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特許7155310深部非脆弱性応力プロファイル及びその作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】深部非脆弱性応力プロファイル及びその作成方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20221011BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/097
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021020851
(22)【出願日】2021-02-12
(62)【分割の表示】P 2017523958の分割
【原出願日】2015-11-04
(65)【公開番号】P2021075460
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】62/074,872
(32)【優先日】2014-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】パスカル オラム
(72)【発明者】
【氏名】ロスティスラフ ヴァチェフ ルセフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィター マリノ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】エミリー エリザベス ヤング
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0122284(US,A1)
【文献】特表2013-527115(JP,A)
【文献】特表2013-520388(JP,A)
【文献】特公昭54-017765(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第102815860(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0224492(US,A1)
【文献】特開平11-328601(JP,A)
【文献】米国特許第3433611(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さtと、t/2にある中央と、表面から0.1・t超の層深さFSM_DOLまで延在する圧縮層とを有するガラス物品であって、
ここでtはガラスの厚さであり、
前記ガラス物品は、前記表面の700MPa超の最大圧縮応力CSと、前記表面から前記表面下の1μm~30μmの範囲の深さまで延在するスパイク領域を有する応力プロファイルとを有し、
前記スパイク領域における前記応力プロファイルは、傾斜を有し、
前記傾斜は、20MPa/μm超の絶対値を有し、
前記ガラス物品は、前記層深さから、前記ガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有し、
前記ガラス物品は、前記ガラスの厚さに対して正規化された合計弾性エネルギE合計と、張力下の試料の内部に貯蔵された弾性エネルギE内部とを有し、
60J/m ・mm<(E合計/t(mm))<174.75J/m・mm及び13.65J/m ・mm<(E内部/t(mm))<30J/m・mmである、
ガラス物品。
【請求項2】
前記厚さtが、0.4mm~1.0mmの範囲であり、前記物理的中央張力が、|45MPa|超である、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項3】
前記圧縮層が、0.12tより大きい物理的DOLを有する、請求項2に記載のガラス物品。
【請求項4】
前記スパイク領域が、前記表面から、前記表面下の8μm~15μmの範囲の深さまで延在する、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項5】
前記合計弾性エネルギE合計が、139.8J/m未満である、請求項4に記載のガラス物品。
【請求項6】
前記厚さtが、0.4mm~1.0mmの範囲であり、前記物理的中央張力が、|63MPa|超である、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項7】
前記合計弾性エネルギE合計が、87.4J/m未満である、請求項6に記載のガラス物品。
【請求項8】
前記層深さDOLが、120μm超であり、前記最大圧縮応力CSが、700MPa超である、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項9】
前記ガラス物品が、アルカリアルミノシリケートガラスを含む、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項10】
前記アルカリアルミノシリケートガラスが、少なくとも4モル%のP、0モル%~5モル%のBを含み、 1.3<[(P+RO)/M]≦2.3であり、
=Al+Bであり、
Oは前記アルカリアルミノシリケートガラス中に存在する1価のカチオン酸化物の総和である、請求項9に記載のガラス物品。
【請求項11】
前記アルカリアルミノシリケートガラスが、40モル%~70モル%のSiO;11モル%~25モル%のAl;0モル%~5モル%のB;4モル%~15モル%のP;13モル%~25モル%のNaO;及び0モル%~1モル%のKOを含む、請求項10に記載のガラス物品。
【請求項12】
11モル%≦M≦30モル%である、請求項10に記載のガラス物品。
【請求項13】
RxOは、前記アルカリアルミノシリケートガラス中に存在する、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び、遷移金属一酸化物の総和であり、13モル%≦RxO≦30モル%である、請求項10に記載のガラス物品。
【請求項14】
前記ガラス物品が、リチウムを含まない、請求項9に記載のガラス物品。
【請求項15】
前記ガラス物品が、非脆弱性である、請求項1~14のいずれか1項に記載のガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、2014年11月4日出願の米国仮特許出願第62/074872号の優先権の利益を主張するものであり、本出願は上記仮特許出願の内容に依存するものであり、また上記仮特許出願の内容は参照によりその全体が本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示はガラスの応力プロファイルに関する。より詳細には、本開示は深部非脆弱性応力プロファイルを有するガラスに関する。更に詳細には、本開示は、深部非脆弱性応力プロファイルを有し、非脆弱性挙動を呈するガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
