IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本バルカー工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】エラストマー組成物及びシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20221011BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20221011BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20221011BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L27/12
C08K5/14
C09K3/10 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020559179
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047038
(87)【国際公開番号】W WO2020116394
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018227528
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大住 直樹
(72)【発明者】
【氏名】今田 博久
(72)【発明者】
【氏名】望月 友充
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160394(JP,A)
【文献】特表2004-527596(JP,A)
【文献】特表2013-530298(JP,A)
【文献】特開2001-181350(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041557(WO,A1)
【文献】特開2017-193682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09K 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン由来の構成単位、パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位及び架橋部位モノマー由来の構成単位からなる共重合体である第1フルオロエラストマーと、
前記第1フルオロエラストマーとは異なる第2フルオロエラストマーと
を含み、
前記架橋部位モノマーはI基又はBr基含有パーフルオロビニルエーテルであり、
前記第2フルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン由来の構成単位及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である、エラストマー組成物。
【請求項2】
前記第2フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーである、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記第1フルオロエラストマー及び前記第2フルオロエラストマーを10:90~90:10の質量比で含む、請求項1または2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
パーオキサイド架橋剤及び共架橋剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物及びそれを用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
シール材(ガスケット、パッキン等)は、各種用途に用いられており、その用途に応じた特性が求められる。例えば、高温環境下で使用される場合には耐熱性が求められ、ブラズマに晒される環境下で使用される場合にはプラズマに対する耐性(耐プラズマ性)が求められる。
【0003】
一方、半導体装置やフラットパネルディスプレイの製造における成膜工程では、強力な酸化力を有するオゾンを使用する場合がある。オゾンを使用する製造装置に用いられるシール材には、オゾンに対する耐性(耐オゾン性)が求められる。
【0004】
特開平08-151450号公報(特許文献1)、特開2004-263038号公報(特許文献2)および特開2010-037558号公報(特許文献3)には、耐オゾン性に着目したシール材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-151450号公報
【文献】特開2004-263038号公報
【文献】特開2010-037558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載のフッ素ゴム成形体は、高温環境下における耐オゾン性が十分ではなく、特許文献3に記載された架橋剤は、一般に入手することが困難である。
【0007】
本発明の目的は、一般に入手可能な原材料を用いて調製することができ、高温環境下において良好な耐オゾン性を示す架橋物を形成できるエラストマー組成物、及びそれを用いたシール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示すエラストマー組成物及びシール材を提供する。
[1] テトラフルオロエチレン由来の構成単位及び1種以上のパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である第1フルオロエラストマーと、前記第1フルオロエラストマーとは異なる第2フルオロエラストマーと、を含む、又は、
前記第1フルオロエラストマーを2種以上含む、エラストマー組成物。
【0009】
[2] 前記第2フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーである、[1]に記載のエラストマー組成物。
【0010】
