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特許7155040ワイヤロープの検査方法および検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】ワイヤロープの検査方法および検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01N27/83
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019029028
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020134345
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 城聖
(72)【発明者】
【氏名】椎木 貞則
(72)【発明者】
【氏名】橋目 佑太
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112076(JP,A)
【文献】特許第6143834(JP,B1)
【文献】特開2005-162379(JP,A)
【文献】特開2009-085894(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108732237(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象のワイヤロープの検査開始位置に磁性付着物を取り付け,
磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生する磁力によって磁化される上記ワイヤロープから漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きにしたがう正または負の検出信号を出力する検出素子を備える検査装置を,検査開始の直後に上記磁性付着物が取り付けられた箇所を通過するように,上記ワイヤロープに沿って移動させる,
ワイヤロープの検査方法。
【請求項2】
上記検査装置の検出素子から出力される検出信号を記録媒体に記録し,
上記記録媒体に記録された検出信号にしたがって,横軸をワイヤロープの位置,縦軸を上記検出素子から出力される検出信号とするグラフを表示装置に表示し,
上記表示装置に表示されるグラフにおいて,所定の閾値以上の正の検出信号と,所定の閾値以下の負の検出信号とが識別可能に表示されるように上記表示装置を制御する,
請求項1に記載のワイヤロープの検査方法。
【請求項3】
上記検出信号の絶対値を表示する,
請求項2に記載のワイヤロープの検査方法。
【請求項4】
正の検出信号と負の検出信号とを異なる色によって表示する,
請求項2に記載のワイヤロープの検査方法。
【請求項5】
正の検出信号と負の検出信号とを異なる線種によって表示する,
請求項2に記載のワイヤロープの検査方法。
【請求項6】
正の検出信号のみ,負の検出信号のみ,または正の検出信号および負の検出信号の両方を,選択的に表示する,
請求項2に記載のワイヤロープの検査方法。
【請求項7】
検査開始位置に磁性付着物が取り付けられた検査対象のワイヤロープに沿って,磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生する磁力によって磁化される上記ワイヤロープから漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きにしたがう正または負の検出信号を出力する検出素子を備える検査装置を,検査開始の直後に上記磁性付着物が取り付けられた箇所を通過するように,移動させることによって,上記検査装置の検出素子から出力される検出信号を記録する記録媒体,
上記記録媒体に記録される検出信号にしたがって,横軸をワイヤロープの位置,縦軸を上記検出素子から出力される検出信号とするグラフを表示する表示装置,ならびに
上記表示装置に表示されるグラフにおいて,所定の閾値以上の正の検出信号と所定の閾値以下の負の検出信号とが識別可能に表示されるように上記表示装置を制御する制御装置,
を備えている,ワイヤロープの検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はワイヤロープを検査する方法に関する。またこの発明はワイヤロープの検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープには強磁性体である鋼線が用いられるので,ワイヤロープは磁化することができる。磁化されたワイヤロープの損傷部分から磁束が漏洩することを利用し,漏洩磁束を検出することによってワイヤロープの損傷部分の有無を検査する探傷装置が知られている(たとえば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-292213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