化学強化ガラスは、電話、ノート型パソコン等といったハンドヘルド電子デバイスのためのディスプレイに広く使用される。化学強化は、ガラスの表面の圧縮層及びガラスの中央部の引張領域を生成する。圧縮応力(CS)及び層深さ(DOL)は典型的には、例えば株式会社ルケオ(東京、日本)製の表面応力計測器であるFSM-6000等といった市販の機器を用いた表面応力測定(FSM)から決定される。
【0004】
圧縮応力層がガラス内のより深い深さまで延在する強化ガラス物品に関して、FSM技術はコントラストの問題を有する場合があり、これは観察されるDOLに影響を与える。比較的深いDOL値においては、TEスペクトルとTMスペクトルとの間に不適切なコントラストが存在し得、従ってTEスペクトルとTMスペクトルとの差の計算、及びDOLの正確な決定がより困難になる。更に、FSMソフトウェア分析は圧縮応力プロファイル(即ちガラス内の深さの関数としての圧縮応力の変動)を決定できない。加えて、FSM技術は、例えばガラス中に存在するナトリウムのリチウムとのイオン交換等の特定の元素のイオン交換から生じた層深さを決定できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、圧縮応力プロファイルの可能な範囲を拡張する。折原製作所製FSM機器に基づく測定学に対する修正により、「超深(super-deep)」圧縮層深さDOLを有する化学強化ガラス、即ち表面応力/FSM測定によって決定される約120μm超の圧縮層深さ、いくつかの実施形態では、標準偏差およそ4μmでの約140μm超の圧縮層深さ(本明細書では「FSM_DOL」又は単に「DOL」と呼ぶ)を有するガラス試料の測定が可能となった。いくつかの実施形態では、DOLは、標準偏差約10μmで約186μmであってよい。上記ガラスは非脆弱性であり、即ち上記ガラスは、衝撃又は損傷を受けた際に脆弱性(爆発性又はエネルギ性の破砕)挙動を呈しない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って一態様では、強化ガラス物品を提供する。上記ガラス物品は、厚さtと、ガラス物品の表面から0.1・t超の層深さDOLまで延在する圧縮層とを有する。上記ガラス物品は、表面の約500MPa超の最大圧縮応力CSと、約1μm~約30μmのスパイク領域を有する応力プロファイルとを有する。上記スパイク領域における上記応力プロファイルは、傾斜を有する。上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する。
【0007】
別の態様では:約0.2mm~約1.5mmの厚さt;ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;及び上記層深さ又は上記圧縮深さから、t/2にある上記ガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有する、ガラス物品を提供する。上記物理的中央張力CTは、|-1.956x10-16×t+1.24274x10-12×t-3.09196x10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241x10-1×t+36.5994|より大きく、上記ガラス物品は、上記ガラスの厚さに対して正規化された合計弾性エネルギE合計を有し、ここで(E合計/t)=174.75J/m・mmである。
【0008】
更に別の態様では:約0.3mm~約1mmの厚さt;ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;及び上記層深さ又は上記圧縮深さから、t/2にある上記ガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有する、ガラス物品を提供する。上記物理的中央張力CTは、|-1.956x10-16×t+1.24274x10-12×t-3.09196x10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241x10-1×t+36.5994|より大きく、張力下の試料の内部に貯蔵された弾性エネルギE内部を有し、ここで(E内部/t)=30J/m・mmである。
【0009】
別の態様では、2段階イオン交換(IOX)プロセスによって強化され、ある応力プロファイルを有する、ガラス物品を提供する。上記ガラス物品は:約0.4mm~約1mmの厚さt及びt/2にある中央;ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;並びに層深さから上記ガラス物品の中央まで延在する物理的中央張力CT下の引張領域を有する。上記ガラス物品は、第1のイオン交換ステップ後、表面において100MPa~400MPa、いくつかの実施形態では150MPa~300MPaの圧縮応力CS1を有し、また第1のイオン交換ステップ後、0.1・t超、又はいくつかの実施形態では0.15・t超の層深さFSM_DOLを有する。上記第1のイオン交換ステップの後には第2のイオン交換ステップが続き、上記第2のイオン交換ステップ後、上記ガラス物品は、表面において500MPa超、又はいくつかの実施形態では700MPa超の圧縮応力CS2を有し、また、おおよそ表面から約30μmまで、又はいくつかの実施形態では約8μm-15μmまでの範囲にスパイク領域を有する応力プロファイルを有する。上記スパイク領域における上記応力プロファイルは傾斜を有し、上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する。
【0010】
ガラス物品を強化する方法も提供する。上記ガラス物品は、厚さt及びt/2にある中央を有する。上記方法は:カリウム塩及び少なくとも30重量%のナトリウム塩を含む第1のイオン交換浴中で上記ガラス物品をイオン交換して、圧上記ガラス物品の表面から0.1・t超の層深さFSM_DOL又は圧縮深さDOCまで延在し、表面の約100MPa~約400MPaの圧縮応力CS1を有する、圧縮層と、上記層深さ又は上記圧縮深さから上記ガラス物品の中央まで延在する物理的中央張力CT下の引張領域とを形成するステップ;並びに少なくとも90重量%のカリウム塩を含む第2のイオン交換浴中で上記ガラス物品をイオン交換して、上記表面から上記表面下約30μmまで延在するスパイク領域を形成するステップを含む。上記スパイク領域は、表面において、約500MPa超の最大圧縮応力CSを有し、上記スパイク領域における上記応力プロファイルは傾斜を有し、上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する。
【0011】
本開示のこれらの及びその他の態様、利点及び顕著な特徴は、以下の詳細な説明、付属の図面及び添付の請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試料厚さの関数としての物理的中央張力(MPa)限界の典型的な値のプロット
図2】二重イオン交換試料の応力プロファイルのプロット
図3】ポワソン比ν=65GPa及びヤング率E=65GPaを有するアルカリアルミノシリケートガラスに関する関心領域のマップ
