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特許7155476ラッカーコートされた電気ストリップを製造する方法及びラッカーコートされた電気ストリップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ラッカーコートされた電気ストリップを製造する方法及びラッカーコートされた電気ストリップ
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20221012BHJP
   B05D 7/26 20060101ALI20221012BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221012BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221012BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20221012BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D7/26
B05D1/36 B
B05D7/14 G
B05D3/00 F
C23C26/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020563679
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2019065678
(87)【国際公開番号】W WO2019238925
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102018209553.1
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506029255
【氏名又は名称】フェストアルピネ シュタール ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE STAHL GMBH
【住所又は居所原語表記】VOESTALPINE-STRASSE 3, A-4020 LINZ, AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストラウス、ベルンハルド
(72)【発明者】
【氏名】フルーフ、ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】タイフェントハラー、ロマン
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-519308(JP,A)
【文献】特表2018-512262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0051772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
C23C24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コートされた電気スチールストリップを製造する方法であって、
圧延電気スチールストリップの第1の平坦面上に前処理層を塗布する段階であって、前記前処理層の層厚さは、10nm~100nm、特に、20nm~50nmの範囲である、段階と、
前記前処理層でコートされている前記圧延電気スチールストリップを、前記前処理層上の絶縁ラッカー層でコートする段階であって、前記絶縁ラッカー層は、ロールを用いたロール塗布によって塗布され、前記前処理層を塗布した後であって前記絶縁ラッカー層でコートする前に、前記前処理層の意図的な乾燥及び/又は架橋は行われない、段階と、
を含み、
前記絶縁ラッカー層は、ベーキングラッカー層である、 方法。
【請求項2】
前記前処理層は、ストリップ経路における前記ロールの上流側に位置するロールを用いたロール塗布によって塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
