(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】優れた耐薬品性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20221011BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20221011BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20221011BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/26
C08K5/548
C08K7/14
(21)【出願番号】P 2018560620
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 KR2017003544
(87)【国際公開番号】W WO2017200203
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】10-2016-0061468
(32)【優先日】2016-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522063446
【氏名又は名称】エイチディーシー ポリオール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】キム、へ-リ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジョン-ウォク
(72)【発明者】
【氏名】アン、ビュン-ウォ
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-080274(JP,A)
【文献】特表2019-519629(JP,A)
【文献】特開昭60-186561(JP,A)
【文献】特開平03-168247(JP,A)
【文献】特表2010-501661(JP,A)
【文献】特開平03-146556(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132429(WO,A1)
【文献】特開平05-239354(JP,A)
【文献】特開平11-021451(JP,A)
【文献】特開平06-256569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100ppm以下の塩素含有量および50ppm以下のナトリウム含有量を有するポリアリーレンスルフィド
(PAS樹脂);
ガラス繊維;
メルカプトシラン化合物;ならびに
ハイドロタルサイト
を含む、樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、エポキシシラン化合物を含まず、
前記ポリアリーレンスルフィドの回転円板粘度計によって300℃で測定したとき、溶融粘度が2,150~3,650ポアズであり、
前記ガラス繊維の平均直径が6~15μm、平均長さが2~5mmであり、かつ、
前記樹脂組成物は、エチレングリコール(EG)45体積%、水50体積%およびリン酸塩系防錆剤5体積%を含有する溶液中に射出成形試験片を150℃で3,000時間浸漬させた後に測定したとき、引張り強さの変化率が10%未満である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィドが、10~10,000ppmの主鎖結合ヨウ素または遊離ヨウ素を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量が5,000~50,000である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラス繊維がアルミノホウケイ酸ガラス繊維である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記メルカプトシラン化合物が、多孔質の無機物質に液体シランを含浸させることによって調製される乾燥シランである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ハイドロタルサイトの平均粒径が0.3~0.8μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、樹脂組成物の全重量に対して40~70重量%の前記ポリアリーレンスルフィド、20~55重量%の前記ガラス繊維、0.01~1.5重量%の前記メルカプトシラン化合物、および0.05~5.0重量%の前記ハイドロタルサイトを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアリーレンスルフィドが10~10,000ppmの主鎖結合ヨウ素または遊離ヨウ素を含み;
