(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221012BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20221012BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08L23/06
C08L23/12
(21)【出願番号】P 2019151859
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390000387
【氏名又は名称】福助工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】合田 昌史
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182528(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163836(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131168(WO,A1)
【文献】特開2019-034519(JP,A)
【文献】特開2016-027171(JP,A)
【文献】特開2012-148810(JP,A)
【文献】特開2015-189160(JP,A)
【文献】特開2006-187908(JP,A)
【文献】特開2010-194781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
B32B 27/00 - 27/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層、中間層及び内層を有する樹脂積層体であって、前記外層及び前記内層は、ホモポリプロピレンを含有する樹脂組成物からなり、前記中間層は、ホモポリプロピレンをベース樹脂とし、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有し、前記植物由来ポリエチレンは、少なくとも直鎖状低密度ポリエチレンを含有する樹脂組成物からなる、透明性を備えた樹脂成形体。
【請求項2】
前記植物由来ポリエチレンは、前記樹脂組成物全体に対する含有量が15質量%以下である請求項1に記載の透明性を備えた樹脂
成形体。
【請求項3】
前記樹脂成形体が蓋体又は容器である請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物であって、ポリエチレン系樹脂として、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンとを含有する樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、樹脂製容器に被せる透明蓋体の材料として、剛性を備えたポリプロピレンが多用されている。一方、地球温暖化を抑制する観点から、世界規模で二酸化炭素の排出量の削減が求められており、近年、石油を炭素源とするエチレン(石油由来エチレン)を含んだポリエチレン(石油由来ポリエチレン)の代替品として、植物を炭素源とするエチレン(植物由来エチレン)を含んだポリエチレン(植物由来ポリエチレン)が上市されている。
【0003】
そして、特許文献1には、バイオマス由来のポリオレフィンと、化石燃料由来のポリオレフィンとを含んでなる樹脂組成物からなる樹脂フィルムが開示されており、植物の生育時のCO2吸収と燃焼時の排出が同一となるカーボンニュートラルなポリオレフィン樹脂フィルムを実現できる旨記載されている。従って、剛性を有する透明蓋体の材料として、ポリプロピレンに、環境負荷の低減を目的として植物由来ポリエチレンを配合した組成物を用いることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、植物由来ポリエチレンを構成するモノマーである植物由来エチレンは、植物原料を含む培養液に微生物を作用させて産生する発酵エタノールを脱水することによって製造される。このようにして得られた植物由来エチレンには極微量の不純物が含まれることから、これをモノマーとして重合してなる植物由来ポリエチレンは、同じグレードであっても石油由来ポリエチレンと同等の物性とするのが難しいことが知られている(特許文献1段落0033参照)。
【0006】
ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とはもともと相溶性が低い。従って、物性のバランスを考慮しつつ石油由来ポリエチレンを含有する樹脂組成物の配合を決定できたとしても、石油由来ポリエチレンを植物由来ポリエチレンに代替した場合、樹脂組成物の物性(透明性、機械特性等)が変化する。よって、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物と同等の物性を備えた成形体を得ることが困難であった。
【0007】
そこで、本発明においては、植物由来ポリエチレンを用いることで環境負荷の低減を図りつつ、実用レベルの透明性及び機械特性を備えたポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様としての樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂組成物であって、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有し、前記植物由来ポリエチレンは、少なくとも直鎖状低密度ポリエチレンを含有する。
【0009】
前記植物由来ポリエチレンは、前記樹脂組成物全体に対する含有量が15質量%以下としてもよい。
【0010】
また、前記樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む単層構造又は積層構造を有する、透明性を備えた樹脂成形体としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、植物由来ポリエチレンとして直鎖状低密度ポリエチレンを配合したため、環境負荷の低減を図りつつ、実用レベルの透明性及び機械特性を備えた樹脂組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有するものであって、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有し、前記植物由来ポリエチレンは、少なくとも直鎖状低密度ポリエチレンを含有する。
【0013】
ここで、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーとしては、ポリプロピレンランダムコポリマー及びポリプロピレンブロックコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーにおいて、エチレンと共重合させるモノマーとしては、エチレンおよび/または4~12個のC原子のα-オレフィンであってもよい。
【0014】
ポリエチレン系樹脂としては、少なくとも一部に植物由来ポリエチレンを含有していればよい。モノマーの一部を植物由来エチレンとすることによっても環境負荷を低減することができる。ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体のほか、エチレンとα-オレフィンとを共重合させた共重合体を用いることができる。α-オレフィンは、炭素数は特に限定されないが、ブテン、ヘキセン、又はオクテンであることが好ましい。
