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特許7155029PMMA用添加剤、及びPMMA樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】PMMA用添加剤、及びPMMA樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20221011BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20221011BHJP
   C01B 39/26 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08L33/12
C08K3/34
C01B39/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019013249
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020121896
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390036722
【氏名又は名称】神島化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 将志
(72)【発明者】
【氏名】林田 浩一
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109111672(CN,A)
【文献】特許第2512324(JP,B2)
【文献】特開2014-031409(JP,A)
【文献】特開昭50-090343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C01B39/00- 39/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)に添加して使用されるPMMA用添加剤であって、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる合成アナルサイム粒子を主成分として含有し、
前記合成アナルサイム粒子は、レーザー回折式粒度分布計で得られる粒度分布における体積基準での累積50%径(D50)が1~200μmである、PMMA用添加剤。
【請求項2】
前記合成アナルサイム粒子は、レーザー回折式粒度分布計で得られる粒度分布における体積基準での累積10%径(D10)と累積50%径(D50)との比で求められる粒度分布指標(D10/D50)が、1.0~1.5である請求項1に記載のPMMA用添加剤。
【請求項3】
前記合成アナルサイム粒子が24面体の一次粒子からなる請求項1又は2に記載のPMMA用添加剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のPMMA用添加剤と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)と、を含有してなるPMMA樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリメチルメタクリレート100質量部に対して、前記合成アナルサイム粒子0.1~200質量部を含有する請求項4記載のPMMA樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のPMMA樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる合成アナルサイム粒子を主成分として含有するPMMA用添加剤、及びそれを含むPMMA樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)は、透明度のきわめて高いプラスチックであり、研磨や切断、切削加工も容易であり、劣化しにくい樹脂のため、透明性を活かした種々の用途に使用されている。しかし、ガラス等と比較して、表面の硬度が十分とはいえず、例えば自動車テールランプカバー等の用途では、洗車等による傷つきが問題となり、用途が制限される要因となっていた。
【0003】
一般的に、樹脂成形体の強度や剛性を改善する場合、無機フィラーを使用することが多いが、無機フィラーの化学組成、微粒子の形状、凝集構造によっては、表面硬度や強度の改善効果が不十分となったり、透明性や耐久性を損なうという問題があった。
【0004】
一方、合成アナルサイム粒子そのものは、特許文献1~2に記載されているように公知であり、例えばシリカ、苛性アルカリ、及び水酸化アルミニウム或いはアルミン酸塩をアナルサイムの組成に見合った割合で、水熱反応させることにより製造できることが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、合成アナルサイム粒子の用途としては、特許文献1にフィルム用のアンチブロッキング剤等が記載されており、特許文献2には、種々の樹脂フィルムのアンチブロッキング剤等に使用できることが記載されている。しかし、特にPMMA用の添加剤として、合成アナルサイム粒子が使用できることについては、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-186413号公報
