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特許7155284計測精度算出装置、自己位置推定装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】計測精度算出装置、自己位置推定装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01C21/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020553079
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039479
(87)【国際公開番号】W WO2020085062
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2018200067
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-036067(JP,A)
【文献】特開2018-059744(JP,A)
【文献】特開2018-116014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、
地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、
計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部と、を有する計測精度算出装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記差分が大きいほど、前記計測精度が低い精度情報を生成する請求項1に記載の計測精度算出装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記差分と、移動体の進行方向と、前記地物情報が示す前記地物の法線方向とに基づき、前記移動体の進行方向と横方向のそれぞれに対する前記地物の計測精度を示す精度情報を生成する請求項1または2に記載の計測精度算出装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記進行方向と前記地物の法線方向との角度差が大きいほど、前記横方向に対する前記計測精度への前記差分の影響度合いを低くし、前記角度差が小さいほど、前記進行方向に対する前記計測精度への前記差分の影響度合いを低くする請求項3に記載の計測精度算出装置。
【請求項5】
予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第3取得部と、
前記精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正部と、
をさらに備える請求項1~4のいずれか一項に記載の計測精度算出装置。
【請求項6】
前記補正部は、移動体から前記地物までの前記計測部による計測距離と、前記地物情報に含まれる前記地物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記地物までの予測距離と、の差分値により前記予測された自己位置を補正する場合の前記差分値に対する利得を、前記精度情報に基づき決定する請求項5に記載の計測精度算出装置。
【請求項7】
計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、
地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、
予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第3取得部と、
計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記予測された自己位置を補正する補正部と、
を備える自己位置推定装置。
【請求項8】
計測精度算出装置が実行する制御方法であって、
計測部による地物の計測結果を取得する第1取得工程と、
地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得工程と、
計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出工程と、
を有する制御方法。
【請求項9】
コンピュータが実行するプログラムであって、
計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、
地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、
計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部
として前記コンピュータを機能させるプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測部による計測の精度を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の進行先に設置される地物をレーダやカメラを用いて検出し、その検出結果に基づいて自車位置を校正する技術が知られている。例えば、特許文献1には、計測センサの出力と、予め地図上に登録された地物の位置情報とを照合させることで自己位置を推定する技術が開示されている。また、特許文献2には、カルマンフィルタを用いた自車位置推定技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-257742号公報
【文献】特開2017-72422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自己位置推定処理において計測対象となる地物が他の地物と隣接している場合には、計測対象の地物と共に他の地物が計測データに含まれてしまい、計測結果の精度(正確性)が低下してしまうことがある。また、計測対象となる地物の一部にオクルージョンが発生した場合にも同様に、本来計測されるべき地物の一部が計測できなくなるため、計測結果の精度が低下してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、計測部による地物の計測精度を好適に算出可能な計測精度算出装置及び自己位置推定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に記載の発明は、計測精度算出装置であって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部と、を有する。
【0007】
また、請求項に記載の発明は、自己位置推定装置であって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第3取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記予測された自己位置を補正する補正部と、を備える。
【0008】
