(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/035 20060101AFI20221011BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20221011BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C03B37/035
G02B6/02 356A
G02B6/44 301B
(21)【出願番号】P 2019141326
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 格
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/208382(WO,A1)
【文献】特開2012-51757(JP,A)
【文献】特表2011-505326(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B37/02-37/035
G02B6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調心機構を有する把持部によって母材を把持する工程と、
前記母材を溶融炉によって溶融させてベアファイバを形成する工程と、
冷却部においてガスを吹き付けることで前記ベアファイバを冷却する工程と、
前記ベアファイバの外周に被覆となる樹脂を塗布する工程と、
前記樹脂を硬化させる工程と、
前記冷却部が前記ベアファイバに吹き付けるガスの流量を変化させる要因を入力情報として取得する工程と、
前記入力情報に基づいて前記調心機構を制御し、前記母材を移動させることで、前記冷却部への前記ベアファイバの進入位置を調整する工程と、を有
し、
前記冷却部は非接触式方向変換器である、光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記入力情報は、前記溶融炉と前記冷却部との間に設置されたファイバ径測定部によって測定された、前記ベアファイバの外径である、請求項
1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記入力情報は、前記溶融炉と前記冷却部との間に設置された泡検出部によって検出された、前記ベアファイバ内の泡の有無である、請求項
1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記入力情報は、前記溶融炉と前記冷却部との間に設置された張力測定部によって測定された、前記ベアファイバの張力である、請求項
1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記入力情報は、前記溶融炉と前記冷却部との間に設置された位置検出部によって検出された、前記ベアファイバの前記冷却部に対する位置である、請求項
1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記入力情報は、前記溶融炉よりも上流側に設置された母材位置測定部によって測定された、前記母材の位置である、請求項
1に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非接触式方向変換器を用いた光ファイバの製造方法が開示されている。この光ファイバの製造方法では、非接触式方向変換器とコーティング部との間に設けられた温度調整部によってベアファイバの温度を調整することで、被覆の状態を安定させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製造装置を格納する建屋の大きさや、製造装置のレイアウトによっては、特許文献1が開示するような温度調整部を配置するスペースが確保できないことも考えられる。また、温度調整部を配置可能な場合でも、その他の手段によって被覆の状態を安定させることができれば、被覆の状態を安定させるための技術の選択肢が増える。
【0005】
そこで本願発明者らが鋭意検討したところ、母材を把持する位置を工夫することによっても、被覆の状態を安定させられることが判った。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、母材を把持する位置を工夫することで被覆の状態を安定させられる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、調心機構を有する把持部によって母材を把持する工程と、前記母材を溶融炉によって溶融させてベアファイバを形成する工程と、冷却部においてガスを吹き付けることで前記ベアファイバを冷却する工程と、前記ベアファイバの外周に被覆となる樹脂を塗布する工程と、前記樹脂を硬化させる工程と、前記冷却部が前記ベアファイバに吹き付けるガスの流量を変化させる要因を入力情報として取得する工程と、前記入力情報に基づいて前記調心機構を制御し、前記母材を移動させることで、前記冷却部への前記ベアファイバの進入位置を調整する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、ガスの流量の変化を抑制するように、冷却部に対するベアファイバの進入位置を調整することができる。したがって、冷却部でのガスの流量の変化に伴うベアファイバの温度変化が抑制され、被覆の状態を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る光ファイバの製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態の光ファイバの製造装置の制御フローを説明する図である。
