(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】メスシリンジ用バレル、メスシリンジ組立体及びシリンジキット
(51)【国際特許分類】
A61J 1/20 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
A61J1/20 314C
(21)【出願番号】P 2021508528
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013174
(87)【国際公開番号】W WO2020194574
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】沖原 等
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-132349(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163444(WO,A1)
【文献】特開2014-028040(JP,A)
【文献】特表2002-516725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0209555(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0060361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤収容室が形成されたバレル胴部と、前記バレル胴部の先端部から先端方向に延出するとともにオスシリンジ用バレルの先端に設けられたノズルが挿入及び嵌合可能な接続筒部とを備えたメスシリンジ用バレルであって、
前記バレル胴部の先端部は、前記バレル胴部の前記薬剤収容室に対して液体を流入出させるための孔部が形成された開口構造を有し、
前記開口構造は、前記開口構造から前記薬剤収容室に向かう前記液体の断面形状が、前記バレル胴部の中心線を中心とする円形から外れた形状を有するように構成さ
れ、
前記開口構造は、当該開口構造から前記薬剤収容室に向かう前記液体の中心部の流れが前記バレル胴部の中心線から外れるように構成され、
前記孔部は、前記バレル胴部の中心線上に形成されており、
前記開口構造は、前記バレル胴部の前記先端部を構成する壁から基端方向に突出した中空状の突起部を有し、
前記突起部は、前記孔部と連通し且つ前記バレル胴部の中心線上に形成された中央流路と、前記中央流路と連通し且つ前記バレル胴部の径方向外側に向かって開口した側方開口とを有する、メスシリンジ用バレル。
【請求項2】
請求項
1記載のメスシリンジ用バレルと、
前記接続筒部に離脱可能に装着されたキャップと、を備えたメスシリンジ組立体。
【請求項3】
請求項
2記載のメスシリンジ組立体において、
前記バレル胴部の前記薬剤収容室に充填された薬剤と、
前記バレル胴部内に配置され、前記バレル胴部内を摺動可能なガスケットと、を備えたプレフィルドシリンジとして構成されている、メスシリンジ組立体。
【請求項4】
請求項
3記載のメスシリンジ組立体と、
前記メスシリンジ組立体の前記接続筒部に対して着脱可能であり、前記メスシリンジ組立体の前記薬剤と混合するための医療用液体が充填されたオスシリンジ用バレルを有するオスシリンジ組立体と、を備えたシリンジキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メスシリンジ用バレル、メスシリンジ組立体及びシリンジキットに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤には、投与直前に異なる2種類の薬剤(2種の液体、又は1種の液体と1種の粉体)を混合し、投与するものがある。従来、オスシリンジ内の薬剤とメスシリンジ内の薬剤とを混合するための二薬混合用のシリンジキットは公知である(例えば、特開2013-132349号公報参照)。この種のシリンジキットの使用においては、2つのシリンジ内の薬剤を混合するために、2つのシリンジのバレル同士を接続し、双方の押し子を押し込んでオスメスのシリンジ間を繰り返し移動させるポンピング操作により、2種類の薬剤を混合する。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、薬剤が高粘度であったり、混ざりにくい種類であったりした場合、オスメスのシリンジ間で薬剤を移動させても、混ざらずに移動するだけだったり、ポンピング回数が多く手間がかかることがある。
