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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
C22C19/05 C
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019520129
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2017052691
(87)【国際公開番号】W WO2018069666
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】1617326.2
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】リード,ロジェ
(72)【発明者】
【氏名】クラッデン,デイヴィッド
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特公昭43-004098(JP,B1)
【文献】特開2011-080146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4.0~6.9質量%のアルミニウム、0.0~23.4質量%のコバルト、9.1~11.9質量%のクロム、0.1~2.5質量%のモリブデン、0.6~3.7質量%のニオブ、0.0~1.0質量%のタンタル、0.0~3.0質量%のチタン、0.0~10.9質量%のタングステン、0.02~0.35質量%の炭素、0.001~0.2質量%のホウ素、0.001~0.5質量%のジルコニウム、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.5質量%の銅、0.0~0.5質量%のハフニウム、0.0~0.5質量%のバナジウム、0.0~10.0質量%の鉄を含み、残部がニッケルおよび不可避的不純物であり、
合金に含まれるタングステン及びモリブデンの質量%をそれぞれW 及びW Mo とすると、以下の式を満たす、ニッケル基合金組成物。
11.6≦W +2.9W Mo
【請求項2】
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、請求項1に記載のニッケル基合金組成物。
19≦(WNb+WTa+WTi)+3.2WAl≦24.5
【請求項3】
クロムを質量%で10.1%以上含む、請求項1または2に記載のニッケル基合金組成物。
【請求項4】
クロムを質量%で11.0%以下含む、請求項1ないし3のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項5】
モリブデンを質量%で、0.3%以上む、請求項1ないし4のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項6】
チタンを質量%で、2.5%以下む、請求項1ないし5のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項7】
コバルトを質量%で、22.6%以下む、請求項1ないし6のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項8】
コバルトを質量%で、0.3%以上む、請求項1ないし7のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項9】
ハフニウムを質量%で、0.2%以下含む、請求項1ないし8のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項10】
タングステンを質量%で、2.9%以上含む、請求項1ないし9のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項11】
タンタルを質量%で、0.5%以下む、請求項1ないし10のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項12】
アルミニウムを質量%で、4.4%以上む、請求項1ないし11のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項13】
コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、質量%で、11.2%以上ある、請求項1ないし12のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項14】
コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、26.6%以下ある、請求項1ないし13のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項15】
鉄を質量%で、0.1%以上含む、請求項1ないし14のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項16】
鉄を質量%で、8.0%以下む、請求項1ないし15のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項17】
モリブデン元素とタングステン元素の合計は、質量%で、10.6%以下ある、請求項1ないし16のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項18】
モリブデン元素とタングステン元素の合計は、質量%で、3.2%以上ある、請求項1ないし17のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項19】
アルミニウムを質量%で、6.8%以下む、請求項1ないし18のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項20】
合金に含まれるニオブ、タンタル及びチタンの質量%をそれぞれWNb、WTa及びWTiとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし19のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
Nb+WTa+WTi≧2.6
【請求項21】
質量%において、アルミニウムに対する、ニオブ元素とタンタル元素とチタン元素との合計の比は、0.45より大き、請求項1ないし20のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項22】
55%~70%の体積分率のγ´有する、請求項1ないし21のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項23】
ニオブを3.0質量%以下有する、請求項1ないし22のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項24】
チタンを0.5質量%以上有する、請求項1ないし23のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項25】
タングステンを、10.6質量%以下する、請求項1ないし24のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項26】
請求項1ないし25のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物から形成される鋳造品。
【請求項27】
請求項1ないし25のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物から形成されるタービンホイール。
【請求項28】
請求項27に記載のタービンホイールを備える排気ガスターボチャージャ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールとして用いられるニッケル基超合金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
以前は、航空エンジンで実証されたニッケル基超合金を、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールに転用する傾向があった。しかしながら、これは、排気ガス温度や製造コストなどの要因から決定される必要な設計意図が尊重されていないため、概して不適当である可能性が高いことが明らかとなっている。
【0003】
ターボチャージャ装置内のタービンホイールに使用されるニッケル基超合金の典型的な組成の例を表1に列挙する。合金IN713CとIN713LCは通常、最高使用温度が900~950℃を超えない用途で使用される。この温度を超えると、これらの合金の引張強度と耐クリープ性が不十分となる。950℃を超える温度では、Mar-M246とMar-M247を使用する必要がある。これらの合金は、優れた高温強度と耐クリープ性を備えているため、最高1050℃の温度で使用できる。しかしながら、Mar-M246およびMar-M247合金は、IN713CおよびIN713LCよりも著しく高価であり、これらの合金の耐食性も大幅に劣っている。本発明は、Mar-M246およびMar-M247合金グレードと同等の引張強度およびクリープを備えた合金を有するように設計された合金を提供する。これらの機械的性質は、合金コストの低減と耐酸化性/耐食性の改善とを組み合わせて達成される。新しい合金の特性のバランスは、それを多くの高温ターボ機械用途に適したものにしている。特に、高い排気ガス温度に対して高度の機械的強度ならびに強いクリープおよび腐食損傷に対する耐性が要求される、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールとして使用するためのものである。表1は、自動車用ターボチャージャに使用される従来の鋳造ニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。