また、請求項に記載の発明は、計測精度算出装置が実行する制御方法であって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得工程と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得工程と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出工程と、を有する。
【0009】
また、請求項に記載の発明は、コンピュータが実行するプログラムであって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部として前記コンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】運転支援システムの概略構成図である。
図2】車載機の機能的構成を示すブロック図である。
図3】地図データベースのデータ構造の一例を示す。
図4】状態変数ベクトルを2次元直交座標で表した図である。
図5】予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。
図6】自車位置推定部の機能ブロックを示す。
図7】信頼度情報のグラフを示す。
図8】オクルージョンが発生した場合のライダのレーザ光の照射範囲を概略的に示した図である。
図9】ランドマークとなる地物に隣接して他の地物が存在する場合のライダのレーザ光の照射範囲を概略的に示した図である。
図10】2次元のワールド座標系及び車両座標系により表された車両とランドマークとの位置関係を示した図である。
図11】車両から見てランドマークがほぼ正面を向いているときの信頼度情報の2次元グラフである。
図12】車両から見てランドマークがやや横向きに近いときの信頼度情報の2次元グラフである。
図13】自車位置推定処理を示すフローチャートである。
図14】変形例1に係る信頼度情報のグラフを示す。
図15】変形例2に係る信頼度情報のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、計測精度算出装置は、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部と、を有する。この態様により、計測精度算出装置は、計測対象の地物にオクルージョンが発生して一部の計測データが取得できなかった場合又は計測対象の地物に隣接する他の地物の計測データを計測対象の地物の計測データの一部として取得した場合のいずれにおいても、計測部による地物の計測精度を示す精度情報を的確に算出することができる。
【0012】
上記計測精度算出装置の一態様では、前記算出部は、前記差分が大きいほど、前記計測精度が低い精度情報を生成する。このようにすることで、計測対象の地物にオクルージョンが発生して一部の計測データが取得できなかった場合又は隣接地物の計測データを計測対象の地物の計測データの一部として取得した場合のいずれにおいても、計測精度が低いことを示す精度情報を好適に生成することができる。
【0013】
上記計測精度算出装置の一態様では、前記算出部は、前記差分と、移動体の進行方向と、前記地物情報が示す前記地物の法線方向とに基づき、前記移動体の進行方向と横方向のそれぞれに対する前記地物の計測精度を示す精度情報を生成する。一般に、移動体の進行方向に対する地物の向きによって、計測誤差が生じにくい方向と計測誤差が生じやすい方向とがそれぞれ生じる場合がある。従って、この態様によれば、計測精度算出装置は、移動体の進行方向と横方向のそれぞれに対する地物の計測精度を示す精度情報を好適に生成することができる。
【0014】
上記計測精度算出装置の他の一態様では、前記算出部は、前記進行方向と前記地物の法線方向との角度差が大きいほど、前記横方向に対する前記計測精度への前記差分の影響度合いを低くし、前記角度差が小さいほど、前記進行方向に対する前記計測精度への前記差分の影響度合いを低くする。ここでの地物の法線方向は、地物が形成する平面に対し垂直となる地物の正面方向及び背面方向のうち、移動体の進行方向と90度差以内となる方向を指すものとする。この場合、移動体の進行方向と地物の法線方向との角度差が大きいほど、地物は移動体に対して横向きとなるため、移動体の横方向に対する計測誤差が生じにくくなる。一方、移動体の進行方向と地物の法線方向との角度差が小さいほど、地物は移動体に対して正面向きとなるため、移動体の進行方向に対する計測誤差が生じにくくなる。よって、計測精度算出装置は、この態様により、移動体の進行方向と横方向のそれぞれに対する地物の計測精度を的確に表す精度情報を生成することができる。
【0015】
上記計測精度算出装置の他の一態様では、計測精度算出装置は、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第3取得部と、前記精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正部と、をさらに備える。この態様により、計測精度算出装置は、生成した精度情報を反映した自己位置推定を好適に実行することができる。
【0016】
上記計測精度算出装置の他の一態様では、前記補正部は、移動体から前記地物までの前記計測部による計測距離と、前記地物情報に含まれる前記地物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記地物までの予測距離と、の差分値により前記予測された自己位置を補正する場合の前記差分値に対する利得を、前記精度情報に基づき決定する。この態様により、計測精度算出装置は、予測された自己位置を計測距離と予測距離との差分値により補正する場合に精度情報に基づきその利得を調整することで、不正確な補正を防止して自己位置推定精度を好適に向上させることができる。
【0017】
本発明の他の好適な実施形態によれば、自己位置推定装置であって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第3取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記予測された自己位置を補正する補正部と、を備える。上述の差分は、計測対象の地物にオクルージョンが発生して一部の計測データが取得できなかった場合又は計測対象の地物に隣接する他の地物の計測データを計測対象の地物の計測データの一部として取得した場合のいずれにおいても発生する。従って、自己位置推定装置は、この態様により、予測された自己位置を上述の差分を考慮して好適に補正して最終的な自己位置を決定することができる。
【0018】
本発明の他の好適な実施形態によれば、計測精度算出装置が実行する制御方法であって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得工程と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得工程と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出工程と、を有する。計測精度算出装置は、この制御方法を実行することで、計測対象の地物にオクルージョンが発生して一部の計測データが取得できなかった場合又は計測対象の地物に隣接する他の地物の計測データを計測対象の地物の計測データの一部として取得した場合のいずれにおいても、計測部による地物の計測精度を示す精度情報を的確に算出することができる。