洗浄及び/又はブラッシングによる前記圧延電気スチールストリップの清浄化は、前記前処理層の塗布の前に実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理層は、有機成分及び無機成分、特にリンまたはリン酸を含有する組成物で構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理層は、1.0重量%~5.0重量%、特に1.5重量%~3.0重量%のポリビニルアルコール、0.01重量%~0.5重量%、特に0.05重量%~0.3重量%のリン酸、残余分の有機又は無機溶媒及び/又は水を含有する組成物で構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理層は、硬化剤を含有しない、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記前処理層は、前記電気スチールストリップのスチール表面で構成される、前記圧延電気スチールストリップの前記第1の平坦面に直接塗布される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記絶縁ラッカー層は、前記前処理層の表面に直接塗布される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記絶縁ラッカー層の前記層厚さは、1μm~12μmの範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記絶縁ラッカー層の前記層厚さは、6μm、4μm、2μm、又は1μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記圧延電気スチールストリップの第2の平面上にさらなる前処理層を塗布する段階と、
前記さらなる前処理層でコートされている前記圧延電気スチールストリップを、前記さらなる前処理層上のさらなる絶縁ラッカー層でコートする段階と、
をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面コートされた電気スチールストリップを製造する方法に関し、さらには、表面コートされた電気スチールストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
コートされた電気スチールストリップは、電気産業で用いられ、電気産業で、発電機、電動機、変圧器、又は他の電気装置に用いられる電気コアの製造における出発材料を形成する。このような電気コアは、コートされた電気スチールストリップを個々のラミネーションに切断し、それらのラミネーションを積み重ねて、これらを接合(例えば接着結合)し、ラミネーションパックを形成することによって製造される。この層構造は、電気コアにおける渦電流の発生を大幅に抑制し、その結果、電気コアの効率が著しく向上する。
【0003】
用途に応じて、異なる鋼合金から作製され、異なる軟磁性、損失性能、厚さ、及び使用分野によって重要な他の特性を有する電気スチールシートが選択される。
【0004】
製造中に電気スチールストリップを絶縁ラッカー層でコートし、以後ラミネーションのスタックにおける電気ラミネーションの電気的な絶縁を確実にすることが既知である。絶縁に加えて、ラミネーションのスタックにおける電気ラミネーションの接着結合も可能にする接着性絶縁ラッカー層は、ベーキングラッカー層と呼ばれる。ベーキングラッカー層は、接着結合プロセス(ラミネーションパケットの焼成)中に活性化され、ラミネーションパケットに必要な寸法安定性を与える接着剤を含有する。
【0005】
絶縁ラッカー層は、電気コアの電気的な有効体積を減少させるので、高効率のためには非常に薄い層厚さが望ましい。一方、層厚さは、電気コアの耐用期間にわたって必要な絶縁性能を保証可能であるように十分大きい必要がある。
【0006】
さらなる側面は、電気スチールストリップへの絶縁ラッカー層の十分な接着であり、これは比較的高合金の電気スチールストリップの場合には特に減少する可能性がある。
【0007】
既存のコーティング設備は、絶縁ラッカー層を、熱処理され、任意に清浄化された(洗浄され、任意にブラッシングされた)むき出しの電気スチールストリップに塗布する。清浄化により、コーティングの接着の均一化及び改善が可能になる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つの目的は、良好な接着性、絶縁強度、及び耐エージング性を有する表面コーティングを可能にする、表面コートされた電気スチールストリップを製造する方法を提供することとみなされ得る。特に、薄いコーティング厚さが実現可能であるべきである。さらに、本発明は、上述された特性を有する表面コートされた電気スチールストリップを提供することを目的とする。
【0009】
この目的は、独立請求項の特徴によって実現される。例示的な実施形態及びさらなる発展形態が、従属請求項に記載されている。
【0010】
したがって、コートされた電気スチールストリップを製造する方法は、圧延電気スチールストリップの第1の平坦面上に前処理層を塗布する段階であって、前処理層の層厚さは、10nm~100nm、特に、20nm~50nmの範囲である、段階と、前処理層でコートされている圧延電気スチールストリップを、前処理層上の絶縁ラッカー層でコートする段階であって、絶縁ラッカー層は、ロールを用いたロール塗布によって塗布され、前処理層を塗布した後であって絶縁ラッカー層でコートする前に、前処理層の意図的な乾燥及び/又は架橋は行われない、段階と、を含む。
