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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】ディスプレイ用基板
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20221011BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20221011BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20221011BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20221011BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20221011BHJP
【FI】
G09F9/00 302
G09F9/30 308Z
H05K1/09 D
C22C38/00 302Z
C22C38/58
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021531678
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 KR2020001049
(87)【国際公開番号】W WO2020153732
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0009764
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517099982
【氏名又は名称】エルジー イノテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハエシク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ダクフン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヒョンジュン
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129896(JP,A)
【文献】特開2016-216782(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1834793(KR,B1)
【文献】特開2011-097007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0066409(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104979490(CN,A)
【文献】特開2008-274386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C5/00-25/00
27/00-28/00
30/00-30/06
35/00-45/10
C23C22/00-22/86
G09F9/00-9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムと鉄を含む基材を含み、
前記基材は、一方向に曲がる折り畳み部と曲がらない非折り畳み領域を含み、
前記基材の折り畳み領域には、ホールまたは溝が形成され、
前記基材の折り畳み領域は、表面部と中央部を含み、
前記ホールまたは溝は、前記表面部と前記中央部に形成され、
前記表面部は、前記基材の表面から前記基材の厚さ方向に5nmまでの深さ領域にて定義され
前記表面部は、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7~3.2であり、
前記表面部において、前記鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)は、前記基材の表面方向に行くほど大きくなり、
前記表面部は、
前記基材の表面から前記基材の厚さ方向に3nmまでの深さにおいては、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が1以上であり、
前記基材の表面から前記基材の厚さ方向に3nmまでの深さから5nmまでの深さにおいては、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上であり、
前記中央部は、前記鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.3~0.6である、ディスプレイ用基板
【請求項2】
前記表面部及び前記中央部を含む前記基材は、前記基材の全組成に対して11重量%~20重量%のクロムを含む、請求項に記載のディスプレイ用基板。
【請求項3】
前記表面部のクロム原子は、クロム酸化物状態で含まれる、請求項1または2に記載のディスプレイ用基板
【請求項4】
