(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】培養容器基材、及び培養容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20221012BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2017239523
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 洋佑
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-160881(JP,A)
【文献】特開平03-065177(JP,A)
【文献】特開平03-277268(JP,A)
【文献】特開2005-224145(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032761(WO,A1)
【文献】特開2016-101095(JP,A)
【文献】特開2017-081073(JP,A)
【文献】国際公開第1995/026396(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0175066(US,A1)
【文献】特開2007-330108(JP,A)
【文献】特開2006-262876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養容器を形成するために用いられる基材であって、
エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体により形成される前記細胞培養容器の内面用の第一の層と、酸素透過率が第一の層よりも高い樹脂により形成される第二の層とからな
り、
前記第一の層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、及びアイオノマー樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成され、
前記第二の層が、熱可塑性樹脂、及びシリコーン樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成される
ことを特徴とする培養容器基材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンであることを特徴とする請求項
1記載の培養容器基材。
【請求項3】
前記ポリオレフィンの密度が、0.87以上で、0.93g/cc以下であることを特徴とする請求項
2記載の培養容器基材。
【請求項4】
細胞培養容器を形成するために用いられる基材であって、
エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体により形成される前記細胞培養容器の内面用の第一の層と、
密度0.87以上で、0.90g/cc未満のポリエチレンにより形成される第二の層と、
密度0.90以上で、0.93g/cc以下のポリエチレンにより形成される第三の層と、からな
り、
前記第一の層が、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、及びアイオノマー樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成される
ことを特徴とする培養容器基材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の培養容器基材の酸素透過率が400ml・mm/m2・day・atm(37℃-80%RH)以上であることを特徴とす
る培養容器基材。
【請求項6】
請求項1~
5に記載のいずれかの培養容器基材における前記第一の層を内面として形成されたことを特徴とする細胞培養容器。
【請求項7】
前記培養容器基材をヒートシールすることにより形成されたことを特徴とする請求項
6記載の細胞培養容器。
【請求項8】
少なくとも一方の内側面に複数の凹部が形成されてなることを特徴とする請求項
6又は7記載の細胞培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養分野において、細胞をスフェア培養または接着培養するための基材、及びこれを用いた培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、iPS細胞などの接着細胞を培養容器に接着させることなく、培養容器内で細胞を浮遊させて培養し、スフェア(凝集塊)を形成させることによって、細胞の培養効率を向上させることが行われている。
このような培養方法においては、細胞培養容器内の底面に、細胞が接着しないように、細胞接着抑制剤を塗布(コーティング)しておく必要がある。
【0003】
このため、細胞をスフェア培養する際には、培養容器を構成する基材と細胞接着抑制剤との密着性を上げるために、基材の表面の親水性(濡れ性)を上げる必要があった。
一方、iPS細胞などの接着細胞を、培養容器に接着させて培養する接着培養を行う場合にも、培養容器を構成する基材と細胞との接着性を上げるために、基材の表面の親水性を上げる必要があった。
【0004】
培養容器を構成する基材の親水性を上げる方法として、基材に対してコロナ処理やエキシマ処理、プラズマ重合等によって表面処理を行う方法がある。
しかしながら、表面処理を行う方法では、基材が露出するために、過剰な清浄空間を要するという問題があった。
【0005】
また、培養容器を構成する基材の親水性を上げることに代えて、培養容器を構成する基材として、親水性の高い極性樹脂を使用することも考えられる。
しかしながら、極性樹脂を使用すると、基材のガス透過性が低下する結果、これを用いて形成された培養容器による培養効率が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