【0011】
前処理層を塗布することによって、絶縁ラッカー(ワニス)コーティングでのコーティングの品質改善が実現される。絶縁ラッカー層の電気スチールストリップへの接着性の改善を非常に広く実現でき、これは比較的高合金の電気スチールストリップの場合に特に顕著である。さらに、前処理層によって、絶縁ラッカー層の耐エージング性を改善でき、さらに驚くべきことに、絶縁ラッカー層の絶縁作用の向上も実現できることがわかっている。
【0012】
前処理層の層厚さが小さいことにより、前処理層は、このコーティング方法の合計の層厚さをわずかにしか増やさない。絶縁ラッカー層の層特性が改善され、また前処理層が比較的非常に小さな層厚さであるので、前処理層の使用によって、絶縁強度、耐エージング性、及び/又は層接着性に関して同等の層特性を維持しながらコーティングの合計厚さを低減することが可能になることが想定される。層厚さが低減されることで、電気スチールストリップから製造される電気コアの効率が改善される。
【0013】
前処理層を塗布した後であって絶縁ラッカー層でコートする前に、前処理層の意図的な乾燥及び/又は架橋は必要でなく、行われもしない。前処理層の層厚さが小さいので、処理層は、意図的な乾燥を伴わずとも(すなわち、放射線、熱等による追加のエネルギーの導入を伴わずに)或る程度乾燥することができる。
【0014】
インラインプロセスで順に接続されている2つのコーティングステーションを備える既存のコーティング設備を用いる場合、上記方法は、ストリップの移動方向における第1のコーティングステーションを前処理層でのコーティング用に変更し、次に、ただ1回のロール塗布を用いて、第2のコーティングステーションにおいて絶縁ラッカー層が塗布されるようにすることによって、生産作業において非常に安価に実施することができる。
【0015】
絶縁ラッカー層は、特に、ベーキングラッカー層とすることができる。この場合、絶縁作用だけでなく、電気スチールラミネーションを一緒に焼成して寸法が安定した電気コアを提供することも可能にする、コートされた電気スチールストリップが製造される。ベーキングラッカー層は、例えば、エポキシ樹脂又はエポキシ樹脂混合物と、ジシアンジアミドなどの少なくとも1つの潜在性硬化剤とを含む、熱硬化性水性溶融接着ラッカー層である。硬化剤は、熱可塑性から熱硬化性に変わる。
【0016】
例えば、前処理層は、スチールストリップ経路におけるロールの上流側に位置する(第1の)ロールを用いたロール塗布によって塗布される。同様に、他の塗布方法、例えば、印刷処理又は噴霧処理も可能である。
【0017】
前処理層を塗布する前に、異物の無いまったくむき出しの金属表面を提供するために、洗浄及び/又はブラッシング又は他の機械的及び/又は化学的清浄化段階によって圧延電気スチールストリップの清浄化を行うことができる。
【0018】
前処理層は一般に、専ら有機成分で、又は、有機成分だけでなく無機成分も含有する組成物で構成することができる。例えば、リン(任意でリン酸の形態である)が無機成分として存在することができる。前処理層は、例えば、1.0重量%~5.0重量%、特に1.5重量%~3.0重量%のポリビニルアルコール(PVAL:CO)、0.01重量%~0.5重量%、特に0.05重量%~0.3重量%のリン酸(HPO)を含有する組成物で構成され、残余分は有機又は無機溶媒及び/又は水とすることができる。上述された全ての場合において、前処理層は、硬化剤を含有しないことができる。前処理層は、ベーキングラッカー(潜在性硬化剤を含有する)でなくてもよい。
【0019】
前処理層は、電気スチールストリップのスチール表面で構成される、圧延電気スチールストリップの第1の平坦面に直接塗布することができる。
【0020】
同様に、絶縁ラッカー層は、事前に塗布された前処理層の表面に直接塗布することができる。
【0021】
例えば、絶縁ラッカー層の層厚さは、1μm~12μmの範囲とすることができる。絶縁ラッカー層の層厚さは、特に、6μm、4μm、2μm、又は1μm以下であり得る。
【0022】
表面コートされた電気スチールストリップは、圧延電気スチールストリップ、圧延電気スチールストリップの第1の平坦面上の前処理層、及び前処理層上の絶縁ラッカー層を含む。このような表面コートされた電気スチールストリップは、絶縁ラッカー層の接着性、耐エージング性、及び/又は絶縁強度に関して高いコーティング品質を示すことができる。これらの利点は、高合金電気スチールストリップを用いる場合、及び/又は、絶縁ラッカー層としてベーキングラッカーを用いる場合に特に明らかであり得る。
【0023】
前処理層は、無機成分、特にリンを含有することができ、その結果、前処理層は、例えば、表面コートされた電気スチールストリップを前処理層の(無機)化学成分について簡単に検査することで検出することができる。