前記基材の非折り畳み領域には、ホールまたは溝が形成され、
前記非折り畳み領域は、前記表面部の鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が前記中央部の鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)より大きい、請求項に記載のディスプレイ用基板。
【請求項5】
前記表面部及び前記中央部を含む前記基材は、0.15重量%以下の炭素、1重量%以下のケイ素、2重量%以下のマンガン、0.045重量%のリン、0.03重量%以下の硫黄、6重量%~8重量%のニッケルおよび残部の鉄を含む、請求項に記載のディスプレイ用基板。
【請求項6】
前記表面部は、前記中央部を取り囲み、
前記表面部は、酸化膜を含む、請求項1に記載のディスプレイ用基板。
【請求項7】
前記表面部は、FeO、Fe2O3およびCr2O3のうち少なくとも一つの酸化膜を含む、請求項に記載のディスプレイ用基板
【請求項8】
前記基材は、ステンレス鋼(SUS)を含む、請求項1に記載のディスプレイ用基板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施例は、ディスプレイ用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、多様なアプリケーション携帯が容易で、携帯時より大きい画面で映像表示が可能なフレキシブルディスプレイ装置の要求が増えている。
【0003】
このようなフレキシブルディスプレイは、携帯や保管時には折り畳んだり一部をベンディングした形態であるが、映像表示する時はディスプレイを広げた状態に具現することができる。これにより、映像表示領域を増やすと共に、使用者の携帯を容易にすることができる。
【0004】
このようなフレキシブルディスプレイ装置は、折り畳んだり曲げた後、これを再び広げる原状回復過程等が繰り返される。
【0005】
これにより、ディスプレイ装置の基材は、強度および弾性が要求され、このような折り畳みおよび原状回復時に基板にクラックまたは変形が発生してはいけない。
【0006】
このために、ディスプレイ装置を構成する基板の応力を除去または減らすために、基板の全領域または一領域に複数のパターン溝またはパターンホールを形成することができる。
【0007】
このようなパターン溝またはパターンホールによって、基板を折り畳んだり原状回復する時に発生する応力を最小化して、基板にクラックまたは変形が発生することを抑えることができる。
【0008】
一方、このような基板の表面には、自然酸化による表面酸化層が自然に形成され得る。前記パターンは、このような表面酸化層が形成された基板に感光性物質を塗布した後、フォトリソグラフィ工程により形成される。
【0009】
この時、フォトリソグラフィ工程中に表面酸化層が一緒にエッチングされ、表面酸化層が過剰エッチングされて、感光性物質と表面酸化層の密着力が低下し、表面酸化層がエッチングされた領域で隙間腐食が発生することがある。
【0010】
よって、上記のような問題点を解決できる新しい構造のディスプレイ用基板が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
実施例は、腐食を防止でき、容易にパターンを形成できるディスプレイ用基板を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施例に係るディスプレイ用基板は、クロムと鉄を含む基材を含み、前記基材は、表面部と中央部を含み、前記表面部は、前記基材の表面から前記基材の厚さ方向に5nmまでの深さ領域にて定義され、前記表面部の鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)は、前記中央部の鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)より大きい。
【発明の効果】
【0013】
実施例に係るディスプレイ用基板は、基材の表面部の原子濃度を制御して、基材のエッチング中に表面部が過剰エッチングされて発生する隙間腐食および感光層との密着力が低下することを防止することができる。
【0014】
具体的に、表面部を改質して感光層と接触する表面部のクロム濃度を増加させることができる。
【0015】
これにより、表面部領域でクロム酸化物の含有量を増やすことで、表面部の耐食性を増加させることができる。
【0016】
これにより、エッチング工程中に表面部が内側に過剰エッチングされる現象を最小化でき、表面部の過剰エッチングによる表面部と感光層の接触領域の減少による密着力の低下を防止することができる。
【0017】
また、表面部以外の領域、即ち、中央部領域からはクロムの原子濃度を減らし、鉄の原子濃度を増加させることで、エッチング工程を円滑に行って、所望のパターン形状を容易に具現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例に係るディスプレイ用基板の斜視図である。
