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特許7155376摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタ
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  • 特許-摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタ 図1
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  • 特許-摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20221011BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
F16D7/02 G
F16D41/20 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021173604
(22)【出願日】2021-10-25
【審査請求日】2022-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】尾木 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-071503(JP,A)
【文献】実開昭50-091562(JP,U)
【文献】実開昭59-194633(JP,U)
【文献】スイス国特許出願公開第710467(CH,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
F16D 41/20
G04B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪部材が内側に圧入されて摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材において、筒状の基部と、前記基部の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し
前記ばね部は径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成されて、前記内周面に接続される基端部と、前記内周面から径方向内側に離間した位置で延在し且つ前記基端部に接続される接続部と、前記接続部から延出して内輪部材の外周面に当接する作用端部とを備え、前記ばね部には径方向及び周方向に延在する閉空間部が画成されている、ことを特徴とする外輪部材。
【請求項2】
前記ばね部は周方向に間隔をおいて複数設けられている、請求項に記載の外輪部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外輪部材と、前記外輪部材の内側に圧入されて前記ばね部の内周面と密接する外周面を有する内輪部材とからなるトルクリミッタ。
【請求項4】
外輪部材の内側に圧入されて摩擦式トルクリミッタを構成する内輪部材において、軸状の基部と、前記基部の外周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し
前記ばね部は径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成されて、前記外周面に接続される基端部と、前記外周面から径方向外側に離間した位置で延在し且つ前記基端部に接続される接続部と、前記接続部から延出して外輪部材の内周面に当接する作用端部とを備え、前記ばね部には径方向及び周方向に延在する閉空間部が画成されている、ことを特徴とする内輪部材。
【請求項5】
前記ばね部は周方向に間隔をおいて複数設けられている、請求項に記載の内輪部材。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の内輪部材と、内側に前記内輪部材が圧入されて前記ばね部の外周面と密接する内周面を有する外輪部材とからなるトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦式トルクリミッタの一例としては例えば下記特許文献1に開示されたトルクリミッタがあり、このトルクリミッタは内輪部材と、内輪部材の外周面に接触して装着されるコイルばねと、コイルばねの装着された内輪部材が挿入される筒状の外輪部材とを備えている。内輪部材と外輪部材とは共通の中心軸を有し、コイルばねは外輪部材に相対回転不能に係合されている。そして、内輪部材と外輪部材とを相対的に回転させる中心軸周りの回転トルクが付加されたときは、回転トルクが所定値より大きい場合に、コイルばねと内輪部材との間の摩擦力に打ち勝って外輪部材と内輪部材とが相対的に回転する。上記所定値つまり外輪部材と内輪部材とが相対的に回転を開始する際の回転トルクは「スリップトルク値」と称される。
【0003】
一方、下記特許文献2には、上記コイルばねを用いることなく、円筒形状の外輪部材の内側に軸状の内輪部材を圧入し、相互に密接する外輪部材の内周面と内輪部材の外周面との摩擦力によって上記スリップトルク値が設定されるトルクリミッタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4668706号公報