【
図3】(a)は泡が含まれた母材を示し、(b)は(a)の母材を線引きすることで形成されたベアファイバを示している。
【
図4】第2実施形態に係る光ファイバの製造装置の概略構成を示す図である。
【
図5】第4実施形態に係る光ファイバの製造装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の光ファイバの製造方法について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態における光ファイバの製造装置(以下、製造装置1Aという)は、把持部2と、溶融炉3と、ファイバ径測定部4と、泡検出部5と、位置検出部6と、複数の非接触式方向変換器7A~7Cと、被覆前位置検出部8と、コーティング部9A、9Bと、被覆硬化装置10と、被覆径測定器11と、方向変換器12と、引取部13と、巻取部14と、制御部15と、ガス量調整部16と、を備えている。
【0011】
(方向定義)
本実施形態では、パスラインにおける把持部2側を上流側といい、巻取部14側を下流側という。また、理想的な状態(パスラインに対して傾斜していない状態)でセットされたときの母材Mの長手方向に直交する平面を直交平面という。
図1では、母材Mが上下方向に沿って延びている。このため、長手方向は上下方向と実質的に一致しており、直交平面は水平面と実質的に一致している。ただし、母材Mの長手方向は適宜変更してもよく、例えば水平方向であってもよい。
【0012】
把持部2は、母材Mを把持し、溶融炉3に向けて送り込む。また、把持部2は調心機構を備えており、直交平面内における母材Mの位置を調整可能である。溶融炉3は、ヒータによって母材Mを加熱・溶融させて、ベアファイバBを形成する。ファイバ径測定部4は、ベアファイバBの外径を測定する。泡検出部5は、ベアファイバBの内部に泡が有るか否かを検出する。位置検出部6は、複数の非接触式方向変換器7A~7Cのうち、最も上流側に位置する非接触式方向変換器7AへのベアファイバBの入線位置を検出する。
【0013】
ファイバ径測定部4、泡検出部5、および位置検出部6は、溶融炉3の下流側かつ非接触式方向変換器7A~7Cの上流側に配置されている。ファイバ径測定部4、泡検出部5、および位置検出部6の配置の順番は適宜変更してもよい。ただし、位置検出部6は、非接触式方向変換器7Aになるべく近い位置に配置されることが好ましい。
【0014】
非接触式方向変換器7A~7Cは、ベアファイバBの進行方向をそれぞれ90°、180°、90°変換する。例えば非接触式方向変換器7Aは、ベアファイバBの進行方向を、下方向から水平方向へと約90°変換している。なお、これら非接触式方向変換器の数、位置、方向変換の角度などは適宜変更してもよい。
【0015】
非接触式方向変換器7A~7Cは、ベアファイバBを案内するガイド溝を有し、このガイド溝内には、ガイド溝に沿って配線されたベアファイバBを浮揚させる流体(ガス)の吹き出し口が形成されている。非接触式方向変換器7A~7Cは、吹き出し口から空気やHe等のガスをベアファイバBに吹き付けることで、その構成部材をベアファイバBに接触させることなく、ベアファイバBを浮上させることが可能である。また、ガスを吹き付けることで、ベアファイバBを冷却することができるため、非接触式方向変換器7A~7Cは冷却部でもある。本実施形態における非接触式方向変換器の構成は、特許第5851636号公報に記載されているものと同様であるため、詳細な説明を省略する。なお、非接触式方向変換器の構成はこれに限定されず、ガスを吹き付けることでベアファイバBを浮上させ、ベアファイバBの方向を変換可能であれば、適宜変更してもよい。
【0016】
被覆前位置検出部8は、複数の非接触式方向変換器7A~7Cの下流側かつコーティング部9A、9Bの上流側に位置している。被覆前位置検出部8は、コーティング部9Aに進入するベアファイバBの位置を検出する。
【0017】
コーティング部9A、9Bは、ダイコーティングなどによって、ベアファイバBの外周に、樹脂前駆体を含む流動性のある材料(以下、単に樹脂材料という)をコーティングして、未硬化被覆層を形成する。未硬化被覆層は、単層であってもよいし、複数の層であってもよい。樹脂材料としては、例えばウレタンアクリレート系の樹脂などの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。
【0018】
