(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】非接触型電圧変換器
(51)【国際特許分類】
G01R 15/16 20060101AFI20221011BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01R15/16
G01R19/00 A
(21)【出願番号】P 2020523042
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2018068620
(87)【国際公開番号】W WO2019011896
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-02
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520011360
【氏名又は名称】レム・インターナショナル・エスエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(72)【発明者】
【氏名】ブールマン・フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】シュレーフリ・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】テッパン・ウォルフラム
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-043491(JP,A)
【文献】特開2017-040526(JP,A)
【文献】米国特許第05473244(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0097056(US,A1)
【文献】特開2002-365315(JP,A)
【文献】特開平02-047565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 15/00-17/22、
19/00-19/32、
27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための非接触型電圧変換器(2)において、前記
非接触型電圧変換器は、2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)を含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
前記交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路(6)を取り囲む電極(4)と、
前記電極(4)を取り囲む電極シールド(8)と、
アナログ測定信号を出力するように構成された、前記電極シールド(8)および前記電極(4)に接続された電極信号処理回路部分(16)と、
前記電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器(10)と、
を含み、
前記2つ以上の容量性電流測定ユニットの前記基準電圧信号生成器(10)は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている、非接触型電圧変換器。
【請求項2】
前記
交流電圧導体システムは多相導体システムであり、前記
非接触型電圧変換器は、電気伝導システムの各相に対する1つの容量性電流測定ユニット(3)と、さらに、中性導体(1n)に対する1つの容量性電流測定ユニットと、を含む、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項3】
前記
交流電圧導体システムは、2相または3相導体システムである、請求項2に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項4】
前記2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)を取り囲む外部静電シールド(14)と、前記外部静電シールドおよび前記共通の浮動電圧接続点に接続された追加の基準電圧信号生成器と、をさらに含む、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項5】
前記基準電圧信号生成器は、前記
交流電圧導体システムの交流電圧周波数よりも高い周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項6】
前記基準電圧信号生成器のうちの少なくとも2つは、互いに異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項7】
前記基準電圧信号生成器の各々は、その他のものとは異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項6に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項8】
前記基準電圧源信号、および前記容量性電流測定ユニットによって出力された関連する電流から電極-導体アドミタンス行列Yを計算するように構成されたマイクロコントローラ回路を含む、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項9】
前記マイクロコントローラ回路は、基準電圧信号を生成するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と、各電極からの出力容量性電流からのアナログ測定信号応答を受信し処理するためのアナログ-デジタル変換器(ADC)と、を含む、請求項8に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項10】