前記ガラス繊維がアルミノホウケイ酸ガラス繊維であり;かつ
前記ハイドロタルサイトの平均粒径が0.3~0.8μmである、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、成核剤、スリップ剤、顔料およびその任意の組合せからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の前記樹脂組成物を成形することによって調製した成形品。
【請求項11】
前記成形品が、自動車部品、電気部品、または電子部品である、請求項10に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐薬品性および耐不凍液性(antifreeze resistance)を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド(「PAS」とも言う。)は、その高温熱安定性、難燃性および低含水量のためにスチール代替物および構造材料での使用のための需要が増加している熱可塑性樹脂である。特に、ポリフェニレンサルファイド(「PPS」とも言う。)は、その構造特性のために非常に優れた耐薬品性を有するエンジニアリングプラスチックであり、従来のポリエステルおよびポリアミドで置き換えることができなかった自動車部品、電気部品、または電子部品に広く使用されている。
【0003】
従来のPPSの調製は、原料としてp-ジクロロベンゼンおよび硫化ナトリウムを極性有機溶媒、例えばN-メチルピロリドン中で用いて溶液重合法によって行われてきた。しかしながら、このような溶液重合法によって生成したPPSは、大量の反応性低分子物質、例えばオリゴマーおよび塩型副生成物を生成した。このようなオリゴマーおよび塩型副生成物は、電気および電子部品の性能を低下させることがあるので、塩型副生成物およびオリゴマーを除去するために追加の洗浄または乾燥プロセスが必要である(米国特許第2,513,188号および第2,583,941号参照)。その上、上記のような溶液重合法によって調製されたPPSは、主鎖の末端にランダムな不安定な官能基が存在することによる低い耐薬品性の問題があった。
[発明の開示]
[技術的な課題]
【0004】
したがって、本発明の目的は、オリゴマーおよび塩型副生成物を微量含有する、またはそれらのいずれも含有していない、したがって追加の洗浄もしくは乾燥プロセスを必要としないPASを含む樹脂組成物を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、樹脂組成物を成形することによって調製した成形品を提供することである。
[課題を解決するための手段]
【0006】
目的を達成するために、本発明は:
100ppm以下の塩素含有量および50ppm以下のナトリウム含有量を有するPAS;
ガラス繊維;
メルカプトシラン化合物;ならびに
ハイドロタルサイト
を含む樹脂組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、樹脂組成物を成形することによって調製した成形品を提供する。
[発明の効果]
【0008】
本発明による樹脂組成物は、PASに特有の優れた機械的および熱的性質を損なうことなく有機溶媒に対する耐薬品性および耐不凍液性が向上している。したがって、それは、優れた耐薬品性および耐不凍液性を必要とする種々の分野で広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、100ppm以下の塩素含有量および50ppm以下のナトリウム含有量を有するPAS、ガラス繊維、メルカプトシラン化合物ならびにハイドロタルサイトを含む樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明のPASは、塩化物およびナトリウム、すなわち、塩型の含有量を上記範囲に制限するために、ジヨード芳香族化合物および硫黄を含む反応物の溶融重合によって調製してもよい。溶融重合法によって調製したPASは、塩化物およびナトリウムを含有する材料を使用しないので、塩化物およびナトリウムの含有量は、理論的に0ppmである。しかしながら、微量の塩化物またはナトリウムが、後加工、例えば押出および射出中に不純物によって含有されていることがある。
【0011】