図1の例では、上流側のコーティング部9Aによってプライマリ層用の樹脂材料が塗布され、下流側のコーティング部9Bによってセカンダリ層用の樹脂材料が塗布される。なお、コーティング部の構成は適宜変更可能である。例えば、1つのコーティング部によってプライマリ層およびセカンダリ層の両方の樹脂を塗布してもよい。また、コーティング部9Bの下流側に、着色層となる樹脂材料を塗布するための第3のコーティング部を設けてもよい。あるいは、コーティング部9Aによってプライマリ層およびセカンダリ層となる樹脂材料を塗布し、コーティング部9Bによって着色層となる樹脂材料を塗布してもよい。上記したプライマリ層、セカンダリ層、および着色層は、全て「被覆層」に含まれる。
【0019】
被覆硬化装置10は、未硬化被覆層を硬化させる。本明細書では、硬化後の被覆層を単に被覆という。また、被覆およびベアファイバBを合わせて光ファイバという。樹脂材料が紫外線硬化型樹脂である場合、被覆硬化装置10として、紫外線照射ランプまたはUV-LED、およびこれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0020】
なお、コーティング部9A、9Bおよび被覆硬化装置10の配置や構成は、要求される光ファイバの特性(例えば各樹脂材料の硬化度)や、製造装置1Aの線速などに応じて、適宜変更可能である。例えば、プライマリ層のコーティング部の下流側、セカンダリ層のコーティング部の下流側、および着色層のコーティング部の下流側に、それぞれ別個の被覆硬化装置10を配置してもよい。また、線速が大きくても樹脂材料を充分に硬化できるように、被覆硬化装置10の数を増やしてもよい。
被覆径測定器11は被覆硬化装置10の下流側に位置している。被覆径測定器11は、被覆の外径を測定する。
【0021】
方向変換器12は、引取部13に向けて光ファイバの方向を変換する。方向変換器12としては、上述の非接触式方向変換器を用いてもよいし、通常一般的なプーリなどを用いてもよい。また、方向変換器12は設けられていなくてもよい。
【0022】
引取部13は、例えば引き取りキャプスタンである。引取部13によって、製造装置1Aにおける線引き速度が決定される。巻取部14はボビンおよびボビンを回転させる巻取装置を備えている。巻取装置がボビンを回転させることで、ボビンに光ファイバが巻き取られて、ボビン巻き光ファイバが得られる。なお、引取部13と巻取部14との間にダンサー部を設けてもよい。ダンサー部により、引取部13の引取速度とボビンの巻取速度との差を補正することで、引取部13と巻取部14との間で光ファイバのたるみなどが生じることを抑制できる。
【0023】
制御部15は、把持部2、ファイバ径測定部4、泡検出部5、および位置検出部6に有線または無線により接続されている。詳細は後述するが、制御部15は、ファイバ径測定部4、泡検出部5、および位置検出部6の検出結果に基づいて、把持部2の調心機構を制御し、母材Mの位置を調整する。制御部15としては、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路や、NC(Numerical Control)装置などを用いることができる。制御部15としてNC装置などを用いた場合、機械学習を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0024】
ファイバ径測定部4は、有線または無線によってガス量調整部16に接続されており、ベアファイバBの外径の測定結果をガス量調整部16に入力する。ガス量調整部16は、ベアファイバBの外径の測定結果に基づき、非接触式方向変換器7A~7CがベアファイバBに吹き付けるガスの流量を調整する。
【0025】
ここで、コーティング部9A、9BにベアファイバBが進入する際の、ベアファイバBの温度は一定であることが好ましい。ベアファイバBの温度が変化すると、被覆の状態が不安定になるためである。例えば、ベアファイバBの温度に応じて、ベアファイバBに付着する樹脂の量が変化し、結果として被覆径の変化につながる。また、ベアファイバBの温度が適正な範囲から外れると、被覆となる樹脂材料が正常にコーティングされなかったり、被覆とベアファイバBとの密着性が低下したりする。
【0026】
一方、コーティング部9A、9Bに進入するベアファイバBの温度が変化する直接的な要因としては、非接触式方向変換器7A~7Cにおけるガスの流量の変動が挙げられる。ガスの流量が変動する要因として、(1)ベアファイバBの外径変化、(2)ベアファイバBの張力の変化、(3)非接触式方向変換器7AへのベアファイバBの進入位置の変化、が挙げられる。すなわち、(1)~(3)は、ベアファイバBの温度が変化する間接的な要因である。以下、(1)~(3)の要因について、より詳しく説明する。
【0027】
(1)ベアファイバBの外径変化
通常、ベアファイバBの外径変化は所定の範囲内(例えば±0.5μm以内)となるように、把持部2による母材Mの溶融炉3への送り込み速度や、引取部13による線引き速度が調整される。しかしながら、例えばベアファイバB内に気泡が含まれている場合や、送り込み速度または線引き速度の調整が間に合わない場合などにおいて、ベアファイバBの外径が所定の範囲を超えて変化する場合がある。
【0028】