【0024】
電気スチールストリップは、合計合金含有量(Si及びAl、任意でさらなる合金要素を含む)が、1.0重量%、2.0重量%、3.0重量%、又は4.0重量%以上とすることができる。特に、非常に高い合金グレードのものを電気スチールストリップとして用いることができる。電気スチールストリップは、特に、Siの含有量が、0.8重量%、1.5重量%、2.0重量%、又は3.0重量%以上とすることができる。
【0025】
例示的な実施形態及びさらなる発展形態が、概略的な図面を用いて例として下記に記載され、図面では、異なる程度の詳細が使用される場合がある。同一の参照符号は、同じ又は類似する部分を表している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】電気スチールストリップに前処理層及び前処理層上の絶縁ラッカー層を塗布し、また乾燥設備においてこれらの層を乾燥させる例示的な方法の縦断面図である。
【0027】
図2】層の乾燥後の、電気スチールストリップの表面に近い部分の縦断面図である。
【0028】
図3】1つの実施形態に係るコートされた電気スチールストリップのコイルを示す図である。
【0029】
図4】互いに積み重ねられたコートされた電気ラミネーションで作成された電気ラミネーションスタックを示す図である。
【0030】
図5】異なる組成の前処理層に関する、及び前処理層を伴わない場合の、熱エージングに際する接着結合された電気スチールストリップ試料のエージング時間にわたるロール剥離強度(N/mmの単位での分離力)の推移を例示的に示す図である。
【0031】
図6】各事例において前処理層を伴う場合および伴わない場合の、接着結合された電気スチールストリップ試料の異なる絶縁ラッカー(ベーキングラッカー)に関するロール剥離強度(N/mmの単位での分離力)を例示的に示す図である。
【0032】
図7】前処理層を伴う場合及び伴わない場合の、水熱エージングに際する接着結合された電気スチールストリップ試料のエージング時間にわたるロール剥離強度(N/mmの単位での分離力)の推移を例示的に示す図である。
【0033】
図8】異なる前処理層を有する場合および前処理層を伴わない場合の、コートされた電気スチールストリップ試料の電気絶縁抵抗(オーム×cmの単位)の測定値を例示的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書における「塗布する(apply)」及び類似の用語(例えば「塗布される(applied)」などの用語は、概して、塗布層が塗布される表面と直接接触していなければならないことを意味すると解釈されるべきではない。「塗布される(applied)」要素又は層とその下に存在する表面との間に、介在する要素又は層が存在してもよい。しかしながら、本開示における上述の用語又は類似の用語は、要素又は層が下に存在する表面と直接接触している、すなわち介在する要素又は層が間に存在しないという特定の意味も有し得る。
【0035】
表面「上」に形成又は塗布される要素又は材料層に関して用いられる「上(over)」という用語は、ここでは、表面と要素又は材料層との間に介在する要素又は層が存在可能である状態で、要素又は材料層が表面「上に間接的に」塗布されるという意味で用いられ得る。しかしながら、「上」という用語は、表面「上」に塗布される要素又は材料層が表面「に直接」塗布される、すなわち、例えば当該の表面と直接接触しているという特定の意味も有し得る。同じことは、「上方(above)」、「下方(under)」、「下(underneath)」等のような類似の用語に同様に当てはまる。
【0036】
図1は、例として、ストリップコーティング設備100において、電気スチールストリップ110からコートされた電気スチールストリップ150(図2を参照)を製造する方法を示している。電気スチールストリップ110は、ストリップコーティング設備100へと連続的に供給される(矢印Pを参照)。電気スチールストリップ110は、例えば、最終的に熱処理された状態の冷間圧延非方向性電気スチールストリップ(例えば、DIN EN 10106)とすることができる。同様に、他の電気スチールシート、例えば、熱間圧延電気スチールシート、及び/又は、最終的な熱処理を施されていない電気スチールシート等としてもよい。冷間圧延又は熱間圧延電気スチールシートは、例えば、励磁機及び発電機又は変圧器におけるポールシート等として用いられる。
【0037】
ストリップコーティング設備100に供給される電気スチールストリップ110は、例えば、「連続的な」金属ストリップの形態で存在することができ、これを、コイル(図示せず)から矢印Pの方向に任意に巻き出すことができる。
【0038】