前記
非接触型電圧変換器は、測定される前記
交流電圧導体システムの前記導体から電力を収集するように構成されたエネルギー収集ユニットを含み、前記エネルギー収集ユニットは、前記導体のうちの1つ以上の周りに取り付けるために、前記電極のうちの1つ以上に軸方向に隣接して、またはその周りに同軸に配置された1つ以上の誘導コイルを含む、請求項9に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項11】
前記
非接触型電圧変換器は、バッテリの形態の自律電源を含む、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項12】
前記
非接触型電圧変換器は、前記
アナログ測定信号を無線で送信し、外部システムからコマンドまたは要求を受信するために、前記
非接触型電圧変換器のプロセッサに接続された無線通信モジュールを含む、請求項1に記載の非接触型電圧変換器。
【請求項13】
外部システムの交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための、外部システムへの直接電気接続のない完全自律型の非接触型電圧変換器(2)において、前記
非接触型電圧変換器は、測定信号を無線送信する無線通信モジュールと、2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)と、を含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
前記交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路(6)を取り囲む電極(4)と、
前記電極(4)を取り囲む電極シールド(8)と、
アナログ測定信号を出力するように構成された、前記電極シールド(8)および前記電極(4)に接続された電極信号処理回路部分(16)と、
前記電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器(10)と、
を含み、
前記2つ以上の容量性電流測定ユニットの前記基準電圧信号生成器(10)は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている、完全自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項14】
前記
交流電圧導体システムは多相導体システムであり、前記
非接触型電圧変換器は、電気伝導システムの各相に対する1つの容量性電流測定ユニットと、さらに、中性導体に対する1つの容量性電流測定ユニットと、を含む、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項15】
ガルバニック接続のない交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定する方法において、
請求項1から11のいずれか一項に記載の非接触型電圧変換器を提供することと、
基準電圧信号
【数1】
を生成し、前記電極の対応する出力容量性電流信号
【数2】
を測定することと、
前記
非接触型電圧変換器の処理回路において、前記基準電圧信号および対応する出力容量性電流信号に基づいてアドミタンス行列
Yを識別することと、
前記
非接触型電圧変換器の前記処理回路において、前記アドミタンス行列Yから得られるインピーダンス行列Zを計算し、前記
交流電圧導体システムの識別を提供することと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記
交流電圧導体システムの電極電流
【数3】
を測定することと、
前記
非接触型電圧変換器の処理回路において、前記インピーダンス行列Zを使用して、前記少なくとも2つの導体間で測定される交流電圧を計算することと、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記
交流電圧導体システムは、2相または3相導体システムである、請求項14に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項18】
前記2つ以上の容量性電流測定ユニットを取り囲む外部静電シールドと、前記外部静電シールドおよび前記共通の浮動電圧接続点に接続された追加の基準電圧信号生成器と、をさらに含む、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項19】
前記基準電圧信号生成器は、前記
交流電圧導体システムの交流電圧周波数よりも高い周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項20】
前記基準電圧信号生成器のうちの少なくとも2つは、互いに異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項21】
前記基準電圧信号生成器の各々は、その他のものとは異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、請求項20に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項22】
前記基準電圧源信号、および前記容量性電流測定ユニットによって出力された関連する電流から電極-導体アドミタンス行列Yを計算するように構成されたマイクロコントローラ回路を含む、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項23】
