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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20221012BHJP
   H01M 50/114 20210101ALI20221012BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20221012BHJP
   H01M 50/627 20210101ALI20221012BHJP
   H01M 50/55 20210101ALI20221012BHJP
   H01M 50/691 20210101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M10/12 Z
H01M50/114
H01M50/15 101
H01M50/627
H01M50/55 101
H01M50/691
H01M10/12 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017099947
(22)【出願日】2017-05-19
(65)【公開番号】P2018195508
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幹人
(72)【発明者】
【氏名】大木 信典
(72)【発明者】
【氏名】小島 優
(72)【発明者】
【氏名】泉 健治
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04562126(US,A)
【文献】特開2015-153678(JP,A)
【文献】特開2017-059419(JP,A)
【文献】特開2006-073445(JP,A)
【文献】特開2007-026753(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102005021904(DE,A1)
【文献】特開平11-040137(JP,A)
【文献】特開平04-138665(JP,A)
【文献】特開平10-228892(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101640257(CN,A)
【文献】特開平11-149936(JP,A)
【文献】特開2017-033814(JP,A)
【文献】特開2017-021974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 50/114
H01M 50/15
H01M 50/627
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の極板群と、前記複数の極板群をそれぞれ個別に収納する複数のセル室を有する電槽と、前記複数のセル室にそれぞれ収容された電解液と、前記複数のセル室の開口部を一括して封口する電槽蓋と、を備え、
前記電槽蓋が、前記複数のセル室に対応する複数の液口が第1方向に並んで設けられた第1主面およびその反対側の第2主面を有する蓋本体と、
前記第2主面の前記複数の液口の周縁からそれぞれ垂下する複数の筒状ウェルと、を有し、前記筒状ウェルの下端と前記電槽の底部内面との距離は155mm未満であり、
前記筒状ウェルの第1方向における両側には、前記セル室間を区画する壁部が隣接しており、
前記複数の筒状ウェルは、それぞれ前記筒状ウェルの軸方向に沿った一対のスリットを有し、前記一対のスリットは、それぞれ5mm以上のスリット幅を有し、かつ前記第1方向と交差する第2方向に開口している、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記スリット幅が、8mm以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記筒状ウェルの下端と前記電槽の底部内面との距離が、150mm未満である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記電槽蓋は、前記第1方向における一方および他方の端部に位置する前記液口から前記第2方向に所定距離だけ離れた位置にそれぞれ設けられた一対の外部端子を具備し、
前記蓋本体の前記第1主面の前記外部端子に対応する部位が内側に凹むことにより、前記第1方向における一方および他方の端部に位置する前記セル室の上部空間が、他の前記セル室よりも狭くなっている、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