ストリップコーティング設備100は、少なくとも1つの前処理ステーション120と、コーティングステーション130とを備える。ストリップコーティング設備100は、加えて、乾燥設備140、例えば乾燥焼成オーブンを備えることができる。
【0039】
ここに図示されている例では、コーティング設備100は、二面コーティング設備100として図示されている。しかしながら、電気スチールストリップ110の一方の平面(例えば、図1に示される上面)のみがコートされてもよい。この点で、後述されるものは全て、片面コーティングの場合と、図示されている、電気スチールストリップ110の両平面をコーティング可能な場合との両方に当てはまる。二つ目の場合(二面コーティング)では、前処理、コーティング、及び乾燥に関して記述されるものは全て、ストリップの上面の処理と、電気スチールストリップ110の反対のストリップ下面の処理との両方に当てはまり得る。さらに、二面前処理及びコーティングは、ストリップの両面に異なる層を用いて実行することもできる。
【0040】
同様に、電気スチールストリップ110は、例えば、比較的低合金の電気スチールストリップであるisovac(登録商標)800-50A(0.6重量%のSi及び0.4重量%のAlを含有)とすることができ、多くの他の電気スチールストリップ又はisovac(登録商標)製品、特に、より高い割合の合金成分を有するものを用いることもできる。
【0041】
コートされていない、任意に化学的及び/又は機械的に清浄化された電気スチールストリップ110が、前処理ステーション120において前処理層112でコートされる。コーティングは、全面積に実行することができる。すなわち、前処理層112は、電気スチールストリップ110の表面を完全に被覆することができる。
【0042】
前処理層112は、ロール又はローラ122(例えば、一組のロール又はローラ122)によって、電気スチールストリップ110の上側平面(又は反対の下側平面)に塗布することができる。ロール塗布の場合、ロール122は、移動している電気スチールストリップ110上を走り、ロール122に事前に塗布されている薄膜の形態の液体前処理物質124を電気スチールストリップ110の表面に堆積させる。ここで、前処理層112の層厚さは、ロール塗布のパラメータを介して比較的精密に設定することができる。
【0043】
前処理層112を電気スチールストリップ110の一方又は両方の面に塗布した後、前処理された電気スチールストリップ110は、コーティングステーション130を通って進む。コーティングステーション130において、湿潤絶縁ラッカー層114が、例えば、ロール132(又は一組のロール132)によって前処理層112上に塗布される。塗布は、同様にロール塗布によって施すことができ、層厚さ(乾燥後に測定)は、ここでもロール塗布のパラメータによって比較的精密に設定可能である。表面コーティング114でのコーティングも、全面積に施すことができ、すなわち、前処理層112の表面は完全に被覆される。
【0044】
両面に異なるコーティングで二面コーティングを行う場合、例えば、上面とは異なる絶縁ラッカー層114を、電気スチールストリップ110の下面に塗布可能である。例えば、ベーキングラッカー層を下面(上面)に塗布することができ、接着性を有しない絶縁ラッカー層を上面(下面)に塗布することができる。
【0045】
前処理コーティング112は、電気スチールストリップ110への絶縁ラッカー134の接着を向上させる役割を果たす。高合金電気スチールストリップは、表面上での酸化アルミニウム及び/又は酸化シリコンの形成の増大を特に示し、これは電気スチールストリップ110への絶縁ラッカー層の接着に悪影響を及ぼし得る。前処理層112は、絶縁ラッカー層114に接着の改善の基礎を提供する。
【0046】
非常に高合金の電気スチールストリップは、例えば、合金成分含有量が合計で4重量%以上であり得る。例えば、非常に高合金の電気スチールストリップは、シリコン含有量が3重量%以上であり、例えば、アルミニウム含有量が1重量%以上であり得る。
【0047】
前処理層112は、比較的薄く、約10nm~100nmの厚さを有することができる。特に、50nm未満の厚さを設定し、表面コーティングの接着の著しい改善を可能にすることができる。
【0048】
前処理物質124として、単に有機物質、又はそうでなければ無機成分を伴う有機物質を用いることができる。例えば、前処理層112は、ポリビニルアルコール(PVAL)、リン酸(PS)、及び有機及び/又は無機溶媒、例えば水を含有するか、又はこれらの成分で構成され得る。
【0049】
絶縁ラッカー134は、追加の接合手段(例えば、溶接接合部)無しに、電気コアにおける電気スチールラミネーションの乾燥接着結合を可能にする接着性絶縁ラッカー、すなわちベーキングラッカーとすることができる。同様に、接着機能を有しない絶縁ラッカー134を用いることもできる。
