IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナブテスコ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】光学的立体造形用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20221011BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20221011BHJP
   C08G 65/04 20060101ALI20221011BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20221011BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20221011BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20221011BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20221011BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221011BHJP
【FI】
C08F290/14
C08F2/48
C08G65/04
C08F290/06
B29C64/106
B29C64/264
B33Y80/00
B33Y70/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018537312
(86)(22)【出願日】2017-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2017031026
(87)【国際公開番号】W WO2018043512
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2016168203
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105532(WO,A1)
【文献】特開2010-159345(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072356(WO,A1)
【文献】特開2017-048288(JP,A)
【文献】特開平09-087513(JP,A)
【文献】特開2010-265408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 290/00 - 290/14
B29C 64/00 - 64/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラジカル重合性有機化合物と、
(B)環状分子と、該環状分子を貫通する軸分子と、該軸分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサン化合物と、
を含み、
前記ラジカル重合性有機化合物は、ラジカル重合性有機化合物の総量100質量部に対してウレタン(メタ)アクリレートを10~40質量の割合で含み、
前記ポリロタキサン化合物(B)が、前記ラジカル重合性有機化合物(A)の総量100質量部に対して、10~30質量部含まれてなる、光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリロタキサン化合物(B)の環状分子および/または封鎖基に、前記ラジカル重合性有機化合物(B)と共重合可能な官能基を有する、請求項1に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】
(C)粒子径が1~200nmの範囲にあるナノ粒子を更に含む、請求項1または2に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子(C)が、樹脂成分の総量に対して質量基準で、1~10質量%含まれてなる、請求項3に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項5】
カチオン重合性有機化合物をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物の重合体からなる立体造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的立体造形用樹脂組成物に関し、より詳細には、靱性および耐衝撃性が改善された光学的立体造形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元CADに入力されたデータに基づいて液状の光硬化性樹脂組成物を立体的に光学造形する方法が、金型等を作製することなく目的とする立体造形物を良好な寸法精度で製造し得ることから、広く採用されるようになっている。光学的立体造形法の代表的な例としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定厚みを硬化させ、ついで該硬化層の上に1層分の液状樹脂を供給し、同様に紫外線レーザーで前記と同様に照射硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返すことによって最終的に立体造形物を得る方法を挙げることができる。この光学的立体造形方法は、形状のかなり複雑な造形物をも容易に且つ比較的短時間に得ることができる。
【0003】
光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光造形して得られる立体造形物は、設計の途中で各種工業製品の外観デザインを検証するためのモデル、部品の機能性をチェックするためのモデル、鋳型を製作するための樹脂型、金型を製作するためのベースモデル等として広く利用されている。また、最近では、光造形して得られた立体造形物を、検証モデルとしてではなく実際の工業製品とすることも試みられている。そのため、従来のレンズ等に使用されていた樹脂(例えば、ポリカーボネート等)と同様の物性を有する立体造形物が得られる光学的立体造形用樹脂組成物が求められている。
【0004】
光学的立体造形用樹脂組成物としては、光重合可能な樹脂成分、即ち、エポキシ基を有するカチオン重合性有機化合物および不飽和二重結合を有するラジカル重合性有機化合物を含有するものが一般的に使用されている。特開2003-73457号公報には、このような重合性成分に柔軟性向上剤として特定のポリエーテルを添加することにより、破断強度等の力学的強度が高く、且つ靭性に優れる立体造形物が得られることが提案されている。また、特開2005-15739号公報には、カチオン重合性有機化合物およびラジカル重合性有機化合物を含む光学的立体造形用樹脂組成物にポリアルキレンエーテル系化合物を添加することにより、靱性を改善でき且つ耐衝撃性にも優れる立体造形物が得られることが提案されている。
【0005】
