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特許7154994飲み応えが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
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  • 特許-飲み応えが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】飲み応えが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20221011BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20221011BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018235750
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020096548
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慧
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優
(72)【発明者】
【氏名】廣政 あい子
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特許第7103980(JP,B2)
【文献】特開2018-196336(JP,A)
【文献】特開2018-196335(JP,A)
【文献】特開2018-042494(JP,A)
【文献】特開2017-216999(JP,A)
【文献】特開2017-216998(JP,A)
【文献】特開2017-212960(JP,A)
【文献】特開2016-149975(JP,A)
【文献】特開2016-123400(JP,A)
【文献】特開2011-227070(JP,A)
【文献】特表2010-524445(JP,A)
【文献】特開2002-272446(JP,A)
【文献】願国賢,醸造酒工芸学,第1版,中国,1996年12月,167-171,ISBN 7-5019-1985-2
【文献】宮地秀夫,ビール醸造技術,食品産業新聞社,1999年12月28日,pp.260-261
【文献】CLAPPERTON, J. F.,SIMPLE PEPTIDES OF WORT AND BEER,Journal of the Institute of Brewing,1971年,Vol.77, No.2,pp.177-180,DOI: 10.1002/j.2050-0416.1971.tb03371
【文献】橋本 直樹,本物のビールになった発泡酒,New Food Industry,1998年,Vol.40, No.11,pp.43-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が11~17%であり、分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
糖質濃度が0.5g/100mL未満である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することを含んでなり、分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する、方法。
【請求項5】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤。
【請求項7】
芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することを含んでなり、分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲み応えが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の食嗜好の多様化や健康志向の高まりに対応するため、多種多様なビールテイスト発酵アルコール飲料が開発されている。飲み応えに寄与する味の厚みはビールテイスト発酵アルコール飲料を特徴付ける重要な要素であることから、ビールテイスト発酵アルコール飲料の香味を改良する様々な技術が開発されてきた。例えば、麦芽使用量の増量や最終発酵度の低減によりコクや味の厚みのある味わいが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができ、一方で、麦芽使用量の減量や最終発酵度の増加によりすっきりとした味わいのビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0003】
しかし、ビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みを高めると、後味の強度も高まり、飲用後に後味が長引くことから、ビールテイスト発酵アルコール飲料において重視されているキレが損なわれてしまう。これまでに、製造工程においてα-グルカンの枝分かれ量を低減させることによりコクや味の厚みを有しつつ、すっきりした飲み口のビールテイスト発酵アルコール飲料が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-102288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、飲み応えとキレを両立させた新規なビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、ビールテイスト発酵アルコール飲料において2600~4600Daのペプチドの含有比率を調整することにより、後味を抑えつつ味の厚みを高められること見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が11~17%である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
[2]糖質濃度が0.5g/100mL未満である、上記[1]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[3]麦芽使用比率が50%以上である、上記[1]または[2]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[4]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することを含んでなる方法。
[5]ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程を含む、上記[4]に記載の製造方法。
[6]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤。
[7]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することを含んでなる方法。
【0008】
本発明によれば、飲み応えとキレを両立させた新規なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1において実施した、HPLC分析用ゲル濾過法の保持時間と既知物質の分子量から作成した検量線を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において「ビールテイスト」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。
【0011】
本発明において、「ビールテイスト発酵アルコール飲料」は、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させたビールテイストの発酵アルコール飲料であり、ビール、発泡酒および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0012】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするものであり、いずれの麦芽使用比率をも取ることができるが、例えば、麦芽使用比率を50%未満、50%以上、67%未満、67%以上あるいは95%以上とすることができる。本明細書において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。