【0050】
例えば、絶縁クラスC3/EC-3、C4/EC-4、C5/EC-5、又はC6/EC-6の絶縁ラッカーを用いることができる。
【0051】
絶縁クラスC3/EC-3の絶縁ラッカー134は、有機基質を有する無充填ラッカーであり、単に有機成分を含有し、さらなる熱処理プロセスを施されていない電気スチールラミネーションを絶縁する役割を果たすことができる。これらのラッカーは、優れたプレス加工性を有する。
【0052】
絶縁クラスC4/EC-4の絶縁ラッカー134は、熱処理に対して安定であり、良好な溶接性を有する無機絶縁ラッカーである。これらの水で希釈可能な無機絶縁ラッカーは、熱処理の際に電気スチールシートが一緒にくっつくことを回避する。
【0053】
絶縁クラスC5/EC-5の絶縁ラッカー134は、より良好な絶縁性、耐熱性、及び場合によっては改善された溶接性が要求される用途向けの、有機又は無機基質を有する無充填ラッカーである。
【0054】
絶縁クラスC6/EC-6の絶縁ラッカー134は、有機又は無機基質を有する充填ラッカーであり、さらに改善された絶縁性及び向上した圧縮強度を提供する。これらのラッカーは、高い割合の無機充填剤を含有する、熱的に安定した有機ポリマーに基づく。これらのラッカーは、特に、高い圧縮応力及び温度応力を受ける大きな電気コアに用いられる。
【0055】
前処理ステーション120及びコーティングステーション130は、空間的に、及びストリップ速度に基づいて時間的に、互いに近接して配置することができる。例えば、前処理ステーション120と第2のコーティングステーション130との間に、10m、8m、6m、5m、又は4m以下となるように物理的距離(すなわち、例えば、ロール122及び132の軸間距離)を設けることができる。前処理ステーション120における前処理層112の塗布と、コーティングステーション130における絶縁ラッカー層114の塗布との間の時間は、20秒、15秒、10秒、5秒、又は3秒以下とすることができる。通例のストリップ速度は、例えば、100m/分の域とすることができ、この値は、例えば、±10%、±20%、±30%、±40%、又は±50%変動可能である。
【0056】
コーティングステーション130の下流のスチールストリップ経路には、例えば、乾燥オーブン140が存在する。第2のコーティングステーション130と、乾燥オーブン140への入口との間の時間的及び空間的な距離は、例えば、前処理ステーション120とコーティングステーション130との間の時間的及び空間的な距離に関して上記で示されたものと同じ値を有することができる。
【0057】
乾燥オーブン140において、絶縁ラッカー層114は乾燥される。乾燥オーブン140は、この目的で、コートされた電気スチールストリップ110が連続してその中を通って進む連続的な乾燥オーブン(トンネルオーブン)として構成することができる。例えば、乾燥オーブン140内での電気スチールストリップ110の最大温度は、150℃~300℃の範囲とすることができ、特に、170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃もしくは230℃以上、及び/又は、250℃、220℃、210℃、200℃もしくは190℃以下の温度値を定めることができる。
【0058】
乾燥オーブン140内での熱処理の持続時間は、例えば、10秒~40秒の範囲、特に、20秒又は30秒未満又はそれ以上とすることができる。同様に、他の温度及び熱処理時間でもよい。
【0059】
乾燥オーブン140において、前処理層112と絶縁ラッカー層114との間に、物理的及び/又は化学的結合(共有結合)を形成することができる。これによって接着性が向上する。絶縁ラッカー層114は、少なくとも、機械的に安定に、かつ乾燥オーブン140の出口端におけるストリップ経路での電気スチールストリップ110に対する摩耗に耐えるように接合される程度まで乾燥される。そしてこれにより、例えば、偏向ロールを通した、及び/又は、巻き上げてコイルにする(図1には図示せず)ことによる、乾燥オーブン140の下流のストリップ経路における乾燥中のコートされた電気スチールストリップ150のさらなる処理が可能になる。
【0060】
図2は、乾燥オーブン140の下流の領域におけるコートされた電気スチールストリップ110の表面に近い部分の略図を縦断面で示している。層厚さの変動は図示されていない。断面図は、図示の縦断面と同一とすることができる。
【0061】
(乾燥した)前処理層112は厚さD1を有し、(乾燥した)絶縁ラッカー層(例えば、ベーキングラッカー層)114は厚さD2を有する。層厚さD1は、例えば、層厚さD2と比較して、10分の1、25分の1、もしくは50分の1に、又はこれより小さくすることができる。例えば、層厚さD2は、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、もしくは12μm以上又はそれ未満とすることができる。電気スチールストリップ110のシート厚さD3は、例えば、0.5mm、0.4mm、0.35mm、又は0.3mm以下とすることができる。