【0004】
【表1】
【0005】
これらの材料は、機械的劣化および化学的劣化に対して優れた耐性を有するため、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールの製造に使用される。それらは、特性の所望の組み合わせを付与するために必要な、10もの異なる合金元素を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コスト低減と耐酸化性/耐食性の改善とが組み合わされた機械的特性であって、これらの用途に使用される最も強力な合金と同等の機械的特性を有する、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールの製造に使用されるニッケル基合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、4.0~6.9質量%のアルミニウム、0.0~23.4質量%のコバルト、9.1~11.9質量%のクロム、0.1~4.0質量%のモリブデン、0.6~3.7質量%のニオブ、0.0~1.0質量%のタンタル、0.0~3.0質量%のチタン、0.0~10.9質量%のタングステン、0.02~0.35質量%の炭素、0.001~0.2質量%のホウ素、0.001~0.5質量%のジルコニウム、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.5質量%の銅、0.0~0.5質量%のハフニウム、0.0~0.5質量%のバナジウムを含み、またはこれらから成り、残部がニッケルおよび不可避的不純物であるニッケル基合金組成物が提供される。
【0008】
本発明において、(i)アルミニウムは、4.0質量%と4.4質量%未満との間だけ存在するか、または4.4~6.9質量%存在してもよく、および/または(ii)コバルトは、0.0質量%と0.3質量%未満との間だけ存在するか、0.0質量%と0.6質量%未満との間だけ存在するか、0.3~23.4質量%存在するか、または0.6~23.4質量%存在してもよく、および/または(iii)チタンは、0.0~2.0質量%存在してもよく、または2.0質量%超~3.0質量%の間で存在してもよい。
【0009】
本発明によれば、4.4~6.9質量%のアルミニウム、0.3~23.4質量%または0.6~23.4質量%のコバルト、9.1~11.9質量%のクロム、0.1~4.0質量%のモリブデン、0.6~3.7質量%のニオブ、0.0~1.0質量%のタンタル、0.0~2.0質量%のチタン、0.0~10.9質量%のタングステン、0.02~0.35質量%の炭素、0.001~0.2質量%のホウ素、0.001~0.5質量%のジルコニウム、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.5質量%の銅、0.0~0.5質量%のハフニウム、0.0~0.5質量%のバナジウムを含み、またはこれらから成り、残部がニッケルおよび不可避的不純物であるニッケル基合金組成物が提供される。
【0010】
一つの実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす。
19≦(WNb+WTa+WTi)+3.2WAl≦24.5
好ましくは、以下の式を満たす。
20≦(WNb+WTa+WTi)+3.2WAl≦24.5
これにより、所望の体積分率のγ´が達成される。所望の体積分率のγ´が達成されることにより、クリープ変形およびクリープ破断寿命に対する耐性が得られる。
【0011】
一つの実施形態では、合金に含まれるタングステン及びモリブデンの質量%をそれぞれW及びWMoとすると、以下の式を満たす。
9.4≦W+2.9WMo
好ましくは、以下の式を満たす。
11.6≦W+2.9WMo
これにより、γ相の強化が確保される。
【0012】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、10.1%以上、好ましくは10.3%以上、より好ましくは10.5%以上である。これにより、さらに良好な耐酸化性/耐食性が得られる。
【0013】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、11.0%以下である。これにより、TCP相形成のリスクが最小限に抑えられる。
【0014】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、0.3%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上である。これにより、さらに強力なガンママトリックスが得られるとともに、クロムのレベルをさらに高くすることができるため、TCP相形成の機会を増加させることなく良好な耐酸化性/耐食性が得られる。
【0015】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、3.0%以下、好ましくは2.8%以下、より好ましくは2.5%以下である。これにより、固溶強度と耐酸化性/耐食性との良好なバランスが得られる。
【0016】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で、2.5%以下、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.8%以下、最も好ましくは1.6%以下である。チタン量のこの制限により、強度と耐酸化性との最良の組み合わせがもたらされる。
【0017】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、22.6%以下である。これにより、コスト、マトリックスの固溶強度及び耐クリープ性のバランスが良好な合金が製造される。一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が、質量%で、17.0%以下のコバルト、好ましくは15.0%以下のコバルトを備えるようにコバルトを減らすことにより、コストをさらに削減することができる。
【0018】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、0.3%以上、好ましくは0.6%以上、より好ましくは7.0%以上又は7.5%以上、最も好ましくは9.2%以上である。これにより、コストの増加を犠牲にして良好な耐クリープ性を有する合金が得られる。
【0019】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるハフニウムは、質量%で0.2%以下である。これは、合金内における不可避的不純物の拘束及び強度の提供にとって有益である。
【0020】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で2.9%以上である。タングステンの最小量を増やすことにより、より良好な耐クリープ性が得られる。
【0021】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタンタルは、質量%で、0.5%以下、好ましくは0.1%以下である。タンタルはその代わりになり得る他の元素と比較して非常に高価であるため、タンタルのレベルを低く保つことは有利である。
【0022】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、4.4%以上、好ましくは4.5%以上、より好ましくは4.8%以上である。アルミニウムのレベルを上げると、大量のタンタルを使用する必要なしに所望のγ´体積分率が達成され、それによって合金のコストを低く維持するのに役立つ。
【0023】
一つの実施形態では、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、質量%で、11.2%以上、好ましくは18.1%以上、より好ましくは19.8%以上である。コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計を増加させることにより、さらに大きいクリープ抵抗が得られる。
【0024】
一つの実施形態では、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、26.6%以下、好ましくは20.1%以下、より好ましくは17.1%以下、最も好ましくは12.6%以下である。これにより、ニオブおよびコバルトの濃度を低く保つことができ、それによって機械的特性を維持しつつさらに低コストの合金を達成することができる。
【0025】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える鉄は、質量%で、0.1%以上である。これは、合金をリサイクル金属から製造することを可能にするので好ましい。
【0026】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える鉄は、質量%で、8.0%以下、好ましくは1.0%以下である。これは、合金の機械的特性を低下させる可能性がある望ましくないラーベス相(Laves phase)を形成する傾向を低減するため、好ましい。
【0027】