【0004】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、薬剤が高粘度であったり、混ざりにくい種類であったりした場合でも、オスメスのシリンジ間を繰り返し移動させるポンピング操作により薬剤を容易に混合することが可能なメスシリンジ用バレル、メスシリンジ組立体及びシリンジキットを提供することを目的とする。
【0005】
本発明の第1の態様は、薬剤収容室が形成されたバレル胴部と、前記バレル胴部の先端部から先端方向に延出するとともにオスシリンジ用バレルの先端に設けられたノズルが挿入及び嵌合可能な接続筒部とを備えたメスシリンジ用バレルであって、前記バレル胴部の先端部は、前記バレル胴部の前記薬剤収容室に対して液体を流入出させるための孔部が形成された開口構造を有し、前記開口構造は、前記開口構造から前記薬剤収容室に向かう前記液体の断面形状が、前記バレル胴部の中心線を中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている、メスシリンジ用バレルである。
【0006】
本発明の第2の態様は、上記メスシリンジ用バレルと、前記接続筒部に離脱可能に装着されたキャップと、を備えたメスシリンジ組立体である。
【0007】
本発明の第3の態様は、上記メスシリンジ組立体と、前記メスシリンジ組立体の前記接続筒部に対して着脱可能であり、前記メスシリンジ組立体の前記薬剤と混合するための医療用液体が充填されたオスシリンジ用バレルを有するオスシリンジ組立体と、を備えたシリンジキットである。
【0008】
本発明によれば、薬剤が高粘度であったり、混ざりにくい種類であったりした場合でも、オスメスのシリンジ間を繰り返し移動させるポンピング操作により薬剤を容易に混合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るメスシリンジ用バレルの軸方向に沿った断面図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿った断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るシリンジキットの軸方向に沿った断面図である。
【
図4】
図3に示すシリンジキットにおいてポンピング操作をした際にメスシリンジ用バレル内に流入する液体の断面形状を示す模式図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るシリンジキットの軸方向に沿った断面図である。
【
図6】
図5におけるVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係るシリンジキットの軸方向に沿った断面図である。
【
図8】
図7におけるVIII-VIII線に沿った断面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るシリンジキットの軸方向に沿った断面図である。
【
図10】
図9におけるX-X線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1に示す第1実施形態に係るメスシリンジ組立体12Aは、オスシリンジ組立体14(
図3参照)と組み合わせて、投与直前に異なる2種類の薬剤等を混合するために使用される。メスシリンジ組立体12A及びオスシリンジ組立体14は、ともに薬剤等の内容物が予め充填されたプレフィルドシリンジとして構成されている。メスシリンジ組立体12Aとオスシリンジ組立体14とにより、シリンジキット10Aが構成される。
【0011】
なお、以下の説明では、メスシリンジ組立体12Aについて、オスシリンジ組立体14と接続される側あるいはその方向を「先端部」あるいは「先端方向」と呼び、その逆側あるいは逆方向を「基端部」あるいは「基端方向」と呼ぶ。また、オスシリンジ組立体14について、メスシリンジ組立体12Aと接続される側あるいはその方向を「先端部」あるいは「先端方向」と呼び、その逆側あるいは逆方向を「基端部」あるいは「基端方向」と呼ぶ。
【0012】
まず、メスシリンジ組立体12Aの構成について説明する。
【0013】
メスシリンジ組立体12Aは、中空体からなるメスシリンジ用バレル16A(以下、「メスバレル16A」と略称する)と、メスバレル16Aの先端部に装着されたキャップ18と、メスバレル16A内に摺動可能に挿入されたガスケット20と、ガスケット20に連結された押し子22と、メスバレル16Aとガスケット20とにより形成される薬剤収容室17に充填された薬剤MDとを備える。
【0014】
メスバレル16Aは、略円筒形状をなすとともに基端に基端開口部が形成されたバレル胴部26Aと、バレル胴部26Aの先端部から先端方向に延出した接続筒部28と、バレル胴部26Aの基端から径方向外側に突出形成されたフランジ部30とを有する。