【0062】
図3は、ストリップコーティング設備100の出口端において巻き上げることができるコートされた電気スチールストリップ150のコイル(ロール)310を示している。コイル310は、例えば、顧客に送り、顧客の元でさらに処理して電気コアにすることができる。
【0063】
図4は、コートされ乾燥された電気スチールストリップ150を横方向に分離することによって得られる電気スチールシート410を積み重ねて作製された、電気コア400の断面の概略図を示している。
【0064】
電気スチールシート410は、通例、積み重ねる前に、成形段階によって、例えばプレス加工又はレーザ切断によって、最終形状を与えられる。
【0065】
絶縁ラッカー層114がベーキングラッカー層である場合、ラミネーションのスタックは、絶縁ラッカー層114の硬化によって固まる。固まるメカニズムは、化学反応、通例は絶縁ラッカー層(ベーキングラッカー層)114における接着剤の三次元架橋に基づく。ベーキングラッカーの硬化は、コートされた電気スチールシート410を締め付けるとともに、層スタックを例えばオーブン内で加熱することによって生じさせることができる。絶縁ラッカー層114がベーキングラッカー製でない場合、層スタック(ラミネーションパケット)を固めるために他の手段(例えば、溶接)が用いられる。
【0066】
ここに提示されている例では、両面がコートされた電気スチールシート410から製造された電気コア400が図示されている。上述したように、片面がコートされた電気スチールシート410、又は、両面が異なるコーティングでコートされた電気スチールシート410を用いてもよく、その結果、より高い占積率を実現することが可能になり得る。前処理層112の厚さは大きすぎるので、図4は本来の縮尺ではない。
【0067】
図5のグラフは、異なる前処理層112が、絶縁ラッカー層114としてのベーキングラッカーでコートされた2つの電気スチールシート間の接着結合の強度に与える影響を示している。2つの接着結合した電気スチールシートを再び引き離すのに必要な分離力(ロール剥離強度)が図示されている。ここで、実験結果は、正常雰囲気において180℃で実行された熱エージングのさまざまな時間に関するものである。
【0068】
結合の強度は、全試料に関して、エージング時間が増加するにつれて低下することがわかる。それぞれのベーキングラッカー層114の下に前処理層112を伴わずに製造された試料501の場合、1630時間(h)後に残った接着力はたった0N/mmであり、すなわち接着結合は失われていた。試料511、512、513、514及び515は、2.0重量%のポリビニルアルコール(PVAL)及び異なる割合のリン酸(PA)、残余分の水を含有する前処理層112を用いて製造された。リン酸の添加量は、試料511の場合は0.0重量%であり、試料512の場合は0.02重量%であり、試料513の場合は0.05重量%であり、試料514の場合は0.1重量%であり、試料515の場合は0.2重量%であった。
【0069】
全ての前処理の変形例で、熱エージングの結果としての接着力の損失が減少し、すなわち、これらの変形例は、前処理を伴わないものよりも良好であった。これは、下に存在する前処理層112によって、ベーキングラッカー層114の電気スチールストリップ110への接着が改善していることに起因するものと考えられる。例えば、リン酸の割合が0.05重量%~0.2重量%、特に、約0.1重量%(例えば、±50%、±100%、又は±200%)であるのが、(熱)エージングに際して接着性/接着力を維持するために特に有利であるようである。実験は、比較的低合金の電気スチールストリップであるisovac(登録商標)800-50A(0.6重量%のSi及び0.4重量%のAlを含有)を用いて行われた。
【0070】
図6は、高合金(合金成分の合計の割合が≧4重量%、ここではSiが2.5重量%及びAlが1.5重量%)の電気スチールストリップ110上での異なるベーキングラッカーの接着性についての実験結果を示している。各事例の前処理物質124は、2重量%のPVAL及び0.2重量%のリン酸、残余分の水を含有していた(すなわち、図5の試料515に対応する)。異なるベーキングラッカーは、BL1、BL2、BL3、BL4、及びBL5として示されており、対になった棒のうちの右側の棒は、接着結合された電気スチールストリップから作成された処理済み試料に関するものであり、左側の棒は、同一だがそれぞれのベーキングラッカー層114の下に前処理層112を伴わない試料に関するものである。
【0071】