溶融重合で使用するジヨード芳香族化合物は、ジヨードベンゼン(DIB)、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノール、およびジヨードベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種であってもよいが、それだけには限定されない。また、置換基、例えばアルキル基、スルホン基などによって結合されているジヨード芳香族化合物、および芳香族基に酸素または窒素原子が含有されているジヨード芳香族化合物を使用してもよい。さらに、ジヨード芳香族化合物は、ヨウ素原子が結合している位置に応じてジヨード化合物の種々の異性体を有し、これらの異性体のうち、ヨウ素原子がパラ位に結合している化合物、例えばパラ-ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6-ジヨードナフタレン、またはp,p’-ジヨードビフェニルがより適している。
【0012】
ジヨード芳香族化合物と反応する硫黄単体の形態は、特に限定されていない。一般に、硫黄単体は、室温で8個の原子が連結した環形態(シクロオクタ硫黄、S8)で存在し、上記構造を有していない固体または液体状態の任意の他の市販硫黄も、特に制限なく使用してもよい。
【0013】
また、ジヨード芳香族化合物および硫黄単体を含む反応物は、重合開始剤、安定剤、またはその混合物をさらに含んでいてもよい。具体的には、重合開始剤は、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオベンゾチアゾール、シクロヘキシル-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、およびブチル-ベンゾチアゾールスルホンアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよいが、それだけには限定されない。また、安定剤は、樹脂の重合反応に一般に使用されている安定剤である限り、特に限定されない。
【0014】
一方では、反応物の溶融重合の間、重合停止剤を加えてもよい。重合停止剤は、製造するポリマーに含有されているヨウ素基を除去することによって重合を停止させることができる化合物である限り、特に限定されない。具体的には、重合停止剤は、ジフェニル、ベンゾフェノン、モノヨードアリール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、チウラム、ジチオカルバメートからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。より具体的には、重合停止剤は、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、ジベンゾチアゾールジスルフィド、ヨードビフェニル、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、N,N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、およびジフェニルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0015】
一方では、重合停止剤の添加のタイミングは、PASの目標粘度または目標分子量に応じて決定してもよい。具体的には、重合停止剤は、初期反応物に含有されているジヨード芳香族化合物の70~100重量%が反応し使い果たされる点で添加してもよい。
【0016】
上記のような溶融重合の反応条件は、ジヨード芳香族化合物および硫黄化合物を含有する反応物の重合が開始され得る限り、特に限定されない。例えば、溶融重合は、高温および減圧条件下で実施してもよい。具体的には、温度上昇および減圧は、初期反応条件、例えば、温度180~250℃および圧力50~450トールを、最終反応条件、例えば、温度270~350℃および圧力0.001~20トールに変えることによって行われる。より具体的には、重合は、最終反応条件、例えば、温度約280~320℃および圧力約0.1~1.5トールで実施してもよい。反応は、一(1)から三十(30)時間実施してもよい。
【0017】
一方では、PASの調製法は、溶融重合の前にジヨード芳香族化合物および硫黄単体を含有する反応物を溶融ブレンドする工程をさらに含んでいてもよい。このような溶融ブレンドは、混合物が溶融ブレンドできる限り、特に限定されない。例えば、それは、130~200℃、具体的には160~190℃の温度で実施してもよい。溶融重合の前に溶融ブレンド工程を実施すると、後で行う溶融重合をより容易に実施することができる。
【0018】
本発明の態様によれば、PASの調製法における溶融重合は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で実施してもよい。また、上記のような溶融重合反応の前に溶融ブレンド工程がさらに含まれている場合、ニトロベンゼン系触媒は、溶融ブレンド工程で添加してもよい。ニトロベンゼン系触媒の例には、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼンまたは1-ヨード-4-ニトロベンゼンが含まれていてもよいが、それだけには限定されない。