【0019】
本発明の他の好適な実施形態によれば、コンピュータが実行するプログラムであって、計測部による地物の計測結果を取得する第1取得部と、地図データに含まれる前記地物の地物情報を取得する第2取得部と、計測した地物のサイズと前記地物情報が示す地物のサイズとの差分に基づいて、前記計測部による前記地物の計測精度を示す精度情報を算出する算出部として前記コンピュータを機能させる。コンピュータは、このプログラムを実行することで、計測対象の地物にオクルージョンが発生して一部の計測データが取得できなかった場合又は計測対象の地物に隣接する他の地物の計測データを計測対象の地物の計測データの一部として取得した場合のいずれにおいても、計測部による地物の計測精度を示す精度情報を的確に算出することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。なお、任意の記号の上に「^」または「-」が付された文字を、本明細書では便宜上、「A」または「A」(「A」は任意の文字)と表す。
【0021】
[運転支援システムの概要]
図1は、本実施例に係る運転支援システムの概略構成である。図1に示す運転支援システムは、車両に搭載され、車両の運転支援に関する制御を行う車載機1と、ライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)2と、ジャイロセンサ3と、車速センサ4と、GPS受信機5とを有する。なお、以後において、「地図」とは、従来の経路案内用の車載機が参照するデータに加えて、ADAS(Advanced Driver Assistance System)や自動運転に用いられるデータも含むものとする。
【0022】
車載機1は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5と電気的に接続し、これらの出力に基づき、車載機1が搭載される車両の位置(「自車位置」とも呼ぶ。)の推定を行う。そして、車載機1は、自車位置の推定結果に基づき、設定された目的地への経路に沿って走行するように、車両の自動運転制御などを行う。車載機1は、道路データ及び道路付近に設けられた目印となる地物に関する情報である地物情報を記憶した地図データベース(DB:DataBase)10を記憶する。上述の目印となる地物は、例えば、道路脇に周期的に並んでいるキロポスト、100mポスト、デリニエータ、交通インフラ設備(例えば標識、方面看板、信号)、電柱、街灯などの地物である。そして、車載機1は、この地物情報に基づき、ライダ2等の出力と照合させて自車位置の推定を行う。車載機1は、本発明における「計測精度算出装置」及び「自己位置推定装置」の一例である。尚、地図DB10は車載装置1に記憶される代わりに、外部サーバ等の外部の記憶装置に記憶されてもよい。その場合、車載装置1は無線通信等を介して外部の記憶装置から地図DB10の少なくとも一部を取得する。
【0023】
ライダ2は、水平方向および垂直方向の所定の角度範囲に対してパルスレーザを出射することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定し、当該物体の位置を示す3次元の点群情報を生成する。この場合、ライダ2は、照射方向を変えながらレーザ光を照射する照射部と、照射したレーザ光が物体で反射した反射光(散乱光)を受光する受光部と、受光部が出力する受光信号に基づくスキャンデータを出力する出力部とを有する。スキャンデータは、点群データであり、受光部が受光したレーザ光に対応する照射方向と、上述の受光信号に基づき特定される、その照射方向での物体までの距離とに基づき生成される。ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、GPS受信機5は、それぞれ、出力データを車載機1へ供給する。ライダ2は、「計測部」の一例である。
【0024】
図2は、車載機1の機能的構成を示すブロック図である。車載機1は、主に、インターフェース11と、記憶部12と、入力部14と、制御部15と、情報出力部16と、を有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0025】
インターフェース11は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5などのセンサから出力データを取得し、制御部15へ供給する。
【0026】
記憶部12は、制御部15が実行するプログラムや、制御部15が所定の処理を実行するのに必要な情報を記憶する。本実施例では、記憶部12は、地物情報を含む地図DB10を記憶する。図3は、地図DB10のデータ構造の一例を示す。図3に示すように、地図DB10は、施設情報、道路データ、及び地物情報を含む。
【0027】
地物情報は、地物ごとに当該地物に関する情報が関連付けられた情報であり、ここでは、地物のインデックスに相当する地物IDと、位置情報と、向き情報(法線情報)と、サイズ情報とを含む。位置情報は、緯度及び経度(及び標高)等により表わされた地物の絶対的な位置を示す。向き情報及びサイズ情報は、例えば、看板などの平面的な形状を有している地物に対して設けられる情報である。向き情報は、地物の向きを表す情報であり、例えば地物に形成された面に対する法線ベクトル等を示す。サイズ情報は、地物の大きさを表す情報であり、本実施例では、地物に形成された被計測面の横幅及び縦幅の情報を含んでいる。
【0028】
なお、地図DB10は、定期的に更新されてもよい。この場合、例えば、制御部15は、図示しない通信部を介し、地図情報を管理するサーバ装置から、自車位置が属するエリアに関する部分地図情報を受信し、地図DB10に反映させる。
【0029】
入力部14は、ユーザが操作するためのボタン、タッチパネル、リモートコントローラ、音声入力装置等である。情報出力部16は、例えば、制御部15の制御に基づき出力を行うディスプレイやスピーカ等である。
【0030】
制御部15は、プログラムを実行するCPUなどを含み、車載機1の全体を制御する。本実施例では、制御部15は、インターフェース11から供給される各センサの出力信号及び地図DB10に基づき、自車位置の推定を行う自車位置推定部17を有する。そして、制御部15は、自車位置の推定結果に基づいて自動運転制御を含む車両の運転支援に関する制御などを行う。制御部15は、本発明における「第1取得部」、「第2取得部」、「第3取得部」、「算出部」、「補正部」、及びプログラムを実行する「コンピュータ」の一例である。
【0031】
[自車位置推定処理の概要]
まず、自車位置推定部17による自車位置の推定処理の概要について説明する。
【0032】