培養容器を構成する基材の親水性を上げる技術としては、特許文献1に記載の細胞培養基質を挙げることができる。この細胞培養基質を用いれば、例えば幹細胞の分化の回避に役立つ良好な接着性が得られるとされている。
【0008】
しかしながら、この細胞培養基質では、その製造においてプラズマ重合を用いる必要があるため、生産性が悪く、清浄空間が必要になるという問題があった。
また、アクリル酸やメタクリル酸の単体の重合体で構成されているために極性官能基密度が高く、培養容器を形成する際のヒートシール性が悪くなるという問題があった。
さらに、培養表面に薄膜を接着して形成しているため、ウェル形成などを行う場合には、基材が露出する懸念があるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意研究し、基材を複層構成として極性樹脂層とガス透過樹脂層とを接着して形成し、培養容器の形成にあたって、内面に極性樹脂層を、外面にガス透過樹脂層を用いることにより、過剰な清浄空間を要することなく製造可能で、ガス透過性が高く、ヒートシール性に優れ、細胞のスフェア培養にも接着培養にも適した基材を製造することに成功し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、過剰な清浄空間を要することなく製造可能であり、ガス透過性が高く、ヒートシール性に優れ、細胞のスフェア培養にも接着培養にも適した基材及びこれを用いた培養容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の培養容器基材は、培養容器を形成するために用いられる基材であって、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体により形成される第一の層と、酸素透過率が第一の層よりも高い樹脂により形成される第二の層とからなる構成としてある。
また、本発明の培養容器は、上記の培養容器基材により形成された構成としてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過剰な清浄空間を要することなく製造可能であり、ガス透過性が高く、ヒートシール性に優れ、細胞のスフェア培養にも接着培養にも適した基材及びこれを用いた培養容器の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る培養容器基材の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係る培養容器基材の構成を示す模式図である。
【
図3】実施例1(第一の層:エチレン-メタクリル酸共重合樹脂)、比較例1(第一の層:ポリエチレン樹脂)における細胞接着抑制剤の裏移り状況を撮影した写真を示す図である。
【
図4】実施例2(第一の層:アイオノマー樹脂)における細胞接着抑制剤の裏移り状況を撮影した写真を示す図である。
【
図5】実施例3(第一の層:アイオノマー樹脂)、比較例2(第一の層:ポリエチレン樹脂)における接着細胞培養の状況を撮影した写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の培養容器基材、及びこれを用いた培養容器の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態、及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0015】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態の培養容器基材について、
図1を参照して説明する。本実施形態の培養容器基材は、培養容器を形成するために用いられる基材であって、
図1に示すように、第一の層1と、第二の層2とからなる。
本実施形態の培養容器基材は、多層フィルムとして構成することができ、また培養容器などを形成するための包材として使用することができる。
【0016】
本実施形態の培養容器基材における第一の層1としては、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体であればよく、特に限定されないが、例えばエチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、及びアイオノマー樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成されたものを用いることが好ましい。
第一の層1をこのような構成にすれば、本実施形態の培養容器基材を使用して形成された培養容器内の底面に細胞接着抑制剤を塗布する場合や、この培養容器内で接着細胞を培養する場合において、細胞接着抑制剤や接着細胞を第一の層1に適切に接着することができ、かつ、ヒートシールにより培養容器を形成する場合、これを適切に行うことが可能である。
【0017】
また、本実施形態の培養容器基材における第二の層2としては、ガス透過率(酸素透過率など)が第一の層よりも高い樹脂であればよく、特に限定されないが、例えば熱可塑性樹脂、及びシリコーン樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成されたものを用いることが好ましい。シリコーン樹脂は優れたガス透過率を示す。
さらに、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンを用いることが好ましく、密度が0.87以上で、0.93g/cc以下のポリオレフィンを用いることがより好ましい
【0018】