図4】ポワソン比ν=65GPa及びヤング率E=65GPaを有するアルカリアルミノシリケートガラスの場合に関する関心領域の第2のマップ
図5】57重量%のNaNO及び53重量%のKNOを含有する浴中で460℃の温度で32.1時間の第1のイオン交換ステップを用いて強化された非脆弱性ガラス試料に関する圧縮応力プロファイルの例
図6】500μmの厚さを有するガラスに関する圧縮応力プロファイルの例
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、図面中に示されている複数の視野全体を通して、同様の参照記号は、同様の又は対応する部分を示す。また、そうでないことが明記されていない限り、「上部(top)」、「底部(bottom)」、「外側(outward)」、「内側(inward)」等の用語は、便宜上の単語であり、限定的な用語として解釈されるものではないことも理解されたい。更に、あるグループが、複数の要素のグループのうちの少なくとも1つ及びその組み合わせを含むものとして記載されている場合は常に、上記グループは、列挙されているこれらの要素のうちの、独立した又は互いに組み合わされたいずれの個数の要素を含むか、本質的にこれらからなるか、又はこれらからなってよいものと理解される。同様に、あるグループが、複数の要素のグループのうちの少なくとも1つ又はその組み合わせからなるものとして記載されている場合は常に、上記グループは、列挙されているこれらの要素のうちの、独立した又は互いに組み合わされたいずれの個数の要素からなってよいものと理解される。そうでないことが明記されていない限り、値の範囲が列挙されている場合、これは、上記範囲の上限及び下限の両方、並びに上限と下限との間のいずれの範囲を含む。本明細書において使用される場合、名詞は、そうでないことが明記されていない限り、「少なくとも1つの(at least one)」又は「1つ又は複数の(one or more)」の対象を指す。また、明細書及び図面中で開示される様々な特徴は、いずれの及びあらゆる組み合わせで使用できることも理解される。
【0014】
本明細書において使用される場合、「ガラス物品(glass article)」及び「複数のガラス物品(glass articles)」は、全体又は一部がガラス製のいずれの対象を含むよう、その最も広い意味で使用される。そうでないことが明記されていない限り、全ての組成はモルパーセント(モル%)で表される。
【0015】
用語「略、実質的に(substantially)」及び「約(about)」は本明細書において、いずれの量的比較、値、測定値又は他の表現に属し得る、不確定性の固有の度合いを表すために利用できることに留意されたい。これらの用語はまた、本明細書において、ある量的表現が、問題とされている主題の基本的な機能に変化をもたらすことなく、明記された基準値から変動し得る度合いを表すためにも利用される。従って「MgOを実質的に含まない」ガラスは、MgOがガラス中に積極的には添加又はバッチ化されないものの、汚染物質としてごく少量(例えば約0.1モル%未満)だけ存在し得るガラスである。
【0016】
図面全体及び特に図1を参照すると、これらの図は特定の実施形態を説明する目的のものであり、本開示又は本開示に添付の請求項を制限することを意図したものではないことが理解されるだろう。これらの図面は必ずしも正確な縮尺ではなく、明瞭さ及び簡潔さのために、図面の特定の特徴及び特定の視野を、縮尺に関して誇張して、又は概略的に示す場合がある。
【0017】
本明細書において記載するのは、超深(super-deep)」DOLを有する化学強化ガラス、即ち表面応力/FSM測定によって決定された、約120μm超の圧縮層深さ、いくつかの実施形態では、標準偏差およそ4μmで約140μm超の圧縮層深さ(本明細書では「FSM_DOL」又は単に「DOL」と呼ぶ)を有するガラス試料である。いくつかの実施形態では、DOLは、標準偏差約10μmで約186μmであってよい。
【0018】
本明細書に記載のガラスは、イオン交換性アルカリアルミノシリケートガラスであり、上記イオン交換アルカリアルミノシリケートガラスは、いくつかの実施形態では、当該技術において公知のスロットドロー又はフュージョンドロープロセス等のダウンドロープロセスによって成形可能である。特定の実施形態では、このようなガラスは、少なくとも約100キロポアズ(kP)(約10kPa・s)又は少なくとも約130kP(約13kPa・s)の液相粘度を有してよい。一実施形態では、上記アルカリアルミノシリケートガラスはSiO、Al、P及び少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(RO)を含み、ここで0.75≦[(P(モル%)+RO(モル%))/M(モル%)]≦1.2であり、M=Al+Bである。いくつかの実施形態では、上記アルカリアルミノシリケートガラスは:約40モル%~約70モル%のSiO;0モル%~約28モル%のB;0モル%~約28モル%のAl;約1モル%~約14モル%のP;及び約12モル%~約16モル%のRO、並びに特定の実施形態では:約40~約64モル%のSiO;0モル%~約8モル%のB;約16モル%~約28モルの%Al;約2モル~約12モル%のP;及び約12モル%~約16モル%のROを含むか、又は本質的にこれらからなる。いくつかの実施形態では、11モル%≦M≦30モル%であり;いくつかの実施形態では、13モル%≦RO≦30モル%であり、ここでROは、ガラス中に存在するアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び遷移金属一酸化物の総和であり;更に他の実施形態では、上記ガラスはリチウム非含有である。これらのガラスは、Dana Craig Bookbinderらによる2011年11月28日出願の米国特許出願第13/305,271号明細書「Ion Exchangeable Glass with Deep Compressive Layer and High Damage Threshold」に記載されており、これは2010年11月30日出願の同一のタイトルを有する米国仮特許出願第61/417,941号明細書の優先権を主張するものであり、これらの内容は参照によりその全体が本出願に援用される。
【0019】