【0013】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減された飲料であってもよく、例えば、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は0.5g/100mL未満(糖質ゼロに相当)とすることができる。
【0014】
糖質濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、当該試料の質量から、水分(減圧加熱乾燥法)、たんぱく質(燃焼法)、脂質(エーテル抽出法)、灰分(直接灰化法)および食物繊維量(プロスキー法(酵素‐重量法))を除いて算出する方法(食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等 参照)に従って行うことができる。
【0015】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではHPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチド質量に対する飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が特定範囲内であることを特徴とする。当該比率は、飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度(mg/mL)をHPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチド濃度(mg/mL)で除することで算出することができる。本発明において、当該ペプチド比率の下限値(以上または超える)は、味の厚みの付与の観点から11%(好ましくは12%)とすることができ、また、上限値(以下または未満)は、後味の抑制の観点から17%(好ましくは16%)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、当該ペプチド比率の範囲は11~17%であり、好ましくは12~16%とすることができる。
【0016】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度の下限値(以上または超える)を0.15mg/mL(好ましくは0.17mg/mL)とすることができ、また、上限値(以下または未満)を0.42mg/mL(好ましくは0.38mg/mL)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.15~0.42mg/mLまたは0.17~0.38mg/mLとすることができる。
【0017】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する、飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度(mg/mL)の比率の下限値(以上または超える)を0.018(好ましくは0.020)とすることができ、また、上限値(以下または未満)を0.050(好ましくは0.046)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中のOE濃度(°P)に対する飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度(mg/mL)の比率を0.018~0.050(好ましくは0.020~0.046)とすることができる。
【0018】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のOE濃度の下限値(以上または超える)は2°P(好ましくは4°P)とすることができ、また、上限値(以下または未満)を20°P(好ましくは14°P、より好ましくは10°P)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のOE濃度を2~20°P(好ましくは4~14°P)とすることができる。本発明において「オリジナルエキス濃度」は、市販の機器(例えば、アルコライザー(アントンパール社製))を用いて測定することができる。なお、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料では「オリジナルエキス濃度」を「原麦汁エキス濃度」と言い換えることができる。
【0019】
飲料中のペプチドの分子量は高速液体クロマトグラフィーによるゲル濾過法(本明細書において「HPLC分析用ゲル濾過法」ということがある)により測定される。具体的には、HPLC分析用ゲル濾過法の検量線(例えば、図1)を用いて保持時間から分子量を算出し、保持時間により分子量の異なるサンプルを分取できる。HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定の具体例は後記実施例1に示される通りである。また、ペプチドの定量はLowry法(ローリー法)により実施することができる。
【0020】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、後味を抑えつつ味の厚みが高められていることを特徴とする。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚を意味し、「後味」とは、飲みこんだ後に口腔内に残る基本五味や刺激味(甘味、酸味、塩味、旨味、苦味、渋味、辛味、ざらつき等)からなる香味感覚を意味する。ビールテイスト発酵アルコール飲料において、味の厚みは飲み応えに寄与し、後味を抑えることによりキレが増すことから、本発明によれば飲み応えとキレを両立させたビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる。
【0021】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、飲料中の2600~4600Daのペプチドの比率が所定の範囲内に調整される限り、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。
【0022】
例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。
【0023】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0024】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造の一態様においては、糖化工程または発酵工程において、エンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼ活性を保有する酵素製剤をタンパク分解のために使用することができる。このような工程を実施することによりビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの比率を増加させて、所定値の範囲内に調整することができ、ひいては後味を抑えつつ味の厚みが高められたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば糖化工程または発酵工程においてエンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼを含む酵素製剤を使用することを含んでなる、ビールテイスト飲料の製造方法が提供される。上記の麦芽や酵素製剤の酵素活性の特徴は、エンド型プロテアーゼ活性に基づいて特定することができる。
【0025】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および未発芽の麦類のいずれかまたは両方を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽または麦芽および未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものである。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においては、麦芽として大麦麦芽および/または小麦麦芽を原料の一部として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においてはまた、未発芽の麦類として、未発芽大麦(エキス化したものを含む)や、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を原料として使用することができる。