また、本実施形態の培養容器基材において、第一の層1の厚みは、第一の層1及び第二の層2の合計の厚みに対して、形成可能な範囲において、少ない方が好ましい。例えば、第一の層1及び第二の層2の合計の厚みを100μmとした場合、第一の層1の厚みを、1μm~30μmとすることが好ましく、1μm~20μmとすることがより好ましく、1μm~15μmとすることがさらに好ましく、1μm~10μmとすることがより一層好ましく、1μm~5μmとすることが特に好ましい。
【0019】
本実施形態の培養容器基材は、酸素透過率が400ml・mm/m2・day・atm(37℃-80%RH)以上であることが好ましい。
すなわち、本実施形態の培養容器基材は、第一の層1に細胞接着抑制剤や接着細胞を適切に接着可能にすることができ、かつ、第二の層2を備えることにより、第一の層1のみでは得ることができない優れたガス透過率を示すものとすることができる。
【0020】
例えば、本実施形態の培養容器基材を、第一の層1としてエチレン-メタクリル酸共重合樹脂からなる15μmの層を用い、第二の層2としてポリエチレン樹脂からなる85μmの層を用いて形成した場合、酸素透過率は、およそ500ml・mm/m2・day・atm(37℃-80%RH)となる。
一方、培養容器基材を、エチレン-メタクリル酸共重合樹脂のみからなる100μmの層を用いて形成した場合、酸素透過率は、およそ250ml・mm/m2・day・atm(37℃-80%RH)となる。
【0021】
また、本実施形態の培養容器基材では、第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いているため、ヒートシール性に優れたものとすることができ、これによって、培養容器を適切に形成することが可能になっている。
ここで、細胞接着抑制剤や接着細胞を好適に接着可能にするためには、培養容器の内面を極性の高い樹脂を用いて形成することが望ましい。すなわち、第一の層1をメタクリル酸やアクリル酸などの極性の高い樹脂を用いて形成すれば、細胞接着抑制剤や接着細胞に対する接着性を向上させることは可能である。
【0022】
しかしながら、これらの極性の高い樹脂は、ヒートシール性が悪く、培養容器を好適に形成することが困難である。本実施形態の培養容器基材では、第一の層1を、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いて形成することによって、ヒートシール性に優れたものとすることが可能となっている。
また、第一の層1を、コロナ処理、エキシマ処理、又はプラズマ重合などの表面処理を行うことで、親水性を向上させて細胞接着抑制剤や接着細胞を好適に接着可能にする場合には、培養容器を製造するために高度な清浄空間を必要とするが、本実施形態の培養容器基材によれば、過剰な清浄空間を必要とすることなく、培養容器を製造することが可能になっている。
【0023】
なお、本実施形態において、細胞接着抑制剤としては、例えばリン脂質ポリマー、ポリビニルアルコール誘導体、リン脂質・高分子複合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、アルブミン等を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
また、本実施形態において、接着細胞としては、例えば多能性幹細胞(iPS細胞など)や胚性幹細胞(ES細胞)等を用いることができる。
【0024】
本実施形態の培養容器基材は、多層押出成形やラミネート法によって形成することができる。多層押出成形では、例えば、複数の種類の樹脂をそれぞれ独立した押出機に注入して、これらの押出機から多層Tダイへ複数の種類の樹脂を押出す。そして、多層Tダイにより溶融した樹脂を流し、これを巻き取ることによって培養容器基材を得ることができる。また、ラミネート法では、別途成形したフィルム同士を加熱しながら圧着することにより、培養容器基材を得ることができる。
【0025】
本実施形態の培養容器基材は、第一の層1を内面とし、第二の層2を外面として、培養容器(培養バッグ)を形成する基材として好適に使用することができる。
また、本実施形態の培養容器は、本実施形態の培養容器基材をヒートシールすることによって、好適に形成することが可能である。すなわち、上記の通り、本実施形態の培養容器基材は、第一の層1を、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いて形成しているため、培養容器を形成するためにヒートシールを好適に行うことが可能になっている。
【0026】
さらに、本実施形態の培養容器を、少なくとも一方の内側面に複数の凹部(ウェル)が形成されたものとすることも好ましい。本実施形態の培養容器基材における第一の層1は、上記の通り、少なくとも1μm以上の厚みで形成されるところ、培養容器内に複数のウェルを形成する場合でも第一の層1が培養容器基材から剥離する虞が小さくなっている。
【0027】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の培養容器基材について、
図2を参照して説明する。本実施形態の培養容器基材は、三層構造とすることによってガス透過率をさらに向上させた点で第一実施形態と相違する。その他の点は、第一実施形態と同様である。
【0028】
すなわち、本実施形態の培養容器基材は、培養容器を形成するために用いられる基材であって、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体により形成される第一の層と、密度0.87以上で、0.90g/cc未満のポリエチレンにより形成される第二の層と、密度0.90以上で、0.93g/cc以下のポリエチレンにより形成される第三の層とからなることを特徴とする。
本実施形態の培養容器基材も、多層フィルムとして構成することができ、また培養容器などを形成するための包材として使用することができる。
【0029】