(i)未化成の請求項に記載の鉛蓄電池を組み立てる工程と、
(ii)前記未化成の鉛蓄電池を化成する工程と、
(iii)前記化成された鉛蓄電池から電解液を抜き取る工程と、
(iv)前記電解液が抜き取られた鉛蓄電池に別の電解液を注液する工程と、を有し、
前記電解液を抜き取る工程(iii)が、前記電槽蓋が鉛直方向の下方に位置するように前記電槽を裏返し、前記第1方向を回転軸にして、前記外部端子側を持ち上げるように前記蓋本体を傾ける、鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液式の鉛蓄電池は、複数の極板群と、複数の極板群をそれぞれ個別に収納する複数のセル室を有する電槽と、複数のセル室にそれぞれ収容された電解液と、複数のセル室の開口部を一括して封口する電槽蓋とを備える。電槽蓋は、複数のセル室に対応する複数の液口が第1方向に並んで設けられた第1主面およびその反対側の第2主面を有する蓋本体を有する。第2主面の各液口の周縁からは、筒状ウェルが垂下している。筒状ウェルには、液口を塞ぐように、液口栓が挿入されている。液口栓は、頭部と、頭部から垂下する筒部とを有し、頭部は第1主面側に露出し、筒部は筒状ウェル内に挿通されている。
【0003】
液口栓は、液口から電解液の飛沫が流出するのを抑制し、溢液性能を確保する役割を有する。筒状ウェルは、液口から電解液の補水を行うときに、液口から液面を覗いて液面の位置を確認するのに役立つ。液面が筒状ウェルの下端に達すると、液面が表面張力で盛り上がり、電解液に浸漬した極板群の上面が、電解液に透けて歪んで見える。これにより、液面が筒状ウェルの下端に達したことを知ることができる。
【0004】
筒状ウェルおよび液口栓の筒部には、それぞれ軸方向に沿ったスリットが設けられている。溢液性能を向上させる観点から、液口栓の筒部のスリットへの電解液の浸入を抑えることが提案されている。例えば、筒状ウェルのスリット幅は、できるだけ狭く設計されている。また、特許文献1は、筒状ウェルのスリットを更に外側ウェルで覆うことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-40137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の製造過程では、液口から電解液を注液する作業が行われる。注液前の極板群には多量の空気が含まれている。極板群から空気が抜け、電解液が極板群に十分に浸透するまでには時間がかかるため、規定量の電解液の液面が筒状ウェルの下端よりも上昇することがある。この場合、筒状ウェル内の電解液は、スリットからセル室に流入する。しかし、液口に注がれる電解液の流量がばらつくと、液面がスリットの上端に達し、電解液が液口から溢れ、電池の生産性が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み、本発明の一側面は、複数の極板群と、前記複数の極板群をそれぞれ個別に収納する複数のセル室を有する電槽と、前記複数のセル室にそれぞれ収容された電解液と、前記複数のセル室の開口部を一括して封口する電槽蓋と、を備え、前記電槽蓋が、前記複数のセル室に対応する複数の液口が第1方向に並んで設けられた第1主面およびその反対側の第2主面を有する蓋本体と、前記第2主面の前記複数の液口の周縁からそれぞれ垂下する複数の筒状ウェルと、を有し、前記複数の筒状ウェルは、それぞれ前記筒状ウェルの軸方向に沿った一対のスリットを有し、前記一対のスリットは、それぞれ5mm以上のスリット幅を有し、かつ前記第1方向と交差する第2方向に開口している、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記側面によれば、液式の鉛蓄電池において、注液時に、液口からの電解液の溢れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部を切り欠いた斜視図である。
図2】同鉛蓄電池の一部を切り欠いた正面図である。
図3】同鉛蓄電池が具備する電槽蓋の平面図である。
図4】同鉛蓄電池が具備する電槽蓋の裏面図である。
図5】同鉛蓄電池が具備する液口栓の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池は、複数の極板群と、複数の極板群をそれぞれ個別に収納する複数のセル室を有する電槽と、複数のセル室にそれぞれ収容された電解液と、複数のセル室の開口部を一括して封口する電槽蓋とを備え、電槽蓋が、複数のセル室に対応する複数の液口が第1方向に並んで設けられた第1主面およびその反対側の第2主面を有する蓋本体と、第2主面の前記複数の液口の周縁からそれぞれ垂下する複数の筒状ウェルとを有し、複数の筒状ウェルは、それぞれ筒状ウェルの軸方向に沿った一対のスリットを有し、一対のスリットは、それぞれ5mm以上のスリット幅を有し、かつ第1方向と交差する第2方向に開口している。上記構成によれば、振動時の溢液性能を低下させることなく、化成時等の電槽への電解液の注液時に、液口からの電解液の溢れを抑制することができる。