自車位置推定部17は、計測対象となる地物(「ランドマーク」とも呼ぶ。)に対するライダ2による距離及び角度の計測値と、地図DB10から抽出したランドマークの位置情報とに基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及び/又はGPS受信機5の出力データから推定した自車位置を補正する。本実施例では、一例として、自車位置推定部17は、ベイズ推定に基づく状態推定手法に基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4等の出力データから自車位置を予測する予測ステップと、直前の予測ステップで算出した自車位置の予測値を補正する計測更新ステップとを交互に実行する。これらのステップで用いる状態推定フィルタは、ベイズ推定を行うように開発された様々のフィルタが利用可能であり、例えば、拡張カルマンフィルタ、アンセンテッドカルマンフィルタ、パーティクルフィルタなどが該当する。このように、ベイズ推定に基づく位置推定は、種々の方法が提案されている。
【0033】
以下では、拡張カルマンフィルタを用いた自車位置推定について簡略的に説明する。
【0034】
図4は、状態変数ベクトルを2次元直交座標で表した図である。図4に示すように、xyの2次元直交座標上で定義された平面での自車位置は、座標「(x、y)」、自車の方位(ヨー角)「ψ」により表される。ここでは、ヨー角ψは、車の進行方向とx軸とのなす角として定義されている。座標(x、y)は、例えば緯度及び経度の組合せに相当する絶対位置、あるいは所定地点を原点とした位置を示すワールド座標である。
【0035】
図5は、予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。また、図6は、自車位置推定部17の機能ブロックの一例を示す。図5に示すように、予測ステップと計測更新ステップとを繰り返すことで、自車位置を示す状態変数ベクトル「X」の推定値の算出及び更新を逐次的に実行する。また、図6に示すように、自車位置推定部17は、予測ステップを実行する位置予測部21と、計測更新ステップを実行する位置推定部22とを有する。位置予測部21は、デッドレコニングブロック23及び位置予測ブロック24を含み、位置推定部22は、ランドマーク探索・抽出ブロック25及び位置補正ブロック26を含む。なお、図5では、計算対象となる基準時刻(即ち現在時刻)「t」の状態変数ベクトルを、「X(t)」または「X(t)」と表記している(「状態変数ベクトルX(t)=(x(t)、y(t)、ψ(t))」と表記する)。ここで、予測ステップで推定された暫定的な推定値(予測値)には当該予測値を表す文字の上に「」を付し、計測更新ステップで更新された,より精度の高い推定値には当該値を表す文字の上に「」を付す。
【0036】
予測ステップでは、自車位置推定部17のデッドレコニングブロック23は、車両の移動速度「v」と角速度「ω」(これらをまとめて「制御値u(t)=(v(t)、ω(t))」と表記する。)を用い、前回時刻からの移動距離と方位変化を求める。自車位置推定部17の位置予測ブロック24は、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1の状態変数ベクトルX(t-1)に対し、求めた移動距離と方位変化を加えて、時刻tの自車位置の予測値(「予測自車位置」とも呼ぶ。)X(t)を算出する。また、これと同時に、予測自車位置X(t)の誤差分布に相当する共分散行列「P(t)」を、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1での共分散行列「P(t-1)」から算出する。
【0037】
計測更新ステップでは、自車位置推定部17のランドマーク探索・抽出ブロック25は、地図DB10に登録された計測対象の地物(ランドマーク)の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けを行う。そして、自車位置推定部17のランドマーク探索・抽出ブロック25は、この対応付けができた場合に、対応付けができたランドマークのライダ2による計測値「Z(t)」と、予測自車位置X(t)及び地図DB10に登録されたランドマークの位置ベクトルを用いてライダ2による計測処理をモデル化して求めたランドマークの計測値(「計測予測値」と呼ぶ。)「Z(t)」と、をそれぞれ取得する。計測値Z(t)は、時刻tにライダ2が計測したランドマークの距離及びスキャン角度から、車両の進行方向と横方向を軸とした成分に変換した車両座標系におけるベクトル値である。そして、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、計測値Z(t)と計測予測値Z(t)との差分値を算出する。
【0038】
なお、実際には、ランドマークは所定の大きさを有し、ライダ2のレーザ光が照射された被照射面上の複数の計測点に対応するデータが点群データとして取得される。よって、例えば、ランドマーク探索・抽出ブロック25は、対象のランドマークを計測した各計測点における計測値を平均化することで、対象のランドマークの中心位置に相当する計測値Z(t)を算出する。
【0039】
そして、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、以下の式(1)に示すように、計測値Z(t)と計測予測値Z(t)との差分値にカルマンゲイン「K(t)」を乗算し、これを予測自車位置X(t)に加えることで、更新された状態変数ベクトル(「推定自車位置」とも呼ぶ。)X(t)を算出する。
【0040】
【数1】
また、計測更新ステップでは、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、予測ステップと同様、推定自車位置X(t)の誤差分布に相当する共分散行列P(t)(単にP(t)とも表記する)を共分散行列P(t)から求める。カルマンゲインK(t)等のパラメータについては、例えば拡張カルマンフィルタを用いた公知の自己位置推定技術と同様に算出することが可能である。
【0041】
本実施例では、自車位置推定部17は、カルマンゲインK(t)を、計測値Z(t)(即ちランドマークの中心点までの計測距離)の信頼度を表す指標である後述の信頼度情報に応じて補正する。これにより、オクルージョンの発生やランドマークに隣接する地物の存在等に起因して計測値Z(t)の信頼度が低い場合にはカルマンゲインK(t)を低くし、予測自車位置X(t)に対する補正量を少なくする。この場合、予測自車位置X(t)に対する不正確な補正が好適に抑制され、自己位置推定精度が向上する。
【0042】
なお、自車位置推定部17は、複数の地物に対し、地図DB10に登録された地物の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けができた場合、選定した任意の一組の計測予測値及び計測値等に基づき計測更新ステップを行ってもよく、対応付けができた全ての計測予測値及び計測値等に基づき計測更新ステップを複数回行ってもよい。なお、複数の計測予測値及び計測値等を用いる場合には、自車位置推定部17は、ライダ2から遠い地物ほどライダ計測精度が悪化することを勘案し、ライダ2と地物との距離が長いほど、当該地物に関する重み付けを小さくするとよい。
【0043】