漏洩磁束は,ワイヤロープの損傷部分のみならず,ワイヤロープに異物(たとえば鉄粉の堆積物)が付着している箇所にも発生する。このため,探傷装置を用いて漏洩磁束または漏洩磁束に基づく信号を検出しても,それだけではワイヤロープに損傷部分が存在するのか,異物付着が存在するのかを区別することはできない。漏洩磁束が検出された場合,ワイヤロープの目視点検が行われる。損傷部分を目視確認できなかった場合には,ワイヤロープの表面を清掃して異物を除去した後,探傷装置を用いてワイヤロープを再度検査することが行われる。多くの時間と費用がかかってしまう。
【0005】
この発明は,漏洩磁束を用いたワイヤロープの検査において,ワイヤロープに損傷が発生しているのか,または異物が付着しているのかを区別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるワイヤロープの検査方法は,検査対象のワイヤロープの検査開始位置に磁性付着物を取り付け,磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生する磁力によって磁化される上記ワイヤロープから漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きにしたがう正または負の検出信号を出力する検出素子を備える検査装置を,検査開始の直後に上記磁性付着物が取り付けられた箇所を通過するように,上記ワイヤロープに沿って移動させることを特徴とする。固定(静止)状態のワイヤロープに沿って検査装置を移動させてもよいし,逆に検査装置を固定(静止)し,ワイヤロープを移動させてもよい。
【0007】
検査装置が備える検出素子には,たとえば検出素子に鎖交する磁束の大きさおよび磁束線の向きに基づく検出信号(典型的には電圧値)を出力するコイル素子(サーチコイル)を用いることができる。コイル素子は,鎖交する磁束の大きさに応じた大きさの検出信号を出力するとともに,鎖交する磁束線の向きに応じて正または負のいずれか検出信号を出力する。ノイズを除去するために,所定の閾値以上の検出信号が用いられてワイヤロープの検査は行われる。
【0008】
磁化されたワイヤロープに断線等の損傷部位が存在する場合,損傷部位において磁束が漏洩する。また,磁化されたワイヤロープに鉄粉の堆積等の異物付着(磁性異物,磁性付着物)が存在する場合も,異物付着箇所から磁束が漏洩する。ここで,損傷部位から漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きと,異物付着箇所から漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きが異なるので,損傷部位を通過したときに検出素子から出力される検出信号の符号と,異物付着箇所を通過したときに検出素子から出力される検出信号の符号が異なることになる。検出素子から出力される検出信号の符号に基づいて,ワイヤロープに損傷が発生しているのか,または異物が付着しているのかを区別することができる。
【0009】
ここで,ワイヤロープに損傷部位が存在するときに検出素子から出力される検出信号の符号(正または負)は固定的ではなく,同様に,ワイヤロープに異物付着箇所が存在するときに検出素子から出力される検出信号の符号も固定的でない。たとえば,検査装置をワイヤロープに沿って一方向(たとえば左から右)に移動させたときに損傷部位に起因して検出素子から出力される検出信号の符号が正であれば,検査装置を逆方向(右から左)に移動させると,その損傷部位を検査装置が通過するときに出力される検出信号の符号は負になる。
【0010】
この発明によると,検査対象のワイヤロープの検査開始位置に磁性付着物が取り付けられ,検査開始の直後に上記磁性付着物が取り付けられた箇所を通過するように検査装置をワイヤロープに沿って移動させる(上述のように,検査装置を固定しかつワイヤロープを移動させることによって,ワイヤロープに対して検査装置を相対的に移動させることを含む)。検査開始直後の検出信号は異物付着を表すことになるので,たとえば検査開始直後の検出信号(閾値以上の検出信号)が正であれば,検出素子から出力される正の検出信号が異物付着箇所を,負の検出信号が損傷部位を,それぞれ表すことになる。逆に検査開始直後の検出信号が負であれば,検出素子から出力される正の検出信号が損傷部位を,負の検出信号が異物付着箇所を,それぞれ表す。検出素子から出力される検出信号が,損傷部位に起因するのか,異物付着箇所に起因するのかを明確に区別することができる。
【0011】