【0011】
スリット幅は、例えば8mm以下であればよい。これにより、振動時の溢液性能を確保することが更に容易になる。
【0012】
ここで、鉛蓄電池のサイズおよび形状は、JIS規格または欧州規格において定められている。また、鉛蓄電池を化成する方式には、電槽化成とタンク化成(極板を化成槽に入れて化成する方式)とがある。電槽化成は、化成槽を別途設置する必要がないため、タンク化成と比べて生産設備を小規模化することができるメリットがある。日本では、鉛蓄電池を大量生産する設備の小規模化が強く求められるため、JIS規格の鉛蓄電池は電槽化成する方式が主流である。これまでに日本国内で欧州規格の鉛蓄電池がJIS規格の鉛蓄電池と同様の規模で大量生産された実績はなく、欧州規格の電池を電槽化成の方式を用いて製造する実績もなかった。欧州でも同様である。
【0013】
ところが近年、欧州規格に準拠した液式の鉛蓄電池の開発が進められるようになり、欧州規格の鉛蓄電池を電槽化成することが求められるようになった。上記構成は、特に欧州規格の鉛蓄電池を電槽化成しようとする場合に有効であり、電解液の注液時に液口から電解液が溢れる問題を顕著に改善することができる。
【0014】
欧州規格の鉛蓄電池は、多くの場合、JIS規格に比べて、電槽120が浅く、筒状ウェル14の下端14Tと極板群134の上端との距離が短く設計されている。
【0015】
筒状ウェルの下端と電槽の底部内面との距離は、例えば155mm未満であり、150mm以下であり得る。この場合、筒状ウェルの下端と極板群の上端との距離が短くなるため、化成時等に電解液を注液し、電解液の液面が急上昇した際、液面が筒状ウェルのスリットの上端に達しやすい。従って、化成時等の電解液の注液時に液口から電解液が溢れるかどうかは、筒状ウェルのスリット幅と方向に強く依存する。スリット幅を5mm以上にするとともにスリットを第2方向に開口させることで、筒状ウェルの下端と極板群の上端との距離が極端に短い場合でも、注液時の電解液の液口からの溢れを顕著に抑制することができる。
【0016】
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、(i)未化成の上記鉛蓄電池を組み立てる工程と、(ii)未化成の鉛蓄電池を化成する工程と、(iii)化成された鉛蓄電池から電解液を抜き取る工程と、(iv)電解液が抜き取られた鉛蓄電池に別の電解液を注液する工程と、を有し、電解液を抜き取る工程(iii)が、電槽蓋が鉛直方向の下方に位置するように電槽を裏返し、第1方向を回転軸にして、外部端子側を持ち上げるように蓋本体を傾けることを含む。スリット幅を5mm以上にするとともにスリットを第2方向に開口させることで、工程(iii)において、電槽内の液が抜け易くなり、かつ複数のセル室に残留する電解液量のばらつきを抑制することができる。よって、工程(iv)において別の電解液が各セル室に同一量注液され、更に液面を調整して完成された電池において、電解液の比重がセル室によってばらつくことを抑制することができる。
【0017】
電槽蓋が、第1方向における一方および他方の端部に位置する液口から第2方向に所定距離だけ離れた位置にそれぞれ設けられた一対の外部端子を具備する場合、蓋本体の第1主面の外部端子に対応する部位が内側に凹むことにより、第1方向における一方および他方の端部に位置するセル室の上部空間が、他のセル室よりも狭くなっていてもよい。セル室によって内部空間の大きさが異なる場合でも、スリット幅を5mm以上にするとともにスリットを第2方向に開口させることで、工程(iii)において、複数のセル室に残留する電解液量のばらつきを抑制することができる。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本実施形態の一態様について説明する。図1は、鉛蓄電池の一例の外観と内部構造を示す一部を切り欠いた斜視図である。図2は、同鉛蓄電池の一部を切り欠いた正面図であり、液口栓を省略して図示している。図3は、同鉛蓄電池が具備する電槽蓋の平面図であり、左端以外の液口栓は図示を省略している。図4は、同鉛蓄電池が具備する電槽蓋の裏面図である。
【0019】