【0026】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽および未発芽の麦類以外に、米、とうもろこし、大豆、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。
【0027】
本発明においては、穀物類(例えば、麦芽および/または未発芽の麦類や大豆、好ましくは大麦麦芽または小麦麦芽)から分子量2600~4600Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量2600~4600Daのペプチドの比率を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては後味を抑えつつ味の厚みが高められたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、穀物類から分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。なお、穀物類由来の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドは、例えば、穀物類をエンド型プロテアーゼ等のタンパク分解酵素で加水分解処理することにより調製することができ、大豆タンパク加水分解物のような穀物類のタンパク加水分解物から得てもよい。
【0028】
本発明においてはまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から分子量2600~4600Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量2600~4600Daのペプチドの比率を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては後味を抑えつつ味の厚みが高められたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、次いで、前記飲料から分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。
【0029】
また、本発明によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量2600~4600Daの1種または2種以上のペプチドが配合されてなるビールテイスト発酵アルコール飲料が提供され、該飲料は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の一部である。該ペプチドが配合されてなる飲料はビールテイスト発酵アルコール飲料としての風味が改善あるいは向上されており、具体的には、後味を抑えつつも味の厚みが増強された飲料である。
【0030】
前述の通り、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は糖質が低減された態様で提供することができ、糖質の低減は公知の方法に従って行うことができ、例えば、糖化工程中にグルコアミラーゼを添加する方法、発酵工程中にグルコアミラーゼを添加する方法(酵素利用技術大系 基礎・解析から改変・高度機能化・産業利用まで(小宮山 眞 監修、株式会社エヌ・ティー・エス、2010年)など参照)、酵母に資化される糖質を多く含む液糖を使用して酵母による資化性を高めることにより糖質を低減する方法(特開2009-131202号公報参照)、糖化工程中に麦汁濾過を行う方法(特開2012-147780号公報参照)により飲料中の糖質濃度を所定値にすることができる。
【0031】
本発明により提供される飲料は、場合によっては炭酸ガスを添加する工程に付し、さらに、充填工程、殺菌工程などの工程を経て容器詰め飲料として提供することができる。殺菌は容器への充填前であっても充填後であってもよい。また、飲料のpHが4未満に調整されている場合には殺菌工程を経ずにそのまま充填工程を行って容器詰め飲料とすることもできる。
【0032】
本発明による飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、瓶である。
【0033】
本発明の別の面によれば、風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することを含んでなる方法が提供される。本発明においてビールテイスト発酵アルコール飲料の「風味が改善された」あるいは「風味改善」とは、ビールテイスト発酵アルコール飲料において後味を抑えつつ味の厚みを高めることを意味するものとする。上記の本発明の製造方法は、好ましくは後味を抑えつつ味の厚みが高められたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法である。上記の本発明の製造方法は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法についての記載に従って実施することができる。
【0034】
本発明の別の面によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤が提供される。ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤は、好ましくはビールテイスト発酵アルコール飲料の味の厚み増強剤または飲み応え増強剤である。本発明の風味改善剤は、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【0035】
本発明のさらに別の面によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法が提供される。本発明の風味改善方法は、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量2600~4600Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を11~17%に調整することにより実施できる。本発明の風味改善方法は、好ましくはビールテイスト発酵アルコール飲料の味の厚みを増強する方法または該飲料の飲み応えを増強する方法である。本発明の風味改善方法は、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0036】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定される
ものではない。
【0037】
実施例1:ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造並びに該飲料へのペプチド添加が味の厚みおよび後味に与える影響の分析
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料(ビールベース1および2)の製造
ア ビールベース1の製造
本実施例のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦麦芽を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、麦汁を得た。具体的には、62℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽20.0質量部、酵素製剤を投入して40分保持後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0038】
上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップおよび液糖を19.0質量部投入して100℃で90分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で維持することにより貯蔵を行い、濾過して、糖質濃度が3.1g/100mLの清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%)(ビールベース1)を得た。
【0039】
イ ビールベース2の製造