ところで、環状分子の開口部に直鎖状分子が串刺し状に貫入され、該直鎖状分子の両末端に環状分子が脱離しないように封鎖基を配置した構造を有する「ポリロタキサン」と呼ばれるポリマーが知られている(例えば、特開平06-25307号公報等)。ポリロタキサンは、環状分子が直鎖状分子に包接された状態で直鎖状分子を軸として移動可能であることから滑車効果が発現し、その結果、従来の樹脂にはない特徴的な物性を有する。そのため、種々の樹脂において物性改質剤としての利用が期待されている。
【発明の開示】
【0006】
したがって、本発明の目的は、光造形により得られる立体造形物の強度、剛性、耐熱性等の物性を損なうことなく、柔軟性、靱性および耐衝撃性を改善できる光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
【0007】
本発明者らは今般、光学的立体造形用樹脂組成物として使用されている従来のカチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物に、ポリロタキサン化合物を添加することにより、光造形により得られる立体造形物の強度、剛性、耐熱性等の物性を損なうことなく、柔軟性、靱性および耐衝撃性を改善できるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。
【0008】
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物は、
(A)カチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物と、
(B)環状分子と、該環状分子を貫通する軸分子と、該軸分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサン化合物と、
を含むものである。
【0009】
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物においては、前記ポリロタキサン化合物(B)が、前記カチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物(A)の総量100質量部に対して、10~30質量部含まれていてもよい。
【0010】
また、本発明による光学的立体造形用樹脂組成物においては、前記ポリロタキサン化合物(B)の環状分子および/または封鎖基に、前記カチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物(B)と共重合可能な官能基を有していてもよい。
【0011】
また、本発明による光学的立体造形用樹脂組成物においては、(C)粒子径が1~200nmの範囲にあるナノ粒子を更に含んでいてもよい。
【0012】
また、本発明による光学的立体造形用樹脂組成物においては、前記ナノ粒子(C)が、樹脂成分の総量に対して質量基準で、1~10質量%含まれていてもよい。
【0013】
本発明の別の態様による立体造形物は、上記光学的立体造形用樹脂組成物の重合体からなる立体造形物である。
【0014】
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物は、光学的立体造形用樹脂組成物として使用されている従来のカチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物に、ポリロタキサン化合物を添加することにより、光造形により得られる立体造形物の強度、剛性、耐熱性等の物性を損なうことなく、柔軟性、靱性および耐衝撃性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による光学的立体造形用樹脂組成物について説明する。
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物は、光等の活性エネルギー線を照射して立体造形を行うことにより立体造形物を製造するために用いる樹脂組成物であり、(A)カチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物と、(B)環状分子と、該環状分子を貫通する軸分子と、該軸分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサン化合物と、を含むものである。なお、本明細書において、「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波等のような光学的立体造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線を意味する。
以下、本発明による光学的立体造形用樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0016】
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射によってカチオン重合可能な有機化合物および/またはラジカル重合可能な有機化合物を含む。
【0017】
<カチオン重合性有機化合物>
本発明で用いることができるカチオン重合性有機化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物やその他の環状エーテル化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、スピロオルソエステル化合物、ビニルエーテル化合物等を挙げることができ、これらのカチオン重合性有機化合物は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、カチオン重合性有機化合物(A)としてエポキシ化合物およびオキセタン化合物が好ましく用いられる。
【0018】
[エポキシ化合物]
エポキシ化合物としては、脂環族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物等のエポキシ化合物を挙げることができる。脂環族エポキシ化合物としては、少なくとも門間の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーデル、或いはシクロヘキセン環含有化合物またはシクロペンテン環含有化合物を過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化して得られるシクロヘキセンオキサイド構造含有化合物またはシクロペンテンオキサイド構造含有化合物等を挙げることができる。より具体的には、脂環族エポキシ化合物として、例えば、下記一般式:
【化1】
(式中、Rは、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、水素添加ビスフェノールAD残基、シクロヘキサンジメタノール残基、またはトリシクロデカンジメタノール残基を示す。)
で表される脂環式ジグリシジルエーテル化合物としては、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールADジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールZジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリシクロデカンジメタノールジグリシジルエーテル)等を挙げることができる。