このように、予測ステップと計測更新ステップが繰り返し実施され、予測自車位置X(t)と推定自車位置X(t)が逐次的に計算されることにより、もっとも確からしい自車位置が計算される。
【0044】
なお、上記の説明において、計測値Z(t)は本発明の「計測距離」の一例であり、計測予測値Z(t)は本発明の「予測距離」の一例である。
【0045】
[信頼度情報の算出]
次に、計測値Z(t)の信頼度を表す指標である信頼度情報の算出方法について説明する。概略的には、自車位置推定部17は、地物情報に含まれるサイズ情報が示すランドマークの地図上のサイズと、ライダ2により計測されたランドマークの計測点が分布する範囲(計測範囲)のサイズとの差分を算出し、当該差分を正規化することで、信頼度情報を算出する。これにより、自車位置推定部17は、計測値Z(t)の信頼度を的確に表した信頼度情報を算出する。
【0046】
(1)方向によらない信頼度情報の算出
まず、計測値Z(t)に対して方向によらない信頼度情報を生成する場合について説明する。
【0047】
この場合、自車位置推定部17は、地物情報に含まれるランドマークの地図上の横幅「W」及び縦幅(高さ方向の幅)「H」と、時刻tにおけるライダ2の点群データに基づき特定されたランドマークの計測範囲の横幅「W(t)」及び縦幅「H(t)」と、感度係数「k」とに基づき、以下の式(2)に示すように信頼度情報a(t)を定める。
【0048】
【数2】
上述の式(2)では、信頼度情報a(t)は、0から1までの値域となるように正規化され、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)が地図上の横幅W及び縦幅Hと近いほど最大値の1に近づき、横幅W(t)及び縦幅H(t)が横幅W及び縦幅Hから離れるほど0に近づく。なお、信頼度情報a(t)は、1に近いほど計測値Z(t)に対する信頼度が高い(即ち計測値Z(t)が正確)であることを示す。また、感度係数kは、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)と地図上の横幅W及び縦幅Hとの差分に対する信頼度情報a(t)への感度を調整する係数であり、感度係数kが大きいほど算出される信頼度情報a(t)が小さくなる。なお、感度係数kは、例えば予め定められた値に設定される。
【0049】
図7(A)は、横幅Wが60cm、縦幅Hが60cmとなるランドマークに対して縦幅H(t)を60cmに固定した場合の横幅W(t)と式(2)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。また、図7(B)は、図7(A)と同一のランドマークに対して横幅W(t)を60cmに固定した場合の縦幅H(t)と信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。さらに、図7(C)は、図7(A)、(B)と同一のランドマークに対する横幅W(t)と縦幅H(t)と信頼度情報a(t)との関係を示す3次元グラフである。また、図7(D)は、図7(A)における信頼度情報a(t)の逆数「1/a(t)」を示したグラフである。
【0050】
図7(A)及び図7(C)に示すように、横幅W(t)が横幅Wである60cmに近づくほど、信頼度情報a(t)は最大値である1に近づく。一方、図7(B)及び図7(C)に示すように、縦幅H(t)が縦幅Hである60cmに近づくほど、信頼度情報a(t)は最大値である1に近づく。なお、図7(D)に示すように、信頼度情報a(t)の逆数は、横幅W(t)が横幅Wに近づくほど最小値である1に近づき、横幅W(t)が横幅Wから遠ざかるほど大きい値となる。同様に、信頼度情報a(t)の逆数は、縦幅H(t)が縦幅Hに近づくほど最小値である1に近づき、縦幅H(t)が縦幅Hから遠ざかるほど大きい値となる。信頼度情報a(t)の逆数は、後述するように、信頼度情報に応じてカルマンゲインを設定する際に用いられる。
【0051】
ここで、式(2)の妥当性について、図8及び図9に示す具体例を用いて補足説明する。
【0052】
図8(A)は、ランドマークとなる地物20のライダ2による計測時においてオクルージョンが発生した場合のライダ2のレーザ光の照射範囲を概略的に示した図であり、図8(B)は、ライダ2のレーザ光が照射された被照射面上の計測点を明示した地物20の平面図である。なお、ここではレーザ光の反射強度が高い道路標識を地物20の例としている。
【0053】
自車位置推定部17は、ライダ2の計測範囲内にランドマークとなる地物20が存在することを認識し、当該地物20が存在することが予測される範囲を示すウィンドウ21を設定する。例えば、自車位置推定部17は、予測自車位置X(t)から所定距離以内の位置を示す位置情報が地物情報に含まれる地物20をランドマークとして特定し、当該地物20の位置情報が示す位置を中心とする所定サイズの矩形領域をウィンドウ21として設定する。なお、この場合、自車位置推定部17は、地物20のサイズ情報をさらに参照することで、ウィンドウ21の大きさを決定してもよい。そして、自車位置推定部17は、ウィンドウ21内の位置を示す計測点であって、反射強度が所定の閾値以上となる計測点の点群データを、地物20の点群データとみなす。
【0054】
この場合、図8(B)に示すように、ウィンドウ21内のライダ2の点群データに基づき特定する地物20の横幅W(t)は、地図上の地物20の横幅Wより短くなる。よって、この場合、自車位置推定部17は、式(2)に基づき、信頼度情報a(t)を1より小さい値に設定する(図7(A)及び図7(C)参照)。
【0055】
一方、自車位置推定部17は、ウィンドウ21内の各計測点の計測値を平均化することで、推定自車位置X(t)の算出(式(1)参照)に用いる地物20の計測値Z(t)を算出する。ここで、地物20の左側の一部にオクルージョンが発生しているため、上述の平均化により算出される計測値Z(t)は、本来算出されるべき値(即ち地物20の中心位置を示す値)よりも右側にずれた値となる。
【0056】
このように、式(2)によれば、自車位置推定部17は、ランドマークにオクルージョンが発生し、計測値Z(t)にずれが生じると推測される場合に、信頼度情報a(t)を低い値に設定することができる。これにより、後述するように、自車位置推定部17は、計測値Z(t)の信頼度が低いときの予測自車位置X(t)に対する補正量を少なくし、不正確な補正防止によって自己位置推定精度を好適に向上させる。
【0057】
図9(A)は、ランドマークとなる地物20に隣接して他の地物25が存在する場合のライダ2のレーザ光の照射範囲を概略的に示した図であり、図9(B)は、図9(A)においてライダ2のレーザ光が照射された被照射面上の計測点を明示した地物20の平面図である。
【0058】
図9(A)の例では、自車位置推定部17は、ウィンドウ21を設定後、ウィンドウ21内において所定閾値以上の反射強度となる計測点の点群データを、地物20の点群データとみなす。ここで、ウィンドウ21には、地物20の計測点に加えて、地物20に隣接する地物25の一部の計測点も含まれている。
【0059】