【文献】特開平6-316346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたトルクリミッタには以下のとおりの問題点がある。即ち、このトルクリミッタは内輪部材、外輪部材、及びコイルばねの3つの部材から構成されるため、部品点数が多く組立工程が煩雑である。また、内輪部材と外輪部材とはコイルばねによって接続されていることから、内輪部材と外輪部材とが相対回転する際にはバックラッシが発生する。上記特許文献2に開示されたトルクリミッタは、上記特許文献1に開示されたトルクリミッタが有する上記問題点をすべて解決するが以下のとおりの問題がある。外輪部材の内側に内輪部材が圧入された際には、内輪部材及び外輪部材は微視的に僅かに弾性変形する。かような弾性変形によって生じる力Fはばね定数kに変位量xを乗じることによって算出され(F=k*x)、力Fに基いて内輪部材の外周面と外輪部材の内周面との間の摩擦力は決定される。内輪部材及び外輪部材は共に完全な剛体ではないものの相当大きな剛性を備えた物体であり、上記変形はかような物体の弾性変形であることから、上記ばね定数kの値は極めて大きい。一方、上記変位量xとはつまり内輪部材の外径と外輪部材の内径との差である「しめしろ」のことである。しめしろは設計値であり、上記特許文献2に開示されたトルクリミッタにおいては、しめしろを調整することでスリップトルク値の大きさが調整される。ここで、しめしろは製造精度のばらつきによって個体ごとでばらつきを生じることから、上記特許文献2に開示されたトルクリミッタにあっては、しめしろに極めて値の大きいばね定数kが乗算されることで、上記力Fつまりスリップトルク値の個体ばらつきが大きくなり、品質管理が難しい。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、部品点数が少なく組立容易であるにも拘わらず、製造精度のばらつきによって生じるスリップトルク値の個体ばらつきを充分に抑制することのできる、新規且つ改良された摩擦式トルクリミッタ又はこれを構成する外輪部材若しくは内輪部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、外輪部材が筒状の基部とこの基部の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し、ばね部が外輪部材の内周面から径方向内側に離間した位置で内周面に沿って延在する接続部を備える、又は内輪部材が軸状の基部とこの基部の外周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し、ばね部が内輪部材の外周面から径方向外側に離間した位置で外周面に沿って延在する接続部を備えることで、上記主たる技術的課題を解決できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の第一の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決する外輪部材として、内輪部材が内側に圧入されて摩擦式トルクリミッタを構成する外輪部材において、筒状の基部と、前記基部の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し
前記ばね部は径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成されて、前記内周面に接続される基端部と、前記内周面から径方向内側に離間した位置で延在し且つ前記基端部に接続される接続部と、前記接続部から延出して内輪部材の外周面に当接する作用端部とを備え、前記ばね部には径方向及び周方向に延在する閉空間部が画成されている、ことを特徴とする外輪部材が提供される。
【0009】
本発明の第一の局面にあっては、記ばね部は周方向に間隔をおいて複数設けられているのが好ましい
【0010】
本発明の第二の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決する内輪部材として、外輪部材の内側に圧入されて摩擦式トルクリミッタを構成する内輪部材において、軸状の基部と、前記基部の外周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有し
前記ばね部は径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成されて、前記外周面に接続される基端部と、前記外周面から径方向外側に離間した位置で延在し且つ前記基端部に接続される接続部と、前記接続部から延出して外輪部材の内周面に当接する作用端部とを備え、前記ばね部には径方向及び周方向に延在する閉空間部が画成されている、ことを特徴とする内輪部材が提供される。
【0011】
本発明の第二の局面にあっては、記ばね部は周方向に間隔をおいて複数設けられているのが好ましい
【発明の効果】
【0012】
本発明では、外輪部材が筒状の基部とこの基部の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有するように構成され、ばね部は外輪部材の内周面から径方向内側に離間した位置で延在する接続部を備えている、又は内輪部材が軸状の基部とこの基部の外周面から延出して径方向に変位可能なばね部とを有するように構成され、ばね部は内輪部材の外周面から径方向外側に離間した位置で延在する接続部を備えていることに起因して、外輪部材の内側に内輪部材が圧入されると、接続部が外輪部材の内周面又は内輪部材の外周面に接続された基端部を基端として弾性的に撓められることから、ばね部のばね定数kを小さく設定することができる。ばね定数kが小さいことで、製造精度のばらつきによってしめしろがばらついてもスリップトルク値の個体ばらつきが過剰に大きくなることはない。それ故に、本発明によれば、部品点数が少なく組立容易であるにも拘わらず、製造精度のばらつきによって生じるスリップトルク値の個体ばらつきを充分に抑制することが可能な摩擦式トルクリミッタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第一の局面に従って構成された外輪部材を備えたトルクリミッタの全体構成を示す図。
