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特許7155031高レベル放射性廃棄物の処分負荷の低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】高レベル放射性廃棄物の処分負荷の低減方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20221011BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G21F9/06 581C
G21F9/16 541A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019018764
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020125989
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】柿木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】島田 隆
(72)【発明者】
【氏名】岸本 和也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 泰介
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-243890(JP,A)
【文献】特開2010-271243(JP,A)
【文献】特開昭53-024997(JP,A)
【文献】特開2008-304280(JP,A)
【文献】特開平09-015389(JP,A)
【文献】特表2002-500371(JP,A)
【文献】特開平05-087982(JP,A)
【文献】特開2012-159419(JP,A)
【文献】特開2012-112797(JP,A)
【文献】特表2009-501121(JP,A)
【文献】特開2019-015533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 - 9/36,541
B01D 11/00 - 12/00
C02F 1/68,520
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み核燃料の溶液からウラン及びプルトニウムを分離した廃液である高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチノイドをランタノイドとともに分離する分離処理を行い、マイナーアクチノイドとランタノイドと液状媒体とを含む液状物を得て、
前記液状物を固化する固化処理を行い、固化体を得て、
前記固化体を保管する方法であり、
前記分離処理は、前記高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチノイド及びランタノイドを溶媒抽出法により抽出する処理を含み、
前記固化処理は、分解処理を含む、高レベル放射性廃棄物の処分負荷の低減方法。
【請求項2】
使用済み核燃料の溶液からウラン及びプルトニウムを分離した廃液である高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチノイドをランタノイドとともに分離する分離処理を行い、マイナーアクチノイドとランタノイドと液状媒体とを含む液状物を得て、
前記液状物を固化する固化処理を行い、固化体を得て、
前記固化体を保管する方法であり、
前記分離処理は、前記高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチノイド及びランタノイドを溶媒抽出法により抽出する処理と、前記溶媒抽出法により得られた抽出液からマイナーアクチノイド及びランタノイドを逆抽出する処理とを含み、
前記固化処理は、水熱処理を含む、高レベル放射性廃棄物の処分負荷の低減方法。
【請求項3】
使用済み核燃料の溶液からウラン及びプルトニウムを分離した廃液である高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチノイドをランタノイドとともに分離する分離処理を行い、マイナーアクチノイドとランタノイドと液状媒体とを含む液状物を得て、
前記液状物を固化する固化処理を行い、固化体を得て、
前記固化体を保管する方法であり、
前記分離処理は、前記高レベル放射性廃棄物と吸着剤とを接触させ、前記吸着剤に吸着したマイナーアクチノイド及びランタノイドを溶離させる処理を含み、
前記固化処理は、水熱処理を含む、高レベル放射性廃棄物の処分負荷の低減方法。
【請求項4】