[3] 前記第2フルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン由来の構成単位及び1種以上のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である、[2]に記載のエラストマー組成物。
【0011】
[4] 前記第1フルオロエラストマー及び前記第2フルオロエラストマーを10:90~90:10の質量比で含む、[1]~[3]のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【0012】
[5] パーオキサイド架橋剤及び共架橋剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【0013】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のエラストマー組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温環境下において良好な耐オゾン性を示す架橋物を形成できるエラストマー組成物、及びそれを用いたシール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<エラストマー組成物>
本発明に係るエラストマー組成物は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位及び1種以上のパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である第1フルオロエラストマーと、第1フルオロエラストマーとは異なる第2フルオロエラストマーと、を含む。第1フルオロエラストマーと、第2フルオロエラストマーとを含むエラストマー組成物の架橋物は、高温環境下における耐オゾン性に優れる。高温環境下における耐オゾン性が優れるとは、具体的には、エラストマー組成物の架橋物を高温のオゾンに暴露した前後で物性の変化が小さいことをいう。物性の変化は、抗張積の変化率(抗張積比)を指標とすることができる。抗張積は、{引張強度(MPa)×切断時伸び(%)}として求めることができる。引張強度及び切断時伸びは、それぞれ後述の実施例の欄に記載の方法に従って測定される。
【0016】
〔a〕第1フルオロエラストマー
第1フルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と称する場合がある。)由来の構成単位及び1種以上のパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である。第1フルオロエラストマーは、他のフルオロモノマー由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。第1フルオロエラストマーを含むエラストマー組成物は、水素原子含有フッ素エラストマーを含む組成物に比べて、高温環境下における耐オゾン性をより高めることができる。また、第1フルオロエラストマーは、耐熱性及び耐薬品性にも優れる。
【0017】
第1フルオロエラストマーを形成するパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)は、ビニルエーテル基(CF2=CFO-)に結合する基の炭素数が3~12であることができ、例えば
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1、又は
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
であることができる。上記式中、nは例えば1~5であり、mは例えば1~3である。
【0018】
第1フルオロエラストマーは、通常架橋性を有している。架橋性は、架橋部位モノマーをさらに共重合させる(架橋部位モノマー由来の構成単位をさらに含ませる)ことにより付与することができる。架橋部位とは、架橋反応可能な部位を意味する。架橋部位としては、例えばハロゲン基(例えばI基、Br基等)、ニトリル基(CN基)を挙げることができ、好ましくはハロゲン基であり、より好ましくはI基である。架橋部位としてハロゲン基を有するフルオロエラストマーは、パーオキサイド架橋剤を用いたパーオキサイド架橋系によって架橋させることができ、これにより、高温環境下における耐オゾン性がより良好な架橋物を得ることができる。
【0019】
架橋部位としてハロゲン基を有する架橋部位モノマーの一例は、ハロゲン基含有パーフルオロビニルエーテルである。ハロゲン基含有パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)X(nは例えば2~4)、
CF2=CFO(CF2nX(nは例えば2~12)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nX(Xはハロゲン基、nは例えば2、mは例えば1~5)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nX(Xはハロゲン基、nは例えば1~4、mは例えば1~2)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]nCF2CF(CF3)X(Xはハロゲン基、nは例えば0~4)
等を挙げることができる。
【0020】
架橋性のパーフルオロエラストマーは、2つの主鎖間を架橋する架橋構造を有していてもよい。
【0021】
第1フルオロエラストマーにおけるTFE由来の構成単位/パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位/架橋部位モノマー由来の構成単位の比は、モル比で、通常50~74.8%/25~49.8%/0.2~5%であり、好ましくは60~74.8%/25~39.5%/0.5~2%である。
【0022】
第1フルオロエラストマーは、互いに種類が異なる2種以上の第1フルオロエラストマーを含むことができる。本明細書において、第1フルオロエラストマーに関して互いに種類が異なるとは、パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)の種類及び種数、TFE由来の構成単位/パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位の比、第1フルオロエラストマーの分子量の少なくとも1つが異なることをいう。