本実施形態の培養容器基材における第一の層1は、第一実施形態と同様のものとすることができ、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体であればよく、特に限定されないが、例えばエチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、及びアイオノマー樹脂から選択される少なくともいずれかにより形成されたものを用いることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の培養容器基材における第二の層2aは、ガス透過率が第一の層よりも高く、密度が0.87以上で、0.90g/cc未満のポリエチレンにより形成される。
この密度のポリエチレンは粘着性が非常に高いため、一般的にハンドリングすることが困難であり、培養容器基材の外側表面として使用することが難しい。
【0031】
また、本実施形態の培養容器基材における第三の層3は、ガス透過率が、第一の層よりも高くかつ第二の層よりも低い、密度が0.90以上で、0.93g/cc以下のポリエチレンにより形成される。
この密度のポリエチレンは、ガス透過性に優れる一方で、一般的にハンドリングすることは可能であるため、培養容器基材の外側表面として使用することができる。
【0032】
また、本実施形態の培養容器基材において、第一の層1の厚みは、第一の層1、第二の層2a、及び第三の層3の合計の厚みに対して、形成可能な範囲において、少ない方が好ましい。例えば、第一の層1、第二の層2a、及び第三の層3の合計の厚みを100μmとした場合、第一の層1の厚みを、1μm~30μmとすることが好ましく、1μm~20μmとすることがより好ましく、1μm~15μmとすることがさらに好ましく、1μm~10μmとすることがより一層好ましく、1μm~5μmとすることが特に好ましい。
【0033】
また、本実施形態の培養容器基材において、第三の層3の厚みも、第一の層1、第二の層2a、及び第三の層3の合計の厚みに対して、形成可能な範囲において、少ない方が好ましい。例えば、第一の層1、第二の層2a、及び第三の層3の合計の厚みを100μmとした場合、第三の層3の厚みを、1μm~30μmとすることが好ましく、1μm~20μmとすることがより好ましく、1μm~15μmとすることがさらに好ましく、1μm~10μmとすることがより一層好ましく、1μm~5μmとすることが特に好ましい。
【0034】
これらの構成により、本実施形態の培養容器基材において、ガス透過率に優れた第二の層2aの厚みを最も大きく形成することができ、培養容器基材の酸素透過率を第一実施形態の培養容器基材よりも大きくすることが可能になっている。
【0035】
例えば、本実施形態の培養容器基材を、第一の層1としてエチレン-メタクリル酸共重合樹脂からなる15μmの層を用い、第二の層2aとして密度が0.87以上で、0.90g/cc未満のポリエチレン樹脂からなる70μmの層を用い、第三の層3として密度が0.90以上で、0.93g/cc以下のポリエチレン樹脂からなる15μmの層を用いて形成した場合、酸素透過率は、およそ630ml・mm/m2・day・atm(37℃-80%RH)となる。
【0036】
また、本実施形態の培養容器基材でも、第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いているため、ヒートシール性に優れたものとすることができ、これによって、培養容器を適切に形成することが可能になっている。
【0037】
本実施形態の培養容器基材は、第一の層1を内面とし、第三の層3を外面として、培養容器(培養バッグ)を形成する基材として好適に使用することができる。
また、本実施形態の培養容器は、上記の通り、本実施形態の培養容器基材をヒートシールすることによって、好適に形成することが可能である。
さらに、本実施形態の培養容器を、少なくとも一方の内側面に複数の凹部(ウェル)が形成されたものとすることも好ましい。
【0038】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、過剰な清浄空間を要することなく製造可能であり、ガス透過性が高く、ヒートシール性に優れ、細胞のスフェア培養にも接着培養にも適した培養容器基材、及びこれを用いた培養容器を提供することが可能になっている。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施形態に係る培養容器基材、及び培養容器の効果を確認するために行った試験について詳細に説明する。
【0040】
[試験1]
まず、培養容器基材と細胞接着抑制剤との密着性を確認するための試験を行った。
本試験では、培養容器基材からなる第一の層1と細胞接着抑制剤との密着性を確認すれば良いため、以下の条件で試験を行った。
【0041】
培養容器基材からなる第一の層1として、長方形のフィルムを準備して、
図3及び
図4に示すように、その左半分側の正方形部分を培養容器内の底面側表面と想定し、その右半分側の正方形部分を培養容器内の上面側表面と想定した。そして、底面側表面に細胞接着抑制剤を塗布した後、上面側表面を底面側表面に重ね合わせて荷重をかけ、その後、上面側表面を底面側表面から剥離して、細胞接着抑制剤が上面側表面に裏移りしたか否かを目視により判定した。具体的には、以下の通りである。
【0042】
(実施例1)
第一の層1として、ニュクレル(登録商標)(エチレン-メタクリル酸共重合樹脂,三井・デュポンポリケミカル株式会社)からなる長方形のフィルムを準備した。
次に、第一の層1からなる底面側表面に対して、細胞接着抑制剤として0.5%に調製されたリン脂質ポリマー(LIPIDURE(登録商標),日油株式会社)エタノール溶液をバーコーターで塗布して層を形成した後、この細胞接着抑制剤の層をクマシーブルーにて染色して乾燥させた。