図2】実施例に係るディスプレイ用基板の側面図である。
図3】実施例に係るディスプレイ用基板の一面の上面図である。
図4】実施例に係るディスプレイ用基板の一断面図である。
図5】実施例に係るディスプレイ用基板に感光性物質を形成したディスプレイ用基板の一断面図である。
図6】実施例に係るディスプレイ用基板にパターン領域の感光性物質を除去したディスプレイ用基板の一断面図である。
図7】実施例と比較例によって基材の原子濃度を示したグラフである。
図8】実施例と比較例によって基材の原子濃度を示したグラフである。
図9】実施例と比較例に係る基材の表面層の原子の結合状態分布を示したグラフである。
図10】実施例と比較例に係る基材の表面層の原子の結合状態分布を示したグラフである。
図11】実施例と比較例に係る基材の酸化層が剥離する程度を示した図面である。
図12】実施例と比較例に係る基材の酸化層が剥離する程度を示した図面である。
図13】実施例と比較例に係る基材のパターンを形成した後、エッチング品質を説明するための写真である。
図14】実施例と比較例に係る基材のパターンを形成した後、エッチング品質を説明するための写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付された図面を参照して本発明の好ましい実施例を詳しく説明する。なお、本発明の技術思想は、説明される一部実施例に限定されるものではなく、多様な形態に具現することができ、本発明の技術思想の範囲内であれば、実施例間の構成要素を選択的に結合または置き換えて用いることができる。
【0020】
また、本発明の実施例で用いられる用語(技術及び科学的用語を含む)は、明白に特定して記述されない限り、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者に一般的に理解できる意味と解釈され、辞書に定義された用語のように一般的に使用される用語は、かかわる技術の文脈上の意味を考慮してその意味を解釈できるだろう。
【0021】
また、本発明の実施例で用いられる用語は、実施例を説明するためのものであり、本発明を制限しようとするものではない。本明細書において、単数形は、記載上特に限定しない限り複数形も含むことができ、「A及びB、Cのうち少なくとも1つ(または1つ以上)」と記載される場合、A、B、Cで組合せることのできる全ての組合せのうち1つ以上を含むことができる。
【0022】
また、本発明の実施例の構成要素の説明において、第1、第2、A、B、(a)、(b)等の用語を用いることができる。このような用語は、その構成要素を他の構成要素と区別するためのものであり、その用語によって当該構成要素の本質または順序等が限定されるものではない。
【0023】
そして、ある構成要素が他の構成要素に「連結」、「結合」または「接続」されると記載された場合、その構成要素は他の構成要素に直接的に連結または接続される場合と、各構成要素の間にさらに他の構成要素が「連結」、「結合」または「接続」される場合を全て含む。
【0024】
また、各構成要素の「上または下」に形成または配置されると記載される場合、「上または下」は、2つの構成要素が直接接触する場合だけではなく、1つ以上のさらに他の構成要素が2つの構成要素の間に形成または配置される場合も含む。
【0025】
また「上または下」と表現される場合、1つの構成要素を基準として、上側方向だけではなく下側方向の意味も含むことができる。
【0026】
以下、図面を参照して、実施例に係るディスプレイ用基板を説明する。
【0027】
図1図3を参照すると、実施例に係るディスプレイ用基板1000は、基材100を含む。
【0028】
前記基材100は、金属、金属合金、プラスチック、複合材料(例えば、炭素繊維強化プラスチック、磁性または伝導性材料、ガラス繊維強化材料等)、セラミック、サファイア、ガラス等を含むことができる。一例として、前記基材100は、ステンレス((stainless)SUS)を含むことができる。
【0029】
図1および図2を参照すると、前記基材100は、一方向に曲がることができる。具体的に、第1面1Sと第2面2Sを含む前記基材100は、折り畳み軸を基準として、前記第1面または前記第2面のいずれか一つの面が対向する方向に折り畳む(folding)ことができる。
【0030】
この時、前記基材100の場合、剛性とフレキシブル性を両方とも有するので、一方向に曲がる過程で圧縮応力が発生し、このような圧縮応力が大きくなる領域では、前記基材100にクラックが発生する問題点がある。
【0031】
図3を参照すると、このような問題点を解決するために、前記基材100の一領域に複数のパターンを形成することができる。具体的に、前記基材100の一領域には複数の溝またはホールHを含むパターンPが形成される。
【0032】
このようなパターンPは、前記基材100の折り畳み部と非折り畳み(unfolding)部のうち少なくとも一つの領域に形成されてもよい。
【0033】
また、前記基材100の両端には、前記基材100を容易に曲げるための複数のヒンジ部HNが形成されてもよい。
【0034】