図示例の鉛蓄電池100は、複数の極板群134と、複数の極板群134をそれぞれ個別に収納する複数のセル室22を有する電槽120と、複数のセル室22にそれぞれ収容された電解液(図示せず)と、複数のセル室22の開口部を一括して封口する電槽蓋110とを備える。極板群134は、複数枚の正極31および負極41を、セパレータ50を介して積層することにより構成されている。
【0020】
複数の正極31の耳31Tは正極棚32に並列接続されている。正極棚32には正極接続体33が連接されている。複数の負極41の耳41Tは負極棚42に並列接続されている。負極棚42に負極接続体が接続されている。隣接するセル室22内の極板群134の正極接続体33と負極接続体とが隔壁23に設けられた貫通孔を介して接続されることにより、隣接するセル室22の極板群134同士が直列に接続されている。ただし、電槽120の一方の端部に位置するセル室22では、正極棚32が正極柱に接続され、電槽120の他方の端部に位置するセル室22では、負極棚42が負極柱44に接続されている。電槽蓋110には、一対の外部端子が、第1方向における一方および他方の端部に位置する液口13から第2方向に所定距離だけ離れた位置にそれぞれ設けられている。正極柱が一方の外部端子(正極端子16)に接続され、負極柱44が他方の外部端子(負極端子17)に接続されている。
【0021】
電槽蓋110は、複数のセル室22に対応する複数の液口13が第1方向(図中、X方向)に並んで設けられた第1主面11およびその反対側の第2主面12を有する蓋本体10と、第2主面12の複数の液口13の周縁からそれぞれ垂下する複数の筒状ウェル14とを有する。
【0022】
複数の筒状ウェル14は、それぞれ筒状ウェル14の軸方向に沿った一対のスリット14Sを有する。一対のスリット14Sは、それぞれ5mm以上のスリット幅を有する。これにより、注液時に液口13に注がれる電解液の流量がばらついた場合でも、液面がスリット14Sの上端に達することが顕著に抑制され、電解液が液口13から溢れにくくなり、電池の生産性が向上する。
【0023】
筒状ウェル14のスリット14Sの幅が5mm以上である場合、筒状ウェル14のスリット14Sの幅は、液口栓18の筒部182のスリット18Sの幅よりも大きくなる。この場合、振動時の溢液性能は、筒状ウェル14のスリット14Sの幅の影響をほとんど受けない。一方、各液口13には、それぞれ液口栓18が挿入されている。
【0024】
図5は、液口栓18の正面図である。液口栓18は、第1主面11側に露出する頭部181と、筒状ウェル14とほぼ同じ長さを有する筒部182とを有し、筒部182には軸方向に沿った一対のスリット18Sが形成されている。振動時の溢液性能は、実際には、液口栓18の筒部182のスリット18Sの幅に大きく依存している。液口栓18の筒部182のスリット18Sの幅を制限することで、振動時の十分な溢液性能が確保される。高い溢液性能を確保する観点から、液口栓18の筒部182のスリット18Sの幅は、5mm未満が好ましく、3mm以下がより好ましい。なお、筒状ウェル14のスリット14Sの幅は、大きくてもよいが、より高度な溢液性能を得る観点から、8mm以下が好ましい。
【0025】
筒状ウェル14のスリット14Sは、補液時に電解液の液面の位置を確認するための外光を取り入れるのにも役立つ。筒状ウェル14のスリット14Sの幅を5mm以上に大きくすることで、より多くの外光を取り入れることも可能になる。また、電解液の液面が筒状ウェル14の下端14Tより高い状態で電池が使用されたときには、ガスを外部に逃がすガス流路を大きく確保することができるというメリットもある。
【0026】
次に、筒状ウェル14のスリット14Sが第1方向と交差する第2方向(図中、Y方向)に開口していることで、電解液の液面が筒状ウェル14の下端14Tよりも上昇し、筒状ウェル14内に電解液が滞留したときに、スリット14Sからセル室22に電解液が流入しやすくなる。筒状ウェル14の第1方向における両側には、セル室22間を区画する壁部23U(電槽120の隔壁23と連接される部分)が隣接している。スリット14Sの幅が5mm以上に大きくなると、スリット14Sから流出する電解液の流量が増大する。仮に幅5mm以上のスリット14Sが第1方向に開口していたとすると、電解液が大きな流量で壁部23Uへ移動した場合、壁部23Uとウェル14との間隔が狭いため、セル室22への電解液の流入が阻害される。一方、筒状ウェル14のスリット14Sが第2方向に開口している場合、スリット14Sから流出する電解液が壁部に衝突することがないため、スリット14Sから流出した電解液が速やかにセル室22に流入する。
【0027】