【0015】
接続筒部28は、バレル胴部26Aの先端から先端方向に延出している。接続筒部28は、メスバレル16Aの軸方向に貫通するとともにバレル胴部26Aの内腔(薬剤収容室17)と連通した通路を有する。接続筒部28は、基端方向に向かって内径が減少するテーパ状内周面28sを有するメスルアーとして構成されている。
【0016】
バレル胴部26Aの先端部は、バレル胴部26Aの薬剤収容室17に対して液体を流入出させるための孔部32が形成された開口構造30Aを有する。開口構造30Aは、当該開口構造30Aから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Aの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。開口構造30Aは、当該開口構造30Aから薬剤収容室17に向かう液体の中心部の流れがバレル胴部26Aの中心線aから外れるように構成されている。
【0017】
具体的に、孔部32は、
図2に示すように、バレル胴部26Aの中心線a上に形成された第1開口34と、第1開口34に連通し且つ中心線aから外れた位置に形成された第2開口36とを有する、非円形に構成されている。バレル胴部26Aの軸方向から見て、第1開口34は、バレル胴部26Aの中心線aを中心とする円弧に沿った内面34aによって規定されたC字状の開口である。バレル胴部26Aの軸方向から見て、第2開口36は、第1開口34からバレル胴部26Aの径方向に突出した開口である。
【0018】
図2に示す態様では、第2開口36の第1開口34からの突出方向と垂直な方向における第2開口36の幅Wは、第1開口34の直径Dよりも小さい。他の態様において、第2開口36の幅Wは、第1開口34の直径Dと同じ、あるいは第1開口34の直径Dよりも大きくてもよい。
【0019】
図2に示す態様では、第2開口36は、互いに平行に対向する内面36aを有する。したがって、第2開口36は、所定長さに亘って幅が一定のストレート形状を有する。他の態様において、第2開口36は、当該第2開口36の突端36eに向かって幅が減少する形状を有してもよく、あるいは、当該第2開口36の突端36eに向かって幅が増大する形状を有してもよい。
【0020】
図1に示すメスバレル16Aにおいて、接続筒部28の先端外周部には、接続筒部28の軸線(中心線a)を基準に互いに反対の外方(径方向外方)に突出した2つの突起40が設けられている。
【0021】
キャップ18は、メスバレル16Aの先端開口を封止する弾性部材からなる封止部材44と、封止部材44を支持する筒状の本体部46とを有する。本体部46の内周部には、接続筒部28の外面に設けられた2つの突起40に螺合する雌ネジ48が設けられている。接続筒部28にキャップ18が装着された初期状態(使用前の状態)では、キャップ18により先端開口が液密に封止されている。
【0022】
ガスケット20は、バレル胴部26Aの基端で開口する基端開口部を介してバレル胴部26A内に挿入されている。ガスケット20によってバレル胴部26Aの基端側が液密に封止されている。ガスケット20は、例えばゴム材等の弾性材料により構成されている。ガスケット20は、その外周部がバレル胴部26Aの内周面に全周に亘って液密に接するとともに、バレル胴部26A内に摺動可能に配置されている。
【0023】
押し子22の先端部に、ガスケット20が連結されている。ユーザが押し子22を軸方向(先端方向又は基端方向)に押圧することにより、ガスケット20がバレル胴部26A内を軸方向に摺動する。なお、押し子22は、メスシリンジ組立体12Aを使用する際に、ガスケット20に連結されてもよい。
【0024】
メスバレル16A内の薬剤MDは、オスシリンジ組立体14内に充填された医療用液体ML(具体的には、生理食塩水等の溶解液)によって溶解・希釈・混合されるものであれば、粉末状薬剤、凍結乾燥薬剤、固形状薬剤、液状薬剤等、どのようなものであってもよい。このような薬剤MDとしては、例えば、タンパク製剤、ペプチド製剤、抗腫瘍剤、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリンのような抗血栓剤、インシュリン、抗生物質、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、医療用麻薬、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤等が挙げられる。なお、薬剤MDは、本実施形態のように予めメスシリンジ組立体12Aに充填されたものでなく、バイアル等から必要に応じて空のメスシリンジ組立体12A内に必要量吸引されたものでもよい。