前記固化処理の後、前記固化体を保管する前に、前記固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行う請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記固化処理で得た固化体を、前記固化体に含まれる高発熱性のマイナーアクノイドが十分減衰するまで保管する請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記固化体を保管した後、前記固化体を処分する請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃棄物の処分負荷を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉から排出される使用済み核燃料の再処理においては、使用済み核燃料の溶液からU(ウラン)及びPu(プルトニウム)が回収される。U及びPuを回収した後に残る高レベル放射性廃棄物(以下、「HALW」とも記す。)には、核分裂生成物(以下、「FP」とも記す。)のほか、Np(ネプツニウム)、Am(アメリシウム)、Cm(キュリウム)等のマイナーアクチノイド(以下、「MA」とも記す。)、ランタノイド(以下、「Ln」とも記す。)等が含まれる。HALWは、濃縮を経てガラス固化体とされ、地層処分される計画となっている。
前記したガラス固化体は、放射能毒性があり、半減期が非常に長いMAを含むため、数十万年の期間に渡って安定に閉じ込めておく必要があると言われている。
そこで、閉じ込め期間を短縮するために、HALWからMAを分離することが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-63198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HALWから分離したMAについて、MOX燃料の原料として使用し、高速増殖炉等で燃焼させることが検討されている。
図5に、従来の、MAの分離から燃焼までのプロセスの一例を示す。この例では、まず、HALWからMAを抽出し、得られた抽出液からMAを逆抽出する(MA分離)。MA分離の際、MAとともにLnが抽出され、希釈されるので、得られた逆抽出液を濃縮した後、MAとLnとを分離する(MA精製)。その後、得られたMAをU、Puと混合し、混合酸化物を得ることにより、燃料を製造する。得られた燃料は高速増殖炉等で燃焼させる(MA燃焼)。HALWからMAを抽出した後の廃液は、FPを含み、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。
【0005】
従来技術では、MA分離後すぐにMA燃焼を行うことを前提としており、MA精製において99%を超える高い精製度が要求される。その分、プロセスから発生する廃液の量が多く、濃縮の負荷が大きいという課題がある。
また、MA燃焼技術が未だ実用化されていない状況では、分離したMAを保管する必要がある。しかし、前記したプロセスにおいて、MAは、混合酸化物とされるまで溶液の形態であり、漏洩等のリスクを考慮すると、溶液形態での保管は負荷が大きい。よって、混合酸化物の形態での保管となるが、この場合、保管中に、混合酸化物中のMAの自発核分裂や崩壊によって、MA以外の不純物が増加するため、保管後に再度、MA精製が必要となる可能性がある。
そのため、MA燃焼技術が実用化されていない現状において、従来技術では、MA分離が行えず、HALWの全量をガラス固化せざるを得ないという課題がある。
【0006】
本発明は、MA燃焼技術の実用化状況にかかわらず、HALWからMAを分離し、保管してHALWのガラス固化体の閉じ込め期間を短縮でき、しかもMAを分離し保管する際の工程数や廃液量を抑制できる、HALWの処分負荷の低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る方法は、使用済み核燃料の溶液からU及びPuを分離した廃液であるHALWから、MAをLnとともに分離する分離処理を行い、MAとLnと液状媒体とを含む液状物を得て、前記液状物を固化する固化処理を行い、固化体を得て、前記固化体を保管する、HALWの処分負荷の低減方法である。
【0008】
第1の態様によれば、HALWからMAを分離するので、HALWの処分負荷を低減できる。HALWからMAを分離した後の廃液をガラス固化した固化体は、HALWの全量をガラス固化した固化体に比べ、量が少なく、閉じ込め期間も短いので、地層処分の負荷が少ない。また、分離したMAを固化体として保管するので、溶液形態で保管する場合に比べて、保管の負荷が少ない。
また、第1の態様によれば、HALWから化学的性質が類似であるMAをLnとともに分離するので、MAのみを分離する場合に比べて、分離の負荷が少ない。また、分離した液状物を、MA精製を行わずに固化体とするので、保管前の工程数が少ない。また、従来技術で行われている濃縮工程を必ずしも行う必要はなく、濃縮工程を行う場合でも、従来技術に比べて廃液量が少ないので、濃縮の負荷が少ない。さらに、保管後にMA燃焼のためにMA精製を行う場合に、固化体から溶液を調製するので、濃縮を行わなくても高濃度のMA溶液が得られる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る方法は、前記第1の態様において、前記分離処理が、HALWからMA及びLnを溶媒抽出法により抽出する処理を含む方法である。
【0010】
第2の態様によれば、液状物として、液状媒体が有機溶媒である抽出液が得られる。かかる抽出液は、分解処理により容易に固化できる。また、従来のプロセスでは、MA精製を行うために逆抽出を行うが、本態様では、MA精製は行わずに固化処理が可能になるので、逆抽出を行う必要がなく、工程数を削減できる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る方法は、前記第2の態様において、前記分離処理が、前記溶媒抽出法により得られた抽出液からMA及びLnを逆抽出する処理を含む方法である。