前記マイクロコントローラ回路は、基準電圧信号を生成するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と、各電極からの出力容量性電流からのアナログ測定信号応答を受信し処理するためのアナログ-デジタル変換器(ADC)と、を含む、請求項22に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項24】
前記
非接触型電圧変換器は、測定される前記
交流電圧導体システムの前記導体から電力を収集するように構成されたエネルギー収集ユニットを含み、前記エネルギー収集ユニットは、前記導体のうちの1つ以上の周りに取り付けるために、前記電極のうちの1つ以上に軸方向に隣接して、またはその周りに同軸に配置された1つ以上の誘導コイルを含む、請求項23に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【請求項25】
前記
非接触型電圧変換器は、バッテリの形態の自律電源を含む、請求項13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、交流電圧を非接触式に測定するための変換器に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
2つ以上の導体(典型的には3つの相導体および中性導体)間の交流(AC)電圧および相対位相を、導体を遮断および接触させることなく測定することが知られている。導体は、例えば、電気ケーブルの形態であってよく、例えば、分割電極を有する容量型変換器が、ケーブルの各々の周りに配置される。非接触型変換器は、危険な電圧印加において特に、設置を容易にし、人員および設備に対する危険を低減する。
【0003】
ケーブルと変換器との間の未知の結合容量の影響を低減し、したがって測定精度を高めるために、米国特許第5,473,244号に記載されているように、2つ(またはそれ以上)の基準電圧源を使用することができる。
【0004】
米国特許第5,473,244号に記載されているシステム、および米国特許第6,470,283号に記載されているような他の非接触型電圧測定システムの主な欠点は、接地端子を有する必要があることである。電圧測定変換器の設置位置における接地接続へのアクセスは、容易には利用できず、ガルバニック接続を設置する必要性は、電圧測定準備のコストおよび複雑さを増大させる。
【0005】
さらに、危険な電圧印加では、ガルバニック接続を実施する必要性は、測定設備を設置、維持、または使用する人員の安全に対する危険性を増大させ得る。
【0006】
〔発明の概要〕
上記に鑑みて、本発明の目的は、接地接続を必要とせずに、正確で信頼性のある非接触型電圧変換器を提供することである。
【0007】
安全で設置が容易な非接触型電圧変換器を提供することが有利であろう。
【0008】
製造および設置するのに費用効果のある非接触型電圧変換器を提供することが有利であろう。
【0009】
本発明の目的は、請求項1または請求項13に記載の非接触型電圧変換器、および請求項15に記載の方法を提供することによって達成された。
【0010】
本明細書で開示されるのは、交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための非接触型電圧変換器であり、変換器は、2つ以上の容量性電流測定ユニットを含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路を取り囲む電極と、
電極を取り囲む電極シールドと、
アナログ測定信号を出力するように構成された、電極シールドおよび電極に接続された電極信号処理回路部分と、
電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器と、
を含み、
2つ以上の容量性電流測定ユニットの基準電圧信号生成器は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている。
【0011】
また、本明細書で開示されるのは、外部システムの交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための、外部システムへの直接電気接続のない完全自律型の非接触型電圧変換器であり、変換器は、測定信号を無線で送信する無線通信モジュールと、2つ以上の容量性電流測定ユニットと、を含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路を取り囲む電極と、
電極を取り囲む電極シールドと、
アナログ測定信号を出力するように構成された、電極シールドおよび電極に接続された電極信号処理回路部分と、
電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器と、
を含み、
2つ以上の容量性電流測定ユニットの基準電圧信号生成器は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている。
【0012】
有利な実施形態では、導体システムは、多相導体システムであり、変換器は、電気伝導システムの各相に対する1つの容量性電流測定ユニットと、さらに、中性導体に対する1つの容量性電流測定ユニットと、を含む。
【0013】
有利な実施形態では、変換器は、前記2つ以上の容量性電流測定ユニットを取り囲む外部静電シールドと、外部静電シールドおよび共通の浮動電圧接続点に接続された追加の基準電圧信号生成器と、をさらに含むことができる。
【0014】
有利な実施形態では、基準電圧信号生成器は、導体システムの交流電圧周波数よりも高い周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成される。
【0015】
有利な実施形態では、基準電圧信号生成器のうちの少なくとも2つは、互いに異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成される。