【0025】
図3に示すように、オスシリンジ組立体14は、中空体からなるオスシリンジ用バレル50(以下、「オスバレル50」と略称する)と、オスバレル50内に摺動可能に挿入されたガスケット52と、ガスケット52に連結された押し子54と、オスバレル50とガスケット52とにより形成される充填空間51に充填された医療用液体MLとを備える。
【0026】
オスバレル50は、略円筒形状をなすとともに基端に基端開口部が形成されたバレル胴部56と、バレル胴部56の先端に設けられたノズル58と、ノズル58の外側に設けられたロックアダプタ60と、バレル胴部56の基端から径方向外側に突出したフランジ部62とを有する。
【0027】
ノズル58は、バレル胴部56の先端中心部からバレル胴部56に対して縮径して先端方向に延出している。ノズル58は、軸方向に貫通するとともにバレル胴部56の内腔(充填空間51)と連通した通路58aを有する。
【0028】
ノズル58は、横断面外形が円形状であって、先端方向に向かって外径が減少するテーパ状外周面58sを有するオスルアーとして構成されている。ノズル58は、メスバレル16Aの接続筒部28(メスルアー)に嵌合可能である。
【0029】
なお、オスシリンジ組立体14の初期状態で、ノズル58には図示しないキャップが装着されており、このキャップによってノズル58の先端開口部が封止されている。このキャップは、オスシリンジ組立体14の使用時(シリンジキット10Aの使用時)にノズル58から取り外される。
【0030】
ロックアダプタ60は、バレル胴部56の先端から先端方向に延出し且つノズル58を同心状に囲む略中空円筒状に構成されている。ロックアダプタ60の内周面にはネジ61が形成されている。ネジ61は、メスバレル16Aの先端筒部に設けられた2つの突起40と螺合可能である。
【0031】
ガスケット52は、バレル胴部56の基端で開口する基端開口部を介してバレル胴部56内に挿入されている。ガスケット52によってバレル胴部56の基端側が液密に封止されている。ガスケット52は、例えばゴム材等の弾性材料により構成されている。ガスケット52は、その外周部がバレル胴部56の内周面に液密に接するとともに、バレル胴部56内に摺動可能に配置されている。
【0032】
押し子54の先端部に、ガスケット52が連結されている。ユーザが押し子54を軸方向(先端方向又は基端方向)に押圧することにより、ガスケット52がバレル胴部56内を軸方向に摺動する。なお、押し子54は、オスシリンジ組立体14を使用する際に、ガスケット52に連結されてもよい。
【0033】
オスバレル50内の医療用液体MLは、メスバレル16A内の薬剤MDの溶解、希釈又は混合が可能な液体である。このような薬剤MDとしては、生理食塩水等の薬剤溶解液、薬剤希釈液、薬剤混合液、あるいは薬剤(例えば、ビタミン剤、ミネラル類)を含有する薬液でもあってもよい。医療用液体MLは、本実施形態のように予めオスシリンジ組立体14に充填されたものでなく、バイアル等から必要に応じて空のオスシリンジ組立体14内に必要量吸引されたものでもよい。
【0034】
次に、上記のように構成されたシリンジキット10Aの使用方法について説明する。
【0035】
まず、メスバレル16Aの接続筒部28からキャップ18を取り外すとともに、オスバレル50のノズル58から図示しないキャップを取り外す。
【0036】
次に、
図3のように、メスバレル16Aとオスバレル50とを互いに接続する。具体的には、ロックアダプタ60のネジ61とメスバレル16Aの接続筒部28に設けられた突起40(
図1参照)とを螺合させる。この螺合に伴い、オスバレル50のノズル58(オスルアー)がメスバレル16Aの接続筒部28(メスルアー)に挿入される。これにより、ノズル58のテーパ状外周面58sが、接続筒部28のテーパ状内周面28sに液密に嵌合する。
【0037】
次に、オスシリンジ組立体14の押し子54とメスシリンジ組立体12Aの押し子22とを用いて、ポンピング操作を行うことにより、医療用液体MLと薬剤MDとを混合する。
【0038】
具体的には、オスシリンジ組立体14の押し子54をメスシリンジ組立体12Aに向かって押圧する。これにより、オスバレル50内からメスバレル16A内へと医療用液体MLを注入し、メスバレル16A内で医療用液体MLと薬剤MDとを混合する。次に、メスシリンジ組立体12Aの押し子22をオスシリンジ組立体14に向かって押圧する。これにより、メスバレル16A内からオスバレル50内へと混合液(医療用液体MLと薬剤MDとが混ざったもの)を注入する。そして、オスバレル50とメスバレル16Aとの間でこのような混合液の移動を何度か繰り返し行うことにより、薬剤MDの溶解、希釈又は混合が促進され、所望の薬液が調整される。