一つの実施形態では、モリブデン元素とタングステン元素の合計は、質量%で、10.6%以下、好ましくは9.9%以下である。これにより、クロム含有量を考慮して(given the chromium content)必要なレベルの微細構造安定性が確保される。
【0028】
一つの実施形態では、モリブデン元素とタングステン元素の合計は、質量%で、3.2%以上、好ましくは3.6%以上、より好ましくは4.0%以上である。これにより、合金は、強いγマトリックス相と適切なレベルの耐クリープ性とを達成することができる。
【0029】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、6.8%以下、好ましくは6.7%以下である。これにより、存在する適切な割合のγ´を介して高い強度を達成することが可能となる。
【0030】
合金に含まれるニオブ、タンタル及びチタンの質量%をそれぞれWNb、WTa及びWTiとすると、以下の式を満たす。
Nb+WTa+WTi≧2.6
好ましくは、以下の式を満たす。
Nb+WTa+WTi≧3.1
より好ましくは、以下の式を満たす。
Nb+WTa+WTi≧3.2
最も好ましくは、以下の式を満たす。
Nb+WTa+WTi≧3.6
これにより、適切な量のγ´を高い逆位相境界エネルギーと組み合わせて存在させることができ、それによって所望の強度が達成される。
【0031】
一つの実施形態では、質量%において、アルミニウムに対する、ニオブ元素とタンタル元素とチタン元素との合計の比は、0.45より大きく、好ましくは0.55より大きく、最も好ましくは0.65より大きい。これにより、γ´分率と逆位相境界エネルギーとの所望の組み合わせが達成され、強度が付与される。
【0032】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で3.0%以下である。これにより、合金のコストがさらに下がる。
【0033】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で0.5%以上である。これは、ニオブおよびタンタルのレベルを増加させる必要なしに所望のγ´体積分率を達成するのを助ける。
【0034】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、10.6%以下、好ましくは8.0%以下である。このような合金は密度が低下している。
【0035】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、55%~70%の体積分率のγ´、好ましくは58%~70%の体積分率のγ´を有する。これは、耐クリープ性、耐酸化性およびTCP相を形成する傾向の間の好ましいバランスを提供する。
【0036】
一つの実施形態では、前記請求項のいずれかに記載のニッケル基合金組成物で形成されたタービンホイールである。
【0037】
一つの実施形態では、排気ガスターボチャージャ装置は、そのようなタービンホイールを備える。
【0038】
一つの実施形態では、鋳造品はニッケル基合金組成物から形成される。
【0039】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。特に明記しない限り、%は質量%として表される。
【0040】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、合金設計領域内における、主成分の分配係数を示す。
図2図2は、合金設計領域内の合金において、γ´の体積分率に対する、γ´形成元素であるアルミニウム及びニオブ元素とタンタル元素とチタン元素との合計の影響を示す等値線図である。この等値線図は、900℃で行われる相平衡計算によって求められたものである。
図3図3は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、(強度メリット指数に関する)降伏強度に対する、アルミニウム及びニオブ元素とタンタル元素とチタン元素との合計の影響を示す等値線図である。図3には、図2から得られた、γ´の体積分率が55~70%である場合における制限が重ね合わされている。
図4図4は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、(固溶指数に関する)固溶強度に対する、モリブデン及びタングステンの影響を示す等値線図である。
図5図5は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、原材料コストに対する、ニオブ及びコバルト元素とモリブデン元素とタングステン元素との合計の影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、0質量%に固定されている。
図6図6は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、原材料コストに対する、ニオブ及びコバルト元素とモリブデン元素とタングステン元素との合計の影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、1質量%に固定されている。
図7図7は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、原材料コストに対する、ニオブ及びコバルト元素とモリブデン元素とタングステン元素との合計の影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、2質量%に固定されている。
図8図8は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、0質量%に固定されている。
図9図9は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、1質量%に固定されている。
図10図10は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、2質量%に固定されている。
図11図11は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、3質量%に固定されている。
図12図12は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、4質量%に固定されている。
図13図13は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、5質量%に固定されている。
図14図14は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、微細構造安定性に対する、タングステン及びクロムの影響を示す等値線図である。この合金におけるモリブデン含有量は、6質量%に固定されている。
図15図15は、γ´の体積分率が55~70%である合金において、(クリープメリット指数の観点から)耐クリープ性に対する、コバルト及びモリブデンとタングステンとの合計の影響を示す等値線図である。
図16図16は、実験用合金(合金1~3)の降伏応力を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図17図17は、実験用合金(合金1~3)の比降伏応力を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図18図18は、温度926℃及び応力206MPaにおける、実験用合金(合金1~3)の、時間に対するクリープ歪を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図19図19は、温度982℃及び応力137MPaにおける、実験用合金(合金1~3)の、時間に対するクリープ歪を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図20図20は、実験用合金(合金1~3)の、比応力に対する、破断寿命に基づいて計算されたラーソン・ミラーパラメーターを、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図21図21は、実験用合金(合金1~3)の、比応力に対する、1%歪までの時間に基づいて計算されたラーソン・ミラーパラメーターを、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図22図22は、実験室空気中で100時間、1000℃で等温的に保持した場合における、実験用合金(合金1~3)の比質量変化を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
図23図23は、実験用合金(合金1~3)について、1100℃の実験室空気中に100時間サイクルで合計500時間曝露したときの比質量変化を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す図である。
図24図24は、760℃で1000時間の熱暴露を行った後の、実験用合金(合金1~3)の微細構造を、IN713C合金およびMar-M246合金と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
従来、ニッケル基超合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、ニッケル基超合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、すなわちもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0043】