図2図1に示すトルクリミッタの分解斜視図。
図3】本発明の第一の局面に従って構成される外輪部材の変形例を示す正面図。リミッタを示す図。
図4】本発明の第二の局面に従って構成された内輪部材を備えたトルクリミッタの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して更に詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2を参照して説明すると、全体を番号2で示すトルクリミッタは、本発明の第一の局面に従って構成された外輪部材4と、内輪部材6とから構成される。図示の実施形態においては、外輪部材4はその全体が適宜の合成樹脂によって一体的に成形される。本発明の第一の局面に従って構成される外輪部材4にあっては、筒状の基部8と、この基部8の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部10とを有する。図示の実施形態においては、基部8は円筒形状であり、基部8の外周面の所要角度位置には径方向外側に突出する回り止め突起12が設けられている。回り止め突起12は軸方向に見て略矩形形状であって基部8の外周面の軸方向全体に渡って直線状に延びている。かかる回り止め突起12を介して外輪部材4は、トルクリミッタ2が接続する図示しない2つの部材のいずれか一方に接続される。
【0016】
図示の実施形態においては、ばね部10は周方向に等角度間隔をおいて4つ設けられており、4つのばね部10は全て同一形状である。ばね部10は外輪部材4の内周面に接続される基端部10aと、内周面から径方向内側に離間した位置で延在し且つ基端部10aに接続される接続部10bと、接続部10bから延出して内輪部材6の外周面に当接する作用端部10cとを備える。ね部10は、径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成され、ばね部10には径方向及び周方向に延在する閉空間部が画成されている。図示の実施形態のばね部10について更に詳述すると、ばね部10の基端部10aは周方向に間隔をおいて配置された第一の片側径方向延出片14x及び第一の他側径方向延出片14yにより構成される。ばね部10の接続部10bは、第一の片側径方向延出片14xの延出端から周方向他側つまり第一の他側径方向延出片14yに向かって外輪部材4の内周面に沿って周方向に円弧状に延びる片側周方向延出片16x及び第一の他側径方向延出片14yの延出端から周方向片側つまり第一の片側径方向延出片14xに向かって外輪部材4の内周面に沿って周方向に円弧状に延びる他側周方向延出片16yから構成される。そして、ばね部10の作用端部10cは、片側周方向延出片16xの延出端から径方向内側に直線状に延出する第二の片側径方向延出片18x及び他側周方向延出片16yの延出端から径方向内側に直線状に延出する第二の他側径方向延出片18yと、第二の片側径方向延出片18xの延出端及び第二の他側径方向延出片18yの延出端が外周面に接続されて外輪部材4の内周面に沿って周方向に円弧状に延在する共通周方向延出片20とから構成される。これにより、ばね部10の内側には周方向に円弧状に延出すると共にその周方向中央において径方向に直線状に延出する閉空間部21が画成されている。共通周方向延出片20の内周面は円弧形状であって、4つのばね部10の夫々が備える共通周方向延出片20の内周面は図2において二点鎖線で示す共通の円c1の周上に位置し、円c1の径をd1とする。
【0017】
内輪部材6は合成樹脂製の中空軸状であって、円筒形状の内輪主部22と内輪主部22の軸方向片側端に接続された内輪接続部24とを有する。内輪主部22の外径は上述した円c1の径d1よりも大きいd2である(d1<d2)。内輪接続部24は、内輪主部22の軸方向片側端から軸方向片側に向かって漸次拡径する円錐台形状部分26と、円錐台形状部分26の軸方向片側端に接続された円筒形状部分28と、円筒形状部分28の軸方向片側端から径方向外側に向かって湾曲せしめられた円環形状のフランジ部分30とを有する。内輪接続部24には、フランジ部分30から円筒形状部分28に跨って且つ内周面から外周面に貫通する切り欠き32が形成されている(必ずしも図面には示されていないが、切り欠き32は直径方向の両側に1つずつ形成されている)。かかる切り欠き32を介して内輪部材6は、トルクリミッタ2が接続する図示しない2つの部材のいずれか他方に接続される。
【0018】
外輪部材4の内側に内輪部材6の内輪主部22が挿入されることによって、両部材は組み合わされる。ここで、外輪部材4が有する全ての共通周方向延出片20の内周面は共通の円c1上に位置してその径はd1であることから、外輪部材4は内径d1の断面円形の内周面を有すると言える。そうすると、内輪部材6の内輪主部22の外径d2は外輪部材4の内径d1よりも大きいことから、外輪部材4の内側に内輪部材6の内輪主部22は圧入されることとなる。
【0019】
ここで、本発明の第一の局面に従って構成された外輪部材4にあっては、基部8の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部10が設けられており、かかるばね部10は外輪部材4の内周面から径方向内側に離間した位置で延在する接続部10bを備えていることに起因して、外輪部材4の内側に内輪部材6が圧入されると、接続部10bが外輪部材4の内周面に接続された基端部10aを基端として撓むことで、作用端部10cが径方向に弾性的に変位してその内周面、図示の実施形態においては共通周方向延出片20の内周面が内輪部材6の内輪主部22の外周面に密接する。
【0020】