【0019】
また、シクロヘキセンオキサイド構造含有化合物またはシクロペンテンオキサイド構造含有化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3′,4′-エポキシシクロヘキサンカルポキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキサンカルポキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルポキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルポキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルポキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-αチルシクロヘキシルカルポキシレート、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルポキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等を挙げることができる。
【0020】
上記したシクロヘキセンオキサイド構造含有化合物またはシクロペンテンオキサイド構造含有化合物は市販のものを使用してもよく、例えばダイセル化学工業から販売されている、ε-カプロラクトン変性3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルポキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物を使用してもよい。
【0021】
さらに、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、アルファピネンオキサイド、カンファレンアルデヒド、リモネンモノオキサイド、リモネンジオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンジオキサイド等も挙げることができる。
【0022】
上記した脂肪族エポキシ化合物以外にも、例えば、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリダリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリダリシジルエステル、グリシジルアクリレートまたはダリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー、グリシジルアクリレートおよび/またはダリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマー等を使用してもよい。
【0023】
上記した脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、プチルグリシジルエーデル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、高級アルコールのグリシジルエーテル、アルキレンジオールのジグリシジルエーテル(例えば、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル等)、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーデル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーデル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル等の多価アルコールのダリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0024】
さらに、プロピレン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル等を使用してもよい。
【0025】
また、脂肪族高級アルコールのモノダリシジルエーテル、フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、高級脂肪酸のダリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化ポリブタジエン、グリシジル化ポリブタジエン等を使用してもよい。
【0026】
また、エポキシアルカンとしては、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシテトラデカン、1,2-エポキシセタン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシイコサン等を使用してもよい。
【0027】
他の脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリダリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー、グリシジルアクリレートおよび/またはダリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマー等を挙げることができる。これらの代表的な化合物としては、例えば、プチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、高級アルコールのダリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル等の多価アルコールのグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
エポキシ化合物は、光学的立体造形用樹脂組成物に含まれるカチオン重合性有機化合物の総量に対して、質量基準で50~97質量%の割合で含有していることが好ましく、55~95質量%の割合で含有していることがより好ましく、60~90質量%の割合で含有していることが更に好ましい。エポキシ化合物を上記範囲で含むことにより、光造形して得られる立体造形物の機械的強度等が良好になる。
【0029】
[オキセタン化合物]
オキセタン化合物としては、1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物および1分子中にオキセンタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物のうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物としては、特に1分子中にオキセタン基を1個有し、且つアルコール性水酸基を1固有するモノオキセタンモノアルコール化合物が好ましく用いられる。そのような、モノオキセタンモノアルコール化合物のうちでも、下記一般般式(I)および(II)で表されるモノオキセタンモノアルコール化合物のうちの少なくとも1種が、入手の容易性、高反応性、粘度が低い等の点から、好ましく用いられる。