この場合、図9(B)に示すように、ウィンドウ21内のライダ2の点群データに基づき特定される横幅W(t)は、地図上の地物20の横幅Wより長くなる。よって、この場合、自車位置推定部17は、横幅W(t)と地図上の横幅Wとの差異が大きくなることから、式(2)に基づき、信頼度情報a(t)を1より小さい値に設定する(図7(A)及び図7(C)参照)。
【0060】
一方、自車位置推定部17は、ウィンドウ21内の各計測点の計測値を平均化することで、推定自車位置X(t)の算出(式(1)参照)に用いる地物20の計測値Z(t)を算出する。ここで、ウィンドウ21内の点群データには、地物20を計測した点群データに加えて、地物20に隣接する地物25を計測した点群データも含まれているため、上述の平均化により算出される計測値Z(t)は、本来算出されるべき値(即ち地物20の中心位置を示す値)よりも左側にずれた値となる。
【0061】
このように、式(2)によれば、計測対象の地物に他の地物が隣接することに起因して計測値Z(t)にずれが生じた場合においても、自車位置推定部17は、信頼度情報a(t)を低い値に設定することができる。これにより、後述するように、自車位置推定部17は、計測値Z(t)の信頼度が低いときの予測自車位置X(t)に対する補正量を少なくし、不正確な補正防止によって自己位置推定精度を好適に向上させる。
【0062】
なお、ランドマークとなる地物は、再帰性反射材が使用されているものが多く、ライダ2に戻ってくる反射光の強度が高いため、反射強度に対して閾値を用いたフィルタリングにより、点群データを抽出しやすい対象と言える。一方、走行環境において、視線誘導標や他車両の反射板等の反射強度の高い物体が多数存在し、それらの点群データをランドマークの点群データと誤って検出してしまう可能性がある。このような場合、横幅W(t)が横幅Wよりも長くなる、又は/及び、縦幅H(t)が縦幅Hよりも長くなる。このような場合において、本実施例では、自車位置推定部17は、式(2)に基づき、計測値の信頼度が低いことを示す信頼度情報a(t)を適切に設定することができる。
【0063】
(2)方向毎の信頼度情報の算出
次に、車両の進行方向と横方向のそれぞれに対して信頼度情報を算出する例について説明する。この場合、概略的には、自車位置推定部17は、地物情報に含まれる向き情報を参照し、車両の進行方向に対するランドマークの相対的な向きに基づき、車両の進行方向及び横方向の信頼度情報をそれぞれ算出する。以後では、時刻tにおける車両の進行方向の信頼度情報を「a(t)」、横方向の信頼度情報を「a(t)」とする。
【0064】
ランドマークが車両の進行方向と同一の方向を向いている場合、ランドマークの被照射面が車両の進行方向に対して垂直となる。この場合、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)と地図上の横幅W及び縦幅Hとの差異が大きいと、計測値Z(t)の中心点はずれるものの、車両の進行方向成分の計測値L(t)には大きな誤差は生じない。よって、信頼度情報a(t)の値をあまり小さくする必要はない。一方、車両の横方向成分の計測値L(t)には誤差が生じることから、信頼度情報a(t)の値を小さくする必要がある。
【0065】
以上を勘案し、自車位置推定部17は、信頼度情報a(t)と信頼度情報a(t)とを算出する場合とで異なる感度係数「k」、「k」をそれぞれ用い、式(2)の感度係数kと置き換えて計算を行う。具体的には、自車位置推定部17は、感度係数kを用いた以下の式(3)により信頼度情報a(t)を算出し、感度係数kを用いた以下の式(4)によりa(t)を算出する。
【0066】
【数3】
【0067】
【数4】
そして、自車位置推定部17は、これらの感度係数k、kを、車両の進行方向に対するランドマークの相対的な向きに基づいて決定する。具体的には、自車位置推定部17は、ランドマークの向きと車両の進行方向とが平行に近づくほど、信頼度情報a(t)に対する感度係数kを小さくし、信頼度情報a(t)に対する感度係数kを大きくする。一方、自車位置推定部17は、ランドマークの向きと車両の進行方向とが垂直に近づくほど、信頼度情報a(t)に対する感度係数kを大きくし、信頼度情報a(t)に対する感度係数kを小さくする。
【0068】
図10は、2次元のワールド座標系(絶対座標系)及び車両座標系により表された車両とランドマークとの位置関係を示した図である。ここで、ワールド座標系は、所定地点を原点とし、互いに垂直な座標軸「x」及び座標軸「y」を有し、車両座標系は、車両の中心を原点とし、車両の進行方向に沿った座標軸「x」と車両の側面方向に沿った座標軸「y」を有する。そして、図10では、ワールド座標系における車両のヨー角を「ψ」、車両の位置を[x、yとしている。また、ワールド座標系におけるランドマークのヨー角を「Mψ」、位置を[M、Mとし、車両座標系におけるランドマークのヨー角を「Lψ」、位置を[L、Lとしている。
【0069】
この場合、車両から見たランドマークの向きは、車両座標系におけるランドマークのヨー角Lψに等しく、ヨー角Lψは、図10に示すように、「Mψ-ψ」に等しい。従って、自車位置推定部17は、感度係数k、kを、「Mψ-ψ」と定数「c」とを用いてそれぞれ以下の式(5)及び式(6)により定める。
【0070】
【数5】
【0071】
【数6】
上記の式(5)及び式(6)によれば、車両から見てランドマークが正面を向いているほど、感度係数kは最小値cに近づき、感度係数kは大きな値となる。言い換えると、車両から見てランドマークが横を向いているほど、感度係数kは大きくなり、感度係数kは最小値cに近づく。
【0072】
図11(A)は、「Mψ-ψ」が10°の場合において、横幅Wが60cm、縦幅Hが60cmとなるランドマークに対して縦幅H(t)を60cmに固定したときの横幅W(t)と式(3)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。また、図11(B)は、図11(A)と同一条件下での横幅W(t)と式(4)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。なお、図11及び後述の図12の各グラフでは、定数cは20に設定されている。
【0073】
図11(A)の例では、「Mψ-ψ」が10°であることから、感度係数kは、式(5)に基づき「1.015c」となる。一方、図11(B)の例では、感度係数kは、式(6)に基づき「5.759c」となる。このように、車両から見てランドマークがほぼ正面を向いているときには、感度係数kはcに近い値となり、感度係数kは感度係数kよりも遥かに大きい値となる。そして、この場合、信頼度情報a(t)は、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)と地図上の横幅W及び縦幅Hとのずれに対する感度が高くなる。
【0074】
図12(A)は、「Mψ-ψ」が60°の場合において、横幅Wが60cm、縦幅Hが60cmとなるランドマークに対して縦幅H(t)を60cmに固定したときの横幅W(t)と式(3)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。また、図12(B)は、図12(A)と同一条件下での横幅W(t)と式(4)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。