【0023】
第1フルオロエラストマーの市販品としては、例えばソルベイ社製の「テクノフロン PFR-LT」が挙げられる。
【0024】
〔b〕第2フルオロエラストマー
第2フルオロエラストマーは、第1フルオロエラストマーとは異なるフルオロエラストマーである。「第1フルオロエラストマーとは異なる」とは、第1フルオロエラストマーとは構成単位の種類において異なることをいう。第2フルオロエラストマーは、好ましくはパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)由来の構成単位を含まない。第2フルオロエラストマーとしては、例えばビニリデンフルオライドを主成分とするフッ化ビニリデン系フッ素ゴム(以下、「FKM」と称する場合がある。)、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム(以下、「FEPM」と称する場合がある。)、第1フルオロエラストマー以外のパーフルオロエラストマー(以下、「FFKM」と称する場合がある。)、フッ素系熱可塑性エラストマー、フッ素系液状ゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。
【0025】
第2フルオロエラストマーは、好ましくはパーフルオロエラストマーであり、より好ましくはTFE由来の構成単位及び1種以上のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体である。第2フルオロエラストマーは、他のフルオロモノマー由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。第2フルオロエラストマーがTFE由来の構成単位及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体であるエラストマー組成物は、高温環境下における耐オゾン性をより高めることができる。また、TFE由来の構成単位及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を含む共重合体は、耐熱性及び耐薬品性にも優れる。
【0026】
第2フルオロエラストマーを形成するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、アルキル基の炭素数が1~5であることができ、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等であることができる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0027】
第2フルオロエラストマーは、通常架橋性を有している。架橋部位及び架橋部位モノマーとしては、上記の第1フルオロエラストマーと同様のものを用いることができる。
【0028】
第2フルオロエラストマーにおけるTFE由来の構成単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位/架橋部位モノマー由来の構成単位の比は、モル比で、通常50~74.8%/25~49.8%/0.2~5%であり、好ましくは60~74.8%/25~39.5%/0.5~2%である。
【0029】
第2フルオロエラストマーは、互いに種類が異なる2種以上の第2フルオロエラストマーを含むことができる。第2フルオロエラストマーに関して互いに種類が異なるとは、第2フルオロエラストマーの構成単位の種類及び種数、第2フルオロエラストマーを構成する2種以上の構成単位の比、第2フルオロエラストマーの分子量の少なくとも1つが異なることをいう。
【0030】
第2フルオロエラストマーの市販品としては、例えばソルベイ社製の「テクノフロン PFR-94」、3M社製の「ダイニオン PFE 90Z」、「ダイニオン PFE131TZ」、ソルベイ社の「テクノフロン P459」等が挙げられる。
【0031】
エラストマー組成物は、第1フルオロエラストマー及び第2フルオロエラストマーを10:90~90:10の質量比で含んでもよく、20:80~80:20の質量比で含んでもよく、30:70~70:30の質量比で含んでもよい。第1フルオロエラストマーと第2フルオロエラストマーとを質量比で等量となるように含んでもよい。
【0032】
〔c〕その他のエラストマー
エラストマー組成物は、第1フルオロエラストマー及び第2フルオロエラストマー以外のエラストマーを含んでいてもよい。その他のエラストマーとしては、例えばエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)等が挙げられる。その他のエラストマーは、1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0033】
〔d〕架橋剤及び共架橋剤
エラストマー組成物の架橋系は特に制限されず、例えばFKM及びFEPMであればパーオキサイド架橋系、ポリアミン架橋系、ポリオール架橋系が、FFKMであればパーオキサイド架橋系、ビスフェノール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系が挙げられる。エラストマー組成物は、いずれか1種の架橋系で架橋されてもよいし、2種以上の架橋系で架橋されてもよい。エラストマー組成物は、好ましくはパーオキサイド架橋剤を含む。
【0034】
パーオキサイド架橋剤は、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(市販品の例:日油株式会社製「パーヘキサ25B」、「パーヘキサ25B-40」);ジクミルペルオキシド(市販品の例:日油株式会社製「パークミルD」);2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド;ジ-t-ブチルパーオキサイド;t-ブチルジクミルパーオキサイド;ベンゾイルペルオキシド(市販品の例:日油株式会社製「ナイパーB」);2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(市販品の例:日油株式会社製「パーヘキシン25B」);2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン;α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(市販品の例:日油株式会社製「パーブチルP」);t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;パラクロロベンゾイルパーオキサイド等であることができる。パーオキサイド架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