【化2】
(式中、Rは炭素数1~5のアルキル基を表し、Rはエーテル結合を有していてもよい炭素数2~10のアルキレン基を示す。)
【0031】
上記式(I)および(II)中のRの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。
【0032】
上記した一般式(I)のモノオキセタンモノアルコール化合物の具体例としては、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロビルオキセタン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、入手の容易性、反応性等の点から、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタンが好ましく用いられる。
【0033】
また、上記式(II)のRの例としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、3-オキシペンチレン基等を挙げることができる。それらのなかでも、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基またはヘプタメチレン基であることが、合成の容易性、化合物が常温で液体である取り扱い易い等の点から好ましい。
【0034】
1分子中にオキセンタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物としては、オキセタン基を2個有する化合物、オキセタン基を3個以上有する化合物、オキセタン基を4個以上有する化合物のいずれもが使用できるが、オキセタン基を2個有するジオキセタン化合物が好ましく用いられ、そのなかでも下記一般式(III)で表されるジオキセタン化合物が、入手性、反応性、低吸湿性、硬化物の力学的特性等の点から好ましく用いられる。
【化3】
(式中、2個のRは互いに同じかまたは異なる炭素数1~5のアルキル基を表し、Rは芳香環を有しているがまたは有していない2価の有機基を表し、sは0または1を表す。)
【0035】
上記式(III)中のRの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。また、Rの例としては、炭素数1~12の直鎖状または分岐状のアルキレン基(例えばエチレン基、プロピレン基、プチレン基、ネオペンチレン基、n-ペンタメチレン基、n-ヘキサメチレン基等)、式:-CH-Ph-CH-または-CH-Ph-Ph-CH-(式中、Phはフェニル基を表す。)で表される2価の基、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基、トリシクロデカンジメタノール残基、テレフタル酸残基、インフタル酸残基、o-フタル酸残基等を挙げることができる。
【0036】
上記した1分子中にオキセンタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物の具体例としては、ビス(3-メチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3-プロピル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3-ブチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等を挙げることができる。そのなかでも、ビス(3-メチル-3-オキセタニルメチル)エーテルおよび/またはビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルが、入手の容易性、低吸湿性、硬化物の力学的特性等の点から好ましく用いられ、特に、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルが好ましく用いられる。
【0037】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、光学的立体造形用樹脂組成物の光硬化性能や、低粘度化による造形性の向上等の点から、光学的立体造形用樹脂組成物に含まれるカチオン重合性有機化合物の全質量に基づいて、オキセタン化合物を1~35質量%の割合で含有することが好ましく、5~20質量%の割合で含有することがより好ましい。
【0038】
また、得られる樹脂の透明度の観点からは、モノオキセタン化合物を単独で含有するか、またはモノオキセタン化合物とポリオキセタン化合物との両方を含有することが好ましい。この場合のモノオキセタン化合物とポリオキセタン化合物との配合割合は、質量比において95:5~5:95の範囲であることが好ましく、より好ましくは90:10~20:80の範囲である。
【0039】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物として、上記したエポキシ化合物やオキタセン化合物以外の他のカチオン重合性有機化合物が含まれていてもよい。例えば、上記したエポキシ化合物やオキセタン化合物以外の環状エーテル化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、スピロオルソエステル化合物、ビニルエーテル化合物等を挙げることができ、これらのカチオン重合性有機化合物は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記したカチオン重合性有機化合物と併用してカチオン重合開始剤が含まれていることが好ましい。カチオン重合開始剤としては、光等の活性エネルギー線を照射したときにカチオン重合性有機化合物のカチオン重合を開始させ得る重合開始剤のいずれも使用できる。そのなかでも、活性エネルギー線を照射したときにルイス酸を放出するオニウム塩が好ましく用いられる。そのようなオニウム塩の例としては、第VIIa族元素の芳香族スルホニウム塩、VIa族元素の芳香族オニウム塩、第Va族元素の芳香族オニウム塩等を挙げることができる。
【0041】
代表例としては、一般式:[(R11)(R12)(R13)S+](式中、R11、R12およびR13はそれぞれ独立して硫黄(S)に結合した1価の有機基)で表されるスルホニウムイオンまたは一般式:[(R14)(R15)I+](式中、R14およびR15はそれぞれ独立してヨウ素(I)に結合した1価の有機基)で表されるヨードニウムイオンが、一般式:[(Rf)mPF6-m -](式中、Rfはフルオロアルキル基、mは0~6の整数)で表される陰イオン(ホスフェートイオン)、一般式:[(Rf)nSbF6-n -](式中、Rfはフルオロアルキル基、nは0~6の整数)で表される陰イオン(アンチモネートイオン)、式:[BF4 -]で表される陰イオン、式:[AsF6 -]で表される陰イオン等と結合したカチオン重合開始剤等を挙げることができる。
【0042】
具体的には、リン系スルホニウム化合物としては、トリフェニルスルホニウムトリス(パーフルオロエチル)トリフルオロホスフェートや、市販されている化合物(サンアプロ株式会社製「CPI-500K」、同「CPI-500P」、同「CPI-200K」、4-(2-クロロ-4-ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、株式会社ADEKA製「SP-152」)等を挙げることができる。