ベアファイバBの外径が太くなると、非接触式方向変換器7A~7Cにおいてガスから受ける力が大きくなり、ベアファイバBの浮上量が増大する。逆にベアファイバの外径が細くなると、非接触式方向変換器7A~7CにおけるベアファイバBの浮上量は減少する。浮上量が増大すると、非接触式方向変換器7A~7CからベアファイバBが外れてしまい、断線が生じる可能性がある。一方、浮上量が減少すると、非接触式方向変換器7A~7CとベアファイバBとが接触し、断線が生じる可能性がある。
【0029】
このため、非接触式方向変換器7A~7Cの上流側に配置されたファイバ径測定部4によってベアファイバBの外径が測定され、非接触式方向変換器7A~7CにおけるベアファイバBの浮上量を安定させるように、ガス量調整部16によってガスの流量の調整が行われる。ガスの流量が変化すると、ガスによってベアファイバBから奪われる熱量が変化する。これにより、コーティング部9A、9Bに進入するベアファイバBの温度が変化する。
【0030】
(2)ベアファイバBの張力の変化
通常、ベアファイバBにかかる張力は極力安定するように、溶融炉3の電力や母材Mの溶融炉3への送り込み速度が調整される。しかしながら、母材M自体の長手方向における外径のばらつきや、線引きにより母材Mの体積が小さくなることにより、電力や送り込み速度による張力の調整が間に合わなくなる場合がある。その結果、ベアファイバBにかかる張力は変化しうる。
【0031】
ベアファイバBにかかる張力は、非接触式方向変換器7A~7Cにおいて、ガスの風圧に抵抗する力として作用する。このため、張力が減少すると、非接触式方向変換器7A~7CにおけるベアファイバBの浮上量は増大する。逆に張力が増大すると、非接触式方向変換器7A~7CにおけるベアファイバBの浮上量は減少する。(1)で述べた通り、浮上量を安定させるようにガスの流量の調整が行われると、コーティング部9A、9Bに進入するベアファイバBの温度が変化する。
【0032】
(3)非接触式方向変換器7AへのベアファイバBの進入位置の変化
非接触式方向変換器7Aは、溶融炉3からベアファイバBが出線する位置と、非接触式方向変換器7AにおけるベアファイバBの所望の浮上位置と、が一致するように配置される。溶融炉3からのベアファイバBの出線位置は、溶融炉3のヒータ部の直交平面における位置と、ヒータ部に対する母材Mの直交平面における位置と、により決まる。そして、母材Mは、溶融炉3のヒータ部の中心に対して母材Mの中心が一致するように設置される。
【0033】
しかしながら、母材M自体の長手方向の曲がりや、母材Mを設置する際の微小な傾きなどにより、ヒータの中心に対する母材Mの中心位置が変化し、結果として、溶融炉3から出線するベアファイバBの位置が変化する場合がある。ベアファイバBの位置が変化すると、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの見かけの浮上量が変化するため、浮上量を安定させるようにガス量調整部16によってガスの流量の調整が行われる。(1)で述べた通り、浮上量を安定させるようにガスの流量の調整が行われると、コーティング部9A、9Bに進入するベアファイバBの温度が変化する。
【0034】
以上説明した(1)~(3)の現象により、コーティング部9A、9Bに進入するベアファイバBの温度が変化すると、ベアファイバBの外周に塗布される樹脂材料の状態が変化する。すなわち、被覆の厚みがばらついたり、被覆とベアファイバBとの密着性が適正な範囲から外れたりする。
そこで本実施形態では、非接触式方向変換器7Aのガス流量の変化を抑え、被覆の状態を安定させるように制御を行う。制御の概要としては、非接触式方向変換器7Aのガス流量を変化させる要因を取得し、その結果から、非接触式方向変換器7Aに入線するベアファイバBの位置を調整する。第1実施形態では、特に上記(1)の現象に着目した制御を行う。以下、より詳細に説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態の製造装置1Aは、ベアファイバBの外径変化を把握するため、溶融炉3から非接触式方向変換器7Aまでの間に配置されたファイバ径測定部4を備えている。また、ベアファイバB内の泡は外径変化の要因となるため、溶融炉3から非接触式方向変換器7Aまでの間に設置された泡検出部5を備えている。さらに、非接触式方向変換器7Aの上流側に、ベアファイバBの位置を検出する位置検出部6が設けられている。
【0036】
母材Mを把持する把持部2は、直交平面における母材Mの位置を調整する調心機構を備えている。
図1のとおり、ファイバ径測定部4、泡検出部5、位置検出部6は制御部15に接続されている。さらに制御部15は、ファイバ径測定部4、泡検出部5、および位置検出部6による検出結果に基づき、把持部2の調心機構にフィードバック制御を行うように構成されている。
【0037】
フィードバック制御の例を
図2に示す。まず、ファイバ径測定部4によるファイバ径の測定結果が、入力情報S1として制御部15に入力される。制御部15は、入力情報S1に基づいて、ファイバ径の変化が生じたか否かを判定する。制御部15は、ファイバ径の変化が生じたと判定した場合、把持部2の調心機構に対して、当該判定の結果に応じた調心指令S2を出力する。
