(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ポリカルボン酸誘導体
(51)【国際特許分類】
C08G 69/48 20060101AFI20221012BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221012BHJP
C09J 189/00 20060101ALI20221012BHJP
C08G 69/10 20060101ALI20221012BHJP
A61L 24/10 20060101ALI20221012BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20221012BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20221012BHJP
C07C 233/03 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08G69/48
C09J11/06
C09J189/00
C08G69/10
A61L24/10
A61L24/04 100
A61L24/00 260
C07C233/03
(21)【出願番号】P 2018037304
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白馬 弘文
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042038(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110455(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/112208(WO,A1)
【文献】特開2000-290633(JP,A)
【文献】特表2011-527915(JP,A)
【文献】特開2006-051121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69/00- 69/50
C09J 1/00-201/10
A61L24/00- 24/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸のカルボキシル基に、下記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸が付加された水溶性のポリカルボン酸誘導体
を含む、架橋剤。
【化6】
(式中のRは、水素または炭素数1から6の直鎖型または分鎖型のアルキル基又はアリール基を示し、それぞれ同じものであっても異なったものであってもよい。また、式中のnは、1から3の整数を示す)
【請求項2】
前記ポリカルボン酸がポリペプチドである、請求項1に記載の
架橋剤。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸がポリグルタミン酸またはポリアスパラギン酸である、請求項1または2に記載の
架橋剤。
【請求項4】
前記プロパルギルアミノ酸がプロパルギルグリシンである、請求項1~3のいずれかに記載の
架橋剤。
【請求項5】
前記ポリカルボン酸誘導体においてプロパルギルアミノ酸の置換率が10~55%である、請求項1~4のいずれかに記載の
架橋剤。
【請求項6】
主剤溶液と請求項
1~5のいずれかに記載の架橋剤
を含む溶液とからなる、2液型接着剤。
【請求項7】
前記主剤が生体高分子である、請求項
6に記載の2液型接着剤。
【請求項8】
前記主剤がゼラチンである、請求項
6または
7に記載の2液型接着剤。
【請求項9】
前記主剤と前記架橋剤とを1:0.01~1:1の重量比で混合して使用する、請求項
6~
8のいずれかに記載の2液型接着剤。
【請求項10】
医療用の接着剤として用いられる、請求項6~9のいずれかに記載の2液型接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸(ポリカルボン酸)のカルボキシル基にプロパルギルアミノ酸が付加された化合物、および生体高分子を含む主剤溶液と、前記化合物を含む架橋剤溶液とからなる2液型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用接着剤は、外科手術又は物理的損傷で組織が破壊された部位を接合する際に、組織の再接合を補助するために使用されている。医療用接着剤は、筋肉、血管、臓器等の軟組織、皮膚、骨、歯の接合に使用されており、軟組織では、傷口、血管を塞ぐためのシーリング剤として使用されている。
【0003】
上記の軟組織用の接着剤は、主に、フィブリン系接着剤、ゼラチン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤の3種類が使用されている。これら接着剤は、医療用製品として、長い使用実績があるものの、安全性の問題が指摘されている。即ち、フィブリン系接着剤は、血液製剤を使用しているため、HIVやC型肝炎等のウイルス感染症のリスクが懸念されている。また、ゼラチン系接着剤は、原料にアルデヒド類が使用されており、毒性の問題が指摘されている。シアノアクリレート系接着剤は、重合後、加水分解して生じるホルムアルデヒドが毒性を示すことが指摘されている。