【0039】
この場合、第1実施形態に係るメスバレル16A(メスシリンジ組立体12A、シリンジキット10A)は、以下の効果を奏する。
【0040】
メスバレル16A(メスシリンジ組立体12A、シリンジキット10A)によれば、開口構造30Aは、開口構造30Aから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Aの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。このため、ポンピング操作の際、オスバレル50からメスバレル16A内へと流入した直後の液体の断面形状は、
図4に示すような形状となる。このように孔部32からメスバレル16A内(薬剤収容室17)へと流れる液体Lの断面形状SLが、バレル胴部26Aの中心線aを中心とする円形SCとは異なる形状となることで、メスバレル16A内に流れの乱れを生じさせる。これにより、ポンピング操作によりメスバレル16Aとオスバレル50の内容物を容易に混合することができる。
【0041】
開口構造30Aは、当該開口構造30Aから薬剤収容室17に向かう液体の中心部の流れがバレル胴部26Aの中心線aから外れるように構成されている。この構成により、メスバレル16A内に流れの乱れを効果的に生じさせやすく、ポンピング操作による混合を一層容易にすることが可能となる。
【0042】
図2に示したように、孔部32は、バレル胴部26Aの中心線a上に形成された第1開口34と、第1開口34に連通し且つ中心線aから外れた位置に形成された第2開口36とを有する、非円形に構成されている。このため、ポンピング操作による薬剤等の混合の容易化を簡易な開口形状で実現することができる。
【0043】
[第2実施形態]
図5に示す第2実施形態に係るシリンジキット10Bは、互いに着脱可能なメスシリンジ組立体12Bとオスシリンジ組立体14とを備える。メスシリンジ組立体12Bは、メスシリンジ用バレル16B(以下、「メスバレル16B」と略称する)を有する。なお、初期状態のメスシリンジ組立体12Bでは、メスバレル16Bの接続筒部28にキャップ18(
図1参照)が装着されている。同様に、初期状態のオスシリンジ組立体14では、ノズル58に図示しないキャップが装着されている。
【0044】
メスバレル16Bのバレル胴部26Bの先端部は、バレル胴部26Bの薬剤収容室17に対して液体を流入出させるための孔部72が形成された開口構造30Bを有する。開口構造30Bは、開口構造30Bから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Bの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。
【0045】
具体的に、孔部72の中心は、バレル胴部26Bの中心線aから外れている。
図6に示すように、一態様における孔部72の開口形状は、バレル胴部26Bの軸方向から見て円形である。他の態様において、孔部72の開口形状は、バレル胴部26Bの軸方向から見て非円形(楕円形状、多角形状等)であってもよい。なお、バレル胴部26Bの中心線a上に、孔部72の非中心が存在してもよい。
【0046】
第2実施形態に係るメスバレル16B(メスシリンジ組立体12B、シリンジキット10B)によれば、開口構造30Bは、開口構造30Bから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Bの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。したがって、第1実施形態と同様に、ポンピング操作によりオスバレル50内からメスバレル16B内へと開口構造30B(孔部72)を介して液体を流入させる際に、メスバレル16B内に流れの乱れを生じさせる。これにより、メスバレル16Bとオスバレル50の内容物を容易に混合することができる。
【0047】
第2実施形態の場合、孔部72の中心は、バレル胴部26Bの中心線aから外れている。このような構成により、孔部72の開口形状として複雑な形状を採用することなく、ポンピング操作による混合の容易化を実現することができる。
【0048】
[第3実施形態]
図7に示す第3実施形態に係るシリンジキット10Cは、互いに着脱可能なメスシリンジ組立体12Cとオスシリンジ組立体14とを備える。メスシリンジ組立体12Cは、メスシリンジ用バレル16C(以下、「メスバレル16C」と略称する)を有する。なお、初期状態のメスシリンジ組立体12Cでは、メスバレル16Cの接続筒部28にキャップ18(