一実施態様では,上記検査装置の検出素子から出力される検出信号を記録媒体に記録し,上記記録媒体に記録された検出信号にしたがって,横軸をワイヤロープの位置,縦軸を上記検出素子から出力される検出信号(信号値)とするグラフを表示装置に表示し,上記表示装置に表示されるグラフにおいて,所定の閾値以上の正の検出信号と,所定の閾値以下の負の検出信号とが識別可能に表示されるように上記表示装置を制御する。
【0012】
検査装置から出力される検出信号(検出信号の信号値)はたとえば所定時間間隔ごとに時系列に記録媒体に記録される。検査装置を所定速度で移動させる,またはワイヤロープを所定速度で移動させることで,検出信号のそれぞれを,グラフの横軸(ワイヤロープ位置)に対応づけることができる。
【0013】
表示装置に表示されるグラフにおいて,所定の閾値以上の正の検出信号と,所定の閾値以下の負の検出信号とが識別可能に表示される。たとえば,所定の閾値以上の正の検出信号は赤色で,所定の閾値以下の負の検出信号は黒色で表示される。このような色分け表示に代えて,線種(太線と細線,実線と破線など)によって正の検出信号と負の検出信号を異ならせて表示してもよい。
【0014】
たとえば,表示装置に表示されるグラフにおいて検査開始位置に相当する箇所(またはこれに最も近い箇所)に表示される検出信号が黒色であれば,グラフ中に表される黒色の検出信号はいずれも異物付着箇所に起因するものであることが分かる。他方,赤色の検出信号は損傷部位に起因するものであることも分かる。所定の閾値以上または以下の検出信号について,それが損傷に起因するのか,異物付着に起因するのかを,一目で判別することができる。
【0015】
ワイヤロープが設置されている現場における検出信号の取得作業(検査装置を用いた検出信号の記録媒体への記録作業)と,表示装置に表示される検出信号グラフを用いたワイヤロープの検査作業(判定作業,確認作業)とは,現場において同時に行ってもよいし,別々に行なってもよい。検出信号の取得作業のみを行い,その後に(後日に)検出信号グラフを用いた検査作業を行う場合,検出信号がたとえば異物付着箇所から生成されたものであって,ワイヤロープに損傷部位は存在しないことが分かれば,そのワイヤロープを目視点検するためにワイヤロープが設置されている現場に再度向かう必要性は低い(もちろん,現場を再度訪問してワイヤロープを清掃し,異物除去をしてもよい)。逆に検出信号中に損傷部位に起因するものが含まれていることが分かれば,そのワイヤロープを詳細に目視点検するためにワイヤロープの設置現場に向かう必要性は高まる。このようにこの発明は,ワイヤロープの検査作業員の業務効率化にも寄与する。
【0016】
検出信号の絶対値をグラフに表示してもよい。グラフ表示を見やすくすることができる。この絶対値表示グラフにおいても,絶対値を算出する前の検出信号の符号に基づいて,所定の閾値以上の正の検出信号と所定の閾値以下の負の検出信号とは,色分けや異なる線種によって,識別可能に表示される。
【0017】
正の検出信号のみ,負の検出信号のみ,または正の検出信号および負の検出信号の両方を,選択的に表示装置にグラフ表示してもよい。
【0018】
この発明は,ワイヤロープの検査システムも提供する。この発明によるワイヤロープの検査システムは,検査開始位置に磁性付着物が取り付けられた検査対象のワイヤロープに沿って,磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生する磁力によって磁化される上記ワイヤロープから漏洩する漏洩磁束の磁束線の向きにしたがう正または負の検出信号を出力する検出素子を備える検査装置を,検査開始の直後に上記磁性付着物が取り付けられた箇所を通過するように,移動させることによって,上記検査装置の検出素子から出力される検出信号を記録する記録媒体,上記記録媒体に記録された検出信号にしたがって,横軸をワイヤロープの位置,縦軸を上記検出素子から出力される検出信号とするグラフを表示する表示装置,ならびに上記表示装置に表示されるグラフにおいて,所定の閾値以上の正の検出信号と所定の閾値以下の負の検出信号とが識別可能に表示されるように上記表示装置を制御する制御装置を備えている。ワイヤロープが使用されている現場において検査装置を用いて記録媒体に検出信号を記録し,それを,制御装置に読み込ませ,表示装置によって表示が制御される表示装置にグラフ表示することができ,グラフ表示される検出信号(所定の閾値以上の検出信号)について,それが損傷に起因するのか,異物付着に起因するのかを,一目で判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】検査システムの全体構成を示す。
図2】ロープテスタの内部を概略的に示すブロック図である。
図3】損傷部位を有するワイヤロープと損傷部位に発生する漏洩磁束とを示す。
図4】損傷部位を通過する検出コイルからの検出信号を示す。