超合金においては一般的に、耐酸化性/耐食性を付与するためにクロム(Cr)及びアルミニウム(Al)が添加され、硫化に対する耐性を向上させるためにコバルト(Co)が添加される。耐クリープ性の為に、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルトが導入されるが、これは、これらの元素が、クリープ変形の割合を決定する熱活性化過程(例えば、転位上昇)を阻害するためである。静的強度及び繰り返し強度を高めるために、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びチタン(Ti)が導入されるが、これは、これらの元素が、析出硬化相ガンマプライム(γ´)の形成を促進させるためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相とコヒーレントである。
【0044】
本明細書においては、ニッケル基超合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0045】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、「合金設計」法を用いて調べた、質量%における合金設計領域を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
残部はニッケルである。炭素、ホウ素およびジルコニウムのレベルは、それぞれ0.06%、0.015%および0.06%に固定した。
【0048】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculate PHAse Diagram)と呼ばれることが多い。これらの計算を、新しい合金の典型的な使用温度(900℃)で実施することで、相平衡(微細構造)についての情報が得られる。
【0049】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とするニッケル基超合金の場合、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命が徐々に改良される。クリープ破断寿命が最も有益となるγ´の体積分率の範囲は、60~70%である。γ´の体積分率が70%を超えると、耐クリープ性の低下が観察される。
【0050】
また、γ/γ´格子不整は、コヒーレンシーを失うため、正又は負のうち、いずれか小さい値に従う必要がある。したがって、制限はその値の絶対値に依存する。格子不整δは、γ相とγ´相との間の不整合として定義され、以下の式によって求められる。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、αγ及びαγ´は、γ相及びγ´相の格子定数である。
【0053】
不適当な微細構造に基づいた合金は、形態的最密充填(TCP)相に対する感受性(susceptibility)の推定値によっても排斥される。本計算においてCALPHADモデリングを使用することで、有害なTCP相シグマ(σ)、Ρ及びミュー(μ)の形成が予測される。
【0054】
したがって、このモデルにより、γ´の体積分率の計算結果が所望の値となる、設計領域内における全ての組成物が特定される。これらの組成物では、γ´の格子不整が所定の絶対値未満であり、TCP相の総体積分率が所定の大きさ未満である。
【0055】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリット指数の例として、クリープメリット指数(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を示す)、強度メリット指数(平均組成のみに基づく合金の析出降伏強度(an alloy’s precipitation yield strength)を示す)、固溶メリット指数(平均組成のみに基づく合金の固溶降伏強度を示す)、密度、及びコストが含まれる。
【0056】
第5段階では、計算されたメリット指数が所望の挙動に対する制約と比較され、これらの設計制約が、問題に対する境界条件とみなされる。境界条件を満たさないすべての組成物は排斥される。この段階において、試験データセットのサイズは非常に小さくなる。
【0057】
最後の第6段階には、残った組成物のデータセットを分析することが含まれる。この分析は、様々な方法で行われ得る。1つには、メリット指数が最大値を示す合金について、データベースを介して分類してもよい。メリット指数が最大値を示す合金とは、例えば最軽量合金、最も耐クリープ性が高い合金、最も耐酸化性が高い合金、及び最も安価な合金である。又は、その代わりに、データベースを用いて、特性の異なる組み合わせによって生じる、性能の相対的なトレードオフを求めてもよい。
【0058】
メリット指数の5つの例を説明する。
【0059】
第1のメリット指数はクリープメリット指数である。最も重要な観測は、ニッケル基超合金の時間依存変形(即ち、クリープ)が、γ相に限られた初期活性に伴う転位クリープによって発生することである。したがって、γ´相の割合が大きくなるため、転位セグメントが急速にγ/γ´界面に固定される。律速段階は、γ/γ´界面からの、転位のトラップされた構成の離脱である。それは、クリープ特性に対して合金組成物が及ぼす重大な影響を引き起こす局所化学(この場合はγ相の組成)に依存する。
【0060】
物理学に基づいた微細構造モデルは、荷重が一軸であって<001>結晶学的方向に沿っている場合において、クリープ歪εの蓄積速度に援用される。集合方程式は、以下の式である。
【0061】
【数2】
【0062】
ここで、ρは可動転位密度、φpはγ´相の体積分率、ωはマトリックスチャネルの幅である。項σ及びΤはそれぞれ、作用応力及び温度である。項b及びkはそれぞれ、バーガースベクトル及びボルツマン定数である。項KCFは、拘束係数である。
【0063】
【数3】
【0064】
項KCFは、これらの合金内の立方状粒子の近接度を示す。式3は、乗算パラメータC及び初期転位密度の推定を必要とする転位乗算過程を示している。項Deffは、粒子/マトリックス界面における上昇過程を制御する有効拡散率である。
【0065】
なお、上述の内容において、組成依存性は、2つの項φとDeffから生じる。したがって、微細構造が一定である(微細構造の大部分が熱処理によって制御される)と仮定すると、φが固定されるため、化学組成への依存性は、Deffによって生じる。ここに説明されている合金設計モデリングの目的のために、各プロトタイプ合金組成物に対して式2及び式3の完全な積分を実施する必要がないことがわかる。代わりに、最大化が必要な、一次メリット指数Mcreepが用いられる。Mcreepは、以下の式で求められる。
【0066】
【数4】
【0067】
ここで、xは、γ相中の溶質iの原子分率である。D は、適切な相互拡散係数である。
【0068】
第2のメリット指数は強度メリット指数である。高ニッケル基超合金の場合、強度の大部分は析出相に由来する。したがって、析出強度を最大とするために合金組成を最適化することは、設計上の重要な考慮事項である。硬化理論に基づき、強度のメリット指数Mstrengthが提案される。この指数は、(弱い結合から強い結合への転位せん断の移行が起こる点として決定される)最大可能析出強度を考慮しており、下記の式を用いて近似される。
【0069】
【数5】
【0070】
ここで、M-はテイラー係数、γAPBは逆位相境界(APB)エネルギー、φpはγ´相の体積分率、bはバーガースベクトルである。
【0071】
式(5)より、γ´相における欠陥エネルギー(例えば逆位相境界APBエネルギー)が、ニッケル基超合金の変形挙動に大きな影響を与えることは明らかである。APBエネルギーを増加させることは、引張強度およびクリープ変形に対する耐性を含む機械的性質を改善することがわかった。APBエネルギーの研究は、密度汎関数理論を用いて、多くのNi-Al-X系について行われた。この研究により、γ´相のAPBエネルギーに対する三元元素の影響が計算され、複合多成分系を考慮した場合における、各三元元素の添加による影響の線形重畳が仮定された。その結果、以下の式が導かれた。
【0072】
【数6】
【0073】
ここで、xCr、xMo、x、xTa、xNb及びxTiはそれぞれ、γ´相におけるクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ及びチタンの原子%濃度を表す。γ´相における組成は、相平衡計算によって求められる。
【0074】
第3のメリット指数は固溶メリット指数である。固溶硬化は、ガンマ(γ)と呼ばれる(FCC)マトリックス相で起こり、特にこの硬化メカニズムは高温において重要である。マトリックス相の強化に対する個々の溶質原子の重ね合わせを仮定するモデルが採用されている。設計領域内で考慮される元素の固溶強度係数kiは、アルミニウム、コバルト、クロム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタンおよびタングステンにおいてそれぞれ、225、39.4、337、1015、1183、1191、775および977MPa/at.%1/2である。固溶指数は、以下の式を使用して、マトリックス相の平衡組成に基づいて計算される。
【0075】
【数7】
【0076】
ここで、Msolid-solutionは固溶メリット指数、xは、γマトリックス相中の元素iの濃度である。
【0077】
第4のメリット指数は、密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び補正係数を用いることで計算された。ここで、ρは所与の元素の密度であり、xiは合金元素の原子分率である。
【0078】
【数8】
【0079】