特定の実施形態では、上記アルカリアルミノシリケートガラスは、少なくとも約4モル%のPを含み、ここで(M(モル%)/RO(モル%))<1であり、M=Al+Bであり、ROはアルカリアルミノシリケートガラス中に存在する1価及び2価のカチオン酸化物の総和である。いくつかの実施形態では、上記1価及び2価のカチオン酸化物は、LiO、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、上記ガラスは、リチウム非含有であり、約40モル%~約70モル%のSiO;約11モル%~約25モル%のAl;約4モル%~約15モル%のP;約13モル%~約25モル%のNaO;約13モル%~約30モル%のRO(ここでROは、ガラス中に存在するアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び遷移金属一酸化物の総和である);約11モル%~約30モル%のM(ここでM=Al+B);0モル%~約1モル%のKO;0モル%~約4モル%のB;並びに3モル%以下の、TiO、MnO、Nb、MoO、Ta、WO、ZrO、Y、La、HfO、CdO、SnO、Fe、CeO、As、Sb、Cl及びBrのうちの1つ又は複数から本質的になり、上記ガラスはリチウム非含有であり、また1.3<[(P+RO)/M]≦2.3であり、ここでROはガラス中に存在する1価のカチオン酸化物の総和である。上記ガラスは、Timothy M. Grossによる2012年11月15日出願の米国特許第9,156,724号明細書「Ion Exchangeable Glass with High Crack Initiation Threshold」、及びTimothy M. Grossによる2012年11月15日出願の米国特許第8,756,262号明細書「Ion Exchangeable Glass with High Crack Initiation Threshold」に記載されており、上記特許は両方とも、2011年11月16日出願の米国仮特許出願第61/560,434号明細書に対する優先権を主張するものである。上記特許及び出願の内容は参照によりその全体が本出願に援用される。
【0020】
超深DOLを有するガラス試料を、異なる「被毒(poisoning)」レベルを有するイオン交換浴(即ちナトリウム塩に「被毒」したカリウム塩の浴)中で化学強化し、これらのうちの多数は、中央張力CT限界(これを超えると脆弱性挙動(衝撃又は損傷を受けた際の爆発性又はエネルギ性の破砕)が通常観察される)であると考えられていたものを超えているにもかかわらず、上記挙動を呈しないことが分かり、これにより、これらの場合において合計エネルギ基準が脆弱性を推進することを確認した。従って上記ガラスは、この非脆弱性挙動が予期されないレジームにおいてこのような挙動を呈しない。
【0021】
脆弱性挙動は:強化ガラス物品(例えばプレート又はシート)の、複数の小片(例えば≦1mm)への破壊;ガラス物品の単位面積当たりの、形成された断片の数;ガラス物品中の初期割れから分岐した複数の割れ;少なくとも1つの断片の、元の位置から指定距離(例えば約5cm又は約2インチ(5.08センチメートル))までの激しい排出(ejection);並びに上述の破壊挙動(サイズ及び密度)、割れ挙動、及び排出挙動のいずれの組み合わせ、のうちの少なくとも1つを特徴とする。本明細書において使用される場合、用語「脆弱性挙動」及び「脆弱性」は、コーティング、接着材層等といったいずれの外的制限物が存在しない強化ガラス物品の、激しい又はエネルギ性の破砕のモードを指す。コーティング、接着材層等を本明細書に記載の強化ガラス物品と組み合わせて使用してよいが、このような外的制限物は、ガラス物品の脆弱性又は脆弱性挙動の決定の際には使用されない。
【0022】
強化ガラス物品の脆弱性挙動及び非脆弱性挙動は、例えばタングステンカーバイドチップを用いたスクライブといった器具を使用した点衝撃試験によって決定してよく、上記器具は、強化ガラス物品内に存在する内部に貯蔵されたエネルギを解放するのにちょうど十分な力によってガラス物品の表面に送達される。即ち、点衝撃力は、強化ガラスシートの表面に少なくとも1つの新しい割れを生成し、上記割れを圧縮応力CS領域(即ち層深さ)を通って中央張力CT下にある領域へと延伸させるのに十分なものである。
【0023】
従って、本明細書に記載の化学強化ガラスは、「非脆弱性」であり、即ちこれらは、鋭利な物体による衝撃を受けた場合に上述のような脆弱性挙動を呈しない。
【0024】
本明細書において記載するのは、化学強化ガラス物品であり、これに関して、FSM_DOL>0.1・tであり、いくつかの実施形態ではFSM_DOL>0.15・tであり、ここでtは試料の厚さである。上記ガラスを、約30重量%超のナトリウム塩(NaNO等)に「被毒」したカリウム塩を含有するイオン交換浴中で強化する。上記厚さtは約400μm(0.4mm)~約2000μm(2mm)である。
【0025】
試料はまた、2段階イオン交換(二重IOX)プロセスを用いて強化して、ガラスの表面における圧縮応力を更に増大させることによって、表面に表面下約30μmの深さまで延在する圧縮応力「スパイク」、及び約150μmの「超深」DOLを、脆弱性を示すことなく生成できる。
【0026】
スパイクと、120μm超、いくつかの実施形態では約140μm~約150μmの、FSM測定した層深さFSM_DOL、更に他の実施形態では、少なくとも約186μmに到達する可能性のあるFSM_DOLとを有する、二重IOXプロセスを用いた超深DOL試料を提供する。スパイクを有するこれらの二重イオン交換試料は、約800MPa~約900MPaにおいて最大となる圧縮応力を有し、脆弱でない。
【0027】
圧縮応力CS及び層深さDOLは、当該技術分野で公知の手段を用いて測定される。このような手段は、株式会社ルケオ(日本、東京)製のFSM‐6000等の市販の機器を用いた表面応力の測定(FSM)を含むがこれに限定されず、圧縮応力及び層深さを測定する方法は、「化学強化フラットガラスに関する標準仕様」というタイトルのASTM1422C‐99、及びASTM1279.19779「アニーリング、熱強化及び完全強化されたガラスにおける縁部及び表面応力の非破壊光弾性測定のための標準的試験方法」に記載されており、これらの内容は参照によりその全体が本出願に援用される。表面応力測定は、応力光係数(SOC)の正確な測定によるものであり、これはガラスの複屈折に関連する。SOCは、繊維法及び4点屈曲法(上記2つの方法は両方とも、「ガラス応力光係数の測定のための標準的試験方法」というタイトルのASTM規格C770‐98(2008年)に記載されており、その内容は参照によりその全体が本出願に援用される)並びにバルクシリンダ法といった、当該技術分野で公知の方法によって測定される。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「DOL」及び「FSM_DOL」は、表面応力測定によって決定される圧縮層の深さを指す。
【0029】
圧縮応力層がガラス内のより深い深さまで延在する強化ガラス物品に関して、FSM技術は、観察されるDOL値に影響を与えるコントラストの問題を抱える。比較的深い圧縮層深さにおいては、TEスペクトルとTMスペクトルとの間に不適切なコントラストが存在し得、従ってTM偏光及びTE偏光に関する結合光学モードのスペクトル間の差の計算、並びにDOLの正確な決定がより困難になる。更に、FSMソフトウェア分析は圧縮応力プロファイル(即ちガラス内の深さの関数としての圧縮応力の変動)を決定できない。加えて、FSM技術は、例えばナトリウムのリチウムとのイオン交換等のガラス中の特定の元素のイオン交換から生じた層深さを決定できない。
【0030】