上述したとおりにして組み合わされたトルクリミッタ2にあっては、外輪部材4の内周面つまり共通周方向延出片20の内周面と内輪部材6の内輪主部22の外周面とが密接していることから、外輪部材4と内輪部材6とを相対的に回転させる中心軸o周りの回転トルクが付加されたときは、かかる回転トルクが共通周方向延出片20の内周面と内輪部材6の内輪主部22の外周面との密接による摩擦に起因した保持トルクよりも大きい場合に、かかる保持トルクに打ち勝って外輪部材4と内輪部材6とが相対的に回転する。
【0021】
上記保持トルクの大きさ、つまりスリップトルク値は、外輪部材4が有するばね部10のばね力を調整することによって調整される。つまり、ばね部10を構成する径方向延出片(つまり第一の片側径方向延出片14x及び第一の他側径方向延出片14y並びに第二の片側径方向延出片18x及び第二の他側径方向延出片18y)及び周方向延出片(つまり片側周方向延出片16x及び他側周方向延出片16y並びに共通周方向延出片20)の長さ及び幅を適宜に変更することでスリップトルク値を変化させることができる。
【0022】
また、スリップトルク値は、ばね部10を構成する径方向延出片及び周方向延出片の組み合わせ方によっても調整される。図1及び図2に示されたばね部10の構成とは異なる構成のばね部を有する外輪部材の変形例が図3(a)及び)に示されている。図3(a)及び)にあっては、図1及び図2に示される外輪部材4と同一の構成については同一の番号に、図3(a)にあっては「´」を、図3(b)にあっては「´´」を夫々付して示す。図3(a)及び)に示すとおり、径方向延出片及び周方向延出片は適宜に組み合わされてよい
【0023】
上述した実施形態、つまり本発明の第一の局面にあっては、ばね部は外輪部材に設けられていたが、本発明の第二の局面にあっては、ばね部は内輪部材に設けられる。図4には本発明の第二の局面に従って構成された内輪部材を備えたトルクリミッタの分解斜視図が示されている。全体を符号2zで示す本実施形態のトルクリミッタにあっては、外輪部材4zは円筒形状であって断面円形の内周面を有する。一方、内輪部材6zは適宜の合成樹脂により一体的に成形され、軸状の基部8zと、基部8zの外周面から延出して径方向に変位可能なばね部10zとを有し、ばね部10zは外周面に接続される基端部10azと、外周面から径方向外側に離間した位置で外周面に沿って延在し且つ基端部10azに接続される接続部10bzと、接続部10bzから延出して外輪部材4zの内周面に当接する作用端部10czとを備えている。本実施形態においても、ばね部10zは、径方向に延出する径方向延出片及び周方向に延出する周方向延出片を組み合わせて構成されている。図4に示す実施形態のトルクリミッタ2zと図1及び図2に示したトルクリミッタ2とを比較すると、ばね部が外輪部材に設けられているか内輪部材に設けられているかにおいてのみ相違し、その他の構成及び作動に相違はないため詳細な説明については省略する。
【0024】
従って、本発明では、外輪部材4が筒状の基部8とこの基部8の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部10とを有するように構成され、ばね部10は外輪部材4の内周面から径方向内側に離間した位置で延在する接続部10bを備えている、又は内輪部材6zが軸状の基部8zとこの基部8zの外周面から延出して径方向に変位可能なばね部10zとを有するように構成され、ばね部10zは内輪部材6zの外周面から径方向外側に離間した位置で延在する接続部10bzを備えていることに起因して、外輪部材4、4zの内側に内輪部材6、6zが圧入されると、接続部10b、10bzが外輪部材4の内周面又は内輪部材6zの外周面に接続された基端部10a、10azを基端として弾性的に撓められることから、ばね部10、10zのばね定数kを小さく設定することができる。ばね定数kが小さいことで、製造精度のばらつきによってしめしろがばらついてもスリップトルク値の個体ばらつきが過剰に大きくなることはない。それ故に、本発明によれば、部品点数が少なく組立容易であるにも拘わらず、製造精度のばらつきによって生じるスリップトルク値の個体ばらつきを充分に抑制することが可能な摩擦式トルクリミッタを提供することができる。
【0025】
以上、本発明に従って構成された外輪部材及び内輪部材並びに摩擦式トルクリミッタについて、添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においてはばね部が形成された外輪部材(本発明の第一の局面)及び内輪部材(本発明の第二の局面)はいずれも合成樹脂製であったが、ばね部を構成する延出片の肉厚及び長さ等の形状を調整すれば必ずしも材質は合成樹脂に限定されず、金属製とすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
2、2z:トルクリミッタ
4、4z:外輪部材
6、6z:内輪部材
8、8z:基部
10、10z:ばね部
10a、10az:(ばね部の)基端部
10b、10bz:(ばね部の)接続部
10c、10cz:(ばね部の)作用端部
【要約】
【課題】部品点数が少なく組立容易であるにも拘わらず、製造精度のばらつきによって生じるスリップトルク値の個体ばらつきを充分に抑制することのできる、新規の摩擦式トルクリミッタ又はこれを構成する外輪部材若しくは内輪部材を提供すること。
【解決手段】外輪部材4が筒状の基部8とこの基部8の内周面から延出して径方向に変位可能なばね部10とを有し、ばね部10が外輪部材8の内周面から径方向内側に離間した位置で内周面に沿って延在する接続部10bを備える又は内輪部材6zが軸状の基部8zとこの基部8zの外周面から延出して径方向に変位可能なばね部10zとを有し、ばね部10zが内輪部材6zの外周面から径方向外側に離間した位置で外周面に沿って延在する接続部10azを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4