【0004】
ゼラチン系接着剤は、GRF製剤とも呼ばれ、ゼラチン/レゾルシノール/ホルムアルデヒドの混合製剤として1966年代から使用されている。ゼラチンは、コラーゲンを熱によりゾル-ゲル相転移可能なゼラチンに変性させたもので、アミンとカルボン酸基を豊富に含むタンパク質である。ゼラチンは、優れた生分解性、生体適合性、組織の密着性、適度な弾性を有するため、生体組織用の接着剤の主剤として用いられている。GRF製剤は、レゾルシンとホルムアルデヒドとのヒドロメチル化反応を利用し、ゼラチンとの架橋性ポリマーとして重合し、接着する原理を用いている。
【0005】
GRF製剤は、止血性と接着性を兼ね揃えた優れた接着剤である。しかしながら、上述の通り、GRF製剤には、ホルムアルデヒドに発癌性の疑いがある。そこで、特許文献1には、毒性の高いホルムアルデヒドの代わりに、グルタルアルデヒドが用いる技術が開示されている。グルタルアルデヒドを用いると、架橋密度が増えるため、接着剤の安定性が高くなると考えられる。しかし、グルタルアルデヒド等のホルミル基を有する化合物は、タンパク質との反応性が高く、皮膚刺激性を示すことがある。
【0006】
そこで、グルタルアルデヒドやホルムアルデヒドの問題点を解決する新たな架橋剤として、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル基(NHS)によるアミド化の利用方法が挙げられる。特許文献2には、NHS型架橋剤として、クエン酸等をベースとする低分子誘導体が開示されている。また、特許文献3には、高分子型NHS架橋剤とゼラチンを用いた接着性ヒドロゲルが開示されている。この接着性ヒドロゲルは、ポリ-α-(L-グルタミン酸)にN-ヒドロキシスクシンイミドを水溶性カルボジイミドで導入後、ゼラチンと架橋したものであり、良好な止血効果が得られる。
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の通り、ポリグルタミン酸等の高分子型NHS架橋剤は、アルカリ溶液として調製する必要がある。また、一般的に、NHS基で活性化したカルボン酸は、反応を加速するため、アルカリ条件を必要とする。
【0008】
例えば、非特許文献1には、ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)のNHS体と、アミン化合物との架橋反応において、アルカリ溶液で実施されているとの記載がある。当該非特許文献には、γ-PGAのNHS体は、アルカリ存在下ではアルカリ加水分解が進行するとの記載がある。そのため、γ-PGAのNHS体は、アルカリ溶液を調製後、直ちにアミン化合物と混合して使用する必要がある。接着剤への使用を想定した場合には、NHS体の加水分解が同時に進行するため、接着後、接着強度の低下が起こる可能性がある。したがって、γ-PGA等の高分子型NHS体は、臨床でのハンドリング性に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平06-070972号公報
【文献】特開2004-99562号公報
【文献】特開平09-103479号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】ネットワークポリマー,Vol.36,No.6(2015),p.282-287.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、GRF接着剤等の医療用接着剤の課題である生体に対する安全性やハンドリング性を向上し、かつ高い接着強度を発現可能な架橋剤として、プロパルギルアミノ酸を導入したポリカルボン酸誘導体(化合物)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. ポリカルボン酸のカルボキシル基に、下記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸が付加された水溶性のポリカルボン酸誘導体
を含む、架橋剤。
【化1】
(式中のRは、水素または炭素数1から6の直鎖型または分鎖型のアルキル基又はアリール基を示し、それぞれ同じものであっても異なったものであってもよい。また、式中のnは、1から3の整数を示す)
2. 前記ポリカルボン酸がポリペプチドである、1に記載の
架橋剤。
3. 前記ポリカルボン酸がポリグルタミン酸またはポリアスパラギン酸である、1または2に記載の
架橋剤。
4. 前記プロパルギルアミノ酸がプロパルギルグリシンである、1~3のいずれかに記載の
架橋剤。
5. 前記ポリカルボン酸誘導体においてプロパルギルアミノ酸の置換率が10~55%である、1~4のいずれかに記載の
架橋剤。
6. 主剤溶液と
1~5のいずれかに記載の架橋剤
を含む溶液とからなる、2液型接着剤。
7. 前記主剤が生体高分子である、
6に記載の2液型接着剤。
8. 前記主剤がゼラチンである、
6または
7に記載の2液型接着剤。
9. 前記主剤と前記架橋剤とを1:0.01~1:1の重量比で混合して使用する、
6~
8のいずれかに記載の2液型接着剤。
10.