FSMによって決定されるDOLは、上記DOLが厚さtのうちの小さな画分rであり、インデックスプロファイルが単純な線形切頂プロファイルにある程度良好に近似した深度分布を有する場合、圧縮深さ(DOC)に比較的良好に近似する。上記DOLが、DOL≧0.1・t等、上記厚さの大部分である場合、DOCは殆どの場合DOLより著しく小さい。例えば線形切頂プロファイルの理想的な場合では、関係DOC=DOL・(1-r)が保持され、ここでr=DOL/tである。
【0031】
IWKB_DOL又はDOCL(圧縮深さ層)としても公知の圧縮深さPhysical_DOLは、逆Wentzel‐Kramers‐Brillouin(IWKB)法を用いて、TM偏光及びTE偏光に関する結合光学モードのスペクトルから決定される。本明細書において使用される場合、Physical_DOLは、応力がガラス内部で実質的にゼロとなる深さを指す。このPhysical_DOLは典型的には、一重イオン交換プロセスに関してFSM機器によって測定されたFSM_DOLより小さい。二重イオン交換プロセスに関して、測定されたFSM_DOLは、機器の性質及び処理アルゴリズムにより、信頼できる計量ではない。
【0032】
イオン交換ガラスにおける応力プロファイルの形状及び値は、公知の脆弱性限界によって限定される。この脆弱性限界は通常、位置xにあるガラスの中央における引張応力の値(ここでx=厚さ/2)である中央張力CTを用いて表現される。中央張力CTは、IOXプロセス中に試料によって誘発される応力のバランスにより、自然に生じる。プロファイルの圧縮部の各点における応力の積分又総和は、プロファイルの引張部の各点における応力の積分又総和と同等でなければならないため、上記試料は平坦であり湾曲していない。
【0033】
一重IOX(SIOX)プロファイルを想定する場合、拡散は、典型的な相補誤差関数によって導かれる。物理的CTは、図1に示すように、ガラスの厚さに伴って変動する。
【0034】
図1では、SIOXに関する試料の厚さの関数として見出された物理的中央張力限界の典型的な値が示されている。曲線を図1のデータにフィットさせて、厚さ200μm~1200μmにおいて他の物理的中央張力値を決定できる。以下の等式を用いて、典型的な物理的C値が厚さtに伴ってどのように変動するかを記載でき、これはマイクロメートルで表現される:
CT=-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994 (1)
DIOXプロファイルを用いて超深DOL試料を作製できる値の範囲を見出そうとする際の、別の重要なパラメータは、弾性エネルギの概念である。二重イオン交換(DIOX)プロセスに供されたガラス試料の典型的な応力プロファイルを、図2に概略的に示す。表面に貯蔵されたエネルギは圧縮状態にあり、試料の内部に貯蔵されたエネルギは張力である。合計エネルギE合計は、試料の表面におけるエネルギと内部のエネルギE内部との総和である。図2に示す等式における因数2は、ガラスの両側を統合して考慮する必要があることを示す。図2に示す応力プロファイルは、第1のIOXステップによるテール、及び第2のIOXステップによる「スパイク」を有する。スパイクの位置は、応力の傾斜の大きさ(即ち絶対値)が約20MPa/μm超まで増大する場所で発生する。
【0035】
応力プロファイルによって貯蔵される弾性エネルギは、等式
【0036】
【数1】
【0037】
に従って計算され、ここでνはポワソン比(例示的なガラスでは0.22)、Eはヤング率(例示的なガラスでは約68GPa)であり、σは応力である。
【0038】
各圧縮領域(各外面上に1つ)における(ガラスの単位面積当たりの)弾性エネルギは:
【0039】
【数2】
【0040】
である。
【0041】
ガラス基板の圧縮深さから中央までの張力領域における弾性エネルギは:
【0042】
【数3】
【0043】
である。
【0044】
基板内に貯蔵された合計弾性エネルギは、単一の圧縮領域及び半分の張力領域の弾性エネルギの総和の2倍である:
【0045】
【数4】
【0046】
等式2~5に見られる数量に関する単位は:
応力に関して:
【0047】
【数5】
【0048】
深さに関して:
【0049】
【数6】
【0050】
及び
(基板の単位面積当たりの)弾性エネルギに関して:
【0051】
【数7】
【0052】
である。
【0053】
別の計量は、基板の単位面積当たり、及び基板の単位厚さ当たりの弾性エネルギであり、これはJ/m・mmによって表現される。ガラス試料の厚さと無関係であるため、これはより普遍的なパラメータである。基板の厚さ当たりの弾性エネルギは、50μm~2000μmの厚さから有効である。
【0054】
一実施形態では、脆弱性を、正規化された合計エネルギの形態で導入してよく、これは以下のように定義される:
【0055】
【数8】
【0056】
上述の概念に基づき、複数の二重IOX実験を0.8mm厚のアルカリアルミノシリケートガラスに対して実施した。上記アルカリアルミノシリケートガラスは、米国特許出願第13/305,271号明細書に記載されており、約57モル%のSiO、0モル%のB、約17モル%のAl、約7%のP、約17モル%のNaO、約0.02モル%のKO、及び約3モル%のMgOの公称組成を有する。ここで、IWKBベースのアルゴリズムを用いた詳細な応力プロファイル抽出を採用した。この方法は、Douglas C. Allanらによる2012年5月3日出願の米国特許第9,140,543号明細書「Systems and Methods for Measuring the Stress Profile of Ion-Exchanged Glass」に記載されており、上記特許は、2011年5月25日出願の同一のタイトルを有する米国仮特許出願第61/489,800号明細書からの優先権を主張するものであり、これらの内容は参照によりその全体が本出願に援用される。上述の手順により、近似された物理的応力プロファイルを抽出でき、また応力が圧縮応力から引張応力へと実質的に遷移してゼロとなるPhysical_DOL又は圧縮層深さ(DOCL)を正確に示すことができた。試料を横断する引張力及び圧縮力を平衡させることにより、物理的張力CTを算出してよい。更に、圧縮及び引張における弾性エネルギ、並びに合計弾性エネルギを近似することもできる。いくつかの実施形態では、Physical_DOLは、0.8・t超であり、いくつかの実施形態では0.12・t超である。
【0057】
二重又は2段階IOXプロセスによって得られた超深DOLの例を、表1a及び1bに示す。表1aは、(浴の組成、温度、イオン交換時間)第1及び第2のイオン交換浴に関するパラメータ、並びに各イオン交換ステップ後にFSMによって測定された圧縮応力CS及び層深さDOLを含む。表1bは:試料の脆弱性;IWKB処理によって決定された圧縮深さDOC、圧縮応力CS、及び物理的中央張力CT;圧縮エネルギ、引張エネルギ、及び合計エネルギ;並びに厚さに関して正規化された合計エネルギを列挙する。この表に示されたガラス試料はそれぞれ、800μmの厚さ、及び既に上述した組成を有していた。表1a及びbに示した全ての試料は非脆弱性であり、IWKB法により決定された物理的CTが、既に報告されている800μm厚のガラスに関するCT脆弱性限界CTmax=-45MPaを超える、いくつかの試料を含んでいた。これらの試料では、試料内の弾性エネルギがより精密に追跡され、また、プロセスパラメータの正確な範囲、並びに第1及び第2のイオン交換ステップのCS及びDOLの応力プロファイル目標を標的にすれば、これまでは達成不可能と考えられていた超深層深さ及び圧縮深さを達成できる。