【0019】
PASは、主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素を含んでいてもよい。遊離ヨウ素は、上記のようなジヨード芳香族化合物および硫黄を含有する反応物の重合工程中に生成されてもよく、ヨウ素分子、ヨウ素イオン、ヨウ素ラジカルなどを包含し、最終的に形成したPASから化学的に分離された状態のままである。具体的には、PASは、10~10,000ppmのヨウ素および遊離ヨウ素を含有していてもよい。より具体的には、PASは、10~5,000ppmのヨウ素および遊離ヨウ素を含有していてもよい。主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素の含有量は、高温でPASを熱処理し、イオンクロマトグラフィーを用いて定量化を行うことによって測定することができる。
【0020】
PASは、数平均分子量が5,000~50,000、8,000~40,000、または10,000~30,000であってもよい。また、PASは、重量平均分子量対数平均分子量の比と定義される多分散性が、約2.0~4.5、約2.0~約4.0、または約2.0~約3.5であってもよい。
【0021】
PASは、溶融粘度が300℃で10~50,000ポアズ、100~20,000ポアズ、または約300~10,000ポアズであってもよい。
【0022】
PASは、融点が約265~290℃、約270~285℃、または約275~283℃であってもよい。
【0023】
樹脂組成物は、樹脂組成物の全重量に対して40~70重量%のPASを含んでいてもよい。具体的には、それは、樹脂組成物の全重量に対して50~65重量%のPASを含んでいてもよい。
【0024】
ガラス繊維は、樹脂組成物の耐熱性および機械的強度の向上に役立ち得る。ガラス繊維は、平均直径が6~15μm、平均長さが2~5mmであってもよい。
【0025】
表面処理したガラス繊維を使用すると、PASとガラス繊維の間の界面接着性が向上する。表面処理は、エポキシ基、アミノ基、または両方を有するシランを用いて実施してもよい。具体的には、ガラス繊維は、アルミノホウケイ酸ガラス繊維であってもよい。
【0026】
ガラス繊維は、樹脂組成物の全重量に対して20~55重量%の量で含有されていてもよい。具体的には、ガラス繊維は、樹脂組成物の全重量に対して30~50重量%の量で含有されていてもよい。
【0027】
メルカプトシラン化合物は、物性補強剤(physical property reinforcing agent)であり、PASとガラス繊維の間の相溶性を高めることによって、樹脂組成物の界面接着性を向上させる。具体的には、メルカプトシラン化合物は、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリプロポキシシラン、2-メルカプトエチルトリブトキシシラン、2-メルカプトエチルトリsec.ブトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、3-メルカプトプロピルトリオクトキシシラン、2-メルカプトエチルトリ2’-エチルヘキソキシシラン、2-メルカプトエチルジメトキシエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3-メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルメルカプトシラン、3-メルカプトプロピルメトキシジ(メチルメルカプト)シラン、3-メルカプトプロピルメトキシメチルメチルメルカプトシラン、2-メルカプトエチルトリス(メチルメルカプト)シラン、2-メルカプトエチルトリス(イソプロピルメルカプト)シラン、3-メルカプトプロピルトリブチルメルカプトシラン、3-メルカプトプロピルトリス(オクチルメルカプト)シラン、3-メルカプトプロピルシクロヘキソキシジメチルシラン、4-メルカプトブチルトリメトキシシラン、3-メルカプトシクロヘキシルトリメトキシシラン、12-メルカプトドデシルトリメトキシシラン、18-メルカプトオクタデシルトリメトキシシラン、18-メルカプトオクタデシルメトキシジメチルシラン、2-メルカプトエチルトリプロポキシシラン、3-メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、4-メルカプトブチルトリプロポキシシランおよびその組合せからなる群から選択されてもよい。具体的には、メルカプトシラン化合物は、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、およびその組合せから選択されてもよい。