【0043】
アンチモン系スルホニウム化合物としては、ビス-[4-(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスジヘキサフルオロアンチモネート、ビス-[4-(ジ-4′-ヒドロキシエトキシフェニルスルフォニォ)フェニル]スルフィドビスジヘキサフルオロアンチモネート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(サンアプロ株式会社製「CPI-101A」)または「CPI-110S」)、4-(2-クロロ-4-ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート)(株式会社ADEKA製「SP-172」)等を挙げることができる。
【0044】
上記したようなカチオン重合開始剤のうちの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、本発明では芳香族スルホニウム塩がより好ましく用いられる。
【0045】
また、本発明においては、反応速度を向上させる目的で、カチオン重合開始剤と共に必要に応じて光増感剤、例えばベンゾフェノン、アルコキシアントラセン、ジアルコキシアントラセン、チオキサントン等を用いてもよい。
【0046】
カチオン重合開始剤は、光学的立体造形用樹脂組成物の総量に対して質量基準で、0.1~10質量%の範囲で含有することが好ましく、より好ましくは1~8質量%の範囲、特に1~5質量%範囲であることが好ましい。
【0047】
<ラジカル重合性有機化合物>
本発明で用いることができるラジカル重合性有機化合物としては、(メタ)アクリレート基を有する化合物、不飽和ポリエステル化合物、アリルウレタン系化合物、ポリチオール化合物等を挙げることができ、そのなかでも、1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましく用いられ、具体例としては、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応生成物、アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の1種または2種以上を用いることができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、メタクリレート、またはそれらの混合物の総称を意味するものとする。また、「(メタ)アクリロイルオキシ基」や「(メタ)アクリル酸)」の記載についても同様に解釈されるものとする。
【0048】
エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応生成物としては、芳香族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物および/または脂肪族エポキシ化合物と、(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリレート系反応生成物を挙げることができ、具体例としては、ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物またはベンゼン環がアルコキシ基等によって置換されているビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物、あるいは上記したビスフェノール化合物または置換ビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物とエビクロルヒドリン等のエポキシ化剤との反応によって得られるグリシジルエーテルを(メタ)アクリル酸と反応させて得られる(メタ)アクリレート、エポキシノボラック樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる(メタ)アクリレート系反応生成物等を挙げることができる。
【0049】
アルコール類の(メタ)アクリル酸エステルとしては、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する芳香族アルコール、脂肪族アルコール、脂環族アルコールおよび/またはそれらのアルキレンオキサイド付加体と(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリレートを挙げることができる。具体的には、例えば、ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物またはベンゼン環がアルコキシ基等によって置換されたビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物のジ(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、インオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、インポルニル(メタ)アクリレート、ペンジル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3個以上の水酸基を有する多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、前記したジオール、トリオール、テトラオール、ヘキサオール等の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとインシアネート化合物を反応させて得られる(メタ)アクリレートを挙げることができる。前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、脂肪族2価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によって得られる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、前記インシアネート化合物としては、トリレンジインシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、インホロンジイソシアネート等のような1分子中に2個以上のインシアネート基を有するポリインシアネート化合物が好ましい。
【0051】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエステルと(メタ)アクリル酸との反応により得られるポリエステル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0052】
ポリエーテル(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエーテルとアクリル酸との反応により得られるポリエーテルアクリレートを挙げることができる。
【0053】