医療用の接着剤として用いられる、6~9のいずれかに記載の2液型接着剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリカルボン酸誘導体は、酸・アルカリ等を必要とせず水に溶解するため適用範囲が広く、また生体に対する安全性の高い材料を用いており、さらに高い接着強度を発現できるので、特に医療用の接着剤の架橋剤として優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のポリカルボン酸誘導体の
1H-NMR測定結果を示す一例である。
【
図2】引張せん断接着強度の測定に用いる試験片の一例を示す図である。
【
図3】引張せん断接着強度の測定に用いる試験片の接着後の状態を示す図である。
【
図4】本発明のポリカルボン酸誘導体を架橋剤として用いた接着試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸に対し、少なくとも1個以上のプロパルギルアミノ酸を修飾した誘導体である。
【0017】
本発明において、プロパルギルアミノ酸とは、一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体である。式中のRは、水素または炭素数1から6の直鎖型または分鎖型のアルキル基又はアリール基を示し、それぞれ同じものであっても異なったものであってもよい。また、式中のnは、1から3の整数を示す。
【化2】
【0018】
上記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を構成するアミノ酸は、いずれを使用しても、制限はなく、市販されているものがあればそれを用いてもよいが、生体適合性の観点から生体タンパク質を構成するアミノ酸を用いるのが好ましい。生体のタンパク質を構成するアミノ酸としては、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、システイン・シスチン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、チロシン、イソロイシン、ロイシン、バリン、ヒスチジン、リジン(リシン)、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン(トレオニン)、トリプトファンが挙げられ、いずれもL体を用いるのが好ましい。
【0019】
前記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸は、下記反応式(2)に示されるように前記アミノ酸とプロパルギルアルコール又はプロパルギルハロゲン化物等を縮合して得ることができる。なお、式中のXは、水酸基または、ハロゲン基を示す。
【化3】
【0020】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体を構成するカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸である。具体的には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸等の低分子型カルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸等の高分子型合成ポリマー、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース等の天然物型多糖類、ポリ-γ-グルタミン酸、ポリ-α-グルタミン酸、ポリアスパラギン酸等のポリプチドが挙げられる。この中でも好ましいのは、ポリ-γ-グルタミン酸、ポリアスパラギン等のポリペプチドである。ポリ-γ-グルタミン酸は、いずれを使用しても制限はなく、市販されているものがあればそれを用いてもよい。
【0021】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、下記反応式(3)に示されるように前記ポリカルボン酸のカルボキシル基に、一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を縮合して得ることができる。前記ポリカルボン酸とプロパルギルアミノ酸を縮合する方法としては、ポリカルボン酸とプロパルギルアミノ酸を、室温、脱水縮合剤存在下にて反応させて製造することができる。
【化4】
【0022】
本発明において、脱水縮合剤は、N,N´-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU)等が挙げられる。
【0023】
本発明において、縮合反応の反応溶媒は、ポリカルボン酸が溶解する溶媒であれば特に制限されず、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
【0024】
本発明において、縮合反応を促進する場合には、塩基、触媒、活性エステル体を用いてもよい。塩基は、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等のアミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩等が挙げられる。触媒は、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等が挙げられる。活性エステル体は、反応中間体のエステルとして、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシスクシンイミドが挙げられる。
【0025】
上記縮合反応において、プロパルギルアミノ酸及び脱水縮合剤等の各原料の仕込量を変えることにより、ポリカルボン酸に対するプロパルギルアミノ酸の修飾率を変えることができる。ポリカルボン酸を用いる場合、プロパルギルアミノ酸の修飾率は、カルボン酸単位あたり1~55%が好ましく、より好ましくは15~50%の範囲である。55%を超えると、溶媒に対する溶解性が悪くなる。