【文献】特開平01-242413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、透明性の高い樹脂に無機フィラーを添加して、深みのある天然石のような質感を与えて意匠性を高める場合があるが、樹脂が白色化すると、深みの有る質感が得られにくくなる。このため、無機フィラーの添加により意匠性を改善する上で、透明性が十分維持されることが望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、PMMAに添加した際に、表面硬度の改善効果が十分得られ、透明性や耐久性を損ないにくいPMMA用添加剤、及びPMMA樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、PMMA用の添加剤として、合成アナルサイム粒子を使用することにより、得られる樹脂組成物の表面硬度が十分改善され、透明性や耐久性を損ないにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明のPMMA用添加剤は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に添加して使用されるPMMA用添加剤であって、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる合成アナルサイム粒子を主成分として含有することを特徴とする。
【0011】
本発明のPMMA用添加剤によると、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる合成アナルサイム粒子を主成分として含有するため、PMMA用の添加剤として使用する際に、粒子の屈折率が樹脂に近いことや化学的な安定性が高いことから、透明性や耐久性を損ないにくくなると考えられる。また、合成アナルサイム粒子の粒子形状や凝集構造も、得られる樹脂組成物の表面硬度の改善や透明性の維持に寄与していると考えられる。
【0012】
このような理由から、前記合成アナルサイム粒子は、レーザー回折式粒度分布計で得られる粒度分布における体積基準での累積50%径(D50)が1~200μmであることが好ましい。
【0013】
また、前記合成アナルサイム粒子は、レーザー回折式粒度分布計で得られる粒度分布における体積基準での累積10%径(D10)と累積50%径(D50)との比で求められる粒度分布指標(D10/D50)が、1.0~1.5であることが好ましい。
【0014】
更に、前記合成アナルサイム粒子が24面体の一次粒子からなることが好ましい。
【0015】
一方、本発明のPMMA樹脂組成物は、上記のようなPMMA用添加剤と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)と、を含有してなることを特徴とする。本発明のPMMA樹脂組成物によると、合成アナルサイム粒子を主成分として含有するため、粒子の屈折率が樹脂に近いことや化学的な安定性が高いことから、透明性や耐久性を損ないにくくなると考えられる。また、合成アナルサイム粒子の粒子形状や凝集構造も、得られる樹脂組成物の表面硬度の改善に寄与していると考えられる。
【0016】
上記において、前記ポリメチルメタクリレート100質量部に対して、前記合成アナルサイム粒子0.1~200質量部を含有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の成形体は、上記のようなPMMA樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。本発明の成形体によると、表面硬度の改善効果が十分得られ、透明性や耐久性を損ないにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1で得られた合成アナルサイム粒子のSEM写真である。
図2】本発明の実施例2で得られた合成アナルサイム粒子のSEM写真である。
図3】本発明の実施例1で得られた合成アナルサイム粒子の粉末X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<PMMA用添加剤>
本発明のPMMA用添加剤は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に添加して使用されるものである。当該添加剤は、表面硬度の向上、強度の向上、意匠性の改善などのために使用することができる。つまり、当該添加剤は、表面硬度改善剤、補強材、意匠性改善剤などとして使用することができる。なお、添加剤により、樹脂が白色化すると深みの有る天然石のような意匠性が得られにくくなるため、意匠性を改善する上で、透明性が維持されることが望ましい。
【0020】