【0038】
例えば、ファイバ径が太くなった場合、非接触式方向変換器7AにおけるベアファイバBの浮上量は増大する。これを打ち消すように、制御部15は、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aに近づける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。逆に、ファイバ径が細くなった場合、制御部15は、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aから遠ざける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。
【0039】
母材Mの移動を行うことで、位置検出部6におけるベアファイバBの位置が変化する。位置検出部6は、ベアファイバBの非接触式方向変換器7Aに対する位置情報S3を制御部15に入力する。位置情報S3に基づき、制御部15は、ベアファイバBが非接触式方向変換器7Aに対して所望の位置になったか否かを判定する。ベアファイバBが所望の位置となった時点で、制御部15は把持部2の調心機構に対して、母材Mの移動停止指令S4を出力する。これにより、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの位置が安定するため、非接触式方向変換器7Aのガス流量の変化が抑制される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバの製造方法は、調心機構を有する把持部2によって母材Mを把持する工程と、母材Mを溶融炉3によって溶融させてベアファイバBを形成する工程と、冷却部(非接触式方向変換器7A)によってガスを吹き付けることでベアファイバBを冷却する工程と、ベアファイバBの外周に被覆となる樹脂を塗布する工程と、樹脂を硬化させる工程と、冷却部がベアファイバBに吹き付けるガスの流量を変化させる要因を入力情報S1として取得する工程と、入力情報S1に基づいて調心機構を制御し、母材Mを移動させることで、冷却部へのベアファイバBの進入位置を調整する工程と、を有している。この構成により、ガス流量の変化を抑制するように、冷却部に対するベアファイバBの進入位置を調整することができる。したがって、冷却部のガス流量の変化に伴うベアファイバBの温度変化が抑制され、被覆の状態を安定させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、冷却部として非接触式方向変換器7Aを用いている。これにより、製造装置1Aを格納する建屋を大きくすることなく、製造装置1Aのパスラインの長さを長くすることができる。
【0042】
また、本実施形態では、入力情報S1として、溶融炉3と非接触式方向変換器7Aとの間に設置されたファイバ径測定部4によって測定された、ベアファイバBの外径を用いている。この構成によれば、ベアファイバBの外径変化が原因となって生じる非接触式方向変換器7Aのガス流量の変化を抑制し、被覆の状態を安定させることができる。
【0043】
また、例えば
図3(a)に示すように、母材Mに泡Fが含まれていると、母材Mを紡糸して形成されるベアファイバBにも泡Fが含まれる。
図3(b)に示すように、紡糸の際にベアファイバBは長手方向に引き延ばされるため、ベアファイバB内の泡Fは略紡錘形状となる。そして、泡Fの形状に沿って、ベアファイバBの外径も長手方向で変化する。泡Fの下流側の端部Pにおいて、泡検出部5が泡Fの存在を検知した場合、端部Pが検知された位置から上流側に向かうに従って、ベアファイバBの外径が徐々に太くなることを予測できる。
【0044】
そこで、制御部15は、泡Fの存在を検知したときに、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aに近づける方向に母材Mを移動させてもよい。すなわち、溶融炉3と非接触式方向変換器7Aとの間に設置された泡検出部5によって検出された、ベアファイバB内の泡の有無を、入力情報S1として用いることも可能である。このような泡検出部5の検出結果による制御は、予測に基づいているため、フィードバック制御の応答性をより高めることが可能となる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態では、上記した(2)の現象に着目した制御を行う。
【0046】
図4に示すように、第2実施形態における製造装置1Bは、ベアファイバBにかかる張力を測定する張力測定部17を備えている。張力測定部17は、溶融炉3の下流側かつ非接触式方向変換器7Aの上流側に位置している。なお、非接触式方向変換器7Aに進入したベアファイバBの張力を測定することが可能であれば、張力測定部17の位置は適宜変更してもよい。張力測定部17としては、例えば非接触型張力計を用いることができる。張力測定部17は、有線または無線により制御部15に接続されている。
【0047】