本発明の第4の態様に係る方法は、前記第1の態様において、前記分離処理が、HALWと吸着剤とを接触させ、前記吸着剤に吸着したMA及びLnを溶離させる処理を含む方法である。
【0012】
第3の態様又は第4の態様によれば、液状物として、液状媒体が水である逆抽出液又は溶離液が得られる。かかる逆抽出液又は溶離液は、水熱処理、ガラス固化等により容易に固化できる。
【0013】
本発明の第5の態様に係る方法は、前記第2の態様において、前記固化処理が、分解処理を含む方法である。
【0014】
前記液状物に対して分解処理を行うことにより、液状物から液状媒体(有機溶媒)を除去するとともにMAを酸化する。第5の態様によれば、分解処理のみで液状物を固化でき、濃縮を行わなくてもよい。また、得られる固化体は、液状媒体に溶解する簡易な操作でMA精製に供することができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る方法は、前記第3の態様又は第4の態様において、前記固化処理が、水熱処理を含む方法である。
【0016】
前記液状物に対して水熱処理を行うことにより、液状物に含まれるMAを酸化し、固化体を得る。その後、固化体は液状媒体(水)と分離する。第6の態様によれば、水熱処理のみで液状物に含まれるMAを固化でき、水熱処理の前に濃縮を行わなくてもよい。また、得られる固化体は、液状媒体に溶解する簡易な操作でMA精製に供することができる。
【0017】
本発明の第7の態様に係る方法は、前記第3の態様又は第4の態様において、前記固化処理が、前記液状物を濃縮し、得られた濃縮液をガラス固化する処理を含む方法である。
【0018】
前記第7の態様によれば、MA燃焼技術が実用化されておらず、MAを燃料製造に用いずに地層処分する場合に、保管していた固化体をそのまま地層処分できる。
【0019】
本発明の第8の態様に係る方法は、前記第1の態様ないし第6の態様のいずれかにおいて、前記固化処理の後、前記固化体を保管する前に、前記固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行う。
【0020】
前記第8の態様によれば、前記固化体を保管する際のガス発生を抑制し、安定性を高めることができる。
【0021】
本発明の第9の態様に係る方法は、前記第1の態様ないし第8の態様のいずれかにおいて、前記固化処理で得た固化体を、前記固化体に含まれる高発熱性のMAが十分減衰するまで保管する方法である。
【0022】
第9の態様によれば、HALWから分離したMAを燃料製造に用いる場合に、MAからの高発熱性のMA(Cm等)の分離を不要にすることができ、MA精製の工程数を削減できる。
【0023】
本発明の第10の態様に係る方法は、前記第1の態様ないし第9の態様のいずれかにおいて、前記固化体を保管した後、前記固化体を処分する方法である。
【0024】
第10の態様によれば、固化体の形態のMAを処分するので、従来技術に比べて、廃液量の低減が可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、MA燃焼技術の実用化状況にかかわらず、HALWからMAを分離し保管してHALWのガラス固化体の閉じ込め期間を短縮でき、しかもMAを分離し保管する際の工程数や廃液量を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態に係る方法を説明するフロー図である。
図2】実施例1を説明するフロー図である。
図3】実施例2を説明するフロー図である。
図4】実施例3を説明するフロー図である。
図5】HALWからのMAの分離から燃焼までの従来のプロセスの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、「MA(マイナーアクチノイド)」とは、アクチノイドに属する超ウラン元素のうちPuを除いた元素である。
「アクチノイド」とは、原子番号89から103までの元素の総称である。
「Ln(ランタノイド)」とは、原子番号57から71までの元素の総称である。
【0028】
本発明について、図面を参照し、実施形態を示して説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る方法では、まず、HALWからMAをLnとともに分離する分離処理を行い、液状物を得る(分離処理工程S1)。次いで、得られた液状物を固化する固化処理を行い、固化体を得る(固化処理工程S2)。次いで、得られた固化体を保管する(保管工程S3)。その後、固化体を処分する(処分工程S4)。
必要に応じて、固化処理の後、固化体を保管する前に、固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行う(安定化処理工程)。
HALWからMA及びLnを分離した後の廃液は、FPを含み、ガラス固化し、保管した後、地層処分する。
【0029】
(HALW)