第5のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率xiに、合金元素の現在(2016)の原材料コストcを掛けたものを用いた。
【0080】
【数9】
【0081】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成物による影響を受けない。
【0082】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、Mar-M246およびMar-M247合金グレードと同等の引張強度および耐クリープ性のために、従来の鋳造ニッケル基超合金組成の組成を最適化することであった。これらの機械的特性は、M246およびMar-M247合金グレードと比較して、合金コストの削減と耐酸化性/耐食性の向上とを組み合わせることによって達成される。
【0083】
従来の鋳造ニッケル基合金(表1に記載)の典型的な組成物の(ABD法を用いて決定された)材料特性を、表3に列挙する。これらの合金について列挙されている予測特性と関連付けて、新しい合金の設計が考慮された。表3は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙されたニッケル基超合金に関する結果である。
【0084】
新しい合金の設計原理について、以下に説明する。
【0085】
【表3】
【0086】
耐クリープ性を最大とするために、合金の微細構造の最適化が必要であった。この微細構造は主に、オーステナイト面心立方(FCC)ガンマ相(γ)及び規則化されたL1析出相(γ´)からなる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とするニッケル基超合金の場合、クリープ破断寿命は一般に、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれて向上する。γ´の体積分率が70%を超える値をとる場合においては、耐クリープ性の低下が観察される。クリープ破断寿命がIN713C及びIN713LCよりも長い合金を製造するためには、γ´の体積分率は55%以上であることが望ましい。好ましくは、Mar-M246及びMar-M247と同等又はそれより優れた耐クリープ性を達成するために、γ´の体積分率は58%以上である。
【0087】
合金設計領域に含まれる各元素の分配係数は、図1に示すように、900℃で実施される相平衡計算によって求められた。分配係数が1である場合は、元素が、γ相又はγ´相に等しい優先度で分配されていることを表す。分配係数が1未満である場合は、元素が、γ´相に対する優先度を有することを表し、分配係数の値が0に近づくほど、その優先度が大きくなる。分配係数の値が1より大きくなるほど、元素はγ相内に優先的に存在するようになる。アルミニウム、タンタル、チタン及びニオブの分配係数は、これらの元素が強力なγ´形成元素であることを示している。クロム元素、モリブデン元素、コバルト元素及びタングステン元素は、γ相に分配されることが好ましい。合金設計領域内で考慮される元素では、アルミニウム、タンタル、チタン及びニオブが最も強くγ´相に分配される。したがって、アルミニウム、タンタル、チタン及びニオブのレベルは、γ´の所望の体積分率を生成するように制御された。
【0088】
図2は、ある運転温度(この場合は900℃)において、γ´相を形成するために添加された元素(主にアルミニウム、タンタル、チタン及びニオブ)が合金内のγ´相の割合に及ぼす影響を示す。ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素(Nb+Ta+Ti)の合計は、これらの元素がγ´相中のアルミニウム原子を置換するために典型的に添加されるものとして考慮された。その結果、γ´相の組成はNi(Al、Ti、Ta、Nb)となる。ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素は、析出相によって提供される全体的な強化を増加させるという技術的効果を有する(式5)、γ´相の逆位相境界(APB)エネルギーを増加させる(式6)。APBエネルギーの増加は、引張強度と耐クリープ性の双方にとって有益である。この合金の設計においては、γ´の体積分率が55~70%であることが望ましい。したがって、この体積分率のγ´相を生成するために添加されるアルミニウムは、7.6質量パーセント(質量%)までである。
【0089】
γ´体積分率は、以下の式に従って、アルミニウムの変化と、ニオブ元素、タンタル元素及びチタン元素の含有量の合計と、に関連して変化する。
【0090】
【数10】
【0091】
ここで、f(γ´)は、所望の割合(今回においては0.55~0.70)のγ´を有する合金における数値である。この数値は、19.0~24.5の範囲の値である。WNb、WTa、WTi及びWAlはそれぞれ、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの合計の質量パーセントである。より好ましくは、0.58~0.70の好ましい割合のγ´を製造するために、f(γ´)は20.0超の数値である。
【0092】
強度メリット指数によって予測されるように、アルミニウム、タンタル、チタンおよびニオブ添加の最適化はさらに、合金の降伏応力を増大させるために必要である(式5)。タービンディスクが高速かつ高温で回転しているターボチャージャ用途では、ディスクの破損に対する耐性を確保するために高い降伏応力が重要である。現在使用されている合金組成物における強度メリット指数は、合金IN713CおよびIN713LCで~1120MPa、合金Mar-M246およびMar-M247で~1260MPaである。合金がIN713CおよびIN713LCよりも優れた強度を有するためには、最小強度メリット指数は1200MPaであることが望ましい。好ましくは、降伏応力がMar-M246およびMar-M247と同等となるように、強度メリット指数が1250MPaの合金を設計することを目標とする。最も好ましくは、降伏応力を現在使用されているすべての合金より大きくするためには、強度メリット指数を1300MPa超とすべきである。
【0093】
図3は、強度メリット指数に対する、アルミニウム及びニオブ元素とタンタル元素とチタン元素との合計の影響を示す。図2から得られた点線も重ね合わされている。これらによって、所望の体積分率γ´(55~70%)における境界限界が特定される。モデル計算により、γ´の体積分率が55~70%の合金では、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計は2.6質量%より大きくなければならず、質量%において、アルミニウムに対する、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計の比率を0.45超(Nb+Ta+Ti/Al≧0.45)とすることにより、少なくとも1200MPaの強度メリット指数を有する合金が製造されることが示された。より好ましくは、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計は3.1質量%より大きくなければならず、質量%において、アルミニウムに対する、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計の比率を0.55超(Nb+Ta+Ti/Al≧0.55)とする。最も好ましくは、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計は3.6質量%より大きくなければならず、質量%において、アルミニウムに対する、ニオブ元素、タンタル元素およびチタン元素の合計の比率を0.65超(Nb+Ta+Ti/Al≧0.65)とすることにより、1300MPa以上の強度メリット指数を有する合金が製造される。
【0094】
質量%において、アルミニウムに対する、タンタル元素、チタン元素及びニオブ元素の合計の比率の最小値を0.45とすることにより、アルミニウム添加量の最大が6.9質量%までに制限されるので、所望のγ´体積分率および強度メリット指数を達成することができる(図3)。より好ましくは、アルミニウム添加量を6.8質量%までに制限するべきである。これにより、強度メリット指数を少なくとも1250MPaとすることができる。さらにより好ましくは、アルミニウム添加量を6.7質量%までに制限するべきである。これにより、強度メリット指数を少なくとも1300MPaとすることができる。
【0095】
チタンのレベルが高すぎると、合金の耐酸化性についての懸念が生じる。そのため、チタンは3.0質量%までに制限される。このレベルであれば、耐酸化性は許容できるが、良好な強度を有する合金が得られる。好ましくは、チタンは2.5質量%以下に制限される。これにより、強度と耐酸化性とのより良好な組み合わせが得られる。さらに優れた強度と耐酸化性との組み合わせを有する合金を製造するためには、チタン添加量は2.0質量%未満に制限されることが好ましい。これにより、保護酸化物スケールでなくかつ合金の酸化性能に有害となる可能性がある、チタン酸化物の形成が制限される。より好ましくは、チタンの添加を1.8質量%未満に制限することが必要である。強度と耐酸化性の最良の組み合わせは、チタンの添加が1.6質量%以下に制限されるときに達成される。
【0096】