【0015】
具体的に、ポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を挙げることができる。ポリエチレン系樹脂は、1種又は2種以上をブレンドして用いることができるが、透明性が良好であるという点で、少なくとも植物由来LLDPEを含有するのが好ましい。
【0016】
植物由来ポリエチレン中の全炭素量に対する植物由来の炭素の割合は、バイオマス度と呼ばれ、ポリエチレン樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することによって求めることができる。すなわち、大気中には一定割合の14Cが含まれる一方、石油由来の樹脂の炭素には14Cが含まれていない。
【0017】
したがって、ポリエチレン系樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することでバイオマス度を求めることができる。具体的に、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て石油由来である場合にはバイオマス度は0%となり、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て植物由来である場合にはバイオマス度は100%となる。
【0018】
上記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般的に用いられている充填剤、着色剤、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤などの安定剤、染料、顔料などの着色剤、スリップ剤およびアンチブロック剤などの添加剤を配合することができる。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、そのまま単層でシート状に成形することもできるが、本発明の樹脂組成物と他の樹脂組成物とが複数層が積層した積層構造とすることも可能である。シート状の成形体は、加熱した状態で金型で成形することで、例えば、透明性を備えた蓋体や容器など立体的な成形体に成形することができる。
【実施例】
【0020】
本実施例では、ポリプロピレン系樹脂として汎用ポリプロピレンを用い、そこに植物由来ポリエチレンとして、直鎖状低密度ポリエチレン(以下、植物由来LLDと称する)又は高密度ポリエチレン(以下、植物由来HDと称する)を用いて樹脂組成物を調製し、物性について評価した。以下、その詳細について記す。
【0021】
[樹脂組成物の調製]
表1に示すように、外層、中間層及び内層の3種類の樹脂組成物を調製した。なお、表中、「外」は外層を、「中」は中間層を、「内」は内層を、それぞれ示す。また、樹脂組成物の調製に使用した材料は以下のとおりである。
・PP:日本ポリプロ社製(品番:EA6BT)
・バイオLLD:ブラスケム社製、植物由来LLDPE(SLL118)
・バイオHD:ブラスケム社製、植物由来HDPE(SHE150)
なお、表1中、「バイオ・・・1%」又は「バイオ・・・10%」の表示は、外層、中間層及び内層を合せた樹脂全体に対する、上記バイオLLD又はバイオHDに含まれる植物由来の炭素の割合、すなわち樹脂全体におけるバイオマス度が1%又は10%であることを示している。
【0022】
【0023】
[積層樹脂シートの作製及び評価]
表1で調整した3種類の樹脂組成物を共押出機に供給し、3層の積層シートとして押出した。外層および内層の厚みは0.010mm、中間層の厚みは0.280mmとなるように調整し、全体で0.300mm厚の積層シートを作製した。積層シート作製時におけるシート加工性およびシート透明性について以下の評価を行なった。評価結果を表2に記す。
【0024】
(1)積層樹脂シートの厚み安定性
成形された3層積層樹脂シートの厚みを測定し、以下の基準により評価した。
〇:シート厚みの安定性が±4%以内
×:シート厚みの安定性が±4%を超える場合
【0025】
(2)積層樹脂シートの表面状態
成形された3層積層樹脂シートの表面状態を以下の基準により評価した。
〇:シート表面が平滑である。
×:シートに荒れ、ハゲ、樹脂だまり、異物及び凹凸のいずれかが認められる。
【0026】
(3)樹脂圧変動
共押出機で樹脂組成物を押し出す際の樹脂圧変動について以下の基準により評価した。
〇:ギアポンプ前圧±5kg以内
×:ギアポンプ前圧±5kgを越える場合
【0027】
(3)積層樹脂シートの透明性
成形された3層積層樹脂シートの透明性をJIS K7136に準拠して測定したヘーズ値で評価した。蓋体として用いられる場合、一般的にヘーズ値が10.0%以下であれば内容物が十分視認可能であり、実用レベルであると判断される。
【0028】
【0029】
[樹脂成形体の作製及び評価]
積層樹脂シートを加熱し、金型を用いて蓋体を成形し、得られた蓋体について以下の評価を行った。評価結果を表3に記す。
【0030】
(1)圧縮時荷重
作製した蓋体を容器本体に嵌合させ、蓋付き容器の状態で圧縮試験機にセットする。蓋付き容器を上下方向に50±5mm/minの速度で圧縮し、接触位置を0mmとして、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm及び10mmまで治具で押し込み、そのときにかかる荷重を測定した。数値が大きいほど、耐圧縮性に優れていることを示す。
【0031】
(2)耐熱性試験
作製した蓋体をオーブン内にセットし、所定の温度にて10分加熱した後、オーブンから出して10分自然法令後の蓋体の外観状況及び透明性の評価を行った。加熱温度は130℃~145℃の範囲で5℃きざみとし、加熱後の蓋体の外観状況及び透明性に変化がない上限温度を耐熱温度とした。
【0032】
【0033】
[評価結果]
表2及び3より、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、そこへポリエチレン系樹脂を配合する場合、ポリエチレン系樹脂として植物由来の直鎖状低密度ポリエチレンを添加したNo.1及び2、並びに、植物由来の高密度ポリエチレンを添加したNo.3及び4のいずれも、樹脂シートの成形性及び樹脂成形体の耐熱性はポリプロピレン100%品であるNo.5と同等の性能を示した。
【0034】
一方、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、そこへ植物由来の直鎖状低密度ポリエチレンを添加したNo.1及び2は、植物由来の高密度ポリエチレンを添加したNo.3及び4に比べて透明性が高く、実用レベルであることが確認された。
【0035】
機械特性(圧縮時荷重)については、植物由来直鎖状低密度ポリエチレン、植物由来高密度ポリエチレンのいずれを添加した場合でもポリプロピレン100%品であるNo.5と同等以上であることが確認された。特に、ポリプロピレンに植物由来直鎖状低密度ポリエチレン1.5質量%を添加したNo.1では、ポリプロピレン100%品であるNo.5と同等のヘーズ値を有しつつ、No.5よりも優れた耐圧縮性を備えていることがわかる。
【0036】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。