このような、パターンPおよびヒンジ部HNは、前記基材100の上に感光性物質を形成した後、露光、現像およびエッチング工程により形成される。
【0035】
この時、前記感光性物質は、前記基材100の上で表面部110の上に形成され、前記表面部110は、前記基材100をエッチングする時に一緒にエッチングされる。
【0036】
前記表面部110は、前記基材100の表面上に形成されて、外部の酸素による基材の腐食を防止する保護層の役割をすることができる。
【0037】
一方、前記エッチング工程中に前記表面部110が過剰エッチングされる場合、過剰エッチングされた領域には表面部が残存しないので、基材100と感光性物質の間で隙間腐食が発生することがある。
【0038】
また、前記表面部と感光性物質の接触領域が減少して、表面部と感光性物質の密着力が低下して感光性物質が剥離する。
【0039】
これによってディスプレイ用基板の信頼性および耐久性が低下し、不正確な大きさおよび形状のパターンが形成され、折り畳む時にパターンによる応力を効果的に分散できない。
【0040】
以下で説明する実施例に係るディスプレイ用基板は、このようなエッチング工程中に発生する表面部の過剰エッチングを防止して腐食を防止し、より精密なパターンを形成することができる。
【0041】
以下、図4図14を参照して、実施例に係るディスプレイ用基板を詳しく説明する
図4を参照すると、前記ディスプレイ用基板1000は、基材100を含むことができる。
【0042】
前記基材100は、上述したように、フレキシブル性と剛性を有する物質を含むことができる。例えば、前記基材100は、ステンレス鋼(SUS)を含むことができる。
【0043】
具体的に、前記基材100は、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)のうち少なくとも一つの物質を含むことができる。
【0044】
前記基材100は、クロムを略10重量%以上含むステンレス鋼(SUS)を含むことができる。より具体的に、前記基材100は、クロムを略11重量%~略20重量%含むステンレス鋼(SUS)を含むことができる。
【0045】
具体的に、前記基材100は、炭素を略0.15重量%以下、ケイ素を略1重量%以下、マンガンを略2重量%以下、リンを略0.045重量%以下、硫黄を略0.03重量%以下、ニッケルを略6重量%~8重量%および残部として鉄を含むステンレス鋼(SUS)を含むことができる。
【0046】
前記基材100は、深さによって定義される2つの領域を含むことができる。具体的に、前記基材100は、前記基材100の表面Sから前記基材100の厚さ方向に5nmまでの領域にて定義される表面部110の領域と、前記表面部の内部の領域である中央部120の領域にて定義される。
【0047】
上述したように、前記基材100は、多様な組成を含むが、ほとんどの含有量は鉄(Fe)成分となっている。
【0048】
これにより、前記基材100は、自然状態で空気中の酸素と結合して表面に酸化膜が生じる。即ち、前記表面部110は、前記基材100表面上に形成される表面酸化膜で定義される。
【0049】
前記表面部110は、前記基材100の全表面に形成される。即ち、外部に露出する基材の上部面、下部面および側面に形成される。
【0050】
これにより、前記表面部110は、前記中央部120を取り囲む形状に形成される。
【0051】
一方、前記表面部110は、一定の厚さで形成される。例えば、前記表面部110は、前記基材100の厚さ方向に略10nm~略100nmの厚さを有することができる。
【0052】
一方、図5を参照すると、前記基材100は、前記基材100の一領域にホールまたは溝形状のパターンを形成するために、前記基材100の上に、即ち、前記表面部110の上にフォトレジストのような感光性物質200を塗布することができる。
【0053】
続いて、図6のように露光および現像工程によりエッチングしようとする領域EAの感光性物質200を除去することができる。
【0054】
続いて、前記感光性物質200が除去された領域は、前記基材100をエッチングできるエッチング液によってエッチングすることができる。具体的に、前記エッチング液によって、前記表面部110と前記中央部120が一緒にエッチングされる。この時、前記エッチング液によって前記表面部110が過剰エッチングされる場合、前記表面部110と前記感光性物質200の密着力が低下し、隙間の部分で腐食が発生し得る。
【0055】
実施例に係るディスプレイ用基板1000は、このような表面部と感光性物質の密着力の低下と腐食を防止するために、前記表面部110の組成を制御することができる。
【0056】
具体的に、前記表面部110は、FeOおよびFe等の酸化鉄とCrの酸化クロムを含むことができる。実施例に係るディスプレイ用基板1000は、前記表面部110のクロムと鉄原子の原子濃度を制御して、上記のような問題点を解決することができる。
【0057】