図5】異物付着箇所を有するワイヤロープと異物付着箇所に発生する漏洩磁束とを示す。
図6】異物付着箇所を通過する検出コイルからの検出信号を示す。
図7】損傷部位および異物付着箇所の両方が存在するワイヤロープを検査したときに検出コイルから出力される検出信号を示す。
図8】検出信号のグラフ表示を示す。
図9】検出信号のグラフ表示の他の例を示す。
図10】検出信号のグラフ表示のさらに他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は検査システムの全体構成を示すブロック図である。図2は検査システムを構成するロープテスタの内部を概略的に示すブロック図である。
【0021】
検査システムは,ロープテスタ3と,制御器4と,コンピュータ装置6とを備えている。
【0022】
ロープテスタ3は,検査対象であるワイヤロープ1の一部を磁化してワイヤロープ1の一部を含む磁気回路を形成するとともに,ワイヤロープ1に損傷(欠損)または異物が存在するときにワイヤロープ1に生じる漏洩磁束を用いて検出信号を生成する装置である。図1においてはシーブ2にかけられたクレーン用のワイヤロープ1が検査対象とされている。検査対象のワイヤロープ1はクレーンに用いられているものに限られず,エレベータその他の用途に用いられているものであってもよい。
【0023】
ロープテスタ3は,たとえば円筒状の形状を備えるもので,その中央に長手方向にのびる通過孔3Aを備え,通過孔3Aにワイヤロープ1が通される。ロープテスタ3は2つの半円筒体に分割(半割り)可能であり,半割りされたロープテスタ3にワイヤロープ1を挟み,半割りされたロープテスタ3を円筒形に組み立てることによって,ロープテスタ3の通過孔3Aにワイヤロープ1が通され,ワイヤロープ1の一部がロープテスタ3によって包囲される。
【0024】
図2を参照して,ロープテスタ3の筐体12内には,筐体12の長手方向の一端側と他端側のそれぞれに,複数の永久磁石13,14が環状に配列されており,一対の永久磁石13,14がヨーク15によって磁気的に接続されている。永久磁石13,14,ヨーク15,および永久磁石13,14によって挟まれる範囲のワイヤロープ1の一部によって磁気回路が構成される。
【0025】
一対の永久磁石13,14の間には,永久磁石13,14のそれぞれと間隔をあけてヨーク15の上面に固定されたコイルベース17と,上記コイルベース17の上面に固定された検出コイル(サーチコイル)16とが設けられている。複数の検出コイル16がワイヤロープ1の周囲に設けられる。
【0026】
ワイヤロープ1に損傷(欠損)があると,損傷部位においてワイヤロープ1の外に磁場が形成される(磁束が漏れる)。漏洩した磁束が検出コイル16と鎖交することで検出コイル16に起電力が生じ,検出コイル16から検出信号(電圧信号)が出力される。検出コイル16から出力される検出信号に基づいて,ワイヤロープ1に損傷が発生していることを検知することができる。
【0027】
またワイヤロープ1に鉄粉堆積物,金属破片など,磁性を有する異物が付着していると,その箇所においてもワイヤロープ1の外に磁場が形成される(磁束が漏れる)。漏洩磁束が検出コイル16と鎖交することで検出コイル16に起電力が生じ,検出信号(電圧信号)が検出コイル16から出力される。検出コイル16から出力される検出信号に基づいて,ワイヤロープ1に異物が付着していることを検知することもできる。
【0028】
ワイヤロープ1に損傷があるときに検出コイル16から出力される検出信号の符号(プラスまたはマイナス)と,ワイヤロープ1に異物が付着しているときに検出コイル16から出力される検出信号の符号は逆になる(詳しくは後述する)。しかしながら,ワイヤロープ1に損傷があるときの検出信号の符号は固定的ではなく,たとえばロープテスタ3を一方向に移動させたときに損傷に起因して検出コイル16から出力される検出信号の符号がプラスであれば,そのロープテスタ3を逆方向に移動させると,損傷に起因して出力される検出信号の符号はマイナスとなる。ワイヤロープ1に異物が付着しているときに検出コイル16から出力される検出信号も同様である。後述するように,この実施例の検査システムでは,検出コイル16から出力される検出信号がワイヤロープ1の損傷部位に起因する信号(以下,「損傷信号」と呼ぶ)であるのか,またはワイヤロープ1の異物付着箇所に起因する信号(以下,「異物信号」と言う)であるのかが分かりやすく示される。損傷および異物付着を包括して「欠陥」と呼ぶ。
【0029】
図1を参照して,検出コイル16から出力される検出信号が損傷信号であるのか異物信号であるのかを区別するために,検査対象のワイヤロープ1の検査開始箇所(または検査開始箇所の近傍)に,あらかじめ強磁性体の小さい鉄片11が取り付けられる。鉄片11を用いた処理の詳細は後述する。
【0030】