本実施形態では、入力情報S1として、張力測定部17により測定されたベアファイバBの張力値を用いる。張力測定部17は、入力情報S1としての張力値を制御部15に入力する。制御部15は、入力情報S1に基づいて、ベアファイバBの張力の変化が生じたか否かを判定する。制御部15は、張力の変化が生じたと判定した場合、把持部2の調心機構に対して、当該判定の結果に応じた調心指令S2を出力する。
【0048】
例えば、張力が小さくなった場合、非接触式方向変換器7AにおけるベアファイバBの浮上量は増大する。これを打ち消すように、制御部15は、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aに近づける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。逆に、張力が大きくなった場合、制御部15は、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aから遠ざける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。
【0049】
以降の制御の詳細は、第1実施形態と同様であるため省略する。このように、溶融炉3と非接触式方向変換器7Aとの間に設置された張力測定部17によって測定された、ベアファイバBの張力の値を入力情報S1として用いた場合も、被覆の状態を安定させることが可能である。
【0050】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
第3実施形態では、上記した(3)の現象に着目した制御を行う。
【0051】
第3実施形態では、第1実施形態と同様の製造装置1A(
図1)を用いる。ただし、本実施形態では、入力情報S1として、位置検出部6により検出された、直交平面におけるベアファイバBの位置を用いる。位置検出部6の配置は、溶融炉3と非接触式方向変換器7Aとの間であればよいが、非接触式方向変換器7Aに近い方がより好ましい。位置検出部6は、入力情報S1としてのベアファイバBの位置を制御部15に入力する。制御部15は、入力情報S1に基づいて、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの位置の変化が生じたか否かを判定する。制御部15は、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの位置の変化が生じたと判定した場合、把持部2の調心機構に対して、当該判定の結果に応じた調心指令S2を出力する。
【0052】
例えば、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの位置が近くなった場合、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aから遠ざける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。逆に、非接触式方向変換器7Aに対するベアファイバBの位置が遠くなった場合、ベアファイバBを非接触式方向変換器7Aに近づける方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。
【0053】
以降の制御の詳細は、第1実施形態と同様であるため省略する。このように、溶融炉3と非接触式方向変換器7Aとの間に設置された、ベアファイバBの非接触式方向変換器7Aに対する位置を入力情報S1として用いた場合も、被覆の状態を安定させることが可能である。
【0054】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
第4実施形態では、上記した(3)の現象に着目した制御を行う。
【0055】
図5に示すように、第4実施形態における製造装置1Cは、直交平面における母材Mの位置を測定する母材位置測定部18を備えている。母材位置測定部18は、溶融炉3よりもさらに上流側に配置されている。母材位置測定部18は、制御部15に有線または無線により接続されている。
【0056】
母材位置測定部18は、溶融炉3のヒータの中心を原点として、母材M自体の長手方向の曲がりや、母材Mの設置姿勢における微小な傾きなどにより生じた、原点からの母材Mの中心位置のずれ量を測定する。母材位置測定部18は、上記ずれ量およびずれの方向を入力情報S1として制御部15に入力する。制御部15は、入力情報S1に基づいた調心指令S2を、把持部2の調心機構に出力する。
【0057】
例えば、非接触式方向変換器7AにベアファイバBが近づく方向に母材Mの位置が原点からずれている場合には、その逆方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。また、非接触式方向変換器7AにベアファイバBが遠ざかる方向に母材Mの位置が原点からずれている場合には、その逆方向に母材Mを移動させる(調心指令S2)。
【0058】
以降の制御の詳細は、第1実施形態と同様であるため省略する。このように、溶融炉3よりも上流側に設置された母材位置測定部18によって測定された、母材Mの位置を入力情報S1として用いた場合も、被覆の状態を安定させることが可能である。
【実施例】
【0059】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0060】