HALWは、使用済み核燃料の溶液からU及びPuを分離した廃液である。HALWは、FP、MA、Ln等を含み、U及びPuを含まない。HALWは、典型的には、MAとして少なくとも、Np、Am及びCmを含む。
【0030】
HALWとしては、例えば、ピューレックス(PUREX)法による再処理で生成する廃液が挙げられる。ピューレックス法では、UやPuを含む硝酸溶液と、トリブチルリン酸(TBP)と、ドデカン等の有機溶媒とを接触混合する。これにより、硝酸溶液中のUやPuがTBPと錯体を形成して有機溶媒側へ移動する。一方、FP、MA、Lnは硝酸溶液(廃液)側に残る。
【0031】
(分離処理工程S1)
分離処理としては、例えば、HALWからMAをLnとともに溶媒抽出法により抽出する処理(以下、「抽出処理」とも記す。)を含む処理、又はHALWと吸着剤とを接触させ、前記吸着剤に吸着したMA及びLnを溶離させる処理(以下、「吸着-溶離処理」とも記す。)を含む処理が挙げられる。
分離処理が抽出処理を含む場合、抽出処理の後に、抽出処理により得られた抽出液からMA及びLnを逆抽出する処理(以下、「逆抽出処理」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
【0032】
抽出処理では、例えば、HALWと、抽出剤を含む有機溶媒溶液(抽出剤溶液)とを接触させる。HALWと抽出剤溶液とを接触させると、MAやLnが抽出剤溶液側に移行する。
抽出処理で得た抽出液はそのまま液状物として固化処理工程S2に供してもよく、さらに逆抽出処理を行ってもよい。工程数や廃液量をより低減できる点では、抽出処理で得た抽出液を液状物として固化処理工程S2に供することが好ましい。
【0033】
抽出剤としては、例えば、MAやLnと錯体を形成する錯化剤が挙げられる。かかる錯化剤は、選択的にMAと錯体を形成する錯化剤に比べて安価であることから好ましい。錯化剤の具体例としては、n-オクチル(フェニル)-N,N’-ジイソブチルカルバモイルメチルフォスフィンオキシド-トリブチルリン酸混合物(CMPO-TBP混合物)、ジイソデシルリン酸、6,6’-ビス(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-1,2,4-ベンゾトリアジン-3-イル)-2,2’-ビピリジン(BTBP)、N,N’-ジブチル-N,N’-ジメチルテトラデシルマロナミド(DMDBTDMA)、N,N,N’,N’-テトラオクチル-3-オキサペンタンジアミド(TODGA)等が挙げられる。抽出剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
有機溶媒は、使用する抽出剤に応じて適宜選定できる。有機溶媒は、再利用可能にすることで、安価であること、また、放射線劣化に耐性があることが望ましい。有機溶媒の具体例としては、例えばn-ドデカンが挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
逆抽出処理では、例えば、抽出液と、硝酸を含む水溶液とを接触させる。これにより、抽出液中のMAとLnが水溶液側に移行する。一方、抽出液中の有機溶媒は水溶液側に移行せずに抽出液側に残るので、再利用できる。
逆抽出処理で得た逆抽出液は典型的にはそのまま液状物として固化処理工程S2に供する。
【0036】
吸着-溶離処理に用いる吸着剤としては、MA及びLnを吸着可能なものであればよい。
HALWと吸着剤とを接触させる方法としては、カラム式、バッチ式等が挙げられる。
吸着剤に吸着したMA及びLnは、吸着剤と溶離液とを接触させることにより溶離させることができる。
吸着-溶離処理で得た溶離液は典型的にはそのまま液状物として固化処理工程S2に供する。
【0037】
(固化処理工程S2)
固化処理としては、例えば、分解処理、水熱処理、ガラス固化処理が挙げられる。
ガラス固化処理を行う場合、ガラス固化処理の前に、液状物を濃縮する濃縮処理を行うことが好ましい。
【0038】
液状物が、抽出処理により得られた抽出液である場合、固化処理としては、分解処理が好ましい。
抽出液に対して分解処理を行うことにより、抽出液の有機溶媒が除去されるとともにMAが酸化される。これにより、MA酸化物を含む固化体が得られる。
分解処理としては、例えば、蒸留、熱分解、焼却が挙げられる。蒸留は、回分式、連続式(棚段塔や充填塔)等の公知の蒸発方式を用いて実施できる。
【0039】
液状物が、逆抽出処理で得られた逆抽出液、又は吸着-溶離処理で得られた溶離液である場合、固化処理としては、水熱処理、又は液状物を濃縮し、得られた濃縮液をガラス固化する処理(濃縮-ガラス固化処理)が好ましい。
液状物を水熱処理することにより、液状物に含まれるMAが酸化され、MA酸化物を含む固化体が析出する。固化体は固液分離により液状媒体(水)と分離される。これにより、MA酸化物を含む固化体が得られる。
液状物の濃縮、濃縮液のガラス固化はそれぞれ常法により実施できる。
【0040】
(安定化処理工程)
固化体には、抽出剤、抽出剤の放射線分解物等の有機物が含まれることがある。固化体に有機物が含まれていると、保管時にガスが発生し、放射性物質の閉じ込め機能を損なう、不具合が発生するおそれがある。固化体に対し、炭素、水素、酸素、窒素成分の一部又は全部を除去する安定化処理を行うことで、このような不具合の発生を抑制できる。
安定化処理としては、例えば、か焼、焼結が挙げられる。