【0058】
【表1a】
【0059】
【表1b】
【0060】
第1のイオン交換ステップに関してFSM-6000機器を用いて測定した層深さDOL1は136.6μm~180.4μmであり、圧縮応力CS1は189MPa~245MPaであった。第2のIOXステップ後、CSピーク又はスパイクは852MPa~890MPaであった。上記スパイクは、表面から約10μm~約11μmの深さまで延在する。ピーク幅は、実際のところ、第2のIOX浴中での浸漬時間に応じてある程度制御できる。試料中に貯蔵される弾性エネルギに応じて、スパイク領域に関して約1μm~25μm、いくつかの実施形態では最高約30μmのピーク幅が可能である。
【0061】
上記の組成を有する800μm厚のガラス試料に関して、物理的CT及び弾性エネルギの概念に基づいて2つの関心領域が特定された。第1の関心領域が図3に示されており、これは、ポワソン比ν=65GPa及びヤング率E=65GPaを有するガラスに関する関心領域のマップである。図3の上側の線Aは、存在すると考えられてきた脆弱性限界であり、800μm厚の試料に関してCT=-45MPaである。図3の線は正規化された合計エネルギであり、これは2乗した応力の積分である。線Bは、E合計=11.65MPa・μm×10の値を有する下限であり、正規化されていない合計エネルギE合計=139.8J/mに対応する。厚さを正規化すると、厚さt=0.8mmに関して(E合計/t)=174.75J/m・mmとなり、これは厚さに依存しないより普遍的な値である。関心領域は、線Aと線Bとの間の領域であり、また厚さt=800μmに関して物理的CT>|45MPa|及びE合計<139.8J/mである領域であると記述できる。一般的な厚さに関して、独立した物理的CTは、|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|より大きく、ここでtはマイクロメートルで表された厚さであり、(E合計/t)=174.75J/m・mmであり、ここでtは、ミリメートルで表現された、いずれの二重IOXプロファイルに関して同一の厚さである。図3の線AとBとの間の領域によって記述されるパラメータは、第1のIOXステップの被毒レベル及びイオン交換時間を記述する。第2の関心領域は、ポワソン比ν=65GPa及びヤング率E=65GPaを有する本明細書に記載のガラスに関する関心領域のマップを示す図4を活用して、視覚化できる。上側の線Cは、存在すると考えられてきた脆弱性限界であり、800μm厚の試料に関してCT=-45MPaである。線Dは、張力下にある試料の内部に貯蔵された正規化されたエネルギE内部であり、これは、応力がゼロを通る点から試料の中央までの応力を2乗して、試料の両側を考慮するために2倍したものの積分である。図4の線Dは、値E内部=2MPa・μm×10を有する下限であり、これは正規化されていない合計エネルギE内部=24J/mに対応する。厚さt=800μmに関して厚さを正規化すると(E内部/t)=30J/m・mmとなり、これは厚さに依存しないより普遍的な値となる。請求される関心対象は、線Cと線Dとの間の領域であり、これは、CTが、図1に含まれる等式及び(E内部/t)<30J/m・mmより大きい領域として記述でき、これは大抵の厚さに関して有効である。あるいは、図4の線Cと線Dとの間の領域において記述されるパラメータは、第1のIOXステップの被毒レベル及びイオン交換時間を記述する。この領域もやはり、限界線Cと黒色のDとの間の関心領域を示し、厚さt=800μmに関して物理的CT>|45MPa|及びE内部<24J/mである領域であると記述できる。あるいは、一般的な厚さに関して、独立した物理的CTは、>|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|であり、ここでtは、マイクロメートルにおける厚さであり、いずれの二重、又は2段階IOXプロファイルに関して(E内部/t(mm))=30J/m・mmである。
【0062】
また、図5に示すように、より長いIOX時間を用いて、超深DOLを有する更なる非脆弱性試料を得た。図5は、57重量%のNaNOを含有し、残部である53重量%がKNOである浴を使用して、460℃の温度において32.1時間の第1のIOXステップによって得られた、超深IOX非脆弱性応力プロファイルの例を示す。この後、0.5重量%のNaNO+0.5重量%のケイ酸+99%のKNOを含有する浴中での15分(0.25時間)の第2のIOXが続き、これによってスパイクが得られる。逆WKB(IWKB)手順を用いて、応力プロファイルの近似を再試行した。有限差分近似IOXモデルも用いて、理論と測定との良好な一致を得た。IWKB及びIOXモデルによって指摘されるように、応力がゼロを通過する圧縮層深さDOCLは約130μmであった。この場合、FSM-6000を用いて得られた値は、CS=890.3MPa及びDOL=180.4μmであった。DOL=120μm~DOL=200μm、いくつかの実施形態ではDOL=140μm~150μmの値の範囲は、超深DOL試料と見做すことができる。この超深IOX応力プロファイルはやはり非脆弱性である。
【0063】
厚さ500μmにおいて、超深IOXプロファイルの他の例も得た。ここでは、60%のNaNO及び40%のKNOを含有する浴中での、460℃における21時間の第1のIOXステップ後に、非脆弱性応力プロファイルが生成され、146-149μmのFSM-6000 DOL及び177MPaのCSが得られた。IWKB手順を用いて、測定された95.8μmのDOCL、60MPaのCT、10.5J/mのE内部又は21J/m・mの(E内部/t)及び30J/mの合計エネルギE合計又は上限174.75J/m・mmをはるかに下回る60J/m・mmの(E合計/t)を有する応力プロファイルを特性決定した。この例を図6に示す。上記の例に記載したような超深DOLを維持しながらスパイクも含むDIOX応力プロファイルを、この例に基づいて設計できる。例えば、わずかに高いレベル(61重量%)のNaNOを有するNaNO/KNOイオン交換浴を使用した、460℃で30時間にわたる第1のイオン交換ステップを伴うDIOXプロセスを、上述のスパイクプロセスと組み合わせて、例えば500μm厚のガラスに対して使用し、96.9MPaの物理的中央張力CT、173.8J/m・mmの合計エネルギ(E合計/t)、194μmのFSM-6000 DOL、91.4μmのDOCL、及び823MPaのCSを有する非脆弱性ガラスを得てよい。DIOXプロセスの別の実施形態では、上述のスパイクプロセスと組み合わせた、65重量%のNaNOを含有するNaNO/KNOイオン交換浴中での460℃における30時間の第1のIOXステップにより、85MPaの物理的中央張力CT、29.4J/m・mのE内部/t、164J/m・mmの合計エネルギE合計/t、194μmのFSM-6000 DOL、88.4μmのDOCL、及び835MpaのCSを有する非脆弱性ガラスが得られる。