図示例の鉛蓄電池100が欧州規格に準拠する場合、JIS規格の鉛蓄電池よりも高さが低く制限されている。JIS規格の鉛蓄電池は高さ200mm以上であるが、欧州規格の鉛蓄電池は、高さが190mm以下である。よって、筒状ウェル14の下端14Tと電槽120の底部21の内面との距離は155mm未満になり、例えば150mm以下になり得る。
【0028】
欧州規格の鉛蓄電池に限られるものではないが、筒状ウェル14の下端14Tと電槽120の底部21の内面との距離が155mm未満である場合には、筒状ウェル14のスリット14Sの幅を5mm以上とし、スリットを第2方向に開口させることが、電解液の逃げ道を確保する有効な手段となる。なぜなら、極板群134の高さをJIS規格品と同等にした場合、筒状ウェル14の下端14Tと極板群134の上端との距離が極端に短くなり、化成時に電解液を注入する際、電解液の液面が早期に筒状ウェル14のスリット14Sの上端に達するからである。
【0029】
ここで、筒状ウェル14の下端14Tと電槽120の底部21の内面との距離が155mm未満である場合には、極板群134の高さをJIS規格品との高さの差分程度(約10mm)低くすることも考えられる。この場合、筒状ウェル14の下端14Tと極板群134の上端との距離はJIS規格品と変わらない。しかし、JIS規格品と同等の性能設計をしようとすると、面積の狭い極板にJIS規格品と同等の電極材料を保持させる必要があり、極板の厚みが顕著に増加する。その結果、電解液を注液する際に電解液が極板群に吸収されにくく、液面が上昇しやすくなり、液面が筒状ウェル14のスリット14Sの上端に達しやすくなる。従って、上記と同様に、筒状ウェル14のスリット14Sの幅を5mm以上とし、スリットを第2方向に開口させることが有効となる。
【0030】
以上のように、筒状ウェル14のスリット14Sの幅を5mm以上とすることによって、電解液が液口13から溢れにくくなるという現象は、筒状ウェル14の下端と電槽120の底部21の内面との距離が155mm未満の場合に顕著に認められ、150mm以下の場合に特に顕著に認められる。なぜなら、その場合、注液時の液面は、当該距離が155mm以上の場合と比べて、筒状ウェル14の下端の開口部を閉塞しやすいからである。筒状ウェル14の下端の開口部が閉塞された場合、液口13に注がれる電解液は、スリット14Sを通過することなる。そのため、スリット14Sの幅が電解液の流入のしやすさに大きく影響することとなり、この幅を5mm以上とすることが特に重要になる。
【0031】
また、スリット14Sを第2方向に開口させることによって、スリット14Sから流出した電解液が速やかにセル室22に流入するという現象は、スリット14Sの幅が5mm以上の場合に顕著に認められるものである。なぜなら、スリット14Sの幅が5mm未満の場合には、スリット14Sからセル室22への電解液の流入量が小さく、そのため、壁部23Uとウェル14との間隔の狭さの影響も小さいからである。すなわち、壁部23Uとウェル14との間隔の狭さによって電解液の流入が阻害されるという現象は、スリット14Sの幅が5mm未満の場合には顕在化せず、スリット14Sの幅が5mm以上になり、相応の大きな流量の電解液がセル室22に流入する場合に顕在化する現象である。また、スリット14Sを介して電解液がセル室22に流入するのは、注液時の液面が、筒状ウェル14の下端の開口部が閉塞されたときであり、このような状況は、筒状ウェル14の下端と電槽120の底部21の内面との距離が155mm未満の場合に顕著に生じる。したがって、スリット14Sを第2方向に開口させる設計は、スリット14Sの幅が5mm以上であり、かつ筒状ウェル14の下端と電槽120の底部21の内面との距離が155mm未満の場合に特に有効となる。
【0032】
欧州規格の鉛蓄電池100では、図示例のように、蓋本体10の第1主面11の外部端子に対応する部位が内側に凹んだ凹部15を有する。凹部15の存在により、第1方向における一方および他方の端部に位置するセル室22の上部空間22Uは、他のセル室22よりも狭くなっている。より具体的には、上部空間22Uの外部端子が配されている側の空間(以下、端子側上部空間)が狭くなる。一方、上部空間22Uの液口13と筒状ウェル14が設けられている側の空間(以下、液口側上部空間)は、他のセル室22と同程度の大きさである。このような電槽蓋110およびセル室22の構造は、高さが低く制限され、外部端子の上端の位置を低くする必要がある欧州規格の鉛蓄電池で多く採用されている。
【0033】
ここで、第1方向(X方向)と交差する第2方向(Y方向)は、第1方向と90°で交わる方向であることが好ましいが、これに限定されない。
【0034】