上述したロープテスタ3は制御器4に信号線によって接続される。
【0031】
制御器4は,CPU(Central Processing Unit ),ハードディスク,通信インターフェース(いずれも図示略),およびメモリ5を備えるもので,ロープテスタ3(検出コイル16)から出力される検出信号の受信および記録を実行する。ロープテスタ3から出力される検出信号は,制御器4において所定時間間隔ごとたとえば1ミリ秒ごとに順番(時系列)にサンプリングされる。
【0032】
制御器4が備えるメモリ5に,ロープテスタ3(検出コイル16)から出力される検出信号(信号値),およびオペレータによって設定される設定データ(測定日時,ワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード),ワイヤロープ1の直径,ゲイン設定値,欠陥判定のための閾値(判定レベル)など)が記録される。設定データの入力に制御器4が備える入力装置(入力ボタン)(図示略)が用いられる。さらに,制御器4は着脱自体のメモリカード7を装着するためのインターフェース(図示略)も備えており,制御器4のメモリ5に記憶されたデータをメモリカードに記録(転送)することができる。
【0033】
さらに,制御器4は,検出コイル16から出力される検出信号を用いて欠陥の存在が判定された(検出信号が閾値を超えている)ときに,警告を出力(ランプ点灯,ブザー鳴動など)することもできる。
【0034】
コンピュータ装置6はCPU(Central Processing Unit ),メモリ,ハードディスク,通信装置,入力装置,表示装置,メモリカード7を装着するためのインターフェース等を備えるもので,ハードディスクには,制御器4においてメモリカード7に記録されるデータを用いて,ワイヤロープ1の解析を行うプログラムがインストールされている。
【0035】
図3は,損傷部位21が存在する磁化されたワイヤロープ1を示している。図4は損傷部位21が存在する部分をロープテスタ3(検出コイル16)が通過したときに検出コイル16から出力される検出信号(損傷信号)31を示している。
【0036】
図5は,異物付着箇所22が存在する磁化されたワイヤロープ1を示している。図6は,異物22が付着している箇所をロープテスタ3(検出コイル16)が通過したときに検出コイル16から出力される検出信号(損傷信号)32を示している。
【0037】
図3および図5を対比して,ワイヤロープ1に損傷部位21が存在しても(図3),異物付着箇所22が存在しても(図5),それらの部位または箇所では磁化されたワイヤロープ1を流れる磁束が乱れ,磁束がワイヤロープ1の外に漏れ出し(漏洩磁束),ワイヤロープ1の外に磁場(磁界)が形成される。ロープテスタ3(検出コイル16)が損傷部位21または異物付着箇所22を通過すると,漏洩磁束が検出コイル16と鎖交し,検出コイル16に起電力が生じる。
【0038】
図3および図5を対比して,ワイヤロープ1に損傷部位21が存在する場合の漏洩磁束の磁束線の方向と,ワイヤロープ1に異物付着箇所22が存在する場合の漏洩磁束の磁束線の方向は逆向きである。このため,図4および図6を対比して,ワイヤロープ1の損傷部位21を通過したときに検出コイル16から出力される検出信号31の波形と,ワイヤロープ1の異物付着箇所22を通過したときに検出コイル16から出力される検出信号32の波形は逆になる。
【0039】
図7は,損傷部位21および異物付着箇所22の両方が存在するワイヤロープを検査したときにロープテスタ3(検出コイル16)から出力される検出信号35を示している。図7では,ロープテスタ3(検出コイル16)から出力される検出信号のサンプリング値(電圧値)が,縦向きの直線の長さによって示されている。検出コイル16から出力される検出信号が微弱であるので,図7の検出信号はこれを増幅したものである。制御器4によって検出信号の増幅処理を行うことができる。
【0040】
たとえば損傷信号が正の電圧値を持ち,異物信号が負の電圧値を持つことがあらかじめ分かっていれば,正の電圧値を持つ検出信号は損傷部位21の存在を,負の電圧値を持つ検出信号は異物付着箇所22の存在を,それぞれ表すことになる。しかしながら,上述したように,正の電圧値が常に損傷信号を表すとは限らず,負の電圧値が常に異物信号を表すとは限らない。
【0041】
図8は,コンピュータ装置6の表示装置の画面を示すもので,コンピュータ装置6にインストールされている解析プログラムによって作成されて表示される画面例(グラフ表示ウインドウ)を示している。
【0042】
制御器4のメモリ5に記録されたロープテスタ3(検出コイル16)からの検出信号(電圧値)は,メモリカード7を介してコンピュータ装置6に与えられる。制御装置4に入力される,ワイヤロープ1を検査したときの測定日時,ワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード),ロープ径,ゲイン設定値,および判定レベル(閾値)を表すデータも,メモリカード7を介してコンピュータ装置6に与えられる。