【0016】
一実施形態では、基準電圧信号生成器の各々は、その他のものとは異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成され得る。
【0017】
一実施形態では、電圧変換器は、基準電圧源信号、および容量性電流測定ユニットによって出力された関連する電流から電極-導体アドミタンス行列Yを計算するように構成されたマイクロコントローラ回路を含むことができる。
【0018】
一実施形態では、マイクロコントローラ回路は、基準電圧信号を生成するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と、各電極からの出力容量性電流からのアナログ測定信号応答を受信し処理するためのアナログ-デジタル変換器(ADC)と、を含む。
【0019】
また、本明細書に開示されているのは、ガルバニック接続のない交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定する方法であり、この方法は、
前述のような非接触型電圧変換器を提供することと、
基準電圧信号
【数1】
を生成し、電極の対応する出力容量性電流信号
【数2】
を測定することと、
変換器の処理回路において、基準電圧信号および対応する出力容量性電流信号に基づいてアドミタンス行列Yを識別することと、
変換器の処理回路において、アドミタンス行列Yから得られるインピーダンス行列Zを計算し、導体システムの識別を提供することと、
を含む。
【0020】
本方法は、
導体システムの電極電流
【数3】
を測定することと、
変換器の処理回路において、インピーダンス行列Zを使用して、前記少なくとも2つの導体間で測定される交流電圧を計算することと、
をさらに含むことができる。
【0021】
本発明のさらなる目的および有利な態様は、特許請求の範囲、以下の詳細な説明、および添付図面から明らかとなるであろう。
【0022】
本発明は、添付図面を参照して説明され、添付図面は、例として本発明を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態による非接触型電圧変換器の電気的レイアウトの概略的簡易図である。
【
図2】相のうちの1つに関する
図1の非接触型電圧変換器の概略的簡易図であり、変換器の導電性素子間の容量結合を示している。
【
図3】非接触型電圧変換器を表す等価回路の概略的簡易図である。
【0024】
〔発明の実施形態の詳細な説明〕
図を参照すると、本発明の一実施形態による非接触型電圧変換器2は、2つ以上の容量性電流測定ユニット3を含み、各容量性電流測定ユニットは、少なくとも2つの導体を含む導体システムのそれぞれの導体1、1nを受容するための通路6を取り囲む電極を含み、導体のうちの少なくとも1つは、交流電圧を搬送する。
【0025】
一実施形態では、導体システムの導体は、多相交流電圧電気伝導システムに属することができる。電気伝導システムは、2相、3相であるか、または4つ以上の相を有することができ、さらに、中性導体を含むことができる。しかしながら、本発明は、多相システムに限定されず、測定される導体間で相対的な交流電圧を示す任意の導体に適用されてもよいことに留意されたい。
【0026】
導体は、例えば、従来の絶縁ワイヤもしくはケーブル、または絶縁導体ロッドもしくはバーの形態であってよく、あるいは、それ自体既知の他の構成を有してよい。変形例では、導体は絶縁されていなくてもよく、非接触型電圧変換器は、電極を絶縁されていない導体から誘電的に分離するように構成された絶縁層を電極上に含む。
【0027】
電極4は、導体通路6を完全に取り囲んでもよいし、導体通路6を部分的にのみ取り囲んで、例えば、通路6内に導体を挿入することができるギャップを残してもよい。
【0028】
電極は、測定される導体を電極の対応する通路6内に挿入するのを可能にするために可動部分を有するハウジング内に提供され得る。
【0029】
非接触型電圧変換器2は、伝導システムの任意の2つ以上の導体1、1n間の相対的な交流電圧を測定するように構成される。非接触型電圧変換器2は、伝導システムの任意の2つ以上の導体1、1n間の相対位相を測定するように構成されてもよい。
【0030】
各容量性電流測定ユニット3は、電極4を取り囲む電極シールド8と、アナログ測定信号S1、S2、S3、S4を出力するように構成された、電極シールド8および電極4に接続された電極信号処理回路と、測定シールドに接続され、電圧信号V1、V2、V3、V4を生成するように構成された電圧信号生成器10と、をさらに含む。複数の容量性電流測定ユニットの電圧信号生成器10は、共通の浮動電圧接続点11で互いに接続されている。
【0031】
非接触型電圧変換器2は、アナログ測定信号S1・・・S4を処理するように構成されたアナログ-デジタル処理回路12をさらに含み得る。
【0032】
一実施形態では、電圧変換器は、複数の容量性電流測定ユニット3を取り囲む外部シールド14をさらに含むことができる。
【0033】
一実施形態では、アナログ-デジタル処理回路12は、基準電圧信号を生成するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と、アナログ測定信号S1、S2、S3、S4応答を受信し処理するためのアナログ-デジタル変換器(ADC)と、を含むマイクロコントローラ回路を含む。
【0034】
本発明は、最初は未知のキャパシタンスにわたって導体と電極との間の容量性電流を測定する原理に依拠する。これらのキャパシタンスを測定するために、追加の(小さい)既知の電圧信号が電圧生成器によって電極シールドに印加され、電圧および電流が決定され得、次にインピーダンスを計算することができる。
【0035】