次に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100の製造方法の一例について説明する。
工程(i)
まず、未化成の鉛蓄電池100を組み立てる工程が行われる。すなわち複数の正極31と複数の負極41とが準備され、セパレータ50を介して交互に積層され、極板群134が組み立てられる。極板群134の正極31の耳31Tおよび負極41の耳41Tにそれぞれ正極棚32および負極棚42が接続される。複数の極板群134はそれぞれ個別にセル室22に収容される。その後、正極棚32に連設された正極接続体33は、電槽120の隔壁23に設けられた透孔を介して、隣接するセル室22内の極板群134の負極棚42に連設された負極接続体と接続される。極板群134が収容された電槽120の開口が電槽蓋110により塞がれ、複数のセル室22の開口部が一括して封口された後、電槽蓋110の蓋本体10に設けられた液口13から各セル室22に電解液が注液される。このとき、筒状ウェル14のスリット14Sの幅が5mm以上であり、かつスリットが第2方向に開口していることで、筒状ウェル14内に電解液が滞留しにくくなり、滞留した電解液も速やかにスリット14Sから流出してセル室22に流入するため、注液作業の効率が向上する。
【0035】
(負極)
鉛蓄電池100の負極41は、負極集電体と、負極電極材料とを具備する。負極電極材料は、負極集電体に保持されている。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)が挙げられる。
【0036】
負極集電体に用いられる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種の元素を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。
【0037】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)と添加剤とを含む。添加剤には、有機防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどが用いられる。
【0038】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極41は、通常、負極活物質の原料となる鉛粉末を用いて作製される。
【0039】
負極41は、負極集電体に、負極電極材料を充填し、熟成および乾燥することにより得られる。未化成の負極41の熟成、乾燥は、室温より高温かつ高湿度で行うことが好ましい。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで調製すればよい。
【0040】
(正極)
鉛蓄電池100の正極31は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極31は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。クラッド式正極は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。
【0041】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系などが好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0042】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、正極活物質に加え、硫酸スズなどの添加剤を含んでもよい。
【0043】
未化成のペースト式正極は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を混練することで調製すればよい。クラッド式正極は、芯金が挿入された多孔質なガラスチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。なお、正極電極材料の原料の一部として鉛丹を用いてもよい。
【0044】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、化成に用いる電解液の20℃における比重は、例えば1.1~1.2g/cm3であればよい。
【0045】
(セパレータ)