本発明のPMMA用添加剤は、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる合成アナルサイム粒子を主成分として含有するものである。「主成分として含有する」とは、添加剤中に通常80質量%以上含有されることを意味し、好ましくは添加剤中に90質量%以上含有され、最も好ましくは、100質量%含有される。その他の成分としては、合成アナルサイム粒子の表面処理剤、樹脂用のその他の添加剤などが挙げられる。
【0021】
<合成アナルサイム粒子>
本発明において「合成アナルサイム粒子」は、合成アナルサイム及び/又はその無水物からなる粒子を指し、合成アナルサイム(Analcime)は、典型的には、NaAlSi・HOの組成式で示され、合成アナルサイムの無水物は、典型的には、NaAlSiの組成式で示される。合成アナルサイムは、立方晶の結晶系を有し、合成アナルサイムの無水物は、立方晶の結晶系を有する。
【0022】
本発明では、より狭い粒度分布としつつ粒子凝集を少なくすることで、成形体の意匠性や表面硬度を改善する観点から、合成アナルサイム粒子が24面体である一次粒子、又は24面体の角部が曲面となっている一次粒子からなることが好ましい。
【0023】
合成アナルサイム粒子の代表的な化学組成としては、SiOが49~59質量%、Alが21~25質量%、NaOが12~14質量%、HOが7~10質量%が例示される。
【0024】
合成アナルサイム粒子のレーザー回折式粒度分布計で得られる粒度分布における体積基準での累積50%径(D50)は、PMMAに添加した際に、表面硬度の改善効果が十分得られ、透明性や耐久性を損ないにくくする観点から、1~200μmであることが好ましく、10~150μmであるがより好ましく、20~100μmであることがより好ましい。但し、意匠性を改善する上では、特に累積50%径(D50)が20~100μmであることが好ましい。
【0025】
合成アナルサイム粒子は、より狭い粒度分布にすることで、より狭い粒度分布としつつ粒子凝集を少なくすることで、成形体の意匠性や表面硬度を改善する観点から、累積10%径(D10)と累積50%径(D50)との比で求められる粒度分布指標(D10/D50)が、1.0~1.5であることが好ましく、1.0~1.4であることがより好ましく、1.0~1.3であることが更に好ましい。
【0026】
合成アナルサイム粒子の屈折率は、通常1.48~1.49であり、PMMA樹脂(屈折率1.49)も同程度の屈折率を有するので、そのような樹脂との混合により透明性を維持することができ、成形体の意匠性を改善することができる。
【0027】
合成アナルサイム粒子は、その製法等に応じて不純物を含有する場合がある。例えば、鉄、銅、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、バナジウムなどの金属の化合物である。これらの不純物の含有量は、金属換算で、0.5質量%以下であることが望ましい。
<合成アナルサイム粒子の製造方法>
本発明における合成アナルサイム粒子は、公知の方法で製造することができる。例えば、シリカ原料、苛性アルカリ、及びアルミ原料をアナルサイムの組成に見合った割合で混合し、水熱反応させることにより製造できる。混合は、例えば苛性アルカリ水溶液に、残りの原料を混合する方法や、予めシリカ原料を苛性アルカリ水溶液に溶解したものとアルミ原料を苛性アルカリ水溶液に溶解したものとを混合する方法などにより行なうことができる。
【0028】
シリカ原料としては、非晶質シリカ粉末、結晶質シリカ粉末、コロイダルシリカ、フュームシリカ、ケイ酸ナトリウム、りんケイ石、クリストバル石、コロイド状ケイ酸などが挙げられる。
【0029】
苛性アルカリとしては、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)などが挙げられる。苛性アルカリ水溶液中の苛性アルカリの濃度は、0.1M(モル/L)以上が好ましく、1~10Mがより好ましく、2~5Mが更に好ましい。
【0030】
アルミ原料としては、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸塩などが挙げられる。
【0031】
混合時に調整されるモル比としては、NaO/SiOが例えば0.5~5.0、好ましくは0.7~3.0であり、SiO/Alが例えば2~50、好ましくは3~20であり、HO/NaOが例えば20~500、好ましくは50~200である。本発明では、特に、粒度分布の狭い合成アナルサイム粒子を得る上で、モル比SiO/Alが1~10であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。
【0032】
本発明では、例えば、上記組成を満足するように、各原料を混合してアルミノケイ酸アルカリのゲルを生成させ、このゲルを攪拌混合等により均質化した後、加熱条件下で常圧若しくは水熱条件下で結晶化させることにより、合成アナルサイム粒子を得ることができる。
【0033】
水熱処理の温度としては、100~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましい。水熱処理の時間としては、水熱処理の温度にもよるが、1~100時間が好ましく、3~50時間がより好ましい。
【0034】