タンタルおよびニオブの含有量の最大値は、図5図7を参照して以下に説明される。これにより、タンタルの範囲は、1.0質量%まで、好ましくは0.5質量%まで、より好ましくは0.1質量%までである。ニオブの範囲は、0.6~3.7質量%に制限されており、これはコスト、強度および耐クリープ性の望ましい組み合わせをもたらす(以下で扱う)。図2から、最大濃度のチタン(3.0質量%)、タンタル(1.0質量%)およびニオブ(3.7質量%)が添加されると、タンタル元素、チタン元素およびニオブ元素の合計が7.7質量%となり、所望の体積分率のγ´を得るためには、最低4.0質量%のアルミニウムが必要であることがわかる。したがって、所望の体積分率のγ´を得るためには、4.0~6.9質量%のアルミニウム濃度が必要である。アルミニウム濃度を4.4質量%以上に増加させると、γ´の体積が増加し、それによってより高い強度が得られる。チタンの量が2.5質量%または2.0質量%以下に制限される場合、アルミニウム濃度の最小量を4.4質量%以上に増加させることが特に望ましい。より好ましくは、チタンが1.8%および1.6%に限定されるとき、所望の体積分率のγ´を生成するために好ましいアルミニウム含有量の最小は、4.5%である。さらにより好ましくは、タンタル含有量が0.1%未満であるとき、所望の体積分率のγ´を生成するために好ましいアルミニウム含有量の最小は、4.8質量%である。
【0097】
上述のように、合金の降伏応力および耐クリープ性は、γ´体積分率および強度メリット指数を制御することによって増大する。ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相に分配する元素を加えることによって、強度はさらに改善される。γ相の強度に対する元素の影響は、固溶指数(SSI)を用いて計算される。本発明のγ相は主として、モリブデン元素、コバルト元素、クロム元素およびタングステン元素からなる。クロムは、γ相の固溶強度に強い影響を及ぼすものではなく、主に合金の耐酸化性および耐食性を高めるために添加される。コバルトは、γ相の固溶強度に強い影響を及ぼすものではないが、図15に示すように、クリープメリット指数に有益な影響を及ぼす。モリブデン元素およびタングステン元素が、固溶指数に最も強く影響することがわかった。
【0098】
固溶指数に対するモリブデンおよびタングステンの影響を図4に示す。固溶指数の最小目標は85MPa、より好ましくは90MPaである。固溶指数は、以下の式に従って、タングステン含有量およびモリブデン含有量の変化に関連して変化する。
【0099】
【数11】
【0100】
ここで、f(SSI)は数値であり、W及びWMoはそれぞれ、合金に含まれるタングステン及びモリブデンの質量パーセントである。f(SSI)の数値は、9.4以上とすべきである。これにより、合金Mar-M246およびIN713LCと同等の、少なくとも85MPaのSSIの値を生成することができる。好ましくは、f(SSI)の数値は、11.6以上とすべきである。これにより、合金IN713CおよびMar-M246と同等の、少なくとも90MPaのSSIの値を有する合金を製造することができる。
【0101】
タンタル元素の現在(2016年)の原材料コストは、本発明の他の元素よりもかなり高く、合金コストに最も大きな影響を及ぼす。ニオブ元素もまた高価であるが、タンタルよりも大幅に安価である。ニオブは、強度メリット指数およびγ´体積分率の計算によって決定されるように、タンタルと同じ技術的効果を有する。したがって、タンタルよりもニオブを優先することにより、強度とコストとのバランスが改善される。コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素は、ほぼ同様のコストであるが、それらはニッケルよりもなお高価であり、したがって合金コストを増大させる。アルミニウム元素、チタン元素およびクロム元素は、合金コストを増大させる効果を有さない。チタンは、ニオブまたはタンタルよりも低コストでγ´形成を増加させるため、0.5質量%以上の量で存在させることが望ましい。
【0102】
図5~7は、タンタル、ニオブ、およびコバルト元素とタングステン元素とモリブデンの元素との合計が、合金コストに与える影響を示す。本発明の目標は、コストを11$/lbとすることである。このコストは、Mar-M247合金より大幅に低く、Mar-M246合金より低い。好ましくは、10.5$/lb未満のコストが望ましく、より好ましくは、10$/lbのコストが望ましい。なぜならこれは、IN713CおよびIN713LCと同等であるからである。図6及び図7に示すように、タンタルは合金コストに最も大きな影響を与える。タンタルが2質量%の場合、必要なコスト目標を満たすことができない(図7)。そのため、タンタルは2質量%未満である必要がある。
【0103】
コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計の必要最小限が11.2質量%以上である場合(Co+Mo+W≧11.2質量%)、許容できる耐クリープ性が達成される。図15を参照して以下に説明する。コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計が11.2質量%を超えて増加するとき、最も好ましくは、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計が19.8質量%を超えると、クリープがさらに改善し、クリープメリット指数がMar-M246およびMar-M247以上である合金が製造される。合金に含まれるタンタルのレベルが1質量%である場合(図6)、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計の最大濃度は、合金のコスト目標を満たすために17.1質量%までに制限される。タンタルの割合を1.0%未満、より好ましくは0.1質量%未満に削減することにより、耐クリープ性と合金コストとのバランスが改善される(図5)。
【0104】
合金に含まれるタンタルの濃度が0.1質量%までに制限される場合、(Nb+Ta+Ti≧2.6質量%)が満たされるべきであるならば、得られるニオブ濃度の最小は0.6質量%でなければならない。0.6質量%のニオブ濃度で11$/lb以下のコスト目標を達成するためには、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は26.6質量%以下でなければならない。より好ましくは、10.5$/lb未満のコストで合金を製造するために、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、20.1質量%以下でなければなければならず、さらにより好ましくは、10.0$/lb未満のコストで合金を製造するために、12.6質量%以下でなければならない。3.7質量%以下までのより高いNbは強度および耐クリープ性を増加させるが、3.0質量%以下のレベルのニオブが合金のコストを抑えるために好ましい。
【0105】
鉄はニッケルと同様の挙動を示し、ニッケルに代わる低コストの代替品として加えることができる。さらに、鉄を添加することに対する耐性は、合金がリサイクル材料から製造される能力を向上させる。したがって、鉄は少なくとも0.1質量%の量で存在することが好ましい。しかしながら、大幅にコストを下げるために、鉄を10.0質量%まで添加することができる。好ましくは、合金の機械的性質を低下させる望ましくないラーベス相を形成する傾向を減らすために、鉄の添加は8.0質量%未満である。最も好ましくは、鉄の添加を1質量%までに制限する。これにより、材料性能を損なうことなくリサイクルされる良好な能力を有する合金が製造される。
【0106】
モリブデン、タングステン及びクロムを添加することにより、望ましくないTCP相(主として、σ相、Ρ相及びμ相)が形成される傾向が高まることがわかった(図8~14)。モリブデンとタングステンの添加は、固溶強度(図4)と耐クリープ性(図15)の双方に必要である。改善された固溶強度および耐クリープ性と組み合わせて、腐食/酸化に対する高レベルの耐性が必要とされる。耐酸化性および耐食性の向上は、クロムの添加によってもたらされる。したがって、機械的性能、耐酸化性/耐食性および微細構造安定性の間の複雑なトレードオフを管理しなければならない。本発明の合金におけるクロム含有量は、酸化/腐食がMar-M246およびMar-M247よりも優れていることを保証するために、9.1質量%超とする。より好ましくは、クロム含有量は、より良好な耐酸化性/耐食性を提供するために、10.1質量%超とする。さらにより好ましくは、クロムを、10.3%以上または10.5%以上の量で存在させる。これにより、耐酸化性/耐食性がさらに向上する。900℃の平衡状態において、新しい合金が含むTCP相の体積分率は1%未満であって、この合金が微細構造的に安定であることが保証されていることが望ましい。
【0107】
図8~14は、900℃での平衡状態でモリブデンを異なるレベルで含む合金における、TCP相(σ+μ+Ρ)の全体割合に対するタングステン及びクロムの添加による効果を示す。各図において、固溶強度のための制約条件を満たすのに必要とされる最小必要タングステン含有量f(SSI)が記載されている。合金がTCP形成の制限における要件を満たす場合、モリブデンの濃度を増加させることによってクロムおよびタングステンの最大濃度が制限されることが分かる。
【0108】
6質量%を超えるモリブデンを含有する合金(図14)では、所望の最小クロムレベルを有する合金を達成するのは困難である。モリブデンを5質量%添加すると、所望のf(SSI)を達成することが困難となる。モリブデンのレベルが4質量%である場合(図12)、所望のf(SSI)を達成することができ、クロムを11質量%まで含有させることができ、耐酸化性/耐食性、固溶強度および耐クリープ性の良好なバランスが得られる。そのため、モリブデン添加は4質量%までに制限される。
【0109】