パーオキサイド架橋系で用いる共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート(市販品の例:日本化成株式会社製「TAIC」);トリアリルシアヌレート;トリアリルホルマール;トリアリルトリメリテート;N,N’-m-フェニレンビスマレイミド;ジプロパギルテレフタレート;ジアリルフタレート;テトラアリルテレフタルアミド等のラジカルによる共架橋が可能な化合物(不飽和多官能性化合物)を挙げることができる。共架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、反応性や圧縮永久歪特性の観点から、共架橋剤はトリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。
【0036】
エラストマー組成物におけるパーオキサイド架橋剤(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、エラストマーの総量100質量部に対して、例えば0.01~20質量部であり、耐オゾン性向上の観点から、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0037】
エラストマー組成物における共架橋剤(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、エラストマーの総量100質量部に対して、例えば0.1~40質量部であり、耐オゾン性向上の観点から、好ましくは0.2~10質量部である。
【0038】
〔e〕その他の配合剤
エラストマー組成物は、加工性改善や物性調整等を目的として、必要に応じて、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤(ステアリン酸等)、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を含むことができる。添加剤の他の例は、フッ素系オイル(例えば、パーフルオロポリエーテル等)のような粘着性低減(防止)剤である。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
シール材を高温環境下で使用する場合などにおいては、揮発、溶出又は析出を生じるおそれがあることから、添加剤の量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、エラストマーの総量100質量部に対して10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下)、添加剤を含有しないことが望ましい。
【0040】
エラストマー組成物は、必要に応じてカーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等のフィラーを含むことができる。このうち、カーボンブラック又はシリカを含むことが好ましい。フィラーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。エラストマー組成物におけるフィラー(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、エラストマーの総量100質量部に対して、例えば0.1~40質量部であり、耐オゾン性向上の観点から、好ましくは1~30質量部である。
【0041】
エラストマー組成物は、有機顔料を含んでもよい。本発明で使用可能な有機顔料は、例えばアゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等);アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等の多環式顔料、フタロシアニン系顔料等を含む。エラストマー組成物は、有機顔料を1種のみ含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。有機顔料としては、カラーインデックスにおいてピグメントに分類されている有機顔料を使用することができる。
【0042】
好ましくは、有機顔料は金属元素を含有しない。金属元素を含有しない有機顔料を用いれば、シール材が半導体用途等の過酷なオゾン環境下で使用され、シール材がエッチングされることがあっても、金属元素由来の物質が飛散されるおそれがない。
【0043】
エラストマー組成物における有機顔料(2種以上を用いる場合はその合計量)の含有量は、高温環境下における耐オゾン性、及び/又は、高温環境下での圧縮永久歪特性を効果的に向上させる観点から、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部であり、より好ましくは0.07~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~2質量部であり、例えば0.1~1.1質量部である。
【0044】
〔f〕エラストマー組成物の調製
エラストマー組成物は、エラストマー、架橋剤、共架橋剤、必要に応じて添加されるフィラー及びその他の配合剤を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えばミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、架橋反応に寄与する成分(架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋剤等)を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、架橋反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近が好ましい。