【0075】
図12(A)の例では、「Mψ-ψ」が60°であることから、感度係数kは、式(5)に基づき「2.0c」となる。一方、図12(B)の例では、感度係数kは、式(6)に基づき「1.155c」となる。このように、車両から見てランドマークがやや横向きに近いときには、感度係数kは感度係数kよりも大きい値となる。そして、この場合、信頼度情報a(t)は、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)と地図上の横幅W及び縦幅Hとのずれに対する感度が信頼度情報a(t)と比べて相対的に高くなる。
【0076】
[信頼度情報に応じたカルマンゲイン]
次に、信頼度情報に応じてカルマンゲインを設定する方法について説明する。
【0077】
自車位置推定部17は、以下の一般式(7)によりカルマンゲインK(t)を算出する際に用いる観測雑音行列「R(t)」の対角成分に、信頼度情報a(t)、a(t)の逆数をそれぞれ乗じる。
【0078】
【数7】
ここで、対角成分に信頼度情報a(t)、a(t)の逆数が乗じられた後の観測雑音行列R(t)(「修正観測雑音行列R(t)’」とも呼ぶ。)は、以下の式(8)により表される。
【0079】
【数8】
このように、式(3)及び式(4)に基づき信頼度情報a(t)、a(t)をそれぞれ生成した場合、観測雑音行列の各成分に乗じる係数は個別となる。なお、自車位置推定部17は、式(2)に基づき信頼度情報a(t)を算出した場合には、式(8)において「a(t)=a(t)=a(t)」とみなして修正観測雑音行列R(t)’を算出すればよい。
【0080】
式(7)によれば、信頼度情報が最高値の「1」であった場合には、その逆数も1であるため、修正観測雑音行列R(t)’が元の観測雑音行列R(t)のままとなる。一方、信頼度情報が「0」に近い値であった場合には、その逆数は1より大きい値となり、修正観測雑音行列R(t)’の対角成分は増倍されることになる。
【0081】
そして、自車位置推定部17は、式(7)に示す修正観測雑音行列R(t)’を用いて、以下の式(9)から適応的なカルマンゲイン「K(t)’」を算出する。
【0082】
【数9】
そして、自車位置推定部17は、式(9)のカルマンゲインK(t)’を用いて、式(1)に基づき予測自車位置X(t)を補正した推定自車位置X(t)を算出する。従って、信頼度情報が低い場合は、カルマンゲインK(t)’が小さくなるため、予測自車位置X(t)に対する補正量が少なくなる。この場合、不正確な補正を防止できるため、推定自車位置X(t)の精度が好適に向上する。
【0083】
なお、自車位置推定部17は、観測雑音行列R(t)の対角成分に、信頼度情報a(t)、a(t)の逆数をそれぞれ乗じる代わりに、カルマンゲインK(t)に対して信頼度情報a(t)、a(t)の逆数をそれぞれ乗じてもよい。この場合、自車位置推定部17は、カルマンゲインK(t)’を以下の式(10)に基づき算出する。
【0084】
【数10】
この式(10)を用いた場合であっても、信頼度情報が低い場合は、カルマンゲインK(t)’が小さくなるため、予測自車位置X(t)に対する補正量が少なくなり、不正確な補正を好適に防止することができる。
【0085】
[処理フロー]
図13は、車載機1の自車位置推定部17により行われる自車位置推定処理のフローチャートである。車載機1は、図13のフローチャートの処理を繰り返し実行する。ここでは、一例として、車両の進行方向及び横方向のそれぞれに対する信頼度情報a(t)、a(t)を算出する例について説明する。
【0086】
まず、自車位置推定部17は、GPS受信機5等の出力に基づき、自車位置の初期値を設定する(ステップS101)。次に、自車位置推定部17は、車速センサ4から車体速度を取得すると共に、ジャイロセンサ3からヨー方向の角速度を取得する(ステップS102)。そして、自車位置推定部17は、ステップS102の取得結果に基づき、車両の移動距離と車両の方位変化を計算する(ステップS103)。
【0087】
その後、自車位置推定部17は、1時刻前の推定自車位置X(t-1)に、ステップS103で計算した移動距離と方位変化を加算し、予測自車位置X(t)を算出する(ステップS104)。さらに、自車位置推定部17は、予測自車位置X(t)に基づき、地図DB10の地物情報を参照し、ライダ2の計測範囲内となるランドマークを探索する(ステップS105)。
【0088】
そして、自車位置推定部17は、予測自車位置X(t)及びステップS105で探索したランドマークの地物情報が示す位置座標から、計測予測値Z(t)を算出する(ステップS106)。さらに、ステップS106では、自車位置推定部17は、ステップS105で探索したランドマークに対するライダ2の計測データから計測値Z(t)を算出する。
【0089】
そして、自車位置推定部17は、予測自車位置X(t)が示す自車の方位(ヨー角)ψに相当する車両の進行方向と、地図DB10に記録されたランドマークの向き情報とに基づき、車両の進行方向に対する感度係数kと、車両の横方向に対する感度係数kとをそれぞれ決定する(ステップS107)。この場合、例えば、自車位置推定部17は、式(5)に基づき感度係数kを算出し、式(6)に基づき感度係数kを算出する。
【0090】
次に、自車位置推定部17は、ランドマークの地図上の横幅W及び縦幅Hと計測した横幅W(t)及び縦幅H(t)との各差分と、感度係数k、kとに基づき、式(3)及び式(4)を参照して、信頼度情報a(t)、a(t)をそれぞれ算出する(ステップS108)。そして、自車位置推定部17は、信頼度情報a(t)、a(t)に応じてカルマンゲインK(t)’を生成する(ステップS109)。例えば、自車位置推定部17は、信頼度情報a(t)、a(t)を用いて式(8)に基づき修正観測雑音行列R(t)’を算出後、式(9)に基づきカルマンゲインK(t)’を算出する。その後、自車位置推定部17は、カルマンゲインK(t)´を式(1)のK(t)の代わりに用いることで予測自車位置X(t)を補正し、推定自車位置X(t)を算出する(ステップS110)。
【0091】
以上説明したように、本実施例に係る車載機1の自車位置推定部17は、ライダ2によるランドマークの計測結果である点群データを取得すると共に、地図DB10に含まれるランドマークの地物情報を取得する。そして、自車位置推定部17は、取得した点群データに基づき特定したランドマークのサイズと地物情報が示すランドマークのサイズとの差分に基づいて、ライダ2によるランドマークの計測精度を示す信頼度情報を算出する。これにより、自車位置推定部17は、推定自車位置X(t)を算出する際の予測自車位置X(t)に対する補正量を、ライダ2の計測結果の正確さに応じて的確に定めることができる。
【0092】
[変形例]
以下、実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、組み合わせてこれらの実施例に適用してもよい。
【0093】
(変形例1)
自車位置推定部17は、式(2)に代えて、計測された横幅及び縦幅と地図上の横幅及び縦幅とのそれぞれの差の絶対値|W(t)-W|、|H(t)-H|を用いた以下の式(11)に基づき信頼度情報a(t)を算出してもよい。