図8~13では、相割合が最大で0.01のTCP相に基づいて、以下の観察を行うことができる。合金がモリブデンを含まない場合(図8)、クロム含有量は10.9質量%までに制限され、9.1質量%以上のクロム含有量で好ましい値のf(SSI)を達成することも困難である。合金が1質量%のモリブデンを含有する場合(図9)、f(SSI)=9.4の値に対する最大クロム含有量は11.9質量%までに制限され、同様の最大クロム含有量は、モリブデン含有量が2質量%および3質量%であっても達成される(図10、11)。最大クロム含有量は、モリブデンが4質量%である場合、11.0質量%まで減少する(図12)。最良の固溶強度(例えば、f(SSI)≧11.6)においては、モリブデン含有量が3質量%まで増加するにつれて、最大クロム含有量が増加する(図9~12)。したがって、最小モリブデン含有量は、0.1質量%、好ましくは0.3質量%または0.5質量%である。モリブデン含有量が1.0質量%である場合において、f(SSI)≧11.6であるとき、最大クロム含有量は10.1質量%であり、これは好ましい最小のクロム含有量である。したがって、固溶強度と耐酸化性/耐食性との最良のバランスが達成されるので、モリブデン含有量は1.0質量%~3.0質量%の範囲であることが好ましい。許容可能なモリブデンの最大量を減らすことにより、所望のf(SSI)を達成するのがより容易になる。したがって、モリブデンの量は、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下に制限される。
【0110】
上述の説明に基づいて、合金のクロム含有量は9.1質量%~11.9質量%、より好ましくは10.1質量%~11.9質量%に制限されることが見出された。最も好ましくは、微細構造安定性、固溶強度および耐酸化性腐食性の最良のバランスをもたらすため、10.1質量%~11.0質量%の間に制限される。より高いレベルのクロムは望ましいことに耐酸化腐食性を増大させるので、クロムは好ましくは10.3質量%以上、より好ましくは10.5質量%以上の量で存在する。
【0111】
タングステンの許容可能な最大含有量は、所望の最低レベルのクロム(9.1質量%)に基づき、10.9質量%である(図8)。モリブデンの好ましい上限である3質量%において、最低2.9質量%のタングステンを含有することが望ましい。これによって、固溶強度(f(SSI)≧11.6)の好ましい値を達成することさえ可能となる。いずれにせよ、2.9%以上のタングステンを有する合金は固溶強度が改善するため、この最小レベルのタングステンは有利である。したがって、タングステン含有量は、2.9質量%~10.6質量%であることが望ましい。タングステンを8.0質量%以下に制限すると、合金の密度が低下するので好ましい。しかしながら、合金は、特に高濃度のモリブデンを有する場合にはタングステンを含まなくてもよく、4.0%のモリブデン単独で、f(SSI)=11.6を達成することができる。クロムの最小含有量を9.1質量%とした場合において所望のレベルの微細構造安定性を提供するために、モリブデン元素とタングステン元素との合計を10.6質量%未満に維持することが望ましい(図8~14)。より好ましくは、モリブデンとタングステンの合計は9.9質量%未満に維持されるべきである。これにより、好ましいクロム含有量(10.1質量%超)が達成され得る(図8)。
【0112】
上述の要求を満たした合金においては、耐クリープ性を最大とするために、難揮発性元素のレベルを最適化する必要があった。耐クリープ性は、クリープメリット指数モデルを用いて決定された。モリブデン元素とタングステン元素の合計及びコバルトの添加が耐クリープ性に及ぼす影響を図15に示す。クリープメリット指数の最大化は、耐クリープ性の向上に関連しているため、望ましい。モリブデン元素とタングステン元素の合計のレベル及びコバルトの添加レベルを増加させると、耐クリープ性が向上することが分かる。
【0113】
IN713CおよびIN713LCよりも大幅に良好な耐クリープ性を有する合金を製造するために、クリープメリット指数を5.0×10-15-2s以上とすることが望ましい(表3参照)。より好ましくは、Mar-M246およびMar-M247と同等のクリープ性能を有する合金を製造するために、クリープメリット指数を7.0×10-15-2sとすることが望ましい。さらにより好ましくは、Mar-M246およびMar-M247よりも良好な耐クリープ性を有する合金を製造するために、クリープメリット指数を7.5×10-15-2sとすることが望ましい。
【0114】
5.0×10-15-2s以上のクリープメリット指数を有する合金を製造するための、コバルト元素、モリブデン元素およびタングステン元素の合計の最小濃度は、11.2質量%超である(図15)。モリブデン元素とタングステン元素との合計は、望ましくは10.6質量%までに制限される。コバルトのコストが上昇するため、好ましくは、合金はコバルトを全く含まないか、または少なくとも0.3質量%または少なくとも0.6質量%のコバルトなどのごく少量のコバルトのみを含む。11$/lb未満の合金コスト目標を達成するために、コバルト元素、タングステン元素およびモリブデン元素の合計は、26.6質量%以下であることが望ましい(図5)。モリブデン元素とタングステン元素との合計の最小は、3.2質量%まで、より好ましくは4.0質量%までに制限される。従って、コスト、固溶強度および耐クリープ性のバランスがより良好な合金を製造するために、コバルト濃度の最大は、23.4質量%まで、より好ましくは22.6質量%までに制限される。合金のコストをさらに低減するために、コバルトの量は、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは15.0質量%以下に制限される。
【0115】
最良の耐クリープ性として、Mar-M246およびMar-M247に匹敵する、7.0×10-15-2sのクリープメリット指数を有する合金を製造するために、コバルト、モリブデンおよびタングステンの合計を18.1質量%超とすべきである。最も好ましくは、Mar-M246およびMar-M247より高い、7.5×10-15-2sのクリープメリット指数を有する合金を製造するために、コバルト、モリブデンおよびタングステンの合計を19.8質量%超とすべきである。したがって、達成可能な最大クリープメリット指数が推進要因である場合、コバルトは7.0質量%超または7.5質量%超、さらにより好ましくは9.2質量%超であることが好ましい。いずれの場合においても、モリブデンおよびタングステンの含有量の最大は10.6質量%までに制限される。
【0116】
結晶粒界に強度を与えるためには、炭素、ホウ素およびジルコニウムの添加が必要である。これは、合金のクリープおよび疲労特性に対して特に有益である。炭素濃度は、0.02質量%~0.35質量%の範囲とすべきである。ホウ素濃度は、0.001~0.2質量%の範囲とすべきである。ジルコニウム濃度は、0.001質量%~0.5質量%の範囲とすべきである。
【0117】
合金が製造されるとき、それが不可避的不純物を実質的に含まないことは有益である。これらの不純物は、硫黄元素(S)、マンガン元素(Mn)および銅元素(Cu)を含み得る。硫黄元素は、好ましくは0.003質量%(質量換算で30PPM)未満に維持される。マンガンは不可避的不純物であり、好ましくは0.25質量%までに制限される。銅(Cu)は不可避的不純物であり、好ましくは0.5質量%までに制限される。硫黄が0.003質量%より多く存在すると、合金が脆化し、酸化の際に形成された合金/酸化物界面に硫黄が偏析する。この偏析により、保護酸化物スケールの剥離が増加する可能性がある。これらの不可避的不純物の濃度が所定のレベルを超えた場合、製品収率を取り巻く問題が生じるとともに、合金の材料特性の劣化が予想される。
【0118】
合金内の不可避的不純物を拘束するため、及び強度を付与するために、ハフニウム(Hf)を0.5質量%まで、より好ましくは0.2質量%まで添加することは有益である。ハフニウムは強力な炭化物形成材であるため、さらなる結晶粒界の強化をもたらし得る。
【0119】
いわゆる「反応性元素」(イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce))は、0.1質量%までのレベルの添加とする。これは、Al等の保護酸化物層の接着性を向上させるのに有益である。これらの反応性元素は、硫黄などの有害元素を「掃討」することができる。硫黄は、合金酸化物界面に偏析して酸化物と基材との結合を弱め、酸化物の剥離をもたらす。ケイ素(Si)は、0.5質量%まで添加することが有益となりうる。ニッケル基超合金に0.5質量%までのレベルのケイ素を添加することは、酸化特性に対して有益であることが示されている。特にケイ素は合金/酸化物界面に偏析し、基材に対する酸化物の結合力を向上させる。これにより、酸化物の剥離が抑制され、結果として耐酸化性が向上する。
【0120】
このセクションにおける本発明の記載に基づき、本発明の広範な範囲を表4に列挙する。また、表4には、好ましい範囲及び最も好ましい範囲も示されている。合金1~3は最も好ましい範囲内に入り、以下に示される実験結果はその組成範囲において得られる利点を示す。好ましい範囲は、アルミニウムおよびコバルトの最小量を増やし、チタンの最大許容量を減らすものである。これにより、特性のバランスが改善されると考えられる。しかしながら、広範な範囲におけるクロム、モリブデン、ニオブ、タンタルおよびタングステンの量と、4.0質量%以上4.4質量%未満の範囲のアルミニウムと、0.0質量%~0.6質量%未満の範囲のコバルトと、2.0質量%超3.0質量%以下の量のチタンと、を有する合金は、特定の条件下で一定の利点を有する可能性があるので、本発明の範囲内に含まれる。
【0121】
【表4】
【0122】