【0026】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、アミノ基を有する生体高分子等の主剤と混合すれば架橋体を形成するため、接着剤として使用することができる。
【0027】
本発明において、アミノ基を有する生体高分子としては、血漿アルブミン、卵白アルブミン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質が挙げられ、いずれを用いてもよい。
【0028】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体を(医療用)接着剤の架橋剤として使用する場合、当該ポリカルボン酸誘導体を含む架橋剤溶液と、前記主剤を含む溶液を混合して生体組織等に塗布する。すると、反応式(4)に示されるような反応を経てポリカルボン酸と生体高分子との架橋体を生成する。ここで、架橋剤溶液中のポリカルボン酸誘導体の濃度は、0.1~20重量%が好ましく、より好ましくは、0.5~20重量%の範囲である。主剤溶液中の主剤の濃度は、0.1~30重量%の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5~20重量%の範囲である。溶液に使用する溶媒は、安全性の観点から、水、生理食塩水、低濃度エタノール等が好ましい。主剤とポリカルボン酸誘導体の重量比は、1:0.01~1:1が好ましく、より好ましくは、1:0.05~1:1の範囲である。
【化5】
【0029】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、生体に対して安全性の高い材料であり、かつ水に容易に溶解するため、水溶性の接着剤主剤と併用することで、筋肉、血管、臓器等の軟組織、皮膚の接合に使用する接着剤、傷口、血管を塞ぐためのシーリング剤等、医療用途に適用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0031】
(プロパルギルアミノ酸修飾率の測定)
ポリカルボン酸誘導体を構成するカルボキシル基に対するプロパルギルアミノ酸の修飾率は、DMSO-d
6中の
1H-NMRスペクトル(BRUKER、MR400)を測定することにより決定した。修飾率の算出は、プロパルギルアミノ酸が修飾されたカルボキシル基と修飾されていないカルボキシル基のα水素(
図1)の積分強度比を測定し、下記の式により求めた。
修飾率(%)=[修飾されたカルボキシル基のα水素]/[(未修飾のカルボキシル基のα水素)+(修飾されたカルボキシル基のα水素)]×100
【0032】
(接着強度の測定)
得られた試験片をテンシロン万能材料試験機(エー・アンド・エー、RTG-1310)を用いて、引張せん断接着強度(JIS K6850)を測定した。なお、測定時の温度は23℃、湿度は50%Rh、引張速度は10mm/minとした。得られた歪み-応力曲線より引張せん断接着強度を求めた。なお、引張せん断接着強度は、4回の測定の平均値とした。
【0033】
(グリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(GPE)の製造)
グリシン(2.1g)と2-プロピン-1-オール(30mL)の混合液を調製し、室温で塩化チオニル(2.4mL)を添加した。反応液を室温で2時間撹拌し、更に50℃で2時間撹拌した。反応液を5℃まで冷却し、酢酸エチル(90mL)を添加することにより、沈殿物を得た。沈殿物をろ過により分離し、更に酢酸エチルで洗浄し、乾燥することにより、グリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(GPE)を収率84%で得た。
【0034】
(製造例1)GPE化γ-PGA(10)の製造
東洋紡製ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)(0.5g)とDMSO(8mL)を入れ、60℃で1時間撹拌し溶解させた。当該溶液を室温まで冷却し、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対し、0.15等量のグリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(GPE)及び、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU)を添加した。さらに、2等量のトリエチルアミンを添加し、室温で24時間撹拌し反応させた。反応後、アセトン(35mL)を添加し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをアセトンで洗浄し、乾燥させた。乾燥後、粗ポリマーを水(5.5mL)に溶解し、アセトン(60mL)を添加して、再び沈殿させ、ろ過により分取した。60℃で12時間真空乾燥し、目的のGPE化γ-PGAを得た。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、10%であることを確認した。本製造例1により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(10)とした。
【0035】
(製造例2)GPE化γ-PGA(15)の製造
原料の仕込量として、0.25等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、15%であることを確認した。本製造例2により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(15)とした。
【0036】
(製造例3)GPE化γ-PGA(25)の製造