そして、底面側表面に対して上面側表面を貼り付けて、10g/cm2の荷重をかけて1分静置した後、上面側表面を底面側表面から剥離した。
【0043】
その結果、底面側表面に形成された細胞接着抑制剤の層は、上面側表面に裏移りしていなかった。これは、第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体であるエチレン-メタクリル酸共重合樹脂を使用していることから、細胞接着抑制剤を十分に密着させることができたためであると考えられる。
【0044】
(比較例1)
第一の層1として、ポリエチレン(PE)からなる長方形のフィルムを準備した点以外の条件については、実施例1と同様にして、実験を行った。
その結果、底面側表面に形成された細胞接着抑制剤の層は、上面側表面に裏移りしていた。すなわち、本実験では底面側表面も上面側表面もポリエチレン(PE)であり、共に疎水性であるため、底面側表面に細胞接着抑制剤が十分に接着せず、上面側表面に裏移りして、底面側表面から剥離してしまったと考えられる。
【0045】
(実施例2)
第一の層1として、ハイミラン(登録商標)(アイオノマー樹脂,三井・デュポンポリケミカル株式会社)からなる長方形のフィルムを準備した。
次に、第一の層1からなる底面側表面に対して、細胞接着抑制剤として0.5%に調製されたリン脂質ポリマー(LIPIDURE(登録商標),日油株式会社)エタノール溶液をバーコーターで塗布して層を形成した後、この細胞接着抑制剤の層をクマシーブルーにて染色して乾燥させた。
そして、底面側表面に対して上面側表面を貼り付けて、10g/cm2の荷重をかけて1分静置した後、上面側表面を底面側表面から剥離した。
【0046】
その結果、底面側表面に形成された細胞接着抑制剤の層は、上面側表面に裏移りしていなかった。これは、第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体であるアイオノマー樹脂を使用していることから、細胞接着抑制剤を十分に密着させることができたためであると考えられる。
【0047】
以上のように,培養容器基材の第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いることにより、細胞接着抑制剤を好適に接着できることが明らかとなった。
【0048】
[試験2]
次に、本発明の実施形態に係る培養容器を用いて接着細胞を培養した場合に、接着細胞を培養容器内の底面に好適に接着できるかを確認するための試験を行った。具体的には、以下の条件で試験を行った。
【0049】
(実施例3)
培養容器基材の第一の層1(厚み15μm)として、ハイミラン(登録商標)(アイオノマー樹脂,三井・デュポンポリケミカル株式会社)を用い、第二の層2(厚み70μm)として、ポリエチレン(密度0.898g/cc,日本ポリエチレン株式会社)を用い第三の層3として、ポリエチレン(密度0.921g/cc,宇部丸善ポリエチレン株式会社)を用いて、押出成形により、培養容器基材を形成した。そして、この培養容器基材の第一の層1を内面として、ヒートシールにより培養容器を形成して、接着細胞の培養を行った。接着細胞としては、iPS細胞(1231A3株)を使用した。また、培地としては、StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素株式会社)を使用した。
【0050】
具体的には、10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を含む上記培地を注入すると共に、上記iPS細胞を含む細胞懸濁液を注入して、37℃で7日間培養を行った。このとき、培地は1.5 ml、細胞懸濁液5 μlであった。播種した細胞数は、およそ1.3×10
4cellsであった。また、培養開始から1日経過後に培地をY-27632不含有の培地へ交換し、その後毎日培地交換を行い、4日間培養した。
その結果、
図5に示すように、接着細胞は培養容器内の底面に好適に接着していることが確認された。
【0051】
(比較例2)
ポリエチレン(密度0.921g/cc,宇部丸善ポリエチレン株式会社)を用いて、一層の培養容器基材(厚み100μm)を形成した。そして、この培養容器基材を用いてヒートシールにより培養容器を形成し、実施例3と同様にして接着細胞の培養を行った。
その結果、
図5に示すように、接着細胞は培養容器内の底面に接着しておらず、接着細胞を適切に培養できていないことが確認された。
【0052】
以上のように,培養容器基材の第一の層1として、エチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用いることにより、細胞接着抑制剤を好適に接着できることが明らかとなった。
また、このような培養容器基材を使用して、ヒートシールにより培養容器を製造できることが確認された。
さらに、第一の層1としてエチレンと、カルボキシル基又はカルボキシル基の金属塩を有するモノマーとの共重合体を用い、第二の層2としてガス透過性に優れたポリオレフィンを用いた培養容器基材を使用して形成された培養容器によって、接着細胞を好適に培養できることも明らかとなった。
【0053】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例では、細胞接着抑制剤としてリン脂質ポリマーを使用したが、ポリビニルアルコールやその他の細胞接着抑制剤を使用することができる。また接着細胞として他の細胞を使用するなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、iPS細胞やその他の接着細胞を培養するための培養容器を製造するために好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 第一の層
2,2a 第二の層
3 第三の層