(実施例1)
図1に示す製造装置1Aで線引きを実施した。ファイバ径測定部4として、市販の外径測定器を用いた。位置検出部6として、非接触式方向変換器7Aの直前に、非接触の位置センサを設置した。入力情報S1として、ファイバ径測定部4によって測定されたベアファイバBの径を用いて、
図2に示すフィードバック制御を行った。ベアファイバBの目標外径は125μmとし、被覆の目標外径は250μmとした。被覆材として、紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート)を採用した。線引き速度は50m/secとしたところ、被覆の外径は250±1μmで安定していた。
【0061】
フィードバック制御の効果を確認するため、故意にベアファイバBの外径を125±1μmまで変化させた。このようにベアファイバBの外径を変化させた部分でも、被覆の外径は250±1.5μmで安定していた。被覆の外径変化が大きくなった理由としては、ベアファイバBの外径が変化したため、その外径に応じて被覆の外径も変化したためである。
【0062】
(実施例2)
図4に示す製造装置1Bで線引きを実施した。張力測定部17として、市販されている非接触張力測定計を用いた。入力情報S1として、張力測定部17による張力の測定結果を用いた。その他の点は実施例1と同じである。
効果を確認するため、故意にベアファイバBにかかる張カを±20gfの範囲で変化させた。このように張力を変化させて線引きした部分においても、被覆の外径は250±1μmで安定していた。
【0063】
(実施例3)
図5に示す製造装置1Cで線引きを実施した。入力情報S1として、原点からの母材Mのずれ量およびずれの方向を用いた。その他の点は実施例1と同じである。
フィードバック制御の効果を確認するため、母材Mを、理想的な姿勢から故意に傾けた状態で把持部2によって把持した。傾きの量は、母材Mの下端部の中心位置と上端部の中心位置とで、直交平面における座標が約3mmずれるようにした。母材Mの下端部から母材Mの上端部まで線引きした結果、全長にわたり、被覆の外径は250±1μmで安定していた。
【0064】
(比較例1)
実施例1の構成においてフィードバック制御を実施しない状態で、実施例1と同様に、故意にベアファイバBの外径を±1μmまで変化させた。このようにベアファイバBの外径を変化させた部分において、被覆の外径が250±5μmの範囲で変化した。このように、フィードバック制御を行わなかった結果、ベアファイバBの外径変化だけでは説明できない程度の、被覆外径の変化が見られた。逆に言えば、実施例1におけるフィードバック制御によって、ベアファイバBの外径変化に伴う被覆外径の変化を抑制できることが確認された。
【0065】
(比較例2)
実施例2の構成においてフィードバック制御を実施しない状態で、実施例2と同様に、故意にベアファイバBにかかる張カを±20gfの範囲で変化させた。この張力を変化させた部分において、被覆の外径が250±5μmの範囲で変化した。このように、実施例2におけるフィードバック制御によって、張力の変化に伴う被覆外径の変化を抑制できることが確認された。
【0066】
(比較例3)
実施例3の構成においてフィードバック制御を実施しない状態で、実施例3と同様に、故意に母材Mを傾けて把持した。母材Mの下端部から母材Mの上端部まで線引きした結果、全長にわたり、被覆の外径は250±5μmの範囲で変化した。このように、実施例3におけるフィードバック制御によって、母材Mの傾きに伴う被覆外径の変化を抑制できることが確認された。
【0067】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0068】
例えば、前記第1~第4実施形態では、冷却部が非接触式方向変換器であり、ベアファイバBを冷却する機能だけでなく、ベアファイバBの方向を変換する機能も有していた。しかしながら、冷却部は非接触式方向変換器でなくてもよく、単にエアによってベアファイバBを冷却する部分であってもよい。
【0069】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0070】
例えば、第1~第4実施形態の制御方法を組み合わせてもよい。この場合、入力情報S1は、ベアファイバBの外径、ベアファイバB内の泡の有無、ベアファイバBの張力、ベアファイバBの冷却部(非接触式方向変換器7A)に対する位置、および母材Mの位置のうち、2以上の組み合わせとなる。また、これらの入力情報S1が、それぞれ非接触式方向変換器7Aのガスの流量に対して与える影響の関係式を用意してもよい。そして、その関係式に基づいて制御部15が調心機構を制御し、冷却部へのベアファイバBの進入位置を調整してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1A~1C…製造装置 2…把持部 3…溶融炉 4…ファイバ径測定部 5…泡検出部 6…位置検出部 7A~7C…非接触式方向変換器 9A、9B…コーティング部 10…被覆硬化装置 17…張力測定部 18…母材位置測定部 B…ベアファイバ M…母材