具体的に、前記表面部110は、前記中央部120に比べて鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が高くてもよい。具体的に、前記表面部110では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上であってもよい。
【0058】
即ち、前記表面部110は、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上である領域を含むことができる。例えば、前記表面部110の全体領域のうち少なくとも一つの領域では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上であってもよい。
【0059】
また、前記表面部110の全体領域のうち少なくとも一つの領域では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が1以上であってもよい。
【0060】
また、前記表面部110の全体領域のうち少なくとも一つの領域では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7~3.2であってもよい。
【0061】
例えば、前記表面部110は、前記基材100の表面から前記基材100の深さ方向に3nmまでの深さにおいては、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が1以上であってもよい。
【0062】
また、前記表面部110は、前記基材100の表面から前記基材100の深さ方向に3nmまでの深さから5nmまでの深さにおいては、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上であってもよい。
【0063】
即ち、前記表面部110では、前記基材100の表面に近くなるほど鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が高くてもよい。
【0064】
即ち、前記表面部110では、前記基材100の表面に近くなるほど鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が漸増してもよい。
【0065】
即ち、前記表面部110の全体領域で鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.7以上であってもよい。
【0066】
これにより、前記表面部110は、前記中央部120に比べてクロム(Cr)の含有量が高いクロムリッチ(Cr-rich)領域であるか、クロムリッチ領域を含むことができる。
【0067】
このような前記表面部110のクロムリッチ領域は、人為的に形成される。即ち、前記基材100の上には、表面と空気中の酸素が結合して自然酸化による酸化層が先に形成され、前記酸化層を塩酸等の溶液によって酸処理および熱処理をして前記表面部110の一領域、即ち、前記表面部110の少なくとも一領域をクロムリッチ領域に変えることができる。
【0068】
クロム(Cr)またはクロム酸化膜は、鉄(Fe)または鉄酸化膜に比べて耐食性が優れるので、エッチング工程中にエッチング液等によって前記表面部110が内側に過剰エッチングされることを防止することができる。
【0069】
即ち、前記感光性物質200は、前記表面部110と接着され、これにより、前記表面部110の組成をクロムリッチ状態に調節することで、エッチング工程中にエッチング液等によって前記表面部110が過剰エッチングされることを防止することができる。また、表面部の過剰エッチングによる表面部110と感光性物質200の密着力の低下を防止することができる。
【0070】
一方、前記中央部120では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が前記表面部110における鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)より小さくてもよい。
【0071】
具体的に、前記中央部120では、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が1未満であってもよい。具体的に、前記中央部120における鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)は0.3~0.6であってもよい。即ち、中央部120は、鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)は0.3~0.6である領域を含むことができる。
【0072】
これにより、前記中央部120は、前記表面部110と違って、鉄リッチ状態となることができる。前記中央部120における鉄原子に対するクロム原子の比(Cr/Fe)が0.6を超過する場合、中央部120における耐食性が増加してエッチング速度が低下し、これにより、エッチング工程中にエッチング効率が低下し、パターン形成が困難となる。
【0073】