表5には、本発明からの例示的組成物を記載する。これらの新しい合金の計算された特性を、表6において、現在使用されている合金と比較している。これらの合金の設計原理について説明する。
【0123】
例1~5の合金は、総コストが最低となるように設計されている。これらの各合金は、IN713CおよびIN713LCと同等のコストを有する。これらの合金は、Mar-M246およびMar-M247よりもはるかに高い強度メリット指数と、より高い体積分率のγ´とを有し、良好な高温機械挙動を提供する。これらの合金は、耐クリープ性を犠牲にして低コストに設計されている。Mar-M246およびMar-M247よりはるかに高いレベルのクロムを有するため、はるかに優れた耐酸化性/耐食性が得られる。
【0124】
例6~10の合金は、コストと耐クリープ性とのバランスをとるように設計されている。コストの増加と、最大クロムレベルの低下によって酸化/腐食挙動が低下することと、を犠牲にして、耐クリープ性が、例1~5の合金と比較して大幅に改善される。しかしながら、これらの合金は依然としてMar-M246およびMar-M247よりも大幅に低コストである。さらに、クロムのレベルはMar-M246およびMar-M247より高い。これらの合金は、例1~5と同様に、Mar-M246およびMar-M247よりもはるかに高い強度メリット指数、ならびにより高い体積分率のγ´を有し、これによって良好な高温機械挙動がもたらされる。表5は、表1に列挙された合金と比較した、新しく設計された従来の鋳造ニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。
【0125】
【表5】
【0126】
例11~15の合金は、Mar-M246およびMar-M247よりも大幅に優れた最高レベルの耐クリープ性を提供するように設計されている。コストの増加と、最大クロムレベルの低下によって酸化/腐食挙動が低下することと、を犠牲にして、耐クリープ性が、例1~10の合金と比較して大幅に改善される。しかしながら、これらの合金は依然としてMar-M246およびMar-M247よりも大幅に低コストであり、クロムのレベルはMar-M246およびMar-M247よりも高い。これらの合金は、例1~10と同様に、Mar-M246およびMar-M247よりもはるかに高い強度メリット指数、ならびにより高い体積分率のγ´を有し、これによって良好な高温機械挙動がもたらされる。表6は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、相割合及びメリット指数を示す。これは、排気ガスターボチャージャ装置内のタービンホイールを製造するために用いられるニッケル基超合金(表1)及び表5に列挙された新しい合金の公称組成における結果である。
【0127】
【表6】
【0128】
(実験結果の説明)
本明細書で「実験用合金」と呼ばれる例示的な組成物(合金1~3)は、表4に定義された最も好ましい組成範囲から選択された。これらの合金の組成は、表7に定義されている。実験用合金は、従来の鋳造タービンホイール部品の製造に使用される標準的な方法に適していることがわかった。この製造方法は、表7に特定された目標組成を有する合金の調製、インベストメント鋳造法を用いた合金を鋳造するための鋳型の調製、タービンホイール部品を製造するための合金の鋳造を含む。表7は、製造して実験的にテストされた公金1~3の、質量%における公称組成である。表8は、表7に列挙された合金1~3に対して「合金設計」ソフトウェアを用いて計算した、相割合およびメリット指数である。
【0129】
【表7】
【0130】
【表8】
【0131】
実験用合金の実験的試験を使用して、本発明の合金において目的となる重要な材料特性目標を検証した。材料特性目標として主に、合金Mar-M246と比較した場合における、良好な酸化挙動(等温および繰り返し酸化で試験)、高い微細構造安定性および合金コストの削減と組み合わせられた十分な機械的強度(引張およびクリープ試験を使用して試験)を検証した。実験用合金の挙動を、同じ実験条件下で製造および試験した合金IN713CおよびMar-M246と比較した。
【0132】
表7および表1に従って、公称組成の合金1~3ならびにIN713CおよびMar-M246の従来の試験棒を作製した。この円筒棒は、直径12mm、長さ120mmの寸法を有する。すべての合金について、鋳放し状態の材料について試験を行った(すなわち、鋳込み後にさらなる熱処理は加えなかった)。
【0133】
引張試験は、20mmのゲージ長を有する直径4mmの試験片を用いてASTME8Mに従って実施した。引張試験は、周囲温度を871℃(1600F)、926℃(1700F)および982℃(1800F)とし、10-2/sのひずみ速度を用いて行った。結果は、実験用合金の降伏応力がIN713Cよりも大幅に大きいこと、特に871~982℃の高温範囲では強度が20~30%増加することが観察されることを示している(図16)。これらの合金は、目標の合金Mar-M246と同程度の強度を達成した(図16)。表7の実験用合金の密度は、Mar-M246よりも低い。図17は、比降伏応力(降伏応力÷密度)を比較したものである。この比降伏応力は、到達する応力が密度に比例する回転部品において、重要な設計基準である。比強度に基づいて、実験用合金は、合金Mar-M246と比較したとき、強度に関して同等の性能を有することが分かる。
【0134】
クリープ試験は、20mmのゲージ長を有する4mm直径の試験片を用いてASTME139に従って実施された。クリープ試験は、206MPaの応力レベルを用いて926℃で、そして137MPaの応力レベルを用いて982℃で行われた。図18は、206MPa/926℃の条件における、時間に対する合金のクリープ歪を示す。この条件において、実験用合金の性能がIN713C及びMar-M246の双方より優れていることがわかる。図19は、137MPa/982℃の条件における、時間に対する合金のクリープ歪を示す。実験用合金はIN713Cよりもはるかに優れた性能を発揮する。137MPa/982℃での破断寿命に関して、合金Mar-M246は実験用合金よりも良好である。しかしながら、通常、回転部品の設計においては、臨界レベルの歪に至るまでの時間を設計目標とする。一般的には、1%以下の歪までの時間が設計上の制約となる。1%歪までの時間に関しては、実験用合金はMar-M246と同等の性能を有する。双方のクリープ試験から測定された耐クリープ性を比較するために、図20~21のラーソン・ミラーパラメータ(LMP)を使用した。LMPの比較においては、合金密度の相違を説明するために、比応力が考慮される。比応力に対する(破断寿命に基づく)LMPに関しては、実験用合金は合金IN713Cと比較して大幅な改善を示し、性能はMar-M246と同様である(図20)。(1%歪までの時間に基づく)LMPを比応力に対してプロットすると(図21)、実験用合金はMar-M246と同等の性能を達成することがわかる。
【0135】
熱重量分析(TGA)システムを用いて、1000℃での等温酸化速度性(Isothermal oxidation kinetics)を測定した。直径10mm、厚さ1mmの試料を調製し、一貫した表面仕上げのために全ての表面を3ミクロンのグリットサイズに研磨した。等温暴露を100時間行い、試料の比質量変化を連続的に測定した。100時間の期間にわたる比質量変化がより低いと、酸化速度がより遅くなり、速度がより遅いと酸化損傷に対する耐性がより良好となる。これらの等温条件下で、実験用合金の酸化挙動は、合金IN713CおよびMar-M246と比較して改善された(図23)。
【0136】
合金の繰返し酸化も、実験用合金について1100℃で測定した。100時間サイクルを用いて500時間にわたって測定を行った。これらの高温における熱暴露の周期的性質は、合金が剥離(保護酸化物の喪失)に対してどれだけ耐性があるかの指標を与える。これらの条件下での比質量損失がより大きいことは、酸化物破砕がより多くなることの指標となる。酸化物破砕がより多くなることは、望ましくない。これらの条件下では、IN713CおよびMar-M246と比較して、実験用合金の比質量損失が大幅に少ないことが分かる。これは、IN713CおよびMar-M246合金と比較してはるかに優れた耐酸化性を示した。
【0137】
望ましくないTCP相を形成する合金の感受性は、760℃(1400F)での長期熱暴露を通して評価された。各合金の試験片を、760℃の等温で1000時間保持した。熱暴露に続いて、試験用に試料を調製し、走査型電子顕微鏡を使用して望ましくないあらゆる相の形成を観察した。図24は、この熱暴露期間後の合金の微細構造を示す。実験用合金にはいかなる不要な相も含まれていないことが判明し、Mar-M246では望ましくないTCP相が確認された。これにより、これらの合金がMar-M246と比較して改善された微細構造安定性を有し、この安定性はIN713Cと同等であることが示された。
【0138】
合金全体において、実験用合金(合金1~3)は、982℃までの温度において、(特に密度補正ベースで)Mar-M246と同等の降伏強度のレベルを示す。(特に密度補正ベースで1%歪条件を考慮した場合)耐クリープ性は、Mar-M246と同等で、IN713Cよりはるかに優れている。これは、Mar-M246よりも大幅に低いコスト(Mar-M246と比較して10~15%のコスト削減)の合金を使用して達成された。さらに、この合金は、耐酸化性および微細構造安定性における大幅な改善から利益を得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図22
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図24