図1参照)が装着されている。同様に、初期状態のオスシリンジ組立体14では、ノズル58に図示しないキャップが装着されている。
【0049】
メスバレル16Cのバレル胴部26Cの先端部は、バレル胴部26Cの薬剤収容室17に対して液体を流入出させるための孔部82が形成された開口構造30Cを有する。開口構造30Cは、開口構造30Cから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Cの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。
【0050】
図7及び
図8に示すように、孔部82は、バレル胴部26Cの中心線a上に形成されている。
図8に示すように、一態様に係る孔部82は円形開口であり、孔部82の中心線はバレル胴部26Cの中心線aと一致している。他の態様において、孔部82は非円形開口(楕円形、多角形等)であってもよい。他の態様において、孔部82の中心線はバレル胴部26Cの中心線aからずれていてもよい。
【0051】
開口構造30Cは、さらに、バレル胴部26Cの先端部を構成する壁から基端方向に突出した中空状の突起部86を有する。突起部86は、孔部82と連通し且つバレル胴部26Cの中心線a上に形成された中央流路87と、中央流路87と連通し且つバレル胴部26Cの径方向外側に向かって開口した側方開口88とを有する。
【0052】
一態様において、バレル胴部26Cの中心線aに対して垂直な面における突起部86の断面形状は円弧状(C字状)である。他の態様において、突起部86の断面形状は楕円形状や多角形状等であってもよい。
【0053】
図7に示すように、突起部86の基端には、基端開口86aが形成されている。側方開口88は、中央流路87に沿って延在するスリット状の開口である。側方開口88は、突起部86の基端に達して、突起部86の基端開口86aと連通している。他の態様において、側方開口88は1つだけでなく、突起部86の周方向に間隔を置いて複数設けられてもよい。
【0054】
押し子22の先端部には、凹部21を有するガスケット20aが接続されている。ガスケット20aの先端部には、当該ガスケット20aの先端面にて開口する凹部21が設けられている。凹部21はガスケット20aの基端方向に向かって窪んでおり、突起部86に対向する位置(突起部86の正面位置)に設けられている。したがって、
図7に示す態様では、凹部21は、バレル胴部26Cの中心線a上に設けられている。凹部21の内径は、突起部86の外径よりも大きい。ガスケット20aに凹部21が設けられることにより、ポンピング操作において押し子22を先端方向に押し込んだ際に、ガスケット20aと突起部86との干渉を回避し、ガスケット20aをメスバレル16C内の最先端位置まで支障なく移動させることができる。
【0055】
第3実施形態に係るメスバレル16C(メスシリンジ組立体12C、シリンジキット10C)によれば、開口構造30Cは、開口構造30Cから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Cの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。したがって、第1実施形態と同様に、ポンピング操作によりオスバレル50内からメスバレル16C内へと開口構造30Cを介して液体を流入させる際に、メスバレル16C内に流れの乱れを生じさせる。これにより、メスバレル16Cとオスバレル50の内容物を容易に混合することができる。
【0056】
第3実施形態の場合、突起部86に側方開口88が設けられているため、ポンピング操作に伴ってオスバレル50からメスバレル16C内に液体が移動する際に、当該液体は、突起部86の基端開口86aからだけでなく側方開口88からもメスバレル16C内に流入する。側方開口88からメスバレル16C内に流入する液体は、バレル胴部26Cの内周面側に向かう流れを生じさせる。したがって、メスバレル16C内に、より大きな流れの乱れを生じさせることができる。これにより、メスバレル16Cとオスバレル50の内容物を一層容易に混合することができる。
【0057】
[第4実施形態]
図9に示す第4実施形態に係るシリンジキット10Dは、互いに着脱可能なメスシリンジ組立体12Dとオスシリンジ組立体14とを備える。メスシリンジ組立体12Dは、メスシリンジ用バレル16D(以下、「メスバレル16D」と略称する)を有する。なお、初期状態のメスシリンジ組立体12Dでは、メスバレル16Dの接続筒部28にキャップ18(
図1参照)が装着されている。同様に、初期状態のオスシリンジ組立体14では、ノズル58に図示しないキャップが装着されている。