【0045】
本発明に係るエラストマー組成物の変形例は、第1フルオロエラストマーを2種以上含むエラストマー組成物である。第1フルオロエラストマーとしては、上述の第1フルオロエラストマーを用いることができる。第1フルオロエラストマーを2種以上含むエラストマー組成物の架橋物は、高温環境下における耐オゾン性に優れる。2種以上の第1フルオロエラストマーは、例えば第1フルオロエラストマーを構成するパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)の種類が互いに異なる。パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)の種類が異なるとは、例えばパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)のアルコキシ基の炭素数が互いに異なる。エラストマー組成物は、上述の第2フルオロエラストマー、その他のエラストマー、架橋剤、共架橋剤、その他の配合剤をさらに含んでもよい。
【0046】
<シール材>
上記エラストマー組成物を架橋成形(加硫成形)することにより、シール材のような架橋成形物を得ることができる。すなわち、シール材は、エラストマー組成物の架橋物からなる。架橋成形は、必要に応じてエラストマー組成物を予備成形した後、金型を用いてプレス成形することにより行うことができる。成形温度は、例えば150~220℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5~120分程度である。送りプレス成形、インジェクション成形、押出成形等により成形を行ってもよい。必要に応じて、150~320℃程度の温度で二次架橋を行ってもよい。二次架橋時間は、例えば0.5~24時間程度である。
【0047】
上記のような架橋成形(プレス成形等)を行った後に、さらに電離性放射線を照射して架橋させる工程を設けてもよい。これにより、圧縮永久歪特性をより向上させ得る。電離性放射線としては、電子線やγ線を好ましく用いることができる。
【0048】
シール材は、パッキンやガスケット等であることができる。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択され、その代表例は、断面形状がO型であるOリングである。本発明に係るシール材は、良好な耐オゾン性を示すため、半導体装置やフラットパネルディスプレイの製造における成膜工程で使用される装置など、特に高温環境下でオゾンを使用する装置内の真空度を保持するためのシール材として好適に用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記の表中に示される配合量の単位は質量部である。
【0050】
<実施例1、比較例1>
次の手順に従って、エラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って、各配合剤の所定量をオープンロールにより混練した。次に、得られたエラストマー組成物を165℃、20分の条件でプレス成形した後、230℃、16時間の条件で熱による2次架橋を行ってシール材を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
表1中の配合物の詳細は次の通りである。
〔1〕第1フルオロエラストマー:テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)-ハロゲン原子含有モノマー共重合体であるパーフルオロエラストマー(テクノフロン PFR-LT、ソルベイ社製)
〔2〕第2フルオロエラストマー:テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)-ハロゲン原子含有モノマー共重合体であるパーフルオロエラストマー(テクノフロン PFR-94、ソルベイ社製)
〔3〕フィラー:カーボンブラック(Thermax N990 ULTRA-PURE、Cancarb Limited製)
〔4〕共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート(TAIC、日本化成社製)
〔5〕架橋剤:2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン(パーヘキサ25B、日油株式会社製)
【0053】
(シール材の評価)
得られた架橋成形品(シール材)をオゾン濃度200g/m3、温度160℃の環境下に72時間置くオゾン暴露試験を行い、下記の項目を測定、評価した。
【0054】
〔1〕重量減少率
試験前後のシール材の重量を測定し、下記式:
重量減少率(%)={(試験前の重量-試験後の重量)/(試験前の重量)}×100に従って重量減少率を求めた。
【0055】
〔2〕常態物性の変化率
オゾン暴露試験前後の常態物性を測定し、変化率を求めた。常態物性は、以下のように求めた。JIS K6250:2006に従い、2mmの厚さに作製したシート状成形品から、JIS K6251:2010に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強度、切断時伸び、100%モジュラスをショッパー式引張試験機を用いて測定した。変化率は、
変化率(%)={(試験前の値-試験後の値)/(試験前の値)}×100
として求めた。
【0056】
また、JIS K6253-3:2012に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にて、オゾン暴露試験前後のシート状成形品の硬度を測定した。変化率は、
変化率=(試験前の値-試験後の値)
として求めた。
【0057】
〔3〕抗張積比
オゾン暴露試験前と試験後の抗張積を{引張強度(MPa)×切断時伸び(%)}としてそれぞれ求めた。抗張積比は下記式:
抗張積比=(試験前の抗張積)/(試験後の抗張積)
で求めることができる。抗張積比が1に近いほど、抗張積の変化が小さく、高温環境下における耐オゾン性に優れると評価することができる。