上記したラジカル重合性有機化合物と併用してラジカル重合開始剤が含まれていることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、光等の活性エネルギー線を照射したときにラジカル重合性有機化合物(A)のラジカル重合を開始させ得る重合開始剤のいずれもが使用でき、例えば、ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物、フェニルケトン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインまたはそのアルキルエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等を挙げることができる。
【0054】
ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジル-β-メトキシエチルアセタール等を挙げることができる。
【0055】
フェニルケトン系化合物としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン等を挙げることができる。
【0056】
また、アセトフェノン系化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシメチル-1-フェニルプロパン-1-オン、4′-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-tert-ブチルジクロロアセトフェノン、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、p-アジドベンザルアセトフェノン等を挙げることができる。
【0057】
ベンゾイン系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等を挙げることができる。
【0058】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラースケトン、4,4′-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0059】
チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等を挙げることができる。
【0060】
本発明においては、上記した1種または2種以上のラジカル重合開始剤を所望の性能に応じて配合して使用することができる。これらのなかでも、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが、得られる硬化物の色相が良好(黄色度が小さい等)である点から好ましく用いられる。
【0061】
ラジカル重合開始剤は、光学的立体造形用樹脂組成物の総量に対して質量基準で、0.1~10質量%の範囲で含有することが好ましく、より好ましくは1~8質量%の範囲であり、特に1~5質量%の範囲であることが好ましい。
【0062】
成形性の観点から光学的立体造形用樹脂組成物には、上記カチオン重合性有機化合物およびラジカル重合性有機化合物が含まれていることが好ましい。この場合、カチオン重合性有機化合物は、光学的立体造形用樹脂組成物の総量に対して30~95質量%の範囲で含まれていることが好ましく、また、ラジカル重合性有機化合物は、光学的立体造形用樹脂組成物の総量に対して10~50質量%の範囲で含まれていることが好ましい。
【0063】
<ポリロタキサン化合物>
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物は、環状分子と、該環状分子を貫通する軸分子と、該軸分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサン化合物を含むことを特徴とする。ポリロタキサン化合物は、ポリロタキサンの環状分子は、軸分子により貫通され、貫通された状態のまま当該軸分子を軸として回転、移動可能な状態で、且つ、軸分子に配置された封鎖基により軸分子から脱離しない状態で存在する。そのため、環境分子による滑車効果のため、光学的立体造形用樹脂組成物を光造形することによって得られた立体造形物に柔軟性、靱性および耐衝撃性を付与することができる。なお、本明細書において、「環状分子」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、環状分子は完全に閉環でなくてもよく、実質的に軸分子から遊離せずに串刺し状を保っていれば、例えば螺旋構造等であってもよい。ポリロタキサン化合物は、比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、1つのポリロタキサン分子に包接状態で存在する環状分子の包接数(繰り返し数)が少なくても自身の分子量が巨大となる。本発明における「ポリロタキサン化合物」とは便宜上の名称であって、2~10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含むものである。
【0064】
環状分子としては、従来公知の環状分子を使用することができる。このような環状分子を例示すると、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン、シクロファン等が挙げられる。(B)ポリロタキサンの1分子中にこれらの環状分子は、1種類だけが包接状態にあってもよいし、2種以上混在していてもよい。
【0065】
環状分子としては、比較的大きな環径を有していて軸分子が串刺し状に貫通し易いことからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、およびクラウンエーテルが好ましく、溶媒中で容易に軸分子により包接されることからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリン等のシクロデキストリンが特に好ましい。
【0066】
ポリロタキサン1分子における環状分子の個数(包接量:軸分子が貫通している環状分子の個数)は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、平均5個~200個が好ましい。また、環状分子の最大包接量を1とすると、0.05~0.95が好ましく、0.1~0.9がさらに好ましく、0.2~0.8が特に好ましい。なお、環状分子の最大包接量は、軸分子の長さと環状分子との厚さにより、決定することができる。
【0067】
環状分子の包接量が少ないと比較的剛直な構造が形成されないために滑車効果が得られ難くなり、その結果、立体造形物に柔軟性、靱性および耐衝撃性が不十分な場合がある。一方、包接量が多すぎる場合には、ポリロタキサンの分子構造が剛直になりすぎて、環状分子が軸分子に包接された状態で軸分子を軸に移動可能である滑車効果が発現し難くなる場合がある。
【0068】