【0028】
その上、メルカプトシラン化合物は、乾燥シランの形態であってもよい。乾燥シランは、微細孔を有する多孔質無機物質に液体シランを含浸させることによって調製され、容易な加工性の利点を有する。シランは、乾燥シランの全重量に対して50~80%、具体的には60~75%の量で乾燥シランに含有されていてもよい。
【0029】
樹脂組成物は、樹脂組成物の全重量に対して0.01~1.5重量%のメルカプトシラン化合物を含んでいてもよい。具体的には、それは、樹脂組成物の全重量に対して0.05~1.0重量%のメルカプトシラン化合物を含んでいてもよい。
【0030】
ハイドロタルサイトは、PPS中に残っているヨウ素またはイオン形態の不純物を捕捉することによって、樹脂組成物の耐薬品性および耐不凍液性の向上に役立つ。同じ機能を果たすことができる金属系ステアリン酸は、その低い融点のためにPASを含む樹脂組成物で使用するのは難しい。一方では、高温熱安定性のために、ハイドロタルサイトは、PASの物理的性質を低下させずに、ヨウ素またはイオン形態の不純物を減少させ得る。
【0031】
ハイドロタルサイトは、水酸化アルミニウムマグネシウム炭酸塩水和物(magnesium aluminum hydroxide carbonate hydrate)であってもよく、これはイオン交換効果を有する無機物質であり、その種類は限定されない。具体的には、ハイドロタルサイトは、MgOおよびAl2O3を重量比3.0:1~5.0:1の範囲で含んでいてもよい。その上、ハイドロタルサイトは、平均粒径が0.3~0.8μmであってもよい。より具体的には、ハイドロタルサイトは、MgOおよびAl2O3を重量比3.5:1~5.0:1の範囲で含んでいてもよく、平均粒径が0.3~0.6μmであってもよい。
【0032】
ハイドロタルサイトは、樹脂組成物の全重量に対して0.05~5.0重量%の量で含有されていてもよい。具体的には、ハイドロタルサイトは、樹脂組成物の全重量に対して0.1~2.0重量%の量で含有されていてもよい。
【0033】
樹脂組成物は、樹脂組成物の全重量に対して40~70重量%のPAS、20~55重量%のガラス繊維、0.01~1.5重量%のメルカプトシラン化合物、および0.05~5.0重量%のハイドロタルサイトを含んでいてもよい。
【0034】
PASは、10~10,000ppmの主鎖結合ヨウ素または遊離ヨウ素を含んでいてもよく、ガラス繊維は、アルミノホウケイ酸ガラス繊維であってもよく、ハイドロタルサイトは、平均粒径が0.3~0.8μmであってもよい。
【0035】
樹脂組成物は、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、成核剤、スリップ剤、顔料およびその任意の組合せからなる群から選択される成分をさらに含んでいてもよい。
【0036】
樹脂組成物は、エチレングリコールおよび水を1:1の体積比で含有する溶液中に射出成形試験片を150℃で3,000時間浸漬させた後に測定したとき、引張り強さの変化率が10%未満であってもよい。
【0037】
本発明はまた、上記のような樹脂組成物を成形することによって調製した成形品を提供する。具体的には、成形品は、自動車部品、電気部品、または電子部品であってもよい。
【0038】
成形品は、当技術分野で既知の方法、例えば二軸押出などにより本発明の樹脂組成物を成形することによって製造してもよい。成形品は、種々の形態、例えば、例として、フィルム、シート、または繊維であってもよい。その上、成形品は、射出成形品、押出成形品、または吹込成形品であってもよい。
【0039】
具体的には、成形品が射出成形によって調製される場合、成形温度は、約130℃以上であってもよい。成形品がフィルムまたはシート形態の場合、それらは、無延伸法、一軸延伸法、二軸延伸法などによって種々のフィルムまたはシートとして製造してもよい。成形品が繊維の場合、それらは、様々な種類の繊維、例えば未延伸繊維、延伸繊維、または超延伸繊維などであってもよく、布地、編物、不織布(スパンボンド、メルトブロー、またはステープル)、ロープまたはネットとして使用してもよい。成形品は電気または電子部品、例えばコンピュータ部品、建築材料、自動車部品、機械部品、基礎商品、薬品と接触する塗料または耐薬品性を必要とする工業用繊維などとして使用してもよい。
[発明のための形態]
【0040】
以下、本発明は、実施例によって詳細に説明する。以下の実施例は、その範囲を限定することなく本発明をさらに例示するものである。
【0041】
調製例1:PPS1の調製