【0043】
コンピュータ装置6において解析プログラムが起動されると,メモリカード7に記録されているデータに基づいて,図8に示す検出信号グラフ40がコンピュータ装置6の表示装置の表示画面上に表示される。
【0044】
検出信号グラフ40には,横軸をワイヤロープ1の位置(m),縦軸を電圧値(V)とするグラフが表示される。
【0045】
検出信号グラフ40では,ロープテスタ3から出力される検出信号(電圧値)の絶対値が,縦向きの直線の長さによって示される。このため,ロープテスタ3から出力される検出信号が負の値であっても,正の値としてグラフ表示される。
【0046】
上述したように,ロープテスタ3からの検出信号は所定時間間隔ごとたとえば1ミリ秒ごとに順番(時系列)にサンプリングされる。またワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード)は既知である。したがって,サンプリングされた多数の検出信号(多数の電圧値)のそれぞれを,ワイヤロープ1の位置(検査開始位置を 0.0mとしたときの検査開始位置からの距離)と対応づけることができ,これによって横軸をワイヤロープ1の位置(m),縦軸を電圧値(v)とする検出信号グラフ40が,解析プログラムによって作成される。
【0047】
検出信号グラフ40にはたとえば検査対象のワイヤロープ1の全検査長にわたって複数の検出信号が表示される。図8に示す検出信号グラフ40では,ワイヤロープ1の全検査長が100mであることが示され,検出信号グラフ40の横軸には,検査開始位置(0.0m)から全検査長である100mまでの範囲が示されている。
【0048】
検出信号グラフ40にはまた,閾値(判定レベル)を示す線41が色を異ならせて(たとえば緑で)表示され,この閾値線41以上の電圧値を持つ検出信号の先端45がマークされる(たとえば赤色の丸印が先端に示される)。
【0049】
閾値以上の電圧値を持つ検出信号(絶対値)のグラフは,絶対値を算出する前の値が正であるか負であるかに応じて,線色または線種を異ならせて,検出信号グラフ40に表示される。図8に示す検出信号グラフ40には,絶対値を算出する前の値が負である検出信号42A,42B,42C,42Dが実線によって,絶対値を算出する前の値が正である検出信号43A,43B,43Cが破線によって,それぞれ表示されている。
【0050】
検出信号グラフ40に表示される閾値41以上の電圧値を持つ検出信号のうち,最も左側に表示される検出信号42Aは異物信号を表すものあることが分かっている。上述のように,検査されるワイヤロープ1の表面の検査開始箇所(または検査開始箇所の近傍)には,あらかじめ強磁性体である鉄片11が取り付けられ(図1および図2参照),鉄片11が取り付けられている箇所をロープテスタ3が通過したときに出力される検出信号42Aが,検出信号グラフ40の最も左側(検査開始位置に対応)に示されるからである。
【0051】
すなわち,検出信号グラフ40に表示される複数の検出信号のうち,実線によって示される検出信号42A,42B,42C,42Dは,いずれも異物信号を表すものであり,破線によって示される検出信号43A,43B,43Cはいずれも損傷信号を表すものであることが把握される。
【0052】
このように検出信号グラフ40を見れば,検査対象のワイヤロープ1に欠陥(損傷部位または異物付着箇所)が発生している部位または箇所を特定することができるとともに,損傷が発生しているのか,異物が付着しているのかも見分けることができる。
【0053】
コンピュータ装置6は,実線によって示される検出信号42A,42B,42C,42D(異物信号),破線によって示される検出信号43A,43B,43C(損傷信号)を,選択的に検出信号グラフ40に表示することもできる。図9は異物信号42A,42B,42C,42Dのみを表示させた検出信号グラフ40Aを,図10は損傷信号43A,43B,43Cのみを表示させた検出信号グラフ40Bをそれぞれ示している。
【0054】
上述した実施例では1本のワイヤロープ1を検査するためのロープテスタ3を示したが,ロープテスタ3を並列に複数並べることで,複数本のワイヤロープ1を同時に検査することもできる。この場合には,ワイヤロープ1の本数に対応する数の複数の検出信号グラフ40が,ワイヤロープ1ごとに,作成される。
【符号の説明】
【0055】
1 ワイヤロープ
3 ロープテスタ
4 制御器
5 メモリ
6 コンピュータ装置(制御装置)
7 メモリカード(記録媒体)
11 鉄片(磁性付着物)
13,14 永久磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10