本発明において、軸分子とは、その分子内に、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有す分子のことをいう。即ち、その分子内に、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有しており、該鎖状部分に環状分子が包接されており、またその鎖状部分(環状分子の鎖状部分を軸とした軸方向の移動を許容する部分)の両末端において環状分子が鎖状部分から離脱しないように封鎖基で封鎖されている限りにおいては、軸分子構造の該鎖状部分以外の部分には、適宜に分岐点を1つ以上有していてもよい。即ち、該軸分子は、主鎖に分岐点を持たない軸分子でもよく、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有しているならば、グラフトポリマー、デンドリマーやスターポリマー等の分岐点を1つ以上有するような分岐型分子でもよい。
【0069】
軸分子としては、公知のポリロタキサンの構成を適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリメチルビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリペルフルオロオキシプロピレン、オリゴテトラフルオロエチレン、ポリカプロラクタム等がその構造が単純であり(B)ポリロタキサンの調製が容易であることから好ましい。これらの軸分子は、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物中に含まれるポリロタキサン化合物としては、上記した成分が2種以上混在していてもよい。
【0070】
これら軸分子同士を使用し擬ポリロタキサン(鎖状部分の両末端に封鎖基は導入していないが環状分子を軸分子が貫通しているもの)も、本発明のポリロタキサン化合物として使用できる。このような架橋構造は、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子同士を介して架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子と軸分子とを架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの軸分子同士を架橋して形成してもよい。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、本発明の軸分子として使用することができ、このような鎖状部分を1つ以上有する架橋分子を使用して擬ポリロタキサンを調製し、次いで開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製しても良い。また、複数の環状分子同士を予め共有結合やイオン結合等で連結しておき、それを軸分子で串刺し状に包接して擬ポリロタキサンを調製し、次いで軸分子の開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製しても良い。
【0071】
得られた架橋ポリロタキサンにおいては、環状分子を貫通している軸分子が架橋された構造もまた、本発明の軸分子と捉えることができる。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、軸分子として使用することができる。
【0072】
ポリロタキサン化合物は、環状分子および/または軸分子の末端封鎖基に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基または光架橋基の1種または2種以上を有していることが好ましい。このような官能基を有することにより、上記したカチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物を光造形する(重合させる)際に、ポリロタキサン化合物の環状分子および/または軸分子と、重合性有機化合物とを共重合させることができる。その結果、光学的立体造形用樹脂組成物のカチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物とポリロタキサン化合物との架橋構造が形成され、立体造形物に柔軟性、靱性および耐衝撃性を付与することができる。
【0073】
軸分子の重量平均分子量は、500~1000,000であることが好ましく、特に1000~100,000であることが好ましく、さらには2000~50,000であることが好ましい。重量平均分子量が500以上であると、環状分子の軸分子による包接反応速度の方が脱包接反応速度よりも高くなるため、包接状態のまま封鎖基を導入できるため、合成が容易となる。また、重量平均分子量が1000,000以下であれば、ポリロタキサンの溶媒への溶解性を維持することができ、合成に支障をきたすことがない。なお、重量平均分子量が小さすぎる場合は機械的強度の向上効果が得られ難くなる場合があり、大きすぎる場合は(A)重合性単量体と(B)ポリロタキサンのなじみや溶解性、相溶性が低下する場合がある。重量平均分子量はゲルパーミテーションクロマトグラフィー(以下で「GPC」と略記することがある)を使用して求めた値である。
【0074】
封鎖基は、上述したように、軸分子の鎖状部分の両末端に配置されて、環状分子が軸分子によって串刺し状に貫通された包接状態を保持できる基であれば(鎖状部分の開放末端から環状分子が抜け落ちない基であれば)、いかなる基であってもよい。封鎖基は、嵩高さを有する基またはイオン性を有する基等を挙げることができる。またここで「基」とは、分子基および高分子基を含む種々の基を意味する。
【0075】
嵩高さを有する基としては、球形の基や側壁状の基を例示できる。このような嵩高さを有する基は、環状分子の環の大きさよりも実質的に大きく、該環状分子の鎖状部分からの移動や脱離を妨げる。また、イオン性を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発しあうことにより、環状分子が軸分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0076】
封鎖基の具体例としては、2,4-ジニトロフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基等のジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニル等を挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類、およびステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、封鎖性能が高いことからジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、およびピレン類からなる群から選ばれるのが好ましい。
【0077】
本発明におけるポリロタキサンは、既に公知の方法、例えば特許第4376849号の方法により製造することもできるし、アドバンスト・ソフトマテリアルズ社等のメーカーからの一般汎用品を入手し使用することもできる。
【0078】
ポリロタキサン化合物は、上記したカチオン重合性有機化合物および/またはラジカル重合性有機化合物の総量100質量部に対して、10~30質量部含まれていることが好ましい。ポリロタキサン化合物の含有量が10質量部以上であると、硬化物の柔軟性、靱性、耐衝撃性がより一層改善され、また、ポリロタキサン化合物の含有量が30質量部以下あると、硬化物の弾性率や強度を維持でき、そのため光学的立体造形法によって実用的な光造形物を得ることができる。