【0064】
別の態様では、厚さtを有するガラス物品を強化する方法を提供する。上記方法は、上記ガラス物品を、カリウム塩及び少なくとも30重量%のナトリウム塩を含む第1のイオン交換浴中でイオン交換するステップを含み、これにより、上記ガラス物品の表面から0.1・t、又は圧縮深さDOCを超える層深さFSM_DOLまで延在する圧縮層と、引張領域層深さ又は圧縮深さから、t/2にあるガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域とを形成する。上記圧縮層は、表面において、約100MPa~約400MPaの圧縮応力CS1を有する。第2のステップでは、上記ガラス物品を、少なくとも90重量%のカリウム塩を含む第2のイオン交換浴中でイオン交換し、これにより、上記表面から上記表面下の約1μm~約30μmの深さまで延在する上記スパイク領域を形成する。上記スパイク領域は、表面において約500MPa超の最大圧縮応力CSを有し、上記スパイク領域における応力プロファイルは、約20MPa/μm超の絶対値を有する傾斜を有する。この方法に従って強化された上記ガラス物品は非脆弱性である。
【0065】
例示を目的として典型的な実施形態を明らかにしたが、以上の説明を、本開示又は添付の請求項の範囲に対する限定であると考えてはならない。従って、本開示及び添付の請求項の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正例、適合例及び代替例が当業者に想起され得る。
【0066】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0067】
実施形態1
厚さtと、t/2にある中央と、上記ガラス物品の表面から0.1・t超の層深さDOLまで延在する圧縮層とを有するガラス物品であって、
ここでtはガラスの厚さであり、
上記ガラス物品は、上記表面の約500MPa超の最大圧縮応力CSと、上記表面から上記表面下の約30μmまでのスパイク領域を有する応力プロファイルとを有し、
上記スパイク領域における上記応力プロファイルは、傾斜を有し、
上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する、ガラス物品。
【0068】
実施形態2
上記ガラスは、非脆弱性である、実施形態1に記載のガラス物品。
【0069】
実施形態3
上記圧縮層は、0.8・t超のPhysical_DOLを有する、実施形態1に記載のガラス物品。
【0070】
実施形態4
上記最大圧縮応力CSは、約700MPa超である、実施形態1に記載のガラス物品。
【0071】
実施形態5
上記スパイク領域は、上記表面から上記表面下の約8μm~約15μmの深さまで延在する、実施形態1に記載のガラス物品。
【0072】
実施形態6
上記厚さtは0.8mmであり、上記層深さDOLは約120μm超であり、上記最大圧縮応力は約700MPa超である、実施形態1に記載のガラス物品。
【0073】
実施形態7
上記ガラス物品は、上記層深さ又は上記圧縮深さから、上記ガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有し、
上記物理的中央張力CTは、|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|より大きい、実施形態1に記載のガラス物品。
【0074】
実施形態8
上記ガラス物品は、アルカリアルミノシリケートガラスを含む、実施形態1に記載のガラス物品。
【0075】
実施形態9
上記アルカリアルミノシリケートガラスは、少なくとも約4モル%のP及び0モル%~約5モル%のBを含み、
1.3<[(P+RO)/M]≦2.3であり、
=Al+Bであり、
Oは上記アルカリアルミノシリケートガラス中に存在する1価のカチオン酸化物の総和である、実施形態8に記載のガラス物品。
【0076】
実施形態10
上記ガラスは:約40モル%~約70モル%のSiO;約11モル%~約25モル%のAl;0モル%~約5モル%のB;約4モル%~約15モル%のP;約13モル%~約25モル%のNaO;及び0モル%~約1モル%のKOを含む、実施形態9に記載のガラス物品。
【0077】
実施形態11
11モル%≦M≦30モル%である、実施形態9に記載のガラス物品。
【0078】
実施形態12
Oは、上記ガラス中に存在するアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び遷移金属一酸化物の総和であり、
13モル%≦RO≦30モル%である、実施形態9に記載のガラス物品。
【0079】
実施形態13
上記ガラス物品は、リチウム非含有である、実施形態8に記載のガラス物品。
【0080】
実施形態14
約0.4mm~約1.5mmの厚さt;t/2にある中央;ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;及び上記層深さ又は上記圧縮深さから、上記中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有する、ガラス物品であって:
a.上記物理的中央張力CTは、|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|より大きく;
b.上記ガラス物品は、上記ガラスの厚さに対して正規化された合計弾性エネルギ合計を有し、ここで(E合計/t)=174.75J/m・mmであり、
上記ガラス物品は非脆弱性である、ガラス物品。
【0081】
実施形態15
上記厚さは0.8mmであり、上記物理的中央張力CTは|45MPa|より大きく、上記合計弾性エネルギE合計は約139.8J/mより小さい、実施形態14に記載のガラス物品。
【0082】
実施形態16
上記厚さは0.5mmであり、上記物理的中央張力CTは|63MPa|より大きく、上記合計弾性エネルギE合計は87.4J/mより小さい、実施形態14に記載のガラス物品。
【0083】
実施形態17
約0.4mm~約1mmの厚さt;ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;t/2にある中央;及び上記層深さ又は上記圧縮深さから、上記ガラスの上記中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有する、ガラス物品であって:
a.上記物理的中央張力CTは、|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|より大きく;
b.上記ガラス物品は、張力下の試料の内部に貯蔵された弾性エネルギE内部を有し、
(E内部/t)=30J/m・mmである、ガラス物品。
【0084】
実施形態18
上記厚さは0.8mmであり、上記物理的中央張力CTは|45MPa|より大きく、E内部は約24J/mより小さい、実施形態17に記載のガラス物品。