【0041】
(保管工程S3)
保管工程S3では、後の処分工程S4が開始されるまで、固化体を一時的に保管する。
固化体の保管方法としては、放射性廃棄物の乾式保管方法として公知の方法を利用でき、例えば、固化体を複数のキャニスタに格納し、これら複数のキャニスタをキャスクに収納し、保管施設で保管する方法が挙げられる。
【0042】
固化体を保管する期間は、適宜設定できる。
Cm等の高発熱性のMAは燃料製造に適さないため、保管工程S4では、固化体を、固化体に含まれる高発熱性のMAが十分減衰するまで保管することが好ましい。これにより、処分工程S5でMAを精製して燃料製造に用いる場合に、MAからのCm等の高発熱性のMAの分離を不要にすることができ、MA精製の工程数をより削減できる。なお、HALWに含まれるCmは主に、半減期が約18年と比較的短い244Cmである。
【0043】
(処分工程S4)
処分工程S4では、上記のようにしてHALWから分離され、固化体の形態で保管されたMAを、例えば、図1の処分工程S4に示すように、燃焼させるか、又は地層処分する。ただし、MAの処分方法はこれに限定されるものではない。
【0044】
処分工程S4では、まず、MAを燃焼させるか否かを判定する。
MAを燃焼させる場合、まず、保管した後の固化体を溶解させ、MA及びLnを含む溶液を得る(固化体溶解)。固化体がガラス固化体である場合は、この溶液からガラスを分離する(ガラス分離)。
次いで、得られた溶液に対してMAの精製処理を行う(MA精製)。MA精製では、例えば、得られた溶液中のMAとLnとを分離し、必要に応じてMAから高発熱性のMAを分離する。
その後、得られたMA(Np、Am等)をU、Puと混合し、混合酸化物を得ることにより、燃料を製造する(MA燃料製造)。得られた燃料は高速増殖炉等で燃焼させる(MA燃焼)。
MAを燃焼させない場合、保管した後の固化体をガラス固化させ、地層処分する。
【0045】
以上、本発明について、実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例
【0046】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、図2に示すように、まず、HALWからMAをLnとともに溶媒抽出法により抽出し、抽出液(液状物)を得る(分離処理工程S1)。
次いで、得られた抽出液に対し、分解処理を行い、固化体を得る(固化処理工程S2)。固化処理工程S2の後、得られた固化体に対し、安定化処理を行ってもよい(安定化処理工程)。
次いで、得られた固化体を保管する(保管工程S3)。
その後、上記のようにして固化体の形態で保管されたMAを、燃焼させるか、又は地層処分する(処分工程S4)。
各工程は、上記と同様に実施できる。実施例1では、固化体はガラス固化体ではないため、処分工程S4で固化体溶解の後のガラス分離は不要である。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、図3に示すように、まず、HALWからMAをLnとともに溶媒抽出法により抽出し、抽出液を得て、次いで得られた抽出液からMA及びLnを逆抽出し、逆抽出液(液状物)を得る(分離処理工程S1)。このようにして逆抽出液を得る代わりに、HALWと吸着剤とを接触させ、前記吸着剤に吸着したMA及びLnを溶離させ、溶離液(液状物)を得てもよい。
次いで、得られた逆抽出液又は溶離液に対し、水熱処理を行い、固化体を得る(固化処理工程S2)。固化処理工程S2の後、得られた固化体に対し、安定化処理を行ってもよい(安定化処理工程)。
次いで、得られた固化体を保管する(保管工程S3)。その後、上記のようにして固化体の形態で保管されたMAを、燃焼させるか、又は地層処分する(処分工程S4)。
各工程は、上記と同様に実施できる。実施例2では、固化体はガラス固化体ではないため、処分工程S4で固化体溶解の後のガラス分離は不要である。
【0049】
(実施例3)
実施例3では、図4に示すように、まず、HALWからMAをLnとともに溶媒抽出法により抽出し、抽出液を得て、次いで得られた抽出液からMA及びLnを逆抽出し、逆抽出液(液状物)を得る(分離処理工程S1)。このようにして逆抽出液を得る代わりに、HALWと吸着剤とを接触させ、前記吸着剤に吸着したMA及びLnを溶離させ、溶離液(液状物)を得てもよい。
次いで、得られた逆抽出液又は溶離液に対し、濃縮をし、得られた濃縮液をガラス固化して固化体(ガラス固化体)を得る(固化処理工程S2)。固化処理工程S2の後、得られた固化体に対し、安定化処理を行ってもよい(安定化処理工程)。
次いで、得られた固化体を保管する(保管工程S3)。その後、上記のようにして固化体の形態で保管されたMAを、燃焼させるか、又は地層処分する(処分工程S4)。
各工程は、上記と同様に実施できる。実施例3では、固化体はガラス固化体であるため、処分工程S4で固化体溶解の後にガラス分離を行う。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、MA燃焼技術の実用化状況にかかわらず、HALWからMAを分離し保管してHALWのガラス固化体の閉じ込め期間を短縮でき、しかもMAを分離し保管する際の工程数や廃液量を抑制できる。
図1
図2
図3
図4
図5