電極は、互いに比較的近接して電位にあり、したがって、単一の電子システムが、多導体伝導システムの全ての導体からの測定値を処理することを可能にする。全ての電極および電極の周りの静電シールドは、結合インピーダンスのシステムを単純化する。
【0036】
先行技術のシステムでは、未知の対地容量を介して通過する容量性電流を決定し、したがって調整するために、変換器は、対地電位に接続された電圧源を使用して較正され、2つの電極間に既知の高周波電圧を注入する。しかしながら、本発明では、接地接続は必要とされず、それにより、電圧源は浮動小数点電圧に接続される。本発明の実施形態による変換器は、外部導体への接続なしに提供され得る。したがって、本発明の実施形態による変換器は、測定される導体、または変換器を設置することができるデバイスもしくは設備への電気接続なしに設置することができる。利点には、設置の容易さが増し、安全性が増すことが含まれる。
【0037】
図を参照すると、図示の実施形態では、各導体1は、電極4に容量結合され(キャパシタンスC1)、電極は、電極4(キャパシタンスC2)および導体1(キャパシタンスC3)に容量結合されたシールド8によって取り囲まれている。電圧生成器10によってシールド8に電圧が印加されると、電極を通る関連する容量性電流が、信号処理回路部分16によって測定され得る。信号処理回路部分は、例えば、電流-電圧変換回路であってよく、これは、最も単純な形態では、容量性電流に対応する電圧出力が測定される抵抗器にあってもよい。図示の実施形態では、信号処理回路は、容量性電流を入力として受け取り、容量性入力電流に比例する出力電圧を与える演算増幅器を含む。図示の例示的な回路構成は、トランス抵抗増幅器としても知られている。
【0038】
各電圧生成器10は、基準交流電圧源を電極シールドに供給し(例えば、1kHzの周波数を有する正弦波形)、電極シールドは、これらの電圧源V1・・・V4によって駆動される電流I1・・・I4に対応する出力信号S1・・・S4を生成する。基準交流電圧源V1・・・V4および測定された出力電流I1・・・I4は、以前は未知であった電極-導体アドミタンス行列Yを得るために使用され得る。
【0039】
一実施形態では、変換器の最も外側の静電シールド14を駆動するために、追加の電圧源V5を使用することもできる。変形例では、システムは、シールドケーブルを介して中央シールドユニットに接続された電極を有する複数の組み立てられたシールドエンクロージャを含むことができ、各シールドエンクロージャは、容量性電流測定ユニット3のうちの1つまたは複数を封入する。
【0040】
アドミタンス行列Yは、インピーダンス行列Zを得るために、変換器のマイクロコントローラにおいて処理される。インピーダンス行列Zにより、導体1、1n上の未知の電圧は、既知のまたは識別された交流電圧周波数fで導体1、1nから電極4に流れる電流の測定値から決定することができる。既知のまたは識別された周波数fは、例えば、本質的に正弦波の特性を有する50Hzまたは60Hzの電源周波数であってよい。しかし、本発明は、他の交流電圧周波数を有する導体システム、またはマルチトーン電圧信号を搬送する導体システム、または非正弦波特性を示す交流電圧を有する導体システムにおいて実施することができる。
【0041】
本発明では、電圧基準信号を使用してシステム識別の品質を推定することも可能であり、この品質が劣化した場合、様々な条件下でシステムを識別するための最適な応答を提供するために、フィルタリング時定数または他のプロセスパラメータを変更することによって、例えば電圧基準信号を変更することによって、処理方法を自動的かつ適応的に変更することも可能である。例えば、システムが急速に変化するとき、長い時定数は、より良好な推定には役立たず、そのような場合、システム時定数と一致するフィルタ時定数に切り替えるほうが良い。誤差は、安定したシステムの場合よりも高くてもよいが、最適でないフィルタリングを適用する場合よりも小さくてもよい。
【0042】
駆動される最も外側のシールドを含む2導体システム(例えば、中性および位相または位相間)を有する非接触型電圧変換器のための信号処理を、例として以下に説明する。2導体システムのための例示された処理は、より多くの導体を有するシステムに容易に適合させることができ、それによって、アドミタンス行列は、対応する数の列および行で増強される。
【0043】
本発明による信号処理は、変換器の処理回路によって実行される以下の2つの重要な処理ステップを含む:
・基準/較正電圧源
【数4】
を使用する測定からのアドミタンスY行列識別
・アドミタンスY行列識別から得られるインピーダンスZ行列、および測定された電極電流
【数5】
を使用した導体電圧計算。
【0044】
Y行列識別
アドミタンス行列Yは、システムにおける電圧と電流との間の関係を与える(
図3参照)。
【数6】
そして
【数7】
【0045】
【数8】
は、ブランチjの基準源によって生成されたブランチj内の電流である。
【数9】
はブランチjの基準源である。
【数10】
は複素数である。
【0046】
注入された基準電圧Vrefと、測定された結果として生じる容量性電流Irefと、アドミタンス行列との間の関係は、以下のように一般化されたコンパクトな形式で表すことができる:
Iref=Y(jω)Vref
【0047】
Y
ijは、一般的な場合、複素数であるか、または周波数Y(ω)の複素関数でさえある。この例では、1つの周波数においてのみアドミタンス行列Yを識別し、他の周波数についてそれを補正、変換、またはスケーリングする(以下の
【数11】
を参照)。電極-導体システムが単に容量性である場合、アドミタンス行列Yの実数部はゼロである(すなわち、抵抗損失がないと仮定される)。しかしながら、これは、導体を取り囲む誘電体(PVCまたは他のもの)が損失を有する場合には当てはまらない。ここで、
【数12】
は、kと標識された源が、
【数13】
