:「粉末硫黄」鶴見化学工業社製
l)加硫促進剤:「ソクシールCZ」住友化学社製
【0033】
【0034】
表1の結果から、実施例1~3に係るゴム組成物の加硫ゴムは、比較例1に係るゴム組成物の加硫ゴムに比して、臭気が低減されており、かつ耐疲労性能に優れることが分かる。