本発明では、合成アナルサイム粒子の単一相を効率良く形成する点から、加熱加圧下で混合する水熱処理を行うことが好ましい。水熱処理方法は、特に限定されないが、通常、オートクレーブ等の耐熱容器中において行う。水熱処理時の容器内圧力は、特に限定されないが、0.1~5.0MPaが好ましく、0.2~4.0MPaがより好ましい。水熱処理圧力がこの範囲であると、結晶成長及び平均粒子径を適切な範囲に制御することができる。
【0035】
水熱処理により得られたスラリーは真空ろ過して、合成アナルサイム粒子を含む固形物(ケーキ)とろ液に分離して、固形分に対し20倍以上の水で十分洗浄することが好ましい。水洗の回数には特に制限はない。これにより、スラリー中に含まれる水溶性不純物を取り除くことができる。水洗後の固形物は、オーブン等で100~150℃で、1~24時間乾燥させ、必要に応じて乾燥後の固形分を乾式粉砕又は分級することにより、所望の合成アナルサイム粒子を得ることができる。
【0036】
合成アナルサイム粒子の表面には、必要に応じて表面処理を行なうことが可能であり、例えば金属石鹸、樹脂酸石鹸、各種樹脂乃至ワックス類、シラン系乃至チタン系カップリング剤、シリカコーティング等を用いて表面処理することができる。
【0037】
このような表面処理剤を用いて、合成アナルサイム粒子の表面処理を行うには、公知の乾式法ないし湿式法を適用することができる。乾式法としては、合成アナルサイム粒子の粉末をヘンシェルミキサー等の混合機により、攪拌下で表面処理剤を液状、エマルジョン状、あるいは固体状で加え、加熱又は非加熱下に充分に混合すればよい。湿式法としては、合成アナルサイム粒子の粉末を非水系溶媒スラリーに表面処理剤を溶液状態又はエマルジョン状態で加え、例えば1~100℃程度の温度で機械的に混合し、その後、乾燥等によって非水系溶媒を除去すればよい。
【0038】
表面処理剤の添加量は、適宜選択することができるが、合成アナルサイム粒子100質量部に対して0.1~10質量部の範囲が好ましく、0.5~5質量部の範囲がより好ましい。なお、乾式法を採用する場合、湿式法に比べて不均一な表面処理レベルとなりやすいため、湿式法よりは若干多めの添加量とした方がよい。
【0039】
表面処理を行った合成アナルサイム粒子は、必要に応じて、水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、及び分級等供することができる。
【0040】
合成アナルサイムの無水物を含む合成アナルサイム粒子を製造する場合、以上のようにして得られた合成アナルサイム粒子を例えば350~1,000℃の温度で1~24h時間だけ加熱処理する方法で得ることができる。
【0041】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、以上で説明したPMMA用添加剤と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)と、を含有してなるものである。
【0042】
PMMAとしては、メチルメタクリレートの単独重合体(ホモポリマー)の他、メチルメタクリレートと他のモノマーを共重合した共重合体(コポリマー)であってもよい。その場合、メチルメタクリレートの共重合比率は50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0043】
また、メチルメタクリレートの単独重合体又は共重合体と、他の重合体を含有するブレンド体であってもよい。その場合、メチルメタクリレートの単独重合体又は共重合体の含有率は、全樹脂中に50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0044】
共重合される他のモノマーとしては、メチルメタクリレートを除くアルキルメタクリレート、アルキルアクリレート、メタクリル酸とフェノール類とのエステル、メタクリル酸と芳香族アルコールとのエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、共役ジエン系単量体等が挙げられる。
【0045】
具体的には、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、等のメチルメタクリレートを除くアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;フェニルメタクリレート等のメタクリル酸とフェノール類とのエステル;ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレンもしくはハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリルもしくはメタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;ブタジエンもしくはイソプレン等の共役ジエン系単量体等が挙げられる。
【0046】