本実施例のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦麦芽を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、麦汁を得た。具体的には、64℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽10.0質量部、βグルカナーゼ酵素製剤およびグルコアミラーゼを主体とする酵素製剤を投入して100分保持した。その後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0040】
上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップおよび資化性糖を主体とした液糖を9.5質量部投入して100℃で90分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で維持することにより貯蔵を行い、濾過して、糖質濃度が0.3g/100mLの清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%)(ビールベース2)を得た。
【0041】
(2)ペプチド画分の調製
市販のビールテイスト飲料をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。凍結乾燥物を100mM NaCl溶液に溶解して5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0042】
<ゲル濾過分画条件>
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その後0.35cvから5mLずつ分画(フラクション1~51)
【0043】
得られた画分(フラクション番号:F10~11)を以下の条件にて精製し、定量した。
【0044】
得られた画分は、固相抽出カラム(Bond Elute C18、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。
【0045】
ペプチド画分の精製によって得られたペプチド画分のタンパク定量は、市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を適切な範囲になるように濃度調整した。濃度調整したサンプル5μLに対し、A液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに350μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド濃度(mg/mL)を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0046】
(3)HPLC分析用ゲル濾過画分の調製
試醸品に関しては、上記(1)で得られた試醸品をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。各凍結乾燥物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。上記(2)で得られたペプチド画分に関しては、10倍濃縮液相当になるよう上記の緩衝液で溶解し、ゲル濾過分画用サンプルとした。分画サンプルについて、それぞれ、以下の条件にてゲル濾過分画を行い、分画フラクション(フラクション1~10)を得た。
【0047】
HPLC分析用ゲル濾過法の条件は以下の通りであった。
<HPLC分析用ゲル濾過法分析条件>
カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL溶離液組成:50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl
流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
【0048】
分画プログラム:
【表1】
【0049】
分画液のタンパク定量は上記(2)に記載のローリー法により行った。
【0050】
(4)HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定
ア HPLC分析用ゲル濾過のサンプル調製
上記(3)で得られた分画フラクション(フラクション1~10)をサンプルとして使用した。
【0051】
イ 分子量の検量線作成
上記HPLC分析用ゲル濾過条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表2)。その保持時間、分子量から検量線(図1)を作成した。
【0052】
【表2】
【0053】
ウ 分子量の算出
分子量測定の結果、フラクション1~10のうちフラクション5に含まれるペプチドは分子量2600~4600Daの範囲であることが確認された。
【0054】
(5)分子量2600~4600Daのペプチド比率の算出
分子量2600~4600Daのペプチド比率は各分画フラクションにおける製品相当のペプチド濃度を用いて以下の算出式にて求めた。
【数1】
【0055】
(6)糖質濃度およびオリジナルエキス濃度の分析
試醸品の糖質濃度の測定は、公知の五訂日本食品標準成分表分析マニュアルに記載の方法に従って栄養表示基準に基づいて行った。すなわち、サンプル飲料の質量から、水分(減圧加熱乾燥法)、タンパク質(自動分析装置による方法)、脂質(ソックスレー抽出法(3))、灰分(マッフル炉による燃焼法)および食物繊維量(プロスキー酵素重量法)を除いて算出する方法により測定した。また、試醸品のオリジナルエキス濃度(OE濃度)はBCОJビール分析法(ビール酒造組合(2013年)、8.3.6、8.4.3および8.5に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて行った。
【0056】
(7)官能評価
上記(1)で製造したビールテイスト発酵アルコール飲料(ビールベース1および2)に上記(2)で得られたペプチド画分を添加しない試験区と、添加する試験区を設け、2600~4600Daのペプチド濃度が表3および4のように調整されたサンプル飲料(サンプル番号1~10)を調製した。ビールベース1に対してペプチド画分を添加した例を試験例1とし、ビールベース2に対してペプチド画分を添加した例を試験例2とした。
【0057】
官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、「味の厚み」および「後味」について1~9点の1点刻みによる9段階で評価を行い、パネラー4名の評価スコアの平均値を計算した。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚をいう。また、「後味」とは、飲みこんだ後に口腔内に残る基本五味や刺激味(甘味、酸味、塩味、旨味、苦味、渋味、辛味、ざらつき等)からなる香味感覚をいう。
【0058】
ビールベース1に対するペプチド画分の添加効果を評価した試験例1(試験区1~5)では、試験区1の「味の厚み」および「後味」の評点をあらかじめ3に固定して評価を行った。また、ビールベース2に対するペプチド画分の添加効果を評価した試験例2(試験区6~10)では、試験区6の「味の厚み」および「後味」の評点をあらかじめ3に固定して評価を行った。いずれの試験例においても味の厚みは3.5点以上を、後味は5.0以下を好ましい態様と判断した。
【0059】
官能評価の結果は表3に示される通りであった。
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表3および4の結果から、ビールテイスト発酵アルコール飲料(麦芽使用比率50%)において、2600~4600Daのペプチド比率を所定範囲に調整することにより、後味を抑えつつ味の厚みを高められることが確認された。また、この効果はビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度によらず達成されることが確認された。
【0062】
また、ビールベース1および2について、上記の官能評価試験(但し、「味の厚み」および「後味」の評点をあらかじめ3に固定しなかった)を実施したところ、以下のような結果が得られた。
【0063】
【表5】
【0064】
表4の結果から、糖質ゼロのビールベース2はビールベース1と比較すると味の厚みおよび後味が相対的に少ないことが確認された。表3および4の結果と表5の結果を合わせると、味の厚みが損なわれがちな糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料において、2600~4600Daのペプチド比率を所定範囲に調整することにより、後味を抑えつつ味の厚みを高められることが確認された。
図1