【0058】
メスバレル16Dのバレル胴部26Dの先端部は、バレル胴部26Dの薬剤収容室17に対して液体を流入出させるための孔部92が形成された開口構造30Dを有する。開口構造30Dは、開口構造30Dから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Dの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。
【0059】
図10に示すように、孔部92は、バレル胴部26Dの中心線a上に形成され、非円形の開口形状を有する。
図10に示す態様において、孔部92は、多角形の開口形状、具体的には正方形の開口形状を有する。他の態様において、孔部92は、長方形の開口形状を有してもよく、三角形の開口形状を有してもよく、あるいは、星形等の他の非円形の開口形状を有してもよい。
【0060】
第4実施形態に係るメスバレル16D(メスシリンジ組立体12D、シリンジキット10D)によれば、開口構造30Dは、開口構造30Dから薬剤収容室17に向かう液体の断面形状が、バレル胴部26Dの中心線aを中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている。したがって、第1実施形態と同様に、ポンピング操作によりオスバレル50内からメスバレル16D内へと開口構造30D(孔部92)を介して液体を流入させる際に、メスバレル16D内に流れの乱れを生じさせる。これにより、メスバレル16Dとオスバレル50の内容物を容易に混合することができる。
【0061】
上記の実施形態をまとめると、以下のとおりである。
【0062】
上記の実施形態は、薬剤収容室(17)が形成されたバレル胴部(26A~26D)と、前記バレル胴部の先端部から先端方向に延出するとともにオスシリンジ用バレル(50)の先端に設けられたノズル(58)が挿入及び嵌合可能な接続筒部(28)とを備えたメスシリンジ用バレル(16A~16D)であって、前記バレル胴部の先端部は、前記バレル胴部の前記薬剤収容室に対して液体を流入出させるための孔部(32、72、82、92)が形成された開口構造(30A~30D)を有し、前記開口構造は、前記開口構造から前記薬剤収容室に向かう前記液体の断面形状が、前記バレル胴部の中心線を中心とする円形から外れた形状を有するように構成されている、メスシリンジ用バレルを開示している。
【0063】
前記開口構造(30A~30C)は、当該開口構造から前記薬剤収容室に向かう前記液体の中心部の流れが前記バレル胴部の中心線から外れるように構成されていてもよい。
【0064】
前記孔部(32)は、前記バレル胴部の中心線上に形成された第1開口(34)と、前記第1開口に連通し且つ前記中心線から外れた位置に形成された第2開口(36)とを有する、非円形に構成されていてもよい。
【0065】
前記孔部(72)の中心は、前記バレル胴部の中心線から外れていてもよい。
【0066】
前記孔部(82)は、前記バレル胴部の中心線上に形成されており、前記開口構造(30C)は、前記バレル胴部の前記先端部を構成する壁から基端方向に突出した中空状の突起部(86)を有し、前記突起部は、前記孔部と連通し且つ前記バレル胴部の中心線上に形成された中央流路(87)と、前記中央流路と連通し且つ前記バレル胴部の径方向外側に向かって開口した側方開口(88)とを有してもよい。
【0067】
前記孔部(92)は、前記バレル胴部の中心線上に形成され、非円形の開口形状を有していてもよい。
【0068】
前記孔部(92)は、多角形の開口形状を有してもよい。
【0069】
上記の実施形態は、上記いずれかのメスシリンジ用バレルと、前記接続筒部に離脱可能に装着されたキャップ(18)と、を備えたメスシリンジ組立体(12A~12D)を開示している。
【0070】
上記のメスシリンジ組立体において、前記バレル胴部の前記薬剤収容室に充填された薬剤(MD)と、前記バレル胴部内に配置され、前記バレル胴部内を摺動可能なガスケット(20)と、を備えたプレフィルドシリンジとして構成されてもよい。
【0071】
上記の実施形態は、プレフィルドシリンジとして構成された上記のメスシリンジ組立体と、前記メスシリンジ組立体の前記接続筒部に対して着脱可能であり、前記メスシリンジ組立体の前記薬剤と混合するための医療用液体(ML)が充填されたオスシリンジ用バレルを有するオスシリンジ組立体(14)と、を備えたシリンジキット(10A~10D)を開示している。
【0072】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。例えば、開口構造30A~30Dの構成は、適宜組み合わせて採用してもよい。