セパレータ50には、不織布シート、微多孔膜などが用いられる。負極41と正極31との間に介在させるセパレータ50の厚さや枚数は、極間距離に応じて適宜選択すればよい。不織布シートは、ポリマー繊維および/またはガラス繊維を主体とするシートであり、例えば60質量%以上が繊維成分で形成されている。一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とするシートであり、例えば、ポリマー粉末、シリカ粉末およびオイルを含む組成物をシート状に押し出し成形した後、オイルを抽出して細孔を形成することにより得られる。セパレータを構成する材料は、耐酸性を有するものが好ましく、ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0046】
工程(ii)
次に、未化成の鉛蓄電池100を化成する工程が行われる。化成は、電解液が注液された未化成の鉛蓄電池100を充電することにより行うことができる。
【0047】
工程(iii)
次に、化成された鉛蓄電池100から電解液を抜き取る工程が行われる。ここでは、電槽蓋110が鉛直方向の下方に位置するように電槽120が裏返され、第1方向(X軸)を回転軸にして、外部端子側を持ち上げるように蓋本体10が傾けられる。このとき、第2方向に開口する筒状ウェル14のスリット14Sの上端は、鉛直方向の最も下方に位置する電解液の通り道になる。よって、電解液の液面がスリット14Sの上端に達するまで電解液は速やかに液口13に導かれ、外部に流出する。これにより、従来よりも多くの電解液を外部に流出させることができるとともに、スリット幅が5mm以上に設定されているため、電解液の流出速度も向上する。よって、化成された鉛蓄電池100からより多くの電解液を抜き取る作業を短時間で行うことができる。
【0048】
端部のセル室22の端子側上部空間が狭い構造を有する鉛蓄電池100においても、液口側上部空間は、いずれのセル室22でも同程度であり、相違する場合でも大差はない。よって、電槽蓋110が裏返され、第1方向を回転軸にして外部端子側が持ち上げられたときには、複数のセル室22の液口側上部空間に概ね同量の電解液が残留する。複数のセル室22内にそれぞれ残留する電解液量の差は、できるだけ小さいことが好ましく、複数のセル室22内に残留する電解液量を実質的に同量にすることがより好ましい。
【0049】
工程(iv)
次に、電解液が抜き取られた鉛蓄電池100に別の電解液を注液する工程が行われる。上記工程(iii)において、化成された鉛蓄電池100から電解液を抜き取るとき、各セル室22内には電解液の一部が残留する。セル室22内に残留した電解液は、その後、本工程(iv)で注入される新しい電解液と混合される。セル室22内に残留する電解液量が、セル室22によって異なると、本工程(iv)を経た完成電池の電解液の比重は、セル室22によってばらつくことになる。一方、複数のセル室22内にそれぞれ残留する電解液量のばらつきを小さくすることで、完成電池の電解液の比重がセル室22によってばらつくことが抑制される。
【0050】
完成された満充電状態の鉛蓄電池100における電解液の20℃における比重は、例えば1.1~1.35g/cm3であり、1.2~1.35g/cm3であることが好ましい。
【0051】
なお、上記製造方法の有効性は、筒状ウェル14が幅5mm以上のスリット14Sを有し、かつスリット14Sが第2方向に開口している構造的特徴に深く関連している。スリット14Sが第2方向に開口している場合、電解液の液面がスリット14Sの上端に達するときには、電解液は最大限の量が外部に流出済みである。また、スリット幅が5mm以上に設定されているため、電解液の流出も速やかである。したがって、上記構造的特徴を有する鉛蓄電池は、スリット幅が5mm未満の鉛蓄電池や、スリットが第2方向以外の方向に開口している鉛蓄電池と比べて、セル室間での性能ばらつきの小さい高性能な鉛蓄電池となり、上記製造方法を採用することで、そのような高性能な鉛蓄電池を効率的に製造することができきる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、液式の鉛蓄電池に適用され、中でも欧州規格の自動車用の鉛蓄電池により良好に適合する。
【符号の説明】
【0053】
10 蓋本体、11 第1主面、12 第2主面、13 液口、14 筒状ウェル、14S 筒状ウェルのスリット、14T 筒状ウェルの下端、15 凹部、16 正極端子、17 負極端子、18 液口栓、18S 筒部のスリット、21 底部、22 セル室、22U 上部空間、23 隔壁、23U 壁部、31 正極、31T 正極の耳、32 正極棚、33 正極接続体、41 負極、41T 負極の耳、42 負極棚、44 負極柱、50 セパレータ、100 鉛蓄電池、110 電槽蓋、120 電槽、134 極板群、181 頭部、182 筒部

図1
図2
図3
図4
図5