原料の仕込量として、0.5等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、25%であることを確認した。本製造例3により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(25)とした。
【0037】
(製造例4)GPE化γ-PGA(45)の製造
原料の仕込量として、0.75等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、45%であることを確認した。本製造例4により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(45)とした。
【0038】
(製造例5)GPE化γ-PGA(50)の製造
原料の仕込量として、0.9等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、50%であることを確認した。本製造例5により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(50)とした。
【0039】
(製造例6)GPE化γ-PGA(55)の製造
原料の仕込量として、1.0等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。しかし、水に対する溶解性が悪く、水を用いた精製は断念した。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、55%であることを確認した。本製造例6により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(57)とした。
【0040】
(製造例7)GPE化PAA(25)の製造
γ-PGAの代わりに、ポリアスパラギン酸(PAA)、原料の仕込量として、0.15等量のGPE及びHBTUを用いた以外は、製造例2記載の方法により行った。1H-NMR(DMSO-D6)より、PAAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、25%であることを確認した。本製造例7により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化PAA(25)とした。
【0041】
(製造例8)NHS化γ-PGA(50)の製造
NHS(N-ヒドロキシスクシンイミジル)化γ-PGAの製造は、ネットワークポリマー,Vol.36,No.6(2015),p.282-287.の記載の方法により、製造した。1H-NMR(DMSO-D6)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率は、50%であることを確認した。本製造例8により得られたポリカルボン酸誘導体をNHS化γ-PGA(50)とした。
【0042】
(製造例9)NHS化γ-PGA(25)
製造例8と同様にして、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率が25%であるNHS化γ-PGA(25)を製造した。
【0043】
(製造例10)
製造例8と同様にして、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率が7%であるNHS化γ-PGA(7)を製造した。
【0044】
(溶解性試験)
製造例1-10において得られた各ポリカルボン酸誘導体について、水への溶解性を調べた結果を表1に示す。水への溶解性試験は、純水に各ポリカルボン酸誘導体を20wt%になるように添加し、25℃で350rpm、1時間撹拌した後に、目視にて溶解具合を確認した。液中のポリカルボン酸誘導体が完全に溶解した状態を「溶」とし、溶け残りがある状態を「不溶」とした。
【0045】
(引張せん断接着強度)
和光純薬製ウシ骨由来のゼラチンを温水(50℃)に溶解し、20wt%水溶液を作製した(以下、主剤溶液と称する)。また、製造例1-10において得られた各ポリカルボン酸誘導体を水に溶解して表1に示す濃度の水溶液を作製した(以下、架橋剤溶液と称する)。幅1cm、長さ5cm、厚み188μmのPETフィルムの端部(1cm×1cm)に1cm×1cm×5mmの豚皮をシアノアクリレート系接着剤(アロンアルファ(登録商標)、東亞合成社、型番201)で接着固定した試験片(
図2)を2枚準備した。前記準備した1枚の豚皮部分に前記主剤溶液の25μLを滴下し、続いて架橋剤溶液の25μLを滴下し、均一になるように混合した。豚皮全面に混合した接着剤を塗布した後、他の試験片を豚皮同士が重なるように貼り合わせ、クロスピンで挟んで室温で1時間おいた。得られた試験片(
図3)を用いて引張せん断接着強度を測定した。これらの結果を表1および
図4に示す。
【0046】
表1および
図4の結果から明らかなように、実施例1-18のポリカルボン酸誘導体は、純水への溶解性が良好であった。また、主剤溶液と混合した際に、ゼラチン単独を超える引張せん断接着強度を有していた。一方、比較例1のポリカルボン酸誘導体は、修飾率が57%と高く、純水への溶解性が不良(不溶)であった。そのため、架橋剤水溶液を調製することができなかった。また、比較例2-7のポリカルボン酸誘導体は、純水に溶解せず、アルカリの添加が必要であった。また、比較例8は、架橋剤を用いずに主剤のみで接着したために、乾燥状態ではある程度の引張せん断接着強度を有していたが、水に濡れると速やかに試験片が剥がれてしまった。
【0047】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリカルボン酸誘導体は、酸・アルカリ等を必要とせず水に溶解するため適用範囲が広く、また生体に対する安全性の高い材料を用いており、さらに接着強度が高いので特に医療用の接着剤の架橋剤として優れている。
【符号の説明】
【0049】
1 PETフィルム
2 豚皮
3 接着剤