ブレンドされる他の重合体としては、例えば、アクリル系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)系樹脂、ポリエチレン系樹脂(直鎖状ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン系樹脂(ホモポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のαオレフィンとの共重合体)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、イソプレン系樹脂、エチレンープロピレン系ゴム、エチレン-プロピレン系ゴム等のポリオレフィンなどが挙げられる。なかでも、PMMAとの相溶性の観点から、アクリル系樹脂などが好ましい。
【0047】
上記樹脂組成物では、添加剤としての機能に応じて、合成アナルサイム粒子の含有量が調整されるが、一般的には樹脂100質量部に対し、合成アナルサイム粒子を0.1~200質量部で含有することが好ましく、より好ましくは1~150質量部、更に好ましくは5~100質量部で含有させる。
【0048】
なお、深みのある天然石のような質感を与えて意匠性を高める場合、樹脂100質量部に対し、合成アナルサイム粒子を10~200質量部で含有することが好ましく、より好ましくは50~150質量部で含有させる。
【0049】
上記樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外に他の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤、可塑剤、充填剤、補強剤、難燃剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、滑剤、老化防止剤、耐候剤、着色剤、硬化促進剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種及び2種以上配合しても良い。上記他の添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、上記樹脂100質量部に対し、0.1~10質量部配合するのが好ましい。
【0050】
合成アナルサイム粒子と樹脂等との混合や充填は、公知の混練方法や充填方法により得ることができ、例えばロール混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸混練機、2軸混練機、遠心式混練機、公転自転式混練機などによって均一に混合される。脱泡効果を付加した装置を用いて樹脂組成物中の気泡を除去しながら混練することもできる。
【0051】
<成形体>
成形体は、前記樹脂組成物を含むものである。このような成形体は、樹脂等に所定量の合成アナルサイム粒子等を配合して樹脂組成物とした後、公知の成形方法により得ることができる。このような成形方法としては、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、プレス成形機、カレンダー成形機等、積層成形、ドクターブレード法等で成形される。
【0052】
本実施形態の成形体は、各種用途に応じて、フィルム状、シート状、板状、塊状、特殊形状等の種々の形態で用いることができる。
【0053】
成形体は、合成アナルサイム粒子を配合した樹脂組成物により形成されているので、表面硬度、透明性、耐熱性、耐水性等が要求される用途に好適に適用することができる。成形体の用途としては特に限定されず、例えば、バスタブ、洗面器、シンク、化粧ボード、化粧板、化粧フィルム、自動車ランプカバー、自動車ランプレンズ等が挙げられる。
【実施例
【0054】
以下、本発明に関し実施例と比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例等で得られた粒子の物性、添加剤としての効果等については、以下のようにして評価した。
【0055】
(累積50%径及び累積10%径)
エタノール50mLを100mL容量のビーカーに採り、約0.2gの粒子を入れ、3分間の超音波処理(トミー精工社製 UD-201)を施して分散液を調製した。この分散液についてレーザー回折法-粒度分布計(日機装株式会社製 Microtrac HRA Model 9320-X100)を用いて測定を行い、得られた粒度分布における体積基準での累積50%径(D50)(μm)及び累積10%径(D10)(μm)を求めた。また、これらの結果から、粒度分布指標(D10/D50)を求めた。
【0056】
(粒子形状)
粒子の形状は、SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、「界放出形走査電子顕微鏡S-4700」)を用い、倍率1000倍にて観察像を得て粒子形状を評価した。図1に実施例1で得られたアナルサイム粒子のSEM写真を、図2に実施例2で得られたアナルサイム粒子のSEM写真を示す。
【0057】
(粉末X線回折)
X線回折装置(株式会社リガク製、RINT-2500)を用いて、Cu線源(40kV、30mA)の条件で測定を行った。
【0058】
(耐久性)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂(商品名:スミペックスMGSS、メーカー:住友化学社)を用いて、PMMA樹脂100質量部に対して、粒子150質量部を添加し、ラボプラストミル(東洋精機製)により220℃で5分間溶融混練して得た混練物を縦125mm×横13mm×厚み1mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成形し、縦125mm×横13mm×厚み1mmの成形体を作成した。