p-ヨードベンゼン(p-DIB)5,130gおよび硫黄450gを、反応器の内部温度を測定できる熱電対と窒素パージおよび減圧排気が可能な真空ラインとを備えた5L反応器に入れた。反応器を180℃まで加熱して、p-DIBおよび硫黄を完全に溶融ブレンドし、次いで段階的な温度上昇および減圧の条件下で重合反応を実施した。具体的には、温度上昇および減圧は、硫黄19gを7回供給する間に、初期反応条件、すなわち、220度の温度および350トールの圧力と、最終反応条件、すなわち、300℃および0.6~0.9トールとを変えることによって行った。重合反応の進行度は、現在の粘度対目標粘度の相対比として式「(現在の粘度/目標粘度)×100%」によって計算した。目標粘度は、2,000ポアズであった。現在の粘度は、重合中に試料を採取し、粘度計で測定することによって測定した。重合反応が80%まで進んだとき、ジフェニルジスルフィド35gを重合停止剤として添加し、反応をさらに1時間実施した。その後、0.1~0.5トールで徐々に減圧して、目標粘度の2,000ポアズに到達し、次いで反応を停止させて、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS1)を生成した。得られた樹脂は、小型ストランドカッターを用いてペレットの形態に作製した。
【0042】
PPS1の結果、融点(Tm)、数平均分子量(Mn)、多分散性指数(PDI)、溶融粘度(MV)、および主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素の含有量は、次のようになった。結果として、PPS1は、MVが2,150ポアズ、融点が280℃、Mnが17,420、PDIが2.7、ヨウ素および遊離ヨウ素含有量が300ppmであった。
【0043】
融点
示差走査熱量測定器(DSC)を用いて、温度を30から320℃まで10℃/分の速度で上昇させ、30℃まで冷却し、次いで30から320℃まで10℃/分の速度で再度上昇させている間の融点を測定した。
【0044】
数平均分子量(Mn)および多分散性指数(PDI)
0.4重量%のPPS濃度が得られるようにPPS樹脂を1-クロロナフタレンに溶解させ、250℃で25分間撹拌することによって試料を調製した。次いで、試料を1mL/分の流量で高温ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)システム(210℃)のカラムに導入し、異なる分子量のポリフェニレンサルファイドを順次分離し、RI検出器を用いて分離したポリフェニレンサルファイドの分子量に対応する強度を測定した。分子量が既知の標準試験片(ポリスチレン)を用いて検量線を決定した後、PPS樹脂の数平均分子量(Mn)および多分散性指数(PDI)を計算した。
【0045】
溶融粘度(MV)
回転円板粘度計を用いて溶融粘度を300℃で測定した。周波数掃引法では、角振動数を0.6rad/s~500rad/sまで測定し、1.84rad/sにおける粘度をMVと定義した。
【0046】
主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素の含有量(ppm)
主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素の含有量(ppm)を測定するために、PPS樹脂50mgを1,000℃で完全に灰化した。その後、燃焼ガス中のヨウ素をイオン化し蒸留水に溶解させた自動前処理装置(AQF)を用いて試料を調製した。PPS樹脂のヨウ素(I)含有量は、イオンクロマトグラフィーによって試料を分析することによって得た検量線を用いて測定した。
【0047】
調製例2:PPS2の調製
PPS2樹脂は、目標粘度が600ポアズであったことを除いて調製例1と同じ方法によって調製した。PPS2は、MVが715ポアズ、融点が281℃、Mnが13,290、PDIが2.8、主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素含有量が200ppmであった。
【0048】
調製例3:PPS3の調製
PPS3樹脂は、目標粘度が3,600ポアズであったことを除いて調製例1と同じ方法によって調製した。PPS3は、MVが3,650ポアズ、融点が281℃、Mnが19,010、PDIが2.9、主鎖結合ヨウ素および遊離ヨウ素含有量が270ppmであった。
【0049】
例1:樹脂組成物の調製
59.2重量%の調製例1で調製したPPS1、40重量%のアミノシランで表面処理したガラス繊維(584、Jushi Group Co., Ltd.)、0.3重量%のメルカプトシラン化合物(Silquest A-189、Momentive Co.)および0.5重量%のハイドロタルサイトを二軸押出機中で混合することによって樹脂組成物を調製した。
【0050】