【0085】
実施形態19
上記厚さは0.5mmであり、上記物理的中央張力CTは|63MPa|より大きく、E内部は18J/mより小さい、実施形態17に記載のガラス物品。
【0086】
実施形態20
第1のイオン交換ステップ及び第2のイオン交換ステップを含む2段階イオン交換プロセスによって強化される、ガラス物品であって、
上記ガラス物品は:約0.4mm~約1mmの厚さt、t/2にある中央;上記ガラス物品の表面から層深さDOL又は圧縮深さDOCまで延在する圧縮層;及び上記層深さから上記ガラス物品の中央まで延在する物理的中央張力CT下の引張領域を有し、
上記ガラス物品は、上記第1のイオン交換ステップ後、上記表面の100MPa~400MPaの圧縮応力CS1と、0.1・t超、又はいくつかの実施形態では0.15・t超の層深さFSM_DOLとを有し、上記第2のイオン交換ステップ後、表面の約500MPa超の圧縮応力CS2と、上記表面から約30μmまでの範囲にスパイク領域を有する応力プロファイルとを有し、
上記スパイク領域における上記応力プロファイルは傾斜を有し、上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する、ガラス物品。
【0087】
実施形態21
上記ガラスは、非脆弱性である、実施形態20に記載のガラス物品。
【0088】
実施形態22
上記圧縮層は、0.8・t超のPhysical_DOLを有する、実施形態20に記載のガラス物品。
【0089】
実施形態23
上記最大圧縮応力CSは、約700MPa超である、実施形態20に記載のガラス物品。
【0090】
実施形態24
上記スパイク領域は、上記表面から上記表面下の約8μm~約15μmの深さまで延在する、実施形態20に記載のガラス物品。
【0091】
実施形態25
上記厚さtは0.8mmであり、上記層深さDOLは約120μm超であり、上記最大圧縮応力は約700MPa超である、実施形態20に記載のガラス物品。
【0092】
実施形態26
上記ガラス物品は、上記層深さ又は上記圧縮深さから、t/2にある上記ガラスの中央まで延在する、物理的中央張力CT下の引張領域を有し、
上記物理的中央張力CTは、|-1.956×10-16×t+1.24274×10-12×t-3.09196×10-9×t+3.80391×10-6×t-2.35207×10-3×t+5.96241×10-1×t+36.5994|より大きい、実施形態20に記載のガラス物品。
【0093】
実施形態27
上記ガラス物品は、アルカリアルミノシリケートガラスを含む、実施形態20に記載のガラス物品。
【0094】
実施形態28
上記アルカリアルミノシリケートガラスは、少なくとも約4モル%のP及び0モル%~約5モル%のBを含み、
1.3<[(P+RO)/M]≦2.3であり、
=Al+Bであり、
Oは上記アルカリアルミノシリケートガラス中に存在する1価のカチオン酸化物の総和である、実施形態27に記載のガラス物品。
【0095】
実施形態29
上記ガラスは、約40モル%~約70モル%のSiO;約11モル%~約25モル%のAl;0モル%~約5モル%のB;約4モル%~約15モル%のP;約13モル%~約25モル%のNaO;及び0モル%~約1モル%のKOを含む、実施形態28に記載のガラス物品。
【0096】
実施形態30
11モル%≦M≦30モル%である、実施形態28に記載のガラス物品。
【0097】
実施形態31
Oは、上記ガラス中に存在するアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び遷移金属一酸化物の総和であり、
13モル%≦RO≦30モル%である、実施形態28に記載のガラス物品。
【0098】
実施形態32
上記ガラス物品は、リチウム非含有である、実施形態27に記載のガラス物品。
【0099】
実施形態33
厚さt及び応力プロファイルを有するガラス物品を強化する方法であって、
上記方法は:
a.カリウム塩及び少なくとも30重量%のナトリウム塩を含む第1のイオン交換浴中で上記ガラス物品をイオン交換して、上記ガラス物品の表面から0.1・t超の層深さFSM_DOL又は圧縮深さDOCまで延在し、表面の約100MPa~約400MPaの圧縮応力CS1を有する、圧縮層と、上記層深さ又は上記圧縮深さからt/2にある上記ガラス物品の中央まで延在する物理的中央張力CT下の引張領域とを形成する、ステップ;並びに
b.少なくとも90重量%のカリウム塩を含む第2のイオン交換浴中で上記ガラス物品をイオン交換して、上記表面から上記表面下約30μmの深さまで延在するスパイク領域を形成する、ステップであって、上記スパイク領域は、表面において、約500MPa超の最大圧縮応力CSを有し、上記スパイク領域における上記応力プロファイルは傾斜を有し、上記傾斜は、約20MPa/μm超の絶対値を有する、ステップ
を含む、方法。
【0100】
実施形態34
上記ガラスは、上記第2のイオン交換浴中でのイオン交換後、非脆弱性である、実施形態33に記載のガラス物品。
【0101】
実施形態35
上記圧縮層は、上記第2のイオン交換浴中でのイオン交換後、0.8・t超のPhysical_DOLを有する、実施形態33に記載のガラス物品。
【0102】
実施形態36
上記最大圧縮応力CSは、約700MPa超である、実施形態33に記載のガラス物品。
【0103】
実施形態37
上記スパイク領域は、上記表面から上記表面下の約8μm~約15μmの深さまで延在する、実施形態33に記載のガラス物品。
【0104】
実施形態38
上記厚さtは0.8mmであり、上記層深さDOLは約120μm超であり、上記最大圧縮応力は約700MPa超である、実施形態33に記載のガラス物品。
【0105】
実施形態39
上記ガラス物品は、アルカリアルミノシリケートガラスを含む、実施形態33に記載のガラス物品。
【0106】
実施形態40
上記アルカリアルミノシリケートガラスは、少なくとも約4モル%のP及び0モル%~約5モル%のBを含み、
1.3<[(P+RO)/M]≦2.3であり、
=Al+Bであり、
Oは上記アルカリアルミノシリケートガラス中に存在する1価のカチオン酸化物の合計である、実施形態39に記載のガラス物品。
【0107】
実施形態41
上記ガラスは、約40モル%~約70モル%のSiO;約11モル%~約25モル%のAl;0モル%~約5モル%のB;約4モル%~約15モル%のP;約13モル%~約25モル%のNaO;及び0モル%~約1モル%のKOを含む、実施形態40に記載のガラス物品。
【0108】
実施形態42
11モル%≦M≦30モル%である、実施形態40に記載のガラス物品。
【0109】
実施形態43
Oは、上記ガラス中に存在するアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及び遷移金属一酸化物の総和であり、
13モル%≦RO≦30モル%である、実施形態40に記載のガラス物品。
【0110】
実施形態44
上記ガラス物品は、リチウム非含有である、実施形態39に記載のガラス物品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6