【0079】
<その他の成分>
本発明による光学的立体造形用樹脂組成物には、粒子径が1~200nmの範囲にあるナノ粒子が含まれていてもよい。このようなナノ粒子を含有することにより、透明性を維持しながら、寸法安定性や剛性等を向上させることができる。なお、粒子径とは、均一な球体状の粒子の直径を意味するのみならず、長さや幅が上記範囲外であっても直径や厚さが1~200nmのナノサイズであるものも含まれる意味である。
【0080】
ナノ粒子としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンブラック(CB)、グラフェン、銀や銅等の金属ナノ粒子、ナノクレイ、セルロースナノファイバー、シリカナノ粒子等が挙げられる。CNTとしては、特に限定されないが、多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0081】
ナノクレイとしては、特に限定されないが、モンモリロナイト、スメクタイト、イライト、セピオライト、アレルバルダイト、アメサイト、ヘクトライト、タルク、フルオロへクトライト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ステベンサイト、ベントナイト、マイカ、フルオロマイカ、バーミキュライト、フルオロバーミキュライト、ハロイサイト等の層状ケイ酸塩化合物のナノ粒子、これらのナノ粒子表面を有機分子によって化学修飾したもの等が挙げられ、モンモリロナイト、ベントナイトが好ましい。このようなナノクレイを含有することにより、寸法安定性や剛性の改善だけでなく、耐燃性および耐薬品性の改善を図ることができる。
【0082】
ナノ粒子は、上記した樹脂成分(カチオン重合性有機化合物、ラジカル重合性有機化合物、ロタキサン化合物等)に対して、質量基準で1~10質量%の範囲で含まれることが好ましい。1質量%以上であると寸法安定性や剛性等がより一層改善される。また、10質量%以下であると、透明性に優れる光造形物を得ることでできる。また、光学的立体造形用樹脂組成物の粘度増加の懸念がなく、取り扱いや成形性を維持することができる。
【0083】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、染料等の着色剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、改質用樹脂等の1種または2種以上を適量含有していてもよい。
【0084】
<光学的立体造形法>
本発明の光学的造形用樹脂組成物を用いて光学的に立体造形を行うに当たっては、従来既知の光学的立体造形方法および装置のいずれもが使用できる。好ましく採用され得る光学的立体造形法の代表例としては、液状をなす本発明の光学的造形用樹脂組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー線を選択的に照射して硬化層を形成し、次いでこの硬化層に未硬化の液状光学的造形用樹脂組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体的造形物を得る方法を挙げることができる。
【0085】
その際の活性エネルギー線としては、上述のように、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波等を挙げることができる。そのうちでも、300~400nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられ、その際の光源としては、紫外線レーザー(例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He-Cdレーザー等)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)、紫外線蛍光灯等を使用することができる。
【0086】
光学的立体造形用樹脂組成物よりなる造形面に活性エネルギー線を照射して所定の形状パターンを有する各硬化樹脂層を形成するに当たっては、レーザー光等のような点状に絞られた活性エネルギー線を使用して点描または線描方式で硬化樹脂層を形成してもよいし、または液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッター(DMD)等のような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを通して造形面に活性エネルギー線を面状に照射して硬化樹脂層を形成させる造形方式を採用してもよい。
【0087】
本発明による光学的造形用樹脂組成物は、光学的立体造形分野に幅広く用いることができ、何ら限定されるものではないが、代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するための形状確認モデル、部品の機能性をチェックするための機能試験モデル、鋳型を制作するためのマスターモデル、金型を製作するためのマスターモデル、試作金型用の直接型、自動車やオートバイのレンズ、美術品の復元、模造や現代アート、ガラス張りの建築物のデザインプレゼンテーションモデルのような美術工芸品分野、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物等のモデル、母型、加工用等の用途に有効に用いることができる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りこれらの実施例を適宜改変したものも本発明の範囲内である。
【0089】
<光学的立体造形用樹脂組成物の調製>
ラジカル重合性有機化合物として、ウレタン変性アクリレート(商品名:アクリット8BR-600、大成ファインケミカル株式会社)およびアクリロイルモルホリン(ACMO)を用い、ポリロタキサン化合物として、アドバンスト・ソフトマテリアルズ社から市販されているセルムスーパーポリマーSA2403Pを用いた。上記した成分と、ラジカル重合開始剤(イルガキュア158、チバスペシャリティーケミカルズ)とを下記の表1に示した組成に従って混合することにより光学的立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0090】
【表1】
【0091】
上記のようにして得られた各例の光学的立体造形用樹脂組成物をガラス板上に塗布後、95℃にて1.5~3分間加熱して溶剤を留去した後、コンベア式UV露光装置を用いて、コンベア速度1.8m/minで1~2回通してガラス板上の光学的立体造形用樹脂組成物を硬化させ、厚み100~230μmのフィルム状の硬化物を得た。
【0092】
<物性評価>
得られたフィルム状硬化物の力学的特性[引張り特性(引張破断強度、引張破断伸度、引張弾性率)を測定するため、当該硬化物を長さ15mm×幅4mmの平行部を有するダンベル試験片に加工し、試験片の引張破断強度(引張強度)、引張破断伸度(引張伸度)および引張弾性率を測定した。評価結果は以下の通りであった。
【0093】
【表2】