即ち、感光性物質と接着される前記表面部110では、表面部の耐食性を増加させて過剰エッチングを防止でき、中央部120では、耐食性を表面部に比べて相対的に減らして、前記基材100が容易にエッチングされるように前記基材100の組成を制御することができる。
【0074】
一方、実施例に係るディスプレイ用基板は、前記ディスプレイ用基板の折り畳みにより曲率が発生する領域と、折り畳まれず曲率が発生しない領域が定義される。前記パターンは、曲率発生領域と曲率が発生しない領域の両方ともに形成されてもよい。または、前記パターンは、曲率発生領域のみに形成されてもよい。これにより、前記基材100は、パターンが形成される領域とパターンが形成されない領域とに区分される。
【0075】
前記表面部のクロムと鉄の濃度は、前記パターンが形成される領域またはパターンが形成されない領域の両方ともで制御されてもよい。または、前記表面部のクロムと鉄の濃度は、前記パターンが形成される領域のみで制御されてもよい。
【0076】
即ち、前記感光性物質の過剰エッチングは、パターンを形成するエッチング工程で発生する工程であるので、基材の領域でパターンが形成される領域のみでクロムと鉄の原子濃度を制御して、表面部の改質による工程時間を短縮することができる。
【0077】
上述した説明では、ディスプレイ用基板1000が曲がることを中心に説明したが、実施例はこれに制限されるものではなく、曲がらないディスプレイ用基板1000にパターンを形成する時、またはディスプレイ用基板ではなく他の目的の一例として、マスク等の目的で活用される基材の上にパターンを形成する時も適用でき、その適用分野は上述した説明に制限されるものではない。
【0078】
以下、実施例と比較例により本発明をより詳しく説明する。このような実施例は、本発明をより詳しく説明するために例示で提示するものであり、本発明がこのような実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例)
まず、ステンレス鋼基材を用意した。
【0080】
前記ステンレス鋼基材は17、重量%のクロムを含んでいる。
【0081】
続いて、ステンレス鋼基材の表面は、空気中の酸素と結合して自然酸化され、基材表面には表面酸化領域が形成された。続いて、前記ステンレス鋼基材の表面に塩酸を利用して酸処理した後、略150℃の温度で熱処理して、前記基材の表面酸化領域を改質した。
【0082】
続いて、前記ステンレス鋼基材表面にフォトレジスト物質を塗布した後、露光および現像工程によりパターンを形成しようとする領域のフォトレジスト物質を除去した。
【0083】
一方、現像工程の前後には熱処理工程が行われる。具体的に、露光工程後に熱処理を通じて感光剤の拡散により反応感度を高めることができ、現像工程後に熱処理により現像した後、表面部の表面粗度を減らして表面粗さを減らすことができる。
【0084】
続いて、パターン形成領域をエッチングするためのエッチング液を利用してステンレス鋼基材をエッチングした。
【0085】
続いて、ステンレス鋼基材の表面からの深さに応じた原子濃度、原子の結合状態、表面部のエッチング程度を測定した。
【0086】
(比較例)
実施例と同じステンレス鋼基材を用意した。続いて、ステンレス鋼基材の表面は自然酸化して基材の表面には表面酸化領域が形成された。
【0087】
続いて、前記基材の表面にフォトレジスト物質を塗布した後、露光および現像工程によりパターンを形成しようとする領域のフォトレジスト物質を除去した。
【0088】
続いて、パターン形成領域をエッチングするためのエッチング液を利用してステンレス鋼基材をエッチングした。
【0089】
即ち、比較例は、実施例と違って、酸処理および熱処理をせず、エッチング工程を行った。
【0090】
続いて、ステンレス鋼基材の表面からの深さに応じた原子濃度、原子の結合状態、表面部のエッチング程度を測定した。
【0091】
図7および図8は、それぞれ実施例と比較例に係るステンレス鋼基材の表面からの深さに応じた原子濃度をX線光電子分光法(XPS)によって測定したグラフである。
【0092】
図7を参照すると、比較例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいて鉄の含有量がクロムの含有量より高いことが分かる。即ち、比較例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいて鉄含有量が高い鉄リッチ状態であることが分かる。
【0093】
一方、図8を参照すると、実施例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいてクロムの含有量が鉄の含有量より高いことが分かる。即ち、実施例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいてクロムの含有量が高いクロムリッチ状態であることが分かる。
【0094】
実施例に係る基材の深さに応じた原子濃度は、以下の表1のようである。
【表1】
【0095】