【0058】
〔4〕シール材の圧縮永久歪
JIS K6262:2013に準拠してシール材の圧縮永久歪を求めた。線径φ3.53 Oリングを200℃×72時間、圧縮率25%で保持した。試験片の圧縮を解放し、試験室の標準温度で30分間放冷した後に、試験片の厚さを測定した。圧縮永久歪率(Compression Set、CS)は下記式:
圧縮永久歪率(%)={(h0-h1)/(h0-h2)}×100
に基づいて算出した。h0は試験前の試験片の厚さ(mm)、h1は30分間放冷後の試験片の厚さ(mm)、h2はスペーサ-の厚み(高さ)(mm)である。
【0059】
評価結果を表1に示す。実施例1のシール材は、比較例1のシール材と比較して、オゾン試験前後の常態物性の変化率の絶対値が小さく、抗張積比も1に近かった。テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)との共重合体である第1フルオロエラストマーと第2フルオロエラストマーを含むエラストマー組成物の架橋物は、高温のオゾン環境の晒された際に物性が変化しにくく、高温環境下における耐オゾン性に優れていることがわかった。
【0060】
<実施例2~8、比較例2~3>
表2に示される配合組成に従って、エラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。作製手順は、2次架橋を230℃、4時間の条件で行った以外は、実施例1と同じであった。
【0061】
【表2】
【0062】
表2中の配合物の詳細は、表1と同じである。
【0063】
得られた架橋成形品(シール材)をオゾン濃度200g/m3、温度190℃の環境下に24時間置くオゾン暴露試験を行い、〔2〕常態物性の変化率及び〔3〕抗張積比を測定した。評価結果を表2に示す。
【0064】
実施例2~8の架橋物の抗張積比は、比較例2及び比較例3の架橋物の抗張積比よりも1に近かった。第1フルオロエラストマー及び第2フルオロエラストマーを質量比10:90~90:10の範囲で含むエラストマー組成物の架橋物は、第1フルオロエラストマーのみ又は第2フルオロエラストマーのみをポリマーとして含むエラストマー組成物の架橋物よりも、高温環境下における耐オゾン性に優れていることがわかった。
【0065】
<実施例9、比較例4>
表3に示される配合組成に従ってエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。作製手順は、実施例2と同じであった。
【0066】
【表3】
【0067】
表3中の配合物の詳細は、第2フルオロエラストマーとして下記〔2〕のエラストマーを用いたことを除き、表1と同じである。
〔2〕第2フルオロエラストマー:テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)-ハロゲン原子含有モノマー共重合体であるパーフルオロエラストマー(ダイニオン PFE 90Z、3M社製)
【0068】
得られた架橋成形品(シール材)をオゾン濃度200g/m3、温度190℃の環境下に24時間置くオゾン暴露試験を行い、〔2〕常態物性の変化率及び〔3〕抗張積比を測定した。評価結果を表3に示す。
【0069】
実施例9の架橋物の抗張積比は、比較例4の架橋物の抗張積比よりも1に近かった。第1フルオロエラストマー及び第2フルオロエラストマーを含むエラストマー組成物の架橋物は、第2フルオロエラストマーのみをポリマーとして含むエラストマー組成物の架橋物よりも、高温環境下における耐オゾン性に優れていることがわかった。また、第2フルオロエラストマーとして、実施例1~8と異なるパーフルオロエラストマーを用いても、第1フルオロエラストマーと共に配合することで、高温環境下における耐オゾン性を向上させることができた。
【0070】
<実施例10、比較例5>
表4に示される配合組成に従ってエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。作製手順は、実施例2と同じであった。
【0071】
【表4】
【0072】
表4中の配合物の詳細を以下に示す。
PFR-LT:「テクノフロン PFR-LT」ソルベイ社製
GA-15:「ダイエルパーフロ GA-15」ダイキン工業株式会社製
フィラー、共架橋剤および架橋剤は、表1に記載のものと同じである。
【0073】
得られた架橋成形品(シール材)をオゾン濃度200g/m3、温度190℃の環境下に24時間置くオゾン暴露試験を行い、〔2〕常態物性の変化率及び〔3〕抗張積比を測定した。評価結果を表4に示す。
【0074】
実施例10の架橋物の抗張積比は、比較例5の架橋物の抗張積比よりも1に近かった。PFR-LTとGA-15とを含むエラストマー組成物の架橋物は、GA-15のみをポリマーとして含むエラストマー組成物の架橋物よりも、高温環境下における耐オゾン性に優れていることがわかった。
【0075】
<実施例11、比較例6>
表5に示される配合組成に従ってエラストマー組成物を調製し、次いでシール材を作製した。作製手順は、実施例2と同じであった。
【0076】
【表5】
【0077】
表5中の配合物の詳細は、第2フルオロエラストマーとして下記〔2〕のエラストマーを用いたことを除き、表1と同じである。
〔2〕第2フルオロエラストマー:ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体である三元系フッ素ゴム(テクノフロン P459、ソルベイ社)
【0078】
得られた架橋成形品(シール材)をオゾン濃度200g/m3、温度190℃の環境下に24時間置くオゾン暴露試験を行い、〔2〕常態物性の変化率及び〔3〕抗張積比を測定した。評価結果を表5に示す。
【0079】
実施例11の架橋物の抗張積比は、比較例6の架橋物の抗張積比よりも1に近かった。第1フルオロエラストマー及び第2フルオロエラストマーを含むエラストマー組成物の架橋物は、第2フルオロエラストマーのみをポリマーとして含むエラストマー組成物の架橋物よりも、高温環境下における耐オゾン性に優れていることがわかった。また、第2フルオロエラストマーとしてフッ素ゴムを用いても、第1フルオロエラストマーと共に配合することで、高温環境下における耐オゾン性を向上させることができた。