源から、例えばこれらの源が1つずつスイッチオンされる場合に、または各源が異なる周波数もしくは様々な他の特性を有する正弦波信号である場合に、区別することができることを意味する。例えば、電圧基準生成器が(相互相関が0の)直交信号を生成するようにしてもよい。これらの信号は、測定される信号の帯域幅をカバーするが、測定される信号との相互相関のための確率分布がほとんどの時間にわたって非常に低い値に近いままであるのに十分に長い、帯域幅が制限された擬似ランダムシーケンスの形態とすることができる。重要な点は、基準電圧波形を使用して、ブランチj内の源
【数14】
によって生成されるブランチi内の電流
【数15】
を、いかなる曖昧さもなく決定することができるようにすることである。同じことは、基準電圧波形および測定電圧波形(50Hzまたは60Hzの伝導システムおよびそれらの可能な高調波など)にも当てはまる。
【0048】
一実施形態では、例えば、100Hzをちょうど超える異なる周波数(すなわち、127Hz、113Hz、および109Hz)を有する基準電圧源のための正弦波形(sinus waveforms)を使用することができる。このようにして、基準電圧源は、互いに、および測定される電圧波形(50Hzまたは60Hzの電力システムおよびそれらの可能な高調波など)から容易に区別することができる。しかしながら、変形例では、他の方法を使用して、システムを識別し、特徴付けることができる。
【0049】
一実施形態では、基準電圧信号は、変化する電圧がシステムの識別されたインピーダンスに及ぼし得る影響を考慮して、システムをより良く識別し特徴付けるための複数のアドミタンス行列を生成するために、対応する電圧生成器によって各ライン上の複数の異なる周波数、例えば、40Hz、60Hz、80Hz、100Hz、および120Hzで生成され得る。一実施形態では、基準電圧信号は、マルチトーン信号、または非正弦波形を含む信号の形態とすることができる。
【0050】
より一般的には、基準電圧信号は、測定する信号に少なくとも部分的に直交し、その他の基準信号に少なくとも部分的に直交する信号の任意のシーケンスを生成することができる。この基準電圧信号シーケンスに対する応答は、相関によって抽出することができる。
【0051】
一実施形態では、アドミタンス行列Yは、(実数部と虚数部とが必ずしも同じ周波数依存性を有するわけではないが)以下の概算方法で計算することができる。誘電損失に関連し得る実数部は小さいはずであると概算する(approximate)ことができる。容量性導体-電極結合に関連する虚数部は、周波数に依存する。この単純化された概算方法は、誘電損失が小さい場合に良好な結果を与える(しかし、誘電損失が高い場合には調整されるべきである)。
【数16】
【0052】
インピーダンス行列Zを用いた導体電圧計算
インピーダンス行列Zは、アドミタンス行列Yから計算される。一般的な場合、インピーダンス行列Zは、アドミタンス行列Yの擬似逆行列である。
Z=pinv(Y)
【0053】
本例では、以下を使用する。
Z*=pinv(Y*)F
【0054】
インピーダンス行列Zでは、導体電圧
【数17】
を、電極内のこれらの源によって生成された電流
【数18】
から計算することができる。
【数19】
【0055】
コンパクトな形態では、これは、次のように一般化することができる:
Vmeas=Z* Imeas
【0056】
導体iと導体jとの間の電圧差は、以下によって与えられる(外側シールドについても当てはまる)
【数20】
【0057】
上述の例では、アドミタンス行列は、シールドの基準電圧
【数21】
を含むが、これはオプションであってよく、そのような場合、アドミタンス行列Yの計算は、以下のように簡略化される:
【数22】
【0058】
この場合、システムは平方になり、以下の関係に基づいて導体1と導体2との間の電圧差
【数23】
を計算することができる:
【数24】
【0059】
一実施形態では、変換器は、バッテリなどの搭載された自律電源をさらに含むことができる。変形例では、変換器は、測定されるシステムの導体から変換器の動作のための電力を収集するように構成されたエネルギー収集ユニットを含み得る。エネルギー収集ユニットは、例えば、導体のうちの1つ以上の周りに取り付けるために、電極のうちの1つ以上に軸方向に隣接して、またはその周りに同軸に配置された1つ以上の誘導コイルを含み得る。
【0060】
一実施形態では、変換器は、測定信号を無線で送信し、外部システムからコマンドまたは要求を受信するために、変換器のプロセッサに接続された無線通信モジュールをさらに含むことができる。
【0061】
したがって、ガルバニック接続のない完全自律型の無線変換器を、容易で汎用性のある設置のために提供することができる。
【0062】
〔図面中の参照符号のリスト〕
2 電圧変換器
3 容量電流測定ユニット
4 測定電極
16 電極信号処理回路
18 演算増幅器
20 入力(-Vin、+Vin)
22 出力
6 通路
8 静電電極シールド
10 電圧信号生成器
16 電極信号処理回路
12 アナログ/デジタル処理回路
14 外部静電シールド
V 電圧
I 電流
【0063】
〔実施の態様〕
(1) 交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための非接触型電圧変換器(2)において、前記変換器は、2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)を含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
前記交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路(6)を取り囲む電極(4)と、
前記電極(4)を取り囲む電極シールド(8)と、
アナログ測定信号を出力するように構成された、前記電極シールド(8)および前記電極(4)に接続された電極信号処理回路部分(16)と、