図8および表1を参照すると、実施例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいて鉄に対するクロムの比(Cr/Fe)が0.7以上であることが分かる。また、基材の略5nmの深さからは鉄に対するクロムの比(Cr/Fe)が0.7未満であることが分かる。
【0096】
即ち、基材の表面と感光性物質が接着される領域である表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいては、耐食性が強いクロムの量を増やすことで、エッチング工程中に表面部が過剰エッチングされることを防止することができる。これにより、過剰エッチングによる表面部と感光性物質の密着力が低下することを防止でき、過剰エッチングされる領域で腐食が発生することを防止することができる。
【0097】
また、基材の5nmの深さからは耐食性が強いクロムの量を減らし、鉄の含有量を増やすことで、エッチング工程を円滑にし、より精密なパターンを形成することができる。
【0098】
図9および図10は、前記基材の表面から深さ方向に3nmの領域、即ち、前記基材の表面から3nmだけ離隔した距離で測定した実施例と比較例に係るクロムと鉄原子の結合状態を、結合エネルギー分析によって測定したグラフである。
【0099】
図9を参照すると、実施例に係る基材は、表面部において、耐食性が強いクロム酸化物の比率が比較例に比べて略2倍近く増加したことが分かる。
【0100】
また、図10を参照すると、実施例に係る基材は、表面部において鉄酸化膜の比率が比較例と類似していることが分かる。
【0101】
即ち、実施例に係る基材は、表面(0nm)から略5nmまでの深さにおいてクロムの含有量が高いクロムリッチ状態であり、特に、クロム原子は、耐食性が強いクロム酸化物状態で残存するので、エッチング工程中に表面酸化層が過剰エッチングされることを効果的に防止することができる。
【0102】
図11図14は、実施例と比較例に係る基材のエッチング工程中に基材がエッチングされる程度を示した断面図および写真である。
【0103】
図11を参照すると、比較例に係るディスプレイ用基板は、エッチング工程中に表面部が内側にエッチングされる領域FAが大きいことが分かる。一方、図12を参照すると、実施例に係るディスプレイ用基板は、エッチング工程中に表面部が内側にエッチングされる領域FAが小さいことが分かる。
【0104】
即ち、比較例に係るディスプレイ用基板は、図13のように表面部が内側にエッチングされる領域FAが増加して、表面部が内側にエッチングされる領域FAで腐食が発生することが分かる。また、表面部が内側に過剰エッチングされて、感光性物質と表面部の接触領域が減少して、感光性物質と前記基材の密着力が低下することが分かる。
【0105】
ところが、実施例に係るディスプレイ用基板は、図14のように表面部が内側にエッチングされる領域FAを最小化して、表面部が内側にエッチングされる領域FAで腐食が発生することを防止することができる。また、表面部が内側にエッチングされる領域を最小化して、表面部と感光性物質の接触領域が減少することを防止でき、これにより感光性物質と前記基材の密着力が低下することを防止することができる。
【0106】
実施例に係るディスプレイ用基板は、基材の表面部の原子濃度を制御して、基材のエッチング中に表面部が過剰エッチングされて発生する隙間腐食および感光層との密着力が低下することを防止することができる。
【0107】
具体的に、表面部を改質して感光層と接触する表面部のクロム酸化物の濃度を増加させることができる。
【0108】
これにより、表面部においてクロム酸化物の含有量を増やすことで、表面部において表面部の耐食性を増加させることができる。
【0109】
これにより、エッチング工程中に表面部が内側に過剰エッチングされる現象を最小化でき、表面部の過剰エッチングによる表面部と感光層の接触領域低下による密着力の低下を防止することができる。
【0110】
また、表面部以外の領域からはクロムの原子濃度を減らし、鉄の原子濃度を増加させることで、エッチング工程を円滑に行って、所望のパターン形状を容易に具現することができる。
【0111】
以上の実施例で説明された特徴、構造、効果等は、本発明の少なくとも1つの実施例に含まれ、必ず1つの実施例に限定されるものではない。また、各実施例に例示された特徴、構造、効果等は、実施例が属する分野で通常の知識を有する者によって、他の実施例に対して組合せまたは変形して実施可能である。よって、そのような組合せと変形に係る内容は、本発明の範囲に含まれると解釈されるべきである。
【0112】
また、以上では、実施例を中心に説明したが、これは単なる例示であり、本発明を限定するものではなく、本発明が属する分野で通常の知識を有した者であれば、本実施例の本質的な特性を逸脱しない範囲内で、以上で例示されていない多様な変形と応用が可能である。例えば、実施例に具体的に提示された各構成要素は、変形して実施することができる。そして、そのような変形と応用に係る差異点は、添付される請求の範囲で規定する本発明の範囲に含まれると解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14