【0059】
この成形体を80℃に保たれた温水に浸し、浸漬開始から1時間、3時間、10時間における透明性を確認した。透明性の確認は、文字(線の太さ0.5mm、大きさ5mm×5mm)が印刷された紙の上に成形体を置き、下の文字が判別可能な場合は○、文字が見えるものの判別が困難な場合は△、全く見えない場合は×とした。
【0060】
(鉛筆硬度)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂(商品名:スミペックスMGSS、メーカー:住友化学社)を用いて、PMMA樹脂100質量部に対して、粒子10質量部を添加し、ラボプラストミル(東洋精機製)により220℃で5分間溶融混練して得た混練物を縦125mm×横13mm×厚み3mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成形し、縦125mm×横13mm×厚み3mmの成形体を作成した。なお、比較対照として、粒子を含有しないで同様に作成した成形体についても評価を行なった。
【0061】
この成形体を用いて、JIS K5400に準拠した方法により鉛筆硬度を測定した。その際、車輪付きブロックに鉛筆を45度でセットし、先端荷重750gにて測定を行った。
【0062】
(曲げ強度)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂(商品名:スミペックスMGSS、メーカー:住友化学社)を用いて、PMMA樹脂100質量部に対して、粒子150質量部を添加し、ラボプラストミル(東洋精機製)により220℃で5分間溶融混練して得た混練物を縦125mm×横13mm×厚み3mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成形し、縦125mm×横13mm×厚み3mmの成形体を作成した。
【0063】
この成形体から、短冊状(13mm×120mm)に打ち抜いた試験片を用いて、曲げ強度(MPa)をJIS K7171に基づいて測定した。
【0064】
(意匠性)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂(商品名:スミペックスMGSS、メーカー:住友化学社)を用いて、PMMA樹脂100質量部に対して、粒子10質量部又は粒子150質量部を添加し、ラボプラストミル(東洋精機製)により220℃で5分間溶融混練して得た混練物を縦125mm×横13mm×厚み3mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成形し、縦125mm×横13mm×厚み3mmの成形体を作成した。
【0065】
これらの粒子含有量の異なる成形体を用いて、透明性を確認することで、意匠性を評価した。透明性の確認は、文字(線の太さ0.5mm、大きさ5mm×5mm)が印刷された紙の上に成形体を置き、下の文字が判別可能な場合は○、文字が見えるものの判別が困難な場合は△、全く見えない場合は×とした。○の場合は意匠性があると判断した。
【0066】
<実施例1>(アナルサイム小粒径品)
撹拌子を入れた容積50mlのテフロン(登録商標)製オートクレーブ装置に、仕込みモル比がSiO/Al=3.1、苛性濃度4Mになるように水25ml、非晶質シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、VN3)5.0g、水酸化アルミニウム(試薬)1.0g、水酸化ナトリウム(試薬)4.8gを添加し、密閉状態で200℃、20時間保持して、水熱条件下で反応させた。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応後に得られた半固体のスラリーを取り出して、ヌッチェで真空ろ過後、固形分に対して20倍容量以上の水で十分洗浄し、120℃で10時間、乾燥機で乾燥させ、アナルサイム粒子を得た。
【0067】
この粒子は、累積50%径(D50)が21.0μm、粒度分布指標(D10/D50)が1.3であり、図1に示すように、24面体の一次粒子からなる形状の揃った粒子であった。また、図3に示すように、実施例1で得られた合成アナルサイム粒子の粉末X線回折パターンは、アナルサイムの単相からなる結晶相を示した。
【0068】
<実施例2>(アナルサイム中粒径品)
実施例1において、非晶質シリカ5.0gを使用する代わりに、コロイダルシリカ(日産化学株式会社製、スノーテックスO)をシリカ換算で5.0gを使用したこと(仕込みモル比がSiO/Al=3.1)以外は、実施例1と同じ条件で、アナルサイム粒子を得た。この粒子は、累積50%径(D50)が68.5μm、粒度分布指標(D10/D50)が1.3であり、図2に示すように、実施例1と同様に、24面体の一次粒子からなる形状の揃った粒子であった。
【0069】
<実施例3>(アナルサイム大粒径品)