前記電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器(10)と、
を含み、
前記2つ以上の容量性電流測定ユニットの前記基準電圧信号生成器(10)は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている、非接触型電圧変換器。
(2) 前記導体システムは多相導体システムであり、前記変換器は、電気伝導システムの各相に対する1つの容量性電流測定ユニット(3)と、さらに、中性導体(1n)に対する1つの容量性電流測定ユニットと、を含む、実施態様1に記載の非接触型電圧変換器。
(3) 前記導体システムは、2相または3相導体システムである、実施態様2に記載の非接触型電圧変換器。
(4) 前記2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)を取り囲む外部静電シールド(14)と、前記外部静電シールドおよび前記共通の浮動電圧接続点に接続された追加の基準電圧信号生成器と、をさらに含む、実施態様1から3のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
(5) 前記基準電圧信号生成器は、前記導体システムの交流電圧周波数よりも高い周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、実施態様1から4のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
【0064】
(6) 前記基準電圧信号生成器のうちの少なくとも2つは、互いに異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、実施態様1から5のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
(7) 前記基準電圧信号生成器の各々は、その他のものとは異なる周波数で前記基準電圧源信号を生成するように構成されている、実施態様6に記載の非接触型電圧変換器。
(8) 前記基準電圧源信号、および前記容量性電流測定ユニットによって出力された関連する電流から電極-導体アドミタンス行列Yを計算するように構成されたマイクロコントローラ回路を含む、実施態様1から7のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
(9) 前記マイクロコントローラ回路は、基準電圧信号を生成するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と、各電極からの出力容量性電流からのアナログ測定信号応答を受信し処理するためのアナログ-デジタル変換器(ADC)と、を含む、実施態様8に記載の非接触型電圧変換器。
(10) 前記変換器は、測定される前記システムの前記導体から電力を収集するように構成されたエネルギー収集ユニットを含み、前記エネルギー収集ユニットは、前記導体のうちの1つ以上の周りに取り付けるために、前記電極のうちの1つ以上に軸方向に隣接して、またはその周りに同軸に配置された1つ以上の誘導コイルを含む、実施態様9に記載の非接触型電圧変換器。
【0065】
(11) 前記変換器は、バッテリの形態の自律電源を含む、実施態様1から10のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
(12) 前記変換器は、前記測定信号を無線で送信し、外部システムからコマンドまたは要求を受信するために、前記変換器のプロセッサに接続された無線通信モジュールを含む、実施態様1から11のいずれかに記載の非接触型電圧変換器。
(13) 外部システムの交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定するための、外部システムへの直接電気接続のない完全自律型の非接触型電圧変換器(2)において、前記変換器は、測定信号を無線送信する無線通信モジュールと、2つ以上の容量性電流測定ユニット(3)と、を含み、各前記容量性電流測定ユニットは、
前記交流電圧導体システムのそれぞれの前記導体を受容するための通路(6)を取り囲む電極(4)と、
前記電極(4)を取り囲む電極シールド(8)と、
アナログ測定信号を出力するように構成された、前記電極シールド(8)および前記電極(4)に接続された電極信号処理回路部分(16)と、
前記電極シールドに接続され、基準電圧源信号を生成するように構成された基準電圧信号生成器(10)と、
を含み、
前記2つ以上の容量性電流測定ユニットの前記基準電圧信号生成器(10)は、共通の浮動電圧接続点で互いに接続されている、完全自律型の非接触型電圧変換器。
(14) 実施態様2から12の特徴のいずれか1つ以上をさらに含む、実施態様13に記載の自律型の非接触型電圧変換器。
(15) ガルバニック接続のない交流電圧導体システムの少なくとも2つの導体間の電圧を測定する方法において、
実施態様1から14のいずれかに記載の非接触型電圧変換器を提供することと、
基準電圧信号
【数25】
を生成し、前記電極の対応する出力容量性電流信号
【数26】
を測定することと、
前記変換器の処理回路において、前記基準電圧信号および対応する出力容量性電流信号に基づいてアドミタンスY行列を識別することと、
前記変換器の前記処理回路において、前記アドミタンス行列Yから得られるインピーダンス行列Zを計算し、前記導体システムの識別を提供することと、
を含む、方法。
【0066】
(16) 前記導体システムの電極電流
【数27】
を測定することと、
前記変換器の処理回路において、前記インピーダンス行列Zを使用して、前記少なくとも2つの導体間で測定される交流電圧を計算することと、
を含む、実施態様15に記載の方法。