【0094】
【数11】
式(11)に基づく信頼度情報a(t)は、式(2)に基づく信頼度情報a(t)と同様、0から1までの値域となるように正規化され、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)が地図上の横幅W及び縦幅Hと近いほど最大値の1に近づき、横幅W(t)及び縦幅H(t)が横幅W及び縦幅Hから離れるほど0に近づく。
【0095】
図14(A)は、横幅Wが60cm、縦幅Hが60cmとなるランドマークに対して計測した縦幅H(t)を60cmに固定した場合の横幅W(t)と式(11)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。また、図14(B)は、図14(A)と同一のランドマークに対して計測した横幅W(t)を60cmに固定した場合の縦幅H(t)と式(11)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。さらに、図14(C)は、図14(A)、(B)と同一のランドマークに対する横幅W(t)と縦幅H(t)と式(11)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す3次元グラフである。また、図14(D)は、図14(A)における信頼度情報a(t)の逆数を示したグラフである。
【0096】
図14(A)及び図14(C)に示すように、横幅W(t)は、横幅Wである60cmに近づくほど信頼度情報a(t)が1に近づく。一方、図14(B)及び図14(C)に示すように、縦幅H(t)は、縦幅Hである60cmに近づくほど信頼度情報a(t)が1に近づく。また、図14(D)に示すように、信頼度情報a(t)の逆数は、横幅W(t)が横幅Wに近づくほど1に近づき、横幅W(t)が横幅Wから遠ざかるほど大きい値となる。同様に、信頼度情報a(t)の逆数は、縦幅H(t)が縦幅Hに近づくほど1に近づき、縦幅H(t)が縦幅Hから遠ざかるほど大きい値となる。
【0097】
このように、式(11)に基づく信頼度情報a(t)は、式(2)に基づく信頼度情報a(t)と同様、最大値が1となり、計測された横幅及び縦幅と地図上の横幅及び縦幅とのそれぞれの差が大きいほど小さい値となる。よって、自車位置推定部17は、式(11)に基づく信頼度情報a(t)の逆数を用いた式(8)に基づき修正観測雑音行列R(t)’を算出することで、推定自車位置X(t)を算出する際の予測自車位置X(t)に対する補正量を好適に定めることができる。
【0098】
なお、自車位置推定部17は、実施例と同様、車両の進行方向及び横方向のそれぞれに対する信頼度情報a(t)及び信頼度情報a(t)を算出してもよい。この場合、自車位置推定部17は、感度係数k、kを式(5)、(6)に基づき算出することで、信頼度情報a(t)及び信頼度情報a(t)をそれぞれ算出する。
【0099】
(変形例2)
自車位置推定部17は、式(2)に代えて、信頼度が高いほど最小値の1に近づき、信頼度が低いほど大きな値になるように信頼度情報a(t)を定めてもよい。
【0100】
例えば、自車位置推定部17は、以下の式(12)に基づき、信頼度情報a(t)を算出する。
【0101】
【数12】
式(12)に基づく信頼度情報a(t)は、1以上の値域となるように正規化され、計測された横幅W(t)及び縦幅H(t)が地図上の横幅W及び縦幅Hと近いほど最小値の1に近づき、横幅W(t)及び縦幅H(t)が横幅W及び縦幅Hから離れるほど大きい値となる。
【0102】
図15(A)は、横幅Wが60cm、縦幅Hが60cmとなるランドマークに対して計測した縦幅H(t)を60cmに固定した場合の横幅W(t)と式(12)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。また、図15(B)は、図15(A)と同一のランドマークに対して計測した横幅W(t)を60cmに固定した場合の縦幅H(t)と式(12)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す2次元グラフである。さらに、図15(C)は、図15(A)、(B)と同一のランドマークに対する横幅W(t)と縦幅H(t)と式(12)に基づく信頼度情報a(t)との関係を示す3次元グラフである。
【0103】
図15(A)及び図15(C)に示すように、信頼度情報a(t)は、横幅Wである60cmに横幅W(t)が近づくほど最小値である1に近づき、横幅Wから横幅W(t)が遠ざかるほど大きい値となる。同様に、図15(B)及び図15(C)に示すように、信頼度情報a(t)は、縦幅Hである60cmに縦幅H(t)が近づくほど最小値である1に近づき、縦幅Hから縦幅H(t)が遠ざかるほど大きい値となる。
【0104】
なお、自車位置推定部17は、実施例と同様、車両の進行方向及び横方向のそれぞれに対する信頼度情報a(t)及び信頼度情報a(t)を算出してもよい。この場合、自車位置推定部17は、感度係数k、kを式(5)、(6)に基づき算出することで、信頼度情報a(t)及び信頼度情報a(t)をそれぞれ算出する。
【0105】
また、式(12)に基づく信頼度情報a(t)は、式(2)に基づく信頼度情報a(t)の逆数(図7(D)参照)と同様に、最小値が1となり、かつ、横幅Wから横幅W(t)が遠ざかる又は縦幅Hから縦幅H(t)が遠ざかるほど大きい値となる。よって、自車位置推定部17は、修正観測雑音行列R(t)’を算出する際に、信頼度情報a(t)を逆数にして観測雑音行列R(t)の対角成分に乗じる必要がない。具体的には、自車位置推定部17は、信頼度情報a(t)及び信頼度情報a(t)をそれぞれ算出した場合には、以下の式(13)に基づき、修正観測雑音行列R(t)’を算出すればよい。
【0106】
【数13】
これにより、実施例と同様、自車位置推定部17は、推定自車位置X(t)を算出する際の予測自車位置X(t)に対する補正量を好適に定めることができる。
【0107】
(変形例3)
図1に示す運転支援システムの構成は一例であり、本発明が適用可能な運転支援システムの構成は図1に示す構成に限定されない。例えば、運転支援システムは、車載機1を有する代わりに、車両の電子制御装置が車載機1の自車位置推定部17の処理を実行してもよい。この場合、地図DB10は、例えば車両内の記憶部に記憶され、車両の電子制御装置は、図13のフローチャートの処理を実行することで推定自車位置を算出する。
【0108】
(変形例4)
信頼度情報は、推定自車位置X(t)を算出する際の予測自車位置X(t)の補正量を決定するパラメータとして用いられることに限定されない。例えば、車載機1は、算出した信頼度情報を、ライダ2が出力する点群データに基づく障害物検知などの他の用途に用いてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 車載機
2 ライダ
3 ジャイロセンサ
4 車速センサ
5 GPS受信機
10 地図DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15