直径40mmおよびL/Dが44のSM platek製二軸スクリュー押出機を使用した。プロセス条件は、スクリュー速度が250rpm、供給速度が40kg/時間、バレル温度が280℃~300℃、トルクが60%であった。3つのフィーダーを用いて原料を注入した。PPS樹脂組成物を調製するために、第1のフィーダーは、PPS1樹脂およびハイドロタルサイトを供給するため;第2のフィーダーは、メルカプトシラン化合物を供給するため、第3のフィーダーは、ガラス繊維を供給するために使用した。
【0051】
例3から5、参考例2および6、ならびに比較例1から11:樹脂組成物の調製
PPS樹脂組成物は、表2および3に示す成分およびそれらの含有量を用いたことを除いて例1と同じ方法によって調製した。
【0052】
例1、3から5、参考例2および6、ならびに比較例1から11で使用した成分を下記表1に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
[実験例]
例1、3~5、参考例2および6、ならびに比較例1~11で調製した樹脂組成物の物理的性質は、下記の方法に従って測定し、測定結果を表4および5に示した。表4および5中のN.D.は、「検出されず」を表し、検出限界未満の量を含有することを指す。
【0057】
最初に、例1、3~5、参考例2および6、ならびに比較例1~11で調製した各樹脂組成物を310℃で射出成形して、射出成形試験片を調製した。
(1)引張り強さ
射出成形試験片の引張り強さを、ISO 527に基づいて測定した。
【0058】
(2)衝撃強さ
ISO 179に基づいて、寸法が80mm(長さ)×10mm(幅)×4mm(厚さ)の射出成形試験片の衝撃強さを、V-ノッチシャルピー法によって測定した。
【0059】
(3)ナトリウム含有量
硝酸10mL、過塩素酸10mLおよび硫酸10mLを射出成形試験片0.5gに加え、ホットプレート上で約350℃で加熱して、有機物質を酸分解させ、わずかな量を除いて残りの酸を蒸発させた。次いで、溶液を室温まで冷却し、25mL容量のフラスコに入れ、容量フラスコの25mLの標線まで蒸留水を加えることによって希釈し、次いでICP-AESによってナトリウム(Na)含有量を測定した。ここで、N.D.は、5ppmすなわち定量限界より少ない量でナトリウムを含有することを指す。
【0060】
(4)塩素含有量
AQF(Auto Quick Furnace)を用いて射出成形試験片50mgを1,000℃で加熱して、任意の有機物質を完全に灰化し、燃焼ガスを吸収溶液(900ppmの過酸化水素溶液)に閉じ込め、イオンクロマトグラフィー(Auto Quick Furnace)に自動注入して塩素(Cl)含有量を測定した。
【0061】
(5)曲げ強さ
ISO 178に基づいて射出成形試験片の曲げ強さを測定した。
【0062】
(6)耐不凍液性(LLC、ロングライフクーラント)
射出成形試験片を自動車の不凍液(Hyundai Mobis製;製品名:四季のための不凍液;ならびに組成:エチレングリコール(EG)45体積%、水50体積%およびリン酸塩系防錆剤5体積%)に150℃で3,000時間浸漬して、浸漬後の引張り強さおよび曲げ強さ対浸漬前のそれらの比を測定した。
【0063】
(7)耐薬品性1
射出成形試験片をクロロホルムに浸漬し、50℃で30日間熱処理し、重量変化率、すなわち、熱処理後の重量対熱処理前のものを測定した。
【0064】
(8)耐薬品性2
射出成形試験片を10%(w/v)CaCl2水溶液に浸漬し、80℃で1,000時間(41.6日)熱処理した。熱処理前の曲げ強さを100%と設定したとき、熱処理後の曲げ強さ対熱処理前のものの比を測定した。
【0065】
【0066】
【0067】
上記表4および5に示すとおり、例1、3~5、参考例2および6の樹脂組成物は、微量の塩化物およびナトリウムを含有し、改善された耐不凍液性および耐薬品性を示した。
【0068】
メルカプトシラン化合物およびハイドロタルサイトを含有する例1および5は、メルカプトシラン化合物もハイドロタルサイトも含有しない比較例1と比較して、著しく改善された耐不凍液性、引張り強さ、衝撃強さおよび酸に対する強い耐薬品性を示した。
【0069】
さらに、例1、3~5、参考例2および6は、溶液重合したPPSを含有する比較例2、3および7~10と比較して、塩化物およびナトリウムの含有量がはるかに少なく、改善された耐不凍液性および耐薬品性を示した。
【0070】
その上、例1、4、および5は、メルカプトシラン化合物を含有していない比較例4と比較して、著しく高い引張り強さ、衝撃強さおよび耐不凍液性を示した。
【0071】
その上、メルカプトシラン化合物の代わりにエポキシシラン化合物を含有する比較例5および11は、例1と比較して、より低い耐不凍液性を示した。
【0072】
さらに、ハイドロタルサイトの代わりに酸化マグネシウムを含有する比較例6は、例1と比較して、より低い引張り強さ、衝撃強さおよび耐不凍液性を示した。