図6は、前処理を伴う全てのベーキングラッカーの変形例が、前処理を伴わないものよりも良好であることを示している。また、図6は、異なるベーキングラッカーが、非常に異なる強度を有する接着結合を形成することを示している。
【0072】
図7は、2つの接着結合されたストリップ状の電気スチールシートで作成された試料の水熱エージングの実験結果を示している。試料は、同じベーキングラッカー層(各事例において、図6のBL1)を用いて作成されたが、一方の場合では前処理層を伴わず(曲線701)、もう一方の場合では前処理層を伴っていた(曲線711)。85℃及び相対湿度85%で、水熱エージングが行われた。前処理物質は、リン酸を有しない2重量%のPVALであった(図5の曲線511に対応)。低合金電気スチールストリップ(isovac(登録商標)800-50A、0.6重量%のSi及び0.4重量%のAlを含有)を電気スチールストリップ110として用いた。
【0073】
図7は、前処理を伴わないものよりも前処理を伴う方が、水熱エージングが良好であることを示している。前処理を伴わない試料701の場合、2000時間(h)後には、接着結合された電気スチールストリップはもはや付着していないが、前処理層を伴う試料の場合、2000時間(h)後でも、4N/mm未満ほどのロール剥離強度を依然として有していた。さらに、図7は、低合金電気スチールシートがここでは用いられているので、初期接着性(h=0における)が、高合金電気スチールストリップ(同じベーキングラッカーBL1を伴う)を用いた図6が示すものよりも著しく高いことを示している。
【0074】
さらに、驚くべきことに、隣接する電気スチールシート間の電気絶縁抵抗は、前処理層112の使用によって改善されることがわかった。ベーキングラッカー層114の絶縁作用は、通例は体積効果とみなされ、ベーキングラッカー層の表面特性にはほんの少しの程度しか依存しないはずであるので、これは驚くべきことである。
【0075】
図8の実験結果は、前処理層112を伴わずに(VB無し)、また、異なる前処理層112(VB1、VB2、VB3、VB4、VB5)を伴って作成された、コートされた電気スチールストリップの試料に関する。最大の絶縁抵抗を有する前処理物質VB2は、ここでは、図5において曲線514の場合に用いられた前処理物質(2.0重量%のPVAL、0.1重量%のリン酸、残余分の水)に対応する。同じ絶縁ラッカー層114(すなわち、同じ材料かつ同じ層厚さ)が、全ての試料について用いられた。電気スチールストリップ110として、isovac(登録商標)800-50A(0.6重量%のSi及び0.4重量%のAl)製のものがここでも使用された。
【0076】
図8は、全ての前処理変形例における絶縁抵抗が、前処理を伴わないものよりも良好である、すなわち、絶縁抵抗は、(VBを伴わないものをVB1~VB5と比較すると)前処理層112の使用によって常に向上することを明らかに示している。ここで、それぞれの測定棒の中央の横線は、複数の試料での絶縁抵抗の平均を示している。棒の長さは、平均に基づく実験結果の+25%及び-25%の散乱を表し、縦の許容差線は、対応する試料群における絶縁抵抗の測定された最小値及び最大値を示している。
【0077】
図5図8の実験結果は、電気コア400の対応する特性に一般化できることが想定され、したがって、絶縁ラッカー層114の下に前処理層112を伴う電気スチールラミネーションから製造された電気コア400が同様に、エージング、水熱エージング、ラミネーションパケットの強度、及び絶縁ラッカー層114の電気絶縁効果に関して改善された特性を示すことが想定できる。
【0078】
特に、このような電気コア400を、接着結合されたラミネーションパケット内に冷却チャネルを備えるようにして提供することができる。というのも、絶縁ラッカー層114の下に侵入する水分による腐食のリスクが著しく低減されるためである(図7を参照)
【0079】
コートされた電気スチールストリップの例は、下記で説明する。
【0080】
コートされた電気スチールストリップは、圧延電気スチールストリップ、圧延電気スチールストリップの第1の平坦面上の前処理層、及び前処理層上の絶縁ラッカー層を含むことができる。
【0081】
前処理層は、無機成分、特にリンを含有することができる。
【0082】
前処理層は、任意の硬化剤又はベーキングラッカーを含有しないことができる。
【0083】
絶縁ラッカー層は、ベーキングラッカー層とすることができる。
【0084】
電気スチールストリップは、合金成分の合計割合が、1.0重量%、2.0重量%、3.0重量%、又は4.0重量%以上とすることができる。電気スチールストリップは、Siの割合が、0.8重量%、1.5重量%、2.0重量%、又は3.0重量%以上とすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8