実施例1において、非晶質シリカ5.0gを使用する代わりに、結晶質シリカ(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を固形分換算で5.0g使用したこと(仕込みモル比がSiO/Al=3.1)以外は、実施例1と同じ条件で、アナルサイム粒子を得た。この粒子は、累積50%径(D50)が122.3μm、粒度分布指標(D10/D50)が1.4であり、実施例1と同様に、24面体の一次粒子からなる形状の揃った粒子であった。
【0070】
<比較例1>(タイチャイト3μm品)
容積2LのSUS容器に、原料仕込みのモル比がMg2+:Na:CO 2-:SO 2-=1.0:7.9:3.1:2.0となるように(SO 2-/Mg2+比=2.0)、水200gに塩基性炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製炭酸マグネシウム金星)58.4g、無水炭酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬工業株式会社製、試薬特級)101.6g、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬工業株式会社製、試薬特級)40.4g及び硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬工業株式会社製、試薬特級)179gを加え、室温で3分間、攪拌速度500rpmで攪拌して均一になるよう混合した。攪拌子を入れた容積50mlのテフロン(登録商標)製オートクレーブ装置に混合後のスラリー30mlを入れて、密閉状態で120℃、12時間保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は約1℃/分であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応後に得られた半固体のスラリーを取り出して、ヌッチェで真空ろ過後、固形分に対し20倍容量以上の水で十分洗浄し、120℃で10時間、乾燥機で乾燥させ、累積50%径(D50)が3.2μmのタイチャイト粒子を得た。
【0071】
<比較例2>(タイチャイト150μm品)
比較例1において、100L容量のオートクレーブ容器に、原料仕込みのモル比がMg2+:Na:CO32-:SO42-=1:8.6:2.5:2.8となるように(SO42-/Mg2+比=2.8)、硫酸マグネシウム7水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬特級)61.6kg、無水炭酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬特級)66.2kg、及び硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬特級)63.9kgを加え、水を用いて最終液量が75Lとなるようメスアップした。室温で10分間攪拌して均一になるよう混合した後、オートクレーブ装置に入れて、150rpmで撹拌しながら、密閉状態で105℃、12時間保持して、水熱条件下で反応させた。この時の昇温速度は0.5℃/分であった。その後、容器内が室温になるまで放冷し、反応後に得られたスラリーを取り出して、目開き75μmのステンレス製メッシュで篩別し、メッシュ上に残留したケーキをヌッチェで真空ろ過後、固形分に対し20倍容量以上の水で十分洗浄し、120℃で10時間、乾燥機で乾燥させ、タイチャイト粒子を得た。この粒子は、累積50%径(D50)が148.5μmのタイチャイト粒子であった。
【0072】
<比較例3>(マグネサイト20μm品)
容量100Lの攪拌機付きオートクレーブに0.3mol/Lの濃度に調製した中性炭酸マグネシウム(MgCO・3HO)懸濁液50Lを入れ、攪拌しながら140℃で10時間の水熱処理を行った。この時の昇温速度は1℃/分であった。得られた懸濁液を脱水後、120℃で10時間乾燥して、累積50%径(D50)が20.6μmの無水炭酸マグネシウム(マグネサイト)粒子を得た。
【0073】
<比較例4>(ベーマイト30μm品)
ギブサイト(平均粒子径(D50)35.4μm、BET比表面積0.1m/g、商品名:B-30、メーカー:アルモリックス社)1.0kgを、純水4.0Lに添加して、攪拌して、ギブサイト懸濁液を調製し、3L容量のハステロイC-276製の接液部を有するオートクレーブ内に流し込み、攪拌下で180℃、12時間の水熱処理を行って累積50%径(D50)が28.7μmのベーマイト粒子を得た。
【0074】
以上の実施例及び比較例で得られた粒子を用いて、前述の評価を行なった結果を表1に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
<評価結果>
表1の結果が示すように、実施例1~3のアナルサイム粒子は、PMMAに添加した際に、表面硬度の改善効果が十分得られ、透明性や耐久性を損ないにくいものであった。これに対して、タイチャイト粒子の場合(比較例1~2)、耐久性が損なわれると共に、意匠性においても透明性が不十分となった。また、マグネサイト粒子の場合(比較例3)や、ベーマイト粒子の場合(比較例4)、透明性が悪く意匠性が劣るものであった。
図1
図2
図3